PID制御装置
【課題】装置特性が急激に変化したり、非線形挙動を示す装置であっても、装置を稼働させながら、高精度でPID定数を、自動調整を行う。
【解決手段】装置と、測定手段と、記憶手段と、予測モデルを作成するモデル作成手段と、予測モデルを用いて所定時間先の制御特性値を予測すると共に予測された制御特性値を用いて2以上の評価関数Imを計算する計算手段と、評価関数の2乗和ERNNを最小化するように、PID定数である比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdを決定する決定手段と、PID定数に基づいて制御特性値のPID制御を行う制御手段と、を備えたことを特徴とするPID制御装置。
【解決手段】装置と、測定手段と、記憶手段と、予測モデルを作成するモデル作成手段と、予測モデルを用いて所定時間先の制御特性値を予測すると共に予測された制御特性値を用いて2以上の評価関数Imを計算する計算手段と、評価関数の2乗和ERNNを最小化するように、PID定数である比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdを決定する決定手段と、PID定数に基づいて制御特性値のPID制御を行う制御手段と、を備えたことを特徴とするPID制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装置を稼働しながら、装置の制御特性値を高精度で制御可能なPID制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、PID制御による産業装置の自動化制御が行われている。一般的に、この自動化制御は、下記式(1)で表される伝達関数にPID定数を入力することにより行われている。
【0003】
【数1】
【0004】
そして、一般的に、このPID定数としては、操業条件に応じた特定の値が入力されている。しかしながら、各PID定数を一定のままとすると、外乱や経時的な装置特性の変化などにより、装置のPID制御の精度が低下する場合があった。そして、このような場合には、外乱や装置特性の変化を反映したPID定数の調整を行う必要があった。
【0005】
そこで、近年、PID定数を自動的に調整することが可能な、PID制御装置が提案されている。
特許文献1には、制御系に強制的にオンオフ信号(外乱)を引加し、制御対象の応答波形を観察することによりPID定数を自動調整する制御装置が開示されている。
【0006】
特許文献2及び3には、制御系を通常条件で作動時に観察される偏差の振動波形を観察し、連続する振動波形の振幅比からPID定数の調整係数を求め、既定のPID定数にこの調整係数を乗ずることにより自動調整を行う制御装置が開示されている。
【0007】
特許文献4には、ステップ応答に基づき制御対象をモデル化し、この制御量と操作量、ゲイン/時定数比及び無駄時間に基づいて近似化した内部モデル制御によりPIDパラメータを調整する制御装置が開示されている。
【0008】
特許文献5には、PID定数のうち、積分ゲインのみを変化させた場合、及び比例ゲインのみを変化させた場合の限界振動の感度及び周期を測定することにより、それぞれ積分ゲイン及び比例ゲインを調整するパラメータの調整方法が開示されている。
【0009】
特許文献6には、立ち上がり時間、整定時間、ダンピング率、オーバーシュート量などにより適合度関数を定義し、この関数を遺伝的アルゴリズムにより最小化しつつPID利得を調節するPID制御装置が開示されている。
【特許文献1】特開平3−3005号公報
【特許文献2】特開平4−138501号公報
【特許文献3】特開平4−84201号公報
【特許文献4】特開平8−110802号公報
【特許文献5】特開平7−281709号公報
【特許文献6】特開平10−31503号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1〜6に記載のPID定数の調整方法では、制御対象となる装置特性が急激に変化する場合や、制御対象となる装置が非線形挙動を示す場合には、高精度でPID制御をす行うことが困難であった。また、上記特許文献1〜6に記載のPID定数の調節方法には、装置内に外乱を印加してその応答波形を利用するものがあり、このような調製方法ではPID定数の調整中には一旦、装置を停止させる必要があったり、オフラインでの調整が必要となる場合があった。
【0011】
そこで、本発明者は上記課題を解決するため、鋭意、検討した。この結果、モデル作成手段により作成した予測モデルによって制御特性値を予測し、この予測した特性値から計算手段により評価関数Imを計算し、更に決定手段により評価関数の2乗和ERNNを最小化するようにPID定数を決定すれば良いことを発見した。そして、このように決定したPID定数に基づき、制御手段により装置のPID制御を行えば良いことを発見した。すなわち、本発明は、急激な装置特性の変化が起こったり非線形挙動を示す装置であっても、PID定数を自動調整して、高精度でPID制御が可能なPID制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の構成を有することを特徴とする。
1.装置と、
前記装置から特性値、及びPID制御を行う制御特性値を測定する測定手段と、
測定した前記特性値及び制御特性値を記憶する記憶手段と、
測定した前記特性値及び制御特性値を用いて、所定時間先の制御特性値を予測する予測モデルを作成するモデル作成手段と、
前記予測モデルを用いて所定時間先の制御特性値を予測すると共に、少なくとも予測された制御特性値を用いて、2以上の評価関数Imを計算する計算手段と、
下記式(1)で表される評価関数の2乗和ERNNを最小化するように、PID定数である比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdを決定する決定手段と、
【0013】
【数2】
【0014】
前記決定手段により決定された前記比例ゲインKp、積分時間Ti及び微分時間Tdに基づいて、前記装置の、制御特性値のPID制御を行う制御手段と、
を備えたことを特徴とするPID制御装置。
【0015】
2.前記装置が、石油精製プラントであることを特徴とする上記1に記載のPID制御装置。
【0016】
3.前記モデル作成手段は、互いに異なる種類の制御特性値を予測する2つ以上の前記予測モデルを作成し、
前記計算手段は、各予測モデルを用いて対応する制御特性値を予測すると共に、少なくとも予測された前記制御特性値を用いて前記評価関数を計算し、
前記決定手段は、各制御特性値の前記比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdを決定し、
前記制御手段は、前記決定手段により決定された比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdに基づいて、各制御特性値のPID制御を行うことを特徴とする上記1又は2に記載のPID制御装置。
【0017】
4.前記制御特性値は、温度、流量及び圧力からなる群から選択された少なくとも一種であることを特徴とする上記1〜3の何れか1項に記載のPID制御装置。
【0018】
5.前記計算手段は、前記評価関数として、下記式(2)〜(5)で表される4つの関数を計算することを特徴とする上記1〜4の何れか1項に記載のPID制御装置。
【0019】
【数3】
【0020】
6.前記PID制御装置において、所定時間が経過するたびに、
前記測定手段は、新規特性値として新たに特性値及び制御特性値の少なくとも一方を測定し、
前記記憶手段は、前記新規特性値を記憶し、
前記計算手段は、前記新規特性値を用いて前記予測モデルにより新たに所定時間先の制御特性値を予測すると共に、少なくとも前記予測モデルにより予測された制御特性値を用いて新たに前記評価関数を計算し、
前記決定手段は、新たに計算した評価関数Imの前記2乗和ERNNを最小化するように、新たに更新PID定数である比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdを決定し、
前記制御手段は、PID定数を前記更新PID定数の値に更新し、前記更新PID定数に基づいて、前記装置の制御特性値のPID制御を行う、
ことを特徴とする上記1〜5の何れか1項に記載のPID制御装置。
【0021】
7.前記計算手段は、前記評価関数の一部として、更に下記式(6)〜(8)で表される関数の計算を行うことを特徴とする上記6に記載のPID制御装置。
【0022】
【数4】
【0023】
8.前記制御手段による前記PID制御の伝達関数が、下記式(9)で表されることを特徴とする上記1〜7の何れか1項に記載のPID制御装置。
【0024】
【数5】
【0025】
なお、本明細書において、「制御特性値」とは、予測モデルによって予測され、決定手段によって決定されたPID定数に基づき、目標値となるよう制御を行う特性値のことを表す。「制御特性値」は、この点において、測定手段によって測定されるが目標値となるよう制御を行わない「特性値」とは区別される。
【発明の効果】
【0026】
本発明のPID制御装置は、装置特性が急激に変化したり、非線形挙動を示す装置であっても、装置を稼働させながら、自動的にPID定数を調整することができる。この結果、高精度で装置のPID制御を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明のPID制御装置は、装置、測定手段、記憶手段、モデル作成手段、計算手段、決定手段、制御手段を備える。図2は、本発明のPID制御装置の装置構成を模式的に表したものである。なお、図2中の矢印はデータ処理の方向を表している。
【0028】
まず、測定手段2により装置1から特性値、及びPID制御を行う制御特性値を測定し、この測定した特性値及び制御特性値は記憶手段3内にデータとして記憶される。次に、モデル作成手段4により、測定した特性値及び制御特性値を用いて、現在よりも所定時間先の制御特性値を予測可能な予測モデルを作成する。このモデル作成手段4による予測モデルの作成は、ニューラルネットワークを用いて行うが、その具体的な処理方法としてはバック・プロパゲーション法(Back Propagation Method)を用いる。
【0029】
そして、計算手段5では、測定した特性値、及び必要に応じて制御特性値を予測モデルに代入することにより所定時間先の制御特性値を予測する。また、これと同時に、少なくともこの予測された制御特性値を用いて評価関数を計算する。
【0030】
次に、決定手段6では、この計算した評価関数の2乗和ERNNが最小となるように、PID定数である比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdを決定する。この決定手段6によるPID定数の決定は、RNN(リカレント・ニューラルネットワーク)を用いて行うが、その具体的な処理方法としてはバック・プロパゲーション法(Back Propagation Method)を用いる。そして、制御手段7では、このように決定されたPID定数に基づいて、装置の制御特性値をPID制御することが可能となる。
【0031】
このように本発明のPID制御装置では、予測モデルにより予測された制御特性値を用いて比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdの決定を行う。このため、実際に装置に対して外乱等の刺激を与えることなく、PID定数の最適化を行うことができる。この結果、装置の稼働時間の向上、生産性の向上を図ることができる。また、予測モデルの作成及びPID定数の決定に、それぞれニューラルネットワーク及びRNN(リカレント・ニューラルネットワーク)を用いているため、高精度で制御特性値のPID制御を行うことができる。
【0032】
以下、図3のフローチャートに従って、本発明のPID制御装置の各手段による処理内容について詳細に説明する。
この装置としては、具体的に、プラントの全体や一部、特定の材料・物質の製造装置や処理装置、単一の装置や複数の装置が集合して構成されるプラント等を挙げることができるが、特にこれらの装置に限定されるわけではない。また、この装置としては例えば、石油精製プラントを挙げることができる。
【0033】
