説明

SPECT装置

【課題】本発明の目的は、SPECT装置において、再構成前の段階で、空間分解能の低下を効果的に補正することにある。
【解決手段】本発明に係るSPECT装置は、被検体に投与されたRIから放出される放射線をコリメータ3を介して検出する2次元検出器2と、RIと検出器との距離に依存性を有する空間分解能の低下を軽減するために、検出器で検出された投影角度の異なる複数の2次元投影分布を3次元の周波数空間上で当該距離に対応する複数の補正関数により補正するフィルタ処理部15と、補正された複数の2次元投影分布から3次元RI分布を再構成する再構成処理部18とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SPECT(Single Photon Emission CT)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
核医学とは被検体内に放射性同位元素(以下、RI)で標識した薬剤を投与し、その体内RI分布を画像化して診断を行うものである。この核医学診断装置において、体内RIの3次元分布を撮影するものが、Single Photon Emission CT(以下、SPECT)装置である。
【0003】
SPECT装置において、収集された2次元投影分布のデータに対してノイズ成分の低減や空間分解能の補正のためにフィルタ処理を行うことが多い。これらフィルタ処理は再構成前の投影データに対して実施することが効果的である。
【0004】
空間分解能を低下させる原因の一つは、コリメータ開口の入射角である(図4参照)。空間分解能の低下の程度(入射幅w1,w2)は、線源−検出器間の距離d1,d2に応じて変化する。つまり、線源S1,S2が検出器から離れれば離れるほど空間分解能は低下する。
【0005】
しかし、再構成前の2次元投影分布データの段階では、当該距離d1,d2を分離できないので、空間分解能を効果的に補正することができなかった。
【非特許文献1】Edholm PE, Lewitt RM and Lindholm B: Novel properties of the Fourier decomposition of the sinogram. International Workshop on Physics and Engineering of Computerized Mutidimensional Imaging and Processing. Proc of SPIE, 671, 8−18, 1986.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、SPECT装置において、再構成前の段階で、空間分解能の低下を効果的に補正することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るSPECT装置は、被検体に投与されたRIから放出される放射線をコリメータを介して検出する2次元検出器と、前記RIと前記検出器との距離に依存性を有する空間分解能の低下を軽減するために、前記検出器で検出された投影角度の異なる複数の2次元投影分布を3次元の周波数空間上で前記RIと前記検出器との距離に対応する複数の補正関数により補正する補正処理部と、前記補正された複数の2次元投影分布から3次元RI分布を再構成する再構成部とを具備する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、SPECT装置において、再構成前の段階で空間分解能の低下を効果的に補正することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態に係るSPECT(Single Photon Emission CT)装置を説明する。図1、図2に示すように、本実施形態のSPECT装置は、ガンマ線検出器装置1と、寝台20の天板21上に載置される被検体Pの体軸に略一致する回転軸(Z軸)まわりを回転自在に検出器装置1を支持するための架台5とを有する。なお、Z軸を中心として回転する回転座標系を定義する。回転座標系において、検出器2の検出面に垂直な方向軸をY軸、検出器2のチャンネル方向軸をX軸とする。
【0010】
検出器装置1は、2次元の検出器2と、パラレルホールコリメータ3とを有する。検出器2は、2次元(平面)形状のシンチレータと複数の光電子増倍管とにより2次元の位置検出を行うものである。シンチレータにはNal(Tl)などが用いられる。パラレルホールコリメータ3は、線源(RI)から検出器2に到達するガンマ線の入射角を制限するために、複数の孔が平行に空けられた鉛板で構成される。
