説明

Niめっき液

【課題】 めっき中のセラミック素体の腐食を低減することができるNiめっき液を提供すること。
【解決手段】 好適な実施形態のNiめっき液は、セラミック電子部品の端子電極を形成するためのNiめっき液であって、pHが5.5以上であり、Sr、Ba、Ca及びMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Niめっき液、より詳しくは、セラミック電子部品の端子電極を形成するためのNiめっき液に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック電子部品としては、主としてセラミック材料から形成されるセラミック素体の端面に、素体側から順に、AgやCu等からなる下地電極、Niめっき層及びSnめっき層を備える端子電極が形成された構造を有するものが知られている。かかる構造を有する端子電極において、Niめっき層は、Niめっき液を用いた電気Niめっきにより形成されることが多い。このような電気Niめっきに用いられるNiめっき液としては、下記特許文献1、2に示されているようなものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−007731号公報
【特許文献2】特開2003−193284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者らが検討を行った結果、これまでのNiめっき液を用いた電気Niめっきでは、めっき中にNiめっき液が素体に接触し、これによって素体の表面部分が腐食してしまうという不都合が生じる場合があることが判明した。素体表面に腐食が生じると、絶縁抵抗(IR)不良が生じ易くなるなど、セラミック電子部品の電気特性が劣化し易い傾向にある。
【0005】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、めっき中のセラミック素体の腐食を低減することができるNiめっき液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明のNiめっき液は、セラミック電子部品の端子電極を形成するためのNiめっき液であって、pHが5.5以上であり、Sr、Ba、Ca及びMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含むものであることを特徴とする。
【0007】
電気Niめっきにおいては、めっき中に生じるセラミック素体の腐食を抑制する手法として、まず、pHを上げる手法が知られている。例えば、ワット浴、スルファミン酸Niめっき浴等、通常のNiめっきの場合は、炭酸Niを用いてpH調整が行われる。しかし、炭酸Niは弱アルカリであるので、pHの実用的な上限は5〜5.3となるが、このpH領域では、未だセラミックス素体のめっき中の腐食が大きく、めっき後のIR不良が充分に抑制出来ない傾向にある。また、上限近くまでpHを上げた場合、余剰の炭酸Niを濾過によって除去する必要がある場合もある。さらに、めっき液中の炭酸の量が増加してめっき液が不安定になり、通電直後にめっき液が分解する場合があるなど、めっき液の安定性にも課題がある。
【0008】
そこで、炭酸Niに代えて、NaOH等のアルカリ金属の水酸化物でpHの調整を行う手法もあるが、その場合、pHは容易に上昇するものの、めっき中におけるセラミック素体の表面腐食は未だ大きい傾向にある。これは、アルカリ金属は、Niめっき液中での溶解度が高いため、電気Niめっきの際にアルカリ金属のカチオンがカソードに集中して強アルカリを発生させ、これが素体の表面部分を腐食させる要因となっているためであると考えられる。さらに、アンモニアやアンモニウム塩を含む水酸化物でpH調整を行うことも考えられるが、この場合もアルカリ金属の水酸化物と同様のメカニズムでめっき中の腐食が大きくなる。特に、これらを用いた場合、さらにアンモニアがキレート剤であるので、通電せずにセラミックス素体をめっき液に浸漬するだけでも、セラミック素体の表面の金属酸化物との結合により溶出が生じ、表面の腐食を大きくするので好ましくない。そのため、アンモニア及びアンモニウム塩を含む化合物のめっき液中の好ましい含有量は、通常、0.5mol/L以下である。以上のように、めっき中のセラミック素体の腐食を良好に防止できる程度に高いpHを有することに加えて、pH以外の要因による腐食をも抑制することは、これまで極めて困難な傾向にあった。
【0009】
