RAGE遺伝子の2種類のスプライシングバリアントを区別して増幅可能なプライマーセット及びプローブ
【課題】生活習慣病等の指標であるmRAGEとesRAGEの成熟mRNAをPCRにより識別して検出・定量するためのプライマーおよびプローブ、ならびにこれらを用いた検出方法を提供する。
【解決手段】mRAGE用フォワードプライマーと、mRAGE用リバースプライマーと、mRAGE検出用プローブと、esRAGE用フォワードプライマーと、esRAGE用リバースプライマーと、esRAGE検出用プローブとを組み合わせて使用することにより、mRAGEとesRAGEの成熟mRNAをPCRにより識別して検出・定量することができる。
【解決手段】mRAGE用フォワードプライマーと、mRAGE用リバースプライマーと、mRAGE検出用プローブと、esRAGE用フォワードプライマーと、esRAGE用リバースプライマーと、esRAGE検出用プローブとを組み合わせて使用することにより、mRAGEとesRAGEの成熟mRNAをPCRにより識別して検出・定量することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(Receptor for advanced gylcation endproducts)(以下「RAGE」と称する場合がある)の2種類のスプライシングバリアントである膜結合型RAGE(以下「mRAGE」と称する場合がある)の成熟mRNAおよび内在性分泌型RAGE(以下「esRAGE」と称する場合がある)の成熟mRNAを区別してポリメラーゼ連鎖反応(以下「PCR」と称する場合がある)により増幅することができるプライマーセット及び、定量的PCRのための、リアルタイムPCR用プローブを提供する。
【背景技術】
【0002】
mRAGEは、Sternらのグループにより、AGE (advanced gylcation endproducts, 後期糖化反応生成物)の細胞表面特異受容体として分離されその一次構造が決定された(非特許文献1)。mRAGEは,イムノグロブリンスーパーファミリーに属する1回膜貫通型の受容体で、V,C1,C2の3つのイムノグロブリンドメインからなる細胞外領域と短い細胞内領域とを有する。AGEとはグルコースなどの還元糖とタンパク質のアミノ基との非酵素的な反応、グリケーションによって生ずる構造体の総称であり、糖尿病合併症、動脈硬化、神経変性疾患さらには老化にも関与すると注目されているものである。膜結合型RAGEにAGEが結合すると、活性酸素種の産生を経て転写因子NFκBの活性化を引き起こし、血管障害性の遺伝子群の活性化をおこすと考えられている。
【0003】
RAGEの分子量は当初35 kDaとされたが、これは精製途中で分解されたものと考えられ、現在では糖鎖修飾を受けたヒトRAGEの完全長は55 kDaであることが分かっている。RAGEは免疫グロブリンスーパーファミリーに属し、細胞外領域に3つのイムノグロブリン様ドメインを持つ。そして最もN末端にあるイムノグロブリン可変領域様ドメイン部分の内部にAGEリガンド結合部位がある。近年、RAGEはマルチリガンドレセプターとして認識されるに至り、AGE以外のリガンドとして、アルツハイマー病の脳に蓄積するアルツハイマー・アミロイドタンパク、癌転移との関連および炎症との関連が指摘されているhigh mobility group box 1 (HMGB-1)、免疫系細胞から分泌される炎症メディエーターS100/calgranulinなどが報告され、RAGEとこれらのリガンドとの結合により生じるシグナルが様々な病態に関与する可能性が考えられている。(図1参照)
【0004】
本発明者らは、RAGEには一つの遺伝子から選択的スプライシングによって作り出される新しい分子種が存在することを見出している。以前から知られている完全長膜結合型RAGEに比べ、後に見出されたアイソフォームの一つはC端側の膜貫通領域を欠き分泌型となるRAGEである。この分泌型RAGEタンパクは血管内皮培養細胞から実際に分泌され、ヒトの血中や様々な組織にも存在することより、内在性分泌型RAGE(endogenous secretory RAGE, esRAGE)と命名された(特許文献1)。esRAGEはリガンド結合部位を持つため、細胞外でリガンドを捕捉することによりリガンドと細胞表面の膜型RAGEとの結合を阻害する働きを持つと考えられる。すなわち、esRAGEはデコイ型レセプターとして働き、疾患関連リガンドとmRAGEとの結合により生じるシグナル伝達を軽減させる働きを有すると考えられている。(図1参照)
【0005】
ヒトRAGE遺伝子の全配列はGenbank Accession No. D28769として登録されている。RAGE遺伝子はエクソン1〜11を有することが知られている。RAGE遺伝子から転写されたmRNAは核内で選択的にスプライシングを受け、mRAGEの成熟mRNAと、esRAGEの成熟mRNAとが生じる。図2に示すように、mRAGEの成熟mRNAの3’末端領域は、エクソン8−エクソン9−エクソン10−エクソン11から構成される。一方、esRAGEの成熟mRNAの3’末端領域は、エクソン8−エクソン9−付加エクソン9-エクソン11から構成される(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-125786号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. Biol. Chem. 267: 14998-15004 (1992)
【非特許文献2】Biochem. J. 370: 1097-1109 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
生体試料においてmRAGEの成熟mRNAと、esRAGEの成熟mRNAとは混在して含まれていることが通常である。しかしながら両者は構造の大部分が同一であるため、区別して検出し、定量することは容易ではない。しかも、生体試料中にはスプライシング前の未成熟のmRNAも混在しているため、識別はより一層困難である。mRAGEの発現量と、esRAGEの発現量とを区別して検出・定量することが可能となれば、生体組織又は細胞中でのmRAGE量及びesRAGE量を評価することが可能となる。また、薬物候補物質を生体組織又は細胞に付与したときのmRAGE量又はesRAGE量に与える影響を評価することが可能となるため、mRAGE又はesRAGEが関与する疾患の治療薬のスクリーニングに応用することができる。
【0009】
そこで本発明は、mRAGEの成熟mRNAとesRAGEの成熟mRNAとをPCRにより識別して検出・定量するためのプライマーおよびプローブ、ならびにこれらを用いた検出・定量方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らはmRAGEの成熟mRNAとesRAGEの成熟mRNAに対応するcDNAをクロスハイブリダイズすることなく区別して識別することが可能なプライマーおよびプローブの組み合わせを検討した。
【0011】
まず、mRAGE成熟mRNAとesRAGE成熟mRNAの共通の領域にプライマーを設定し、それぞれに特異的な領域に検出プローブを設定した(実施例記載の第一設計(図4)及び第二設計(図5)参照)。スプライシングを受ける前の未成熟mRNAおよびゲノムDNAが検出される事を防ぐために、第一設計では図4に示すように検出プローブをエクソン・ジャンクションに設定し、第二設計では図5に示すように5’プライマーをエクソン・ジャンクションに設定した。しかし予想外なことに、第一設計では、検出プローブのクロスハイブリダイズが生じたため、mRAGE成熟mRNAのcDNAとesRAGE成熟mRNAのcDNAとを識別して増幅し検出することができなかった。また、第二設計では、検出プローブのクロスハイブリダイズは回避されたが、プライマーがmRAGE cDNAとesRAGE cDNAの増幅に競合して使用されるため、どちらかが過剰に存在すると、もう一方の増幅効率が著しく低下する現象が見られ、両者が共存する通常の生体試料についての定量は困難と思われた。
【0012】
そこで本発明者らは更に鋭意検討し、mRAGE成熟mRNAのcDNAとesRAGE成熟mRNAのcDNAとを識別して増幅可能なプライマー及びリアルタイムPCR検出用プローブの組み合わせを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は以下の発明を包含する。
【0013】
(1) 膜結合型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(mRAGE)の成熟mRNAに対応するcDNAをポリメラーゼ連鎖反応により増幅するためのプライマーセットであって、
配列番号1の第1015番のグアニン(g)と第1016番のグアニン(g)とを少なくとも含む、塩基数15〜25の連続した部分配列からなるポリヌクレオチドであるmRAGE用フォワードプライマーと、
配列番号1の第1142番のグアニン(g)と第1143番のグアニン(g)とを少なくとも含む、塩基数15〜25の連続した部分配列の相補配列からなるポリヌクレオチドであるmRAGE用リバースプライマーと
を含むプライマーセット。
(2) 膜結合型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(mRAGE)の成熟mRNAを検出するためのキットであって、
(1)のプライマーセットと、
配列番号1の第1041番〜第1142番の領域内に含まれる、塩基数15〜25の連続した部分配列からなり、5’末端及び3’末端の一方に蛍光物質が結合され、他方に消光物質が結合されたポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドの一部分が等価なRNAに置換されたDNA/RNAキメラポリヌクレオチドであるmRAGE検出用プローブと
を含むキット。
(3) 内在性分泌型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(esRAGE)の成熟mRNAに対応するcDNAをポリメラーゼ連鎖反応により増幅するためのプライマーセットであって、
配列番号2の第1015番のグアニン(g)と第1016番のグアニン(g)とを少なくとも含み、かつ、第995番〜第1027番の領域内に含まれる、塩基数15〜25の連続した部分配列からなるポリヌクレオチドであるesRAGE用フォワードプライマーと、
配列番号2の第1097番のグアニン(g)と第1098番のグアニン(g)とを少なくとも含む、塩基数15〜25の連続した部分配列の相補配列からなるポリヌクレオチドであるesRAGE用リバースプライマーと
を含むプライマーセット。
(4) 内在性分泌型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(esRAGE)の成熟mRNAを検出するためのキットであって、
(3) のプライマーセットと、
配列番号2の第1011番〜第1070番の領域内に含まれる、塩基数15〜35の連続した部分配列の相補配列からなり、5’末端及び3’末端の一方に蛍光物質が結合され、他方に消光物質が結合されたポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドの一部分が等価なRNAに置換されたDNA/RNAキメラポリヌクレオチドであるesRAGE検出用プローブと
を含むキット。
(5) (2)のキットと、(4) のキットとが組み合わされた、膜結合型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(mRAGE)及び内在性分泌型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(esRAGE)の成熟mRNAを検出するためのキット。
(6) (2)のキット又は(5)のキットを用いて、膜結合型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(mRAGE)の成熟mRNAと、内在性分泌型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(esRAGE)の成熟mRNAとを含んでいる可能性のある試料中のmRAGEの成熟mRNAを検出する方法。
(7) (4)のキット又は(5)のキットを用いて、膜結合型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(mRAGE)の成熟mRNAと、内在性分泌型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(esRAGE)の成熟mRNAとを含んでいる可能性のある試料中のesRAGEの成熟mRNAを検出する方法。
(8) (5)のキットを用いて、膜結合型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(mRAGE)の成熟mRNAと、内在性分泌型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(esRAGE)の成熟mRNAとを含んでいる可能性のある試料中のesRAGE及びesRAGEの成熟mRNAを検出する方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、mRAGEの成熟mRNAとesRAGEの成熟mRNAとをPCRにより識別して検出・定量するためのプライマーおよびプローブ、ならびにこれらを用いた検出・定量方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】mRAGEとesRAGEのリガンドに対する挙動を模式的に示す。
【図2】mRAGEmRNAとesRAGEmRNAの構造を模式的に示す。
【図3】試験2に用いたRAGEミニ遺伝子の構造およびスプライシングについて模式的に説明する図である。
【図4】試験1の第一設計(比較例)のプライマー及びプローブの位置を模式的に説明する図である。
【図5】試験1の第二設計(比較例)のプライマー及びプローブの位置を模式的に説明する図である。
【図6】試験1の第三設計(本発明実施例)のプライマー及びプローブの位置を模式的に説明する図である。
【図7】試験1の第一設計(比較例)のプライマー及びプローブの位置を配列番号1と対比して説明する図である。
【図8】試験1の第一設計(比較例)のプライマー及びプローブの位置を配列番号2と対比して説明する図である。
【図9】試験1の第二設計(比較例)のプライマー及びプローブの位置を配列番号1と対比して説明する図である。
