説明

Rbp−jコンディショナルノックアウトマウス

【課題】本発明の目的は、膵細胞の分化過程においてRbp-j遺伝子の発現が人為的に抑制されていることを特徴とする遺伝子改変非ヒト哺乳動物を提供することにある。また、インスリンの過剰分泌または分泌不足に伴う疾患を、治療または予防するための医薬組成物のスクリーニング方法の提供も課題とする。さらにインスリンの分泌不足に伴う疾患の検査方法および検査薬の提供も課題とする。
【解決手段】本発明者らは、上記の課題を解決するために、Cre/loxP DNA組換えシステムを用いて、発生段階の膵におけるRbp-jの特異的欠失を有するマウスを作製し、その形質を観察した。体重減、高血糖、血漿インスリン濃度の低下、および摂取量の増加(糖尿病性多食)等、膵形成不全を伴うインスリン欠乏性糖尿病に典型的な特徴を示し、膵前駆細胞の維持および適当量の膵β細胞生成のためはRbp-jが必要であることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膵細胞の分化の初期においてRbp-j遺伝子の発現が人為的に抑制されていることを特徴とする遺伝子改変非ヒト哺乳動物に関する。また、インスリンの分泌不足に伴う疾患を、治療または予防するための医薬組成物のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膵β細胞はインスリンを分泌することによりグルコースホメオスタシスの調節において中心的役割を果たしている。1型糖尿病はβ細胞の破壊が原因である(非特許文献1)。最近の膵島移植試験におけるデータは、膵島の十分な供給が可能であれば、糖尿病は治療可能であることを示唆しているが、臓器提供者の数は糖尿病患者の数よりもはるかに少ない(非特許文献2〜4)。死体から摘出した膵臓以外、生理学的に調節されたインスリン分泌が可能な、多くの細胞供給源が検討されている(非特許文献5)。インビボでの膵島発生の過程をインビトロで再現するためには、膵細胞発生の過程を調節するメカニズムについてさらに研究することが重要である。マウスにおいて、膵臓は胎齢9日(E9)頃に前腸内胚葉の背側および腹側領域から生じる。膵原基はホメオドメインタンパクPdx1を発現するため、すべての膵細胞型はPdx-1陽性前駆細胞由来である(非特許文献6,7)。膵前駆細胞集団は膵β細胞を生成し、細胞系譜追跡解析により、胚形成の間ずっと持続して新しいβ細胞の分化が可能であることが明らかにされている(非特許文献7〜10)。
【0003】
Notchシグナリングは様々な組織で細胞の運命の決定を調節し、Notch受容体またはそれらのリガンドをコードする遺伝子の突然変異が、様々なヒトの疾患の原因であるとされている(非特許文献11〜21)。Notch受容体とそのリガンドとの相互作用は、受容体の細胞内ドメイン(Notch IC)の切断を誘導し、該ドメインは、核に移行し、Rbp-jに結合して細胞分化または増殖に関連する標的遺伝子の転写をトランス活性化する(非特許文献22〜24)。Rbp-jはNotch受容体の4型すべてに結合し、広範に発現されるため、Notchシグナリングの重要なメディエータである(非特許文献25)。
【0004】
様々なNotch関連遺伝子が発生中の膵細胞で発現されることがわかっている(非特許文献26)。しかしながら、Dll1、Notch1、Notch2、Jagged1、Rbp-jまたはHes1などの遺伝子のホモ接合性欠失マウスが、複数の異常および早期胚致死を示すために、膵細胞発生中のNotchシグナリングの正確な役割については、まだ明らかにされていない(非特許文献12,14,29〜32)。Dll1またはHes1の全身性ノックアウトマウスで、E10頃に膵における過剰のα(グルカゴン産生)細胞分化が報告されている(非特許文献29,32)が、β細胞はマウスではE13.5に増殖し始め、αおよびβ細胞の分化はいずれもPdx1-発現上皮とは無関係に起こる(非特許文献8)ため、β細胞へのNotchシグナリングの影響は今後解明する必要がある。また、Dll1またはHes1の全身性ノックアウトマウスにおける表現型が膵細胞発生に関係するとされる他の外的因子の変化に次いで生じることも考えられる。
【0005】
なお、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
【非特許文献1】Gale E. A., Diabetes, 50, 217-226 (2001)
【非特許文献2】Weir G. C., and Bonner-Weir, S., Diabetes, 46, 1247-1256 (1997)
【非特許文献3】Shapiro, A. M., et al., N Engl J Med., 343, 230-238 (2000)
【非特許文献4】Hirshberg, B., et al., Rev. Endocr. Metab. Disord., 4, 381-389 (2003)
【非特許文献5】Rother K. I., and Harlan D. M., J. Clin. Invest., 114, 877-883 (2004)
【非特許文献6】Offield, M. F., et al., Development, 122, 983-995 (1996)
【非特許文献7】Gu, G., et al., Development, 129, 2447-2457 (2002)
【非特許文献8】Jensen, J., et al., Diabetes, 49, 163-176 (2000)
【非特許文献9】Edlund, H., Nat. Rev. Genet., 3, 524-532 (2002)
【非特許文献10】Wilson, M. E., et al., Mech. Dev., 120, 65-80 (2003)
【非特許文献11】Artavanis-Tsakonas, S., et al., Science, 268, 225-232 (1995)
【非特許文献12】Ishibashi, M., et al., Genes Dev., 9, 3136-3148 (1995)
【非特許文献13】de la Pompa, J. L., et al., Development, 124, 1139-1148 (1997)
【非特許文献14】Hrabe de Angelis, M., et al., Nature, 386, 717-721 (1997)
【非特許文献15】Morrison, S. J., et al., Cell, 101, 499-510 (2000)
【非特許文献16】MacDonald, H. R., et al., Trends Immunol., 22, 155-160 (2001)
【非特許文献17】McCright, B., et al., Development, 128, 491-502 (2001)
【非特許文献18】Han, H., et al., Int Immunol., 14, 637-645 (2002)
【非特許文献19】Tanigaki, K., et al., Nat. Immunol., 3, 443-450 (2002)
【非特許文献20】Yamamoto, N., et al., Curr Biol., 13, 333-338 (2003)
【非特許文献21】Tanigaki, K., et al., Immunity, 20, 611-622 (2004)
【非特許文献22】Jarriault, S., et al., Nature, 377, 355-358 (1995)
【非特許文献23】Tamura, K., et al., Curr Biol., 5, 1416-1423 (1995)
【非特許文献24】Satoh et al., J. Biol. Chem., 279, 24986-24993(2004)
【非特許文献25】Kato, H., et al., FEBS Lett., 395, 221-224 (1996)
【非特許文献26】Lammert, E., et al., Mech Dev., 94, 199-203 (2000)
【非特許文献27】Swiatek, P. J., et al., Genes Dev., 8, 707-719 (1994)
【非特許文献28】Oka, C., et al., Development, 121, 3291-3301 (1995)
【非特許文献29】Apelqvist, A., et al., Nature, 400, 877-881 (1999)
【非特許文献30】Hamada, Y., et al., Development, 126, 3415-3424 (1999)
【非特許文献31】Xue, Y., et al., Hum Mol Genet., 8, 723-730 (1999)
【非特許文献32】Jensen, J., et al., Nat. Genet., 24, 36-44 (2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
膵細胞の分化の初期において、Rbp-j遺伝子の役割は重要なものであると考えられてきたが、これまでRbp-j遺伝子の正確な役割の解明が行われていなかった。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、膵細胞の分化の初期においてRbp-j遺伝子の発現が人為的に抑制されていることを特徴とする遺伝子改変非ヒト哺乳動物を提供することにある。また、インスリンの過剰分泌または分泌不足に伴う疾患を、治療または予防するための医薬組成物のスクリーニング方法の提供も課題とする。さらにインスリンの分泌不足に伴う疾患の検査方法および検査薬の提供も課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、Cre/loxP媒介性DNA組換えシステム(Metzger, D., et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 92, 6991-6995 (1995))を用いて、発生段階の膵におけるRbp-jの特異的欠失を有するマウスを作製し、その形質を観察した。
【0009】
膵発生の初期におけるRbp-jの欠損は、膵芽においてHes1のダウンレギュレーションと、同時にニューロジェニン3陽性細胞数の増加を引き起こした。胎日齢(E)11.5頃にグルカゴン発現細胞および膵ポリペプチド発現細胞の分化の促進が観察されたが、インスリン発現細胞はほとんど分化されなかった。発生の後期に、膵管の分化および伸長が促進されたが、上皮分枝および腺房細胞分化は抑制された。得られたマウスは、体重減、高血糖、血漿インスリン濃度の低下、および摂取量の増加(糖尿病性多食)等、膵形成不全を伴うインスリン欠乏性糖尿病に典型的な特徴を示した。
【0010】
Pdx1陽性前駆細胞は膵における全ての成熟細胞の基となることから、本発明のマウスはRpb1-jのノックアウトにより、Notch/Rpb1-jシグナリングによるα細胞、PP細胞、膵管分化の抑制が阻止され、過形成を引きおこし、結果として上皮前駆細胞が枯渇したために、続いて分化する膵β細胞が減少し糖尿病に典型的な特徴が発現したものと考えられる。すなわち、Notch/Rpb1-jシグナリングは、α細胞、PP細胞、膵管分化を調節し、上皮前駆細胞のプールを維持するものと示唆された。
【0011】
これとは対照的に、分化後のβ細胞に特異的に発現するインスリンII遺伝子のプロモーターにコントロールされてCre遺伝子を発現するマウスを観察した結果、β細胞特異的なRbp-jの欠損は、膵β細胞の数および機能に影響しない。
【0012】
即ち、本発明者らは、膵前駆細胞の維持および適当量の膵β細胞生成のためはRbp-jが必要であることを見出し、これにより本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、より具体的には以下の〔1〕〜〔23〕を提供するものである。
〔1〕 膵細胞の分化過程においてRbp-j遺伝子の発現が人為的に抑制されていることを特徴とする遺伝子改変非ヒト哺乳動物。
〔2〕 Rbp-j遺伝子の遺伝子対の一方または双方に外来遺伝子が挿入されていることを特徴とする〔1〕に記載の遺伝子改変非ヒト哺乳動物。
〔3〕 Rbp-j遺伝子の発現が膵細胞のみにて抑制されていることを特徴とする〔1〕または〔2〕に記載の遺伝子改変非ヒト哺乳動物。
〔4〕 糖尿病のモデル動物である、〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の遺伝子改変非ヒト哺乳動物。
〔5〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、膵β細胞分化を抑制する医薬組成物のスクリーニング方法。
(a)Rbp-jに被検化合物を接触させる工程
(b)Rbp-jと被検化合物との結合を検出する工程
(c)Rbp-jと結合する被検化合物を選択する工程。
〔6〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、膵β細胞分化を抑制する医薬組成物のスクリーニング方法。
(a)Rbp-j遺伝子を発現する細胞に被検化合物を接触させる工程
(b)Rbp-jの発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物を接触させていない場合と比較して、Rbp-jの発現レベルを減少させた被検化合物を選択する工程。
〔7〕 以下の(a)〜(d)の工程を含む、膵β細胞分化を抑制する医薬組成物のスクリーニング方法。
(a)Rbp-jをコードするDNAのプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液を提供する工程
(b)該細胞または該細胞抽出液に被検化合物を接触させる工程
(c)該細胞または該細胞抽出液における該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(d)被検化合物を接触させていない場合と比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルを減少させた被検化合物を選択する工程。
〔8〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、膵β細胞分化を抑制する医薬組成物のスクリーニング方法。
(a)Rbp-j遺伝子を発現する細胞に被検化合物を接触させる工程
