説明

Nb3Sn超電導線材の製造方法およびそのための前駆体

【課題】縮径加工の際に不均一変形や断線を発生させることなく、また大掛かりな設備を必要とせず、更に取り扱いの安全性やコスト面での問題も生じることなく、NbSn相内にTi,Zr,Hf等の元素を効果的に含有できる超電導線材製造用前駆体の構成を提供する。
【解決手段】本発明の超電導線材製造用前駆体は、CuまたはCu基合金中に、1本または複数本のNbまたはNb基合金芯と、1本または複数本のSnまたはSn基合金芯が、相互に接触しないように配置された超電導マトリスク部と、その外周に安定化銅層を有する超電導線材製造用前駆体において、前記超電導マトリクス部内の任意の箇所に、Ti,ZrおよびHfよりなる群から選ばれる1種以上の金属若しくは合金、またはTi,ZrおよびHfよりなる群から選ばれる択1種以上の元素を含むNb基合金からなるシート状層を配置したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NbSn超電導線材を内部拡散法によって製造する方法、およびこうしたNbSn超電導線材を製造するための前駆体(超電導線材製造用前駆体)に関するものであり、殊に高磁場発生用超電導マグネットの素材として有用なNbSn超電導線材を製造する為の技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超電導線材が実用化されている分野のうち、高分解能核磁気共鳴(NMR)分析装置に用いられる超電導マグネットについては発生磁場が高いほど分解能が高まることから、超電導マグネットは近年ますます高磁場化の傾向にある。
【0003】
高磁場発生用超電導マグネットに使用される超電導線材としては、NbSn線材が実用化されており、このNbSn超電導線材の製造には主にブロンズ法が採用されている。このブロンズ法は、Cu−Sn基合金(ブロンズ)マトリクス中に複数のNb基芯材を埋設し、伸線加工することによって上記Nb基芯材を細径化してフィラメントとし、このNb基芯のフィラメントとブロンズ複合材を複数束ねて線材群となし、安定化の為の銅(安定化銅)を配置した後伸線加工する。上記線材群を600℃以上800℃以下程度で熱処理(拡散熱処理)することにより、Nb基フィラメントとマトリクスの界面にNbSn化合物層を生成する方法である。しかしながら、この方法ではブロンズ中に固溶できるSn濃度には限界があり(15.8質量%以下)、生成されるNbSn化合物層の厚さが薄く、また結晶性が劣化してしまい、高磁場特性が良くないという欠点がある。
【0004】
NbSn超電導線材を製造する方法としては、上記ブロンズ法の他に、チューブ法や内部拡散法等が知られている。これらの方法では、ブロンズ法のような固溶限によるSn濃度に限界がないのでSn濃度をできるだけ高く設定でき、良質なNbSn層が生成可能であるため、高磁場特性が優れた超電導線材が得られることが示されている。
【0005】
このうち内部拡散法では、図1(NbSn超電導線材製造用前駆体の模式図)に示すように、CuまたはCu基合金(以下、「Cu母材」と呼ぶことがある)4の中央部に、SnまたはSn基合金からなる芯(以下、「Sn基金属芯」と呼ぶことがある)3を埋設すると共に、Sn基金属芯3の周囲のCu母材4中に複数のNbまたはNb基合金芯(以下、「Nb基金属芯」と呼ぶことがある)2を配置して前駆体(超電導線材製造用前駆体)とし、これを伸線加工した後、熱処理(拡散熱処理)によってSn基金属芯3中のSnを拡散させ、Nb基金属芯2と反応させることによってNbSnを生成させる方法である(例えば、特許文献1)。
【0006】
また上記のような前駆体1においては、図2に示すように、前記Nb基金属芯2とSn基金属芯3が配置された部分(以下、「超電導マトリクス部」と呼ぶことがある)とその外部の安定化銅層4aの間に拡散障壁層6を配置した構成のものも知られている。この拡散障壁層6は、例えばNb層またはTa層、或いはNb層とTa層の2層からなり、拡散熱処理の際に超電導マトリクス部内のSn(Sn基金属芯3)が外部に拡散してしまうことを防止し、超電導マトリスク部内でのSnの純度を高める作用を発揮するものである。
