説明

RFIDタグ及びRFIDシステム

【課題】金属対応で、貼り付け対象の影響による交信距離の減少を招くことなく、可撓性を有するRFIDタグを実現する。
【解決手段】 RFIDタグは、導電体膜501、フィルム部材、誘電体シート503、ICチップ504、スロットアンテナ505などを有している。フィルム部材は、チューブ状あるいは少なくとも1枚のシート状のフィルム部材であり、その一側の面にスロットアンテナに対応する部分を除く領域に導電体膜501が設けられている。そして、誘電体シートは、Y軸方向の両端を除いて、導電体膜501で実質的に覆われている。ICチップ504は、導電体膜501におけるスロットアンテナ505が形成されている部分と電気的に接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RFIDタグ及びRFIDシステムに係り、更に詳しくは、金属に対応したRFIDタグ、及び該RFIDタグを含むRFIDシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
非接触で情報を伝送するシステムの1つとして、RFID(Radio Frequency Identification)システムが知られている。
【0003】
このRFIDシステムは、一般に、RFIDタグ(「無線タグ」とも呼ばれる)と、リーダライタ(RW)装置とを備えている。そして、RW装置からRFIDタグに対して無線通信により情報の読み書きが行なわれる。
【0004】
RFIDタグには、電源を内蔵しているRFIDタグ(「アクティブタグ」と呼ばれている)と、電源を内蔵していないRFIDタグ(「パッシブタグ」と呼ばれる)とがある。
【0005】
パッシブタグは、RW装置から受信した電波を駆動電力にして、内蔵するICやLSI等の集積回路を動作させ、受信した無線信号(制御信号)に応じた各種処理を行なう。
【0006】
パッシブタグからRW装置への送信は、受信した無線信号の反射波を利用して行なわれる。すなわち、タグのID情報や上記各種処理の結果などの情報を反射波にのせて、RW装置へ送信する。
【0007】
RFIDシステムには様々な周波数帯が利用されているが、最近では、UHF帯(860MHz〜960MHz)が注目されている。UHF帯は、既存の13.56MHz帯や2.45GHz帯に比べて長距離通信が可能である。
【0008】
UHF帯の周波数として、欧州では868MHz、米国では915MHz、日本では953MHz付近の周波数が使用されている。
【0009】
UHF帯のパッシブタグの通信距離(交信距離)は、該タグに内蔵されている集積回路の性能にもよるが、約3〜5mである。また、RW装置の出力は1ワット(W)程度である。
【0010】
ところで、一般のRFIDタグは、金属物体の表面に貼りつけた場合や、近傍に水分が存在する場合に、通信が困難になる場合があった。
【0011】
そこで、金属物体の表面に貼りつけることができる金属対応のRFIDタグが種々考案された(例えば、特許文献1〜特許文献5参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、RFIDタグは、表面に印刷する際や、ロール状態にして収納する際、及び物体に貼り付ける際に、曲げられると、外観及び印字品質の劣化や、通信可能な距離の低下を生じる場合があった。
【0013】
しかしながら、特許文献1〜特許文献5に開示されているRFIDタグでは、貼り付け対象の影響による交信距離の減少を招くことなく、可撓性を向上させることが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、誘電体シートと、スロットアンテナが形成され、前記誘電体シートを実質的に取り囲んでいる導電体膜と、前記導電体膜における前記スロットアンテナが形成された部分と電気的に接続されているICチップと、を備え、前記導電体膜は、チューブ状の樹脂フィルム上に形成されているRFIDタグである。
【0015】
なお、本明細書では、「電気的に接続されている」は、互いに物理的に接触している場合だけでなく、互いが導電性を有する部材で連結されている場合、及び交流が通過できる程度に互いが近接している場合も含む。
【0016】
また、「実質的に取り囲んでいる」とは、誘電体シートの一側の面上にある導電体膜と、他側の面上にある導電体膜との間の交流の通過が阻害されないことを意味している。
【発明の効果】
【0017】
本発明のRFIDタグによれば、金属対応で、貼り付け対象の影響による交信距離の減少を招くことなく、可撓性をもたせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るRFIDシステムの概略構成を説明するための図である。
