Niを有するメッキ膜及びその製造方法
【課題】 特に、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えなくメッキされた膜と、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキされた膜とを積層することで、例えば、膜特性を劣化させることなく、自然酸化抑制機能を備えたNiを有するメッキ膜及びその製造方法を提供することを目的としている。
【解決手段】 下側メッキ膜1は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成され、上側メッキ膜2は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成されたものである。前記上側メッキ膜2中であって、膜表面2aよりも下方の位置にNiS層4が存在する。これにより、膜特性を劣化させることなく、自然酸化抑制機能を備えた積層構造にできる。
【解決手段】 下側メッキ膜1は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成され、上側メッキ膜2は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成されたものである。前記上側メッキ膜2中であって、膜表面2aよりも下方の位置にNiS層4が存在する。これにより、膜特性を劣化させることなく、自然酸化抑制機能を備えた積層構造にできる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、膜特性を劣化させることなく、自然酸化抑制機能を備えたNiを有するメッキ膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばNiFe合金をメッキ形成するとき、従来では、メッキ浴中に光沢剤としてサッカリンナトリウムを添加していた。
【0003】
しかしながら、光沢性には優れるものの、耐食性が劣るなどの問題があった。またサッカリンナトリウムに含まれるSがメッキ膜中に取り込まれ、飽和磁束密度(Bs)等の膜特性が劣化しやすいといった問題もあった。
【特許文献1】特開2006−210744号公報
【特許文献2】特開2007−123473号公報
【特許文献3】特開2002−280217号公報
【特許文献4】特開2003−227520号公報
【特許文献5】特開平10−282026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、特に、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えなくメッキされた膜と、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキされた膜とを積層することで、例えば、膜特性を劣化させることなく、自然酸化抑制機能を備えたNiを有するメッキ膜及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、Niを有するメッキ膜であって、
下側メッキ膜と、前記下側メッキ膜上に上側メッキ膜が積層されており、
前記下側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成され、前記上側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成されたものであり、
前記上側メッキ膜中であって、膜表面よりも下方の位置にNiS層が存在することを特徴とするものである。
【0006】
前記NiS層は自然酸化を抑制する機能を果たす。また下側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成されたものであり、膜中に取り込まれるS等の不純物量を少なくできる。よって、第1の発明によれば、膜特性を劣化させることなく、自然酸化抑制機能を備えたNiを有するメッキ膜にできる。
【0007】
本発明では、前記膜表面に少なくともNiO2層が存在し、前記NiO2層と前記NiS層との間に少なくともNiSO層が存在する構造にできる。
【0008】
また本発明では、前記NiS層の下側に少なくともNi層が存在する構造にできる。
また本発明では、前記NiS層は前記膜表面から下方に10nm以内の間に存在することが好適である。膜表面付近にて自然酸化を抑制でき、膜特性の経時変化を小さくすることが可能である。
【0009】
または本発明は、Niを有するメッキ膜であって、
下側メッキ膜と、前記下側メッキ膜上に上側メッキ膜が積層されており、
前記下側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成され、前記上側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成されたものであり、
前記上側メッキ膜の表面粗さが40Å以下であることを特徴とするNiを有するメッキ膜。
【0010】
第2の発明のメッキ膜によれば、表面粗さを小さくでき、さらに耐食性も良好である。また膜表面の光沢性も比較的良好にできる。
【0011】
また本発明では、前記上側メッキ膜中であって、膜表面よりも下方の位置にNiS層が存在する構成にできる。これによって、自然酸化を効果的に抑制することができる。
【0012】
あるいは本発明は、Niを有するメッキ膜であって、
下側メッキ膜と、前記下側メッキ膜上に上側メッキ膜が積層されており、
前記下側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成され、前記上側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成されたものであり、
前記上側メッキ膜中であって、膜表面よりも下方の位置にNiS層が存在することを特徴とするものである。
【0013】
本発明によれば、自然酸化抑制機能を備えたNiを有するメッキ膜にできる。また、表面粗さを小さくでき、さらに耐食性も良好である。また膜表面の光沢性も比較的良好にできる。
【0014】
本発明では、前記膜表面に少なくともNiO2層が存在し、前記NiO2層と前記NiS層との間に少なくともNiSO層が存在する構造にできる。
【0015】
また本発明では、前記NiS層の下側に少なくともNi層が存在する構造にできる。
または本発明は、Niを有するメッキ膜であって、
下側メッキ膜と、前記下側メッキ膜の上側に上側メッキ膜が積層されており、
前記下側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成され、前記上側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成されたものであり、
前記下側メッキ膜と上側メッキ膜との間にNiS層を前記上側メッキ膜へ移動させないための中間膜が設けられることを特徴とするものである。
【0016】
第3の発明によれば、前記上側メッキ膜の膜特性を劣化させることなく、Niを有するメッキ膜の積層構造を得ることが可能である。
【0017】
本発明では、前記NiS層、前記NiO2層、及び前記NiSO層の存在は、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)にて分析することができる。さらに、オージェ電子分光分析法(AES)も用いて分析することが好適である。
【0018】
また本発明では、前記下側メッキ膜及び上側メッキ膜はNiFe合金にて形成されることが好ましい。
【0019】
本発明は、Niを有するメッキ膜の製造方法であって、
下側メッキ膜と、前記下側メッキ膜上に上側メッキ膜を積層してメッキ形成し、
このとき、前記下側メッキ膜を、Niイオンを含むメッキ浴中に、サッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成し、前記上側メッキ膜を、Niイオンを含むメッキ浴中にサッカリンナトリウム二水和物を0.05g/l〜2.0g/lの範囲内で加えてメッキ形成して、前記上側メッキ膜中であって、膜表面よりも下方の位置にNiS層を形成することを特徴とするものである。
【0020】
上記のようにサッカリンナトリウムのメッキ浴中での含有量を調整することで、前記上側メッキ膜中にNiS層を形成することができる。また前記上側メッキ膜中に取り込まれるS等の不純物量を小さくでき、膜特性の劣化を抑制しつつ、自然酸化抑制機能を備えたNiを有するメッキ膜を簡単且つ適切に製造できる。
【0021】
本発明では、前記上側メッキ膜を、前記NiS層が前記上側メッキ膜の中で最下層となる薄い膜厚にてメッキ形成することが好適である。
【0022】
また本発明は、Niを有するメッキ膜の製造方法であって、
下側メッキ膜と、前記下側メッキ膜上に上側メッキ膜を積層してメッキ形成し、
このとき、前記下側メッキ膜を、Niイオンを含むメッキ浴中にサッカリンナトリウム二水和物を0.05g/l〜2.0g/lの範囲内で加えてメッキ形成し、前記上側メッキ膜を、Niイオンを含むメッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成することを特徴とするものである。
【0023】
上記のようにサッカリンナトリウムのメッキ浴中での含有量を調整することで、表面粗さが小さく、さらに耐食性にも優れたNiを有するメッキ膜を簡単且つ適切に製造できる。また膜表面の光沢性も比較的良好にできる。また、前記下側メッキ膜中に取り込まれるS等の不純物量を小さくでき、膜特性の劣化を抑制できる。
【0024】
本発明では、前記上側メッキ膜を、前記下側メッキ膜中に形成されたNiS層が前記上側メッキ膜のメッキ成長に伴って前記上側メッキ膜内部に消滅可能な膜厚にてメッキ形成してもよい。
【0025】
あるいは本発明では、前記上側メッキ膜を、前記下側メッキ膜中に形成されたNiS層が、前記上側メッキ膜のメッキ成長に伴って前記上側メッキ膜内部に移動するとともに前記上側メッキ膜の最表面に到達し得ない膜厚にてメッキ形成してもよい。
【0026】
または本発明は、Niを有するメッキ膜の製造方法であって、
下側メッキ膜と、前記下側メッキ膜の上側に上側メッキ膜を積層してメッキ形成し、
このとき、前記下側メッキ膜を、Niイオンを含むメッキ浴中にサッカリンナトリウム二水和物を0.05g/l〜2.0g/lの範囲内で加えてメッキ形成し、前記下側メッキ膜の上に、前記下側メッキ膜にて形成されたNiS層を上側メッキ膜へ移動させないための中間膜を形成し、さらに前記中間膜上に、前記上側メッキ膜を、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成することを特徴とするものである。
【0027】
これにより、前記上側メッキ膜の膜特性を劣化させることなく、積層構造よりなるNiを有するメッキ膜を簡単且つ適切に製造できる。また、前記下側メッキ膜中に取り込まれるS等の不純物量を小さくでき、膜特性の劣化を抑制できる。
【0028】
また本発明では、メッキ浴中に添加するサッカリンナトリウム二水和物の添加量を0.1g/l〜1.0g/lの範囲内とすることがより好ましい。
【0029】
また本発明では、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)による分析結果に基づいて、上側メッキ膜あるいは中間膜の膜厚、又は、サッカリンナトリウムの添加量を調整することが好ましい。
【0030】
また本発明では、オージェ電子分光分析法(AES)による分析結果に基づいて、上側メッキ膜あるいは中間膜の膜厚、又は、サッカリンナトリウムの添加量を調整することが可能である。
【0031】
また本発明では、前記下側メッキ膜及び上側メッキ膜をNiFe合金にてメッキ形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0032】
メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成した下側メッキ膜上に、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成した上側メッキ膜を積層した第1の発明では、膜特性を劣化させることなく、自然酸化抑制機能を備えたNiを有するメッキ膜にできる。
【0033】
あるいは、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成した下側メッキ膜上に、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成した上側メッキ膜を積層した第2の発明では、表面粗さを小さくでき、さらに耐食性も良好なNiを有するメッキ膜にできる。また膜表面の光沢性も比較的良好にできる。
【0034】
または、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成した下側メッキ膜上にNiS層を消滅させるための中間膜を形成し、さらに前記中間膜上にメッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなく上側メッキ膜をメッキ形成した第3の発明では、前記上側メッキ膜の膜特性を劣化させることなく、Niを有するメッキ膜の積層構造を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
図1は第1の実施形態のNiを有するメッキ膜の模式図である。図示X方向は幅方向を示し図示Z方向は高さ方向(膜厚方向)を示している。
【0036】
第1の実施形態のNiを有するメッキ膜Aは、例えばNiFeで形成された下側メッキ膜1と同じくNiFeで形成された上側メッキ膜2との積層構造で形成される。組成比の一例を示すと、Fe組成比を68質量%、Ni組成比を32質量%とする。
【0037】
前記下側メッキ膜1は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成され、前記上側メッキ膜2は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成されている。
【0038】
図1に示す一点鎖線3は、前記下側メッキ膜1と上側メッキ膜2との界面を示しているが、界面は現れても現れていなくてもどちらでもよい。例えば、下側メッキ膜1と上側メッキ膜2を同じ組成でメッキ形成すれば界面は現れないが、例えば、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)によるデプスプロファイルにて大体の界面位置を判別することは可能である。
【0039】
図1に示すように、前記上側メッキ膜2中には、膜表面2aから下方向(図示Z2方向)に離れた位置にNiS層4が存在している。ここで「NiS層」は、他領域に比べてNiS成分が大きい領域であるが、具体的には、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)によるデプスプロファイルによるNiS/Niの強度比が0.1以上となる領域として定義される。
【0040】
すなわちNiS成分は符号4の膜厚領域だけでなく他の膜厚領域でも存在するが、符号4で示す膜厚領域に特に多く存在しているのである。
【0041】
また図1に示すように、前記膜表面2aに少なくともNiO2層5が存在し、さらに前記NiO2層5と前記NiS層4との間に少なくともNiSO層6が存在している。ここで「NiO2層」及び「NiSO層」は、例えば、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)によるデプスプロファイルによるNiO2/Niの強度比が0.7以上、NiSO/Niの強度比が0.1以上となる領域として定義される。前記NiO2層5やNiSO層6は前記NiS層2と同位置にまで存在していてもかまわない。すなわち例えば、符号4の領域にはNiS成分が他領域に比べて多く存在するのみならずNiSO成分も符号6の領域と合わせて他領域に比べて多く存在してもよい。
【0042】
さらにNiS層4の下には少なくともNi層7が存在している。なお実際には、Ni層3は、下側メッキ膜1から上側メッキ膜2の全体にわって存在している。
【0043】
このようにNiはメッキ膜A中に様々な状態で存在している。メッキ膜A中に微量に取り込まれるSと、さらにはOも含めて、Niがどのような状態でメッキ膜A中に存在するかは、上記したように飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)によるデプスプロファイルにて分析できる。飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)では、様々な質量(mass)のフラグメントイオンや分子イオンの2次イオンが放出されるが、NiS成分、NiSO成分、NiO2成分、Ni元素成分の存在を予測し、各質量を装置に入力することで、NiS成分、NiSO成分、NiO2成分、Ni元素成分の各デプスプロファイルを得ることが出来る。さらに、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)とともに、オージェ電子分光分析法(AES)を用いて分析すると、膜表面付近でのNiS層4やNiSO層6の存在のより正確な分析が行えるし、特に、定量的な分析が行える。
【0044】
前記NiS層4は自然酸化を抑制する機能を備える。前記NiS層4は、前記膜表面2aから下方(図示Z1方向)に10nm以内(図1に示すh1が10nm以内)に存在することが好ましい。これにより、前記メッキ膜Aの膜表面2a付近で自然酸化を食い止めることができ、膜特性の劣化を抑制できる。前記NiS層4上にある前記NiO2層5及びNiSO層6の酸素は、主にメッキ膜の成膜中に膜内に取り込まれたものである。またメッキ膜の成膜中に取り込まれた酸素は、NiS層4の下方領域にも存在するが、後述する実験で示す経時変化を見ると、自然酸化による酸素の進入は、前記NiS層4でほぼ食い止められており、自然酸化が前記NiS層4により抑制されていることがわかっている。
【0045】
前記NiS層4、NiO2層5、NiSO層6の膜厚は夫々、約1nm〜3nm程度である。また、前記メッキ膜A全体の膜厚は0.6〜5.6μm程度、下側メッキ膜1の膜厚は0.3〜2.8μm程度、上側メッキ膜2の膜厚は0.3〜2.8μm程度である。
【0046】
