説明

R−T−B系磁石の製造方法

【課題】焼成中における成形体の組成の変動を抑制でき、得られるR−T−B系磁石の磁気特性を向上させることができると共に、R−T−B系磁石の組成の変動に伴う磁気特性のばらつきを防止できるR−T−B系磁石の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係るR−T−B系磁石の製造方法は、磁性材料から成形体を形成する成形工程と、成形体を加熱して成形体の温度を焼成温度T℃に到達させる昇温工程と、更に成形体の温度をT℃に保持する温度保持工程と、を備え、昇温工程又は温度保持工程において、その雰囲気を真空雰囲気から不活性ガス雰囲気へ切り替え、且つ、真空雰囲気から不活性ガス雰囲気への切り替えを、下記t以降t以前に行う。
:成形体の温度をT℃に到達させる前の時点
:t以降、成形体の温度をT℃に到達させ、更にT℃に保持して50分経過させる前の時点

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R−T−B系磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
R−T−B(Rは希土類元素、TはFe、Co等の金属元素)系の組成を有する希土類磁石(以下、R−T−B系磁石という。)は、優れた磁気特性を有する磁石である。なお、磁石の磁気特性を表す指標としては、一般に、残留磁束密度(Br)及び保磁力(Hcj)が用いられ、これらの積(最大エネルギー積)が大きいほど、磁石の磁気特性が優れていることを意味する。
【0003】
R−T−B系磁石の製造方法としては、例えば、下記特許文献1に、組成式R(Fe1−aCo)(RはYを含む希土類元素から選択された1種又は2種以上、TはAl、Si又はFe、Co以外の遷移金属から選択された1種又は2種以上、X、Y、Z及びa、bは、11≦X≦16、70≦Y≦85、4≦Z≦9、0≦a≦0.2、0≦b≦4)からなる希土類磁石の製造方法において、真空中又は大気圧以下の不活性ガス雰囲気中、1,000〜1,150℃で、焼結体の密度が真密度の90〜98%になるまで焼結を行い、引き続き1〜20気圧の不活性ガス雰囲気中、900〜1,150℃で0.1〜5時間、焼結を行うことを特徴とする製造方法が示されている。この製造方法によれば、密度、残留磁化及び保磁力を高めた高性能の磁石が得られる旨が、下記特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開2000−232012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に示す製造方法では、焼結中の成形体(焼結体の前駆体)の組成が変動し易く、磁石(時効処理後の焼結体)の所望の組成から想定される磁気特性に比べて、実際に得られる磁石の磁気特性が低くなる場合が少なくなかった。また、近年における電子機器の小型化、薄肉化に伴い、電子機器に実装される磁石にも小型化、薄肉化が要求されているが、磁石が小型化、薄肉化するほど、焼結中に成形体の組成が変動し易くなる傾向にあり、得られる磁石の磁気特性が低下する可能性があった。
【0005】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、焼成中における成形体の組成の変動を抑制でき、得られるR−T−B系磁石の磁気特性を向上させることができると共に、R−T−B系磁石の組成の変動に伴う磁気特性のばらつきを防止できるR−T−B系磁石の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のR−T−B系磁石の製造方法は、磁性材料から成形体を形成する成形工程と、成形体を加熱して成形体の温度を焼成温度T℃に到達させる昇温工程と、更に成形体の温度をT℃に保持する温度保持工程と、を備え、昇温工程又は温度保持工程において、その雰囲気を真空雰囲気中から不活性ガス雰囲気へ切り替え、且つ、真空雰囲気から不活性ガス雰囲気への切り替えを、下記t以降t以前に行うことを特徴とする。