(b)該細胞におけるRbp-jの活性を測定する工程
(c)被検化合物を接触させない場合と比較して、上記活性を低下させた被検化合物を選択する工程。
〔9〕 膵β細胞分化を抑制する医薬組成物が、インスリンの過剰分泌に伴う疾患を治療または予防するための医薬組成物であることを特徴とする、請求項〔5〕〜〔8〕のいずれかに記載のスクリーニング方法。
〔10〕 インスリンの過剰分泌に伴う疾患が、脂肪肝、動脈硬化、インスリン分泌過剰型糖尿病、またはメタボリック症候群である〔9〕に記載の方法。
〔11〕 〔5〕〜〔10〕のいずれかに記載のスクリーニング方法により選択された、インスリンの過剰分泌に伴う疾患を治療または予防するための医薬組成物。
〔12〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、膵β細胞分化を促進する医薬組成物のスクリーニング方法。
(a)Rbp-jに被検化合物を接触させる工程
(b)Rbp-jと被検化合物との結合を検出する工程
(c)Rbp-jと結合する被検化合物を選択する工程。
〔13〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、膵β細胞分化を促進する医薬組成物のスクリーニング方法。
(a)Rbp-j遺伝子を発現する細胞に被検化合物を接触させる工程
(b)Rbp-jの発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物を接触させていない場合と比較して、Rbp-jの発現レベルを増加させた被検化合物を選択する工程。
〔14〕 以下の(a)〜(d)の工程を含む、膵β細胞分化を促進する医薬組成物のスクリーニング方法。
(a)Rbp-jをコードするDNAのプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液を提供する工程
(b)該細胞または該細胞抽出液に被検化合物を接触させる工程
(c)該細胞または該細胞抽出液における該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(d)被検化合物を接触させていない場合と比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルを増加させた被検化合物を選択する工程。
〔15〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、膵β細胞分化を促進する医薬組成物のスクリーニング方法。
(a)Rbp-j遺伝子を発現する細胞に被検化合物を接触させる工程
(b)該細胞におけるRbp-jの活性を測定する工程
(c)被検化合物を接触させない場合と比較して、上記活性を上昇させた被検化合物を選択する工程。
〔16〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、膵β細胞分化を促進する医薬組成物のスクリーニング方法。
(a)被検化合物をRbp-j遺伝子の発現が人為的に抑制されていることを特徴とする遺伝子改変非ヒト哺乳動物に投与する工程
(b)該遺伝子改変非ヒト哺乳動物における膵β細胞量を測定する工程
(c)被検化合物を投与していない場合と比較して、該遺伝子改変非ヒト哺乳動物における膵β細胞量を増加させる化合物を、選択する工程
〔17〕 膵β細胞分化を促進する医薬組成物が、インスリンの分泌不足に伴う疾患を治療または予防するための医薬組成物であることを特徴とする、〔12〕〜〔16〕のいずれかに記載のスクリーニング方法。
〔18〕 〔12〕〜〔17〕のいずれかに記載のスクリーニング方法により選択された、糖尿病を治療または予防するための医薬組成物。
〔19〕 膵細胞の分化の初期にRbp-j遺伝子を発現する細胞において、Rbp-j遺伝子の発現または活性を促進させる工程を含む、膵β細胞分化を促進する方法。
〔20〕 膵細胞の分化の初期にRbp-j遺伝子を発現する細胞において、Rbp-j遺伝子の発現または活性を促進させる工程を含む、インスリンの分泌不足に伴う疾患を治療または予防する方法。
〔21〕 インスリンの分泌不足に伴う疾患が、インスリン分泌低下型糖尿病である〔20〕に記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明において、膵細胞の分化の初期においてRbp-j遺伝子の発現を抑制させることにより膵β細胞の分化抑制が示され、Rbp-j遺伝子がインビボでの膵前駆細胞の維持および膵β細胞生成に寄与することが示唆された。
【0015】
このことより、Rbp-jへの結合性、Rbp-jの発現量、Rbp-jの活性を標的として、インスリンの過剰分泌または分泌不足に伴う、疾患の治療または予防のための薬剤のスクリーニングが可能になる。また、Rbp-jの発現量やRbp-j遺伝子の変異を指標として、インスリンの分泌不足に伴う疾患の検査が可能となる。
本発明のRbp-jコンディショナルノックアウトマウスの解析は、Rbp-jの生理的役割を解明する研究において有用なものとなりうる。
【0016】
さらに、本発明の遺伝子改変動物の症状を観察し、これまで原因の明らかでなかった疾患の症状と比較することで、疾患の原因がRbp-jの膵細胞における機能不全であることを明らかにすることも可能である。本発明の遺伝子改変動物は、膵細胞においてのみRbp-jの発現が抑制され、胎生致死を引き起こすことなく膵臓の低形成を起こすため、糖尿病と同様の症状を示すモデルマウスである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、膵細胞の分化の初期においてRbp-j遺伝子の発現が人為的に抑制されていることを特徴とする遺伝子改変非ヒト哺乳動物に関する。
【0018】
本発明において「Rbp-j遺伝子の発現が人為的に抑制されている」とは、通常、Rbp-j遺伝子のゲノムDNA対の一方または双方に、ヌクレオチドの挿入、欠失、置換等の遺伝子変異を有することにより該遺伝子の発現が抑制されている状態を指す。
【0019】
本発明において、「挿入」とは、Rbp-j遺伝子中に、Rbp-j遺伝子以外の配列を有するDNAを挿入することにより、当Rbp-j遺伝子以外のDNAを挿入したRbp-j遺伝子の発現産物がRbp-jとして機能しないようにすることをいう。また、「欠失」とは、Rbp-j遺伝子のゲノムの一部または全部を欠失させることにより、Rbp-j遺伝子の発現産物がRbp-jとして機能しないかまたは存在しないようにすることをいう。また、「置換」とは、Rbp-j遺伝子のゲノムの一部または全部をRbp-j遺伝子とは関連しない別個の配列により置換し、Rbp-jの発現産物がRbp-jとして機能しないかまたは存在しないようにすることをいう。
【0020】
上記「抑制」には、Rbp-j遺伝子の発現が完全に抑制されている場合のほか、該遺伝子の遺伝子対の一方の遺伝子の発現のみが抑制されている場合も含まれる。本発明においては、Rbp-j遺伝子の発現が特異的に抑制されていることが好ましい。また、遺伝子変異の存在する部位は、該遺伝子の発現が抑制されるような部位であれば特に制限されず、例えばエクソン部位、プロモーター部位等を挙げることができる。
【0021】
本発明においてRbp-j遺伝子の改変の対象となる動物は、通常、ヒト以外の動物であり、好ましくはマウス、ラット、ハムスター、ウサギ等のげっ歯類であり、その中でも特にマウスが好ましい。なお、一般的に称される「ノックアウト動物」も本発明の遺伝子改変動物に含まれる。
【0022】
本発明の非ヒト哺乳動物は、特に、時期特異的及び/又は組織特異的に、即ち、コンデショナルにRbp-j遺伝子の発現を抑制させることを特徴とする。時期特異的及び/又は組織特異的に遺伝子の発現を制御するする一般的な方法として、例えば、A)リコンビネースタンパク質/リコンビネース標的配列システムを利用した遺伝子組換え誘導型の方法、B)テトラサイクリンアクティベーターなどを用いた遺伝子発現制御型の方法、並びにA)及びB)を組み合わせた方法などが知られている(別冊 実験医学 ザ・プロトコールシリーズ 「ジーンターデティングの最新技術」(2000年、羊土社)コンディショナルターゲティング法 p.115-120;バイオマニュアルシリーズ8 「ジーンターゲティング」−ES細胞を用いた変異マウスの作製(1995年、羊土社)p.71-77);Sambrook, et al., Molecular Cloning: A LABORATORY MANUAL, 第3版,COLD SPRING HARBOR LABORATORY PRESS, 2001, 4.82-4.85)。
【0023】
A)のリコンビネースタンパク質/リコンビネース標的配列システムを利用した、遺伝子組換え誘導型の方法は、特定のリコンビネースタンパク質がリコンビネース標的配列を認識し、その部分でDNAの組換えを起こすことを用いた手法である。リコンビネース標的配列は特定のリコンビネースが存在しない限り組換えを起こさない。よって、リコンビネースタンパク質を時期特異的及び/又は組織特異的発現させた遺伝子改変非ヒト哺乳動物と、リコンビネース標的配列が導入された同種の遺伝子改変非ヒト哺乳動物とを掛け合わせ、リコンビネースによる組換えを時期特異的及び/又は組織特異的に生じさせ、所期の遺伝子を時期特異的及び/又は組織特異的に制御することを可能にする。本発明において好ましい方法としては、実施例において実際に適用した、バクテリオファージP1由来のCreリコンビネースタンパク質とCreタンパク質によって認識される34塩基対のloxP配列を利用したCre/loxPシステム(Metzger, D., et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 92, 6991-6995 (1995))を挙げることが出来るが、この手法に限定されるものではない。その他、酵母由来のFLP/FRTシステム(Jung, S. et al., Science, 265, 103 (1994))(哺乳動物細胞、ショウジョウバエ(Drosophila)でも相同組換えを生じる)、Zygosaccharomyces rouxiiのpSR1リコンビネース(酵母S.cerevisiaeで機能しうる)等も挙げることが出来る。
【0024】
B)の遺伝子発現制御型の方法は、特定遺伝子欠損哺乳動物に、欠損させた遺伝子を改変遺伝子の導入によりレスキューさせる方法を利用する。遺伝子発現系をレスキューする際、テトラサイクリンアクティベーター(TFT-A)等のトランスアクティベーター制御下で、欠損させた遺伝子そのものを発現させる。その際、TFT-A遺伝子は、欠損遺伝子と同じ発現様式をもつことが必要となるので、ジーンターゲティングの際ノックインにより、TFT-A遺伝子を導入する。このノックインされたTFT-A遺伝子は遺伝子欠損させられた遺伝子の発現系を利用して発現したTFT-Aが、トランスジェニックで導入したtetプロモーターに働き、欠損遺伝子を発現する。即ち、特定遺伝子発現をTFT-Aとtetプロモーターを介して行わせるマウスを作製する。TFT-Aは外部よりテトラサイクリンを添加することにより、tetプロモーターに作用できなくなり、よってテトラサイクリンの添加する組織および時期で特定遺伝子を欠損させることができるというものである。この方法は、テトラサイクリンの人為的な導入を工夫することにより、遺伝子欠損を調節でき、またテトラサイクリンの添加を止めることにより遺伝子発現を回復させることができるため、パルスとして遺伝子欠損を行わせるなどの系が可能となる。
【0025】
本発明は、膵細胞の分化の初期においてRbp-j遺伝子の発現が人為的に抑制されているコンデショナルノックアウト非ヒト哺乳動物を挙げることが出来る。また、本発明の好ましい例としては、Rbp-j遺伝子の発現が膵細胞のみにて抑制されている上記のコンデショナルノックアウト非ヒト哺乳動物を挙げることが出来る。これらは、例えば、リコンビネースタンパク質/リコンビネース標的配列システムを利用し、膵細胞の分化の初期または、膵細胞特異的にリコンビネースを発現する遺伝子改変動物を利用することにより得ることが可能である。
【0026】
また本発明は、本発明の遺伝子改変非ヒト動物から樹立された細胞株を提供する。本発明の遺伝子改変動物由来の細胞株を樹立する方法としては、公知の方法を利用することができる。例えば、げっ歯類においては、胎仔細胞の初代培養の方法を用いることが可能である。
【0027】
本発明の遺伝子改変動物、該動物から樹立した細胞株、およびES細胞株は、Rbp-j遺伝子の詳細な機能の解析に利用することができる。例えば抗Rbp-j抗体またはRbp-jアンタゴニスト低分子等のRbp-j阻害剤の副作用を推測するために使用することができる。本発明で取得されるコンディショナルノックアウトマウスは正常に生育し、少なくとも胎生期に死亡することはなかったことから、膵細胞分化初期におけるRbp-j阻害剤(アンタゴニスト)の膵細胞に対する使用には、致死性の副作用はないものと考えられる。本発明の遺伝子改変動物を詳細に検討することにより、Rbp-j阻害剤の副作用を推測することができる。また、遺伝子改変動物の組織から樹立した細胞株を用いることで、各組織でのRbp-j阻害剤の副作用を詳細に検討することが可能である。
【0028】
また、本発明の遺伝子改変動物の症状を観察し、これまで原因の明らかでなかった疾患の症状と比較することで、疾患の原因が膵細胞におけるRbp-jの機能不全であることを明らかにすることも可能である。例えば、遺伝子改変マウスあるいは当該マウス由来細胞に特徴的に現れる表現系を観察し、ヒトの疾患の諸症状と比較する。当該ヒト疾患の諸症状のうち半分以上が本発明の遺伝子改変マウスで観察されれば、当該疾患の原因が膵細胞におけるRbp-jの機能不全であると推定することができる。本発明の遺伝子改変動物は、糖尿病のモデル動物としても用いることが可能である。
【0029】
本発明は、膵β細胞分化を抑制または促進する医薬組成物スクリーニング方法に関する。
【0030】
本発明において、膵β細胞分化を抑制する医薬組成物とは、インスリンの過剰分泌に伴う疾患を治療または予防するための医薬組成物と同等の意味を示すものであってもよい。本発明において、インスリンの過剰分泌に伴う疾患としては、脂肪肝、動脈硬化、インスリン分泌過剰型糖尿病(肥満を伴う2型糖尿病など)、またはメタボリック症候群を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
