説明

PWMアンプ

【課題】デットタイム歪みを補償したPWMアンプを提供する。
【解決手段】PWMアンプは、PWM入力信号を受け、デッドタイムを持つ第1駆動パルスと第2駆動パルスを形成するPWM駆動回路と、上記第1駆動パルスを受けて出力端子に第1出力電圧を出力させる第1出力素子と、上記第2駆動パルスを受けて上記出力端子に第2出力電圧を出力させる第2出力素子と、上記PWM入力信号と、かかるPWM入力信号に対応した上記第1出力素子と第2出力素子より形成された出力信号との誤差パルスを検出し、次に入力されるPWM入力信号に上記誤差パルスを加算させるデッドタイム補償回路とを有する
【選択図】図4

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、VCM(Voice Coil Motor)ドライバとPWM(パルス幅変調)アンプに関し、例えばハードディスクメモリ装置に用いられるものに適用して有効な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク駆動装置では高速アクセスの観点からトラック間を跨いで移動するシーク時間を短縮する方向にある。この結果、VCM(Voice Coil Motor)の駆動電流は増加してシーク動作時の発熱が問題になっている。この発熱問題を解決する為、位置決め制御の精度が要求されない代わりに電力消費が大きくなるシーク期間のみPWM(パルス幅変調)駆動によって消費電力を下げる。一方、リード・ライトのため磁気ヘッドを所望のトラックに追従させるトラックフォロー時は、正確なトラッキングのために高精度制御が要求され、しかもPWM駆動でのノイズの影響を避けるためにリニア駆動に切り替える。このようなPWM/リニア併用方式のVCMドライバの例として、特開2002−184137公報がある。また、全面的にPWM駆動としたVCMドライバの例として、特開2005−304095公報、特開2005−304096公報がある。いずれも、本願発明者が先に提案したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−184137公報
【特許文献2】特開2005−304095公報
【特許文献3】特開2005−304096公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ハードディスクの単位面積当たりの大記憶容量化のために垂直記録方式等を採用するようにして記録密度が益々高くされる傾向にある。このように記録密度が高くされた場合には、トラック間隔は狭くなり上記PWM方式では正確なトラッキングが難しくなる。例えば、上記特許文献1のようにPWM/リニア併用方式でのリニア動作においても、デジタル値で設定された駆動電流値をデジタル/アナログ変換するDAC(デジタル/アナログ変換器)が設けられ、DACの出力値によってVCMドライバを駆動する。このとき、特許文献1のようなリニア方式でもデジタル/アナログ変換時に発生する量子化ノイズ、1/fノイズやホワイトノイズがリード・ライトのため磁気ヘッドを所望のトラックに追従させるトラックフォロー時に大きな障害になる。
【0005】
前記特許文献2,3では、(1)位相補償器をデジタルフィルタ(Digital Filter)で実現した電流アンプを用いること、(2)出力のPWM変調で生じる量子化誤差をΔΣ変調で低減させること、(3)出力段のスイッチング波形の遅延時間及び遷移時間を計測することによりスイッチング誤差を低減させること、(4)出力段の電源電圧をADCで計測することにより、出力段の持つPWM変調誤差を低減させるような工夫を行うことによって全面的にPWM駆動とするものである。この場合、DACが発生するノイズとVCMドライバの位相補償器で生じるノイズは低減する。しかし、前記のような垂直記録方式等に対応した高記録密度においては、次のような問題が生じる。
【0006】
上記特許文献2のPWMアンプにおいては、出力スイッチング回路が有するデッドタイムによって、コイル電流のゼロクロス近傍で制御不感帯を生じてノイズ大となる(ゼロクロス歪の発生)。これにより、正確なトラッキングが不可能となり、PWMアンプとしては出力歪みが大きくなる。また、電源揺れに対する出力誤差(PWM誤差)の補正を行うためにADCが必要なためコスト高になる。入力信号の更新レートと出力側ΔΣ変調器の更新レートが非同期で且つ周波数差があまり無いことからビートノイズの発生が懸念される。ΔΣADC後段のLPF又はデシメーションフィルタ(Decimation Filter)によって生じる遅延により制御帯域が制限されしまい、垂直記録方式のHDDで望まれる制御帯域が達成することが難しい。