:成形体の温度をT℃に到達させる前の時点
:t以降、成形体の温度をT℃に到達させ、更にT℃に保持して50分経過させる前の時点
【0007】
このような本発明のR−T−B系磁石の製造方法においては、昇温工程又は温度保持工程において、成形体の焼成雰囲気をt以降t以前に真空雰囲気から不活性ガス雰囲気へ切り替えることによって、成形体の組成の変動を抑制することができる。特に本発明では、従来の焼成条件で生じ易い傾向にあった成形体からの希土類元素の蒸発や成形体と不純物ガスとの反応を抑制することができる。その結果、得られるR−T−B系磁石は、焼成時の組成変動に起因する磁気特性、特に保磁力(Hcj)の低下が少なく、従来の製造方法により得られた磁石と比べて、結果として高い磁気特性を有するものとなる。また本発明によれば、R−T−B系磁石の組成の変動に伴う磁気特性のばらつきを防止できる。さらに、本発明によれば、焼成後の成形体(焼結体)の密度(焼結密度)の低下を抑制することも期待できる。
【0008】
成形体の焼成において、tより前の時点(成形体から溶媒や添加剤が十分に除去されていない時点)で焼成雰囲気を真空雰囲気から不活性ガス雰囲気へ切り替えると、焼結密度が上昇し難いため、得られるR−T−B系磁石の残留磁束密度Brが低下したり、または焼結密度上昇のために要する時間が長くなったりする傾向がある。また、tより後の時点で焼成雰囲気を真空雰囲気から不活性ガス雰囲気へ切り替えると、成形体からの希土類元素の蒸発や成形体と不純物ガスとの反応が起こり易く、また成形体中の粒成長を制御し難いため、得られるR−T−B系磁石の保磁力Hcjが低下する傾向がある。そこで、本発明では、焼成雰囲気をt以降t以前に真空雰囲気から不活性ガス雰囲気へ切り替えることによって、これらの傾向を抑制することができる。
【0009】
上記本発明では、tが、成形体の温度を(T−40)℃に到達させた時点であることが好ましい。
【0010】
これにより、成形体の組成の変動を抑制し易くなり、特に、従来の焼成条件で生じ易い傾向にあった成形体からの希土類元素の蒸発を抑制し易くなる。
【0011】
上記本発明では、昇温工程において、成形体の温度を(T−40)℃に一定時間保持した後に、成形体の温度をT℃に到達させることが好ましい。これにより、T℃に到達する前に、Tに近い温度で成形体が一定時間保持されることとなり、その結果、焼結密度の低下をより確実に抑制することができ、得られるR−T−B系磁石の磁気特性を更に向上させることができる。
【0012】
上記本発明では、不活性ガス雰囲気の気圧を50Pa〜80kPaとすることが好ましい。不活性ガス雰囲気の気圧が小さ過ぎると、成形体からの希土類元素の蒸発や成形体と不純物ガスとの反応を抑制し難くなる傾向があり、不活性ガス雰囲気の気圧が大き過ぎると、成形体内の微細な空隙に侵入した不活性ガスが成形体外へ抜け難くなり、焼結密度が上昇し難い傾向がある。そこで、本発明では、不活性ガス雰囲気の気圧を上記の好適範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、焼成中における成形体の組成の変動を抑制でき、得られるR−T−B系磁石の磁気特性を向上させることができると共に、R−T−B系磁石の組成の変動に伴う磁気特性のばらつきを防止できるR−T−B系磁石の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適な一実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
(R−T−B系磁石の製造方法)
本実施形態のR−T−B系磁石の製造方法は、R−T−B系磁石の原料である合金(磁性材料)からなる磁性粉末を作製する磁性粉末作製工程(ステップ1)、磁性粉末から成形体を形成する成形工程(ステップ2)と、成形体を焼成して焼結体を得る昇温工程及び温度保持工程(ステップ3)と、焼結体に時効処理を施す時効処理工程(ステップ4)と、から構成される。
