説明

PLL回路並びに無線通信装置

【課題】発振器毎の変換利得を吸収し、いずれの発振器を用いても発振周波数を安定して収束させることができる、優れたPLL回路を提供する。
【解決手段】ビット・シフト量演算部は、ディジタル制御発振器の変換利得の概算値と、位相比較器の出力の下限値及び上限値に相当するデータ変換部の出力の下限値及び上限値に基づいて、当該PLLを収束させるために必要なビット・シフト量nを決定する。ビット・シフト回路は、ディジタル制御発振器へのディジタル制御データに対し、当該帰還ループを収束させるために必要となるビット・シフト量を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送波周波数を正確な周波数にロックさせておくためのPLL(Phase Lock Loop)回路並びに無線通信装置に係り、特に、発振周波数を基準周波数で除して得られるディジタル値である分周比によりディジタル制御発振器(DCO)をディジタル制御するPLL回路並びに無線通信装置に関する。
【0002】
さらに詳しくは、本発明は、複数の発振器を切り換えて広帯域をカバーするディジタル制御のPLL回路並びに無線通信装置に係り、特に、変換利得の異なる複数の発振器を切り換えて用いながら発振周波数を安定して収束させるPLL回路並びに無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0003】
無線通信端末では、搬送波周波数を正確な周波数にロックさせておくために、通常はPLL(Phase Locked Loop)回路が用いられる。データ通信や衛星通信などの分野においては、ディジタル構成の位相比較器と低域通過フィルタと電圧制御発振器(Voltage Controlled Oscillator:VCO)から成るディジタルPLL回路が多用されるようになり、盛んに研究がなされている。
【0004】
典型的なディジタルPLL回路は、ディジタル位相比較器と低域通過フィルタと電圧制御発振器をループ状に接続して構成される。ディジタル位相比較器が基準信号と電圧制御発振器の出力信号とを位相比較して、その位相差が小さくなるようその位相差に応じた電圧を発生し、電圧制御発振器の発振周波数を変化させるよう動作する。位相比較器の検出する位相差がゼロ又はその近傍となる状態が位相同期状態であり、同期が外れた状態から位相同期状態に達するまでが引き込み状態である(例えば、特許文献1を参照のこと)。なお、低域通過フィルタは、単に位相比較器の出力信号から高周波成分を取り除き平滑化した直流信号を生成するだけではなく、PLLの同期特性や応答特性を決定し、そのカットオフ周波数などの設定次第でループ・ゲインが決定され、同期状態の安定度や引き込みに要する時間を左右する重要な要素である。
【0005】
従来のディジタルPLL回路の多くは、電圧制御発振器以外のコンポーネントをディジタル回路で集積化した、ディジタル回路とアナログ回路が並存する(ハイブリッド型)PLL−ICとして実現される。この種のPLL回路では、基準クロックとVCO出力を分周したクロックの2つのクロック間の位相差を位相比較器で比較するように構成されている。一般的な位相比較器として、位相差をアップ、ダウン、アップ+ダウンの3状態のパルス幅に変換する回路が用いられ、このパルスを用いてチャージ・ポンプ回路の電流源を制御し、出力される電流をループ・フィルタで電圧に変換して、VCOを制御する仕組みとなっている。位相比較器をリニアで動作させるにはドレイン・ソース間電圧VDSを消費するため、低電圧には不向きとされている。
【0006】
また、半導体プロセスの微細化に伴い、アナログ電圧で制御するVCOをディジタル制御発振器(Digital Controlled Oscillator:DCO)に置き換えた、フルディジタル構成のPLL回路が着目されつつある。図8には、DCOを用いたAll−Digital PLL回路の構成例を示している。同図において、分周比のFractional(分数)成分に相当する時間差をTime−to−Digital Converter(TDC)回路で、Integer(整数)成分をアキュムレータ回路でそれぞれディジタル値に変換し、検出したこれらの分周比に相当するディジタル値をさまざまな手法でフィードバックし、DCOをディジタル的に制御する(例えば、非特許文献1を参照のこと)。
【0007】
ところで、近年では無線技術の広帯域化が進んでいるが、複数の発振器を切り換えて用いることで広い帯域をカバーしたいという要望がある。
【0008】
図9には、発振周波数の異なる発振器1及び発振器2を切り換えて用いるディジタル制御のPLL回路の構成を模式的に示している。図示の例では、発振器1に接続されており、出力周波数foを発振させるループとして動作するものとする。
【0009】
発振器1の発振周波数foは、位相比較器において所定の基準周波数fREFと位相比較され、その出力データは発振周波数を基準周波数で除して得られるディジタル値である分周比N=fo/fREFへとデータ変換され、さらに発振器1の変換利得に応じて利得正規化を施した後に、発振器1に対する制御データとして供給される。ここで言う、発振器の変換利得とは、制御データのLSB(Least Significant Bit)1ビット当たりの周波数変化量に相当する。図示の例では、発振器1の変換利得をkDCO1とおくと、データ変換して得られる分周比N=fo/fREFに対して変換係数fREF/kDCO1を乗算することにより利得正規化が実現する。
【0010】
ここで、各発振器1、2の変換利得kDCO1、kDCO2が大きく異なる場合には、いずれの発振器に切り換えるかに拘わらずPLL回路の発振周波数を安定して収束させるためには、位相比較器の出力データを各発振器1、2の制御データへ変換する方法は発振器毎に異なるはずである。すなわち、図9に示したように発振器1に接続しているときには、変換係数としてfREF/kDCO1を乗算して利得正規化することにより、PLL回路は、発振器1に対して所望の周波数foを発振させるループとして動作することができる。これに対し、発振器1の変換利得kDCO1と大きく異なる変換利得kDCO2を持つ発振器2に切り換えた場合には、同じ方法で利得正規化しても発振周波数を収束させることは困難となる。このため、PLL回路が使用する発振器毎に(言い換えれば、使用する発振器が持つ変換利得に応じて)、適切な変換係数を設定して利得正規化を行なう必要がある。
【0011】
また、複数の発振器を切り換えて用いる場合に限らず、変換利得の異なるさまざまな発振器を用いて多種類のディジタルPLL回路を設計する際においても、設計効率の改善という観点から、発振器以外の回路ブロックについてできる限り共用したいという要望がある。このような場合、発振器毎の変換利得の相違を感じさせないような設計であることが理想的である。
【0012】
【特許文献1】特開平8−148994号公報、段落0002、図14
