説明

SH基修飾剤

【課題】様々な反応性を示すSH基含有蛋白質が混在する細胞内環境において、特に反応性の高いSH基に対して選択的に反応するSH基修飾剤及び細胞保護剤を提供すること。
【解決手段】8-ニトログアノシン誘導体を含むSH基修飾剤及び細胞保護剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明等は、基礎生物学・医学、バイオテクノロジー分野等においてSH基の生化学的特性解明の研究試薬としての利用することが可能なSH基修飾剤、及び細胞保護剤に関する。
【背景技術】
【0002】
蛋白質分子内にはシステインに由来するチオール基(SH基)が存在する。生理活性蛋白質(リン酸化・脱リン酸化酵素、プロテアーゼ、転写因子など)の中には、高反応性のSH基を持つものが多く、また、そのSH基が化学修飾を受けると蛋白質機能の変化(増強あるいは減弱・失活)がもたらされる例が数多く報告されている。
【0003】
既にN-エチルマレイミドなどの化合物がSH基修飾剤として知られている。しかしながら、それら化合物は基本的に系に存在するすべてのSH基を修飾することを目的としているために、蛋白質に固有のSH基反応性に対する選択性は全くない。また、それら修飾剤は、SH基以外にもアミノ基や水酸基にも反応性を示すことから、SH基に選択的に反応させるには条件設定が難しいなどの問題もある。さらに細胞毒性が高く、生きた細胞に直接作用させてSH基の生化学的な特性を調べる用途には用いることができない。
【0004】
一方、国際公開WO2006/093110号公報には、グアノシン-3',5'-サイクリック1リン酸のアゴニストであり、グアノシン-3',5'-サイクリック1リン酸依存的蛋白質リン酸化酵素(プロテインキナーゼG)活性化作用を有する新規な8-ニトログアノシン-3',5'-サイクリック1リン酸化合物、および該化合物を有効成分として含有するプロテインキナーゼG活性化剤が記載されている。
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2006/093110号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、様々な反応性を示すSH基含有蛋白質が混在する細胞内環境において、特に反応性の高いSH基に対して選択的に反応するSH基修飾剤、及びそれを用いた細胞保護剤を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、8-ニトログアノシンを基本骨格とした化合物がSH基に対して非常に選択的に反応することを見いだし、さらに種々の8-ニトログアノシン誘導体、ニトロアデノシン誘導体を合成し、SH基に対する反応性を明らかにした。また、本発明者らは、8−ニトログアノシン−3’,5’サイクリック1リン酸(8-NO2-cGMP)が、細胞内蛋白質のS-グアニル化をもたらすことを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0008】
即ち、本発明によれば、8−ニトログアニン、8−ニトログアノシン、2’−フルオロ−8−ニトログアノシン、8−ニトログアノシン−3’,5’サイクリック1リン酸、アゾマイシンリボシド、2−ニトロアデノシン、8−ニトロアデノシン、アゾマイシンリボシド3’,5’サイクリック1リン酸、2’−フルオロ−8−ニトログアノシン3’,5’サイクリック1リン酸、2−ニトロアデノシン3’,5’サイクリック1リン酸、又は8−ニトロアデノシン3’,5’サイクリック1リン酸から選択される化合物、又は上記化合物をさらにビオチン基又は蛍光発色団で修飾した化合物を含む、SH基修飾剤が提供される。
【0009】
本発明によればさらに、8−ニトログアニン、8−ニトログアノシン、2’−フルオロ−8−ニトログアノシン、8−ニトログアノシン−3’,5’サイクリック1リン酸、アゾマイシンリボシド、2−ニトロアデノシン、8−ニトロアデノシン、アゾマイシンリボシド3’,5’サイクリック1リン酸、2’−フルオロ−8−ニトログアノシン3’,5’サイクリック1リン酸、2−ニトロアデノシン3’,5’サイクリック1リン酸、又は8−ニトロアデノシン3’,5’サイクリック1リン酸から選択される化合物、又は上記化合物をさらにビオチン基又は蛍光発色団で修飾した化合物を、SH基を含む物質に接触させてSH基と反応させることを含む、SH基を修飾する方法が提供される。
【0010】
本発明によればさらに、8−ニトログアニン、8−ニトログアノシン、2’−フルオロ−8−ニトログアノシン、8−ニトログアノシン−3’,5’サイクリック1リン酸、アゾマイシンリボシド、2−ニトロアデノシン、8−ニトロアデノシン、アゾマイシンリボシド3’,5’サイクリック1リン酸、2’−フルオロ−8−ニトログアノシン3’,5’サイクリック1リン酸、2−ニトロアデノシン3’,5’サイクリック1リン酸、又は8−ニトロアデノシン3’,5’サイクリック1リン酸から選択される化合物を含む細胞保護剤が提供される。
【0011】
本発明によればさらに、8−ニトログアニン、8−ニトログアノシン、2’−フルオロ−8−ニトログアノシン、8−ニトログアノシン−3’,5’サイクリック1リン酸、アゾマイシンリボシド、2−ニトロアデノシン、8−ニトロアデノシン、アゾマイシンリボシド3’,5’サイクリック1リン酸、2’−フルオロ−8−ニトログアノシン3’,5’サイクリック1リン酸、2−ニトロアデノシン3’,5’サイクリック1リン酸、又は8−ニトロアデノシン3’,5’サイクリック1リン酸から選択される化合物を細胞に投与することを含む、細胞を保護する方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明で用いる8-ニトログアノシン誘導体は、SH基に対して非常に選択的に反応し、アミノ基や水酸基にはほとんど反応せず、高反応性のSH基に対する選択的な修飾が可能となる。また、本発明で用いる8-ニトログアノシン誘導体は、細胞毒性は見かけ上、ほとんど無いことから生細胞内SH基修飾への展開も可能となる。