また、この装置には、装置の内部状態や、装置内に供給される原料や装置から排出される生成物・処理物の状態・物性を表す1以上の特性値が存在する。この特性値としては、例えば、原料・生成物などの流体の流量、温度、圧力、これらの特性値を組み合わせて計算された特性値、これらの特性値に特別な演算処理を施した特性値などを挙げることができる。
【0034】
まず、測定手段では、この装置の特性値、及び制御特性値を測定する(S1)。この測定する特性値、制御特性値の種類は1種類以上であれば良く、特性値、制御特性値は1種類であっても複数種であっても良いが、典型的には1種類の特性値、制御特性値を測定する。また、測定手段による1種類の特性値及び制御特性値の測定は、それぞれ装置内の1箇所で行っても、複数の箇所で行っても良い。この測定手段としては具体的には、温度センサー、圧力センサー、流量計などを挙げることができる。
【0035】
この測定手段は、予め入力した測定条件に従って、所定の条件で特性値及び制御特性値を測定できるようになっている。具体的には、測定手段は、装置内の特性値及び制御特性値を測定する位置、測定の時間間隔、測定のサンプリング数などを入力することにより、所望の条件で特性値及び制御特性値の測定を行うことができるようになっている。
【0036】
次に、記憶手段は、測定手段により測定された特性値及び制御特性値を記憶する(S2)。なお、記憶手段はオペレーターが必要とする特性値及び制御特性値のみを記憶し、不要な特性値及び制御特性値は削除できるようになっていても良い。この記憶手段は、各種処理を実行させるためのコンピュータプログラムが事前に格納されたハードウェアであれば良く、例えば、ROM(Read Only Memory)やHDD(Hard Disc Drive)、記憶装置に交換自在に装着されるCD(Compact Dics)−ROMやFD(Flexible Disc−cartridge)及びこれらの組み合わせ等で実施することが可能である。
【0037】
モデル作成手段は、記憶手段に記憶された特性値及び制御特性値に基づいて、所定時間先の制御特性値を予測する予測モデルを作成する。この予測モデルの作成に用いる特性値は1種類であっても複数種であっても良いが、典型的には、1種類の特性値と制御特性値に基づいて予測モデルを作成する。
【0038】
このモデル作成手段では、最急降下法に基づくバック・プロパゲーション法(Back Propagation Method)によって、所定時間先の制御特性値を予測する予測モデルを作成する。この最急降下法とは、ある適当な初期値から初めて繰り返し計算により最適な予測モデルを作成する計算方法である。以下に、この方法を詳細に説明する。
【0039】
まず、予測モデルの作成に使用する特性値、及び必要に応じて使用する制御特性値の値をxi(1)(1≦i≦n1)とする。そして、このxi(1)(1≦i≦n1)及びx0(1)から以下のようにsj(1)を定義する。なお、xi(1)(1≦i≦n1)には制御特性値を用いても、用いなくても良い。
【0040】
【数6】
【0041】
なお、上式においてn1+1は、バック・プロパゲーション法における入力層の数に相当する。
【0042】
次に、このsj(1)を用いて以下のようにsk(2)を定義する。
【0043】
【数7】
【0044】
なお、上式においてn2+1は、バック・プロパゲーション法における中間層の数に相当する。
次に、線形処理を行い、上記のようにして定義されたsk(2)をそのまま予測する予定の制御特性値とする。
【0045】
図4は、このバック・プロパゲーション法における上記式(11)〜(15)の処理を模式的に表したものである。まず、測定したn1個の特性値等xi(1)(1≦i≦n1)及び1個のx0(1)対して、線形関数による線形処理をする。この線形処理では入力したxi(1)をそのまま使用することとなり、xi(1)が入力層となる。また、入力層の数はn1+1個となる。
【0046】
次に、入力した特性値xi(1)と結合荷重wji(1)を用いて、sj(1)を計算する。この後、このsj(1)を(15)式で表されるシグモイド関数に代入してxj(2)(1≦j≦n2)を計算する。このxj(2)(1≦j≦n2)及びx0(2)が中間層となり、その層の数はn2+1個となる。次に、この計算したxj(2)と結合荷重wkj(2)を用いて、sk(2)を計算する。このsk(2)が出力層となり、その層の数は1個となる。そして、このsk(2)に対して線形関数による線形処理を施すことにより最終的に制御特性値を得る。なお、ここで、線形関数による線形処理では、sk(2)をそのまま制御特性値として使用することとなる。
【0047】
更に、この予測モデルにより予測された時刻t1の制御特性値、時刻t1において測定手段により実際に測定した制御特性値をyとから、この予測値と実測値の誤差を下記のようにENEと定義する。
【0048】
【数8】
【0049】
そして、バック・プロパゲーション法では,最急降下法により、この誤差ENEが最小となる最適な結合荷重wji(1)及びwkj(2)を求める。すなわち、結合荷重wji(1)及びwkj(2)については,適当な正の定数ηを学習係数とすると、その修正量Δwji(1)およびΔwkj(2)は、以下の通りとなる。
【0050】
【数9】
【0051】
この時、新しいwji(1)およびwkj(2)は以下のように修正される。
【0052】
【数10】
【0053】
ここで、∂ENE/∂wji(1)及び∂ENE/∂wkj(2)は、微分の連鎖律に基づき、以下のように計算される。
【0054】
【数11】
【0055】
そして、wji(1)及びwkj(2)として予め初期値を入力し、上記式(21)及び(22)に基づき計算した∂ENE/∂wji(1)及び∂ENE/∂wkj(2)から、上記(17)〜(20)式に基づき、wji(1)及びwkj(2)を決定する。
【0056】
次に、このように決定したwji(1)及びwkj(2)を初期値とし、時刻t1よりも一定の時間が進んだ時刻t2において上記と同様の処理を行いwji(1)及びwkj(2)を決定する。以降、t3、t4、t5・・・と時間を順次、進ませながら同様の処理を行い、t(n)の処理を行う際のwji(1)及びwkj(2)の初期値としてはt(n-1)の時に処理により決定されたwji(1)及びwkj(2)を用いる。
【0057】
このようにして予め定めた所定の回数だけ、繰り返し処理を行うことにより(S5)、最終的にwji(1)及びwkj(2)を決定して(S3)、予測モデルを作成することができる(S4)。なお、このwji(1)及びwkj(2)については、予め所定の方法によりwji(1)及びwkj(2)を初期値として決定した後、同じデータ範囲について繰り返し計算を行うことにより、決定しても良い。
【0058】
この作成された予測モデルでは、wji(1)及びwkj(2)が決定されているため、xi(1)のみが未知数となっており、xi(1)を入力すれば、所定時間先の制御特性値を予測することができるようになっている。なお、各処理((17)〜(22)式の処理)の繰り返し処理を行うごとに、使用するデータ(xi(1))の範囲は、異なるものとなる。
【0059】
また、予測モデルの作成に使用する特性値、制御特性値はその種類によってその値が大きく変化するため、正規化したものを予測モデルの作成に使用しても良い。この正規化の方法としては、例えば、以下の方法を挙げることができる。
【0060】
【数12】
【0061】
このようにモデル作成手段により作成した予測モデルは、バック・プロパゲーション法を用いるため、高精度で所定時間先の制御特性値を予測することが可能となる。
【0062】
次に、計算手段では、予測モデルを用いて所定時間先の制御特性値を予測する(S6)と共に、少なくとも予測された制御特性値を用いて、評価関数を計算する(S7)。なお、この際、予測モデルの作成に使用した特性値、制御特性値を正規化した場合、評価関数を計算する際には正規化を外す処理を行う。この方法としては、具体的には以下の方法を挙げることができる。
【0063】
【数13】
【0064】
この評価関数としては2つ以上を用いる必要があるが、制御特性値を予測(近似)可能なものであれば、その具体的な式の形は特に限定されない。また、この評価関数は少なくとも予測モデルにより予測した制御特性値を用いて計算するものであるが、この計算にはこれ以外の特性値や制御特性値の実測値を用いても良い。
【0065】
この評価関数としては、例えば、下記式(2)〜(5)で表される4つの関数であることが好ましい。下記式(2)〜(5)で表される評価関数は、特性値の挙動を高精度で近似することができる。また、装置として石油精製プラントのような制御特性値が複雑な挙動を示すものであっても高精度で近似できる。
【0066】
【数14】
【0067】
なお、上記T0は、制御特性値の目標値を変更するために、制御特性値に影響を及ぼす装置の操作条件を変更したため、制御特性値が変化し始める時間を表す。
【0068】
図1は、この評価関数I1、I2、I4の意義を表す図である。図1において、I1は変化前の制御特性値から制御特性値の目標値までの変化部分(グレーの部分の面積)、I2は制御特性値が目標値に達してからの目標値からの振動部分(グレーの部分の面積)、I4は制御特性値が目標値に達してから制御特性値が振動している時のその最大値と最小値の差を表す。すなわち、I1は応答の速応性についての評価、I2〜I4は応答の安定性についての評価を表している。従って、評価関数I1〜I4を用いた場合、これらの評価関数の2乗和ERNNを最小化するようにPID定数を決定することによって、高精度なPID制御が可能となる。
【0069】
なお、この評価関数は、その計算に使用する制御特性値の値によって大きく変化するため、正規化したものを用いても良い。この正規化の方法としては、例えば、以下の方法を挙げることができる。
【0070】
【数15】
【0071】
次に、決定手段では、下記式(1)で表される評価関数の2乗和ERNNが最小値となるように、比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdを決定する。
【0072】
【数16】
【0073】
この比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdの決定は、上記モデル作成手段による予測モデルの作成と同様、最急降下法に基づくバック・プロパゲーション法(Back Propagation Method)によって行う。ただし、モデル作成手段での処理では、入力値として装置内で測定された特性値、及び必要に応じて制御特性値を用いたが、この決定手段による処理では入力値として評価関数による計算値を用いる点が異なる。また、モデル作成手段での処理では、所定回数の繰り返し計算を行うことにより随時、結合荷重wji(1)及びwkj(2)を修正して予測モデルを作成したが、決定手段による処理では結合荷重wji(1)及びwkj(2)の決定を1回、行うか、又は更新時間が経過するごとにwji(1)及びwkj(2)の決定を行う点が異なる。
【0074】
以下に、決定手段による、ERNNを最小化する比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdの決定方法を詳細に示す。
まず、計算手段により計算された評価関数Iiを用いて、以下のようにsj(1)を定義する。
【0075】
【数17】
【0076】
なお、上式においてn1は、バック・プロパゲーション法における入力層の数に相当する。
【0077】
次に、以下のようにsk(2)を定義する。
【0078】
【数18】
【0079】
なお、上式においてn2+1は、バック・プロパゲーション法における中間層の数に相当する。
【0080】
そして、このsk(2)に対して線形関数による線形処理をすることにより最終的に3つのPID定数(比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Td:下記式(34)及び(35)ではg1=Kp(=s1(2))、g2=Ti(=s2(2))、g3=Td(=s3(2))、として示す。)を得る。なお、ここで、線形関数による線形処理では、sk(2)をそのままPID定数gk(比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Td)として使用することとなる。
