SAW共振子
【課題】小型で広い温度範囲にわたり周波数温度特性に優れたSAW共振子を提供する。
【解決手段】水晶基板5にIDT20が形成され、IDT20の上側および下側のストップバンド付近に共振を有し水晶基板5が斜対称性を備えたSAW共振子10であって、前記上側のストップバンド付近の共振が有する高次モードの共振周波数と、前記下側のストップバンド付近の共振が有する基本波モードの共振周波数とを一致させて結合状態を形成した。
【解決手段】水晶基板5にIDT20が形成され、IDT20の上側および下側のストップバンド付近に共振を有し水晶基板5が斜対称性を備えたSAW共振子10であって、前記上側のストップバンド付近の共振が有する高次モードの共振周波数と、前記下側のストップバンド付近の共振が有する基本波モードの共振周波数とを一致させて結合状態を形成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレイリー波を励振するSAW共振子に関し、特には周波数温度特性を向上させるSAW共振子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術のSAW共振子は、水晶基板の表面に電極としてアルミニウム、銅、チタン、タングステン等の金属を用いて電極パターンを形成し、SAW共振子を構成している。また、水晶基板の方位は、水晶結晶の基本軸において、オイラー角表示(φ,θ,ψ)で、まず光軸であるZ軸まわりに反時計方向にφが0°±1°範囲であり、つぎに電気軸であるX軸回りに反時計方向にθが122°〜127°範囲であり、つぎに新たに生成した軸Z´まわりに前記の圧電体平板内において、X軸を起点として反時計方向に面内回転して、ψが40°〜44°範囲である方向が弾性表面波の位相伝搬方位とする面内回転STカットがある。
この面内回転STカット基板において、SAW共振子として利用する弾性表面波はレイリー波である。この弾性波は従来から有名なSTカット基板を用いたSAW共振子に使用されている表面波と類似しており属性も近いものであるため、周波数が安定で駆動電力に対する耐性および電極の残留応力に対する感度が小さく、優れた周波数安定性が維持できるものである(特許文献1参照)。
【0003】
このような、SAW共振子を用いて発振器を構成する際に、周波数精度と共に周波数温度特性の精度の高精度化が要求されている。特に高速ネットワーク市場において、周波数安定性の要求が強い。
周波数安定性のなかでも周波数温度特性の改善方法については幾つかの方法が知られており、特許文献2では、基板上に複数のSAW共振子を、それぞれの弾性表面波の伝搬方位を異なるようにして配置し、これらを結合して周波数温度特性を改善している。
さらに、特許文献3では、周波数温度特性を異ならせた2つのSAW共振子を平行に配置し、これらを斜対称モードとなるように励振して横弾性的に結合させることで平坦な周波数温度特性を図っている。
【0004】
【特許文献1】特許第3216137号公報
【特許文献2】米国特許第4193045号明細書
【特許文献3】米国特許第5912602号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のような面内回転STカット水晶基板を用いたSAW共振子は、STカット基板を使用して製作したSAW共振子の周波数温度特性に対して2倍の周波数精度が得られるものであるが、最近の精度要求に対しては不十分な状況にある。
具体的には、このSAW共振子が有する周波数温度特性の2次温度係数は−1.6×10-8/℃2であって、仮にその頂点温度を使用温度範囲(−35℃〜+85℃)の中央に配置すると、温度変化による周波数変動量は約58ppmとなり、これ以上の周波数温度特性の向上は困難である。
また、特許文献2,3では複数のSAW共振子を用いて周波数温度特性の向上を図っており、SAW共振子の小型化が難しい。
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、小型で広い温度範囲にわたり周波数温度特性に優れたSAW共振子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は水晶基板にIDTが形成され、前記IDTの上側および下側のストップバンド付近に共振を有し前記水晶基板が斜対称性を備えたSAW共振子であって、前記上側のストップバンド付近の共振が有する高次モードの共振周波数と、前記下側のストップバンド付近の共振が有する基本波モードの共振周波数とを一致させて結合状態を形成したことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、上側のストップバンド付近の共振が有する高次モードと下側のストップバンド付近の共振における基本波モードが同時に存在して駆動電圧により励振される。それぞれのモードの共振は周波数温度特性がわずかに異なり、具体的には周波数温度特性の頂点温度が異なって出現する。この状態において、両者の共振モードの共振周波数を一致させて共振間でわずかな弱い結合を生じさせることで、それぞれの周波数温度特性が合成され、広い温度範囲に対して平坦な周波数温度特性が実現できる。
また、一つのSAW共振子に存在する2個の共振を結合させて周波数温度特性の向上を図れるため、周波数温度特性に優れたSAW共振子の小型化が可能である。
【0008】
前記水晶基板が水晶単結晶の機械軸Yに垂直な面を電気軸Xの回りの反時計方向に角度θ=32°以上37°以下の範囲で回転させた平板であり、前記電気軸X回りの角度θの回転により新たに規定されるY´軸を、反時計方向を正として角度+ψまたは−ψ回転させて新たに規定されるX´軸に沿って前記IDTが配置されており、ψ=40°以上44°以下の範囲であることが望ましい。
