説明

RA抗原ペプチド

本発明は、自然にプロセシングされた新規なMHCクラスII抗原ペプチドを提供する;これらは、インターフェロン-γ-誘導型リソソーム性チオール還元酵素、インテグリンβ-2、ホスファチジルイノシトール-4,5-二リン酸3-キナーゼ、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子、免疫グロブリン重鎖V-III領域(V26)、DJ-1タンパク質、アポリポタンパク質B-100、26Sプロテアソーム非ATPアーゼ調節性サブユニット8、インターロイキン-1受容体、フィブロモジュリン、GM-CSF/IL-3/IL-5受容体、ソーティングネキシン3、インター-α-トリプシンインヒビター重鎖H4、補体C4、補体C3(α鎖)、補体C3(β鎖)、SH3ドメイン結合性グルタミン酸リッチライクタンパク質3、インターロイキン-4-誘導型タンパク質1、ヘモペキシン、Hsc70相互作用性タンパク質、インバリアント鎖(Ii)、レチノイン酸受容体応答タンパク質2、フィブロネクチン、カテプシンB、トリペプチジル-ペプチダーゼII、レグマイン、血小板活性化因子受容体、ポリ-α-2.8-シアリルトランスフェラーゼ、およびras関連タンパク質Rab-11Bを源とする。また、これらの抗原ペプチドおよびそれらの由来となるタンパク質も、びらん性および/または非びらん性RAのためのマーカーとして提供される。さらに、MHCクラスII分子と結合したこれらの抗原ペプチド、該抗原ペプチドと反応する抗体、該抗原ペプチドをコードする核酸、ならびに該抗原ペプチドを発現させるための核酸構築物、宿主細胞および方法も提供する。本発明の抗原ペプチドは、RAの診断におけるマーカーとして、さらには治療における抗RAワクチンとして用いることができる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、びらん性および非びらん性RAのためのマーカーの候補となる、自然にプロセシングされた新規なRA抗原ペプチドを提供する。これらの抗原ペプチドは、ヒトMHCクラスII HLA-DR分子によって提示される。さらに、MHCクラスII分子と結合したこれらの抗原ペプチド、さらには前記抗原ペプチドと反応する抗体、前記抗原ペプチドをコードする核酸、ならびに前記抗原ペプチドを発現させるための核酸構築物および宿主細胞も提供する。本発明の抗原ペプチド、ならびにそれらの由来となるポリペプチドは、RAの診断におけるマーカーとして、さらには治療における抗RAワクチンとして用いることができる。
【背景技術】
【0002】
関節リウマチ(RA)(これは当初、慢性多発関節炎と命名された)は、全身性の自己免疫疾患であり、関節炎症の中で最も廃疾度の高い型の一つである(Feldmann, M. et al., Cell 85 (1996) 307-310;Dedhia, H.V. & DiBartolomeo, A., Critical care clinics 18 (2002) 841-854)。一般に、RAは関節の疼痛、変形および高度の関節硬直を引き起こす。また、本疾患は関節以外の症状発現を示すこともあり、これは特に「リウマチ因子」(RF)と呼ばれる自己抗体に関して陽性である患者の場合にそうである(Mageed, R.A.,in:van Venrooij, W.J. & Maini, R.N. eds.,「疾患の生物マーカーのマニュアル(Manual of biological markers of disease)」、Kluwer Academic Publishers (1996) 1-18)。RAは白人集団に極めて高頻度に起こり、RAに対する感受性は遺伝因子および環境因子によって影響される。この2つはいずれも、この自己免疫疾患の発生および進行に決定的な影響を及ぼす。全人口の約4%はRAに対する遺伝的感受性が高く、そのうち概ね20%(全人口の1%前後)が、現時点ではまだ解明されていない非遺伝性因子の結果としてRAを発症する。それに加えて、RAは性比の点で大きな偏りがみられる:RAに対するリスクは女性が男性の3倍の大きさであり、このことはその発生に性ホルモンも関与している可能性を示している。
【0003】
最初のうち、RAは緩徐に進行する。典型的な初期の症状は、手掌の発汗、手指の朝のこわばり、および対称的な関節炎症である。加えて、関節以外の組織障害の徴候であるリウマチ結節が現れることもある。単純化したモデルでは、免疫系が健常組織に対する自己抗体を産生する。これらの自己抗体は関節内の関節軟骨を攻撃して、その炎症を招き、後にはその破壊を招く。この破壊は、より多くの抗体を産生するように免疫系を刺激する。さらに、炎症反応をさらに増強する腫瘍壊死因子α(TNF-α)およびインターロイキン-1(IL-1)などのサイトカインが産生される(Houssiau, F.A., Clin Rheumatol 14 Suppl 2 (1995) 10-13)。マクロファージおよびT細胞といった免疫系の別の細胞の浸潤が原因となって滑膜が腫脹する。これらの細胞は、さらなる細胞死を引き起こすこと、および関節炎症を推進させることに積極的に関与する(Fox, D.A., Arthritis Rheum40 (1997) 598-609;Choy, E.H. & Panayi, G.S., N Engl J Med 344 (2001) 907-916)。このプロセスは、自己抗体の産生、関節炎症および関節破壊という悪循環に似ている。
【0004】
通常、RAは慢性的に進行し、全RA患者のうち85〜90%は軽度ないし中等度の疾患進展性を示す。障害等級に達する関節機能の完全喪失を招く急速進行型の疾患は患者の10〜15%にみられる。この進行期RAの状態では、患者は持続的な関節炎症を有し、リウマチ結節を示す。彼らは強い慢性疼痛に冒され、炎症は高度の手指硬直および非可逆的な関節変形または転位をもたらす。
【0005】
診断
本疾患の早期での治療的介入によって関節障害の程度が軽減しうるという知見が増えつつある(Egsmose, C. et al., J Rheumatol 22 (1995) 2208-2213;Van der Heide, A. et al., Ann Intern Med 124 (1996) 699-707)。疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)による治療は、リスク:便益比または費用:効果比が好ましい場合にのみ正当化されるため、疾患の発現から間もない時期にRAと他の形態の関節炎を鑑別しうることが必須である(Kirwan, J.R. & Quilty, B., Clin Exp Rheumatol 15 (1997) 15-25)。診断は、病歴、身体所見および臨床検査に基づく確立された基準によって行われる。米国リウマチ学会(American Society of Rheumatism)は、RAのための客観的証拠を得るための基準のカタログを発行している(Arnett, F.C. et al., Arthritis Rheum31 (1987) 315-324)。しかし、今までのところ、RAに関して特異的な検査は全く得られていない。いくつかの生物マーカーおよび生化学マーカー、例えば、C反応性タンパク質(CRP)、赤血球沈降速度(ESR)、抗核抗体(ANA)またはRFなどがRAの評価のために利用されている。しかし、これらのマーカーは他の炎症性疾患または自己免疫疾患でも出現するため、非特異的である。例えば、RFは、RA患者の約50%の血清中に存在する自己抗体である。これと同じ自己抗体のレベルの上昇は、シェーグレン症候群、心内膜炎または慢性肝炎といった他の炎症性疾患の状況でも認められることがあるため、RFは、RAのための診断マーカーとして利用するには不適である。上記の生化学マーカーおよび生物マーカーは、診断的な価値自体があるというよりは、疾患の活動性および予後を評価するために、さらにはRA患者の治療および管理において有用である(Nakamura, R.M., J Clin Lab Anal 14 (2000) 305-313)。
【0006】
最近、自然収束性(Self-limiting)、持続型非びらん性および持続型びらん性のRAを早期の状態で識別すると主張されている臨床的および生化学的な諸様相からなる、診断用の一組の基準が開発された(Visser, H. et al., Arthritis Rheum 46 (2002) 357-365)。自然収束性関節炎は自然寛解によって特徴づけられている:すなわち、患者にはある期間にわたって検査上、関節炎がみられない。びらん性関節炎は、手指および/または足にX線検査上、びらんが存在することに基づいて定義されている。特に、環状シトルリンペプチドを認識する抗体の使用は有望と思われ、このことはびらん性RAの早期診断および予後判定にシトルリン抗原が重要な役割を果たす可能性を示唆している(Schellekens, G.A. et al., J Clin Invest 101 (1998) 273-281;Vincent, C. et al., J Rheumatol 25 (1998) 838-846)。びらん性RAの早期の認識はDMARDによる早期介入を可能にし、これはより早期の疾患管理および疾患の転帰の改善につながると考えられる(Symmons, D.P.M. et al, J Rheumatol 25. (1998) 1072-1077;Anderson, J.J. et al, Arthritis Rheum 43 (2000) 22-29)。同様に、自然収束性および非びらん性の関節炎の早期の認識により、有害な可能性のある治療薬による不必要な治療が防止されると考えられる(Fries, J.F. et al., Arthritis Rheum 36 (1993) 297-306。
【0007】
治療法
あらゆる抗リウマチ療法の目標は、日常生活動作を容易にする目的で疼痛を緩和することである。現時点では、RAの完全治癒は不可能であるが、最新の治療法を適用することにより、疾患の進行を遅らせること、場合によっては停止させることも可能である。個人差があるため、各患者は個別化された治療法を必要としており、前述したように早期診断が望ましい。RAの治療法は複合的であり、これには一生続く薬物療法のほか、理学療法および放射線療法が含まれる。RA療法に用いられるDMARDは、基本的な治療薬(例えば、メトトレキサート、スルファサラジン、ヒドロキシクロロキン、レフルノミド、アザチオプリン)、コルチゾン、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)であるか、または炎症誘発性サイトカインTNF-α、IL-1βもしくはそのそれぞれの受容体に対するモノクローナル抗体である(http://rheuma-online.de)。これらの薬剤はいずれも免疫応答を抑制することによる炎症の阻害薬である点で共通している。その主な欠点は、RAに対する特異性がないこと、その有害作用、および、RAの原因を有効に標的化できないことである。
【0008】
自己免疫
自己免疫は、自己の抗原(自己抗原)に対する特異的な適応的免疫応答が惹起された場合に始まり、これは自己反応性T細胞またはB細胞の発生として現れる。外来抗原に対する適応的免疫応答の通常の結果は、体内からの抗原の排除である。しかし、適応的免疫応答が自己抗原に対して生じた場合、抗原はほとんどの場合は体内から完全には除去不能であり、このため持続的な免疫応答が起こる。その結果として、免疫のエフェクター機構が、組織に対する慢性的炎症性損傷を引き起こす。自己免疫疾患における組織障害の機序は、防御免疫および過敏性反応におけるものと本質的には同じである。何が自己免疫の引き金となるかについては十分には解明されていないが、自己免疫疾患の誘発および自己抗原性標的の選択に寄与すると現在考えられているいくつかのイベントの概要がごく最近述べられている(Marrack, P. et al., Nat Med 7 (2001) 899-905)。
【0009】
自己免疫疾患は、各個人の特定の遺伝子および環境因子の諸特性質によって制御される。宿主の遺伝子は、自己免疫に対する感受性に対して、少なくとも3つのレベルで影響を及ぼす。第1に、いくつかの遺伝子は免疫系の全体的な反応性に影響を及ぼし、それにより、特定のタイプまたはいくつかの異なるタイプの自己免疫疾患に対する素因を個体に与える。第2に、この変化した免疫反応性は、T細胞による抗原ペプチドの認識に影響を及ぼす他の遺伝子により、特定の自己抗原および組織へと向けられる。第3に、さらに別の遺伝子は、例えば、自己侵襲性攻撃を開始するように定められた免疫系のエフェクター細胞の活性に影響を及ぼすことにより、標的組織が免疫攻撃を調節する能力に対して作用する。後者の二組の遺伝子は、どの抗原が自己免疫の標的となるか、さらにそれ故にどの臓器が攻撃され、どのような障害が起こるかを指示する。
【0010】
加えて、環境からのシグナルも、免疫系の全体的な反応性、抗原特異性および潜在的な標的組織の状態に影響を及ぼすことにより、同じ3つのレベルで自己免疫の発生に影響する。さらにまた、遺伝因子と環境因子との間の相互干渉もある。
【0011】
主要組織適合遺伝子複合体(MHC)
集団調査、遺伝子型判定および分子レベルでの最新のアプローチにより、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)によってコードされるある種の遺伝子が、RAの発症に対して有意に大きいリスクを付与することが一貫して示されている(Stastny, P.、Tissue Antigens 4 (1974) 571-579;Wordsworth, P. et al., PNAS 86 (1989) 10049-10053;Wordsworth, P. & Bell, J.、Springer Semin Immunopathol 14 (1992) 59-78)。特に、クラスII MHCアレルであるHLA-DRB1*0101、*0401、*0404および*0405は、いくつかの民族群において、RAに対する感受性を増大させる(Reveille, J., Curr Opin Rheumatol 10 (1998) 187-200)。例えば、RF陽性RA患者の90%超はこれらのこれらの感受性アレルの1つを保有している。HLAクラスII分子は、細胞内の抗原ペプチドと結合して、それらを抗原提示細胞の表面に提示してCD4ヘルパーTリンパ球のT細胞受容体と相互作用させ、それによって細胞性免疫応答を惹起するMHC表面タンパク質である(Banchereau, J. & Steinman, R.M., Nature 392 (1998) 245-252)。RAと特定のHLAクラスII分子との関連性に加えて、多数の活性化CD4T細胞が滑膜組織に存在することは、疾患関連HLA-DR分子が疾患と関係する(例えば、滑膜)自己抗原を提示して、滑膜T細胞の賦活および増殖を引き起こし、それが続いて炎症プロセスを推進させる疾患の誘発モデルを支持するものである(Striebich, C.C. et al., J Immunol 161 (1998) 4428-4436)。
【0012】
MHCクラスII HLA-DR(略称:DR)タンパク質は、単型性のα鎖および極めて多型性の高いβ鎖からなるヘテロ二量体であり、ペプチド結合溝でペプチド抗原と結合する。この溝には一般に、ペプチドの相対位置1、4、6および9にある側鎖を受容するための4つの主なポケットがある(Stern, L.J. et al., Nature 368 (1994) 215-221)。HLAクラスII分子のアレルの違いは、抗原ペプチドとの結合能力の違いの原因となる。これは、HLAアレルが異なる個人がなぜ多様な抗原ペプチドレパートリーを有し、そのため免疫応答の質の違いを招くかということの根拠となる(Messaoudi, I. et al., Science 298 (2002) 1797-1800)。
【0013】
クラスII MHC分子によって結合されるペプチドは通常、クラスI MHC分子によって結合されるペプチド(8〜10アミノ酸)よりも長く、サイズの点で不均一である(11〜25アミノ酸)。この違いは、クラスIIタンパク質のペプチド結合溝が開放状態にあり、ペプチドが中心部に捉えられた時にその両端がさまざまな様式で溝の外に広がりうることが理由で生じる(Jones, E.Y., Curr Opin Immunol 9 (1997) 75-79)。その結果として、クラスII分子は通常、「T細胞エピトープ」と呼ばれる共通のコア配列を有するものの、長さの点では異なる、部分的に重複するペプチドのセットと結合する。
【0014】
RAと関連性のあるDRB1アレルによってコードされるDRβ鎖がすべて、多型による違いは示すものの、「共通エピトープ」として知られる67〜74位に同一またはほぼ同一なアミノ酸の連鎖を共通して有することは、10年以上前に認識されている(Gregersen, P.K. et al., Arthritis Rheum 30 (1987) 1205-1213)。自己抗原に対する免疫は、RAの発生機序の中心をなすとみなされているため、この共通エピトープは少なくとも2種類の機序:すなわち、第一に関係する自己抗原ペプチドを提示のために選択することにより、第二に個体発生時に適切な自己反応性T細胞の特異性を選択することにより、それぞれのDR分子に疾患との関連性をもたらすと仮定された。DR分子の三次元構造から、共通エピトープが、ペプチド結合溝の一方の側に隣接するα-ヘリックスの中心部に位置することが実際に判明した(Stern, L.J. et al., Nature 368 (1994) 215-221)。このように、戦略的には、この共通エピトープ領域は、結合ペプチドおよびT細胞受容体の両方と相互作用しうるような様式で配置されている。
【0015】
しかし、リウマチ学の研究における未解明の謎の一つは、RAの発生および発症の引き金となる、主要な関節炎発生性の抗原およびエピトープは何であるのかという疑問である。異なる特異性を有する自己抗体が患者の血清中および滑液中に同定されているものの、軟骨破壊時に放出される抗原が発病を惹起するのか、それともそれらは単に炎症の結果としての抗原の広がりの結果に過ぎないのかは、多くの場合、はっきりしていない(Corrigall, V.M. & Panayi G.S., Crit Rev Immunol 22 (2002) 281-293)。さらに、抗原が関節を含む全身に存在しながらも、病態はもっぱらまたは圧倒的に関節を標的とするという発病機序を明確にすることも困難である。
【0016】
自己抗原
RAにおいて想定されている多数の自己抗原は、確定した慢性RAの患者からの血清、または頻度は落ちるもののT細胞を用いた研究から得られている。DR分子との関連で提唱されている、最も確実な関節特異的抗原は、関節軟骨中の主要なタンパク質であるII型コラーゲン(CII)である。cIIに対する自己抗体は、RA患者の血清中および関節内に高濃度で認められるが、抗CII抗体がRAの病因であるか否かはまだ明らかではない(Banerjee, S. et al., Clin Exp Rheumatol 6(373-380)。Snowdenらは、RA患者由来の末梢血T細胞がCIIに反応して増殖し、抗CII抗体を有する患者で最も顕著であったことを示している。しかし、この応答は患者の50%にしか認められなかった(Snowden, N. et al., Rheumatology 40 (1997) 1210-1218)。マウスモデルへのCIIによる免疫処置は、クラスII MHCアレルDRB1*0401および*0101を発現するマウスで関節炎を誘発することが示されている(Rosloniec, E.F. et al., J Exp Med 185 (1997) 1113-1122;Rosloniec, E.F. et al., J immunol 160 (1998) 2573-2578)。*0401および*0101トランスジェニックマウスのいずれにおいても、イムノドミナント(immunodominant)エピトープはヒトCIIの残基261〜273内部のペプチドに局在していた(Fugger, L. et al., Eur J Immunol 26 (1996) 928-933)。CIIの同じエピトープは、RA患者、特に疾患が早期の段階にある患者において、T細胞応答を誘発することができた。滑液T細胞は特に応答性が高かった(Kim, H.Y. et al., Arthritis Rheum 42 (1999) 2085-2093)。
【0017】
他の軟骨タンパク質もRA抗原の候補として提唱されているが、DR4結合エピトープが明確にされているのは、ヒト軟骨糖タンパク質39(HCgp39)に関してのみである。このタンパク質は滑膜細胞および関節軟骨細胞によって分泌され、炎症の際にはその発現が血漿中および関節内でアップレギュレートされる(Vos, K. et al., Ann Rheum Dis 59 (2000) 544-548)。CIIと同様に、HCgp39の投与はマウスにおける関節炎を誘発する。加えて、RA患者由来の末梢血T細胞のHCgp39応答も検出されている(Verheijden, G.F. et al., Arthritis Rheum 40 (1997) 1115-1125)。DR4患者においてT細胞により認識される主要なエピトープは、残基263〜275の間にあることが明確にされており、これは天然のHCgp39による免疫処置後にDRB1*0401トランスジェニックマウスで認められるイムノドミナントエピトープと同一である(Cope, A.P. et al., Arthritis Rheum 42 (1999) 1497-1507)。疾患特異的ではないものの、このペプチドに対する応答はRA患者における疾患活動性と相関した(Baeten, D. et al., Arthritis Rheum 43 (2000) 1233-1243)。しかし、HCgp39に対する抗体は、RAにおけるレベルよりも低いものの、炎症性腸疾患および全身性エリテマトーデス(SLE)などの炎症性疾患の患者の血清中にも検出される。
【0018】
RAにおける抗原特異的T細胞の状況を把握するための試みとして、可溶性ペプチド-DR4四量体複合体が、DR4患者におけるCIIまたはHCgp39と反応する滑膜CD4T細胞を検出する目的で用いられている(Kotzin, B.L. et al., PNAS 97 (2000) 291-296)。CII-DR4複合体はCIIペプチド反応性T細胞ハイブリドーマと特異的な様式で結合したが、滑膜CD4細胞を検出可能な割合としては染色しなかった。HCgp39-DR4複合体を用いた場合もほぼ同様の結果が得られており、このことはRA関節に存在するオリゴクローナルCD4T細胞の増殖が上記のCIIおよびHCgp39イムノドミナント決定基に対して特異的でないことを示唆している。
【0019】
以上をまとめると、CIIおよびHCgp39とRAとの関連性についてはいくつか有力な徴候はあるものの、それらがRAにおける重要な抗原であるという証拠は不十分である。CIIまたはHCgp39のペプチドが抗原提示細胞によってクラスII MHC拘束的な様式で提示され、それに続いて滑膜CD4T細胞の賦活および活性化が起こるという直接的な証明は依然としてなされていない。さらに、動物モデルの大きな問題は、ラットまたはマウスの免疫処置によるCII誘発性関節炎は多くの点でRAとは異なるため、RAとの関連性が不明な点にある。
【0020】
自然にプロセシングされたMHCクラスII会合ペプチド
RA特異的な自己抗体およびT細胞の同定に向けての代替的な戦略は、MHCクラスII分子と結合した、自然にプロセシングされたペプチド抗原の配列解析に依拠している。モノクローナル抗体を利用して、RAに対する感受性を付与するクラスII MHC分子を同系細胞から精製することができる。RAと関連性のあるペプチド抗原を精製したHLAクラスII分子から酸溶出させる。この低分子ペプチドの混合物をHPLCによって分離し、ペプチド配列をエドマンシークエンシングまたは質量分析によって決定することが可能である。ペプチド精製およびシークエンシングの手法に伴う限界のために、ペプチド配列は現在のところ、培養B細胞株または大量の組織から単離されたMHC分子からしか得られておらず、分析は少数の存在量の多いペプチドに限定されている(Kropshofer et al., J.Exp.Med. 175 (1992) 1799-1803;Chicz, R.M. et al., J Exp Med 178 (1993) 27-47)。高分解能マイクロキャピラリーHPLCカラムおよびさらに感度の高い質量分析装置の開発の結果として、MHC結合ペプチドをより効率的に分析することが可能となっている(Dongre, A.R. et al., Eur J Immunol 31 (2001) 1485-1494;Engelhard, V.H. et al., Mol Immunol 39 (2002) 127-137)。
【発明の開示】
【0021】
本発明では、改良されたペプチド単離およびシークエンシングの手法を用いて、RA患者由来の血清または滑液によるパルス刺激を受けた自己樹状細胞(DC)に由来するHLA-DR4分子のペプチド抗原レパートリーを調べた。この革新的アプローチの主な利点は、トランスジェニック動物モデルまたは人工的なB細胞株を用いるのではなく、RA関連抗原のプロセシングおよび提示を実際に担っているヒトDCを用いることにある。
【0022】
DCはリウマチ性の滑液および組織に多く存在し、流血中の未熟前駆細胞に由来する(Thomas, R. et al., J Immunol 152 (1994) 2613-2623)。これは種々のアクセサリー分子とともにMHC分子を高レベルで発現する最も強力な抗原提示細胞である(Mellman, I. et al., Trends Cell Biol 8 (1998) 231-237)。ごく最近の1件の研究では、RA滑膜関節由来の抗原提示細胞と表現型の点で類似している、エクスビボで分化させたヒトDCおよびマクロファージが、CIIおよびHCgp39由来のイムノドミナントエピトープを生成して提示することが可能であったことが示されている(Tsark, E.C, et al., J Immunol 169 (2002) 6625-6633)。DCは、CD4ヘルパーT細胞のプライミングを行うとともに、細胞傷害性CD8T細胞を効果的に活性化する能力を有する(Ridge, T. et al., Nature 393 (1998) 474-478)。したがって、MHCクラスII分子と結合し、DCによって提示されるペプチドは、T細胞によって主導される免疫応答がかかわる疾患の発生においてさらに大きな役割を果たす。
【0023】
このため、RAのためのMHCクラスII拘束性抗原ペプチドが解明されていないことに起因する問題は、自然にプロセシングされた新規なMHCクラスII会合性RA抗原ペプチドおよびそれらの由来となるポリペプチドを、RAのためのマーカーとして提供することによって解決される。
