説明

SYNGAP1機能不全ならびに精神遅滞の診断および治療用途でのその使用

本発明は、精神遅滞の原因としてのSyngap1機能不全を明らかにする。ヒト被験体の、精神遅滞を検出する方法および非症候性精神遅滞(NSMR)を検出する方法が記載される。詳細な方法は、罹患していない個体由来の対照配列との比較のために、ヒト被験体のゲノムDNAを配列決定するステップを含む。プローブ、キット、抗体および単離された突然変異型Syngap1タンパク質も記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝的疾患の分野に関する。より詳細には、本発明は、精神遅滞の原因としてのSyngap1機能不全の特定に関する。
【背景技術】
【0002】
精神遅滞(MR)は、最も頻繁に起こる深刻な小児のハンディキャップであり、人口の1〜3%が罹患している。ほとんどのMR患者は、非症候性型を有し、これは、関連する形態学的特徴、放射線学的特徴または代謝的特徴の非存在を特徴とする。しかしながら、ときには、疾患の両方の型の区別は、非常に微妙であり得る(Chelly et al., 2006 Eur J Hum Genet 14(6), 701-13)。
【0003】
非症候性MR(NSMR)の遺伝的特徴は、あまり分かっていない。連鎖解析および細胞遺伝学的解析によって、29のX染色体連鎖NSMR遺伝子および5つの常染色体劣性NSMR遺伝子が同定されている。これらの遺伝子は、合わせて、症例のうちの10%未満を説明する(Ropers et al., 2005 Nat Rev Genet 6 (1): 56-57; Basel-Vanagaite et al. 2007 Clin Genet 72(3): 167-74)。さらに、常染色体優性NSMR遺伝子は、いまだ同定されていない。したがって、NSMRに関連した遺伝子および原因(例えば、単一対立遺伝子機能不全、de novo遺伝的機能不全、点突然変異、等)の特定に対する必要性が存在する。
【0004】
SYNGAPは、ynaptic TPase ctivating rotein(シナプスGTPase活性化タンパク質)を表す。Syngap1は、脳で選択的に発現され、NMDAR複合体の構成要素であるGTPase活性化タンパク質(GAP)である(Chen et al., 1998 Neuron 20 (5): 895-904)。ヒト遺伝子は第6染色体上に見出され、ヒトで知られている少なくとも3種類の異なるアイソフォームのタンパク質がある(NCBI登録番号NM_006772.2、NM_001130066およびAL713634を参照されたい)。ラット配列は、米国特許第6,723,838号に記載されている。Syngap1は出生後初期発達の間に必須の役割を有するようであるが、その機能(またはその機能不全)は、精神遅滞の問題と関連付けられてこなかった。そのような関連は、本発明者らにより見出され、近年発表された(Hamdan et al., N Engl J Med. 2009, 360(6):599-605)。
【0005】
本発明者らは、今回、Syngap1遺伝子が、非症候性精神遅滞(NSMR)の大きな割合についての原因遺伝子であることを実証し、それにより、疾患のスクリーニング、疾患の診断および疾患の治療のための療法の開発のための種々の方法の開発をもたらした。精神遅滞の症候群型および非症候性型の区別は、ときには非常に微妙である場合があり、一部のケースでは、同じ遺伝子の突然変異が疾患のいずれかの型をもたらすことがあるので(突然変異の重症度および罹患した個体の遺伝的バックグラウンドに依存して)、本発明のSYNGAP1をカバーする方法は、精神遅滞一般に関わる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、精神遅滞の原因としてのSyngap1機能不全の特定に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ヒト被験体の精神遅滞を検出する方法および非症候性精神遅滞(NSMR)を検出する方法に関する。一部の実施形態では、該方法は、Syngap1機能不全を特定するために被験体由来の生物学的サンプルを評価するステップを含む。好ましくは、生物学的サンプルは核酸分子を含み、評価はSyngap1コード核酸分子中の病原性突然変異の存在または非存在について核酸分子を解析するステップを含む。
【0008】
本発明の1つの特定の態様は、ヒト被験体の精神遅滞(MR)を診断する方法に関する。該方法は、病原性Syngap1機能不全の存在または非存在を検出するために、ヒト被験体由来の生物学的サンプルをアッセイするステップを含む。一実施形態では、病原性Syngap1機能不全は、配列番号7を含むSyngap1遺伝子中の病原性突然変異を含む。別の実施形態では、病原性Syngap1機能不全の存在は、Syngap1中のde novoゲノム突然変異を特徴とする。一実施形態では、機能不全は、配列番号2、配列番号4、または配列番号6以外のアミノ酸配列を含む切断型Syngap1タンパク質の発現を引き起こす切断型突然変異である。別の実施形態では、切断型Syngap1タンパク質は、配列番号8、配列番号9または配列番号10からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む。好ましい実施形態では、生物学的サンプルは、被験体から取得した核酸を配列決定するステップを含み、それらの核酸は、配列番号7に示されるSyngap1遺伝子の少なくとも一部分を含む。
本発明の別の態様は、ヒト被験体の精神遅滞(MR)を診断する方法に関する。該方法は、(a)ゲノムDNAを含む生物学的サンプルをヒト被験体から取得するステップ;(b)Syngap1の発現を担う1以上の領域の配列を取得するために、ゲノムDNAを配列決定するステップ;(c)(b)で取得した配列を、罹患していない個体由来の対応する対照配列と比較するステップを含む。(c)での比較は、病原性Syngap1ゲノム突然変異の存在または非存在の特定を可能にする。
【0009】
本発明の方法は、精神遅滞一般、より詳細には、非症候性精神遅滞(NSMR)を検出するのに有用である。したがって、より詳細な態様は、ヒト被験体の非症候性精神遅滞(NSMR)を診断するための方法に関する。該方法は、被験体から取得した核酸サンプル中で、配列番号7を含むSyngap1遺伝子中のde novoゲノム突然変異の存在または非存在を検出するステップを含む。一実施形態では、de novoゲノム突然変異は、ヘテロ(heterologous)突然変異である。好ましい実施形態では、de novoゲノム突然変異は、ナンセンス突然変異またはフレームシフト突然変異である。検出の例は、被験体由来のDNAまたはRNA分子を配列決定するステップを含む。
【0010】
1つの特定の実施形態では、ヒト被験体の非症候性精神遅滞(NSMR)を診断するための方法は、以下のステップ:(a)被験体からDNAを有する生物学的サンプルを取得するステップ;(b)Syngap1タンパク質をコードする被験体のDNAの領域を配列決定するステップ;および(c)病原性Syngap1突然変異を特定するために、(b)で取得した配列を、罹患していない個体(例えば、親)由来の対応する配列と比較するステップであって、病原性Syngap1突然変異の特定がNSMRと相関するステップを含む。
【0011】
本発明の1つの特定の態様は、突然変異型Syngap1タンパク質をコードする配列を含む単離された核酸分子に関する。別の態様は、配列番号7のSyngap1遺伝子中のゲノム突然変異を含む核酸分子に特異的にハイブリダイズするか、またはその相補鎖に特異的にハイブリダイズするプローブなどの核酸プローブに関する。
【0012】
別の態様は、単離された突然変異型Syngap1タンパク質に関する。別の関連する態様は、核酸分子または突然変異型Syngap1タンパク質の断片に関し、該断片は、機能不全(例えば、病原性Syngap1機能不全)を含む。本発明はまた、Syngap1の突然変異型タンパク質を特異的に認識するモノクローナルまたはポリクローナル抗体にも関する。
【0013】
関連する態様は、ヒト被験体の病原性Syngap1機能不全を特定するための、化合物(例えば、本明細書中に定義される核酸プローブまたは抗体)を含む固体支持体に関し、該機能不全は精神遅滞を担うものである。
【0014】
本発明はまた、生物学的サンプル中で変異型Syngap1核酸分子の存在または非存在を検出するためのキットにも関する。一実施形態では、キットは、ユーザーマニュアルまたは使用説明書、ならびに以下:(i)配列番号7を含むSyngap1遺伝子中のゲノム突然変異を含む核酸分子に特異的にハイブリダイズする核酸プローブ;(ii)(i)に記載の核酸分子の相補鎖に特異的にハイブリダイズする核酸プローブ;(iii)本明細書中に定義されるモノクローナルまたはポリクローナル抗体;および(iv)生物学的サンプル中のSyngap1タンパク質の量および/または活性を測定するための化合物、のうちの少なくとも1つを含む。
【0015】
本発明はさらに、Syngap1機能を回復させるための好適な薬物を同定するためのスクリーニング方法に関する。一実施形態では、該スクリーニング方法は、変異型Syngap1遺伝子を有する細胞または動物を試験対象の化合物と接触させるステップ、およびSyngap1活性および/またはレベルに対する化合物の活性を評価するステップを含む。
【0016】
ヒト被験体の精神遅滞を治療する、改善する、または軽減するための方法もまた、本発明の対象である。一実施形態において、該方法は、治療上有効量の正常Syngap1タンパク質、またはヒト被験体の病原性Syngap1突然変異を補償する治療上有効量の化合物を被験体に投与するステップを含む。別の実施形態に従えば、該方法は、望ましいレベルまでSyngap1活性を回復させる治療上有効量の化合物を、欠陥のあるSyngap1タンパク質活性を有するヒト被験体に投与するステップを含む。さらなる実施形態では、該方法は、Syngap1により調節されるシグナル伝達経路を阻害または活性化する治療上有効量の化合物を被験体に投与するステップを含む。好ましくは、本発明において治療用化合物は、血液脳関門(BBB)を通過することが可能である。治療上有効であり得る化合物としては、限定するものではないが、リボソームの活性を変化させる化合物、RASのインヒビターまたはエフェクター、およびRAPのインヒビターまたはエフェクターが挙げられる。
【0017】
本発明の関連する態様は、ヒト被験体における精神遅滞のための遺伝子治療の方法であり、機能的Syngap1タンパク質をコードする正常Syngap1 DNA配列に対応する配列を含む核酸分子の送達を含む。
【0018】
本発明の追加の態様、利点および特徴は、本明細書中にもたらされる詳細な説明から、また添付の図面から、より完全に理解されるである。それらは例示的なものであり、本発明の範囲を限定するものと理解されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1−1】SYNGAP1アイソフォーム1のmRNA配列(配列番号1)および対応するタンパク質配列(配列番号2)を示す図である。配列は、NCBI参照配列番号NM_006772.2(mRNA)およびNP_006763.2(タンパク質)に基づく。小文字は非翻訳領域を示す。タンパク質配列に対するUniprotデータベース中の登録番号は、Q96PV0(アイソフォーム1として)である。
【図1−2】図1−1の続き。
【図1−3】図1−1の続き。
【図1−4】図1−1の続き。
【図2−1】SYNGAP1アイソフォーム2のmRNA配列(配列番号3)および対応するタンパク質配列(配列番号4)を示す図である。配列は、NCBI参照配列番号NM_001130066(mRNA)およびNP_001123538.1(タンパク質)に基づく。小文字は非翻訳領域を示す。
【図2−2】図2−1の続き。
【図2−3】図2−1の続き。
【図2−4】図2−1の続き。
【図3−1】SYNGAP1アイソフォーム3のmRNA配列(配列番号5)および対応するタンパク質配列(配列番号6)を示す図である。配列は、NCBI参照配列番号NM_006772.2中に報告されているコード配列の最初の1149bpとNCBI Genbank登録番号AL713634中に報告されている全てのヌクレオチド配列に基づく。小文字は非翻訳領域を示す。タンパク質配列に対するUniprotデータベース中の登録番号は、Q96PV0(アイソフォーム2として)である。