【0007】
この発明の目的は、低消費電力と高精度化を実現したVCMドライバを提供することにある。この発明の他の目的は、デットタイム歪みを低減させ、VCMドライバ等に好適なPWMアンプを提供することにある。この発明の前記ならびにそのほかの目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願における実施例の1つは下記の通りである。PWMアンプは、PWM入力信号を受け、デッドタイムを持つ第1駆動パルスと第2駆動パルスを形成するPWM駆動回路と、上記第1駆動パルスを受けて出力端子に第1出力電圧を出力させる第1出力素子と、上記第2駆動パルスを受けて上記出力端子に第2出力電圧を出力させる第2出力素子と、上記PWM入力信号と、かかるPWM入力信号に対応した上記第1出力素子と第2出力素子より形成された出力信号との誤差パルスを検出し、次に入力されるPWM入力信号に上記誤差パルスを加算させるデッドタイム補償回路とを有する。
【発明の効果】
【0009】
ロクロス(デッドタイム)補償回路により正確なトラッキングが可能となり、PWMアンプとして出力歪みを改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明に係るVCMドライバの一実施例のブロック図である。
【図2】この発明を説明するためのループゲイン特性図である。
【図3】この発明を説明するための誤差抑圧特性図である。
【図4】この発明に係るゼロクロス補償回路の一実施例のブロック図である。
【図5】拡張ΔΣ変調器の一実施例のブロック図である。
【図6】拡張ΔΣ変調器の他の一実施例のブロック図である。
【図7】図14のVCMドライバに対応したシミュレート波形図である。
【図8】図1のマイナーループを設けた場合のシミュレート波形図である。
【図9】図1のゼロクロス補償回路を設けた場合のシミュレート波形図である。
【図10】図1のマイナーループ及びゼロクロス補償回路を設けた場合のシミュレート波形図である。
【図11】この発明に係るVCMドライバの他の一実施例のブロック図である。
【図12】この発明に係るVCMドライバの他の一実施例のブロック図である。
【図13】この発明が適用される磁気ディスク装置の一実施例の概略構成図である。
【図14】本願発明者によって検討されたPWM方式のVCMドライバのブロック図である。
【図15】この発明に用いられる出力回路の説明図である。
【図16】この発明を説明するための出力回路の伝達特性図である。
【図17】この発明を説明するためのPWM周波数と量子化誤差の関係を表した特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
この発明をより詳細に説明するために、添付の図面に従ってこれを説明する。
【実施例】
【0012】
図1には、この発明に係るVCMドライバの一実施例のブロック図が示されている。同図のVCMドライバは、ボイスコイルVCMに対して駆動電流を供給する往路経路と、ボイスコイルVCMの駆動電流をセンスする帰還経路とを有する。往路経路は、位相補償器−拡張ΔΣ変調器−MOD−PA,NAを有する。帰還経路は、Ksens−ADC−LPF1−DFL−LLFLを有する。上記MODは、PWM変調器である。PA,NAは出力回路である。Ksensは、センスアンプである。LPF1は、ロウパスフィルタである。DFLは、デシメーションフィルタ(Decimation filter)である。LLFLは、ラグ−リードフィルタ(Lag-Lead filter)である。
【0013】
往路経路は、次の通りである。入力信号INは、駆動電流指令であり、例えば16ビットのデジタル信号である。入力信号INは、後述するようなマイコン(マイクロコンピュータ)を含むコントローラによって生成され、図示しないシリアル入出力ポートを介して入力される。この入力信号INの更新レート(周波数)は、現状のHDDでは50KHz程度であるが、将来的には100KHzのように高くなると予測される。
【0014】