【0024】
本発明は、びらん性RAおよび非びらん性RAにおけるRAマーカーの候補となる、自然にプロセシングされた新規な抗原ペプチドを提供する。これらの抗原ペプチドは、確立したびらん性RAまたは非びらん性RAの患者由来の血清または滑液によるパルス刺激を受けた樹状細胞に由来するヒトMHCクラスII HLA-DR分子によって提示される。本発明のMHCクラスII抗原ペプチドは(a)少なくとも、SEQ ID NO. 49〜57およびSEQ ID NO. 103〜122からなる群より選択されるペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または(b)少なくとも、SEQ ID NO. 49〜57およびSEQ ID NO. 103〜122からなる群より選択されるペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 1〜39またはSEQ ID NO. 58〜102からなる群より選択される対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったものを含み、これらはインターフェロン-γ-誘導型リソソーム性チオール還元酵素、インテグリンβ-2、ホスファチジルイノシトール-4,5-二リン酸3-キナーゼ、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子、免疫グロブリン重鎖V-III領域(V26)、DJ-1タンパク質、アポリポタンパク質B-100、26Sプロテアソーム非ATPアーゼ調節性サブユニット8、インターロイキン-1受容体、フィブロモジュリン、GM-CSF/IL-3/IL-5受容体、ソーティングネキシン3、インター-α-トリプシンインヒビター重鎖H4、補体C4、補体C3(α鎖)、補体C3(β鎖)、SH3ドメイン結合性グルタミン酸リッチライクタンパク質(glutamic acid-rich-like protein)3、インターロイキン-4-誘導型タンパク質1、ヘモペキシン、Hsc70相互作用性タンパク質、インバリアント鎖(Ii)、レチノイン酸受容体応答タンパク質2、フィブロネクチン、カテプシンB、トリペプチジル-ペプチダーゼII、レグマイン、血小板活性化因子受容体、ポリ-α-2.8-シアリルトランスフェラーゼおよびras関連タンパク質Rab-11Bを源とする。本発明はまた、びらん性RAおよび/または非びらん性RAのためのマーカーとしてのこれらの抗原ペプチドおよびその由来となったタンパク質も提供する。さらに、MHCクラスII分子と結合したこれらの抗原ペプチドのほか、前記抗原ペプチドと反応する抗体、前記抗原ペプチドをコードする核酸、ならびに前記抗原ペプチドを発現させるための核酸構築物、宿主細胞および方法も提供する。さらにRA抗原ペプチドの単離および同定のための方法も提供する。
【0025】
本発明の抗原ペプチドは、MHC分子と会合してそれによって提示され、そのことによってT細胞を活性化または寛容化する能力を有しうるペプチドである。このため、MHCクラスII分子によって提示される抗原ペプチドは、MHCクラスII会合性抗原ペプチドまたはMHCクラスII抗原ペプチドであり、一方、MHCクラスI分子によって提示される抗原ペプチドはMHCクラスI会合性抗原ペプチドまたはMHCクラスI抗原ペプチドである。
【0026】
身体またはAPCのゲノム中にコードされているタンパク質に由来するペプチドは「自己ペプチド」として表される。末梢リンパ系器官においてDCによって提示される自己ペプチドの主な機能は、自己タンパク質に対するT細胞寛容の誘導にあると考えられている。免疫寛容とは、抗原に対する応答が起こらないことである;その抗原が、自己組織が有するものである場合、免疫寛容は自己寛容と呼ばれる。
【0027】
個体の自らの身体に由来する抗原は、「自己抗原(self antigen)」または「自己抗原(autoantigen)」と呼ばれる。自己抗原に向けられる適応的免疫応答は、自己免疫応答と呼ばれる。同様に、自己抗原に対して特異的な適応的免疫は、自己免疫と呼ばれる。自己反応性とは、自己抗原に向けられる免疫応答のことを述べている。RAはおそらく、自己反応性T細胞および/または自己反応性抗体の関与を基盤とする自己免疫応答に起因すると考えられる。免疫原性ペプチドには、細胞性または体液性免疫応答を引き起こすこと、または賦活させることが可能な抗原ペプチドが非制限的に含まれる。この種のペプチドが抗体と反応してもよい。
【0028】
細菌、ウイルスまたは他の外来性侵入物のゲノム中にコードされ、しかも自己タンパク質とは異なるタンパク質に由来するペプチドは、「外来抗原性」または「外来」ペプチドと呼ばれる。それらはその由来となった外来タンパク質に対するT細胞応答を誘発することができる。
【0029】
RA抗原ペプチドとは、自己抗原として働き、その疾患の結果として、自己組織に対する自己反応性を誤って誘発させる自己ペプチドのことである。
【0030】
本発明は、(a)少なくとも、SEQ ID NO. 49〜57およびSEQ ID NO. 103〜122からなる群より選択されるペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または(b)少なくとも、SEQ ID NO. 49〜57およびSEQ ID NO. 103〜122からなる群より選択されるペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 1〜39およびSEQ ID NO. 58〜102からなる群より選択される対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったもの、を含むMHCクラスII抗原ペプチドを提供する。好ましくは、MHCクラスII抗原ペプチドは26アミノ酸未満の長さであり、より好ましくは11〜25アミノ酸の長さである。さらにより好ましいものは、長さが11〜19アミノ酸である本発明の抗原ペプチドである。最も好ましいものは、4つのアンカーアミノ酸を含むペプチド結合モチーフからなる本発明の抗原ペプチドである。
【0031】
本発明はまた、(a)少なくとも、SEQ ID NO. 49のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または(b)少なくとも、SEQ ID NO. 49のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 1〜3からなる群より選択される対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったもの、を含むMHCクラスII抗原ペプチドも提供する。
【0032】
さらに、(a)少なくとも、SEQ ID NO. 103のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または(b)少なくとも、SEQ ID NO. 103のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 58および59の対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったもの、を含むMHCクラスII抗原ペプチドも提供される。
【0033】
さらに、(a)少なくとも、SEQ ID NO. 104のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または(b)少なくとも、SEQ ID NO. 104のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 60の対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったもの、を含むMHCクラスII抗原ペプチドも提供される。
【0034】
さらに、(a)少なくとも、SEQ ID NO. 105のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または(b)少なくとも、SEQ ID NO. 105のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 61の対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったもの、を含むMHCクラスII抗原ペプチドも提供される。
【0035】
さらに、(a)少なくとも、SEQ ID NO. 106のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または(b)少なくとも、SEQ ID NO. 106のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 62の対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったもの、を含むMHCクラスII抗原ペプチドも提供される。
【0036】
さらに、(a)少なくとも、SEQ ID NO. 107のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または(b)少なくとも、SEQ ID NO. 107のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 63の対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったもの、を含むMHCクラスII抗原ペプチドも提供される。
【0037】
さらに、(a)少なくとも、SEQ ID NO. 50のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または(b)少なくとも、SEQ ID NO. 50のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 5の対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったもの、を含むMHCクラスII抗原ペプチドも提供される。
【0038】
さらに、(a)少なくとも、SEQ ID NO. 108のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または(b)少なくとも、SEQ ID NO. 108のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 64〜67の対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったもの、を含むMHCクラスII抗原ペプチドも提供される。
【0039】
さらに、(a)少なくとも、SEQ ID NO. 109のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または(b)少なくとも、SEQ ID NO. 109のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 68の対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったもの、を含むMHCクラスII抗原ペプチドも提供される。
【0040】
さらに、(a)少なくとも、SEQ ID NO. 110のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または(b)少なくとも、SEQ ID NO. 110のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 69および70の対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったもの、を含むMHCクラスII抗原ペプチドも提供される。
【0041】
さらに、(a)少なくとも、SEQ ID NO. 111のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または(b)少なくとも、SEQ ID NO. 111のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 72の対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったもの、を含むMHCクラスII抗原ペプチドも提供される。
【0042】
さらに、(a)少なくとも、SEQ ID NO. 112のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または(b)少なくとも、SEQ ID NO. 112のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 73の対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったもの、を含むMHCクラスII抗原ペプチドも提供される。
【0043】
本発明の新規なMHCクラスII会合性抗原ペプチドは、インターフェロン-γ-誘導型リソソーム性チオール還元酵素(SEQ ID NO. 1〜3)、インテグリンβ-2(SEQ ID NO. 58および59)、ホスファチジルイノシトール-4,5-二リン酸3-キナーゼ(SEQ ID NO. 60)、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(SEQ ID NO. 61)、免疫グロブリン重鎖V-III領域(V26)(SEQ ID NO. 62)、DJ-1タンパク質(SEQ ID NO. 63)、アポリポタンパク質B100(SEQ ID NO. 4および5)、26Sプロテアソーム非ATPアーゼ調節性サブユニット8(SEQ ID NO. 64〜67)、インターロイキン-1受容体(SEQ ID NO. 68)、フィブロモジュリン(SEQ ID NO.:69および70)、GM-CSF/IL-3/IL-5受容体(SEQ ID NO. 71および72)、ソーティングネキシン3(SEQ ID NO. 73)、インター-α-トリプシンインヒビター重鎖H4(SEQ ID NO. 6〜12)、補体C4(SEQ ID NO. 13〜18)、補体C3(α鎖)(SEQ ID NO. 19〜23、74および75)、補体C3(β鎖)(SEQ ID NO. 76および77)、SH3ドメイン結合性グルタミン酸リッチライクタンパク質3(SEQ ID NO. 24〜27)、インターロイキン-4-誘導型タンパク質1(SEQ ID NO. 28〜30)、ヘモペキシン(SEQ ID NO. 31〜35および78)、Hsc70相互作用性タンパク質(SEQ ID NO. 36〜39)、インバリアント鎖(Ii)(SEQ ID NO. 79〜83)、レチノイン酸受容体応答タンパク質2(SEQ ID NO. 84〜86)、フィブロネクチン(SEQ ID NO. 87〜91)、カテプシンB(SEQ ID NO: 92)、トリペプチジル-ペプチダーゼII(SEQ ID NO. 93および94)、レグマイン(SEQ ID NO: 95)、血小板活性化因子受容体(SEQ ID NO: 96)、ポリ-α-2.8-シアリルトランスフェラーゼ(SEQ ID NO. 97)、およびras関連タンパク質Rab-11B(SEQ ID NO. 98〜102)を源とする。
【0044】
MHCクラスII分子の単一のペプチド結合溝は約25Å長であるが、MHCクラスI分子とは対照的に、その両側が開放状態にある(Stern LJ et al., Nature 1994;368、215-221)。このため、ヒトMHCクラスII分子から溶出される、自然にプロセシングされた抗原ペプチドは、最短の長さが約11残基であり、最大の長さは約25残基に達する(Chicz RM et al., J Exp Med 1993; 178, 27-47)。
【0045】
MHC-ペプチド相互作用の安定性は、ペプチド骨格にかかわる数十を上回る水素結合、および、結合溝の特異性ポケットとペプチドの適切に配置されたアミノ酸側鎖との間の相補性によって決定される。それぞれのポケット内に嵌合するペプチドのアミノ酸は、「アンカー」残基と命名されている。ほとんどのHLA-DRアレルに関して、これらのアンカーは相対位置P1、P4、P6およびP9に位置する。これらの4つのアンカー位置でのアミノ酸の組み合わせは、それぞれのHLA-DRアレル産物に安定性の高い結合をもたらし、これはアレル毎に異なる。ペプチド結合モチーフは、本明細書において、4つのアンカーアミノ酸を含む9アミノ酸配列と定義される。本発明のMHCクラスII抗原ペプチドのペプチド結合モチーフは、インターフェロン-γ-誘導型リソソーム性チオール還元酵素に由来するペプチド(SEQ ID NO. 1〜3)に関してはSEQ ID NO. 49に、インテグリンβ-2に由来するペプチド(SEQ ID NO. 58および59)に関してはSEQ ID NO. 103に、ホスファチジルイノシトール-4,5二リン酸3-キナーゼに由来するペプチド(SEQ ID NO: 60)に関してはSEQ ID NO. 104に、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子に由来するペプチド(SEQ ID NO: 61)に関してはSEQ ID NO. 105に、免疫グロブリン重鎖V-III領域(V26)に由来するペプチド(SEQ ID NO: 62)に関してはSEQ ID NO. 106に、DJ-1タンパク質に由来するペプチド(SEQ ID NO: 63)に関してはSEQ ID NO. 107に、アポリポタンパク質B-100に由来するペプチド(SEQ ID NO. 4および5)に関してはSEQ ID NO. 50に、26Sプロテアソーム非ATPアーゼ調節性サブユニット8に由来するペプチド(SEQ ID NO. 64〜67)に関してはSEQ ID NO. 108に、インターロイキン-1受容体に由来するペプチド(SEQ ID NO. 68)に関してはSEQ ID NO. 109に、フィブロモジュリンに由来するペプチド(SEQ ID NO.:69および70)に関してはSEQ ID NO. 110に、GM-CSF/IL-3/IL-5受容体に由来するペプチド(SEQ ID NO. 71および72)に関してはSEQ ID NO. 111に、ソーティングネキシン3に由来するペプチド(SEQ ID NO. 73)に関してはSEQ ID NO. 112に、インター-α-トリプシンインヒビター重鎖H4に由来するペプチド(SEQ ID NO. 6〜12)に関してはSEQ ID NO. 51に、補体C4に由来するペプチド(SEQ ID NO. 13〜18)に関してはSEQ ID NO. 52に、補体C3(α鎖)に由来するペプチド(SEQ ID NO. 19〜23、74および75)に関してはSEQ ID NO. 53に、補体C3(β鎖)に由来するペプチド(SEQ ID NO. 76および77)に関してはSEQ ID NO. 113に、SH3ドメイン結合性グルタミン酸リッチライクタンパク質3に由来するペプチド(SEQ ID NO. 24〜27)に関してはSEQ ID NO. 54に、インターロイキン-4-誘導型タンパク質1に由来するペプチド(SEQ ID NO. 28〜30)に関してはSEQ ID NO. 55に、ヘモペキシンに由来するペプチド(SEQ ID NO. 31〜35および78)に関してはSEQ ID NO. 56に、Hsc70相互作用性タンパク質に由来するペプチド(SEQ ID NO. 36〜39)に関してはSEQ ID NO. 57に、インバリアント鎖(Ii)に由来するペプチド(SEQ ID NO. 79〜83)に関してはSEQ ID NO. 114に、レチノイン酸受容体応答タンパク質2に由来するペプチド(SEQ ID NO. 84〜86)に関してはSEQ ID NO. 115に、フィブロネクチンに由来するペプチド(SEQ ID NO. 87〜91)に関してはSEQ ID NO. 116に、カテプシンBに由来するペプチド(SEQ ID NO. 92)に関してはSEQ ID NO. 117に、トリペプチジル-ペプチダーゼIIに由来するペプチド(SEQ ID NO. 93および94)に関してはSEQ ID NO. 118に、レグマインに由来するペプチド(SEQ ID NO. 95)に関してはSEQ ID NO. 119に、血小板活性化因子受容体に由来するペプチド(SEQ ID NO. 96)に関してはSEQ ID NO. 120に、ポリ-α-2.8-シアリルトランスフェラーゼに由来するペプチド(SEQ ID NO. 97)に関してはSEQ ID NO. 121に、さらに、Ras関連タンパク質Rab-11Bに由来するペプチド(SEQ ID NO. 98〜102)に関してはSEQ ID NO. 122に示されている。
【0046】
ペプチド結合モチーフが、改変されていないペプチド結合モチーフの結合能を依然として獲得しながら、アミノ酸配列の少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、または少なくとも5つの改変を含んでもよい。改変されたペプチド結合モチーフは、改変されていないペプチド結合モチーフの4つのアンカーアミノ酸のうち少なくとも3つを含むことが好ましい。アミノ酸の改変は、以下に述べるような保存的アミノ酸置換であってもよい。
【0047】
P1アンカーの前方およびP9アンカーの後方にある残基が関与する水素結合により、付加的な結合エネルギーが得られる。このことに一致して、自然にプロセシングされた大部分のペプチドでは、九量体コア領域(P1-P9)のN末端およびC末端に3〜4残基が隣接している。このため、ペプチドの大半は15〜17merである。さらに長いペプチドは溝から突出し、そのことにより、両端を切り詰めるエキソペプチダーゼの到達が可能となる。
【0048】
したがって、本発明のMHCクラスII抗原ペプチドは、(a)少なくとも、SEQ ID NO. 49〜57およびSEQ ID NO. 103〜122からなる群より選択されるペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または(b)少なくとも、SEQ ID NO. 49〜57およびSEQ ID NO. 103〜122からなる群より選択されるペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 1〜39およびSEQ ID NO. 58〜102からなる群より選択される対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったものを含み、好ましくは、付加的な結合エネルギーをもたらす付加的なN末端およびC末端隣接アミノ酸残基を含む。
【0049】
好ましくは、本発明のMHCクラスII抗原ペプチドは、対応するMHCクラスII分子に対して、SEQ ID NO. 1〜39およびSEQ ID NO. 58〜102からなる群より選択される対応するペプチドのIC50の10分の1〜10倍の範囲にある結合能を有する。ペプチドの結合能は、標識されたレポーターペプチドの結合を50%低下させるために必要な濃度を決定することによって測定される。この値はIC50と呼ばれる。本発明のMHCクラスII抗原ペプチドは、確立された基準ペプチドのIC50の10分の1〜10倍の範囲にあるIC50値をそれが達成している限り、関係するHLAクラスII分子に対する結合能を維持している。
【0050】
ペプチドの切り詰めは、ペプチド結合溝への結合の前および後に個別の様式で起こるため、共通の九量体コア領域を有するいくつかの短縮変異体が生じることが、MHCクラスII結合ペプチドに共通の特徴である。重要なこととして、同一のエピトープのC末端またはN末端短縮変異体は、多様なT細胞応答を誘発する(Arnold et al., (2002) J. Immunol. 169、739-749)。
【0051】
特定のエピトープの短縮変異体の相対的存在量に影響を及ぼすパラメーターはいくつか想定することができ、これには例えば、当該の抗原の存在量および完全性、抗原会合性タンパク質、プロテアーゼの存在量、利用されるプロテアーゼのタイプ、ならびに競合性抗原および/またはペプチドの供給がある。抗原の供給性は、試料の出所と相関する可能性のある主な特性であるため、エピトープの特定の短縮変異体の比には診断的価値がある可能性がある。
【0052】
本発明のペプチドは、天然に存在する対応物がないか(例えば、変異したペプチド抗原など)、または、例えば膵臓、肝臓、脾臓、卵巣、精巣、筋肉、関節組織、神経組織、胃腸組織もしくは体液(血液、血清、滑液または尿など)といった組織において、それに自然下で付随している成分から単離されている、すなわち分離もしくは精製されているかのいずれかである。一般に、ペプチドは、本発明のペプチドを含む調製物の、重量比にして少なくとも70%が前記ペプチドからなり、それに自然下で付随しているタンパク質および天然の有機分子が30%未満である場合に「単離されている」とみなされる。本発明のペプチドの調製物は、好ましくは重量比にして少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも99%が本発明のペプチドからなる。化学合成されるペプチドは、その性質上、それに自然下で付随している成分から分離されているため、合成ペプチドは単離されている。
【0053】
本発明はさらに、本発明の抗原ペプチドの類似体も提供する。類似体という用語には、結合能IC50ならびに抗体および免疫系の細胞による認識を含む、これらの抗原ペプチドの機能的諸様相を呈する任意のペプチドが含まれる。類似体は、対応する基準ペプチドと本質的には同一のIC50を示す。また、類似体という用語には、ペプチドの保存的置換物または化学誘導体も含まれる。
【0054】
「類似体」という用語には、1つまたは複数の残基が機能的に類似した残基によって保存的に置換されていて、しかも本明細書に記載したペプチドの機能的諸様相を呈する、本明細書に記載した配列と実質的に同一なアミノ酸残基配列を有する任意のポリペプチドが含まれる。保存的置換の例には、フェニルアラニン、チロシン、イソロイシン、バリン、ロイシンもしくはメチオニンなどの1つの非極性(疎水性)残基による別のものの置換、1つの極性(親水性)残基による別のものの置換、例えばアルギニンとリジンとの間、グルタミンとアスパラギンとの間、トレオニンとセリンとの間での置換、リジン、アルギニンもしくはヒスチジンなどの1つの塩基性残基による別のものの置換、または、アスパラギン酸もしくはグルタミン酸などの1つの酸性残基による別のものの置換が含まれる。
【0055】
