説明

Nb3Sn超電導線材の前駆体及びそれを用いたNb3Sn超電導線材並びにNb3Sn超電導線材の製造方法

【課題】内部スズ法によるNb3Sn超電導線材の作製において、伸線加工時のSn単芯線の変形に伴うNb単芯線の配置の乱れ、熱処理のSnの溶融によるNb単芯線の配置の乱れ、熱処理によりSn単芯線に発生するボイドのサイズ、を低減できるNb3Sn超電導線材の前駆体を提供する。
【解決手段】Ta、Ta合金、Nb、Nb合金のいずれかからなるバリア層13が内面に形成されたCu管12と、Cu管12内に配置され、Sn若しくはSn合金14、あるいはSn若しくはSn合金14をCu15で被覆してなる複数のSn単芯線16と、Cu管12内に配置され、Nb若しくはNb合金17、あるいはNb若しくはNb合金17をCu18で被覆してなる複数のNb単芯線19と、からなり、Sn単芯線16とNb単芯線19とが、Sn単芯線16同士が隣接しないようにCu管12内に配置した前駆体11である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高磁場マグネットなどに応用可能な高臨界電流密度(Jc)なNb3Sn超電導線材の前駆体及びそれを用いたNb3Sn超電導線材並びにNb3Sn超電導線材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Nb3Sn超電導線材の製造方法として、従来よりブロンズ法が広く用いられている。ブロンズ法はCu−Sn合金いわゆるブロンズ製のマトリクス中に多数のNbフィラメントを配置した構造の線材を形成し、熱処理を施すことによりCu−Sn合金中のSnがNbフィラメントに拡散してNbフィラメントの部分にNb3Snを生成し、超電導線材とする方法である。
【0003】
しかしCu−Sn合金におけるSnの固溶限は16質量%程度が上限であるため、それ以上のNb3Snの生成はできず、臨界電流値(Ic)にも限界が生じていた。
【0004】
そのためSnの供給源をCu−Sn合金以外の方法で行い、より多くのSnを供給できる内部スズ法が開発された。
【0005】
図11に示すように、内部スズ法は、Ta合金などからなるバリア層113を内面に設けたCu製のマトリクス(Cu管)112の内部に、Nb合金114をCu115で被覆してなる複数本のNb単芯素線116を配置し、さらにCuマトリクス112の中心部に、SnまたはSn合金117をCu118で被覆してなるSn芯119をSn供給源として配置した構造の多芯ビレット120を作製し、これを減面加工して作製したサブエレメント線121をCu管122に複数本束ねて配置した前駆体111を用いて多芯線材(前駆体線材)を作製し、しかる後、前駆体線材に対して熱処理を行うことにより、Sn層(Sn芯119)からCuマトリクスを介してSnが拡散してNbフィラメント部分でNb3Snフィラメント(線材)を生成する方法である。
【0006】
また内部スズ法の別の線材作製法として、図12に示すように、Cuマトリクス(Cu管)123中に、複数のNb単芯素線116を配置してなる多芯ビレット124を減面加工して作製した複数のサブエレメント線125と、Sn126あるいはその外周にCu127を配置してなるSn単芯素線128とを、内面にバリア層130が設けられたCu管129内部に配置して前駆体131を作製し、これを用いて多芯線材を作製する方法も行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
内部スズ法はブロンズ法に比べてSnの複合化の割合を高くすることができるため、線材の臨界電流密度(Jc)としてたとえば12T(テスラ)の磁場中でnon−Cu Jc(非銅部面積基準臨界電流密度)=2900A/mm2の高い特性が得られている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−4684号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J.A. Parrell et al., "High field Nb3Sn conductor development at Oxford Superconducting Technology", IEEE Trans. Appl. Supercond., 2003, vol.13, No.2, pp.3470-3473
【非特許文献2】理科年表,国立天文台編,丸善
【非特許文献3】久保芳生ほか,「内部拡散法によるNb3Snフィラメントのブリッジング生成機構の解明」,低温工学,第31巻,第6号,1996年,pp.306−313
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の2種類の製法は、各Sn素線(すなわち、図11のSn芯119あるいは図12のSn単芯素線128)の周りに多数のNb素線が配置された構成となっている。言い換えるとNb素線の寸法に対して大きな寸法のSn素線が組み込まれている。例えば、第1の方法、すなわちSn芯の周りに多数のNbフィラメントを配置した素線を用いる場合、1本のSn芯に対して、数10〜数100本のNbフィラメントが配置されている。
【0011】
Nb3Snをちょうど生成するのに必要なNbとSnの割合はモル比で3:1であるが、これを体積比率すなわち断面積の比率に換算するとNbとSnの割合は理論的におよそ2:1である。
【0012】
以下に、その根拠となる式を示す。
【0013】
物質の体積は、その物質のモル数、原子量、密度を用いて次式で表される。
体積=モル数×原子量/密度
従って、NbとSnの体積比は
NbとSnの体積比=(Nbモル数×Nb原子量/Nb密度)/(Snモル数×Sn原子量/Sn密度)
となる。
【0014】
Nb原子量は92.91、Nb密度は8.57g/cm3、Sn原子量は118.71、Sn密度は7.31g/cm3(非特許文献2より)なので、Nbのモル数を3、Snのモル数を1とすると、NbとSnの体積比は次式で求められる。
NbとSnの体積比=(3×92.91/8.57)/(1×118.71/7.31)≒2.0