この第1の実施形態では、前記NiS層4を備える上側メッキ膜2を、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成しS等の不純物成分が少ない下側メッキ膜1に対する保護膜として用いることができる。このように下側メッキ膜1に取り込まれる不純物成分を少なくできるので、前記下側メッキ膜1の膜特性、例えば飽和磁束密度Bsを高くできる。一方、下側メッキ膜1に比べて不純物成分を含みやすい前記上側メッキ膜2をあまり厚くすると、メッキ膜Aのトータルとしての膜特性が、下側メッキ膜1のみの膜特性に比べて大きく劣化する恐れがあるので、前記上側メッキ膜2の厚さをNiS層4の形成を阻害しない程度に薄く形成する。例えば、少なくとも前記上側メッキ膜2の厚さを、前記下側メッキ膜1の厚さよりも薄く形成する。またNiS層4が存在するぎりぎりの膜厚(換言すれば、NiS層4が前記上側めっき膜2中での最下層となる膜厚)で前記上側メッキ膜2を形成すれば、前記上側メッキ膜2をより効果的に薄く形成できる。
【0047】
以上により、前記下側メッキ膜Aの膜特性の劣化を抑制しつつ、自然酸化の抑制効果が高いメッキ膜Aにすることが可能である。
【0048】
図2は第2の実施形態のNiを有するメッキ膜の模式図である。図示X方向は幅方向を示し図示Z方向は高さ方向(膜厚方向)を示している。
【0049】
第2の実施形態のNiを有するメッキ膜Bは、例えばNiFeで形成された下側メッキ膜10と同じくNiFeで形成された上側メッキ膜11との積層構造で形成される。
【0050】
前記下側メッキ膜10は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成され、前記上側メッキ膜11は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成されている。すなわち第2の実施形態のメッキ膜Bは、図1に示す第1の実施形態のメッキ膜Aの逆積層構造である。
【0051】
図2に示す一点鎖線12は、前記下側メッキ膜10と上側メッキ膜11との界面を示しているが、界面は現れても現れていなくてもどちらでもよい。図1で説明した通りである。
【0052】
また図2に示すように、前記上側メッキ膜11中には、膜表面11aから下方向(図示Z2方向)に離れた位置にNiS層15が存在している。さらに図2に示すように、前記膜表面11aに少なくともNiO2層16が存在し、さらに前記NiO2層16と前記NiS層15との間に少なくともNiSO層17が存在している。さらにNiS層15の下には少なくともNi層18が存在している。NiS層15、NiO2層16、NiSO層17及びNi層18は、図1で説明した通りの状態にて存在している。
【0053】
この第2の実施形態での上側メッキ膜11は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えないでメッキしたものである。にもかかわらず、前記上側メッキ膜11中にNiS層15が存在する。これは、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成してなる下側メッキ膜10の表面付近に形成されたNiS層が、前記上側メッキ膜11のメッキ成長過程で、上側メッキ膜11内に移動したものであると推測される。後述する実験にも、前記上側メッキ膜11内にNiS層15が存在することが確認されている。
【0054】
図2に示す第2の実施形態では、図1に示す第1の実施形態と同様に、自然酸化の抑制効果が高いメッキ膜Bにすることが可能である。しかも前記メッキ膜Bの表面粗さRaを40Å以下に抑えることが可能であり、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを添加せずにメッキ形成した上側メッキ膜11の単層膜に比べて平滑性に優れる。さらに、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを添加せずにメッキ形成した上側メッキ膜11の単層膜及び、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを添加してメッキ形成した下側メッキ膜10の単層膜に比べて耐食性に優れ、また比較的良好な光沢面を備える。
【0055】
図2に示す上側メッキ膜11の膜厚は、0.3〜1.4μm程度、前記下側メッキ膜10の膜厚は、0.3〜2.8μm程度である。
【0056】
一方、前記上側メッキ膜11の膜厚が厚くなるにつれて、徐々にNiS層15の領域が小さくなっていき、そのうちNiSが膜全体に薄く広がって、NiS層15は存在しなくなる(図3参照)。かかる場合でも、膜表面11aの表面粗さRaを40Å以下に抑えることが可能であり、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを添加せずにメッキ形成した上側メッキ膜11の単層膜に比べて平滑性に優れる。さらに、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを添加せずにメッキ形成した上側メッキ膜11の単層膜及び、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを添加してメッキ形成した下側メッキ膜10の単層膜に比べて耐食性に優れ、また比較的良好な光沢面を備える。図3に示すように前記上側メッキ膜11の膜厚を厚くしてNiS層15を消滅させることで、前記上側メッキ膜11が本来持つ膜特性の劣化を極力抑制できる。前記上側メッキ膜11はメッキ浴中にサッカリンナトリウムを含まずにメッキ形成したもので、例えば、本来、高い飽和磁束密度Bsを備えるが、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成した下側メッキ膜10の上に前記上側メッキ膜11を重ねてメッキ形成しても、前記上側メッキ膜11の膜特性の劣化を抑制することができる。
【0057】
図4は第3の実施形態のNiを有するメッキ膜の模式図である。図示X方向は幅方向を示し図示Z方向は高さ方向(膜厚方向)を示している。
【0058】
第3の実施形態のNiを有するメッキ膜Cは、例えばNiFeで形成された下側メッキ膜20と同じくNiFeで形成された上側メッキ膜11との間に中間膜21を介在させた積層構造である。
【0059】
前記下側メッキ膜20は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成され、前記上側メッキ膜22は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成されている。
【0060】
図3に示す一点鎖線23,24は、前記下側メッキ膜20と中間膜21との界面、及び前記中間膜21と上側メッキ膜22との界面を示しているが、界面は現れても現れていなくてもどちらでもよい。図1で説明した通りである。前記中間膜21は、前記下側メッキ膜20に形成されたNiS層を前記上側メッキ膜22へ移動しないようにするために設けられたものである。
【0061】
また、この第3の実施形態では、図1や図2に示す実施形態と異なってメッキ膜C中にNiS層が存在しない。
【0062】
図3で説明したように、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成した下側メッキ膜10上に、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えないでメッキ形成した上側メッキ膜11の膜厚を厚くしていくと、NiS層が消滅してしまうことから、図4では、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成した下側メッキ膜20とメッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えないでメッキ形成した上側メッキ膜22との間に、ある一定以上の膜厚で形成されたNiS層を上側メッキ膜22へ移動させないための中間膜21を設けることで、上側メッキ膜22を例えば図2に示す上側メッキ膜11と同様の膜厚で形成してもNiS層の上側メッキ膜22への移動を阻止し、しかもこの実施形態では前記NiS層が存在しない構成としている。
【0063】
なお前記中間膜21をメッキ形成するとき、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを添加しない。
【0064】
第3の実施形態では前記中間膜21の材質は問わない。例えばNiを含まない材質で前記中間膜21を形成してもよい。前記中間膜21は、Ni、Co、Feの磁性元素以外の元素のみで構成されてもよい。
【0065】
前記中間膜21を、前記下側メッキ膜20及び上側メッキ膜22と同様の材料、例えばNiFeで形成してもよいが、組成比まで同じであると図3の形態と変わらなくなるので、少なくとも前記中間膜21を、前記下側メッキ膜20及び上側メッキ膜22の組成比とは異なる組成比で形成したい場合に、図4の積層構造を利用できる。前記中間膜21と前記上側メッキ膜22のトータル厚を図3に示す上側メッキ膜11と同様の膜厚に調整することでNiS層を消滅させることが可能である。
【0066】
図4に示すように、下側メッキ膜20と上側メッキ膜22との間に中間膜21を介在させた形態では、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを添加せずにメッキ形成した上側メッキ膜22の膜特性を劣化させることなく、下側メッキ膜20及び上側メッキ膜22を備えた積層構造を実現することができる。
【0067】
なお前記NiS層が、上側メッキ膜22に存在しなければ、下側メッキ膜20あるいは中間膜21に存在する形態であってもよい。
【0068】
第1の実施形態のメッキ膜Aの製造方法について説明する。前記メッキ膜Aを例えば、電解メッキ法を用いてメッキ形成する。前記電解メッキ法にてNiFe合金をメッキ形成するには、メッキ浴中に、FeイオンとNiイオンを含有させる。
【0069】
前記下側メッキ膜1をメッキするとき、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを添加しない。メッキ浴中には、例えば、FeSO4・7H2O、NiSO4・6H2O、H3BO3、NaCl、C12H25NaO4Sを添加する。
【0070】
電解メッキ法では、パルス電流あるいは直流電流を用いてメッキ膜をメッキする。電流密度は例えば、6.4mA/cm2(平均)程度とする。
【0071】
前記下側メッキ膜1をメッキ形成した後、続いて、前記下側メッキ膜1上に上側メッキ膜2をメッキ形成する。前記上側メッキ膜2をメッキ成膜する際のメッキ浴にはサッカリンナトリウム二水和物を添加する。前記サッカリンナトリウム二水和物を、前記メッキ浴中に、0.05g/l〜2.0g/lの範囲で添加する。より好ましくは前記サッカリンナトリウム二水和物の添加量を0.1g/l〜1.0g/lの範囲に設定する。前記サッカリンナトリウムの添加量をこのように少なくしても前記上側メッキ膜2中にNiS層4を形成できる。また前記サッカリンナトリウムの添加量を少なくすることで、前記上側メッキ膜2中に取り込まれるS等の不純物を少なくできる。サッカリンナトリウムは、C7H4NO3S・Na・2H2Oとして前記メッキ浴中に添加される。
【0072】
前記上側メッキ膜2に対するメッキ浴中への添加剤は、サッカリンナトリウム以外、下側メッキ膜1に対するメッキ浴への添加剤と同じである。また例えば、前記上側メッキ膜2をメッキ成膜する際の電流密度も、前記下側メッキ膜1をメッキ成膜する際の電流密度と同じに設定する。
【0073】
前記上側メッキ膜2をメッキ成膜すると、図1に示すように、前記上側メッキ膜2中には膜表面2aよりも下方(図示Z2方向)の位置にNiS層4が形成される。また、前記膜表面2aとNiS層4との間には、メッキ膜の成膜中に酸素が取り込まれて、NiO2層5やNiSO層6が形成されている。
【0074】
前記上側メッキ膜2中にNiS層4を形成して、前記上側メッキ膜2を前記下側メッキ膜1に対する保護膜として用いるとき、前記上側メッキ膜2の膜厚が厚すぎるとメッキ膜Aとしての膜特性が劣化し、また前記上側メッキ膜2の膜厚が薄すぎても前記上側メッキ膜2中にNiS層4を適切に形成できないので、前記上側メッキ膜2を、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)による分析結果に基づいて、前記上側メッキ膜2中にNiS層4が存在可能な膜厚にてメッキ形成することが好適である。このとき、前記NiS層4が前記上側メッキ膜2内での最下層となるように、前記上側メッキ膜2を薄い膜厚で形成することが好適である。
【0075】
次に、第2の実施形態のメッキ膜Bの製造方法について説明する。前記メッキ膜Bを例えば、電解メッキ法を用いてメッキ形成する。前記電解メッキ工程に用いるメッキ浴に、NiFe合金をメッキ形成するには、FeイオンとNiイオンを含有させる。
【0076】
前記下側メッキ膜10をメッキするとき、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを添加する。前記サッカリンナトリウム二水和物を、前記メッキ浴中に、0.05g/l〜2.0g/lの範囲で添加する。より好ましくは前記サッカリンナトリウム二水和物の添加量を0.1g/l〜1.0g/lの範囲に設定する。メッキ浴中には、例えば、FeSO4・7H2O、NiSO4・6H2O、C7H4NO3S・Na・2H2O、H3BO3、NaCl、C12H25NaO4Sを添加する。
【0077】
電解メッキ法では、パルス電流あるいは直流電流を用いてメッキ膜をメッキする。電流密度は例えば、6.4mA/cm2(平均)程度とする。
【0078】
前記下側メッキ膜10をメッキ形成した後、続いて、前記下側メッキ膜10上に上側メッキ膜11をメッキ形成する。前記上側メッキ膜11をメッキ成膜する際のメッキ浴にはサッカリンナトリウムを添加しない。前記上側メッキ膜11に対するメッキ浴中への添加剤は、サッカリンナトリウム以外、下側メッキ膜10に対するメッキ浴への添加剤と同じである。また例えば、前記上側メッキ膜11をメッキ成膜する際の電流密度も、前記下側メッキ膜10をメッキ成膜する際の電流密度と同じに設定する。
【0079】
図2に示すように、前記上側メッキ膜11を、前記下側メッキ膜10中に形成されたNiS層が、前記上側メッキ膜のメッキ成長に伴って前記上側メッキ膜内部に移動可能な膜厚にてメッキ形成するか、あるいは、図3に示すように、前記下側メッキ膜10中に形成されたNiS層が前記上側メッキ膜のメッキ成長に伴って消滅可能な膜厚にてメッキ形成する。
【0080】
前記上側メッキ膜11の膜厚を、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)による分析結果に基づいて調整することが好適である。
【0081】
この第2の実施形態では、上記のように下側メッキ膜10に対するメッキ浴に添加されるサッカリンナトリウムの含有量を調整することで、表面粗さが小さく、さらに耐食性にも優れたNiを有するメッキ膜Bを簡単且つ適切に製造できる。また膜表面の光沢性も比較的良好にできる。また、前記サッカリンナトリウムの含有量を上記範囲内にてできる限り小さくしたほうが、前記下側メッキ膜10中に取り込まれるS等の不純物量を小さくでき、膜特性の劣化を抑制できる。
【0082】
次に、第3の実施形態のメッキ膜Cの製造方法について説明する。前記メッキ膜Cを例えば、電解メッキ法を用いてメッキ形成する。前記電解メッキ工程に用いるメッキ浴に、NiFe合金をメッキ形成するには、FeイオンとNiイオンを含有させる。
【0083】
前記下側メッキ膜20をメッキするとき、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを添加する。前記サッカリンナトリウム二水和物を、前記メッキ浴中に、0.05g/l〜2.0g/lの範囲で添加する。より好ましくは前記サッカリンナトリウム二水和物の添加量を0.1g/l〜1.0g/lの範囲に設定する。メッキ浴中には、例えば、FeSO4・7H2O、NiSO4・6H2O、C7H4NO3S・Na・2H2O、H3BO3、NaCl、C12H25NaO4Sを添加する。
【0084】
電解メッキ法では、パルス電流あるいは直流電流を用いてメッキ膜をメッキする。電流密度は例えば、6.4mA/cm2(平均)程度とする。
【0085】
前記下側メッキ膜20をメッキ形成した後、続いて、前記下側メッキ膜20上に中間膜21をメッキ形成する。前記中間膜21をメッキ形成する際、メッキ浴中には、サッカリンナトリウムを添加しない。例えば、前記中間膜21を、前記下側メッキ膜20と異なる材質でメッキ形成する。前記中間膜21は、前記下側メッキ膜20中に形成されたNiS層を消滅させるためのもので、例えば、前記中間膜21の膜厚を、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)による分析結果に基づいて調整することが好適である。
【0086】
続いて、前記中間膜21上に上側メッキ膜22をメッキ形成する。前記上側メッキ膜22をメッキ成膜する際のメッキ浴にはサッカリンナトリウムを添加しない。例えば、前記上側メッキ膜22に対するメッキ浴中への添加剤は、サッカリンナトリウム以外、下側メッキ膜20に対するメッキ浴への添加剤と同じである。また例えば、前記上側メッキ膜22をメッキ成膜する際の電流密度も、前記下側メッキ膜20をメッキ成膜する際の電流密度と同じに設定する。
【0087】
この第3の実施形態では、前記メッキ膜C中にNiS層が存在しない。よって、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを添加せずにメッキ形成した上側メッキ膜22の膜特性を劣化させることなく、下側メッキ膜20と上側メッキ膜22とを備える積層構造を得ることが可能である。
【0088】
上記したサッカリンナトリウムの添加量は、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)の分析結果によるものである。
【0089】
また、オージェ電子分光分析法(AES)による分析結果に基づいて、あるいは、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)による分析結果、及び、オージェ電子分光分析法(AES)による分析結果から総合的に判断して、上側メッキ膜あるいは中間膜の膜厚、又は、サッカリンナトリウムの添加量を調整することも可能である。
【0090】
前記メッキ膜に対する分析方法(管理方法)について説明する。