また、本発明において、膵β細胞分化を促進する医薬組成物とは、インスリンの相対的分泌不足に伴う疾患を治療または予防するための医薬組成物と同等の意味を示すものであってもよい。
【0032】
本発明のスクリーニング方法の第一の態様においては、まず、Rbp-jに複数の被験化合物を接触させる。
本発明の方法に使用されるヒト由来のRbp-jのcDNAの塩基配列を配列番号:1に、該DNAがコードするRbp-jのアミノ酸配列を配列番号:2に示す。また、マウス由来のRbp-jのcDNAの塩基配列を配列番号:3に、該cDNAによりコードされるRbp-jのアミノ酸配列を配列番号:4に示す。なお本明細書においてRbp-jとは、特に断りがない限り、ヒトRbp-jおよびマウスRbp-jの全てを指す。
【0033】
また、本発明の方法に使用されるRbp-jには、上記の公知のRbp-jと機能的に同等なタンパク質を包含する。このようなタンパク質には、例えば、Rbp-jの変異体、アレル、バリアント、ホモログ、Rbp-jの部分ペプチド、または、他のタンパク質との融合タンパク質などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
本発明におけるRbp-jの変異体としては、配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなる天然由来のタンパク質であって、配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質を挙げることが出来る。また、配列番号:1または3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする天然由来のDNAよりコードされるタンパク質であって、配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質も、Rbp-jの変異体として挙げることができる。
【0035】
本発明において、変異するアミノ酸数は特に制限されないが、通常、30アミノ酸以内であり、好ましくは15アミノ酸以内であり、さらに好ましくは5アミノ酸以内(例えば、3アミノ酸以内)であると考えられる。変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている。
【0036】
本発明において「機能的に同等」とは、対象となるタンパク質が、Rbp-jタンパク質と同等の生物学的機能や生化学的機能を有することを指す。本発明において、Rbp-jタンパク質の生物学的機能や生化学的機能としては、Notchシグナリングのメディエータとしての機能、および膵前駆細胞の維持および適当量の膵β細胞生成への関与が挙げられる。生物学的な性質には発現する部位の特異性や、発現量等も含まれる。
【0037】
目的のタンパク質と「機能的に同等なタンパク質」をコードするDNAを調製するために、当業者によく知られた方法としては、ハイブリダイゼーション技術やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術を利用する方法が挙げられる。即ち、当業者にとっては、Rbp-jの塩基配列(配列番号:1または3)もしくはその一部をプローブとして、またRbp-j(配列番号:1または3)に特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとして、Rbp-jと高い相同性を有するDNAを単離することは通常行いうることである。このようにハイブリダイズ技術やPCR技術により単離しうるRbp-jと同等の機能を有するタンパク質をコードするDNAもまた本発明のDNAに含まれる。
【0038】
このようなDNAを単離するためには、好ましくはストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション反応を行う。本発明においてストリンジェントなハイブリダイゼーション条件とは、6M尿素、 0.4%SDS、0.5xSSCの条件またはこれと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を指す。よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、6M尿素、0.4%SDS、0.1xSSCの条件を用いることにより、より相同性の高いDNAの単離を期待することができる。これにより単離されたDNAは、アミノ酸レベルにおいて、目的タンパク質のアミノ酸配列と高い相同性を有すると考えられる。高い相同性とは、アミノ酸配列全体で、少なくとも50%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%,96%,97%,98%,99%以上)の配列の同一性を指す。アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、カーリンおよびアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268, 1990、Proc Natl Acad Sci USA 90: 5873, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al: J Mol Biol 215: 403, 1990)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。
【0039】
本発明の方法に使用されるRbp-jの由来となる生物種としては、特定の生物種に限定されるものではない。例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ブタ、ウシ、酵母、昆虫などが挙げられる。
【0040】
第一の態様に用いられるRbp-jの状態としては、特に制限はなく、例えば、精製された状態、細胞内に発現した状態、細胞抽出液内に発現した状態などであってもよい。
【0041】
Rbp-jの精製は周知の方法で行うことができる。また、Rbp-jが発現している細胞としては、内在性のRbp-jを発現している細胞、または外来性のRbp-jを発現している細胞が挙げられる。上記内在性のRbp-jを発現している細胞としては、培養細胞などを挙げることができるが、これに限定されるものではない。上記培養細胞としては、特に制限はなく、例えば、市販のものを用いることが可能である。内在性のRbp-jを発現している細胞が由来する生物種としては、特に制限はなく、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ブタ、ウシ、酵母、昆虫などが挙げられる。また、上記外来性のRbp-jを発現している細胞は、例えば、Rbp-jをコードするDNAを含むベクターを細胞に導入することで作製できる。ベクターの細胞への導入は、一般的な方法、例えば、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法、リポフェタミン法、マイクロインジェクション法等によって実施することができる。また、上記外来性のRbp-jを有する細胞は、例えば、Rbp-jをコードするDNAを、相同組み換えを利用した遺伝子導入法により、染色体へ挿入することで作製することができる。このような外来性のRbp-jが導入される細胞が由来する生物種としては、哺乳類に限定されず、外来タンパク質を細胞内に発現させる技術が確立されている生物種であればよい。
【0042】
また、Rbp-jが発現している細胞抽出液は、例えば、試験管内転写翻訳系に含まれる細胞抽出液に、Rbp-jをコードするDNAを含むベクターを添加したものを挙げることができる。該試験管内転写翻訳系としては、特に制限はなく、市販の試験管内転写翻訳キットなどを使用することが可能である。
【0043】
本発明の方法における「被検化合物」としては、特に制限はなく、例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、タンパク質、ペプチド等の単一化合物、並びに、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物、原核細胞抽出物、真核単細胞抽出物もしくは動物細胞抽出物等を挙げることができる。上記被験試料は必要に応じて適宜標識して用いることができる。標識としては、例えば、放射標識、蛍光標識等を挙げることができる。また、上記被験試料に加えて、これらの被験試料を複数種混合した混合物も含まれる。
【0044】
また、本発明において「接触」は、Rbp-jの状態に応じて行う。例えば、Rbp-jが精製された状態であれば、精製標品に被験試料を添加することにより行うことができる。また、細胞内に発現した状態または細胞抽出液内に発現した状態であれば、それぞれ、細胞の培養液または該細胞抽出液に被験試料を添加することにより行うことができる。被験試料がタンパク質の場合には、例えば、該タンパク質をコードするDNAを含むベクターを、Rbp-jが発現している細胞へ導入する、または該ベクターをRbp-jが発現している細胞抽出液に添加することで行うことも可能である。また、例えば、酵母または動物細胞等を用いた2ハイブリッド法を利用することも可能である。
【0045】
第一の態様では、次いで、Rbp-jと被験化合物との結合を検出する。検出方法としては、特に制限はない。Rbp-jと被験化合物との結合は、例えば、Rbp-jタンパク質に結合した被験化合物に付された標識(例えば、放射標識や蛍光標識など定量的測定が可能な標識)によって検出することができる。また、Rbp-jへの被験化合物の結合により生じるRbp-jの活性変化を指標に検出することもできる。
【0046】
本態様では、次いで、Rbp-jと結合する被験化合物を選択する。選択された化合物には、Rbp-jの活性を促進または抑制する化合物もしくは、Rbp-jの発現を増加または減少させる化合物が含まれ、それらの化合物は結果として膵β細胞分化を抑制または促進を引き起こすものである。
【0047】
本発明のスクリーニング方法の第二の態様としては、まずRbp-jを発現する細胞に被検化合物を接触させる。
【0048】
第二の態様では、次いでRbp-jの発現レベルを測定する。Rbp-jの発現レベルの測定は、当業者に公知の方法によって行うことができる。例えば、該遺伝子のmRNAを定法に従って抽出し、このmRNAを鋳型としたノーザンハイブリダイゼーション法、またはRT-PCR法を実施することによって該遺伝子の転写レベルの測定を行うことができる。さらに、DNAアレイ技術を用いて、該遺伝子の発現レベルを測定することも可能である。
【0049】
また、該遺伝子からコードされるRbp-jを含む画分を定法に従って回収し、Rbp-jの発現をSDS-PAGE等の電気泳動法で検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うこともできる。また、Rbp-jに対する抗体を用いて、ウェスタンブロッティング法を実施し、Rbp-jの発現を検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うことも可能である。Rbp-jに対する抗体については、下記に記載する。
【0050】
第二の態様では、次いで、被検化合物を接触させていない場合と比較して、Rbp-jの発現レベルを減少または増加させた被検化合物を選択する。選択された化合物には、Rbp-jの発現を増加または減少させる化合物が含まれ、それらの化合物は結果として膵β細胞分化を抑制または促進を引き起こすものである。
【0051】
本発明のスクリーニング方法の第三の態様としては、まず、Rbp-jをコードするDNAのプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液を提供する。
【0052】
第三の態様において、「機能的に結合した」とは、Rbp-j遺伝子のプロモーター領域に転写因子が結合することにより、レポーター遺伝子の発現が誘導されるように、Rbp-j遺伝子のプロモーター領域とレポーター遺伝子とが結合していることをいう。従って、レポーター遺伝子が他の遺伝子と結合しており、他の遺伝子産物との融合タンパク質を形成する場合であっても、Rbp-j遺伝子のプロモーター領域に転写因子が結合することによって、該融合タンパク質の発現が誘導されるものであれば、上記「機能的に結合した」の意に含まれる。
【0053】
上記レポーター遺伝子としては、その発現が検出可能なものであれば特に制限されず、例えば、当業者において一般的に使用されるCAT遺伝子、lacZ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、β-グルクロニダーゼ遺伝子(GUS)およびGFP遺伝子等を挙げることができる。また、上記レポーター遺伝子には、Rbp-jをコードするDNAもまた含まれる。
【0054】
Rbp-jをコードするDNAのプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液は、第一の態様において述べた方法で調製することが可能である。
【0055】
第三の態様では、次いで、上記細胞または上記細胞抽出液に被験試料を接触させる。次いで、細胞または該細胞抽出液における上記レポーター遺伝子の発現レベルを測定する。
【0056】
レポーター遺伝子の発現レベルは、使用するレポーター遺伝子の種類に応じて、当業者に公知の方法により測定することができる。例えば、レポーター遺伝子がCAT遺伝子である場合には、該遺伝子産物によるクロラムフェニコールのアセチル化を検出することによって、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。レポーター遺伝子がlacZ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による色素化合物の発色を検出することにより、また、ルシフェラーゼ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による蛍光化合物の蛍光を検出することにより、また、β-グルクロニダーゼ遺伝子(GUS)である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用によるGlucuron(ICN社)の発光や5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-グルクロニド(X-Gluc)の発色を検出することにより、さらに、GFP遺伝子である場合には、GFPタンパク質による蛍光を検出することにより、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。
