説明

OLED表示装置

【課題】動画モードと標準モードを、消費電力が大幅に増加することなく簡単な方法で切り替え可能な機能を実現するOLED表示装置を得る。
【解決手段】発光素子として有機発光ダイオードを用いたOLED表示装置において、表示パネルを駆動する駆動IC10に、標準モードから動画モードに移行させる動画モード信号の入力に基づいて標準モードと動画モードとのモード切り替えを行うモード切り替え手段として、ビデオデータの算出係数の変更を行うためのビデオデータ調整計数回路12及びガンマ調整計数回路13と、1フレーム内で消灯駆動を行い駆動制御の変更を行うための消灯開始信号発生器15とを備え、モード切り替えを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、発光素子として有機発光ダイオードを用いたOLED(Organic light-emitting diode)表示装置に関し、特に、ボケのない動画表示と長寿命化を実現するOLED表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、動きボケを防止すると共に、消費電力の増大及び短寿命化を抑制する表示装置として、入力データが動画か静止画かを識別する識別信号の値によって、動画の場合に黒挿入駆動を行い、静止画の場合に黒挿入を行わないようにして、黒挿入の際は、1フレームを前後のサブフィールドに分割し、前フィールドで映像を表示し、後フィールドで黒挿入するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−114286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
OLEDは、LCDと同様のデータホールド型駆動であるため、ビデオデータのリフレッシュ動作と目の動きの間に速度差が感知され、動画の動きにボケが生じる。LCDでは、この動画におけるボケを抑制するために、インパルス駆動や、倍速駆動などにより、改善が図られている。これらのボケ対策駆動は、OLEDにも有効であり、応用されつつある。しかし、これらを実現するためには、周波数の増加、ビデオデータの記憶・加工、黒データの作成・転送、そして、そのタイミング制御などが必要である。
【0005】
特に、携帯端末の性能向上と通信の高速化が可能となり、動画情報を扱う機会が増えてきている。しかし、消費電力の増加が問題となっており、有機ELでは、長寿命・低電力で滑らかな動画表示が可能な駆動方法が求められている。
【0006】
従来のOLED表示装置における問題点を列挙すると次のとおりである。
(1)データホールド型のOLED駆動法では、動画ボケが生じ易く、滑らかな動画表示に欠点がある。
(2)黒表示を行うことで動画ボケを抑制できるが、表示時間が短くなり、同一輝度を保持する場合、OLEDでの電流密度が増し、寿命が短くなるという問題がある。
(3)動画ボケ対策として駆動周波数が高くすることが考えられるが、駆動周波数を変えることは、設計変更の負荷が大きく、また、消費電力の増加につながるという問題がある。
(4)また、黒データ挿入についても、その方法や挿入量(率)のコントロールが簡単ではないという問題がある。
【0007】
この発明は上述した点に鑑みてなされたもので、動画を楽しめる動画モードとOLED材料の短寿命化を抑制する標準モードを、消費電力が大幅に増加することなく簡単な方法で切り替え可能な機能を実現するOLED表示装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係るOLED表示装置は、発光素子として有機発光ダイオードを用いたOLED表示装置において、表示パネルを駆動する駆動回路に、標準モードから動画モードに移行させる動画モード信号の入力に基づいて標準モードと動画モードとのモード切り替えを行うモード切り替え手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、用途に応じて、動画モードと標準モードを使い分けることで、ボケのない動画表示と長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態に係るOLED表示装置を説明するもので、駆動ICの機能を示すブロック図である。
【図2】2モードOLED表示装置におけるモード変更時に必要な仕様を示す図である。
【図3】駆動電流の増加と黒挿入率の関係を示す図である。