【図2】図1におけるRFIDタグを説明するための図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】図2のB−B断面図である。
【図5】図5(A)及び図5(B)は、それぞれ可逆性感熱記録媒体を説明するための図である。
【図6】図6(A)〜図6(C)は、それぞれフィルム部材を説明するための図である。
【図7】図7(A)〜図7(C)は、それぞれフィルム部材に導電体膜を設けた状態を説明するための図である。
【図8】図8(A)及び図8(B)は、それぞれ誘電体シートがフィルム部材502aで覆われる例を説明するための図である。
【図9】図9(A)〜図9(D)は、それぞれ誘電体シートが1枚のフィルム部材502bで覆われる例を説明するための図である。
【図10】図10(A)〜図10(C)は、それぞれ誘電体シートが2枚のフィルム部材502cで覆われる例を説明するための図である。
【図11】誘電体シートがフィルム部材で覆われる場合に、導電体膜が静電容量的接合によって接合される例1を説明するための図である。
【図12】誘電体シートがフィルム部材で覆われる場合に、導電体膜が静電容量的接合によって接合される例2を説明するための図である。
【図13】誘電体シートがフィルム部材で覆われる場合に、導電体膜が静電容量的接合によって接合される例3を説明するための図である。
【図14】誘電体シートがフィルム部材で覆われる場合に、導電体膜が静電容量的接合によって接合される例4を説明するための図である。
【図15】H字形状のスロットアンテナを説明するための図である。
【図16】I字形状のスロットアンテナを説明するための図である。
【図17】図17(A)及び図17(B)は、それぞれスロットアンテナの原理を説明するための図(その1)である。
【図18】図18(A)及び図18(B)は、それぞれスロットアンテナの原理を説明するための図(その2)である。
【図19】ICチップの取り付けを説明するための図である。
【図20】H字形状のスロットアンテナにおけるICチップの取り付け位置を説明するための図である。
【図21】I字形状のスロットアンテナにおけるICチップの取り付け位置を説明するための図である。
【図22】ICチップの取り付け例1を説明するための図である。
【図23】図23(A)〜図23(C)は、それぞれICチップの取り付け例2を説明するための図である。
【図24】ICチップの取り付け例3を説明するための図である。
【図25】図25(A)及び図25(B)は、それぞれダイポールアンテナにおけるインピーダンス調整回路の除去を説明するための図である。
【図26】図26(A)及び図26(B)は、それぞれダイポールアンテナを有するICチップの取り付け例を説明するための図である。
【図27】図27(A)及び図27(B)は、それぞれ−Z側からICチップを取り付ける例を説明するための図(その1)である。
【図28】−Z側からICチップを取り付ける例を説明するための図(その2)である。
【図29】−Z側からICチップを取り付ける例を説明するための図(その3)である。
【図30】図30(A)〜図30(C)は、それぞれ保護フィルムを説明するための図である。
【図31】図31(A)〜図31(C)は、それぞれ導電体膜が誘電体シートとフィルム部材との間にある場合を説明するための図である。
【図32】図32(A)及び図32(B)は、それぞれ導電体膜が誘電体シートとフィルム部材との間にある場合のICチップの取り付け例を説明するための図(その1)である。
【図33】図33(A)及び図33(B)は、それぞれ導電体膜が誘電体シートとフィルム部材との間にある場合のICチップの取り付け例を説明するための図(その2)である。
【図34】図34(A)及び図34(B)は、それぞれX軸方向の両端部が折り曲げられている場合を説明するための図である
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図29に基づいて説明する。図1には、一実施形態に係るRFIDシステム10の概略構成が示されている。
【0020】
このRFIDシステム10は、3つの部屋(部屋A、部屋B、部屋C)への人の入退出を管理し、制御装置100、3つのRW装置(200A、200B、200C)、3つのドアロック解除装置(300A、300B、300C)、データベース400、及び複数のRFIDタグ500を有している。なお、RFIDタグ500の数については、制限はない。
【0021】
RFIDシステム10は、UHF帯(860MHz〜960MHz)に対応している。
【0022】