また、Rbp-j遺伝子をレポーターとする場合、該遺伝子の発現レベルの測定は、第二の態様に記載された方法で行うことが出来る。
【0057】
第三の態様においては、次いで、被検化合物を接触させていない場合と比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルを減少または増加させた被検化合物を選択する。選択された化合物には、Rbp-j遺伝子の発現レベルを増加または減少させる化合物が含まれ、それらの化合物は結果として膵β細胞分化を抑制または促進を引き起こすものである。
【0058】
本発明のスクリーニング方法の第四の態様としては、まず、Rbp-j遺伝子を発現する細胞に被検化合物を接触させる。
【0059】
第四の態様では、次いで、上記Rbp-jの活性を測定する。Rbp-jの活性としては、Hesのプロモーターを用いたluciferase活性等を挙げることが出来る。次いで、被検化合物を接触させない場合と比較して、上記活性を低下もしくは増加させた被検化合物を選択する。選択された化合物には、Rbp-jの活性を上昇または低下させる化合物が含まれ、それらの化合物は結果として膵β細胞分化を抑制または促進を引き起こすものである。
【0060】
また、上記の該遺伝子改変非ヒト哺乳動物を利用して、膵β細胞分化を促進する医薬組成物のスクリーニングを行うことも可能である。本発明において、膵β細胞分化を促進するとは、膵β細胞分化が低下してしまっている状態を、健常状態(正常に膵β細胞分化が行われている状態)に改善するものであってもよい。
【0061】
本方法においては、まず、被検化合物を膵細胞の分化の初期においてRbp-j遺伝子の発現が人為的に抑制されていることを特徴とする遺伝子改変非ヒト哺乳動物に投与する。遺伝子改変動物への被験化合物の投与は、経口的または非経口的に行うことができる。
【0062】
次いで、該遺伝子改変非ヒト哺乳動物における膵β細胞の量を測定する。膵β細胞の量の測定は、被検細胞の組織を一次抗体、二次抗体によって処理し、膵β細胞を染色後、内分泌細胞(膵島を少なくとも5つの目に見える核を含む内分泌細胞と定義する)量を、膵切片の全面積に対するそれぞれのホルモン陽性細胞面積の比として計算することで行うことが出来る。
【0063】
被検細胞の組織を処理する一次抗体としては、ウサギ抗Pdx1抗体(Guz, Y., et al., Development, 121. 11-18 (1995))、1:1500希釈(C.Wrightから供与);ウサギ抗Hes1抗体(Jensen, J., et al., Nat. Genet., 24, 36-44 (2000))、1:10000希釈(R. Kageyamaから供与);ウサギ抗ニューロジェニン-3抗体(Schwitzgebel et al., 2000)、1:500希釈(M. Germanから供与);モルモット抗インスリン抗体;1:500希釈(DakoCytomation);ウサギ抗グルカゴン抗体、1:500希釈(DakoCytomation);ウサギ抗ソマトスタチン抗体、1:500希釈(DakoCytomation);ウサギ抗膵ポリペプチド抗体、1:500希釈(DakoCytomation);ウサギ抗ホスホ-ヒストンH3抗体、1:50希釈(Cell Signaling Technology);ウサギ抗パンサイトケラチン抗体、1:200希釈(Santa Cruz Biotechnology);ウサギ抗アミラーゼ抗体、1:1000希釈(Sigma-Aldrich);ウサギ抗Glut2抗体(Thorens, B., et al., J. Clin. Invest., 90, 77-85 (1992))、1:200希釈(B. Thorensから供与)等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、二次抗体としては、ビオチニル化ヤギ抗モルモットIgG抗体、1:200希釈;ビオチニル化ヤギ抗ウサギIgG抗体、1:200希釈;およびビオチニル化ウサギ抗ヤギIgG、1:200希釈(すべてVector Laboratories)等を挙げることが出来るがこれらに限定されるものではない。
【0064】
膵β細胞量の評価はBouwenらの方法(Bouwens L, et al., Diabetes 43, 1279-1283 (1994))により行うことが出来る。具体的には、各組織標本上の膵組織全体像と全膵島像を、CCDカメラを介して顕微鏡にてコンピュータに取り込み、その後NIH Image1.60 (NIH, USA)等のソフトウェアを用いて,取り込んだ膵組織像と膵β細胞をそれぞれ手動で形取り面積を解析する。膵β細胞量は全膵組織に占める膵β細胞の割合として求めることも出来る。本測定は、実施例に具体的に記載された方法でも行うことが出来る。
【0065】
本方法は次いで、被検化合物を投与していない場合と比較して、該遺伝子改変非ヒト哺乳動物における膵β細胞分化を促進させる化合物を、選択する。選択された化合物には、膵β細胞分化を促進する化合物が含まれ、膵β細胞分化を抑制または促進を引き起こすものであると考えられる。
【0066】
本発明は、膵細胞の分化の初期にRbp-j遺伝子を発現する細胞において、Rbp-j遺伝子の発現または活性を抑制または促進させる工程を含む、膵β細胞分化を抑制または促進する方法に関する。また、膵細胞の分化の初期にRbp-j遺伝子を発現する細胞において、Rbp-j遺伝子の発現または活性を抑制または促進させる工程を含む、インスリンの過剰分泌または分泌不足に伴う疾患を治療または予防する方法に関する。
【0067】
本発明において、Rbp-j遺伝子の発現または活性を抑制させるための方法としては、Rbp-jをコードするDNAの転写産物と相補的なRNA、または該転写産物を特異的に開裂するリボザイムの対象への投与を挙げることができる。Rbp-jをコードするDNAとしては配列番号:1または3に記載の塩基配列からなるDNA、配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、および配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする天然由来のDNA等も含まれる。
【0068】
本発明の「Rbp-jの発現を抑制」という記載には、遺伝子の転写の抑制およびタンパク質への翻訳の抑制が含まれる。また、DNAの発現の完全な停止のみならず発現の減少も含まれる。
【0069】
本発明の「Rbp-jをコードするDNAの転写産物と相補的なRNA」の一つの態様は、酵素をコードするDNAの転写産物と相補的なアンチセンスRNAである。
【0070】
アンチセンス核酸が標的遺伝子の発現を抑制する作用としては、以下のような複数の要因が存在する。すなわち、三重鎖形成による転写開始阻害、RNAポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造がつくられた部位とのハイブリッド形成による転写抑制、合成の進みつつあるRNAとのハイブリッド形成による転写阻害、イントロンとエキソンとの接合点でのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、mRNAとのハイブリッド形成による核から細胞質への移行抑制、キャッピング部位やポリ(A)付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始抑制、開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳抑制、mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長阻止、および核酸とタンパク質との相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現抑制などである。これらは、転写、スプライシング、または翻訳の過程を阻害して、標的遺伝子の発現を抑制する。
【0071】
本発明で用いられるアンチセンス配列は、上記のいずれの作用で標的遺伝子の発現を抑制してもよい。一つの態様としては、Rbp-j遺伝子のmRNAの5'端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的であるものと考えられる。しかし、コード領域もしくは3'側の非翻訳領域に相補的な配列も使用し得る。このように、遺伝子の翻訳領域だけでなく非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含むDNAも、本発明で利用されるアンチセンスDNAに含まれる。使用されるアンチセンスDNAは、適当なプロモーターの下流に連結され、好ましくは3'側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。このようにして調製されたDNAは、公知の方法で、所望の植物へ形質転換できる。アンチセンスDNAの配列は、形質転換する植物が持つ内在性遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に阻害できる限り、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは、標的とする遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。アンチセンス配列を用いて、効果的に標的遺伝子の発現を阻害するには、アンチセンスDNA の長さは、少なくとも15塩基以上であり、好ましくは100塩基以上であり、さらに好ましくは500塩基以上である。通常、用いられるアンチセンスDNAの長さは5kbよりも短く、好ましくは2.5kbよりも短い。
【0072】
「Rbp-jをコードするDNAの転写産物と相補的なRNA」の他の一つの態様は、Rbp-jをコードするDNAの転写産物と相補的なdsRNAである。RNAiは、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する二重鎖RNA(以下dsRNA)を細胞内に導入すると、導入した外来遺伝子および標的内在性遺伝子の発現がいずれも抑制される現象である。細胞に約40〜数百塩基対のdsRNAが導入されると、ヘリカーゼドメインを持つダイサー(Dicer)と呼ばれるRNaseIII様のヌクレアーゼがATP存在下で、dsRNAを3’末端から約21〜23塩基対ずつ切り出し、siRNA(short interference RNA)を生じる。このsiRNAに特異的なタンパク質が結合して、ヌクレアーゼ複合体(RISC:RNA-induced silencing complex)が形成される。この複合体はsiRNAと同じ配列を認識して結合し、RNaseIII様の酵素活性によってsiRNAの中央部で標的遺伝子のmRNAを切断する。また、この経路とは別にsiRNAのアンチセンス鎖がmRNAに結合してRNA依存性RNAポリメラーゼ(RsRP)のプライマーとして作用し、dsRNAが合成される。このdsRNAが再びダイサーの基質となって、新たなsiRNAを生じて作用を増幅する経路も考えられている。
【0073】
本発明のRNAは、標的遺伝子mRNAのいずれかの領域に対するアンチセンスRNAをコードしたアンチセンスコードDNAと、標的遺伝子mRNAのいずれかの領域のセンスRNAをコードしたセンスコードDNAより発現させることができる。また、これらのアンチセンスRNAおよびセンスRNAよりdsRNAを作成することもできる。
【0074】
本発明のdsRNAの発現システムを、ベクター等に保持させる場合の構成としては、同一のベクターからアンチセンスRNA、センスRNAを発現させる場合と、異なるベクターからそれぞれアンチセンスRNA、センスRNAを発現させる場合がある。例えば、同一のベクターからアンチセンスRNA、センスRNAを発現させる構成としては、アンチセンスコードDNAおよびセンスコードDNAの上流にそれぞれpolIII系のような短いRNAを発現し得るプロモータを連結させたアンチセンスRNA発現カセット、センスRNA発現カセットをそれぞれ構築し、これらカセットを同方向にあるいは逆方向にベクターに挿入することにより構成することができる。また、異なる鎖上に対向するようにアンチセンスコードDNAとセンスコードDNAと逆向きに配置した発現システムを構成することもできる。この構成では、アンチセンスRNAコード鎖とセンスRNAコード鎖とが対となった一つの二本鎖DNA(siRNAコードDNA)が備えられ、その両側にそれぞれの鎖からアンチセンスRNA、センスRNAとを発現し得るようにプロモータを対向して備えられる。この場合には、センスRNA、アンチセンスRNAの下流に余分な配列が付加されることを避けるために、それぞれの鎖(アンチセンスRNAコード鎖、センスRNAコード鎖)の3'末端にターミネーターをそれぞれ備えることが好ましい。このターミネーターは、A(アデニン)塩基を4つ以上連続させた配列などを用いることができる。また、このパリンドロームスタイルの発現システムでは、二つのプロモータの種類を異ならせることが好ましい。
【0075】
また、異なるベクターからアンチセンスRNA、センスRNAを発現させる構成としては、例えば、アンチセンスコードDNAおよびセンスコードDNAの上流にそれぞれ polIII系のような短いRNAを発現し得るプロモータを連結させたアンチセンスRNA発現カセット、センスRNA発現カセットをそれぞれ構築し、これらカセットを異なるベクターに保持させることにより構成することができる。
【0076】
本発明のRNAiにおいては、dsRNAとしてsiRNAが使用されたものであってもよい。「siRNA」は、細胞内で毒性を示さない範囲の短鎖からなる二重鎖RNAを意味し、例えば、15〜49塩基対と、好適には15〜35塩基対と、さらに好適には21〜30塩基対とすることができる。あるいは、発現されるsiRNAが転写され最終的な二重鎖RNA部分の長さが、例えば、15〜49塩基対、好適には15〜35塩基対、さらに好適には21〜30塩基対とすることができる。
【0077】
RNAiに用いるDNAは、標的遺伝子と完全に同一である必要はないが、少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列の相同性を有する。
【0078】
