説明

PCB含有油の無害化処理方法及びPCB含有油の無害化処理装置

【課題】温和な操作条件でPCBを無害化可能であり、かつ少ない薬剤の使用量で高い無害化率を得ることができるPCB含有油の無害化処理方法を提供する。
【解決手段】PCB含有油、エタノール、イソプロパノール及び金属カルシウムを各々供給装置11、13、15、17で処理槽41に連続供給する。処理槽41では、攪拌機45を用いてこれを60℃の温度で攪拌混合し、PCB含有油と溶媒とを相溶化させ、PCB含有油と溶媒とが相溶化した状態でPCBを無害化させる。これにより少ない溶媒量ながらも高い無害化率を得ることができる。処理槽41でPCBが無害化処理された処理物は、冷却器53で20〜30℃まで冷却された後、相分離槽55に送られる。相分離槽55では処理物を静置させることで、溶媒相と油相とに相分離させる。これにより処理油及び溶媒を簡単に回収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCBを含有する絶縁油などPCB含有油の無害化処理方法及びPCB含有油の無害化処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
PCB(ポリ塩化ビフェニル)は、不燃性で化学安定性及び電気絶縁性に優れるため、従来、電気機器の絶縁油などとして使用されていたが、その有害性から現在では使用が禁止され、保管されているPCB及びPCBを含有する廃油などについても、無害化処理が義務付けられている。
【0003】
PCBの無害化技術については、これまでに多くの方法が開発、開示されている。例えば、脱塩素化分解処理方法として、KOHを用いて低濃度のPCBを含む絶縁油を無害化するアルカリ触媒分解法、NaOHを用いて低濃度のPCBを含む絶縁油を無害化する化学抽出分解法、金属ナトリウムを用いて低濃度のPCBを含む絶縁油を無害化する金属ナトリウム分散油脱塩素化法などがある。また水熱酸化分解によりPCBを無害化する方法として、超臨界水を利用して高濃度のPCBを含む絶縁油を無害化する超臨界水酸化分解法などもある(例えば非特許文献1参照)。この他、PCB、ダイオキシン類などの有機ハロゲン化合物の無害化処理方法として、上記無害化処理方法以外の方法も多く提案されている。
【0004】
しかしながら、従来のPCB又はダイオキシン類の無害化処理方法は、高温又は高圧の条件下で行う必要がある、大掛かりな装置が必要である、操作が複雑である点などが指摘されており、使用し易い方法とは言い難い。これに対し、簡単な装置で安全かつ簡便な操作で低濃度のPCBを含む廃油を無害化する方法として、低濃度のPCBを含む廃油を化学的に処理するに際し、廃油からPCBを分離、濃縮した後、PCBを脱塩素化処理する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。本発明者らも、従来の無害化処理方法に比べ、簡便かつ温和な操作条件でダイオキシン類をはじめ有機ハロゲン化合物を無害化可能な処理方法を確立し、特許を取得している(例えば特許文献2参照、例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006―223345号公報
【特許文献2】特許第3533389号公報
【特許文献3】特許第3785556号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】財団法人産業廃棄物処理事業振興財団,「廃棄物処理法新処理基準に基づくPCB処理技術ガイドブック(改訂版)」,株式会社ぎょうせい,2005年,P478〜P519
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の方法は、低濃度のPCBを含む廃油を化学的に処理するに際し、廃油からPCBを分離、濃縮した後、PCBを脱塩素化処理する方法であるが、PCBを脱塩素化処理するまでに、多くの工程が必要であり簡便な方法とは言い難い。本発明者らが開発した特許文献3に記載の有機ハロゲン化合物の無害化処理方法である金属カルシウム触媒法は、大略的には、エタノール中で有機ハロゲン化合物を金属カルシウム及び還元触媒で処理する方法であり、操作も大気圧又は微加圧、室温下で行えばよく簡便な方法である。また本発明者らが開発した還元触媒を含まない金属カルシウム法も同様である。金属カルシウム触媒法、金属カルシウム法を用いて低濃度のPCBを含む廃油を無害化することは可能であるが、PCBを含む廃油をより低コストで無害化するためには、薬剤の使用量を削減するなど更なる改善が必要である。