【0009】
この構成によれば、周波数温度特性における2次温度係数が小さい水晶基板を用いて、結合振動子を構成していることから、広い温度範囲に対してさらに周波数温度特性に優れたSAW共振子を提供することができる。
【0010】
本発明のSAW共振子は、1個の前記IDTと前記IDT両側に1対の反射器を配置した1ポート型のSAW共振子であることが望ましい。
【0011】
この構成によれば、小型化され周波数温度特性の良好な1ポート型のSAW共振子を提供できる。
【0012】
本発明のSAW共振子は、2個の前記IDTと前記2個のIDT両側に1対の反射器を配置した2ポート型のSAW共振子であることが望ましい。
【0013】
この構成によれば、小型化され周波数温度特性の良好な2ポート型のSAW共振子を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。
(第1の実施形態)
【0015】
図1は本実施形態の1ポート型SAW共振子の構成を示す構成図であり、図1(a)は模式平面図、図1(b)は同図(a)のA−A断線に沿う模式断面図である。
SAW共振子10は、水晶基板5の主面に形成されたIDT20、反射器30を備えている。IDT20は、アルミニウム、銅、チタン、タングステンなどの金属で形成され、極性の異なる交差指電極21,22が交互に間挿されるように構成されている。そして、IDT20の両側にはアルミニウム、銅、チタン、タングステンなどの金属で形成された、格子状の反射器30が備えられている。
【0016】
次に、水晶基板5について説明する。
図2は水晶基板が有する方位角を示す説明図である。まず、水晶基板5の母材となる水晶ウエハ1について説明する。水晶ウエハ1は、水晶の機械軸Y(Y軸とも言う)に垂直な、いわゆるY板2を水晶の電気軸X(X軸とも言う)の回りに反時計方向に角度θ回転させた面を備えている。この回転した面により、機械軸Yおよび光軸Z(Z軸とも言う)のθ回転した新たなY´軸およびZ´軸が規定される。
さらに、SAW共振子10を構成するIDT20および反射器30は水晶の電気軸XをY´軸の回りに反時計方向を正として+ψまたは−ψ回転させたX´軸に沿って配置される。そして、SAW共振子10を構成する水晶基板5は、水晶ウエハ1からZ´軸を±ψ回転させたZ´´軸およびX´軸で規定される主面6を有するように切断される。
ここで、本実施形態の水晶基板ではθ=32°以上37°以下、ψ=40°以上44°以下の範囲に設定される。
なお、上記の方位をオイラー角表示で表すと、(0°,θ+90°,±ψ)となる。また、角度の符号は反時計方向を正(+)をする。角度ψについては+方向に回転した場合と−方向に回転した場合とでは、その示す特性は同一である。
以上、このような方位を有する水晶基板は広義では面内回転STカット基板と呼ばれている。
【0017】
ここで、本発明の理解を進めるために、このような面内回転STカット基板を用いたIDTの電極周期長が一定なSAW共振子について説明する。
図3は上記の面内回転STカット基板を用いたSAW共振子のインピーダンス特性を示すグラフである。
このような面内回転STカット基板を用いたIDTの電極周期長が一定なSAW共振子において、レイリー波が励振され下側のストップバンド付近に共振Eが存在する。通常この共振Eを用いて、SAW共振子が構成されている。また、この共振Eの他に、上側のストップバンド付近に共振Hが確認されている。この共振Hは水晶基板の斜対称性に起因するものと考えられている。
この斜対称性は、SAW共振子を構成するIDTの電極導体の1本毎の区間についての左右進行方向の反射波位相差が等しくないことから発生するものと解釈している。水晶の場合において圧電定数が小さいことから、SAW共振子が共振状態を維持した状態において、共振特性の属性は機械的な構造の斜対称性に起因すると推測される。例えば共振子の駆動信号を止めてもしばらくは振動状態を維持できることを考えれば、この仮説が正しいと推測する。
このように水晶基板の斜対称性により、STカット基板にはない上側のストップバンド付近の共振が出現する。本発明において、上側のストップバンド付近に共振が出現する水晶基板を、斜対称性を有する水晶基板と定義する。
発明者はこの上側のストップバンド付近の共振に着目し、本発明を着想した。以下にその詳細について説明する。
【0018】
図4は、本実施形態のSAW共振子を構成する各部位が有する周波数特性を示す説明図である。
図4(a)はIDTの有する反射特性を示し、下側ストップバンド41と上側ストップバンド42を有している。
図4(b)、(c)はIDT共振子のアドミタンス特性を示し、本実施形態に使用する水晶基板においては、基板上にIDTを形成したいわゆるIDT共振子が有するアドミタンス特性が2個の共振特性を有している。この共振は図4(b)、(c)のYup0(基本波モード)とYlow0(基本波モード)がこれに相当し、それぞれ上側、下側ストップバンド付近に存在している。
さらに、両共振にはそれぞれ高次の縦モードが付随しており、本実施形態ではSAW共振子を構成するIDTの対数Mの値を適切に選択することで、下側の共振の基本波モードYlow0と上側の共振の縦高次モードYup1の共振周波数を一致させている。ここで、共振周波数の一致というのは、目標周波数に対して0〜±20ppm程度の範囲をいう。
この状態において、図4(e)のSAW共振子のアドミタンス特性に示すように、両共振のモードは駆動電圧により励振され、2個の共振が同時に存在して結合状態を形成する。結合の原因は、基板の斜対称性に起因している。
また、図4(d)の反射器の反射特性に示すように、反射器は選択すべきIDTの共振周波数を中央位置に配置すべく設定する。