【図3−2】図3−1の続き。
【図3−3】図3−1の続き。
【図3−4】図3−1の続き。
【図4−1】hg18アセンブリ由来のSYNGAP1ゲノム配列のゲノム配列に対応する配列番号7を示す図である。参照配列は、NCBI NM_006772である。アイソフォーム1についてのエキソン(大文字)およびイントロン(小文字)を示す。位置:第6染色体:33495825−33529444、バンド:6p21.32、ゲノムサイズ:33620、鎖:+。
【図4−2】図4−1の続き。
【図4−3】図4−1の続き。
【図4−4】図4−1の続き。
【図4−5】図4−1の続き。
【図4−6】図4−1の続き。
【図4−7】図4−1の続き。
【図4−8】図4−1の続き。
【図4−9】図4−1の続き。
【図5】非症候性精神遅滞を有する3名の患者で特定されたde novo突然変異から生じるポリペプチドのアミノ酸配列を示す図である。配列番号8は、患者1由来の突然変異型タンパク質(K138X)である。配列番号9は、患者2由来の突然変異型タンパク質(R579X)である。配列番号10は、患者3由来の突然変異型タンパク質(L813RfsX22)である。
【図6】3名の異なるNSMR患者でのde novo SYNGAP1突然変異の特定の途中経過で取得された結果をまとめた概略図である。(A)NSMR患者で特定されたde novo SYNGAP1突然変異の局在である。アミノ酸位置は、参照配列番号NP_006763(NM_006772から)に基づいている(アイオフォーム1:1343アミノ酸)。種々の予測される機能的ドメインを強調してある:PH、pleckstrin相同ドメイン(150−251位)、C2ドメイン(263−362位)、RASGAP(392−729位)、SH3(785−815位)、CCドメイン(1189−1262位)、T/SXV 1型PDZ結合性モチーフ(「QTRV」;アイソフォーム2)、およびCamKII結合性(「GAAPGPPRHG」;アイソフォーム3)。ここに示されている3種類のSYNGAP1アイソフォームの可変的カルボキシル末端は、以下のGenBank cDNA登録番号に対応する:アイソフォーム1についてAB067525;アイソフォーム2についてAK307888;アイソフォーム3についてAL713634。(B)SYNGAP1中にde novo突然変異を有する家系。各患者およびその両親についてのSYNGAP1配列に対応するクロマトグラムを示している。野生型(WT)および変異型(MT)SYNGAP1 DNA配列を、対応するアミノ酸に沿って示してある。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、Syngap1を精神遅滞を担う疾患遺伝子として特定する。いくつかの態様では、Syngap1は、非症候性精神遅滞(NSMR)の大部分に対する原因遺伝子である。Syngap1の失調(disruption)は、常染色体優性NSMR遺伝子の最初の例である。Syngap1中の突然変異は、てんかんを伴うかまたは伴わないNSMRの発症をもたらす。
【0021】
Syngap1配列中の突然変異がNSMRの原因であるという知識により、そのゲノム、cDNAおよびタンパク質配列を、疾患のスクリーニング、疾患の診断、疾患の治療のための療法の開発、疾患の薬物療法の開発、および疾患の動物モデルの開発のための種々の方法において用いることができる。Syngap1核酸配列中のNSMRの原因である突然変異の知識は、DNA診断および家系カウンセリングに対して特に有益である。これは、突然変異が劣性である保因者検出に対しても有用である。Syngap1が小児での精神遅滞の原因であると特定することは、親にアドバイスする上でカウンセラーを助け、罹患児に対する適切なケアを管理することを助ける。
【0022】
出生前診断は、胎児がSYNGAP1突然変異の存在に起因するMRを有して生まれるであろうか否かを評価するのに有用である。出生前診断は、子供が症状を有して生まれるか、または出生後にてんかんを伴うかもしくは伴わない精神遅滞からなる群より選択される症状を発症するであろうか否かを決定するのにも有用である。本発明は、限定するものではないが、疑わしいMR患者をはじめとするSyngap1遺伝子突然変異を有するかもしくは有しやすいいずれかのヒトまたは胎児のスクリーニングおよび診断を包含する。
【0023】
I.定義
本明細書中および添付の特許請求の範囲で用いる場合、単数形「a」「an」および「the」は、文脈が明らかにそうでないことを示していなければ、複数の対象を含む。したがって、例えば、「突然変異」(a mutation)に対する参照は1以上のそのような突然変異を含み、「方法」(the method)に対する参照は同等のステップおよび改変することができるかまたは本明細書中に記載される方法の代わりとなることができる当業者に公知の方法に対する参照を含む。
【0024】
「Syngap」または「Syngap1」または「SYNGAP1」は、本明細書中で用いる場合、小分子GTPaseであるRASおよびRAPの活性を阻害する遺伝子および対応するニューロン特異的GTPase活性化タンパク質(GAP)を指す。Syngap1タンパク質は、ヒトでは第6染色体上に見出されるSyngap1遺伝子によりコードされる。Syngap1の機能および役割のより詳細な概説を、下記で提供する。
【0025】
本明細書中で用いる場合、「核酸」または「核酸分子」は、直鎖状または環状の、一本鎖または二本鎖のいずれかのDNAまたはRNA分子、および、一本鎖の場合、その相補配列の分子を指す。この用語は、修飾および/または人工核酸分子を包含し、そのようなものとしては、限定するものではないが、ペプチド核酸(PNA)およびロックド核酸(LNA)が挙げられる。核酸分子を論じるに当たって、5’〜3’方向で配列を提供する通常の慣例に従って、特定の核酸分子の配列または構造を本明細書中で記載する場合がある。本発明の核酸を参照して、「単離された核酸」との用語を、ときどき用いる。この用語は、DNAに用いる場合、それが由来する生物の天然に存在するゲノム中ではすぐ連続している配列から分離されたDNA分子を指す。例えば、「単離された核酸」は、プラスミドもしくはウイルスベクターなどのベクターに挿入されたか、あるいは原核生物もしくは真核生物細胞または宿主生物のゲノムDNAに組み込まれたDNA分子を含む場合がある。
【0026】
RNAに用いる場合、「単離された核酸」との用語は、主として上記で定義した単離されたDNA分子によりコードされるRNA分子を指す。あるいは、この用語は、天然の状態(すなわち、細胞内または組織内)で伴われている他の核酸から十分に分離されたRNA分子を指す。「単離された核酸」(DNAまたはRNAのいずれか)はさらに、生物学的または合成的手段により直接的に生成され、その生成中に存在する他の成分から分離された分子を表すこともある。
【0027】
「ベクター」とは、プラスミド、コスミド、バクミド、ファージまたはウイルスなどのレプリコンであり、それに他の遺伝的配列またはエレメント(DNAまたはRNAのいずれか)が結合して、結合した配列またはエレメントの複製をもたらす場合がある。
【0028】
「類似性パーセント」「同一性パーセント」および「相同性パーセント」との用語は、特定の配列を参照する場合、ウィスコンシン大学GCGソフトウェアプログラムで説明されているように用いられる。
【0029】
「実質的に純粋」との用語は、所与の物質(例えば、核酸、オリゴヌクレオチド、タンパク質等)の少なくとも50〜60重量%を含む調製物を指す。より好ましくは、調製物は、所与の化合物の少なくとも75重量%、最も好ましくは90〜95重量%を含む。純度は、所与の化合物に適した方法により測定される(例えば、クロマトグラフィー法、アガロースまたはポリアクリルアミドゲル電気泳動、HPLC分析、等)。本発明は、実質的に純粋なSyngap1物質(例えば、核酸、オリゴヌクレオチド、タンパク質、断片、突然変異体、等)を包含する。
【0030】
本明細書中で用いる場合、「オリゴヌクレオチド」との用語は、本発明の配列、プライマーおよびプローブを指し、2以上の(好ましくは3より多い)リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドから構成される核酸分子と定義される。オリゴヌクレオチドの正確なサイズは、種々の因子ならびに特定の適用およびオリゴヌクレオチドの用途に依存するであろう。
【0031】
本明細書中で用いる場合、「プライマー」との用語は、RNAまたはDNAのいずれかの、一本鎖または二本鎖のいずれかの、生物系に由来するか、制限酵素消化により生成されたか、または合成的に製造されたかのいずれかの、適切な環境中に置かれた場合、鋳型依存的核酸合成のイニシエーターとして機能的に作用することができるオリゴヌクレオチドを指す。適切な核酸鋳型、核酸の好適なヌクレオシド三リン酸前駆体、ポリメラーゼ酵素、好適な補因子ならびに適切な温度およびpHなどの条件と共に提示される場合、プライマーは、ポリメラーゼの作用またはプライマー伸長産物をもたらす類似の活性によるヌクレオチドの付加により、その3’末端で伸長することができる。プライマーは、特定の条件および用途の要求に依存して、その長さが変化し得る。例えば、診断用途では、オリゴヌクレオチドプライマーは、典型的には15〜25ヌクレオチド長またはそれ以上である。プライマーは、所望の伸長産物の合成をプライムするために、すなわち、ポリメラーゼまたは類似の酵素による合成の開始での使用のために、適切な隣接部位にプライマーの3’ヒドロキシル部分をもたらすのに十分な様式で、所望の鋳型鎖にアニールすることができるために、所望の鋳型に対して十分な相補性を有していなければならない。プライマー配列が、所望の鋳型の正確な相補体である必要はない。例えば、非相補ヌクレオチド配列が、それ以外は相補的なプライマーの5’末端に連結されていてよい。あるいは、非相補塩基が、オリゴヌクレオチドプライマー配列内に散在していてもよいが、この場合、伸長産物の合成のための鋳型−プライマー複合体を機能的にもたらすために、プライマー配列が所望の鋳型鎖の配列との十分な相補性を有している。
【0032】
本明細書中で用いる場合、「プローブ」との用語は、精製された制限酵素消化物中などに天然に存在するか、または合成的に生成された、RNAまたはDNAのいずれかの、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチドまたは核酸を指し、これはプローブに相補的な配列を有する核酸にアニールするか、または特異的にハイブリダイズすることが可能である。プローブは、一本鎖または二本鎖のいずれかであり得る。プローブの正確な長さは、温度、プローブの供給源および方法の用途をはじめとする多くの因子に依存するであろう。例えば、診断用途のためには、標的配列の複雑さに依存して、オリゴヌクレオチドプローブは、典型的には、15〜25ヌクレオチド以上を含むが、より少ないヌクレオチドを含んでもよい。本明細書中のプローブは、特定の標的核酸配列の異なる鎖に対して相補的となるように選択される。このことは、プローブが、既定の条件の組み合わせのもとで、それぞれの標的鎖に「特異的にハイブリダイズする」か、またはアニールすることができるように、十分に相補的でなければならないことを意味する。したがって、プローブ配列は、標的の正確な相補配列を反映している必要はない。例えば、プローブ配列の残りが標的鎖に対して相補的であれば、非相補ヌクレオチド断片がプローブの5’または3’末端に連結されていてもよい。あるいは、プローブ配列が、それと特異的にアニールするための標的核酸の配列との十分な相補性を有していれば、非相補塩基またはより長い配列が、プローブ内に散在していることができる。
【0033】