【0008】
本発明の目的は、温和な操作条件でPCBを無害化可能であり、かつ少ない薬剤の使用量で高い無害化率を得ることができるPCB含有油の無害化処理方法、及び簡単な装置構成で高い無害化率を得ることができるPCB含有油の無害化処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の本発明は、PCBを含有する油と、プロトン性溶媒と、前記プロトン性溶媒に少なくとも一部は溶解し電子移動による還元力を有する金属とを混合し、前記PCBを脱ハロゲン化及び/又は還元処理しPCBを無害化するPCB含有油の無害化処理方法において、前記油及び前記プロトン性溶媒に親和性を有する補助溶媒を添加し、エマルションを生じさせることなく前記油と前記プロトン性溶媒とを相溶化させ、油とプロトン性溶媒とを相溶化させた状態でPCBを脱ハロゲン化及び/又は還元処理しPCBを無害化することを特徴とするPCB含有油の無害化処理方法である。
【0010】
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載のPCB含有油の無害化処理方法において、前記プロトン性溶媒が、エタノールであり、前記補助溶媒が、イソプロピルアルコールであることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の本発明は、請求項1又は2に記載のPCB含有油の無害化処理方法において、前記PCBの脱ハロゲン化及び/又は還元処理を加熱下で行い、加熱温度が、エマルションを生じることなく前記油と前記プロトン性溶媒とが相溶化可能な温度であると共に、前記金属の前記プロトン性溶媒への溶解速度が所定の速度となる温度であることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の本発明は、PCBを含有する油を定量供給可能な油供給装置と、プロトン性溶媒、及び前記油と前記プロトン性溶媒とに親和性を有する補助溶媒を定量供給可能な溶媒供給装置と、前記プロトン性溶媒に少なくとも一部は溶解し電子移動による還元力を有する金属の粉粒体を定量供給可能な金属粉粒体供給装置と、前記PCBを含有する油、前記プロトン性溶媒、前記補助溶媒及び前記金属を受入れ、これらを混合し、エマルションを生じさせることなく前記油と前記プロトン性溶媒とを相溶化させ、PCBを脱ハロゲン化及び/又は還元処理する処理槽と、前記処理槽の内容物を撹拌混合する撹拌手段と、を含むことを特徴とするPCB含有油の無害化処理装置である。
【0013】
請求項5に記載の本発明は、請求項4に記載のPCB含有油の無害化処理装置において、さらにPCBが脱ハロゲン化及び/又は還元処理された前記処理槽の内容物から前記プロトン性溶媒、又は前記プロトン性溶媒及び前記補助溶媒を分離回収する溶媒回収装置を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のPCB含有油の無害化処理方法を用いることにより、少ない薬剤の使用量でかつ温和な操作条件ながらPCBを十分に無害化することができる。また、本発明のPCB含有油の無害化処理方法は、一つの工程でPCBを無害化することが可能であり、無害化処理方法も簡便である。さらに本発明のPCB含有油の無害化処理装置は、構成が簡便であり特殊な機器も必要とせず安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の一形態としてのPCB含有油の連続式無害化処理装置1の概略的構成を示すプロセスフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のPCB含有油の無害化処理方法は、PCBを含有する油と、プロトン性溶媒と、プロトン性溶媒に少なくとも一部は溶解し電子移動による還元力を有する金属とを混合し、PCBを脱ハロゲン化及び/又は還元処理しPCBを無害化するPCB含有油の無害化処理方法において、油及びプロトン性溶媒に親和性を有する補助溶媒を添加し、エマルションを生じさせることなく油とプロトン性溶媒とを相溶化させ、油とプロトン性溶媒とを相溶化させた状態でPCBを脱ハロゲン化及び/又は還元処理しPCBを無害化する。以下、本発明のPCB含有油の無害化処理方法を詳細に説明する。なお、PCBの脱ハロゲン化及び/又は還元処理をPCBの無害化処理、PCBの無害化及び無害化率をPCBの分解及び分解率と記す場合もある。また、プロトン性溶媒と補助溶媒とを合わせて溶媒と記す場合もある。また、懸濁液とは、プロトン性溶媒に少なくとも一部は溶解し電子移動による還元力を有する金属が、プロトン性溶媒に溶解して生成する金属塩又はこれを含む粒子を懸濁粒子とする液を言う。