【非特許文献1】R.B.Staszewski et al.“All−Digital Phase−Domain TX Frequency Synthesizer for Bluetooth Radios in 0.13μm CMOS”(ISSCC2004 Digest)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、発振周波数を基準周波数で除して得られるディジタル値である分周比によりディジタル制御発振器DCOをディジタル制御する、フルディジタル構成の優れたPLL回路並びに無線通信装置を提供することにある。
【0014】
本発明のさらなる目的は、複数の発振器を切り換えて広帯域をカバーすることができる、ディジタル制御の優れたPLL回路並びに無線通信装置を提供することにある。
【0015】
本発明のさらなる目的は、発振器毎の変換利得を吸収し、いずれの発振器を用いても発振周波数を安定して収束させることができる、優れたPLL回路並びに無線通信装置を提供することにある。
【0016】
本発明のさらなる目的は、発振器毎の変換利得を吸収し、発振器以外の回路ブロックを共用して設計することができる、優れたPLL回路並びに無線通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は上記課題を参酌してなされたものであり、請求項1に記載の発明は、
ディジタル値を用いて制御されるディジタル制御発振器と、
所定の基準周波数の各周期において、ディジタル値に変換された分周比及び前記ディジタル制御発振器の発振周波数の小数点表示された各累積加算値の比較を行なう位相比較器と、
前記位相比較器と前記ディジタル制御発振器の間に配設され、前記位相比較器の出力から前記ディジタル制御発振器を制御するための制御ディジタル値を生成するデータ変換部と、
前記制御ディジタル値をビット・シフトさせるビット・シフト回路と、
前記ビット・シフト回路におけるビット・シフト量を、前記ディジタル制御発振器の変換利得の概算値と、前記位相比較器の出力の下限値及び上限値に相当する前記データ変換部の出力の下限値及び上限値に基づいて決定するビット・シフト量演算部と、
を具備することを特徴とするPLL回路である。
【0018】
ディジタルPLL回路においては、使用する発振器が持つ変換利得に応じて適切な変換係数を設定して、発振器へ入力する制御ディジタル値を利得正規化する必要がある。このため、複数の発振器を切り換えて広帯域化を実現する場合や、変換利得の異なるさまざまな発振器を用いて多種類のディジタルPLL回路を設計する際においては、発振器毎の変換利得の相違を吸収する仕組みが必要であると思料される。
【0019】
請求項1に記載の発明は、発振周波数を基準周波数で除して得られるディジタル値である分周比によりディジタル制御発振器をディジタル制御する、フルディジタル構成のPLL回路であるが、ビット・シフト回路が、ディジタル制御発振器へのディジタル制御データに対し、当該帰還ループを収束させるために必要となるビット・シフト量を与えるようになっている。
【0020】
ビット・シフト量演算部は、ディジタル制御発振器の変換利得の概算値と、位相比較器の出力の下限値及び上限値に相当するデータ変換部の出力の下限値及び上限値に基づいて、当該PLLを収束させるために必要なビット・シフト量nを決定する。
【0021】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のPLL回路に対し、キャリブレーション期間中にディジタル制御発振器の変換利得の概算値を検出する検出回路をさらに備えており、ビット・シフト量演算部は、前記検出回路が検出した変換利得の概算値を用いて、ビット・シフト回路におけるビット・シフト量を決定するようになっている。したがって、ディジタル制御発振器毎の変換利得の相違に拘わらずその発振周波数を安定して収束できることに加えて、変換利得の概算値をキャリブレーション期間中にわたり精度よく得ることができるので、バラツキに対してより堅牢となるPLL回路構成を実現することができる。
【0022】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のPLL回路に対し、データ変換部の出力を所望の値に収束させるための変換係数を求める変換利得正規化部をさらに備えており、ビット・シフト回路によりビット・シフトが行なわれた後のディジタル制御データに対して変換係数を乗算することで、ディジタル制御発振器の変換利得を正規化することができる。さらに、ディジタル制御発振器自身の変換利得の経時変化に対しても、PLL動作中に変換利得正規化部の出力を調整することで、データ変換部の出力を適応的にキャリブレーションすることができるので、ディジタル制御発振器の発振周波数を長い時間安定して収束させることが可能となる。
【0023】
また、請求項4に記載の発明は、請求項2に記載のPLL回路に対し、データ変換部の出力を所望の値に収束させるための変換係数を求める変換利得正規化部をさらに備えており、ビット・シフト回路によりビット・シフトが行なわれた後のディジタル制御データに対して変換係数を乗算することで、ディジタル制御発振器の変換利得を正規化することができる。さらに、ディジタル制御発振器自身の変換利得の経時変化に対しても、PLL動作中に変換利得正規化部の出力を調整することができる。したがって、変換利得の概算値をキャリブレーション期間中にわたり精度よく得ることができることに加えて、データ変換部の出力を適応的にキャリブレーションすることができるので、ディジタル制御発振器の発振周波数を長い時間安定して収束させることが可能となる。
【0024】
また、請求項5に記載の発明は、請求項3に記載のPLL回路に対し、周波数変調成分を基準周波数で除した値を前記データ変換部の出力に加算する加算器をさらに備えており、データ変換部の出力を適応的にキャリブレーションすることができるので、ディジタル制御発振器の発振周波数を長い時間安定して収束させることに加えて、直接周波数変調を施すことが可能である。
【0025】
また、請求項6に記載の発明は、請求項4に記載のPLL回路に対し、周波数変調成分を基準周波数で除した値を前記データ変換部の出力に加算する加算器をさらに備えており、データ変換部の出力を適応的にキャリブレーションすることができるので、ディジタル制御発振器の発振周波数を長い時間安定して収束させることに加えて、直接周波数変調を施すことが可能である。
【0026】
また、請求項7に記載の発明は、請求項1乃至6のいずれかに記載のPLL回路を例えばローカル周波数の発振源として備える無線通信装置であり、複数のディジタル制御発振器を切り換えて用いることによって広帯域化を実現したり、効率的に設計したりすることが可能である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、発振周波数を基準周波数で除して得られるディジタル値である分周比によりディジタル制御発振器DCOをディジタル制御する、フルディジタル構成の優れたPLL回路並びに無線通信装置を提供することができる。
【0028】