一本鎖核酸、特にオリゴヌクレオチドに関して、「特異的にハイブリダイズする」(specifically hybridizingまたはhybridizing specifically)との用語は、当技術分野で一般的に用いられる既定の条件下でのそのようなハイブリダイゼーションを可能にするのに十分に相補的な配列の2つの一本鎖ヌクレオチド分子間の結合を指す(ときには、「実質的に相補的である」と呼ばれる)。特に、この用語は、本発明の一本鎖DNA分子内に含有される実質的に相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションを指し、非相補配列の一本鎖核酸を有するオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションの実質的な排除を指す。様々な相補性の一本鎖核酸分子の特異的ハイブリダイゼーションを可能にする適切な条件は、当技術分野で周知である。例えば、特定の配列相同性の核酸分子間のハイブリダイゼーションを達成するために必要とされるストリンジェンシー条件を算出するための1つの一般的な式を、以下に示す(Sambrook et al., 1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press):
=81.5℃+16.6Log[Na+]+0.41(%G+C)−0.63(%ホルムアミド)−600/二本鎖中の塩基数。
【0034】
上記の式の例として、[Na+]=[0.368]および50%ホルムアミドを用いて、GC含量42%および平均プローブサイズ200塩基で、Tは57℃である。DNA二本鎖のTは、相同性の1%の減少ごとに1〜1.5減少する。したがって、約75%より大きな配列同一性を有する標的が、42℃のハイブリダイゼーション温度を用いて観察されるであろう。
【0035】
ハイブリダイゼーションおよび洗浄のストリンジェンシーは、主に溶液の塩濃度および温度に依存する。一般的に、標的とのプローブのアニーリング率を最大化するために、通常はハイブリダイゼーションをハイブリッドの計算上のTより20〜25℃低い塩および温度条件で行なう。洗浄条件は、標的に対するプローブの同一性の程度に対して可能な限りストリンジェントであるべきである。一般的に、洗浄条件は、ハイブリッドのTより約12〜20℃低いように選択される。本発明の核酸に関して、中程度のストリンジェンシーのハイブリダイゼーションは、6×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDSおよび100μg/ml変性サケ精子DNA中、42℃でのハイブリダイゼーション、ならびに2×SSCおよび0.5%SDS中で、55℃での15分間の洗浄、として定義される。高ストリンジェンシーハイブリダイゼーションは、6×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDSおよび100μg/ml変性サケ精子DNA中、42℃でのハイブリダイゼーション、ならびに1×SSCおよび0.5%SDS中で、65℃での15分間の洗浄として定義される。非常に高ストリンジェンシーなハイブリダイゼーションは、6×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDSおよび100μg/ml変性サケ精子DNA中、42℃でのハイブリダイゼーション、ならびに0.1×SSCおよび0.5%SDS中で、65℃での15分間の洗浄として定義される。
【0036】
「単離されたタンパク質」または「単離および精製されたタンパク質」との用語が、本明細書中で用いられることもある。この用語は、主に本発明の単離された核酸分子の発現によって生成されるタンパク質を指す。あるいは、この用語は、それが天然に結合している他のタンパク質から十分に分離され、それにより「実質的に純粋な」形態で存在するタンパク質を指す場合がある。「単離された」とは、他の化合物もしくは物質との人工的もしくは合成的混合物、または必須の活性に干渉せず、例えば不十分な精製により存在し得る不純物の存在、または安定化剤の添加、を排除することを意味するものではない。
【0037】
「遺伝子」との用語は、エキソン配列および(任意により)イントロン配列の両方を含む、ポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームを含む核酸を指す。核酸は、任意によりプロモーター配列またはエンハンサー配列などの非コード配列を含んでもよい。「イントロン」との用語は、所与の遺伝子中に存在する、タンパク質に翻訳されず、一般的にはエキソン間に見出されるDNA配列を指す。
【0038】
本明細書中で用いる場合、「固体支持体」との用語は、抗体、抗原、および他の成分などの試薬が結合することができる、いずれかの固体または固定材料を指す。固体支持体の例としては、限定するものではないが、マイクロタイタープレート(またはディッシュ)、顕微鏡(例えば、ガラス)スライド、カバーガラス、ビーズ、細胞培養フラスコ、チップ(例えば、シリカベースのチップ、ガラスチップ、または金チップ)、メンブレン、粒子(典型的には固体;例えば、アガロース、セファロース、ポリスチレンまたは磁気ビーズ)、カラム(またはカラム材料)、および試験管が挙げられる。典型的には、固体支持体は水不溶性である。
【0039】
本明細書中で用いる場合、「使用説明書」または「ユーザーマニュアル」は、本発明の方法を実施するために、本発明の化合物または組成物の有用性を理解するのに用いることができる刊行物、記録、略図、またはいずれかの他の表現媒体を含む。
【0040】
本明細書中で用いる場合、「精神遅滞」との用語は、適応機能の著しい制限を伴う、著明に平均以下の全般的な知的機能と広く定義される。精神遅滞は、軽症精神遅滞(IQ約50〜70)または重症精神遅滞(IQ50未満)として分類することができる。
【0041】
本明細書中で用いる場合、「生物学的サンプル」との用語は、生物の組織、その細胞または成分(例えば、血液、粘液、リンパ液、滑液、脳脊髄液、唾液、羊水、臍帯血、尿、膣液および精液をはじめとするが、それらに限定されない体液)のサブセットを指す。
【0042】
「病原性Syngap1機能不全」との用語は、ヒト被験体での精神遅滞の原因となるSyngap1の生物学的活性のいずれかの変化である。この用語は、Syngap1の生物学的活性の状態、質、および/またはレベルに影響を与えるいずれかの機能不全または欠陥を包含する。特定の実施形態では、この用語は、さらに具体的に、病原性のSyngap1突然変異、すなわち、Syngap1遺伝子産物の機能または発現を変化させる突然変異を指す。
【0043】
「突然変異」は、mRNAおよびコードタンパク質などの遺伝子産物の機能または発現を変化させる遺伝子中のいずれかの変化である。この用語は、変化突然変異(altering mutation)、点突然変異、切断突然変異、欠失突然変異、フレームシフト突然変異、またはヌル突然変異、ナンセンス突然変異、ミスセンス突然変異、およびエキソンスプライシング(コンセンサススプライシング部位)に影響する突然変異を含むが、これらに限定されない。
【0044】
疾患を引き起こす病原性突然変異の大多数は、遺伝子のコード領域およびスプライシング連結部中のものであるので、本発明の好ましい実施形態は、これらの領域に焦点を絞る。それでもなお、本発明は、これもまたSYNGAP1の産生および機能を乱し得る調節エレメント(例えば、プロモーター、非翻訳領域、他のイントロン性スプライシング部位)をはじめとするがこれに限定されない他の領域を調べることによる、病原性Syngap1機能不全の存在または非存在の検出の可能性を排除するものではない。
【0045】
II.核酸分子
Syngap1は、ヒトで、第6染色体、バンド6p21.32上に見出される遺伝子である。ヒトSyngap1のゲノム配列を、図4に示す(配列番号7と表される)。
【0046】
これまでに、この遺伝子の少なくとも3種類のアイソフォーム(すなわち、アイソフォーム1、2および3)がヒトで検出されている。アイソフォーム1のcDNA配列を図1に示し、配列番号1と表し、NCBI参照配列番号NM_006772.2のもとに参照される。広範囲のC末端スプライシングを示すラットSyngap1から入手可能なmRNA配列情報(Li et al. 2003 JBC, 276: 21417-21424)および他の不完全なmRNAヒトSYNGAP1配列に基づいて、異なるC末端コード配列を有する少なくとも2種類の追加のコードSYNGAP1 mRNAも、ヒトで予測することができる。アイソフォーム2および3は、それぞれ図2および3に示され、配列番号3および配列番号5と表される。SYNGAP1アイソフォーム2 mRNAおよび対応するタンパク質配列は、C末端ヒトmRNA配列(登録番号AK307888)に基づいて予測され、NCBI参照配列番号NM_001130066のもとに参照される。SYNGAP1アイソフォーム3 mRNAおよび対応するタンパク質配列は、不完全なC末端ヒトmRNA配列(登録番号AL713634)に基づく。
【0047】
Syngap1は、NCBI hg18アセンブリ:第6染色体:33495825−33529444に基づく以下のゲノム位置を有する染色体6p21.32上の33.620kb領域中に存在する19エキソンからなる。下記の表1に、3種類の公知の/予測されるアイソフォームのそれぞれについてのゲノム配列中のエキソンおよびイントロンの位置を列挙する。Syngap1タンパク質のアイソフォーム1、アイソフォーム2およびアイソフォーム3のアミノ酸配列を、それぞれ図1、2および3に示し、配列番号2、配列番号4および配列番号6により表す。図6は、3名の若いNSMR患者で特定されたde novo突然変異のcDNA位置およびアミノ酸位置(アイソフォーム1に基づいて番号付されている)を示す。図5は、3名のNSMR患者で見出された切断型Syngap1タンパク質の予測されるアミノ酸配列(配列番号8、配列番号8および配列番号10により表す)を示す。
【表1】

【0048】
Syngap1をコードするヌクレオチド配列の例としては、配列番号1、配列番号3および配列番号5(mRNA);ならびに配列番号7(遺伝子)が挙げられる。Syngap1ヌクレオチド配列は、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7のいずれかと、75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%またはそれ以上の相同性を有し得る。本発明においては、Syngap1をコードする核酸分子との配列相同性の適切なレベルを有する核酸を、配列決定および/または適切なストリンジェンシーのハイブリダイゼーションおよび洗浄条件を用いることにより特定することができる。
【0049】
本発明のSyngap1コード核酸分子としては、一本鎖または二本鎖であり得る、cDNA、ゲノムDNA、RNA、およびその断片が挙げられる。したがって、本発明は、本発明の核酸分子のうち少なくとも1つの配列とハイブリダイズすることが可能な配列を有するオリゴヌクレオチドを提供する。一部の実施形態では、本発明の核酸分子はプローブである。一部の実施形態では、本発明の核酸分子はプライマーである(例えば、SYNGAP1の19エキソンを標的とするPCRプライマーを列挙する表2を参照されたい)。
【0050】
本発明の核酸分子と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプローブも、本発明の範囲内で考慮される。好ましい実施形態では、プローブは、突然変異型Syngap1核酸分子(例えば、突然変異型Syngap1タンパク質をコードする配列を有する核酸)と特異的にハイブリダイズするが、高ストリンジェンシー条件または非常に高いストリンジェンシー条件では、野生型または「正常」配列とハイブリダイズしない。本発明は、突然変異型Syngap1タンパク質をコードする配列を有する核酸分子の相補鎖に特異的にハイブリダイズする核酸プローブも包含する。本明細書中に記載されるSyngap1コード核酸を特異的に増幅することが可能なプライマーも、本明細書中で考慮される。上記のように、そのようなオリゴヌクレオチドは、変化したSyngap1遺伝子を検出し、単離し、または増幅するためのプローブおよびプライマーとして有用である。
【0051】