なお、図4(a)、(d)において縦軸は反射係数Γ、図4(b)、(c)、(e)において縦軸はアドミタンスYを表し、横軸は共通として周波数fを表している。
【0019】
このような共振状態において、2個の共振が同時に存在して励振されている。各々の共振はその周波数温度特性が異なり、具体的には頂点温度が異なって出現する。
図5は各々の周波数温度特性の結合を説明する説明図である。頂点温度は、下側の共振の基本波モードYlow0に対して上側の共振の縦高次モードYup1が高い温度に出現し、両者間の頂点温度に差が生じている。この状態において、両者の共振間で結合が存在し、その合成される周波数温度特性は平坦に近くなり温度特性は著しく改善される。
【0020】
この下側の共振の基本波モードYlow0と上側の共振の縦高次モードYup1との結合についてはつぎのように考えることができる。
基本波モードYlow0で動作している場合において、基本波モードにより斜対称成分が発生する。この斜対称成分は、縦高次モードYup1の高次成分を誘起することから、Ylow0とYup1は結合状態にあることになる。図6は上記の各モードの結合状態を表した電気的な等価回路図である。
この等価回路は基本波モードYlow0と上側の共振の縦高次モードYup1とコンデンサ150とが並列接続されて構成されており、コンデンサ150が結合部を示している。コンデンサ150は機械的な斜対称な成分を含む振動現象により発生する。
【0021】
次に、本発明に利用する振動モードについて図面を参照して説明する。
図7は本発明に利用する振動モードの1例について図示した説明図である。下方のグラフ表示は矢印U方向から視認した状態を表し、横軸XはSAW共振子の振動領域、縦軸には変位振幅を示している。
図中のLS0は下側ストップバンド近傍の基本波モードYlow0による振幅の包絡線変位状態を示すものである。一方、LS1は上側ストップバンド近傍の共振系に属する縦高次モードのひとつである1次モード振幅の包絡線変位状態について図示したものである。変位振幅の状態からいずれも電気的な駆動電圧により励振可能であることもわかる。従って、両者のモードが結合動作した場合にも全体のSAW共振子のインピーダンスは低く実現できる。なお、IDT20のピッチPTと反射器30のピッチPRとの比はPT/PR=0.995に設定した。
【0022】
また、両モードの周波数調整については、両者の周波数の平行シフトを領域Bで行い、両者の周波数差は領域Aで行うことが可能である。例えば、領域Bの水晶基板をエッチングすることで両者の周波数を低い方向に平行シフトさせ、領域Aの水晶基板をエッチングすることで、上側ストップバンド近傍の共振系に属する縦高次モードの周波数を低く調整し、両者の周波数差を近づけることが可能である。各モードの共振スペクトルは、LS0とLS1ともに強烈であるためネットワークアナライザにて観測可能である。
【0023】
続いて、上側共振系列1次モードLS1と下側共振系列基本波モードLS0の共振周波数を一致させる方法について説明する。
図8はIDTにおける交差指電極の対数と周波数の関係を示すグラフである。この図8は、図7の上側共振系列1次モードLS1と下側共振系列基本波モードLS0の共振周波数を一致させることができることを示したものである。
上側共振系列基本波モードLS0と下側共振系列基本波モードLS0はSAW共振子のIDTの対数Mに依存して、ほぼ同様な傾斜カーブにより変化する。一方、上側共振系列1次モードLSは前記のLS0よりMによる依存性が強く急傾斜な特性となり、従って両者特性カーブは、特定のIDTの対数M0において交差することができ、動作周波数F0にて、上側共振系列1次モードLS1と下側共振系列基本波モードLS0の動作が可能となる。なお、図中LA0は斜対称基本波モードを示している。
【0024】
次に、以上のことを考慮して設計したSAW共振子の特性の1例について説明する。
図9に本発明を利用したSAW共振子の特性の1例について説明する説明図であり、図9(a)はアドミタンス特性を示すグラフ、図9(b)は結合のない場合のSAW共振子位相特性を示すグラフ、図9(c)は結合の発生した場合のSAW共振子位相特性を示すグラフである。
IDTの交差指電極の膜厚みHと表面波波長λとの比をH/λ=2.5%,これに対応する反射係数はおよそ1%としたときの製作条件において、上側共振系列1次モードLS1と下側共振系列基本波モードLS0の共振周波数を一致させる電極の対数はM0=150対であった。また、交差幅は35波長、反射器本数Nは150本とした。
【0025】
このようなSAW共振子において、図9(a)のようなアドミタンス特性を示し、上側共振系列1次モードLS1と下側共振系列基本波モードLS0の結合のない場合には図9(b)のようなSAW共振子位相特性を示す。この場合、上側共振系列1次モードLS1と下側共振系列基本波モードLS0の周波数差は周波数変化率で約5000ppmである。
上側共振系列1次モードLS1と下側共振系列基本波モードLS0の結合が発生した場合には、図9(c)の位相特性に示すように、上側共振系列1次モードLS1と下側共振系列基本波モードLS0が一致しているのがわかる。
【0026】
図10は上記SAW共振子の周波数温度特性の1例を示すグラフである。
このグラフのように、上側共振系列1次モードLS1と下側共振系列基本波モードLS0が結合して、平坦な温特カーブが出現している。
【0027】