例えば図1に示す第1の実施形態のメッキ膜Aをメッキ形成した後、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)を用いて分析を行う。飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)には、例えばION TOF社製のTOF−SIMS Vを用いる。
【0091】
例えば、励起IONビームには、Bi+(1pA,25keV)を、スパッタイオンには、Cs+(500eV)を用いて負の電荷を帯びた二次イオンを検出する。
【0092】
例えば図5(a)に示すような各成分のデプスプロファイルが得られる。なお図5は後述するように、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを添加してメッキ形成したNiFe単層メッキ膜に対するデプスプロファイルである。この時点では、まだ多数得られたデプスプロファイルの夫々が何の成分のデータなのか特定されていない。よって、メッキ浴中に含まれる添加物との化学反応等を考慮して、NiFeメッキ膜中に含まれると予測される成分の質量(mass)を装置に入力して、図5(a)に示す各デプスプロファイルの成分を特定する。
【0093】
図5(a)に示すように、デプスプロファイルによるNiS成分やNiSO成分の強度は膜内部に比べて膜表面側で大きくなっており、NiS成分やNiSO成分は膜表面側に偏って存在していることがわかる。
【0094】
なお上記したように飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)でのスパッタイオンには、Cs+を用いることが好適である。後述する実験結果に示すように、例えばスパッタイオンにAr+を用いると、NiS成分が分解してしまい、NiS成分を検出できないことがわかっている。
【0095】
飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)では、定量的な分析ができない。このため、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)による分析だけではどの程度のNiS成分やNiSO成分が膜表面付近に存在するのか不明である。さらにNiS成分やNiSO成分が膜表面付近に多く存在することをより確かなものにするためにも、さらに、オージェ電子分光分析法(AES)を用いて分析を行う。オージェ電子分光分析装置には、例えば、日本電子製のJAMP−7830Fを用いることができる。
【0096】
測定条件としては、例えば、5keV、10nAの電子ビームを用い、スパッタイオンにはAr+(500eV)を用いる。
【0097】
オージェ電子分光分析法(AES)では、例えば、図14に示すデプスプロファイルが得られる。なお図14は後述するように、メッキ浴中に添加するサッカリンナトリウムの添加量を変化させながらメッキ形成したNiFe単層メッキ膜に対するNi(cal.)のデプスプロファイルである。メッキ膜中に存在するNiは、元素状態、NiO成分,NiS成分、NiSO成分の状態で存在する。図15には、Ni(orig.)のデプスプロファイルが示されているが、このデプスプロファイルは、元素状態、NiO成分,NiS成分、NiSO成分を総合したものである。このうち、NiS成分、及びNiSO成分は、オージェ電子分光分析法(AES)では、これらの成分を個々に分離することが困難である。一方、NiO成分は分離可能なので、図15に示すようにNi(orig.)のデプスプロファイルからNiO(cal.)のデプスプロファイルを分離したNi(cal.)のデプスプロファイルを求める。このNi(cal.)のデプスプロファイルは、元素状態、NiS成分、NiSO成分を総合したものである。
【0098】
一方、図14に示すように、サッカリンナトリウムをメッキ浴中に添加せずにメッキ形成したNiFe合金に対するNi(cal.)のデプスプロファイルも求めておき、サッカリンナトリウムをメッキ浴中に添加してメッキ形成したNiFe合金に対するNi(cal.)のデプスプロファイルから、サッカリンナトリウムをメッキ浴中に添加せずにメッキ形成したNiFe合金に対するNi(cal.)のデプスプロファイルを引くと、ほぼ元素状態のNiのデプスプロファイルが差し引かれ、図16に示すNi差分のデプスプロファイルが得られる。図16に示すように、特に0.1g/l〜2.0g/lのサッカリンナトリウム二水和物を添加したものでは膜表面付近でNi(cal.)の差分値が得られる。よって、このようなNi(cal.)の差分値が膜表面付近に得られるのは、NiSO成分やNiS成分が膜表面付近に存在するためであり、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)の実験結果とも合致することを確認できる。
【0099】
オージェ電子分光分析法(AES)では、図16に示すように、サッカリンナトリウムの添加量に伴うNi差分量、及びNi差分が存在する深さ位置がわかるので、このデータに基づき、又は、オージェ電子分光分析法(AES)と飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)の総合したデータに基づいて、メッキ浴中へのサッカリンナトリウムの添加量の管理や、メッキ厚調整の管理等を適切に行うことが可能になる。
【0100】
本実施形態における各メッキ膜A,B,Cの用途は特に、限定されない。電子部品等の金属膜部分に本実施形態のメッキ膜の使用が可能である。前記金属膜は磁性、非磁性を問わない。また例えば電気接点の部分に本実施形態のメッキ膜を使用すると、前記電気接点の自然酸化を効果的に抑制でき、あるいは耐食性、平滑性に優れた電気接点にできる。また、例えば、弾性部材の少なくとも一部に本願のメッキ膜の使用も可能である。NiPの非晶質構造は弾性機能を発揮するため、本実施形態を使用すれば、自然酸化抑制機能があり、あるいは耐食性、平滑性に優れた弾性部材を形成することが可能になる。
【実施例】
【0101】
[飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)によるデプスプロファイル;NiFe単層メッキ膜]
【0102】
以下のメッキ浴を用いて、NiFe合金単層膜をメッキ形成した。
(メッキ浴組成)
FeSO4・7H2O 25(g/l)
NiSO4・6H2O 190(g/l)
H3BO3 25(g/l)
C7H4NO3S・Na・2H2O 2(g/l)
NaCl 25g/l
C12H25NaO4S 0.02g/l
(浴条件)
浴温度 30℃
pH 2.7
電流密度(平均) 6.4mA/cm2
【0103】
上記のように、サッカリンナトリウム二水和物を添加したメッキ浴を用いてNiFe単層メッキ膜をメッキ形成した後、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)を用いて分析を行った。飛行時間型二次イオン質量分析装置には、ION TOF社製のTOF−SIMS Vを用いた。
【0104】
励起IONビームには、Bi+(1pA,25keV)を、スパッタイオンには、Cs+(500eV)を用いて負の電荷を帯びた二次イオンを検出した。
【0105】
図5(a)のデプスプロファイルは、メッキ成膜直後の測定結果、図5(b)のデプスプロファイルは、10ヶ月経過後の測定結果、図5(c)のデプスプロファイルは、16ヶ月経過後の測定結果を示す。
【0106】
図6(a)は、図5(a)のデプスプロファイルに基づいて、各成分の状態を示す三次元模式図であり、色の明るい部分に、その成分が多く存在することを示している。なお図6(b)は、図5(b)のデプスプロファイルに基づいて、各成分の状態を示す三次元模式図、図6(c)は、図5(c)のデプスプロファイルに基づいて、各成分の状態を示す三次元模式図である。
【0107】
図5(a)及び図6(a)に示すように、膜表面付近にNiS成分が多く存在することがわかった。NiS成分は膜表面から膜深さ方向に概ね3nmの範囲内に集中して存在することがわかった。また膜表面にはNiO2成分やNiSO成分が多く存在することがわかった。飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)によるデプスプロファイルの各成分の強度比が、夫々、NiS/Ni強度比:0.1以上、NiO2/Ni強度比:0.7以上、NiSO/Ni強度比:0.1以上である深さ領域を「層」と規定すると、メッキ浴にサッカリンナトリウム二水和物を添加してメッキ形成したNiFe単層メッキ膜では、膜表面から下方位置にNiS層が存在し、膜表面に少なくともNiO2層が存在し、前記NiS層とNiO2層との間に少なくともNiSO層が存在し、NiS層の下側にNi層が存在することがわかった。
【0108】
図5(b)、(c)及び図6(b)、(c)に示す経時変化を見てわかるように、ほとんど自然酸化が進行していないことがわかった。自然酸化の抑制効果は、膜表面付近に存在するNiS層によるものであると推測される。ちなみに図5(a)、図6(a)におけるメッキ成膜直後の測定結果におけるNiO成分、NiSO成分、FeO成分等の酸素はメッキ成膜中に取り込まれたものである。
【0109】
次に、以下のメッキ浴を用いて、NiFe単層メッキ膜をメッキ形成した。
(メッキ浴組成)
FeSO4・7H2O 25(g/l)
NiSO4・6H2O 190(g/l)
H3BO3 25(g/l)
NaCl 25g/l
C12H25NaO4S 0.02g/l
(浴条件)
浴温度 30℃
pH 2.7
電流密度(平均) 6.4mA/cm2
【0110】
上記のようにサッカリンナトリウムを添加しないメッキ浴にて、NiFe単層メッキ膜をメッキ形成した後、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)を用いて分析を行った。飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)には、ION TOF社製のTOF−SIMS Vを用いた。
【0111】
励起IONビームには、Bi+(1pA,25keV)を、スパッタイオンには、Cs+(500eV)を用いて負の電荷を帯びた二次イオンを検出した。
【0112】
図7(a)のデプスプロファイルは、メッキ成膜直後の測定結果、図7(b)のデプスプロファイルは、10ヶ月経過後の測定結果、図7(c)のデプスプロファイルは、16ヶ月経過後の測定結果を示す。
【0113】
図8(a)は、図7(a)のデプスプロファイルに基づいて、各成分の状態を示す三次元模式図、図8(b)は、図7(b)のデプスプロファイルに基づいて、各成分の状態を示す三次元模式図、図8(c)は、図7(c)のデプスプロファイルに基づいて、各成分の状態を示す三次元模式図である。
【0114】
サッカリンナトリウムを添加しないメッキ浴にてメッキ形成したNiFe単層メッキ膜では、図7(a)及び図8(a)に示すように、成膜直後から、酸素が膜全体に取り込まれた状態となっており、これは、メッキ膜の成膜中に取り込まれる酸素のみならず、成膜直後にすでに自然酸化が始まっており、酸素が膜内部にまで深く進行した結果であると推測される。また、図7(b)(c)、図8(b)(c)に示す経時変化では、酸素の膜内部への進行が更に進んでいることがわかった。
【0115】
[飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)によるデプスプロファイル;NiFe積層メッキ膜]
【0116】
次に、以下のメッキ浴を用いて、NiFe下側メッキ膜をメッキ形成した。
(メッキ浴組成)
FeSO4・7H2O 25(g/l)
NiSO4・6H2O 190(g/l)
C7H4NO3S・Na・2H2O 1(g/l)
H3BO3 25(g/l)
C7H4NO3S・Na・2H2O 2(g/l)
NaCl 25g/l
C12H25NaO4S 0.02g/l
(浴条件)
浴温度 30℃
pH 2.7
電流密度(平均) 6.4mA/cm2
【0117】
上記のようにサッカリンナトリウム二水和物を添加したメッキ浴にて、NiFe下側メッキ膜をメッキ形成した。
【0118】
次に、前記NiFe下側メッキ膜上に、以下のメッキ浴を用いて、NiFe上側メッキ膜をメッキ形成した。
【0119】
(メッキ浴組成)
FeSO4・7H2O 25(g/l)
NiSO4・6H2O 190(g/l)
H3BO3 25(g/l)
NaCl 25g/l
C12H25NaO4S 0.02g/l
(浴条件)
浴温度 30℃
pH 2.7
電流密度(平均) 6.4mA/cm2
【0120】
上記のようにサッカリンナトリウムを添加してないメッキ浴にて、NiFe上側メッキ膜をメッキ形成した。
【0121】
実験では、前記NiFe上側メッキ膜のメッキ時間を、10秒(実施例1)、30秒(実施例2)、60秒(実施例3)、120秒(実施例4)とし、膜厚の異なる上側メッキ膜を前記下側メッキ膜上に夫々メッキ形成した。10秒メッキ形成した上側NiFeメッキ膜の膜厚は概ね27.5nm、30秒メッキ形成した上側NiFeメッキ膜の膜厚は概ね72nm、60秒メッキ形成した上側NiFeメッキ膜の膜厚は概ね140nm、120秒メッキ形成した上側NiFeメッキ膜の膜厚は概ね280nmであった。
【0122】
図9(a)は、実施例1に対する上記した飛行時間型二次イオン質量分析装置を用いて測定したデプスプロファイルと各成分の状態を示す三次元模式図、図9(b)は、実施例2に対する上記した飛行時間型二次イオン質量分析装置を用いて測定したデプスプロファイルと各成分の状態を示す三次元模式図、図9(c)は、実施例3に対する上記した飛行時間型二次イオン質量分析装置を用いて測定したデプスプロファイル、図9(d)は、実施例4に対する上記した飛行時間型二次イオン質量分析装置を用いて測定したデプスプロファイルである。
【0123】
各実施例のNiのデプスプロファイルで、膜内部で強度が盛り上がってる箇所があるが、大体、このあたりが、NiFe下側メッキ膜とNiFe上側メッキ膜の界面である。
【0124】
図9(a)の実施例1、図9(b)の実施例2の実験結果に示すように、上側NiFeメッキ膜を薄くメッキ形成すると、NiFe下側メッキ膜中に形成されたNiS層が、NiFe上側メッキ膜をメッキ形成している成長過程で、前記NiFe上側メッキ膜内に前記NiS層が移動し、前記NiFe上側メッキ膜内にNiS層が存在することがわかった。
【0125】
一方、図9(s)の実施例3、図9(d)の実施例4の実験結果に示すように、上側NiFeメッキ膜を厚くメッキ形成すると、NiS成分の強度は、どの深さ領域においても低くなり、特に膜表面付近でのNiS成分の強度は図9(a)(b)に比べて小さくなることがわかった。すなわち、上側NiFeメッキ膜を厚くメッキ形成すると、メッキ浴にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成したNiFe下側メッキ膜中に形成されたNiS層が、サッカリンナトリウムを含まないメッキ浴にてNiFe上側メッキ膜をメッキ形成している成長過程で消滅してしまうことがわかった。
【0126】
[第2の実施形態のメッキ膜に対する面粗さ及びエッチングレートの実験]
上記の実験で用いたサッカリンナトリウム二水和物を含まないメッキ浴にて比較例1のNiFe単層メッキ膜を形成した。メッキ時間、膜厚、Fe組成比は、以下の表1に示してある。
【0127】
また、上記の実験で用いたサッカリンナトリウム二水和物を含むメッキ浴にて比較例2のNiFe単層メッキ膜を形成した。メッキ時間、膜厚、Fe組成比は、以下の表1に示してある。
【0128】
さらに上記の実験と同様に、サッカリンナトリウム二水和物を含むメッキ浴にてNiFe下側メッキ膜を10分間、メッキ形成した後、前記NiFe下側メッキ膜上に、サッカリンナトリウム二水和物を含まないメッキ浴にてNiFe上側メッキ膜をメッキ形成した(実施例1〜6)。各実施例におけるNiFe上側メッキ膜のメッキ時間(10秒〜10分)は以下の表1に示したとおりである。
【0129】
【表1】
【0130】
表1に示す各実施例の膜厚は、NiFe下側メッキ膜とNiFe上側メッキ膜とのトータル厚である。また、Fe組成比は、NiFe下側メッキ膜及びNiFe上側メッキ膜に占める平均値である。
【0131】
図10は、比較例1、比較例2及び実施例1〜6の各NiFeメッキ膜の膜表面の面粗さRaを示すグラフである。
【0132】
実施例1〜6のNiFeメッキ膜の面粗さRaは、サッカリンナトリウム二水和物を含めたメッキ浴にてNiFeメッキ膜をメッキした比較例1の面粗さRaと同等か、あるいはそれよりも高くなるものの、サッカリンナトリウム二水和物を含めないメッキ浴にてNiFeメッキ膜をメッキした比較例2の面粗さRaに比べて小さくでき、具体的には、40Å以下にできることがわかった。
【0133】
図11は、比較例1、比較例2及び実施例1〜6の各NiFeメッキ膜の膜表面のエッチングレートを示すグラフである。濃度5%の希硫酸のエッチング液に30分間浸してエッチングレートを測定した。
【0134】
図11に示すように、実施例1〜6に示す各NiFeメッキ膜のエッチングレートは、比較例1及び比較例2の各NiFeメッキ膜のエッチングレートに比べて小さくなり耐食性が優れることがわかった。これは、電気化学的に卑なNiFe下側メッキ膜の上に電気化学的に貴なNiFe上側メッキ膜を重ねたことで、NiFe上側メッキ膜がNiFe下側メッキ膜側から電子を吸い取り、電気化学的にNiFe上側メッキ膜がより安定した状態になったためであると推測される。
【0135】
[飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)によるデプスプロファイル;サッカリンナトリウム二水和物の添加量]
次に、以下のメッキ浴を用いて、NiFe単層メッキ膜をメッキ形成した。
【0136】
(メッキ浴組成)
FeSO4・7H2O 25(g/l)
NiSO4・6H2O 190(g/l)
C7H4NO3S・Na・2H2O 0.05g/l、0.1g/l、1.0g/l
NaCl 25g/l
C12H25NaO4S 0.02g/l
(浴条件)
浴温度 30℃
pH 2.7
電流密度(平均) 6.4mA/cm2
【0137】
上記のように、サッカリンナトリウム二水和物の添加量が0.05g/l、0.1g/l、1.0g/lと異なる各メッキ浴を用いて、NiFe単層メッキ膜をメッキ形成し、各NiFe単層メッキ膜の飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)によるデプスプロファイルを求めた。
【0138】
