説明

PTCインク組成物の製造方法及びPTCインク組成物

【課題】量産性を維持しながら、かつ印刷後のインク乾燥後の変形(湾曲、そり、カール等)度合いをおさえることを可能とするPTCインク組成物の製造方法及びPTCインク組成物を提供する。
【解決手段】PTCインク組成物の製造方法、及びその製造方法から得られるPTCインク組成物は、アクリル酸含量が20重量%以下のエチレン−アクリル酸共重合体(EAA)をデカリン、テトラリンまたはこれらの混合物中に加熱溶解させて得られる導電性粒子含有PTC(Positive Temperature Coefficient)インク組成物に、非極性ゴムを脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素またはこれらの混合物から選ばれる非極性溶媒で溶解した非極性ゴム溶液を添加し、さらに極性溶媒を添加することを特徴とするPTCインク組成物の製造方法、及びその製造方法から得られることを特徴とするPTCインク組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PTCインク組成物の製造方法及びPTCインク組成物に関し、詳しくは良好な連続被膜を連続的に形成でき、生産効率に優れ工業化に適したPTCインク組成物の製造方法及びPTCインク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
PTCインク材料のマトリクスとしては、種々のものが提案されているが、広く一般に用いられているのは、エチレン−酢酸ビニル共重合体である。この共重合体をインク化するために、溶剤に可溶の酢酸ビニル含量が多く、結晶化度の低い共重合体が用いられているのが実情である。
【0003】
しかしながら、結晶化度の低い共重合体を用いると、PTC特性が小さくなり、また過昇防止機能が小さくなる。
【0004】
結晶化度の高いエチレン−アクリル酸共重合体(EAA)、即ちアクリル酸含量の低いEAAと、導電性粒子からなるPTC材料は、特許文献1〜4に記載のように、従来、熱プレスで成型して用いられており、過昇防止スイッチやPTCヒータ等に用いられていた。
【0005】
本出願人は、先に、特許文献5において、アクリル酸含量の低いEAAと、導電性粒子からなるPTC材料をインク組成物に適用する技術を提案した。
【0006】
特許文献5のPTCインク組成物に関する発明により、インク化を実現し、機能面では薄膜化が可能になり、品質面ではその安定性が優れ、製造コストが抑えられるという効果をもたらした。
【0007】
しかしながら、インクで被膜を形成する際に、その加工性が充分ではなく、種々の検討を重ね、特許文献6では、これに非極性ゴムを追加することで、改善することができた。
【0008】
更に、特許文献7では、量産性を向上するために非極性ゴムではなく極性ゴムを追加することで、印刷加工性(加工性および量産性)を向上させることができた。
【特許文献1】特開昭54−16697号公報:結晶性ポリマーを用いたPTC材料
【特許文献2】特開昭55−78405号公報:結晶性ポリマーを用いたPTC材料
【特許文献3】特開昭55−159587号公報:EAAを用いたPTC材料
【特許文献4】特開昭55−160006号公報:EAAを用いたPTC材料
【特許文献5】特開2002−146251号公報
【特許文献6】特開2004−143354号公報
【特許文献7】特開2006−169367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、その後研究を継続し、新たな課題を見出した。
【0010】
つまり、量産性を向上させるためには非極性ゴム溶液ではなく、極性ゴム溶液を添加することが重要であるが(特許文献7)、極性ゴム溶液を用いるとゴム部分の強度が増すために、インク乾燥後の印刷物の変形(湾曲、そり、カール等)度合いに改良すべき課題があることを見出した。
【0011】
本発明者らは、これを改善しようと鋭意検討した結果、本発明に至った。
【0012】
そこで本発明の課題は、量産性を維持しながら、かつ印刷後のインク乾燥後の変形(湾曲、そり、カール等)度合いをおさえることを可能とするPTCインク組成物の製造方法及びPTCインク組成物を提供することにある。
【0013】
本発明の他の課題は以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は以下の各発明によって解決される。
【0015】
(請求項1)
アクリル酸含量が20重量%以下のエチレン−アクリル酸共重合体(EAA)をデカリン、テトラリンまたはこれらの混合物中に加熱溶解させて得られる導電性粒子含有PTC(Positive Temperature Coefficient)インク組成物に、非極性ゴムを脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素またはこれらの混合物から選ばれる非極性溶媒で溶解した非極性ゴム溶液を添加し、さらに極性溶媒を添加することを特徴とするPTCインク組成物の製造方法。
【0016】
(請求項2)