【図10】試験1の第三設計(比較例)のプライマー及びプローブの位置を配列番号2と対比して説明する図である。
【図11】試験1の第三設計(本発明実施例)のプライマー及びプローブの位置を配列番号1と対比して説明する図である。
【図12】試験1の第三設計(本発明実施例)のプライマー及びプローブの位置を配列番号2と対比して説明する図である。
【図13】試験1第一設計(比較例)での増幅プロットを示す。
【図14】試験1第一設計(比較例)での増幅プロットを示す。
【図15】試験1第二設計(比較例)での増幅プロットを示す。
【図16】試験1第二設計(比較例)での検量線を示す。
【図17】試験1第二設計(比較例)での増幅プロットを示す。
【図18】試験1第二設計(比較例)での増幅プロットを示す。
【図19】試験1第二設計(比較例)での検量線を示す。
【図20】試験1第二設計(比較例)での増幅プロットを示す。
【図21】試験1第三設計(本発明実施例)での増幅プロットを示す。
【図22】試験1第三設計(本発明実施例)での検量線を示す。
【図23】試験1第三設計(本発明実施例)での増幅プロットを示す。
【図24】試験1第三設計(本発明実施例)での検量線を示す。
【図25】試験1第三設計(本発明実施例)での増幅プロットを示す。
【図26】試験1第三設計(本発明実施例)での検量線を示す。
【図27】試験1第三設計のうち増幅されないプライマーセットでの増幅プロットを示す。
【図28】試験1第三設計のうち増幅されないプライマーセットでの増幅プロットを示す。
【図29】試験1第三設計のうち増幅されないプライマーセットでの増幅プロットを示す。
【図30】試験1第三設計のうち増幅されないプライマーセットでの増幅プロットを示す。
【図31】試験1第三設計(本発明実施例)での増幅プロットを示す。
【図32】試験1第三設計(本発明実施例)での検量線を示す。
【図33】試験1第三設計(本発明実施例)での増幅プロットを示す。
【図34】試験1第三設計(本発明実施例)での検量線を示す。
【図35】試験1第三設計(本発明実施例)での増幅プロットを示す。
【図36】試験1第三設計(本発明実施例)での検量線を示す。
【図37】試験1第三設計(本発明実施例)での増幅プロットを示す。
【図38】試験1第三設計(本発明実施例)での検量線を示す。
【図39】試験2においてミニ遺伝子のAE9(付加エクソン9)領域に導入された変異1〜5を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1. mRAGE検出用のプライマーセット及びプローブ
配列番号1には、スプライシング後のmRAGEmRNAに対応するcDNAの塩基配列(Genbank Accession Number NM_001136)を示す。配列番号1の第847〜988番の領域がエクソン8、第989〜1015番の領域がエクソン9、第1016〜1142番の領域がエクソン10、第1143〜1414番の領域がエクソン11に相当する。
【0017】
本発明のmRAGE用フォワードプライマーは、エクソン9と10との境界部位(エクソン・ジャンクション)を含む位置に設計され、リバースプライマーはエクソン10と11とのエクソン・ジャンクションを含む位置に設計される。更に、mRAGE検出用プローブはmRAGEに特異的なエクソン10内の位置に設計される。このような組み合わせにより、esRAGE cDNAとクロスハイブリダイズすることなく、特異的にmRAGE cDNAのみを増幅し、検出することが可能となる。
【0018】
mRAGE用フォワードプライマーとしては、特に、配列番号1の第1015番のグアニン(g)と第1016番のグアニン(g)とを少なくとも含む、塩基数15〜25の連続した部分配列からなるポリヌクレオチドが好ましく、配列番号1の第1006番〜第1035番の領域内に含まれる、塩基数15〜25の連続した部分配列からなるポリヌクレオチドがより好ましく、配列番号1の第1010番〜第1033番の領域内に含まれる、塩基数18〜20の連続した部分配列からなるポリヌクレオチドがより好ましい。具体的な配列としては、配列番号11、12又は13で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドが好ましく、配列番号12で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドが最も好ましい。
【0019】
mRAGE用リバースプライマーとしては、特に、配列番号1の第1142番のグアニン(g)と第1143番のグアニン(g)とを少なくとも含む、塩基数15〜25の連続した部分配列の相補配列からなるポリヌクレオチドが好ましく、配列番号1の第1126番〜第1155番の領域内に含まれる、塩基数15〜25の連続した部分配列の相補配列からなるポリヌクレオチドがより好ましく、配列番号1の第1129番〜第1151番の領域内に含まれる、塩基数18〜20の連続した部分配列の相補配列からなるポリヌクレオチドがより好ましい。具体的な配列としては、配列番号14で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドが挙げられる。
【0020】
上記プライマーセットによる増幅産物の検出及び定量法は、TaqMan(登録商標)プローブ法、及びサイクリングプローブ法が好ましいが、これらには限定されず、MGB(minor groove binding protein)プローブ(Applied Biosystems)、LNA(locked nucleic acid)プローブ等を用いた方法も可能である。また、mRAGE成熟mRNAとesRAGE成熟mRNAとが混在していない試料を分析する場合、或いは定量性が要求されない分析の場合には、サイバーグリーン等を用いたインターカレータ法等により増幅産物の検出を行うことができる。
【0021】
以下、TaqMan(登録商標)プローブ法、及びサイクリングプローブ法に特に適したmRAGE検出用プローブについて説明する。
mRAGE検出用プローブとしては、配列番号1の第1041番〜第1142番の領域内に含まれる、塩基数15〜25の連続した部分配列からなり、5’末端及び3’末端の一方に蛍光物質が結合され、他方に消光物質が結合されたポリヌクレオチドが好ましく、配列番号1の第1076番〜第1105番の領域内に含まれる、塩基数15〜25の連続した部分配列からなり、5’末端及び3’末端の一方に蛍光物質が結合され、他方に消光物質が結合されたポリヌクレオチドがより好ましく、配列番号1の第1179番〜第1102番の領域内に含まれる、塩基数19〜21の連続した部分配列からなり、5’末端及び3’末端の一方に蛍光物質が結合され、他方に消光物質が結合されたポリヌクレオチドがより好ましい。具体的には、配列番号15で表される塩基配列からなり、5’末端及び3’末端の一方に蛍光物質が結合され、他方に消光物質が結合されたポリヌクレオチドが好ましい。
【0022】
mRAGE検出用プローブに結合する標識のための蛍光物質及び消光物質としては、TaqMan(登録商標)プローブ法又はサイクリングプローブ法に使用される公知の組み合わせが使用できる。蛍光物質としては例えばFAM(Carboxyfluorescein)、Quasar 670、Quasar 570, Quasar 705, Pulsar 650, TET, HEX, VIC, JOE, CAL Fluor Orenge, CAL Fluor Gold, CAL Fluor Red, TAMRA, ROX, Texas Red, Cy, Cy5などが挙げられる。消光物質としてはBlack-Hole-Quencher 1 (BHQ1)、Black-Hole-Quencher 2 (BHQ2)、Black-Hole-Quencher 3 (BHQ3), DABCYL, TAMRAなどが挙げられる。
【0023】
上述のmRAGE用フォワードプライマー、mRAGE用リバースプライマー、及びmRAGE検出用プローブを構成するポリヌクレオチドはいずれも原則としてDNA (デオキシリボヌクレオチド)である。ただしmRAGE検出用プローブを構成するポリヌクレオチドは、その一部分(好ましくは、連続した数塩基(例えば1〜3塩基)部分、より好ましくは、両端から5塩基以上は離れた位置にある連続した数塩基(例えば1〜2塩基)部分)が等価なRNA (リボヌクレオチド) により置換されたDNA/RNAキメラポリヌクレオチドであってもよい。ここで「等価なRNA」とは、mRAGE検出用プローブの上記ポリヌクレオチド(DNA)配列上の塩基と同一の塩基(ただしチミン(T)はウラシル(U)に置換されてもよい)を有し、かつ糖部分がリボースであるRNAである。DNA/RNAキメラポリヌクレオチドは、「サイクリングプローブ法」に用いることができる。サイクリングプローブ法はRNase Hを用いた高感度な検出法であり、DNA/RNAキメラポリヌクレオチドプローブが増幅産物とハイブリダイズした後に、RNase HによりRNA部分が切断されて発光する蛍光を検出する方法である。TaqMan(登録商標)プローブ法と同様に、増幅産物のリアルタイム検出・定量が可能である。
【0024】
本発明で用いられるポリヌクレオチドは、いずれも通常のDNA自動合成機(例えばアプライドバイオシステム社製)を用いて、公知のDNA合成法(例えばホスホアミダイド法)によって調製することができる。プローブとして用いることができるDNA/RNAキメラポリヌクレオチドもまた、公知の通常の方法で調製することができる。
【0025】
2. esRAGE検出用のプライマーセット及びプローブ
配列番号2には、スプライシング後のesRAGE mRNAに対応するcDNAの塩基配列(Genbank Accession Number AB061668)を示す。配列番号2の第847〜988番の領域がエクソン8、第989〜1015番の領域がエクソン9、第1016〜1097番の領域が付加エクソン9、第1098番から3’末端側の領域がエクソン11に相当する。なお、Genbank Accession Number AB061668ではエクソン11の3’末端側は記載されていないが、実際にはesRAGE cDNAは配列番号1の第1143〜1414番と同一配列のエクソン11を有する。
【0026】
本発明のesRAGE用フォワードプライマーは、エクソン9と付加エクソン9とのエクソン・ジャンクションを含む位置に設計され、リバースプライマーは付加エクソン9とエクソン11とのエクソン・ジャンクションを含む位置に設計される。更に、esRAGE検出用プローブはesRAGEに特異的な付加エクソン9のアンチセンス鎖内の位置に設計される。このような組み合わせにより、mRAGE cDNAとクロスハイブリダイズすることなく、特異的にesRAGE cDNAのみを増幅し、検出することが可能となる。
【0027】
本発明のesRAGE検出用プローブを付加エクソン9のセンス鎖の部分配列ではなく、アンチセンス鎖の部分配列とした理由は次の通りである。esRAGE用のフォワードプライマー及びリバースプライマーはともに付加エクソン9の両端に設定されているため検出用プローブを設定できる範囲が狭いうえに、増幅される領域のセンス鎖はグアニンに富み、グアニンが6塩基連続する部分も含む。グアニン自身は消光物質として作用する場合がある。このため、増幅される領域のセンス鎖内において、5’端がグアニン以外の塩基である、あるいは、グアニンの連続配列を含まない、というTaqManプローブに求められる一般的な条件を満たすプローブ配列を見出すことは困難であった。本発明者らは、増幅領域のアンチセンス鎖内の部分配列がesRAGE検出用プローブ配列として有用であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0028】
esRAGE用フォワードプライマーとしては、特に、配列番号2の第1015番のグアニン(g)と第1016番のグアニン(g)とを少なくとも含み、かつ、第995番〜第1027番の領域内に含まれる、塩基数15〜25の連続した部分配列からなるポリヌクレオチドが好ましく、配列番号2の第1001番〜第1025番の領域内に含まれる、塩基数15〜25の連続した部分配列からなるポリヌクレオチドがより好ましく、配列番号2の第1002番〜第1021番の領域内に含まれる、塩基数15〜18の連続した部分配列からなるポリヌクレオチドがより好ましい。具体的には、配列番号18又は19で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドが好ましい。
【0029】
esRAGE用リバースプライマーとしては、特に、配列番号2の第1097番のグアニン(g)と第1098番のグアニン(g)とを少なくとも含む、塩基数15〜25の連続した部分配列の相補配列からなるポリヌクレオチドが好ましく、配列番号2の第1081番〜第1115番の領域内に含まれる、塩基数15〜25の連続した部分配列の相補配列からなるポリヌクレオチドがより好ましく、配列番号2の第1084番〜第1113番の領域内に含まれる、塩基数19〜21の連続した部分配列の相補配列からなるポリヌクレオチドがより好ましい。具体的には配列番号20又は21で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドが挙げられる。
【0030】
上記プライマーセットによる増幅産物の検出及び定量法は、TaqMan(登録商標)プローブ法、及びサイクリングプローブ法が好ましいが、これらには限定されず、上記「1. mRAGE検出用のプライマーセット及びプローブ」の欄において記載した各種方法が採用できる。
【0031】
以下、TaqMan(登録商標)プローブ法、及びサイクリングプローブ法に特に適したesRAGE検出用プローブについて説明する。
esRAGE検出用プローブとしては、特に、配列番号2の第1011番〜第1070番の領域内に含まれる、塩基数15〜35の連続した部分配列の相補配列からなり、5’末端及び3’末端の一方に蛍光物質が結合され、他方に消光物質が結合されたポリヌクレオチドが好ましく、配列番号2の第1011番〜第1050番の領域内に含まれる、塩基数15〜35の連続した部分配列の相補配列からなり、5’末端及び3’末端の一方に蛍光物質が結合され、他方に消光物質が結合されたポリヌクレオチドがより好ましく、配列番号2の第1014番〜第1043番の領域内に含まれる、塩基数27〜29の連続した部分配列の相補配列からなり、5’末端及び3’末端の一方に蛍光物質が結合され、他方に消光物質が結合されたポリヌクレオチドがより好ましい。具体的には、配列番号22で表される塩基配列からなり、5’末端及び3’末端の一方に蛍光物質が結合され、他方に消光物質が結合されたポリヌクレオチドが好ましい。
【0032】