上記入力信号IN(駆動電流指令)と帰還経路を通したVCM電流の検出値Ivcmdetとの誤差比較出力が位相補償器(PI型)に入力される。このPI型位相補償器の出力信号は、拡張ΔΣ変調器に入力される。この拡張ΔΣ変調器は、上記位相補償された誤差比較出力をPWMに対応した制御コードに変換する。PWM変調器MODは、上記制御コードを受けてPWMパルスを形成する。出力回路PAとNAは、ブリッジ回路を構成して、それぞれ出力端子VCMPとVCMNを介して接続されたボイスコイルVCMをPWM駆動する。つまり、拡張ΔΣ変換器は、上記位相補償された電流値を所定ビット数(例えば7ビット)の制御コード信号に変換する。PWM変調器MODは、上記変換された制御コードとその符号反転信号に基づいて上記出力回路PA,NAのPWM信号を生成するD/A変換手段として動作する。
【0015】
帰還経路は、次の通りである。上記ボイスコイルVCMに電流センス用の抵抗Rsが直列に接続される。この抵抗Rsは、VCM電流Ivcm を電圧信号に変換する。センスアンプKsensは、上記抵抗Rsで変換された電圧信号をセンスする。このセンス出力は、アナログ/デジタル変換器ADCによりデジタル信号に変換される。このADCは、ΔΣ型ADCで構成される。このADCの出力信号は、ロウパスフィルタLPF1−デシメーションフィルタ(Decimation filter)DFL−ラグ−リードフィルタLLFL(Lag-Lead filter)を通して上記検出値Ivcmdetとされる。
【0016】
本願発明の理解のため、前記特許文献2に基づいて本願発明者によって検討されたPWM方式によるVCMドライバのブロック図を図14に示す。詳しくは、前記特許文献2、3に記載されている。図14に示されVCMドライバにおいては、往路経路は、デジタル(Digital)演算型の位相補償器、ΔΣ変調器、PWM変調器MOD、出力アンプPA,NAおよびボイスコイルVCMからなる。帰還経路は、電流センスアンプKsens、ΔΣ型ADC、LPF1、DFL(Decimation Filter)およびLLFL(Lag-Lead Filter)で構成される。ライントランジェント特性およびPSRRの改善の為、ADCを設けて電源電圧Vpsの検出を行い往路経路のゲインを電源電圧Vpsに因らないように調整を行うものである。
【0017】
前記図1に示した本願発明に係るVCMドライバと前記図14のVCMドライバとの構成上の差異の第1点は、PI型位相補償器の比例成分補償の引き出し点を入力信号INとVCM電流Ivcm の検出値Ivcmdetとの誤差比較後からIvcmdet出力に変更した点である。これにより、図14(従来)の主ループ(メジャーループ)内側に、拡張ΔΣ変調器、PWM変調器MOD−出力アンプPA,NA−VCMコイル−電流センスアンプKsens−、ΔΣ型ADC−LPF1−DFL(Decimation filter)−LLFL(Lag-Lead filter)−定数Kpからなる1次特性を有するマイナーループを形成できる。
【0018】
図2には、この発明を説明するためのループゲイン特性図が示されている。図2(A)は、図14のVCMドライバに対応したループゲイン特性図が示され、図2(B)に本願発明のループゲイン特性図が示されている。前記図14のVCMドライバは、図2(A)に示すように、ポール・ゼロ・キャンセル(pole-zero-cancel)方式であり、ボイスコイルVCMのインダクタが持つ極を位相補償器のゼロ点でキャンセルさせることによって、シングル・ポール・オペレーションを得て系の安定を保つという考え方である。全体の帯域は、定数Kiで決定し、Ki/Kpでゼロ点を調整する。つまり、図2(A)の点線L2で示すようなインダクが持つ極ωlに一致するように、ωz(=Ki/Kp)を選ぶことにより、実線L1で示したような一次特性のループゲインを得る。
【0019】
前記図1のVCMドライバは、マイナーループ(minor loop)方式である。図2(B)のようにKpの働きによりマイナーループの帯域ωloop1を少なくとも目標帯域周波数ωvcmまで平坦(フラット)な特性とする。即ち、マイナーループのループゲインは点線L4のようになり、マイナーループの閉ループゲインは、帯域ωloop1を持つ1次遅れ特性となる。そして、入力信号INとVCM電流Ivcm の検出値Ivcmdetとを誤差比較させるメジャーループによって同図に点線L3で示したようなシングル・ポール・オペレーションを得る。全体の系は、Kidで決定し、Kpでマイナーループの帯域ωloop1を決定する。
【0020】