【0016】
<ステップ1:磁性粉末作製工程>
磁性粉末作製工程では、所望の組成を有するR−T−B系磁石が得られるような合金(磁性材料)を準備する。この工程では、例えば、R−T−B系磁石の組成に対応する金属等の元素を含む単体、合金又は化合物等を、真空又はAr等の不活性ガス雰囲気下で溶解した後、これを用いて鋳造法やストリップキャスト法等の合金製造プロセスを行うことによって、所望の組成を有する合金を作製する。
【0017】
R−T−B系磁石の種類は特に限定されないが、例えば、希土類元素Rとして主にNdを含むものが挙げられるが、希土類元素と、希土類元素以外の遷移元素とを組み合わせた組成を有するものが好適である。具体的には、希土類元素として、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうちの少なくとも1種を含み、Bを必須元素として1〜12原子%含み、且つ残部がFeであるR−Fe−B系磁石が例示される。このようなR−T−B系磁石は、必要に応じて、Co、Ni、Mn、Al、Nb、Zr、Ti、W、Mo、V、Ga、Zn、Bi、Ta、Cu、Sn、Ag及びSi等の元素を更に含有してもよい。
【0018】
次に、得られた合金を粗粉砕して、数百μm程度の粒径を有する磁性粗粉を形成し、更に磁性粗粉を微粉砕して、数μm程度の粒径を有する磁性粉末を形成する。
【0019】
合金を粗粉砕する方法としては、例えば、ジョークラッシャー、ブラウンミル、スタンプミル等の粗粉砕機を用いる方法、または、合金に水素を吸蔵させた後、異なる相間の水素吸蔵量の相違に基づく自己崩壊的な粉砕を生じさせる方法(水素吸蔵粉砕法)が挙げられる。磁性粗粉を微粉砕する方法としては、例えば、磁性粗粉を、粉砕時間等の条件を適宜調整しながら、ジェットミル、ボールミル、振動ミル、湿式アトライター等の微粉砕機を用いて粉砕する方法が挙げられる。粉砕の助剤としてステアリン酸などの添加剤を加えても良い。
【0020】
<ステップ2:成形工程>
次に、成形工程において、磁性粉末から成形体を形成する。磁性粉末の乾式成形を行う場合は、磁性粉末を金型内に充填した後、金型内の磁性粉末に対して磁場を印加しながら圧縮成形を行うことによって、所定の磁場配向度を有する成形体を形成する。成形の助剤としてステアリン酸などの添加剤を磁性粉末に加えても良い。あるいは金型表面にステアリン酸などを塗布や噴霧させても良い。
【0021】
磁性粉末の湿式成形を行う場合は、磁性粉末と油等の溶媒とを含むスラリーを金型内に充填した後、金型内のスラリーに対して磁場を印加しながら圧縮成形を行うことによって、所定の磁場配向度を有する成形体を形成する。
【0022】
成形によって得られる成形体の形状は特に制限されず、柱状、平板状、リング状等、所望とするR−T−B系磁石の形状に応じて変更することができる。
【0023】
成形時の加圧方向は、磁場の印加方向と同じとしてもよく、磁場の印加方向と垂直としてもよいが、磁場の印加方向と垂直に加圧を行うと、より優れた磁気特性が得られる傾向にある。また、成形時における磁場強度は、400〜1600kA/mとすることができ、加圧は30〜300MPaとすることができる。このような条件で磁場中、成形を行うことにより、良好な磁気特性を有するR−T−B系磁石を得易い傾向がある。
【0024】
なお、湿式成形を行った場合は、成形工程後の脱溶媒処理工程において、成形体を例えば真空中で加熱することにより、成形体に残存した溶媒や添加剤を除去する。なお、脱溶媒処理工程では、通常、成形体の焼結は進行しないが、焼結が部分的に進行してもよい。
【0025】
<ステップ3:昇温工程及び温度保持工程>