esRAGE検出用プローブに結合する標識のための蛍光物質及び消光物質としては、mRAGE検出用プローブに関して上述したものと同様のものが使用できる。ただし、esRAGE検出用プローブとmRAGE検出用プローブとを同時に使用する実施形態においては、両プローブに結合させる蛍光物質は、互いに検出波長が異なる物質である必要がある。
【0033】
上述のesRAGE用フォワードプライマー、esRAGE用リバースプライマー、及びesRAGE検出用プローブを構成するポリヌクレオチドはいずれも原則としてDNA (デオキシリボヌクレオチド)である。ただしesRAGE検出用プローブを構成するポリヌクレオチドは、その一部分(好ましくは、連続した数塩基(例えば1〜3塩基)部分、より好ましくは、両端から5塩基以上は離れた位置にある連続した数塩基(例えば1〜2塩基)部分)が等価なRNA (リボヌクレオチド) により置換されたDNA/RNAキメラポリヌクレオチドであってもよい。ここで「等価なRNA」とは、esRAGE検出用プローブの上記ポリヌクレオチド(DNA)配列上の塩基と同一の塩基(ただしチミン(T)はウラシル(U)に置換されてもよい)を有し、かつ糖部分がリボースであるRNAである。このようなDNA/RNAキメラポリヌクレオチドは、「サイクリングプローブ法」に用いることができる。
【0034】
3. 測定手順
本発明のプライマーセットを用いることにより、mRAGE成熟mRNA又はcDNAと、esRAGE成熟mRNA又はcDNAとを含んでいる可能性のある被検試料から、一方のみを選択的に増幅することができる。また、両者を増幅した後に選択的に検出することもできる。
【0035】
被検試料がmRNAを含む試料である場合、本発明の検出方法は、当該試料から逆転写酵素を用いてcDNAを調製する工程と、cDNA含有試料を鋳型とし、mRAGE及び/又はesRAGE増幅用のプライマーセットとDNAポリメラーゼとを用いたPCR法により、増幅を行う工程とを含む。被検試料が細胞又は生体組織である場合、当該試料から通常の方法によりTotal RNAを抽出した後、逆転写酵素を用いた通常の方法によりcDNAを調製すればよい。PCR法における各条件(反応液の濃度及び量、並びに、変性、アニーリング、伸長の各段階の温度、時間、サイクル数等)は当業者が適宜決定することができる。特に好ましい条件としては以下のものが挙げられる。PCR法に供する反応液には、各プライマー及びプローブがそれぞれ100nMの濃度で含まれていることが好ましい。反応液の全量は好ましくは25μlである。逆転写反応液(cDNA含有液)を添加して反応液を調製する場合には、逆転写反応液の添加量は反応液全量の10%(v/v)以下であることが好ましい。PCR条件の特に好ましい条件としては、例えば、95℃・10分間のインキュベーション後、95℃・30秒間、60℃・1分間の反応を40サイクル行うという条件が挙げられる。
【0036】
増幅産物の検出・定量をTaqMan(登録商標)プローブ法により実施するには、本発明のmRAGE用プライマーセット及び/又はesRAGE用プライマーセットと、本発明のmRAGE検出用プローブ及び/又はesRAGE検出用プローブと、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を備えるDNAポリメラーゼとの存在下でPCRを行い、DNAポリメラーゼによりこれらのプローブが分解されたときに発せられる蛍光を、通常用いられる検出手段により検出し測定する。
【0037】
増幅産物の検出・定量をサイクリングプローブ法により実施するには、本発明のmRAGE用プライマーセット及び/又はesRAGE用プライマーセットと、DNA/RNAキメラポリヌクレオチドである本発明のmRAGE検出用プローブ及び/又はesRAGE検出用プローブと、DNAポリメラーゼと、RNase Hとの存在下でPCRを行い、RNase Hによりこれらのプローブが分解されたときに発せられる蛍光を、通常用いられる検出手段により検出し測定する。
【0038】
4. 用途
本発明によれば、mRAGEの発現量と、esRAGEの発現量とを区別して検出することが可能であるため、生体組織又は細胞中でのmRAGE量及びesRAGE量を高精度に評価することが可能となる。
【0039】
また、RAGE遺伝子又は図3に示すようなRAGE遺伝子の3’末端側のみを含むミニ遺伝子を一時的または永続的に発現する生体組織又は細胞を用意し、該生体組織又は細胞に薬物候補物質を付与し、一定時間経過後にmRAGE量又はesRAGE量の変化を測定することにより、薬物候補物質がmRAGE量又はesRAGE量に与える影響を評価することができる。その結果、mRAGE又はesRAGEが関与する疾患の治療薬のスクリーニングが可能となると期待される。
【実施例】
【0040】
試験1:既知濃度プラスミドを用いた試験
膜型RAGE(mRAGE)と 分泌型RAGE(esRAGE)とを識別して検出することができるリアルタイムPCR用のプライマーセットおよびプローブの組み合わせを検討した。
【0041】
定量のための標準試料としてはmRAGE検出系に関しては、mRAGE cDNAをコードする既知濃度プラスミド、esRAGE検出系に関しては、esRAGE cDNAをコードする既知濃度プラスミドを用いた。本試験ではpCR2.1 (Invitrogen)にmRAGE cDNA又はesRAGE cDNA全長を組込んだものをそれぞれ、mRAGE cDNAプラスミド又はesRAGE cDNAプラスミドとして使用した(非特許文献2参照)。
【0042】
mRAGE検出系に及ぼすesRAGE混在の影響、およびmRAGE検出系に及ぼすesRAGE混在の影響を確認するために、mRAGE cDNAプラスミドとesRAGE cDNAプラスミドとを含む試料を鋳型として増幅反応を行った。
【0043】
リアルタイムPCR反応(TaqMan(商標)プローブ法)および解析はmodel Mx3005P real time PCR system (Agilent Technologies 社)を用いて行った。増幅条件は、はじめに95℃,10分間のポリメラーゼ活性化ステップを行い、続いて95℃,30秒間、60℃, 1分間のサイクルを40サイクル行った。
【0044】
1. 第一設計(図4)
mRAGEとesRAGEが共通して有するエクソン8のセンス鎖の部分配列となるようにフォワードプライマーを設計し、mRAGEとesRAGEが共通して有するエクソン11のアンチセンス鎖の部分配列となるようにリバースプライマーを設計した。プローブは、mRAGE、esRAGEのそれぞれに特有のエクソン・ジャンクションを含む領域のセンス鎖の部分配列となるように設計した。これらのプライマーセット、検出プローブの構成を図4に模式図を示す。
【0045】
プローブmRAGE-FAM1およびesRAGE-CAL1は共にバイオリサーチ・テクノロジー社により製造された。mRAGE-FAM1は5’端を蛍光物質であるFAM (Carboxyfluorescein)で、3’端をクエンチャー(消光物質)であるBlack-Hole-Quencher 1 (BHQ1)で標識した後、HPLC精製して調製した。esRAGE-CAL1は5’端を蛍光物質であるCAL Fluor Orenge 560で、3’端をクエンチャー(消光物質)であるBlack-Hole-Quencher 1 (BHQ1)で標識した後、HPLC精製して調製した。
【0046】
具体的な配列を表に示す。図7、8には、プライマーセットおよびプローブのmRAGE cDNA配列、esRAGE cDNA配列との関係を示す。
【0047】
【表1】
【0048】
結果
図13に、mRAGE cDNAプラスミド1x104コピーを含有する試料を鋳型とし、フォワードプライマーとしてRAGE 5’を、リバースプライマーとしてRAGE 3’を、プローブとしてmRAGE-FAM1を使用してリアルタイムPCRを行ったときの、サイクル数と蛍光強度の関係を示す。Ct値は29であった。
【0049】
図14に、mRAGE cDNAプラスミド1x104コピーと、esRAGE cDNAプラスミド10、102、103、104、105、106、107、108、109、または1010コピーとを共存させた系に、上記のプライマーセット及びmRAGE検出用プローブを使用して同条件でリアルタイムPCRを行ったときの、サイクル数と蛍光強度の関係を示す。esRAGE(competitor)の量が増加するに従い、Ct値が小さくなることがわかる。この現象は、mRAGE検出用プローブmRAGE-FAM1のうち5’側領域のみがesRAGEの増幅産物にクロスハイブリダイズすることが原因であると推測される(図4)。この設計では、mRAGEとesRAGEとを区別して検出することが困難であると考えられる。
【0050】
2. 第二設計(図5)
mRAGEとesRAGEが共通して有するエクソン8とエクソン9とのエクソン・ジャンクションを含む領域のセンス鎖の部分配列となるようにフォワードプライマーを設計し、mRAGEとesRAGEが共通して有するエクソン11のアンチセンス鎖の部分配列となるようにリバースプライマーを設計した。プローブは、mRAGE、esRAGEのそれぞれに特有のエクソンであるエクソン10、追加エクソン9のセンス鎖の部分配列となるように設計した。これらのプライマーセット、検出プローブの構成を図5に模式図を示す。
【0051】
プローブmRAGE-FAM2およびesRAGE-CAL2は共にバイオリサーチ・テクノロジー社により製造された。mRAGE-FAM2は5’端を蛍光物質であるFAM(Carboxyfluorescein)で、3’端をクエンチャー(消光物質)であるBlack-Hole-Quencher 1 (BHQ1)で標識した後、HPLC精製して調製した。esRAGE-CAL2は5’端を蛍光物質であるCAL Fluor Orange 560で、3’端をクエンチャー(消光物質)であるBlack-Hole-Quencher 1 (BHQ1)で標識した後、HPLC精製して調製した。
【0052】
具体的な配列を示す。図9、10には、プライマーセットおよびプローブのmRAGE cDNA配列、esRAGE cDNA配列との関係を示す。
【0053】
【表2】
【0054】
結果
esRAGE cDNAプラスミドを1x102、104、106、108コピー含有する試料を鋳型として、上記フォワードプライマー、リバースプライマー、esRAGE用プローブを用いてリアルタイムPCRを行ったところ、コピー数の増加に応じてCt値が減少し、正常な検量線を作成することができた(図15、16)。
【0055】
esRAGE cDNAプラスミドを1x102、104、106、108コピーと、mRAGE cDNAプラスミドを1x107コピーとを共存させた試料について上記フォワードプライマー、リバースプライマー、esRAGE用プローブを用いてリアルタイムPCRを行った。esRAGE cDNAプラスミドのコピー数が1x104以下ではCt値が得られず(図17)、このため、信頼できる検量線を作成することができなかった。すなわちmRAGE cDNAがesRAGE cDNAに対して過剰に存在するとmRAGEの増幅効率が著しく低下した。
【0056】
一方、mRAGE cDNAプラスミドを1x102、104、106、108コピー含有する試料を鋳型として、上記フォワードプライマー、リバースプライマー、mRAGE用プローブを用いてリアルタイムPCRを行ったところ、コピー数の増加に応じてCt値が減少し、正常な検量線を作成することができた(図18、19)。更に、mRAGE cDNAプラスミドを1x102、104、106、108コピーと、esRAGE cDNAプラスミドを1x107コピーとを共存させた試料について上記フォワードプライマー、リバースプライマー、mRAGE用プローブを用いてリアルタイムPCRを行った。mRAGE cDNAプラスミドのコピー数が1x106以下ではCt値が得られず(図20)、検量線を作成することができなかった。すなわちesRAGE cDNAがmRAGE cDNAに対して10倍以上多くなるとmRAGEの増幅効率が著しく低下した。
【0057】
以上の現象は、プライマーがmRAGEとesRAGEとの間で競合して利用されたことが原因であると推測される。この設計では、mRAGEとesRAGEとを区別して増幅することが困難であると考えられる。
【0058】
3. 第三設計(図6)
mRAGE増幅用フォワードプライマーは、mRAGEに特異的なエクソン9とエクソン10とのエクソン・ジャンクションを含む領域のセンス鎖の部分配列となるように設計した。mRAGE増幅用リバースプライマーは、mRAGEに特異的なエクソン10とエクソン11とのエクソン・ジャンクションを含む領域のアンチセンス鎖の部分配列となるように設計した。mRAGE検出用プローブは、mRAGEに特異的なエクソン10のセンス鎖の部分配列となるように設計した。
【0059】
esRAGE増幅用フォワードプライマーは、esRAGEに特異的なエクソン9と付加エクソン9との境界を含む領域のセンス鎖の部分配列となるように設計した。esRAGE増幅用リバースプライマーは、esRAGEに特異的な付加エクソン9とエクソン11とのエクソン・ジャンクションを含む領域のアンチセンス鎖の部分配列となるように設計した。esRAGE検出用プローブは、esRAGEに特異的な付加エクソン9のアンチセンス鎖および隣接するエクソン9アンチセンス鎖の5’末端塩基の部分配列となるように設計した。
【0060】
これらのプライマーセット、検出プローブの構成を図6に模式的に示す。各プライマーの3’末端側がmRAGEまたはesRAGEに特異的な領域に対応し、5’末端側がmRAGEおよびesRAGEに共通する領域に対応するように設計されている。
【0061】
プローブmRAGE-FAM2およびesRAGE-AS-Quasarは共にバイオリサーチ・テクノロジー社により製造された。mRAGE-FAM2は5’端を蛍光物質であるFAM (Carboxyfluorescien) で、3’端をクエンチャー(消光物質)であるBlack-Hole-Quencher 1 (BHQ1)で標識した後、HPLC精製して調製した。なお、第三設計で用いたプローブmRAGE-FAM2は第二設計で用いたプローブmRAGE-FAM2と同一である。esRAGE-AS-Quasarは5’端を蛍光物質であるQuasar 670で、3’端をクエンチャー(消光物質)であるBlack-Hole-Quencher 2 (BHQ2)で標識した後、HPLC精製して調製した。
【0062】
具体的な配列を表に示す。図11、12には、プライマーセットおよびプローブのmRAGE cDNA配列、esRAGE cDNA配列との関係を示す。