また、本発明によれば、複数の発振器を切り換えて広帯域をカバーすることができる、ディジタル制御の優れたPLL回路並びに無線通信装置を提供することができる。
【0029】
また、本発明によれば、発振器毎の変換利得を吸収し、いずれの発振器を用いても発振周波数を安定して収束させることができる、優れたPLL回路並びに無線通信装置を提供することができる。
【0030】
また、本発明によれば、発振器毎の変換利得を吸収し、発振器以外の回路ブロックを共用して設計することができる、優れたPLL回路並びに無線通信装置を提供することができる。
【0031】
本願の請求項1に記載の発明によれば、切り換えて用いる各発振器の変換利得の概算値に基づいて収束のためのビット・シフト量を決定することができるので、いずれの発振器を接続した際にもディジタルPLL回路は安定した収束を実現することができる。
【0032】
また、本願の請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明においてディジタルPLL回路が安定して収束することに加えて、各発振器の変換利得の概算値をキャリブレーション機能として得ることができるので、バラツキに対してより堅牢な構成を実現することができる。
【0033】
また、本願の請求項3に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明においてディジタルPLL回路が安定して収束することに加えて、発振器の変換利得の正規化を行なうことができるので、位相比較器による基準周波数と発振周波数の位相比較結果を発振器の制御データに変換するデータ変換手段の出力を所望の値(具体的には、分周比と同じ値)に収束させることができる。さらに、発振器自身の変換利得の掲示変化に対しても、PLL動作中にデータ変換手段の出力を適応的にキャリブレーションすることができるので、ディジタルPLL回路を長い期間にわたって安定して所望の発振周波数に収束させることができる。
【0034】
また、本願の請求項4に記載の発明によれば、請求項2に記載の発明においてディジタルPLL回路がバラツキに対してより堅牢な構成となることに加えて、発振器の変換利得の正規化を行なうことができるので、位相比較器による基準周波数と発振周波数の位相比較結果を発振器の制御データに変換するデータ変換手段の出力を所望の値(具体的には、分周比と同じ値)に収束させることができる。さらに、発振器自身の変換利得の経時変化に対しても、PLL動作中にデータ変換手段の出力を適応的にキャリブレーションすることができるので、ディジタルPLL回路を長い期間にわたって安定して所望の発振周波数に収束させることができる。
【0035】
また、本願の請求項5に記載の発明によれば、請求項3に記載の発明において、データ変換手段の出力を所望の値に収束させるとともに、発振器自身の変換利得の経時変化に対してディジタルPLL回路を長い期間にわたって安定して所望の発振周波数に収束させることに加えて、発振器に対して直接周波数変調を施すことができる。
【0036】
また、本願の請求項6に記載の発明によれば、請求項4に記載の発明において、データ変換手段の出力を所望の値に収束させるとともに、発振器自身の変換利得の経時変化に対してディジタルPLL回路を長い期間にわたって安定して所望の発振周波数に収束させることに加えて、発振器に対して直接周波数変調を施すことができる。
【0037】
また、本願の請求項1乃至6に記載のPLL回路を、広帯域にわたって安定して収束する周波数発振源として、各種の無線通信端末に搭載することができる。
【0038】
本発明のさらに他の目的、特徴や利点は、後述する本発明の実施形態や添付する図面に基づくより詳細な説明によって明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳解する。
【0040】
図1には、本発明の一実施形態に係るディジタルPLL回路100の構成を示している。図示のディジタルPLL回路100は、基本的に、ディジタル制御発振器(DCO)106と、所定の基準周波数frefとディジタル制御発振器106の発振周波数foの位相を比較する位相比較器101と、位相比較器101の出力をディジタル制御発振器106用の制御データに変換するデータ変換部102と、データ変換部102から出力されるディジタル制御データをビット・シフトさせるビット・シフト回路105を備えている。但し、ディジタル制御発振器106以外の回路モジュールをICチップ化し、変換利得の異なる複数のディジタル制御発振器で当該ICチップを共用することも可能である。以下では、ディジタル制御発振器106の変換利得の概算値はkDCO_estであるとする。
【0041】
位相比較器101は、基準周波数frefとディジタル制御発振器106の発振周波数foとの位相比較処理として、基準周波数frefの各周期において、ディジタル信号で与えられる分周比Nと発振周波数foの小数点表示されたクロック数の各累積加算値の減算処理を行なう。そして、位相比較器101の出力はデータ変換部102を通じてディジタル制御データに変換され、さらに適切なビット・シフトnがなされた後、ディジタル制御発振器106に帰還される。かかる帰還ループにより、基準周波数frefの各周期において、ディジタル制御発振器106の発振周波数foのクロック数が分周比Nと等価になるように収束する。
【0042】
位相比較器101における位相比較は、基準周波数frefの各周期において、ディジタル値に変換された分周比Nと発振周波数foの小数点表示されたクロック数の各累積加算値の減算処理であるため(前述)、その可変レンジは位相比較器101のビット数で制限される。位相比較器101の出力がUnsigned(符号なし)10ビットの場合、その出力レベルは0〜1023の1024通りとなる。ループの安定性を確保するためには、位相比較器101の出力をこの可変レンジの中央である512付近に収束させることが好ましいと思料される。
【0043】
本実施形態では、データ変換部102は、ループ利得を可変にするために、利得可変増幅回路102−1を備えている。例えば、利得可変増幅回路102−1の利得G1をより小さく設定することにより、ディジタル制御発振器106への入力から位相比較器101の出力までの利得をより大きくすることが可能になる。すなわち、ディジタル制御発振器106への入力から位相比較器101の出力までの利得を相殺する利得分G1を利得可変増幅回路102−1で発生させ、閉ループの利得を1にすることで、負帰還ループとして動作する。そして、利得可変増幅回路102−1の利得G1をより小さくすることで、開ループの利得自体は大きくなり、誤差の小さい負帰還ループが実現される。他方、ループ利得を小さくすることで、高速ロックを実現することができる。
【0044】
図1に示したデータ変換部102では、位相比較器101の出力を利得可変増幅回路102−1で増幅した後、さらに、所望発振周波数値foを基準周波数値frefで除した値すなわち分周比Nを加算し、符号なし10ビットで表現可能な0〜1023という範囲の中点となる512に利得可変増幅回路102−の利得分G1を乗算した値を減じるようになっている。但し、図示の構成は一例であって、本発明の要旨はこれに限定されるものではない。