一部の実施形態では、本発明の核酸分子は、(i)配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7のいずれかに相補的な配列を有する。一部の実施形態では、本発明の核酸分子は、(ii)配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7のいずれかの少なくとも10、15、25、50、100、250またはそれ以上の連続するヌクレオチドに、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を有する。さらに、他の実施形態では、本発明の核酸分子は、(iii)配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7または上記で特定した核酸分子(i)および(ii)のいずれかの少なくとも10、15、25、50、100、250またはそれ以上の連続するヌクレオチドを含む断片である。一部の実施形態では、核酸分子は、Syngap1機能不全、好ましくはNSMRに関連する病原性Syngap1突然変異を含む断片である。一部の実施形態では、核酸分子は、Syngap1遺伝子の5’調節領域を標的とする。本発明はまた、(i)、(ii)または(iii)のいずれかの相補鎖に特異的にハイブリダイズする核酸分子も包含する。
【0052】
本発明のSyngap1タンパク質をコードする核酸分子は、3種類の一般的な方法により調製することができる:(1)適切なヌクレオチド三リン酸からの合成、(2)生物学的供給源からの単離、および(3)Syngap1タンパク質をコードする核酸分子の突然変異。これらの方法は、当技術分野で周知のプロトコールを利用する。本明細書中に提供される配列などのヌクレオチド配列情報の利用可能性は、オリゴヌクレオチド合成による本発明の単離された核酸分子の調製を可能にする。合成的オリゴヌクレオチドは、DNA合成機または類似の装置からのものであり得る。得られた構築物は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などの当技術分野で公知の方法に従い精製することができる。長い二本鎖ポリヌクレオチドは、オリゴヌクレオチド合成法に固有のいずれかのサイズ制限により、段階的に合成することができる。
【0053】
本発明のSyngap1タンパク質をコードする核酸配列は、当技術分野で公知の方法を用いて、適切な生物学的供給源から単離することができる。一実施形態では、cDNAクローンを、ヒト由来のcDNA発現ライブラリーから単離する。別の実施形態では、cDNA配列によりもたらされる配列情報を用いて、変化したSyngap1タンパク質をコードするヒトゲノムクローンを単離することができる。さらに、ヒトおよび他の公知の哺乳動物Syngap1(例えば、マウス、ラット、等)との相同性を有するcDNAまたはゲノムクローンを、ヒトおよびマウスSyngap1コード核酸内の既定の配列に対応するオリゴヌクレオチドプローブを用いて、他の生物種から単離することができる。
【0054】
本発明の核酸は、いずれかの使い勝手のよいベクター中でDNAとして維持することができる。したがって、本発明は、本発明の核酸分子を含むベクターを包含する。本発明はまた、そのようなベクターで形質転換された宿主細胞および本発明のそのような核酸分子を含むトランスジェニック動物も包含する。これらの細胞および動物は、Syngap1遺伝子の機能のメカニズムを研究するために、疾患のモデルとして扱うことができ、また、治療薬のスクリーニングも可能にする。
【0055】
好ましい実施形態では、ベクター、宿主細胞またはトランスジェニック動物は、突然変異型Syngap1タンパク質(例えば、病原性突然変異)をコードする核酸分子を含む。宿主細胞およびトランスジェニック動物を作製する方法は公知である。宿主細胞としては、限定するものではないが、胚性幹細胞および神経細胞株が挙げられる。トランスジェニック動物は、家畜(ブタ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ウサギ、など)、げっ歯類(ラット、モルモット、マウス、など)、非ヒト霊長類(ヒヒ、サル、チンパンジー、など)、およびペット(イヌ、ネコ、など)から選択することができる。本発明においてトランスジェニック動物は、その動物または出生前(胎性)ステージでの動物の先祖に導入されたトランスジーンを保持する細胞を有する動物である。それらの細胞およびトランスジェニック動物は、Syngap1精神遅滞の病態生理学を研究するのに、また種々の核酸ベース、抗体ベース、タンパク質ベースおよび製薬ベースのMR(より詳細にはNSMR)治療のスクリーニングのために用いるのに有用であり得る。
【0056】
Syngap1配列の変異体(例えば、対立遺伝子変異体)がヒト集団中に存在し、本発明のオリゴヌクレオチドを設計および/または利用する際に考慮しなければならないことは、当業者には理解されるであろう。したがって、本明細書中に開示されるSyngap1配列に関して、そのような変異体またはそれぞれの遺伝子もしくはRNA転写産物上の特異的な位置を標的とするオリゴヌクレオチドを包含することは、本発明の範囲内である。したがって、「天然の対立遺伝子変異体」との用語は、本発明の種々の特異的ヌクレオチド配列およびヒト集団で発生するであろうその変異体を指すために本明細書中で用いられる。コードタンパク質中に保存的または中立的アミノ酸置換をもたらす異なる揺らぎコドン(wobble codon)の使用および遺伝的多型が、そのような変異体の例である。そのような変異体は、変化したSyngap1活性またはタンパク質レベルを示さないであろう。さらに、「実質的に相補的」との用語は、標的配列に完全にはマッチしない可能性があるオリゴヌクレオチドを指すが、そのようなミスマッチは、上記の条件下でその標的配列とハイブリダイズするオリゴヌクレオチドの能力に実質的には影響しない。
【0057】
III.タンパク質
本発明は、本明細書中に記載した核酸分子のタンパク質、ポリペプチド、断片および突然変異体を包含する。Syngap1タンパク質の例としては、配列番号2、配列番号4および配列番号6(正常)を含むもの;ならびに配列番号8、配列番号9および配列番号10(突然変異型)を含むものが挙げられる。
【0058】
Syngap1ポリペプチド配列は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号9および配列番号10のいずれかと75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%の相同性またはそれ以上を有し得る。本発明に係るSyngap1ポリペプチド配列は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号9、配列番号10のいずれかの少なくとも10、15、25、50、100、250またはそれ以上の連続するアミノ酸を含んでもよい。
【0059】
一部の実施形態では、Syngap1ポリペプチドは、単離された突然変異型Syngap1タンパク質である。一部の実施形態では、Syngap1ポリペプチドは、Syngap1機能不全、好ましくはNSMRに関連する病原性Syngap突然変異を含む。
【0060】
本発明のSyngap1タンパク質またはポリペプチドは、公知の方法に従って、様々な方法で調製することができる。タンパク質は、適切な供給源、例えば、形質転換細菌または動物培養細胞もしくは組織から、免疫アフィニティー精製により精製することができる。Syngap1タンパク質をコードする核酸分子の利用可能性は、当技術分野で公知のin vitro発現法および無細胞発現系を用いたタンパク質の製造を可能にする。in vitro転写・翻訳系は、例えば、Promega Biotech(Madison,Wis.)またはGibco−BRL(Gaithersburg,Md.)から市販されている。
【0061】
あるいは、より大量のSyngap1タンパク質またはポリペプチドを、好適な原核生物または真核生物系での発現により製造することができる。例えば、Syngap1をコードするDNA分子の一部分または全部を、大腸菌などの細菌細胞での発現のためにつくられたプラスミドベクターに挿入することができる。そのようなベクターは、宿主細胞でのDNAの発現を可能にするように配置された、宿主細胞中のDNAの発現に必要な調節エレメントを含む。発現に必要なそのような調節エレメントとしては、プロモーター配列、転写開始配列、および任意によりエンハンサー配列が挙げられる。
【0062】
組換え原核生物または真核生物系での遺伝子発現により製造されたSyngap1タンパク質またはポリペプチドは、当技術分野で公知の方法に従い精製することができる。市販の発現/分泌系を用いることができ、それにより、組換えタンパク質が発現され、続いて宿主細胞から分泌され、周囲の培地から容易に精製することができる。発現/分泌ベクターを用いない場合、代替のアプローチは、組換えタンパク質に特異的に結合する抗体との免疫学的相互作用またはN末端もしくはC末端で6〜8個のヒスチジン残基をタグ付加された組換えタンパク質の単離用のニッケルカラムによってなどのアフィニティー分離により、組換えタンパク質を精製するステップを含む。代替のタグは、FLAGエピトープまたはヘマグルチニンエピトープを含む。そのような方法は、当業者により一般に用いられている。
【0063】
上記の方法により調製した本発明のSyngap1タンパク質またはポリペプチドは、標準的な手順に従い分析することができる。例えば、そのようなタンパク質を、公知の方法に従うアミノ酸配列分析に供することができる。
【0064】
本発明はまた、本発明のタンパク質およびポリペプチドに免疫特異的に結合することが可能な抗体も提供する。そのような抗体としては、限定するものではないが、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)、ヒト化またはキメラ抗体、単鎖抗体、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fab発現ライブラリーにより製造されたフラグメント、抗イディオタイプ(抗Id)抗体、および上記のいずれかのエピトープ結合性フラグメントが挙げられる。そのような抗体は、疾患治療法の一部分として、例えば検出で用いることができ、かつ/または診断技術の一部分として用いることができる。
【0065】
Syngap1タンパク質、突然変異体およびその断片を標的とするポリクローナル抗体は、標準的な方法に従って調製することができる。好ましい実施形態では、Syngap1タンパク質の種々のエピトープと免疫特異的に反応するモノクローナル抗体を調製する。好ましい実施形態では、抗体は、突然変異型Syngap1タンパク質およびポリペプチドに免疫学的に特異的である。モノクローナル抗体は、当技術分野で一般的な方法に従って調製することができる。野生型および/もしくは突然変異型Syngap1タンパク質と免疫特異的に相互作用するポリクローナルまたはモノクローナル抗体は、そのようなタンパク質を特定し、かつ精製するために用いることができる。例えば、抗体を、それらが免疫特異的に相互作用するタンパク質のアフィニティー分離のために用いることができる。抗体はまた、タンパク質および他の生物学的分子の混合物を含有するサンプルからタンパク質を免疫沈降するのにも用いることができる。
【0066】
好ましい実施形態では、本発明における抗体は、突然変異型Syngap1タンパク質またはその断片(例えば、切断型Syngap1タンパク質)に特異的に結合する。より好ましくは、本発明における抗体は、配列番号2、配列番号4または配列番号6からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む切断型Syngap1タンパク質に特異的に結合するが、配列番号8、配列番号9および配列番号10に示されるアミノ酸配列を含む非切断型Syngap1タンパク質には結合しない。
【0067】
IV.検出方法
本発明の一部の態様は、Syngap1突然変異を検出する方法、ヒト被験体において精神遅滞を検出する方法、ヒト被験体において非症候性精神遅滞(NSMR)を検出する方法に関する。本発明の方法は、de novo突然変異(すなわち、罹患個体の両親には見出されない突然変異)を検出するのに特に有用である。そのような突然変異を検出するために標的とし得る領域としては、Syngap1遺伝子の5’調節領域、Syngap1遺伝子のイントロン、Syngap1遺伝子のエキソン、またはSyngap1遺伝子のmRNAが挙げられる。
【0068】