【0007】
上記のような、超電導線材製造用前駆体を製造するには、下記の手順で行われる。まず、Nb基金属芯(Nb基金属フィラメント)をCuマトリスク管に挿入し、押出し、伸線等によって縮径加工して複合体とし、これを適当な長さに裁断する。そして、Cu製外筒を有し、拡散障壁層を設け或いは設けないビレット内に前記複合体を充填し、その中央部にCuマトリクス(Cu製中実ビレット)を配置して押出し加工した後、中央部のCuマトリクスを機械的に穿孔してパイプ状複合体を構成する。或いは、他の方法として、Cu外筒とCu内筒で構成され、拡散障壁層6を有しまたは有さない中空ビレット内(外筒と内筒の間)に前記複合体を複数本充填してパイプ押出ししてパイプ状複合体を構成する。
【0008】
そして、これらの方法に作製されたパイプ状複合体の中央空隙部内に、Sn基金属芯3を挿入して縮径加工して図1、2に示したような前駆体が製造される。
【0009】
尚、図1、2に示した前駆体では、Sn金属芯3が1本、Nb基金属芯2が複数本のものを示したけれども、Sn基金属芯3が複数本で構成することも可能である。以下では、これらのものも含めて、「モノエレメント前駆体」と呼ぶ。
【0010】
上記のようにして構成された各前駆体(モノエレメント前駆体)は、拡散障壁層6を有するか或いは有さないCuマトリクス内部に複数本束ねて充填され、更に縮径加工されて多芯型の超電導線材製造用前駆体(マルチエレメント前駆体)とされる。
【0011】
図3、4は、マルチエレメント前駆体の構成例を示したものであり、このうち図3は前記図1に示した前駆体1(モノエレメント前駆体)を、拡散障壁層6aを有するCuマトリクス5内に複数本束ねて埋設してマルチエレメント前駆体11としたものであり、図4は前記第2図に示した前駆体(モノエレメント前駆体)を、拡散障壁層を有さないCuマトリクス5内に複数本束ねて埋設してマルチエレメント前駆体11aとしたものである。
【0012】
上記のような前駆体を用いて内部拡散法で超電導線材を製造するに当って、NbSn相内に、Ti,Ta,Zr,Hf等の元素を含有させることも提案されている。こうした元素をNbSn相内に含有させることによって、これらの元素を含有しないNbSn超電導線材と比べて、高磁場での超電導特性が向上するといわれている。NbSn相内に上記の元素を含有させる手段として、例えば特許文献2には、Sn金属芯に30原子%以下、またはNb金属芯に5原子%以下のTiを含有させることで、15T(テスラ)以上の高外部磁場中での臨界電流密度Jcが向上できることが示されている。
【0013】
また、特許文献3には、Sn芯の代わりに、Sn−Ti系化合物を含むSn基合金芯を使用すると共に、Sn−Ti系化合物の大きさを最大30μm以下、平均粒径が20〜15μmの範囲とする溶解・鋳造方法が提案されている。
【0014】
更に、特許文献4には、最大粒子径が10μm以下の微細なTi粉末およびSnを配合したSn−Ti線状体をSn金属芯として用いる方法が提案されている。
【特許文献1】特開昭49−114389号公報 特許請求の範囲等
【特許文献2】特公平1−8698号公報 特許請求の範囲等
【特許文献3】特開2002−317232号公報 特許請求の範囲等
【特許文献4】特開2003−331669号公報 特許請求の範囲等
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
Ti,Ta,Zr,Hf等の元素をNbSn相内に含有させる方法のうち、Nb芯にこれらの元素を含有させる方法(前記特許載文献2)では、Nb芯に比べて、これらの元素を含むNb基合金芯の加工性が悪くなるので、縮径加工の際に不均一に変形したり、断線が発生する原因となるという問題がある。
【0016】
一方、Ti,Ta,Zr,Hf等の元素をSn芯に添加する方法では(前記特許文献3、4)、Nb芯に添加する場合に比べて真空または不活性雰囲気での溶解・鋳造という大掛かりな設備を必要としたり、10μm以下のTi微細粉末を取り扱う必要があり、取り扱いの安全性やコスト面で問題があった。また、その製造工程で十分に冷却できずに、粒径の大きなTiまたはSn−Ti系化合物が残存してしまい、断線の原因となることもある。