図3には、この発明を説明するための誤差抑圧特性図が示されている。同図において、点線で示したのは、前記図14のVCMドライバの場合を示し、実線で示したのが前記図1に示したようなマイナーループを持つVCMドライバの場合である。ここで、デジタルシステム(Digital system)特有の量子化誤差を除く出力電圧の誤差は、電源電圧Vpsの揺れと出力回路PA,NAのデッドタイムによる歪が主成分であり、これらがマイナーループの内側に生じる。故に、上記誤差電圧に対する抑圧特性は、2次特性を有するマイナーループ方式によって、図14の誤差抑圧特性より大幅な改善が図れる。
【0021】
第2の構成上の差異は、出力回路PA,NAのゼロクロス補償回路PNCNTを追加した点である。出力回路PA,NAは、図15(A)に示したようにHブリッジ回路を構成する。図15(B)に示すように、上アーム(MOSFETM1)と下アーム(MOSFETM2)が同時にオンしないように入力PWM信号PWMinP−PWMinNにはデッドタイムtDEADが設けられている。このことは、MOSFETM3とM4の関係についても同様である。そのため、出力アンプPAおよびNAの出力VCMP,VCMNのパルス幅は入力のPWMパルス幅に対して誤差を持つ。この誤差は、制御のオフセット量として現れ、コイル電流Ivcm の極性が変わると、同オフセット量も反転するため、図16に実線で示すPWMモードの特性のように制御不感帯を持ってしまうので、正確なヘッド位置制御を困難とする。
【0022】
図4には、この発明に係るゼロクロス補償回路の一実施例のブロック図が示されている。このゼロクロス補償回路は、上記PWMモードの特性の制御不感帯を補償する。ゼロクロス補償回路PNCNTは、いわば1次Δ−Σ変調型誤差補正回路である。前述したように出力回路PAおよびNAはデッドタイムを有しているため、出力回路PAおよびANの出力VCMP,VCMNのパルス幅は入力のパルス幅に対して誤差を持つ。そこで、VCMP−VCMNの出力信号を分圧抵抗R1とR2−R3とR4で分圧し、その極性をインバータ回路IV1とIV2で判定し、極性カウンタPNCNTで基準クロックMCLKを用いて計数する。この計数出力とPWMIN(制御コード)との差分を次サイクルの更新された制御コード(PWMIN)に加えてゼロクロス誤差を補償する。
【0023】
このように、上記出力パルス(VCMP,VCMN)の測定時間とPWM制御の指示値PWMINの誤差時間を1PWM更新周期遅れで次のPWM変調器入力信号に加算し補正する。これにより、出力アンプPA,NAのデッドタイムによる誤差(ゼロクロス歪)を前記図16の点線で示したように低減させるものである。図16において、細い実線は、リニアモードの特性が示されている。同図に有るように誤差補正量を1PWM更新周期遅れて入力信号に加算する1次ΔΣ型の補正は発振の観点から有効である。2次以上のΔΣ型の補正を用いると誤差が大きい場合発振動作となるからである。
【0024】
第3の構成上の差異は、図1の往路経路にあるΔΣ変調器の後段にロウパスフィルタLPF2とデシメーションフィルタ(Decimation filter)DEC2を付加し、より高い動作クロックでΔΣ変調器を動作できるようにした点である。前記図14の構成では折り返し歪の発生抑制の観点からPWM周波数とΔΣ変調器の動作速度(更新レート)fdsはfds≦fpwmに制限される。本発明の構成では、ΔΣ変調器の動作速度の向上が図れ往路経路で発生する量子化誤差を低減できる。ΔΣ変調器の動作周波数の向上は、帰還経路におけるデシメーション(Decimation)比を低減できる為、帰還経路のロウパスフィルタLPF1のカットオフ周波数を高く設定可能になり、遅延時間は短縮される。ここで、懸念されるのは帰還経路のロウパスフィルタLPF1のカットオフ向上に伴なう高域ノイズの増大であるが、本発明の構成では帰還路のロウパスフィルタLPF1と往路経路のロウパスフィルタLPF2があるため、高域ノイズは図14の構成(帰還経路路のみにロウパスフィルタLPF1)に比べてさほど増大しない。
【0025】
前記マイナーループのループ利得は、コイルインピーダンスに折れ点ω1を持つ1次のLPF特性となる。ここで定数Kpを適切に選択し、マイナーループの帯域ωloop1 を所望の値に設定する。帯域ωloop1 は通常VCM帯域ωvcm より数倍高い値に選ぶ必要がある。また、誤差抑圧特性は、帯域ωloop1 が高いほど有利でありωvcm も高く出来るのでマイナーループのループ内遅延時間は短い程よい。ループ内遅延時間は、上述の第3の構成上の差異によって改善可能である。
【0026】