複数のRFIDタグ500は、同じ構成のRFIDタグであるが、それぞれユニークなID番号が格納されている。そして、複数の人に個別に配布されている。RFIDタグ500の詳細については、後述する。
【0023】
RW装置200Aは、部屋Aの入口近傍に配置されている。RW装置200Bは、部屋Bの入口近傍に配置されている。RW装置200Cは、部屋Cの入口近傍に配置されている。各RW装置は、RFIDタグ500のID番号を読み取って制御装置100に通知するとともに、制御装置100から指示された情報をRFIDタグ500に書き込む。すなわち、各RW装置は、RFIDタグ500のリーダライタ装置である。
【0024】
ドアロック解除装置300Aは、制御装置100に指示により部屋Aのドアロックを解除する。ドアロック解除装置300Bは、制御装置100に指示により部屋Bのドアロックを解除する。ドアロック解除装置300Cは、制御装置100に指示により部屋Cのドアロックを解除する。
【0025】
データベース400には、ID番号毎に、部屋A、部屋B、部屋Cへの入室権、入室履歴などが格納されている。
【0026】
制御装置100は、CPU、ROM、RAM、入力装置、及び表示装置などを有している。
【0027】
入力装置は、例えばキーボード、マウス、タブレット、ライトペン及びタッチパネルなどのうち少なくとも1つの入力媒体を備え、作業者から入力された各種情報をCPUに通知する。なお、入力媒体からの情報はワイヤレス方式で入力されても良い。
【0028】
表示装置は、例えばCRT、液晶ディスプレイ(LCD)及びプラズマ・ディスプレイ・パネル(PDP)などを用いた表示部を備え、CPUから指示された各種情報を表示する。表示装置と入力装置とが一体化されたものとして、例えばタッチパネル付きLCDなどがある。
【0029】
ROMには、CPUにて解読可能なコードで記述された複数のプログラム及びプログラムの実行に用いられる複数のデータ等が格納されている。RAMは、作業用のメモリである。
【0030】
制御装置100として、パーソナルコンピュータを用いることができる。
【0031】
ここで、RFIDシステム10の動作について説明する。
【0032】
部屋Aの入口にRFIDタグ500を持った人が近づくと、RW装置200Aが該RFIDタグ500のID番号を読み取り、制御装置100に通知する。
【0033】
制御装置100は、RW装置200AからID番号を受け取ると、該ID番号をキーとしてデータベース400を検索し、部屋Aへの入室権を有しているか否かを判断する。そして、該ID番号が部屋Aへの入室権を有している場合には、ドアロック解除装置300Aに対して部屋Aのドアロック解除を指示する。そして、入室の日時をデータベース400に付加するとともに、RW装置200Aを介して該RFIDタグ500に入室の日時を上書きする。一方、該ID番号が部屋Aへの入室権を有していない場合には、部屋Aのドアロックは解除しない。
【0034】
また、部屋Bの入口にRFIDタグ500を持った人が近づくと、RW装置200Bが該RFIDタグ500のID番号を読み取り、制御装置100に通知する。
【0035】
制御装置100は、RW装置200BからID番号を受け取ると、該ID番号をキーとしてデータベース400を検索し、部屋Bへの入室権を有しているか否かを判断する。そして、該ID番号が部屋Bへの入室権を有している場合には、ドアロック解除装置300Bに対して部屋Bのドアロック解除を指示する。そして、入室の日時をデータベース400に付加するとともに、RW装置200Bを介して該RFIDタグ500に入室の日時を上書きする。一方、該ID番号が部屋Bへの入室権を有していない場合には、部屋Bのドアロックは解除しない。
【0036】
また、部屋Cの入口にRFIDタグ500を持った人が近づくと、RW装置200Cが該RFIDタグ500のID番号を読み取り、制御装置100に通知する。
【0037】
制御装置100は、RW装置200CからID番号を受け取ると、該ID番号をキーとしてデータベース400を検索し、部屋Cへの入室権を有しているか否かを判断する。そして、該ID番号が部屋Cへの入室権を有している場合には、ドアロック解除装置300Cに対して部屋Cのドアロック解除を指示する。そして、入室の日時をデータベース400に付加するとともに、RW装置200Cを介して該RFIDタグ500に入室の日時を上書きする。一方、該ID番号が部屋Cへの入室権を有していない場合には、部屋Cのドアロックは解除しない。
【0038】
また、制御装置100は、各部屋に入室した人が該部屋から退出する際もRFIDタグ500のID番号を読み取り、その退出の日時をデータベース400に付加する。
【0039】