【0017】
本発明はこうした状況の下でなされたものであって、その目的は、縮径加工の際に不均一変形や断線を発生させることなく、また大掛かりな設備を必要とせず、更に取り扱いの安全性やコスト面での問題も生じることなく、NbSn相内にTi,Zr,Hf等の元素を効果的に含有できるNbSn超電導線材製造用前駆体の構成、およびこうした前駆体を用いたNbSn超電導線材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成することのできた本発明の超電導線材製造用前駆体とは、内部拡散法によってNbSn超電導線材を製造する際に用いる超電導線材製造用前駆体であって、CuまたはCu基合金中に、1本または複数本のNbまたはNb基合金芯と、1本または複数本のSnまたはSn基合金芯が、相互に接触しないように配置された超電導マトリスク部と、その外周に安定化銅層を有する超電導線材製造用前駆体において、前記超電導マトリクス部内には、Ti,ZrおよびHfよりなる群から選ばれる1種以上の金属若しくは合金、またはTi,ZrおよびHfよりなる群から選ばれる1種以上の元素を含むNb基合金からなるシート状層が配置されたものである点に要旨を有するものである。
【0019】
本発明の超電導線材製造用前駆体において、前記シート状層は、(1)前記NbまたはNb基合金芯と相互に接触しないように配置されたものや、(2)焼鈍されたものであることが好ましい。また前記超電導マトリクス部と安定化銅の間に拡散障壁層を配置した構成のものも採用できる。また上記のような超電導線材製造用前駆体を、CuまたはCu基合金中に複数本配置することによって多芯の超電導線材製造用前駆体(マルチエレメント前駆体)を構成することができる。
【0020】
また、上記のような単芯または多芯の超電導線材製造用前駆体を、熱処理することによって希望する特性を発揮する超電導線材を製造することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、Ti,ZrおよびHfよりなる群から選ばれる1種以上の金属若しくは合金、またはTi,ZrおよびHfよりなる群から選ばれる1種以上の元素を含むNb基合金からなるシート状層として配置するようにしたので、従来技術におけるような問題を発生させることなく、Ti,Zr,Hf等の元素をNbSn相内に効果的に含有させることができる。こうした超電導線材製造用前駆体では、Sn芯にTi,Zr,Hf等を添加する場合に比べて、真空または不活性雰囲気での溶解・鋳造という大掛かりな設備を必要としないこと、および10μm以下金属の微細粉末を取り扱う必要がないので、取り扱い時の作業安全性を確保でき、加えて低コスト化が実現でき、その結果として高い臨界電流密度を発揮するNbSn超電導線材が効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明者らは、上記目的を達成するために様々な角度から検討した。その結果、上記元素の添加形態として、Sn基金属芯やNb基金属芯に含有させるのではなく、Ti,ZrおよびHfよりなる群から選ばれる1種以上の金属若しくは合金、またはTi,ZrおよびHfよりなる群から選ばれる1種以上の元素を含むNb基合金からなるシート状層をCuマトリスク内に別途配置してやれば、上記目的が見事に達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0023】
本発明で前駆体内に配置されるシート状層の形状は、筒状、帯状、板状、ホイル状のいずれでも良いが、こうしたシート状層をCuマトリクス内に配置することによって、NbSn相内へこれらの元素の拡散を効果的に進行させ、NbSn超電導線材の特性を更に向上することができる。以下、本発明の前駆体の構成を図面によって説明する。
【0024】
図5は、本発明の超電導線材製造用前駆体の構成の一例を模式的に示した断面図である。この構成では、前記図2の前駆体1(モノエレメント前駆体)の構成に対して、Sn基金属芯3の外周部に、例えばNb−Ti合金からなるシート状層10を円筒状に形成したものである(前駆体1a)。図5の他の部分の構成は、前記図2示した構成と同じであり、対応する部分には同一の参照符号を付してある。