これに対し、上記本発明のNiめっき液は、Sr、Ba、Ca及びMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含有している。これらの元素を含むNiめっき液は、5.5以上のpHを容易に実現でき、且つめっき後のセラミックス素体の腐食も良好に抑制することができる。これは、めっき中にSr、Ba、Ca、Mgからなるカチオンは、アルカリ金属の場合と同様にカソードに集中するものの、Niめっき液中での溶解度が小さいので、それが上限となって溶解度以上のカチオンの濃縮が発生せず、そのためカソード周辺でのpH上昇が抑制されるためであると考えられる。したがって、本発明のNiめっき液によれば、電気Niめっきによりセラミック電子部品の端子電極におけるNiめっき層を形成させる場合であっても、素体の腐食を低減することが可能となる。得に、Sr、Ba、Ca及びMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素のなかでは、Sr又はBaが好ましい。
【0010】
本発明のNiめっき液は、アルカリ金属元素の含有量が、0.08mol/L以下であると好ましい。アルカリ金属元素の含有量がこのような特定の値以下であると、電気Niめっき中に生じる素体の腐食をさらに低減することが可能となる。
【0011】
また、本発明のNiめっき液は、塩化物浴(Niイオン源が塩化Niである浴)であると更に好適である。このように、Niイオン源としてNi塩化物のみを含む塩化物浴を用いると、素体の腐食をさらに抑制しながら、めっき速度を更に向上させることが可能となる。なお、めっき速度の向上は、塩化物浴であるとめっき液の導電率が上がることにより得られると考えられる。
【0012】
さらに、本発明のNiめっき液が適用されるセラミック電子部品は、Znを含むセラミック素体と、このセラミック素体の端部に形成された端子電極とを備えるものであると好適である。Znを含むセラミック素体は、特に、めっきの際にめっき液に溶出しやすく、そのため電気Niめっきの最中に腐食を生じ易い傾向にあった。本発明のNiめっき液は、セラミック素体の腐食を極めて生じ難いことから、このようなZnを含むセラミック素体を用いる場合であっても、腐食を抑制しつつ十分なめっき速度を得ることが可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、めっき中のセラミック素体の腐食を低減することができるNiめっき液を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】好適な実施形態のNiめっき液によりNiめっき層が形成された端子電極を備えるセラミック電子部品の断面構成を模式的に示す図である。
【図2】実験例5における各種のアルカリ金属の塩化物の添加量に対する腐食距離の値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明する。図面の説明において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明については省略する。
【0016】
[Niめっき液]
まず、好適な実施形態に係るNiめっき液について説明する。
【0017】
本実施形態のNiめっき液は、Niを含むNiめっき液であって、pHが5.5以上であり、Sr、Ba、Ca及びMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含むものである。
【0018】
Niめっき液としては、Ni源として、例えば塩化ニッケル、硫酸ニッケル、スルファミン酸ニッケル、臭化ニッケル、酢酸ニッケルを含むものを適用することができる。例えば、Ni源として塩化ニッケルのみを含む塩化物浴(全塩化物浴)、硫酸ニッケル及び塩化ニッケルを組み合わせて含むワット浴、スルファミン酸ニッケル及び塩化ニッケルを組み合わせて含むスルファミン酸ニッケル浴のいずれも適用することができる。なかでも、塩化物浴は、セラミック素体の腐食を抑制しながら高いめっき速度が得られるため好ましい傾向にある。
【0019】
Niめっき液は、Sr、Ba、Ca及びMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を、金属やイオンの状態で含有している。これらの元素は、水酸化物やハロゲン化物、硫酸塩等の形態でNiめっき液に添加される。ただし、これらの元素がハロゲン化物として含まれる場合、塩化物として含まれると、臭化物やヨウ化物の形態で含まれるのに比べて、腐食を抑制する効果が極めて良好に得られる傾向にある。Sr、Ba、Ca及びMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素は、上述したなかでも、水酸化物として添加されることが特に好ましい。水酸化物として含まれることで、Niめっき液のpHを5.5以上に調整し易くなるほか、アルカリ金属による腐食を原理的に防止する効果がより良好に得られる傾向にある。