遺伝子中の突然変異を検出するためには多数の方法がある(一般的には、Ausubel et al. (1998) Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New Yorkを参照されたい)。Syngap1コード核酸中の変化を検出するためのアプローチの例としては、限定するものではないが、以下が挙げられる:
(a)Syngap1タンパク質をコードするDNAの領域を配列決定すること;
(b)ヒト被験体由来のサンプル中の核酸分子の配列を、配列異常または機能不全(例えば、変化突然変異、点突然変異、切断突然変異、欠失突然変異、フレームシフト突然変異、ヌル突然変異、スプライシング突然変異、等)の検出のために分析すること;
(c)ヒト被験体由来のサンプル中の核酸分子の配列を、野生型Syngap1核酸配列と比較して、被験体由来のサンプルが病原性突然変異(例えば、変化突然変異、点突然変異、切断突然変異、欠失突然変異、フレームシフト突然変異、およびヌル突然変異、ナンセンス突然変異、ミスセンス突然変異、エキソンスプライシング(コンセンサススプライシング部位)に影響する突然変異、等)を含有するか否かを決定すること;
(d)ヒト被験体由来のサンプル中でSyngap1遺伝子によりコードされるポリペプチドの存在を決定し、ポリペプチドが存在する場合には、それが突然変異しているか否か、活性か否か(例えば、活性のレベル)および/または正常レベルで発現されているか否かを決定すること;
(e)DNA制限マッピングを用いて、制限酵素が被験体由来の核酸のサンプルを切断するときに生成される制限パターンを、正常Syngap1遺伝子から、またはその既知の突然変異から取得される制限パターンと比較すること;
(f)Syngap1核酸配列(正常配列または既知の突然変異配列のいずれか)に結合することが可能な特異的結合メンバーを用いることであって、Syngap1配列とハイブリダイズする核酸分子、またはSyngap1核酸配列(正常配列または既知の突然変異配列のいずれか)もしくはそれによりコードされるポリペプチドに対する特異性を有する抗体ドメインを含む物質のいずれかを含み、特異的結合メンバーのその結合パートナーへの結合が検出可能なように標識された上記特異的結合メンバーを用いること;
(g)アレイゲノムハイブリダイゼーション、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(QPCR)または染色体調製物に対する蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)、またはマルチプレックスライゲーション依存性プローブ増幅(MLPA)などの技術を用いてSyngap1遺伝子のコピー数を評価すること;および
(h)正常または突然変異型Syngap1遺伝子配列に基づく1以上のプライマーを含むPCRを用いて、ヒト被験体由来のサンプル中の正常または突然変異型Syngap1遺伝子をスクリーニングすること。
【0069】
1つの特定の実施形態では、DNA(例えば、ゲノムDNA)を有する生物学的サンプルを被験体から取得し、Syngap1タンパク質をコードするDNAの1以上の領域を配列決定し、配列決定した領域を罹患していない個体由来の対応する配列と比較する。病原性であることが知られている1以上のSyngap1突然変異の特定がMR、より詳細にはNSMRと相関する。一部の実施形態では、1以上のSyngap1突然変異の存在を両親でも試験し、両親もそれを有しているか否かを決定する。罹患していない親(精神遅滞または認知機能障害を有さない「健康な」)での突然変異の存在は、観察された突然変異が疾患の原因であるとは考えにくいことを示唆する。しかしながら、突然変異がde novo(両親のいずれかから伝わったのではない)であり、かつタンパク質機能(例えば、ミスセンス、ナンセンス、フレームシフト、挿入および欠失)またはmRNAプロセシングおよび安定性(スプライシングおよび調節エレメント突然変異)に影響することが予測される場合、この突然変異は精神遅滞と相関している。しかしながら、本発明は、de novo突然変異のみに限定されるものではなく、なぜなら、SYNGAP1中の病原性突然変異は、遺伝性である場合もあるからである。これらの突然変異は、軽症型の精神遅滞を有する両親の一方から遺伝し得る。
【0070】
直接的DNA配列決定は、SYNGAP1が単独で、またはわずかな他の遺伝子と共に標的とされるサンガー配列決定法を用いて行なうことができる。あるいは、大きなDNA領域または全ゲノムの配列決定さえも可能にする、Roche 454TM、Illumina GAIITM、Helicose tSMSTM、およびABI SOLIDTMなどの「次世代シーケンサー」を含む超並列配列決定技術を用いることが想定される。病原性Syngap1機能不全の存在または非存在は、高密度アレイのいずれかの形態を用いる遺伝子型決定アプローチによっても可能である場合がある。
【0071】
病原性Syngap1機能不全の存在または非存在の決定は、例えば、相補的DNA(cDNA)をSYNGAP1突然変異について配列決定することにより、mRNAレベルでも可能である。このアプローチは、SYNGAP1 mRNAを発現している組織に適用することができる。このシナリオでは、mRNAを単離し、相補的DNA(cDNA)に逆転写し、続いてSYNGAP1アイソフォームの完全コード配列を標的とするオリゴヌクレオチドを用いるPCR(RT−PCR)に供する。次に、得られたSYNGAP1 cDNAを、DNA配列決定技術を用いて配列決定する。
【0072】
Syngap1のレベルおよび/または活性の測定は、そのようなSyngap1レベルもしくは活性を直接的に測定することによって、または既知の代理マーカー(例えば、RAS、RAP)を測定することにより、行なうことができる。Syngap1活性を測定するための方法は、以前に記載されているように、そのRASGAPおよび/またはRAPGAP活性の定量に依存する(Chen et al., 1998 Neuron 20:895-904; Kim et al., 1998 Neuron 20: 683-691; Krapivinsky et al. 2004 Neuron 43:563-574)。さらに、SYNGAP1を発現している可能性がある組織サンプルからのタンパク質発現レベルを定量化するために、代替の技術が、例えば、SYNGAP1に対する抗体(市販されている)を用いてタンパク質レベルで想定される。SYNGAP1は主に脳ニューロンで発現されているが、iPS(人工多能性幹細胞)などの発展中の技術を、患者から(例えば、皮膚から)容易に取得した非神経細胞に適用して、神経細胞への形質転換分化を誘導し、これが続いてSYNGAP1を発現することができる。そのような細胞を入手することは、SYNGAP1タンパク質レベルの直接的検出および定量化(例えば、ウエスタンブロットまたはELISAによる)に対する1つの可能性であろう。同様に、これらのニューロンからのSYNGAP1 mRNAを、qPCR技術を用いて定量化することができる。
【0073】
検出方法のより具体的な例は、例示セクションおよび本明細書中で以下に提供されている。変異型Syngap1コード核酸分子を検出するための特定の実施形態では、サンプル中のSyngap1核酸を、例えばPCRを用いて、最初に増幅し、サンプル中に存在する他の配列と比較して、Syngap1核酸分子の量を増加させる。これにより、サンプル中に存在する場合、標的Syngap1配列を高感度で検出することが可能になる。この最初のステップは、高感度アレイ技術を用いることにより回避することができる。
【0074】
精神遅滞を有する個体由来の核酸と罹患していない個体(実際には患者の両親)との比較により、Syngap1遺伝子中のこれまで特徴付けられていない変異を特定し、特定のヌクレオチドに局在決定することができる。種々のスクリーニング方法がこの比較に好適であり、そのようなものとしては、限定するものではないが、以下が挙げられる:直接的DNA配列決定、一本鎖コンホメーション多型解析(SSCP)、コンホメーションシフトゲル電気泳動(CSGE)、ヘテロ二量体解析(HA)、ミスマッチ配列の化学的切断(CCMS)、変性勾配ゲル電気泳動(DGGE)、温度勾配ゲル電気泳動(TGGE)、変性高速液体クロマトグラフィー(dHPLC)、リボヌクレアーゼ切断、カルボジイミド修飾、およびマイクロアレイ解析。例えば、Cotton (1993) Mutation Res. 285:125-144を参照されたい。比較は、cDNAレベルまたはゲノムレベルのいずれかで開始することができる。最初の比較は、より短いサイズによって、多くの場合、cDNAレベルでより容易である。続いて、cDNAでの変化の部位を含むゲノムエキソン由来のセグメントを増幅し、配列決定することにより、対応するゲノム変化を特定する。一部の場合、ゲノム変化とcDNA変化の間にはシンプルな関連性がある。つまり、ゲノムDNAのコード領域中の1塩基の変化が、cDNA中の対応する変化したコドンを生じさせる。他の例では、ゲノム変化とcDNA変化との間の関連性は、より複雑である。したがって、例えば、異常なスプライシング部位をつくり出すゲノムDNA中の単一塩基変化は、cDNAの相当なセグメントの欠失を生じさせ得る。
【0075】
先行する方法は、精神遅滞を担う特定の遺伝的変化を特定するために機能することができる。変化が特定されれば、種々の方法によりその変化について個体を試験することができる。これらの方法としては、直接的配列決定、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション、対立遺伝子特異的増幅、ライゲーション、プライマー伸長および伸長部位の人工的導入が挙げられる(Cotton, 上掲を参照されたい)。当然のことに、特徴付けされていない変異を解析するための上記の方法は、特徴付けされている変異を検出するためにも用いることができる。いくつかの方法を、以下でより詳細に説明する。
【0076】
突然変異解析/コンホメーション感受性ゲル電気泳動(CSGE)
コンホメーション感受性ゲル電気泳動(CSGE)は、標準的なプロトコールを用いて行なうことができる(Ganguly, A. et al. (1993) PNAS 90:10325-10329)。全ての変化した移動パターン(シフト)に対応するPCR産物を、精製し、配列決定することができる。
【0077】
DNAの単離および増幅
患者のゲノムDNAのサンプルは、いずれかの好適な細胞、体液、および組織サンプルから単離することができる。細胞は、新鮮臓器もしくは保存臓器から、または組織サンプルもしくは生検からなどの固形組織から取得することができる。サンプルは、保存料、抗凝固剤、バッファー、固定剤、栄養分、抗生剤などの、生物学的材料と天然には混じっていない化合物を含有することができる。
【0078】
これらの種々の供給源からのゲノムDNAの単離のための方法は、例えば、Kirby, DNA Fingerprinting, An Introduction, W. H. Freeman & Co. New York (1992)に記載されている。ゲノムDNAは、上述の組織サンプルのいずれかに由来する、培養された初代細胞培養物もしくは二次細胞培養物または形質転換された細胞株からも単離することができる。
【0079】
ヒト被験体のRNAのサンプルを用いることもできる。RNAは、Sambrook et al.,上掲に記載されているように、Syngap1遺伝子を発現している組織から単離することができる。RNAは、トータル細胞RNA、mRNA、ポリA+RNA、またはそれらのいずれかの組み合わせであり得る。RNAは、逆転写してDNAを形成し、続いてそれを増幅鋳型として用いて、PCRが間接的にRNA転写産物の特定の集団を増幅するようにすることができる。例えば、Sambrook, 上掲、Kawasaki et al., PCR Technology, (1992)上掲中の第8章、およびBerg et al. (1990) Hum. Genet. 85:655-658を参照されたい。
【0080】
PCR増幅