前記非極性ゴムが、ブチルゴム(IIR)又はエチレンプロピレンゴム(EPDM)であることを特徴とする請求項1記載のPTCインク組成物の製造方法。
【0017】
(請求項3)
前記極性溶媒が、ケトン類、グリコールエーテル類、グリコールエステル類、エステル類から選ばれる少なくとも1種類の単体又は2種類以上の混合物であることを特徴とする請求項1又は2記載のPTCインク組成物の製造方法。
【0018】
(請求項4)
請求項1、2又は3記載の製造方法から得られることを特徴とするPTC組成物。
【0019】
(請求項5)
請求項4記載のPTCインク組成物を用い、厚さ1μm〜100μmに形成してなることを特徴とするPTC材料。
【0020】
(請求項6)
請求項5記載のPTC材料からなることを特徴とする面状発熱体
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、印刷時、インクがスムースに基材に転写し、印刷された被膜は連続被膜で得られ、印刷を一般の印刷と同様の速度で行うことができ、印刷を連続して行えるようになり印刷加工性(量産性および加工性)に優れ、生産効率を上げることが可能となる効果がある。
【0022】
また、本発明によれば、量産性に優れることに加え、且つ印刷乾燥後の印刷物の変形(湾曲、そり、カール等)度合いを小さくすることができる。このため、印刷の品質を向上し、印刷コストを抑えることができる。
【0023】
さらに、本発明は、印刷加工性(量産性および加工性)に優れ、且つ印刷後のインク乾燥後の変形度合いを抑えることができるため、その後の工程でのハンドリング性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0025】
本発明において、マトリクスとして用いられるエチレン−アクリル酸共重合体(EAA)は、アクリル酸をエチレンに共重合させることで結晶化度は低下するが、顕著なPTC特性を得るためには、結晶化度が高い共重合体であることが好ましい。一方、接着強度や通電時の抵抗変化に対しては、アクリル酸の共重合が必須となる。かかる観点から本発明におけるEAAは、アクリル酸含量が20重量%以下、好ましくは2〜10重量%のものが用いられる。
【0026】
EAAを溶解させる溶剤としては、デカリン、テトラリンまたはこれらの混合物が用いられる。
【0027】
EAAの溶解に際して、EAAと溶剤の混合割合は、EAA濃度が5〜20重量%となるような割合で用いられる
【0028】
このような濃度の溶液の調整は、約50〜150℃、好ましくは70〜140℃に加熱することによって行われる。
【0029】
得られたEAA溶液中には、更にカーボンブラック、グラファイト、金属粒子等から選ばれる導電性粒子が添加される。
【0030】
カーボンブラックとしては、GPF、SRF、FT等の比較的粒径が大きく、ストラクチャーの小さなものが好んで用いられる。
【0031】
金属粒子としては、銅、ニッケル、亜鉛、真鍮、金、銀などの単体粒子、あるいは銅、ニッケル、亜鉛、真鍮などの混合物、またはこれら金属を表面処理した粒子が挙げられる。
【0032】
本発明において、導電粒子は、カーボンブラック、グラファイト、金属粒子等の1種を選択使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0033】
導電粒子の添加量は、(導電粒子量)/(導電粒子量+EAA量)×100の式によって算出される割合が、5〜80重量%となる範囲が好ましい。
【0034】
導電性粒子のEAA溶液中への分散は、三本ロール、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、ホモジナイザー、ディスパー、プラネタリーミキサー、アンカーミキサー等の湿式分散機を用いて行われる。
【0035】
上記のようにして導電性粒子含有PTCインク組成物が得られる。本発明では、得られた導電性粒子含有PTCインク組成物に非極性ゴム溶液を添加する。
【0036】
本発明において、導電性粒子含有PTCインク組成物に添加するゴム溶液は、非極性ゴムを、脂肪属炭化水素、芳香族炭化水素またはこれらの混合物で溶解した非極性ゴム溶液であることを特徴としている。
【0037】
非極性ゴムとしては、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)等が挙げられる。
【0038】
ゴムを溶解する脂肪族炭化水素としては、ヘキサン、ヘプタン、ゴム揮発油、ミネラルスピリットなどが挙げられ、芳香族炭化水素としては、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、ソルベントナフタ、ジペンテンなどが挙げられる。
【0039】
これら脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素から、単体または混合物を、印刷方法により、沸点、蒸気圧を考慮して用いられる。
【0040】
本発明において、非極性ゴム溶液を添加する際のゴムの濃度は、2〜40重量%の範囲が好ましく、より好ましくは5〜20重量%の範囲である。ここで「ゴム濃度」というのは、ゴム重量/(ゴム重量+EAA重量)/100の式によって求まる濃度である。