【0081】
図5はこのバック・プロパゲーション法における上記式(26)〜(29)の処理を模式的に表したものである。まず、計算手段により計算したn1個の評価関数Iiに対して線形関数による線形処理をする。この線形処理では、入力した評価関数をそのまま使用することとなり、Iiが入力層でその層の数はn1個となる。
【0082】
次に、入力した評価関数Iiと結合荷重wji(1)を用いて、sj(1)を計算する。この後、このsj(1)を(29)式で表されるシグモイド関数に代入してxj(2)を計算する。このxj(2)が中間層となり、その層の数はn2+1個となる。次に、この計算したxj(2)と結合荷重wkj(2)を用いて、sk(2)(=gk)を計算する。このsk(2)(=gk)が出力層となり、その層の数は3個となる。そして、このsk(2)(=gk)に対して線形関数による線形処理をすることにより最終的に所定のPID定数である比例ゲインKp、積分時間Ti及び微分時間Tdを得る。なお、ここで、線形関数による線形処理では、sk(2)(=gk)をそのままPID定数として使用することとなる。
【0083】
なお、上記のようにPID定数を決定するためには、まず、モデル作成手段と同様にして、下記式中の、∂ERNN/∂wji(1)及び∂ERNN/∂wkj(2)を求める。
【0084】
【数19】
【0085】
この時、新しいwji(1)およびwkj(2)は以下のように修正される。
【0086】
【数20】
【0087】
ここで、∂ERNN/∂wji(1)及び∂ERNN/∂wkj(2)は、微分の連鎖律に基づき、以下のように計算される。
【0088】
【数21】
【0089】
なお、上記式(34)及び(35)中の、∂Im/∂g1については,初期値として予め制御手段に入力した比例ゲインKp[1]及びI[1]から、∂Im/∂g1=(I−I[1])/(Kp−Kp[1])として求めることができる。同様にして、∂Im/∂g2=(I−I[1])/(Ti−Ti[1])、∂Im/∂g3=(I−I[1])/(Td−Td[1])として求めることができる。なお、ここで、Ti[1]及びTd[1]は、それぞれ予め制御手段に入力した積分時間、微分時間を表す。また、k=1,2,又3であり、g1=Kp、g2=Ti、g3=Tdである。
【0090】
そして、上記式(30)〜(35)に従って、最終的にwji(1)及びwkj(2)を決定することができる(S8)。また、このようにして決定したwji(1)及びwkj(2)から、最終的に比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdを求めることができる(S9)。
【0091】
そして、制御手段では、このように決定した比例ゲインKp、積分時間Ti及び微分時間TdにPID定数を変更し、このPID定数に基づいて特性値を調節することにより、装置の制御特性値に対して目標値となるようにPID制御を行う。このように、目標の制御特性値を得るために実際に調節する条件は、典型的には、予測モデルの作成に使用した特性値となる。
【0092】
なお、この際、PID定数の決定に使用した評価関数を正規化した場合には、求めたPID定数gkに対して正規化を外す処理を行う。具体的には、この正規化を外す方法としては、例えば、以下の方法を挙げることができる。
【0093】
【数22】
【0094】
また、本発明のPID制御装置では、各手段はその機能を実現するように形成されていれば良く、例えば、所定の機能を発揮する専用のハードウェア、所定の機能がコンピュータプログラムにより付与されたものや、コンピュータプログラムにより各手段に実現された所定の機能及びこれらの組み合わせ等として実現することができる。
【0095】
本発明のPID制御装置では、各手段は個々の独立した存在である必要はなく、複数の手段が1個の部材として形成されていること、ある手段が他の手段の一部であること、ある手段の一部と他の手段の一部とが重複していること等が可能である。
【0096】
また、本発明のモデル作成手段、計算装置、及び決定手段は、コンピュータプログラムを読み取って対応する処理動作を実行できるハードウェアであれば良い。具体的には、CPU(Central Processing Unit)を主体として、これに、ROM、RAM(Random Access Memory)、I/F(Interface)ユニット等の各種デバイスが接続されたハードウェアなどで良い。
【0097】
本発明では、装置が、石油精製プラントであることが好ましい。石油精製プラントは、目標値の生産品質を保つために通常、何千もの制御ループを有している。また、複数の制御ループが干渉し合うため、従来の方法では、特性値の物理的な振る舞いを把握・モデル化するのは困難であると共に、途中でプラントを停止することも困難となっている。そこで、本発明の装置として石油精製プラントにニューラルネットワークを適用して予測モデルを作成し、この予測モデルを用いてPID定数を決定し、更にこのPID定数を用いてPID制御を行うことにより、高精度でプラントの制御特性値の制御を行うことができる。
【0098】
本発明のPID制御装置では、測定手段は、特性値と互いに異なる種類の制御特性値を測定することが好ましい。また、モデル作成手段が、互いに異なる種類の制御特性値を予測する2つ以上の予測モデルを作成することが好ましい。計算手段は、各予測モデルを用いて対応する制御特性値を予測すると共に、少なくとも予測された制御特性値を用いて、各予測モデルに対応する評価関数を計算することが好ましい。決定手段は、各制御特性値の比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdを決定することが好ましい。また、制御手段は、決定手段により決定された比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdに基づいて各制御特性値の制御を行うことが好ましい。すなわち、この場合、各制御特性値ごとに予測モデルの作成、並びに上記式(1)、(11)〜(22)、及び(26)〜(35)で表される処理が行われることとなる。また、各制御特性値ごとに上記式(2)〜(9)、(23)〜(25)及び(36)の処理を行っても良い。
【0099】
近年、使用される装置は大型化・複雑化しており、装置内で制御する制御特性値も2種類以上であることが多い。本発明では、このように大型且つ複雑な装置であっても、上記のように2種類以上の制御特性値のKp、Ti、及びTdを決定可能なように構成することにより、同時に複数の制御特性値の安定且つ高精度なPID制御が可能となる。
【0100】
本発明では、目標値となるよう制御を行う制御特性値は、温度、流量及び圧力からなる群から選択された少なくとも一種の物性値であることが好ましい。これらの制御特性値は、装置内の特性や原料、生成物に大きな影響を与える基本量であり、これらの制御特性値を制御することによって、安定した装置や原料・生成物の制御が可能となる。
【0101】
本発明のPID制御装置は更新時間が経過するたびに、各手段が以下の(A)〜(E)の流れの処理を行うことが好ましい。
(A)測定手段は、新規特性値として新たに特性値及び制御特性値の少なくとも一方を測定する。
(B)記憶手段は、新規特性値を記憶する。
(C)計算手段は、新規特性値を用いて予測モデルにより新たに所定時間先の制御特性値を予測すると共に、予測モデルにより予測された制御特性値から新たに評価関数を計算し直す。
(D)決定手段は、新たに計算し直した評価関数Imの2乗和ERNNを最小化するように、新たに更新PID定数である比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdを決定する。
(E)制御手段は、PID定数を更新PID定数の値に更新し、更新PID定数の値に基づいて、装置の制御特性値のPID制御を行う。
【0102】
図6は、このように所定時間ごとにPID定数を更新するPID制御装置の処理の流れを表すフローチャートである。
この装置においては、まず、図3のフローチャートに示されるように、上記式(1)、(11)〜(22)及び(26)〜(35)式の処理を行うことにより、予測モデルを作成すると共にPID定数を決定する(この処理過程は図6に示していない)。次に、予め入力した所定の更新時間が経過すると(S1)、測定手段は新規特性値として、新たに特性値及び制御特性値の少なくとも一方を測定する(S2)。そして、この新規特性値は、記憶手段に記憶される(S3)。
【0103】
次に、計算手段は、この新規特性値を用いて、予め作成した予測モデルにより制御特性値(予測値)を計算した(S4)のち、この制御特性値を用いて新たに評価関数を計算し直しなおす(S5)。なお、この際、評価関数としては、前回のPID定数の決定時に使用した評価関数を用いても、用いなくても良いが、安定した制御精度とするため、前回のPID定数の決定時に使用した評価関数を用いた方が好ましい。
【0104】
次に、決定手段は新たに計算し直した評価関数Imの2乗和ERNNを最小化するように新たに更新PID定数である比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdを決定する(S6,S7)。なお、この際、更新PID定数は、評価関数として新たに計算し直した評価関数を用い、上記式(34)及び(35)において、∂Im/∂g1=(I[N]−I[N−1])/(Kp[N]−Kp[N−1])、∂Im/∂g2=(I[N]−I[N−1])/(Ti[N]−Ti[N−1])、∂Im/∂g3=(I[N]−I[N−1])/(Td[N]−Td[N−1])として求める。そして、これ以外は、最初のPID定数を決定する処理(上記式(1)、(11)〜(22)及び(26)〜(35)式の処理)と同様の方法により、更新PID定数を決定する。なお、ここで、I[N]、Kp[N]、Ti[N]、Td[N]は、それぞれ今回(N回目)の更新時の評価関数、比例ゲイン、積分時間、微分時間を表す。また、I[N−1]、Kp[N−1]、Ti[N−1]、Td[N−1]は、それぞれ前回(N−1回目)の更新時の評価関数、比例ゲイン、積分時間、微分時間を表す。
【0105】
そして、最終的に制御手段は、PID定数を更新PID定数の値に更新し(S7)、更新PID定数の値に基づいて装置の制御特性値の制御を行う。
なお、このような更新は予め更新条件として入力した更新回数となるまで、PID定数の更新を繰り返す(S9)。
【0106】
本発明のPID制御装置は、このように所定時間ごとにPID定数を更新できるように構成することによって、長時間、装置を稼働した場合であっても、高精度で制御特性値を制御することが可能となる。また、外乱や装置の雰囲気環境の変化によって、装置特性が急激に変化した場合であっても、高精度で制御特性値を制御することができる。
【0107】
なお、PID定数の更新時間は、装置特性及び制御特性値の性質に合わせて、適宜、設定すれば良い。例えば、制御特性値が頻繁に変化する装置に関しては更新時間を短くし、制御特性値が安定している装置に関しては更新時間を長くすれば良い。また、予め一定時間、制御特性値を測定して、単位時間当たりの制御特性値の変化量から更新時間を決定しても良い。また、PID定数の更新回数は、装置の稼働期間に合わせて適宜、設定すれば良い。
また、上記の更新時間が経過するたびに、各手段が以下の(A)〜(E)の流れの処理を行い、更新PID定数を決定する処理は、複数の制御特性値のPID定数に対して行っても良い。
【0108】
また、PID制御装置が所定時間ごとにPID定数を更新する場合、計算手段は評価関数の一部として、更に下記式(6)〜(8)で表される関数の計算を行うことが好ましい。
【0109】
【数23】
【0110】
上記式(6)〜(8)の評価関数には、それぞれ1回目からN−1回目の更新により決定された各更新PID定数が含まれている。また、各更新PID定数には、更新回数が少ない時の更新PID定数ほど高次のd1(0<d1<1)を乗じたものとなっている。このため、上記式(6)〜(8)の評価関数は、前回の更新までの更新PID定数の履歴の影響を表すものであり、更新回数が多い更新時の更新PID定数ほど現在の更新PID定数への影響力が大きいものとなっている。このため、これらの評価関数を用いて、現在の更新PID定数を更新することにより、現在までの更新PID定数の履歴を反映した、より高精度な更新PID定数の決定が可能となる。