【0011】
架台5は、架台制御部6の制御を受けて検出器装置1を回転する。撮影に際しては、撮影制御部7は、検出器装置1が被検体Pの周りを一定周期で断続的(または連続的)に回転するように架台制御部6を制御する。収集部4は、検出器2から信号電荷を読み出し、ディジタル化するとともに、投与RIに対応するエネルギーウインドウでイベント(ガンマ線入射事象)を弁別して、ガンマ線の入射位置ごとにエネルギーウインドウに収まるイベントの数を、検出器装置1の停止期間ごとに集計する。各セルの集計結果は、RIの数が略Y軸にそって累積される。集計結果として、3次元のRI分布を略Y軸に沿って検出器面に投影したようなRI数の2次元空間分布(2次元投影分布)が投影角度ごとに取得される。投影角度が相違する複数の2次元投影分布のデータは、検出器2の角度(投影角度)と関連付けられて画像記憶部9に記憶される。
【0012】
撮影制御部7および画像記憶部9は、キーボードやマウス等の入力部11、制御部8、画像処理部12とともに、コンソールボックスを構成する。画像処理部12は、投影角度の相違する複数の2次元投影分布から、3次元RI分布を再構成するとともに、RIと検出器2との距離に応じた空間分解能の低下を軽減するために、検出器2で検出された投影角度の異なる複数の2次元投影分布を3次元の周波数空間上で当該距離に対応する複数の補正関数により補正する機能を有している。そのため画像処理部12は、3次元フィルタ記憶部13、サイノグラム変換部14、フィルタ処理部15、フーリエ変換部16、逆フーリエ変換部17、再構成処理部18を有する。
【0013】
3次元フィルタ記憶部13は、上記複数の距離にそれぞれ対応する複数のフィルタ関数(補正関数)のデータを記憶する。サイノグラム変換部14は、投影角度の相違する複数の2次元投影分布(XZ面分布)を、投影角度軸(φ軸)、スライス軸(Z軸)およびチャンネル軸(X軸)による3次元の実空間で表現される3次元投影分布(3次元サイノグラム)に変換する。フーリエ変換部16は、3次元サイノグラムを、実空間での表現(X,φ,Z)から周波数空間での表現(γ,n,w)に変換する。γは実空間でのチャンネル方向Xに相当する周波数、nは実空間での投影角度φに相当する周波数、wは実空間でのスライス軸方向Zに相当する周波数である。
【0014】
フィルタ処理部15は、周波数空間で表現される3次元サイノグラムに対して、3次元フィルタ記憶部13に記憶された複数のフィルタ関数(補正関数)を、距離に応じて使い分けてコンボリュートすることにより、空間分解能を補正する。上述したように線源−検出器間距離dに応じて空間分解能の低下の程度は変化するが、実空間上では当該距離dを分離できないので、空間分解能の低下を効果的に補正できなかったが、3次元サイノグラムを周波数空間に移すことで当該距離dを分離して空間分解能の低下を効果的に補正することができるようになる。逆フーリエ変換部17は、空間分解能の補正を受けた3次元サイノグラムを、周波数空間での表現から実空間での表現に変換する(戻す)。再構成処理部18は、空間分解能の補正を受けた実空間の表現に戻された3次元サイノグラムから3次元RI分布を再構成する。
【0015】
図4には空間分解能の低下の発生原理を示している。被検体Pに投与されたRIは、対象とする部位に集まる。それらの位置をS1,S2と仮定する。線源位置S1は検出器2の検出面から距離d1離れている。線源位置S2は検出器2の検出面から線源位置S1より遠く距離d2離れている。コリメータ2の各ホールは開口幅WAを有する。そのため線源位置S1から放射されるガンマ線は、幅W1の範囲で検出器2の検出面に到達する。また線源位置S2から放射されるガンマ線は、幅W1より広い幅W2の範囲で検出器2の検出面に入射する。入射幅が狭いほど空間分解能は向上するが、感度は低下する。逆に入射幅が広いほど感度は向上するが、空間分解能は低下する。トレードオフの関係にある感度と空間分解能とに基づいて開口幅WAが設計される。そのためある程度の開口幅WAをもたせることは避けられない。
【0016】