また、「保存的置換」という語句には、化学的に誘導体化されたアミノ酸を非誘導体化アミノ酸の代わりに用いることも含まれる。「化学的誘導体」とは、官能性側基の反応によって化学的に誘導体化された1つまたは複数のアミノ酸を有する対象ポリペプチドのことを指す。このような誘導体化された分子の例には、例えば、遊離アミノ基が誘導体化されて、アミン塩酸塩、p-トルエンスルホニル基、カルボベンゾキシ基、t-ブチルオキシカルボニル基、クロロアセチル基、アセチル基またはホルミル基を生成した分子が含まれる。遊離カルボキシル基を誘導体化して、塩、メチルエステルおよびエチルエステルもしくはその他の種類のエステル、またはヒドラジドを生成させることもできる。遊離ヒドロキシル基を誘導体化して、O-アシルまたはO-アルキル誘導体を生成させることもできる。ヒスチジンのイミダゾール窒素を誘導体化して、N-im-ベンジルヒスチジンを生成させることもできる。同じく化学的誘導体に含まれるものには、20種類の標準的なアミノ酸の1つまたは複数の天然のアミノ酸誘導体を含む、タンパク質またはペプチドがある。例えば:4ヒドロキシプロリンによってプロリンを置換してもよい;5-ヒドロキシリジンによってリジンを置換してもよい;3-メチルヒスチジンによってヒスチジンを置換してもよい;ホモセリンによってセリンを置換してもよい;さらにオルニチンまたはシトルリンによってリジンを置換してもよい。
【0056】
本発明のMHCクラスII抗原ペプチドおよびその由来となるタンパク質は、RAの診断におけるマーカーとして、さらには治療における抗RAワクチンとして用いることができる。本明細書で用いるマーカーという用語は、診断がなされた疾患(例えば、RA)を有する患者の群において発現され、しかも対照群に比して有意に増加または減少する存在量を有する生体分子、好ましくはペプチドまたはポリペプチドのことを指す。
【0057】
本発明のマーカーを、疾患に対する感受性を予測するための(例えば、RAに対する感受性を予測するための)予後判定マーカーとして、疾患の診断のための(例えば、RAの診断のための)診断マーカーとして、疾患の複数の異なる形態を鑑別するための(RAの複数の異なる形態を鑑別するための)鑑別診断マーカーとして、疾患の転帰の予測のための(例えば、RAの予後判定のための)予後判定マーカーとして、さらに、治療レジメンの有効性を判定するための反応マーカーとして(例えば、RAの治療における反応マーカーとして)用いることもできる。
【0058】
さらにもう1つの態様において、(a)少なくとも、SEQ ID NO. 49〜57およびSEQ ID NO. 103〜122からなる群より選択されるペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または(b)少なくとも、SEQ ID NO. 49〜57およびSEQ ID NO. 103〜122からなる群より選択されるペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 1〜39およびSEQ ID NO. 58〜102からなる群より選択される対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったもの、を含むMHCクラスII抗原ペプチドは、びらん性および/または非びらん性RAのためのマーカーとして用いられる。
【0059】
さらにもう1つの態様において、(a)少なくとも、SEQ ID NO. 49のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または(b)少なくとも、SEQ ID NO. 49のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 1〜3からなる群より選択される対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったもの、を含むMHCクラスII抗原ペプチドは、非びらん性RAのためのマーカーとして用いられる。
【0060】
さらに、(a)少なくとも、SEQ ID NO. 103のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または(b)少なくとも、SEQ ID NO. 103のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 58および59の対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったもの、を含むMHCクラスII抗原ペプチドが提供され、非びらん性RAのためのマーカーとして用いられる。
【0061】
さらに、(a)少なくとも、SEQ ID NO. 104のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または(b)少なくとも、SEQ ID NO. 104のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 60の対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったもの、を含むMHCクラスII抗原ペプチドが提供され、非びらん性RAのためのマーカーとして用いられる。
【0062】
さらに、(a)少なくとも、SEQ ID NO. 105のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または(b)少なくとも、SEQ ID NO. 105のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 61の対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったもの、を含むMHCクラスII抗原ペプチドが提供され、非びらん性RAのためのマーカーとして用いられる。
【0063】
さらに、(a)少なくとも、SEQ ID NO. 106のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または(b)少なくとも、SEQ ID NO. 106のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 62の対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったもの、を含むMHCクラスII抗原ペプチドが提供され、非びらん性RAのためのマーカーとして用いられる。
【0064】
さらに、(a)少なくとも、SEQ ID NO. 107のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または(b)少なくとも、SEQ ID NO. 107のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 63の対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったもの、を含むMHCクラスII抗原ペプチドが提供され、非びらん性RAのためのマーカーとして用いられる。
【0065】
さらに、(a)少なくとも、SEQ ID NO. 50のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または(b)少なくとも、SEQ ID NO. 50のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 5の対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったもの、を含むMHCクラスII抗原ペプチドが提供され、びらん性RAのためのマーカーとして用いられる。
【0066】
さらに、(a)少なくとも、SEQ ID NO. 108のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または(b)少なくとも、SEQ ID NO. 108のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 64〜67の対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったもの、を含むMHCクラスII抗原ペプチドが提供され、びらん性RAのためのマーカーとして用いられる。
【0067】
さらに、(a)少なくとも、SEQ ID NO. 109のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または(b)少なくとも、SEQ ID NO. 109のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 68の対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったもの、を含むMHCクラスII抗原ペプチドが提供され、びらん性RAのためのマーカーとして用いられる。
【0068】
さらに、(a)少なくとも、SEQ ID NO. 110のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または(b)少なくとも、SEQ ID NO. 110のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 69および70の対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったもの、を含むMHCクラスII抗原ペプチドが提供され、びらん性RAのためのマーカーとして用いられる。
【0069】
さらに、(a)少なくとも、SEQ ID NO. 111のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または(b)少なくとも、SEQ ID NO. 111のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 72の対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったもの、を含むMHCクラスII抗原ペプチドが提供され、びらん性RAのためのマーカーとして用いられる。
【0070】
さらに、(a)少なくとも、SEQ ID NO. 112のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または(b)少なくとも、SEQ ID NO. 112のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 73の対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったもの、を含むMHCクラスII抗原ペプチドが提供され、びらん性RAのためのマーカーとして用いられる。
【0071】
さらにもう1つの態様においては、MHCクラスII分子と結合した、上記の本発明のMHCクラスII抗原ペプチドが提供される。
【0072】
共有的または非共有的に結合した本発明によるペプチドを含む、クラスII MHC分子の多量体(例えば、二量体、三量体、四量体、五量体、六量体またはオリゴマー)は、検出可能な標識(例えば、蛍光成分、放射性核種、または定まった波長の光を吸収もしくは放出する生成物が生じる反応を触媒する酵素)と結合させたならば、このような複合体に対して特異的であって、それ故にそれと結合すると考えられる細胞表面受容体を有する対象(例えば、ヒト患者)からのT細胞を定量するために用いることができる。この種のT細胞の数の相対的な多さは、疾患の診断材料となる、または疾患に対する免疫にT細胞が関与していることの指標となる可能性が高い。加えて、多量体結合性T細胞の相対数の連続モニタリングは、疾患の経過または治療の効果を立証するにも有用である。このようなアッセイは、HIV-1由来またはインフルエンザウイルス-15由来のペプチドを含むクラスI MHC分子の四量体を用いて開発されており(Altman et al. (1996), Science 274: 94-96;Ogg et al. (1998), Science 279: 2103-21061)、対応するクラスII MHC多量体も同様に有用であると予想される。このような複合体は、関心対象のペプチドの存在下で構築された精製クラスII MHC分子の化学架橋により、または、規定された単一のペプチドを含むクラスII MHC分子の作製を目的とするすでに確立された組換え手法により、作製しうると考えられる(Kazono et al. (1994), Nature 369: 151-154;Gauthier et al. (1998), Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 95: 11828-118331)。このような多量体のクラスII MHC分子単量体は、完全長のα鎖およびβ鎖から構成される天然状態の分子であってもよい。または、これらは、α鎖およびβ鎖の細胞外ドメイン、またはペプチド結合窩の「壁」および「底面」を形成するα鎖およびβ鎖のドメインのいずれかを含む分子であってもよい。
【0073】
本発明はまた、上記のMHCクラスII抗原ペプチドを標的としてそれらと反応する、抗体、それらの断片または誘導体にも関する。抗体を作製するための一般的な方法は周知であり、例えば、Kohler and Milstein, 1975、Nature 256, 494またはJ.G.R. Hurrel,「モノクローナルハイブリドーマ抗体:技法および応用(Monoclonal Hybridoma Antibodies: Techniques and Applications)」, CRC Press Inc., Boco Raron, FL (1982)に開示されている。抗体は、ポリクローナル抗体もしくは好ましくはモノクローナル抗体であってもよく、またはF(ab')2、Fab、FvもしくはscFvなどの抗体断片であってもよい。また、本発明の抗体はヒト化されていてもよく(Merluzzi S. et al., (2000), Adv. Clin. Path., 4(2): 77-85)、またはヒト抗体であってもよい(Aujame L. et al., Hum. Antibodies, (1997), 8(4): 155-168)。
【0074】
本発明はまた、(a)少なくとも、SEQ ID NO. 49〜57およびSEQ ID NO. 103〜122からなる群より選択されるペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または(b)少なくとも、SEQ ID NO. 49〜57およびSEQ ID NO. 103〜122からなる群より選択されるペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 1〜39およびSEQ ID NO. 58〜102からなる群より選択される対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったものを含む、本発明のMHCクラスII抗原ペプチドをコードする核酸分子も提供する。この核酸分子はDNA分子であることが好ましい。
【0075】
さらに、MHCクラスII分子と結合した本発明のMHCクラスII抗原ペプチドをコードする核酸分子も提供される。
【0076】
本発明はまた、発現ベクターと機能的に結合した上記の核酸分子を含む組換え核酸構築物も提供する。本発明における使用に適した発現ベクターは、抗原ペプチドまたはMHCクラスII分子と結合した抗原ペプチドをコードする核酸配列と機能的に結合した、少なくとも1つの発現制御エレメントを含む。組換え発現構築物はDNA構築物であってもよい。
【0077】
発現制御エレメントは、本発明の抗原ペプチドをコードする核酸配列の発現を制御および調節する目的でベクター中に挿入される。発現制御エレメントの例には、lac系、λファージのオペレーター領域およびプロモーター領域、酵母プロモーター、ならびに、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、レトロウイルスまたはSV40に由来するプロモーターが非制限的に含まれる。そのほかの好ましい、または必要な作動エレメントには、リーダー配列、終止コドン、ポリアデニル化シグナル、ならびに宿主系における核酸配列の適切な転写およびその後の翻訳のために必要な、または好ましい任意の他の配列が非制限的に含まれる。必要な、または好ましい発現制御エレメントの正しい組み合わせが、選択される宿主系に依存することは、当業者には理解されると考えられる。さらに、発現ベクターが、宿主系における、核酸配列を含む発現ベクターの移行およびその後の複製のために必要なほかのエレメントを含む必要があることも理解されると考えられる。このようなエレメントの例には、複製起点および選択マーカーが非制限的に含まれる。さらに、このようなベクターが、従来の方法(「DNAの単離およびシークエンシング(DNA Isolation and Sequencing)」、Bruce A. Roe, Judy S. Crabtree and Akbar S. Khan, John Wiley & Sonsにより刊行、1996)を用いて容易に構築されること、または市販されていることも、当業者には理解されると考えられる。
【0078】
本発明のもう1つの局面は、発現ベクターと機能的に結合した上記の核酸分子を含む組換え核酸構築物が挿入された宿主生物または宿主細胞に関する。本発明に含まれる核酸構築物による形質転換を受ける宿主細胞には、真核生物、例えば動物、植物、昆虫および酵母の細胞、ならびに原核生物、例えば大腸菌が含まれる。核酸配列を有する核酸構築物を細胞内に導入するための手段には、微量注入法、電気穿孔法、DEAE-デキストランを用いる形質導入もしくはトランスフェクション、リポフェクション、リン酸カルシウム法または当業者に知られた他の手順が非制限的に含まれる(Sambrook et al. (1989)、「分子クローニング.実験マニュアル(Molecular Cloning. A Laboratory Manual)」中、Cold Spring Harbor Press, Plainview, New York)。
【0079】
1つの好ましい態様においては、真核生物細胞で機能する真核生物発現ベクターが用いられる。このようなベクターの例には、レトロウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、鶏痘ウイルスベクター、プラスミドまたはバキュロウイルス導入ベクターが非制限的に含まれる。好ましい真核生物細胞株には、COS細胞、CHO細胞、HeLa細胞、NIH/3T3細胞、293細胞(ATCC# CRL15731)、T2細胞、樹状細胞、単球、またはEpstein-15 Barrウイルスによって形質転換されたB細胞が非制限的に含まれる。
【0080】
本発明の抗原ペプチドは、例えば、天然の源からの抽出により(例えば、MHC II分子からの溶出);ペプチドをコードする組換え核酸の発現により;または化学合成により、入手しうる。自然下で生じる源とは異なる細胞系で産生されるペプチドは、それに自然下で付随する成分から分離されていると考えられるため、「単離」されている。宿主生物によって発現される組換えペプチドは、粗溶解物として入手することもでき、または当技術分野で知られた標準的なタンパク質精製法によって精製することもでき、これには分別沈殿、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、等電点電気泳動、ゲル電気泳動、アフィニティークロマトグラフィーおよびイムノアフィニティークロマトグラフィーなどが含まれうる。単離の程度または純度は、任意の適切な方法により、例えば、質量分析またはHPLC分析によって測定することができる。ペプチドを、Merrifield, (1986) Science 232: 341-347、およびBarany and Merrifield,「ペプチド(The Peptides)」、Gross and Meienhofer, eds(N. Y., Academic Press), pp.1-284 (1979)に記載された手順によって合成的に調製することもできる。合成は、溶液中もしくは固相中で行うこともでき、または自動合成装置を用いることもできる(Stewart and Young, 「固相ペプチド合成(Solid Phase Peptide Synthesis)」、2nd ed., Rockford Ill., Pierce Chemical Co.(1984) )。
【0081】
したがって、本発明はさらに、(a)少なくとも、SEQ ID NO. 49〜57およびSEQ ID NO. 103〜122からなる群より選択されるペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または(b)少なくとも、SEQ ID NO. 49〜57およびSEQ ID NO. 103〜122からなる群より選択されるペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 1〜39およびSEQ ID NO. 58〜102からなる群より選択される対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったものを含む、MHCクラスII抗原ペプチドを作製するための方法であって、上記の組換え核酸構築物を含む宿主細胞を、前記ペプチドの発現を可能にする条件下で培養する段階、および細胞または培地からペプチドを回収する段階を含む方法も提供する。
【0082】
本発明のさらにもう1つの態様においては、フェムトモル量のMHCクラスII会合性RA抗原ペプチドを単離および同定するための方法であって、(a)未熟樹状細胞を、0.1〜5μgのMHCクラスII分子を含む数として提供すること;(b)(a)の細胞を血清または滑液と接触させ、TNFαを添加することによって樹状細胞の成熟を誘導すること;(c)細胞の可溶化、および免疫沈降またはイムノアフィニティークロマトグラフィーによるMHCクラスII分子と抗原ペプチドとの複合体の隔離を含む方法により、細胞からクラスII MHC分子-抗原ペプチド複合体を単離すること;(d)隔離されたMHCクラスII分子と抗原ペプチドとの複合体を限外濾過用チューブ内で水により洗浄すること;(e)会合性抗原ペプチドを37℃の希トリフルオロ酢酸によりMHCクラスII分子から溶出させること;ならびに(f)単離されたペプチドを、液体クロマトグラフィーおよび質量分析によって分離、検出および同定すること、を含む方法が提供される。さらに、本方法の段階(f)において、液体クロマトグラフィーは、ペプチド溶出段階の前に、混入物を溶出させるのに十分な容積を用いる逆相材料からの第1の直線溶出段階を含む。その上、本方法はさらに、(g)同定されたペプチドを、多数のデータセットにわたる比較データ分析を行うために開発されたデータベースおよびソフトウエアを含む方法によって分析することを含んでもよい。
【0083】
例えば100ngのMHCクラスII分子を入手するために必要な組織または体液の量は、MHCクラスIIを発現する細胞の数、およびMHCクラスII分子の発現率に依存する:例えば、100ngのMHCクラスIIは、約50mlの血液から入手しうる、約2×105個の成熟DC、または5〜10×106個の末梢血単球、または約5×107個の末梢血単核細胞に相当する。
【0084】
細胞または組織からのクラスII MHC分子-抗原ペプチド複合体の精製のためには、細胞または組織の膜を可溶化しなければならない。細胞の溶解は、例えば、凍結融解サイクル、界面活性剤の使用およびそれらの組み合わせといった、当技術分野で公知の方法を用いて行うことができる。好ましい溶解方法は、界面活性剤、好ましくはTX-100、NP4O、n-オクチルグルコシド、Zwittergent、ルブロール、CHAPS、最も好ましくはTX-100またはZwittergent 3-12を用いる可溶化である。細胞片および核は、可溶化された受容体-ペプチド複合体を含む細胞溶解物から遠心処理によって除去しなければならない。その結果、クラスII MHC分子と抗原ペプチドとの複合体は、界面活性剤による可溶化を含む方法によって細胞から単離される。
【0085】
さらに、MHCクラスII分子-ペプチド複合体は、免疫沈降法またはイムノアフィニティークロマトグラフィーを含む方法により、細胞溶解物から精製される。免疫沈降法またはイムノアフィニティークロマトグラフィーのためには、MHCクラスII分子に対して特異的であって、これらの方法に適した抗体が用いられる。特異抗体は好ましくはモノクローナル抗体であり、共有的または非共有的に、例えばプロテインAを介して、ビーズ、例えばセファロースビーズまたはアガロースビーズと結合している。先行技術に用いられている広範囲にわたる抗HLA抗体の選択肢には以下のものが含まれる:抗HLA-DR抗体:L243、TU36、DA6.147、好ましくはL243;抗HLA-DQ抗体:SPVL3、TU22、TU169、好ましくはTU22およびTU169;抗HLA-DP抗体B7/21ならびに抗HLA-A,B,C抗体W6/32およびB9.12。
【0086】
種々のMHCクラスII分子に対して特異的なモノクローナル抗体は、販売元から入手することもでき(例えば、Pharmingen、Dianova)、またはそれぞれのハイブリドーマ細胞の上清からプロテインA-もしくはプロテインG-アフィニティークロマトグラフィーを用いて精製することもできる。精製されたモノクローナル抗体は、当技術分野で公知のさまざまな方法により、好ましくは、抗体のアミノ基をCNBr活性化セファロースと共有結合させることにより、結合させることができる。
【0087】
MHC分子の免疫学的単離は、抗体ビーズを細胞溶解物とともに回転下で数時間インキュベートすることにより、または細胞溶解物をマイクロカラムに注入して通過させることによってクロマトグラフィー的に、行うことができる。抗体ビーズの洗浄は、エッペンドルフチューブ内で、またはマイクロカラム中で行いうる。免疫沈降法の有効性は、変性MHC分子を認識する抗体(抗HLA-DRalpha:1B5;抗HLAクラスI:HC10またはHCA2)を用いるSDS-PAGEおよびウエスタンブロット法によって分析しうる。
【0088】