さらに本発明で用いる8-ニトログアノシン誘導体は、細胞保護剤としても有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明のSH基修飾剤及び細胞保護剤は、8−ニトログアニン、8−ニトログアノシン、2’−フルオロ−8−ニトログアノシン、8−ニトログアノシン−3’,5’サイクリック1リン酸、アゾマイシンリボシド、2−ニトロアデノシン、8-ニトロアデノシン、アゾマイシンリボシド3’,5’サイクリック1リン酸、2’−フルオロ−8−ニトログアノシン3’,5’サイクリック1リン酸、2−ニトロアデノシン3’,5’サイクリック1リン酸、又は8−ニトロアデノシン3’,5’サイクリック1リン酸から選択される化合物、又は上記化合物をさらにビオチン基又は蛍光発色団で修飾した化合物を用いることを特徴とする。本発明で用いることができる化合物、及び8−ニトログアノシンとチオール化合物との反応式を以下に示す。
【0014】
【化1】

【0015】
【化2】

【0016】
本発明で用いる化合物は、遊離型、塩型、水和物型(含水塩も含む)又は溶媒和物型のいずれの形態であってよい。たとえば、塩型としては、塩酸塩、硝酸塩又は硫酸塩などの無機酸塩、酢酸塩,クエン酸塩、プロピオン酸塩,酪酸塩,ギ酸塩、乳酸塩又はコハク酸塩などのなどの有機酸塩、もしくはアンモニウム塩などを例示することができ、特に薬学的に許容される塩が好ましい。また、溶媒和物を形成する有機溶媒の種類は特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、エーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。
【0017】
一般的製造法
以下に代表的なSH基修飾剤及び細胞保護剤の製造法を記載するが、特にこれらの製法に限定する意味ではなく、他の製造法によっても本発明化合物を製造することができる。本発明化合物は以下に示す反応にしたがって製造することができる。
【0018】
例えば、8−ニトログアノシン−3’,5’サイクリック1リン酸は、国際公開WO2006/093110号公報の記載に従って、次に示すフローチャートに従って合成することができる。
【0019】
【化3】

【0020】
上記のフローチャートにおいて、出発原料である化合物(1)は公知化合物であるN-ベンゾイルグアノシン-5'リン酸1水和物カルシウム塩と4-モルホリン-N,N'-ジシクロヘキシルカルボキサミジンとピリジン中で100℃で数時間反応させることにより容易に合成することができる(J.Am.Chem.Soc.,83, 698-706, 1961)。なお、原料のN-ベンゾイルグアノシン-5'リン酸1水和物カルシウム塩は溶媒に溶けにくいため、カルボキサミジンと塩交換を行い、溶媒に溶けやすくし、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)(縮合剤)で縮合することができる。
【0021】
このようにして調製した化合物(1)とブロミンとをホルムアミドなどの溶媒中で氷中で0.5時間程度反応させることにより化合物(2)を得、化合物(2)と亜硝酸を70℃で5日間程度反応させることにより化合物(3)を得ることができる。化合物(3)および合成中間体の単離精製は、通常の有機化合物の単離精製手段を採用すればよく、例えば、再結晶、各種クロマトグラフィーなどを用いて行うことができる。
【0022】
即ち、本発明で用いる化合物は、プリン塩基、または、イミダゾール塩基の炭素原子がハロゲン原子で置換されている公知の核酸化合物を出発物質として用い、これを亜硝酸塩の存在下で反応させることにより製造することができる。当該反応は、例えば、「T. Akaike, S. Okamoto, T. Sawa, J. Yoshitake, F. Tamura, K, Ichimori, K. Miyazaki, K. Sasamoto, H. Maeda, Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 100, 685-690 (2003).」等に記載の方法に準じて行えばよい。
【0023】
通常、反応温度は室温〜約100℃、好ましくは40〜80℃である 反応溶媒としては、水、有機溶媒またはそれらの混合溶媒が使用できるが、好ましくはジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシドである。
【0024】
8−ニトログアニンは、N.Y. Tretyakova, S. Burney, B. Pamir, J.S. Wishnok, P.C. Dedon, G.N. Wogan, S.R. Tannenbaum, Mutation Res., 447, 287-303 (2000)に記載されている。
【0025】
8−ニトログアノシンは、T. Akaike, S. Okamoto, T. Sawa, J. Yoshitake, F. Tamura, K, Ichimori, K. Miyazaki, K. Sasamoto, H. Maeda, Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 100, 685-690 (2003)に記載されている。
【0026】
2’−フルオロ−8−ニトログアノシンの合成の一例は、本明細書の以下の実施例の合成例2に示す。
【0027】
アゾマイシンリボシドの製法は、R. J. Rousseau, R. K. Robins, L. B. Townsend, J. Heterocyclic Chem., 4, 311 (1967)もしくは、E. J. Prisbe, J. P. H. Verheyden, J. G. Moffatt, J. Org. Chem. 43, 1784-4794 (1978)に記載されている。
【0028】