図5には、拡張ΔΣ変調器の一実施例のブロック図が示されている。この実施例では、2次ΔΣ変調器の後段の2次LPF出力に小数点が現れ、それを小数分離と遅延段(Z-1)と加算器により補正する形式である。この実施例ではΔΣ変調器のビット数QM=6、PWM変調器のビット数M=7の例である。同図に示すように、2つの加算フィルタを用いて2次LPFを実現できるためハードウエアを簡単化できる特長がある。
【0027】
図6には、拡張ΔΣ変調器の他の一実施例のブロック図が示されている。この実施例では、予めゲイン調整を行い2次LPF出力に小数点が現れないようにする形式である。この実施例ではΔΣ変調器のビット数QM=6、PWM変調器のビット数M=7の例である。図5同様に、本実施例でも2つの加算フィルタを用いて2次LPFを実現できるためハードウエアを簡単化できる特長がある。更に、ΔΣ変調器の前で適切なスケーリングを加えることで整数演算のみで実現できる為、図5の実施例より更にハードウエアを簡単化できる。
【0028】
図7乃至図10には、この発明を説明するためのシミュレート波形図が示されている。図7は、図14のVCMドライバに対応した波形図であり、入力信号は2KHz/10mA相当である。入力信号が正側から負側に変化したときには、VCM電流及びフィルタ後VCM電流に負側への立ち下がり波形にゼロクロス歪みが大きく発生する。逆に、入力信号が負側から正側に変化したときには、VCM電流及びフィルタ後VCM電流に正側への立ち上がり波形にゼロクロス歪みが大きく発生する。
【0029】
図8は、図1のマイナーループを設けた場合の波形図であり、入力信号は前記同様に2KHz/10mA相当である。マイナーループの付加によって入力信号が正側から負側に変化したとき、あるいは入力信号が負側から正側に変化したときに発生するVCM電流及びフィルタ後VCM電流のゼロクロス歪は図7に比べて大きく改善される。
【0030】
図9は、図1のゼロクロス補償回路を設けた場合の波形図であり、入力信号は前記同様に2KHz/10mA相当である。マイナーループの付加によって入力信号が正側から負側に変化したとき、あるいは入力信号が負側から正側に変化したときに発生するVCM電流及びフィルタ後VCM電流のゼロクロス歪は図7に比べて大きく改善される。
【0031】
図10は、図1のマイナーループ及びゼロクロス補償回路を設けた場合の波形図であり、入力信号は前記同様に2KHz/10mA相当である。マイナーループ及びゼロクロス補償回路の付加によって入力信号が正側から負側に変化したとき、あるいは入力信号が負側から正側に変化したときに発生するVCM電流及びフィルタ後VCM電流のゼロクロス歪は図8,図9に比べても改善される。
【0032】
図11には、この発明に係るVCMドライバの他の一実施例のブロック図が示されている。この実施例では、ボイスコイルVCMをリニア駆動する例である。この実施例は、前記図1に示した実施例との差異は、往路経路の「拡張ΔΣ変調器+PWM変調器」の構成を「ΔΣ変調器+DAC+ALPF」からなるΔΣ型DACに置き換えてリニア駆動とした点である。上記DACは、デジタル/アナログ変換器である。上記ALFPは、アナログロウパスフィルタである。これにより前記図1におけるPWM変調器MODでの量子化誤差が低減され、且つ、リニア駆動の場合、パワーアンプPA,NAにクラスAB型を採用することでゼロクロス歪も低減でき、図1に示したVCMドライバ比べてSN比を向上させることができる。
【0033】
図12には、この発明に係るVCMドライバの他の一実施例のブロック図が示されている。この実施例では、前記図1に示したPWM方式と図11に示したリニア方式とを切り替えるようにしたものである。前記図1に示した「拡張ΔΣ変調器+PWM変調器」と前記図11に示した「ΔΣ型DAC」は構成上ほぼ同一であり、ΔΣ変調器出力からパワーアンプ入力までが違うのみである。従って、大きなコストアップ無く併用駆動システムが実現可能である。本構成は、シーク動作のときにはPWM方式で動作させ、トラッキング動作のときにはリニア方式で動作させるものである。信号PWM/LINは出力回路の動作切替信号である。両者の動作モードの切替のときに、前記図16に示した点線で示した特性(ゼロクロス補償付PWMモード)と細い実線で示した特性(リニアモードLIN)との相互のシームレスな切替が要求される為、全体のループ伝達関数をPWM(ゼロクロス補償)駆動時とリニア駆動時で一致させる必要があり、この観点からも往路経路のΔΣ変調後段にはLPF2が必要となる。