【0041】
非極性ゴム溶液の添加後は、ディスパー、バタフライミキサー、ゲートミキサー、プラネタリーミキサーあるいはアンカーミキサー等の攪拌機を用いて、上記導電性粒子含有PTCインク組成物(PTC分散物)と均一化する。
【0042】
なお、非極性ゴム溶液の添加については、上記のようにEAA溶液と導電性粒子を分散した後に添加攪拌して均一化するだけでなく、分散前に添加してEAA溶液/導電性粒子/非極性ゴム溶液を一度に分散しても良い。
【0043】
本発明においては、導電性粒子含有PTCインク組成物に非極性ゴム溶液を添加した後、さらに極性溶媒を添加することを特徴としている。
【0044】
極性溶媒としては、ケトン類、グリコールエーテル類、グリコールエステル類、エステル類が挙げられ、これらの1種又は2種以上を混合使用でき、印刷方法により、沸点、蒸気圧を考慮して用いられ、ゴムを溶解した溶媒に対し、98:2から70:30、好ましくは95:5から85:15の比率で添加する。
【0045】
ケトン類としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、アセト酢酸エステルなどが挙げられ、グリコールエーテル類としては、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどが挙げられ、グリコールエステル類としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどが挙げられ、エステル類としては、例えば酢酸メチルエステル、酢酸エチルエステルなどが挙げられる。
【0046】
極性溶媒添加後はディスバー、バタフライミキサー、ゲートミキサー、プラネタリーミキサー、アンカーミキサー等の攪拌機を用いて、PTC分散物に非極性ゴム溶液を添加して得られた溶液と均一化する。
【0047】
極性溶媒の添加は、慎重に行う必要がある。添加速度が速すぎると、ソルベントショックを起こし、分離、ゲル化を促進して、粘度の低下を招き、その結果、所望の粘度に至らず、印刷加工性を悪くするためである。添加は、点滴のような治具を用いることが好ましい。また撹拌は、マイルドである程よく、極性溶媒と、PTC分散物に非極性ゴム溶液を添加して得られた溶液とが、見かけ上混合された程度が良い。具体的には周速300m/minを上限として、下限は30m/minが攪拌に適した範囲である。
【0048】
このようにして得られたPTCインク組成物は、粘度が約1〜1000Pa・sの範囲であることが好ましく、樹脂、金属、セラミックス、ガラス等の基材上にスクリーン印刷法、メタルマスク印刷法、グラビアコーター、ナイフコーターを用いて塗設できる。
【0049】
アクリル酸含量が20重量%以下のEAAをデカリン、テトラリンまたはこれらの混合物中に約50〜150℃の温度で加熱溶解させて得られる導電性粒子含有PTCインク組成物に、非極性ゴムを脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素またはこれらの混合物から得られる非極性溶媒で溶解した非極性ゴム溶液を添加し、さらに極性溶媒を添加することによって、極性ゴム溶液を添加しなくても量産性に優れ、且つ印刷乾燥後の印刷物の変形度合いを小さくすることができる。
【0050】
本発明では、上記PTCインク組成物を基材上に、好ましくは厚さ1μm〜100μmの範囲、より好ましくは厚さ10μm〜70μmの範囲に塗膜を形成することにより、PTC材料として適用できる。
【0051】
また、本発明では、上記PTC材料に、電極を配設することによって面状発熱体として提供できる。
【実施例】
【0052】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0053】
実施例1
エチレン−アクリル酸共重合体(EAA) 100重量部
(エクソンモービル化学社製「Escor5000;アクリル酸含量6重量%」)
デカリン(関東化学社製) 600重量部
カーボンブラック(CB) 60重量部
(SRF:新日化カーボン社製「HTC#S」)
【0054】
上記のEAAを液温80℃のデカリンを入れた容器中で溶解し、次いで、冷却後、CBを添加し、3本ロールでCBを分散して、導電性粒子含有PTCインク組成物を作成した。
【0055】
これにEPDMを芳香族炭化水素に溶解したゴム溶液を添加しディスパーにより攪拌し、さらにグリコールエーテルを点滴添加し、ゲートミキサーで攪拌してPTCインク組成物を得た。
【0056】
添加量に関しては表1に示した。
【0057】
比較例1(特開2004−143354)
実施例1と同様に作成した導電性粒子含有PTCインク組成物に、EPDMを芳香族炭化水素に溶解した非極性ゴム溶液を添加し、ディスパーで攪拌してPTCインク組成物を得た。
【0058】
添加量に関しては表1に示した。
【0059】
比較例2(特開2006−169367)
実施例1と同様に作成した導電性粒子含有PTCインク組成物に、ACMをグリコールエーテルに溶解した極性ゴム溶液を添加しディスパーで攪拌してPTCインク組成物を得た。
【0060】
添加量に関しては表1に示した。
【0061】
【表1】