2−ニトロアデノシンの製法は、P. Y. F. Deghati, M. J. Wanner., G.-J. Koomen, Tetrahedron Lett., 41, 1291-1295 (2000)もしくは、M. J. Wanner, J. K.V. F. D. Kunzel, A. P. IJzerman, G.- J. Koomen, Bioorg. Med. Chem. Lett. 10, 2142-2144 (2000)に記載されている。
【0029】
本発明においては、上記化合物をさらにビオチン基又は蛍光発色団で修飾した化合物を用いることもできる。即ち、上記化合物にビオチン基を導入することによって、SH基が修飾された蛋白質を選択的に細胞から抽出することができる。これにより細胞内でのSH基修飾反応の解析や、標的蛋白質の同定に活用することができる。また、上記化合物に蛍光発色団を導入することによって、SH基が修飾された蛋白質やペプチド・アミノ酸の網羅的解析(プロテオソームおよびメタボローム)へ展開することが可能である。
【0030】
また、本発明においては、8−ニトログアノシン−3’,5’サイクリック1リン酸などの8-ニトログアノシン誘導体及びニトロアデノシン誘導体が、細胞内蛋白質のS-グアニル化をもたらすことが明らかになった。このS-グアニル化の標的蛋白質として、転写制御因子であるKeap1が効率よくS-グアニル化を受けることも明らかになった。一般に、Keap1のSH基を修飾する薬剤は、抗酸化酵素や解毒酵素を誘導し、細胞をストレスから保護する作用があることが知られている。上記の通り、本発明においては、8−ニトログアノシン−3’,5’サイクリック1リン酸などの8-ニトログアノシン誘導体及びニトロアデノシン誘導体は、細胞保護作用を有することが実証された。
【0031】
本発明のSH基修飾剤及び細胞保護剤においては、上記化合物をそのまま使用してもよいし、あるいは製剤化して使用してもよい。製剤化に際しては、通常使用される製剤用担体、賦形剤、その他の添加剤を含む組成物として使用することができる。担体としては、乳糖、カオリン、ショ糖、結晶セルロース、コーンスターチ、タルク、寒天、ペクチン、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、レシチン、塩化ナトリウムなどの固体状担体、グリセリン、落花生油、ポリビニルピロリドン、オリーブ油、エタノール、ベンジルアルコール、プロピレングリコール、水などの液状担体を例示することができ、好ましくは液状担体を用いることができる。
【0032】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
合成例1:8-ニトログアノシン-3'、5'-サイクリック1リン酸(8-NO2-cGMP)
【0034】
【化4】

【0035】
8-NO2-cGMPの合成は、国際公開WO2006/093110号公報に記載と同様に、Kapuler, A. Mらの方法(Biochemistry 10, 4050-4061, 1971)を一部改変しておこなった。すなわち、cGMPを出発材料として、第1段階としてブロモ化反応により8-ブロモグアノシン-3'、5'-サイクリック1リン酸(8-Br-cGMP)を合成し、続いて第二段階としてニトロ化反応により8-NO2-cGMPを合成した。なお、有機溶媒試薬は、特別な場合を除き、和光特級試薬を用いた。化合物(1)であるグアノシン-3'、5'-サイクリック1リン酸(cGMP、MP Biomedicals社製)150 mgをホルムアミド5 mlに溶解し、氷中にてブロミン0.5 mlを添加し30分間の反応によりブロモ化をおこなった。これにアニリン2 mlを添加し反応を停止させ、続いて反応体積の3倍量のジエチルエーテルを加えることでアニリンを上層のエーテル層に抽出し除去した。この抽出操作は、3回繰り返し行い、完全にアニリン除去した。続いて、ホルムアミド層に1M NaOHを添加し、pH 9.0に調整した後、20 mlのブタノールおよび純水5 mlを添加し、よく攪拌し8-Br-cGMPを下層の水層に回収した。これをロータリーエバポレーターを用いて濃縮し、さらに4 ℃で一晩静置することで、8-Br-cGMPを沈殿として析出させた。遠心(15,000 rpm, 30 min, 4℃)により回収した沈殿に再び純水4 mlを加えて溶解した。これを0.45μmフィルターでろ過後、TSKgel ODS-80Ts (21.5 x 300 mm)(東ソー社製)を用いた逆相クロマトグラフィー(移動相:0.02 %トリフルオロ酢酸、20%メタノール、流速3.5 ml/min)にて8-Br-cGMPを精製した。保持時間35〜65分間の役30分間のピーク100 mlを回収し、ロータリーエバポレーターにて1 mlまで濃縮し、凍結乾燥により化合物(2)の粉末53.4 mg(収率35.6 %)を得た。
【0036】
化合物(2)の粉末をDMSOに溶解し終濃度83 mMとし、これに5 M塩酸を終濃度34.5 mMになるように添加した。ただちにDMSOに溶解した1 M亜硝酸ナトリウムを添加し終濃度333 mMとし、70℃で5日間反応させることによりニトロ化反応をおこなった。反応終了後、2.3倍量の純水を加え、1 M NaOHによりpH 8.5-9.0に調整した後、2倍量の体積になるように1-ブタノールを添加・攪拌し、得られた水層をロータリーエバポレーターにて濃縮した。
【0037】
濃縮した試料は、0.45 mmフィルターでろ過後、TSKgel ODT-80Ts (21.5 x 300 mm)を用い、移動相の条件の異なる3回の逆相クロマトグラフィーにより高純度の8-NO2-cGMPを得た。逆相クロマトグラフィーの1回目は、移動相として10 mM sodium phosphate buffer (pH 7.0), 16%メタノールを用い、流速3.5 ml/minにて保持時間55〜58分間の約3分間のピークを回収した。これをロータリーエバポレーターにて濃縮し、-20℃に冷却した100 %エタノールを添加し、析出する塩を遠心により除去した。回収したエタノール上清には、再度100%エタノールを加えて遠心し、エタノール層を回収した。エタノールをロータリーエバポレーターにて加熱濃縮により気相に除去した後、水溶液の試料を回収した。逆相クロマトグラフィーの2回目は、移動相として10 mM sodium phosphate buffer (pH 7.0), 100 mM NaCl, 16%メタノールを用い、流速3.5 ml/minにて保持時間59〜67分間の約8分間のピークを回収し、これをロータリーエバポレーターにて濃縮し、エタノールを用いて脱塩操作を行った。逆相クロマトグラフィーの3回目は、移動相として0.02%トリフルオロ酢酸、20%メタノールを用い、流速3.5 ml/minにて保持時間50〜65分間の約15分間のピークを回収し、ロータリーエバポレーターにて濃縮した後、凍結乾燥により化合物(3)の粉末11.1 mg(収率20.8 %)を得た。