隔離されたMHCクラスII分子-ペプチド複合体を、溶出の前に、残存する界面活性剤の混入物を除去する目的で水または低塩濃度緩衝液を用いて洗浄する。低塩濃度緩衝液は、濃度の範囲が0.5〜10mMである、好ましくは濃度が0.5mMである、Tris、リン酸または酢酸緩衝液であってよい。さらに好ましい1つの態様においては、MHCクラスII分子-ペプチド複合体を、HPLC分析のために従来より用いられている超純水(シークエンシング用グレード)によって、好ましくはMERCK社製の超純水(シークエンシング用グレード)によって洗浄する。洗浄の段階を限外濾過によって行ってもよい。限外濾過は、限外濾過用チューブにより、カットオフ値を30kD、20kD、10kDまたは5kDとして、好ましくは30kDとして、チューブ容量0.5〜1.0ml(「Ultrafree」チューブ;Millipore)で行うことができる。限外濾過用チューブ内での洗浄は、受容体ペプチド複合体を保持するビーズの容積の10〜20倍の容積を用いて、好ましくはビーズの15倍の容積を用いて、4〜12回、好ましくは6〜10回行うことができる。溶出されたペプチドを、残りのMHCクラスII分子から、同じ限外濾過用チューブを用いて分離してもよい。続いて、溶出されたペプチドを凍結乾燥してもよい。
【0089】
ペプチドをMHCクラスII分子から溶出させることによって、抗原候補の源に由来する、さらには細胞内または細胞外を出所とするポリペプチドに由来する、自然にプロセシングされたペプチドの複合混合物が得られる。溶出の後にのみ、ペプチドを分離させて配列解析に供することが可能である。
【0090】
本発明の方法における抗原ペプチドは、当技術分野で公知のさまざまな方法によって、好ましくは希酸、例えば希アセトニトリル(Jardetzky TS et al., Nature 1991 353, 326-329)、希酢酸および加熱(Rudensky AY et al., Nature 1991, 353, 622-626;Chicz RM et al., Nature 1992, 358, 764-768)または37℃の希トリフルオロ酢酸(Kropshofer H et al., J Exp Med 1992, 175, 1799-1803)を用いることによって、溶出させることができる。ペプチドを、希トリフルオロ酢酸を用いて37℃で溶出させることが最も好ましい。
【0091】
単離された抗原ペプチドを、続いて分離、検出および同定する。検出するとは、単離された抗原ペプチド混合物中の個々のペプチドのアミノ酸配列が、フェムトモル量のペプチドの検出およびシークエンシングのために妥当な方法によって解明されることであると解釈される。同定するとは、抗原ペプチドの由来となるタンパク質またはポリペプチドから、さらにはそれらがこれらのタンパク質またはポリペプチドの内部を構成する配列から、それが立証されることであると解釈される。
【0092】
第1の段階では、溶出されたペプチドの複合混合物を、可能なさまざまなクロマトグラフィー法のいずれかによって、例えば、逆相、陰イオン交換、陽イオン交換クロマトグラフィーまたはそれらの組み合わせによって分離することができる。分離は、C18逆相クロマトグラフィーによって、または、MudPitと命名されている逆相/陽イオン交換二次元HPLCによって行われることが好ましい(Washburn MP et al., Nat Biotechnol., (2001), 19,242-247)。
【0093】
分離は、質量分析装置のナノ流量エレクトロスプレー源、またはMALDI分析用のプレート上に画分をスポット化する微量分画(micro-fractionation)装置のいずれかと接続された溶融シリカマイクロキャピラリーカラムを利用したHPLC方式で行われる。
【0094】
液体クロマトグラフィーには、強イオン交換性材料および疎水性逆相材料の使用によるペプチドの分画が含まれる。イオン交換性材料および逆相材料からのペプチドの溶出のためには、塩による溶出および有機溶媒(例えばアセトニトリル)による溶出を含む、異なる溶出プログラムを交互に行う。逆相材料からの溶出は、長さおよび傾斜度の異なる直線的勾配による複数の段階として行われる。分画しようとする試料中の混入物は、その溶出が質量分析装置におけるペプチドピークの検出と競合する任意の混入物でありうる。このため、同時の溶出を防止する目的で、ペプチド溶出段階の前に、十分な容積の溶媒を用いて混入物を溶出させなければならない。液体クロマトグラフィーのために用いるカラムによるが、ペプチド溶出段階の前に混入物を溶出させるのに十分な溶媒容積は、カラム容積の100〜200倍であろう。
【0095】
さまざまな質量分析法が適しているが、MALDI-ポストソース分解(PSD)MS法またはエレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析(ESI-MS)法が好ましく、イオントラップESI-MS法が最も好ましい。
【0096】
個々のペプチドの配列は、当技術分野で公知の手段によって決定しうる。配列解析は、ペプチドの断片化、およびアルゴリズム(例えば、MASCOTまたはSEQUEST)を用いた断片スペクトルのコンピュータ支援による解釈によって行われることが好ましい。どちらのコンピュータアルゴリズムも、タンパク質およびヌクレオチドの配列データベースを利用して、実験的および理論的に生成されたタンデム質量スペクトルの相互相関解析を行う。これにより、自動ハイスループット配列解析が可能となる。
【0097】
単離および同定された本発明の抗原ペプチドは、MHC結合モチーフ、MHC結合能および/またはT細胞認識によって検証することができる。
【0098】
MHC結合モチーフ
特定のMHC分子(アレル変異体)と会合したペプチドは、MHC分子と安定した複合体を形成するために必要な、結合モチーフと呼ばれる共通の構造的特徴を有する。MHCクラスI分子から溶出されるペプチドリガンドは比較的短く、8〜11アミノ酸の範囲である。さらに、ペプチドの2つまたは3つの側鎖に結合にかかわる。それぞれのアミノ酸側鎖の位置はHLAアレルによって異なるが、これらのいわゆる「アンカー」残基のうち2つは2位および9位に位置することが最も多い。個々のアンカー位置に関しては、アンカーアミノ酸として通常働くのは1つまたは2つのアミノ酸のみであり、例えば、HLA-A2の場合には2位のロイシンまたはバリンVである。
【0099】
MHCクラスII分子の場合には、ペプチド結合溝の両端が開放状態にあることから、より長いペプチドが結合しうるため、ペプチドの長さは11〜25アミノ酸の範囲である。ほとんどのHLAクラスII分子は、九量体のコア領域に含まれる相対位置P1、P4、P6およびP9に最大4つのアンカー残基を収容する。しかし、このコア領域のペプチドのN末端からの距離はさまざまである。大半の場合には、コア領域の前に2〜4個のN末端残基が存在する。このため、ほとんどのHLAクラスII会合性ペプチドでは、P1アンカー残基は3位、4位または5位に位置する。HLA-DRクラスII分子から溶出されるペプチドは、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、ロイシン、イソロイシンまたはバリンによって代表される大型の疎水性P1アンカーを共通に有する。
【0100】
アンカー残基の位置および厳密なタイプにより、高頻度に存在するHLAクラスIIアレル産物の大部分に関して知られているペプチド結合モチーフが構成される。ペプチド配列中のモチーフの検証を可能にするコンピュータアルゴリズムの一つは、vaccinome社によって販売されている「Tepitope」である。
【0101】
MHCの結合能
本発明の方法によって同定されたペプチドは、当技術分野で公知の方法により、例えば、単離されたMHCクラスII分子および本発明の方法によって同定されたものと同一なアミノ酸配列を有する合成ペプチドを用いて、適切なMHCクラスII分子と結合する能力に関して検討することができる(Kropshofer H et al., J. Exp. Med. 1992; 175, 1799-1803;Vogt AB et al., J. Immunol. 1994; 153, 1665-1673;Sloan VS et al., Nature 1995; 375, 802-806)。または、MHCクラスIIを発現する細胞系およびビオチン化ペプチドを用いる細胞結合アッセイを、同定されたエピトープを検証するために用いることもできる(Arndt SO et al., EMBO J., 2000; 19, 1241-1251)。
【0102】
いずれのアッセイにおいても、標識されたレポーターペプチドの結合を50%低下させるために必要な濃度を決定することにより、ペプチドの相対的結合能を測定する。この値はIC50と呼ばれる。関係するHLAクラスII分子に対する妥当な親和性を有するペプチド結合では、確立された基準ペプチドのIC50の10倍を上回らないIC50値が得られる。
【0103】
同じ結合アッセイを、ペプチドが、別のクラスII MHC分子、すなわち本発明の方法を用いて溶出されたもの以外のクラスII MHC分子と結合する能力を検討するために用いることもできる。このようなペプチドを用いる本発明の診断方法、およびペプチドまたはそれらに由来するペプチドを用いる本発明の治療方法は、このような別のクラスII MHC分子を発現する対象に対して適用することができる。
【0104】
T細胞認識
エピトープの検証手順は、本発明の方法によって同定されたペプチドを、CD4+T細胞集団を活性化する能力に関して試験することを含みうる。本発明で同定されたものと同一であるか、または本発明で同定されたペプチドのネステッド基(nested group)に由来するコア配列に対応するかのいずれかであるアミノ酸配列を有するペプチドを合成する。続いて、合成ペプチドを、(a)関心対象のMHCクラスII分子を発現し、疾患の少なくとも1つの症状を有する被験対象;および(b)関心対象のMHCクラスII分子を発現し、疾患の症状を有しない対照対象、からのCD4+T細胞を活性化する能力に関して試験する。そのほかの対照対象としては、疾患の症状を有しており、しかも関心対象のMHCクラスII分子を発現しないものが可能である。
【0105】
いくつかの疾患(例えば、自己免疫の要素を有するもの)においては、(b)に記載された対照対象のCD4+T細胞ではなく、被験対象のCD4+T細胞に反応性がみられることにより、当該ペプチドが、当該疾患を惹起、促進または悪化させうるCD4+T細胞を活性化するエピトープであるという確定的な証拠が得られる。また別の疾患(例えば、自己免疫の要素がない癌または感染症)においては、前の文章に記載したものと同様なパターンの反応性および反応性のなさにより、当該ペプチドが、疾患に対する免疫、または少なくとも疾患の症状の軽減を媒介しうるCD4+T細胞を活性化するエピトープであることが示されると考えられる。
【0106】
CD4+T細胞の反応は、当技術分野で公知のさまざまなインビトロ方法によって測定することができる。例えば、全末梢血単核細胞(PBMC)全体を候補合成ペプチドの存在下または非存在下で培養し、増殖反応を、例えばDNA中への[3H]-チミジンの取り込みによって測定する。増殖性T細胞がCD4+T細胞であることは、アッセイの前にPBMCからCD4+T細胞を除去することにより、またはT細胞表面のCD4+分子と結合してその増殖を阻害する阻害性抗体を添加することにより、検証することができる。いずれの場合にも、増殖反応は、CD4+T細胞が増殖性細胞である場合にのみ阻害されると考えられる。または、CD4+T細胞をPBMCから精製し、適切なMHCクラスII分子を発現するAPCの存在下で、ペプチドに対する増殖反応に関して調べることもできる。このようなAPCは、Bリンパ球、単球、マクロファージもしくは樹状細胞、または全PBMCでありうる。また、APCが、Bリンパ球、単球、マクロファージまたは樹状細胞に由来する不死化細胞株でもありうる。APCに関心対象のMHCクラスII分子を内因性に発現させることもでき、またはそれらにそのような分子をコードするトランスフェクトされたポリヌクレオチドを発現させることもできる。いずれの場合にも、例えば電離放射線またはマイトマイシン-Cで処理することにより、APCをアッセイの前に非増殖性にすることが可能である。
【0107】
細胞増殖を測定する代わりに、当業者に公知の手順によって、CD4+T細胞によるサイトカイン産生を測定することもできる。サイトカインには、インターロイキン-2(IL-2)、インターフェロン-γ(IFN-γ)、インターロイキン-4(IL-4)、TNF-α、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-10(IL-10)、インターロイキン-12(IL-12)またはTGF-βが非制限的に含まれる。それらを測定するためのアッセイには、ELISA、および当該サイトカインに反応する細胞を被験試料の存在下での反応性(例えば、増殖)に関して調べるバイオアッセイが非制限的に含まれる。
【0108】
または、CD4+リンパ球によるサイトカイン産生を、細胞内免疫蛍光染色およびフローサイトメトリーによって直接描出することもできる。
【0109】
さらに、本発明のMHCクラスII抗原ペプチドをRAの診断に用いることもできる。したがって、本発明のさらなる態様は、本発明による抗原ペプチドをRAのためのマーカーとして用いることである。
【0110】
好ましくは、(a)少なくとも、SEQ ID NO. 49〜57およびSEQ ID NO. 103〜122からなる群より選択されるペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または(b)少なくとも、SEQ ID NO. 49〜57およびSEQ ID NO. 103〜122からなる群より選択されるペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 1〜39およびSEQ ID NO. 58〜102からなる群より選択される対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったもの、を含むMHCクラスII抗原ペプチドが、RAのためのマーカーとして用いられる。
【0111】
もう1つの態様において、本発明の抗原ペプチドは、治療レジメンの有効性を追跡するための反応マーカーとして用いることもできる。本質的には、抗原ペプチドに関するベースライン値を決定して、続いて所定の治療薬を投与し、その後の抗原ペプチドのレベルをモニターすることができ、抗原ペプチドのレベルの変化によって治療投与の有効性が示される。
【0112】
さらに、疾患の、好ましくはRAの、ある特定の病期または段階のみに認められる抗原ペプチドを、病期特異的マーカーとして利用することもできる。本質的には、ある特定の疾患病期と関連づけられている抗原ペプチドのレベルを定期的にモニターし、それによって疾患の病期およびその進行に関する情報が得られる。
【0113】
本発明はまた、RA抗原ペプチドの由来となるポリペプチドを、疾患の、好ましくはRAの、特にびらん性RAと非びらん性RAとを区別しての、診断およびモニタリングのためのマーカーとして、用いることも含む。それぞれのタンパク質を用いることの根拠は、DCがほとんどの組織に存在し、そこでそれらが特異的受容体および特化したエンドサイトーシス機構(例えば、マクロ飲作用)を介して外因性抗原を捕捉した後で、プロセシングされた抗原をMHCクラスII分子上のペプチドとして提示することにある。以前の研究により、MHCクラスII分子との関連下で認められるペプチドエピトープ、例えば、RA抗原ペプチドの頻度は、大半の場合、この特定のペプチドの由来となったタンパク質の存在量を反映することが知られている。このため、RA抗原ペプチドだけでなく、対応するタンパク質も、RAのためのマーカーとして役立つ可能性がある。
【0114】
したがって、本発明のさらなる態様においては、以下のものからなる群より選択されるポリペプチドの、RAのためのマーカーとしての使用法が提供される:インターフェロン-γ-誘導型リソソーム性チオール還元酵素(SEQ ID NO. 40)、インテグリンβ-2(SEQ ID NO. 123)、ホスファチジルイノシトール-4,5二リン酸3-キナーゼ(SEQ ID NO. 124)、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(SEQ ID NO. 125)、免疫グロブリン重鎖V-III領域(V26)(SEQ ID NO. 126)、DJ-1タンパク質(SEQ ID NO. 127)、アポリポタンパク質B-100(SEQ ID NO. 41)、26Sプロテアソーム非ATPアーゼ調節性サブユニット8(SEQ ID NO. 128)、インターロイキン-1受容体(SEQ ID NO. 129)、フィブロモジュリン(SEQ ID NO. 130)、GM-CSF/IL-3/IL-5受容体(SEQ ID NO. 131)、ソーティングネキシン3(SEQ ID NO. 132)、インター-α-トリプシンインヒビター重鎖H4(SEQ ID NO. 42)、補体C4(SEQ ID NO. 43)、補体C3(SEQ ID NO. 44)、SH3ドメイン結合グルタミン酸リッチライクタンパク質3(SEQ ID NO. 45)、インターロイキン-4-誘導型タンパク質1(SEQ ID NO. 46)、ヘモペキシン(SEQ ID NO. 47)、Hsc70相互作用性タンパク質(SEQ ID NO. 48)、インバリアント鎖(Ii)(SEQ ID NO. 133)、レチノイン酸受容体応答タンパク質2(SEQ ID NO. 134)、フィブロネクチン(SEQ ID NO. 135)、カテプシンB(SEQ ID NO. 136)、トリペプチジル-ペプチダーゼII(SEQ ID NO. 137)、レグマイン(SEQ ID NO. 138)、血小板活性化因子受容体(SEQ ID NO. 139)、ポリ-α-2.8-シアリルトランスフェラーゼ(SEQ ID NO. 140)、ras関連タンパク質Rab-11B(SEQ ID NO. 141)。好ましくは、このポリペプチドはびらん性RAのためのマーカーとして用いられる。また、このポリペプチドを非びらん性RAのためのマーカーとして用いることも好ましい。特に好ましいのは、インターロイキン-4-誘導型タンパク質1(SEQ ID NO. 46)を、RAのためのマーカーとして用いることである。図1のポリペプチドは、これまではRAのためのマーカーとして知られていなかったが、現時点ではRAのための重要なマーカー候補であると考えられている。
【0115】
RAの診断は、RAのためのポリペプチドまたはマーカーの発現および/または組成を、固相酵素免疫アッセイ(ELISA)、ウエスタンブロット法、免疫沈降法および免疫蛍光法を含む、さまざまな方法によって検討することにより、下すことができる。個体からの被験試料を、本発明のポリペプチドまたはペプチドの発現の変化および/または組成の変化の存在に関して評価する。ポリペプチドまたはペプチドの発現の変化は、例えば、量的なポリペプチド発現(すなわち、産生されるポリペプチドの量)の変化でありうる;ポリペプチドの組成の変化は、質的なポリペプチド発現(例えば、変異ポリペプチドまたは異なるスプライシング変異体の発現)の変化である。
【0116】
このような変化の両方(量的および質的)が存在することも可能である。ポリペプチドの発現または組成の「変化」とは、本明細書で用いる場合、対照試料におけるペプチドまたはポリペプチドの発現または組成と比較しての、被験試料における発現または組成の変化のことを指す。対照試料とは、被験試料に対応し(例えば、同じ種類の細胞からのものであり)、しかもRAに罹患していない個体からのものである試料のことである。対照試料と比較して、被験試料におけるペプチドまたはポリペプチドの発現または組成に変化があることにより、RAまたはRAに対する感受性が示される。分光法、比色法、電気泳動法、等電点電気泳動法およびイムノアッセイ(イムノブロット法(「分子生物学における最新プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)」、特に10章も参照)など)を含め、本発明のペプチドまたはポリペプチドの発現または組成を検討するさまざまな手段を用いることができる(例えば、David et al, 米国特許第4,376,110号)。例えば、1つの態様においては、ポリペプチド(例えば、上記のもの)と結合しうる抗体、好ましくは検出可能な標識を有する抗体を用いることができる。抗体はポリクローナル性でもよく、または最も好ましくはモノクローナル性である。完全な抗体またはその断片(例えば、FabまたはF(ab')2)を用いうる。プローブまたは抗体に関する「標識された」という用語は、検出可能な物質をプローブまたは抗体と結合させること(すなわち、物理的に連結すること)によるプローブまたは抗体の直接標識のほか、直接標識された別の試薬との反応性によるプローブまたは抗体の間接的標識も含むものとする。間接的標識の例には、蛍光標識された二次抗体を用いる一次抗体の検出、および、蛍光標識されたストレプトアビジンを用いて検出しうるようにするビオチンによるDNAプローブの末端標識が含まれる。
【0117】
本発明のペプチドまたはポリペプチドと特異的に結合する上記の抗体を用いるウエスタンブロット分析は、被験試料中のペプチドまたはポリペプチドのレベルまたは量を測定して、それを対照試料中のペプチドまたはポリペプチドのレベルまたは量と比較するために用いることができる。被験試料中のペプチドまたはポリペプチドは均一系または不均一系イムノアッセイで測定することが好ましい。被験試料におけるポリペプチドのレベルまたは量が、対照試料におけるポリペプチドのレベルまたは量よりも高いまたは低く、その差が統計学的に有意であることにより、ポリペプチドの発現の変化が示され、RAまたはRAに対する感受性が診断される。
【0118】
したがって、本発明はまた、本発明のMHCクラスII抗原ペプチドと反応する診断用組成物にも関する。
【0119】
さらにもう1つの態様において、本発明の抗原ペプチドまたはその由来となるタンパク質を、疾患の、好ましくはRAの予防および治療に用いることもできる。
【0120】
本発明の1つの局面は治療目的であり、この場合には、同定された抗原ペプチドの1つまたは複数を用いて、RAに対する、好ましくはびらん性および/または非びらん性RAに対するワクチン接種を患者に行う。ワクチン接種の過程で、抗原ペプチドは患者において抗原特異的T細胞寛容を誘導すると考えられ、これは最終的には疾患の消退または疾患の進展の減衰をもたらすと考えられる。
【0121】
将来の臨床試験において特異的免疫寛容を誘導するための有望な戦略の一つは、DNA寛容化ワクチン(寛容化vaccine)の使用である。自己抗原をコードするDNA寛容化ワクチンは単独でT細胞増殖反応を低下させることが示されており(Ruiz, P. et al., J Immunol 162 (1999) 3336-3341)、一方、自己抗原およびIL-4を同時送達するDNA寛容化ワクチンも防御的T2反応を誘導している(Garren, H. et al., Immunity 15 (2001) 15-22)。開発中の非ポリヌクレオチド特異的寛容化療法の例には、タンパク質抗原、自然にプロセシングされたペプチド、改変されたペプチドリガンド、他の生体分子、例えばDNAなど、または翻訳後修飾を含むタンパク質およびペプチド、ならびに「経口寛容」を誘導するために経口投与される抗原が含まれる(Robinson, W.H. et al., Clin Immunol 103 (2002) 7-12に総説がなされている)。寛容化療法に関して考えられる有害作用には自己免疫の発生がある。
【0122】
この目的のためには、当該のRA抗原ペプチドを、ペプチドがMHC分子と結合し、T細胞の末梢性寛容を誘発するのに十分な量として患者に直接投与してもよい。
【0123】
または、本発明の抗原ペプチドを、DCを用いるワクチンの作製のために利用することもできる。この場合には、患者の単球由来の自己DCに対して、当該ペプチドまたは当該ペプチド配列を含む組換えタンパク質によるパルス刺激を加えるとよい。
【0124】
したがって、本発明は、(a)少なくとも、SEQ ID NO. 49〜57およびSEQ ID NO. 103〜122からなる群より選択されるペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または(b)少なくとも、SEQ ID NO. 49〜57およびSEQ ID NO. 103〜122からなる群より選択されるペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 1〜39およびSEQ ID NO. 58〜102からなる群より選択される対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったものを含むMHCクラスII抗原ペプチド、前記抗原ペプチドまたはSEQ ID NO. 40〜48およびSEQ ID NO. 123〜141からなる群より選択されるポリペプチドと反応する抗体、さらに任意には薬学的に許容される添加剤、希釈剤または担体も含む、薬学的組成物を提供する。抗原ペプチドは、特異的リンパ球を寛容化するのに十分な量として存在しなければならない。このような量は、用いるペプチド、投与、治療しようとする疾患の重症度、および患者の全身状態に依存すると考えられ、例えば、ペプチドを樹状細胞表面にロードさせる場合には、通常は1〜50mg/mlの範囲であると考えられる。
【0125】
許容される添加剤、希釈剤または担体は、インビトロ試験の目的にはリン酸緩衝食塩水であってよく、インビボ用途には生理的塩溶液であってよい。
【0126】
本明細書における「ワクチン接種」とは、能動的免疫処置、すなわち患者におけるインビボ免疫寛容を直接誘発するためのペプチドのインビボ投与、および、受動的免疫処置、すなわちインビトロでCD4+Tリンパ球を寛容化する目的または自己もしくは同種の樹状細胞を刺激する目的でペプチドを用いること(それらは後に患者に再び接種される)の両方を意味する。
【0127】
本発明はまた、実質的には、特に実施例を参照しながら、本明細書に前述した通りの、抗原ペプチド、抗体、核酸、宿主細胞、方法、組成物および使用法も提供する。
【0128】
ここまで本発明の一般的な説明を行ってきたが、具体的な実施例(ただし、それらは例示のみを目的としており、別に指定される場合を除き、限定を意図したものではない)を、以下の図面とともに参照することにより、それはさらに良く理解されるであろう。
【0129】
実施例
以下の実施例は、上述した図面との関連において、以下に述べるような、図1に概要を示した方法に基づいて説明されている。実施例で言及されている市販の試薬は、別に指定する場合を除き、製造元の指示に従って用いた。
【0130】
本発明の方法
樹状細胞および培養
検討は、以下に述べるように、単球から分化させたヒト樹状細胞を用いて行った。単球はヒト末梢血から精製した。血液は、以下のハプロタイプを有する健常ドナーから採取した:(1)HLA-DRB1*0401、*03011、(2)HLA-DRB1*0401、*0304、(3)HLA-DRB1*0401、*1301、(4)HLA-DRB1*0401、*0701、HLA-DRB1*0401、*0407。
【0131】
細胞はすべて、1mMピルビン酸、2mMグルタミンおよび10%熱非働化ウシ胎仔血清(Gibco BRL, Rockville, MD)を加えたRPMI 1640培地(略称:RPMI)中で培養した。