なお、各部屋には、RFIDタグ500に入室時間及び退出時間を印字する(書き換える)ための印字装置(図示省略)が設けられている。
【0040】
各印字装置は、スタンドアローンタイプであっても良いし、制御装置100から制御されるタイプであっても良い。
【0041】
次に、前記RFIDタグ500の詳細について説明する。
【0042】
RFIDタグ500は、一例として、図2〜図4に示されるように、導電体膜501、フィルム部材502、誘電体シート503、ICチップ504、スロットアンテナ505、及び可逆性感熱記録媒体520などを有している。なお、図2はRFIDタグ500の平面図、図3は図2のA−A断面図、図4は図2のB−B断面図である。また、図示の都合上、及び分かりやすくするため、各部の厚さは誇張して図示されている。
【0043】
誘電体シート503は、四角形のシート状部材である。ここでは、便宜上、XYZ3次元直交座標系において、誘電体シート503の表面に直交する方向をZ軸方向、誘電体シート503の端部が露出している方向をX軸方向、誘電体シート503の端部が露出していない方向をY軸方向として説明する。
【0044】
そして、RFIDタグ500におけるX軸方向の寸法をDx、Y軸方向の寸法をDy、Z軸方向の寸法をDzとする。
【0045】
誘電体シート503の材料としては、プラスチック、セラミック、雲母、油、及び水を使用することができる。なお、誘電体シート503の材料として液体を使用する場合は、シート状が維持されるように、例えば、樹脂製の袋のなかに入れた状態で使用される。
【0046】
また、誘電体シート503の材料が固体の場合は、内部及び表面の少なくとも一方に複数の小さな穴が形成されていても良い。例えば、誘電体シート503が発泡部材であっても良い。これにより、交信距離の増大を図ることができる。
【0047】
フィルム部材502の材料としては、ポリエステル、ポリフェニレンスルフォイド、ポリプロピレン、及びポリエチレンを用いることができる。フィルム部材502の厚さは5〜250μmである。
【0048】
また、フィルム部材502は、空気を含んでいる発泡フィルム部材であっても良い。
【0049】
導電体膜501の材料としては、アルミニウム、金、銀、それらの合金、及びカーボンを用いることができる。
【0050】
ICチップ504は、マイクロプロセッサ、メモリ(ROM、RAM、EEPROM)、変調器などを有している。
【0051】
なお、ICチップ504としては、端子がいわゆる静電容量的に接続されるICチップや、いわゆるマイクロアンテナを有するICチップなどの特殊チップであっても良い。
【0052】
可逆性感熱記録媒体520は、接着層、記録層、中間層、保護層などから構成され(例えば、特開2007−245431号公報及び特開2003−291533号公報参照)、上記印字装置を用いて、印字情報を書き換えることができる(図5(A)及び図5(B)参照)。なお、本実施形態では、各部屋の入口付近に上記印字装置が配置されている。
【0053】
RFIDタグ500の製造方法について説明する。
【0054】
1.フィルム部材502の表面に導電体膜501を形成する。
【0055】
フィルム部材502の形状としては、一例として図6(A)に示されるように、チューブ状のフィルム部材(フィルム部材502aという)、一例として図6(B)に示されるように、1枚のシート状のフィルム部材(フィルム部材502bという)、一例として図6(C)に示されるように、複数枚のシート状のフィルム部材(フィルム部材502cという)を用いることができる。
【0056】
導電体膜501は、上記材料の蒸着、浸漬、グラビア印刷、及びスプレー塗布などによって、フィルム部材502の表面に形成することができる。また、アルミニウム、金、銀、及びそれらの合金のいずれかの金属箔(例えば、厚さ16μm)をフィルム部材502の表面に貼り付けても良い。
【0057】
導電体膜501が形成されたフィルム部材502の表面抵抗を、シムコジャパン社製の表面抵抗計(ST−3、ST−4)で、JIS C2316に準拠して計測したところ、10Ω/□以下であった。
【0058】
図7(A)には、フィルム部材502aに導電体膜501が形成された状態が示されている。図7(B)には、フィルム部材502bに導電体膜501が形成された状態が示されている。図7(C)には、フィルム部材502cに導電体膜501が形成された状態が示されている。
【0059】
なお、複数のフィルム部材が用いられる場合は、各フィルム部材の材質は同じであっても良いし、異なっていても良い。
【0060】
2.可逆性感熱記録媒体520を、導電体膜501の上に形成する。
【0061】