【0034】
前記図1、図11及び図12に示したVCMドライバでは省略されているが、前記特許文献2,3で説明されているように、コントローラとの間での入出力動作のためのシリアルポート、及びボイスコイルVCMの逆起電圧Vb-emf(推定値)を演算して速度情報として上記コントローラへ供給する逆起電圧推定回路なども設けられる。この逆起電圧推定回路によって算出された逆起電圧Vb-emfは、上記シリアルポートを介してコントローラへ送るようにすることができる。コントローラは受信した逆起電圧からヘッドの移動速度を認知することができ、例えば磁気ヘッドをランプと呼ばれる退避位置からディスク上へ移動させるヘッドロード時のボイスコイルモータの速度制御に利用することができる。磁気ヘッドの移動速度が速過ぎると磁気ヘッドがディスク表面に接触して傷をつけてしまうおそれがあるが、該速度制御によりそれを回避することが可能となる。
【0035】
図13には、この発明が適用される磁気ディスク装置の一実施例の概略構成図が示されている。ハードディスク記憶装置(HDD)は、スピンドルモータ1によって高速回転しているディスク2上にヘッド3よりデータを書き込み、読み出す。記憶位置(ヘッド3の位置)を可変するヘッドアクチュエータであるVCM(Voice Coil Motor)4を用い、ディスク2上に予め記憶されたサーボ情報を信号処理IC5で読み出し、マイコンを含むコントローラ6によって上記VCM4を駆動する駆動電流指令を発行し、それを前記図1、図11又は図12で示されたデジタル(Digital) 制御型VCMドライバ7によって駆動する帰還制御が行われる。上記VCMドライバ7は、それ自体あるいは上記スピンドルモータ1の駆動制御回路(図示せず)等のような他の回路とともに1つの半導体集積回路装置で構成される。この発明の適用によってHDDのシーク動作及びトラッキング動作の高速化と低消費電力化を実現することができる。
【0036】
図17には、PWM周波数と量子化誤差の関係を表した特性図が示されている。同図は、2次ΔΣ変調の場合を示し、同一クロックCLK(=50MHz)の場合、PWM周波数を1/2にすると−15dB(ΔΣ変調器)+6dB(PWM)=−9dBノイズは改善する。Mは、変調器MODのビット数であり、PWM周波数fpwm =CLK/2M の関係からMを9のように大きくするとPWM周波数fpwm が小さくなり、更新レートが長くなって同図のように各ノイズ振幅が大きくなる。ノイズ振幅は、上記磁気ヘッドの位置制御の精度悪化を招く。前記実施例のように入力信号INを周波数50KHzに設定したとき、マイナーループ、メジャーループ等による帰還ループによるノイズ軽減を考慮し、同図に示した目標値に適合するのはM=7程度となる。
【0037】
前記PWM方式でのゼロクロス歪は、デッドタイムによるPWMのデューティ誤差なので、前記図4の実施例のように実際に誤差時間を測定し、帰還することでゼロクロス歪は低減させることができる。高次のΔΣ変調器では、動作周波数の上昇に伴うS/N改善度が大きい。例えば、2次では2倍周波数が上昇すれば15dB改善できる。ΔΣ変調を利用した多ビットPWMシステムでも同様で、前記図17に示したようにPWM変調器のビット数が減ることによるノイズの増大分より、ΔΣ変調の高速化によるノイズ低減の効果が大きい。また、一般的にPWM周波数が上がるとスイッチングロスが増加する。即ち、PWM周波数とノイズはトレードオフの関係になり、PWM周波数の選択が必要となる。この場合、帰還経路と往路経路のΔΣ変調器までは特性を変更せず、PWM周波数のみを変更することが望まれる。
【0038】
但し、PWM周波数よりも高いΔΣ変調の動作速度では折り返し歪によって、ノイズが増大するので、これを防止する為、ΔΣ変調器後段にPWM周波数とΔΣ変調器の速度比に対応した適切なロウパスフィルタ(LPF)とデシメーションフィルタ(Decimation Filter)を付加する。前記実施例の場合、帰還経路と往路経路にそれぞれLPF1とLPF2を持つので、それぞれに次数を分散配置可能となり、遅延時間の短い高次のLPFが実現でき、ループの遅延時間の最適化を図れる上に、往路経路のΔΣ変調のS/Nも最適化できる。また、LPFの遅延時間が短くなると、前記図14の構成に比べて制御帯域の広帯域化が可能になると共に、広帯域のマイナーループ帰還が導入できる。この場合、マイナーループの負帰還効果とメジャーループの負帰還効果が同時に得られる為、結果として2次の誤差抑圧特性が得られるので、電源変動による出力段での誤差とゼロクロス歪の双方が低減される。これにより、前記電源変動による出力段での誤差を補正するためのADCを省略することができる。