【0020】
Niめっき液には、Sr、Ba、Ca及びMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素として、Sr又はBaを含むことが好ましい。これらの元素を含むNiめっき液は、その調製が容易であるほか、セラミック素体の腐食をさらに低減し易い傾向にある。
【0021】
Niめっき液における、Sr、Ba、Ca及びMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素の含有量は、Niめっき液の全体に対して、0.0003mol/L以上であると好ましく、0.001mol/L以上であるとより好ましく、0.01mol/L以上であると更に好ましい。これらの元素の含有量が好適な範囲であるほど、Niめっき液は、良好なpHを有しながらも、めっき時のセラミック素体の腐食を一層低減することができるようになる。ただし、これらの元素の含有量が多すぎると、Niめっきにより形成された膜中に大量にSr、Ba、CaやMgが共析して、耐湿試験時にこの部分が溶解し、これにより水分が内部電極と下地電極の接合部に浸入して、接続抵抗が上昇するという不都合が生じる可能性があるため、含有量の上限は、1mol/Lとすることが好適である。
【0022】
Niめっき液のpHは、5.5以上であり、5.5〜6であると好ましく、5.6〜5.9であるとより好ましい。好適なPHを有するほど、セラミック素体の腐食を抑制しながら、優れためっき浴安定性が得られるようになる。
【0023】
Niめっき液は、アルカリ金属元素の含有量が、Niめっき液の全体に対して0.4mol/L以下であることが好ましく、0.2mol/Lであることがより好ましく、0.08mol/L以下であることが更に好ましい。アルカリ金属の含有量がこのように好適な範囲であるほど、めっき中のセラミック素体の腐食を良好に低減することが可能となる。特に、Niめっき液は、NaOH等のアルカリ金属の水酸化物を含むことによって、pHを容易に調整することが可能であるが、その目的でアルカリ金属の水酸化物を含む場合に、アルカリ金属の含有量が上記の好適範囲となるように調整することで、セラミック素体の腐食を効果的に防止することが可能となる。
【0024】
なお、セラミック素体の腐食を防ぐ観点からは、Niめっき液中には、アルカリ金属(アルカリ金属の水酸化物)が含まれない、すなわち、アルカリ金属の含有量が0mol/Lであってもよい。ただし、その場合は、その他の成分との組み合わせによっては、Niめっき液の良好なpHが得られ難くなる場合もある。したがって、良好なpHを得る観点からは、上述したアルカリ金属の含有量の好適な条件が満たされる範囲で、アルカリ金属の水酸化物を添加してもよい。特に、Sr、Ba、Ca及びMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素の水酸化物と、アルカリ金属の水酸化物とを、上記の好適条件の範囲で組み合わせて含むと、良好なpHが容易に得られるとともに、セラミック素体の腐食も十分に防止できる場合がある。
【0025】
Niめっき液には、上述した成分以外に、Niめっき液に用いられる公知の成分、例えば、アノード溶解剤としての塩化ニッケルや臭化ニッケル、ホウ酸等の緩衝剤、アルカリ金属の水酸化物以外のpH調整剤(例えば炭酸ニッケル)、光沢剤、硫酸ナトリウム等の導電剤等が更に含まれていてもよい。
【0026】
[セラミック電子部品]
次に、上述した実施形態のNiめっき液を用いて端子電極のNiめっき層が形成されたセラミック電子部品の例を説明する。図1は、好適な実施形態に係るセラミック電子部品の断面構成を模式的に示す図である。図1に示すセラミック電子部品100は、セラミック素体3と、このセラミック素体の両端に設けられた端子電極7とを備えている。
【0027】
セラミック素体3は、セラミック材料から構成される複数(ここでは3層)のセラミック層1と、このセラミック層1の間に設けられた内部電極2(内部電極2a及び2b)から構成される。換言すれば、セラミック素体3は、セラミック層1と内部電極2とが交互に積層された積層体からなる。このセラミック素体3において、内部電極2a及び2bは、それらの一方の端部がセラミック素体3における対向する異なる端面にそれぞれ露出するように設けられて(引き出されて)おり、その露出した部分で端子電極7(下地電極4)に接続されている。
【0028】
セラミック層1を構成するセラミック材料は、セラミック電子部品100の種類に応じてそれぞれ必要となる特性に応じて選択される。例えば、コンデンサ、バリスタ、サーミスタ等のセラミック電子部品100の用途に応じて、セラミック材料としては、公知の誘電体セラミックス、半導体セラミックス、磁性体セラミックス等を適宜選択して適用することができる。