可逆性感熱記録媒体520は、浸漬法、スプレー塗布法、及びラミネートなどを用いて導電体膜501の上に形成することができる。なお、スロットアンテナが形成される領域には、可逆性感熱記録媒体が形成されないようにする。
【0062】
3.フィルム部材502における導電体膜501が形成されていない面に粘着材あるいは接着材を塗布する。
【0063】
4.導電体膜501が形成されたフィルム部材502で誘電体シート503を被覆する。
【0064】
ここでは、誘電体シート503におけるY軸方向の両端を除く部分がフィルム部材502で被覆される。
【0065】
なお、誘電体シート503とフィルム部材502を接合させる方法として、一般的な粘着材あるいは接着材を用いる方法以外に、(1)フィルム部材502の素材と同じ系列の樹脂接着材を用いる方法、(2)フィルム部材502の素材と同じ系列の樹脂接着材と硬化剤を用いる方法、(3)フィルム部材502の素材と同じ系列の樹脂ホットメルト接着材を用いる方法、(4)フィルム部材502の素材と同じ系列の樹脂ホットメルト接着材と硬化剤を用いる方法、(5)フィルム部材502の一部を溶解させる方法、などを用いることができる。
【0066】
上記(1)、(2)、(4)の方法は、一般的な粘着材あるいは接着材を用いる方法に比べて、接合力を大きくすることができる。上記(3)、(4)の方法は、溶剤を不要とすることができる。上記(5)の方法は、低コスト化を図ることができる。
【0067】
フィルム部材502aを用いる場合は、図8(A)及び図8(B)に示されるように、フィルム部材502aで囲まれた空隙部に、誘電体シート503を挿入することによって、導電体膜501が形成されたフィルム部材502で誘電体シート503を被覆する。
【0068】
1枚のフィルム部材502bを用いる場合は、図9(A)〜図9(D)に示されるように、フィルム部材502bを誘電体シート503の外形に沿って折り曲げて、フィルム部材502bで誘電体シート503をくるむ。そして、フィルム部材502bのY軸方向の両端を導電性を有する接着材で接合し、該接合部の導電体膜501上に銀インクを塗布する。
【0069】
2枚のフィルム部材502cを用いる場合は、図10(A)〜図10(C)に示されるように、2枚のフィルム部材502cで誘電体シート503を挟み、X軸方向の両端部を誘電体シート503の外形に沿って折り曲げる。そして、+Z側にあるフィルム部材502cのY軸方向の両端と−Z側にあるフィルム部材502cのY軸方向の両端とを導電性を有する接着材で接合し、各接合部の導電体膜501上に銀インクを塗布する。
【0070】
なお、上記接合部は、導電性を有する接着材だけでなく、導電テープ、超音波接合などで接合されても良い。
【0071】
また、上記接合部では、交流が通過できる程度に、一側の導電体膜501と他側の導電体膜501とが近接していても良い(図11〜図14参照)。この場合、該接合部における静電容量は、1pF〜10nFであることが好ましい。なお、以下では、交流が通過できる程度に、互いが近接している接合を、便宜上、「静電容量的接合」ともいう。
【0072】
このとき、誘電体シート503とフィルム部材502との間の一部に、隙間ができるようにしても良い。これにより、交信距離の増大を図ることができる。
【0073】
また、フィルム部材502と誘電体シート503との間に、誘電体シート503と同じ材料で形成され、表面に凹凸を有するスペーサを配置しても良い。これにより、交信距離の増大を図ることができる。
【0074】
5.スロットアンテナ505を形成する。
【0075】
+Z側の導電体膜501を、所定の形状に打ち抜いて、スロットアンテナ505を形成する。このとき、導電体膜501のみを打ち抜いても良いし、フィルム部材502とともに導電体膜501を打ち抜いても良い。なお、スロットアンテナ505は、研磨あるいはエッチングによっても形成することができる。
【0076】
また、上記「フィルム部材502の表面に導電体膜501を形成する」工程において、同時にスロットアンテナ505を形成しても良い。
【0077】
例えば、グラビア印刷で導電体膜501を形成する場合、スロットアンテナの部分が印刷されないような印刷パターンで印刷すれば良い。
【0078】
また、例えば、蒸着によって導電体膜501を形成する場合、蒸着前にシリコンあるいはフッ素系樹脂でスロットアンテナの形状を印刷し、蒸着後に該シリコンあるいはフッ素系樹脂を除去すれば良い。
【0079】
ここで、スロットアンテナ505について説明する。
【0080】
(A)スロットアンテナ505の形状をH字形状とする場合(図15参照)
【0081】
スロットアンテナ505の外周の1/2をLとすると、次の(1)式からLの値が決定される。ここで、μsはフィルム部材502の比透磁率であり、Esはフィルム部材502の比誘電率である。