【0045】
ビット・シフト回路105は、ディジタル制御発振器106へのディジタル制御データに対し、当該帰還ループを収束させるために必要となるビット・シフト量を与える。ビット・シフト量演算部104は、変換利得入力部103から与えられるディジタル制御発振器106の変換利得の概算値kDCO_estと、位相比較器101の出力の下限値及び上限値に相当するデータ変換部102の出力の下限値及び上限値に基づいて、当該PLLを収束させるために必要なビット・シフト量nを決定する。以下では、この点について詳解する。
【0046】
位相比較器101における位相比較処理は、基準信号の各周期において、ディジタル値に変換された分周比と発振周波数の小数点表示されたクロック数の各累積加算値のディジタル値の減算処理として行なわれる(前述)。この構成において、位相比較器101の出力の最大値1023に対するディジタル変換部102の出力の最大値Xmaxの値は、次式(1)となる。
【0047】
【数1】

【0048】
また、位相比較器101の出力の最大値1023に対するディジタル変換部102の出力の最小値Xminの値は、次式(2)となる。
【0049】
【数2】

【0050】
よって、図1に示したディジタルPLL回路100において、ループが収束するためには、次式(3)を満たす必要がある。
【0051】
【数3】

【0052】
上式(1)〜(3)を整理すると、ディジタル制御発振器106への制御ディジタル値に対するビット・シフト量nに関して、以下の収束の条件式(4)が導き出される。
【0053】
【数4】

【0054】
よって、ビット・シフト量演算部104は、変換利得入力部103から与えられるディジタル制御発振器106の変換利得の概算値kDCO_estを用いて、上式(4)を満たすビット・シフト量nを算出する。
【0055】
ここで、上式(4)の右辺の分母が負になる場合には、ビット・シフト量演算部104は、左辺のみの条件式からビット・シフト量nを求めれば良い。但し、その際、データ変換部102の出力Xが負となる場合には、ビット・シフト回路105の出力値を符号なしデータの最大値に固定されるように制御し、ディジタル制御発振器106への制御ディジタル値を符号なしデータに変換する必要がある。
【0056】
図1に示したデータ変換部102の構成は一例であるが、ループ利得を可変にするための可変利得増幅回路102−1を含むさまざまな構成に対し、ディジタル制御発振器毎の変換利得の相違を吸収する上記の手法は有効である、ということを十分理解されたい。データ変換部102がいずれの構成であれ、位相比較器101の出力の最大値に相当するビット・シフト回路105への入力値をXmax、位相比較器101の出力の最小値に相当するビット・シフト回路105への入力値をXminとし、上式(3)を満たすnに相当するビット・シフト操作を行なうことで、ループを収束させることが可能である。
【0057】
なお、図1に示したディジタルPLL回路100において、データ変換部102の可変利得増幅回路102−1を、ビット・シフト回路に置き換えることも可能である。
【0058】
あるいは、図1に示したディジタルPLL回路100において、ビット・シフト回路105を、利得G2を乗算する乗算器に置き換えることも可能である。この場合、上式(4)を満たす2nを利得G2として、ビット・シフト量演算部104の代わりに利得G2を算出する構成とすればよい。
【0059】
図2には、本発明の第2の実施形態に係るディジタルPLL回路200の構成を示している。図示のディジタルPLL回路200は、基本的に、ディジタル制御発振器206と、所定の基準周波数frefとディジタル制御発振器206の発振周波数foの位相を比較する位相比較器201と、位相比較器201の出力をディジタル制御発振器106用の制御データに変換するデータ変換部202と、データ変換部202から出力されるディジタル制御データをビット・シフトさせるビット・シフト回路205と、ビット・シフト回路205におけるビット・シフト量nを決定するビット・シフト量演算部204を備えている。但し、ディジタル制御発振器206以外の回路モジュールをICチップ化し、変換利得の異なる複数のディジタル制御発振器で当該ICチップを共用することも可能である(同上)。
【0060】
図1に示した第1の実施形態では変換利得入力部103からディジタル制御発振器106の変換利得の概算値kDCO_estが入力されるのに対し、第2の実施形態では、検出回路209が当該ディジタルPLL回路200に取り付けられたディジタル制御発振器206の変換利得の概算値kDCO_estを検出する機能を備えていることが主な相違である。
【0061】
まず、PLL動作を開始する前に、変換利得の概算値(kDCO_est/fREF)の検出動作の開始を示す検出開始信号210に応じて、スイッチ208の接続を端子1から端子2へと切り替える。これに応じて、変換利得の概算値(kDCO_est/fREF)を検出する検出回路209では、強制的にD1DCOをディジタル制御データとしてディジタル制御発振器206へ供給し、基準周波数fREFの1周期間のディジタル制御発振器206の出力クロックf1/fREFを計測し、これを保持する。
【0062】
次いで、検出回路209は、D1DCO とは異なるディジタル制御データD2DCOを強制的にディジタル制御発振器206へ供給し、同様に基準周波数fREFの1周期間のディジタル制御発振器206の出力クロックf2/fREFを計測し、これを保持する。そして、検出回路209は、次式(5)より、変換利得の概算値(kDCO_est/fREF)を検出することができる。
【0063】
【数5】

【0064】
ここで、強制的にディジタル制御データD1DCOをディジタル制御発振器206に供給したときのディジタル制御発振器206の出力クロックf1/fREF、及び、強制的にディジタル制御データD2DCOをディジタル制御発振器206に供給したときのディジタル制御発振器206の出力クロックf2/fREFの計測を、基準周波数fREFの1周期間ではなく、複数の周期にわたって行ない、その周期数で平均化することにより、計測精度を改善することができる。
【0065】
このようにして、検出回路209において、ディジタル制御発振器206の変換利得の概算値(kDCO_est/fREF)の検出を完了すると、続いてビット・シフト量nの決定を行なう。
【0066】
位相比較器201は、基準周波数frefとディジタル制御発振器206の発振周波数foとの位相比較処理として、基準周波数frefの各周期において、ディジタル信号で与えられる分周比Nと発振周波数foの小数点表示されたクロック数の各累積加算値の減算処理を行なう。
【0067】