【0029】
セラミック材料としては、Znを含むものが挙げられる。すなわち、セラミック素体3は、Znを含むものであってもよい。例えば、半導体セラミックスとしては、Znを含む化合物(酸化物等)を主成分として含むものが挙げられ、誘電体セラミックスとしては、焼結助剤としてZnを含むものが挙げられる。特に、誘電体セラミックスの場合、これを用いた電子部品の小型化のためにセラミック層の薄層化が進んでおり、そのために焼結温度を一層低下させる観点から、Znを含むことが特に好ましい。
【0030】
なお、Znを含むセラミック材料を用いた素体は、耐薬品性が乏しい傾向にあり、端子電極を形成する際のめっき等においてセラミック材料の一部の溶解等が生じるなど、劣化し易い傾向にある。ところが、本実施形態のセラミック電子部品100は、後述するように本実施形態のNiめっき液を用いて形成されるNi層5を有することから、Niめっき後の素体の腐食が少ないものとなる。
【0031】
Znを含む半導体セラミックスとしては、より具体的には、ZnOを主成分として含む組成を有するものが挙げられ、誘電体セラミックスとしては、チタン酸バリウム(BaTiO)を主成分として含み、副成分(燒結助剤)としてZnを更に含むものが挙げられる。
【0032】
内部電極2a,2bの構成材料としては、セラミック層1との間で確実なオーミック接合が可能なものであれば、特に限定されない。例えば、Ag、Pd、Ni、Cu、Alの金属単体やこれらを主成分とする材料(合金、化合物等)が挙げられる。セラミックス層1の主成分がチタン酸バリウムの場合、内部電極2a,2bの構成材料としては、例えばNi,Cu,Ag/Pd合金、Ag/Zn合金、Ag/Al合金等が好ましく用いられる。
【0033】
一対の端子電極7は、セラミック素体3における内部電極2a,2bが露出した端面にそれぞれ設けられている。各端子電極7は、セラミック素体3側から順に、下地電極4、Ni層5及びSn層6を備えている。
【0034】
下地電極4は、主として内部電極2a,2bとの接続抵抗を低くする目的で設けられる。その観点からは、内部電極2a,2bとオーミック接合を形成する金属や合金からなることが必要である。
【0035】
より具体的には、内部電極2a,2bがNiから構成される場合、下地電極4の材料としては、Cu、Ag/Zn合金、Ag/Al合金等が好ましい。なお、内部電極2a,2bがNiから構成される場合、下地電極4の材料としてNiを適用することもできる。ただし、その場合、還元性の雰囲気で高い温度で焼成することが必要となるため、焼成の際にはセラミック素体3との間で生じる熱応力によってクラックが発生すること、及びセラミック素体3が焼成中に還元されて特性が変化することに留意することが好ましい。
【0036】
Ni層5は、主としてNiから構成される層であり、上述した実施形態のNiめっき液を用いて形成されたNiめっき層である。ここで、「主としてNiから構成される層」とは、当該層の98質量%以上がNiによって示されることを意味し、不可避的に混入した不純物以外はNiのみから構成される場合も含まれる。なお、後述するSn層6も、主としてSnから構成される層であり、その定義はNi層の場合と同様である。
【0037】
Ni層5は、上記実施形態のNiめっき液により形成されることから、当該層中に、Sr、Ba、Ca及びMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を、金属単体や合金及び化合物の状態で含む。Ni層5中のこれらの元素の含有量は、5〜2000ppmであると好ましく、10〜500ppmであるとより好ましい。Ni層5中にこれらの元素が含まれていると、端子電極7における水分等の透過を防止して、セラミック電子部品100の耐食性が向上する傾向にある。
【0038】
Sn層6は、はんだに対する濡れ性を向上させる機能を有している。Sn層6が端子電極7の表面に設けられていることにより、当該端子電極7のはんだ付けを良好に行うことが可能となる。また、Ni層5は、例えばはんだ付けの際の熱による、下地電極4とSn層6との間の金属の拡散を防止するバリアメタルとして機能する。下地電極4とSn層6との間にNi層5が設けられていることにより、端子電極7内の金属の相互拡散に起因して生じ易いはんだ付け不良及び長期信頼性の低下を抑制することができる。
【0039】
Sn層6も、Snめっきにより形成されたSnめっき層であると好ましい。めっきにより、Sn層6は緻密な構造を有するようになり、セラミック電子部品100の耐食性を向上することが可能となる。また、耐食性向上の観点からは、Sn層6も、Ni層5と同様に、Sr、Ba、Ca及びMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を、好ましくは5〜2000ppm、より好ましくは10〜500ppm含んでいると好ましい。