図12(a)は、サッカリンナトリウム二水和物の添加量を0.05g/lとしたメッキ浴にてメッキ形成したNiFe単層メッキ膜のデプスプロファイル及び、各成分の状態を示す三次元模式図、図12(b)は、サッカリンナトリウム二水和物の添加量を0.1g/lとしたメッキ浴にてメッキ形成したNiFe単層メッキ膜のデプスプロファイル及び、各成分の状態を示す三次元模式図、図12(c)は、サッカリンナトリウム二水和物の添加量を1.0g/lとしたメッキ浴にてメッキ形成したNiFe単層メッキ膜のデプスプロファイル及び、各成分の状態を示す三次元模式図、である。
【0139】
図12に示すように、メッキ浴中へのサッカリンナトリウム二水和物の添加量を0.05g/l以上にすることで、メッキ膜中にNiS層を形成できることがわかった。サッカリンナトリウム二水和物の添加量の上限値は、図5及び図6の実験で使用した2g/lとした。ただしサッカリンナトリウム二水和物の添加量は少ないほうが、メッキ膜中に取り込まれるS等の不純物を少なくでき膜特性にとっては有利である。また、図12(a)に示すように、メッキ浴中へのサッカリンナトリウム二水和物の添加量を0.05g/lとしたとき、膜表面付近でのNiS成分は、メッキ浴中へのサッカリンナトリウムナトリウム二水和物の添加量を0.1g/l以上としたときに比べて少なく、また、後述するオージェ電子分光分析法(AES)の分析結果も合わせて判断するとNiS成分は膜表面付近のみならずやや全体的に薄く広がって存在していると考えられるため、メッキ浴中へのサッカリンナトリウム二水和物のより好ましい添加量を、0.1g/l〜1.0g/lの範囲に設定した。
【0140】
[飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)で使用するスパッタイオン]
図13は、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)で使用するスパッタイオンをCs+(500eV)、Cs+(2keV)、Ar+(500eV)としたときの分析結果である。分析するメッキ膜には、図5(a)のNiFe単層メッキ膜を使用した。
【0141】
図13に示すように、スパッタイオンとしてAr+を使用すると、NiS成分を分析できなかった。これは、スパッタイオンとしてAr+を使用すると、NiとSとが分離してしまいNiS成分として分析できないためと考えられる。よってスパッタイオンとしてはCs+を用いることが好ましいとわかった。
【0142】
[オージェ電子分光分析法(AES)によるデプスプロファイル]
図14は、オージェ電子分光分析法(AES)でのNi(cal.)のデプスプロファイルである。オージェ電子分光分析装置には、日本電子製のJAMP−7830Fを用いた。
【0143】
測定条件としては、5keV、10nAの電子ビームを用い、スパッタイオンにはAr+(500eV)を用いた。
【0144】
測定試料には、図5(a)、図12(a)(b)(c)で用いたサッカリンナトリウム二水和物の添加量が0.05g/l、0.1g/l、1.0g/l、2.0g/lと夫々異なる各メッキ浴にてメッキ形成されたNiFeメッキ膜を用いた。
【0145】
図14に示す縦軸は、Feピーク強度の最大値を1としてNi(cal.)強度を規格化したものである。図14のNi(cal.)のデプスプロファイルは、図15に示すように、Ni(orig.)のデプスプロファイルからNiとNiOの成分を分離し再構築したものである。日本電子株式会社製のピーク分離ソフト(Spectra Investigator)を用いて解析を行った。
【0146】
図16は、サッカリンナトリウム二水和物を添加したメッキ浴にてメッキされたNiFeメッキ膜のNi(cal.)のデプスプロファイルから、サッカリンナトリウムナトリウム二水和物を添加していないメッキ浴にてメッキされたNiFeメッキ膜のNi(cal.)のデプスプロファイルを引いたNi差分のデプスプロファイルである。
【0147】
図16に示すように、0.1g/l〜2.0g/lのサッカリンナトリウム二水和物を添加したメッキ膜では、膜表面付近でNi差分のデプスプロファイルにおいてピークを形成することがわかった。オージェ電子分光分析法(AES)の分析結果で得られた膜表面付近でのNi差分量は、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)との分析結果から総合的に分析すれば、NiS成分やNiSO成分等のピーク分離計算では分離な困難な成分であると判断でき、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)との分析結果と合致することがわかった。一方、0.05g/lのサッカリンナトリウム二水和物を添加したメッキ膜では、膜表面付近にNi差分のピークを持たないことがわかり、NiS層、NiSO層が形成されていない、または、不完全な状態であると判断できる。このことから図12でも説明したように、サッカリンナトリウム二水和物の添加量は0.1g/l以上にすることが好ましい。
【0148】
飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)では、NiS成分やNiSO成分が膜表面付近に存在することは確認できるが、特に、異なる試料間での定量的な比較が困難である。
【0149】
一方、オージェ電子分光分析法(AES)のみでは、Niが膜表面付近でどのような状態(化合物なのか元素状態なのか)として存在するのか判別するのが困難であるが、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)と違って、各試料間での定量的な比較が可能である。
【0150】
飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)とオージェ電子分光分析法(AES)の分析結果を総合的に判断すると、図16のNi差分のデプスプロファイルにおけるNi差分量はNiS成分やNiSO成分の存在量を示し、深さは存在厚さとみなすことができる。よって、図16の分析結果を、メッキ形成の際の管理値とすることで、最適なサッカリンナトリウムの添加量の調整や、NiS層を適切に存在させるための最適なメッキ膜の膜厚調整等を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】第1の実施形態のNiを有するメッキ膜の模式図、
【図2】第2の実施形態のNiを有するメッキ膜の模式図、
【図3】図2とは別の実施形態を示すNiを有するメッキ膜の模式図、
【図4】第3の実施形態のNiを有するメッキ膜の模式図、
【図5】サッカリンナトリウム二水和物を添加したメッキ浴にてメッキ形成したNiFe単層メッキ膜の分析結果であり、(a)は、メッキ成膜直後のデプスプロファイル、(b)は、10ヶ月経過後のデプスプロファイル、(c)は、16ヶ月経過後のデプスプロファイル、
【図6】(a)は、図5(a)のデプスプロファイルに基づいて、各成分の状態を示す三次元模式図、(b)は、図5(b)のデプスプロファイルに基づいて、各成分の状態を示す三次元模式図、(c)は、図5(c)のデプスプロファイルに基づいて、各成分の状態を示す三次元模式図、
【図7】サッカリンナトリウム二水和物を添加していないメッキ浴にてメッキ形成したNiFe単層メッキ膜の分析結果であり、(a)は、メッキ成膜直後のデプスプロファイル、(b)は、10ヶ月経過後のデプスプロファイル、(c)は、16ヶ月経過後のデプスプロファイル、
【図8】(a)は、図7(a)のデプスプロファイルに基づいて、各成分の状態を示す三次元模式図、(b)は、図7(b)のデプスプロファイルに基づいて、各成分の状態を示す三次元模式図、(c)は、図7(c)のデプスプロファイルに基づいて、各成分の状態を示す三次元模式図、
【図9】サッカリンナトリウム二水和物を添加したメッキ浴にてメッキ形成したNiFe下側メッキ膜の上に、サッカリンナトリウム二水和物を添加していないメッキ浴にてNiFe上側メッキ膜を積層し、且つNiFe上側メッキ膜のメッキ時間を変えた各積層構造の実施例に対する分析結果であり、(a)は、実施例1に対する飛行時間型二次イオン質量分析装置を用いて測定したデプスプロファイルと各成分の状態を示す三次元模式図、(b)は、実施例2に対する飛行時間型二次イオン質量分析装置を用いて測定したデプスプロファイルと各成分の状態を示す三次元模式図、(c)は、実施例3に対する飛行時間型二次イオン質量分析装置を用いて測定したデプスプロファイル、(d)は、実施例4に対する飛行時間型二次イオン質量分析装置を用いて測定したデプスプロファイル、
【図10】サッカリンナトリウム二水和物を添加したメッキ浴にてメッキ形成したNiFe下側メッキ膜の上に、サッカリンナトリウム二水和物を添加していないメッキ浴にてNiFe上側メッキ膜を積層した各実施例と、サッカリンナトリウム二水和物を添加しないメッキ浴にてNiFe単層メッキ膜をメッキ形成した比較例1と、サッカリンナトリウム二水和物を添加したメッキ浴にてNiFe単層メッキ膜をメッキ形成した比較例2の表面粗さRaを示すグラフ、
【図11】サッカリンナトリウム二水和物を添加したメッキ浴にてメッキ形成したNiFe下側メッキ膜の上に、サッカリンナトリウム二水和物を添加していないメッキ浴にてNiFe上側メッキ膜を積層した各実施例と、サッカリンナトリウム二水和物を添加しないメッキ浴にてNiFe単層メッキ膜をメッキ形成した比較例1と、サッカリンナトリウム二水和物を添加したメッキ浴にてNiFe単層メッキ膜をメッキ形成した比較例2のエッチングレートを示すグラフ、
【図12】(a)は、サッカリンナトリウム二水和物の添加量を0.05g/lとしたメッキ浴にてメッキ形成したNiFe単層メッキ膜のデプスプロファイル及び、各成分の状態を示す三次元模式図、(b)は、サッカリンナトリウム二水和物の添加量を0.1g/lとしたメッキ浴にてメッキ形成したNiFe単層メッキ膜のデプスプロファイル及び、各成分の状態を示す三次元模式図、(c)は、サッカリンナトリウム二水和物の添加量を1.0g/lとしたメッキ浴にてメッキ形成したNiFe単層メッキ膜のデプスプロファイル及び、各成分の状態を示す三次元模式図、
【図13】飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)で使用するスパッタイオンをCs+(500eV)、Cs+(2keV)、Ar+(500eV)としたときの分析結果、
【図14】サッカリンナトリウム二水和物の添加量を変えた各メッキ浴にてメッキ形成された各NiFeメッキ膜に対するオージェ電子分光分析法(AES)によるNi(cal.)のデプスプロファイル、
【図15】オージェ電子分光分析法(AES)によるピーク分離前のデプスプロファイル、及びピーク分離後のFe(cal.)、Fe2O3(cal.)、Ni(orig.)、Ni(cal.)、NiO(cal.)、S、Oのデプスプロファイル、
【図16】添加量の異なるサッカリンナトリウム二水和物を備える各メッキ浴にてメッキされた各NiFeメッキ膜のNi(cal.)のデプスプロファイルから、サッカリンナトリウム二水和物ナトリウムを添加していないメッキ浴にてメッキされたNiFeメッキ膜のNi(cal.)のデプスプロファイルを引いたNi差分のデプスプロファイル、
【符号の説明】
【0152】
1、10、20 下側メッキ膜
2、11、22 上側メッキ膜
3、12、23、24 界面
4、15 NiS層
5、16 NiO2層
6、17 NiSO層
7、18 Ni層
21 中間膜
A、B、C Niを有するメッキ膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、膜特性を劣化させることなく、自然酸化抑制機能を備えたNiを有するメッキ膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばNiFe合金をメッキ形成するとき、従来では、メッキ浴中に光沢剤としてサッカリンナトリウムを添加していた。
【0003】
しかしながら、光沢性には優れるものの、耐食性が劣るなどの問題があった。またサッカリンナトリウムに含まれるSがメッキ膜中に取り込まれ、飽和磁束密度(Bs)等の膜特性が劣化しやすいといった問題もあった。
【特許文献1】特開2006−210744号公報
【特許文献2】特開2007−123473号公報
【特許文献3】特開2002−280217号公報
【特許文献4】特開2003−227520号公報
【特許文献5】特開平10−282026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、特に、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えなくメッキされた膜と、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキされた膜とを積層することで、例えば、膜特性を劣化させることなく、自然酸化抑制機能を備えたNiを有するメッキ膜及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、Niを有するメッキ膜であって、
下側メッキ膜と、前記下側メッキ膜上に上側メッキ膜が積層されており、
前記下側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成され、前記上側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成されたものであり、
前記上側メッキ膜中であって、膜表面よりも下方の位置にNiS層が存在することを特徴とするものである。
【0006】
前記NiS層は自然酸化を抑制する機能を果たす。また下側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成されたものであり、膜中に取り込まれるS等の不純物量を少なくできる。よって、第1の発明によれば、膜特性を劣化させることなく、自然酸化抑制機能を備えたNiを有するメッキ膜にできる。
【0007】
本発明では、前記膜表面に少なくともNiO2層が存在し、前記NiO2層と前記NiS層との間に少なくともNiSO層が存在する構造にできる。
【0008】
また本発明では、前記NiS層の下側に少なくともNi層が存在する構造にできる。
また本発明では、前記NiS層は前記膜表面から下方に10nm以内の間に存在することが好適である。膜表面付近にて自然酸化を抑制でき、膜特性の経時変化を小さくすることが可能である。
【0009】
または本発明は、Niを有するメッキ膜であって、
下側メッキ膜と、前記下側メッキ膜上に上側メッキ膜が積層されており、
前記下側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成され、前記上側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成されたものであり、
前記上側メッキ膜の表面粗さが40Å以下であることを特徴とするNiを有するメッキ膜。
【0010】
第2の発明のメッキ膜によれば、表面粗さを小さくでき、さらに耐食性も良好である。また膜表面の光沢性も比較的良好にできる。
【0011】
また本発明では、前記上側メッキ膜中であって、膜表面よりも下方の位置にNiS層が存在する構成にできる。これによって、自然酸化を効果的に抑制することができる。
【0012】
あるいは本発明は、Niを有するメッキ膜であって、
下側メッキ膜と、前記下側メッキ膜上に上側メッキ膜が積層されており、
前記下側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成され、前記上側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成されたものであり、
前記上側メッキ膜中であって、膜表面よりも下方の位置にNiS層が存在することを特徴とするものである。
【0013】
本発明によれば、自然酸化抑制機能を備えたNiを有するメッキ膜にできる。また、表面粗さを小さくでき、さらに耐食性も良好である。また膜表面の光沢性も比較的良好にできる。
【0014】
本発明では、前記膜表面に少なくともNiO2層が存在し、前記NiO2層と前記NiS層との間に少なくともNiSO層が存在する構造にできる。
【0015】
また本発明では、前記NiS層の下側に少なくともNi層が存在する構造にできる。
または本発明は、Niを有するメッキ膜であって、
下側メッキ膜と、前記下側メッキ膜の上側に上側メッキ膜が積層されており、
前記下側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成され、前記上側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成されたものであり、
前記下側メッキ膜と上側メッキ膜との間にNiS層を前記上側メッキ膜へ移動させないための中間膜が設けられることを特徴とするものである。
【0016】
第3の発明によれば、前記上側メッキ膜の膜特性を劣化させることなく、Niを有するメッキ膜の積層構造を得ることが可能である。
【0017】
本発明では、前記NiS層、前記NiO2層、及び前記NiSO層の存在は、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)にて分析することができる。さらに、オージェ電子分光分析法(AES)も用いて分析することが好適である。
【0018】
また本発明では、前記下側メッキ膜及び上側メッキ膜はNiFe合金にて形成されることが好ましい。
【0019】
本発明は、Niを有するメッキ膜の製造方法であって、
下側メッキ膜と、前記下側メッキ膜上に上側メッキ膜を積層してメッキ形成し、
このとき、前記下側メッキ膜を、Niイオンを含むメッキ浴中に、サッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成し、前記上側メッキ膜を、Niイオンを含むメッキ浴中にサッカリンナトリウム二水和物を0.05g/l〜2.0g/lの範囲内で加えてメッキ形成して、前記上側メッキ膜中であって、膜表面よりも下方の位置にNiS層を形成することを特徴とするものである。
【0020】
上記のようにサッカリンナトリウムのメッキ浴中での含有量を調整することで、前記上側メッキ膜中にNiS層を形成することができる。また前記上側メッキ膜中に取り込まれるS等の不純物量を小さくでき、膜特性の劣化を抑制しつつ、自然酸化抑制機能を備えたNiを有するメッキ膜を簡単且つ適切に製造できる。
【0021】
本発明では、前記上側メッキ膜を、前記NiS層が前記上側メッキ膜の中で最下層となる薄い膜厚にてメッキ形成することが好適である。