【0111】
図7は、上記式(2)〜(5)及び(6)〜(8)の評価関数を用いて更新PID定数を決定する際の、決定手段による処理の過程を模式的に表したものである。この処理過程では、入力層として、評価関数I1〜I4に加えて、前回までに更新された更新PID定数の履歴をフィードバックし評価関数I5〜I7を用いている。このように更新するたびに前回までの履歴を評価関数I5〜I7としてフィードバックすることにより、高精度なPID制御が可能となる。なお、図7の処理では、これ以外は図5と同様の方法により処理を行う。
【0112】
本発明の制御手段による、装置の制御特性値のPID制御の伝達関数は、下記式(9)で表されることが好ましい。
【0113】
【数24】
【0114】
このような伝達関数を用いることにより、より高精度でPID制御を行うことができる。
【実施例】
【0115】
(実施例1)
PID制御を行うための装置として脱硫装置を、本発明のPID制御装置の中に組み込み、PID制御を行った。図8にこの脱硫装置の概略を示す。図8の脱硫装置内を原料及び生成物は下記のように流れる。
【0116】
入口部11から原料油を供給し、これを昇圧した後、水素と混合する。そして、この混合組成物を加熱炉15に供給して所定の温度まで昇温した後、反応塔16に導入する。この反応塔16内では水素化反応による脱硫を行った後、気液混合物を冷却する。この後、更に分離槽17に導入して、ガスと油を分離する。次に、分離した油をストリッパー18に導き、硫化水素や同伴ガスを分離する。この後、水分を除去した後、最終生成物としてタンク(図示していない)へ導入する。
【0117】
本実施例では、上記脱硫装置において、バルブ12及び19の開度を特性値とし、流量計13における流量及び温度計14における温度を、PID制御を行う制御特性値とした。そして、これらの流量及び温度は、バルブ12及び19の開度を制御することによって、PID制御を行った。なお、流量計13(測定手段)にはオリフィス流量計、温度計14(測定手段)には熱電対型温度計を使用した。
【0118】
(a)流量のPID制御
制御手段によるPID制御の伝達関数としては、上記式(9)の伝達関数を用いた。まず、最初に制御手段のPID定数の初期値として、比例ゲインKpを0.4、積分時間Tiを6分、微分時間Tdを0.5分、微分ゲインaを0.1とし、比例ゲインKp、積分時間Ti、微分時間Tdの最適化を行った。
【0119】
図8の装置に対して、まず、測定手段により、1分ごとにバルブ12の開度(特性値)、流量計13での流量(制御特性値)を測定した後、これらの測定データの間に対してはスプライン関数による補間を行い0.5秒ごとのデータに修正した。そして、これらのデータを記憶手段に記憶させた。図9のyは、このようにして実際に測定及び補間をした、流量計13での流量(制御特性値)データの一部を表す図である。
【0120】
次に、記憶させたデータのうち、所定時間から14分前までの1分おきのバルブ12の開度(特性値)15点、所定時間の10分前から1分前までの1分おきの流量計13での流量(制御特性値)を10点、用いて、モデル作成手段により、0.5秒先の流量計13での流量(制御特性値)を予測する予測モデルを作成した。この場合、モデル作成手段における入力層(上記式(11)のn1+1)は25、中間層(上記式(13)のn2+1)は15とした。
【0121】
そして、図9の(A)の部分に関してwji(1)及びwkj(2)の決定を行う学習(wji(1)及びwkj(2)を決定する処理)を3000回、繰り返すことにより最終的にwji(1)及びwkj(2)を決定し、予測モデルを確定させた。
【0122】
次に、計算手段では、バルブ12の開度(特性値)と流量計13での流量(制御特性値)をデータとして用い、上記のように確定した予測モデルに代入することにより0.5秒先の流量計13での流量(制御特性値)を予測した。また、これと共に、下記式(2)〜(8)で表される評価関数を計算した。
【0123】
【数25】
【0124】
図10は、このようにして作成された予測モデルにより予測した流量計13での流量(制御特性値)と、実際に測定した流量計13での流量(制御特性値)を表したものである。図10の結果より、本発明のモデル作成手段により作成された予測モデルにより予測される曲線は、実測値の曲線とよく一致しており、高精度で流量計13での流量の変化を予測できていることが分かる。
【0125】
次に、上記のようにして決定した評価関数を用いて、上記式(1)で表される評価関数の2乗和ERNNを最小化するように、決定手段により、PID定数(比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Td)を決定した。この際、具体的には、上記式(1)〜(36)の処理を行った。また、この場合、入力層(上記式(26)のn1)は7、中間層(上記式(27)のn2+1)は5とした。そして、制御手段により、このように決定されたPID定数を用いて、バルブ12の開度を制御することによって、流量計13での流量のPID制御を行った。
【0126】
また、1分ごとに、以下の処理を行った。
(1)測定手段により、新規特性値として新たにバルブ12の開度と流量計13での流量を測定した。
(2)記憶手段により、上記新規特性値を記憶させた。
(3)計算手段では、上記のようにして決定した予測モデルに、上記新規特性値を代入することにより新たに0.5秒先の流量計13での流量を予測すると共に、予測モデルにより予測された流量から新たに評価関数を計算し直した。
(4)決定手段は、新たに計算し直した評価関数Imの2乗和ERNNを最小化するように新たに更新PID定数である比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdを決定した。
(5)制御手段は、PID定数を更新PID定数の値に更新し、更新PID定数の値に基づいて、バルブ12の開度を制御することによって、流量計13での流量のPID制御を行った。
そして、上記(1)〜(5)の処理を合計で30回、行った。
【0127】
図11及び12は、評価関数I1〜I4及びPID定数(比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Td)へのPID定数の更新回数の影響を表したものである。図11の結果では、評価関数によって一定値に収束する更新回数は異なっているが、更新回数が15回程度で各評価関数はほぼ一定値に収束していることが分かる。また、図12の結果からは、評価関数が一定値に収束する更新回数15回当たりで、各PID定数も一定値に収束していることが分かる。これらの結果から、本発明のPID制御装置は高精度で、PID定数のオートチューニングを行えることが分かる。
【0128】
(b)温度の制御
バルブ19の開度を特性値、温度計14における温度を制御特性値とした以外は、上記(a)流量の制御と同様にして、温度計14における温度のPID制御を行った。この結果、流量と同様、更新回数が15回程度で各評価関数及び各PID定数も一定値に収束した。これらの結果から、本発明のPID制御装置は高精度で、PID定数のオートチューニングを行えることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】評価関数I1、I2及びI4の意義を表す図である。
【図2】本発明のPID制御装置の装置構成の一例を表す図である。
【図3】本発明のPID制御装置による処理過程の一例を表すフローチャートである。
【図4】本発明のPID制御装置のモデル作成手段による処理の一例を表す図である。
【図5】本発明のPID制御装置の決定手段による処理の一例を表す図である。
【図6】本発明のPID制御装置による処理過程の一例を表すフローチャートである。
【図7】本発明のPID制御装置の決定手段による処理の一例を表す図である。
【図8】実施例1でPID制御を行った装置を表す図である。
【図9】実施例1の装置の流量の測定結果を表す図である。
【図10】実施例1の装置の流量の測定結果と、予測モデルによる予測結果を表す図である。
【図11】実施例1の処理結果を表す図である。
【図12】実施例1の処理結果を表す図である。
【符号の説明】
【0130】
1 装置
2 測定手段
3 記憶手段
4 モデル作成手段
5 計算手段
6 決定手段
7 制御手段
11 入口部
12 バルブ
13 流量計
14 温度計
15 加熱炉
16 反応炉
17 分離槽
18 ストリッパー
19 バルブ
【技術分野】
【0001】
本発明は、装置を稼働しながら、装置の制御特性値を高精度で制御可能なPID制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、PID制御による産業装置の自動化制御が行われている。一般的に、この自動化制御は、下記式(1)で表される伝達関数にPID定数を入力することにより行われている。
【0003】
【数1】
【0004】
そして、一般的に、このPID定数としては、操業条件に応じた特定の値が入力されている。しかしながら、各PID定数を一定のままとすると、外乱や経時的な装置特性の変化などにより、装置のPID制御の精度が低下する場合があった。そして、このような場合には、外乱や装置特性の変化を反映したPID定数の調整を行う必要があった。
【0005】
そこで、近年、PID定数を自動的に調整することが可能な、PID制御装置が提案されている。
特許文献1には、制御系に強制的にオンオフ信号(外乱)を引加し、制御対象の応答波形を観察することによりPID定数を自動調整する制御装置が開示されている。
【0006】
特許文献2及び3には、制御系を通常条件で作動時に観察される偏差の振動波形を観察し、連続する振動波形の振幅比からPID定数の調整係数を求め、既定のPID定数にこの調整係数を乗ずることにより自動調整を行う制御装置が開示されている。
【0007】
特許文献4には、ステップ応答に基づき制御対象をモデル化し、この制御量と操作量、ゲイン/時定数比及び無駄時間に基づいて近似化した内部モデル制御によりPIDパラメータを調整する制御装置が開示されている。
【0008】
特許文献5には、PID定数のうち、積分ゲインのみを変化させた場合、及び比例ゲインのみを変化させた場合の限界振動の感度及び周期を測定することにより、それぞれ積分ゲイン及び比例ゲインを調整するパラメータの調整方法が開示されている。
【0009】
特許文献6には、立ち上がり時間、整定時間、ダンピング率、オーバーシュート量などにより適合度関数を定義し、この関数を遺伝的アルゴリズムにより最小化しつつPID利得を調節するPID制御装置が開示されている。
【特許文献1】特開平3−3005号公報
【特許文献2】特開平4−138501号公報
【特許文献3】特開平4−84201号公報
【特許文献4】特開平8−110802号公報
【特許文献5】特開平7−281709号公報
【特許文献6】特開平10−31503号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1〜6に記載のPID定数の調整方法では、制御対象となる装置特性が急激に変化する場合や、制御対象となる装置が非線形挙動を示す場合には、高精度でPID制御をす行うことが困難であった。また、上記特許文献1〜6に記載のPID定数の調節方法には、装置内に外乱を印加してその応答波形を利用するものがあり、このような調製方法ではPID定数の調整中には一旦、装置を停止させる必要があったり、オフラインでの調整が必要となる場合があった。
【0011】
そこで、本発明者は上記課題を解決するため、鋭意、検討した。この結果、モデル作成手段により作成した予測モデルによって制御特性値を予測し、この予測した特性値から計算手段により評価関数Imを計算し、更に決定手段により評価関数の2乗和ERNNを最小化するようにPID定数を決定すれば良いことを発見した。そして、このように決定したPID定数に基づき、制御手段により装置のPID制御を行えば良いことを発見した。すなわち、本発明は、急激な装置特性の変化が起こったり非線形挙動を示す装置であっても、PID定数を自動調整して、高精度でPID制御が可能なPID制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の構成を有することを特徴とする。