【0132】
末梢血単核細胞(PBMC)の単離
末梢血はマンハイム(Mannheim, Germany)の血液バンクから標準的なバフィーコート調製物として入手した。ヘパリン(200 I.U./血液ml、Liquemine, Roche)を、凝固を防ぐために用いた。末梢血単核細胞(PBMC)は、LSM(登録商標)(1.077〜1.080g/ml;ICN, Aurora, OH)中での800g(室温)での30分間の遠心処理によって単離した。PBMCを間期のものから収集し、20mM Hepesを含むRPMIで2回洗浄した(500gで15分間、300gで5分間)。赤血球を除去するために、PBMCをALT緩衝液(140mM塩化アンモニウム、20mM Tris、pH 7.2)により37℃で3分間処理した。PBMCを20mM Hepesを含むRPMIで2回洗浄した(200gで5分間)。
【0133】
末梢血単球からの樹状細胞の作製
抗CD14磁気ビーズ(Miltenyi Biotech, Auburn, CA)を製造元のプロトコールに従って用いる陽性選別により、単球をPBMCから単離した。単球は、1%非必須アミノ酸(Gibco, BRL, Rockville, MD)、50ng/ml組換えヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激(GM-CSF;S.A.1.1×107 U/mg)(Leucomax;Novartis, Basel, Switzerland)および3ng/ml組換えヒトIL-4(S.A. 2.9×104 U/μg)(R&D Systems, Minneapolis, MN)を加えたRPMI中で培養した。単球を0.3×106個/mlで6ウェルプレート(Costar)に播いて5日間おき、未熟樹状細胞を入手した。
【0134】
単球由来の未熟樹状細胞の質はフローサイトメトリー分析によってルーチン的にモニターし、それらが以下の表現型を示した場合には適切であると評価した:CD1a(高)、CD3(陰性)、CD14(低)、CD19(陰性)、CD56(陰性)、CD80(低)、CD83(陰性)、CD86(低)およびHLA-DR(高)。これに対して、成熟樹状細胞(以下を参照のこと)は、以下の表現型を示す:CD1a(低)、CD80(高)、CD83(高)、CD86(高)およびHLA-DR(高)。CD1a、CD3、CD14、CD19、CD56、CD80、CD83、CD86に対するモノクローナル抗体、ならびにそれぞれのアイソタイプ対照物はPharmingen社(San Diego、CA)から購入した。
【0135】
血清または滑液に対する樹状細胞の曝露
血清および滑液に対して、137Cs(70 TBq)による放射線照射を30分間行った。樹状細胞に血清または滑液由来の抗原を与えるために、6×106個の未熟樹状細胞に対して、1mlの血清または0.6mlの滑液によるパルス刺激を加えた。同時に、10ng/mlの組換えヒト腫瘍壊死因子α(TNFα;S.A. 1.1×105 U/μg)を添加することにより、樹状細胞の成熟を誘導した。対照として、6×106個の未熟樹状細胞をTNFαのみとインキュベートした。
【0136】
24時間の培養後に、成熟樹状細胞を、300gでの10分間の遠心処理によって収集した。細胞をPBSで洗浄した上でエッペンドルフチューブに移した。400gで3分間遠心した後に、上清を完全に除去し、細胞を-70℃で凍結させた。
【0137】
抗HLAクラスIIビーズの作製
抗HLA-DRモノクローナル抗体(mAb)L243(ATCC, Manassas, VA)を、それぞれのマウスハイブリドーマ細胞株を培養することによって産生させた。mAb L243はプロテインAセファロース(Pharmacia, Uppsala, Sweden)を用いて精製し、CNBr活性化セファロースビーズ(Pharmacia)に対して、製造元のプロトコールに従って最終濃度2.5mg/mlで固定化した。L243ビーズは、0.1%Zwittergent 3-12(Calbiochem, La Jolla, CA)を含むPBS中に保存した。
【0138】
HLA-DR-ペプチド複合体のナノスケール精製
凍結した樹状細胞のペレットを、10倍容積の氷冷可溶化バッファー(1%Triton-X-100、20mM Tris、pH 7.8、5mM MgCl2、さらにプロテアーゼ阻害薬であるキモスタチン、ペプスタチン、PMSFおよびロイペプチン(Roche, Mannheim, Germany)を含む)中に再懸濁させ、水平式振盪器により1000rpm、4℃で1時間かけて溶解させた。細胞溶解物から10000g、4℃での10分間の遠心処理によって細胞片および核を除去した。この溶解物を、L243ビーズ(細胞溶解物100μl当たりL243ビーズが5〜10μl)とともに水平式振盪器にて1000rpm、4℃で2時間インキュベートした。L243ビーズと結合した免疫沈降性HLA-DR-ペプチド複合体を1000g、4℃での1分間の遠心処理によって沈殿させ、0.1%Zwittergent 3-12(Calbiochem)を含むPBS 500μlで4回洗浄した。
【0139】
HLA-DR-ペプチド複合体の除去の有効性は、免疫沈降の前後のそれぞれの細胞溶解物、およびビーズのアリコートを、抗HLA-DRα特異的mAb 1B5を用いるウエスタンブロット法を用いて分析することによってモニターした(Adams, T.E. et al., Immunology 50 (1983) 613-624)。
【0140】
HLA-DR会合性ペプチドの溶出
L243ビーズと結合したHLA-DR-ペプチド複合体を100μlのH2O(HPLCグレード;Merck, Darmstadt, Germany)中に再懸濁させ、限外濾過用チューブ(Ultrafree MC、カットオフ値30kD)(Millipore, Bedford, MA)に移した上で、100μl H2O(HPLCグレード)を用いて、10000g、室温での1〜2分間の遠心処理によって10回洗浄した。結合したペプチドを溶出させるために、0.1%トリフルオロ酢酸(Fluka, Buchs, Switzerland)を含むH2O(HPLCグレード)60μlを添加し、インキュベーションを37℃で30分間行った。溶出したペプチドを、Ultrafreeユニットの10000g、室温での3分間の遠心処理によって新たなエッペンドルフチューブに収集し、Speed-Vac(商標)真空遠心機にて直ちに凍結乾燥させた。
【0141】
二次元ナノ流量LCによる分画
ペプチド複合混合物のハイスループットシークエンシングを行う目的には、液体クロマトグラフィー分画後に質量分析による配列決定を行うことを基盤とする、MudPIT(多次元タンパク質同定技術)を用いた(Washburn, M.P. et al., Nat Biotechnol 19 (2001), 242-247)。
【0142】
この目的のため、HLA分子から溶出した凍結乾燥ペプチドを、5%(v/v)アセトニトリル(ACN)、0.5%(v/v)酢酸、0.012%(v/v)ヘプタフルオロ酪酸(HFBA)および1%(v/v)ギ酸を含む緩衝液中に再懸濁させた。ペプチド混合物は、Model P-2000レーザー式プラー(Sutter Instrument Co., Novato, CA)によって作製した溶融シリカマイクロキャピラリーカラム(内径100μm×375μm)で分画した。マイクロカラムには3μm/C18逆相材料(C18-ACE 3μm [ProntoSlL 120-3-C18 ACE-EPS, Leonberg, Germany])を充填し、その後に5μm陽イオン交換材料(Partisphere SCX;Whatman、Clifton、USA)を3cm分充填した。
【0143】
LC Packings UltiMate HPLC(LC Packings, San Francisco, USA)による完全自動化式の8段階の勾配分離を、以下の緩衝液を用いて行った:5%ACN/0.012%HFBA/0.5%酢酸(緩衝液A)、80%ACN/0.012%HFBA/0.5%酢酸(緩衝液B)、250mM酢酸アンモニウム/5%ACN/0.012%HFBA/0.5%酢酸(緩衝液C)および1.5M酢酸アンモニウム/5%ACN/0.012%HFBA/0.5%酢酸(緩衝液D)。116分間にわたる第1の段階は、0から40%までの緩衝液Bによる75分間の勾配、それに続く40%から80%までの緩衝液Bによる10分間の勾配、80%の緩衝液Bによる6分間の維持、および100%の緩衝液Aによる10分間の平衡化段階からなる。次の5つの段階(それぞれ146分間)は、以下のプロフィールを特徴とする:100%の緩衝液Aを5分間、0からx%までの緩衝液Cによる5分間の勾配、100%の緩衝液Aを5分間、0から10%までの緩衝液Bによる30分間の勾配、10%から35%までの緩衝液Bによる55分間の勾配、35%から50%までの緩衝液Bによる20分間の勾配、50%から80%までの緩衝液Bによる10分間の勾配、80%の緩衝液Bによる6分間の維持、および100%の緩衝液Aによる10分間の平衡化段階。段階2〜6における緩衝液Cのパーセンテージ(x)は以下の通りとした:20、40、60、80および90%。逆相材料からの最初の直線的溶出段階である、0から10%までの緩衝液Bによる30分間の勾配は、ペプチドの溶出を主要な混入物(m/z=945)の溶出と十分に分離するために必要であり、これがなければ親水性の高いペプチドのピークの喪失を招くと考えられた。段階7は以下のプロフィールからなった:100%の緩衝液Aを5分間、100%の緩衝液Cを20分間、0から10%までの緩衝液Bによる5分間の勾配、10%から35%までの緩衝液Bによる35分間の勾配、35%から50%までの緩衝液Bによる50分間の勾配、50%から80%までの緩衝液Bによる10分間の勾配、80%の緩衝液Bによる5分間の維持、および100%の緩衝液Aによる10分間の平衡化段階。段階8は、緩衝液Cの代わりに緩衝液Dを用いた点を除き、段階7と同一であった。
【0144】
イオントラップMS/MS質量分析
HPLCカラムを、nano-LCエレクトロスプレーイオン化源が装着されたFinnigan LCQ Deca XP Plusイオントラップ質量分析装置(Thermo Finnigan, San Jose, USA)と直接接続した。MS/MSモードでの質量分析を製造元のプロトコールに従って行った。ペプチドはSEQUESTアルゴリズム(米国特許第6,017,693号および第5,538,897号)によって同定した。
【0145】
MALDI-TOF質量分析
AnchorChipプレート上にスポット化したペプチドを、マトリックス(5mg/ml;α-シアノ-4-ヒドロキシ-ケイ皮酸(Merck, Darmstadt, Germany)、50%アセトニトリル、0.1%トリフルオロ酢酸)とともに結晶化させた。全ペプチドレパートリーの定性分析のために、試料を、Ultraflex(商標)MALDI-TOF質量分析装置(Bruker, Bremen, Germany)により、製造元のプロトコールに従って分析した。
【0146】
SEQUESTによる配列同定およびデータセットの鑑別分析
MS/MS断片化データを、ソフトウエアSEQUEST(Thermo Finnigan, San Jose, USA)を用いて分析した。公開データベースSwiss-ProtおよびTrEMBLに基づいて作成された社内のタンパク質データベースから、SEQUESTは、各スペクトルに関して、親イオンの分子質量に対応するすべてのペプチド配列を抽出し、実験スペクトルと理論的にインシリコで生成されたスペクトルとの間の類似性の度合いを計測した。スコアが上位にある候補配列のみをリスト化した。
【0147】
SEQUEST解析によって得られたペプチド配列、ならびに質量の精度、スコア化パラメーターおよびペプチドの源に関するそれらの付随情報を、適切にデザインされたリレーショナルデータベースに記録し、さらに処理を行った。十分なSEQUESTスコアを有する意味のある配列のみが確実に記録されるように、いくつかの制約を課した。制約のうち最も重要な2つは以下のものである:(i)相互相関係数(CC)がある特定の値を上回る配列のみを保存する、および(ii)残った配列から、あらかじめ定めたデルタ相互相関係数(ΔCC)を有するものを保存する。どちらの基準に関しても、選択される最小値は、SEQUESTの結果の解釈に関する経験的な知識に基づく。
【0148】
データセットは、スペクトルの特定のセットからのデータの総体として定義した。このデータベースおよびソフトウエアのデザインにより、多数のデータセットの比較に加えて、単一のデータセットのクエリーも可能となった。このようなデータベースおよびソフトウエアのデザインにより、SEQUESTには用意されていない比較サンプル分析が可能となる。例えば、単一のデータセットに対して想定しうるクエリーにより、記録されたスペクトル間のスコア分布、別の配列長変異体もしくは共通の部分配列、またはペプチド配列の源となるタンパク質に関する情報が得られる可能性がある。同一エピトープの短縮変異体の存在はクラスII MHC結合ペプチドの一般的な特徴であるため、データセット中に複数の長さ変異体(length variant)が存在することにより、スペクトルのセットにおけるエピトープの存在に関してさらに強い証拠が得られる。
【0149】
多数のデータセットの分析において最も重要な特徴は、ある所定の基準を満たす、配列の共通サブセットを抽出することが可能な点である。このような基準は、配列類似性(例えばデータセットの集成物の全配列の内部での)に基づくことが可能と考えられ、少なくとも1つの部分配列を任意の他の配列と共通して有するような配列が選択される。複数の異なるデータセットにわたるこのような比較は鑑別的アプローチ(RA試料と対照試料との比較)をなし、そのことにより、RAマーカーペプチドの候補の探索を最適化する。
【0150】
配列間のペアワイズ類似性スコアを、標準的なストリング比較アルゴリズムを実行するソフトウエアルーチンによって計算した。続いて、これらのスコアを用いて、密接に関連した配列(共通の部分配列を有する配列)を、十分に確立されたアルゴリズム(階層クラスター化、UPGMA)に基づく別に開発したソフトウエアルーチンにより、十分に分離されたクラスターとしてグループ化した。続いて、生成されたクラスター(例えば、ペプチド短縮変異体のもの)を用いて、密接に関連した配列を複数の異なるデータセットにわたって同定した。
【0151】
全体として、このデータ評価ソフトウエアにより、以下のことを迅速かつ再現性を伴って行う能力が得られた:
‐SEQUESTによって生成された配列出力から、信頼性のある経験的基準を満たす配列を選択すること。
‐データを、手持ちの探索プロセス用に適切にデザインされたデータベースに記録すること。
‐記録された各データセットの配列内容に関する情報を抽出すること。この情報は、所定のデータセットの内部における個々の配列の重要性を評価し、その結果として多数のデータセットにわたるそれを評価するのに有用である。
‐多数のデータセットの比較により、鑑別的アプローチを、すなわち、1つのサンプルの実際の配列内容と他のものとの比較検討を実現するツールを提供すること。
【0152】
HLA-DR分子の精製
HLA-DR分子を、以前の記載の通りに(Kropshofer H. et al., PNAS 92 (1995) 8313-8317)、抗DRモノクローナル抗体L243を用いるアフィニティークロマトグラフィーにより、1010個のEBV形質転換B細胞株またはT2トランスフェクト体から単離した。
【0153】
インビトロペプチド結合アッセイ
HA(307-319)すなわちPKYVKQNTLKLATは、HLA-DR4分子と良好に結合するインフルエンザウイルス血球凝集素由来のイムノドミナントエピトープであり、これをインビトロペプチド結合アッセイにおけるレポーターペプチドとして用いた(Rothbard, J.B. et al., Cell (1988) 52: 515-523)。
【0154】
精製して界面活性剤で可溶化したHLA-DR4分子(200nM)を、ビオチン化HA(307-319)ペプチド(200nM)および段階的な量の競合ペプチド(100nM-10μM)とともに、結合バッファー(50nMリン酸ナトリウム、50mMクエン酸ナトリウム、pH 4.8、0.1% Zwittergent 3-12)中にて、合計容積50μlとして37℃で24時間インキュベートした。競合ペプチドは本検討で同定されたRA抗原候補に由来したものであり、Medprobe社(Lund, Sweden)から合成ペプチドとして購入した。
【0155】
続いて、その3×10μlを、0.05% Tween-20および1% BSAを含むPBSで10倍に希釈し、抗DRモノクローナル抗体L243を一晩かけてコーティングしたマイクロタイタープレート(Nalge Nunc)中で2時間インキュベートした。その後に、0.1μg/mlのEU標識ストレプトアビジン(Wallay Oy, Turku, Finland)とともに製造元のプロトコールに従って45分間インキュベートすることにより、試料の現像処理を行った。0.05% Tween-20を含むPBSで十分に洗浄した後に、ビオチン化HA(307-319)ペプチドとHLA-DR4分子との結合を定量するために、ユーロピウムの蛍光を時間分解蛍光測定装置(VICTOR 1420, Wallac/Perkin Elmer Life Sciences)によって測定した(Arndt、S.O. et al., EMBO J. 19 (2000) 1241-1251)。
【0156】
実施例1
本実施例では、非びらん性RAの患者の血清および滑液に由来する新規HLA-DR会合性ペプチドマーカーを同定するために、図1に記した手法を用いた。
【0157】
6×106個の未熟樹状細胞を、非びらん性RAの患者の血清1ml(5件の試料)または滑液0.6ml(2件の試料)でパルス刺激した上で、10ng/ml TNFαの存在下で24時間培養した。対照として、6×106個の樹状細胞を、血清は加えずにPBS 1mlを添加することにより、TNFα(10ng/ml)の存在下で培養した。さらにもう1つの実験では、6×106個の樹状細胞を、2例の健常被験者からの血清1mlでパルス刺激した上で、TNFα(10ng/ml)の存在下で24時間培養した。
【0158】
樹状細胞を界面活性剤TX-100で溶解させ、mAb L243を用いてHLA-DR分子を単離した。HLA-DR会合性ペプチドを0.1%TFAで溶出させて、ハイスループット2D-LC-MS/MS技術により分析した。ペプチドの同定はSEQUESTアルゴリズムを用いることによって行った。SEQUEST解析によって得られたペプチド配列、ならびに質量の精度、スコア化パラメーターおよびペプチドの源に関するそれらの付随情報をデータベースに記録し、さらに処理を行った。
【0159】
パルス刺激を受けていないDC(対照1)および健常被験者の血清によるパルス刺激を受けたDC(対照2)から同定されたペプチド配列を、非びらん性RA患者の血清によるパルス刺激を受けたDCから同定されたペプチド配列と比較した。RA特異的配列の中から、5件の非びらん性RA試料の少なくとも3件に重複して存在したペプチドのみを以後の評価のために選択した。
【0160】
各血清試料において、おおよそ600±150種の個別のペプチド配列(相互相関係数CC>3.0およびΔCC>0.15)が同定された。滑液試料における個別のペプチド配列の数は幾分少なかった(400±30)。RA試料中に認められたペプチドの約80〜85%は対照試料でも同定され、分析の再現性の高さが強く示された。大半の場合には同一エピトープの複数の長さ変異体が同定されたが、これはクラスII MHC結合抗原の典型的な特徴であり、結果の妥当性を裏づけるものである(Jones, E.Y., Curr Opin Immunol 9 (1997) 75-79)。さらに、データの質に対するさらなる信頼性は、同定されたペプチドまたはタンパク質のいくつかが、MHCクラスII分子との関連ですでに記載されている点に依拠している:Hsp70、エノラーゼ、アネキシンII、カテプシンCまたはコラーゲンIIなどの遍在性タンパク質に、さらにはMHC分子(HLA-A、-B、-C、-E、-Gおよびβ2-ミクログロブリン)およびCLIP(Chicz, R.M. et al., J Exp Med 178 (1993) 27-47;Sinigaglia, F. & Hammer, J. Curr Opin Immunol 6 (1994) 52-56;Arnold-Schild, D. et al., J Immunol 162 (1999) 3757-3760;Vogt, A.B. & Kropshofer, H., Trends Biochem Sci 4 (1999) 150-154)に由来するエピトープが、高い頻度で検出された。
【0161】
RA特異的ペプチド配列を、TEPITOPEソフトウエア(Hammer, J. et al., Adv Immunol 66 (1997) 67-100)を用いることにより、RA感受性アレルDRB1*0401に対する結合に関してさらに検証した。このソフトウエアは、T細胞エピトープの質的な量的な予測のための手段を提供する。
【0162】
この検討の結果は、1件の例外を別として非びらん性RA試料のみに存在した1つのエピトープからなる(表1)。
【0163】
インターフェロン-γ-誘導型リソソーム性チオール還元酵素
血清および滑液由来の7件の非びらん性RA試料のうち3件で同定された、非常に興味深いエピトープの1つは、インターフェロン-γ-誘導型リソソーム性チオール還元酵素(GILT)に由来する:これはSEQ ID NO. 3のアミノ酸配列を有する16mer GILT(192-207)である(表1)。他の3件の試料中に別の長さ変異体:14mer GILT(192-205;SEQ ID NO. 1)および17mer GILT(192-208;SEQ ID NO. 2)が存在したことは、このエピトープの妥当性の裏づけとなる(表1)。
【0164】
最も短い長さ変異体であるGILT(192-205)からの判断では、このエピトープはRA感受性アレルDRB1*0401に対する結合の点で適した結合モチーフを含む:196MはP1アンカーとして、199MはP4アンカーとして、さらに201AはP6アンカーとして働く。TEPITOPEスコア法によれば、このエピトープの結合スコア(閾値)は1%であり、これは強いDRB1*0401結合体であることが示されているインフルエンザ血球凝集素由来のエピトープ(307-319)の結合スコアと同程度である(表1)(Rothbard, J.B. et al., Cell 52 (1988) 515-523)。
【0165】
GILTは、樹状細胞、マクロファージおよびB細胞などの抗原提示細胞において恒常的に発現されており、ジスルフィド結合を酵素的に減少させることにより、MHCクラスII含有区画(MIIC)におけるエンドサイトーシス抗原のアンフォールディングを促進する(Phan, U.T. et al., J Biol Chem 275 (2000) 25907-25914)。GILTとHLA-DR分子との直接結合がB細胞に関して報告されている(Arunachalam, B. et al., J Immunol 160 (1998) 5797-5806)。GILTの長めの第2のエピトープ:アミノ酸配列SPLQALDFFGNGPPVNYKTGNLを有する22mer GILT(38-59)は、HLA-DR3分子と結合する(Chicz, R.M. et al., J Exp Med 178 (1993) 27-47)。
【0166】
GILT(192-207)のほかに、この同じタンパク質からもう1つのエピトープ:アミノ酸配列QPPHEYVPWVTVNGKPLEを有するGILT(210-227)がいくつかのRA試料で同定されたが、これは対照試料でも同定された。このエピトープは他に3種類の長さ変異体を伴っていた:16mer GILT(210-225)、17mer GILT(210-226)および19mer GILT(210-228)。
【0167】
その名称によって示されているように、GILTの発現は、マクロファージ、内皮細胞および線維芽細胞を含む、さまざまな種類の細胞において、炎症誘発性サイトカインであるインターフェロンγ(IFN-γ)により誘導されうる(Luster, A.D. et al., J Biol Chem 263 (1988) 12036-12043)。IFN-γはRA患者の炎症関節に存在することが知られているため、GILTは滑液中および血清中で過剰発現されるようになり、このために外因性抗原としてDCによって取り込まれる可能性がある。GILT(192-207)は外因性GILTに由来すると思われる。対照試料にも存在する他のGILTエピトープは、DCによって発現される内因性GILTに由来すると思われる。または、GILTのプロセシングおよびGILT由来のエピトープのDCによる提示が、RA随伴材料との接触によって決定的に変化する場合には、GILT(192-207)およびGILT(210-227)がともに内因性GILTに由来する可能性もある。
【0168】
すでに詳細に述べた、インターフェロン-γ-誘導型リソソーム性チオール還元酵素の同定されたエピトープ、GILT (192-205)を、合成GILT(192-205)ペプチドおよび精製HLA-DR4分子を用いるインビトロ結合アッセイにおいて、さらに分析した(図3):TEPITOPEスコア法の場合と一致して、このペプチドは、ウイルスHA(307-319)ペプチドに匹敵する高い親和性でHLA-DR4と結合することが示された。
【0169】
インテグリンβ-2
広範囲にわたる分析により、血清および滑液由来の7件の非びらん性RA試料のうち2件で同定された、インテグリンのβサブユニット(ITB2)に由来するエピトープの存在が明らかになった:これはアミノ酸配列NIQPIFAVTSRMVKTYEを有する17mer ITB2(315-331;SEQ ID NO. 58)である(表1)。1つの長さ変異体:19mer ITB2(313-331;SEQ ID NO. 59)が見いだされ、このことから同定されたエピトープの妥当性が裏づけられた(表1)。
【0170】
このペプチド配列は、中程度の強さのHLA-DRB1 *0401結合モチーフを含み、316Iおよび319IがそれぞれP1およびP4アンカーとして働く(TEPITOPE結合スコア:2%)。
【0171】