【0015】
従って、仮にNbフィラメント数が200本の場合、これと反応してNb3Snを生成するのに必要なSnはNbフィラメントの半分の100本分の断面積が必要となる。したがって、Snフィラメントを単芯線とした場合の外径はNbフィラメントの10倍となり、Nbフィラメントに対してSnフィラメントが非常に大きい構成となる。
【0016】
さらに、超電導線材の断面を構成する主な材料はNb、Cu、およびSnであるが、このうちSnはNb、Cu、と比較して非常に軟らかく、容易に変形する特性を有する。
【0017】
このため、上記の場合のように、1本のSn芯の周りに、それより寸法の小さな多数のNbフィラメントが配置された構成の場合には、多芯線材のビレットを組み立てた後、押出加工や伸線加工などの減面加工を行って所定の線径の線材を作製する際に、線材断面内でSn芯の部分の形状が変形すると、それによってSn芯の周囲にある多くのNbフィラメントの配置が乱れて、超電導特性の不均一性の原因になるという問題が生じる。Nbフィラメントに対するSnフィラメントの寸法が大きいほどその傾向が顕著であった。
【0018】
また、内部スズ法は、熱処理によりSnエレメントのSnが周囲のCuに拡散してCu−Sn合金あるいはCu−Sn化合物を生成し、その後SnはさらにNbフィラメントに拡散してNb3Snを生成する方法であるが、650〜750℃で行うNb3Sn生成熱処理温度に対して、単体のSnは融点が約230℃と非常に低く、またSnの拡散の過程で生成するCu−Sn合金あるいはCu−Sn化合物についてもSn含有量が高いとNb3Sn生成熱処理温度では液相が一部生成する。
【0019】
従って、線材のサブエレメント中にあるNbの多芯フィラメントは熱処理中に周囲が液相あるいは液相を含む軟らかいCu−Sn合金で囲まれた状態となる場合があり、特に周囲と接する部分のNbフィラメントは液相中に移動してしまい、超電導特性が低下するという問題が生じることがあった。これについても前述と同様にNbフィラメントに対するSnフィラメントの寸法が大きいほどその傾向が顕著であった(非特許文献3)。
【0020】
またさらに、SnがNbに拡散した跡には空隙(ボイド)が残る場合が散見される。上述したように従来の内部スズ法による超電導線材では、Nbフィラメントに対してSnフィラメントのサイズが大きいことから、Nbフィラメントより大きな寸法のボイドができる場合がある。超電導線材を超電導マグネットとして使用する場合は、超電導線材に強力な磁界が加わり、超電導電流の流れるNb3Snフィラメントには大きな電磁力が加わる。フィラメントの近傍に大きなボイドが有ると電磁力を受けたフィラメントが動く可能性があり、これにより線材の超電導状態が急に壊れて常電導状態になる(いわゆるクエンチ現象)、あるいは線材の特性劣化に至る可能性が有り、安定した超電導線材への通電を妨げる原因となっていた。
【0021】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、内部スズ法によるNb3Sn超電導線材の作製において、伸線加工時のSn単芯線の変形に伴うNb単芯線の配置の乱れ、熱処理のSnの溶融によるNb単芯線の配置の乱れ、熱処理によりSn単芯線に発生するボイドのサイズ、を低減し、超電導特性の低下を防止できるNb3Sn超電導線材の前駆体及びそれを用いたNb3Sn超電導線材並びにNb3Sn超電導線材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するために本発明は、内部スズ法によるNb3Sn超電導線材の前駆体であって、Ta、Ta合金、Nb、Nb合金のいずれかからなるバリア層が内面に形成されたCu管と、前記Cu管内に配置され、Sn若しくはSn合金、あるいはSn若しくはSn合金をCuで被覆してなる複数のSn単芯線と、前記Cu管内に配置され、Nb若しくはNb合金、あるいはNb若しくはNb合金をCuで被覆してなる複数のNb単芯線と、からなり、前記Sn単芯線と前記Nb単芯線とが、前記Sn単芯線同士が隣接しないように前記Cu管内に配置されるものである。
【0023】
前記Sn単芯線および前記Nb単芯線が内部に配置された前記Cu管を伸線加工した後の断面において、前記Nb単芯線と前記Sn単芯線の径がいずれも30μm以下であるとよい。
【0024】
前記Sn単芯線の断面積に対する前記Nb単芯線の断面積の比率が0.3〜2.2であるとよい。
【0025】
前記Nb単芯線の合計の断面積と、前記Sn単芯線の合計の断面積の比率[Nb単芯線合計断面積]/[Sn単芯線合計断面積]は1.2〜2.2であるとよい。
【0026】
前記Nb単芯線が、前記Sn単芯線を囲むように前記Cu管内に配置され、前記Sn単芯線同士が隣接しないようにされるとよい。
【0027】
前記Sn単芯線と前記Nb単芯線とCu単芯線とが、前記Sn単芯線同士が隣接しないように前記Cu管内に配置されてもよい。
【0028】
また本発明は、上記いずれかのNb3Sn超電導線材の前駆体を熱処理してなるNb3Sn超電導線材である。
【0029】
また本発明は、Nb若しくはNb合金棒をCuパイプ中に挿入し、これを減面加工してNb単芯線を作製する工程と、Sn若しくはSn合金棒を減面加工してSn単芯線を作製する工程、あるいはSn若しくはSn合金棒をCuパイプ中に挿入し、これを減面加工してSn単芯線を作製する工程と、Cu管内面にNb、Nb合金、Ta、Ta合金のいずれかからなるバリア層を設け、その内部に複数の前記Nb単芯線と前記Sn単芯線を、前記Sn単芯線の周囲に前記Nb単芯線が隣接し、前記Sn単芯線同士が隣接しないように配置して前駆体を作製する工程と、前記前駆体を伸線加工して前駆体線材とする工程と、前記前駆体線材を熱処理する工程と、からなるNb3Sn超電導線材の製造方法である。
【0030】