【0017】
被処理物であるPCB含有油としては、変圧器の絶縁油などが例示されるが、PCBを含有する油であれば特定の油に限定されるものではない。また、PCB含有油に含まれるPCBの濃度も特定の濃度に限定されるものではない。少量の水分の混入を排除するものではないが、PCB含有油には水分が含まれないことが好ましい。PCB含有油に多くの水分が含まれていると、高い分解率を得ることができない。
【0018】
プロトン性溶媒は、水素イオンを供与することが可能な溶媒であり、このような溶媒としてアルコール類が例示される。ここで使用可能なアルコール類は、低級アルコールであり、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール(イソプロパノール)が例示される。中でもエタノールが好ましい。プロトン性溶媒の量は、PCBの分解速度を速めるためには多い方が好ましいが、一方で消費量が増加し、PCB含有油の処理コストを押し上げる。さらには無害化処理装置を大型化する必要が生じることから、プロトン性溶媒の量は少ないことが好ましい。本発明のPCB含有油の無害化処理方法において、プロトン性溶媒の量をPCB含有油に対して容積比で1/4〜1とすることができる。
【0019】
補助溶媒は、油とプロトン性溶媒とを相溶化せるための溶媒である。このときエマルションを生成させることなく、油とプロトン性溶媒及び補助溶媒とを均一化させることで、PCBの分解速度が速まり、PCBの分解率も高まる。こうような溶媒は、一般的に油及びプロトン性溶媒の両方に親和性を有する溶媒である。補助溶媒は、使用するプロトン性溶媒の種類に応じて適宜選択すればよい。プロトン性溶媒にエタノールを使用する場合は、補助溶媒はイソプロパノールが好ましい。イソプロパノールは、油とプロトン性溶媒とを相溶化せる相溶化剤として機能する他、プロトン性溶媒としても機能する。油とプロトン性溶媒との相溶化は、必ずしも室温下で相溶化する必要はなく、加熱した状態であってもよい。補助溶媒を添加し、油とプロトン性溶媒とを相溶化させるのは、PCBの分解速度を速め、分解率を高めることを目的としたものであるから、油とプロトン性溶媒とを相溶化可能な溶媒であっても、PCBの分解を阻害する補助溶媒は好ましくないことは言うまでもない。
【0020】
補助溶媒の添加量は、油とプロトン性溶媒とを相溶化させることが可能ならば、特定の量に限定されないが、補助溶媒の添加量を多くするに伴い、無害化処理装置を大型化する必要が生じることから、添加量は少ない方が好ましい。本発明のPCB含有油の無害化処理方法において、プロトン性溶媒と補助溶媒との組合せがエタノールとイソプロパノールの場合、イソプロパノールの量を、エタノールに対して容積比で1/4〜1とすることができる。
【0021】
本発明のPCB含有油の無害化処理方法において、触媒は、特に添加する必要はなく、むしろ触媒は添加しない方が好ましい。従来の金属カルシウム触媒法では、ダイオキシン類の分解にロジウムカーボン触媒などの還元触媒を共存させていたが(特許文献3参照)、本発明に係るPCB含有油の無害化処理方法では、後述の実施例、比較例からも分かるように還元触媒を添加しない方がPCBの分解率を高めることができた。
【0022】
プロトン性溶媒に少なくとも一部は溶解し電子移動による還元力を有する金属は、プロトン性溶媒に溶解し電子を供与することが可能な物質である。このような金属は、アルカリ金属、金属カルシウムなどのアルカリ土類金属、アルミニウムなどの第3族元素、鉄、亜鉛及びこれら元素を含む合金であり、中でも金属カルシウムが好ましい。金属カルシウムは、表層が空気中で酸化され、酸化被膜を形成するため内部の劣化が起こりづらく、金属ナトリウムに比較して極めて取扱い易い還元剤である。一方で金属カルシウムは、エタノールなどのプロトン性溶媒中では、表面の酸化被膜が比較的簡単に剥離し活性面が表れる。金属カルシウムの形状は、特に限定されないが、粒子径の小さい粉粒体の形状のものが好ましい。金属カルシウムの添加量は、必要以上に多くしてもPCBの分解速度、分解率は高まらず、逆に使用量を増大させ、さらには系の圧力を高めるので、必要以上に金属カルシウムを添加すべきではない。逆に少な過ぎても、十分に電子移動還元が起こらず、PCBの分解率は高くならない。金属カルシウムの添加量の一例を示せば、PCB含有油に含まれるPCBの濃度が50〜200ppmの場合、PCB含有油1Lに対して8〜12gである。