【0039】
前記図11の実施例のようにPWM駆動をリニア駆動に置き換えるパスを用意することで、PWM駆動時に発生する量子化誤差によるノイズを低減できる。そして、図12の実施例のように、PWM動作とリニア駆動のパスを併用することで、消費電力優先とノイズ優先の使い分けが可能となり、更なるシステム性能の向上が可能となる。例えば、HDD装置の例では、消費電力低減が重要なシーク時はリニア駆動、精度が重要なトラッキング時はリニア駆動を用いることで、低消費電力で且つ高精度なVCMの駆動制御が可能となる。このとき、往路経路のΔΣ変調器の出力以降、出力回路PA,NA入力までをリニア駆動とPWM制御にそれぞれ分岐させることでコストの最小化が図れる。
【0040】
前記図4に示した構成は、デジタル値の入力信号を受けて、それを対応したアナログ出力信号を形成するPWMアンプとして広く利用することができる。前記実施例のようにVCMドライバのPWM変調器の他に、デットタイムにおける出力歪みを補償した音響用デジタルアンプとしても利用することができる。
【0041】
以上本発明者によってなされた発明を、前記実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。例えば、センスアンプの特性を切り替えて使用する場合などは帰還路のロうパスフィルタの遅れ時間によって切替時の変動が問題になる場合がある。この場合は、図1の帰還路のΔΣADC後段にあるLPF1、DFLとLLFLを適宜削除しても良い。例えば、各回路ブロックを実現する具体的回路、出力回路PA,NAを構成するアンプ、前記図12のように付加される切り替え回路の具体的構成は種々の実施形態を採ることができる。また、PWM動作のときに両出力電圧、又は一方の出力電圧を負帰還させて駆動電圧を形成するような電圧負帰還型の回路でも利用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
この発明は、HDD等のようなVCMドライバ及びデジタル入力信号で動作するPWMアンプとして広く利用することができる。
【符号の説明】
【0043】
Ksens…センスアンプ、LFP1,2…ロウパスフィルタ、ADC…アナログ/デジタル変換器、DFL,DEC2…デシメーションフィルタ、LLFL…ラグ−リードフィルタ、MOD…PWM変調器、PA,NA…出力回路、VCM…ボイスコイル、PNCNT…極性カウンタ、DAC…デジタル/アナログ変換器、ALFP…アナログロウパスフィルタ、
1…スピンドルモータ、2…ディスク、3…ヘッド、4…VCM、5…信号処理IC、6…コントローラ、7…VCMドライバ、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PWM入力信号を受け、デッドタイムを持つ第1駆動パルスと第2駆動パルスを形成するPWM駆動回路と、
上記第1駆動パルスを受けて出力端子に第1出力電圧を出力させる第1出力素子と、
上記第2駆動パルスを受けて上記出力端子に第2出力電圧を出力させる第2出力素子と、
上記PWM入力信号と、かかるPWM入力信号に対応した上記第1出力素子と第2出力素子より形成された出力信号との誤差パルスを検出し、次に入力されるPWM入力信号に上記誤差パルスを加算させるデッドタイム補償回路とを有するPWMアンプ。
【請求項2】
請求項において、
上記デッドタイム補償回路は、
上記出力端子から出力されるパルス幅とそれに対応した上記PWM入力信号とのパルス幅との誤差時間を基準クロックを計数するカウンタと、
上記カウンタで生成された上記誤差時間に対応したパルスを次に入力されたPWM入力に加える加算回路とを有するPWMアンプ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−31204(P2013−31204A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−200036(P2012−200036)
【出願日】平成24年9月12日(2012.9.12)
【分割の表示】特願2007−243662(P2007−243662)の分割
【原出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】