以上、本実施形態のSAW共振子は、上側のストップバンド付近の共振が有する高次モードと下側のストップバンド付近の共振における基本波モードが同時に存在して駆動電圧により励振される。それぞれのモードの共振は周波数温度特性がわずかに異なり、具体的には周波数温度特性の頂点温度が異なって出現する。この状態において、両者の共振モードの共振周波数を一致させて共振間でわずかな弱い結合を生じさせることで、それぞれの周波数温度特性が合成され、広い温度範囲に対して平坦な周波数温度特性が実現できる。
また、一つのSAW共振子に存在する2個の共振を結合させて周波数温度特性の向上が図られるため、周波数温度特性に優れたSAW共振子の小型化が可能である。
さらに、周波数温度特性における2次温度係数が小さい水晶基板を用いて、結合振動子を構成していることから、広い温度範囲に対して周波数温度特性に優れたSAW共振子を提供することができる。
また、小型化され周波数温度特性の良好な1ポート型のSAW共振子を提供できる。
(第2の実施形態)
【0028】
次に第2の実施形態について説明する。上記の第1の実施形態では1ポート型SAW共振子について説明したが、2ポート型SAW共振子においても実施が可能である。
図11は本実施形態の2ポート型SAW共振子の構成を示す構成図であり、図11(a)は模式平面図、図11(b)は同図(a)のB−B断線に沿う模式断面図である。
SAW共振子50は、水晶基板5の主面に形成されたIDT60,70、反射器80を備えている。IDT60,70は、アルミニウム、銅、チタン、タングステンなどの金属で形成され、それぞれ極性の異なる交差指電極61,62,71,72が交互に間挿されるように構成されている。そして、IDT60,70を挟むようにアルミニウム、銅、チタン、タングステンなどの金属で形成された、格子状の反射器80が備えられている。
水晶基板5は上記実施形態の図2で説明した基板と同様の基板を使用している。
【0029】
上記のSAW共振子50においても、上側および下側のストップバンド付近に共振を有している。そして、上側のストップバンド付近の共振が有する高次モードと下側のストップバンド付近の共振における基本波モードの共振周波数を、IDT60,70の対数を選択することで一致させることが可能である。
それぞれのモードの共振は周波数温度特性がわずかに異なり、具体的には周波数温度特性の頂点温度が異なって出現する。この状態において、両者の共振モードの共振周波数を一致させて共振間でわずかな弱い結合を生じさせることで、それぞれの周波数温度特性が合成され、広い温度範囲に対して平坦な周波数温度特性が実現できる。
このように、2ポート型SAW共振子であっても、第1の実施形態のSAW共振子と同様な効果を得ることができる。
【0030】
本発明のSAW共振子は、広い温度範囲に対して優れた周波数温度特性を有することから、今後ますます膨大なデータを送受することが必要な光通信ネットワーク市場における、周波数安定性の優れたSAW発振器用途として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】第1の本実施形態におけるSAW共振子の構成を示す構成図であり、(a)は模式平面図、(b)は同図(a)のA−A断線に沿う模式断面図。
【図2】第1の実施形態の水晶基板が有する方位角を示す説明図。
【図3】第1の実施形態における面内回転STカット基板を用いたSAW共振子のインピーダンス特性を示すグラフ。
【図4】第1の実施形態のSAW共振子を構成する各部位が有する周波数特性を示す説明図。
【図5】第1の実施形態における周波数温度特性の結合を説明する説明図。
【図6】第1の実施形態における各モードの結合について説明する等価回路図。
【図7】本発明に利用する振動モードの1例について模式的に図示した説明図。
【図8】第1の実施形態における交差指電極の対数と周波数の関係を示すグラフ。
【図9】第1の実施形態におけるSAW共振子の特性の1例について説明する説明図であり、(a)はアドミタンス特性を示すグラフ、(b)は結合のない場合のSAW共振子位相特性を示すグラフ、(c)は結合の発生した場合のSAW共振子位相特性を示すグラフ。
【図10】第1の実施形態におけるSAW共振子の周波数温度特性の1例を示すグラフ。
【図11】第2の実施形態における2ポート型SAW共振子の構成を示す構成図であり、(a)は模式平面図、(b)は同図(a)のB−B断線に沿う模式断面図。
【符号の説明】
【0032】
1…水晶ウエハ、2…Y板、5…水晶基板、10…SAW共振子、20…IDT、21,22…交差指電極、30…反射器、50…SAW共振子、60,70…IDT、80…反射器。
【技術分野】
【0001】
本発明はレイリー波を励振するSAW共振子に関し、特には周波数温度特性を向上させるSAW共振子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術のSAW共振子は、水晶基板の表面に電極としてアルミニウム、銅、チタン、タングステン等の金属を用いて電極パターンを形成し、SAW共振子を構成している。また、水晶基板の方位は、水晶結晶の基本軸において、オイラー角表示(φ,θ,ψ)で、まず光軸であるZ軸まわりに反時計方向にφが0°±1°範囲であり、つぎに電気軸であるX軸回りに反時計方向にθが122°〜127°範囲であり、つぎに新たに生成した軸Z´まわりに前記の圧電体平板内において、X軸を起点として反時計方向に面内回転して、ψが40°〜44°範囲である方向が弾性表面波の位相伝搬方位とする面内回転STカットがある。
この面内回転STカット基板において、SAW共振子として利用する弾性表面波はレイリー波である。この弾性波は従来から有名なSTカット基板を用いたSAW共振子に使用されている表面波と類似しており属性も近いものであるため、周波数が安定で駆動電力に対する耐性および電極の残留応力に対する感度が小さく、優れた周波数安定性が維持できるものである(特許文献1参照)。