【0023】
PCB含有油の無害化処理温度は、油と溶媒との相溶性、及び金属のプロトン性溶媒への溶解速度から適宜決定することができるが、エマルションを生じることなく油とプロトン性溶媒とが相溶化可能な温度であると共に、金属のプロトン性溶媒への溶解速度が所定の速度となる温度であることが好ましい。例えば、プロトン性溶媒にエタノール、補助溶媒にイソプロパノールを使用する場合、50〜80℃とすればよい。ここで、金属のプロトン性溶媒への溶解速度が所定の速度となる温度とは、金属に金属カルシウムを使用する場合には、金属カルシウムの溶解によって生成した金属カルシウム塩を懸濁粒子とする懸濁液が出来にくく、金属カルシウム表面から発生する水素ガスの発生量が過多とならない温度である。必要以上に温度を高くし、金属カルシウムのプロトン性溶媒への溶解速度が速くなり過ぎると、金属カルシウムの溶解によって生成した金属カルシウム塩を懸濁粒子とする懸濁液が出来易くなり、また金属カルシウム表面から発生する水素ガスの発生量が多くなり過ぎる。懸濁液の生成、金属カルシウム表面から発生する多量の水素ガスは、金属カルシウムとPCBとの接触を阻害すると推察されるので、好ましくない。また、温度を高くし過ぎると、発生する水素ガスにより系の圧力が上昇し、さらには溶液の粘度も上昇するので、温度は必要以上に高くすべきではない。
【0024】
PCB含有油の無害化処理圧力は、基本的に、PCB含有油を無害化させる処理槽の容積、及び発生する水素ガス量で決定される。PCBの分解速度を速める点からは、圧力が高い方が好ましいが、必要以上に圧力を高めても、PCBの分解速度は速くならない。一方、装置化及び操作性の点からは圧力は低い方が好ましい。例えば、プロトン性溶媒にエタノール、補助溶媒にイソプロパノールを使用する場合、PCBの無害化処理圧力は、0.25MPa(abs)以下の圧力で行うことができる。
【0025】
本発明者は、本発明のPCB含有油の無害化処理方法が、少ない薬剤の使用量にもかかわらず、従来の金属カルシウム法、金属カルシウム触媒法と同等以上に迅速かつ高い分解率が得られる理由を次のように考えている。一般的にPCB含有油は、PCBと油との親和性が強く、従来の金属カルシウム法、金属カルシウム触媒法において、単にプロトン性溶媒及び金属カルシウムの添加量を低減させると、エマルション、懸濁液が生成し易くなりPCBが十分にプロトン性溶媒側に移行しないため、早い分解速度及び高い分解率が得られない。これに対して、本発明のPCB含有油の無害化処理方法では、補助溶媒を添加することで、油とプロトン性溶媒とが相溶化されるのでエマルション及び懸濁液が生成せず、少量のプロトン性溶媒及び金属カルシウムでありながら、PCBとプロトン性溶媒及び金属カルシウムとの接触機会が高まり、速い分解速度及び高い分解率が得られる。
【0026】
以上のように本発明のPCB含有油の無害化処理方法は、従来の金属カルシウム法、金属カルシウム触媒法に比較して薬剤の使用量を大幅に低減させることが可能であり、さらに高価な還元触媒も必要としないので、PCB含有油を低コストで処理することができる。また操作条件が温和であるので、装置化の際の製造コストも安くすることができる。
【0027】
次に本発明に係るPCB含有油の無害化処理方法の他の実施形態を説明する。次に示すPCB含有油の無害化処理方法では、補助溶媒を含むプロトン性溶媒とPCB含有油との相溶性の温度依存性を積極的に利用し、PCBを無害化した後の処理油の回収を簡便化する。
【0028】
補助溶媒として、次のような溶媒を使用する。温度の低い状態、例えば室温状態では、補助溶媒を加えてもPCB含有油とプロトン性溶媒とは、相分離した状態であり、これらを攪拌混合してもエマルション状態となる。一方、これらを加熱、例えば50〜80℃程度にすると、PCB含有油と補助溶媒を含むプロトン性溶媒とは相溶化し、均一化する。このような補助溶媒は、プロトン性溶媒との関係で異なるが、プロトン性溶媒にエタノールを使用する場合、補助溶媒としてイソプロパノールを使用すると、室温状態ではPCB含有油と溶媒とは相分離するが、温度を60℃程度に上昇させるとこれらは均一化し、その後、温度を室温状態とすると、PCB含有油と溶媒とは相分離する。