【0040】
端子電極7において、各層の好適な厚さは、次の通りである。すなわち、下地電極4の厚さは、5〜50μmであると好ましく、10〜40μmであるとより好ましい。また、Ni層5の厚さは、1〜5μmであると好ましく、2〜3μmであるとより好ましい。さらに、Sn層6の厚さは、2〜10μmであると好ましく、3〜6μmであるとより好ましい。
【0041】
次に、上述した構成を有するセラミック電子部品100の製造方法の好適な実施形態について説明する。
【0042】
まず、公知の方法により、セラミック素体3を形成する。すなわち、セラミック層1を形成するためのセラミック層用グリーンシートの表面に、導電性ペーストをスクリーン印刷等して、内部電極2a,2bのパターンを形成する。グリーンシートの構成材料としては、焼成後に所望とするセラミック層1が形成されるような材料を適用すればよい。そして、表面に導電性ペーストからなる内部電極パターンが形成されたセラミック層用グリーンシートを、セラミック素体3の積層構造が得られるように積層した後、焼成することにより、セラミック素体3を得る。
【0043】
次に、セラミック素体3の内部電極2a,2bが露出した端面に、下地電極4を形成する。下地電極4は、セラミック素体3の端面に導電性ペーストを塗布した後、これを焼成して形成することができる(焼結法)。導電性ペーストとしては、下地電極4を構成する金属の粉末、有機ビヒクル(バインダー)及びガラス粉末(フリット)を含むものが挙げられる。また、導電性ペーストには、必要に応じて、粘度調整剤、無機結合剤、酸化剤等の添加物を添加してもよい。焼成により、有機ビヒクルが揮散して、金属及びガラス成分を含む下地電極4が形成される。
【0044】
それから、下地電極4の表面上に、上述した実施形態のNiめっき液を用いた電気Niめっきを施し、Ni層5を形成する。電気Niめっきを行う際のNiめっき液の温度は、10〜60℃とすることが好ましく、15〜30℃とすることがより好ましい。
【0045】
次いで、Ni層5の表面上に、電気SnめっきによりSn層6を形成する。この際に用いるSnめっき液としては、公知のSnめっき液を適用することができる。例えば、メタンスルホン酸SnをSnイオン源、グルコン酸ソーダをキレート剤、メタンスルホン酸ソーダを導電塩として含むものが挙げられる。Snめっき液には、必要に応じて、pHを調整するための成分(アルカリ金属水酸化物、アンモニア等)や光沢剤等を含んでいてもよい。Snめっき液中のSnイオンの濃度は、0.05〜0.2mol/Lであると、良好にSn層6を形成できることから好ましい。
【0046】
Snめっき液には、Sr、Ba、Ca及びMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素が、金属、化合物やイオンの状態で含まれていてもよい。Snめっき液にこれらの成分を含有させることで、電気Snめっきの際にも、セラミック素体3の腐食を低減し易くなる傾向にある。そして、これらの元素を含むSn層6は、緻密な構造を有するようになり、セラミック電子部品100の耐食性を向上させることができる場合がある。Snめっき液中にこれらの元素を含有させる場合は、これらの元素のイオンの濃度が、0.005〜0.1moL/Lとなるようにすることが好ましく、0.01〜0.05moL/Lとなるようにすることがより好ましい。
【0047】
Sn層6を形成するためのめっきにおいては、例えば、Snめっき液のpHは4〜8とすることが好ましく、6〜7.8とすることがより好ましい。また、Snめっき液の温度は、10〜40℃とすることが好ましく、15〜30℃とすることがより好ましい。
【0048】
上記めっきによりNi層5やSn層6を形成した後には、これらの層に、所定の熱処理を行ってもよい。例えば、150℃、30分程度の熱処理を行うことで、Ni層5とSn層6との間で構成成分同士の拡散がおこり、両層間の密着性が向上する場合がある。
【0049】
以上のような製造方法により、セラミック電子部品100が得られるが、かかる製造方法においては、端子電極7中のNi層5の形成時に、上述した好適な実施形態のNiめっき液を用いている。このNiめっき液は、Sr、Ba、Ca及びMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含むことによって、従来、セラミック素体3の腐食の要因となっていたアルカリ金属の添加量が少なくても、更にはアルカリ金属を添加しなくても、めっき中のセラミックス素体の腐食を充分に抑制できるpH(pH5.5以上)を有することができる。