【0022】
また本発明は、Niを有するメッキ膜の製造方法であって、
下側メッキ膜と、前記下側メッキ膜上に上側メッキ膜を積層してメッキ形成し、
このとき、前記下側メッキ膜を、Niイオンを含むメッキ浴中にサッカリンナトリウム二水和物を0.05g/l〜2.0g/lの範囲内で加えてメッキ形成し、前記上側メッキ膜を、Niイオンを含むメッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成することを特徴とするものである。
【0023】
上記のようにサッカリンナトリウムのメッキ浴中での含有量を調整することで、表面粗さが小さく、さらに耐食性にも優れたNiを有するメッキ膜を簡単且つ適切に製造できる。また膜表面の光沢性も比較的良好にできる。また、前記下側メッキ膜中に取り込まれるS等の不純物量を小さくでき、膜特性の劣化を抑制できる。
【0024】
本発明では、前記上側メッキ膜を、前記下側メッキ膜中に形成されたNiS層が前記上側メッキ膜のメッキ成長に伴って前記上側メッキ膜内部に消滅可能な膜厚にてメッキ形成してもよい。
【0025】
あるいは本発明では、前記上側メッキ膜を、前記下側メッキ膜中に形成されたNiS層が、前記上側メッキ膜のメッキ成長に伴って前記上側メッキ膜内部に移動するとともに前記上側メッキ膜の最表面に到達し得ない膜厚にてメッキ形成してもよい。
【0026】
または本発明は、Niを有するメッキ膜の製造方法であって、
下側メッキ膜と、前記下側メッキ膜の上側に上側メッキ膜を積層してメッキ形成し、
このとき、前記下側メッキ膜を、Niイオンを含むメッキ浴中にサッカリンナトリウム二水和物を0.05g/l〜2.0g/lの範囲内で加えてメッキ形成し、前記下側メッキ膜の上に、前記下側メッキ膜にて形成されたNiS層を上側メッキ膜へ移動させないための中間膜を形成し、さらに前記中間膜上に、前記上側メッキ膜を、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成することを特徴とするものである。
【0027】
これにより、前記上側メッキ膜の膜特性を劣化させることなく、積層構造よりなるNiを有するメッキ膜を簡単且つ適切に製造できる。また、前記下側メッキ膜中に取り込まれるS等の不純物量を小さくでき、膜特性の劣化を抑制できる。
【0028】
また本発明では、メッキ浴中に添加するサッカリンナトリウム二水和物の添加量を0.1g/l〜1.0g/lの範囲内とすることがより好ましい。
【0029】
また本発明では、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)による分析結果に基づいて、上側メッキ膜あるいは中間膜の膜厚、又は、サッカリンナトリウムの添加量を調整することが好ましい。
【0030】
また本発明では、オージェ電子分光分析法(AES)による分析結果に基づいて、上側メッキ膜あるいは中間膜の膜厚、又は、サッカリンナトリウムの添加量を調整することが可能である。
【0031】
また本発明では、前記下側メッキ膜及び上側メッキ膜をNiFe合金にてメッキ形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0032】
メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成した下側メッキ膜上に、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成した上側メッキ膜を積層した第1の発明では、膜特性を劣化させることなく、自然酸化抑制機能を備えたNiを有するメッキ膜にできる。
【0033】
あるいは、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成した下側メッキ膜上に、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成した上側メッキ膜を積層した第2の発明では、表面粗さを小さくでき、さらに耐食性も良好なNiを有するメッキ膜にできる。また膜表面の光沢性も比較的良好にできる。
【0034】
または、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成した下側メッキ膜上にNiS層を消滅させるための中間膜を形成し、さらに前記中間膜上にメッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなく上側メッキ膜をメッキ形成した第3の発明では、前記上側メッキ膜の膜特性を劣化させることなく、Niを有するメッキ膜の積層構造を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
図1は第1の実施形態のNiを有するメッキ膜の模式図である。図示X方向は幅方向を示し図示Z方向は高さ方向(膜厚方向)を示している。
【0036】
第1の実施形態のNiを有するメッキ膜Aは、例えばNiFeで形成された下側メッキ膜1と同じくNiFeで形成された上側メッキ膜2との積層構造で形成される。組成比の一例を示すと、Fe組成比を68質量%、Ni組成比を32質量%とする。
【0037】
前記下側メッキ膜1は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成され、前記上側メッキ膜2は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成されている。
【0038】
図1に示す一点鎖線3は、前記下側メッキ膜1と上側メッキ膜2との界面を示しているが、界面は現れても現れていなくてもどちらでもよい。例えば、下側メッキ膜1と上側メッキ膜2を同じ組成でメッキ形成すれば界面は現れないが、例えば、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)によるデプスプロファイルにて大体の界面位置を判別することは可能である。
【0039】
図1に示すように、前記上側メッキ膜2中には、膜表面2aから下方向(図示Z2方向)に離れた位置にNiS層4が存在している。ここで「NiS層」は、他領域に比べてNiS成分が大きい領域であるが、具体的には、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)によるデプスプロファイルによるNiS/Niの強度比が0.1以上となる領域として定義される。
【0040】
すなわちNiS成分は符号4の膜厚領域だけでなく他の膜厚領域でも存在するが、符号4で示す膜厚領域に特に多く存在しているのである。
【0041】
また図1に示すように、前記膜表面2aに少なくともNiO2層5が存在し、さらに前記NiO2層5と前記NiS層4との間に少なくともNiSO層6が存在している。ここで「NiO2層」及び「NiSO層」は、例えば、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)によるデプスプロファイルによるNiO2/Niの強度比が0.7以上、NiSO/Niの強度比が0.1以上となる領域として定義される。前記NiO2層5やNiSO層6は前記NiS層2と同位置にまで存在していてもかまわない。すなわち例えば、符号4の領域にはNiS成分が他領域に比べて多く存在するのみならずNiSO成分も符号6の領域と合わせて他領域に比べて多く存在してもよい。
【0042】
さらにNiS層4の下には少なくともNi層7が存在している。なお実際には、Ni層3は、下側メッキ膜1から上側メッキ膜2の全体にわって存在している。
【0043】
このようにNiはメッキ膜A中に様々な状態で存在している。メッキ膜A中に微量に取り込まれるSと、さらにはOも含めて、Niがどのような状態でメッキ膜A中に存在するかは、上記したように飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)によるデプスプロファイルにて分析できる。飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)では、様々な質量(mass)のフラグメントイオンや分子イオンの2次イオンが放出されるが、NiS成分、NiSO成分、NiO2成分、Ni元素成分の存在を予測し、各質量を装置に入力することで、NiS成分、NiSO成分、NiO2成分、Ni元素成分の各デプスプロファイルを得ることが出来る。さらに、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)とともに、オージェ電子分光分析法(AES)を用いて分析すると、膜表面付近でのNiS層4やNiSO層6の存在のより正確な分析が行えるし、特に、定量的な分析が行える。
【0044】
前記NiS層4は自然酸化を抑制する機能を備える。前記NiS層4は、前記膜表面2aから下方(図示Z1方向)に10nm以内(図1に示すh1が10nm以内)に存在することが好ましい。これにより、前記メッキ膜Aの膜表面2a付近で自然酸化を食い止めることができ、膜特性の劣化を抑制できる。前記NiS層4上にある前記NiO2層5及びNiSO層6の酸素は、主にメッキ膜の成膜中に膜内に取り込まれたものである。またメッキ膜の成膜中に取り込まれた酸素は、NiS層4の下方領域にも存在するが、後述する実験で示す経時変化を見ると、自然酸化による酸素の進入は、前記NiS層4でほぼ食い止められており、自然酸化が前記NiS層4により抑制されていることがわかっている。
【0045】
前記NiS層4、NiO2層5、NiSO層6の膜厚は夫々、約1nm〜3nm程度である。また、前記メッキ膜A全体の膜厚は0.6〜5.6μm程度、下側メッキ膜1の膜厚は0.3〜2.8μm程度、上側メッキ膜2の膜厚は0.3〜2.8μm程度である。
【0046】
この第1の実施形態では、前記NiS層4を備える上側メッキ膜2を、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成しS等の不純物成分が少ない下側メッキ膜1に対する保護膜として用いることができる。このように下側メッキ膜1に取り込まれる不純物成分を少なくできるので、前記下側メッキ膜1の膜特性、例えば飽和磁束密度Bsを高くできる。一方、下側メッキ膜1に比べて不純物成分を含みやすい前記上側メッキ膜2をあまり厚くすると、メッキ膜Aのトータルとしての膜特性が、下側メッキ膜1のみの膜特性に比べて大きく劣化する恐れがあるので、前記上側メッキ膜2の厚さをNiS層4の形成を阻害しない程度に薄く形成する。例えば、少なくとも前記上側メッキ膜2の厚さを、前記下側メッキ膜1の厚さよりも薄く形成する。またNiS層4が存在するぎりぎりの膜厚(換言すれば、NiS層4が前記上側めっき膜2中での最下層となる膜厚)で前記上側メッキ膜2を形成すれば、前記上側メッキ膜2をより効果的に薄く形成できる。
【0047】
以上により、前記下側メッキ膜Aの膜特性の劣化を抑制しつつ、自然酸化の抑制効果が高いメッキ膜Aにすることが可能である。
【0048】
図2は第2の実施形態のNiを有するメッキ膜の模式図である。図示X方向は幅方向を示し図示Z方向は高さ方向(膜厚方向)を示している。
【0049】
第2の実施形態のNiを有するメッキ膜Bは、例えばNiFeで形成された下側メッキ膜10と同じくNiFeで形成された上側メッキ膜11との積層構造で形成される。
【0050】
前記下側メッキ膜10は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成され、前記上側メッキ膜11は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成されている。すなわち第2の実施形態のメッキ膜Bは、図1に示す第1の実施形態のメッキ膜Aの逆積層構造である。
【0051】
図2に示す一点鎖線12は、前記下側メッキ膜10と上側メッキ膜11との界面を示しているが、界面は現れても現れていなくてもどちらでもよい。図1で説明した通りである。
【0052】
また図2に示すように、前記上側メッキ膜11中には、膜表面11aから下方向(図示Z2方向)に離れた位置にNiS層15が存在している。さらに図2に示すように、前記膜表面11aに少なくともNiO2層16が存在し、さらに前記NiO2層16と前記NiS層15との間に少なくともNiSO層17が存在している。さらにNiS層15の下には少なくともNi層18が存在している。NiS層15、NiO2層16、NiSO層17及びNi層18は、図1で説明した通りの状態にて存在している。
【0053】
この第2の実施形態での上側メッキ膜11は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えないでメッキしたものである。にもかかわらず、前記上側メッキ膜11中にNiS層15が存在する。これは、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成してなる下側メッキ膜10の表面付近に形成されたNiS層が、前記上側メッキ膜11のメッキ成長過程で、上側メッキ膜11内に移動したものであると推測される。後述する実験にも、前記上側メッキ膜11内にNiS層15が存在することが確認されている。
【0054】
図2に示す第2の実施形態では、図1に示す第1の実施形態と同様に、自然酸化の抑制効果が高いメッキ膜Bにすることが可能である。しかも前記メッキ膜Bの表面粗さRaを40Å以下に抑えることが可能であり、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを添加せずにメッキ形成した上側メッキ膜11の単層膜に比べて平滑性に優れる。さらに、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを添加せずにメッキ形成した上側メッキ膜11の単層膜及び、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを添加してメッキ形成した下側メッキ膜10の単層膜に比べて耐食性に優れ、また比較的良好な光沢面を備える。
【0055】
図2に示す上側メッキ膜11の膜厚は、0.3〜1.4μm程度、前記下側メッキ膜10の膜厚は、0.3〜2.8μm程度である。
【0056】
一方、前記上側メッキ膜11の膜厚が厚くなるにつれて、徐々にNiS層15の領域が小さくなっていき、そのうちNiSが膜全体に薄く広がって、NiS層15は存在しなくなる(図3参照)。かかる場合でも、膜表面11aの表面粗さRaを40Å以下に抑えることが可能であり、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを添加せずにメッキ形成した上側メッキ膜11の単層膜に比べて平滑性に優れる。さらに、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを添加せずにメッキ形成した上側メッキ膜11の単層膜及び、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを添加してメッキ形成した下側メッキ膜10の単層膜に比べて耐食性に優れ、また比較的良好な光沢面を備える。図3に示すように前記上側メッキ膜11の膜厚を厚くしてNiS層15を消滅させることで、前記上側メッキ膜11が本来持つ膜特性の劣化を極力抑制できる。前記上側メッキ膜11はメッキ浴中にサッカリンナトリウムを含まずにメッキ形成したもので、例えば、本来、高い飽和磁束密度Bsを備えるが、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成した下側メッキ膜10の上に前記上側メッキ膜11を重ねてメッキ形成しても、前記上側メッキ膜11の膜特性の劣化を抑制することができる。
【0057】
図4は第3の実施形態のNiを有するメッキ膜の模式図である。図示X方向は幅方向を示し図示Z方向は高さ方向(膜厚方向)を示している。
【0058】
第3の実施形態のNiを有するメッキ膜Cは、例えばNiFeで形成された下側メッキ膜20と同じくNiFeで形成された上側メッキ膜11との間に中間膜21を介在させた積層構造である。
【0059】
前記下側メッキ膜20は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成され、前記上側メッキ膜22は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成されている。
【0060】
図3に示す一点鎖線23,24は、前記下側メッキ膜20と中間膜21との界面、及び前記中間膜21と上側メッキ膜22との界面を示しているが、界面は現れても現れていなくてもどちらでもよい。図1で説明した通りである。前記中間膜21は、前記下側メッキ膜20に形成されたNiS層を前記上側メッキ膜22へ移動しないようにするために設けられたものである。
【0061】
また、この第3の実施形態では、図1や図2に示す実施形態と異なってメッキ膜C中にNiS層が存在しない。
【0062】
図3で説明したように、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成した下側メッキ膜10上に、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えないでメッキ形成した上側メッキ膜11の膜厚を厚くしていくと、NiS層が消滅してしまうことから、図4では、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成した下側メッキ膜20とメッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えないでメッキ形成した上側メッキ膜22との間に、ある一定以上の膜厚で形成されたNiS層を上側メッキ膜22へ移動させないための中間膜21を設けることで、上側メッキ膜22を例えば図2に示す上側メッキ膜11と同様の膜厚で形成してもNiS層の上側メッキ膜22への移動を阻止し、しかもこの実施形態では前記NiS層が存在しない構成としている。
【0063】
なお前記中間膜21をメッキ形成するとき、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを添加しない。
【0064】
第3の実施形態では前記中間膜21の材質は問わない。例えばNiを含まない材質で前記中間膜21を形成してもよい。前記中間膜21は、Ni、Co、Feの磁性元素以外の元素のみで構成されてもよい。
【0065】