図1は、昇温工程及び温度保持工程で行う加熱の温度プロファイルの一例を示す図である。図1において、横軸が焼成開始からの経過時間(分)を、縦軸が各経過時間における温度(℃)をそれぞれ示している。図1に示すように、昇温工程では、脱溶媒処理工程後の成形体を加熱して成形体の温度を焼成温度T℃に到達させ、温度保持工程では、更に成形体の温度をT℃に所定時間保持する。温度保持工程後、成形体を急冷することによって、成形体を焼結させ、焼結体を得る。なお、図1では、成形体を加熱して成形体の温度を(T−40)℃に到達させた時点をtとしているが、tは、成形体の温度をT℃に到達させる前の時点であれば特に限定されない。
【0026】
なお、昇温開始時の温度は、一例として0℃から昇温を開始した場合について記載(図示)したが、実際には0℃よりも高い温度(例えば室温付近)であることが多い。また、焼成時(昇温工程及び温度保持工程)における成形体の温度は、例えば成形体の雰囲気温度等を調節することによって変化させることができるが、本明細書では、このような「雰囲気温度」等をそのときの成形体自体の温度と見なすことができるものとする。
【0027】
なお、好適なTは、磁性粉末の組成、粉砕方法、粒度と粒度分布の違い等、諸条件によって異なるが、1000〜1200℃程度とすればよい。また、成形体の温度をTに保持する時間は、成形体に含まれる磁性粉末の組成、粉砕方法、粒度と粒度分布の違い等の諸条件によって調整することが好ましいが、1〜5時間程度とすればよい。
【0028】
昇温工程及び温度保持工程においては、成形体を、真空雰囲気中で加熱し、次に不活性ガス雰囲気中で加熱する。そして、本実施形態では、このような焼成雰囲気の切り替えを、以下に示す時点で実施する。すなわち、成形体を加熱して成形体の温度をT℃に到達させる直前の時点をtとし、t以降、成形体を更に加熱して成形体の温度をT℃に到達させ、更に成形体の温度をT℃に保持して50分経過させる前の時点をtとするとき、真空雰囲気から不活性ガス雰囲気への切り替えを、t以降t以前に行う。
【0029】
成形体の焼成雰囲気をt〜tで真空雰囲気から不活性ガス雰囲気へ切り替えることによって、成形体の組成の変動や成形体と不純物ガスとの反応を抑制することができる。特に実施形態では、成形体からの希土類元素(例えばNd)の蒸発を抑制することができる。その結果、得られるR−T−B系磁石の磁気特性、特に保磁力(Hcj)を向上させることできる。また、成形体の焼成雰囲気をt〜tで真空雰囲気から不活性ガス雰囲気へ切り替えることによって、焼結密度の低下を抑制することも期待でき、さらに、R−T−B系磁石の組成の変動に伴う磁気特性のばらつきを防止できる。
【0030】
なお、tより前の時点で焼成雰囲気を真空雰囲気から不活性ガス雰囲気へ切り替えると、焼結密度が上昇し難いため、得られるR−T−B系磁石の残留磁束密度Brが低下したり、または焼結密度上昇のために要する時間が長くなったりする傾向がある。また、tより後の時点で焼成雰囲気を真空雰囲気から不活性ガス雰囲気へ切り替えると、成形体からのNd等の希土類元素の蒸発や成形体と不純物ガスとの反応が起こり易く、また成形体中の粒成長を制御し難いため、得られるR−T−B系磁石のHcjが低下する傾向がある。そこで、t〜tの時点で、焼成雰囲気を真空雰囲気から不活性ガス雰囲気へ切り替えることによって、これらの傾向を抑制することができる。
【0031】
は、成形体を加熱して成形体の温度を(T−40)℃に到達させた時点とすることが好ましい。また、tは、成形体を加熱して成形体の温度を(T−20)℃に到達させた時点とすることがより好ましい。すなわち、成形体の焼成において、成形体を加熱して成形体の温度が(T−40)℃よりも高い(T−20)℃に到達させた時点をtとすることが好ましい。これにより、得られるR−T−B系磁石の磁気特性を更に向上させることできるのみならず、焼結密度の低下をより確実に抑制することができる。
【0032】
また、昇温工程では、成形体の温度を(T−40)℃に一定時間保持した後に、成形体を更に加熱して成形体の温度を焼成温度T℃に到達させることが好ましい。これにより、T℃に到達する前に、Tに近い温度で成形体が一定時間保持されることとなり、その結果、成形体の組成変動が一定時間遅れることとなる。すなわち、比較的遅い時点で焼成雰囲気を真空雰囲気から不活性ガス雰囲気へ切り替えることが可能となる。その結果、焼結密度の低下をより確実に抑制することができる。