また本発明は、Nb若しくはNb合金棒をCuパイプ中に挿入し、これを減面加工してNb単芯線を作製する工程と、Sn若しくはSn合金棒を減面加工してSn単芯線を作製する工程、あるいはSn若しくはSn合金棒をCuパイプ中に挿入し、これを減面加工してSn単芯線を作製する工程と、Cu管内面にNb、Nb合金、Ta、Ta合金のいずれかからなるバリア層を設け、その内部に複数の前記Nb単芯線と前記Sn単芯線を、前記Sn単芯線同士が隣接しないように配置して多芯ビレットを作製する工程と、前記多芯ビレットを減面加工してサブエレメント線とする工程と、前記サブエレメント線を複数本束ねてCu管中に収容して前駆体を作製する工程と、前記前駆体を伸線加工して前駆体線材とする工程と、前記前駆体線材を熱処理する工程と、からなるNb3Sn超電導線材の製造方法である。
【0031】
また本発明は、Nb若しくはNb合金棒をCuパイプ中に挿入し、これを減面加工してNb単芯線を作製する工程と、Sn若しくはSn合金棒を減面加工してSn単芯線を作製する工程、あるいはSn若しくはSn合金棒をCuパイプ中に挿入し、これを減面加工してSn単芯線を作製する工程と、Cu管内部に複数の前記Nb単芯線と前記Sn単芯線を、前記Sn単芯線同士が隣接しないように配置して多芯ビレットを作製する工程と、前記多芯ビレットを減面加工してサブエレメント線とする工程と、Cu管内面にNb、Nb合金、Ta、Ta合金のいずれかからなるバリア層を設け、その内部に前記サブエレメント線を複数本束ねて収容して前駆体を作製する工程と、前記前駆体を伸線加工して前駆体線材とする工程と、前記前駆体線材を熱処理する工程と、からなるNb3Sn超電導線材の製造方法である。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、内部スズ法によるNb3Sn超電導線材の作製において、伸線加工時のSn単芯線の変形に伴うNb単芯線の配置の乱れ、熱処理のSnの溶融によるNb単芯線の配置の乱れ、熱処理によりSn単芯線に発生するボイドのサイズ、を低減し、超電導特性の低下を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係るNb3Sn超電導線材の前駆体であり、Sn単芯線1本:Nb単芯線2本で組み込む断面構成を示す断面図である。
【図2】本発明に係るNb3Sn超電導線材の前駆体であり、Sn単芯線1本:Nb単芯線3本で組み込む断面構成を示す断面図である。
【図3】本発明に係るNb3Sn超電導線材の前駆体であり、Sn単芯線1本:Nb単芯線4本で組み込む断面構成を示す断面図である。
【図4】Nb3Sn超電導線材の前駆体であり、Sn単芯線1本:Nb単芯線6本で組み込む断面構成を示す断面図である。
【図5】本発明に係るNb3Sn超電導線材の前駆体であり、Sn単芯線1本:Nb単芯線1本:Cu単芯線1本で組み込む断面構成を示す断面図である。
【図6】本発明に係るNb3Sn超電導線材の前駆体であり、Sn単芯線1本:Nb単芯線2本:Cu単芯線1本で組み込む断面構成を示す断面図である。
【図7】本発明に係るNb3Sn超電導線材の前駆体であり、Sn単芯線2本:Nb単芯線3本:Cu単芯線1本で組み込む断面構成を示す断面図である。
【図8】本発明に係るNb3Sn超電導線材の前駆体であり、多芯ビレットから作製したサブエレメント線を組み込む断面構成を示す図である。
【図9】本発明に係るNb3Sn超電導線材の前駆体であり、多芯ビレットから作製したサブエレメント線を組み込む断面構成を示す図である。
【図10】本発明の実施例1により得られたNb3Sn超電導線材の断面の顕微鏡写真を示す図である。
【図11】従来の内部スズ法によるNb3Sn超電導線材の前駆体の断面構成を示す断面図である。
【図12】従来の内部スズ法によるNb3Sn超電導線材の前駆体の断面構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、内部スズ法によるNb3Sn多芯線材を作製する際に、単芯のNbフィラメント(Nb単芯線)と単芯のSnフィラメント(Sn単芯線)を、Sn単芯線同士が隣接しないように、それぞれ複数本束ねて複合化して作製することを特徴とする。これにより、Sn単芯線のサイズをNb単芯線と同じ程度にすることができ、Sn単芯線変形時のNb単芯線の配置の乱れを低減する。同様にSn単芯線サイズをNb単芯線サイズと同程度にすることによりSn単芯線が熱処理時に溶融した際にNb単芯線の配置が乱れるのを低減できる。またSn単芯線に生成するボイドの大きさをNb単芯線サイズ以下として、電磁力を受けたときのNb3Snフィラメントの不安定性を改良する。
【0035】
熱処理により生成するNb3Snフィラメントは、その寸法を小さくすることで交流損失が低減し超電導特性が安定化されるため、従来よりブロンズ法線材では単芯線径が5μm程度の極細多芯線材が作製されている。単芯線径は用途に応じて設計される必要があるが、超電導マグネット用線材として用いる場合、少なくとも磁場の昇降で超電導状態が破れないようにするため、伸線加工後の前駆体におけるNb単芯線寸法は30μm以下の径であることが好ましく、本発明ではSn単芯線寸法をNb単芯線寸法と同等程度にすることが特徴であるため、Sn単芯線の寸法も30μm以下の径であることが好ましい。
【0036】
なお、伸線加工後の各フィラメントの径は、伸線加工により、正六角形を保っていないことがある。このため、本明細書における径は、各フィラメントの断面における最も長い部分(最大長さ)と、それに直交する方向における最も長い部分の長さとの平均値をとることとした。
【0037】
本発明では、Nb単芯線の合計の断面積(合計断面積)と、Sn単芯線の合計の断面積の比率[Nb単芯線合計断面積]/[Sn単芯線合計断面積](以下、合計断面積比とも呼ぶ)は1.2〜2.2の範囲で作製が可能である。Nb3Snがちょうど生成するNbとSnのモル比(Snに対するNb比)は3であり、上述したように、これは体積比でおよそ2に相当する。しかし、発明者らは、鋭意検討の結果、上記の範囲の構成とすることで、性能(Ic、フィラメントJc)のよい超電導線を得られるという知見を得た。
【0038】
なお、本発明において、熱処理後の前後で、体積比は実質的に変化しないものとみなす。すなわち、合計断面積比は、体積比と実質的に等価である。
【0039】