増幅のための最も一般的な手段は、米国特許第4,683,195号、同第4,683,202号、および同第4,965,188号に記載されているように、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)である。PCRによりサンプル中の標的核酸配列を増幅するために、配列が増幅系の成分に対してアクセス可能でなければならない。粗製または精密抽出(crude or fine extraction)により標的DNAを単離する方法は、当技術分野で公知である。例えば、Higuchi, "Simple and Rapid Preparation of Samples for PCR", PCR Technology, Ehrlich, H. A. (編), Stockton Press, New York、およびMiller et al. (1988) Nucleic Acids Res. 16:1215を参照されたい。注目すべきことに、PCR用のDNA抽出のためのキットも、容易に入手可能である。
【0081】
対立遺伝子特異的PCR
対立遺伝子特異的PCRは、突然変異の存在または非存在において異なる標的領域同士を区別する。標的配列(例えば、突然変異を含むSyngap1遺伝子)の特定の対立遺伝子にのみ結合するPCR増幅プライマーを選択する。したがって、例えば、プライマー結合配列を含むそれらのサンプルからは増幅産物が生成され、プライマー結合配列を有しないサンプル中では増幅産物が生成されない。この方法は、Gibbs (1989) Nucleic Acid Res. 17:12427-2448に記載されている。対立遺伝子特異的。
【0082】
オリゴヌクレオチドスクリーニング法
さらなる診断的スクリーニング法は、Saiki et al. (1986) Nature 324:163-166に記載されているように、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(ASO)スクリーニング法を利用する。1以上の塩基対ミスマッチを有するオリゴヌクレオチドを、いずれかの特定のSyngap1に対して作製する。ASOスクリーニング法は、変異型標的ゲノムまたはPCR増幅DNAと、非変異型オリゴヌクレオチド(変異型オリゴヌクレオチドと比較して、オリゴヌクレオチドの低下した結合性を示す)との間のミスマッチを検出する。オリゴヌクレオチドプローブは、低ストリンジェンシーではSyngap1の野生型と変異型の両方に結合するであろうが、より高いストリンジェンシーではそれらが対応する型に結合するであろうように、設計することができる。あるいは、実質的に二値の応答が得られる、すなわち、Syngap1の突然変異型に対応するASOがその対立遺伝子にはハイブリダイズするが、野生型Syngap1にはハイブリダイズしないであろうストリンジェンシー条件を工夫することができる。
【0083】
リガーゼ媒介対立遺伝子検出法
リガーゼ媒介対立遺伝子検出により、ヒト被験体の標的領域を、罹患していない個体での標的領域と比較することができる。例えば、Landegren et al. (1988) Science 241:1077-1080を参照されたい。リガーゼは、Wu et al. (1989) Genomics 4:560-56に記載されているライゲーション増幅反応で点突然変異を検出するためにも用いることができる。ライゲーション増幅反応(LAR)は、Wu et al. and Barany (1990) PNAS 88:189-193に記載されているように、鋳型依存的ライゲーションの連続ラウンドを用いる特異的DNA配列の増幅を利用する。
【0084】
変性勾配ゲル電気泳動
ポリメラーゼ連鎖反応を用いて生成された増幅産物は、変性勾配ゲル電気泳動を用いることにより分析することができる。異なる突然変異/対立遺伝子を、異なる配列依存的融解特性および溶液中でのDNAの電気泳動性移動に基づいて特定することができる。特異的融解ドメインの差異に基づく変異型と野生型配列との間の鑑別は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動を用いて評価することができ、例えば、Erlich編, PCR Technology, Principles and Applications for DNA Amplification, W. H. Freeman and Co, New York (1992)の第7章に記載されている。
【0085】
一般的に、変性勾配ゲル電気泳動により解析される対象の標的領域は、標的領域に隣接するPCRプライマーを用いて増幅される。増幅されたPCR産物は、Myers et al. (1986) Meth. Enzymol. 155:501-527、およびMyers et al., Genomic Analysis, A Practical Approach, K. Davies編 IRL Press Limited, Oxford, pp. 95-139 (1988)に記載されているように、直線変性勾配を有するポリアクリルアミドゲルにアプライする。電気泳動システムは、標的配列の融解ドメインのTよりもわずかに低い温度で維持する。
【0086】
変性勾配ゲル電気泳動の代替法では、Erlich、上掲の第7章に記載されているように、標的配列は、最初にGCヌクレオチドのストレッチ(GCクランプと称される)に連結される場合がある。好ましくは、GCクランプ中のヌクレオチドの少なくとも80%が、グアニンまたはシトシンである。好ましくは、GCクランプは少なくとも30塩基長である。この方法は、高い融解温度を有する標的配列に対して特に好適である。
【0087】
勾配ゲル電気泳動
温度勾配ゲル電気泳動(TGGE)は、変性勾配が化学変性剤の濃度の差異ではなく温度の差異により生成される点を除いて、変性勾配ゲル電気泳動と同じ基礎原理に基づく。標準的なTGGEは、電気泳動経路に沿った温度勾配泳動を用いる電気泳動装置を利用する。サンプルは、化学変性剤の均一な濃度を有するゲルを通って移動する際に、上昇する温度に出くわす。TGGEの代替法である経時的温度勾配ゲル電気泳動(TTGEまたはtTTGE)は、電気泳動ゲル全体の一定に上昇する温度を用いて、同じ結果を達成する。サンプルがゲルを通って移動する際に、ゲル全体の温度が上昇し、サンプルがゲルを通って移動する間に上昇する温度に出くわすようになる。GCクランプの取り込みを含むPCR増幅をはじめとするサンプルの調製、および産物の可視化は、変性勾配ゲル電気泳動と同じである。
【0088】
一本鎖コンホメーション多型解析
Syngap1遺伝子座の標的配列または突然変異体は、一本鎖コンホメーション多型解析を用いて区別することができ、これは、一本鎖PCR産物の電気泳動における移動での変化により塩基の差異を特定し、例えば、Orita et al. (1989) PNAS 86:2766-2770に記載されている。増幅されたPCR産物は、上記のように作製され、加熱されるかまたは他の方法により変性され、一本鎖増幅産物を形成する。一本鎖核酸は、再フォールディングされるか、または塩基配列に部分的に依存する二次構造を形成する。したがって、一本鎖増幅産物の電気泳動における移動度は、対立遺伝子または標的配列間の塩基配列の差異を検出することができる。標的配列同士の間のミスマッチ差異の化学的または酵素的切断も、ミスマッチした塩基対の示差的な化学的切断により検出することができ、例えば、Grompe et al. (1991) Am. J. Hum. Genet. 48:212-222に記載されている。別の方法では、標的配列間の差異は、例えば、Nelson et al. (1993) Nature Genetics 4:11-18に記載されているように、ミスマッチした塩基対の酵素的切断により検出することができる。簡潔に説明すると、ヒト被験体および罹患していない個体由来の遺伝物質を用いて、ミスマッチのないヘテロハイブリッドDNA二本鎖を生成することができる。本明細書中で用いる場合、「ヘテロハイブリッド」は、ある人物(通常は被験体)由来の一方のDNA鎖、および別の人物(通常は罹患していない個体)由来の第2のDNA鎖を含むDNA二本鎖を意味する。ミスマッチを含まないヘテロハイブリッドについての陽性選択は、精神遅滞に関与し得る、短い挿入、欠失または他の多型の決定を可能にする。
【0089】
非PCRベースのDNA診断
Syngap1に関連するDNA配列は、ヒト被験体および正常個体での制限断片長多型をはじめとする多型に基づいて、増幅ステップを行なわずに特定することができる。一般的に、ハイブリダイゼーションプローブは、相補的塩基対を介して標的核酸の全部または一部分に結合するオリゴヌクレオチドである。プローブは、典型的には、ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーに依存して、プローブ配列との完全な相補性を有しない標的配列と結合する。好ましくは、プローブは、直接的または間接的に標識されており、プローブの存在または非存在をアッセイすることにより、標的配列の存在または非存在を検出することができる。直接的な標識法としては、32Pまたは35Sなどを用いる放射性同位体標識が挙げられる。間接的標識法としては、蛍光タグ、アビジンもしくはストレプトアビジンに結合し得るビオチン複合体、またはペプチドもしくはタンパク質タグが挙げられる。視覚的検出法としては、限定するものではないが、フォトルミネッセント、化学発光、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、などが挙げられる。
【0090】
V.スクリーニング法
病原性Syngap1機能不全および突然変異型Syngap1タンパク質の特定および配列決定を用いて、ヒトなどの被験体における正常もしくは突然変異型Syngap1遺伝子または遺伝子産物の存在をスクリーニングおよび検出するための種々のハイブリダイゼーションおよび免疫学的アッセイで、核酸プローブおよび特異的抗体を用いることが可能になった。一般的に、アッセイは、Syngap1タンパク質の活性を検出するためにも用いることができる。したがって、本発明は、疾患を軽減、治療および/または予防するための考えられる治療用化合物および組成物のそのようなスクリーニングのためのアッセイキットおよび方法を包含する。
【0091】
本発明の別の態様において、Syngap1機能を回復するための好適な薬物を同定するための薬物のスクリーニング方法が提供される。薬物スクリーニングのための1つの技術は、変異型Syngap1遺伝子を有する宿主真核生物細胞株、動物(例えば、トランスジェニック動物)または細胞の使用を含む。これらの宿主細胞株、動物または細胞は、Syngap1ポリペプチドレベルで欠陥がある。宿主細胞株、または動物もしくは細胞を、試験化合物の存在下に置く。例えば、試験化合物の存在下でのSyngap1活性の回復または上昇したSyngap1タンパク質レベルは、該化合物が細胞に対してSyngap1機能を回復することが可能であることを示す。
【0092】
Syngap1タンパク質構造・機能の生化学的分析に基づいて、標的タンパク質に対するSyngap1の作用を模倣する薬物を設計することができる。機能的タンパク質として発現される組換えSyngap1は、ファージディスプレイアプローチを用いることなどにより、Syngap1に結合する小ペプチドを特定するために利用することができる。代替の、しかし関連するアプローチは、Syngap1に対するさらなる結合パートナーを特定するために、酵母ツーハイブリッドシステムを用いる。
【0093】
VI.キット
本発明のさらなる態様は、固体支持体およびキットに関する。本発明の固体支持体および/またはキットは、本発明の方法の実施のために、特に本明細書中で上で記載した評価方法に従う、ヒトでの診断用途のために有用であり得る。
【0094】
本発明の固体支持体は、ヒト被験体での病原性Syngap1機能不全を特定するための化合物を含み、機能不全は精神遅滞を担う。一実施形態では、化合物は、非症候性精神遅滞(NSMR)と関連するSyngap1突然変異の特異的検出のために設計された核酸プローブである。固体支持体は、チューブ、チップ(例えば、Affimetrix GeneChip(登録商標)技術を参照されたい)、メンブレン、ガラス支持体、フィルター、組織培養ディッシュ、ポリマー性材料、ビーズ、シリカ支持体等であり得る。
【0095】