1.装置と、
前記装置から特性値、及びPID制御を行う制御特性値を測定する測定手段と、
測定した前記特性値及び制御特性値を記憶する記憶手段と、
測定した前記特性値及び制御特性値を用いて、所定時間先の制御特性値を予測する予測モデルを作成するモデル作成手段と、
前記予測モデルを用いて所定時間先の制御特性値を予測すると共に、少なくとも予測された制御特性値を用いて、2以上の評価関数Imを計算する計算手段と、
下記式(1)で表される評価関数の2乗和ERNNを最小化するように、PID定数である比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdを決定する決定手段と、
【0013】
【数2】
【0014】
前記決定手段により決定された前記比例ゲインKp、積分時間Ti及び微分時間Tdに基づいて、前記装置の、制御特性値のPID制御を行う制御手段と、
を備えたことを特徴とするPID制御装置。
【0015】
2.前記装置が、石油精製プラントであることを特徴とする上記1に記載のPID制御装置。
【0016】
3.前記モデル作成手段は、互いに異なる種類の制御特性値を予測する2つ以上の前記予測モデルを作成し、
前記計算手段は、各予測モデルを用いて対応する制御特性値を予測すると共に、少なくとも予測された前記制御特性値を用いて前記評価関数を計算し、
前記決定手段は、各制御特性値の前記比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdを決定し、
前記制御手段は、前記決定手段により決定された比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdに基づいて、各制御特性値のPID制御を行うことを特徴とする上記1又は2に記載のPID制御装置。
【0017】
4.前記制御特性値は、温度、流量及び圧力からなる群から選択された少なくとも一種であることを特徴とする上記1〜3の何れか1項に記載のPID制御装置。
【0018】
5.前記計算手段は、前記評価関数として、下記式(2)〜(5)で表される4つの関数を計算することを特徴とする上記1〜4の何れか1項に記載のPID制御装置。
【0019】
【数3】
【0020】
6.前記PID制御装置において、所定時間が経過するたびに、
前記測定手段は、新規特性値として新たに特性値及び制御特性値の少なくとも一方を測定し、
前記記憶手段は、前記新規特性値を記憶し、
前記計算手段は、前記新規特性値を用いて前記予測モデルにより新たに所定時間先の制御特性値を予測すると共に、少なくとも前記予測モデルにより予測された制御特性値を用いて新たに前記評価関数を計算し、
前記決定手段は、新たに計算した評価関数Imの前記2乗和ERNNを最小化するように、新たに更新PID定数である比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdを決定し、
前記制御手段は、PID定数を前記更新PID定数の値に更新し、前記更新PID定数に基づいて、前記装置の制御特性値のPID制御を行う、
ことを特徴とする上記1〜5の何れか1項に記載のPID制御装置。
【0021】
7.前記計算手段は、前記評価関数の一部として、更に下記式(6)〜(8)で表される関数の計算を行うことを特徴とする上記6に記載のPID制御装置。
【0022】
【数4】
【0023】
8.前記制御手段による前記PID制御の伝達関数が、下記式(9)で表されることを特徴とする上記1〜7の何れか1項に記載のPID制御装置。
【0024】
【数5】
【0025】
なお、本明細書において、「制御特性値」とは、予測モデルによって予測され、決定手段によって決定されたPID定数に基づき、目標値となるよう制御を行う特性値のことを表す。「制御特性値」は、この点において、測定手段によって測定されるが目標値となるよう制御を行わない「特性値」とは区別される。
【発明の効果】
【0026】
本発明のPID制御装置は、装置特性が急激に変化したり、非線形挙動を示す装置であっても、装置を稼働させながら、自動的にPID定数を調整することができる。この結果、高精度で装置のPID制御を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明のPID制御装置は、装置、測定手段、記憶手段、モデル作成手段、計算手段、決定手段、制御手段を備える。図2は、本発明のPID制御装置の装置構成を模式的に表したものである。なお、図2中の矢印はデータ処理の方向を表している。
【0028】
まず、測定手段2により装置1から特性値、及びPID制御を行う制御特性値を測定し、この測定した特性値及び制御特性値は記憶手段3内にデータとして記憶される。次に、モデル作成手段4により、測定した特性値及び制御特性値を用いて、現在よりも所定時間先の制御特性値を予測可能な予測モデルを作成する。このモデル作成手段4による予測モデルの作成は、ニューラルネットワークを用いて行うが、その具体的な処理方法としてはバック・プロパゲーション法(Back Propagation Method)を用いる。
【0029】
そして、計算手段5では、測定した特性値、及び必要に応じて制御特性値を予測モデルに代入することにより所定時間先の制御特性値を予測する。また、これと同時に、少なくともこの予測された制御特性値を用いて評価関数を計算する。
【0030】
次に、決定手段6では、この計算した評価関数の2乗和ERNNが最小となるように、PID定数である比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdを決定する。この決定手段6によるPID定数の決定は、RNN(リカレント・ニューラルネットワーク)を用いて行うが、その具体的な処理方法としてはバック・プロパゲーション法(Back Propagation Method)を用いる。そして、制御手段7では、このように決定されたPID定数に基づいて、装置の制御特性値をPID制御することが可能となる。
【0031】
このように本発明のPID制御装置では、予測モデルにより予測された制御特性値を用いて比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdの決定を行う。このため、実際に装置に対して外乱等の刺激を与えることなく、PID定数の最適化を行うことができる。この結果、装置の稼働時間の向上、生産性の向上を図ることができる。また、予測モデルの作成及びPID定数の決定に、それぞれニューラルネットワーク及びRNN(リカレント・ニューラルネットワーク)を用いているため、高精度で制御特性値のPID制御を行うことができる。
【0032】
以下、図3のフローチャートに従って、本発明のPID制御装置の各手段による処理内容について詳細に説明する。
この装置としては、具体的に、プラントの全体や一部、特定の材料・物質の製造装置や処理装置、単一の装置や複数の装置が集合して構成されるプラント等を挙げることができるが、特にこれらの装置に限定されるわけではない。また、この装置としては例えば、石油精製プラントを挙げることができる。
【0033】
また、この装置には、装置の内部状態や、装置内に供給される原料や装置から排出される生成物・処理物の状態・物性を表す1以上の特性値が存在する。この特性値としては、例えば、原料・生成物などの流体の流量、温度、圧力、これらの特性値を組み合わせて計算された特性値、これらの特性値に特別な演算処理を施した特性値などを挙げることができる。
【0034】
まず、測定手段では、この装置の特性値、及び制御特性値を測定する(S1)。この測定する特性値、制御特性値の種類は1種類以上であれば良く、特性値、制御特性値は1種類であっても複数種であっても良いが、典型的には1種類の特性値、制御特性値を測定する。また、測定手段による1種類の特性値及び制御特性値の測定は、それぞれ装置内の1箇所で行っても、複数の箇所で行っても良い。この測定手段としては具体的には、温度センサー、圧力センサー、流量計などを挙げることができる。
【0035】
この測定手段は、予め入力した測定条件に従って、所定の条件で特性値及び制御特性値を測定できるようになっている。具体的には、測定手段は、装置内の特性値及び制御特性値を測定する位置、測定の時間間隔、測定のサンプリング数などを入力することにより、所望の条件で特性値及び制御特性値の測定を行うことができるようになっている。
【0036】
次に、記憶手段は、測定手段により測定された特性値及び制御特性値を記憶する(S2)。なお、記憶手段はオペレーターが必要とする特性値及び制御特性値のみを記憶し、不要な特性値及び制御特性値は削除できるようになっていても良い。この記憶手段は、各種処理を実行させるためのコンピュータプログラムが事前に格納されたハードウェアであれば良く、例えば、ROM(Read Only Memory)やHDD(Hard Disc Drive)、記憶装置に交換自在に装着されるCD(Compact Dics)−ROMやFD(Flexible Disc−cartridge)及びこれらの組み合わせ等で実施することが可能である。
【0037】
モデル作成手段は、記憶手段に記憶された特性値及び制御特性値に基づいて、所定時間先の制御特性値を予測する予測モデルを作成する。この予測モデルの作成に用いる特性値は1種類であっても複数種であっても良いが、典型的には、1種類の特性値と制御特性値に基づいて予測モデルを作成する。
【0038】
このモデル作成手段では、最急降下法に基づくバック・プロパゲーション法(Back Propagation Method)によって、所定時間先の制御特性値を予測する予測モデルを作成する。この最急降下法とは、ある適当な初期値から初めて繰り返し計算により最適な予測モデルを作成する計算方法である。以下に、この方法を詳細に説明する。
【0039】
まず、予測モデルの作成に使用する特性値、及び必要に応じて使用する制御特性値の値をxi(1)(1≦i≦n1)とする。そして、このxi(1)(1≦i≦n1)及びx0(1)から以下のようにsj(1)を定義する。なお、xi(1)(1≦i≦n1)には制御特性値を用いても、用いなくても良い。
【0040】
【数6】
【0041】
なお、上式においてn1+1は、バック・プロパゲーション法における入力層の数に相当する。
【0042】
次に、このsj(1)を用いて以下のようにsk(2)を定義する。
【0043】
【数7】
【0044】
なお、上式においてn2+1は、バック・プロパゲーション法における中間層の数に相当する。
次に、線形処理を行い、上記のようにして定義されたsk(2)をそのまま予測する予定の制御特性値とする。
【0045】
図4は、このバック・プロパゲーション法における上記式(11)〜(15)の処理を模式的に表したものである。まず、測定したn1個の特性値等xi(1)(1≦i≦n1)及び1個のx0(1)対して、線形関数による線形処理をする。この線形処理では入力したxi(1)をそのまま使用することとなり、xi(1)が入力層となる。また、入力層の数はn1+1個となる。
【0046】
次に、入力した特性値xi(1)と結合荷重wji(1)を用いて、sj(1)を計算する。この後、このsj(1)を(15)式で表されるシグモイド関数に代入してxj(2)(1≦j≦n2)を計算する。このxj(2)(1≦j≦n2)及びx0(2)が中間層となり、その層の数はn2+1個となる。次に、この計算したxj(2)と結合荷重wkj(2)を用いて、sk(2)を計算する。このsk(2)が出力層となり、その層の数は1個となる。そして、このsk(2)に対して線形関数による線形処理を施すことにより最終的に制御特性値を得る。なお、ここで、線形関数による線形処理では、sk(2)をそのまま制御特性値として使用することとなる。
【0047】
更に、この予測モデルにより予測された時刻t1の制御特性値、時刻t1において測定手段により実際に測定した制御特性値をyとから、この予測値と実測値の誤差を下記のようにENEと定義する。
【0048】
【数8】
【0049】