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】
【0065】
結果1:mRAGE cDNAプラスミドの増幅
mRAGE cDNAプラスミドを1 x 102コピー、1 x 104コピー、または1 x 106コピー含有する試料を鋳型とし、上記mRAGE増幅用フォワードプライマー(mRAGE 5’J-1、mRAGE 5’J-2、またはmRAGE 5’J-3)、リバースプライマー(mRAGE 3’J)、プローブ(mRAGE-FAM2)を用いてリアルタイムPCRを行った。更に、1 x 105コピーのesRAGE cDNAプラスミドを共存させた試料を用いて同様にリアルタイムPCRを行った。増幅プロットを図21、23、25に、検量線を図22、24、26に示す。
結果を次表にまとめる
【0066】
【表5】
【0067】
結果2:esRAGE cDNAプラスミドの増幅
esRAGE cDNAプラスミドを1 x 104コピー、1 x 106または1 x 108コピー含有する試料を鋳型とし、上記esRAGE増幅用フォワードプライマー(esRAGE 5’J-1、esRAGE 5’J-2、esRAGE 5’J-3、またはesRAGE 5’J-4)、リバースプライマー(esRAGE 3’J-1、またはesRAGE 3’J-2)、プローブ(esRAGE-AS-Quasar)を用いてリアルタイムPCRを行った。更に、2 x 108コピーのmRAGE cDNAプラスミドを共存させた試料を用いて同様にリアルタイムPCRを行った。ただし、esRAGE増幅用フォワードプライマーとしてesRAGE 5’J-1を、リバースプライマーとしてesRAGE 3’J-1を用いた場合については、esRAGE cDNAプラスミドを1 x 102コピー、1 x 104コピー、または1 x 106コピー含有し、mRAGE cDNAプラスミドが含まれない試料を鋳型としてリアルタイムPCRを行った。増幅プロットを図27〜31、33、35、37に示す。増幅が進行した場合には検量線を作成した。作成された検量線を図32、34、36、38に示す。
結果を次表にまとめる
【0068】
【表6】
【0069】
試験2:細胞により選択的スプライシングを経て産生されたmRAGE/esRAGE混合物の分析
CMV(cytomegalovirus)プロモーターの制御下にEGFP(enhanced green fluorescence protein)とヒトRAGE遺伝子 (Genbank Accession No. D28769)のうち、エクソン8〜11およびそれらの間のイントロンを含む領域(ミニ遺伝子)を連結した構築物を含む発現プラスミド(pEGFP-RAGEmg)を調製した(図3)。当該発現プラスミドをエレクトロポーレーション法によりヒト微小血管内皮初代培養細胞(human microvascular endothelial cell, HMVEC)に導入した。HMVEC細胞を5%二酸化炭素存在下、37℃で48時間培養した。本試験では、図3に示す野生型ミニ遺伝子および、その付加エクソン(AE) 9領域に5種類の変異(変異1〜5)を導入したミニ遺伝子を用意し、それぞれをHMVECにトランスフェクションして、esRAGEの発現量、mRAGEの発現量をそれぞれ調べた。変異1〜5の導入箇所は図39の枠で囲った部分である。変異1〜5導入後の配列を図39の各枠内の下段に示す。1種類の変異について6回の試験を行った。何もトランスフェクションされていないHMVECをサンプル1〜6、野生型ミニ遺伝子をトランスフェクションしたHMVECをサンプル7〜12、変異1が導入されたミニ遺伝子をトランスフェクションしたHMVECをサンプル13〜18、変異2が導入されたミニ遺伝子をトランスフェクションしたHMVECをサンプル19〜24、変異3が導入されたミニ遺伝子をトランスフェクションしたHMVECをサンプル25〜30、変異4が導入されたミニ遺伝子をトランスフェクションしたHMVECをサンプル31〜36、変異5が導入されたミニ遺伝子をトランスフェクションしたHMVECをサンプル37〜42とした。
【0070】
培養された細胞から、RNeasy Plus Mini Kit (QIAGEN社)を用い、キットのインストラクションに従って、total RNAを抽出・精製した。
精製されたtotal RNAをAffinityScriptTM QPCR cDNA Synthesis Kit (Agilent Technologies社)を用い、キット添付のランダム・ヘキサマーをプライマーとして逆転写反応を行い、cDNAを合成した。逆転写反応の温度・時間は標準の条件である42℃、15分で行った。
【0071】
12.5μlの2×BrilliantII QPCR Master Mix (Agilent Technologies社)と、上記逆転写反応液の一部を含む25μlの反応系を調製した。反応系に含まれる最適化されたプライマーおよびプローブの終濃度は以下の通り。各プライマー、プローブの構造は試験1第三設計に記載の通りである。
【0072】
【表7】
【0073】
定量のための標準試料として、試験1で用いたのと同じ、mRAGE cDNAをコードする既知濃度プラスミドと、esRAGE cDNAをコードする既知濃度プラスミドとを用いた。
【0074】
各サンプルの逆転写反応物に含まれるmRAGE、esRAGEのcDNAコピー数を次表に示す。このようにして、各サンプルについてmRAGE の成熟mRNA量と、esRAGE の成熟mRNA量とをそれぞれ定量することができることが確認された。
【0075】
【表8】
【配列表フリーテキスト】
【0076】
配列番号3: プライマー
配列番号4: プライマー
配列番号5: プローブ
配列番号6: プローブ
配列番号7: プライマー
配列番号8: プライマー
配列番号9: プローブ
配列番号10: プローブ
配列番号11: プライマー
配列番号12: プライマー
配列番号13: プライマー
配列番号14: プライマー
配列番号15: プローブ
配列番号16: プライマー
配列番号17: プライマー
配列番号18: プライマー
配列番号19: プライマー
配列番号20: プライマー
配列番号21: プライマー
配列番号22: プローブ
【技術分野】
【0001】
本発明は後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(Receptor for advanced gylcation endproducts)(以下「RAGE」と称する場合がある)の2種類のスプライシングバリアントである膜結合型RAGE(以下「mRAGE」と称する場合がある)の成熟mRNAおよび内在性分泌型RAGE(以下「esRAGE」と称する場合がある)の成熟mRNAを区別してポリメラーゼ連鎖反応(以下「PCR」と称する場合がある)により増幅することができるプライマーセット及び、定量的PCRのための、リアルタイムPCR用プローブを提供する。
【背景技術】
【0002】
mRAGEは、Sternらのグループにより、AGE (advanced gylcation endproducts, 後期糖化反応生成物)の細胞表面特異受容体として分離されその一次構造が決定された(非特許文献1)。mRAGEは,イムノグロブリンスーパーファミリーに属する1回膜貫通型の受容体で、V,C1,C2の3つのイムノグロブリンドメインからなる細胞外領域と短い細胞内領域とを有する。AGEとはグルコースなどの還元糖とタンパク質のアミノ基との非酵素的な反応、グリケーションによって生ずる構造体の総称であり、糖尿病合併症、動脈硬化、神経変性疾患さらには老化にも関与すると注目されているものである。膜結合型RAGEにAGEが結合すると、活性酸素種の産生を経て転写因子NFκBの活性化を引き起こし、血管障害性の遺伝子群の活性化をおこすと考えられている。
【0003】
RAGEの分子量は当初35 kDaとされたが、これは精製途中で分解されたものと考えられ、現在では糖鎖修飾を受けたヒトRAGEの完全長は55 kDaであることが分かっている。RAGEは免疫グロブリンスーパーファミリーに属し、細胞外領域に3つのイムノグロブリン様ドメインを持つ。そして最もN末端にあるイムノグロブリン可変領域様ドメイン部分の内部にAGEリガンド結合部位がある。近年、RAGEはマルチリガンドレセプターとして認識されるに至り、AGE以外のリガンドとして、アルツハイマー病の脳に蓄積するアルツハイマー・アミロイドタンパク、癌転移との関連および炎症との関連が指摘されているhigh mobility group box 1 (HMGB-1)、免疫系細胞から分泌される炎症メディエーターS100/calgranulinなどが報告され、RAGEとこれらのリガンドとの結合により生じるシグナルが様々な病態に関与する可能性が考えられている。(図1参照)
【0004】
本発明者らは、RAGEには一つの遺伝子から選択的スプライシングによって作り出される新しい分子種が存在することを見出している。以前から知られている完全長膜結合型RAGEに比べ、後に見出されたアイソフォームの一つはC端側の膜貫通領域を欠き分泌型となるRAGEである。この分泌型RAGEタンパクは血管内皮培養細胞から実際に分泌され、ヒトの血中や様々な組織にも存在することより、内在性分泌型RAGE(endogenous secretory RAGE, esRAGE)と命名された(特許文献1)。esRAGEはリガンド結合部位を持つため、細胞外でリガンドを捕捉することによりリガンドと細胞表面の膜型RAGEとの結合を阻害する働きを持つと考えられる。すなわち、esRAGEはデコイ型レセプターとして働き、疾患関連リガンドとmRAGEとの結合により生じるシグナル伝達を軽減させる働きを有すると考えられている。(図1参照)
【0005】
ヒトRAGE遺伝子の全配列はGenbank Accession No. D28769として登録されている。RAGE遺伝子はエクソン1〜11を有することが知られている。RAGE遺伝子から転写されたmRNAは核内で選択的にスプライシングを受け、mRAGEの成熟mRNAと、esRAGEの成熟mRNAとが生じる。図2に示すように、mRAGEの成熟mRNAの3’末端領域は、エクソン8−エクソン9−エクソン10−エクソン11から構成される。一方、esRAGEの成熟mRNAの3’末端領域は、エクソン8−エクソン9−付加エクソン9-エクソン11から構成される(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-125786号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. Biol. Chem. 267: 14998-15004 (1992)
【非特許文献2】Biochem. J. 370: 1097-1109 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
生体試料においてmRAGEの成熟mRNAと、esRAGEの成熟mRNAとは混在して含まれていることが通常である。しかしながら両者は構造の大部分が同一であるため、区別して検出し、定量することは容易ではない。しかも、生体試料中にはスプライシング前の未成熟のmRNAも混在しているため、識別はより一層困難である。mRAGEの発現量と、esRAGEの発現量とを区別して検出・定量することが可能となれば、生体組織又は細胞中でのmRAGE量及びesRAGE量を評価することが可能となる。また、薬物候補物質を生体組織又は細胞に付与したときのmRAGE量又はesRAGE量に与える影響を評価することが可能となるため、mRAGE又はesRAGEが関与する疾患の治療薬のスクリーニングに応用することができる。
【0009】
そこで本発明は、mRAGEの成熟mRNAとesRAGEの成熟mRNAとをPCRにより識別して検出・定量するためのプライマーおよびプローブ、ならびにこれらを用いた検出・定量方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らはmRAGEの成熟mRNAとesRAGEの成熟mRNAに対応するcDNAをクロスハイブリダイズすることなく区別して識別することが可能なプライマーおよびプローブの組み合わせを検討した。
【0011】
まず、mRAGE成熟mRNAとesRAGE成熟mRNAの共通の領域にプライマーを設定し、それぞれに特異的な領域に検出プローブを設定した(実施例記載の第一設計(図4)及び第二設計(図5)参照)。スプライシングを受ける前の未成熟mRNAおよびゲノムDNAが検出される事を防ぐために、第一設計では図4に示すように検出プローブをエクソン・ジャンクションに設定し、第二設計では図5に示すように5’プライマーをエクソン・ジャンクションに設定した。しかし予想外なことに、第一設計では、検出プローブのクロスハイブリダイズが生じたため、mRAGE成熟mRNAのcDNAとesRAGE成熟mRNAのcDNAとを識別して増幅し検出することができなかった。また、第二設計では、検出プローブのクロスハイブリダイズは回避されたが、プライマーがmRAGE cDNAとesRAGE cDNAの増幅に競合して使用されるため、どちらかが過剰に存在すると、もう一方の増幅効率が著しく低下する現象が見られ、両者が共存する通常の生体試料についての定量は困難と思われた。
【0012】
そこで本発明者らは更に鋭意検討し、mRAGE成熟mRNAのcDNAとesRAGE成熟mRNAのcDNAとを識別して増幅可能なプライマー及びリアルタイムPCR検出用プローブの組み合わせを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は以下の発明を包含する。
【0013】
(1) 膜結合型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(mRAGE)の成熟mRNAに対応するcDNAをポリメラーゼ連鎖反応により増幅するためのプライマーセットであって、
配列番号1の第1015番のグアニン(g)と第1016番のグアニン(g)とを少なくとも含む、塩基数15〜25の連続した部分配列からなるポリヌクレオチドであるmRAGE用フォワードプライマーと、
配列番号1の第1142番のグアニン(g)と第1143番のグアニン(g)とを少なくとも含む、塩基数15〜25の連続した部分配列の相補配列からなるポリヌクレオチドであるmRAGE用リバースプライマーと
を含むプライマーセット。
(2) 膜結合型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(mRAGE)の成熟mRNAを検出するためのキットであって、
(1)のプライマーセットと、