このようなコリメータ3の開口幅による空間分解能の低下をフィルタ処理で補正する手法として、FDR(Frequency Distance Relation)法を採用する。まず、このFDR法の原理を2次元空間の例で説明する。Xは検出位置、φは検出器2の角度(投影角度)として、図5(a)に示す検出位置Xに関する1次元の投影分布を、投影角度φの軸にそって展開した図5(b)に示すサイノグラムg(X,φ)に対して、Xとφとの2軸に関して2次元のフーリエ変換を行うと図5(c)に示すG(γ,n)が得られる。γは検出位置の周波数成分、nは検出器(投影)角度の周波数成分を表している。つまり投影角度の相違する複数の1次元投影分布を、実空間上での表現から周波数空間上での表現に転換する。なお、周波数空間上で表現されたRIの投影分布をFDR像と称する。
【0017】
周波数空間上では、線源と検出器間の距離dが同じデータは、FDR像G(γ,n)においてY=−n/γの直線上に存在する。Yは検出器2と平行で回転中心を含む線と線源との距離を表している。SPECTにおける空間分解能の低下はコリメータ3の開口により決定される。コリメータ開口による空間分解能の低下は線源と検出器2(=コリメータ)間の距離により決まるので、G(γ,n)におけるY=−n/γの直線上のデータは同程度の空間分解能の低下を受けていることになる。周波数空間上では距離dを分離することができる。コリメータ開口による空間分解能の低下は例えばガウス関数で表現できるので、次の式に示すように、G(γ,n)におけるY=−n/γの直線上のデータごと、つまり距離dごとに設けられる逆関数(補正関数)をかけることでコリメータ開口による空間分解能の低下を補正することができる。F(γ,n)は空間分解能の低下のない理想的なFDR像、H(γ,n)は周波数空間上で表現された線広がり関数(ボケ関数(図6(a)参照))を表している。
G(γ,n)=H(γ,n)×F(γ,n)
F(γ,n)=H−1(γ,n)×G(γ,n)
なお逆関数に関しては理論通りの形を用いると無限に高い高周波成分を復元するため実用上の適用が困難である。そこで、適度に高周波成分をカットしたMetzフィルタなどが使用される(図6(b)参照)。
【0018】
FDRフィルタ処理を使って本実施形態であるSPECT装置における3次元フィルタ処理を実行する。図3には、本実施形態による空間分解能の低下(ボケ)の補正処理の手順を示している。検出器装置1が被検体Pの周囲を断続的または連続的に回転しながら、複数の位置で撮影(計数)が繰り返される(S11)。収集されたSPECTデータは画像記憶部9に記憶される。サイノグラム変換部14は、図8(a)に示すように、検出位置Xに関する1次元の投影分布を、投影角度φの軸にそって展開し、スライスごとに並べた図8(b)に示す3次元サイノグラムg(X,φ,Z)に変換する(S12)。フーリエ変換部16は、3次元サイノグラムg(X,φ,Z)をX,φ,Zの3軸に関して3次元フーリエ変換を行い(S13)、周波数空間上で表現された図8(c)に示す3次元サイノグラムG(γ,n,w)を得る。γは検出位置の周波数成分、nは検出器3の角度(投影角度)の周波数成分、wはスライス方向の周波数成分を表している。
【0019】
フィルタ処理部15は、この周波数空間上で表現された3次元サイノグラムG(γ,n,w)に対して距離dごとに補正関数をコンボリュートとする(S14)。コリメータ開口による空間分解能の低下を補正するフィルタの設計について述べる。まず2次元で考えるとG(γ,n,w)の(γ,n)面においては、FDRの理論に基づきY=−n/γの直線ごとにフィルタが設計される。
【0020】
例えば、コリメータと線源の距離により決まる空間分解能は、図6(a)に示すような山形の形状で表される。この形状はガウス分布、ポアソン分布などで近似され得る。また、位置分解能は半値幅で反映される。この分布をコリメータと線源の距離dごとに作成し、応答関数とする(S21)。次に距離dごとに作成した応答関数に対して個々にその逆関数を作成する(S22)。つまり、距離dごとに二次元フィルタが作成される。なお、逆関数は高周波では発散することがあるので、ノイズを増強させない程度で高周波分をカットする。例えば図6(b)に示すMetzフィルタのような形になる。
【0021】
次にスライス方向を含めた3次元への拡張は、Y=−n/γの直線とw軸の直線を含む面においてはスライス方向も含めて線源−検出器(コリメータ)間距離が同じデータが存在しているので、2次元で得られた補正フィルタを回転することで3次元に拡張すれば良い(S23)。実際的には、2次元から3次元への拡張はフィルタの形状においては一次元から2次元への拡張になる。具体的には図7(a)に示す点広がり関数を横軸の原点(周波数=0)を通る軸を中心にして円錐状に回転させることで、図7(b)に示す2次元分布に拡張され得る。図9に示すように、Y=−n/γの直線とw軸の直線を含む面ごとに設計された2次元の点広がり関数の逆関数としての3次元補正フィルタをG(γ,n,w)にコンボリュートする。それにより距離dに応じて適正に空間分解能の低下を補正することができる。2次元の点広がり関数の逆関数は、事前に、距離dごとに作成され、記憶部13に記憶される。