データ変換部202では、位相比較器201の出力を利得可変増幅回路202−1で増幅した後、さらに、所望発振周波数値foを基準周波数値frefで除した値すなわち分周比Nを加算し、符号なし10ビットで表現可能な0〜1023という範囲の中点となる512に利得可変増幅回路202−1の利得分G1を乗算した値を減じる。
【0068】
ビット・シフト量演算部204は、検出回路209にて基準周波数fREFとディジタル制御発振器206の発振周波数foを基に検出されたディジタル制御発振器106の変換利得の概算値kDCO_estと、位相比較器101の出力の下限値及び上限値に相当するデータ変換部102の出力の下限値及び上限値とを上式(4)に代入して、当該PLLを収束させるために必要なビット・シフト量nを決定する。
【0069】
このようにしてビット・シフト量演算部204でのビット・シフト量nの算出を行なった後、さらに、スイッチ208は端子2から端子1への接続の切り替えを行ない、ディジタルPLL回路200は、本来のPLLとしての動作が開始される。PLL動作では、ビット・シフト回路205は、ディジタル制御発振器206へのディジタル制御データに対し、当該帰還ループを収束させるために必要となるビット・シフト量nを与える。
【0070】
図3には、本発明の第3の実施形態に係るディジタルPLL回路300の構成を示している。図示のディジタルPLL回路300は、基本的に、ディジタル制御発振器306と、所定の基準周波数frefとディジタル制御発振器306の発振周波数foの位相を比較する位相比較器301と、位相比較器301の出力をディジタル制御発振器306用の制御データに変換するデータ変換部302と、データ変換部302から出力されるディジタル制御データをビット・シフトさせるビット・シフト回路305と、ビット・シフト回路305におけるビット・シフト量nを決定するビット・シフト量演算部304を備えている。但し、ディジタル制御発振器306以外の回路モジュールをICチップ化し、変換利得の異なる複数のディジタル制御発振器で当該ICチップを共用することも可能である(同上)。
【0071】
図3に示したディジタルPLL回路300は、データ変換部302の出力を所望の値に収束させるための変換係数を求める変換利得正規化部311と、得られた変換係数をビット・シフト回路305によりビット・シフトが行なわれた後のディジタル制御データに乗算する乗算器312を備え、ディジタル制御発振器306の変換利得の正規化を行なうようにしている点で、図1に示した第1の実施形態に係るディジタルPLL回路100とは相違する。
【0072】
位相比較器301は、基準周波数frefとディジタル制御発振器306の発振周波数foとの位相比較処理として、基準周波数frefの各周期において、ディジタル信号で与えられる分周比Nと発振周波数foの小数点表示されたクロック数の各累積加算値の減算処理を行なう。
【0073】
データ変換部302では、位相比較器301の出力を利得可変増幅回路302−1で増幅した後、さらに、所望発振周波数値foを基準周波数値frefで除した値すなわち分周比Nを加算し、符号なし10ビットで表現可能な0〜1023という範囲の中点となる512に利得可変増幅回路302−1の利得分G1を乗算した値を減じる。
【0074】
ビット・シフト量演算部304は、変換利得入力部303から入力されたディジタル制御発振器306の変換利得の概算値kDCO_estと、位相比較器301の出力の下限値及び上限値に相当するデータ変換部302の出力の下限値及び上限値とを上式(4)に代入して、当該PLLを収束させるために必要なビット・シフト量nを決定する。そして、ビット・シフト回路305は、ディジタル制御発振器206へのディジタル制御データに対し、当該帰還ループを収束させるために必要となるビット・シフト量nを与える。
【0075】
このようにしてビット・シフト量演算部304でのビット・シフト量nの算出を行なった後、ディジタルPLL回路300が本来のPLLとしての動作を開始すると、ビット・シフト回路305は、ディジタル制御発振器306へのディジタル制御データに対し、当該帰還ループを収束させるために必要となるビット・シフト量nを与える。データ変換部302の出力Xはある値Aに収束する。ここで、変換利得正規化部311の出力は、初期値として変換係数1が与えられている。
【0076】
次に、データ変換部302の出力Xを上記の値Aとは異なる値Bに収束させようとする場合、変換利得正規化部311の出力は、値Aを値Bで除した値A/Bを係数として出力し、乗算器312ではビット・シフトさせた後のディジタル制御データにA/Bを乗算する。
【0077】
以上から、ディジタル制御発振器306に関するディジタル制御データXからみた変換利得を任意の値に正規化することができる。さらに、ディジタル制御発振器306自身の変換利得の経時変化に対しても、PLL動作中に変換利得正規化部311の出力を調整することによって、データ変換部302の出力を適応的にキャリブレーションすることができるので、安定して所望の値に収束させることが可能となる。
【0078】
図4には、本発明の第4の実施形態に係るディジタルPLL回路400の構成を示している。図示のディジタルPLL回路400は、基本的に、ディジタル制御発振器406と、所定の基準周波数frefとディジタル制御発振器406の発振周波数foの位相を比較する位相比較器401と、位相比較器401の出力をディジタル制御発振器406用の制御データに変換するデータ変換部402と、データ変換部402から出力されるディジタル制御データをビット・シフトさせるビット・シフト回路405と、ビット・シフト回路405におけるビット・シフト量nを決定するビット・シフト量演算部404を備えている。但し、ディジタル制御発振器406以外の回路モジュールをICチップ化し、変換利得の異なる複数のディジタル制御発振器で当該ICチップを共用することも可能である(同上)。
【0079】
図4に示したディジタルPLL回路400は、データ変換部402の出力を所望の値に収束させるための変換係数を求める変換利得正規化部411と、得られた変換係数をビット・シフト回路405によりビット・シフトが行なわれた後のディジタル制御データに乗算する乗算器412を備え、ディジタル制御発振器406の変換利得の正規化を行なうようにしている点で、図2に示した第2の実施形態に係るディジタルPLL回路200とは相違する。
【0080】
まず、PLL動作を開始する前に、変換利得の概算値(kDCO_est/fREF)の検出動作の開始を示す検出開始信号410に応じて、スイッチ408の接続を端子1から端子2へと切り替える。これに応じて、変換利得の概算値(kDCO_est/fREF)を検出する検出回路409では、強制的にD1DCOをディジタル制御データとしてディジタル制御発振器406へ供給し、基準周波数fREFの1周期間のディジタル制御発振器406の出力クロックf1/fREFを計測し、これを保持する。
【0081】