【0003】
このような、SAW共振子を用いて発振器を構成する際に、周波数精度と共に周波数温度特性の精度の高精度化が要求されている。特に高速ネットワーク市場において、周波数安定性の要求が強い。
周波数安定性のなかでも周波数温度特性の改善方法については幾つかの方法が知られており、特許文献2では、基板上に複数のSAW共振子を、それぞれの弾性表面波の伝搬方位を異なるようにして配置し、これらを結合して周波数温度特性を改善している。
さらに、特許文献3では、周波数温度特性を異ならせた2つのSAW共振子を平行に配置し、これらを斜対称モードとなるように励振して横弾性的に結合させることで平坦な周波数温度特性を図っている。
【0004】
【特許文献1】特許第3216137号公報
【特許文献2】米国特許第4193045号明細書
【特許文献3】米国特許第5912602号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のような面内回転STカット水晶基板を用いたSAW共振子は、STカット基板を使用して製作したSAW共振子の周波数温度特性に対して2倍の周波数精度が得られるものであるが、最近の精度要求に対しては不十分な状況にある。
具体的には、このSAW共振子が有する周波数温度特性の2次温度係数は−1.6×10-8/℃2であって、仮にその頂点温度を使用温度範囲(−35℃〜+85℃)の中央に配置すると、温度変化による周波数変動量は約58ppmとなり、これ以上の周波数温度特性の向上は困難である。
また、特許文献2,3では複数のSAW共振子を用いて周波数温度特性の向上を図っており、SAW共振子の小型化が難しい。
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、小型で広い温度範囲にわたり周波数温度特性に優れたSAW共振子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は水晶基板にIDTが形成され、前記IDTの上側および下側のストップバンド付近に共振を有し前記水晶基板が斜対称性を備えたSAW共振子であって、前記上側のストップバンド付近の共振が有する高次モードの共振周波数と、前記下側のストップバンド付近の共振が有する基本波モードの共振周波数とを一致させて結合状態を形成したことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、上側のストップバンド付近の共振が有する高次モードと下側のストップバンド付近の共振における基本波モードが同時に存在して駆動電圧により励振される。それぞれのモードの共振は周波数温度特性がわずかに異なり、具体的には周波数温度特性の頂点温度が異なって出現する。この状態において、両者の共振モードの共振周波数を一致させて共振間でわずかな弱い結合を生じさせることで、それぞれの周波数温度特性が合成され、広い温度範囲に対して平坦な周波数温度特性が実現できる。
また、一つのSAW共振子に存在する2個の共振を結合させて周波数温度特性の向上を図れるため、周波数温度特性に優れたSAW共振子の小型化が可能である。
【0008】
前記水晶基板が水晶単結晶の機械軸Yに垂直な面を電気軸Xの回りの反時計方向に角度θ=32°以上37°以下の範囲で回転させた平板であり、前記電気軸X回りの角度θの回転により新たに規定されるY´軸を、反時計方向を正として角度+ψまたは−ψ回転させて新たに規定されるX´軸に沿って前記IDTが配置されており、ψ=40°以上44°以下の範囲であることが望ましい。
【0009】
この構成によれば、周波数温度特性における2次温度係数が小さい水晶基板を用いて、結合振動子を構成していることから、広い温度範囲に対してさらに周波数温度特性に優れたSAW共振子を提供することができる。
【0010】
本発明のSAW共振子は、1個の前記IDTと前記IDT両側に1対の反射器を配置した1ポート型のSAW共振子であることが望ましい。
【0011】
この構成によれば、小型化され周波数温度特性の良好な1ポート型のSAW共振子を提供できる。
【0012】
本発明のSAW共振子は、2個の前記IDTと前記2個のIDT両側に1対の反射器を配置した2ポート型のSAW共振子であることが望ましい。
【0013】
この構成によれば、小型化され周波数温度特性の良好な2ポート型のSAW共振子を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。
(第1の実施形態)
【0015】
図1は本実施形態の1ポート型SAW共振子の構成を示す構成図であり、図1(a)は模式平面図、図1(b)は同図(a)のA−A断線に沿う模式断面図である。
SAW共振子10は、水晶基板5の主面に形成されたIDT20、反射器30を備えている。IDT20は、アルミニウム、銅、チタン、タングステンなどの金属で形成され、極性の異なる交差指電極21,22が交互に間挿されるように構成されている。そして、IDT20の両側にはアルミニウム、銅、チタン、タングステンなどの金属で形成された、格子状の反射器30が備えられている。
【0016】
次に、水晶基板5について説明する。
図2は水晶基板が有する方位角を示す説明図である。まず、水晶基板5の母材となる水晶ウエハ1について説明する。水晶ウエハ1は、水晶の機械軸Y(Y軸とも言う)に垂直な、いわゆるY板2を水晶の電気軸X(X軸とも言う)の回りに反時計方向に角度θ回転させた面を備えている。この回転した面により、機械軸Yおよび光軸Z(Z軸とも言う)のθ回転した新たなY´軸およびZ´軸が規定される。