【0025】
こうした構成を採用すれば、熱処理時(拡散熱処理時)にSn基金属芯3内のSnが拡散してNb−Ti合金からなるシート状層10と反応することになるが、残ったSnが他のNb基金属芯2を十分に反応させることができる程度のシート状層10の厚みを薄くしておくことで(例えば、熱処理直前の段階で1〜50μm程度)、Snはシート状層の外部に拡散することができる。その際、Ti元素も同時にNb基金属芯2に拡散することで、NbSn相中へのTi元素の拡散も可能となる。尚、図5に示したシート状層10の構成では、Nb−Ti金属層を一層形成した形状を示した構成を示したけれども、シート状層の素材は各元素単独でもよく、また異なる元素の二層膜構造としても良いことは勿論である。またSn基金属芯3とシート状層10は、必ずしも接触している状態とする必要はなく、両者の間にCuを介在させることによって、Sn基金属芯3とシート状層10とが接触しない状態とする構成も採用できる。
【0026】
図6は、本発明の超電導線材製造用前駆体(前駆体1b)の構成の他の例を模式的に示した断面図である。この構成では、前記図5の構成において、Sn基金属芯3の外周部にシート状層10を設ける代わりに、例えばNb−Ti合金からなるシート状層10aを拡散障壁層6の内周部全面に形成したものである。こうした構成を採用しても、図5に示した構成を同様に、熱処理時にTi元素がNb基金属芯2に拡散することで、NbSn相へのTi元素の拡散が可能となる。
【0027】
図6では、シート状層10aを拡散障壁層6の内周部全面に形成し構成を示したけれども、必ずしも全面に設ける必要はなく、シート状層10aの形状(断面形状)を円弧状として分割された構成をしても良いことは勿論である。また、シート状層10aは拡散障壁層6と必ずしも接触している状態とする必要はなく、両者の間にCuを介在させることによって、シート状層10aと拡散障壁層6とが接触しない状態とする構成も採用できる。
【0028】
図7は、本発明の超電導線材製造用前駆体(前駆体1c)の構成の更に他の例を模式的に示した断面図である。この構成では、マトリクス部に配置されたNb基合金芯2の界面に、例えばNb−Ti合金からなるシート状層10b(フィン状)を、半径方向に伸びるように間隔をあけて配置したものである。こうした構成を採用しても、前記図5、6に示した構成と同様に、熱処理時にTi元素がNb基金属芯2に拡散することで、NbSn相へのTi元素の拡散が可能となる。
【0029】
上記図5〜7に示した構成は、本発明の前駆体の構成を例示したものであって、これらの構成に限定されるものではない。要するに、超電導マトリクス部の任意箇所に、Ti,ZrおよびHfよりなる群から選ばれる1種以上の金属若しくは合金、またはTi,ZrおよびHfよりなる群から選ばれる択1種以上の元素を含むNb基合金からなるシート状層を配置すれば、本発明の効果が発揮されるのである。また、図5〜7の構成では、拡散障壁層6が配置された構成を示したけれども、拡散障壁層6を設けない単芯線に対して(例えば、前記図1)、上記のようなシート状層10、10a、10bを形成したものであっても本発明の効果が達成される。また前記図5〜7では、基本となるモノエレメント前駆体の構成はSn基金属芯3が1本で、その周囲に複数のNb基金属芯2を配置したものを用いる場合を示したが、前駆体の基本形態はこうしたものに限らず、Sn基金属芯3を複数本配置したものとすることも勿論可能である。
【0030】
前記図5〜7に示した構成では、モノエレメント前駆体の場合を示したが、いずれかに記載した構成の前駆体を、CuまたはCu基合金中に複数配置することによってマルチエレメント前駆体を構成することができる。図8は、こうしたマルチエレメント前駆体の構成例を模式的に示した断面図であり、この構成では前記図7に示したモノエレメント前駆体1cの複数本をCuマトリクス5内に配置することによって、マルチエレメント前駆体11bを構成したものである。
【0031】