【0050】
したがって、Ni層5を形成するための電気Niめっきの際には、Niめっき液によるセラミック素体3の腐食を大幅に低減することができる。その結果、IR不良等の電気特性の劣化が少ないセラミック電子部品100を得ることが可能となる。
【0051】
以上、本発明の好適な実施形態に係るNiめっき液や、これ用いたセラミック電子部品の製造方法等について説明したが、本発明は、必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0052】
例えば、上述した実施形態では、端子電極7の製造において、下地電極4の表面上に電気NiめっきによりNi層5を形成していたが、これに限定されず、可能であれば、セラミック素体3の表面上に直接電気Niめっきを施してもよく、或いは、下地電極4以上の層上に電気Niめっきを施してもよい。また、Sn層6は、必ずしもめっきにより形成される必要はなく、他の方法で形成されてもよい。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は必ずしもこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
[実験例1]
(セラミックコンデンサの作製)
まず、主成分としてチタン酸バリウムを含むとともにZnOが2%添加された組成を有しており、外形寸法が1.6×0.8×0.8(mm)であるセラミック素体の端面に、銅ペーストを塗布し焼成して下地電極を形成して、Ni層及びSn層が形成される前の状態のチップコンデンサを複数用意した。全てのチップコンデンサの絶縁抵抗(IR)を測定して、IRが10Ω以下のものを除外した。
【0055】
得られたチップコンデンサの下地電極の表面上に、電気バレルめっき法によりNiめっき及びSnめっきを順次行うことにより、厚さ2μmのNi層及び厚さ4μmのSn層をそれぞれ形成して、セラミックコンデンサ(セラミック電子部品)を得た。電気バレルめっきでの電流値は、Niめっきの場合は2時間で2μm、Snめっきの場合は2時間で5μmの膜厚が得られるように調整した。
【0056】
この際、Niめっき及びSnめっきは、下記のNiめっき液及びSnめっき液を用いた条件で行った。実験例1では、表1に示すように水酸化ストロンチウムの添加量がそれぞれ異なるNiめっき液を用いた複数の条件でNiめっきを行い、各種のセラミックコンデンサを作製した。
【0057】
(1)Niめっき液
硫酸ニッケル・6水和物:0.4mol/L
塩化ニッケル・6水和物:0.1mol/L
ほう酸:0.3mol/L
水酸化ストロンチウム・8水和物:表1に示す添加量
pH:5.5
pH調整剤:炭酸ニッケル
液温度:25℃
【0058】
(2)Snめっき液
メタンスルホン酸Sn:0.1mol/L
グルコン酸ソーダ:0.4mol/L
メタンスルホン酸ソーダ:0.3mol/L
光沢剤:適量
pH:6.0(水酸化Naで調整)
液温度:25℃
【0059】
(特性評価)
(1)腐食距離
上記で得られた各種のチップコンデンサについての、セラミック素体部分の腐食距離をそれぞれ調べた。腐食距離とは、セラミック素体の断面を走査型電子顕微鏡により観察し、目視にて腐食が生じていると認められた部分の、セラミック素体の表面からの厚さを意味する。得られた結果を表1に示す。なお、腐食距離は、同じ条件でNiめっきを行ったサンプル10個の平均値とした。
【0060】
(2)めっき後のIR不良率の測定
また、各種のチップコンデンサについてIRを測定して、10Ω以下であったものを不良とした。そして、同じ条件でNiめっきを行ったサンプル100個中、不良であったものの割合(めっき後のIR不良率(%))を求めた。得られた結果を表1に示す。
【0061】
(3)耐湿負荷試験後のIR不良率の測定
さらに、上記で得られた各種のチップコンデンサに対し、85℃、85%RHの雰囲気で、1000時間6Vの電圧を印加する条件で耐湿負荷試験を行い、当該試験後のチップコンデンサのIRを測定して、同様に10Ω以下であったものを不良とした。そして、同じ条件でNiめっきを行ったサンプル100個中、不良であったものの割合(耐湿負荷試験後のIR不良率(%))を求めた。得られた結果を表1に示す。
【表1】

【0062】
表1に示すように、Niめっき液がSrを含む場合は、Srを含まない場合に比べて、腐食距離が小さく、めっき後及び耐湿負荷試験後のIR不良率も小さかったことから、めっき時のセラミック素体の腐食が生じ難く、また耐湿負荷試験等でもセラミック素体の腐食が生じ難いことが確認された。
【0063】
[実験例2]
(セラミックコンデンサの作製)