【0062】
〔評価〕
評価1
実施例1及び比較例1、2のPTCインク組成物を用いて、メタルマスク印刷での所定の印刷速度に対するインクと溶剤の分離、印刷対象物への転写および連続被膜の形成を以下の評価基準に従い判定した。
【0063】
得られた結果を表2に示した。
【0064】
(評価基準)
インクと溶剤の分離
○:印刷周辺ににじみがない
△:にじみはあるが端部が明確である
×:にじんで端部が崩れている
【0065】
印刷対象物への転写
○:転写した
△:一部転写しない
×:滑って転写しない
【0066】
連続被膜の形成
○:連続被膜を形成できた
△:一部だけ連続被膜を形成できた
×:連続被膜を形成できない
【0067】
【表2】

【0068】
表2より、実施例1、比較例1、比較例2共に印刷特性は十分であることがわかる。
【0069】
評価2
次に、印刷回数とにじみ、端部の脱落、スジの発生を確認した結果を表3に示した。
○は良好、△は少し発生、×はかなり発生し不良を示す。
【0070】
【表3】

【0071】
表3より、実施例1、比較例2で十分な連続印刷が可能であることがわかる。
【0072】
評価3
次に、印刷物の変形について、変形の有無と、変形によって生じた端部の浮きを測定した。端部の浮きは200mm×100mm試験片の短辺(100mm)に対し、端部の浮き上がった高さを測定した。得られた結果を表4に示した。
【0073】
印刷物の変形について、○は印刷物に変形がない、△は印刷物に多少変形が発生した、×は印刷物が激しく変形したことを示す。
【0074】
【表4】

【0075】
表4より、比較例2は、乾燥後、浮きという程度のものではないほどカールが激しく、後工程の効率が悪いことがわかる。
【0076】
本発明は、連続印刷が可能で、且つ乾燥後のカールの問題が解消されるため、生産効率に優れ且つ後工程での効率が良い(結果的に印刷コストを低減できる)ことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸含量が20重量%以下のエチレン−アクリル酸共重合体(EAA)をデカリン、テトラリンまたはこれらの混合物中に加熱溶解させて得られる導電性粒子含有PTC(Positive Temperature Coefficient)インク組成物に、非極性ゴムを脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素またはこれらの混合物から選ばれる非極性溶媒で溶解した非極性ゴム溶液を添加し、さらに極性溶媒を添加することを特徴とするPTCインク組成物の製造方法。
【請求項2】
前記非極性ゴムが、ブチルゴム(IIR)又はエチレンプロピレンゴム(EPDM)であることを特徴とする請求項1記載のPTCインク組成物の製造方法。
【請求項3】
前記極性溶媒が、ケトン類、グリコールエーテル類、グリコールエステル類、エステル類から選ばれる少なくとも1種類の単体又は2種類以上の混合物であることを特徴とする請求項1又は2記載のPTCインク組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の製造方法から得られることを特徴とするPTC組成物。
【請求項5】
請求項4記載のPTCインク組成物を用い、厚さ1μm〜100μmに形成してなることを特徴とするPTC材料。
【請求項6】
請求項5記載のPTC材料からなることを特徴とする面状発熱体。

【公開番号】特開2008−280442(P2008−280442A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−126563(P2007−126563)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】