こうしたマルチエレメント前駆体を構成するに際しては、拡散障壁層6を形成しないモノエレメント前駆体(基本構成が図1に示したモノエレメント前駆体)を用いて多芯型にする場合には、複数のモノエレメント前駆体を束ねた周囲に拡散障壁層6aを形成する構成を採用できる(前記図3参照)。
【0032】
本発明の超電導線材製造用前駆体では、超電導マトリクス部の任意の箇所に、Ti,ZrおよびHfよりなる群から選ばれる1種以上の金属若しくは合金、またはこれらの元素を含むNb基合金からなるシート状層10,10a,10bを形成することによって、良好な加工性を維持したまま上記元素のNbSn相内への拡散を可能とするものであるが、このシート状層10,10a,10bの厚さは熱処理前の状態で1〜50μm程度が好ましい。この厚さが、1μm未満となると、断線の原因となりやすく、50μmよりも厚くなると元素が拡散しきれず、だ肉となりJc特性が下がることとなる。但し、このシート状層は前駆体に配置する前に焼鈍することが好ましく(例えば、960〜1200℃程度)、こうした処理を施すことによって加工性を更に高めることができる。
【0033】
シート状層10,10a,10bとして用いることのあるNb基合金(Ti,ZrおよびHfよりなる群から選ばれる1種以上の元素を含むNb基合金)としては、上記元素の含有量が0.l〜60質量%程度であることが好ましい。この含有量が少なくなりすぎると、これらの元素をNbSn相内に拡散させてその含有量を確保することが困難になり、余り多くなり過ぎると超電導特性に悪影響が出ることになる。この含有量のより好ましい下限は5質量%程度であり、好ましい上限は50質量%程度である。
【0034】
また、シート状層10,10a,10bの面積率も適切に調整することが好まししく、前駆体のマトリクス部(拡散障壁層6,6aを形成する場合には、その内側の断面積)に対して0.5〜20%程度の面積率であることが好ましい。この面積率が0.5%よりも少なくなると、特性向上に寄与せず、20%よりも多くなると特性が却って劣化する。この面積率のより好ましい下限は1%程度であり、より好ましい上限は5%程度である。
【0035】
本発明の前駆体は、基本的な構成として、CuまたはCu基合金中に、Nb基金属芯(NbまたはNb基合金芯)およびSn基金属芯(SnまたはSn基合金芯)を配置するものである。こうした構成で用いるCu合金としては、CuにNb,Ni等の元素を含有したものを用いることができる。またNb基金属芯やSbn基金属芯として用いる素材としては、Ti,Ta,Zr,Hf等の元素を、加工性を阻害しない程度(5質量%程度以下)含有させたものを使用することができる。
【0036】
本発明方法においては、上記のような前駆体を構成し、これに対して焼鈍と伸線加工を行い、その後拡散熱処理(通常650℃以上750℃未満程度)することによって、良好な特性を発揮する超電導線材を得ることができる。
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0038】
実施例1
外径:68mm、内径:55mmのCu製パイプ内に、外径:54mmのNb基金属芯を挿入した後、縮径加工して六角断面形状のCu/Nb複合線(六角対辺:4.3mm)を作製し、これを400mmの長さに裁断した。
【0039】
一方、Cu製外筒(外径:143mm、内径:127mm)およびCu製内筒(外径:68mm、内径:60mm)からなるCu中空ビレットの前記Cu製外筒の内側に、Nbからなる拡散障壁層(厚さ:5mm)を配置した後、前記Cu製内筒の周りに、Nb−50質量%Ti合金シート(厚さ:0.2mm)を巻き付け、全厚さが2mmとなるようにシート状層を形成した。
【0040】
上記Cu中空ビレットのCu製内筒内に、先に準備したCu/Nb複合線:336本を束ねて挿入した後、蓋をして真空引きと溶接を行った。
【0041】
このビレットをパイプ押出し加工した後、Sn金属芯を挿入して更に伸線し、複合線材(モノエレメント前駆体)を作製した。
【0042】
次いで、この複合線材を裁断した後、更に19本束ねてCu製パイプ(外径:21mm、内径:18mm)に挿入した後、伸線によって縮径加工して外径:1mmの複合線材(マルチエレメント前駆体)とした(前記図5参照)。このときの、伸線加工中の断線は見られなかった。
【0043】