熱処理後に過不足なくNbとSnが反応してNb3Snを生成させるためにはNbとSnの合計断面積比はちょうど2であればよいが、さらに超電導特性を向上するためにSn比率を多くしたり、逆にNb3Snの中心に未反応のNbを残して線材の機械的強度を向上するためにNb比率を多くすることができる。より好ましくは、Nb単芯線とSn単芯線の合計断面積比が1.4〜2.0であるとよい。
【0040】
また本発明では、Sn単芯線同士が隣接しないように単芯線を配置する方法として、Sn単芯線1本に対してNb単芯線1本を組み込む方法、あるいはNb単芯線2本を組み込む方法、あるいはNb単芯線3本を組み込む方法、あるいはNb単芯線4本を組み込む方法が可能である。このためNb単芯線とSn単芯線の断面積の比率は、前記のNb単芯線の合計断面積(すなわち、合計体積)とSn単芯線の合計断面積の比率1.2〜2.2を、前記のNb単芯線本数とSn単芯線本数の比率1〜4で除して0.3〜2.2が望ましい範囲として導き出される。
【0041】
以上の検討に基づいて為された本発明の一実施の形態について、図面に基づき以下に説明する。
【0042】
図1は、本実施の形態に係るNb3Sn超電導線材の前駆体の断面構成を示す断面図である。
【0043】
図1に示すように、Nb3Sn超電導線材の前駆体11は、Ta、Ta合金、Nb、Nb合金のいずれかからなるバリア層13が内面に形成されたCu管12と、Cu管12内に配置され、Sn合金14若しくはSn合金14をCu15で被覆してなる複数のSn単芯線16と、Cu管12内に配置され、Nb若しくはNb合金17、あるいはNb若しくはNb合金17をCu18で被覆してなる複数のNb単芯線19と、からなり、Sn単芯線16とNb単芯線19とが、Sn単芯線16同士が隣接しないようにCu管12内に配置される。
【0044】
ここでは、Sn単芯線16およびNb単芯線19は断面六角形状を有するが、本発明は単芯線を断面六角形状に限るものではない。
【0045】
図1では、Sn単芯線16およびNb単芯線19の断面積が同一であり、Sn単芯線16とNb単芯線19が1本:2本の割合で、すなわち、Sn単芯線16の合計体積に対するNb単芯線19の合計体積の割合(すなわち、Snの合計断面積とNbの合計断面積の割合(以下、合計断面積比とも呼ぶ))が2となるようにCu管12内に配置されている。
【0046】
このような構成とされる前駆体11においては、伸線加工時のSn単芯線16の不安定変形によるNb単芯線19の配置の乱れを防止できるため、熱処理して製造されたNb3Sn超電導線材における超電導特性の不均一性を防止することが可能となる。
【0047】
本発明は上記実施の形態に限られるものではなく、Nb3Sn超電導線材の前駆体は、例えば図2,3に示すように、Sn単芯線16とNb単芯線19が1本:3本の割合で配置される前駆体21、1本:4本の割合で配置される前駆体31としてもよい。
【0048】
図2,3では、便宜上、Sn単芯線16およびNb単芯線19の断面積が同一であるように示しているが、実際には、Sn単芯線16の合計断面積に対するNb単芯線19の合計断面積の比が1.2〜2.2の範囲内となるように、Sn単芯線16に対するNb単芯線19の本数の比に応じて、Nb単芯線19の断面積が小さくされている。
【0049】
すなわち、図2に示す前駆体21においては、Sn単芯線16とNb単芯線19が1本:3本の割合で配置されているので、単芯線の合計断面積の比が上述の範囲内となるように、Sn単芯線16の断面積に対するNb単芯線19の断面積の比は0.5強〜0.8の範囲とされる。図3に示す前駆体31においては、Sn単芯線16とNb単芯線19が1本:4本の割合で配置されているので、単芯線の合計断面積の比が上述の範囲内となるように、Sn単芯線16の断面積に対するNb単芯線19の断面積の比は0.3〜0.6の範囲とされる。
【0050】
なお、Sn単芯線16同士が隣接しないようにSn単芯線16およびNb単芯線19をCu管12に配置するには、例えば図4に示すように、Sn単芯線16が1本に対してNb単芯線19が6本となるように配置して前駆体41を構成するなど、Sn単芯線16に対するNb単芯線19の本数の割合を高めることも可能ではある。しかしながら、Sn単芯線16とNb単芯線19の合計断面積の比をNb3Snをちょうど生成できる割合とするためには、Sn単芯線16の断面積に対するNb単芯線19の断面積の比をより小さくする(図4であれば、Sn単芯線16の断面積3に対してNb単芯線19の断面積を1とする)必要がある。Nb単芯線19の断面積がより小さくされた前駆体41では、上述したように、減面加工時の単芯線の配置の乱れや熱処理時に発生しうるボイドのサイズが大きくなり、超電導特性が低下するため、好ましくない。そのため、Sn単芯線16とNb単芯線19の本数の割合は、Sn単芯線が1本に対してNb単芯線が1〜4本となるようにする。
【0051】
本発明では、Sn単芯線16とNb単芯線19の面積比が異なってSn単芯線16間に隙間が生じ、Sn単芯線16同士が隣接する虞があるときには、Sn単芯線16間の隙間に小径のCuダミー線を配置し、Sn単芯線16同士が隣接することを防止することができる。
【0052】
また本発明では、図5〜7に示すように、内面にバリア層13を設けたCu管12内部に、Sn単芯線16とNb単芯線19に加えて、さらにCu単芯線42が、Sn単芯線16同士が隣接しないように配置された前駆体51〜71とすることができる。
【0053】
図5〜7に示した前駆体51〜71は、図1に示した前駆体11の構造に比較して、一部のNb単芯線19がCu単芯線42で置き換えられた構造を有している。図5ではSn単芯線1本:Nb単芯線1本:Cu単芯線1本の割合で、図6ではSn単芯線1本:Nb単芯線2本:Cu単芯線1本の割合で、図7ではSn単芯線2本:Nb単芯線3本:Cu単芯線1本の割合で、バリア層13を内面に設けたCu管12の内部に配置され、前駆体51〜71が構成される。このような構造とすると、熱処理後にNb3Sn超電導線材となる部分が減少して超電導線材のIc値が低下するが、一方で、前駆体51〜71を伸線加工(あるいは減面加工)する際には、前駆体11の場合と比較してさらに安定的にSn単芯線16を変形させることができ、加工後における単芯線の配置の乱れや、製造した超電導線材の超電導特性が劣化することを防止できる。