配列番号1の第1041番〜第1142番の領域内に含まれる、塩基数15〜25の連続した部分配列からなり、5’末端及び3’末端の一方に蛍光物質が結合され、他方に消光物質が結合されたポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドの一部分が等価なRNAに置換されたDNA/RNAキメラポリヌクレオチドであるmRAGE検出用プローブと
を含むキット。
(3) 内在性分泌型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(esRAGE)の成熟mRNAに対応するcDNAをポリメラーゼ連鎖反応により増幅するためのプライマーセットであって、
配列番号2の第1015番のグアニン(g)と第1016番のグアニン(g)とを少なくとも含み、かつ、第995番〜第1027番の領域内に含まれる、塩基数15〜25の連続した部分配列からなるポリヌクレオチドであるesRAGE用フォワードプライマーと、
配列番号2の第1097番のグアニン(g)と第1098番のグアニン(g)とを少なくとも含む、塩基数15〜25の連続した部分配列の相補配列からなるポリヌクレオチドであるesRAGE用リバースプライマーと
を含むプライマーセット。
(4) 内在性分泌型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(esRAGE)の成熟mRNAを検出するためのキットであって、
(3) のプライマーセットと、
配列番号2の第1011番〜第1070番の領域内に含まれる、塩基数15〜35の連続した部分配列の相補配列からなり、5’末端及び3’末端の一方に蛍光物質が結合され、他方に消光物質が結合されたポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドの一部分が等価なRNAに置換されたDNA/RNAキメラポリヌクレオチドであるesRAGE検出用プローブと
を含むキット。
(5) (2)のキットと、(4) のキットとが組み合わされた、膜結合型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(mRAGE)及び内在性分泌型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(esRAGE)の成熟mRNAを検出するためのキット。
(6) (2)のキット又は(5)のキットを用いて、膜結合型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(mRAGE)の成熟mRNAと、内在性分泌型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(esRAGE)の成熟mRNAとを含んでいる可能性のある試料中のmRAGEの成熟mRNAを検出する方法。
(7) (4)のキット又は(5)のキットを用いて、膜結合型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(mRAGE)の成熟mRNAと、内在性分泌型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(esRAGE)の成熟mRNAとを含んでいる可能性のある試料中のesRAGEの成熟mRNAを検出する方法。
(8) (5)のキットを用いて、膜結合型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(mRAGE)の成熟mRNAと、内在性分泌型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(esRAGE)の成熟mRNAとを含んでいる可能性のある試料中のesRAGE及びesRAGEの成熟mRNAを検出する方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、mRAGEの成熟mRNAとesRAGEの成熟mRNAとをPCRにより識別して検出・定量するためのプライマーおよびプローブ、ならびにこれらを用いた検出・定量方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】mRAGEとesRAGEのリガンドに対する挙動を模式的に示す。
【図2】mRAGEmRNAとesRAGEmRNAの構造を模式的に示す。
【図3】試験2に用いたRAGEミニ遺伝子の構造およびスプライシングについて模式的に説明する図である。
【図4】試験1の第一設計(比較例)のプライマー及びプローブの位置を模式的に説明する図である。
【図5】試験1の第二設計(比較例)のプライマー及びプローブの位置を模式的に説明する図である。
【図6】試験1の第三設計(本発明実施例)のプライマー及びプローブの位置を模式的に説明する図である。
【図7】試験1の第一設計(比較例)のプライマー及びプローブの位置を配列番号1と対比して説明する図である。
【図8】試験1の第一設計(比較例)のプライマー及びプローブの位置を配列番号2と対比して説明する図である。
【図9】試験1の第二設計(比較例)のプライマー及びプローブの位置を配列番号1と対比して説明する図である。
【図10】試験1の第三設計(比較例)のプライマー及びプローブの位置を配列番号2と対比して説明する図である。
【図11】試験1の第三設計(本発明実施例)のプライマー及びプローブの位置を配列番号1と対比して説明する図である。
【図12】試験1の第三設計(本発明実施例)のプライマー及びプローブの位置を配列番号2と対比して説明する図である。
【図13】試験1第一設計(比較例)での増幅プロットを示す。
【図14】試験1第一設計(比較例)での増幅プロットを示す。
【図15】試験1第二設計(比較例)での増幅プロットを示す。
【図16】試験1第二設計(比較例)での検量線を示す。
【図17】試験1第二設計(比較例)での増幅プロットを示す。
【図18】試験1第二設計(比較例)での増幅プロットを示す。
【図19】試験1第二設計(比較例)での検量線を示す。
【図20】試験1第二設計(比較例)での増幅プロットを示す。
【図21】試験1第三設計(本発明実施例)での増幅プロットを示す。
【図22】試験1第三設計(本発明実施例)での検量線を示す。
【図23】試験1第三設計(本発明実施例)での増幅プロットを示す。
【図24】試験1第三設計(本発明実施例)での検量線を示す。
【図25】試験1第三設計(本発明実施例)での増幅プロットを示す。
【図26】試験1第三設計(本発明実施例)での検量線を示す。
【図27】試験1第三設計のうち増幅されないプライマーセットでの増幅プロットを示す。
【図28】試験1第三設計のうち増幅されないプライマーセットでの増幅プロットを示す。
【図29】試験1第三設計のうち増幅されないプライマーセットでの増幅プロットを示す。
【図30】試験1第三設計のうち増幅されないプライマーセットでの増幅プロットを示す。
【図31】試験1第三設計(本発明実施例)での増幅プロットを示す。
【図32】試験1第三設計(本発明実施例)での検量線を示す。
【図33】試験1第三設計(本発明実施例)での増幅プロットを示す。
【図34】試験1第三設計(本発明実施例)での検量線を示す。
【図35】試験1第三設計(本発明実施例)での増幅プロットを示す。
【図36】試験1第三設計(本発明実施例)での検量線を示す。
【図37】試験1第三設計(本発明実施例)での増幅プロットを示す。
【図38】試験1第三設計(本発明実施例)での検量線を示す。
【図39】試験2においてミニ遺伝子のAE9(付加エクソン9)領域に導入された変異1〜5を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1. mRAGE検出用のプライマーセット及びプローブ
配列番号1には、スプライシング後のmRAGEmRNAに対応するcDNAの塩基配列(Genbank Accession Number NM_001136)を示す。配列番号1の第847〜988番の領域がエクソン8、第989〜1015番の領域がエクソン9、第1016〜1142番の領域がエクソン10、第1143〜1414番の領域がエクソン11に相当する。
【0017】
本発明のmRAGE用フォワードプライマーは、エクソン9と10との境界部位(エクソン・ジャンクション)を含む位置に設計され、リバースプライマーはエクソン10と11とのエクソン・ジャンクションを含む位置に設計される。更に、mRAGE検出用プローブはmRAGEに特異的なエクソン10内の位置に設計される。このような組み合わせにより、esRAGE cDNAとクロスハイブリダイズすることなく、特異的にmRAGE cDNAのみを増幅し、検出することが可能となる。
【0018】
mRAGE用フォワードプライマーとしては、特に、配列番号1の第1015番のグアニン(g)と第1016番のグアニン(g)とを少なくとも含む、塩基数15〜25の連続した部分配列からなるポリヌクレオチドが好ましく、配列番号1の第1006番〜第1035番の領域内に含まれる、塩基数15〜25の連続した部分配列からなるポリヌクレオチドがより好ましく、配列番号1の第1010番〜第1033番の領域内に含まれる、塩基数18〜20の連続した部分配列からなるポリヌクレオチドがより好ましい。具体的な配列としては、配列番号11、12又は13で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドが好ましく、配列番号12で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドが最も好ましい。
【0019】
mRAGE用リバースプライマーとしては、特に、配列番号1の第1142番のグアニン(g)と第1143番のグアニン(g)とを少なくとも含む、塩基数15〜25の連続した部分配列の相補配列からなるポリヌクレオチドが好ましく、配列番号1の第1126番〜第1155番の領域内に含まれる、塩基数15〜25の連続した部分配列の相補配列からなるポリヌクレオチドがより好ましく、配列番号1の第1129番〜第1151番の領域内に含まれる、塩基数18〜20の連続した部分配列の相補配列からなるポリヌクレオチドがより好ましい。具体的な配列としては、配列番号14で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドが挙げられる。
【0020】
上記プライマーセットによる増幅産物の検出及び定量法は、TaqMan(登録商標)プローブ法、及びサイクリングプローブ法が好ましいが、これらには限定されず、MGB(minor groove binding protein)プローブ(Applied Biosystems)、LNA(locked nucleic acid)プローブ等を用いた方法も可能である。また、mRAGE成熟mRNAとesRAGE成熟mRNAとが混在していない試料を分析する場合、或いは定量性が要求されない分析の場合には、サイバーグリーン等を用いたインターカレータ法等により増幅産物の検出を行うことができる。
【0021】
以下、TaqMan(登録商標)プローブ法、及びサイクリングプローブ法に特に適したmRAGE検出用プローブについて説明する。
mRAGE検出用プローブとしては、配列番号1の第1041番〜第1142番の領域内に含まれる、塩基数15〜25の連続した部分配列からなり、5’末端及び3’末端の一方に蛍光物質が結合され、他方に消光物質が結合されたポリヌクレオチドが好ましく、配列番号1の第1076番〜第1105番の領域内に含まれる、塩基数15〜25の連続した部分配列からなり、5’末端及び3’末端の一方に蛍光物質が結合され、他方に消光物質が結合されたポリヌクレオチドがより好ましく、配列番号1の第1179番〜第1102番の領域内に含まれる、塩基数19〜21の連続した部分配列からなり、5’末端及び3’末端の一方に蛍光物質が結合され、他方に消光物質が結合されたポリヌクレオチドがより好ましい。具体的には、配列番号15で表される塩基配列からなり、5’末端及び3’末端の一方に蛍光物質が結合され、他方に消光物質が結合されたポリヌクレオチドが好ましい。
【0022】
mRAGE検出用プローブに結合する標識のための蛍光物質及び消光物質としては、TaqMan(登録商標)プローブ法又はサイクリングプローブ法に使用される公知の組み合わせが使用できる。蛍光物質としては例えばFAM(Carboxyfluorescein)、Quasar 670、Quasar 570, Quasar 705, Pulsar 650, TET, HEX, VIC, JOE, CAL Fluor Orenge, CAL Fluor Gold, CAL Fluor Red, TAMRA, ROX, Texas Red, Cy, Cy5などが挙げられる。消光物質としてはBlack-Hole-Quencher 1 (BHQ1)、Black-Hole-Quencher 2 (BHQ2)、Black-Hole-Quencher 3 (BHQ3), DABCYL, TAMRAなどが挙げられる。
【0023】
上述のmRAGE用フォワードプライマー、mRAGE用リバースプライマー、及びmRAGE検出用プローブを構成するポリヌクレオチドはいずれも原則としてDNA (デオキシリボヌクレオチド)である。ただしmRAGE検出用プローブを構成するポリヌクレオチドは、その一部分(好ましくは、連続した数塩基(例えば1〜3塩基)部分、より好ましくは、両端から5塩基以上は離れた位置にある連続した数塩基(例えば1〜2塩基)部分)が等価なRNA (リボヌクレオチド) により置換されたDNA/RNAキメラポリヌクレオチドであってもよい。ここで「等価なRNA」とは、mRAGE検出用プローブの上記ポリヌクレオチド(DNA)配列上の塩基と同一の塩基(ただしチミン(T)はウラシル(U)に置換されてもよい)を有し、かつ糖部分がリボースであるRNAである。DNA/RNAキメラポリヌクレオチドは、「サイクリングプローブ法」に用いることができる。サイクリングプローブ法はRNase Hを用いた高感度な検出法であり、DNA/RNAキメラポリヌクレオチドプローブが増幅産物とハイブリダイズした後に、RNase HによりRNA部分が切断されて発光する蛍光を検出する方法である。TaqMan(登録商標)プローブ法と同様に、増幅産物のリアルタイム検出・定量が可能である。
【0024】
本発明で用いられるポリヌクレオチドは、いずれも通常のDNA自動合成機(例えばアプライドバイオシステム社製)を用いて、公知のDNA合成法(例えばホスホアミダイド法)によって調製することができる。プローブとして用いることができるDNA/RNAキメラポリヌクレオチドもまた、公知の通常の方法で調製することができる。
【0025】
2. esRAGE検出用のプライマーセット及びプローブ