さらに、SAW共振子10を構成するIDT20および反射器30は水晶の電気軸XをY´軸の回りに反時計方向を正として+ψまたは−ψ回転させたX´軸に沿って配置される。そして、SAW共振子10を構成する水晶基板5は、水晶ウエハ1からZ´軸を±ψ回転させたZ´´軸およびX´軸で規定される主面6を有するように切断される。
ここで、本実施形態の水晶基板ではθ=32°以上37°以下、ψ=40°以上44°以下の範囲に設定される。
なお、上記の方位をオイラー角表示で表すと、(0°,θ+90°,±ψ)となる。また、角度の符号は反時計方向を正(+)をする。角度ψについては+方向に回転した場合と−方向に回転した場合とでは、その示す特性は同一である。
以上、このような方位を有する水晶基板は広義では面内回転STカット基板と呼ばれている。
【0017】
ここで、本発明の理解を進めるために、このような面内回転STカット基板を用いたIDTの電極周期長が一定なSAW共振子について説明する。
図3は上記の面内回転STカット基板を用いたSAW共振子のインピーダンス特性を示すグラフである。
このような面内回転STカット基板を用いたIDTの電極周期長が一定なSAW共振子において、レイリー波が励振され下側のストップバンド付近に共振Eが存在する。通常この共振Eを用いて、SAW共振子が構成されている。また、この共振Eの他に、上側のストップバンド付近に共振Hが確認されている。この共振Hは水晶基板の斜対称性に起因するものと考えられている。
この斜対称性は、SAW共振子を構成するIDTの電極導体の1本毎の区間についての左右進行方向の反射波位相差が等しくないことから発生するものと解釈している。水晶の場合において圧電定数が小さいことから、SAW共振子が共振状態を維持した状態において、共振特性の属性は機械的な構造の斜対称性に起因すると推測される。例えば共振子の駆動信号を止めてもしばらくは振動状態を維持できることを考えれば、この仮説が正しいと推測する。
このように水晶基板の斜対称性により、STカット基板にはない上側のストップバンド付近の共振が出現する。本発明において、上側のストップバンド付近に共振が出現する水晶基板を、斜対称性を有する水晶基板と定義する。
発明者はこの上側のストップバンド付近の共振に着目し、本発明を着想した。以下にその詳細について説明する。
【0018】
図4は、本実施形態のSAW共振子を構成する各部位が有する周波数特性を示す説明図である。
図4(a)はIDTの有する反射特性を示し、下側ストップバンド41と上側ストップバンド42を有している。
図4(b)、(c)はIDT共振子のアドミタンス特性を示し、本実施形態に使用する水晶基板においては、基板上にIDTを形成したいわゆるIDT共振子が有するアドミタンス特性が2個の共振特性を有している。この共振は図4(b)、(c)のYup0(基本波モード)とYlow0(基本波モード)がこれに相当し、それぞれ上側、下側ストップバンド付近に存在している。
さらに、両共振にはそれぞれ高次の縦モードが付随しており、本実施形態ではSAW共振子を構成するIDTの対数Mの値を適切に選択することで、下側の共振の基本波モードYlow0と上側の共振の縦高次モードYup1の共振周波数を一致させている。ここで、共振周波数の一致というのは、目標周波数に対して0〜±20ppm程度の範囲をいう。
この状態において、図4(e)のSAW共振子のアドミタンス特性に示すように、両共振のモードは駆動電圧により励振され、2個の共振が同時に存在して結合状態を形成する。結合の原因は、基板の斜対称性に起因している。
また、図4(d)の反射器の反射特性に示すように、反射器は選択すべきIDTの共振周波数を中央位置に配置すべく設定する。
なお、図4(a)、(d)において縦軸は反射係数Γ、図4(b)、(c)、(e)において縦軸はアドミタンスYを表し、横軸は共通として周波数fを表している。
【0019】
このような共振状態において、2個の共振が同時に存在して励振されている。各々の共振はその周波数温度特性が異なり、具体的には頂点温度が異なって出現する。
図5は各々の周波数温度特性の結合を説明する説明図である。頂点温度は、下側の共振の基本波モードYlow0に対して上側の共振の縦高次モードYup1が高い温度に出現し、両者間の頂点温度に差が生じている。この状態において、両者の共振間で結合が存在し、その合成される周波数温度特性は平坦に近くなり温度特性は著しく改善される。
【0020】
この下側の共振の基本波モードYlow0と上側の共振の縦高次モードYup1との結合についてはつぎのように考えることができる。
基本波モードYlow0で動作している場合において、基本波モードにより斜対称成分が発生する。この斜対称成分は、縦高次モードYup1の高次成分を誘起することから、Ylow0とYup1は結合状態にあることになる。図6は上記の各モードの結合状態を表した電気的な等価回路図である。
この等価回路は基本波モードYlow0と上側の共振の縦高次モードYup1とコンデンサ150とが並列接続されて構成されており、コンデンサ150が結合部を示している。コンデンサ150は機械的な斜対称な成分を含む振動現象により発生する。
【0021】
次に、本発明に利用する振動モードについて図面を参照して説明する。
図7は本発明に利用する振動モードの1例について図示した説明図である。下方のグラフ表示は矢印U方向から視認した状態を表し、横軸XはSAW共振子の振動領域、縦軸には変位振幅を示している。
図中のLS0は下側ストップバンド近傍の基本波モードYlow0による振幅の包絡線変位状態を示すものである。一方、LS1は上側ストップバンド近傍の共振系に属する縦高次モードのひとつである1次モード振幅の包絡線変位状態について図示したものである。変位振幅の状態からいずれも電気的な駆動電圧により励振可能であることもわかる。従って、両者のモードが結合動作した場合にも全体のSAW共振子のインピーダンスは低く実現できる。なお、IDT20のピッチPTと反射器30のピッチPRとの比はPT/PR=0.995に設定した。