インテグリンは、胚発生、創傷治癒、免疫応答および細胞接着に重要な役割を果たす細胞表面受容体のファミリーである。ITB2は細胞間接着分子および血管接着分子(ICAMおよびYCAM)に関するヘテロ二量体受容体であり、白血球表面のみに発現される。ICAMおよびVCAMは免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーであり、体液性および細胞性の免疫応答において中心的な機能を果たす。RAなどの炎症性疾患においてアップレギュレートされる、インターフェロン-γ、IL-1およびTNFαなどの多くのサイトカインは、内皮細胞の表面でのICAMの発現を誘導する。RA患者の滑膜組織におけるICAM-1およびVCAM-1の発現は、変形性関節症の患者と比較して高度である(Furuzawa-Carballeda, J. et al., Scand J Immunol 50 (1999) 215-222)。
【0172】
ITB2および他のインテグリンとICAMとの結合により、白血球がその標的組織、例えば炎症部位に侵入することが可能になる。非接着的または循環的な様式で機能するために、白血球はITB2およびリガンド結合能の低い他のインテグリンを恒常的に発現する。ITB2/ICAM-1相互作用は、炎症性疾患、自己免疫疾患および癌に対処するための重要な戦略的標的となっており(Yusuf-Makagiansar, H. et al., Med Res Rev 22 (2002) 146-167)、このため、これらの知見は、同定されたITB2エピトープの、RAのためのマーカー候補としての妥当性を強く裏づける。
【0173】
ホスファチジルイノシトール-4,5-二リン酸3-キナーゼ
中程度の強さのHLA-DRB1*0401結合モチーフを有するもう1つのエピトープが、2件の非びらん性血清試料で同定された:ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)に由来する、アミノ酸配列NKVFGEDSVGVIFKNGDを有する17mer PI3K(792-808;SEQ ID NO. 60)である(表1)。このペプチドでは、794Vが疎水性P1アンカーとして、797Eが負に荷電したP4アンカーとして、さらに799Sが典型的なDR4-P6アンカーとして働くと考えられる(TEPITOPE結合スコア:3%)。
【0174】
PI3Kは多くの種類の細胞で遍在性に発現され、脂質、主としてホスファチジルイノシトール-4,5-二リン酸をリン酸化する。このタンパク質は、増殖因子、サイトカインおよびインテグリンを含む生存因子受容体にかかわる重要なシグナル伝達物質として登場した(Toker, A. & Cantley, L, Nature 387 (1997) 673-676に概説されている)。加えて、PI3Kは、病原体関連分子パターン(PAMP)と総称される種々の微生物産物を認識するToll-like受容体(TLR)のシグナル伝達経路においても重要な役割を果たす(Fukao, T. & Koyasu, S., Trends Immunol 24 (2003) 358-363)。リポ多糖(LPS)(エンドトキシン)などのPAMPによってTLRが刺激されると、TLRを介したTh1応答における重要なサイトカインであるIL-12を含む、種々のサイトカインの産生が誘発される。PI3KはTLRを介したIL-12産生の内因性サプレッサーであり、過度のTh1極性化を抑えることが示されている。このため、PI3Kは、宿主に対して有害な先天免疫の長期的活性化を防ぐための、先天的免疫反応の負の調節因子であると推定されている。RAにおける自己免疫反応がTh1サイトカインに依拠するという知見から、最終的に、PI3KはRAと結び付けられる。RAの発症と常に関連づけられる特定の病原体はないものの、RAは初期反応外来抗原によって初期反応が誘導され、その後に自己維持的な自己免疫反応が起こるという二段階で発症すると考えられている(Klinman, D., Arthritis Rheum 48 (2003) 590-593)。
【0175】
ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子
非びらん性RA試料のみに認められたもう1つのエピトープは、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(uPA)に由来するものであった:これはアミノ酸配列YPEQLKMTVVKLISHRを有する16mer uPA(328-343;SEQ ID NO. 61)である(表1)。HLA-DRB1*0401結合に関して、この配列には中程度の強さの結合モチーフが認められる:332L、335Tおよび337Vが、それぞれP1、P4およびP6アンカーと推定される(TEPITOPE結合スコア:2%)。
【0176】
プラスミノーゲン活性化因子(PA)は、プラスミノーゲンからプラスミンを生成する特異性の高いセリンプロテアーゼである。哺乳動物では、ウロキナーゼ型(uPA)および組織型(tPA)という2種類のPAが同定されている。PAの活性は天然の阻害因子(PAI)によって制御される。プラスミンはTGFβなどのサイトカインを誘導することによって炎症反応に関与し、軟骨およびフィブリンの分解にも関与する。リウマチ関節内部で持続的な凝固がみられ、関節炎性の関節ではuPA合成および活性化が増強するという知見を総合することにより、PA/プラスミン系は関節炎の臨床的重症度と関連するという仮説が導かれている(Busso, N. & Hamilton, J.A., Arthritis Rheum 46 (2002) 2268-2279に概説されている)。インビトロでの研究によれば、RA患者の炎症性関節にはいくつかの種類の細胞が存在し、特にPAおよびPAIを発現し、それ故にそのインビボレベルに寄与しうると考えられる単球および滑膜線維芽細胞が存在する。PA(すなわち、uPA)の活性はIL-1およびTNFαなどのサイトカインによって賦活され、これらはRA患者の血清ならびに滑液中で高度にアップレギュレートされていることが知られている。これらの一連の証拠からみて、uPA(328-343)はRAのためのペプチドマーカーと推定される。
【0177】
免疫グロブリン重鎖V-III領域(V26)
同定されたエピトープのうち、HLA-DRB1*0401結合に関して非常に強い結合モチーフが認められるものの1つは、免疫グロブリン重鎖のV26遺伝子セグメントに由来する:これはアミノ酸配列KNTLYLQMNSLRAEDTを有する16mer V26(95-110;SEQ ID NO. 62)である(表1)。その高いTEPITOPE結合スコア(1%)は、非常に強力なP1アンカーとして機能する99Y、中程度のP4アンカーとしての102M、および典型的なHLA-DR4 P6アンカーとしての104Sによって実現される。
【0178】
免疫グロブリン(Ig)は抗原との結合を担っており、例えばアイソタイプ特異的Fc受容体と結合することにより、さらなる免疫反応も刺激する。興味深いことに、ヒトV26遺伝子セグメントは、結合性の高い滑膜リウマチ因子をコードするように思われ、このため、RAの進行に影響を及ぼすと思われる(Wong, A. et al., Autoimmunity 20 (1995) 191-199)。同定されたエピトープV26(95-110)が、2例の血清陽性RA患者の血清中に認められたという事実(表1)は、以上の観察所見と互いに関連性がある。
【0179】
DJ-1タンパク質
本発明者らの引き続いての検討により、2件の非びらん性RA試料において、DJ-1と命名されているタンパク質に由来するエピトープの存在が明らかになった:これはアミノ酸配列NGGHYTYSENRVEKDGを有する16mer DJ-1(135-150;SEQ ID NO. 63)である(表1)。TEPITOPEスコア法によれば、このペプチドはやや弱いHLA-DRB1*0401結合モチーフを含み、139YがP1アンカーとして、142SがP4アンカーとして、さらに144NがおそらくP6アンカーとして働く(結合スコア:8%)。
【0180】
DJ-1はThiJ/PfpIタンパク質ファミリーに属し、そのメンバーは進化的にみて古細菌から真核生物までに分布している。ThiJ/PfpIタンパク質は、I型グルタミンアミドトランスフェラーゼドメインと構造的な関連性のある、保存された共通のThiJドメインを有する(Lee, S.J. et al., J Biol Chem 25 (2003)、刊行に先立ってEpubでみられる)。
【0181】
DJ-1は精巣で選好的に発現され、他の組織でもある程度発現されるが、これは当初、rasとの協同作用によってマウスNIH3T3細胞を形質転換させる癌遺伝子産物の新規候補として同定された。そのうちに、パーキンソン病および精子受精との強い相関を含む、DJ-1のそのほかの生理的役割が明らかになった。DJ-1は数多くの機能を有するように思われる―今回、本発明者らはDJ-1とRAとの関連性を初めて示した。
【0182】
実施例2
本実施例では実施例1に詳述したものと同じ技術を用いた。このケースでは、びらん性RAと診断された患者の血清(6件の試料)および滑液(2件の試料)を、びらん性RAに対して特異的な候補マーカーを同定するために利用した。
【0183】
びらん性RAの試料中に認められたペプチド配列を、パルス刺激を受けていないDC(対照1)および健常被験者の血清によるパルス刺激を受けたDC(対照2)において同定されたペプチド配列と比較した。RA特異的配列の中から、6件のびらん性RA試料の少なくとも3件に重複して存在したペプチドのみを以後の評価のために選択した。
【0184】
この検討では、1件の例外を別としてびらん性RA試料のみに存在した1つのエピトープを見いだした。
【0185】
アポリポタンパク質B-100
びらん性RAの血清中に主として認められたエピトープの1つ(8件のびらん性RA試料のうち4件)は、アポリポタンパク質B-100に由来する:これはSEQ ID NO. 4のアミノ酸配列を有する16mer ApoB(2877-2892)である(表2)。加えて、同じエピトープの長さ変異体:17mer ApoB(2877-2893;SEQ ID NO. 5)が同定された(表2)。以下のDRB1*0401結合モチーフを予測することができた:P1アンカーとしての2881L、P4アンカーとしての2884D、およびP6アンカーとしての2886N(結合スコア3%)。
【0186】
EBV-B細胞に関する以前の検討において、本明細書に記載したエピトープと部分的に重複するエピトープApoB(2885-2900)が、HLA-DR4との関連下で見いだされている(Chicz, R.M. et al., J Exp Med 178 (1993) 27-47)。
【0187】
アポリポタンパク質B-100は、超低比重リポタンパク質(VLDL)および低比重リポタンパク質(LDL)の構成要素であり、細胞との結合およびApoB/E受容体によるLDL粒子の内部取り込みのための認識シグナルとして働く(Yang, C.Y. et al, Nature 323 (1986) 738-742)。興味深いことに、新たに診断されたRA患者では、LDLコレステロールとHDLコレステロールとの比が増大することが観察されている(Park, Y.B. et al., J Rheumatol 26 (1999) 1701-1704)。活動性RAにおけるこの好ましくない脂質プロフィールは、RA患者を、脂質低下薬を用いずにDMARDで治療することによって改善しうると考えられる(Park, Y.B. et al., Am J Med 113 (2002) 188-193)。RAなどの慢性的な炎症性疾患の患者における心血管死亡率の高さは十分に実証されているため(Symmons, D.P. et al., J Rheumatol 25 (1998) 1072-1077)、RAにおける局所炎症が血中脂質レベルの変化を招き、それによってアテローム性動脈硬化のリスクを増大させる可能性が示唆されている。リポタンパク質代謝の構成要素がRAの発生の原因となるのか、それとも単にRA発症時の持続的な免疫反応によって影響されるのに過ぎないのかという疑問に、現時点では答えることはできない。しかし、RA患者で好ましくない脂質プロフィールが観察されることは、提示されたApoBエピトープの、血清由来のRAマーカー候補としての妥当性の裏づけとなる。
【0188】
長さ変異体ApoB(2877-2892)は、2例の健常対照の試料中に同定されたが、ApoB(2877-2893)は同定されなかった(表2)。アポリポタンパク質Bは全血漿タンパク質のうち1%を占めるため、健常対照試料におけるApoBエピトープの存在は驚くには当たらない。これらの結果は、長さ変異体ApoB(2877-2893;SEQ ID NO. 5)のみがびらん性RAに対して特異的であることを示唆する。
【0189】
26Sプロテアソーム非ATPアーゼ調節性サブユニット8
血清および滑液の両方から、ほとんどのびらん性RA試料で非常に高い頻度で同定された1つのエピトープは、26Sプロテアソームの調節性サブユニット8(PSMD8)に由来する:これはアミノ酸配列GPNNYYSFASQQQKPを有する15mer PSMD8(218-232;SEQ ID NO. 64)である(表2)。さらに3つの長さ変異体:16mer PSMD8(218-233;SEQ ID NO. 65)、17mer PSMD8(218-234;SEQ ID NO. 66)および18mer PSMD8(218-234;SEQ ID NO. 67)が同定された(表2)。これらの長さ変異体の存在は、同定されたエピトープのクラスII MHC由来の抗原ペプチドとしての妥当性を裏づける。このペプチドには、DRB1*0401結合に関して中程度の強さの結合モチーフが認められる(TEPITOPE結合スコア:3%)。HLA-DR4に対する結合は、合成PSMD8(218-233)ペプチドおよび精製HLA-DR4分子を用いるインビトロ結合アッセイで確かめることができた(図3):レポーターペプチドHA(308-319)に対するそのIC50値によれば、PSMD8(218-233;SEQ ID NO. 65)はHLA-DR4と中等度の親和性で結合し、このことからTEPITOPE予測が裏づけられた。15mer PSMD8(218-232;SEQ ID NO. 64)は、パルス刺激を受けていない1件の対照試料でも同定された。
【0190】
プロテアソームは細胞質タンパク質プールの約1%を占め、ユビキチン結合タンパク質のATP依存的な分解に関与する。さらに、プロテアソームは、いくつかの転写因子(すなわち、核因子-κB)のプロセシング、細胞周期制御およびMHCクラスI拘束性抗原の生成の原因ともなる。プロテアソームの調節性サブユニットはタンパク質分解の選択性のために重要である。特に、非ATPアーゼ調節性サブユニット8は、酵母において必須な細胞周期調節因子である細胞分裂制御タンパク質28(Cdc28)のために必要であることが知られている。
【0191】
重要なこととして、RAを含むさまざまな全身性自己免疫疾患の患者から得られた血清試料において、流血中プロテアソーム(cプロテアソーム)レベルの著しい上昇が検出されている(Egerer, K. et al., J Reumatol 29 (2002) 2045-2052)。重症RAの患者において、cプロテアソームのレベル、疾患活動性およびC反応性タンパク質の濃度の間には密接な相関があるように思われる。cプロテアソームはその後に免疫応答を誘発することが論じられており、これは抗原により作動する機構を示すと考えられる。放出されるプロテアソーム抗原の濃度は自己免疫疾患における細胞障害の程度を反映するように思われる。Egererらは自らの所見から、cプロテアソームが自己免疫プロセスにおける疾患重症度に関する新規マーカーである可能性があると結論した。エピトープPSMD8(218-232;SEQ ID NO. 64)は主としてびらん性RA試料で同定されたことから、本発明者らの分析はこの結論を裏づけるものである。
【0192】
インターロイキン-1受容体
びらん性RAのためのもう1つの候補マーカーはインターロイキン-1受容体(IL-1R)であり、これはアミノ酸配列EKLWFVPAKVEDSGHYを有するそのペプチドIL-1R(79-94;SEQ ID NO. 68)により、2件のびらん性血清試料中に同定された(表2)。IL-1R(79-94;SEQ ID NO. 68)は、83FをP1アンカーとして、86AをP4アンカーとして、さらに88VをP6アンカーとして有し、RA感受性アレルDRB1*0401との結合に関しては強い結合モチーフを含む(TEPITOPE結合スコア:1%)。インビトロ結合アッセイで、その合成ペプチドは、HA(309-319)ペプチドと同程度に高い親和性でHLA-DR4分子と結合することが示された(図3)。
【0193】
インターロイキン-1(IL-1)は炎症誘発性サイトカインであり、さまざまな感染性免疫応答、ならびにRAおよび他の炎症性疾患における関与が指摘されている(Dinarello, C., Blood 87 (1996) 2095-2147)。これはシグナル伝達物質として機能するそれぞれの受容体と結合して、細胞増殖を誘発する、またはタンパク質合成を賦活化する。RA患者ではIL-1産生の増大が観察されており、これはその臨床症状発現において極めて重要な役割を果たす(Dayer, J.M., Rheumatology 42 (2003) ii3-ii19)。IL-1は、マクロファージならびにT-およびB-リンパ球の活性化を媒介する、RAにおける主要なメディエーターとみられている。加えて、IL-1は、細胞接着分子、他のサイトカインおよびケモカインの発現を誘導することにより、炎症にも寄与する。さらに、IL-1はマトリックスメタロプロテイナーゼの産生を刺激することにより、RAにおける骨および軟骨の破壊にも中心的な役割を果たす。以上より、IL-1/IL-1R複合体は抗炎症治療薬の第一級の標的である。組換えヒトIL-1受容体アンタゴニスト(IL-1RA)の使用が、RA患者の治療を目的として承認されている。
【0194】
フィブロモジュリン
3件のびらん性RA試料から、分泌性マトリックスタンパク質であるフィブロモジュリン(FM)に由来するエピトープが得られた:これはアミノ酸配列LRELHLDHNQISRを有する13mer FM(178-190;SEQ ID NO. 70)である(表2)。さらに、14mer FM(177-190;SEQ. ID)NO:69)が同定され、これはパルス刺激を受けていない対照の実験でも1件で認められた。このエピトープには強いDRB1*0401結合モチーフが認められ、181LがP1アンカーとして、184DがP4アンカーとして、さらに186NがP6アンカーとして働く(TEPITOPE結合スコア:1%)。
【0195】
フィブロモジュリンは、TGFβおよびコラーゲンならびに他の細胞外マトリックス分子と結合する低分子ロイシンリッチプロテオグリカン(SLRP)のファミリーに属する。インビトロで、SLRPは、発生、組織修復および転移において必須なプロセスであるコラーゲン細線維形成を調節することが示されている。SLRPのインビボでの機能をさらに解明するためにSLRP欠損マウスが作製されており、これが多様な疾患(例えば、骨粗鬆症および変形性関節症)を発症し、それが主として異常なコラーゲン原線維形成に起因することが示されている(Ameye, L. & Young, M.F., Glycobiology 12 (2002) 107R-116R)。RA患者の炎症性関節ではコラーゲンの形成および分解が著しく増強しているため、フィブロモジュリンレベルの上昇が予想される。同定されたFMエピトープは主として滑膜由来のRA試料(4件の滑液試料のうち3件)で認められたという事実は、この考察に合致する。
【0196】
GM-CSF/IL-3/IL-5受容体
びらん性RA患者からの8件の試料のうち5件では、多サイトカイン受容体CYRBのβ鎖由来のエピトープを同定することができた:これはアミノ酸配列ETMKMRYEHIDHTFEを有する15mer CYRB(359-373;SEQ ID NO. 71)とその長さ変異体である17mer CYRB(359-375;SEQ ID NO. 72)である(表2)。インビトロ結合アッセイにおいて、合成CYRB(359-375)ペプチドはHLA-DR4分子と中等度の親和性で結合することが示された(図3)。これは、DRB1*0401結合に関して中程度のペプチド結合モチーフを予測したTEPITOPEの結果に一致する(TEPITOPE結合スコア:3%)。このエピトープは、健常被験者の血清では1例のみで同定されたことから、RA試料に明らかに多く存在した。
【0197】
GM-CSF/IL-3/IL-5受容体はI型膜タンパク質であり、造血器系の全体を通じて差異を伴って発現される(Geijsen, N. et al., Cytokine Growth Factor Rev 12 (2001) 19-25に概説されている)。そのリガンドであるIL-3およびGM-CSFはCD4+T細胞によって分泌され、これらは骨髄中の前駆細胞から生じる樹状細胞の形成のための重要な刺激となる。免疫応答の惹起および発生における樹状細胞の決定的な役割から、これらは、自己抗原を流入領域リンパ節に輸送し、そこでDCとの遭遇およびナイーブT細胞のプライミングを行わせることにより、RAなどの自己免疫性炎症疾患の発症において重要な役割を果たすことが示唆される。GM-CSFの活性はRAにおける炎症誘発作用と関連づけられており、このことは同定された受容体エピトープCYRB(359-373;SEQ ID NO. 71)がRA診断用のペプチドマーカーの候補であることの裏づけとなる。
【0198】
ソーティングネキシン3
びらん性RAの指標となるように思われるもう1つのエピトープは、ソーティングネキシン3(SNX3)と命名されているタンパク質に由来する:これはアミノ酸配列HMFLQDEIIDKSYTPSを有する16mer SNX3(142-157;SEQ ID NO. 73)である(表2)。このエピトープでは、144F、147Dおよび149Iがそれぞれ、RA感受性アレルDRB1*0401のペプチド結合溝において、P1、P4およびP6アンカーとして働く(TEPITOPE結合スコア:2%)。
【0199】
ソーティングネキシンは、共通のリン脂質結合モチーフを有する多様な一群の細胞輸送性タンパク質である(Worby, C.A. & Dixon, J.E., Nat Rev Mol Cell Biol 3 (2002) 919-31に概説されている)。これらのタンパク質が特定のリン脂質と結合する能力、ならびにタンパク質-タンパク質複合体を形成する性質は、これらのタンパク質の膜輸送およびタンパク質ソーティングにおける関与を示している。特に、ソーティングネキシン3はサイトゾルおよびエンドソームに存在し、初期エンドソームからリサイクリングエンドソームへの膜輸送に関与するように思われる。ソーティングネキシン3が、例えば抗原提示経路に影響を及ぼすことにより、RAにおける役割を果たすか否かは、現時点では不明である。本検討で同定されたエピトープSNX3(142-157;SEQ ID NO. 73)は、ソーティングネキシンと自己免疫との間につながりがある可能性を示唆している。
【0200】
実施例3
この実施例では、実施例1および2において非びらん性RAおよびびらん性RAの試料から同定されたすべてのペプチド配列を、両方のRAタイプと関係する共通マーカーを探索するために用いた。RA特異的配列を対照試料(パルス刺激を加えていないDC、および2件の健常被験者の血清でパルス刺激したDC)のペプチド配列と再び比較し、合計15件のRA試料のうち少なくとも3件(びらん性RAおよび非びらん性RA)に重複して存在したペプチドのみを、以後の評価のために選択した。
【0201】
インター-α-トリプシンインヒビター
11件の血清試料のうち10件(びらん性RAおよび非びらん性RA)から、インター-α-トリプシンインヒビターの重鎖H4に由来するエピトープが得られた:これはSEQ ID NO. 8のアミノ酸配列を有するITIH4(271-287)である(表3)。ITIH4エピトープのこの主要な長さ変異体のほかに、同じITIH4エピトープの6つの長さ変異体:19mer ITIH4(271-289;SEQ ID NO. 6)、18mer ITIH4(271-288;SEQ ID NO. 7)、16mer ITIH4(274-289;SEQ ID NO. 12)、15mer ITIH4(273-287;SEQ ID NO. 10)、15mer(274-288;SEQ ID NO. 11)および14mer ITIH4(274-287;SEQ ID)NO:9)を同定することができた(表3)。
【0202】
最も短い長さ変異体であるITIH4(274-287)からの判断では、このエピトープはRA感受性アレルDRB1*0401との結合に関して非常に強い結合モチーフを含む:277FはP1アンカーとして、280DはP4アンカーとして、さらに282SはP6アンカーとして働く(結合スコア:1%)。
【0203】
ITIH4は、ヒアルロン酸(HA)と結合する血清プロテアーゼインヒビターの一群であるインター-α-インヒビター(IαI)ファミリーに属しており、急性期反応に関与するように思われる(Sailer, J.P. et al., Biochemical Journal 315 (1996) 1-9)。
【0204】
HAは体内のすべての組織、特に関節液などの疎性結合組織中に認められる多糖である(Evered, D. & Whelan, J. eds.,「ヒアルロナンの生物学(The Biology of Hyaluronan)」、John Wiley & Sons (1989))。HAは軟骨および他の組織において重要な構造的機能を有しており、そこでプロテオグリカンと凝集物を形成することによって細胞外マトリックスを安定化する。これはまた、CD44およびICAM-1などの細胞表面タンパク質との結合を介して細胞活性を調節することにより、重要な生物機能を果たしている(Knudson, C.B. & Knudson, W., FASEB J 7 (1993) 1233-1241;Hall, C.L. et al., J Cell Biol 126 (1994) 575-588)。RAには関節液中および血清中の総HAの大幅な増加が伴っており、このことは流血中HAがリウマチ関節から生じることを示唆する(Engstrom-Laurent, A. et al., Scand J Clin Lab Invest 45 (1985) 497-504)。
【0205】