【0029】
補助溶媒にこのような溶媒を使用し、温度を高めた状態でPCBの無害化処理を行い、その後温度を低下させ、静置させると、PCBが無害化された処理油と溶媒とが相分離する。このような方法は、処理油と溶媒とを分離させるための特別の操作が不要であり、PCBが無害化された処理油を簡単に回収することができると共に、溶媒の再利用も容易に行うことができる。相分離槽を使用し油相と溶媒相とに相分離させると、金属カルシウム及び金属カルシウムの反応物は、比重の関係から一番底に沈殿するので、処理油と一緒に処分することも、金属カルシウム及び金属カルシウムの反応物と処理油とを分離し回収することもできる。
【0030】
本発明のPCB含有油の無害化処理方法は、PCB含有油のみならず、DDTなどPOPs(Persistent Organic Pollutants:残留性有機汚染物質)の無害化処理にも好適に使用することができる。
【0031】
上記のPCB含有油の無害化処理方法は、次に示す無害化処理装置を用いて実現することができる。図1は、本発明の実施の一形態としてのPCB含有油の連続式無害化処理装置1の概略的構成を示すプロセスフロー図である。本発明のPCB含有油の連続式無害化処理装置が、本実施形態に限定されないことは言うまでもない。以下、プロトン性溶媒にエタノールを、補助溶媒にイソプロパノールを、プロトン性溶媒に少なくとも一部は溶解し電子移動による還元力を有する金属に金属カルシウム粉末を使用する場合を例にとり説明する。
【0032】
連続式無害化処理装置1は、被処理物であるPCB含有油、溶媒等を供給する原材料供給系、PCBを分解する処理槽、処理物から処理油、溶媒を分離、回収する分離回収系に大別される。
【0033】
原材料供給系は、PCB含有油を供給するPCB含有油供給装置11、プロトン性溶媒であるエタノールを供給するエタノール供給装置13、補助溶媒であるイソプロパノールを供給するイソプロパノール供給装置15、金属カルシウムを供給する金属カルシウム供給装置17を含む。
【0034】
PCB含有油供給装置11は、PCB含有油を貯蔵する貯槽19を備え、定量供給ポンプ21を介してPCB含有油を処理槽41に連続的に定量供給する。エタノール供給装置13及びイソプロパノール供給装置15も各々と貯槽23、27を備え、各々定量供給ポンプ25、29を介してエタノール及びイソプロパノールを処理槽41に連続的に定量供給する。金属カルシウム供給装置17は、粉末状の金属カルシウムを貯留する貯槽31を備え、貯留する金属カルシウム粉末をスクリューフィーダ33を介して処理槽41に連続的に定量供給する。金属カルシウムは酸素と反応すると活性が低下するので、金属カルシウムを貯留する貯槽31には、窒素ガスなどの不活性ガスを導入するための不活性ガス導入管35及びガス排出管37が設けられている。PCB含有油、エタノールなどは、貯槽19、23、27に加熱手段を設け、又は定量供給ポンプ21、25、29と処理槽41とを結ぶ管路の途中に加熱器(図示を省略)を設け、これらを予め加熱し処理槽41に供給するようにしてもよい。
【0035】
処理槽41は、PCB含有油、溶媒などを受け入れ、PCBを脱ハロゲン化及び/又は還元処理しPCBを無害化し、処理槽41に接続する排出管43を通じて、処理物を排出する。処理槽41には、撹拌機45が装着されている。ここで使用する撹拌翼47の形状は、処理槽41の内容物を均一に撹拌混合することが可能であれば、特に限定されない。金属カルシウムを含む溶液は、粘度が高くないので傾斜翼、プロペラ翼など低粘度用の攪拌翼を使用することができる。この際、処理槽41内の内容物は、固体と液体とを含むため、固体が沈殿しないように最低浮遊化速度以上の撹拌速度で撹拌することが望ましい。
【0036】
処理槽41は、外壁に加熱ヒータ(図示省略)が取り付けられ、内容物を所定の温度に加熱する。また処理槽41は、上部にガスライン49を有し、ガスライン49の出口部には圧力調節弁(図示省略)が取り付けられ、処理槽41内を所定の圧力に調節する。またガスライン49の途中であって、圧力調節弁の上流側にはリフラックスコンデンサ51を備える。これにより処理槽41で反応過程において発生したガスは、必要に応じてガスライン49を通じて排出させることができる。この際、溶媒が同伴して系外に逃げないように、リフラックスコンデンサ51で、蒸気となった溶媒を凝縮させる。凝縮した溶媒は、処理槽41へ返送され、内容物と攪拌混合される。
【0037】