【0082】
【数1】

【0083】
フィルム部材502の材質がポリエチレンの場合は、μs=1、Es=2.3である。そして、周波数を920MHzとすると、波長λは0.326mである。そこで、この場合は、上記(1)式から、Lは0.215mである。
【0084】
この場合は、一例として、図15において、L1=40mm、L2=2mm、L3=38mm、L4=25mmとすることができる。
【0085】
なお、仮にフィルム部材502がない場合は、μs=1、Es=1であり、Lは0.326mである。
【0086】
(B)スロットアンテナ505の形状をI字形状とする場合(図16参照)
【0087】
この場合は、Y軸方向が長手方向となり、その長さ(スロット長)が上記L、すなわち、0.215mとなる。そして、X軸方向の長さ(スロット幅)が0.01λ、すなわち、2.15mmとなる。
【0088】
なお、スロットアンテナ505の形状は、H字形状及びI字形状に限定されるものではない。
【0089】
一例として図17(A)及び図17(B)に示されるように、電流元から電流が供給されると、該電流によって電界Eが発生する。そして、その電界Eが、磁界の流れである磁流Iを発生させる。このとき、スロット長Lが波長の1/2(λ/2)であれば、共振し、磁界及び電界を強く発生する(図18(A)及び図18(B))。そして、電磁波が放出される。
【0090】
6.ICチップ504を取り付ける。
【0091】
ICチップ504は、2つの給電端子間のインピーダンスとICチップ504内部のインピーダンスとのマッチングがとれる位置に取り付けられる(図19参照)。
【0092】
スロットアンテナ505の形状がH字形状の場合が図20に示されている。ここでは、図20における符号Lyの値を10mmとしている。
【0093】
また、スロットアンテナ505の形状がI字形状の場合が図21に示されている。ここでは、図21における符号Lyの値を30mmとしている。
【0094】
ここでは、一例として図22に示されるように、ICチップ504は、導電インクで導電体膜501に接着する。
【0095】
なお、ICチップ504が、一例として図23(A)に示されるように、給電端子が形成されたラベルに固着されているラベルタイプのICチップであれば、一例として図23(B)に示されるように、給電端子と導電体膜501とを導電インクで接着させても良い。図23(C)は、図23(B)の平面図である。
【0096】
この場合に、一例として図24に示されるように、電極と導電体膜501との接合が静電容量的接合であっても良い。
【0097】
ところで、ダイポールアンテナ及びインピーダンス調整回路を有する金属対応でない従来のRFIDタグを、金属対応のRFIDタグにすることができる。この場合は、インピーダンス調整回路をカットし(図25(A)及び図25(B)参照)、一例として図26に示されるように、ICチップの電極と導電体膜501とを電気的に接続すれば良い。
【0098】
また、一例として図27(A)及び図27(B)に示されるように、フィルム部材502の−Z側からICチップ504を取り付けても良い。これにより、+Z側にICチップ504が突出するのを抑制することができる。そして、例えば、図28に示されるように、+Z側の導電体膜501上に可逆性感熱記録媒体520が形成されている場合に、該可逆性感熱記録媒体520に対する印字及び消去の際に、ICチップ504が干渉するのを抑制することができる。
【0099】
また、この場合に、一例として図29に示されるように、誘電体シート503内にICチップ504が収容されるように、誘電体シート503にくぼみが形成されていても良い。このくぼみは、研磨やプレス加工によって形成することができる。
【0100】
なお、フィルム部材502の−Z側からICチップ504を取り付ける場合は、上記「導電体膜501が形成されたフィルム部材502で誘電体シート503を被覆する」工程に先立って、スロットアンテナ505を形成し、ICチップ504を取り付ける必要がある。
【0101】
《具体例1》
誘電体シート503として厚さ0.1mmの発泡ウレタンシートを用い、フィルム部材502として厚さ100μmのPETフィルムを2枚用い、導電体膜501としてアルミニウムの蒸着膜を用いた。そして、該誘電体シート503を2枚のフィルム部材502で挟んでRFIDタグ500(便宜上、「RFIDタグ500A」という)を作成した。このRFIDタグ500Aでは、図3における符号Dzの値は約0.3mmであり、可撓性を有していた。
【0102】
《具体例2》