dsRNAにおけるRNA同士が対合した二重鎖RNAの部分は、完全に対合しているものに限らず、ミスマッチ(対応する塩基が相補的でない)、バルジ(一方の鎖に対応する塩基がない)などにより不対合部分が含まれていてもよい。本発明においては、dsRNAにおけるRNA同士が対合する二重鎖RNA領域中に、バルジおよびミスマッチの両方が含まれていてもよい。
【0079】
本発明の「Rbp-jの発現の抑制」は、また、リボザイムをコードするDNAを利用して行うことも可能である。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子のことをいう。リボザイムには種々の活性を有するものがあるが、中でもRNAを切断する酵素としてのリボザイムの研究により、RNAの部位特異的な切断を目的とするリボザイムの設計が可能となった。リボザイムには、グループIイントロン型や、RNasePに含まれるM1RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある。
【0080】
例えば、ハンマーヘッド型リボザイムの自己切断ドメインは、G13U14C15のC15の3'側を切断するが、活性にはU14が9位のAと塩基対を形成することが重要とされ、15位の塩基はCの他にAまたはUでも切断されることが示されている。リボザイムの基質結合部を標的部位近傍のRNA 配列と相補的になるように設計すれば、標的RNA中のUC、UUまたはUAという配列を認識する制限酵素的なRNA切断リボザイムを作出することが可能である。例えば、阻害標的となる本発明のコード領域中には標的となりうる部位が複数存在する。
【0081】
また、ヘアピン型リボザイムも、本発明の目的のために有用である。ヘアピン型リボザイムは、例えばタバコリングスポットウイルスのサテライトRNAのマイナス鎖に見出される(J.M.Buzayan Nature 323:349,1986)。このリボザイムも、標的特異的なRNA切断を起こすように設計できることが示されている。
【0082】
標的を切断できるよう設計されたリボザイムは、植物細胞中で転写されるようにカリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーターなどのプロモーターおよび転写終結配列に連結される。しかし、その際、転写されたRNAの5'末端や3'末端に余分な配列が付加されていると、リボザイムの活性が失われてしまうことがある。このようなとき、転写されたリボザイムを含むRNAからリボザイム部分だけを正確に切り出すために、リボザイム部分の5'側や3'側に、トリミングを行うためのシスに働く別のトリミングリボザイムを配置させることも可能である(K.Taira et al. (1990) Protein Eng. 3:733、A.M.Dzianottand J.J.Bujarski (1989) Proc.Natl.Acad.Sci.USA. 86:4823、 C.A.Grosshansand R.T.Cech (1991) Nucleic Acids Res. 19:3875、 K.Taira et al. (1991) Nucleic Acids Res. 19:5125)。また、このような構成単位をタンデムに並べ、標的遺伝子内の複数の部位を切断できるようにして、より効果を高めることもできる(N.Yuyama et al. Biochem.Biophys. Res.Commun. 186: 1271, 1992)。このようなリボザイムを用いて本発明で標的となる遺伝子の転写産物を特異的に切断し、該遺伝子の発現を抑制することができる。また、本発明のスクリーニング方法によって単離された、Rbp-j遺伝子の発現または活性を抑制させた医薬組成物を、対象に対して添加してもよい。
【0083】
本発明において、Rbp-j遺伝子の発現または活性を促進させるための方法としては、Rbp-jタンパク質をコードするDNAを対象に投与し、対象内で発現させる方法等を挙げることが出来る。Rbp-jタンパク質をコードするDNAは上記に記載の通りである。また、本発明のスクリーニング方法によって単離された、Rbp-j遺伝子の発現または活性を促進させた医薬組成物を、対象に対して添加しても良い。
【0084】
本発明のスクリーニングにより単離しうる化合物、Rbp-jタンパク質をコードするDNA、またはRbp-jの発現または活性を低下させる上記の化合物を、ヒトや他の動物の医薬として使用する場合には、これらの化合物自体を直接患者に投与する以外に、公知の製剤学的方法により製剤化して投与を行うことも可能である。例えば、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤として経口的に、あるいは水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することが考えられる。これら製剤における有効成分量は指示された範囲の適当な容量が得られるようにするものである。
【0085】
錠剤、カプセル剤に混和することができる添加剤としては、例えばゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸のような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖又はサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油又はチェリーのような香味剤が用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記の材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
【0086】
注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO-50と併用してもよい。
【0087】
油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。
【0088】
患者への投与は、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射などのほか、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、経皮的、または経口的に当業者に公知の方法により行いうる。投与量は、患者の体重や年齢、投与方法などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。また、該化合物がDNAによりコードされうるものであれば、該DNAを遺伝子治療用ベクターに組込み、遺伝子治療を行うことも考えられる。投与量、投与方法は、患者の体重や年齢、症状などにより変動するが、当業者であれば適宜選択することが可能である。
【0089】
化合物の投与量は、症状により差異はあるが、経口投与の場合、一般的に成人(体重60kgとして)においては、1日あたり約0.1から100mg、好ましくは約1.0から50mg、より好ましくは約1.0から20mgであると考えられる。
【0090】
非経口的に投与する場合は、その1回投与量は投与対象、対象臓器、症状、投与方法によっても異なるが、例えば注射剤の形では通常成人(体重60kgとして)においては、通常、1日当り約0.01から30mg、好ましくは約0.1から20mg、より好ましくは約0.1から10mg程度を静脈注射により投与するのが好都合であると考えられる。他の動物の場合も、体重60kg当たりに換算した量、あるいは体表面積あたりに換算した量を投与することができる。
【実施例】
【0091】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0092】
〔実施例1〕膵細胞特異的Rbp-jノックアウトマウスの生成
膵の発生および機能におけるRbp-jの役割を調べるために、本発明者らは発生中の膵細胞におけるRbp-j遺伝子を条件的に欠失させた。Rbp-j遺伝子のfloxed対立遺伝子(本明細書ではRbp-jfと記載する)において、loxP部位をRbp-j遺伝子のエキソン6の上流およびエキソン7の下流に導入した(図1A)。エキソン6および7はDNA結合およびNotch結合ドメインをコードし、これらのエキソンが欠損すると、Rbp-j媒介性Notchシグナリングが完全に消失する。Rbp-jfは複数の組織におけるCreリコンビナーゼの非常に有効な標的となる(Han, H., et al.,. Int Immunol., 14, 637-645 (2002); Tanigaki, K., et al., Nat. Immunol., 3, 443-450 (2002); Yamamoto, N., et al., Curr Biol., 13, 333-338 (2003))。本発明者らは、Rbp-jfマウスを、CreリコンビナーゼがマウスPdx1プロモーターの転写制御下にあるPdx.creマウス(本明細書ではPdx.creと記載する)と交配させた(Gu, G., et al., Development, 129, 2447-2457 (2002))。
【0093】
上記において、Rbp-jエキソン6および7のfloxed対立遺伝子を有するマウスの生成は公知の方法に基づき行った(Han, H., et al.,. Int Immunol., 14, 637-645 (2002))。CreリコンビナーゼがマウスPdx1プロモーターの転写制御下にあるPdx.creマウスはDr Guoqiang GuおよびDr Douglas A Meltonからご供与頂いた(Gu, G., et al., Development, 129, 2447-2457 (2002))。
【0094】
次に、本発明者らはRbp-jf/f Pdx.creマウスの膵上皮におけるCre/loxP組換えのタイミングを確認した。Rosa26R対立遺伝子は組織化学的マーカー遺伝子であるlacZ遺伝子を有し、広範に発現されるRosa26プロモーターによって転写される。lacZレポーターの上流に2つのLox-P配列ではさまれた介在停止配列が配置され(Rosa26プロモーター−loxP-〔介在停止配列〕-loxP-〔lacZ=βgalactosidase遺伝子〕)、loxPにはさまれた介在配列がCreにより組換えられて始めて、lacZ=βgalactosidase遺伝子の転写が開始され、X-gal染色により青い色が観察されるようになる。(本明細書ではRosa26Rfと記載する。Soriano, P., Nat. Genet., 21, 70-71 (1999))。floxed Rbp-jがヘテロ接合型であり、かつRosa26Rがホモ接合型であるマウスRbp-jf/+ Rosa26Rf/fを、二重へテロ接合型マウスRbp-jf/+ Pdx.creと交配させた。得られたRbp-jf/f Rosa26Rf/+ Pdx.creマウスにおいて、Pdx1プロモーター制御下でCreリコンビナーゼが発現することにより、LacZ遺伝子上流の停止カセットおよびRbp-j遺伝子のエキソン6から7のゲノム領域が切除され、その結果、β-ガラクトシダーゼの発現が活性化され、またRbp-j機能が不活化される。
【0095】
E9.5までにRbp-jf/f Rosa26R jf/+ Pdx.cre胚の前腸領域の背側および腹側膵芽がX-gal染色されることが明らかとなった(図1B)。X-gal染色については以下の工程で行った。妊娠後の指定した日の全胚をリン酸緩衝化食塩水(PBS)中4%パラホルムアルデヒドにより4℃で1時間固定し、PBSで洗浄した。β-ガラクトシダーゼの活性を、当業者に公知の方法(Wu et al., 1997)により、X-galを用いて検出した。X-galで染色後、E8.5およびE9.5の胚をメタノール中で脱水し、安息香酸ベンジル:ベンジルアルコール=2:1の溶液で洗浄した。巨視的写真をZeiss Axioskop Microscope(Carl Zeiss)を用いて撮った。
【0096】
上記の結果より、Pdx.creマウスは、膵上皮においてE9.5よりも前にloxP部位を組換え始め、これは膵島、腺房および膵管細胞を含むすべての膵細胞型の基になるものと示唆された(Gu, G., et al., Development, 129, 2447-2457 (2002); Lammert, E., et al., Curr Biol., 13, 1070-1074 (2003); Murtaugh, L. C., et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 100, 14920-14925 (2003))。
【0097】
次に、1.2kbのClaI-SacI LacZ断片をプローブとして用いて、floxed Rosa26R対立遺伝子を検出した。尾または他の組織から得たゲノムDNAで、Rbp-jf/f Pdx.creマウスの欠失の特異性および効率を、新生仔組織から調製したSphI消化ゲノムDNAのサザンブロット分析で評価した。
【0098】
その結果、Rbp-jf/f Pdx.creマウスの尾、脳および肝臓では、非組換えfloxed対立遺伝子のみが1.2kbのバンドで検出され、組換えnull対立遺伝子は膵臓でのみ3kbのバンドで検出された(図1C)。膵臓における欠失効率の評価は血管および結合組織の混入によって影響を受けるが、本発明者らはRbp-jf/f Pdx.creマウスからの膵臓においてfloxed対立遺伝子の効率的な欠失を確認した。
【0099】
本発明の実施例に用いたすべてのマウスは、ポリカーボネート製のケージで飼育され、光制御(12時間照明、12時間暗所)した空調室(温度:24±2℃;湿度:50±10%)の特定の病原体のない環境で、飲食を自由にさせて維持された。すべての実験手順は京都大学大学院医学研究科動物実験委員会による承認を受け、ヘルシンキ宣言2000年改訂版に従って実施した。実験動物の世話の方針(NIH publication no. 85-23、1985年改訂)ならびに特定国の法規に従った。
【0100】
〔実施例2〕Rbp-jf/f Pdx.creマウスの膵芽におけるHes1発現低下およびニューロジェニン-3陽性細胞増加の確認