【0033】
なお、この保持は、tでの成形体の温度を(T−40)℃又は(T−20)℃のいずれとした場合に行っても有効である。例えば、tでの成形体の温度を(T−40)℃とした場合は、上記保持の最中に焼成雰囲気の切り替えを行ってもよい。一方、tでの成形体の温度を(T−20)℃とした場合は、真空雰囲気で(T−40)℃での保持を行った後、更に成形体の加熱を行い、(T−20)℃に達した時点以降に焼成雰囲気の切り替えを行うこととなる。
【0034】
成形体の温度を(T−40)℃に保持する場合、その保持時間は、15〜45分とすることが好ましく、30分とすることがより好ましい。成形体の温度を(T−40)℃に保持する時間が短すぎると、tでの雰囲気切り換えの効果が小さくなる傾向があり、成形体の温度を(T−40)℃に保持する時間が長すぎると、成形体が過焼結して、得られる磁石の磁気特性が低下する傾向がある。そこで、成形体の温度を(T−40)℃に保持する時間を上記の好適範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制して上記のような効果が良好に得られるようになる。
【0035】
また、不活性ガス雰囲気においては、その気圧を50Pa〜80kPaとすることが好ましい。不活性ガス雰囲気の気圧が小さ過ぎると、成形体からの希土類元素(例えばNd)の蒸発を抑制し難くなる傾向があり、不活性ガス雰囲気の気圧が大き過ぎると、成形体内の微細な空隙に侵入した不活性ガスが成形体外へ抜け難くなり、焼結密度が上昇し難い傾向がある。そこで、不活性ガス雰囲気の気圧を上記の好適範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制することができる。
【0036】
本実施形態において、昇温度工程及び温度保持工程は、例えば、成形体を平板状の焼成治具に設置した状態とし、この成形体を加熱することで行うことができる。この際、成形体は、当該成形体が有する側面のうちの最大面積を有している側面が焼成治具に対向するように、焼成治具に設置することが好ましい。これにより、焼成時に、成形体の最も大きい側面が焼成治具によって封止されることから、成形体からのNd等の希土類元素が蒸発することを更に防止することができると共に、成形体と不純物ガスとの反応を防止することができる。また、これと同様の効果が得られることから、成形体の表面のうち焼成雰囲気(真空または不活性ガス雰囲気)に曝される面積S(cm)(成形体の表面のうち焼成治具と接していない表面の面積)と、成形体の重量W(g)との比S/Wを、0.8以下とすることが好ましい。なお、成形体の寸法が小さくなるほど、S/Wは大きくなる。
【0037】
<ステップ4:時効処理工程>
上記の昇温度工程及び温度保持工程後に得られた焼結体には、その磁気特性を向上させるため、例えば、焼成時よりも低い温度で加熱する時効処理を施すことが好ましい。時効処理は、例えば、700〜900℃で1〜3時間、更に500〜700℃で1〜3時間加熱する2段階加熱や、600℃付近で1〜3時間加熱する1段階加熱によって行う。
【0038】
時効処理後の焼結体(R−T−B系磁石)は、表面を平滑化する処理等を施されたり、所望のサイズに切断されたりしてもよい。また、得られたR−T−B系磁石の表面に防錆するための保護層を更に形成させてもよい。このようにして、実用に供することが可能なR−T−B系磁石を得ることができる。
【0039】
上述したような実施形態の製造方法により、R−T−B系の磁石が得られるが、上記製造方法において、焼結後に得られた焼結体の密度は、7.58g/cm以上であることが好ましく、7.60g/cm以上であることがより好ましい。焼結体がこのような密度を有していると、得られる磁石も高密度となり、優れた磁気特性を有するものとなり得る。Hcjは2175kA/m以上であることが好ましい。そして、上記本実施形態の製造方法によれば、Nd等の蒸発等を抑制することができ、成形体の組成の変動を抑制できる。