また、誘電体シート503として厚さ0.2mmの発泡ウレタンシートを用い、フィルム部材502として厚さ188μmのPETフィルムを1枚用い、導電体膜501としてアルミニウムの蒸着膜を用いた。そして、誘電体シート503を1枚のフィルム部材502でくるんでRFIDタグ500(便宜上、「RFIDタグ500B」という)を作成した。このRFIDタグ500Bでは、図3における符号Dzの値は約0.6mmであり、可撓性を有していた。
【0103】
上記RFIDタグ500A及び上記RFIDタグ500Bの交信性能を、オムロン社製のリーダライタVP750で計測したところ、いずれも、1mで、−30dBm以上の交信性能が得られた。このとき、RFIDタグ500A及びRFIDタグ500Bの裏面側に金属ブロックを置いても、同等の交信性能が得られた。
【0104】
また、RFIDタグ500A及びRFIDタグ500Bを、市販されている缶コーヒーの円筒部に貼り付けても、交信性能の劣化はほとんどなかった。
【0105】
また、RFIDタグ500A及びRFIDタグ500Bを、自動車の車体に貼り付けても、交信性能の劣化はほとんどなかった。
【0106】
以上説明したように、本実施形態に係るRFIDタグ500によると、導電体膜501、フィルム部材502、誘電体シート503、ICチップ504、スロットアンテナ505、可逆性感熱記録媒体520などを有している。
【0107】
フィルム部材502は、チューブ状あるいは少なくとも1枚のシート状のフィルム部材であり、その一側の面にスロットアンテナ505に対応する部分を除く領域に導電体膜501が設けられている。そして、誘電体シート503は、Y軸方向の両端を除いて、フィルム部材502で被覆され、導電体膜501で実質的に覆われている。また、ICチップ504は、導電体膜501におけるスロットアンテナ505が形成される部分と電気的に接続されている。
【0108】
この場合は、金属対応で、貼り付け対象の影響による交信距離の減少を招くことなく、可撓性を有するRFIDタグを実現することができる。そして、RFIDタグ500は、曲げられても特性の劣化はほとんどない。
【0109】
そこで、RFIDタグ500は、使用される環境、貼り付けられる対象物の材質及び形状、並びに貼り付けられる場所の形状、に制限されることなく安定して使用することができる。
【0110】
そして、本実施形態に係るRFIDシステム10によると、RFIDタグ500を含んで構成されているため、精度良く、安定して、ID番号を読み取ることができ、システムの信頼性を向上させることができる。
【0111】
なお、上記実施形態において、前記「スロットアンテナ505を形成する」工程に先立って、図30(A)〜図30(C)に示されるように、導電体膜501を保護フィルム506で被覆しても良い。
【0112】
また、上記実施形態において、前記「導電体膜501が形成されたフィルム部材502で誘電体シート503を被覆する」工程で、導電体膜501がフィルム部材502と誘電体シート503との間になるようにしても良い(図31(A)〜図31(C)参照)。この場合は、フィルム部材502が上記保護フィルムの機能を有することとなる。この場合の、ICチップ504と導電体膜501との電気的な接続例が図32(A)〜図33(B)に示されている。
【0113】
また、上記実施形態において、前記フィルム部材502が誘電体シート503と同じ材質であれば、該フィルム部材502に誘電体シート503の機能をもたせても良い。この場合は、誘電体シート503は不要である。
【0114】
また、上記実施形態において、一例として図34(A)及び図34(B)に示されるように、X軸方向に関して、スロットアンテナ505を含まない両端部分を折り曲げても良い。この場合は、X軸方向の寸法を短くすることができる。
【0115】
また、上記実施形態において、RFIDタグ500にデータ等を可逆的に印字する必要がない場合は、可逆性感熱記録媒体の形成は行われなくても良い。そして、この場合は、上記印字装置はなくても良い。
【0116】
また、上記実施形態では、誘電体シート503の形状が長方形のシート状である場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、該長方形の角部が面取りされた多角形のシート状であっても良い。この場合、該面取り部は、導電体膜501によって覆われていても良いし、覆われていなくても良い。
【0117】
また、上記実施形態では、RFIDタグ500に情報を書き込む場合について説明したが、これに限定されるものではない。この場合は、前記ICチップ504において、情報が書き込まれるメモリ領域が不要である。また、上記RW装置に代えて、ID番号の読み出しのみを行う読み出し専用の装置(リーダ)を用いることができる。