配列番号2には、スプライシング後のesRAGE mRNAに対応するcDNAの塩基配列(Genbank Accession Number AB061668)を示す。配列番号2の第847〜988番の領域がエクソン8、第989〜1015番の領域がエクソン9、第1016〜1097番の領域が付加エクソン9、第1098番から3’末端側の領域がエクソン11に相当する。なお、Genbank Accession Number AB061668ではエクソン11の3’末端側は記載されていないが、実際にはesRAGE cDNAは配列番号1の第1143〜1414番と同一配列のエクソン11を有する。
【0026】
本発明のesRAGE用フォワードプライマーは、エクソン9と付加エクソン9とのエクソン・ジャンクションを含む位置に設計され、リバースプライマーは付加エクソン9とエクソン11とのエクソン・ジャンクションを含む位置に設計される。更に、esRAGE検出用プローブはesRAGEに特異的な付加エクソン9のアンチセンス鎖内の位置に設計される。このような組み合わせにより、mRAGE cDNAとクロスハイブリダイズすることなく、特異的にesRAGE cDNAのみを増幅し、検出することが可能となる。
【0027】
本発明のesRAGE検出用プローブを付加エクソン9のセンス鎖の部分配列ではなく、アンチセンス鎖の部分配列とした理由は次の通りである。esRAGE用のフォワードプライマー及びリバースプライマーはともに付加エクソン9の両端に設定されているため検出用プローブを設定できる範囲が狭いうえに、増幅される領域のセンス鎖はグアニンに富み、グアニンが6塩基連続する部分も含む。グアニン自身は消光物質として作用する場合がある。このため、増幅される領域のセンス鎖内において、5’端がグアニン以外の塩基である、あるいは、グアニンの連続配列を含まない、というTaqManプローブに求められる一般的な条件を満たすプローブ配列を見出すことは困難であった。本発明者らは、増幅領域のアンチセンス鎖内の部分配列がesRAGE検出用プローブ配列として有用であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0028】
esRAGE用フォワードプライマーとしては、特に、配列番号2の第1015番のグアニン(g)と第1016番のグアニン(g)とを少なくとも含み、かつ、第995番〜第1027番の領域内に含まれる、塩基数15〜25の連続した部分配列からなるポリヌクレオチドが好ましく、配列番号2の第1001番〜第1025番の領域内に含まれる、塩基数15〜25の連続した部分配列からなるポリヌクレオチドがより好ましく、配列番号2の第1002番〜第1021番の領域内に含まれる、塩基数15〜18の連続した部分配列からなるポリヌクレオチドがより好ましい。具体的には、配列番号18又は19で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドが好ましい。
【0029】
esRAGE用リバースプライマーとしては、特に、配列番号2の第1097番のグアニン(g)と第1098番のグアニン(g)とを少なくとも含む、塩基数15〜25の連続した部分配列の相補配列からなるポリヌクレオチドが好ましく、配列番号2の第1081番〜第1115番の領域内に含まれる、塩基数15〜25の連続した部分配列の相補配列からなるポリヌクレオチドがより好ましく、配列番号2の第1084番〜第1113番の領域内に含まれる、塩基数19〜21の連続した部分配列の相補配列からなるポリヌクレオチドがより好ましい。具体的には配列番号20又は21で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドが挙げられる。
【0030】
上記プライマーセットによる増幅産物の検出及び定量法は、TaqMan(登録商標)プローブ法、及びサイクリングプローブ法が好ましいが、これらには限定されず、上記「1. mRAGE検出用のプライマーセット及びプローブ」の欄において記載した各種方法が採用できる。
【0031】
以下、TaqMan(登録商標)プローブ法、及びサイクリングプローブ法に特に適したesRAGE検出用プローブについて説明する。
esRAGE検出用プローブとしては、特に、配列番号2の第1011番〜第1070番の領域内に含まれる、塩基数15〜35の連続した部分配列の相補配列からなり、5’末端及び3’末端の一方に蛍光物質が結合され、他方に消光物質が結合されたポリヌクレオチドが好ましく、配列番号2の第1011番〜第1050番の領域内に含まれる、塩基数15〜35の連続した部分配列の相補配列からなり、5’末端及び3’末端の一方に蛍光物質が結合され、他方に消光物質が結合されたポリヌクレオチドがより好ましく、配列番号2の第1014番〜第1043番の領域内に含まれる、塩基数27〜29の連続した部分配列の相補配列からなり、5’末端及び3’末端の一方に蛍光物質が結合され、他方に消光物質が結合されたポリヌクレオチドがより好ましい。具体的には、配列番号22で表される塩基配列からなり、5’末端及び3’末端の一方に蛍光物質が結合され、他方に消光物質が結合されたポリヌクレオチドが好ましい。
【0032】
esRAGE検出用プローブに結合する標識のための蛍光物質及び消光物質としては、mRAGE検出用プローブに関して上述したものと同様のものが使用できる。ただし、esRAGE検出用プローブとmRAGE検出用プローブとを同時に使用する実施形態においては、両プローブに結合させる蛍光物質は、互いに検出波長が異なる物質である必要がある。
【0033】
上述のesRAGE用フォワードプライマー、esRAGE用リバースプライマー、及びesRAGE検出用プローブを構成するポリヌクレオチドはいずれも原則としてDNA (デオキシリボヌクレオチド)である。ただしesRAGE検出用プローブを構成するポリヌクレオチドは、その一部分(好ましくは、連続した数塩基(例えば1〜3塩基)部分、より好ましくは、両端から5塩基以上は離れた位置にある連続した数塩基(例えば1〜2塩基)部分)が等価なRNA (リボヌクレオチド) により置換されたDNA/RNAキメラポリヌクレオチドであってもよい。ここで「等価なRNA」とは、esRAGE検出用プローブの上記ポリヌクレオチド(DNA)配列上の塩基と同一の塩基(ただしチミン(T)はウラシル(U)に置換されてもよい)を有し、かつ糖部分がリボースであるRNAである。このようなDNA/RNAキメラポリヌクレオチドは、「サイクリングプローブ法」に用いることができる。
【0034】
3. 測定手順
本発明のプライマーセットを用いることにより、mRAGE成熟mRNA又はcDNAと、esRAGE成熟mRNA又はcDNAとを含んでいる可能性のある被検試料から、一方のみを選択的に増幅することができる。また、両者を増幅した後に選択的に検出することもできる。
【0035】
被検試料がmRNAを含む試料である場合、本発明の検出方法は、当該試料から逆転写酵素を用いてcDNAを調製する工程と、cDNA含有試料を鋳型とし、mRAGE及び/又はesRAGE増幅用のプライマーセットとDNAポリメラーゼとを用いたPCR法により、増幅を行う工程とを含む。被検試料が細胞又は生体組織である場合、当該試料から通常の方法によりTotal RNAを抽出した後、逆転写酵素を用いた通常の方法によりcDNAを調製すればよい。PCR法における各条件(反応液の濃度及び量、並びに、変性、アニーリング、伸長の各段階の温度、時間、サイクル数等)は当業者が適宜決定することができる。特に好ましい条件としては以下のものが挙げられる。PCR法に供する反応液には、各プライマー及びプローブがそれぞれ100nMの濃度で含まれていることが好ましい。反応液の全量は好ましくは25μlである。逆転写反応液(cDNA含有液)を添加して反応液を調製する場合には、逆転写反応液の添加量は反応液全量の10%(v/v)以下であることが好ましい。PCR条件の特に好ましい条件としては、例えば、95℃・10分間のインキュベーション後、95℃・30秒間、60℃・1分間の反応を40サイクル行うという条件が挙げられる。
【0036】
増幅産物の検出・定量をTaqMan(登録商標)プローブ法により実施するには、本発明のmRAGE用プライマーセット及び/又はesRAGE用プライマーセットと、本発明のmRAGE検出用プローブ及び/又はesRAGE検出用プローブと、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を備えるDNAポリメラーゼとの存在下でPCRを行い、DNAポリメラーゼによりこれらのプローブが分解されたときに発せられる蛍光を、通常用いられる検出手段により検出し測定する。
【0037】
増幅産物の検出・定量をサイクリングプローブ法により実施するには、本発明のmRAGE用プライマーセット及び/又はesRAGE用プライマーセットと、DNA/RNAキメラポリヌクレオチドである本発明のmRAGE検出用プローブ及び/又はesRAGE検出用プローブと、DNAポリメラーゼと、RNase Hとの存在下でPCRを行い、RNase Hによりこれらのプローブが分解されたときに発せられる蛍光を、通常用いられる検出手段により検出し測定する。
【0038】
4. 用途
本発明によれば、mRAGEの発現量と、esRAGEの発現量とを区別して検出することが可能であるため、生体組織又は細胞中でのmRAGE量及びesRAGE量を高精度に評価することが可能となる。
【0039】
また、RAGE遺伝子又は図3に示すようなRAGE遺伝子の3’末端側のみを含むミニ遺伝子を一時的または永続的に発現する生体組織又は細胞を用意し、該生体組織又は細胞に薬物候補物質を付与し、一定時間経過後にmRAGE量又はesRAGE量の変化を測定することにより、薬物候補物質がmRAGE量又はesRAGE量に与える影響を評価することができる。その結果、mRAGE又はesRAGEが関与する疾患の治療薬のスクリーニングが可能となると期待される。
【実施例】
【0040】
試験1:既知濃度プラスミドを用いた試験
膜型RAGE(mRAGE)と 分泌型RAGE(esRAGE)とを識別して検出することができるリアルタイムPCR用のプライマーセットおよびプローブの組み合わせを検討した。
【0041】
定量のための標準試料としてはmRAGE検出系に関しては、mRAGE cDNAをコードする既知濃度プラスミド、esRAGE検出系に関しては、esRAGE cDNAをコードする既知濃度プラスミドを用いた。本試験ではpCR2.1 (Invitrogen)にmRAGE cDNA又はesRAGE cDNA全長を組込んだものをそれぞれ、mRAGE cDNAプラスミド又はesRAGE cDNAプラスミドとして使用した(非特許文献2参照)。
【0042】
mRAGE検出系に及ぼすesRAGE混在の影響、およびmRAGE検出系に及ぼすesRAGE混在の影響を確認するために、mRAGE cDNAプラスミドとesRAGE cDNAプラスミドとを含む試料を鋳型として増幅反応を行った。
【0043】
リアルタイムPCR反応(TaqMan(商標)プローブ法)および解析はmodel Mx3005P real time PCR system (Agilent Technologies 社)を用いて行った。増幅条件は、はじめに95℃,10分間のポリメラーゼ活性化ステップを行い、続いて95℃,30秒間、60℃, 1分間のサイクルを40サイクル行った。
【0044】
1. 第一設計(図4)
mRAGEとesRAGEが共通して有するエクソン8のセンス鎖の部分配列となるようにフォワードプライマーを設計し、mRAGEとesRAGEが共通して有するエクソン11のアンチセンス鎖の部分配列となるようにリバースプライマーを設計した。プローブは、mRAGE、esRAGEのそれぞれに特有のエクソン・ジャンクションを含む領域のセンス鎖の部分配列となるように設計した。これらのプライマーセット、検出プローブの構成を図4に模式図を示す。
【0045】
プローブmRAGE-FAM1およびesRAGE-CAL1は共にバイオリサーチ・テクノロジー社により製造された。mRAGE-FAM1は5’端を蛍光物質であるFAM (Carboxyfluorescein)で、3’端をクエンチャー(消光物質)であるBlack-Hole-Quencher 1 (BHQ1)で標識した後、HPLC精製して調製した。esRAGE-CAL1は5’端を蛍光物質であるCAL Fluor Orenge 560で、3’端をクエンチャー(消光物質)であるBlack-Hole-Quencher 1 (BHQ1)で標識した後、HPLC精製して調製した。
【0046】
具体的な配列を表に示す。図7、8には、プライマーセットおよびプローブのmRAGE cDNA配列、esRAGE cDNA配列との関係を示す。
【0047】
【表1】
【0048】
結果
図13に、mRAGE cDNAプラスミド1x104コピーを含有する試料を鋳型とし、フォワードプライマーとしてRAGE 5’を、リバースプライマーとしてRAGE 3’を、プローブとしてmRAGE-FAM1を使用してリアルタイムPCRを行ったときの、サイクル数と蛍光強度の関係を示す。Ct値は29であった。
【0049】
図14に、mRAGE cDNAプラスミド1x104コピーと、esRAGE cDNAプラスミド10、102、103、104、105、106、107、108、109、または1010コピーとを共存させた系に、上記のプライマーセット及びmRAGE検出用プローブを使用して同条件でリアルタイムPCRを行ったときの、サイクル数と蛍光強度の関係を示す。esRAGE(competitor)の量が増加するに従い、Ct値が小さくなることがわかる。この現象は、mRAGE検出用プローブmRAGE-FAM1のうち5’側領域のみがesRAGEの増幅産物にクロスハイブリダイズすることが原因であると推測される(図4)。この設計では、mRAGEとesRAGEとを区別して検出することが困難であると考えられる。
【0050】
2. 第二設計(図5)
mRAGEとesRAGEが共通して有するエクソン8とエクソン9とのエクソン・ジャンクションを含む領域のセンス鎖の部分配列となるようにフォワードプライマーを設計し、mRAGEとesRAGEが共通して有するエクソン11のアンチセンス鎖の部分配列となるようにリバースプライマーを設計した。プローブは、mRAGE、esRAGEのそれぞれに特有のエクソンであるエクソン10、追加エクソン9のセンス鎖の部分配列となるように設計した。これらのプライマーセット、検出プローブの構成を図5に模式図を示す。
【0051】