【0054】
なお、本発明では、複数のSn単芯線およびNb単芯線をCu管の内部に配置して多芯ビレットとし、これを減面加工して作製した複数のサブエレメント線をさらにCu管に配置して超電導線材の前駆体とすることができる。
【0055】
例えば、図8に示すように、複数のSn単芯線16およびNb単芯線19を、Sn単芯線16同士が隣接しないようにCu管82内部に配置して多芯ビレット83を形成し、これを減面加工して作製した複数のサブエレメント線84を、内面にバリア層86が設けられたCu管85内部に配置して前駆体81を作製することができる。
【0056】
また図9に示すように、内面にバリア層93を設けたCu管92内部に、Sn単芯線16同士が隣接しないように複数のSn単芯線16およびNb単芯線19を配置して多芯ビレット94を形成し、この多芯ビレット94を減面加工してサブエレメント線95とし、複数のサブエレメント線95をCu管96内部に複数配置した前駆体91としてもよい。
【0057】
これら前駆体81,91を減面加工および熱処理して得られる超電導線材では、上記前駆体11〜31をそのまま用いて製造した超電導線材と比較して、Nb単芯線19の線径が小さくなり、Nb単芯線19へのSn原子の拡散が容易になり、製造される超電導線材の超電導特性を更に向上させることができる。
【0058】
以上説明した本発明の前駆体11〜31,51〜91は、Nb3Sn超電導線材を製造するための前駆体として好適であり、減面加工中のSn単芯線の不均一変形や、熱処理時のSn単芯線近傍に発生しうるボイドのサイズを低減した、超電導特性の高いNb3Sn超電導線材を製造することができる。
【0059】
本発明のNb3Sn超電導線材の前駆体は上記実施の形態に限られるものではなく、これら実施の形態を組合わせた構造としてもよい。
【0060】
次に、本発明のNb3Sn超電導線材の製造方法に係る一実施の形態について以下に説明する。
【0061】
本実施の形態に係る製造方法においては、まず、Nb若しくはNb合金棒をCuパイプ中に挿入し、これを減面加工してNb単芯線を作製する工程と、Sn若しくはSn合金棒を減面加工してSn単芯線を作製する工程、あるいはSn若しくはSn合金棒をCuパイプ中に挿入し、これを減面加工してSn単芯線を作製する工程とを行う。これにより、Sn単芯線およびNb単芯線が得られる。
【0062】
このとき、得られるSn単芯線およびNb単芯線の寸法は、上述の前駆体11〜81の構造において説明したように、Sn単芯線の合計断面積に対するNb単芯線の合計断面積の比が1.2〜2.2の範囲内となるようにし、Nb単芯線のSn単芯線に対する断面積の比率が0.3〜2.2となるようにすると良い。
【0063】
次に、Cu管内面にNb、Nb合金、Ta、Ta合金のいずれかからなるバリア層を設け、その内部に複数のNb単芯線とSn単芯線を、Sn単芯線の周囲にNb単芯線が隣接し、Sn単芯線同士が隣接しないように配置して前駆体を作製する。
【0064】
本発明はバリア層をCu管内面に設ける方法を限定するものではなく、例えばCu管の内面にシート材を挿入して設けても良いし、Cu管内にパイプ材を挿入して設けても良い。
【0065】
得られた前駆体を減面加工して前駆体線材とし、これに対して所定の条件にて熱処理を行うことで、本発明に係るNb3Sn超電導線材を製造することができる。
【0066】
次に、本発明のNb3Sn超電導線材の製造方法に係る他の実施の形態について説明する。
【0067】
本実施の形態においては、まず、上記実施の形態と同じくNb単芯線を作製する工程と、Sn単芯線を作製する工程を行い、Nb単芯線およびSn単芯線を得る。
【0068】
次いで、得られた複数のNb単芯線およびSn単芯線を、Sn単芯線同士が隣接しないようにCu管内部に配置して多芯ビレットを形成する。
【0069】
形成した多芯ビレットを減面加工することにより複数のサブエレメント線を作製し、さらに、内面にバリア層を設けたCu管の内部に複数のサブエレメント線を配置して前駆体を得る。
【0070】
この前駆体を減面加工して前駆体線材とし、これに対して所定の条件にて熱処理を行うことで、本発明に係るNb3Sn超電導線材を製造することができる。
【0071】
サブエレメントを用いて前駆体を作製する本実施の形態は種々の変更が可能であり、例えば、Sn単芯線およびNb単芯線をCu管内部に配置して多芯ビレットを形成するに際し、予めCu管の内面にバリア層を設けておき、そのCu管の内部にSn単芯線およびNb単芯線を配置して多芯ビレットを形成するようにしても良い。この場合、多芯ビレットから作製したサブエレメント線を内部に配置するCu管は、その内面にバリア層を設ける必要が無くなる。
【0072】
なお、本発明の製造方法においては、Sn単芯線とNb単芯線の面積比が異なってSn単芯線間に隙間が生じ、Sn単芯線同士が隣接する虞があるときには、Sn単芯線間の隙間に小径のCuダミー線を配置するようにしても良い。また、Sn単芯線とNb単芯線に加え、さらにCu単芯線をCu管内部に配置して前駆体あるいは多芯ビレットを作製するようにしても良い。
【0073】
以上要するに、本発明のNb3Sn超電導線材の前駆体及びそれを用いたNb3Sn超電導線材並びにNb3Sn超電導線材の製造方法では、前駆体あるいは多芯ビレットを作製するに際して、Sn単芯線同士が隣接しないように、Cu管内部にSn単芯線とNb単芯線を配置するようにされる。これにより、減面加工および伸線加工におけるSn単芯線の不均一変形による単芯線の配置の乱れや、その後の熱処理においてSn単芯線近傍に生じうるボイドのサイズを低減でき、Nb3Sn超電導線材の超電導特性を向上することができる。
【実施例】
【0074】
以下に、本発明の実施例を説明する。
【0075】
[実施例1]
図1に示したように、外径30mm、内径26.2mmのCu製パイプに外径26mmのNbを挿入後、減面加工を行い対辺間距離1mmの六角形状に加工し、単芯のNb素線(Nb単芯線)を作製した。