得られたマルチエレメント前駆体を、670℃で200時間熱処理(拡散熱処理)を施して、NbSn超電導線材とした。得られたNbSn超電導線材について、外部磁場12T(テスラ)を印加した状態で臨界電流(Ic)を測定し、線材断面の非銅部の面積でIcを除して臨界電流密度(Jc)の評価を行った。その結果、温度4.2Kでの臨界電流密度(Jc)は、1220A/mmの高い臨界電流密度(Jc)が得られていた。
【0044】
実施例2
実施例1と同様にして、Cu/Nb複合線(六角対辺:4.3mm)を作製した後、400mmの長さに裁断した。
【0045】
一方、Cu製外筒(外径:143mm、内径:127mm)およびCu製マトリクス棒(外径:68mm)からなるCu中実ビレットの前記Cu製外筒の内側に、Nbからなる拡散障壁層(厚さ:5mm)を配置した後、その内壁のNb−50質量%合金シート(厚さ:0.2mm)を貼り付け、全体の厚みを2mmとした。更にその内部に先に準備したCu/Nb複合線:336本を束ねて挿入した後、Cu製マトリクス棒を中央に配置し、蓋をして真空引きと溶接を行った。
【0046】
このビレットを押出し加工し、中心のCuマトリクス領域を穿孔(直径:20mm)し、その穿孔部分に直径:20mmのSn芯を挿入して更に伸線し、複合線材を作製した。
【0047】
次いで、この複合線材を裁断した後、更に19本束ねてCu製パイプ(外径:21mm、内径:18mm)に挿入した後、伸線によって縮径加工して外径:1mmの複合線材(マルチエレメント前駆体)とした(前記図6参照)。このときの、伸線加工中の断線は見られなかった。
【0048】
得られたマルチエレメント前駆体を、670℃で200時間熱処理(拡散熱処理)を施して、NbSn超電導線材とした。得られたNbSn超電導線材について、外部磁場12T(テスラ)を印加した状態で臨界電流(Ic)を測定し、線材断面の非銅部の面積でIcを除して臨界電流密度(Jc)の評価を行った。その結果、温度4.2Kでの臨界電流密度(Jc)は、1204A/mmの高い臨界電流密度(Jc)が得られていた。
【0049】
実施例3
実施例1と同様にして、Cu/Nb複合線(六角対辺:4.3mm)を作製した後、400mmの長さに裁断した。
【0050】
一方、Cu製外筒(外径:143mm、内径:127mm)およびCu製マトリクス棒(外径:68mm)からなるCu中実ビレットの前記Cu製外筒の内側に、Nbからなる拡散障壁層(厚さ:5mm)を配置した後、Nb−50質量%Ti合金シート(厚さ:2mm)をフィン状態に6枚と、中央にCu製マトリクス棒を配置し、得られた空隙に、先に準備したCu/Nb複合線:336本を束ねて挿入した後、蓋をして真空引きと溶接を行った。
【0051】
このビレットを押出し加工し、中心のCuマトリクス領域を穿孔(直径:20mm)し、その穿孔部分に直径:20mmのSn芯を挿入して更に伸線し、複合線材を作製した。
【0052】
次いで、この複合線材を裁断した後、更に19本束ねてCu製パイプ(外径:21mm、内径:18mm)に挿入した後、伸線によって縮径加工して外径:1mmの複合線材(マルチエレメント前駆体)とした(前記図7参照)。このときの、伸線加工中の断線は見られなかった。
【0053】
得られたマルチエレメント前駆体を、670℃で200時間熱処理(拡散熱処理)を施して、NbSn超電導線材とした。得られたNbSn超電導線材について、外部磁場12T(テスラ)を印加した状態で臨界電流(Ic)を測定し、線材断面の非銅部の面積でIcを除して臨界電流密度(Jc)の評価を行った。その結果、温度4.2Kでの臨界電流密度(Jc)は、1240A/mmの高い臨界電流密度(Jc)が得られていた。
【0054】
実施例4
実施例1と同様にして、Cu/Nb複合線(直径:六角対辺:4.3mm)を作製した後、400mmの長さに裁断した。
【0055】
一方、Cu製外筒(外径:143mm、内径:127mm)およびCu製マトリクス棒(外径:68mm)からなるCu中実ビレットの前記Cu製外筒の内側に、Nb−50質量%Ti合金シート(厚さ:0.2mm)をフィン状態に6枚と、中央にCu製マトリクス棒を配置し、得られた空隙に、先に準備したCu/Nb複合線:336本を束ねて挿入した後、蓋をして真空引きと溶接を行った。