次いで、検出回路409は、D1DCO とは異なるディジタル制御データD2DCOを強制的にディジタル制御発振器406へ供給し、同様に基準周波数fREFの1周期間のディジタル制御発振器206の出力クロックf2/fREFを計測し、これを保持する。そして、検出回路409は、上式(5)に従って、変換利得の概算値(kDCO_est/fREF)を検出する。ここで、強制的にディジタル制御データD1DCOをディジタル制御発振器406に供給したときのディジタル制御発振器406の出力クロックf1/fREF、及び、強制的にディジタル制御データD2DCOをディジタル制御発振器406に供給したときのディジタル制御発振器406の出力クロックf2/fREFの計測を、基準周波数fREFの1周期間ではなく、複数の周期にわたって行ない、その周期数で平均化してもよい(同上)。
【0082】
このようにして、検出回路409において、ディジタル制御発振器406の変換利得の概算値(kDCO_est/fREF)の検出を完了すると、続いてビット・シフト量nの決定を行なう。
【0083】
位相比較器401は、基準周波数frefとディジタル制御発振器406の発振周波数foとの位相比較処理として、基準周波数frefの各周期において、ディジタル信号で与えられる分周比Nと発振周波数foの小数点表示されたクロック数の各累積加算値の減算処理を行なう。
【0084】
データ変換部402では、位相比較器401の出力を利得可変増幅回路402−1で増幅した後、さらに、所望発振周波数値foを基準周波数値frefで除した値すなわち分周比Nを加算し、符号なし10ビットで表現可能な0〜1023という範囲の中点となる512に利得可変増幅回路402−1の利得分G1を乗算した値を減じる。
【0085】
ビット・シフト量演算部404は、検出回路409にて基準周波数fREFとディジタル制御発振器406の発振周波数foを基に検出されたディジタル制御発振器406の変換利得の概算値kDCO_estと、位相比較器401の出力の下限値及び上限値に相当するデータ変換部402の出力の下限値及び上限値とを上式(4)に代入して、当該PLLを収束させるために必要なビット・シフト量nを決定する。
【0086】
このようにしてビット・シフト量演算部404でのビット・シフト量nの算出を行なった後、さらに、スイッチ408は端子2から端子1への接続の切り替えを行ない、ディジタルPLL回路400は、本来のPLLとしての動作が開始される。
【0087】
PLL動作では、ビット・シフト回路405は、ディジタル制御発振器406へのディジタル制御データに対し、当該帰還ループを収束させるために必要となるビット・シフト量nを与える。データ変換部402の出力Xはある値Aに収束する。ここで、変換利得正規化部411の出力は、初期値として変換係数1が与えられている。
【0088】
次に、データ変換部402の出力Xを上記の値Aとは異なる値Bに収束させようとする場合、変換利得正規化部411の出力は、値Aを値Bで除した値A/Bを係数として出力し、乗算器412ではビット・シフトさせた後のディジタル制御データにA/Bを乗算する。
【0089】
以上から、ディジタル制御発振器406に関するディジタル制御データXからみた変換利得を任意の値に正規化することができる。さらに、ディジタル制御発振器306自身の変換利得の経時変化に対しても、PLL動作中に変換利得正規化部311の出力を調整することによって、データ変換部402の出力を適応的にキャリブレーションすることができるので、安定して所望の値に収束させることが可能となる。
【0090】
図5には、本発明の第5の実施形態に係るディジタルPLL回路500の構成を示している。図示のディジタルPLL回路500は、基本的に、ディジタル制御発振器506と、所定の基準周波数frefとディジタル制御発振器506の発振周波数foの位相を比較する位相比較器501と、位相比較器501の出力をディジタル制御発振器506用の制御データに変換するデータ変換部502と、データ変換部502から出力されるディジタル制御データをビット・シフトさせるビット・シフト回路505と、ビット・シフト回路505におけるビット・シフト量nを決定するビット・シフト量演算部504を備えている。但し、ディジタル制御発振器506以外の回路モジュールをICチップ化し、変換利得の異なる複数のディジタル制御発振器で当該ICチップを共用することも可能である(同上)。
【0091】
図5に示したディジタルPLL回路500は、データ変換部502の出力を分周比と等価な値に収束させるための変換係数を求める変換利得正規化部511と、得られた変換係数をビット・シフト回路505によりビット・シフトが行なわれた後のディジタル制御データに乗算する乗算器512を備え、ディジタル制御発振器506の変換利得の正規化を行なうとともに、さらに周波数変調成分を前記基準周波数で除した値を前記データ変換部の出力に加算する加算器514をさらに備え、直接周波数変調を施すように構成されている点で、図3に示した第3の実施形態に係るディジタルPLL回路300とは相違する。
【0092】
位相比較器501は、基準周波数frefとディジタル制御発振器506の発振周波数foとの位相比較処理として、基準周波数frefの各周期において、ディジタル信号で与えられる分周比Nと発振周波数foの小数点表示されたクロック数の各累積加算値の減算処理を行なう。
【0093】
データ変換部502では、位相比較器501の出力を利得可変増幅回路502−1で増幅した後、さらに、所望発振周波数値foを基準周波数値frefで除した値すなわち分周比Nを加算し、符号なし10ビットで表現可能な0〜1023という範囲の中点となる512に利得可変増幅回路502−1の利得分G1を乗算した値を減じる。
【0094】
ビット・シフト量演算部504は、変換利得入力部503から入力されたディジタル制御発振器506の変換利得の概算値kDCO_estと、位相比較器501の出力の下限値及び上限値に相当するデータ変換部502の出力の下限値及び上限値とを上式(4)に代入して、当該PLLを収束させるために必要なビット・シフト量nを決定する。そして、ビット・シフト回路505は、ディジタル制御発振器506へのディジタル制御データに対し、当該帰還ループを収束させるために必要となるビット・シフト量nを与える。
【0095】
このようにしてビット・シフト量演算部504でのビット・シフト量nの算出を行なった後、ディジタルPLL回路500が本来のPLLとしての動作を開始すると、ビット・シフト回路505は、ディジタル制御発振器506へのディジタル制御データに対し、当該帰還ループを収束させるために必要となるビット・シフト量nを与える。データ変換部302の出力Xはある値Aに収束する。ここで、変換利得正規化部511の出力は、初期値として変換係数1が与えられている。
【0096】
次に、データ変換部502の出力Xを上記の値Aとは異なる値Bに収束させようとする場合、変換利得正規化部511の出力は、値Aを値Bで除した値A/Bを係数として出力し、乗算器512ではビット・シフトさせた後のディジタル制御データにA/Bを乗算する。
【0097】