そして、バック・プロパゲーション法では,最急降下法により、この誤差ENEが最小となる最適な結合荷重wji(1)及びwkj(2)を求める。すなわち、結合荷重wji(1)及びwkj(2)については,適当な正の定数ηを学習係数とすると、その修正量Δwji(1)およびΔwkj(2)は、以下の通りとなる。
【0050】
【数9】
【0051】
この時、新しいwji(1)およびwkj(2)は以下のように修正される。
【0052】
【数10】
【0053】
ここで、∂ENE/∂wji(1)及び∂ENE/∂wkj(2)は、微分の連鎖律に基づき、以下のように計算される。
【0054】
【数11】
【0055】
そして、wji(1)及びwkj(2)として予め初期値を入力し、上記式(21)及び(22)に基づき計算した∂ENE/∂wji(1)及び∂ENE/∂wkj(2)から、上記(17)〜(20)式に基づき、wji(1)及びwkj(2)を決定する。
【0056】
次に、このように決定したwji(1)及びwkj(2)を初期値とし、時刻t1よりも一定の時間が進んだ時刻t2において上記と同様の処理を行いwji(1)及びwkj(2)を決定する。以降、t3、t4、t5・・・と時間を順次、進ませながら同様の処理を行い、t(n)の処理を行う際のwji(1)及びwkj(2)の初期値としてはt(n-1)の時に処理により決定されたwji(1)及びwkj(2)を用いる。
【0057】
このようにして予め定めた所定の回数だけ、繰り返し処理を行うことにより(S5)、最終的にwji(1)及びwkj(2)を決定して(S3)、予測モデルを作成することができる(S4)。なお、このwji(1)及びwkj(2)については、予め所定の方法によりwji(1)及びwkj(2)を初期値として決定した後、同じデータ範囲について繰り返し計算を行うことにより、決定しても良い。
【0058】
この作成された予測モデルでは、wji(1)及びwkj(2)が決定されているため、xi(1)のみが未知数となっており、xi(1)を入力すれば、所定時間先の制御特性値を予測することができるようになっている。なお、各処理((17)〜(22)式の処理)の繰り返し処理を行うごとに、使用するデータ(xi(1))の範囲は、異なるものとなる。
【0059】
また、予測モデルの作成に使用する特性値、制御特性値はその種類によってその値が大きく変化するため、正規化したものを予測モデルの作成に使用しても良い。この正規化の方法としては、例えば、以下の方法を挙げることができる。
【0060】
【数12】
【0061】
このようにモデル作成手段により作成した予測モデルは、バック・プロパゲーション法を用いるため、高精度で所定時間先の制御特性値を予測することが可能となる。
【0062】
次に、計算手段では、予測モデルを用いて所定時間先の制御特性値を予測する(S6)と共に、少なくとも予測された制御特性値を用いて、評価関数を計算する(S7)。なお、この際、予測モデルの作成に使用した特性値、制御特性値を正規化した場合、評価関数を計算する際には正規化を外す処理を行う。この方法としては、具体的には以下の方法を挙げることができる。
【0063】
【数13】
【0064】
この評価関数としては2つ以上を用いる必要があるが、制御特性値を予測(近似)可能なものであれば、その具体的な式の形は特に限定されない。また、この評価関数は少なくとも予測モデルにより予測した制御特性値を用いて計算するものであるが、この計算にはこれ以外の特性値や制御特性値の実測値を用いても良い。
【0065】
この評価関数としては、例えば、下記式(2)〜(5)で表される4つの関数であることが好ましい。下記式(2)〜(5)で表される評価関数は、特性値の挙動を高精度で近似することができる。また、装置として石油精製プラントのような制御特性値が複雑な挙動を示すものであっても高精度で近似できる。
【0066】
【数14】
【0067】
なお、上記T0は、制御特性値の目標値を変更するために、制御特性値に影響を及ぼす装置の操作条件を変更したため、制御特性値が変化し始める時間を表す。
【0068】
図1は、この評価関数I1、I2、I4の意義を表す図である。図1において、I1は変化前の制御特性値から制御特性値の目標値までの変化部分(グレーの部分の面積)、I2は制御特性値が目標値に達してからの目標値からの振動部分(グレーの部分の面積)、I4は制御特性値が目標値に達してから制御特性値が振動している時のその最大値と最小値の差を表す。すなわち、I1は応答の速応性についての評価、I2〜I4は応答の安定性についての評価を表している。従って、評価関数I1〜I4を用いた場合、これらの評価関数の2乗和ERNNを最小化するようにPID定数を決定することによって、高精度なPID制御が可能となる。
【0069】
なお、この評価関数は、その計算に使用する制御特性値の値によって大きく変化するため、正規化したものを用いても良い。この正規化の方法としては、例えば、以下の方法を挙げることができる。
【0070】
【数15】
【0071】
次に、決定手段では、下記式(1)で表される評価関数の2乗和ERNNが最小値となるように、比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdを決定する。
【0072】
【数16】
【0073】
この比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdの決定は、上記モデル作成手段による予測モデルの作成と同様、最急降下法に基づくバック・プロパゲーション法(Back Propagation Method)によって行う。ただし、モデル作成手段での処理では、入力値として装置内で測定された特性値、及び必要に応じて制御特性値を用いたが、この決定手段による処理では入力値として評価関数による計算値を用いる点が異なる。また、モデル作成手段での処理では、所定回数の繰り返し計算を行うことにより随時、結合荷重wji(1)及びwkj(2)を修正して予測モデルを作成したが、決定手段による処理では結合荷重wji(1)及びwkj(2)の決定を1回、行うか、又は更新時間が経過するごとにwji(1)及びwkj(2)の決定を行う点が異なる。
【0074】
以下に、決定手段による、ERNNを最小化する比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdの決定方法を詳細に示す。
まず、計算手段により計算された評価関数Iiを用いて、以下のようにsj(1)を定義する。
【0075】
【数17】
【0076】
なお、上式においてn1は、バック・プロパゲーション法における入力層の数に相当する。
【0077】
次に、以下のようにsk(2)を定義する。
【0078】
【数18】
【0079】
なお、上式においてn2+1は、バック・プロパゲーション法における中間層の数に相当する。
【0080】
そして、このsk(2)に対して線形関数による線形処理をすることにより最終的に3つのPID定数(比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Td:下記式(34)及び(35)ではg1=Kp(=s1(2))、g2=Ti(=s2(2))、g3=Td(=s3(2))、として示す。)を得る。なお、ここで、線形関数による線形処理では、sk(2)をそのままPID定数gk(比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Td)として使用することとなる。
【0081】
図5はこのバック・プロパゲーション法における上記式(26)〜(29)の処理を模式的に表したものである。まず、計算手段により計算したn1個の評価関数Iiに対して線形関数による線形処理をする。この線形処理では、入力した評価関数をそのまま使用することとなり、Iiが入力層でその層の数はn1個となる。
【0082】
次に、入力した評価関数Iiと結合荷重wji(1)を用いて、sj(1)を計算する。この後、このsj(1)を(29)式で表されるシグモイド関数に代入してxj(2)を計算する。このxj(2)が中間層となり、その層の数はn2+1個となる。次に、この計算したxj(2)と結合荷重wkj(2)を用いて、sk(2)(=gk)を計算する。このsk(2)(=gk)が出力層となり、その層の数は3個となる。そして、このsk(2)(=gk)に対して線形関数による線形処理をすることにより最終的に所定のPID定数である比例ゲインKp、積分時間Ti及び微分時間Tdを得る。なお、ここで、線形関数による線形処理では、sk(2)(=gk)をそのままPID定数として使用することとなる。
【0083】
なお、上記のようにPID定数を決定するためには、まず、モデル作成手段と同様にして、下記式中の、∂ERNN/∂wji(1)及び∂ERNN/∂wkj(2)を求める。
【0084】
【数19】
【0085】
この時、新しいwji(1)およびwkj(2)は以下のように修正される。
【0086】
【数20】
【0087】
ここで、∂ERNN/∂wji(1)及び∂ERNN/∂wkj(2)は、微分の連鎖律に基づき、以下のように計算される。
【0088】
【数21】
【0089】
なお、上記式(34)及び(35)中の、∂Im/∂g1については,初期値として予め制御手段に入力した比例ゲインKp[1]及びI[1]から、∂Im/∂g1=(I−I[1])/(Kp−Kp[1])として求めることができる。同様にして、∂Im/∂g2=(I−I[1])/(Ti−Ti[1])、∂Im/∂g3=(I−I[1])/(Td−Td[1])として求めることができる。なお、ここで、Ti[1]及びTd[1]は、それぞれ予め制御手段に入力した積分時間、微分時間を表す。また、k=1,2,又3であり、g1=Kp、g2=Ti、g3=Tdである。
【0090】
そして、上記式(30)〜(35)に従って、最終的にwji(1)及びwkj(2)を決定することができる(S8)。また、このようにして決定したwji(1)及びwkj(2)から、最終的に比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdを求めることができる(S9)。
【0091】
そして、制御手段では、このように決定した比例ゲインKp、積分時間Ti及び微分時間TdにPID定数を変更し、このPID定数に基づいて特性値を調節することにより、装置の制御特性値に対して目標値となるようにPID制御を行う。このように、目標の制御特性値を得るために実際に調節する条件は、典型的には、予測モデルの作成に使用した特性値となる。
【0092】
なお、この際、PID定数の決定に使用した評価関数を正規化した場合には、求めたPID定数gkに対して正規化を外す処理を行う。具体的には、この正規化を外す方法としては、例えば、以下の方法を挙げることができる。
【0093】
【数22】
【0094】
また、本発明のPID制御装置では、各手段はその機能を実現するように形成されていれば良く、例えば、所定の機能を発揮する専用のハードウェア、所定の機能がコンピュータプログラムにより付与されたものや、コンピュータプログラムにより各手段に実現された所定の機能及びこれらの組み合わせ等として実現することができる。
【0095】
本発明のPID制御装置では、各手段は個々の独立した存在である必要はなく、複数の手段が1個の部材として形成されていること、ある手段が他の手段の一部であること、ある手段の一部と他の手段の一部とが重複していること等が可能である。
【0096】
また、本発明のモデル作成手段、計算装置、及び決定手段は、コンピュータプログラムを読み取って対応する処理動作を実行できるハードウェアであれば良い。具体的には、CPU(Central Processing Unit)を主体として、これに、ROM、RAM(Random Access Memory)、I/F(Interface)ユニット等の各種デバイスが接続されたハードウェアなどで良い。
【0097】
本発明では、装置が、石油精製プラントであることが好ましい。石油精製プラントは、目標値の生産品質を保つために通常、何千もの制御ループを有している。また、複数の制御ループが干渉し合うため、従来の方法では、特性値の物理的な振る舞いを把握・モデル化するのは困難であると共に、途中でプラントを停止することも困難となっている。そこで、本発明の装置として石油精製プラントにニューラルネットワークを適用して予測モデルを作成し、この予測モデルを用いてPID定数を決定し、更にこのPID定数を用いてPID制御を行うことにより、高精度でプラントの制御特性値の制御を行うことができる。