【図4】1フレームの画像を常にある割合だけ発光させる発光領域スクロール法による表示を示す図である。
【図5】消灯方法と駆動波形を説明する図である。
【図6】標準モード(Standard Mode)から動画モード(Moving Picture Mode)に移行する時の動作波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、具体的な実施の形態を説明する前に、この発明の要旨について説明すると、次のとおりである。
1.動画モードと標準(静止画・テキスト)モードとを、選択的に切り替えることができるようにする。
2.モードの切り替えは、ユーザーからの指示、表示データの種類(動画、静止画、テキストなど)、あるいはアプリケーションの種類に起因する信号に応じて行われる。
3.動画モードでは、標準モードでの輝度を消灯率に反比例した輝度に制御する。
4.両モードの切り替えは、ビデオデータの振幅やガンマの変更を含む操作で行い、駆動周波数の変更は行わない。
【0012】
次に、この発明の具体的な実施の形態について説明する。図1は、この発明の実施の形態に係るOLED表示装置を説明するもので、表示パネルを駆動する駆動回路としての駆動ICの機能を示すブロック図である。図1に示すOLED表示装置は、滑らかな動画を楽しめる動画モードと、OLED材料の短寿命化を抑制することができる標準モードとを、消費電力が大幅に増加することなく実現するモード切り替え手段を備えた2モードOLED表示装置を示すもので、駆動IC10と、消灯率設定回路20及び表示パネル30とで構成されている。なお、標準モードとは、画質が4.6Mbps前後のビットレートに設定されているモードを言う。
【0013】
駆動IC10は、従来と同様な構成としての論理回路11、ビデオデータRGBを格納するメモリ14、ビデオ信号RGBを直並列変換するDAC16及びドライバ17の他に、モード切り替え手段の構成として、ビデオデータの算出係数の変更を行うためのビデオデータ調整係数回路12及びガンマ調整係数回路13、1フレーム内で消灯駆動を行い駆動制御の変更を行うための消灯開始信号発生器15を備えている。
【0014】
図1に示すOLED表示装置において、標準モードから動画モードへの移行は、動画モード信号(MPM信号、MPM:Moving Picture Mode)の発生によって起動されるもので、MPM信号は、ユーザーからの指示、表示データの種類(動画、静止画、テキストなど)、あるいはアプリケーションの種類に起因する信号に基づいて発生する。MPM信号が活性化されると、ビデオデータ調整係数回路12において、ビデオデータ調整係数が、標準仕様の値(Standard)から動画モードの値αに変更される。同様に、ガンマ調整係数回路13において、ガンマ係数が、標準仕様の値(Standard)から動画モードの値βに変更される。そして、論理回路11において、ビデオデータ調整係数回路12からの調整係数α及びガンマ調整係数回路13からの調整係数βに基づいてビデオデータが計算される。
【0015】
また、消灯率設定回路20は、消灯率δに基づいて消灯時間設定信号(TOFF信号)を生成し、消灯開始信号発生器15は、消灯時間設定信号(TOFF信号)に基づいて消灯開始信号(OFFST信号)の生成を行うようになされ、消灯開始信号(OFFST信号)は、画素を順々に消灯させる回路を活性化させる機能を有する。消灯率設定回路20及び消灯開始信号発生器15は、駆動IC10外で作成しても良いし、駆動IC10内の論理回路11内で生成しても良い。また、調整係数α、βは、消灯率δが確定されることで決まる係数である。
【0016】
次に、図2は、2モードOLED表示装置におけるモード変更時に必要な仕様を示す図である。標準モードから動画モードに移行させる場合、パネル30内へは、消灯機能追加のための対応として、下記の対応(1)〜(4)を施す。
(1)画素駆動トランジスタD−Trの消灯用トランジスタTroffの追加
(2)消灯用トランジスタTroffの駆動用シフトレジスタ(SR)回路の追加
(3)消灯開始信号OFFSTの追加
(4)消灯開始信号OFFSTは動画モード時のみに発生する。
【0017】
また、入力信号への対応として、下記の対応(5)、(6)を施す。
(5)輝度アップのためのビデオデータの変換
Vsig=Vsig×α、Gamma=Gamma×β
(6)消灯率δに関連した調整係数α、βを求める。
【0018】
さらに、モード切り替えエントリー方法には、以下の3方法(7)〜(9)が考えられる。
(7)ユーザーあるいは表示装置を組み込むセットメーカーの指示によるもの