【0076】
次に、外径30mm、内径26.2mmのCu製パイプに外径26mmの2質量%のTiを含むSn合金材料(Sn−2mass%Ti)を挿入し、これを減面加工して対辺間距離1mmの六角形状に加工し、単芯のSn素線(Sn単芯線)を作製した。
【0077】
最後に、外径50mm、内径44mmのCu製パイプに、本実施例ではSn素線本数1本に対してNb素線が本数約2本となるように、Sn素線499本およびNb素線996本(合計1495本)を、Sn素線のまわりにNb素線を6本配置しSn素線同士が隣接しないように分散配置した。素線とCuパイプの間には、Snが外周のCuに拡散して超電導の安定性を損なうのを防止するための拡散バリア層として、厚さ0.2mmのTaシートを5周巻いて挿入して多芯複合体(前駆体)を作製し、これを減面加工して、全体の線径が1mmの多芯線材(前駆体線材)を作製した。なお、前駆体とは、最終的に熱処理を施し、超電導線材を生成する前の構造を呼ぶ。
【0078】
[実施例2]
図2に示したように、外径30mm、内径22.2mmのCu製パイプに外径22mmのNbを挿入後、減面加工を行い対辺間距離1mmの六角形状に加工し、単芯のNb素線を作製した。
【0079】
次に、外径30mm、内径27.2mmのCu製パイプに外径27mmの2質量%のTiを含むSn合金材料(Sn−2mass%Ti)を挿入し、これを減面加工して対辺間距離1mmの六角形状に加工し、単芯のSn素線を作製した。
【0080】
最後に、外径50mm、内径44mmのCu製パイプに、本実施例ではSn素線本数1本に対してNb素線が本数約3本となるように、Sn素線367本およびNb素線1128本(合計1495本)を、Sn素線のまわりにNb素線を配置しSn素線同士が隣接しないように分散配置した。素線とCuパイプの間には、Snが外周のCuに拡散して超電導の安定性を損なうのを防止するための拡散バリア層として、厚さ0.2mmのTaシートを5周巻いて挿入して多芯複合体を作製し、これを減面加工して、全体の線径が1mmの多芯線材(前駆体線材)を作製した。
【0081】
[実施例3]
図8に示したように、外径30mm、内径26.2mmのCu製パイプに外径26mmのNbを挿入後、減面加工を行い対辺間距離2.5mmの六角形状に加工し、単芯のNb素線を作製した。
【0082】
次に、外径30mm、内径26.2mmのCu製パイプに外径26mmの2質量%のTiを含むSn合金材料(Sn−2mass%Ti)を挿入し、これを減面加工して対辺間距離2.5mmの六角形状に加工し、単芯のSn素線を作製した。
【0083】
外径40mm、内径36mmのCuパイプに、本実施例ではSn素線本数1本に対してNb素線が本数約2本となるように、Sn素線55本およびNb素線108本(合計163本)を、Sn素線のまわりにNb素線を配置しSn素線同士が隣接しないように分散配置してサブエレメントのビレット(多芯ビレット)を作製した。これを減面加工して対辺間距離3mmの六角形状に加工して、サブエレメント線を作製した。
【0084】
作製したサブエレメント線を85本束ねて、外径40mm、内径33mmのCuパイプに挿入した。パイプとサブエレメント線の間に厚さ0.2mmのTaシートを5周巻いて挿入して拡散バリア層として多芯複合体を作製し、これを減面加工して線径1mmの多芯線材を作製した。
【0085】
本実施例では、Sn素線のSnが多芯線材の最外周の安定化Cuに拡散するのを防止するために、多芯線材のCuパイプとサブエレメント線の間にバリア材を配置したが、図9に示したように、サブエレメント線のCuパイプの内側にバリア層を設けても同様にSnがバリア層の外側に拡散するのを防止する効果がある。
【0086】
[実施例4]
実施例4は、Sn側にCu被覆されていないものである。具体的には、図1において、Sn単芯線16が、Sn基合金14のみでなる超電導前駆体である。
【0087】
外径30mm、内径23.2mmのCu製パイプに外径23mmのNbを挿入後、減面加工を行い対辺間距離1mmの六角形状に加工し、単芯のNb素線(Nb単芯線)を作製した。
【0088】
次に、2質量%のTiを含むSn合金材料(Sn−2mass%Ti)を減面加工して対辺間距離1mmの六角形状に加工し、単芯のSn素線を作製した。
【0089】
最後に、外径50mm、内径44mmのCu製パイプに、Sn素線を499本、Nb素線を996本、合計1495本を、Sn素線のまわりにNb素線を6本配置しSn素線同士が隣接しないように分散配置した構造で、挿入し、素線とCuパイプの間にはSnが外周のCuに拡散して超伝導の安定性を損なうのを防止することを目的として、すなわち、拡散バリア層として厚さ0.2mmのTaシートを5周巻いて挿入して多芯複合体を作製し、これを減面加工して、全体の線径が1mmの多芯線材(前駆体線材)を作製した。 次に、比較例について説明する。
【0090】
[比較例1]
図11に示したように、外径30mm、内径26.2mmのCu製パイプに外径26mmのNbを挿入後、減面加工を行い対辺間距離2.5mmの六角形状に加工し、単芯のNb素線を作製した。
【0091】
また、外径30mm、内径27.2mmのCu製パイプに外径27mmの2質量%のTiを含むSn合金材料(Sn−2mass%Ti)を挿入し、これを減面加工して対辺間距離6mmの六角形状に加工し、単芯のSn素線を作製した。
【0092】
外径38mm、内径34mmのCuパイプ内に、中央に六角形状(対辺間距離6mm)の単芯のSn素線1本と、その周囲に六角形状(対辺間距離2.5mm)の単芯のNb素線138本を配置してサブエレメントのビレットを作製した。これを減面加工して対辺間距離3mmの六角形状に加工して、サブエレメント線を作製した。
【0093】
最後に、外径35mm、内径26mmのCuパイプ内に、上記で作製したサブエレメント線を55本束ねて挿入し、パイプと素線(サブエレメント線)の間に厚さ0.2mmのTaシートを5周巻いて挿入して拡散バリア層として、多芯複合体を作製し、これを減面加工により全体の線径が1mmの多芯線材(前駆体線材)を作製した。