Niめっき液として、水酸化ストロンチウムに代えて水酸化バリウムを含む下記のものを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてセラミックコンデンサを得た。すなわち、実験例2では、表2に示すように水酸化バリウムの添加量がそれぞれ異なるNiめっき液を用いて、各種のセラミックコンデンサの作製を行った。
【0064】
(1)Niめっき液
硫酸ニッケル・6水和物:0.4mol/L
塩化ニッケル・6水和物:0.1mol/L
ほう酸:0.3mol/L
水酸化バリウム・8水和物:表2に示す添加量
pH:5.5
pH調整剤:炭酸ニッケル
液温度:25℃
【0065】
(特性評価)
得られた各種のセラミックコンデンサについて、実験例1と同様にして、腐食距離、めっき後のIR不良率及び耐湿負荷試験後のIR不良率を求めた。得られた結果を表2に示す。
【表2】

【0066】
表2より、Niめっき液がBaを含むことで、腐食距離、めっき後のIR不良率及び耐湿負荷試験後のIR不良率を良好に低減できることが確認された。また、その効果は、水酸化バリウムの添加量が0.001以上であると良好であることが判明した。
【0067】
[実験例3]
(セラミックコンデンサの作製)
Niめっき液として、水酸化ストロンチウムに代えて水酸化カルシウムを含む下記のものを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてセラミックコンデンサを得た。すなわち、実験例3では、表3に示すように水酸化カルシウムの添加量がそれぞれ異なるNiめっき液を用いて、各種のセラミックコンデンサの作製を行った。
【0068】
(1)Niめっき液
硫酸ニッケル・6水和物:0.4mol/L
塩化ニッケル・6水和物:0.1mol/L
ほう酸:0.3mol/L
水酸化カルシウム・8水和物:表3に示す添加量
pH:5.5
pH調整剤:炭酸ニッケル
液温度:25℃
【0069】
(特性評価)
得られた各種のセラミックコンデンサについて、実験例1と同様にして、腐食距離、めっき後のIR不良率及び耐湿負荷試験後のIR不良率を求めた。得られた結果を表3に示す。
【表3】

【0070】
表3より、Niめっき液がCaを含むことで、腐食距離、めっき後のIR不良率及び耐湿負荷試験後のIR不良率を良好に低減できることが確認された。また、その効果は、水酸化カルシウムの添加量が0.001moL/L以上であると良好であることが判明した。
[実験例4]
(セラミックコンデンサの作製)
Niめっき液として、水酸化ストロンチウムに代えて水酸化マグネシウムを含む下記のものを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてセラミックコンデンサを得た。すなわち、実験例4では、表4に示すように水酸化マグネシウムの添加量がそれぞれ異なるNiめっき液を用いて、各種のセラミックコンデンサの作製を行った。
【0071】
(1)Niめっき液
硫酸ニッケル・6水和物:0.4mol/L
塩化ニッケル・6水和物:0.1mol/L
ほう酸:0.3mol/L
水酸化マグネシウム・8水和物:表4に示す添加量
pH:5.5
pH調整剤:炭酸ニッケル
液温度:25℃
【0072】
(特性評価)
得られた各種のセラミックコンデンサについて、実験例1と同様にして、腐食距離、めっき後のIR不良率及び耐湿負荷試験後のIR不良率を求めた。得られた結果を表4に示す。
【表4】

【0073】
表4より、Niめっき液がMgを含むことで、腐食距離、めっき後のIR不良率及び耐湿負荷試験後のIR不良率を良好に低減できることが確認された。また、その効果は、水酸化マグネシウムの添加量が0.001以上であると良好であることが判明した。
【0074】
[実験例5]
(セラミックコンデンサの作製)
Niめっき液として下記のものを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてセラミックコンデンサを得た。すなわち、実験例5では、表5に示すようにpHがそれぞれ異なるNiめっき液を用いて、各種のセラミックコンデンサを作製した。
【0075】
(1)Niめっき液
硫酸ニッケル・6水和物:0.4mol/L
塩化ニッケル・6水和物:0.1mol/L
ほう酸:0.3mol/L
水酸化ストロンチウム・8水和物:0.01mol/L
pH:表5に示すpH
pH調整剤:炭酸ニッケル
液温度:25℃
【0076】
(特性評価)
得られた各種のセラミックコンデンサについて、実験例1と同様にして、腐食距離、めっき後のIR不良率及び耐湿負荷試験後のIR不良率を求めた。得られた結果を表5に示す。
【表5】

【0077】