ショウジョウバエのhairyとEnhancer of splitタンパク質の哺乳動物ホモログはHesと呼ばれる塩基性ヘリックス-ループ-ヘリックスタンパク質で、これらは典型的にはNotch/Rbp-jシグナリングによってプラスに制御され、前神経bHLH因子の転写リプレッサーとして機能する(Kageyama, R., and Ohtsuka, T., Cell Res., 9, 179-188 (1999))。哺乳動物で単離されたHesファミリーメンバーの中で、Hes1だけが膵発生初期に発現される(Jensen, J., et al., Nat. Genet., 24, 36-44 (2000))。Rbp-jf/fマウスにおいて、Hes1はE10.5のPdx-1陽性背側膵芽の核において均一に発現されたが、Rbp-jf/f Pdx.creマウスにおいてHes-1発現細胞の数は減少した(図1D)。このHes1の発現低下とは対照的に、Rbp-jf/f Pdx.creマウスの膵芽においてニューロジェニン-3陽性細胞の数は増加した(図1D)。
【0101】
本発明の実施例において、Rbp-jf/f Pdx.creマウスの組織学的分析は以下の工程により行われた。
全胚または摘出膵をPBS中4%パラホルムアルデヒドにより4℃で終夜固定し、次いでパラフィン包埋し、5μmの切片を切断し、スライドガラスに封入した。スライドを脱ろうし、再水和し、場合によっては10mMクエン酸緩衝液と共に121℃で5分間オートクレーブすることにより抗原賦活化を行った。内因性ペルオキシダーゼをメタノール中0.3%H2O2で30分間不活化した。スライドを、カゼインを含む試薬(DAKO Protein Block Serum-Free Solution; DakoCytomation)で1時間ブロックし、次いで以下の一次抗体で終夜染色した:ウサギ抗Pdx1抗体(Guz, Y., et al., Development, 121. 11-18 (1995))、1:1500希釈(C.Wrightから供与);ウサギ抗Hes1抗体(Jensen, J., et al., Nat. Genet., 24, 36-44 (2000))、1:10000希釈(R. Kageyamaから供与);ウサギ抗ニューロジェニン-3抗体(Schwitzgebel et al., 2000)、1:500希釈(M. Germanから供与);モルモット抗インスリン抗体;1:500希釈(DakoCytomation);ウサギ抗グルカゴン抗体、1:500希釈(DakoCytomation);ウサギ抗ソマトスタチン抗体、1:500希釈(DakoCytomation);ウサギ抗膵ポリペプチド抗体、1:500希釈(DakoCytomation);ウサギ抗ホスホ-ヒストンH3抗体、1:50希釈(Cell Signaling Technology);ウサギ抗パンサイトケラチン抗体、1:200希釈(Santa Cruz Biotechnology);ウサギ抗アミラーゼ抗体、1:1000希釈(Sigma-Aldrich);ウサギ抗Glut2抗体(Thorens, B., et al., J. Clin. Invest., 90, 77-85 (1992))、1:200希釈(B. Thorensから供与)。翌日、スライドをPBSで洗浄し、以下の二次抗体と共に2時間インキュベートした:ビオチニル化ヤギ抗モルモットIgG抗体、1:200希釈;ビオチニル化ヤギ抗ウサギIgG抗体、1:200希釈;およびビオチニル化ウサギ抗ヤギIgG、1:200希釈(すべてVector Laboratories)。次いで、スライドをアビジン-ビオチン複合体(ABC)試薬(Vectastain Elite ABC Kit; Vector Laboratories)と共に50分間インキュベートした後、ジアミノベンジジン4塩酸(DAB)(DakoCytomation)を基質-クロモゲン溶液として加えた。ヘマトキシリン対比染色および脱水の後、スライドを封入剤(MGK-S; Matsunami Glass)中に封入し、Zeiss Axioskop Microscope(Carl Zeiss)を用いて撮影した。10週齢マウスからの膵の形態計測分析をScion Image画像分析プログラム(Scion)を用いて行った。膵島を少なくとも5つの細胞核を確認可能な内分泌細胞のグループと定義し、膵島の数を計算した。内分泌細胞量を、膵切片の全面積に対するそれぞれのホルモン陽性細胞面積の比として計算した。免疫蛍光のために、Alexa488ヤギ抗ウサギIgGおよびAlexa546ヤギ抗モルモットIgG(Molecular Probes)を二次抗体として用いた。画像をZeiss LSM 5 PASCAL共焦点顕微鏡(Carl Zeiss)を用いて取り込んだ。TUNELアッセイのためにIn situ Apoptosis Detection Kit(Takara Bio)を用い、授乳後雌Wistarラットの退縮乳腺から得た組織をアポトーシスの陽性対照として用いた(Casey, T. M., et al. Cell Biol Int., 20, 763-767 (1996))。これらの切片の対比染色をメチルグリーンで行った。E15の胚に対して、Hes1のインサイチューハイブリダイゼーションを、プロトコル(Tomita, K., et al., EMBO J., 19, 5460-5472 (2000))通りに、ジゴキシゲニン標識cRNAプローブを用いて実施した。また、E15の胚を固定し、脱水し、包埋し、切断した後、Nuclear Fast Red(Vector Laboratories)で対比染色するか、免疫組織化学染色を行った。E18.5の胚に対して、細胞増殖を市販の細胞増殖キット(Amersham Pharmacia Biotech)を用いて行い、複製中のDNAへの5-ブロモ-2'-デオキシウリジン(BrdU)取り込みを検出した。増殖中の細胞を標識するために、E18.5の妊娠マウスにBrdU(100μg/g)を腹腔内注射し、2時間後に屠殺した。
【0102】
〔実施例3〕E11.5におけるRbp-jf/f Pdx.creマウスの組織学的分析 − Rbp-jf/f Pdx.creマウスにおけるα細胞および膵ポリペプチド産生(PP)細胞の分化促進
次に、実施例2に記載の方法に基づきE11.5における組織学的分析を行ったところ、Rbp-jf/fマウスの突出した上皮細胞中に少数の分散したα細胞が認められた(図2A)。Rbp-jf/f Pdx.creマウスにおいて、グルカゴンまたは膵ポリペプチドを発現する分化した内分泌細胞のキャップが膵芽を取り囲んでいることがわかった。Pdx-1陽性細胞およびニューロジェニン-3陽性細胞の数はRbp-jf/f Pdx.creマウスでは対照マウスに比べて減少していた。ホスホ-ヒストンH3免疫染色により検出されたPdx-1陽性上皮に対する増殖細胞の相対数は、対照マウスと変異マウスとの間で同等であった。本発明者らはTUNEL(ターミナルデオキシヌクレオチドトランスフェラーゼによるdUTPニック末端標識)法を用いてアポトーシスを検出した。しかし、対照マウスおよび変異マウスの膵上皮においてアポトーシス細胞は認められなかった。この段階での全組織X-gal染色により、膵芽はRbp-jf/f Rosa26Rf/+ Pdx.creマウスでは対照Rbp-jf/+ Rosa26Rf/+ Pdx.cre同腹仔に比べて小さいことが示された(図2B)。これらのデータは、Notch/Rbp-jシグナリングの欠損による内分泌細胞分化の促進は、膵発生初期における膵前駆(Pdx-1陽性)細胞および内分泌前駆(ニューロジェニン-3陽性)細胞両方の実質的減少を引き起こすことを示している。
【0103】
〔実施例4〕E15におけるRbp-jf/f Pdx.creマウスの組織学的分析 − Rbp-jf/f Pdx.creマウスにおける分枝減少を伴う管状構造伸長
次に、実施例2に記載の方法に基づきE15における組織学的分析を行ったところ、膵前駆細胞プールである発生中の膵細胞の上皮細胞においてPdx1はまだ発現していることがわかった。対照群の膵において、Pdx-1が強陽性で、サイトケラチンが弱陽性である上皮組織は、複雑かつ分枝したネットワークを示した(図3A)。しかし、変異マウスの膵では、上皮組織の分枝形態形成は崩壊し、管状構造が顕著であった(図3A)。これらの環状構造の内腔を裏打ちする細胞はアポトーシスの徴候を全く示さず(図3A)、活発に有糸分裂していた(図3B)。グルコーストランスポーター2(Glut2)は成熟β細胞で発現し、早期膵前駆細胞のマーカーであるとも考えられている(Pang, K., et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 91, 9559-9563 (1994))。変異マウスの膵細胞で観察された管状構造では、Glut2の発現は見られなかった(図3B)。Hes1は腸の腺窩細胞(Rbp-jf/fマウスの写真に示すとおり)および腎の前管状凝集体(Rbp-jf/f Pdx.creマウスの写真に示すとおり)において強く発現された(図3B)。対照群の膵細胞で多数のニューロジェニン-3陽性細胞の分散も認められたが、変異マウスの膵細胞ではHes1およびニューロジェニン-3の発現はいずれも実質的に認められなかった(図3B)。前述の様々な分化マーカーおよび管状形態の分析は、これらの管状構造を裏打ちする細胞は前駆細胞ではなく、増殖中の膵管細胞であることを示している。細胞系譜追跡により、本発明者らは凝集したグルカゴン産生細胞および随伴する管束先端の小管細胞が、Rbp-j-欠失細胞由来であることを確認した(図3C)。
【0104】
〔実施例5〕E18.5におけるRbp-jf/f Pdx.creマウスの組織学的分析 − 胚期後期Rbp-jf/f Pdx.creマウスの膵における膵管細胞優性および腺房の追いつき生長
次に、実施例2に記載の方法に基づきE18.5における組織学的分析を行ったところ、Rbp-jf/f Pdx.creマウスにおいてアミラーゼ陽性細胞が観察されたが、腺房細胞領域ははるかに小さく、サイトケラチン陽性膵管細胞はRbp-jf/fマウスに比べて大きい領域を占めていることがわかった。腺房細胞の高度の増殖がBrdU取り込みアッセイによって観察された(図4A)が、胚からの間隔をあけた切片のヘマトキシリン-エオシン染色により、変異体では対照マウスに比べて膵細胞がはるかに小さいことが明らかとなった(図4B)。
【0105】
〔実施例6〕生後におけるRbp-jf/f Pdx.creマウスの組織学的分析
次に、実施例2に記載の方法に基づきRbp-jf/f Pdx.creマウスの生後の膵を調べた。成獣Rbp-jf/f Pdx.creマウスは明らかに正常な胃腸管および小さい膵を示した(図5A)。絶対膵重量(図5B)(Rbp-jf/f Pdx.cre、209±73mg対Rbp-jf/f、685±81mg、P<0.005)および膵重量の全体重に対する比(Rbp-jf/f Pdx.cre、0.915±0.30%対Rbp-jf/f、1.83±0.11%、P<0.05)は、変異Rbp-jf/f Pdx.creマウスではRbp-jf/fマウスに比べて低かった。Rbp-jf/f Pdx.creマウスの膵の切片ではRbp-jf/fマウスに比べて、膵面積あたりの膵島の数は少なく(Rbp-jf/f Pdx.cre、0.146±0.060対Rbp-jf/f、0.618±0.127膵島/膵面積(mm2)、P<0.05;図5Cおよび5D)、膵島のサイズは小さかった(図5C)。
【0106】
膵島の単離は以下の工程により行われた。膵島の単離のために、ハンクス液(HBSS)(Invitrogen)中1.5mg/mLのコラゲナーゼ(Worthington Biochemical)3mLを膵管から膵に注入し、次いでこれを摘出して37℃で20分間インキュベートした。消化した膵をHBSSで4回洗浄し、膵島を顕微鏡下に手で選別した(Gotoh, M., et al., Transplantation, 40, 437-438 (1985))。
【0107】
内分泌細胞量を、複数の膵切片における全膵面積あたりのホルモン陽性面積を見積もることにより定量した。Rbp-jf/f Pdx.creマウスにおけるβ細胞量はRbp-jf/fマウスのβ細胞量の約25%まで顕著に減少した(P<0.001;図5E)。Rbp-jf/f Pdx.creマウスの膵においてβ細胞に比べてα細胞の相対的増加が見られたが、α細胞の絶対量もRbp-jf/fマウスの約50%まで有意に減少した(P<0.001;図5Eおよび5G)。膵臓全体インスリン含量(膵重量1mgあたり)を全膵の酸-エタノール抽出物中で測定した。Rbp-jf/f Pdx.creマウスではRbp-jf/fマウスに比べてインスリン含量がはるかに低かった(図5F)。膵島が少ないことに加えて、成獣Rbp-jf/f Pdx.creマウスの膵の組織検査により、拡張した膵管に伴って内分泌細胞が高頻度で見られることが明らかとなった(図5G)。Rbp-jf/f Pdx.creマウスで胚期に観察される相対的膵管細胞過形成(図3および4)は、成獣Rbp-jf/f Pdx.creマウスでは明白ではなかった(図5Cおよび5G)。
【0108】
本発明において、代謝パラメーターの解析は以下の工程により行われた。
マウスの尾から採血した全静脈血から、自動血糖測定器(Glutest Ace, Sanwa Kagaku)または酵素比色アッセイキット(Glucose CII test, Wako Pure Chemical)を用いて、血糖値を求めた。インスリンおよびアミラーゼのための血液は眼窩後方出血により採取した。血漿インスリンレベルはELISAキット(Morinaga)を用いて測定した。グルカゴンについては、血液試料をEDTA(最終濃度1mg/mL)およびアプロチニン(血液1mL中500KIE;Bayer)を含むチューブに採取した。膵インスリン含量の測定のために、膵を速やかに摘出し、秤量し、液体窒素中で凍結した。インスリンを氷冷酸エタノール中での機械的ホモジナイゼーションにより抽出した。4℃で24時間後、試料を遠心分離し、上清を回収し、-20℃で保存した。インスリン濃度をELISAにより求めた。アミラーゼ活性はキット(Amylase-Test Wako, Wako Pure Chemical)を用いてCaraway法(Casey et al., 1996)に従い測定した。値はすべて平均±標準誤差で表す。
【0109】
〔実施例7〕Rbp-jf/f Pdx.creマウスの生後の形質の観察