【0094】
[比較例2]
図12に示したように、外径30mm、内径26.2mmのCu製パイプに外径26mmのNbを挿入後、減面加工を行い対辺間距離3mmの六角形状に加工し、単芯のNb素線を作製した。
【0095】
さらに外径38mm、内径32mmのCuパイプ内に上記のNb素線を85本挿入し、これを減面加工して対辺間距離2.5mmの六角形状に加工して、サブエレメント線を作製した。
【0096】
一方、外径30mm、内径24.2mmのCu製パイプに外径24mmの2質量%のTiを含むSn合金材料(Sn−2mass%Ti)を挿入し、これを減面加工して対辺間距離2.5mmの六角形状に加工し、単芯のSn素線を作製した。
【0097】
最後に、外径46mm、内径38.5mmのCu製パイプに、サブエレメント線108本およびSn素線55本(合計163本)を、Sn素線のまわりにサブエレメント線を6本配置しSn素線同士が隣接しないように分散配置した構造で挿入した。素線とCuパイプの間には、Snが外周のCuに拡散して超電導の安定性を損なうのを防止するための拡散バリア層として、厚さ0.2mmのTaシートを5周巻いて挿入して、多芯複合体を作製し、これを減面加工して、全体の線径が1mmの多芯線材(前駆体線材)を作製した。
【0098】
上記の実施例1〜4(本発明)および比較例1,2(従来の方法)で作製されたNb3Sn前駆体線材の一部に対して、500℃×100時間+700℃×100時間の熱処理を行い、Nb3Sn超電導線材とした。
【0099】
得られた超電導線材に対して、液体ヘリウム中(絶対温度4.2K)で12T(テスラ)、11T、10Tの磁場中で臨界電流値(Ic値)の測定を行い、測定した臨界電流値を線材のNbフィラメントの断面積(設計値)で除したフィラメント臨界電流密度(Jc)を算出した。
【0100】
表1に各実施例と比較例の(1)各線材のフィラメント(前駆体の状態の単芯線)寸法を示す。さらに、前駆体の状態の(2)単芯断面積比率、すなわち、Snフィラメント(単芯線)1本に対するNbフィラメント(単芯線)1本の断面積の比率、(3)合計断面積比率、すなわち、Snフィラメントの合計断面積に対するNbフィラメントの合計断面積の比率、(4)Nbフィラメントの断面積比率(%)、すなわち、前駆体線材全体に対するNbフィラメントの合計断面積(%)を表す。さらに、超電導線材生成後の性能について(5)Ic、すなわち、熱処理後のNb3Sn超電導線材の臨界電流値を測定したもの、および(6)フィラメントJc、すなわち、Nbフィラメントの領域にNb3Snが生成されたと近似して、測定されたIcと、Nbフィラメントの断面積からNb3Sn部分の臨界電流密度を算出したものを示す。
【0101】
【表1】

【0102】
(1)のフィラメントの寸法について、具体的には、断面において、径(実施例においては、対辺の距離(対辺間距離))を十点平均し、四捨五入し小数点1桁を有効数字として記載した。この値は、設計値と一致している。
【0103】
上記の実施例および比較例において、各素線、前駆体の長さは、熱処理後の各フィラメント長さと等しいので、実質的には、各材料の断面積合計の比は、各材料の体積比と等しくなっている。
【0104】
比較例1、2では、12Tの磁場におけるフィラメントJcはそれぞれ2830、2840A/mm2であったのに対し、本発明の実施例1、2の線材では、12Tの磁場でのフィラメントJcはおよそ3000A/mm2であり、また実施例3の線材のフィラメントJcは3100A/mm2を示し、本発明の線材は従来の方法による線材に比較して高いJcであることが示された。
【0105】
比較例1,2の線材では、伸線加工時および超電導化熱処理時にNb単芯線の配置が乱れて、特性が低下したものと考えられ、これに対して本発明の線材は伸線加工時あるいは熱処理時の単芯線の配置の乱れが低減されたことにより高いJc特性を示したものと考えられる。
【0106】
実施例1の線材の熱処理後の断面を観察した結果、Nb3Snフィラメントの寸法は約16μm程度であった。一方、図10に示すように、Sn単芯線のあった場所には一部にボイド(空隙部)が観察されたが、観察されたボイドの寸法及びSn単芯線の寸法は、Nb単芯線とおよそ同じかあるいはそれ以下の寸法であった。これは元々Nb単芯線と同じ寸法のSn単芯線を組み込んで作製したのでSn単芯線の位置に生成するボイドの寸法も当然Nb単芯線の寸法程度かそれ以下の大きさとなったものである。これによりNb3Snフィラメントが電磁力を受けた場合でも容易に動く可能性は小さい。
【0107】
実施例3は実施例1、2より高いJcを示しているが、これは多芯化することにより単芯線寸法が4.5μmに小さくなったことによりNb単芯線へのSnの拡散が容易になりNb3Snの生成が促進した効果である。
【0108】
また実施例3において、熱処理後の断面より、Nb3Snフィラメントの寸法はおよそ5μmであった。これは従来のブロンズ法によるNb3Sn線材の典型的なフィラメントサイズに等しい。また当然Sn芯(単芯線)の寸法もNbと同じ寸法の素線を組み込んで多芯線材を作製したのでおよそ5μmである。本実施例では多芯化を2回行うことで作製工程数は増加したが、Nb3Snフィラメントサイズとして従来ブロンズ法と同等のサイズが得られ、その場合にもSn芯の大きさはNb3Snと同程度であるので、伸線加工時あるいは熱処理時のNb単芯線の配置の乱れやボイドの発生によるNb単芯線の移動を防止することが可能であった。
【0109】
磁場を11Tおよび10Tに低下すると各線材ともJc特性は向上し、通常の臨界電流測定では電流を増加するとIc値付近の電流で徐々に電圧が発生する。
【0110】
実施例1〜4の線材は、12T、11T、10Tのいずれの磁場においても、上記のように電流値を増加してIc付近で徐々に電圧が発生したので、所定の電圧発生をもってIc値を求める測定が可能であった。
【0111】
上述のとおり、実施例1〜4では、フィラメントJcを上げるという効果を得るとともに、全体に対する超電導線材の断面積率(体積率)が上がることによって、より一層の臨界電流(Ic)を得ることが可能となる。