表5より、Niめっき液のpHが5.5以上である場合に、腐食距離、めっき後のIR不良率及び耐湿負荷試験後のIR不良率を良好に低減できることが確認された。
【0078】
[実験例6]
(セラミックコンデンサの作製)
Niめっき液として下記のNiめっき液A、B及びCをそれぞれ用いたこと以外は、実施例1と同様にしてセラミックコンデンサを得た。すなわち、実験例6では、Ni源として添加した成分がそれぞれ異なるNiめっき液を用いて、各種のセラミックコンデンサの作製を行った。
【0079】
(1)Niめっき液A
硫酸ニッケル・6水和物:0.4mol/L
塩化ニッケル・6水和物:0.1mol/L
ほう酸:0.3mol/L
水酸化ストロンチウム・8水和物:0.01mol/L
pH:5.5
pH調整剤:炭酸ニッケル
液温度:25℃
【0080】
(2)Niめっき液B
塩化ニッケル・6水和物:0.5mol/L
ほう酸:0.3mol/L
水酸化ストロンチウム・8水和物:0.01mol/L
pH:5.5
pH調整剤:炭酸ニッケル
液温度:25℃
【0081】
(3)Niめっき液C
スルファミン酸ニッケル・4水和物:0.4mol/L
塩化ニッケル・6水和物:0.1mol/L
ほう酸:0.3mol/L
水酸化ストロンチウム・8水和物:0.01mol/L
pH:5.5
pH調整剤:炭酸ニッケル
液温度:25℃
【0082】
(特性評価)
得られた各種のセラミックコンデンサについて、実験例1と同様にして、腐食距離、めっき後のIR不良率及び耐湿負荷試験後のIR不良率を求めた。得られた結果を表6に示す。
【表6】

【0083】
表6より、Niめっき液としては、Ni源が塩化物のみであるもの(塩化物浴)を用いた場合、腐食距離が特に小さく、セラミック素体の腐食を抑制できることが確認された。
【0084】
[実験例7]
Niめっき液としてNiめっき液中にアルカリ金属の塩化物を添加した下記のものを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてセラミックコンデンサを得た。すなわち、実験例7では、表7に示すようにアルカリ金属の塩化物の種類や濃度が異なるNiめっき液をそれぞれ用いて、各種のセラミックコンデンサの作製を行った。
【0085】
(1)Niめっき液
硫酸ニッケル・6水和物:0.4mol/L
塩化ニッケル・6水和物:0.1mol/L
ほう酸:0.3mol/L
水酸化ストロンチウム・8水和物:0.01mol/L
アルカリ金属の塩化物:表7に示す種類及び添加量
pH:5.5
液温度:25℃
【0086】
(特性評価)
得られた各種のセラミックコンデンサについて、実験例1と同様にして、腐食距離、めっき後のIR不良率及び耐湿負荷試験後のIR不良率を求めた。得られた結果を表7及び図2に示す。
【表7】

【0087】
表7及び図2より、Niめっき液中のアルカリ金属の含有量が多過ぎると、腐食距離が大きくなり、めっき後及び耐湿負荷試験後のIR不良率が高まる傾向にあることが確認された。
【符号の説明】
【0088】
1…セラミック層、2a,2b…内部電極、3…セラミック素体、4…下地電極、5…Ni層、6…Sn層、7…端子電極、100…セラミック電子部品。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック電子部品の端子電極を形成するためのNiめっき液であって、
pHが5.5以上であり、Sr、Ba、Ca及びMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含むものである、ことを特徴とするNiめっき液。
【請求項2】
アルカリ金属元素の含有量が、0.08mol/L以下である、ことを特徴とする請求項1記載のNiめっき液。
【請求項3】
塩化物浴である、ことを特徴とする請求項1又は2記載のNiめっき液。
【請求項4】
前記元素が、Sr又はBaであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のNiめっき液。
【請求項5】
前記セラミック電子部品は、Znを含むセラミック素体と、前記セラミック素体の端部に形成された前記端子電極とを備えるものである、ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のNiめっき液。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−77324(P2012−77324A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221489(P2010−221489)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】