【0040】
以上、本発明に係るR−T−B系磁石の製造方法の好適な実施形態について説明したが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではない。
【0041】
例えば、上述の実施形態では、焼成後の焼結体に対して時効処理を施したが、焼成後の焼結体において十分な磁気特性が得られている場合は、時効処理は必ずしも実施しなくてもよい。また、本発明のR−T−B系磁石の製造方法は、必要に応じて、上述した工程以外の工程を更に含んでいてもよい。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
Nd−Fe−B系磁石の原料(磁性材料)として、Ndを12.0原子%、Bを6.1原子%、残部としてFeを含有する原料合金を準備した。この合金を水素吸蔵炉にて粗粉砕した後、ジェットミルを用いて、原料合金の平均粒径が4μmとなるまで微粉砕することにより、磁性粉末を得た。なお、原料合金の粗粉砕及び微粉砕は低酸素雰囲気下で行った。次に、得られた磁性粉末を、成形装置を用いて、配向磁場下で圧縮成形して、成形体を得た。
【0044】
次に、焼成炉内に成形体を設置し、この成形体に対し、以下に示す焼成条件(温度及び雰囲気)で焼成を行い、実施例1の焼結体を得た。まず、成形体の焼成温度Tは1090℃と設定し、次のような温度プロファイルにしたがって成形体の加熱・冷却を行った。すなわち、まず、成形体を加熱して成形体の温度を(T−40)℃に到達させた。それから、成形体を更に加熱して成形体の温度を焼成温度(Ts)に到達させ、この温度で4時間保持し、その後、成形体を冷却した。
【0045】
また、焼成時の焼成炉内の雰囲気は次の通りとした。まず、焼成炉内の雰囲気を真空(5Pa以下の真空状態)で焼成を開始した。それから、成形体の(T−40)℃に到達した時点で、焼成炉内にArガスを導入して、焼成炉内のArガスの気圧を80kPaとし、その後、焼成炉内をこのAr雰囲気に維持した。すなわち、実施例1では、成形体の(T−40)℃に到達した時点で、成形体の焼成雰囲気を、真空雰囲気からAr雰囲気へ切り替えた。
【0046】
次に、アルキメデス法を用いて、得られた焼結体の密度(単位:g/cm)を測定した。また、B−Hトレーサーを用いて、焼結体の磁気特性(Hcj)を測定した。また、蛍光X線分析を用いて、焼結体におけるNdの含有率(単位;原子%)を測定し、焼結体におけるNdの含有率と磁性粉末(上記原料合金)におけるNdの含有率との差分(以下、「Nd差分」と記す。)を算出した。各測定結果を表1に示す。
【0047】
(実施例2)
実施例2では、成形体の温度を(T−30)℃に到達させた時点で、成形体の焼成雰囲気を、真空雰囲気からAr雰囲気へ切り替えたこと以外は、実施例1と同様にして焼結体を得た。
【0048】
そして、実施例1と同様の方法で、実施例2の焼結体の密度、Hcj及びNd差分を測定した。各測定結果を表1に示す。
【0049】
(実施例3)
実施例3では、成形体の温度を(T−20)℃に到達させた時点で、成形体の焼成雰囲気を、真空雰囲気からAr雰囲気へ切り替えたこと以外は、実施例1と同様にして焼結体を得た。
【0050】
そして、実施例1と同様の方法で、実施例3の焼結体の密度、Hcj及びNd差分を測定した。各測定結果を表1に示す。
【0051】
(実施例4)
実施例4では、成形体の温度をT℃に到達させた時点で、成形体の焼成雰囲気を、真空雰囲気からAr雰囲気へ切り替えたこと以外は、実施例1と同様にして焼結体を得た。
【0052】
そして、実施例1と同様の方法で、実施例4の焼結体の密度、Hcj及びNd差分を測定した。各測定結果を表1に示す。
【0053】
(実施例5)