前記中間膜21を、前記下側メッキ膜20及び上側メッキ膜22と同様の材料、例えばNiFeで形成してもよいが、組成比まで同じであると図3の形態と変わらなくなるので、少なくとも前記中間膜21を、前記下側メッキ膜20及び上側メッキ膜22の組成比とは異なる組成比で形成したい場合に、図4の積層構造を利用できる。前記中間膜21と前記上側メッキ膜22のトータル厚を図3に示す上側メッキ膜11と同様の膜厚に調整することでNiS層を消滅させることが可能である。
【0066】
図4に示すように、下側メッキ膜20と上側メッキ膜22との間に中間膜21を介在させた形態では、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを添加せずにメッキ形成した上側メッキ膜22の膜特性を劣化させることなく、下側メッキ膜20及び上側メッキ膜22を備えた積層構造を実現することができる。
【0067】
なお前記NiS層が、上側メッキ膜22に存在しなければ、下側メッキ膜20あるいは中間膜21に存在する形態であってもよい。
【0068】
第1の実施形態のメッキ膜Aの製造方法について説明する。前記メッキ膜Aを例えば、電解メッキ法を用いてメッキ形成する。前記電解メッキ法にてNiFe合金をメッキ形成するには、メッキ浴中に、FeイオンとNiイオンを含有させる。
【0069】
前記下側メッキ膜1をメッキするとき、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを添加しない。メッキ浴中には、例えば、FeSO4・7H2O、NiSO4・6H2O、H3BO3、NaCl、C12H25NaO4Sを添加する。
【0070】
電解メッキ法では、パルス電流あるいは直流電流を用いてメッキ膜をメッキする。電流密度は例えば、6.4mA/cm2(平均)程度とする。
【0071】
前記下側メッキ膜1をメッキ形成した後、続いて、前記下側メッキ膜1上に上側メッキ膜2をメッキ形成する。前記上側メッキ膜2をメッキ成膜する際のメッキ浴にはサッカリンナトリウム二水和物を添加する。前記サッカリンナトリウム二水和物を、前記メッキ浴中に、0.05g/l〜2.0g/lの範囲で添加する。より好ましくは前記サッカリンナトリウム二水和物の添加量を0.1g/l〜1.0g/lの範囲に設定する。前記サッカリンナトリウムの添加量をこのように少なくしても前記上側メッキ膜2中にNiS層4を形成できる。また前記サッカリンナトリウムの添加量を少なくすることで、前記上側メッキ膜2中に取り込まれるS等の不純物を少なくできる。サッカリンナトリウムは、C7H4NO3S・Na・2H2Oとして前記メッキ浴中に添加される。
【0072】
前記上側メッキ膜2に対するメッキ浴中への添加剤は、サッカリンナトリウム以外、下側メッキ膜1に対するメッキ浴への添加剤と同じである。また例えば、前記上側メッキ膜2をメッキ成膜する際の電流密度も、前記下側メッキ膜1をメッキ成膜する際の電流密度と同じに設定する。
【0073】
前記上側メッキ膜2をメッキ成膜すると、図1に示すように、前記上側メッキ膜2中には膜表面2aよりも下方(図示Z2方向)の位置にNiS層4が形成される。また、前記膜表面2aとNiS層4との間には、メッキ膜の成膜中に酸素が取り込まれて、NiO2層5やNiSO層6が形成されている。
【0074】
前記上側メッキ膜2中にNiS層4を形成して、前記上側メッキ膜2を前記下側メッキ膜1に対する保護膜として用いるとき、前記上側メッキ膜2の膜厚が厚すぎるとメッキ膜Aとしての膜特性が劣化し、また前記上側メッキ膜2の膜厚が薄すぎても前記上側メッキ膜2中にNiS層4を適切に形成できないので、前記上側メッキ膜2を、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)による分析結果に基づいて、前記上側メッキ膜2中にNiS層4が存在可能な膜厚にてメッキ形成することが好適である。このとき、前記NiS層4が前記上側メッキ膜2内での最下層となるように、前記上側メッキ膜2を薄い膜厚で形成することが好適である。
【0075】
次に、第2の実施形態のメッキ膜Bの製造方法について説明する。前記メッキ膜Bを例えば、電解メッキ法を用いてメッキ形成する。前記電解メッキ工程に用いるメッキ浴に、NiFe合金をメッキ形成するには、FeイオンとNiイオンを含有させる。
【0076】
前記下側メッキ膜10をメッキするとき、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを添加する。前記サッカリンナトリウム二水和物を、前記メッキ浴中に、0.05g/l〜2.0g/lの範囲で添加する。より好ましくは前記サッカリンナトリウム二水和物の添加量を0.1g/l〜1.0g/lの範囲に設定する。メッキ浴中には、例えば、FeSO4・7H2O、NiSO4・6H2O、C7H4NO3S・Na・2H2O、H3BO3、NaCl、C12H25NaO4Sを添加する。
【0077】
電解メッキ法では、パルス電流あるいは直流電流を用いてメッキ膜をメッキする。電流密度は例えば、6.4mA/cm2(平均)程度とする。
【0078】
前記下側メッキ膜10をメッキ形成した後、続いて、前記下側メッキ膜10上に上側メッキ膜11をメッキ形成する。前記上側メッキ膜11をメッキ成膜する際のメッキ浴にはサッカリンナトリウムを添加しない。前記上側メッキ膜11に対するメッキ浴中への添加剤は、サッカリンナトリウム以外、下側メッキ膜10に対するメッキ浴への添加剤と同じである。また例えば、前記上側メッキ膜11をメッキ成膜する際の電流密度も、前記下側メッキ膜10をメッキ成膜する際の電流密度と同じに設定する。
【0079】
図2に示すように、前記上側メッキ膜11を、前記下側メッキ膜10中に形成されたNiS層が、前記上側メッキ膜のメッキ成長に伴って前記上側メッキ膜内部に移動可能な膜厚にてメッキ形成するか、あるいは、図3に示すように、前記下側メッキ膜10中に形成されたNiS層が前記上側メッキ膜のメッキ成長に伴って消滅可能な膜厚にてメッキ形成する。
【0080】
前記上側メッキ膜11の膜厚を、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)による分析結果に基づいて調整することが好適である。
【0081】
この第2の実施形態では、上記のように下側メッキ膜10に対するメッキ浴に添加されるサッカリンナトリウムの含有量を調整することで、表面粗さが小さく、さらに耐食性にも優れたNiを有するメッキ膜Bを簡単且つ適切に製造できる。また膜表面の光沢性も比較的良好にできる。また、前記サッカリンナトリウムの含有量を上記範囲内にてできる限り小さくしたほうが、前記下側メッキ膜10中に取り込まれるS等の不純物量を小さくでき、膜特性の劣化を抑制できる。
【0082】
次に、第3の実施形態のメッキ膜Cの製造方法について説明する。前記メッキ膜Cを例えば、電解メッキ法を用いてメッキ形成する。前記電解メッキ工程に用いるメッキ浴に、NiFe合金をメッキ形成するには、FeイオンとNiイオンを含有させる。
【0083】
前記下側メッキ膜20をメッキするとき、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを添加する。前記サッカリンナトリウム二水和物を、前記メッキ浴中に、0.05g/l〜2.0g/lの範囲で添加する。より好ましくは前記サッカリンナトリウム二水和物の添加量を0.1g/l〜1.0g/lの範囲に設定する。メッキ浴中には、例えば、FeSO4・7H2O、NiSO4・6H2O、C7H4NO3S・Na・2H2O、H3BO3、NaCl、C12H25NaO4Sを添加する。
【0084】
電解メッキ法では、パルス電流あるいは直流電流を用いてメッキ膜をメッキする。電流密度は例えば、6.4mA/cm2(平均)程度とする。
【0085】
前記下側メッキ膜20をメッキ形成した後、続いて、前記下側メッキ膜20上に中間膜21をメッキ形成する。前記中間膜21をメッキ形成する際、メッキ浴中には、サッカリンナトリウムを添加しない。例えば、前記中間膜21を、前記下側メッキ膜20と異なる材質でメッキ形成する。前記中間膜21は、前記下側メッキ膜20中に形成されたNiS層を消滅させるためのもので、例えば、前記中間膜21の膜厚を、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)による分析結果に基づいて調整することが好適である。
【0086】
続いて、前記中間膜21上に上側メッキ膜22をメッキ形成する。前記上側メッキ膜22をメッキ成膜する際のメッキ浴にはサッカリンナトリウムを添加しない。例えば、前記上側メッキ膜22に対するメッキ浴中への添加剤は、サッカリンナトリウム以外、下側メッキ膜20に対するメッキ浴への添加剤と同じである。また例えば、前記上側メッキ膜22をメッキ成膜する際の電流密度も、前記下側メッキ膜20をメッキ成膜する際の電流密度と同じに設定する。
【0087】
この第3の実施形態では、前記メッキ膜C中にNiS層が存在しない。よって、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを添加せずにメッキ形成した上側メッキ膜22の膜特性を劣化させることなく、下側メッキ膜20と上側メッキ膜22とを備える積層構造を得ることが可能である。
【0088】
上記したサッカリンナトリウムの添加量は、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)の分析結果によるものである。
【0089】
また、オージェ電子分光分析法(AES)による分析結果に基づいて、あるいは、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)による分析結果、及び、オージェ電子分光分析法(AES)による分析結果から総合的に判断して、上側メッキ膜あるいは中間膜の膜厚、又は、サッカリンナトリウムの添加量を調整することも可能である。
【0090】
前記メッキ膜に対する分析方法(管理方法)について説明する。
例えば図1に示す第1の実施形態のメッキ膜Aをメッキ形成した後、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)を用いて分析を行う。飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)には、例えばION TOF社製のTOF−SIMS Vを用いる。
【0091】
例えば、励起IONビームには、Bi+(1pA,25keV)を、スパッタイオンには、Cs+(500eV)を用いて負の電荷を帯びた二次イオンを検出する。
【0092】
例えば図5(a)に示すような各成分のデプスプロファイルが得られる。なお図5は後述するように、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを添加してメッキ形成したNiFe単層メッキ膜に対するデプスプロファイルである。この時点では、まだ多数得られたデプスプロファイルの夫々が何の成分のデータなのか特定されていない。よって、メッキ浴中に含まれる添加物との化学反応等を考慮して、NiFeメッキ膜中に含まれると予測される成分の質量(mass)を装置に入力して、図5(a)に示す各デプスプロファイルの成分を特定する。
【0093】
図5(a)に示すように、デプスプロファイルによるNiS成分やNiSO成分の強度は膜内部に比べて膜表面側で大きくなっており、NiS成分やNiSO成分は膜表面側に偏って存在していることがわかる。
【0094】
なお上記したように飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)でのスパッタイオンには、Cs+を用いることが好適である。後述する実験結果に示すように、例えばスパッタイオンにAr+を用いると、NiS成分が分解してしまい、NiS成分を検出できないことがわかっている。
【0095】
飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)では、定量的な分析ができない。このため、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)による分析だけではどの程度のNiS成分やNiSO成分が膜表面付近に存在するのか不明である。さらにNiS成分やNiSO成分が膜表面付近に多く存在することをより確かなものにするためにも、さらに、オージェ電子分光分析法(AES)を用いて分析を行う。オージェ電子分光分析装置には、例えば、日本電子製のJAMP−7830Fを用いることができる。
【0096】
測定条件としては、例えば、5keV、10nAの電子ビームを用い、スパッタイオンにはAr+(500eV)を用いる。
【0097】
オージェ電子分光分析法(AES)では、例えば、図14に示すデプスプロファイルが得られる。なお図14は後述するように、メッキ浴中に添加するサッカリンナトリウムの添加量を変化させながらメッキ形成したNiFe単層メッキ膜に対するNi(cal.)のデプスプロファイルである。メッキ膜中に存在するNiは、元素状態、NiO成分,NiS成分、NiSO成分の状態で存在する。図15には、Ni(orig.)のデプスプロファイルが示されているが、このデプスプロファイルは、元素状態、NiO成分,NiS成分、NiSO成分を総合したものである。このうち、NiS成分、及びNiSO成分は、オージェ電子分光分析法(AES)では、これらの成分を個々に分離することが困難である。一方、NiO成分は分離可能なので、図15に示すようにNi(orig.)のデプスプロファイルからNiO(cal.)のデプスプロファイルを分離したNi(cal.)のデプスプロファイルを求める。このNi(cal.)のデプスプロファイルは、元素状態、NiS成分、NiSO成分を総合したものである。
【0098】
一方、図14に示すように、サッカリンナトリウムをメッキ浴中に添加せずにメッキ形成したNiFe合金に対するNi(cal.)のデプスプロファイルも求めておき、サッカリンナトリウムをメッキ浴中に添加してメッキ形成したNiFe合金に対するNi(cal.)のデプスプロファイルから、サッカリンナトリウムをメッキ浴中に添加せずにメッキ形成したNiFe合金に対するNi(cal.)のデプスプロファイルを引くと、ほぼ元素状態のNiのデプスプロファイルが差し引かれ、図16に示すNi差分のデプスプロファイルが得られる。図16に示すように、特に0.1g/l〜2.0g/lのサッカリンナトリウム二水和物を添加したものでは膜表面付近でNi(cal.)の差分値が得られる。よって、このようなNi(cal.)の差分値が膜表面付近に得られるのは、NiSO成分やNiS成分が膜表面付近に存在するためであり、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)の実験結果とも合致することを確認できる。
【0099】
オージェ電子分光分析法(AES)では、図16に示すように、サッカリンナトリウムの添加量に伴うNi差分量、及びNi差分が存在する深さ位置がわかるので、このデータに基づき、又は、オージェ電子分光分析法(AES)と飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)の総合したデータに基づいて、メッキ浴中へのサッカリンナトリウムの添加量の管理や、メッキ厚調整の管理等を適切に行うことが可能になる。
【0100】
本実施形態における各メッキ膜A,B,Cの用途は特に、限定されない。電子部品等の金属膜部分に本実施形態のメッキ膜の使用が可能である。前記金属膜は磁性、非磁性を問わない。また例えば電気接点の部分に本実施形態のメッキ膜を使用すると、前記電気接点の自然酸化を効果的に抑制でき、あるいは耐食性、平滑性に優れた電気接点にできる。また、例えば、弾性部材の少なくとも一部に本願のメッキ膜の使用も可能である。NiPの非晶質構造は弾性機能を発揮するため、本実施形態を使用すれば、自然酸化抑制機能があり、あるいは耐食性、平滑性に優れた弾性部材を形成することが可能になる。
【実施例】
【0101】
[飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)によるデプスプロファイル;NiFe単層メッキ膜]
【0102】
以下のメッキ浴を用いて、NiFe合金単層膜をメッキ形成した。
(メッキ浴組成)
FeSO4・7H2O 25(g/l)
NiSO4・6H2O 190(g/l)
H3BO3 25(g/l)
C7H4NO3S・Na・2H2O 2(g/l)
NaCl 25g/l
C12H25NaO4S 0.02g/l
(浴条件)
浴温度 30℃
pH 2.7
電流密度(平均) 6.4mA/cm2
【0103】
上記のように、サッカリンナトリウム二水和物を添加したメッキ浴を用いてNiFe単層メッキ膜をメッキ形成した後、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)を用いて分析を行った。飛行時間型二次イオン質量分析装置には、ION TOF社製のTOF−SIMS Vを用いた。
【0104】
励起IONビームには、Bi+(1pA,25keV)を、スパッタイオンには、Cs+(500eV)を用いて負の電荷を帯びた二次イオンを検出した。
【0105】
図5(a)のデプスプロファイルは、メッキ成膜直後の測定結果、図5(b)のデプスプロファイルは、10ヶ月経過後の測定結果、図5(c)のデプスプロファイルは、16ヶ月経過後の測定結果を示す。
【0106】
図6(a)は、図5(a)のデプスプロファイルに基づいて、各成分の状態を示す三次元模式図であり、色の明るい部分に、その成分が多く存在することを示している。なお図6(b)は、図5(b)のデプスプロファイルに基づいて、各成分の状態を示す三次元模式図、図6(c)は、図5(c)のデプスプロファイルに基づいて、各成分の状態を示す三次元模式図である。
【0107】
図5(a)及び図6(a)に示すように、膜表面付近にNiS成分が多く存在することがわかった。NiS成分は膜表面から膜深さ方向に概ね3nmの範囲内に集中して存在することがわかった。また膜表面にはNiO2成分やNiSO成分が多く存在することがわかった。飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)によるデプスプロファイルの各成分の強度比が、夫々、NiS/Ni強度比:0.1以上、NiO2/Ni強度比:0.7以上、NiSO/Ni強度比:0.1以上である深さ領域を「層」と規定すると、メッキ浴にサッカリンナトリウム二水和物を添加してメッキ形成したNiFe単層メッキ膜では、膜表面から下方位置にNiS層が存在し、膜表面に少なくともNiO2層が存在し、前記NiS層とNiO2層との間に少なくともNiSO層が存在し、NiS層の下側にNi層が存在することがわかった。