以上から、ディジタル制御発振器506に関するディジタル制御データXを分周比と等価な値に収束させることができる。また、分周比と同様、基準周波数frefで除した値を周波数変調成分として加算器514でディジタル制御データXに加算することで、直接周波数変調を行なうことができる。
【0098】
図6には、本発明の第6の実施形態に係るディジタルPLL回路600の構成を示している。図示のディジタルPLL回路600は、基本的に、ディジタル制御発振器606と、所定の基準周波数frefとディジタル制御発振器606の発振周波数foの位相を比較する位相比較器601と、位相比較器601の出力をディジタル制御発振器606用の制御データに変換するデータ変換部602と、データ変換部602から出力されるディジタル制御データをビット・シフトさせるビット・シフト回路605と、ビット・シフト回路605におけるビット・シフト量nを決定するビット・シフト量演算部604を備えている。但し、ディジタル制御発振器606以外の回路モジュールをICチップ化し、変換利得の異なる複数のディジタル制御発振器で当該ICチップを共用することも可能である(同上)。
【0099】
図6に示したディジタルPLL回路600は、データ変換部602の出力を分周比と等価な値に収束させるための変換係数を求める変換利得正規化部611と、得られた変換係数をビット・シフト回路605によりビット・シフトが行なわれた後のディジタル制御データに乗算する乗算器612を備え、ディジタル制御発振器606の変換利得の正規化を行なうとともに、さらに周波数変調成分を前記基準周波数で除した値を前記データ変換部の出力に加算する加算器614をさらに備え、直接周波数変調を施すように構成されている点で、図4に示した第4の実施形態に係るディジタルPLL回路400とは相違する。
【0100】
まず、PLL動作を開始する前に、変換利得の概算値(kDCO_est/fREF)の検出動作の開始を示す検出開始信号610に応じて、スイッチ608の接続を端子1から端子2へと切り替える。これに応じて、変換利得の概算値(kDCO_est/fREF)を検出する検出回路609では、強制的にD1DCOをディジタル制御データとしてディジタル制御発振器406へ供給し、基準周波数fREFの1周期間のディジタル制御発振器606の出力クロックf1/fREFを計測し、これを保持する。
【0101】
次いで、検出回路609は、D1DCO とは異なるディジタル制御データD2DCOを強制的にディジタル制御発振器606へ供給し、同様に基準周波数fREFの1周期間のディジタル制御発振器606の出力クロックf2/fREFを計測し、これを保持する。そして、検出回路609は、上式(5)に従って、変換利得の概算値(kDCO_est/fREF)を検出する。ここで、強制的にディジタル制御データD1DCOをディジタル制御発振器606に供給したときのディジタル制御発振器606の出力クロックf1/fREF、及び、強制的にディジタル制御データD2DCOをディジタル制御発振器606に供給したときのディジタル制御発振器606の出力クロックf2/fREFの計測を、基準周波数fREFの1周期間ではなく、複数の周期にわたって行ない、その周期数で平均化してもよい(同上)。
【0102】
このようにして、検出回路609において、ディジタル制御発振器606の変換利得の概算値(kDCO_est/fREF)の検出を完了すると、続いてビット・シフト量nの決定を行なう。
【0103】
位相比較器601は、基準周波数frefとディジタル制御発振器606の発振周波数foとの位相比較処理として、基準周波数frefの各周期において、ディジタル信号で与えられる分周比Nと発振周波数foの小数点表示されたクロック数の各累積加算値の減算処理を行なう。
【0104】
データ変換部602では、位相比較器601の出力を利得可変増幅回路602−1で増幅した後、さらに、所望発振周波数値foを基準周波数値frefで除した値すなわち分周比Nを加算し、符号なし10ビットで表現可能な0〜1023という範囲の中点となる512に利得可変増幅回路602−1の利得分G1を乗算した値を減じる。
【0105】
ビット・シフト量演算部604は、検出回路609にて基準周波数fREFとディジタル制御発振器606の発振周波数foを基に検出されたディジタル制御発振器606の変換利得の概算値kDCO_estと、位相比較器401の出力の下限値及び上限値に相当するデータ変換部602の出力の下限値及び上限値とを上式(4)に代入して、当該PLLを収束させるために必要なビット・シフト量nを決定する。
【0106】
このようにしてビット・シフト量演算部604でのビット・シフト量nの算出を行なった後、さらに、スイッチ608は端子2から端子1への接続の切り替えを行ない、ディジタルPLL回路600は、本来のPLLとしての動作が開始される。
【0107】
PLL動作では、ビット・シフト回路605は、ディジタル制御発振器606へのディジタル制御データに対し、当該帰還ループを収束させるために必要となるビット・シフト量nを与える。データ変換部602の出力Xはある値Aに収束する。ここで、変換利得正規化部611の出力は、初期値として変換係数1が与えられている。
【0108】
次に、データ変換部602の出力Xを上記の値Aとは異なる値Bに収束させようとする場合、変換利得正規化部611の出力は、値Aを値Bで除した値A/Bを係数として出力し、乗算器612ではビット・シフトさせた後のディジタル制御データにA/Bを乗算する。
【0109】
以上から、ディジタル制御発振器606に関するディジタル制御データXを分周比と等価な値に収束させることができる。また、分周比と同様、基準周波数frefで除した値を周波数変調成分として加算器614でディジタル制御データXに加算することで、直接周波数変調を行なうことができる。
【0110】
これまで、発振器毎の変換利得の相違を吸収して、ループを安定して収束させることができるディジタルPLL回路について説明してきた。図1〜図6に示したディジタルPLL回路を適用することで、広帯域化を実現したり、種々の発振器を用いて効率的に回路設計したりすることができる。この種のディジタルPLL回路を搭載することができる無線通信装置の構成を、図7に示しておく。
【産業上の利用可能性】
【0111】
以上、特定の実施形態を参照しながら、本発明について詳解してきた。しかしながら、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が該実施形態の修正や代用を成し得ることは自明である。
【0112】
本発明に係るディジタルPLL回路は、変換利得の異なる複数の発振器を切り換えて用いながら、広帯域にわたって安定して収束させることができるが、その用途は無線通信端末の周波数発生源に限定されるものではない。ディジタルPLL回路の多くはその出力がクロックとして利用されるが、無線通信端末以外にも、ディジタルテレビやAVアンプなどに用いられるIEEE1394、HDMI(High Definition Multimedia Interface)などのディジタル・インターフェースで伝送されたクロックの再生に適用することができる。
【0113】