実施例5では、成形体の温度をT℃に到達させた後、この温度に保持して30分経過した時点で、成形体の焼成雰囲気を、真空雰囲気からAr雰囲気へ切り替えたこと以外は、実施例1と同様にして焼結体を得た。
【0054】
そして、実施例1と同様の方法で、実施例5の焼結体の密度、Hcj及びNd差分を測定した。各結果を表1に示す。
【0055】
(比較例1)
比較例1では、成形体の温度をT℃に到達させた後、この温度に保持して50分経過した時点で、成形体の焼成雰囲気を、真空雰囲気からAr雰囲気へ切り替えたこと以外は、実施例1と同様にして焼結体を得た。
【0056】
そして、実施例1と同様の方法で、比較例1の焼結体の密度、Hcj及びNd差分を測定した。各結果を表1に示す。
【0057】
(比較例2)
焼成を、常に真空雰囲気で行ったこと、すなわち、焼成雰囲気を、真空雰囲気からAr雰囲気へ切り替えなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で、比較例2の焼結体を得た。
【0058】
そして、実施例1と同様の方法で、比較例2の焼結体の密度、Hcj及びNd差分を測定した。各測定結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1に示すように、実施例1〜5では、比較例1、2に比べて、Nd差分が小さいことが確認された。すなわち、実施例1〜5では、比較例1、2に比べて、焼成中における成形体の組成の変動が抑制され、磁気特性のばらつきが小さいことが確認された。また、実施例1〜5では、比較例1、2に比べて、Hcjが高いことが確認された。更に、実施例1〜5のいずれにおいても、焼結体の密度が7.58g/cm以上に維持され、密度の減少が十分に抑制されていることが確認された
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施形態に係るR−T−B系磁石の製造方法が備える昇温工程及び温度保持工程で行う成形体の加熱の温度プロファイルの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
・・・焼成温度、t・・・昇温工程において、成形体の温度をT℃に到達させる前の時点、t・・・成形体の温度を焼成温度T℃に保持して50分経過させる前の時点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性材料から成形体を形成する成形工程と、
前記成形体を加熱して前記成形体の温度を焼成温度T℃に到達させる昇温工程と、
更に前記成形体の温度をT℃に保持する温度保持工程と、を備え、
前記昇温工程又は前記温度保持工程において、その雰囲気を真空雰囲気から不活性ガス雰囲気へ切り替え、且つ、前記真空雰囲気から前記不活性ガス雰囲気への切り替えを、下記t以降t以前に行う、R−T−B系磁石の製造方法。
:前記成形体の温度をT℃に到達させる前の時点
:前記t以降、前記成形体の温度をT℃に到達させ、更にT℃に保持して50分経過させる前の時点
【請求項2】
前記tが、前記成形体の温度を(T−40)℃に到達させた時点である、請求項1に記載のR−T−B系磁石の製造方法。
【請求項3】
前記昇温工程において、前記成形体の温度を(T−40)℃に一定時間保持した後に、前記成形体の温度をT℃に到達させる、請求項1または2に記載のR−T−B系磁石の製造方法。
【請求項4】
前記不活性ガス雰囲気の気圧を50Pa〜80kPaとする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のR−T−B系磁石の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2009−295638(P2009−295638A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−145068(P2008−145068)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】