【0108】
図5(b)、(c)及び図6(b)、(c)に示す経時変化を見てわかるように、ほとんど自然酸化が進行していないことがわかった。自然酸化の抑制効果は、膜表面付近に存在するNiS層によるものであると推測される。ちなみに図5(a)、図6(a)におけるメッキ成膜直後の測定結果におけるNiO成分、NiSO成分、FeO成分等の酸素はメッキ成膜中に取り込まれたものである。
【0109】
次に、以下のメッキ浴を用いて、NiFe単層メッキ膜をメッキ形成した。
(メッキ浴組成)
FeSO4・7H2O 25(g/l)
NiSO4・6H2O 190(g/l)
H3BO3 25(g/l)
NaCl 25g/l
C12H25NaO4S 0.02g/l
(浴条件)
浴温度 30℃
pH 2.7
電流密度(平均) 6.4mA/cm2
【0110】
上記のようにサッカリンナトリウムを添加しないメッキ浴にて、NiFe単層メッキ膜をメッキ形成した後、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)を用いて分析を行った。飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)には、ION TOF社製のTOF−SIMS Vを用いた。
【0111】
励起IONビームには、Bi+(1pA,25keV)を、スパッタイオンには、Cs+(500eV)を用いて負の電荷を帯びた二次イオンを検出した。
【0112】
図7(a)のデプスプロファイルは、メッキ成膜直後の測定結果、図7(b)のデプスプロファイルは、10ヶ月経過後の測定結果、図7(c)のデプスプロファイルは、16ヶ月経過後の測定結果を示す。
【0113】
図8(a)は、図7(a)のデプスプロファイルに基づいて、各成分の状態を示す三次元模式図、図8(b)は、図7(b)のデプスプロファイルに基づいて、各成分の状態を示す三次元模式図、図8(c)は、図7(c)のデプスプロファイルに基づいて、各成分の状態を示す三次元模式図である。
【0114】
サッカリンナトリウムを添加しないメッキ浴にてメッキ形成したNiFe単層メッキ膜では、図7(a)及び図8(a)に示すように、成膜直後から、酸素が膜全体に取り込まれた状態となっており、これは、メッキ膜の成膜中に取り込まれる酸素のみならず、成膜直後にすでに自然酸化が始まっており、酸素が膜内部にまで深く進行した結果であると推測される。また、図7(b)(c)、図8(b)(c)に示す経時変化では、酸素の膜内部への進行が更に進んでいることがわかった。
【0115】
[飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)によるデプスプロファイル;NiFe積層メッキ膜]
【0116】
次に、以下のメッキ浴を用いて、NiFe下側メッキ膜をメッキ形成した。
(メッキ浴組成)
FeSO4・7H2O 25(g/l)
NiSO4・6H2O 190(g/l)
C7H4NO3S・Na・2H2O 1(g/l)
H3BO3 25(g/l)
C7H4NO3S・Na・2H2O 2(g/l)
NaCl 25g/l
C12H25NaO4S 0.02g/l
(浴条件)
浴温度 30℃
pH 2.7
電流密度(平均) 6.4mA/cm2
【0117】
上記のようにサッカリンナトリウム二水和物を添加したメッキ浴にて、NiFe下側メッキ膜をメッキ形成した。
【0118】
次に、前記NiFe下側メッキ膜上に、以下のメッキ浴を用いて、NiFe上側メッキ膜をメッキ形成した。
【0119】
(メッキ浴組成)
FeSO4・7H2O 25(g/l)
NiSO4・6H2O 190(g/l)
H3BO3 25(g/l)
NaCl 25g/l
C12H25NaO4S 0.02g/l
(浴条件)
浴温度 30℃
pH 2.7
電流密度(平均) 6.4mA/cm2
【0120】
上記のようにサッカリンナトリウムを添加してないメッキ浴にて、NiFe上側メッキ膜をメッキ形成した。
【0121】
実験では、前記NiFe上側メッキ膜のメッキ時間を、10秒(実施例1)、30秒(実施例2)、60秒(実施例3)、120秒(実施例4)とし、膜厚の異なる上側メッキ膜を前記下側メッキ膜上に夫々メッキ形成した。10秒メッキ形成した上側NiFeメッキ膜の膜厚は概ね27.5nm、30秒メッキ形成した上側NiFeメッキ膜の膜厚は概ね72nm、60秒メッキ形成した上側NiFeメッキ膜の膜厚は概ね140nm、120秒メッキ形成した上側NiFeメッキ膜の膜厚は概ね280nmであった。
【0122】
図9(a)は、実施例1に対する上記した飛行時間型二次イオン質量分析装置を用いて測定したデプスプロファイルと各成分の状態を示す三次元模式図、図9(b)は、実施例2に対する上記した飛行時間型二次イオン質量分析装置を用いて測定したデプスプロファイルと各成分の状態を示す三次元模式図、図9(c)は、実施例3に対する上記した飛行時間型二次イオン質量分析装置を用いて測定したデプスプロファイル、図9(d)は、実施例4に対する上記した飛行時間型二次イオン質量分析装置を用いて測定したデプスプロファイルである。
【0123】
各実施例のNiのデプスプロファイルで、膜内部で強度が盛り上がってる箇所があるが、大体、このあたりが、NiFe下側メッキ膜とNiFe上側メッキ膜の界面である。
【0124】
図9(a)の実施例1、図9(b)の実施例2の実験結果に示すように、上側NiFeメッキ膜を薄くメッキ形成すると、NiFe下側メッキ膜中に形成されたNiS層が、NiFe上側メッキ膜をメッキ形成している成長過程で、前記NiFe上側メッキ膜内に前記NiS層が移動し、前記NiFe上側メッキ膜内にNiS層が存在することがわかった。
【0125】
一方、図9(s)の実施例3、図9(d)の実施例4の実験結果に示すように、上側NiFeメッキ膜を厚くメッキ形成すると、NiS成分の強度は、どの深さ領域においても低くなり、特に膜表面付近でのNiS成分の強度は図9(a)(b)に比べて小さくなることがわかった。すなわち、上側NiFeメッキ膜を厚くメッキ形成すると、メッキ浴にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成したNiFe下側メッキ膜中に形成されたNiS層が、サッカリンナトリウムを含まないメッキ浴にてNiFe上側メッキ膜をメッキ形成している成長過程で消滅してしまうことがわかった。
【0126】
[第2の実施形態のメッキ膜に対する面粗さ及びエッチングレートの実験]
上記の実験で用いたサッカリンナトリウム二水和物を含まないメッキ浴にて比較例1のNiFe単層メッキ膜を形成した。メッキ時間、膜厚、Fe組成比は、以下の表1に示してある。
【0127】
また、上記の実験で用いたサッカリンナトリウム二水和物を含むメッキ浴にて比較例2のNiFe単層メッキ膜を形成した。メッキ時間、膜厚、Fe組成比は、以下の表1に示してある。
【0128】
さらに上記の実験と同様に、サッカリンナトリウム二水和物を含むメッキ浴にてNiFe下側メッキ膜を10分間、メッキ形成した後、前記NiFe下側メッキ膜上に、サッカリンナトリウム二水和物を含まないメッキ浴にてNiFe上側メッキ膜をメッキ形成した(実施例1〜6)。各実施例におけるNiFe上側メッキ膜のメッキ時間(10秒〜10分)は以下の表1に示したとおりである。
【0129】
【表1】
【0130】
表1に示す各実施例の膜厚は、NiFe下側メッキ膜とNiFe上側メッキ膜とのトータル厚である。また、Fe組成比は、NiFe下側メッキ膜及びNiFe上側メッキ膜に占める平均値である。
【0131】
図10は、比較例1、比較例2及び実施例1〜6の各NiFeメッキ膜の膜表面の面粗さRaを示すグラフである。
【0132】
実施例1〜6のNiFeメッキ膜の面粗さRaは、サッカリンナトリウム二水和物を含めたメッキ浴にてNiFeメッキ膜をメッキした比較例1の面粗さRaと同等か、あるいはそれよりも高くなるものの、サッカリンナトリウム二水和物を含めないメッキ浴にてNiFeメッキ膜をメッキした比較例2の面粗さRaに比べて小さくでき、具体的には、40Å以下にできることがわかった。
【0133】
図11は、比較例1、比較例2及び実施例1〜6の各NiFeメッキ膜の膜表面のエッチングレートを示すグラフである。濃度5%の希硫酸のエッチング液に30分間浸してエッチングレートを測定した。
【0134】
図11に示すように、実施例1〜6に示す各NiFeメッキ膜のエッチングレートは、比較例1及び比較例2の各NiFeメッキ膜のエッチングレートに比べて小さくなり耐食性が優れることがわかった。これは、電気化学的に卑なNiFe下側メッキ膜の上に電気化学的に貴なNiFe上側メッキ膜を重ねたことで、NiFe上側メッキ膜がNiFe下側メッキ膜側から電子を吸い取り、電気化学的にNiFe上側メッキ膜がより安定した状態になったためであると推測される。
【0135】
[飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)によるデプスプロファイル;サッカリンナトリウム二水和物の添加量]
次に、以下のメッキ浴を用いて、NiFe単層メッキ膜をメッキ形成した。
【0136】
(メッキ浴組成)
FeSO4・7H2O 25(g/l)
NiSO4・6H2O 190(g/l)
C7H4NO3S・Na・2H2O 0.05g/l、0.1g/l、1.0g/l
NaCl 25g/l
C12H25NaO4S 0.02g/l
(浴条件)
浴温度 30℃
pH 2.7
電流密度(平均) 6.4mA/cm2
【0137】
上記のように、サッカリンナトリウム二水和物の添加量が0.05g/l、0.1g/l、1.0g/lと異なる各メッキ浴を用いて、NiFe単層メッキ膜をメッキ形成し、各NiFe単層メッキ膜の飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)によるデプスプロファイルを求めた。
【0138】
図12(a)は、サッカリンナトリウム二水和物の添加量を0.05g/lとしたメッキ浴にてメッキ形成したNiFe単層メッキ膜のデプスプロファイル及び、各成分の状態を示す三次元模式図、図12(b)は、サッカリンナトリウム二水和物の添加量を0.1g/lとしたメッキ浴にてメッキ形成したNiFe単層メッキ膜のデプスプロファイル及び、各成分の状態を示す三次元模式図、図12(c)は、サッカリンナトリウム二水和物の添加量を1.0g/lとしたメッキ浴にてメッキ形成したNiFe単層メッキ膜のデプスプロファイル及び、各成分の状態を示す三次元模式図、である。
【0139】
図12に示すように、メッキ浴中へのサッカリンナトリウム二水和物の添加量を0.05g/l以上にすることで、メッキ膜中にNiS層を形成できることがわかった。サッカリンナトリウム二水和物の添加量の上限値は、図5及び図6の実験で使用した2g/lとした。ただしサッカリンナトリウム二水和物の添加量は少ないほうが、メッキ膜中に取り込まれるS等の不純物を少なくでき膜特性にとっては有利である。また、図12(a)に示すように、メッキ浴中へのサッカリンナトリウム二水和物の添加量を0.05g/lとしたとき、膜表面付近でのNiS成分は、メッキ浴中へのサッカリンナトリウムナトリウム二水和物の添加量を0.1g/l以上としたときに比べて少なく、また、後述するオージェ電子分光分析法(AES)の分析結果も合わせて判断するとNiS成分は膜表面付近のみならずやや全体的に薄く広がって存在していると考えられるため、メッキ浴中へのサッカリンナトリウム二水和物のより好ましい添加量を、0.1g/l〜1.0g/lの範囲に設定した。
【0140】
[飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)で使用するスパッタイオン]
図13は、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)で使用するスパッタイオンをCs+(500eV)、Cs+(2keV)、Ar+(500eV)としたときの分析結果である。分析するメッキ膜には、図5(a)のNiFe単層メッキ膜を使用した。
【0141】
図13に示すように、スパッタイオンとしてAr+を使用すると、NiS成分を分析できなかった。これは、スパッタイオンとしてAr+を使用すると、NiとSとが分離してしまいNiS成分として分析できないためと考えられる。よってスパッタイオンとしてはCs+を用いることが好ましいとわかった。
【0142】
[オージェ電子分光分析法(AES)によるデプスプロファイル]
図14は、オージェ電子分光分析法(AES)でのNi(cal.)のデプスプロファイルである。オージェ電子分光分析装置には、日本電子製のJAMP−7830Fを用いた。
【0143】
測定条件としては、5keV、10nAの電子ビームを用い、スパッタイオンにはAr+(500eV)を用いた。
【0144】
測定試料には、図5(a)、図12(a)(b)(c)で用いたサッカリンナトリウム二水和物の添加量が0.05g/l、0.1g/l、1.0g/l、2.0g/lと夫々異なる各メッキ浴にてメッキ形成されたNiFeメッキ膜を用いた。
【0145】
図14に示す縦軸は、Feピーク強度の最大値を1としてNi(cal.)強度を規格化したものである。図14のNi(cal.)のデプスプロファイルは、図15に示すように、Ni(orig.)のデプスプロファイルからNiとNiOの成分を分離し再構築したものである。日本電子株式会社製のピーク分離ソフト(Spectra Investigator)を用いて解析を行った。
【0146】
図16は、サッカリンナトリウム二水和物を添加したメッキ浴にてメッキされたNiFeメッキ膜のNi(cal.)のデプスプロファイルから、サッカリンナトリウムナトリウム二水和物を添加していないメッキ浴にてメッキされたNiFeメッキ膜のNi(cal.)のデプスプロファイルを引いたNi差分のデプスプロファイルである。
【0147】
図16に示すように、0.1g/l〜2.0g/lのサッカリンナトリウム二水和物を添加したメッキ膜では、膜表面付近でNi差分のデプスプロファイルにおいてピークを形成することがわかった。オージェ電子分光分析法(AES)の分析結果で得られた膜表面付近でのNi差分量は、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)との分析結果から総合的に分析すれば、NiS成分やNiSO成分等のピーク分離計算では分離な困難な成分であると判断でき、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)との分析結果と合致することがわかった。一方、0.05g/lのサッカリンナトリウム二水和物を添加したメッキ膜では、膜表面付近にNi差分のピークを持たないことがわかり、NiS層、NiSO層が形成されていない、または、不完全な状態であると判断できる。このことから図12でも説明したように、サッカリンナトリウム二水和物の添加量は0.1g/l以上にすることが好ましい。
【0148】
飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)では、NiS成分やNiSO成分が膜表面付近に存在することは確認できるが、特に、異なる試料間での定量的な比較が困難である。
【0149】
一方、オージェ電子分光分析法(AES)のみでは、Niが膜表面付近でどのような状態(化合物なのか元素状態なのか)として存在するのか判別するのが困難であるが、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)と違って、各試料間での定量的な比較が可能である。
【0150】
飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)とオージェ電子分光分析法(AES)の分析結果を総合的に判断すると、図16のNi差分のデプスプロファイルにおけるNi差分量はNiS成分やNiSO成分の存在量を示し、深さは存在厚さとみなすことができる。よって、図16の分析結果を、メッキ形成の際の管理値とすることで、最適なサッカリンナトリウムの添加量の調整や、NiS層を適切に存在させるための最適なメッキ膜の膜厚調整等を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】第1の実施形態のNiを有するメッキ膜の模式図、
【図2】第2の実施形態のNiを有するメッキ膜の模式図、
【図3】図2とは別の実施形態を示すNiを有するメッキ膜の模式図、
【図4】第3の実施形態のNiを有するメッキ膜の模式図、
【図5】サッカリンナトリウム二水和物を添加したメッキ浴にてメッキ形成したNiFe単層メッキ膜の分析結果であり、(a)は、メッキ成膜直後のデプスプロファイル、(b)は、10ヶ月経過後のデプスプロファイル、(c)は、16ヶ月経過後のデプスプロファイル、
【図6】(a)は、図5(a)のデプスプロファイルに基づいて、各成分の状態を示す三次元模式図、(b)は、図5(b)のデプスプロファイルに基づいて、各成分の状態を示す三次元模式図、(c)は、図5(c)のデプスプロファイルに基づいて、各成分の状態を示す三次元模式図、
【図7】サッカリンナトリウム二水和物を添加していないメッキ浴にてメッキ形成したNiFe単層メッキ膜の分析結果であり、(a)は、メッキ成膜直後のデプスプロファイル、(b)は、10ヶ月経過後のデプスプロファイル、(c)は、16ヶ月経過後のデプスプロファイル、
【図8】(a)は、図7(a)のデプスプロファイルに基づいて、各成分の状態を示す三次元模式図、(b)は、図7(b)のデプスプロファイルに基づいて、各成分の状態を示す三次元模式図、(c)は、図7(c)のデプスプロファイルに基づいて、各成分の状態を示す三次元模式図、
【図9】サッカリンナトリウム二水和物を添加したメッキ浴にてメッキ形成したNiFe下側メッキ膜の上に、サッカリンナトリウム二水和物を添加していないメッキ浴にてNiFe上側メッキ膜を積層し、且つNiFe上側メッキ膜のメッキ時間を変えた各積層構造の実施例に対する分析結果であり、(a)は、実施例1に対する飛行時間型二次イオン質量分析装置を用いて測定したデプスプロファイルと各成分の状態を示す三次元模式図、(b)は、実施例2に対する飛行時間型二次イオン質量分析装置を用いて測定したデプスプロファイルと各成分の状態を示す三次元模式図、(c)は、実施例3に対する飛行時間型二次イオン質量分析装置を用いて測定したデプスプロファイル、(d)は、実施例4に対する飛行時間型二次イオン質量分析装置を用いて測定したデプスプロファイル、