処理槽41の加熱方法は、処理槽41の外壁にヒータを装着する方法の他、処理槽41内にヒータを装着する方法、処理槽41内に加熱コイルを装着し、加熱コイルに温水、スチーム、熱媒を供給する方法、処理槽41の外側にジャケットを設け、ジャケットに温水、スチーム、熱媒を供給する方法などであってもよい。
【0038】
処理槽41の大きさは、PCBの分解に必要な滞留時間を確保できる大きさであればよく、被処理物の供給速度及び被処理物の分解速度などから適宜決定すればよい。また処理槽41は必ずしも槽型の処理槽である必要はなく、管型の処理器を使用可能なことは言うまでもない。また槽型の処理槽を用いた場合にあっても、処理槽41は、1槽である必要はなく、処理槽を多段直列に配設することも可能である。これらにより効率的に被処理物を無害化することができる。
【0039】
処理物は、余剰の溶媒などといっしょに処理槽41から排出管43を通じて連続的に排出され、分離回収系に送られる。分離回収系は、処理物から処理油、溶媒を分離、回収する系であり、冷却器53、相分離槽55及び蒸留装置57を主に構成される。
【0040】
冷却器53は、排出管43を通じて送られる処理物を冷却するための装置であり、処理物を処理油と溶媒とに相分離可能な温度まで冷却させる。必ずしも冷却器53のみで、処理物を処理油と溶媒とに相分離可能な温度まで冷却させる必要はなく、下流の相分離槽55に冷却手段を設け、冷却器53と相分離槽55とで処理物を処理油と溶媒とに相分離可能な温度まで冷却させてもよい。使用可能な冷却器53としては、従来から一般的に使用されている多管式の冷却器、コイル式の冷却器など間接式の冷却器が例示される。この他、二重管タイプの冷却器を使用することができる。冷却媒体は、冷却温度により適宜選定すればよく、本実施形態の場合、工業用水などの冷却水を使用することができる。
【0041】
相分離槽55は、冷却器53で冷却された処理物を静置させ、比重差により処理油と溶媒とに分離する。相分離槽55は、油相と溶媒相とに分離するに必要な時間を確保できる大きさを有している。なお相分離槽55の底部には、金属カルシウム及び金属カルシウム反応物が沈殿する。相分離槽55には冷却手段を設けてもよい。例えば、相分離槽55にジャケットを設ける、又は内部に冷却コイルを設けてもよく、相分離槽55に冷却手段を設けることで、冷却器53の負荷を下げることができる。但し、処理油と溶媒との分離度を高めるためには、相分離槽55内で液の乱れが少ない方が好ましく、熱による対流を考えれば可能な限り冷却器53で冷却することが好ましい。
【0042】
蒸留装置57は、相分離槽55で相分離された溶媒から、エタノールとイソプロパノールとを蒸留操作により分離し回収する。このような蒸留装置57は、特別の蒸留装置である必要はなく公知の蒸留装置を使用することができる。
【0043】
上記連続式無害化処理装置1において、所定量のPCB含有油、エタノール、イソプロパノール及び金属カルシウムを処理槽41に送り、処理槽41内の温度を約60℃とし、これらを攪拌混合すると、PCB含有油と溶媒とは均一化され、PCBは脱ハロゲン化及び/又は還元され無害化される。PCB含有油と溶媒とが均一化されることでPCBの分解速度が速くかつ分解率が非常に高くなる。PCBが無害化された処理物は、排出管43を通じて冷却器53に連続的に送られ、ここで処理油と溶媒とが相分離可能温度まで冷却される。冷却器53で冷却され処理油と溶媒とが相分離した処理物は、相分離槽55で油相と溶媒相とに相分離する。相分離した処理油は相分離槽55の下部から、溶媒は相分離槽55の上部から連続的に排出される。金属カルシウム及び金属カルシウム反応物は、相分離槽55の底部に沈降するので、適宜排出することができる。相分離槽55で相分離した溶媒は、蒸留装置57でエタノールとイソプロパノールが分離回収され、各々貯槽23、27に返送される。
【0044】