【0038】
得られた化合物(3)の粉末に純水を加えて溶解し、LC-MS (LCMS-QP8000α) (Shimadzu社製)を用いて質量分析を行った。その結果、保持時間15-18分のピークと一致して、[M+H]+390のピークが検出され、理論値と一致した。得られた化合物(3)の1H NMR、MSおよびUVのスペクトルデータを下記に示す。
【0039】
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6):
δ: 4.06 (1H, ddd, J=4.9, 10, 10 Hz), 4.28 (1H, ddd, J=1.7, 10, 10 Hz), 4.43 (1H, ddd, J=20, 10, 4.9 Hz), 4.83 (1H, d, J=5.4 Hz), 5.02 (1H, ddd, J=10, 5.4, 1.7 Hz), 6.00 (1H, br s), 6.33 (1H, s), 7.05 (2H, br s), 11.3 (1H, s)
【0040】
MS (ESI, negative):
Calculated for C10H11N6O9P ([M-H]-): 389.02
Found: 389.10
【0041】
UV spectrum:
λmax = 253, 275, 390 nm (solvent: CH3OH)
【0042】
合成例2:2’−フルオロ−8−ニトログアノシンの合成
【化5】

【0043】
市販の2'-デオキシ-2'-フルオログアノシン(10 mg)を水(1 mL)に懸濁させ、0℃にてN-ブロモコハク酸イミド (9.4 mg)を加えて2時間20分撹拌した。固体をろ取して、8-ブロモ-2'-デオキシ-2'-フルオログアノシン(6 mg, 収率47%)を得た。
高分解能質量スペクトル(FAB法、マトリックス NBA) m/z 364.0063 (M+H+, calc. for C10H1204N5BrF 364.0057)
【0044】
【化6】

【0045】
得られた8-ブロモ-2'-デオキシ-2'-フルオログアノシン(5 mg)をピリジン(0.5 mL)に懸濁し、0℃にて無水酢酸(7 mg)を加えて2時間撹拌した。この時点で4-ジメチルアミノピリジン(0.2 mg)を加えて、さらに1時間30分撹拌した。反応混合物を氷温の塩化アンモニウム水溶液(10 mL)で希釈し、酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮して粗固体を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して8-ブロモ-3', 5'-O-ジアセチル-2'-デオキシ-2'-フルオログアノシン(4.1 mg, 収率 67%)を得た。
【0046】
高分解能質量スペクトル(FAB法、マトリックス NBA) m/z 448.0271 (M+H+, calc. for C14H1606N5BrF 448.0268)
【0047】
【化7】

【0048】
得られた8-ブロモ-3', 5'-O-ジアセチル-2'-デオキシ-2'-フルオログアノシン(36.5 mg)、および、4,4'-ジメトキシトリチルクロリド(137 mg)の混合物に乾燥したピリジン(0.5 mL)を加えて、室温で16時間撹拌した。反応混合物を氷冷し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(5 mL)で希釈したのちに酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮して粗固体を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して8-ブロモ-2-N-ジメトキシトリチル-3', 5'-O-ジアセチル-2'-デオキシ-2'-フルオログアノシン(48 mg, 収率 79%)を得た。
【0049】
高分解能質量スペクトル(FAB法、マトリックス NBA) m/z 750.1577 (M+H+, calc. for C35H3408N5BrF 750.1575)
【0050】
【化8】

【0051】
得られた8-ブロモ-2-N-ジメトキシトリチル-3', 5'-O-ジアセチル-2'-デオキシ-2'-フルオログアノシン(17 mg)、亜硝酸カリウム(19 mg)、18-クラウン-6からなる混合物に乾燥したジメチルホルムアミド(1.6 mL)を加えて100℃で6時間撹拌した。反応混合物を放冷し、酢酸エチル(20 mL)で希釈した。これを飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄して得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮して粗固体を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して黄色固体の8-ニトロ-2-N-ジメトキシトリチル-3', 5'-O-ジアセチル-2'-デオキシ-2'-フルオログアノシン(10 mg, 収率 66%)を得た。
【0052】
高分解能質量スペクトル(FAB法、マトリックス NBA) m/z 717.2325 (M+H+, calc. for C35H34010N6F 717.2321)
【0053】