【0098】
本発明のPID制御装置では、測定手段は、特性値と互いに異なる種類の制御特性値を測定することが好ましい。また、モデル作成手段が、互いに異なる種類の制御特性値を予測する2つ以上の予測モデルを作成することが好ましい。計算手段は、各予測モデルを用いて対応する制御特性値を予測すると共に、少なくとも予測された制御特性値を用いて、各予測モデルに対応する評価関数を計算することが好ましい。決定手段は、各制御特性値の比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdを決定することが好ましい。また、制御手段は、決定手段により決定された比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdに基づいて各制御特性値の制御を行うことが好ましい。すなわち、この場合、各制御特性値ごとに予測モデルの作成、並びに上記式(1)、(11)〜(22)、及び(26)〜(35)で表される処理が行われることとなる。また、各制御特性値ごとに上記式(2)〜(9)、(23)〜(25)及び(36)の処理を行っても良い。
【0099】
近年、使用される装置は大型化・複雑化しており、装置内で制御する制御特性値も2種類以上であることが多い。本発明では、このように大型且つ複雑な装置であっても、上記のように2種類以上の制御特性値のKp、Ti、及びTdを決定可能なように構成することにより、同時に複数の制御特性値の安定且つ高精度なPID制御が可能となる。
【0100】
本発明では、目標値となるよう制御を行う制御特性値は、温度、流量及び圧力からなる群から選択された少なくとも一種の物性値であることが好ましい。これらの制御特性値は、装置内の特性や原料、生成物に大きな影響を与える基本量であり、これらの制御特性値を制御することによって、安定した装置や原料・生成物の制御が可能となる。
【0101】
本発明のPID制御装置は更新時間が経過するたびに、各手段が以下の(A)〜(E)の流れの処理を行うことが好ましい。
(A)測定手段は、新規特性値として新たに特性値及び制御特性値の少なくとも一方を測定する。
(B)記憶手段は、新規特性値を記憶する。
(C)計算手段は、新規特性値を用いて予測モデルにより新たに所定時間先の制御特性値を予測すると共に、予測モデルにより予測された制御特性値から新たに評価関数を計算し直す。
(D)決定手段は、新たに計算し直した評価関数Imの2乗和ERNNを最小化するように、新たに更新PID定数である比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdを決定する。
(E)制御手段は、PID定数を更新PID定数の値に更新し、更新PID定数の値に基づいて、装置の制御特性値のPID制御を行う。
【0102】
図6は、このように所定時間ごとにPID定数を更新するPID制御装置の処理の流れを表すフローチャートである。
この装置においては、まず、図3のフローチャートに示されるように、上記式(1)、(11)〜(22)及び(26)〜(35)式の処理を行うことにより、予測モデルを作成すると共にPID定数を決定する(この処理過程は図6に示していない)。次に、予め入力した所定の更新時間が経過すると(S1)、測定手段は新規特性値として、新たに特性値及び制御特性値の少なくとも一方を測定する(S2)。そして、この新規特性値は、記憶手段に記憶される(S3)。
【0103】
次に、計算手段は、この新規特性値を用いて、予め作成した予測モデルにより制御特性値(予測値)を計算した(S4)のち、この制御特性値を用いて新たに評価関数を計算し直しなおす(S5)。なお、この際、評価関数としては、前回のPID定数の決定時に使用した評価関数を用いても、用いなくても良いが、安定した制御精度とするため、前回のPID定数の決定時に使用した評価関数を用いた方が好ましい。
【0104】
次に、決定手段は新たに計算し直した評価関数Imの2乗和ERNNを最小化するように新たに更新PID定数である比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdを決定する(S6,S7)。なお、この際、更新PID定数は、評価関数として新たに計算し直した評価関数を用い、上記式(34)及び(35)において、∂Im/∂g1=(I[N]−I[N−1])/(Kp[N]−Kp[N−1])、∂Im/∂g2=(I[N]−I[N−1])/(Ti[N]−Ti[N−1])、∂Im/∂g3=(I[N]−I[N−1])/(Td[N]−Td[N−1])として求める。そして、これ以外は、最初のPID定数を決定する処理(上記式(1)、(11)〜(22)及び(26)〜(35)式の処理)と同様の方法により、更新PID定数を決定する。なお、ここで、I[N]、Kp[N]、Ti[N]、Td[N]は、それぞれ今回(N回目)の更新時の評価関数、比例ゲイン、積分時間、微分時間を表す。また、I[N−1]、Kp[N−1]、Ti[N−1]、Td[N−1]は、それぞれ前回(N−1回目)の更新時の評価関数、比例ゲイン、積分時間、微分時間を表す。
【0105】
そして、最終的に制御手段は、PID定数を更新PID定数の値に更新し(S7)、更新PID定数の値に基づいて装置の制御特性値の制御を行う。
なお、このような更新は予め更新条件として入力した更新回数となるまで、PID定数の更新を繰り返す(S9)。
【0106】
本発明のPID制御装置は、このように所定時間ごとにPID定数を更新できるように構成することによって、長時間、装置を稼働した場合であっても、高精度で制御特性値を制御することが可能となる。また、外乱や装置の雰囲気環境の変化によって、装置特性が急激に変化した場合であっても、高精度で制御特性値を制御することができる。
【0107】
なお、PID定数の更新時間は、装置特性及び制御特性値の性質に合わせて、適宜、設定すれば良い。例えば、制御特性値が頻繁に変化する装置に関しては更新時間を短くし、制御特性値が安定している装置に関しては更新時間を長くすれば良い。また、予め一定時間、制御特性値を測定して、単位時間当たりの制御特性値の変化量から更新時間を決定しても良い。また、PID定数の更新回数は、装置の稼働期間に合わせて適宜、設定すれば良い。
また、上記の更新時間が経過するたびに、各手段が以下の(A)〜(E)の流れの処理を行い、更新PID定数を決定する処理は、複数の制御特性値のPID定数に対して行っても良い。
【0108】
また、PID制御装置が所定時間ごとにPID定数を更新する場合、計算手段は評価関数の一部として、更に下記式(6)〜(8)で表される関数の計算を行うことが好ましい。
【0109】
【数23】
【0110】
上記式(6)〜(8)の評価関数には、それぞれ1回目からN−1回目の更新により決定された各更新PID定数が含まれている。また、各更新PID定数には、更新回数が少ない時の更新PID定数ほど高次のd1(0<d1<1)を乗じたものとなっている。このため、上記式(6)〜(8)の評価関数は、前回の更新までの更新PID定数の履歴の影響を表すものであり、更新回数が多い更新時の更新PID定数ほど現在の更新PID定数への影響力が大きいものとなっている。このため、これらの評価関数を用いて、現在の更新PID定数を更新することにより、現在までの更新PID定数の履歴を反映した、より高精度な更新PID定数の決定が可能となる。
【0111】
図7は、上記式(2)〜(5)及び(6)〜(8)の評価関数を用いて更新PID定数を決定する際の、決定手段による処理の過程を模式的に表したものである。この処理過程では、入力層として、評価関数I1〜I4に加えて、前回までに更新された更新PID定数の履歴をフィードバックし評価関数I5〜I7を用いている。このように更新するたびに前回までの履歴を評価関数I5〜I7としてフィードバックすることにより、高精度なPID制御が可能となる。なお、図7の処理では、これ以外は図5と同様の方法により処理を行う。
【0112】
本発明の制御手段による、装置の制御特性値のPID制御の伝達関数は、下記式(9)で表されることが好ましい。
【0113】
【数24】
【0114】
このような伝達関数を用いることにより、より高精度でPID制御を行うことができる。
【実施例】
【0115】
(実施例1)
PID制御を行うための装置として脱硫装置を、本発明のPID制御装置の中に組み込み、PID制御を行った。図8にこの脱硫装置の概略を示す。図8の脱硫装置内を原料及び生成物は下記のように流れる。
【0116】
入口部11から原料油を供給し、これを昇圧した後、水素と混合する。そして、この混合組成物を加熱炉15に供給して所定の温度まで昇温した後、反応塔16に導入する。この反応塔16内では水素化反応による脱硫を行った後、気液混合物を冷却する。この後、更に分離槽17に導入して、ガスと油を分離する。次に、分離した油をストリッパー18に導き、硫化水素や同伴ガスを分離する。この後、水分を除去した後、最終生成物としてタンク(図示していない)へ導入する。
【0117】
本実施例では、上記脱硫装置において、バルブ12及び19の開度を特性値とし、流量計13における流量及び温度計14における温度を、PID制御を行う制御特性値とした。そして、これらの流量及び温度は、バルブ12及び19の開度を制御することによって、PID制御を行った。なお、流量計13(測定手段)にはオリフィス流量計、温度計14(測定手段)には熱電対型温度計を使用した。
【0118】
(a)流量のPID制御
制御手段によるPID制御の伝達関数としては、上記式(9)の伝達関数を用いた。まず、最初に制御手段のPID定数の初期値として、比例ゲインKpを0.4、積分時間Tiを6分、微分時間Tdを0.5分、微分ゲインaを0.1とし、比例ゲインKp、積分時間Ti、微分時間Tdの最適化を行った。
【0119】
図8の装置に対して、まず、測定手段により、1分ごとにバルブ12の開度(特性値)、流量計13での流量(制御特性値)を測定した後、これらの測定データの間に対してはスプライン関数による補間を行い0.5秒ごとのデータに修正した。そして、これらのデータを記憶手段に記憶させた。図9のyは、このようにして実際に測定及び補間をした、流量計13での流量(制御特性値)データの一部を表す図である。
【0120】
次に、記憶させたデータのうち、所定時間から14分前までの1分おきのバルブ12の開度(特性値)15点、所定時間の10分前から1分前までの1分おきの流量計13での流量(制御特性値)を10点、用いて、モデル作成手段により、0.5秒先の流量計13での流量(制御特性値)を予測する予測モデルを作成した。この場合、モデル作成手段における入力層(上記式(11)のn1+1)は25、中間層(上記式(13)のn2+1)は15とした。
【0121】
そして、図9の(A)の部分に関してwji(1)及びwkj(2)の決定を行う学習(wji(1)及びwkj(2)を決定する処理)を3000回、繰り返すことにより最終的にwji(1)及びwkj(2)を決定し、予測モデルを確定させた。
【0122】
次に、計算手段では、バルブ12の開度(特性値)と流量計13での流量(制御特性値)をデータとして用い、上記のように確定した予測モデルに代入することにより0.5秒先の流量計13での流量(制御特性値)を予測した。また、これと共に、下記式(2)〜(8)で表される評価関数を計算した。
【0123】
【数25】
【0124】
図10は、このようにして作成された予測モデルにより予測した流量計13での流量(制御特性値)と、実際に測定した流量計13での流量(制御特性値)を表したものである。図10の結果より、本発明のモデル作成手段により作成された予測モデルにより予測される曲線は、実測値の曲線とよく一致しており、高精度で流量計13での流量の変化を予測できていることが分かる。
【0125】
次に、上記のようにして決定した評価関数を用いて、上記式(1)で表される評価関数の2乗和ERNNを最小化するように、決定手段により、PID定数(比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Td)を決定した。この際、具体的には、上記式(1)〜(36)の処理を行った。また、この場合、入力層(上記式(26)のn1)は7、中間層(上記式(27)のn2+1)は5とした。そして、制御手段により、このように決定されたPID定数を用いて、バルブ12の開度を制御することによって、流量計13での流量のPID制御を行った。