【0022】
また、両モードの周波数調整については、両者の周波数の平行シフトを領域Bで行い、両者の周波数差は領域Aで行うことが可能である。例えば、領域Bの水晶基板をエッチングすることで両者の周波数を低い方向に平行シフトさせ、領域Aの水晶基板をエッチングすることで、上側ストップバンド近傍の共振系に属する縦高次モードの周波数を低く調整し、両者の周波数差を近づけることが可能である。各モードの共振スペクトルは、LS0とLS1ともに強烈であるためネットワークアナライザにて観測可能である。
【0023】
続いて、上側共振系列1次モードLS1と下側共振系列基本波モードLS0の共振周波数を一致させる方法について説明する。
図8はIDTにおける交差指電極の対数と周波数の関係を示すグラフである。この図8は、図7の上側共振系列1次モードLS1と下側共振系列基本波モードLS0の共振周波数を一致させることができることを示したものである。
上側共振系列基本波モードLS0と下側共振系列基本波モードLS0はSAW共振子のIDTの対数Mに依存して、ほぼ同様な傾斜カーブにより変化する。一方、上側共振系列1次モードLSは前記のLS0よりMによる依存性が強く急傾斜な特性となり、従って両者特性カーブは、特定のIDTの対数M0において交差することができ、動作周波数F0にて、上側共振系列1次モードLS1と下側共振系列基本波モードLS0の動作が可能となる。なお、図中LA0は斜対称基本波モードを示している。
【0024】
次に、以上のことを考慮して設計したSAW共振子の特性の1例について説明する。
図9に本発明を利用したSAW共振子の特性の1例について説明する説明図であり、図9(a)はアドミタンス特性を示すグラフ、図9(b)は結合のない場合のSAW共振子位相特性を示すグラフ、図9(c)は結合の発生した場合のSAW共振子位相特性を示すグラフである。
IDTの交差指電極の膜厚みHと表面波波長λとの比をH/λ=2.5%,これに対応する反射係数はおよそ1%としたときの製作条件において、上側共振系列1次モードLS1と下側共振系列基本波モードLS0の共振周波数を一致させる電極の対数はM0=150対であった。また、交差幅は35波長、反射器本数Nは150本とした。
【0025】
このようなSAW共振子において、図9(a)のようなアドミタンス特性を示し、上側共振系列1次モードLS1と下側共振系列基本波モードLS0の結合のない場合には図9(b)のようなSAW共振子位相特性を示す。この場合、上側共振系列1次モードLS1と下側共振系列基本波モードLS0の周波数差は周波数変化率で約5000ppmである。
上側共振系列1次モードLS1と下側共振系列基本波モードLS0の結合が発生した場合には、図9(c)の位相特性に示すように、上側共振系列1次モードLS1と下側共振系列基本波モードLS0が一致しているのがわかる。
【0026】
図10は上記SAW共振子の周波数温度特性の1例を示すグラフである。
このグラフのように、上側共振系列1次モードLS1と下側共振系列基本波モードLS0が結合して、平坦な温特カーブが出現している。
【0027】
以上、本実施形態のSAW共振子は、上側のストップバンド付近の共振が有する高次モードと下側のストップバンド付近の共振における基本波モードが同時に存在して駆動電圧により励振される。それぞれのモードの共振は周波数温度特性がわずかに異なり、具体的には周波数温度特性の頂点温度が異なって出現する。この状態において、両者の共振モードの共振周波数を一致させて共振間でわずかな弱い結合を生じさせることで、それぞれの周波数温度特性が合成され、広い温度範囲に対して平坦な周波数温度特性が実現できる。
また、一つのSAW共振子に存在する2個の共振を結合させて周波数温度特性の向上が図られるため、周波数温度特性に優れたSAW共振子の小型化が可能である。
さらに、周波数温度特性における2次温度係数が小さい水晶基板を用いて、結合振動子を構成していることから、広い温度範囲に対して周波数温度特性に優れたSAW共振子を提供することができる。
また、小型化され周波数温度特性の良好な1ポート型のSAW共振子を提供できる。
(第2の実施形態)
【0028】
次に第2の実施形態について説明する。上記の第1の実施形態では1ポート型SAW共振子について説明したが、2ポート型SAW共振子においても実施が可能である。
図11は本実施形態の2ポート型SAW共振子の構成を示す構成図であり、図11(a)は模式平面図、図11(b)は同図(a)のB−B断線に沿う模式断面図である。
SAW共振子50は、水晶基板5の主面に形成されたIDT60,70、反射器80を備えている。IDT60,70は、アルミニウム、銅、チタン、タングステンなどの金属で形成され、それぞれ極性の異なる交差指電極61,62,71,72が交互に間挿されるように構成されている。そして、IDT60,70を挟むようにアルミニウム、銅、チタン、タングステンなどの金属で形成された、格子状の反射器80が備えられている。
水晶基板5は上記実施形態の図2で説明した基板と同様の基板を使用している。
【0029】
上記のSAW共振子50においても、上側および下側のストップバンド付近に共振を有している。そして、上側のストップバンド付近の共振が有する高次モードと下側のストップバンド付近の共振における基本波モードの共振周波数を、IDT60,70の対数を選択することで一致させることが可能である。