【化9】

【0054】
得られた8-ニトロ-2-N-ジメトキシトリチル-3', 5'-O-ジアセチル-2'-デオキシ-2'-フルオログアノシン(10.6 mg)をクロロホルム(1 mL)に溶解しp-トルエンスルホン酸(2 mg)を加えて20分間撹拌した。反応混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、黄色固体の8-ニトロ-3', 5'-O-ジアセチル-2'-デオキシ-2'-フルオログアノシン(5.3 mg, 収率 86%)を得た。
【0055】
高分解能質量スペクトル(FAB法、マトリックス NBA) m/z 415.1014 (M+H+, calc. for C14H1608N6F 415.1014)
1H NMR (300 MHz,CD3OD) d: 6.75 (1H, dd, J= 1.8, 24.0 Hz), 5.95 (1H, ddd, J=1.8, 5.7, 53.1 Hz), 5.75 (1H, ddd, J=5.7, 8.7, 18.0 Hz), 4.48 (1H, dd, J=3.0, 12.0 Hz), 4.39 (1H, ddd, J=3.0, 5.4, 8.4 Hz), 4.27 (1H, dd, J=5.1, 12.0 Hz)
【0056】
【化10】

【0057】
得られた8-ニトロ-3', 5'-O-ジアセチル-2'-デオキシ-2'-フルオログアノシン (5.3 mg)をメタノール(0.5 mL)に溶解し、0°Cで40%メチルアミン・メタノール溶液を滴下した。室温に昇温して2時間撹拌を続けたのち、反応液を減圧濃縮した。残さをODSクロマトグラフィー(aq. MeOH)にて精製し、8-ニトロ -2'-デオキシ-2'-フルオログアノシン (2.5 mg, 60%)を橙色の固体として得た。
【0058】
高分解能質量スペクトル(FAB法、マトリックス NBA+NaI) m/z 353.0624 (M+Na+, calc. for C10H1106N6NaF 353.0622)
1H NMR (300 MHz,CD3OD) d: 6.74 (1H, dd, J= 2.4, 22.5 Hz), 5.73 (1H, ddd, J= 2.4, 5.4, 54.0 Hz), 4.01 (1H, m), 3.90 (1H, dd, J= 2.7 Hz, 12.3 Hz), 3.73 (1H, dd, J= 4.8, 12.3 Hz)
【0059】
試験例1:グルタチオンのSH基に対するS-グアニル化修飾
システインを含むトリペプチドであるグルタチオンのSH基に対する8-NO2-cGMPによる修飾反応を解析した。リン酸ナトリウム緩衝液(100 mM, pH 7.4)に8-NO2-cGMP(10μM)とグルタチオン(10 mM)を溶解し、37℃にて反応させた。一定時間ごとに、反応溶液の一部を採取し、HPLC-UVならびにMS(LCMS-QP8000a、Shimadzu社製)にて反応産物を解析した。すなわち、STR ODS-II (2 x 150 mm)(信和化工社製)を用いた逆相クロマトグラフィーを行った。移動相は0.2 ml/minの流速で、A液として0.02%トリフルオロ酢酸、2%アセトニトリル、B液として0.02%トリフルオロ酢酸、15%アセトニトリルを用い、100%A液から100%B液へ20分のリニアグラジエントにて行った。この条件では、8-NO2-cGMPは21.8分に溶出する。反応が進むに従って、8-NO2-cGMPのピークが減少し、かわって20.9分に新規なピークが出現した。反応3時間後には8-NO2-cGMPのピークはほぼ完全に消失し、かわって21.8分のピークが増加した。この20.9分のピークの分子量を測定した結果、651と決定された。この分子量は、グルタチオンに一分子のcGMP構造が付加したものに一致していた。さらに20.9分のピークを分取し、溶媒を凍結乾燥にて除去したものを、NMR測定に供した。その結果、8-NO2-cGMPとグルタチオンとの反応から生成した新規な化合物の構造が、図1に示すようなグルタチオンのSH基に対して、cGMPのC8位が付加(S-グアニル化)したものであることが示された。具体的な測定値を以下に示す。
【0060】
1H NMR (600 MHz, D2O) δ 2.10 (1H, dt, J= 7.2, 7.2 Hz: Glu Hβ), 2.46 (1H, t, J= 7.2 Hz: Glu Hγ), 3.36 (1H, m: Cys Hβ), 3.65 (1H, m: Cys Hβ), 4.00 (1H, t, J= 7.2 Hz: Glu Hα), 3.91 (2H, s: Gly Hα), 4.12 (1H, m: H4'), 4.25 (1H, dd, J= 9.6, 9.6 Hz: H5'), 4.43 (1H, ddd, J= 4.2, 9.6, 21.6 Hz), 4.67 (1H, dd, J= 4.8, 7.2 Hz: Cys Hα), 4.79 (overlapped with residual H2O: H2'), 5.17 (1H, m: H3'), 5.98 (1H, s, H1')
【0061】
13C NMR (150 MHz, D2O) δ25.5 (Glu Cβ), 31.0 (Glu Cγ), 35.1 (Cys Cβ), 41.2 (Gly Cα), 52.2 (Glu Cα), 53.1 (Cys Cα), 67.3 (d, JCP= 6.75 Hz: C5'), 71.4 (d, JCP= 7.95 Hz: C2'), 72.0 (d, JCP= 3.75 Hz: C4'), 77.0 (d, JCP= 4.20 Hz: C3'), 92.3 (C1'), 116.5 (C5), 143.9 (C8), 152.8 (C4), 153.8 (C2), 157.8 (C6), 171.5 (Glu carboxylate), 171.9 (Cys amide-carbonyl), 172.9 (Gly carboxylate), 174.1 (Glu amide-carbonyl).