(8)動画(Mpeg)や静止画(Jpeg、Text、etc.)など、表示データの種類によるもの
(9)TV、Radio、Phone、Camera、Mailなど、アプリケーションの種類によるもの
【0019】
次に、パネル30内及び入力信号への対応として、以下の観点から詳細を示し、図2に示す対応(1)〜(6)の項目を説明する。
(a)動画ボケ対策
(b)標準モードから動画モードへ移行する時のビデオデータ
(c)黒データ挿入方法と表示方法(Emission Scroll法)
(d)黒データの作成方法
(e)動画モード(Moving Picture Mode:MPM)での動作波形
【0020】
(a)動画ボケ対策
駆動周波数は変化させることなく、1フレーム内の黒挿入時間を制御することで、動画ボケ対策を行う。
図3は、駆動電流の増加と黒挿入率の関係を示す図で、(a)は輝度と黒挿入率の関係を示し、(b)は駆動電流の数倍したときの動作点の動きを示している。設定輝度を一定に保持するとすれば、駆動電流を大きくすると、発光時間は短くなる。例えば、図3に示すように、
黒挿入50%の場合(点A→点B): 輝度2倍、発光時間50%。
黒挿入75%の場合(点A→点C): 輝度4倍、発光時間25%。
となり、発光時間が短くなるに従い、入力ビデオ電圧はVgsがより大きくなる方向に移動する。
【0021】
ここで、例えば、黒挿入50%は、消灯率δ=50%と同じ意味である。すなわち、動画モードでの輝度を、下式にしたがって、
動画モードでの輝度=標準モードでの輝度×(100/消灯率)
標準モードでの輝度を消灯率に反比例した値に制御することで、駆動周波数は変化させることなく、1フレーム内の黒挿入時間を制御することで、動画ボケ対策を行うことができる。
【0022】
(b)標準モードから動画モードへ移行する時のビデオデータ
飽和領域での駆動トランジスタTrの駆動電流は、以下の式で示される。
DS=W/L・μ・Cox・1/2・(VGS−Vth (1)
ここで、Wはチャネル幅、Lはチャネル長、μは移動度、
oxは単位面積当たりのゲート容量、
GSはゲート・ソース間電圧、Vthは閾値電圧をそれぞれ示す。
この発明では、黒挿入を行うため、発光時間が短くなり、輝度が低下する。標準モード時のピーク輝度と動画モード時の輝度を一定に保持しようとすると、駆動電流を大きくしてピーク輝度を大きくする必要がある。式(1)から、ソフトウエア的に可変可能なパラメータは、ゲート・ソース間電圧VGSである。このゲート・ソース間電圧をより大きくするために、ビデオデータVsigやGammaに下記のように調整係数α、βを掛ける。
・Vsig=Vsig×α ・Gamma=Gamma×β
α、βは、標準モードの変換係数とは異なり、動画モード時の表示(輝度、階調など)を正常に行うための調整係数であり、消灯率に影響される定数である。
【0023】
(c)黒データ挿入方法と表示方法(Emission Scroll法)
従来の黒データ挿入方法では、駆動周波数が大きくなる。これは、駆動の高速化により、消費電力が増加することを示しており、良い方法ではない。図4は、1フレームの画像を常にある割合だけ発光させる方式である、発光領域スクロール法による表示を示している。図4に示すように、1フレームを5画面に分けて、各画面内の黒挿入率を50%とした場合を示し、50%の発光領域が上から下に順次スクロールされるようにして表示される。このようにすると、駆動周波数を増加させることなく、動画ボケを抑制することができる。
【0024】
(d)黒データの作成方法(Emission Scroll法)
黒データの作成方法として、発光を停止し、消灯させる方法を選択する。
図5は、消灯方法と駆動波形を説明するもので、(a)は表示パネル30内の消灯用画素回路を示し、(b)は駆動線波形を示す。消灯方法は、1Vの期間内の1ショットパルスで、画素内の駆動トランジスタTr 2をオフさせることで行う。
この方法では、図5(a)に示すように、発光素子として有機発光ダイオードに電流を供給する駆動トランジスタTr 2を停止させる停止用トランジスタTr off、停止用トランジスタTr offのゲートに接続された停止用駆動信号線OFF Line、及び停止用駆動信号線OFF Lineを駆動する信号線用駆動回路としてOFF シフトレジスタが必要である。
【0025】
(e)動画モード(Moving Picture Mode:MPM)時の動作波形