【0112】
比較例1、2の線材も12Tおよび11Tの磁場ではIc値付近の電流で徐々に電圧が発生し、Icを求めることが可能であったが、10Tの磁場では表に示した電流値のときに急激に電圧が発生し(いわゆるクエンチ現象、表1中に*印で示す)、所定の電圧をもってIc値を定義することができなかった。
【0113】
従来の方法による線材では加工時あるいは熱処理時におけるNb単芯線の配置の乱れが大きく、さらに熱処理によりNb3Snフィラメントより大きなボイドがSn単芯線のあった部分に発生したため、磁場中で通電した際にNb3Snフィラメントが電磁力を受けて動いたものと考えられる。本発明による線材では、Nb3Snフィラメントに対してSn単芯線の寸法が同じ程度であることから、単芯線の配置の乱れあるいはNb3Snフィラメントより大きなボイドの発生がなく、磁場中で通電して電磁力を受けてもNb3Snフィラメントが動くことが抑制されてクエンチが起こらなかったものと思われる。
【符号の説明】
【0114】
11 前駆体
12 Cu管
13 バリア層
14 Sn合金
15 Cu
16 Sn単芯線
17 NbまたはNb合金
18 Cu
19 Nb単芯線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部スズ法によるNb3Sn超電導線材の前駆体であって、
Ta、Ta合金、Nb、Nb合金のいずれかからなるバリア層が内面に形成されたCu管と、
前記Cu管内に配置され、Sn若しくはSn合金、あるいはSn若しくはSn合金をCuで被覆してなる複数のSn単芯線と、
前記Cu管内に配置され、Nb若しくはNb合金、あるいはNb若しくはNb合金をCuで被覆してなる複数のNb単芯線と、からなり、
前記Sn単芯線と前記Nb単芯線とが、前記Sn単芯線同士が隣接しないように前記Cu管内に配置されるNb3Sn超電導線材の前駆体。
【請求項2】
前記Sn単芯線および前記Nb単芯線が内部に配置された前記Cu管を伸線加工した後の断面において、前記Nb単芯線と前記Sn単芯線の径がいずれも30μm以下である請求項1記載のNb3Sn超電導線材の前駆体。
【請求項3】
前記Sn単芯線の断面積に対する前記Nb単芯線の断面積の比率が0.3〜2.2である請求項1または2に記載のNb3Sn超電導線材の前駆体。
【請求項4】
前記Nb単芯線の合計の断面積と、前記Sn単芯線の合計の断面積の比率[Nb単芯線合計断面積]/[Sn単芯線合計断面積]は1.2〜2.2である請求項1〜3いずれかに記載のNb3Sn超電導線材の前駆体。
【請求項5】
前記Nb単芯線が、前記Sn単芯線を囲むように前記Cu管内に配置され、前記Sn単芯線同士が隣接しないようにされる請求項1〜4いずれかに記載のNb3Sn超電導線材の前駆体。
【請求項6】
前記Sn単芯線と前記Nb単芯線とCu単芯線とが、前記Sn単芯線同士が隣接しないように前記Cu管内に配置される請求項1〜5いずれかに記載のNb3Sn超電導線材の前駆体。
【請求項7】
請求項1〜6いずれかに記載のNb3Sn超電導線材の前駆体を熱処理してなるNb3Sn超電導線材。
【請求項8】
Nb若しくはNb合金棒をCuパイプ中に挿入し、これを減面加工してNb単芯線を作製する工程と、
Sn若しくはSn合金棒を減面加工してSn単芯線を作製する工程、あるいはSn若しくはSn合金棒をCuパイプ中に挿入し、これを減面加工してSn単芯線を作製する工程と、
Cu管内面にNb、Nb合金、Ta、Ta合金のいずれかからなるバリア層を設け、その内部に複数の前記Nb単芯線と前記Sn単芯線を、前記Sn単芯線の周囲に前記Nb単芯線が隣接し、前記Sn単芯線同士が隣接しないように配置して前駆体を作製する工程と、
前記前駆体を伸線加工して前駆体線材とする工程と、
前記前駆体線材を熱処理する工程と、からなることを特徴とするNb3Sn超電導線材の製造方法
【請求項9】
Nb若しくはNb合金棒をCuパイプ中に挿入し、これを減面加工してNb単芯線を作製する工程と、
Sn若しくはSn合金棒を減面加工してSn単芯線を作製する工程、あるいはSn若しくはSn合金棒をCuパイプ中に挿入し、これを減面加工してSn単芯線を作製する工程と、
Cu管内面にNb、Nb合金、Ta、Ta合金のいずれかからなるバリア層を設け、その内部に複数の前記Nb単芯線と前記Sn単芯線を、前記Sn単芯線同士が隣接しないように配置して多芯ビレットを作製する工程と、
前記多芯ビレットを減面加工してサブエレメント線とする工程と、
前記サブエレメント線を複数本束ねてCu管中に収容して前駆体を作製する工程と、
前記前駆体を伸線加工して前駆体線材とする工程と、
前記前駆体線材を熱処理する工程と、からなることを特徴とするNb3Sn超電導線材の製造方法。
【請求項10】
Nb若しくはNb合金棒をCuパイプ中に挿入し、これを減面加工してNb単芯線を作製する工程と、
Sn若しくはSn合金棒を減面加工してSn単芯線を作製する工程、あるいはSn若しくはSn合金棒をCuパイプ中に挿入し、これを減面加工してSn単芯線を作製する工程と、
Cu管内部に複数の前記Nb単芯線と前記Sn単芯線を、前記Sn単芯線同士が隣接しないように配置して多芯ビレットを作製する工程と、
前記多芯ビレットを減面加工してサブエレメント線とする工程と、
Cu管内面にNb、Nb合金、Ta、Ta合金のいずれかからなるバリア層を設け、その内部に前記サブエレメント線を複数本束ねて収容して前駆体を作製する工程と、
前記前駆体を伸線加工して前駆体線材とする工程と、
前記前駆体線材を熱処理する工程と、からなることを特徴とするNb3Sn超電導線材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−94436(P2012−94436A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242379(P2010−242379)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】