【0126】
また、1分ごとに、以下の処理を行った。
(1)測定手段により、新規特性値として新たにバルブ12の開度と流量計13での流量を測定した。
(2)記憶手段により、上記新規特性値を記憶させた。
(3)計算手段では、上記のようにして決定した予測モデルに、上記新規特性値を代入することにより新たに0.5秒先の流量計13での流量を予測すると共に、予測モデルにより予測された流量から新たに評価関数を計算し直した。
(4)決定手段は、新たに計算し直した評価関数Imの2乗和ERNNを最小化するように新たに更新PID定数である比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdを決定した。
(5)制御手段は、PID定数を更新PID定数の値に更新し、更新PID定数の値に基づいて、バルブ12の開度を制御することによって、流量計13での流量のPID制御を行った。
そして、上記(1)〜(5)の処理を合計で30回、行った。
【0127】
図11及び12は、評価関数I1〜I4及びPID定数(比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Td)へのPID定数の更新回数の影響を表したものである。図11の結果では、評価関数によって一定値に収束する更新回数は異なっているが、更新回数が15回程度で各評価関数はほぼ一定値に収束していることが分かる。また、図12の結果からは、評価関数が一定値に収束する更新回数15回当たりで、各PID定数も一定値に収束していることが分かる。これらの結果から、本発明のPID制御装置は高精度で、PID定数のオートチューニングを行えることが分かる。
【0128】
(b)温度の制御
バルブ19の開度を特性値、温度計14における温度を制御特性値とした以外は、上記(a)流量の制御と同様にして、温度計14における温度のPID制御を行った。この結果、流量と同様、更新回数が15回程度で各評価関数及び各PID定数も一定値に収束した。これらの結果から、本発明のPID制御装置は高精度で、PID定数のオートチューニングを行えることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】評価関数I1、I2及びI4の意義を表す図である。
【図2】本発明のPID制御装置の装置構成の一例を表す図である。
【図3】本発明のPID制御装置による処理過程の一例を表すフローチャートである。
【図4】本発明のPID制御装置のモデル作成手段による処理の一例を表す図である。
【図5】本発明のPID制御装置の決定手段による処理の一例を表す図である。
【図6】本発明のPID制御装置による処理過程の一例を表すフローチャートである。
【図7】本発明のPID制御装置の決定手段による処理の一例を表す図である。
【図8】実施例1でPID制御を行った装置を表す図である。
【図9】実施例1の装置の流量の測定結果を表す図である。
【図10】実施例1の装置の流量の測定結果と、予測モデルによる予測結果を表す図である。
【図11】実施例1の処理結果を表す図である。
【図12】実施例1の処理結果を表す図である。
【符号の説明】
【0130】
1 装置
2 測定手段
3 記憶手段
4 モデル作成手段
5 計算手段
6 決定手段
7 制御手段
11 入口部
12 バルブ
13 流量計
14 温度計
15 加熱炉
16 反応炉
17 分離槽
18 ストリッパー
19 バルブ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置と、
前記装置から特性値、及びPID制御を行う制御特性値を測定する測定手段と、
測定した前記特性値及び制御特性値を記憶する記憶手段と、
測定した前記特性値及び制御特性値を用いて、所定時間先の制御特性値を予測する予測モデルを作成するモデル作成手段と、
前記予測モデルを用いて所定時間先の制御特性値を予測すると共に、少なくとも予測された制御特性値を用いて、2以上の評価関数Imを計算する計算手段と、
下記式(1)で表される評価関数の2乗和ERNNを最小化するように、PID定数である比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdを決定する決定手段と、
【数1】
前記決定手段により決定された前記比例ゲインKp、積分時間Ti及び微分時間Tdに基づいて、前記装置の、制御特性値のPID制御を行う制御手段と、
を備えたことを特徴とするPID制御装置。
【請求項2】
前記装置が、石油精製プラントであることを特徴とする請求項1に記載のPID制御装置。
【請求項3】
前記モデル作成手段は、互いに異なる種類の制御特性値を予測する2つ以上の前記予測モデルを作成し、
前記計算手段は、各予測モデルを用いて対応する制御特性値を予測すると共に、少なくとも予測された前記制御特性値を用いて前記評価関数を計算し、
前記決定手段は、各制御特性値の前記比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdを決定し、
前記制御手段は、前記決定手段により決定された比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdに基づいて、各制御特性値のPID制御を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のPID制御装置。
【請求項4】
前記制御特性値は、温度、流量及び圧力からなる群から選択された少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のPID制御装置。
【請求項5】
前記計算手段は、前記評価関数として、下記式(2)〜(5)で表される4つの関数を計算することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のPID制御装置。
【数2】
【請求項6】
前記PID制御装置において、所定時間が経過するたびに、
前記測定手段は、新規特性値として新たに特性値及び制御特性値の少なくとも一方を測定し、
前記記憶手段は、前記新規特性値を記憶し、
前記計算手段は、前記新規特性値を用いて前記予測モデルにより新たに所定時間先の制御特性値を予測すると共に、少なくとも前記予測モデルにより予測された制御特性値を用いて新たに前記評価関数を計算し、
前記決定手段は、新たに計算した評価関数Imの前記2乗和ERNNを最小化するように、新たに更新PID定数である比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdを決定し、
前記制御手段は、PID定数を前記更新PID定数の値に更新し、前記更新PID定数に基づいて、前記装置の制御特性値のPID制御を行う、
ことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のPID制御装置。
【請求項7】
前記計算手段は、前記評価関数の一部として、更に下記式(6)〜(8)で表される関数の計算を行うことを特徴とする請求項6に記載のPID制御装置。
【数3】
【請求項8】
前記制御手段による前記PID制御の伝達関数が、下記式(9)で表されることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載のPID制御装置。
【数4】
【請求項1】
装置と、
前記装置から特性値、及びPID制御を行う制御特性値を測定する測定手段と、
測定した前記特性値及び制御特性値を記憶する記憶手段と、
測定した前記特性値及び制御特性値を用いて、所定時間先の制御特性値を予測する予測モデルを作成するモデル作成手段と、
前記予測モデルを用いて所定時間先の制御特性値を予測すると共に、少なくとも予測された制御特性値を用いて、2以上の評価関数Imを計算する計算手段と、
下記式(1)で表される評価関数の2乗和ERNNを最小化するように、PID定数である比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdを決定する決定手段と、
【数1】
前記決定手段により決定された前記比例ゲインKp、積分時間Ti及び微分時間Tdに基づいて、前記装置の、制御特性値のPID制御を行う制御手段と、
を備えたことを特徴とするPID制御装置。
【請求項2】
前記装置が、石油精製プラントであることを特徴とする請求項1に記載のPID制御装置。
【請求項3】
前記モデル作成手段は、互いに異なる種類の制御特性値を予測する2つ以上の前記予測モデルを作成し、
前記計算手段は、各予測モデルを用いて対応する制御特性値を予測すると共に、少なくとも予測された前記制御特性値を用いて前記評価関数を計算し、
前記決定手段は、各制御特性値の前記比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdを決定し、
前記制御手段は、前記決定手段により決定された比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdに基づいて、各制御特性値のPID制御を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のPID制御装置。
【請求項4】
前記制御特性値は、温度、流量及び圧力からなる群から選択された少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のPID制御装置。
【請求項5】
前記計算手段は、前記評価関数として、下記式(2)〜(5)で表される4つの関数を計算することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のPID制御装置。
【数2】
【請求項6】
前記PID制御装置において、所定時間が経過するたびに、
前記測定手段は、新規特性値として新たに特性値及び制御特性値の少なくとも一方を測定し、
前記記憶手段は、前記新規特性値を記憶し、
前記計算手段は、前記新規特性値を用いて前記予測モデルにより新たに所定時間先の制御特性値を予測すると共に、少なくとも前記予測モデルにより予測された制御特性値を用いて新たに前記評価関数を計算し、
前記決定手段は、新たに計算した評価関数Imの前記2乗和ERNNを最小化するように、新たに更新PID定数である比例ゲインKp、積分時間Ti、及び微分時間Tdを決定し、
前記制御手段は、PID定数を前記更新PID定数の値に更新し、前記更新PID定数に基づいて、前記装置の制御特性値のPID制御を行う、
ことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のPID制御装置。
【請求項7】
前記計算手段は、前記評価関数の一部として、更に下記式(6)〜(8)で表される関数の計算を行うことを特徴とする請求項6に記載のPID制御装置。
【数3】
【請求項8】
前記制御手段による前記PID制御の伝達関数が、下記式(9)で表されることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載のPID制御装置。
【数4】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−15514(P2009−15514A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−175392(P2007−175392)
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【出願人】(000231707)新日本石油精製株式会社 (33)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【出願人】(000231707)新日本石油精製株式会社 (33)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】
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