本発明のキットは、以下の要素のうち1以上を含む:生物学的サンプルのホモジナイゼーションのためのバッファー、対照として用いるための精製Syngap1タンパク質(および/またはその断片)、インキュベーションバッファー、基質およびアッセイバッファー、モジュレーターバッファーおよびモジュレーター(例えば、エンハンサー、インヒビター)、標準、検出物質(例えば、抗体、フルオレセイン標識誘導体、発光基質、検出溶液、シンチレーションカウント液、等)、実験用消耗品(例えば、脱塩カラム、反応チューブまたはマイクロタイタープレート(例えば、96ウェルまたは384ウェルプレート)、ユーザーマニュアルまたは使用説明書、等。好ましくは、本発明のキットおよび方法は、対象となるタンパク質またはヌクレオチドの定量的検出または測定を可能にするように構成される。
【0096】
例えば、キットは、変異型Syngap1コード核酸分子と特異的にハイブリダイズする少なくとも1種のオリゴヌクレオチド、反応バッファー、および使用説明書を含み得る。任意により、少なくとも1種のオリゴヌクレオチドは、検出可能なタグを含む。一部のキットは2種類のそのようなオリゴヌクレオチドを含んでもよく、これはSyngap1遺伝子の少なくとも一部分を増幅するためのプライマーとして機能する。増幅のために選択される一部分は、突然変異が生じることが知られている部位を含むSyngap1遺伝子由来の領域であり得る。一部のキットは、特徴付けされていない突然変異を検出するためのオリゴヌクレオチドのペアを含む。あるいは、キットは、Syngap1遺伝子の少なくとも一部分を増幅して、変異型Syngap1核酸分子の配列決定および特定を可能にするためのプライマーを含み得る。本発明のキットはまた、バッファーおよび熱安定性ポリメラーゼなどのPCR反応材料をはじめとする、増幅系の構成要素を含んでもよい。他の実施形態では、本発明のキットは、市販の増幅キットと組み合わせて用いることができ、そのようなキットは、GIBCO BRL(Gaithersburg,Md.)、Stratagene(La Jolla,Calif.)、Invitrogen(San Diego,Calif.)から入手可能なものなどである。任意により、キットは、使用説明書、陽性対照または陰性対照反応、鋳型、またはマーカー、ゲル電気泳動のための分子量サイズマーカーなどを含み得る。
【0097】
本発明のキットはまた、Syngap1タンパク質および/またはその突然変異体に対して免疫学的に特異的な抗体、ならびに使用説明書も含む。任意により、抗体は、検出可能なタグを含む。任意により、キットは、免疫複合体を形成させるためのバッファー、免疫複合体を検出するための試薬、使用説明書、固体支持体、陽性または陰性対照サンプル、ゲル電気泳動のための分子量サイズマーカーなどを含んでもよい。
【0098】
V.治療薬
Syngap1遺伝子中の突然変異が精神遅滞をもたらすという発見は、この症候群および状態の治療および診断に対して有用な医薬組成物の開発を促進する。
【0099】
SYNGAP1は、小分子GTPaseであるRASおよびRAPの活性を阻害するニューロン特異的GTPase活性化タンパク質(GAP)である(Chen et al., 1998 Neuron 20:895-904;Kim et al., 1998 Neuron 20: 683-691;Pena et al. 2008 EMBO Rep 9:350-5.)。RASおよびRAPは、それぞれ長期シナプス増強(LTP)および長期シナプス抑制(LTD)中のα−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチルイソキサゾール−4−プロピオン酸(AMPA)グルタミン酸受容体(AMPAR)のシグナル伝達にとって重要である(Zhu et al. 2002 Cell 110:443-55)。SYNGAP1は、興奮性シナプスで選択的に発現され、N−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)受容体のNR2Bサブユニット、ならびにPSD95、SAP102、MUPP1およびCa++/カルモジュリン依存性キナーゼ(CamKII)などのシナプスアダプターおよびシグナル伝達タンパク質と結合する(Chen et al., 1998 Neuron 20:895-904;Kim et al., 1998 Neuron 20: 683-691;Krapivinsky et al. 2004 Neuron 43:563-574)。樹状突起スパイン上にシナプスをつくるほとんど全ての前シナプス末端は、神経伝達物質であるグルタミン酸を放出する。スパイン表面に位置するNMDARを介したグルタミン酸シグナル伝達は、興奮性シナプスの可塑性に必要である。NMDARは、185種以上のタンパク質の大型の複合体とのその結合を介して、複数の経路と関連している(Laumonnier et al. 2007 Am J Hum Genet 80:205-220)。NMDARにより調節される認知およびシナプス可塑性の一部の形態は、シナプス後膜でのAMRARの挿入を必要とする(Shepherd and Huganir 2007 Annu Rev Cell Dev Biol 23:613-643)。SYNGAP1は、NMDARの下流に作用して、Ras−ERK−MAPK経路のメンバーの阻害を含むメカニズムを介したシナプス後膜でのAMPAR輸送挿入を調節する(Krapivinsky et al. 2004 Neuron 43:563-574;Kim et al., 2005 Neuron 46:745-60;Rumbaugh et al., 2006 PNAS 103:4344-4351)。ニューロンでのマウスSyngap1の過剰発現は、AMPARを介したシナプス伝達の減少、シナプスのAMPAR表面発現における著明な減少、およびシナプスでのAMPAR表面発現における減少をもたらし、対照的に、SYNGAP1ノックアウトマウス由来のニューロンおよびSYNGAP1小分子干渉RNAで処理したニューロン培養では、シナプス伝達が強化される(Rumbaugh et al., 2006 PNAS 103:4344-4351)。Syngap1のヌル対立遺伝子に関するマウスホモ接合体は出生後まもなく死亡し、このことは、生後初期発達の間のSyngap1についての必須の役割を示し、Syngap1ヘテロ接合体マウスは、シナプス可塑性および学習の障害の表現型を示し、これは、NMDAR複合体でのその機能と一致する(Komiyama et al. 2002 J Neurosci 22:9721-32;Kim et al., 2003 J Neurosci 23:1119-1124)。
【0100】
Syngap1活性は最初にシナプスで見出されたので、好ましい治療用化合物は、血液脳関門(BBB)を通過することが可能なものであろう。
【0101】
潜在的に有用な化合物は、リボソームの活性を変化させて、ナンセンス突然変異により引き起こされる翻訳時リードスルー未熟終止コドン(translational read-through premature stop codon)を可能にする化合物である(Welch et al., 2007 Nature 447(7140):87-91)。1つのそのような化合物は、PTC124であり、これは、それぞれCFTRおよびDMD遺伝子中のナンセンス突然変異により生じる嚢胞性線維症およびデュシェンヌ型筋ジストロフィーについての治験中である(Kerem et al. 2008 Lancet 372 (9640): 719-27)。
【0102】
他の潜在的に治療上有用な薬物としては、RASまたはRAPのインヒビターまたはそれらの経路のエフェクターが挙げられる。
【0103】
本発明の医薬組成物は、治療薬(例えば、上記のスクリーニングにより同定される薬剤または野生型Syngap1をコードする核酸分子)を、製薬上許容される賦形剤、担体、バッファー、安定化剤または当業者に周知の他の物質中に含むことができる。そのような物質は、無毒であるべきであり、活性成分の有効性を干渉してはならない。担体または他の物質の正確な性質は、投与経路(例えば、経口、静脈内、皮膚または皮下、鼻内、筋内、および腹腔内経路)に応じて異なる場合がある。
【0104】
個体に投与される対象の、ポリペプチド、抗体、ペプチド、核酸分子、小分子または他の本発明に従い製薬上有用な化合物のいずれであるかにかかわらず、投与は、好ましくは、「予防上有効量」または「治療上有効量」(場合によっては、予防は治療とみなされ得るが)でのものであり、これは、個体に対して利益を示すのに十分なものである。
【0105】
該方法はまた、変異型Syngap1の存在についての胎児の子宮内スクリーニングのためにも有利に用いることができる。そのような変異の特定は、遺伝子治療の可能性をもたらす。罹患子孫を生じるリスクにあることが分かっている夫婦に対して、診断は、着床前に野生型Syngap1を有する胎児を特定するためのin vitroの生殖手順と組み合わせることができる。生後まもなく子供をスクリーニングすることもまた、病原性Syngap1機能不全を有する子供を特定するのに価値がある。早期の検出は、適切な治療の投与を可能にする。
【0106】
さらなる代替法として、野生型Syngap1ポリペプチドをコードする核酸を遺伝子治療の方法で用いて、正常レベルまで活性タンパク質を合成することができないヒト被験体を治療し、正常なSyngap1機能を回復させることができる。例えば、その産生を遺伝的技術および組換え技術を用いて増幅することができる、正常遺伝子産物、またはその等価物の補充を介する患者療法が、想起可能となる。薬物治療手段による、欠陥のある遺伝子産物の修正または改変が実施される。さらに、NSMRは、in situで遺伝子欠陥を修正することによる遺伝子治療を介して、または組換えもしくは他のビヒクルを用いて正常遺伝子産物の発現が可能なDNA配列を被験体の細胞に送達して、治療または制御することができる。
【0107】
ウイルスベクターなどのベクターは、広範囲の種々の標的細胞に遺伝子を導入するために先行技術で用いられてきた。典型的には、ベクターは、標的細胞に曝露されて、細胞のうち十分な割合で形質転換が行なわれ、所望のポリペプチドの発現からの有用な治療的または予防的作用をもたらすことができるようにする。形質転換された核酸は、標的細胞のそれぞれのゲノムに永続的に組み込まれて、長期間持続する作用をもたらすことができ、あるいは、治療を定期的に繰り返さなくてはならない場合がある。ウイルスベクターおよびプラスミドベクターの両方の、遺伝子治療のための種々のベクターが、当技術分野で公知である。
【0108】
当業者であれば、本明細書中に記載された具体的手順、実施形態、特許請求の範囲、および実施例に対する多数の等価物を認識するであろうし、または慣用の実験法以上のものを用いずに究明することができるであろう。そのような等価物は、本発明の範囲内にあるとみなされ、本明細書に添付される特許請求の範囲に含まれる。本発明をさらに以下の実施例により例示するが、これはさらなる限定と解釈されるべきではない。
【実施例】
【0109】
実施例1:NMDA受容体複合体の構成要素であるSYNGAP1中のde novo突然変異は、常染色体性非症候性精神遅滞を引き起こす
概要
非症候性精神遅滞(NSMR)は、医学において解決されていない最も重要な課題のうちの1つである。NSMRの常染色体型は症例のうちの大多数を説明するが、関与する遺伝子はほとんどわかっていない。認知およびシナプス機能に重要なRAS GTPase活性化タンパク質をコードする常染色体遺伝子であるSYNGAP1を、NSMRを有する94名の患者で配列決定し、de novo切断型突然変異(K138X、R579X、L813RfsX22)を患者の3名で特定した。対照的に、対照(n=190)では、SYNGAP1のde novo突然変異または切断型突然変異は全く見出されなかった。SYNGAP1は、常染色体優性NSMR遺伝子の最初の例である。
【0110】
方法
患者
94名のNSMRの散発性症例のコホート(45名の男性、49名の女性)を、本研究のために集めた。全ての患者を、少なくとも1名の経験豊かな臨床遺伝学者が調べ、特異的な形成異常の特徴の存在を除外した。出生時体重および生後成長は特筆すべきものではなかった。全ての患者について、出生時の頭囲は正常であった。MRの診断は、標準化された発達テストまたはIQテストを用いた臨床的根拠のもとに行なった。テロメア周囲FISH試験、染色体分析、または既知の症候群に関連するCGH標的領域、FMR1での一般的な拡張突然変異についての分子試験、および脳CTスキャンまたはMRIをはじめとする標準的な調査にもかかわらず、これらの症例ではMRは説明されなかった。190名の健常な民族的に適合する対照のコホートも調べた。これらのコホートの全てのメンバーおよびその両親から、血液サンプルを取得した。サンプルは、それぞれの機関の倫理委員会による研究のそれぞれの承認後、インフォームドコンセントを通して採取した。Puregene DNAキットを用いて、製造業者のプロトコールに従い、血液サンプルからゲノムDNAを抽出した(Gentra System, USA)。全ての家系のそれぞれの個体の父系および母系を、6種類の非常に情報性のある連鎖していないマイクロサテライトマーカー(D2S1327、D3S1043、D4S3351、D6S1043、D8S1179、D10S677)を用いて確認した。