【図10】サッカリンナトリウム二水和物を添加したメッキ浴にてメッキ形成したNiFe下側メッキ膜の上に、サッカリンナトリウム二水和物を添加していないメッキ浴にてNiFe上側メッキ膜を積層した各実施例と、サッカリンナトリウム二水和物を添加しないメッキ浴にてNiFe単層メッキ膜をメッキ形成した比較例1と、サッカリンナトリウム二水和物を添加したメッキ浴にてNiFe単層メッキ膜をメッキ形成した比較例2の表面粗さRaを示すグラフ、
【図11】サッカリンナトリウム二水和物を添加したメッキ浴にてメッキ形成したNiFe下側メッキ膜の上に、サッカリンナトリウム二水和物を添加していないメッキ浴にてNiFe上側メッキ膜を積層した各実施例と、サッカリンナトリウム二水和物を添加しないメッキ浴にてNiFe単層メッキ膜をメッキ形成した比較例1と、サッカリンナトリウム二水和物を添加したメッキ浴にてNiFe単層メッキ膜をメッキ形成した比較例2のエッチングレートを示すグラフ、
【図12】(a)は、サッカリンナトリウム二水和物の添加量を0.05g/lとしたメッキ浴にてメッキ形成したNiFe単層メッキ膜のデプスプロファイル及び、各成分の状態を示す三次元模式図、(b)は、サッカリンナトリウム二水和物の添加量を0.1g/lとしたメッキ浴にてメッキ形成したNiFe単層メッキ膜のデプスプロファイル及び、各成分の状態を示す三次元模式図、(c)は、サッカリンナトリウム二水和物の添加量を1.0g/lとしたメッキ浴にてメッキ形成したNiFe単層メッキ膜のデプスプロファイル及び、各成分の状態を示す三次元模式図、
【図13】飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)で使用するスパッタイオンをCs+(500eV)、Cs+(2keV)、Ar+(500eV)としたときの分析結果、
【図14】サッカリンナトリウム二水和物の添加量を変えた各メッキ浴にてメッキ形成された各NiFeメッキ膜に対するオージェ電子分光分析法(AES)によるNi(cal.)のデプスプロファイル、
【図15】オージェ電子分光分析法(AES)によるピーク分離前のデプスプロファイル、及びピーク分離後のFe(cal.)、Fe2O3(cal.)、Ni(orig.)、Ni(cal.)、NiO(cal.)、S、Oのデプスプロファイル、
【図16】添加量の異なるサッカリンナトリウム二水和物を備える各メッキ浴にてメッキされた各NiFeメッキ膜のNi(cal.)のデプスプロファイルから、サッカリンナトリウム二水和物ナトリウムを添加していないメッキ浴にてメッキされたNiFeメッキ膜のNi(cal.)のデプスプロファイルを引いたNi差分のデプスプロファイル、
【符号の説明】
【0152】
1、10、20 下側メッキ膜
2、11、22 上側メッキ膜
3、12、23、24 界面
4、15 NiS層
5、16 NiO2層
6、17 NiSO層
7、18 Ni層
21 中間膜
A、B、C Niを有するメッキ膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Niを有するメッキ膜であって、
下側メッキ膜と、前記下側メッキ膜上に上側メッキ膜が積層されており、
前記下側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成され、前記上側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成されたものであり、
前記上側メッキ膜中であって、膜表面よりも下方の位置にNiS層が存在することを特徴とするNiを有するメッキ膜。
【請求項2】
前記膜表面に少なくともNiO2層が存在し、前記NiO2層と前記NiS層との間に少なくともNiSO層が存在する請求項1記載のNiを有するメッキ膜。
【請求項3】
前記NiS層の下側に少なくともNi層が存在する請求項1又は2に記載のNiを有するメッキ膜。
【請求項4】
前記NiS層は前記膜表面から下方に10nm以内に存在する請求項1ないし3のいずれかに記載のNiを有するメッキ膜。
【請求項5】
Niを有するメッキ膜であって、
下側メッキ膜と、前記下側メッキ膜上に上側メッキ膜が積層されており、
前記下側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成され、前記上側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成されたものであり、
前記上側メッキ膜の表面粗さが40Å以下であることを特徴とするNiを有するメッキ膜。
【請求項6】
前記上側メッキ膜中であって、膜表面よりも下方の位置にNiS層が存在する請求項5記載のNiを有するメッキ膜。
【請求項7】
Niを有するメッキ膜であって、
下側メッキ膜と、前記下側メッキ膜上に上側メッキ膜が積層されており、
前記下側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成され、前記上側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成されたものであり、
前記上側メッキ膜中であって、膜表面よりも下方の位置にNiS層が存在することを特徴とするNiを有するメッキ膜。
【請求項8】
前記膜表面に少なくともNiO2層が存在し、前記NiO2層と前記NiS層との間に少なくともNiSO層が存在する請求項6又は7に記載のNiを有するメッキ膜。
【請求項9】
前記NiS層の下側に少なくともNi層が存在する請求項6ないし8のいずれかに記載のNiを有するメッキ膜。
【請求項10】
Niを有するメッキ膜であって、
下側メッキ膜と、前記下側メッキ膜の上側に上側メッキ膜が積層されており、
前記下側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成され、前記上側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成されたものであり、
前記下側メッキ膜と上側メッキ膜との間にNiS層を前記上側メッキ膜へ移動させないための中間膜が設けられることを特徴とするNiを有するメッキ膜。
【請求項11】
前記NiS層、前記NiO2層、及び前記NiSO層の存在は、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)にて分析される請求項1ないし4、及び6ないし9のいずれかに記載のNiを有するメッキ膜。
【請求項12】
さらに、オージェ電子分光分析法(AES)を用いて分析される請求項11記載のNiを有するメッキ膜。
【請求項13】
前記下側メッキ膜及び上側メッキ膜はNiFe合金にて形成される請求項1ないし12のいずれかに記載のNiを有するメッキ膜。
【請求項14】
Niを有するメッキ膜の製造方法であって、
下側メッキ膜と、前記下側メッキ膜上に上側メッキ膜を積層してメッキ形成し、
このとき、前記下側メッキ膜を、Niイオンを含むメッキ浴中に、サッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成し、前記上側メッキ膜を、Niイオンを含むメッキ浴中にサッカリンナトリウム二水和物を0.05g/l〜2.0g/lの範囲内で加えてメッキ形成して、前記上側メッキ膜中であって、膜表面よりも下方の位置にNiS層を形成することを特徴とするNiを有するメッキ膜の製造方法。
【請求項15】
前記上側メッキ膜を、前記NiS層が前記上側メッキ膜の中で最下層となる薄い膜厚にてメッキ形成する請求項14記載のNiを有するメッキ膜の製造方法。
【請求項16】
Niを有するメッキ膜の製造方法であって、
下側メッキ膜と、前記下側メッキ膜上に上側メッキ膜を積層してメッキ形成し、
このとき、前記下側メッキ膜を、Niイオンを含むメッキ浴中にサッカリンナトリウム二水和物を0.05g/l〜2.0g/lの範囲内で加えてメッキ形成し、前記上側メッキ膜を、Niイオンを含むメッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成することを特徴とするNiを有するメッキ膜の製造方法。
【請求項17】
前記上側メッキ膜を、前記下側メッキ膜中に形成されたNiS層が前記上側メッキ膜のメッキ成長に伴って消滅可能な膜厚にてメッキ形成する請求項16記載のNiを有するメッキ膜の製造方法。
【請求項18】
前記上側メッキ膜を、前記下側メッキ膜中に形成されたNiS層が、前記上側メッキ膜のメッキ成長に伴って前記上側メッキ膜内部に移動するとともに前記上側メッキ膜の最表面に達し得ない膜厚にてメッキ形成する請求項16記載のNiを有するメッキ膜の製造方法。
【請求項19】
Niを有するメッキ膜の製造方法であって、
下側メッキ膜と、前記下側メッキ膜の上側に上側メッキ膜を積層してメッキ形成し、
このとき、前記下側メッキ膜を、Niイオンを含むメッキ浴中にサッカリンナトリウム二水和物を0.05g/l〜2.0g/lの範囲内で加えてメッキ形成し、前記下側メッキ膜の上に、前記下側メッキ膜にて形成されたNiS層を上側メッキ膜へ移動させないための中間膜を形成し、さらに前記中間膜上に、前記上側メッキ膜を、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成することを特徴とするNiを有するメッキ膜の製造方法。
【請求項20】
メッキ浴中に添加するサッカリンナトリウム二水和物の添加量を0.1g/l〜1.0g/lの範囲内とする請求項14ないし19のいずれかに記載のNiを有するメッキ膜の製造方法。
【請求項21】
飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)による分析結果に基づいて、上側メッキ膜あるいは中間膜の膜厚、又は、サッカリンナトリウムの添加量を調整する請求項14ないし20のいずれかに記載のNiを有するメッキ膜の製造方法。
【請求項22】
オージェ電子分光分析法(AES)による分析結果に基づいて、上側メッキ膜あるいは中間膜の膜厚、又は、サッカリンナトリウムの添加量を調整する請求項14ないし21のいずれかに記載のNiを有するメッキ膜の製造方法。
【請求項23】
前記下側メッキ膜及び上側メッキ膜をNiFe合金にてメッキ形成する請求項14ないし22のいずれかに記載のNiを有するメッキ膜の製造方法。
【請求項1】
Niを有するメッキ膜であって、
下側メッキ膜と、前記下側メッキ膜上に上側メッキ膜が積層されており、
前記下側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成され、前記上側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成されたものであり、
前記上側メッキ膜中であって、膜表面よりも下方の位置にNiS層が存在することを特徴とするNiを有するメッキ膜。
【請求項2】
前記膜表面に少なくともNiO2層が存在し、前記NiO2層と前記NiS層との間に少なくともNiSO層が存在する請求項1記載のNiを有するメッキ膜。
【請求項3】
前記NiS層の下側に少なくともNi層が存在する請求項1又は2に記載のNiを有するメッキ膜。
【請求項4】
前記NiS層は前記膜表面から下方に10nm以内に存在する請求項1ないし3のいずれかに記載のNiを有するメッキ膜。
【請求項5】
Niを有するメッキ膜であって、
下側メッキ膜と、前記下側メッキ膜上に上側メッキ膜が積層されており、
前記下側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成され、前記上側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成されたものであり、
前記上側メッキ膜の表面粗さが40Å以下であることを特徴とするNiを有するメッキ膜。
【請求項6】
前記上側メッキ膜中であって、膜表面よりも下方の位置にNiS層が存在する請求項5記載のNiを有するメッキ膜。
【請求項7】
Niを有するメッキ膜であって、
下側メッキ膜と、前記下側メッキ膜上に上側メッキ膜が積層されており、
前記下側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成され、前記上側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成されたものであり、
前記上側メッキ膜中であって、膜表面よりも下方の位置にNiS層が存在することを特徴とするNiを有するメッキ膜。
【請求項8】
前記膜表面に少なくともNiO2層が存在し、前記NiO2層と前記NiS層との間に少なくともNiSO層が存在する請求項6又は7に記載のNiを有するメッキ膜。
【請求項9】
前記NiS層の下側に少なくともNi層が存在する請求項6ないし8のいずれかに記載のNiを有するメッキ膜。
【請求項10】
Niを有するメッキ膜であって、
下側メッキ膜と、前記下側メッキ膜の上側に上側メッキ膜が積層されており、
前記下側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えてメッキ形成され、前記上側メッキ膜は、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成されたものであり、
前記下側メッキ膜と上側メッキ膜との間にNiS層を前記上側メッキ膜へ移動させないための中間膜が設けられることを特徴とするNiを有するメッキ膜。
【請求項11】
前記NiS層、前記NiO2層、及び前記NiSO層の存在は、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)にて分析される請求項1ないし4、及び6ないし9のいずれかに記載のNiを有するメッキ膜。
【請求項12】
さらに、オージェ電子分光分析法(AES)を用いて分析される請求項11記載のNiを有するメッキ膜。
【請求項13】
前記下側メッキ膜及び上側メッキ膜はNiFe合金にて形成される請求項1ないし12のいずれかに記載のNiを有するメッキ膜。
【請求項14】
Niを有するメッキ膜の製造方法であって、
下側メッキ膜と、前記下側メッキ膜上に上側メッキ膜を積層してメッキ形成し、
このとき、前記下側メッキ膜を、Niイオンを含むメッキ浴中に、サッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成し、前記上側メッキ膜を、Niイオンを含むメッキ浴中にサッカリンナトリウム二水和物を0.05g/l〜2.0g/lの範囲内で加えてメッキ形成して、前記上側メッキ膜中であって、膜表面よりも下方の位置にNiS層を形成することを特徴とするNiを有するメッキ膜の製造方法。
【請求項15】
前記上側メッキ膜を、前記NiS層が前記上側メッキ膜の中で最下層となる薄い膜厚にてメッキ形成する請求項14記載のNiを有するメッキ膜の製造方法。
【請求項16】
Niを有するメッキ膜の製造方法であって、
下側メッキ膜と、前記下側メッキ膜上に上側メッキ膜を積層してメッキ形成し、
このとき、前記下側メッキ膜を、Niイオンを含むメッキ浴中にサッカリンナトリウム二水和物を0.05g/l〜2.0g/lの範囲内で加えてメッキ形成し、前記上側メッキ膜を、Niイオンを含むメッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成することを特徴とするNiを有するメッキ膜の製造方法。
【請求項17】
前記上側メッキ膜を、前記下側メッキ膜中に形成されたNiS層が前記上側メッキ膜のメッキ成長に伴って消滅可能な膜厚にてメッキ形成する請求項16記載のNiを有するメッキ膜の製造方法。
【請求項18】
前記上側メッキ膜を、前記下側メッキ膜中に形成されたNiS層が、前記上側メッキ膜のメッキ成長に伴って前記上側メッキ膜内部に移動するとともに前記上側メッキ膜の最表面に達し得ない膜厚にてメッキ形成する請求項16記載のNiを有するメッキ膜の製造方法。
【請求項19】
Niを有するメッキ膜の製造方法であって、
下側メッキ膜と、前記下側メッキ膜の上側に上側メッキ膜を積層してメッキ形成し、
このとき、前記下側メッキ膜を、Niイオンを含むメッキ浴中にサッカリンナトリウム二水和物を0.05g/l〜2.0g/lの範囲内で加えてメッキ形成し、前記下側メッキ膜の上に、前記下側メッキ膜にて形成されたNiS層を上側メッキ膜へ移動させないための中間膜を形成し、さらに前記中間膜上に、前記上側メッキ膜を、メッキ浴中にサッカリンナトリウムを加えることなくメッキ形成することを特徴とするNiを有するメッキ膜の製造方法。
【請求項20】
メッキ浴中に添加するサッカリンナトリウム二水和物の添加量を0.1g/l〜1.0g/lの範囲内とする請求項14ないし19のいずれかに記載のNiを有するメッキ膜の製造方法。
【請求項21】
飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)による分析結果に基づいて、上側メッキ膜あるいは中間膜の膜厚、又は、サッカリンナトリウムの添加量を調整する請求項14ないし20のいずれかに記載のNiを有するメッキ膜の製造方法。
【請求項22】
オージェ電子分光分析法(AES)による分析結果に基づいて、上側メッキ膜あるいは中間膜の膜厚、又は、サッカリンナトリウムの添加量を調整する請求項14ないし21のいずれかに記載のNiを有するメッキ膜の製造方法。
【請求項23】
前記下側メッキ膜及び上側メッキ膜をNiFe合金にてメッキ形成する請求項14ないし22のいずれかに記載のNiを有するメッキ膜の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2009−46706(P2009−46706A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−211426(P2007−211426)
【出願日】平成19年8月14日(2007.8.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年2月22日に講演要旨集が発行され、平成19年3月9日に第115回講演大会の「TOF−SIMSによるめっき膜中に取り込まれためっき液添加剤の挙動解明」にて発表
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月14日(2007.8.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年2月22日に講演要旨集が発行され、平成19年3月9日に第115回講演大会の「TOF−SIMSによるめっき膜中に取り込まれためっき液添加剤の挙動解明」にて発表
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】
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