連続式無害化処理装置1は、プロトン性溶媒にエタノール、補助溶媒にイソプロパノールを使用する場合、処理槽41の温度は60℃、圧力は0.21MPa(abs)程度でよく操作条件が温和であり、装置の仕様も厳しくする必要がないことから、安価に製造することができる。さらに連続式無害化処理装置を構成する機器、装置も、汎用機器、装置を使用可能なことから入手も容易であり、比較的簡単に実現することができる。上記連続式無害化処理装置1では、相分離槽55で分離された処理油と金属カルシウム及び金属カルシウム反応物を各々分離し排出する例を示したが、これらを分離することなく一緒に排出してもよいことはもちろんである。蒸留装置57も必要に応じて設ければよい。上記実施形態では、プロトン性溶媒と補助溶媒とを別々に供給する例を示したけれども、これらを予め混合して一台の溶媒供給装置で供給するようにしてもよい。プロトン性溶媒と補助溶媒とを予め混合して一台の溶媒供給装置で処理槽41に供給する場合には、蒸留装置57を設けることなく、相分離槽55で分離された溶媒を溶媒供給装置に返送してもよい。このとき相分離槽55から返送される溶媒を分析し、プロトン性溶媒と補助溶媒との割合を求め、処理槽41に送る溶媒のプロトン性溶媒と補助溶媒との割合が所定の割合になるように、必要に応じてプロトン性溶媒と補助溶媒とを補充すればよい。また、連続式の無害化処理装置以外にも、回分式の処理装置、又は半回分式の処理装置とすることが可能なことは言うまでもない。
【実施例】
【0045】
実施例1
被処理物として次のようにして調製したPCB含有トランスオイルを用いた。新品のトランスオイル500mlに0.044gのKC500を加え、約12時間攪拌を行った。このトランスオイル中のPCB濃度を測定したところ、75ppmであった。PCB濃度の測定は、GC−MSを用いて行った。分解槽には、内部に攪拌子(φ6×20)を有する攪拌可能な密閉式の処理容器(ステンレス製、内容積84ml)を使用した。処理容器は、内容物の温度を測定する温度計及び内部の圧力を測定する圧力計を備える。加熱には、オイルバスを使用した。
【0046】
処理容器内にPCB濃度75ppmのPCB含有トランスオイル29ml、イソプロパノール6ml、エタノール24mlをこの順番で投入し、最後に粒状の金属カルシウム0.2855gを投入し、処理容器を密閉した。これをオイルバスに漬け、オイルバスの下に設置したスターラで攪拌子を600rpmで回転させ、内容物を攪拌しながら処理容器内の内温を60℃に調節し、3時間PCBの分解を行った。3時間経過後、処理容器内の内容物をビーカーに取り出した。さらに内容物を取り出した後の処理容器を、2Nの塩酸6〜10mlで洗浄し、この洗浄液を内容物の入ったビーカーに移し、残った金属カルシウムを処理した。トランスオイル相と溶媒相との2相に分離させた後、トランスオイル相を取り出しPCB濃度の測定を行った。
【0047】
実験の結果、分解処理後のPCB濃度は、0.3ppmであり、PCBの分解率は、99.6%であった。分解処理中の処理容器内の圧力は、経過時間に対してほぼ直線的に増加し、分解処理終了時の処理容器内の圧力は0.21MPa(abs)であった。
【0048】
比較例1
処理容器内にPCB濃度115ppmのPCB含有トランスオイル29ml、活性炭にパラジウムを10重量%担持したPd/C触媒0.0144g、イソプロパノール6ml、エタノール24mlをこの順番で投入し、最後に粉末状の金属カルシウム0.2828gを投入し、攪拌しながら処理容器内の内温を80℃に調節し、3時間PCBの分解を行った。他の実験要領は実施例1と同じである。
【0049】
実験の結果、分解処理終了後のPCB濃度は、27ppmであり、PCBの分解率は、76.5%であった。分解処理中の処理容器内の圧力は、分解処理開始後1時間で0.21MPa(abs)、分解処理開始後2時間で0.55MPa(abs)、分解処理終了時0.63MPa(abs)であった。
【0050】
比較例2
処理容器内にPCB濃度75ppmのPCB含有トランスオイル29ml、活性炭にパラジウムを10重量%担持したPd/C触媒0.0143g、イソプロパノール6ml、エタノール24mlをこの順番で投入し、最後に粉末状の金属カルシウム0.2854gを投入し、攪拌しながら処理容器内の内温を60℃に調節し、3時間PCBの分解を行った。他の実験要領は実施例1と同じである。
【0051】
実験の結果、分解処理終了後のPCB濃度は、10ppmであり、PCBの分解率は、86.7%であった。分解処理中の処理容器内の圧力は、分解処理開始後1時間で0.11MPa(abs)、分解処理開始後2時間で0.125MPa(abs)、分解処理終了時0.22MPa(abs)であった。
【0052】
参考例1