【0022】
次に逆フーリエ変換部17は、上記空間分解能の低下を補正されたG(γ,n,w)を逆フーリエ変換により実空間上で表現された3次元サイノグラムg(X,φ,Z)に戻す(S15)。そして再構成処理部18は、空間分解能の低下を補正され、そして実空間上での表現に戻された3次元サイノグラムg(X,φ,Z)から、多段面のSPECT断層画像を再構成する(S16)。
【0023】
本実施形態によれば、多方向の2次元投影分布を3次元サイノグラムに変換して、その3次元サイノグラムを周波数空間に転移させることで、線源−検出器間距離dを分離することができるので、当該距離dに応じた適当な補正関数で空間分解能の低下を効果的に補正することができる。
【0024】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係るSPECT装置の構成図。
【図2】図1の架台を示す図。
【図3】本実施形態によるボケ補正処理を示す図。
【図4】図4のS22において、線源−検出器間距離dとボケの程度との関係に関する説明図。
【図5】本実施形態による空間分解能の低下(ボケ)の補正処理の原理を示す図。
【図6】本実施形態においてボケの1次元分布(線広がり関数)を示す図。
【図7】本実施形態においてボケの2次元分布(点広がり関数)を示す図。
【図8】本実施形態において3次元のサイノグラムを示す図。
【図9】本実施形態において3次元サイノグラムに対する補正処理を示す図。
【符号の説明】
【0026】
1…検出器装置、2…検出器、3…パラレルホールコリメータ、4…収集部、5…架台、6…架台制御部、7…撮影制御部、8…制御部、9…画像記憶部、10…画像表示部、11…入力部、12…画像処理部、13…3次元フィルタ記憶部、14…サイノグラム変換部、15…フィルタ処理部、16…フーリエ変換部、17…逆フーリエ変換部、18…再構成処理。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に投与されたRIから放出される放射線をコリメータを介して検出する2次元検出器と、
前記RIと前記検出器との距離に依存性を有する空間分解能の低下を軽減するために、前記検出器で検出された投影角度の異なる複数の2次元投影分布を3次元の周波数空間上で前記距離に対応する複数の補正関数により補正する補正処理部と、
前記補正された複数の2次元投影分布から3次元RI分布を再構成する再構成部とを具備することを特徴とするSPECT装置。
【請求項2】
前記補正処理部は、
前記複数の2次元投影分布を投影角度軸、スライス軸およびチャンネル軸による3次元の実空間で表現される3次元投影分布に変換する座標変換部と、
前記3次元投影分布を周波数空間で表現される3次元投影分布に変換する実空間−周波数空間変換部と、
前記周波数空間で表現される3次元投影分布に対して前記複数の補正関数を前記距離ごとにコンボリュートする補正部と、
前記複数の補正関数をコンボリュートされた3次元投影分布を前記実空間で表現される3次元投影分布に変換する周波数空間−実空間変換部とを有することを特徴とする請求項1記載のSPECT装置。
【請求項3】
前記複数の補正関数を記憶する記憶部をさらに備えることを特徴とする請求項1記載のSPECT装置。
【請求項4】
前記補正関数は、前記周波数空間で表現された点広がり関数の逆関数であることを特徴とする請求項1記載のSPECT装置。
【請求項5】
前記コリメータは、パラレルホールコリメータであることを特徴とする請求項1記載のSPECT装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−133204(P2006−133204A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−351724(P2004−351724)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(000125381)学校法人藤田学園 (19)
【Fターム(参考)】