RA患者の滑液中には、HAといくつかのIαIファミリーのメンバーとの複合体が大量に観察されている(Jessen, T.E. et al., Biological Chemistry Hoppe-Seyler 375 (1994) 521-526)。炎症反応におけるIαI-HA複合体の役割は、白血球の活性化および侵入を媒介するCD44-HA相互作用を調節することにある可能性がある(Isacke, C.M. & Yarwood, H., Int J Biochem Cell Biol 34 (2002) 718-721)。さらに、RA患者の滑液は、抗炎症性糖タンパク質であり、HA結合タンパク質のヒアルアドヘリンファミリーのメンバーでもあるTSG-6を高レベルで含んでいる(Wisniewski, H.G. et al., J Immunol 151 (1993) 6593-6601)。TSG-6とIαIファミリーのメンバーとの複合体は、炎症関連酵素の活性化における中心的な分子であるプラスミンの活性を阻害する(Wisniewski, H.G. et al., J Immunol 156 (1996) 1609-1615)。炎症性関節の滑液におけるHA、TSG-6およびIαIファミリーのメンバーの含有量の多さからみて、いくつかの急性期血漿タンパク質、すなわちTSG-6およびIαIファミリーのメンバーによるプラスミン活性の調節は、RAにおいて重であることが証明される可能性がある。
【0206】
この知見を、同じエピトープの多数の長さ変異体および強いHLA-DR4結合モチーフが同定されたことと総合することにより、提示されたITIH4エピトープが血清由来のRAマーカー候補であることの妥当性が強く裏づけられる。
【0207】
補体C4
11件の被験RA血清のうち8件(びらん性および非びらん性)において、補体C4に由来するもう1つのドミナントエピトープが同定された:これはSEQ ID NO. 13のアミノ酸配列を有する15mer C4(1697-1711)である(表3)。このほかに同じエピトープの5つの長さ変異体:12mer C4(1697-1708;SEQ ID NO. 18)、13mer C4(1698-1710;SEQ ID NO. 17)、14mer C4(1697-1710;SEQ ID NO. 15)、16mer C4(1697-1712;SEQ ID NO. 14)および18mer C4(1697-1714;SEQ ID NO. 16)が見いだされた(表3)。さらに、提示されたエピトープには、強いDRB1*0401結合モチーフ:P1アンカーとしての1700Y、P2アンカーとしての1704D、およびP6アンカーとしての1706Nが認められた(結合スコア:1%)。
【0208】
C4は血漿タンパク質の質量の約0.5%をなし、補体系の中心的経路の誘発に決定的な役割を果たす。このタンパク質は一本鎖前駆体として合成され、分泌の前に酵素的に切断されて、同一でないα鎖、β鎖およびγ鎖による三量体を形成する。同定されたエピトープC4(1697-1711)は、C4γ鎖の最もC末端側に位置する。C4α鎖はさらに活性化C1によるタンパク質加水分解を受けて、局所炎症プロセスのメディエーターであるC4aアナフィラトキシンを形成する(Moon, K.E. et al., J Biol Chem 256 (1981) 8685-8692)。
【0209】
一般に、補体カスケードは炎症反応の誘導および進行に関与し、これは細菌、ウイルスおよび他の抗原を含む、さまざまな病原体に対する主な防御系である(Morgan, B.P., Methods Mol Biol 150 (2000) 1-13)。しかし、その不適切な活性化は、組織障害および疾患の発現につながる恐れがある(Speth, C. et al., Wien Klin Wochenschr 111 (1999) 378-391)。
【0210】
RA患者の血漿、滑液および滑膜組織で、C4およびC4aを含む補体代謝産物レベルの上昇が認められることに基づき、RAの発生における補体系の活性化の関与は繰り返し指摘されている(Neumann, E. et al., Arthritis Rheum 46 (2002) 934-945)。さらに、マウスにおけるコラーゲン誘発性関節炎(CIA)は、補体活性化産物の存在を特徴とする(Linton, S.M. & Morgan, B.P., Mol Immunol 36 (1999) 905-914)。CIAは、抗C5モノクローナル抗体の投与により(Wang, Y. et al., PNAS 92 (1995) 8955-8959)、または補体系阻害因子である可溶性CR1の遺伝子療法による送達(Dreja, H. et al., Arthritis Rheum 43 (2000) 1698-1709)によって阻止される。関節における補体因子の活性化はおそらく種々の免疫複合体の存在によって誘導されると考えられ、感染病原体およびサイトカインによる先天免疫系の賦活がRAの惹起に寄与するのではないかという仮説が立てられている(Friese, M.A. et al., Clin Exp Immunol 121 (2000) 406-414)。
【0211】
提示された6種のC4エピトープのうち2つ、すなわち15merおよび18merは健常対照試料でも同定され(表3)、このことは、このC4エピトープのいくつかの長さ変異体、すなわちSEQ ID NO. 14、15、17および18の抗原ペプチドのみがRA特異的であることを示している。
【0212】
補体C3
びらん性RAおよび非びらん性RAの試料に認められたもう1つのエピトープは、補体C3(α鎖)に由来する:これはSEQ ID NO. 21のアミノ酸配列を有する14mer C3(1431-1444)である(表3)。このほかに同じエピトープの6つの長さ変異体:13mer C3(1431-1443;SEQ ID NO. 23)、14mer C3(1429-1442;SEQ ID NO. 74)、15mer C3(1431-1445;SEQ ID NO. 22)、15mer C3(1429-1443;SEQ ID NO. 20)、17mer C3(1427-1443;SEQ ID NO. 75)および19mer C3(1426-1444;SEQ ID NO. 19)が血清中に同定された(表3)。最も短い長さ変異体であるC3(1431-1443)からの判断では、DRB1*0401結合モチーフ:P1アンカーとしての1434Y、P4アンカーとしての1437D、およびP6アンカーとしての1439Aを想定することが可能である。
【0213】
びらん性RAおよび非びらん性RAの試料で、補体C3(β鎖)に由来するさらにもう1つのエピトープが同定された:これはSEQ ID NO. 76のアミノ酸配列を有する19mer C3(157-175)である(表3)。さらに同じエピトープのもう1つの長さ変異体:20mer C3(157-176;SEQ ID NO. 77)が血清中に同定された(表3)。
【0214】
補体C3は血漿タンパク質の質量の約1〜2%をなし、補体系の活性化において中心的な役割を果たしており、急性期タンパク質のファミリーに属する。C3コンバターゼによるC3aアナフィラトキシンおよびC3bへのそのプロセシングは、古典的補体経路および副経路のいずれにおいても中心的な段階である(Barrington, R. et al., Immunol Rev 180 (2001) 5-15)。活性化の後に、C3bは反応性チオエステルを介して細胞表面の糖質または免疫凝集物と共有結合することができる(Isaac, L. & Isenman, D.E., J Biol Chem 267 (1992) 10062-10069)。同定されたエピトープC3(1431-1444)はC3bのC末端に位置する。
【0215】
補体エピトープC4(1697-1711)に関してすでに考察したように、RAの発生における補体カスケード成分の重要な役割を示す証拠は増えつつある。補体C3およびC4に由来する2つの主要なエピトープがRA患者の血清中に同定されたという本検討の結果は、活性化された補体系とRAの発生との間に密接なつながりがあることを強く示している。これが併せて認められたことは、提示されたC3/C4エピトープが血清由来のRAマーカー候補であることの有力な論拠になる。
【0216】
SH3ドメイン結合性グルタミン酸リッチライクタンパク質3
RA患者の血清中に非常に高い頻度で認められたもう1つのエピトープ(11件のびらん性RAおよび非びらん性RA試料のうち6件)は、SH3ドメイン結合グルタミン酸リッチライクタンパク質3(SH3BGRL3)に由来する:これはSEQ ID NO. 25のアミノ酸配列を有するSH3BGRL3(15-26)である(表3)。同じエピトープの3つの長さ変異体:14mer SH3BGRL3(13-26;SEQ ID NO. 26)、14mer SH3BGRL3(15-28;SEQ ID NO. 27)および16mer SH3BGRL3(13-28;SEQ ID NO. 24)が同定された(表3)。DRB1*0401結合モチーフは以下の通りである:P1アンカーとしての17I、P4アンカーとしての20Q、およびP6アンカーとしての22S(結合スコア4%)。
【0217】
SH3BGRL3は、SH3BGRファミリーに属する低分子量の10kDタンパク質である。このタンパク質の正確な機能は不明であるが、グルタレドキシン生物活性の調節因子としての役割が想定されている(Mazzocco, M. et al., Biochem Biophys Res Commun 285 (2001) 540-545)。これまでに、SH3BGRL3がRAとの関連で述べられたことはなかった。
【0218】
興味深いことに、本分析により、同じタンパク質の第2のエピトープが解明され、これはすべてのRA試料および対照試料に多く存在した:これはアミノ酸配列DGKRIQYQLVDISQDNを有する16mer SH3BGRL3(29-44)である。加えて、同じエピトープの多数の長さ変異体も大部分の試料中に見いだされた。最も短い長さ変異体であるSH3BGRL3(31-42)からの判断では、このエピトープは、SH3BGRL3(15-26)との比較で、ほぼ類似したDRB1*0401アンカー残基を含む:33IがP1アンカーとして、36QがP4アンカーとして、さらに38VがP6アンカーとして働く(結合スコアは-2)。この類似性は結合スコアの同等性に反映されている。
【0219】
この第2のSH3BGRL3エピトープの存在は、この両方のペプチドが同じタンパク質に由来することから、SH3BGRL3(15-26)エピトープの妥当性の裏づけとなるが、RA特異的な様式で生じるのは、このうち一方であるエピトープSH3BGRL3(15-26)のみであるように思われる。同様の観察所見は、実施例1においてGILTに関してすでに記載されている。
【0220】
SH3BGRL3の4種類の長さ変異体のうち、最も長い変異体であるSH3BGRL3(13-28)は健常対照試料でも同定された(表3)。しかし、この長さ変異体が認められたのは1回のみであり、このことはRAの状況下でSH3BGRL3エピトープが有意に多いことを示している。
【0221】
インターロイキン-4(IL-4)誘導型タンパク質1
検討したすべての滑液(びらん性RAおよび非びらん性RA)および11件の血清のうち8件(びらん性RAおよび非びらん性RA)において、IL-4誘導型タンパク質1のヒトホモログ(Fig1)に由来する高ドミナントエピトープが同定された:これはSEQ ID NO. 28のアミノ酸配列を有するFig1(293-309)である(表3)。このエピトープの妥当性は、いくつかの試料における別の長さ変異体:すなわち16mer Fig1(293-308;SEQ ID NO. 30)および19mer Fig1(293-311;SEQ ID NO. 29)の存在によってさらに裏づけられた(表3)。さらに、アミノ酸配列には典型的なDRB1*0401結合モチーフが認められる:299VがP1アンカーとして、302EがP4アンカーとして、さらに304SがP6アンカーとして働く(結合スコア1%)。
【0222】
同じエピトープの2つの長さ変異体であるFig1(293-308)およびFig1(293-309)は、パルス刺激を受けていない1件の試料および1件の健常対照試料でも同定された(表3)。しかし、Fig1エピトープはほぼすべてのRA試料中に存在するが、被験対照試料ではすべてには存在しなかったことは、RAの状況下での多さを強く示している。
【0223】
ヒトfig1遺伝子はIL-4で刺激されたB細胞培養物で最初に同定された(Chu, C.C. & Paul, W.E., PNAS 94 (1997) 2507-2512)。ヒトfig1は、SLE、関節炎、多発性硬化症およびインスリン依存性糖尿病を含む自己免疫疾患に対する感受性に関与することが以前に同定されている領域である染色体19q13.3-19q13.4に存在する(Becker K.G. et al., PNAS 95 (1998) 9979-9984)。その発現がほとんど免疫組織に限定され、その調節が免疫応答の調節因子であるIL-4に依存することから、fig1は自己免疫疾患感受性の有力な候補遺伝子である(Chavan, S.S. et al., Biochim Biophys Acta 1576 (2002) 70-80)。Fig1エピトープがHLA-DR4拘束性に提示されることは、RAにおいてFig1タンパク質が産生され、おそらくはその発症に関与すると考えられることを初めて示したものである。Fig1ポリペプチドはこれまではRAのためのマーカーとして知られていなかったが、RAのための重要なマーカー候補であると考えられる。
【0224】
ヘモペキシン
血清試料(11件の試料のうち10件)および滑液試料(4件の試料のうち2件)(びらん性RAおよび非びらん性RA)において高頻度に同定されたもう1つのRAマーカー候補は、ヘモペキシン(HPX)に由来する:これはSEQ ID NO. 32のアミノ酸配列を有するHPX(351-367)である(表3)。いくつかの長さ変異体が見いだされ、これによってこのエピトープの妥当性が裏づけられた(表3):すなわち、13mer HPX(351-363;SEQ ID NO. 33)、14mer HPX(350-363;SEQ ID NO. 34)、15mer HPX(351-365;SEQ ID NO. 35)、18mer HPX(351-368;SEQ ID NO. 31)および18mer HPX(350-367;SEQ ID NO. 78)である。さらに、このエピトープは非常に強いDRB1*0401結合モチーフを含む:355IがP1アンカーとして、358DがP4アンカーとして、さらに360VがP6アンカーとして働く(結合スコア:1%)。
【0225】
同じエピトープの2つの長さ変異体であるHPX(351-367;SEQ ID NO. 32)およびHPX(351-365;SEQ ID NO. 35)は健常対照試料でも同定され(表3)、このことはいくつかの長さ変異体、すなわちSEQ ID NO. 31、33、34および78抗原ペプチドのみがRAに対して特異的であることを示している。
【0226】
HPXは、ヘムに対して高い結合親和性を有する60kD血漿糖タンパク質である(Muller-Eberhard, U., Methods Enzymol 163 (1988) 536-565)。これは主に肝臓で発現されるもので、炎症性状況下で合成が誘導される急性期タンパク質に属する。RAは慢性的な炎症性自己免疫疾患であり、C反応性タンパク質および血清アミロイドAを含むいくつかの急性期タンパク質のレベル上昇が報告されている(Nakamura, R., J Clin Lab Anal 14 (2000) 305-313)。HPXは、RAに罹患した患者でアップレギュレートされるサイトカインIL-1およびIL-6に反応する(Feldmann, M. & Maini, R.N.,Rheumatology 38、Suppl 2 (1999) 3-7)。
【0227】
HPXは、血漿中でのヘムの輸送のための主な媒体であり、その最も重要な役割は、ヘムにより媒介される酸化ストレスおよびヘム結合鉄の喪失を防止することにある(Tolosano, E. & Altruda, F., DNA Cell Biol 21 (2002) 297-306)。これはヘムオキシゲナーゼ、メタロチオネインおよびフェリチンなどの細胞内抗酸化物質の発現を誘導することにより、細胞を酸化ストレスから防御することができる。メタロチオネインは特に滑膜線維芽細胞で発現される細胞質タンパク質である(Backman, J.T. et al., Virchows Arch 433 (1998) 153-160)。RA患者の滑膜組織における酸化ストレスの存在に関してはかなり実験的証拠がある(Schett, G. et al., Arthritis Res 3 (2000) 80-86に概説されている)。さらに、HPXがヒトTリンパ球の増殖を促進することも報告されている(Smith, A. et al., Exp Cell Res 232 (1997) 246-254)。これらの研究からみて、HPXはRA患者の血清中および滑液中でアップレギュレートされるタンパク質である可能性が高く、このことは、HPX(351-367)がRA特異的マーカー候補であることの妥当性の根拠を与える。
【0228】
Hsc70相互作用性タンパク質
血清試料(11件のびらん性RAおよび非びらん性RAの試料のうち4件)で主として同定され、ストレス応答にも関係する1つのエピトープは、Hsc70相互作用性タンパク質Hipに由来する:これはSEQ ID NO. 38のアミノ酸配列を有するHip(83-98)である(表3)。このエピトープの2つの長さ変異体:18mer Hip(83-100;SEQ ID NO. 36)および15mer Hip(84-98;SEQ ID NO. 39)も同定された(表3)。さらにもう1つの長さ変異体:15mer Hip(85-99;SEQ ID NO. 37)が1件のびらん性滑液試料で見いだされた(表3)。最も短い長さ変異体であるHip(84-98)からの判断では、8%という中等度のスコアを有するDRB1*0401結合モチーフ:P1アンカーとしての89I、P4アンカーとしての92D、およびP6アンカーとしての94Dを想定することが可能である。
【0229】
真核生物細胞のサイトゾル中で、Hipタンパク質およびHopタンパク質はHsc70と会合し、Hsc70シャペロン活性の調節に関与する(Frydman, J. & Hohfeld, J., Trends Biochem Sci 22 (1997) 87-92)。42kDのHipタンパク質はHsc70のATPアーゼドメインと結合する。Hipはシャペロン-基質複合体の半減期を延長させ、Hsc70と下流シャペロン系との効率的な協同作用のための分子的基盤を与えると想定されている。Hsc70およびHsp90は、インビトロでのタンパク質フォールディング(Jakob, U. & Buchner, J., Trends Biochem Sci 19 (1994) 205-211;Freeman, B.C. & Morimoto, R.I., EMBO J 15 (1996) 2969-2979)および熱変性(Schneider, C. et al., PNAS 93 (1996) 14536-14541)に際して協同的に働くことが示されている。Hsc70およびHsp90とストレス適応との関連性から、Hipは最終的に、RA患者の滑膜組織における熱ショックタンパク質の誘導を含むストレス応答と結び付けられる(Schett, G. et al., Arthritis Res 3 (2001) 80-86)。
【0230】
ITIH4、C4、C3、SH3BGRL3、Fig1、HPXおよびHipの結合特性
ITIH4、C4、C3、SH3BGRL3、Fig1、HPXおよびHipの上記の抗原ペプチドのHLA-DR4分子に対する結合特性をさらに調べるために、インビトロ結合アッセイを行った(図3):レポーターペプチドHA(309-317)に対するIC50値によれば、合成ペプチドITIH4(2742-87)、SH3BGRL3(13-26)およびFig1(293-309)はHLA-DR4と高い親和性で結合する(図3)。合成ペプチドC4(1696-1709)およびHPX(351-365)に関しては、HLA-DR4に対する中等度の結合性が測定された。合成ペプチドC3(1431-1444)はHLA-DR4と弱くしか結合せず、これはTEPITOPEスコアと一致した(9%)。Hip(84-98)ペプチドに関しては結合が測定されなかった(非提示データ)。
【0231】
インバリアント鎖(Ii)
びらん性RAおよび非びらん性RAの指標となるように思われるマーカー候補ペプチドの1つに、HLA-DR会合性インバリアント鎖(Ii)に由来するエピトープがある:これはアミノ酸配列ATPLLMQALPMGALPを有する15mer Ii(110-124;SEQ ID NO. 83)である(表3)。さらに4つの長さ変異体:すなわち、16mer Ii(109-124;SEQ ID NO. 81)、17mer Ii(109-125;SEQ ID NO. 80)、18mer Ii(109-126;SEQ ID NO. 79)および21mer Ii(109-129;SEQ ID NO. 82)も同定された(表3)。長さ変異体の存在により、中程度のDRB1*0401結合モチーフ(TEPITOPE結合スコア:5%)が認められ、114LがP1アンカーとして、117AがP4アンカーとして、さらに119PがP6アンカーとして働く、同定されたペプチド配列の信頼性が得られた。このエピトープは2件のびらん性RA試料および3件の非びらん性RA試料で同定された。2つのIi長さ変異体は、パルス刺激を加えていない1件の試料および2件の健常被験者の試料でも認められた。
【0232】
MHCクラスII分子のペプチド負荷は、クラスII経路における2つのアクセサリー分子、すなわちインバリアント鎖IiおよびHLA-DMによって調節される(Bakke, O. & Nordeng T.W., Immunol Rev 172 (1999) 171-187およびKropshofer, H. et al., Immunol Today 18 (1997) 77-82に概説されている)。Ii三量体は粗面小胞体(ER)内で新生MHCクラスII分子と結合し、ペプチド結合溝を遮断し、クラスII分子を安定化するとともに、ER内に存在するリガンドの結合を阻止する。クラスII/Ii複合体はゴルジ装置を介してエンドソームへと輸送され、そこでIiは分解されて、収容されたクラスII会合性Iiペプチド(CLIP)のセットとなる。CLIPの放出により、エンドソーム性ペプチドがMHCクラスII分子と結合することが可能となり、これが細胞表面にT細胞受容体に対して提示される。同定されたエピトープIi(110-124)にはCLIPのC末端部分との重複がみられる。興味深いことに、CLIPとRA関連HLA-DRアレルとの相互作用の低下が記載されており(Patil, N.S. et al., J Immunol 167 (2001) 7157-7168)、このことは相互作用の低下がRAにおける自己免疫の発生に寄与する可能性を示している。
【0233】
レチノイン酸受容体応答タンパク質2
11件の血清試料のうち4件(びらん性RAおよび非びらん性RA)で、レチノイン酸受容体応答タンパク質2(RAPRES2)に由来するエピトープが同定された:これはアミノ酸配列HPPVQWAFQETSVESAVDTPFPを有する22mer RARRES2(40-61;SEQ ID NO. 86)である(表3)。このエピトープのC末端部分で、2つの長さ変異体:23mer RARRES2(40-62;SEQ ID NO. 84)および24mer RARRES2(40-63;SEQ ID NO. 85)を同定することができた(表3)。このエピトープは、45WをP1アンカーとして、48QをP4アンカーとして、50TをP6アンカーとして有し、DRB1*0401との関連において中程度の結合モチーフを示す(TEPITOPE結合スコア:3%)。
【0234】
RARRES2は低分子量の18.6kDタンパク質であり、ほとんどが内皮および表皮で発現される。その発現はホルモン依存的であるように思われ、皮膚におけるレチノイン酸に対する応答、および骨髄由来ストロマ細胞におけるいくつかの骨栄養性ホルモンにおける応答が同定されている(Nagpal, S. et al., J Invest Dermatol 109 (1997) 91-95およびAdams, A.E. et al., J Cell Biochem 74 (1999) 587-595)。RARRES2の機能はほとんど分かっていないが、例えば破骨細胞形成の障害によるRAとの関連性も想定される。
【0235】
フィブロネクチン
4件の滑液試料のうち3件(びらん性RAおよび非びらん性RA)のみで認められたもう1つのHLA-DR4会合性ペプチドは、血漿および細胞外マトリックスにおける主要な糖タンパク質であるフィブロネクチン(Fn)に由来する:これはアミノ酸配列IYLYTLNDNARSSPVを有する15mer Fn(1881-1895;SEQ ID NO. 90)である(表3)。このエピトープは非常に優れたDRB1*0401結合体であるように思われ、1885Yが疎水性P1アンカーとして、1888NがP4アンカーとして、さらに1890NがP6アンカーとして働く(TEPITOPE結合スコア:1%)。4つの長さ変異体:16mer Fn(1881-1896;SEQ ID NO. 91)、16mer Fn(1880-1895;SEQ ID NO. 88)、17mer Fn(1881-1897;SEQ. ID NO:89)および17mer Fn(1880-1896;SEQ ID NO. 87)がさらに同定され、このことは同定されたFnエピトープの妥当性を強く裏づける(表3)。
【0236】
フィブロネクチンは、細胞接着、細胞運動およびオプソニン作用 において重要な役割を果たす。これはコラーゲンおよびフィブリンと結合し、線維芽細胞のコラーゲン細線維との接着を媒介する。フィブロネクチンはRA患者および変形性関節症患者の滑膜内層において強発現され、罹患関節の過形成と相関する。エピトープFn(1881-1895)が滑膜由来の試料のみで同定されたことはこれらの所見と一致し、このことは非常に多く存在するフィブロネクチンの自己免疫における役割を推定させる。
【0237】
カテプシンB
15件のRA試料のうち3件(びらん性RAおよび非びらん性RA)から、カテプシンB(CatB)に由来するエピトープが得られた:これはアミノ酸配列YNSYSVSNSEKDIMAを有する15mer CatB(227-241;SEQ ID NO. 92)である(表3)。このペプチドには中程度のDRB1*0401結合モチーフが認められ、230Yが疎水性P1アンカーとして、233位および235位のセリン残基が推定的なP4およびP6アンカーとして働く(TEPITOPE結合スコア:6%)。
【0238】
カテプシンBはチオールペプチダーゼであり、タンパク質(例えばコラーゲン)の細胞内分解および代謝回転に関与すると考えられている。これは白血球を含むさまざまな種類の細胞のリソソーム内に存在する。炎症および疾患の状況下では、カテプシンBが変形性関節症における軟骨破壊、ならびにRAおよび癌における病的なタンパク質分解に寄与することが示されている(Cunnane, G. et al., Arthritis Rheum 44 (2001) 1744-1753)。カテプシンBおよび他のリソソームペプチダーゼの酵素活性はRAの進行と相関し、このことはエピトープCatB(227-241)が推定的なRAマーカーペプチドであることの妥当性を裏づける(Sohar, N. et al., Biol Chem 383 (2002) 865-869)。