図6は、標準モード(Standard Mode)から動画モード(Moving Picture Mode)に移行する時の動作波形を示している。動画モードに入ったことを意味する認識信号MPMが活性化(図中、“L”)することで、OFFシフトレジスタが活性化する。なお、図6において、VSTは垂直期間開始信号、VOUT1は垂直期間終了信号、VOUT2は消灯期間終了信号を示す。
【0026】
上述した実施の形態によれば、ボケのない動画映像を鑑賞する使い方と、OLEDの長寿命化に良い使い方の両方を提供できる。また、標準(通常)モードと動画モードとで、駆動周波数を変えないので、大きな消費電力の増加がなく、低消費電力駆動を実現でき、設計負担が軽く、開発コスト低減と製品開発が容易になる。
【符号の説明】
【0027】
10 駆動IC、11 論理回路、12 ビデオデータ調整係数回路、13 ガンマ調整係数回路、14 メモリ、15 消灯開始信号発生器、16 DAC、17 ドライバ、20 消灯率設定回路、30 表示パネル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光素子として有機発光ダイオードを用いたOLED表示装置において、
表示パネルを駆動する駆動回路に、標準モードから動画モードに移行させる動画モード信号の入力に基づいて標準モードと動画モードとのモード切り替えを行うモード切り替え手段を備えた
ことを特徴とするOLED表示装置。
【請求項2】
請求項1に記載のOLED表示装置において、
前記モード切り替え手段は、ビデオデータの算出係数の変更を行うためのビデオデータ調整計数回路及びガンマ調整計数回路と、1フレーム内で消灯駆動を行い駆動制御の変更を行うための消灯開始信号発生器とを備え、モード切り替えを行う
ことを特徴とするOLED表示装置。
【請求項3】
請求項2に記載のOLED表示装置において、
前記モード切り替え手段は、動画モードでの輝度を、下式にしたがって、
動画モードでの輝度=標準モードでの輝度×(100/消灯率)
標準モードでの輝度を消灯率に反比例した値に制御する
ことを特徴とするOLED表示装置。
【請求項4】
請求項3に記載のOLED表示装置において、
前記消灯開始信号発生器は、前記動画モード信号の入力に基づいて画素の発光を停止させる回路を起動させるための消灯開始信号を前記表示パネルに出力する
ことを特徴とするOLED表示装置。
【請求項5】
請求項4に記載のOLED表示装置において、
前記駆動回路は、前記動画モード信号が活性化した時に、前記ビデオデータ調整計数回路及び前記ガンマ調整計数回路からのビデオデータ調整係数及びガンマ調整係数を用いて計算されたビデオ信号と前記消灯開始信号とを前記表示パネルに出力する
ことを特徴とするOLED表示装置。
【請求項6】
請求項5に記載のOLED表示装置において、
前記消灯開始信号発生器は、前記表示パネルにある画素の消灯時間の比率を意味する消灯率に起因した消灯時間設定信号との入力に基づいて前記消灯開始信号を生成し、
前記駆動回路は、前記動画モード信号と前記消灯時間設定信号との入力に基づいて、標準モードの変換係数とは異なる調整係数で計算されたビデオ信号と前記消灯開始信号とを前記表示パネルに出力する
ことを特徴とするOLED表示装置。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項に記載のOLED表示装置において、
前記表示パネルは、発光素子に電流を供給する駆動トランジスタを停止させる停止用トランジスタと、当該停止用トランジスタのゲートに接続される停止用駆動信号線と、当該停止用駆動信号線を駆動する信号線用駆動回路とを搭載する
ことを特徴とするOLED表示装置。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項に記載のOLED表示装置において、
前記動画モード信号は、ユーザーからの指示、表示データの種類、表示装置が使用するアプリケーションの種類に起因する信号に基づいて発生する
ことを特徴とするOLED表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−75637(P2011−75637A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224366(P2009−224366)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(501426046)エルジー ディスプレイ カンパニー リミテッド (732)
【Fターム(参考)】