【0062】
反応産物の解析結果から、8-NO2-cGMPとグルタチオンとの反応では、ニトロ基が脱離していることが推察された。反応液中に生成する亜硝酸イオンをAkaikeらの方法(J. Biochem. 122, 459-466, 1997)に従ってHPLC-Griess法によって定量した。反応溶液(5μl)を逆相クロマトグラフィー(4.6 x 30 mm、CA-ODS、エイコム社製)にて分離した。移動相は流速0.55 ml/minの10 mM酢酸ナトリウム(pH 5.5)、0.1 M NaCl、0.5 mMエチレンジアミン4酢酸を用いた。分離された亜硝酸イオンを0.1 ml/minの流速で混合したGriess試薬と反応させ、生成したジアゾ化合物の540 nmの吸収を測定した。その結果、8-NO2-cGMPとグルタチオンとの反応中に生成する亜硝酸イオンと、グルタチオンのcGMP付加体の生成量は完全に一致することが示された。以上の結果より、生理的条件下(pH7.4,37℃)では、8-NO2-cGMPはシステインのSH基に対してcGMPのC8位を付加するS-グアニル化修飾反応をもたらすことが示された。さらに、このとき、ニトロ基を脱離することが示された。
【0063】
試験例2:8-NO2-cGMPによるアミノ酸のSH基選択的修飾
8-NO2-cGMPがSH基に対して選択的に反応していることを示すため、種々のアミノ酸と8-NO2-cGMPとの反応を解析した。8-NO2-cGMPを終濃度20μMとなるように200 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)に溶解し、37℃にて保温した。そこへ、終濃度が10 mMとなるように各種アミノ酸を添加し、速やかに混合した。その後、直ちにその溶液を37℃に保った分光光度計(U-2810、日立製)へセットし、400 nmにおける吸収を経時的に測定した。上記試験例1にて述べたように、NO2-cGMPがSH基のような求核体と反応すると、脱ニトロ化を起こして、その結果、400 nmにおける8-NO2-cGMP特有の吸収が減少する。これを指標として、8-NO2-cGMPとアミノ酸との反応を解析した。アミノ酸として、グルタミン酸、アスパラギン酸、メチオニン、スレオニン、セリン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、リジン、システインを用いた。400 nmにおける吸収の減少を、反応時間に対してプロットし、反応速度を算出した。8-NO2-cGMPと各種アミノ酸との反応速度を求めた結果を図2に示す。これより明らかなように、8-NO2-cGMPは、システインとのみ反応し、他のアミノ酸とは全く反応しないことが示された。従って、本実験条件下で、8-NO2-cGMPは、SH基に対する選択的な反応試薬で、その他の官能基、すなわち、アミノ基、アミド基、水酸基、カルボキシル基、チオエーテル基とは全く反応しないことが示された。
【0064】
試験例3:8-NO2-cGMPによる蛋白質SH基に対するS-グアニル化修飾
ウシ血清アルブミン(BSA)およびヒトα1-プロテアーゼインヒビター(α1-PI)は、いずれも分子内に遊離のSH基を1つだけ有する蛋白質であり、これらをモデル蛋白質として用いて、8-NO2-cGMPによる蛋白質SH基へのS-グアニル化修飾を解析した。BSAあるいはα1-PIを終濃度0.1 mMとなるように100 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.4)に溶解した。この溶液に、終濃度1 mMとなるように8-NO2-cGMPを添加し、37℃にて反応させた。反応溶液の一部を経時的に採取し、その反応液中に生成した亜硝酸イオンを、上記試験例1にて述べたHPLC-Griess法によって定量した。亜硝酸イオンの生成を、8-NO2-cGMPによるSH基修飾の指標とした。結果を図3に示す。反応24時間後には、0.1 mMのα1-PIに対して0.055 mMの亜硝酸イオンが生成しており、α1-PIのSH基の55%程度がS-グアニル化されていることが示された。一方、BSAの場合は、反応24時間後においても、わずかに0.007 mMの亜硝酸イオンしか生成していなかった。すなわち、8-NO2-cGMPによる蛋白質のS-グアニル化は、それぞれの蛋白質に特有のSH基の反応性に大きく依存し、8-NO2-cGMPは、反応性の高いSH基に対する選択的なS-グアニル化修飾剤として機能することが示された。
【0065】
試験例4:8-NO2-cGMPによる組換えKeap1蛋白質のS-グアニル化
Keap1蛋白質は、転写因子Nrf2の制御因子である。通常、Keap1はNrf2と結合して、Nrf2の転写活性を抑制しているが、Keap1のSH基が化学修飾を受けるとNrf2から脱離し、Nrf2の転写活性が発現する。その結果、ヘムオキシゲナーゼー1やグルタチオンS-トランスフェラーゼなどの抗酸化酵素・細胞保護作用酵素が誘導され、細胞が酸化ストレスなどに対して耐性になる。8-NO2-cGMPがKeap1のSH基をS-グアニル化するかどうかを組換えKeap1蛋白質を用いてWestern blot法により解析した。