トランスオイルと溶媒との相溶性の実験を次の要領で行った。室温下で、試験管状の耐圧ガラス容器にトランスオイル4.8mlを投入した。このときの液の高さは27mmであった。次いでイソプロパノールを1ml添加し、攪拌、静置させたところ、均一相となっており、液の高さは30mmであった。この高さは、各々の液位を加算した高さとほぼ同じである。次いでエタノールを4ml添加し、攪拌、静置させたところ、二相に分離した。下の相がトランスオイル、上の相が溶媒であった。このときトランスオイルの高さは、25mmで初期の液の高さに比べ2mm減少した。溶媒相の高さは、21mmで、全体の液の高さは46mmであった。これを80℃に加熱、攪拌した後、静置させながら50℃まで冷却したところ全体が透明な一相であった。さらに80℃で攪拌した後12時間放置し室温まで冷却したところ、加熱前と同じように二相に分離した。このときの各相の高さは加熱前と同じであった。
【0053】
参考例2
イソプロパノールを添加しなかった以外、参考例1と同じ要領で実験を行った。室温下でトランスオイルとエタノールとを混合、静置させたところ二相に分離した。下の相がトランスオイル、上の相が溶媒であった。このときトランスオイルの高さは、25mmであり、エタノール添加前の液の高さに比べ2mm減少した。溶媒相の高さは、18mmで、全体の液の高さは43mmであった。これを80℃に加熱、攪拌した後、静置させながら50℃まで冷却したところ一相ながら全体が白濁した状態であった。さらに80℃で攪拌した後12時間放置し室温まで冷却したところ、加熱前と同じように二相に分離した。このときの各相の高さは加熱前と同じであり、各相とも透明であった。
【符号の説明】
【0054】
1 連続式無害化処理装置
11 PCB含有油供給装置
13 エタノール供給装置
15 イソプロパノール供給装置
17 金属カルシウム供給装置
41 処理槽
45 撹拌機
53 冷却器
55 相分離槽
57 蒸留装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PCBを含有する油と、プロトン性溶媒と、前記プロトン性溶媒に少なくとも一部は溶解し電子移動による還元力を有する金属とを混合し、前記PCBを脱ハロゲン化及び/又は還元処理しPCBを無害化するPCB含有油の無害化処理方法において、
前記油及び前記プロトン性溶媒に親和性を有する補助溶媒を添加し、エマルションを生じさせることなく前記油と前記プロトン性溶媒とを相溶化させ、油とプロトン性溶媒とを相溶化させた状態でPCBを脱ハロゲン化及び/又は還元処理しPCBを無害化することを特徴とするPCB含有油の無害化処理方法。
【請求項2】
前記プロトン性溶媒が、エタノールであり、
前記補助溶媒が、イソプロピルアルコールであることを特徴とする請求項1に記載のPCB含有油の無害化処理方法。
【請求項3】
前記PCBの脱ハロゲン化及び/又は還元処理を加熱下で行い、
加熱温度が、エマルションを生じることなく前記油と前記プロトン性溶媒とが相溶化可能な温度であると共に、前記金属の前記プロトン性溶媒への溶解速度が所定の速度となる温度であることを特徴とする請求項1又は2に記載のPCB含有油の無害化処理方法。
【請求項4】
PCBを含有する油を定量供給可能な油供給装置と、
プロトン性溶媒、及び前記油と前記プロトン性溶媒とに親和性を有する補助溶媒を定量供給可能な溶媒供給装置と、
前記プロトン性溶媒に少なくとも一部は溶解し電子移動による還元力を有する金属の粉粒体を定量供給可能な金属粉粒体供給装置と、
前記PCBを含有する油、前記プロトン性溶媒、前記補助溶媒及び前記金属を受入れ、これらを混合し、エマルションを生じさせることなく前記油と前記プロトン性溶媒とを相溶化させ、PCBを脱ハロゲン化及び/又は還元処理する処理槽と、
前記処理槽の内容物を撹拌混合する撹拌手段と、
を含むことを特徴とするPCB含有油の無害化処理装置。
【請求項5】
さらにPCBが脱ハロゲン化及び/又は還元処理された前記処理槽の内容物から前記プロトン性溶媒、又は前記プロトン性溶媒及び前記補助溶媒を分離回収する溶媒回収装置を含むことを特徴とする請求項4に記載のPCB含有油の無害化処理装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−259681(P2010−259681A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−114071(P2009−114071)
【出願日】平成21年5月10日(2009.5.10)
【出願人】(507234438)公立大学法人県立広島大学 (24)
【出願人】(394027319)タニ工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】