プローブmRAGE-FAM2およびesRAGE-CAL2は共にバイオリサーチ・テクノロジー社により製造された。mRAGE-FAM2は5’端を蛍光物質であるFAM(Carboxyfluorescein)で、3’端をクエンチャー(消光物質)であるBlack-Hole-Quencher 1 (BHQ1)で標識した後、HPLC精製して調製した。esRAGE-CAL2は5’端を蛍光物質であるCAL Fluor Orange 560で、3’端をクエンチャー(消光物質)であるBlack-Hole-Quencher 1 (BHQ1)で標識した後、HPLC精製して調製した。
【0052】
具体的な配列を示す。図9、10には、プライマーセットおよびプローブのmRAGE cDNA配列、esRAGE cDNA配列との関係を示す。
【0053】
【表2】
【0054】
結果
esRAGE cDNAプラスミドを1x102、104、106、108コピー含有する試料を鋳型として、上記フォワードプライマー、リバースプライマー、esRAGE用プローブを用いてリアルタイムPCRを行ったところ、コピー数の増加に応じてCt値が減少し、正常な検量線を作成することができた(図15、16)。
【0055】
esRAGE cDNAプラスミドを1x102、104、106、108コピーと、mRAGE cDNAプラスミドを1x107コピーとを共存させた試料について上記フォワードプライマー、リバースプライマー、esRAGE用プローブを用いてリアルタイムPCRを行った。esRAGE cDNAプラスミドのコピー数が1x104以下ではCt値が得られず(図17)、このため、信頼できる検量線を作成することができなかった。すなわちmRAGE cDNAがesRAGE cDNAに対して過剰に存在するとmRAGEの増幅効率が著しく低下した。
【0056】
一方、mRAGE cDNAプラスミドを1x102、104、106、108コピー含有する試料を鋳型として、上記フォワードプライマー、リバースプライマー、mRAGE用プローブを用いてリアルタイムPCRを行ったところ、コピー数の増加に応じてCt値が減少し、正常な検量線を作成することができた(図18、19)。更に、mRAGE cDNAプラスミドを1x102、104、106、108コピーと、esRAGE cDNAプラスミドを1x107コピーとを共存させた試料について上記フォワードプライマー、リバースプライマー、mRAGE用プローブを用いてリアルタイムPCRを行った。mRAGE cDNAプラスミドのコピー数が1x106以下ではCt値が得られず(図20)、検量線を作成することができなかった。すなわちesRAGE cDNAがmRAGE cDNAに対して10倍以上多くなるとmRAGEの増幅効率が著しく低下した。
【0057】
以上の現象は、プライマーがmRAGEとesRAGEとの間で競合して利用されたことが原因であると推測される。この設計では、mRAGEとesRAGEとを区別して増幅することが困難であると考えられる。
【0058】
3. 第三設計(図6)
mRAGE増幅用フォワードプライマーは、mRAGEに特異的なエクソン9とエクソン10とのエクソン・ジャンクションを含む領域のセンス鎖の部分配列となるように設計した。mRAGE増幅用リバースプライマーは、mRAGEに特異的なエクソン10とエクソン11とのエクソン・ジャンクションを含む領域のアンチセンス鎖の部分配列となるように設計した。mRAGE検出用プローブは、mRAGEに特異的なエクソン10のセンス鎖の部分配列となるように設計した。
【0059】
esRAGE増幅用フォワードプライマーは、esRAGEに特異的なエクソン9と付加エクソン9との境界を含む領域のセンス鎖の部分配列となるように設計した。esRAGE増幅用リバースプライマーは、esRAGEに特異的な付加エクソン9とエクソン11とのエクソン・ジャンクションを含む領域のアンチセンス鎖の部分配列となるように設計した。esRAGE検出用プローブは、esRAGEに特異的な付加エクソン9のアンチセンス鎖および隣接するエクソン9アンチセンス鎖の5’末端塩基の部分配列となるように設計した。
【0060】
これらのプライマーセット、検出プローブの構成を図6に模式的に示す。各プライマーの3’末端側がmRAGEまたはesRAGEに特異的な領域に対応し、5’末端側がmRAGEおよびesRAGEに共通する領域に対応するように設計されている。
【0061】
プローブmRAGE-FAM2およびesRAGE-AS-Quasarは共にバイオリサーチ・テクノロジー社により製造された。mRAGE-FAM2は5’端を蛍光物質であるFAM (Carboxyfluorescien) で、3’端をクエンチャー(消光物質)であるBlack-Hole-Quencher 1 (BHQ1)で標識した後、HPLC精製して調製した。なお、第三設計で用いたプローブmRAGE-FAM2は第二設計で用いたプローブmRAGE-FAM2と同一である。esRAGE-AS-Quasarは5’端を蛍光物質であるQuasar 670で、3’端をクエンチャー(消光物質)であるBlack-Hole-Quencher 2 (BHQ2)で標識した後、HPLC精製して調製した。
【0062】
具体的な配列を表に示す。図11、12には、プライマーセットおよびプローブのmRAGE cDNA配列、esRAGE cDNA配列との関係を示す。
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】
【0065】
結果1:mRAGE cDNAプラスミドの増幅
mRAGE cDNAプラスミドを1 x 102コピー、1 x 104コピー、または1 x 106コピー含有する試料を鋳型とし、上記mRAGE増幅用フォワードプライマー(mRAGE 5’J-1、mRAGE 5’J-2、またはmRAGE 5’J-3)、リバースプライマー(mRAGE 3’J)、プローブ(mRAGE-FAM2)を用いてリアルタイムPCRを行った。更に、1 x 105コピーのesRAGE cDNAプラスミドを共存させた試料を用いて同様にリアルタイムPCRを行った。増幅プロットを図21、23、25に、検量線を図22、24、26に示す。
結果を次表にまとめる
【0066】
【表5】
【0067】
結果2:esRAGE cDNAプラスミドの増幅
esRAGE cDNAプラスミドを1 x 104コピー、1 x 106または1 x 108コピー含有する試料を鋳型とし、上記esRAGE増幅用フォワードプライマー(esRAGE 5’J-1、esRAGE 5’J-2、esRAGE 5’J-3、またはesRAGE 5’J-4)、リバースプライマー(esRAGE 3’J-1、またはesRAGE 3’J-2)、プローブ(esRAGE-AS-Quasar)を用いてリアルタイムPCRを行った。更に、2 x 108コピーのmRAGE cDNAプラスミドを共存させた試料を用いて同様にリアルタイムPCRを行った。ただし、esRAGE増幅用フォワードプライマーとしてesRAGE 5’J-1を、リバースプライマーとしてesRAGE 3’J-1を用いた場合については、esRAGE cDNAプラスミドを1 x 102コピー、1 x 104コピー、または1 x 106コピー含有し、mRAGE cDNAプラスミドが含まれない試料を鋳型としてリアルタイムPCRを行った。増幅プロットを図27〜31、33、35、37に示す。増幅が進行した場合には検量線を作成した。作成された検量線を図32、34、36、38に示す。
結果を次表にまとめる
【0068】
【表6】
【0069】
試験2:細胞により選択的スプライシングを経て産生されたmRAGE/esRAGE混合物の分析
CMV(cytomegalovirus)プロモーターの制御下にEGFP(enhanced green fluorescence protein)とヒトRAGE遺伝子 (Genbank Accession No. D28769)のうち、エクソン8〜11およびそれらの間のイントロンを含む領域(ミニ遺伝子)を連結した構築物を含む発現プラスミド(pEGFP-RAGEmg)を調製した(図3)。当該発現プラスミドをエレクトロポーレーション法によりヒト微小血管内皮初代培養細胞(human microvascular endothelial cell, HMVEC)に導入した。HMVEC細胞を5%二酸化炭素存在下、37℃で48時間培養した。本試験では、図3に示す野生型ミニ遺伝子および、その付加エクソン(AE) 9領域に5種類の変異(変異1〜5)を導入したミニ遺伝子を用意し、それぞれをHMVECにトランスフェクションして、esRAGEの発現量、mRAGEの発現量をそれぞれ調べた。変異1〜5の導入箇所は図39の枠で囲った部分である。変異1〜5導入後の配列を図39の各枠内の下段に示す。1種類の変異について6回の試験を行った。何もトランスフェクションされていないHMVECをサンプル1〜6、野生型ミニ遺伝子をトランスフェクションしたHMVECをサンプル7〜12、変異1が導入されたミニ遺伝子をトランスフェクションしたHMVECをサンプル13〜18、変異2が導入されたミニ遺伝子をトランスフェクションしたHMVECをサンプル19〜24、変異3が導入されたミニ遺伝子をトランスフェクションしたHMVECをサンプル25〜30、変異4が導入されたミニ遺伝子をトランスフェクションしたHMVECをサンプル31〜36、変異5が導入されたミニ遺伝子をトランスフェクションしたHMVECをサンプル37〜42とした。
【0070】
培養された細胞から、RNeasy Plus Mini Kit (QIAGEN社)を用い、キットのインストラクションに従って、total RNAを抽出・精製した。
精製されたtotal RNAをAffinityScriptTM QPCR cDNA Synthesis Kit (Agilent Technologies社)を用い、キット添付のランダム・ヘキサマーをプライマーとして逆転写反応を行い、cDNAを合成した。逆転写反応の温度・時間は標準の条件である42℃、15分で行った。
【0071】
12.5μlの2×BrilliantII QPCR Master Mix (Agilent Technologies社)と、上記逆転写反応液の一部を含む25μlの反応系を調製した。反応系に含まれる最適化されたプライマーおよびプローブの終濃度は以下の通り。各プライマー、プローブの構造は試験1第三設計に記載の通りである。
【0072】
【表7】
【0073】
定量のための標準試料として、試験1で用いたのと同じ、mRAGE cDNAをコードする既知濃度プラスミドと、esRAGE cDNAをコードする既知濃度プラスミドとを用いた。
【0074】
各サンプルの逆転写反応物に含まれるmRAGE、esRAGEのcDNAコピー数を次表に示す。このようにして、各サンプルについてmRAGE の成熟mRNA量と、esRAGE の成熟mRNA量とをそれぞれ定量することができることが確認された。
【0075】
【表8】
【配列表フリーテキスト】
【0076】
配列番号3: プライマー
配列番号4: プライマー
配列番号5: プローブ
配列番号6: プローブ
配列番号7: プライマー
配列番号8: プライマー
配列番号9: プローブ
配列番号10: プローブ
配列番号11: プライマー
配列番号12: プライマー
配列番号13: プライマー
配列番号14: プライマー
配列番号15: プローブ
配列番号16: プライマー
配列番号17: プライマー
配列番号18: プライマー
配列番号19: プライマー
配列番号20: プライマー
配列番号21: プライマー
配列番号22: プローブ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜結合型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(mRAGE)の成熟mRNAに対応するcDNAをポリメラーゼ連鎖反応により増幅するためのプライマーセットであって、
配列番号1の第1015番のグアニン(g)と第1016番のグアニン(g)とを少なくとも含む、塩基数15〜25の連続した部分配列からなるポリヌクレオチドであるmRAGE用フォワードプライマーと、
配列番号1の第1142番のグアニン(g)と第1143番のグアニン(g)とを少なくとも含む、塩基数15〜25の連続した部分配列の相補配列からなるポリヌクレオチドであるmRAGE用リバースプライマーと
を含むプライマーセット。
【請求項2】
mRAGE用フォワードプライマーが、配列番号1の第1006番〜第1035番の領域内に含まれる、塩基数15〜25の連続した部分配列からなるポリヌクレオチドであり、
mRAGE用リバースプライマーが、配列番号1の第1126番〜第1155番の領域内に含まれる、塩基数15〜25の連続した部分配列の相補配列からなるポリヌクレオチドである
請求項1のプライマーセット。
【請求項3】
mRAGE用フォワードプライマーが、配列番号11、12又は13で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドであり、
mRAGE用リバースプライマーが、配列番号14で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドである
請求項2のプライマーセット。
【請求項4】
膜結合型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(mRAGE)の成熟mRNAを検出するためのキットであって、
請求項1〜3のいずれかのプライマーセットと、
配列番号1の第1041番〜第1142番の領域内に含まれる、塩基数15〜25の連続した部分配列からなり、5’末端及び3’末端の一方に蛍光物質が結合され、他方に消光物質が結合されたポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドの一部分が等価なRNAに置換されたDNA/RNAキメラポリヌクレオチドであるmRAGE検出用プローブと
を含むキット。
【請求項5】
mRAGE検出用プローブが、配列番号1の第1076番〜第1105番の領域内に含まれる、塩基数15〜25の連続した部分配列からなり、5’末端及び3’末端の一方に蛍光物質が結合され、他方に消光物質が結合されたポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドの一部分が等価なRNAに置換されたDNA/RNAキメラポリヌクレオチドである、請求項4のキット。
【請求項6】
mRAGE検出用プローブが、配列番号15で表される塩基配列からなり、5’末端及び3’末端の一方に蛍光物質が結合され、他方に消光物質が結合されたポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドの一部分が等価なRNAに置換されたDNA/RNAキメラポリヌクレオチドである、請求項5のキット。
【請求項7】