要するに、例示という形態で本発明を開示してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本発明の要旨を判断するためには、特許請求の範囲を参酌すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るディジタルPLL回路100の構成を示した図である。
【図2】図2は、本発明の第2の実施形態に係るディジタルPLL回路200の構成を示した図である。
【図3】図3は、本発明の第3の実施形態に係るディジタルPLL回路300の構成を示した図である。
【図4】図4は、本発明の第4の実施形態に係るディジタルPLL回路400の構成を示した図である。
【図5】図5は、本発明の第5の実施形態に係るディジタルPLL回路500の構成を示した図である。
【図6】図6は、本発明の第6の実施形態に係るディジタルPLL回路600の構成を示した図である。
【図7】図7は、本発明に係るディジタルPLL回路を搭載する無線通信装置の構成例を示した図である。
【図8】図8は、DCOを用いたAll−Digital PLL回路の構成例を示した図である。
【図9】図9は、発振周波数の異なる発振器1及び発振器2を切り換えて用いるディジタル制御のPLL回路の構成を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0115】
100…ディジタルPLL回路(第1の実施形態)
101…位相比較器
102…データ変換部
102−1…利得可変増幅回路
103…変換利得入力部
104…ビット・シフト量演算部
105…ビット・シフト回路
106…ディジタル制御発振器(DCO)
200…ディジタルPLL回路(第2の実施形態)
201…位相比較器
202…データ変換部
202−1…利得可変増幅回路
204…ビット・シフト量演算部
205…ビット・シフト回路
206…ディジタル制御発振器(DCO)
208…切り替えスイッチ
209…検出回路
210…検出開始信号
300…ディジタルPLL回路(第3の実施形態)
301…位相比較器
302…データ変換部
302−1…利得可変増幅回路
303…変換利得入力部
304…ビット・シフト量演算部
305…ビット・シフト回路
306…ディジタル制御発振器(DCO)
311…変換利得正規化部
312…乗算器
400…ディジタルPLL回路(第4の実施形態)
401…位相比較器
402…データ変換部
402−1…利得可変増幅回路
404…ビット・シフト量演算部
405…ビット・シフト回路
406…ディジタル制御発振器(DCO)
408…切り替えスイッチ
409…検出回路
410…検出開始信号
411…変換利得正規化部
412…乗算器
500…ディジタルPLL回路(第5の実施形態)
501…位相比較器
502…データ変換部
502−1…利得可変増幅回路
503…変換利得入力部
504…ビット・シフト量演算部
505…ビット・シフト回路
506…ディジタル制御発振器(DCO)
511…変換利得正規化部
512…乗算器
514…加算器
600…ディジタルPLL回路(第6の実施形態)
601…位相比較器
602…データ変換部
602−1…利得可変増幅回路
604…ビット・シフト量演算部
605…ビット・シフト回路
606…ディジタル制御発振器(DCO)
608…切り替えスイッチ
609…検出回路
610…検出開始信号
611…変換利得正規化部
612…乗算器
614…加算器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディジタル値を用いて制御されるディジタル制御発振器と、
所定の基準周波数の各周期において、ディジタル値に変換された分周比及び前記ディジタル制御発振器の発振周波数の小数点表示された各累積加算値の比較を行なう位相比較器と、
前記位相比較器と前記ディジタル制御発振器の間に配設され、前記位相比較器の出力から前記ディジタル制御発振器を制御するための制御ディジタル値を生成するデータ変換部と、
前記制御ディジタル値をビット・シフトさせるビット・シフト回路と、
前記ビット・シフト回路におけるビット・シフト量を、前記ディジタル制御発振器の変換利得の概算値と、前記位相比較器の出力の下限値及び上限値に相当する前記データ変換部の出力の下限値及び上限値に基づいて決定するビット・シフト量演算部と、
を具備することを特徴とするPLL回路。
【請求項2】
前記ディジタル制御発振器の変換利得の概算値を検出する検出回路をさらに備え、
前記ビット・シフト量演算部は、前記検出回路が検出した変換利得の概算値を用いて前記ビット・シフト量を決定する、
ことを特徴とする請求項1に記載のPLL回路。
【請求項3】
前記データ変換部の出力を所望の値に収束させるための変換係数を求める変換利得正規化部と、
前記変換係数を前記ビット・シフト回路によりビット・シフトが行なわれた後のディジタル制御データに乗算する乗算器と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のPLL回路。
【請求項4】
前記データ変換部の出力を所望の値に収束させるための変換係数を求める変換利得正規化部と、
前記変換係数を前記ビット・シフト回路によりビット・シフトが行なわれた後のディジタル制御データに乗算する乗算器と、
をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載のPLL回路。
【請求項5】
前記データ変換部の出力を分周比と等価な値に収束させるための変換係数を求める変換利得正規化部と、
前記変換係数を前記ビット・シフト回路によりビット・シフトが行なわれた後のディジタル制御データに乗算する乗算器と、
周波数変調成分を前記基準周波数で除した値を前記データ変換部の出力に加算する加算器と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のPLL回路。
【請求項6】
前記データ変換部の出力を分周比と等価な値に収束させるための変換係数を求める変換利得正規化部と、
前記変換係数を前記ビット・シフト回路によりビット・シフトが行なわれた後のディジタル制御データに乗算する乗算器と、
周波数変調成分を前記基準周波数で除した値を前記データ変換部の出力に加算する加算器と、
をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載のPLL回路。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載のPLL回路を備える、
ことを特徴とする無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−28457(P2010−28457A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−187440(P2008−187440)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】