【0066】
Tongらの方法(Mol. Cell. Biol. 26, 2887-2900, 2006)に従って調製した組換えKeap1蛋白質(分子内に25残基のシステインを持つ)を、SH基濃度が3.2 μMとなるように0.1 mMエチレンジアミン4酢酸、0.5 mMジチオスレイトールを含む0.1 Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.4)に溶解した。ある実験では、ここにさらに10 mMのグルタチオンを添加した。このKeap1蛋白質溶液に、種々の濃度の8-NO2-cGMPを添加し、37℃で3時間反応を行った。対照として、試験例3にて用いたα1-PIを用いた。反応後、蛋白質量として1レーンあたり70 ngを加えて、SDS-7.5%ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った。ポリビニリデンジフルオリド膜(Millipore社製)へ転写後、5%スキムミルク(Becton Dickinson社)、0.1% Tween20、0.9% NaCl、10 mM Tris-HCl (pH 7.5)(ブロッキングバッファー)を用いて室温で1時間ブロッキングを行った。続いて、ブロッキングバッファーで1000倍希釈したポリクローナル抗S-グアニル化抗体(特願2007-015728)と4℃で一晩反応した。反応後、ブロッキングバッファーで3回洗浄し、同バッファーで1000倍希釈したHRP標識抗ウサギIgG抗体(Santa Cruz Biotechnology社製)と室温で1時間反応した後、膜をブロッキングバッファーで2回、さらに0.1 % Tween 20、0.9% NaCl、100 mM Tris-HCl (pH 7.5)で3回洗浄した。検出はECL plus Western Blotting Detection System (Amersham Biosciences社)を用いた化学発光法により行った。検出にはFuji Film社製のLAS1000UV miniを用いた。
【0067】
結果を図5に示す。大過剰の低分子SH化合物であるグルタチオンの共存下でも、明らかにS-グアニル化されたKeap1のバンドが検出できた。このS-グアニル化の効率は、対照として用いたα1-PIと比べても、顕著に高く、Keap1蛋白質が8-NO2-cGMPによって効率よくS-グアニル化されることが示された。
【0068】
試験例5:8-NO2-cGMPによる細胞内Keap1蛋白質のS-グアニル化
ヒト肝癌細胞株HepG2細胞を8-NO2-cGMPで処理し、細胞内のKeap1蛋白質に対するS-グアニル化を解析した。HepG2細胞は10%ウシ血清を含むDulbecco's Eagle MEM中にて培養した。あらかじめグルタチオン合成阻害剤であるブチオニンスルホキシミン(1 mM)で11時間処理したHepG2細胞に対し、0.5 mMの8-NO2-cGMPを添加してさらに1時間培養を行った。その後、細胞をリン酸緩衝生理的食塩水(PBS)で2回洗浄し、続いて蛋白分解酵素阻害剤入りRIPAバッファー(10 mM Tris-HCl (pH 7.4)、1% NP-40,0.1%デオキシコール酸ナトリウム、0.1% SDS、150 mM NaCl、1 mM 4-amidinophenylmethanesulfonyl fluoride hydrochloride、0.1 mM E-64、0.5 mg/mlロイペプチン)を加え細胞溶解液を調製した。氷上で5分間静置したあと、セルスクレーパーにて回収した。これを遠心(15,000 rpm、10分、4℃)し、上清の可溶性画分の蛋白質濃度をBCA protein assay(Pierce社)を用いて定量した。この細胞溶解液よりKeap1蛋白質を免疫沈降法により精製した。具体的には、蛋白質0.1 mgに対して、抗Keap1抗体(ヒツジモノクローナル、Santa Cruz社)を2 μg加え、穏やかに攪拌しながら4℃で1晩インキュベーションした。その後、10 mlのプロテインA/Gアガロースゲル(Santa Cruz社)を加えて、4℃で2時間インキュベーションした。その後、アガロースゲルをRIPAバッファーで5回洗浄し、遠心(5,000 rpm、3分)し、ゲルを回収した。このゲルに対し、SDSバッファー(20 μl, 125 mM Tris-HCl (pH 6.8), 20%グリセロール、4% SDS、10 mM ジチオスレイトール)を加えて、99℃で3分間加熱処理した。遠心(5,000 rpm、3分)した上清をサンプルとし、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行い、その後、Western blot解析を上記の追加試験例1と同様の方法により行った。ただし、ブロッキングバッファーとしてReliaBLOTTM(コスモ・バイオ社)を用いた。また、1次抗体として、ウサギポリクローナル抗S-グアニル化抗体、およびラットモノクローナル抗Keap1抗体(Kobayashiらから供与、Mol. Cell. Biol. 26, 221-229, 2006)を用いた。