【0056】
このビレットを押出し加工し、中心のCuマトリクス領域を穿孔(直径:20mm)し、その穿孔部分に直径:20mmのSn芯を挿入して更に伸線し、複合線材を作製した。
【0057】
次いで、この複合線材を裁断した後、更に19本束ねたものを、Nbからなる拡散障壁層(厚さ:2mm)を内部に配置したCu製パイプ(外径:21mm、内径:18mm)に挿入した後、伸線によって縮径加工して外径:1mmの複合線材(マルチエレメント前駆体)とした(前記図8参照)。このときの、伸線加工中の断線は見られなかった。
【0058】
得られたマルチエレメント前駆体を、670℃で200時間熱処理(拡散熱処理)を施して、NbSn超電導線材とした。得られたNbSn超電導線材について、外部磁場12T(テスラ)を印加した状態で臨界電流(Ic)を測定し、線材断面の非銅部の面積でIcを除して臨界電流密度(Jc)の評価を行った。その結果、温度4.2Kでの臨界電流密度(Jc)は、1213A/mmの高い臨界電流密度(Jc)が得られていた。
【0059】
比較例1
外径:68mm、内径:55mmのCuパイプ内に、外径:54mmのNb基合金芯(Nb−1質量%Ti合金芯)を挿入した後、押出し、伸線によって縮径加工し、Cu/Nb基合金複合線(六角対辺:9.3mm)を作製し、これを400mmの長さに裁断した。
【0060】
一方、Cu中実ビレットのCu製外筒の内側に、Nb基金属で拡散障壁層を配置した後、中央部にCuマトリクスを配置し、得られた空隙に先に準備したCu/Nb基合金複合線:336本を束ねて挿入して多芯線とした後、蓋をして真空引きと溶接を行った。
【0061】
このビレットを押出し加工した後、中央のCuマトリクス領域を穿孔して直径:20mmの孔を開けた後、Sn金属芯を挿入して更に伸線し、Cu/Nb/Sn複合線材を作製した。
【0062】
次いで、この複合線材を裁断した後、更に19本束ねてCu製パイプ(外径:21mm、内径:18mm)に挿入した後、伸線によって縮径加工して外径:1mmの複合線材(超電導線材製造用前駆体線材)とした。このとき、伸線加工中に合計6回の断線が見られた。断線が発生した線材の断面をSEM観察したところ、Nb−1質量%Ti合金芯が一部不均一に変形していることが確認できた。
【0063】
得られた前駆体線材を、670℃で200時間熱処理(拡散熱処理)を施して、NbSn超電導線材とした。得られたNbSn超電導線材について、外部磁場12T(テスラ)を印加した状態で臨界電流(Ic)を測定し、線材断面の非銅部の面積でIcを除して臨界電流密度(Jc)の評価を行った。その結果、温度4.2Kでの臨界電流密度(Jc)は、1095A/mmの臨界電流密度(Jc)しか得られていなかった。
【0064】
比較例2
アルゴンガス雰囲気中で高周波加熱炉を使用し、Snを1300℃で溶解した後、目標2質量%となるようにスポンジTiを添加して攪拌し、銅鋳型に鋳込み、Sn−2質量%Ti合金インゴットを作製した。
【0065】
得られたSn基−2質量%Ti合金インゴットを機械加工して押出しビレット形状にした後、直径:19.8mmとなるように押出し加工して棒材とした。
【0066】
外径:68mm、内径:55mmのCuパイプ内に、外径:54mmのNb芯を挿入した後、伸線によって縮径加工し、Cu/Nb複合線(六角対辺:4.3mm)を作製し、これを400mmの長さに裁断した。
【0067】
一方、Cu中実ビレットのCu製外筒の内側に、Nb金属で拡散障壁層を配置した後、中央部にCuマトリクスを配置し、得られた空隙に先に準備したCu/Nb複合線:336本を束ねて挿入して多芯線とした後、蓋をして真空引きと溶接を行った。
【0068】
このビレットを押出し加工した後、中央のCuマトリクス領域を穿孔して直径:20mmの孔を開けた後、Sn基金属芯を挿入して更に伸線し、Cu/Nb/Sn−Ti複合線材を作製した。
【0069】
次いで、この複合線材を裁断した後、更に19本束ねてCu製パイプ(外径:21mm、内径:18mm)に挿入した後、伸線によって縮径加工して外径:1.0mmの複合線材(超電導線材製造用前駆体線材)とした。このとき、伸線加工中に合計2回の断線が見られた。断線が発生した線材の断面をSEM観察したところ、35μm程度の粒径のSn−Ti系介在物が残留して、断線の原因となっていることが確認できた。