次に、Rbp-jf/f Pdx.creマウスの生後の形質を観察した。通常の固形飼料を与えたPdx.cre Rbp-jf/fマウスおよび対照Rbp-jf/fマウスの成長を4ヶ月間観察した。持続的観察下で、Rbp-jf/f Pdx.creマウスはRbp-jf/fマウスに比べて非常に痩せた表現型を示し、それ以上の体重増加は見られなかった(図6Aおよび6B)。変異マウスは多尿、多飲を示し、死亡前に嗜眠を呈した。これらのマウスは絶食状態および飼料を与えた状態の双方で顕著な高血糖を発生し(絶食時:Rbp-jf/f Pdx.cre、348±61mg/dL対Rbp-jf/f、98±6mg/dL、P<0.001;朝食後:Rbp-jf/f Pdx.cre、524±59mg/dL対Rbp-jf/f、124±12mg/dL、P<0.001)(図6C)、血漿インスリン濃度が顕著に低下していた(絶食時:Rbp-jf/f Pdx.creが検出限界未満であったのに対して、Rbp-jf/fは0.48±0.07ng/mL、P<0.001; 朝食後:Rbp-jf/f Pdx.creが0.04±0.04ng/mL対し、Rbp-jf/fは1.35±0.29ng/mLであった。P<0.001)(図6D)。Rbp-jf/f Pdx.creマウスの毎日の摂食量は対照群に比べて増加しており(図6E)、これは糖尿病性多食に対応していた。このように、Rbp-jf/f Pdx.creマウスはインスリン分泌の欠損を伴う糖尿病に典型的な特徴を示した。さらに、Rbp-jf/f Pdx.creマウスはRbp-jf/fマウスに比べて血清アミラーゼ活性が低いことがわかった(Rbp-jf/f Pdx.cre、711±58U/dl対Rbp-jf/f、1121±67U/dl、P<0.01;図6G)。これはおそらく、膵形成不全および重度の糖尿病によるものであった。
【0110】
〔実施例8〕
膵β細胞におけるNotch/Rbp-jシグナリングの直接的役割を評価するために、本発明者らは次にRbp-jf/fマウスを、ラットインスリンII遺伝子プロモーター制御下でCreを発現するマウス(本明細書ではRip.cre、マウスと記載する)(Postic, C., et al., J Biol Chem., 274, 305-315 (1999))と交配させた。CreリコンビナーゼがラットインスリンIIプロモーターの制御下にあるRip.creマウスはJackson laboratoryから購入した(Postic, C., et al., J Biol Chem., 274, 305-315 (1999))。
【0111】
β細胞におけるRip.creの導入遺伝子発現は胚形成中に始まり、成獣マウスにおけるβ細胞の約85%で組換えを起こす(Kulkarni, R. N., et al., Cell, 96, 329-339 (1999); Sund, N. J., et al., Genes Dev., 15, 1706-1715 (2001))。本発明者らは、単離した島からのゲノムDNAのサザンブロット分析により、Rbp-j遺伝子の高い欠失効率を確認した(図7A)。Rbp-jf/f Rip.creマウスは正常な身体サイズを有していた(データは示していない)。食後状態で、血糖値(Rbp-jf/f Rip.cre、134±10mg/dL対Rip.cre、135±12mg/dL、p=NS)または血漿インスリンレベル(Rbp-jf/f Rip.cre、1.17±0.19ng/mL対Rip.cre、1.10±0.12ng/mL、p= NS)に有意差は検出されなかった(図7Bおよび7C)。ヘマトキシリン-エオシン染色ならびにグルカゴン、インスリン、Pdx1、ソマトスタチン、膵ポリペプチド、パンサイトケラチンおよびアミラーゼを用いた免疫組織化学検査により、異常は認められなかった(図7D)。これらのデータは、Rbp-jf/f Pdx.creマウスからの所見と併せて、Rbp-jはβ細胞機能またはβ細胞量の維持に必要ではないが、十分な数のβ細胞生成には必要であることを示している。
【0112】
本発明において、本発明者らは膵におけるRbp-jの役割に焦点を合わせた。本発明の結果は、正常な膵発生および、それらによる正常なグルコースホメオスタシスにとってRbp-j機能が不可欠であることを示している。Rbp-jf/f Pdx.creマウスでは、すべての型の膵細胞が分化するものの、臓器および膵島はいずれも対照同腹仔に比べて有意に小さい。Rbp-jf/f Pdx.creマウスにおける胎仔膵の分析より、E11.5の早発性の内分泌細胞分化が認められ(図2)、その後残存上皮細胞は膵管細胞に分化する傾向にあった(図3および4)。Rbp-jf/f Rip.creマウスの表現型が正常であることから、Rbp-jはβ細胞機能および細胞が分化した後の維持に必要ないことも明らかである(図7A〜E)。
【0113】
Rbp-jはNotch受容体の4型すべての細胞内領域に結合するため、Notchシグナリングの重要なメディエータである(Kato, H., et al.,. FEBS Lett., 395, 221-224 (1996))。しかし、Notch/Rbp-jシグナリングの下流標的は十分に同定されておらず、細胞型特異的であると考えられる。例えば、全胚のノーザンブロット分析により、Rbp-JまたはNotch1ノックアウトマウスでHes5発現のレベルは低下するが、Hes1またはHes3発現のレベルは低下しないことが示された(de la Pompa, J. L., et al., Development, 124, 1139-1148 (1997))。また、本発明者らはRbp-j欠損Tリンパ球においてHes1およびHes5発現は有意に変化しないことも報告している(Tanigaki, K., et al., Immunity, 20, 611-622 (2004))。本発明において、Hes1発現の部分的減少およびニューロジェニン-3陽性細胞数の増加が認められた(図1D)。これらの限られた効果は、膵の発生初期におけるHes1発現およびニューロジェニン-3リプレッションの維持にいくつかの他のメカニズムが関与している可能性を示唆している。本発明者らの変異マウスはHes1ノックアウトマウス(Jensen, J., et al., Nat. Genet., 24, 36-44 (2000))では観察されなかった強い膵管分化を示すため、Rbp-jがHes1活性化とは無関係の役割を有する可能性もある。これを説明する可能性のあるメカニズムは、塩基性ヘリックス-ループ-ヘリックス転写因子Ptf1aに関係している。Pdx1と同様、Ptf1aはすべての膵細胞系統の前駆細胞で発現され、その突然変異は膵の非形成を引き起こす(Kawaguchi, Y., et al., Nat. Genet., 32, 128-134 (2002))。Rbp-jはPtf1aに結合し、その転写活性をさらに刺激する(Obata, J., et al., Genes Cells, 6, 345-360 (2001))ため、Rbp-jはPtf1aの完全な活性のために必要であると考えられる。
【0114】
Rbp-jf/f Pdx.creマウスにおいて、E10.5ではニューロジェニン-3陽性細胞の数は増加し(図1D)、E11.5ではPdx1およびニューロジェニン-3陽性細胞はいずれも枯渇し、αおよびPP細胞分化は促進された(図2)。共通の膵(Pdx1陽性)および内分泌(ニューロジェニン-3陽性)細胞プールのこの減少は、膵形成不全に対する説明の一つでありうる(図5Aおよび5B)。しかし、Notch/Rbp-jシグナリングの欠損によりすべての細胞が内分泌細胞に分化するわけではない(図2および3)。Rbp-jf/f Pdx.creマウスにおいて、内分泌細胞分化していない残存Pdx-1陽性上皮細胞は膵管細胞に分化する傾向がある。膵管分化については現在わかっていることが比較的少ないが、細胞系譜追跡試験は、成体膵管細胞がE9.5とE12.5との間にPdx-1陽性ニューロジェニン-3-陰性前駆細胞から生じることを示している(Gu, G., et al., Development, 129, 2447-2457 (2002))。Rbp-jf/f Pdx.creマウスにおけるRbp-j遺伝子の破壊が膵管分化の開始と共に起こったため、Notch/Rbp-jシグナリングは早期膵管分化の阻害において役割を果たしている可能性がある。
【0115】
最終分化細胞におけるNotchシグナリングの役割は知られていないが、Notchが有糸分裂後のニューロンにおいてある程度の可塑性を与えていると推測されている(Ahmad, I., et al., Mech. Dev., 53, 73-85 (1995))。本発明者らは、成獣マウスの内分泌細胞でNotch2およびDll1の発現を検出した(データは示していない)。さらに、ニューロジェニン-3陽性内分泌前駆細胞は膵島内にあることが示唆されている(Fernandes, A., et al., Endocrinology, 138, 1750-1762 (1997); Gu, G., et al., Development, 129, 2447-2457 (2002));しかし、本発明者らはRbp-jf/f Rip.creマウスと対照マウスとの間に差を認めなかった(図7)。成獣膵におけるNotch1 ICの強制発現は成熟内分泌細胞を撹乱しないことが報告されている(Murtaugh, L. C., et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 100, 14920-14925 (2003))。Rbp-jf/f Pdx.creマウスの結果と併せて、膵におけるNotchシグナリングは発生初期においてのみ不可欠であると考えられる。成獣の膵島では、β細胞は主に既存のβ細胞の自己増殖によって生成される(Dor, Y., et al., Nature, 429, 41-46 (2004))。代償性腺房細胞増殖は大規模であるものの、成獣Rbp-jf/f Pdx.creマウスで見られる絶対的に低いβ細胞量は、これが分化したβ細胞の増殖能力の限界であることを示唆しているが、ある程度の自己増殖または分化転換が変異マウスにおけるβ細胞産生低下を代償する可能性もある。
【0116】
本発明者らは本発明で、時期特異的コンディショナルジーンターゲティング法により、全膵発生に対するNotch/Rbp-jシグナリングの効果を示した。Rbp-jf/f Pdx.creマウスにおいて、早期α細胞分化以外に、膵管分化の促進が観察され、全般的結果はβ細胞形成不全およびインスリン欠乏性糖尿病であった。Rbp-jf/f Pdx.creマウスにおいて、β細胞は影響を受けなかった。本発明者らの結果に基づき、膵におけるNotch/Rbp-jシグナリングの役割は図7Fに示すモデルのとおりに起こると考えられる。E9頃のPdx1陽性前駆細胞は膵におけるすべての成熟細胞のもとである。系統追跡試験により、Pdx1陽性外分泌および内分泌前駆細胞は胚形成の間中存在することが示されている(Gu, G., et al., Development, 129, 2447-2457 (2002))。E10頃に、活性Notch/Rbp-jシグナリングは、早期α細胞およびPP細胞分化を阻害する一方で、上皮前駆細胞のプールの維持を助ける。次いで、増殖および分枝形態形成中に、共通の前駆細胞が徐々に膵管、β細胞またはδ(ソマトスタチン産生)細胞運命へと進む適格性を獲得する。これらの段階において、Notch/Rbp-jシグナリングは次に、膵管分化を阻害することにより前駆細胞を維持する。通常はβ細胞、δ細胞、およびほとんどの腺房細胞拘束は遅い段階で起こるため、Rbp-jf/f Pdx.creマウスにおける早期α細胞、PP細胞および膵管分化による共通前駆細胞の枯渇はこれらの細胞の産生に重大な影響をおよぼす。Notch/Rbp-jシグナリングは分化した膵β細胞に対しては基本的に何の役割も持たない。
【0117】
本発明で示すデータは、Rbp-jが膵前駆細胞の増殖と、それらの成熟膵細胞への適切な分化にとって鍵となる分子であることを明らかに示している。膵におけるNotch/Rbp-jシグナリングを包括的に理解することによって、インビボとインビトロの両方における膵幹/前駆細胞の合理的制御の機会が得られることになり、糖尿病治療のためにインスリン産生細胞を無制限に供給できるという希望がもてる。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1A−C】Rbp-jf/f Pdx.creマウスの生成、およびRbp-j欠失の下流標的に対する影響を示す図および写真である。A)CreリコンビナーゼによるRbp-j遺伝子の破壊。上図はfloxed Rbp-j対立遺伝子の部分ゲノム地図である。下図はloxP部位に隣接するエキソン6および7領域切除後の標的遺伝子座である。エキソン、診断用制限断片の長さ、およびサザンブロッティングに用いたプローブの位置を示している。SphI制限部位も示している。B)E8.5およびE9.5のRbp-jf/f Rosa26Rf/+ Pdx.creマウスの、全胚のX-gal染色の結果を示す写真である。Pdx.creはE9.5以前にloxP部位を組換え始めている。C)Rbp-jf/f Pdx.creマウスにおけるRbp-jの効率的かつ特異的欠失を示す写真である。Rbp-jf/f Pdx.creマウス新生仔の脳、肝、尾および膵からのゲノムDNAをSphIで消化し、(A)に示したプローブとハイブリダイズさせた。
【図1D】E10.5のRbp-jf/fマウスおよびRbp-jf/f Pdx.creマウスの異なる背側膵芽からの二つの個々の連続切片を免疫染色した結果を示す写真である。E10.5のRbp-jf/f Pdx.creマウスにおけるHes1発現低下およびニューロジェニン-3-陽性細胞増加を示す。Hes1免疫染色については、清澄性のために対比染色は省いた。
【図2A】E11.5のRbp-jf/f Pdx.creマウスにおける早発性の内分泌細胞分化および前駆細胞の消失を示す写真である。E11.5のRbp-jf/fマウスおよびRbp-jf/f Pdx.creマウスからの二つの個々の連続膵切片の、ヘマトキシリン-エオシン染色、免疫染色およびTUNELアッセイの結果を示す写真である。Rbp-jf/f Pdx.creマウスにおけるα細胞およびPP細胞の分化促進を示す。
【図2B】E11.5のRbp-jf/f Rosa26Rf/+およびRbp-jf/f Rosa26Rf/+ Pdx.creマウスからの全胚のX-gal染色の結果を示す写真である。Rbp-jf/f Pdx.creマウスにおける膵サイズ低下を示す。
【図3A】E15のRbp-jf/f Pdx.creマウスにおける分枝減少を伴う管状構造伸長を示す写真である。E15のRbp-jf/fマウスおよびRbp-jf/f Pdx.creマウスからの連続膵切片のヘマトキシリン-エオシン染色、免疫染色およびTUNELアッセイの結果を示す写真である。Rbp-jf/f Pdx.creマウスにおける管様構造の拡張と伸長を示す。