【0118】
また、上記実施形態では、RFIDシステム10が3つの部屋の入退室管理を行う場合について説明したが、管理対象の部屋の数はこれに限定されるものではない。
【0119】
また、上記実施形態では、RFIDシステム10が部屋の入退室管理を行う場合について説明したが、これに限定されるものではない。現在RFIDシステムが利用されている用途に適用させることができる。そして、システムの信頼性を向上させることができる。
【0120】
また、上記実施形態では、周波数がUHF帯の場合について説明したが、これに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0121】
10…RFIDシステム、100…制御装置、200A,200B,200C…RW装置(通信装置)、300A,300B,300C…ドアロック解除装置、400…データベース、500…RFIDタグ、501…導電体膜、502…フィルム部材、503…誘電体シート、504…ICチップ、505…スロットアンテナ、506…保護フィルム(保護層)、520…可逆性感熱記録媒体。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0122】
【特許文献1】特開2008−123222号公報
【特許文献2】特開2009−49655号公報
【特許文献3】特開2010−218537号公報
【特許文献4】特開2011−54185号公報
【特許文献5】特開2011−96056号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体シートと、
スロットアンテナが形成され、前記誘電体シートを実質的に取り囲んでいる導電体膜と、
前記導電体膜における前記スロットアンテナが形成された部分と電気的に接続されているICチップと、を備え、
前記導電体膜は、チューブ状の樹脂フィルム上に形成されているRFIDタグ。
【請求項2】
誘電体シートと、
スロットアンテナが形成され、前記誘電体シートを実質的に取り囲んでいる導電体膜と、
前記導電体膜における前記スロットアンテナが形成された部分と電気的に接続されているICチップと、を備え、
前記導電体膜は、シート状の樹脂フィルム上に形成されているRFIDタグ。
【請求項3】
前記誘電体シートは、少なくとも1枚の前記シート状の樹脂フィルムで覆われており、
該少なくとも1枚の前記シート状の樹脂フィルムにおける導電体膜は、部分的に接合されあるいは交流が通過できる程度に近接していることを特徴とする請求項2に記載のRFIDタグ。
【請求項4】
前記導電体膜は、前記誘電体シートと前記樹脂フィルムとの間に設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のRFIDタグ。
【請求項5】
前記導電体膜は、保護膜で被覆されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のRFIDタグ。
【請求項6】
前記導電体膜の上に設けられた可逆性感熱記録媒体を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のRFIDタグ。
【請求項7】
前記ICチップは、給電端子が形成されたラベルに固着されているラベルタイプのICチップであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のRFIDタグ。
【請求項8】
前記ICチップは、前記導電体膜と前記誘電体シートとの間に設けられていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のRFIDタグ。
【請求項9】
情報が格納されている請求項1〜8のいずれか一項に記載のRFIDタグと、
前記RFIDタグに対して無線通信により少なくとも前記情報の読み出しを行なう通信装置と、
前記通信装置を制御する制御装置と、を備えるRFIDシステム。

【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図25】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【公開番号】特開2013−37653(P2013−37653A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175624(P2011−175624)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【出願人】(599154663)株式会社スマート (18)
【Fターム(参考)】