それぞれのモードの共振は周波数温度特性がわずかに異なり、具体的には周波数温度特性の頂点温度が異なって出現する。この状態において、両者の共振モードの共振周波数を一致させて共振間でわずかな弱い結合を生じさせることで、それぞれの周波数温度特性が合成され、広い温度範囲に対して平坦な周波数温度特性が実現できる。
このように、2ポート型SAW共振子であっても、第1の実施形態のSAW共振子と同様な効果を得ることができる。
【0030】
本発明のSAW共振子は、広い温度範囲に対して優れた周波数温度特性を有することから、今後ますます膨大なデータを送受することが必要な光通信ネットワーク市場における、周波数安定性の優れたSAW発振器用途として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】第1の本実施形態におけるSAW共振子の構成を示す構成図であり、(a)は模式平面図、(b)は同図(a)のA−A断線に沿う模式断面図。
【図2】第1の実施形態の水晶基板が有する方位角を示す説明図。
【図3】第1の実施形態における面内回転STカット基板を用いたSAW共振子のインピーダンス特性を示すグラフ。
【図4】第1の実施形態のSAW共振子を構成する各部位が有する周波数特性を示す説明図。
【図5】第1の実施形態における周波数温度特性の結合を説明する説明図。
【図6】第1の実施形態における各モードの結合について説明する等価回路図。
【図7】本発明に利用する振動モードの1例について模式的に図示した説明図。
【図8】第1の実施形態における交差指電極の対数と周波数の関係を示すグラフ。
【図9】第1の実施形態におけるSAW共振子の特性の1例について説明する説明図であり、(a)はアドミタンス特性を示すグラフ、(b)は結合のない場合のSAW共振子位相特性を示すグラフ、(c)は結合の発生した場合のSAW共振子位相特性を示すグラフ。
【図10】第1の実施形態におけるSAW共振子の周波数温度特性の1例を示すグラフ。
【図11】第2の実施形態における2ポート型SAW共振子の構成を示す構成図であり、(a)は模式平面図、(b)は同図(a)のB−B断線に沿う模式断面図。
【符号の説明】
【0032】
1…水晶ウエハ、2…Y板、5…水晶基板、10…SAW共振子、20…IDT、21,22…交差指電極、30…反射器、50…SAW共振子、60,70…IDT、80…反射器。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶基板にIDTが形成され、
前記IDTの上側および下側のストップバンド付近に共振を有し前記水晶基板が斜対称性を備えたSAW共振子であって、
前記上側のストップバンド付近の共振が有する高次モードの共振周波数と、前記下側のストップバンド付近の共振が有する基本波モードの共振周波数とを一致させて結合状態を形成したことを特徴とするSAW共振子。
【請求項2】
請求項1に記載のSAW共振子において、
前記水晶基板が水晶単結晶の機械軸Yに垂直な面を電気軸Xの回りの反時計方向に角度θ=32°以上37°以下の範囲で回転させた平板であり、
前記電気軸X回りの角度θの回転により新たに規定されるY´軸を、反時計方向を正として角度+ψまたは−ψ回転させて新たに規定されるX´軸に沿って前記IDTが配置されており、ψ=40°以上44°以下の範囲であることを特徴とするSAW共振子。
【請求項3】
請求項1または2に記載のSAW共振子において、
1個の前記IDTと前記IDT両側に1対の反射器を配置した1ポート型のSAW共振子であることを特徴とするSAW共振子。
【請求項4】
請求項1または2に記載のSAW共振子において、
2個の前記IDTと前記2個のIDT両側に1対の反射器を配置した2ポート型のSAW共振子であることを特徴とするSAW共振子。
【請求項1】
水晶基板にIDTが形成され、
前記IDTの上側および下側のストップバンド付近に共振を有し前記水晶基板が斜対称性を備えたSAW共振子であって、
前記上側のストップバンド付近の共振が有する高次モードの共振周波数と、前記下側のストップバンド付近の共振が有する基本波モードの共振周波数とを一致させて結合状態を形成したことを特徴とするSAW共振子。
【請求項2】
請求項1に記載のSAW共振子において、
前記水晶基板が水晶単結晶の機械軸Yに垂直な面を電気軸Xの回りの反時計方向に角度θ=32°以上37°以下の範囲で回転させた平板であり、
前記電気軸X回りの角度θの回転により新たに規定されるY´軸を、反時計方向を正として角度+ψまたは−ψ回転させて新たに規定されるX´軸に沿って前記IDTが配置されており、ψ=40°以上44°以下の範囲であることを特徴とするSAW共振子。
【請求項3】
請求項1または2に記載のSAW共振子において、
1個の前記IDTと前記IDT両側に1対の反射器を配置した1ポート型のSAW共振子であることを特徴とするSAW共振子。
【請求項4】
請求項1または2に記載のSAW共振子において、
2個の前記IDTと前記2個のIDT両側に1対の反射器を配置した2ポート型のSAW共振子であることを特徴とするSAW共振子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−278349(P2008−278349A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−121454(P2007−121454)
【出願日】平成19年5月2日(2007.5.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月2日(2007.5.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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