【図3B−C】B)E15のRbp-jf/fおよびRbp-jf/f Pdx.creマウスからの連続膵切片の免疫染色およびHes1インサイチューハイブリダイゼーションを示す写真である。Rbp-jf/f Pdx.creマウスの膵管細胞の特徴を示す。C)E15のRbp-jf/fマウスおよびRbp-jf/f Pdx.creマウスからの遠位膵切片のX-gal染色と、グルカゴンおよびインスリンの二重染色の結果を示す写真である。Rbp-jf/f Pdx.creマウスにおけるCreを介した欠失が確認できる。
【図4】E18.5のRbp-jf/f Pdx.creマウスの膵における膵管細胞優性および腺房の追いつき生長を示す写真である。A)E18.5のRbp-jf/fおよびRbp-jf/f Pdx.creマウスからの連続膵切片のヘマトキシリン-エオシン染色、BrdU標識および免疫染色の結果を示す写真である。BrdU標識の写真では、腺房領域の輪郭を黒破線で示している。Rbp-jf/f Pdx.creマウスにおいて、腺房領域におけるBrdu標識細胞数が増加しつつあり、膵管細胞はより広い領域を占めていた。B)E18.5のRbp-jf/fおよびRbp-jf/f Pdx.creマウスからの間隔をおいた腹部切片のヘマトキシリン-エオシン染色の結果を示す写真である。膵組織を黒破線で囲んでいる。生まれる前のRbp-jf/f Pdx.creマウスにおける膵縮小を示す。
【図5A−B】生後のRbp-jf/f Pdx.creマウスの形質を示す写真および図である。成獣Rbp-jf/f Pdx.creマウスにおける膵縮小を示す写真および図である。12週齢の時点で、腸管領域を切除し(A)、膵重量を測定した(B)。バーは平均±SEを表す。有意性のレベル(スチューデンツt検定)を示している(*=P<0.05;**=P<0.01)。
【図5C−E】Rbp-jf/f Pdx.creマウスにおける膵島減少および内分泌細胞量減少を示す写真および図である。10週齢のRbp-jf/fマウスおよびRbp-jf/f Pdx.creマウスからの膵切片をインスリンおよびグルカゴンについて二重染色して(C)膵島の数(D)、β細胞およびα細胞面積(E)を求め、全膵面積に対して規準化した。バーは平均±SEを表す。有意性のレベル(スチューデンツt検定)を示している(*=P<0.05;***=P<0.001)。
【図5F】Rbp-jf/f Pdx.creマウスにおける膵インスリン含量の低下を示す図である。6週齢のRbp-jf/fマウスおよびRbp-jf/f Pdx.creマウスからの酸-エタノール抽出物で膵インスリン含量を測定した。バーは平均±SEを表す。有意性のレベル(スチューデンツt検定)を示している(*=P<0.05;***=P<0.001)。
【図5G】8週齢のRbp-jf/fおよびRbp-jf/f Pdx.creマウスからの連続膵切片のヘマトキシリン-エオシン染色および免疫染色した結果を示す写真である。Rbp-jf/f Pdx.creマウスにおける膵管および管関連内分泌細胞の拡張を示す。β細胞数は著しく減少していた。内分泌細胞は膵管構造の近くに位置している。
【図6A】Rbp-jf/f Pdx.creマウスの糖尿病表現型を示す写真である。Rbp-jf/f Pdx.creマウスにおける成長遅延を示す写真および図である。6日齢(左)および3週齢(右)のRbp-jf/f Pdx.creマウス(下)および対照同腹仔(上)の肉眼所見を示す。
【図6B−F】Rbp-jf/f Pdx.creマウスの糖尿病表現型を示す図である。B)Rbp-jf/fマウスおよびRbp-jf/f Pdx.creマウスを交配させて得た同腹仔の成長曲線を示す。各バーは平均±SEを表す。C〜E)絶食および無作為に飼料を与えた8週齢の雄Rbp-jf/fマウスおよびRbp-jf/f Pdx.creマウスにおける血糖濃度(C)および血漿インスリン濃度(D)を示す図である。各バーは平均±SEを表す。16週齢の雄Rbp-jf/fマウスおよびRbp-jf/f Pdx.creマウスから摂食量を24時間測定した結果を示す図である(E)。各バーはマウスの平均±SEを表す。F)10週齢の雄Rbp-jf/fマウスおよびRbp-jf/f Pdx.creマウスから血清中アミラーゼ活性を測定した結果を示す図である。Rbp-jf/f Rip.creマウスは外分泌膵機能不全を示している。バーはマウスの平均±SEを表す。有意性のレベル(スチューデンツt検定)を示している(**=P<0.01;***=P<0.001)。
【図7A−D】β細胞特異的Rbp-jノックアウトマウスにおける形質を示す写真および図である。A)Rbp-jf/f Rip.creマウスの生成を証明する写真である。12週齢のRbp-jf/f Rip.creマウスの尾またはプールした単離膵島からのゲノムDNAをSphIで消化し、(図1A)に示したプローブとハイブリダイズさせた。B〜D)Rbp-jf/f Rip.creマウスにおける代謝パラメーターを示す図である。19週齢の雄Rip.creマウスおよびRbp-jf/f Rip.creマウスからの体重(B)、無作為に飼料を与えた血糖濃度(C)、および無作為に飼料を与えたインスリン濃度(D)を示す。バーはマウスの平均±SEを表す。有意性のレベル(スチューデンツt検定)を示している(NS;有意ではない)。
【図7E】20週齢のRip.creマウスおよびRbp-jf/f Rip.creマウスからの連続膵切片の免疫組織化学の結果を示す写真である。Rbp-jf/f Rip.creマウスからの膵で形態変化は認められない。
【図7F】膵発生におけるNotch/Rbp-jシグナリングの役割の単純化モデルを示す図である。PPおよびδ細胞分化は単純化のために省略した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膵細胞の分化過程においてRbp-j遺伝子の発現が人為的に抑制されていることを特徴とする遺伝子改変非ヒト哺乳動物。
【請求項2】
Rbp-j遺伝子の遺伝子対の一方または双方に外来遺伝子が挿入されていることを特徴とする請求項1に記載の遺伝子改変非ヒト哺乳動物。
【請求項3】
Rbp-j遺伝子の発現が膵細胞のみにて抑制されていることを特徴とする請求項1または2に記載の遺伝子改変非ヒト哺乳動物。
【請求項4】
糖尿病のモデル動物である、請求項1から3のいずれかに記載の遺伝子改変非ヒト哺乳動物。
【請求項5】
以下の(a)〜(c)の工程を含む、膵β細胞分化を抑制する医薬組成物のスクリーニング方法。
(a)Rbp-jに被検化合物を接触させる工程
(b)Rbp-jと被検化合物との結合を検出する工程
(c)Rbp-jと結合する被検化合物を選択する工程。
【請求項6】
以下の(a)〜(c)の工程を含む、膵β細胞分化を抑制する医薬組成物のスクリーニング方法。
(a)Rbp-j遺伝子を発現する細胞に被検化合物を接触させる工程
(b)Rbp-jの発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物を接触させていない場合と比較して、Rbp-jの発現レベルを減少させた被検化合物を選択する工程。
【請求項7】
以下の(a)〜(d)の工程を含む、膵β細胞分化を抑制する医薬組成物のスクリーニング方法。
(a)Rbp-jをコードするDNAのプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液を提供する工程
(b)該細胞または該細胞抽出液に被検化合物を接触させる工程
(c)該細胞または該細胞抽出液における該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(d)被検化合物を接触させていない場合と比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルを減少させた被検化合物を選択する工程。
【請求項8】
以下の(a)〜(c)の工程を含む、膵β細胞分化を抑制する医薬組成物のスクリーニング方法。
(a)Rbp-j遺伝子を発現する細胞に被検化合物を接触させる工程
(b)該細胞におけるRbp-jの活性を測定する工程
(c)被検化合物を接触させない場合と比較して、上記活性を低下させた被検化合物を選択する工程。
【請求項9】
膵β細胞分化を抑制する医薬組成物が、インスリンの過剰分泌に伴う疾患を治療または予防するための医薬組成物であることを特徴とする、請求項5〜8のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項10】
インスリンの過剰分泌に伴う疾患が、脂肪肝、動脈硬化、インスリン分泌過剰型糖尿病、またはメタボリック症候群である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項5〜10のいずれかに記載のスクリーニング方法により選択された、インスリンの過剰分泌に伴う疾患を治療または予防するための医薬組成物。
【請求項12】
以下の(a)〜(c)の工程を含む、膵β細胞分化を促進する医薬組成物のスクリーニング方法。
(a)Rbp-jに被検化合物を接触させる工程
(b)Rbp-jと被検化合物との結合を検出する工程
(c)Rbp-jと結合する被検化合物を選択する工程。
【請求項13】
以下の(a)〜(c)の工程を含む、膵β細胞分化を促進する医薬組成物のスクリーニング方法。
(a)Rbp-j遺伝子を発現する細胞に被検化合物を接触させる工程
(b)Rbp-jの発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物を接触させていない場合と比較して、Rbp-jの発現レベルを増加させた被検化合物を選択する工程。
【請求項14】
以下の(a)〜(d)の工程を含む、膵β細胞分化を促進する医薬組成物のスクリーニング方法。
(a)Rbp-jをコードするDNAのプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液を提供する工程
(b)該細胞または該細胞抽出液に被検化合物を接触させる工程
(c)該細胞または該細胞抽出液における該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(d)被検化合物を接触させていない場合と比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルを増加させた被検化合物を選択する工程。
【請求項15】
以下の(a)〜(c)の工程を含む、膵β細胞分化を促進する医薬組成物のスクリーニング方法。
(a)Rbp-j遺伝子を発現する細胞に被検化合物を接触させる工程
(b)該細胞におけるRbp-jの活性を測定する工程
(c)被検化合物を接触させない場合と比較して、上記活性を上昇させた被検化合物を選択する工程。
【請求項16】
以下の(a)〜(c)の工程を含む、膵β細胞分化を促進する医薬組成物のスクリーニング方法。
(a)被検化合物をRbp-j遺伝子の発現が人為的に抑制されていることを特徴とする遺伝子改変非ヒト哺乳動物に投与する工程
(b)該遺伝子改変非ヒト哺乳動物における膵β細胞量を測定する工程
(c)被検化合物を投与していない場合と比較して、該遺伝子改変非ヒト哺乳動物における膵β細胞量を増加させる化合物を、選択する工程
【請求項17】
膵β細胞分化を促進する医薬組成物が、インスリンの分泌不足に伴う疾患を治療または予防するための医薬組成物であることを特徴とする、請求項12〜16のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項18】
請求項12〜17のいずれかに記載のスクリーニング方法により選択された、糖尿病を治療または予防するための医薬組成物。
【請求項19】
膵細胞の分化の初期にRbp-j遺伝子を発現する細胞において、Rbp-j遺伝子の発現または活性を促進させる工程を含む、膵β細胞分化を促進する方法。
【請求項20】
膵細胞の分化の初期にRbp-j遺伝子を発現する細胞において、Rbp-j遺伝子の発現または活性を促進させる工程を含む、インスリンの分泌不足に伴う疾患を治療または予防する方法。
【請求項21】
インスリンの分泌不足に伴う疾患が、インスリン分泌低下型糖尿病である請求項20に記載の方法。

【図5F】
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【図6B−F】
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【図7F】
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【図1A−C】
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【図1D】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B−C】
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【図4】
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【図5A−B】
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【図5C−E】
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【図5G】
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【図6A】
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【図7A−D】
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【図7E】
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【公開番号】特開2007−175010(P2007−175010A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−378719(P2005−378719)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(501382317)
【出願人】(501124337)ヒュ―ビット ジェノミクス株式会社 (13)
【Fターム(参考)】