【0069】
図6に示すように、8-NO2-cGMP処理したHepG2細胞より得られたKeap1蛋白質が著しくS-グアニル化を受けていることが明らかとなった。従って、8-NO2-cGMPは、細胞内のKeap1を効率よくS-グアニル化する活性があることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図1は、分子量測定ならびにNMR測定により決定されたグルタチオン-cGMP付加体の構造を示す。図中の矢印は、HMBC実験において観測される相関を示す。
【図2】図2は、各種アミノ酸と8-NO2-cGMPの反応速度を示す。
【図3】図3は、8-NO2-cGMPによるウシ血清アルブミン(BSA)あるいはヒトα1-プロテアーゼインヒビター(α1-PI)のSH基に対する反応過程で生成する亜硝酸イオンの放出を測定した結果を示す。
【図4】図4は、グルタチオンのSH基に対する8-ニトログアノシン関連化合物の反応速度を示す。図中に示した化合物の略称は、8-NO2-Guo(8-ニトログアノシン)、2'-F-8-NO2-Guo(2'-フルオロ-8-ニトログアノシン)、および8-NO2-cGMP(8−ニトログアノシン−3’,5’サイクリック1リン酸)。
【図5】図5は、タンパク質S-グアニル化をWestern blot法にて解析した結果を示す。組換えKeap1タンパク質あるいはヒトα1-プロテアーゼインヒビター(α1-PI)を各種濃度の8-NO2-cGMPおよびグルタチオン(GSH)の存在下で、3時間あるいは20時間反応させた後、抗S-グアニル化抗体を用いたWestern blotを行った。図の上段には抗S-グアニル化抗体と反応するバンドの像を、また、下段にはそのバンドの濃さをデンシトメーターにて定量した数値をグラフ化したものを示す。
【図6】図6は、8-NO2-cGMPで処理したHepG2細胞より、抗Keap1抗体を用いて免疫沈降で回収したKeap1タンパク質について、抗S-グアニル化抗体を用いたWestern blotにてS-グアニル化を解析した結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
8−ニトログアニン、8−ニトログアノシン、2’−フルオロ−8−ニトログアノシン、8−ニトログアノシン−3’,5’サイクリック1リン酸、アゾマイシンリボシド、2−ニトロアデノシン、8−ニトロアデノシン、アゾマイシンリボシド3’,5’サイクリック1リン酸、2’−フルオロ−8−ニトログアノシン3’,5’サイクリック1リン酸、2−ニトロアデノシン3’,5’サイクリック1リン酸、又は8−ニトロアデノシン3’,5’サイクリック1リン酸から選択される化合物、又は上記化合物をさらにビオチン基又は蛍光発色団で修飾した化合物を含む、SH基修飾剤。
【請求項2】
8−ニトログアニン、8−ニトログアノシン、2’−フルオロ−8−ニトログアノシン、8−ニトログアノシン−3’,5’サイクリック1リン酸、アゾマイシンリボシド、2−ニトロアデノシン、8−ニトロアデノシン、アゾマイシンリボシド3’,5’サイクリック1リン酸、2’−フルオロ−8−ニトログアノシン3’,5’サイクリック1リン酸、2−ニトロアデノシン3’,5’サイクリック1リン酸、又は8−ニトロアデノシン3’,5’サイクリック1リン酸から選択される化合物、又は上記化合物をさらにビオチン基又は蛍光発色団で修飾した化合物を、SH基を含む物質に接触させてSH基と反応させることを含む、SH基を修飾する方法。
【請求項3】
8−ニトログアニン、8−ニトログアノシン、2’−フルオロ−8−ニトログアノシン、8−ニトログアノシン−3’,5’サイクリック1リン酸、アゾマイシンリボシド、2−ニトロアデノシン、8−ニトロアデノシン、アゾマイシンリボシド3’,5’サイクリック1リン酸、2’−フルオロ−8−ニトログアノシン3’,5’サイクリック1リン酸、2−ニトロアデノシン3’,5’サイクリック1リン酸、又は8−ニトロアデノシン3’,5’サイクリック1リン酸から選択される化合物を含む細胞保護剤。
【請求項4】
8−ニトログアニン、8−ニトログアノシン、2’−フルオロ−8−ニトログアノシン、8−ニトログアノシン−3’,5’サイクリック1リン酸、アゾマイシンリボシド、2−ニトロアデノシン、8−ニトロアデノシン、アゾマイシンリボシド3’,5’サイクリック1リン酸、2’−フルオロ−8−ニトログアノシン3’,5’サイクリック1リン酸、2−ニトロアデノシン3’,5’サイクリック1リン酸、又は8−ニトロアデノシン3’,5’サイクリック1リン酸から選択される化合物を細胞に投与することを含む、細胞を保護する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−201771(P2008−201771A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−252877(P2007−252877)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】