【0070】
得られた前駆体線材を、670℃で200時間熱処理(拡散熱処理)を施して、NbSn超電導線材とした。得られたNbSn超電導線材について、外部磁場12T(テスラ)を印加した状態で臨界電流(Ic)を測定し、線材断面の非銅部の面積でIcを除して臨界電流密度(Jc)の評価を行った。その結果、温度4.2Kでの臨界電流密度(Jc)は、1104A/mmの臨界電流密度(Jc)しか得られていなかった。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】内部拡散法に適用される超電導線材製造用前駆体(モノエレメント前駆体)の構成例を模式的に示した断面図である。
【図2】内部拡散法に適用される超電導線材製造用前駆体(モノエレメント前駆体)の他の構成例を模式的に示した断面図である。
【図3】内部拡散法に適用される超電導線材製造用前駆体(マルチエレメント前駆体)の構成例を模式的に示した断面図である。
【図4】内部拡散法に適用される超電導線材製造用前駆体(マルチエレメント前駆体)の他の構成例を模式的に示した断面図である。
【図5】本発明の超電導線材製造用前駆体(モノエレメント前駆体)の構成例を模式的に示した断面図である。
【図6】本発明の超電導線材製造用前駆体(モノエレメント前駆体)の他の構成例を模式的に示した断面図である。
【図7】本発明の超電導線材製造用前駆体(モノエレメント前駆体)の更に他の構成例を模式的に示した断面図である。
【図8】本発明の超電導線材製造用前駆体(マルチエレメント前駆体)の構成例を模式的に示した断面図である。
【符号の説明】
【0072】
1 モノエレメント前駆体
2 Nb基金属芯
3 Sn基金属芯
4 Cu基合金(Cu母材)
4a 安定化銅層
5 Cuマトリクス
6 拡散障壁層
10,10a,10b シート状層
11,11a,11b マルチエレメント前駆体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部拡散法によってNbSn超電導線材を製造する際に用いる超電導線材製造用前駆体であって、CuまたはCu基合金中に、1本または複数本のNbまたはNb基合金芯と、1本または複数本のSnまたはSn基合金芯が、相互に接触しないように配置された超電導マトリクス部と、その外周に安定化銅層を有する超電導線材製造用前駆体において、前記超電導マトリクス部内の任意の箇所に、Ti,ZrおよびHfよりなる群から選ばれる1種以上の金属若しくは合金、またはTi,ZrおよびHfよりなる群から選ばれる1種以上の元素を含むNb基合金からなるシート状層を配置したものであることを特徴とするNbSn超電導線材製造用前駆体。
【請求項2】
前記シート状層は、前記NbまたはNb基合金芯と相互に接触しないように配置されたものである請求項1に記載の超電導線材製造用前駆体。
【請求項3】
前記シート状層は、焼鈍されたものである請求項1または2に記載の超電導線材製造用前駆体。
【請求項4】
前記超電導マトリクス部と安定化銅層の間に拡散障壁層を配置したものである請求項1〜3のいずれかに記載の超電導線材製造用前駆体。
【請求項5】
請求項1〜4にいずれかに記載の超電導線材製造用前駆体が、CuまたはCu基合金中に複数本配置されたものである超電導線材製造用前駆体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の超電導線材製造用前駆体を、熱処理することによってNbSn系超電導相を形成することを特徴とするNbSn超電導線材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−115483(P2007−115483A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−304757(P2005−304757)
【出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】