【0239】
トリペプチジル-ペプチダーゼII
15件のRA試料のうち3件(びらん性および非びらん性RA)で認められたもう1つのペプチダーゼ由来のエピトープは、トリペプチジル-ペプチダーゼII(TPP2)に由来する:これはアミノ酸配列AGSLTLSKTELGKKAを有する15mer TPP2(970-984;SEQ ID NO. 93)である(表3)。加えて、長さ変異体TPP2(970-985;SEQ ID NO. 94)も同定された。このペプチダーゼエピトープは典型的なDRB1*0401結合モチーフを含み、973L、976Sおよび978TをそれぞれP1、P4およびP6アンカーとして有する(TEPITOPE結合スコア:3%)。
【0240】
カテプシンBと同様に、トリペプチジル-ペプチダーゼIIはリソソームでのタンパク質分解に関与する。RAの状況下でエピトープTPP2(970-984)が同定されたことは、TPP2が炎症およびRAの状況下でのタンパク質分解障害に関与する可能性を初めて示したものである。
【0241】
レグマイン
レグマイン(LGMN)は、今回の検討で見いだされた3種類のペプチダーゼのセットのうち最後のものである。アミノ酸配列VPKDYTGEDVTPQNを有する同定されたエピトープLGMN(99-112;SEQ ID NO. 95)(表3)には、HLAアレルDRB1*0401に対する典型的な結合モチーフが認められ、103YがP1アンカーとして、106EがP4アンカーとして、さらにおよび108VがP6アンカーとして働くと考えられる(TEPITOPE結合スコア:1%)。
【0242】
レグマインは、樹状細胞などの抗原提示細胞のエンドソーム画分およびリソソーム画分に存在する(Schwarz, G. et al., Biol Chem 383 (2002) 1813-1816)。これはアスパラギニル結合の加水分解に対する厳密な特異性を有し、MHCクラスII提示のための細菌抗原のプロセシングに重要な役割を果たすことが示されている(Manoury, B. et al., Nature 396 (1998) 695-699)。レグマインがRAなどの自己免疫疾患に関与するか否かは未だに不明であるが、今回の検討で3種類のリソソームペプチダーゼがGILTおよび26Sプロテアソームとともに同定されたという事実は、抗原プロセシングを促進するタンパク質分解機構が、RAの状況では著しく変化している可能性を示唆する。
【0243】
血小板活性化因子受容体
11件の血清RA試料のうち3件(びらん性RAおよび非びらん性RA)で同定されたエピトープは、血小板活性化因子の受容体(PAFR)に由来する:これはアミノ酸配列DSKFHQAINDAHQを有する13mer PAFR(264-276;SEQ ID NO. 96)である(表3)。TEPITOPEスコア(3%)によれば、このエピトープは中程度のDRB1*0401結合モチーフを含み、267FをP1アンカーとして、270AをP4アンカーとして、さらに272NをP6アンカーとして有する(表3)。
【0244】
血小板活性化因子(PAF)は、広範囲にわたる種類の細胞の表面に存在するGタンパク質共役性7回膜貫通型受容体と結合する、炎症誘発性脂質メディエーターである。受容体の結合により、PAFは細胞運動、平滑筋収縮ならびにサイトカインの合成および放出を含む多面的な機能を伝達する(Honda, Z. et al., J Biochem 131 (2002) 773-779によって概説されている)。薬理試験およびPAFR(-/-)マウスの樹立により、PAFはアレルギー、炎症、神経機能、生殖およびアテローム性動脈硬化を含むさまざまな状況で機能することが示唆されている。興味深いことに、PAFは、RA患者の滑液におけレベル上昇が認められているほか、リウマチ性滑膜炎で高頻度に観察される血管新生を誘導することも示されている(Lupia, E. et al., Eur J lmmnunol 26 (1996) 1690-1694)。この種の知見は、エピトープPAFR(264-276)がRA関連マーカーペプチドであるという信頼性をさらに与えるものである。
【0245】
ポリ-α-2,8-シアリルトランスフェラーゼ
11件の血清試料のうち3件(びらん性RAおよび非びらん性RA)で認められたもう1つのエピトープは、ポリシアリルトランスフェラーゼ(PST)に由来する:これはMPLEFKTLNVLHNRGを有する15mer PST(333-347;SEQ ID NO. 97)であり(表3)、DRB1*0401結合に関して中程度の結合モチーフを示す(TEPITOPEスコア:2%)。337FがP1アンカーとして、340LがP4アンカーとして、さらに342VがP6アンカーとして働くと考えられる。
【0246】
ポリシアル酸はα-2,8-結合したシアル酸残基の直鎖状ホモ重合体によって構成される糖質である。このグリカンは主として神経細胞接着分子(N-CAM)に付着しており、N-CAMの接着特性を調節することによって神経細胞の多くの形態形成プロセスに関与すると考えられている。膜タンパク質であるポリシアリルトランスフェラーゼはシアル酸残基の重縮合を触媒し、これは胎児の脳、肺および腎臓、成人の心臓、脾臓および胸腺で高度に発現され、それらよりは程度が落ちるものの末梢血白血球でも発現される(Nakayama, J. et al., Proc Natl Acad Sci 92 (1995) 7031-7035)。転移性腫瘍を有する患者の血清ではPSTレベルの上昇が観察されており、その酵素活性の増大は関節リウマチにも伴ってみられる(Berge, P.G. et al., Klin Wochenschr 60 (1982) 445-449)。エピトープPST(333-347)がいくつかのRA試料で同定されたことは、これらの観察所見に一致するとともに、RAにおけるPSTの役割を推定させる。
【0247】
Ras関連タンパク質Rab-11B
RA試料の今回の分析で提示された最後のエピトープは、Ras関連タンパク質Rab-11Bに由来する:これはアミノ酸配列RSIQVDGKTIKAQを有する13mer Rab-11B(51-63;SEQ ID NO. 102)である(表3、このペプチド配列は、TEPITOPEソフトウエア(Hammer, J. et al., Adv Immunol 66 (1997) 67-100)を用いることにより、RA感受性アレルDRB1*0301に対する結合に関して検証されている)。このエピトープおよびさらに4つの長さ変異体、すなわち14mer Rab-11B(50-63;SEQ ID NO. 100)、15mer Rab-11B(49-63;SEQ ID NO. 98)、17mer Rab-11B(49-65;SEQ ID NO. 101)および18mer Rab-11B(49-66;SEQ ID NO. 99)が、3件のびらん性RA試料および2件の非びらん性RA試料で見いだされた(表3)。15mer Rab-11B(49-63)は、12件の対照試料のうち1件でも同定された。
【0248】
Rabタンパク質は、エンドサイトーシスおよびエクソサイトーシス経路による膜輸送において重要な役割を果たす低分子量GTPアーゼである。Rab-11Bは、内部取り込みを受けたトランスフェリンのリサイクリング区画から原形質膜への輸送に必須であると推定されている。さらにRab-11Bはラット破骨細胞でも同定されており、これは骨再吸収においてさらなる役割を果たす可能性がある。エピトープRab-11B(51-63)は、RA発症におけるRab-11Bの役割を初めて示したものである。
(表1)主として非びらん性RAの患者の血清および滑液からのHLA-DR会合性ペプチド抗原


a 臨床診断に基づく患者のRAのタイプ:持続型びらん性(E)または持続型非びらん性(N)RA
b リウマチ因子
c 試料の説明:血清(S)または滑液(Syn)によるパルス刺激を受けた樹状細胞
d バフィーコート(buffy coat)のハプロタイプ:(1)HLA-DRB1*0401、*03011;(2)HLA-DRB1*0401、*0304;(3)HLA-DRB1*0401、*1301;(4)HLA-DRB1*0401、*0701;(5)HLA-DRB1*0401、*0407、*0401、*1301;(4)HLA-DRB1*0401、*0701
e 一文字コードによるRA由来ペプチドの配列。HLA-DRB1*0401結合モチーフは灰色の枠で囲まれている。
f TEPITOPEプログラム(Hammer, J. et al., Adv lmmunol 66 (1997) 67-100)に基づく、HLA-DRB1*0401アレルとの関連でのエピトープのスコア
g Swiss-Prot/TrEMBLデータベースに従ったタンパク質の名称。括弧内の数字は、それぞれのエピトープのうち、長さが最も短い変異体を表している。
h (i)Rothbard J. B. et al., Cell 52 (1988) 515-523。h(ii)Chicz, R.M. et al., J Exp Med 178 (1993) 27-47。h(iii)van Schooten, W.C. et al., Eur J lmmunol 19 (1989) 2075-2079。

(表2)主としてびらん性RAの患者の血清および滑液からのHLA-DR会合性ペプチド抗原


a 臨床診断に基づく患者のRAのタイプ:持続型びらん性(E)または持続型非びらん性(N)RA
b リウマチ因子
c 試料の説明:血清(S)または滑液(Syn)によるパルス刺激を受けた樹状細胞
d バフィーコートのハプロタイプ:(1)HLA-DRB1*0401、*03011;(2)HLA-DRB1*0401、*0304;(3)HLA-DRB1*0401、*1301;(4)HLA-DRB1*0401、*0701;(5)HLA-DRB1*0401、*0407
e 一文字コードによるRA由来ペプチドの配列。HLA-DRB1*0401結合モチーフは灰色の枠で囲まれている。
f TEPITOPEプログラム(Hammer, J. et al., Adv lmmunol 66 (1997) 67-100)に基づく、HLA-DRB1*0401アレルとの関連でのエピトープのスコア
g Swiss-Prot/TrEMBLデータベースに従ったタンパク質の名称。括弧内の数字は、それぞれのエピトープのうち、長さが最も短い変異体を表している。
* 1件の健常試料でも同じく同定された、それぞれのエピトープの長さ変異体
* *2件の健常試料でも同じく同定された、それぞれのエピトープの長さ変異体

(表3)びらん性RAおよび非びらん性RAの患者の血清および滑液からのHLA-DR会合性ペプチド抗原








a 臨床診断に基づく患者のRAのタイプ:持続型びらん性(E)または持続型非びらん性(N)RA
b リウマチ因子
c 試料の説明:血清(S)または滑液(Syn)によるパルス刺激を受けた樹状細胞
d バフィーコートのハプロタイプ:(1)HLA-DRB1*0401、*03011;(2)HLA-DRB1*0401、*0304;(3)HLA-DRB1*0401、*1301;(4)HLA-DRB1*0401、*0701;(5)HLA-DRB1*0401、*0407
e 一文字コードによるRA由来ペプチドの配列。HLA-DRB1*0401(†*0301)結合モチーフと推定されるものは灰色の枠で囲まれている。
f TEPITOPEプログラム(Hammer, J. et al., Adv lmmunol 66 (1997) 67-100)に基づく、HLA-DRB1*0401(†*0301)アレルとの関連でのエピトープのスコア
g Swiss-Prot/TrEMBLデータベースに従ったタンパク質の名称。括弧内の数字は、それぞれのエピトープのうち、長さが最も短い変異体を表している。
*(**)1件(2件)の健常試料でも同じく同定された、それぞれのエピトープの長さ変異体

(表4)RAマーカー候補の概要



a Swiss-Prot/TrEMBLデータベースに従ったタンパク質の名称
b RA試料における同定されたエピトープの頻度。RAのタイプは臨床診断に基づく:持続型びらん性(E)または持続型非びらん性(N)RA
c Swiss-Protデータベースに関する
【図面の簡単な説明】
【0249】
【図1】樹状細胞(DC)を介した組織試料の分析の概略図:最も特化した抗原提示細胞(APC)である樹状細胞(DC)を、抗原の源(例えば、滑液)と、抗原取り込みおよび抗原プロセシングのために最適な条件下で接触させる。対照として、DCを同じ条件下で、滑液抗原の非存在において培養する。DCの成熟後に、抗原が負荷されたMHCクラスII分子を精製し、それぞれのMHCクラスII会合性抗原ペプチドを単離して同定する。
【図2A】RA患者の血清によるパルス刺激を受けた樹状細胞から単離したMHCクラスII会合性抗原ペプチドのイオントラップMS基準ピーククロマトグラム。ペプチドは、RP-C18-HPLCカラムから、即時的なMS/MS同定のためにイオントラップ質量分析装置に直接溶出させた。数字は、それぞれの時点での混合物中の最も主要なペプチドピークの保持時間(上の値)および分子質量(下の値)を示している。
【図2B】保持時間65.4分の抗原ペプチドのイオントラップMSスペクトル。印を付したピークはさらに断片化されており、これはインター-α-トリプシンインヒビターITIH4からの二重荷電ペプチドイオンに対応する(表3参照)。
【図2C】m/z 977.1の二重荷電ペプチドイオンのイオントラップMS/MSスペクトル。SEQUESTアルゴリズムを用いることにより、断片化された質量および親イオンの質量の検索をともに、非冗長性ヒトデータベースに対して行った。抽出された配列MPKNVVFVIDKSGSMSGR(一文字コード)は、インター-α-トリプシンインヒビターのドミナントエピトープITIH4(271-288)に対応した。指定した一連のN末端BイオンおよびC末端Yイオンの位置を表示している。
【図3】HLA-DRB1*0401アレルとの結合という状況における被験RA抗原候補の結合能の違いの概要。HLA-DRB1*0401結合モチーフと推定されるものはグレーの枠で囲まれている。親和性の指標として、一定量のビオチン化HA(307-319)ペプチドの結合を競合によって50%低下させるために必要なペプチド濃度(IC50)を決定した。その逆数(1/IC50)はペプチド親和性と直接相関する。レポーターとして、インフルエンザ血球凝集素(Rothbard, J.B. et al., Cell 52 (1988) 515-523)由来のビオチン化HA(307-319)ペプチドを試験に含めた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも、SEQ ID NO. 49〜57およびSEQ ID NO. 103〜122からなる群より選択されるペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または
(b)少なくとも、SEQ ID NO. 49〜57およびSEQ ID NO. 103〜122からなる群より選択されるペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 1〜39およびSEQ ID NO. 58〜102からなる群より選択される対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったアミノ酸配列、
を含む、MHCクラスII抗原ペプチド。
【請求項2】
(a)少なくとも、SEQ ID NO. 49のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または
(b)少なくとも、SEQ ID NO. 49のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 1〜3からなる群より選択される対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったアミノ酸配列、
を含む、MHCクラスII抗原ペプチド。
【請求項3】
(a)少なくとも、SEQ ID NO. 103のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または
(b)少なくとも、SEQ ID NO. 103のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 58および59の対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったアミノ酸配列、
を含む、MHCクラスII抗原ペプチド。
【請求項4】
(a)少なくとも、SEQ ID NO. 104のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または
(b)少なくとも、SEQ ID NO. 104のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 60の対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったアミノ酸配列、
を含む、MHCクラスII抗原ペプチド。
【請求項5】
(a)少なくとも、SEQ ID NO. 105のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または
(b)少なくとも、SEQ ID NO. 105のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 61の対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったアミノ酸配列、
を含む、MHCクラスII抗原ペプチド。
【請求項6】
(a)少なくとも、SEQ ID NO. 106のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または
(b)少なくとも、SEQ ID NO. 106のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 62の対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったアミノ酸配列、
を含む、MHCクラスII抗原ペプチド。
【請求項7】
(a)少なくとも、SEQ ID NO. 107のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または
(b)少なくとも、SEQ ID NO. 107のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 63の対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったアミノ酸配列、
を含む、MHCクラスII抗原ペプチド。
【請求項8】
(a)少なくとも、SEQ ID NO. 50のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または
(b)少なくとも、SEQ ID NO. 50のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 5の対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったアミノ酸配列、
を含む、MHCクラスII抗原ペプチド。
【請求項9】
(a)少なくとも、SEQ ID NO. 108のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または
(b)少なくとも、SEQ ID NO. 108のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 64〜67の対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったアミノ酸配列、
を含む、MHCクラスII抗原ペプチド。
【請求項10】
(a)少なくとも、SEQ ID NO. 109のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または
(b)少なくとも、SEQ ID NO. 109のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 68の対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったアミノ酸配列、
を含む、MHCクラスII抗原ペプチド。
【請求項11】
(a)少なくとも、SEQ ID NO. 110のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または
(b)少なくとも、SEQ ID NO. 110のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 69および70の対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったアミノ酸配列、
を含む、MHCクラスII抗原ペプチド。
【請求項12】
(a)少なくとも、SEQ ID NO. 111のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または
(b)少なくとも、SEQ ID NO. 111のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 72の対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったアミノ酸配列、
を含む、MHCクラスII抗原ペプチド。
【請求項13】
(a)少なくとも、SEQ ID NO. 112のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列、または
(b)少なくとも、SEQ ID NO. 112のペプチド結合モチーフのアミノ酸配列に、SEQ ID NO. 73の対応する配列のN末端およびC末端隣接配列が加わったアミノ酸配列、
を含む、MHCクラスII抗原ペプチド。
【請求項14】
MHCクラスII分子と結合した、請求項1〜13のいずれか一項記載のMHCクラスII抗原ペプチド。
【請求項15】
請求項1〜13のいずれか一項記載のMHCクラスII抗原ペプチドと反応する抗体。
【請求項16】
請求項1〜14のいずれか一項記載のペプチドまたはポリペプチドをコードする核酸分子。
【請求項17】
発現ベクターと機能的に結合した請求項16記載の核酸分子を含む組換え核酸構築物。
【請求項18】
請求項17記載の核酸構築物を含む宿主細胞。
【請求項19】
請求項1〜13のいずれか一項記載のMHCクラスII抗原ペプチドを生産するための方法であって、請求項18記載の宿主細胞を、前記ペプチドの発現を可能にする条件下で培養する段階、および細胞または培地からペプチドを回収する段階を含む方法。
【請求項20】
フェムトモル量のMHCクラスII会合性RA抗原ペプチドを単離および同定するための方法であって、
(a)未熟樹状細胞を、0.1〜5μgのMHCクラスII分子を含むような数量で提供する段階;
(b)(a)の細胞を血清または滑液と接触させ、TNFαを添加することによって樹状細胞の成熟を誘導する段階;
(c)細胞の可溶化、および免疫沈降またはイムノアフィニティークロマトグラフィーによるMHCクラスII分子と抗原ペプチドとの複合体の隔離を含む方法により、細胞からクラスII MHC分子-抗原ペプチド複合体を単離する段階;
(d)隔離されたMHCクラスII分子と抗原ペプチドとの複合体を限外濾過用チューブ内で水により洗浄する段階;
(e)会合性抗原ペプチドを37℃で希トリフルオロ酢酸によりMHCクラスII分子から溶出させる段階;ならびに
(f)単離されたペプチドを、液体クロマトグラフィーおよび質量分析によって分離、検出および同定する段階、
を含む方法。
【請求項21】
液体クロマトグラフィー法の段階(f)において、ペプチド溶出段階の前に、混入物を溶出させるのに十分な容積をともなう逆相材料からの第1の直線溶出段階を含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
同定されたペプチドを、多数のデータセットにわたる比較データ分析を行うために開発されたデータベースおよびソフトウエアを含む方法によって分析する段階(g)をさらに含む、請求項20および21のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
請求項1〜13のいずれか一項記載のMHCクラスII抗原ペプチド、請求項15記載の抗体、またはSEQ ID NO. 40〜48およびSEQ ID NO. 123〜141からなる群より選択されるポリペプチドを含み、かつ任意に薬学的に許容される担体も含む、薬学的組成物。
【請求項24】
請求項15記載の抗体を含む診断用組成物。
【請求項25】
抗原ペプチドがびらん性および/または非びらん性RAのためのマーカーとなる、請求項1記載のMHCクラスII抗原ペプチドの使用法。
【請求項26】
抗原ペプチドが非びらん性RAのためのマーカーとなる、請求項2〜7のいずれか一項記載のMHCクラスII抗原ペプチドの使用法。
【請求項27】
抗原ペプチドがびらん性RAのためのマーカーとなる、請求項8〜13のいずれか一項記載のMHCクラスII抗原ペプチドの使用法。
【請求項28】
RAのための、好ましくはびらん性および/または非びらん性RAのためのマーカーとしての、SEQ ID NO. 40〜48およびSEQ ID NO. 123〜141からなる群より選択されるポリペプチドの使用法。
【請求項29】
実質的には、特に前記の実施例を参照しながら、本明細書に前述した通りの、抗原ペプチド、抗体、核酸、宿主細胞、方法、組成物および使用法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−527226(P2007−527226A)
【公表日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522303(P2006−522303)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【国際出願番号】PCT/EP2004/008609
【国際公開番号】WO2005/014622
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】