内在性分泌型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(esRAGE)の成熟mRNAに対応するcDNAをポリメラーゼ連鎖反応により増幅するためのプライマーセットであって、
配列番号2の第1015番のグアニン(g)と第1016番のグアニン(g)とを少なくとも含み、かつ、第995番〜第1027番の領域内に含まれる、塩基数15〜25の連続した部分配列からなるポリヌクレオチドであるesRAGE用フォワードプライマーと、
配列番号2の第1097番のグアニン(g)と第1098番のグアニン(g)とを少なくとも含む、塩基数15〜25の連続した部分配列の相補配列からなるポリヌクレオチドであるesRAGE用リバースプライマーと
を含むプライマーセット。
【請求項8】
esRAGE用フォワードプライマーが、配列番号2の第1001番〜第1025番の領域内に含まれる、塩基数15〜25の連続した部分配列からなるポリヌクレオチドであり、
esRAGE用リバースプライマーが、配列番号2の第1081番〜第1115番の領域内に含まれる、塩基数15〜25の連続した部分配列の相補配列からなるポリヌクレオチドである、
請求項7のプライマーセット。
【請求項9】
esRAGE用フォワードプライマーが、配列番号18又は19で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドであり、
esRAGE用リバースプライマーが、配列番号20又は21で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドである
請求項8のプライマーセット。
【請求項10】
内在性分泌型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(esRAGE)の成熟mRNAを検出するためのキットであって、
請求項7〜9のいずれかのプライマーセットと、
配列番号2の第1011番〜第1070番の領域内に含まれる、塩基数15〜35の連続した部分配列の相補配列からなり、5’末端及び3’末端の一方に蛍光物質が結合され、他方に消光物質が結合されたポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドの一部分が等価なRNAに置換されたDNA/RNAキメラポリヌクレオチドであるesRAGE検出用プローブと
を含むキット。
【請求項11】
esRAGE検出用プローブが、配列番号2の第1011番〜第1050番の領域内に含まれる、塩基数15〜35の連続した部分配列の相補配列からなり、5’末端及び3’末端の一方に蛍光物質が結合され、他方に消光物質が結合されたポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドの一部分が等価なRNAに置換されたDNA/RNAキメラポリヌクレオチドである、請求項10のキット。
【請求項12】
esRAGE検出用プローブが、配列番号22で表される塩基配列からなり、5’末端及び3’末端の一方に蛍光物質が結合され、他方に消光物質が結合されたポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドの一部分が等価なRNAに置換されたDNA/RNAキメラポリヌクレオチドである、請求項11のキット。
【請求項13】
請求項4〜6のいずれかのキットと、請求項10〜12のいずれかのキットとが組み合わされた、膜結合型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(mRAGE)及び内在性分泌型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(esRAGE)の成熟mRNAを検出するためのキット。
【請求項14】
請求項4〜6のいずれかのキット又は請求項13のキットを用いて、膜結合型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(mRAGE)の成熟mRNAと、内在性分泌型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(esRAGE)の成熟mRNAとを含んでいる可能性のある試料中のmRAGEの成熟mRNAを検出する方法。
【請求項15】
請求項10〜12のいずれかのキット又は請求項13のキットを用いて、膜結合型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(mRAGE)の成熟mRNAと、内在性分泌型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(esRAGE)の成熟mRNAとを含んでいる可能性のある試料中のesRAGEの成熟mRNAを検出する方法。
【請求項16】
請求項13のキットを用いて、膜結合型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(mRAGE)の成熟mRNAと、内在性分泌型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(esRAGE)の成熟mRNAとを含んでいる可能性のある試料中のesRAGE及びesRAGEの成熟mRNAを検出する方法。
【請求項1】
膜結合型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(mRAGE)の成熟mRNAに対応するcDNAをポリメラーゼ連鎖反応により増幅するためのプライマーセットであって、
配列番号1の第1015番のグアニン(g)と第1016番のグアニン(g)とを少なくとも含む、塩基数15〜25の連続した部分配列からなるポリヌクレオチドであるmRAGE用フォワードプライマーと、
配列番号1の第1142番のグアニン(g)と第1143番のグアニン(g)とを少なくとも含む、塩基数15〜25の連続した部分配列の相補配列からなるポリヌクレオチドであるmRAGE用リバースプライマーと
を含むプライマーセット。
【請求項2】
mRAGE用フォワードプライマーが、配列番号1の第1006番〜第1035番の領域内に含まれる、塩基数15〜25の連続した部分配列からなるポリヌクレオチドであり、
mRAGE用リバースプライマーが、配列番号1の第1126番〜第1155番の領域内に含まれる、塩基数15〜25の連続した部分配列の相補配列からなるポリヌクレオチドである
請求項1のプライマーセット。
【請求項3】
mRAGE用フォワードプライマーが、配列番号11、12又は13で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドであり、
mRAGE用リバースプライマーが、配列番号14で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドである
請求項2のプライマーセット。
【請求項4】
膜結合型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(mRAGE)の成熟mRNAを検出するためのキットであって、
請求項1〜3のいずれかのプライマーセットと、
配列番号1の第1041番〜第1142番の領域内に含まれる、塩基数15〜25の連続した部分配列からなり、5’末端及び3’末端の一方に蛍光物質が結合され、他方に消光物質が結合されたポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドの一部分が等価なRNAに置換されたDNA/RNAキメラポリヌクレオチドであるmRAGE検出用プローブと
を含むキット。
【請求項5】
mRAGE検出用プローブが、配列番号1の第1076番〜第1105番の領域内に含まれる、塩基数15〜25の連続した部分配列からなり、5’末端及び3’末端の一方に蛍光物質が結合され、他方に消光物質が結合されたポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドの一部分が等価なRNAに置換されたDNA/RNAキメラポリヌクレオチドである、請求項4のキット。
【請求項6】
mRAGE検出用プローブが、配列番号15で表される塩基配列からなり、5’末端及び3’末端の一方に蛍光物質が結合され、他方に消光物質が結合されたポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドの一部分が等価なRNAに置換されたDNA/RNAキメラポリヌクレオチドである、請求項5のキット。
【請求項7】
内在性分泌型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(esRAGE)の成熟mRNAに対応するcDNAをポリメラーゼ連鎖反応により増幅するためのプライマーセットであって、
配列番号2の第1015番のグアニン(g)と第1016番のグアニン(g)とを少なくとも含み、かつ、第995番〜第1027番の領域内に含まれる、塩基数15〜25の連続した部分配列からなるポリヌクレオチドであるesRAGE用フォワードプライマーと、
配列番号2の第1097番のグアニン(g)と第1098番のグアニン(g)とを少なくとも含む、塩基数15〜25の連続した部分配列の相補配列からなるポリヌクレオチドであるesRAGE用リバースプライマーと
を含むプライマーセット。
【請求項8】
esRAGE用フォワードプライマーが、配列番号2の第1001番〜第1025番の領域内に含まれる、塩基数15〜25の連続した部分配列からなるポリヌクレオチドであり、
esRAGE用リバースプライマーが、配列番号2の第1081番〜第1115番の領域内に含まれる、塩基数15〜25の連続した部分配列の相補配列からなるポリヌクレオチドである、
請求項7のプライマーセット。
【請求項9】
esRAGE用フォワードプライマーが、配列番号18又は19で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドであり、
esRAGE用リバースプライマーが、配列番号20又は21で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドである
請求項8のプライマーセット。
【請求項10】
内在性分泌型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(esRAGE)の成熟mRNAを検出するためのキットであって、
請求項7〜9のいずれかのプライマーセットと、
配列番号2の第1011番〜第1070番の領域内に含まれる、塩基数15〜35の連続した部分配列の相補配列からなり、5’末端及び3’末端の一方に蛍光物質が結合され、他方に消光物質が結合されたポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドの一部分が等価なRNAに置換されたDNA/RNAキメラポリヌクレオチドであるesRAGE検出用プローブと
を含むキット。
【請求項11】
esRAGE検出用プローブが、配列番号2の第1011番〜第1050番の領域内に含まれる、塩基数15〜35の連続した部分配列の相補配列からなり、5’末端及び3’末端の一方に蛍光物質が結合され、他方に消光物質が結合されたポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドの一部分が等価なRNAに置換されたDNA/RNAキメラポリヌクレオチドである、請求項10のキット。
【請求項12】
esRAGE検出用プローブが、配列番号22で表される塩基配列からなり、5’末端及び3’末端の一方に蛍光物質が結合され、他方に消光物質が結合されたポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドの一部分が等価なRNAに置換されたDNA/RNAキメラポリヌクレオチドである、請求項11のキット。
【請求項13】
請求項4〜6のいずれかのキットと、請求項10〜12のいずれかのキットとが組み合わされた、膜結合型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(mRAGE)及び内在性分泌型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(esRAGE)の成熟mRNAを検出するためのキット。
【請求項14】
請求項4〜6のいずれかのキット又は請求項13のキットを用いて、膜結合型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(mRAGE)の成熟mRNAと、内在性分泌型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(esRAGE)の成熟mRNAとを含んでいる可能性のある試料中のmRAGEの成熟mRNAを検出する方法。
【請求項15】
請求項10〜12のいずれかのキット又は請求項13のキットを用いて、膜結合型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(mRAGE)の成熟mRNAと、内在性分泌型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(esRAGE)の成熟mRNAとを含んでいる可能性のある試料中のesRAGEの成熟mRNAを検出する方法。
【請求項16】
請求項13のキットを用いて、膜結合型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(mRAGE)の成熟mRNAと、内在性分泌型の後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(esRAGE)の成熟mRNAとを含んでいる可能性のある試料中のesRAGE及びesRAGEの成熟mRNAを検出する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【公開番号】特開2010−233542(P2010−233542A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87418(P2009−87418)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【出願人】(507189460)学校法人金沢医科大学 (8)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【出願人】(507189460)学校法人金沢医科大学 (8)
【Fターム(参考)】
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