【0111】
遺伝子スクリーニング、確認分析およびバイオインフォマティクス
SYNGAP1(第6染色体:33495825−33529444;参照配列NM_006772;NCBI Build 36.1)コード領域およびそのイントロン性隣接領域を、ゲノムDNAからPCRにより増幅し、得られた産物を配列決定した。SYNGAP1の全19エキソンを標的とするPCRプライマーを、UCSC Genome BrowserからのExon−Primerを用いて設計した(表2)。標準的な手順に従い、5ngのゲノムDNAを用いて、384ウェルプレート中でPCRを行なった。PCR産物を、マギル大学およびGenome Quebec Innovation Centre(Montreal, Canada)(www.genomequebecplatforms.com/mcgill/)で、3730XLTM DNA分析器で配列決定した。各症例で、リバースプライマーおよびフォワードプライマーを用いた断片の再増幅ならびにプロバンドおよび両親の再度の配列決定により、特有の突然変異を確認した。突然変異検出分析のために、PolyPHREDTM(v.5.04)、PolySCANTM(v.3.0)およびMutation SurveyorTM(v.3.10)を用いた。
【表2】

【0112】
結果
94名のNSMRの散発性症例のコホートで、SYNGAP1の全19エキソンのコード領域およびその隣接イントロン領域を配列決定した。de novo突然変異を発見する可能性を高めるために、散発性症例を選択した。これにより、K138X(患者1)およびR579X(患者2)のナンセンス突然変異についてヘテロ接合の2名の患者が特定された。さらに、第3の患者が特定され、この患者は突然変異c.2438delTについてヘテロ接合であり(患者3)、この突然変異はコドン813でのフレームシフト開始を引き起こし、835位での未熟終止コドンをもたらすと予測される(L813RfsX22)(図6)。これらの3種類の突然変異は、罹患個体の両親の血中DNAでは見出されず、このことは、これらがde novoであることを示し、また、これらの突然変異は、全てのSYNGAP1エキソンおよびイントロン連結部を配列決定した190名の健常個体の対照コホートには存在しなかった。対照にも存在したただ1種類のヘテロ接合ミスセンス変異(I1115T)が、残りのNSMRコホートで見出された(表3)。
【表3】

【0113】
de novo突然変異を有する3名の患者(4〜11歳)は、同様の臨床像を示した(表4)。これらの患者は、問題ない妊娠および出産後に非血縁の両親に生まれた。早期発達は、全体的な遅延および低下を特徴とし、歩行開始は2歳であった。早期学習のミュレンスケールおよびバインランド適応行動スケールは、全ての患者での中程度〜重症MRに合致するプロフィールを示した。非言語的社会的相互作用は、特筆すべきものではなかった。特に、自閉症診断観察スケジュールを用いた患者3の評価は陰性であった。眼科的評価では、患者1での斜視が明らかになった。患者のうちの2名は、軽症のてんかんであった。患者1は、短時間の全身性強直間代性発作を有し、トピラメートで発作がなくなるが、患者2は、いくぶんかミオクローヌス性の発作を示し、これはバルプロエートでよく制御される。両方の症例で、脳波により、間欠的な軽い刺激の間の両後頭部スパイクが明らかとなった。
【表4】

【0114】
K138X突然変異は、pleckstrin相同ドメイン(PH)(リン脂質に結合し、膜動員モチーフとして機能し得る)、C2ドメイン(RAPGAP活性に必要とされる)、RASGAPドメイン、プロリンリッチ領域(SH3ドメインに対する結合部位を形成し得る)、およびコイルドコイルドメイン(CC)などの重要な機能的ドメインの前でSYNGAP1を切断すると予測される(Kim et al., 1998 Neuron 20,683-691; Pena et al., 2008 EMBO Rep 9,350-355)(図6)。R579Xおよびc.2438delT突然変異は、それぞれ、RASGAPドメインの中央およびその後ろでSYNGAP1を切断すると予測される。これらの3種類の突然変異は、ラットSyngap1について報告されているように、オルタナティブスプライシングに供される遺伝子のカルボキシル領域の上流で生じる(Li et al., 2001 J Biol Chem 276,21417-21424)(図6)。このスプライシングプロセスは、少なくとも3種類のアイソフォームを生成する可能性があり、これらは、PSD95およびDLG3(PDZ結合性モチーフ、QTRVを介して;アイソフォーム2)またはCamKII(GAAPGPPRHGを介して、アイソフォーム3)などのNMDAR複合体の他の構成要素に結合することができるカルボキシルテイルを含む(Kim et al., 1998 Neuron 20,683-691;Li et al., 2001 J Biol Chem 276,21417-21424)。例えば、QTRVモチーフの欠失は、PSD95およびDLG3に結合し、かつ樹状突起スパイン形成を調節するSYNGAP1の能力を傷害する(Kim et al., 1998 Neuron 20,683-691;Vazquez et al., 2004 J Neurosci 24,8862-8872)。本明細書中、上記で示したように、GenBankTMに登録されているSYNGAP1 cDNA配列は、ヒトでの3種類のSYNGAP1アイソフォームの存在を支持する。したがって、本明細書中に記載した3種類の突然変異は、SYNGAP1機能に極めて重要なカルボキシルドメインが欠損したタンパク質の産生をもたらすであろう(結果として生じる突然変異型タンパク質の予測される配列について、図5を参照されたい)。表5は、突然変異の予測される機能的効果をまとめる。
【表5】

【0115】
考察
本研究により、NSMRコホートのうち約3%での、常染色体遺伝子SYNGAP1中のタンパク質切断型de novo突然変異が同定された。これらの突然変異は、いくつかの理由により病原性である可能性が高い。第1に、これらはすべて、学習および記憶に必要とされるシナプス可塑性およびスパイン形態形成に重要であることが示されている、RASGAPおよび/またはQTRVなどのドメインを欠損したタンパク質の産生をもたらす。さらに、結果として生じる未熟な終止コドンは、mRNAレベルでも働いて、ナンセンス媒介mRNA崩壊メカニズムを通してSYNGAP1転写産物を不安定化することができる(Khajavi et al., 2006 Eur J Hum Genet 14,1074-1081)。第2に、Syngap1のヌル対立遺伝子についてヘテロ接合のマウスは、シナプス可塑性および学習の障害を示し、このことは、一方のSYNGAP1対立遺伝子の失調が、同様に、ヒトで認知機能障害を引き起こすのに十分であることを示唆する(Komiyama et al., 2002 J Neurosci 22,9721-9732;Kim et al., 2003 J Neurosci 23,1119-1124)。第3に、NSMRを有しない190名の個体の大規模なスクリーニングは、SYNGAP1でのいかなる切断型、スプライシングまたはde novoアミノ酸変化変異体も特定できなかったことから、この遺伝子の失調がNSMRに特異的に関連するというアイデアが強化される。
【0116】
SYNGAP1は、NMDARのNR2Bサブユニット、ならびにシナプスのアダプタータンパク質であるPSD95およびDLG3と相互作用する(Kim et al., 1998 Neuron 20,683-691; Kim et al., 2005 Neuron 46,745-760)。Dlg3のノックアウトは、NMDARシグナル伝達を関与させるメカニズムでのシナプス可塑性および認知に影響する(Cuthbert et al., 2007 J Neurosci 27,2673-2682)。興味深いことに、DLG3もNR2Bと相互作用し、DLG3での突然変異は、近年、X染色体連鎖NSMRを引き起こすことが報告されている(Tarpey et al., 2004 Am J Hum Genet 75,318-324)。AMPAR輸送の調節は、シナプス可塑性および認知を変化させるための主要なシナプス後部メカニズムである(Shepherd and Huganir, 2007 Annu Rev Cell Dev Biol 23,613-643)。SYNGAP1およびDLG3は、異なる様式でAMPARシナプス輸送に影響する。SYNGAP1は、RAS−ERKシグナル伝達をダウンレギュレートすることにより、成体海馬シナプスでAMPARサブユニットであるGluR1の表面挿入を阻害し(Kim et al., 2005,46,745-760;Rumbaugh et al., 2006,103,4344-4351)、対照的に、DLG3は、主に未成熟シナプスでAMPAR輸送を刺激する(Kim et al., 2005 Neuron 46,745-760; Elias et al., 2006 Neuron 52,307-320)。このことは、Dlg3の場合とは異なり、Syngap1のノックアウトが、おそらくは増加したAMPAR表面発現の結果として、AMPAR媒介シナプス伝達での著明な増大を引き起こすことが示されている理由を説明するかもしれない(Rumbaugh et al., 2006 PNAS 103,4344-4351; Cuthbert et al., 2007 J Neurosci 27,2673-2682)。したがって、SYNGAP1とDLG3とは物理的に相互作用するが、これらは異なるメカニズムを介して認知プロセスに影響する可能性がある。認知疾患でのAMPARの重要な役割が、AMPARサブユニットをコードするGRIA3中の突然変異がX染色体連鎖NSMRをもたらすという知見により、近年例示されている(Wu et al., 2007 PNAS 104,18163-18168)。興味深いことに、RAS−ERK経路の他の構成要素での突然変異は、学習障害を特徴とする症候群を引き起こす場合があり、このことは、ヒト認知プロセスでのこのシグナル伝達経路の関与をさらに強調する(Aoki et al., 2008 Hum Mutat 29,992-1006)。
【0117】
SYNGAP1の失調は、重度の言語障害を伴う中程度のMRを特徴とする均一な臨床表現型に関連しているようである。これらの患者での、特異的な形態形成異常の特徴および成長異常の非存在は、SYNGAP1が脳で特異的に発現しているという事実と合致する。興味深いことに、本明細書中に記載された患者のうちの2名が、軽症のてんかんの全身性形態に対して治療を受けた。SYNGAP1の失調は、グルタミン酸作動性シナプスのシナプス後部でのAMPARの動員を増加させて興奮性シナプス伝達を増加させることにより、発作を起きやすくする可能性があり、これは、Syngap1突然変異型マウスで報告されている(Kim et al., 2005 Neuron 46,745-760; Rumbaugh et al., 2006 PNAS 103,4344-4351)。両方の患者のてんかんがトピラメートまたはバルプロエートによりよく制御されたという事実は、この仮説と合致する。実際に、トピラメートはAMPAR活性を阻害し、バルプロエートは海馬シナプスでGluR1のレベルを低下させ、したがって、AMPAR活性を減少させる(Skradski and White, 2000 Epilepsia 41 Suppl 1,S45-47;Du et al., 2004 J Neurosci 24,6578-6589)。したがって、十分に特徴付けられたシナプス経路に沿って機能するNSMR遺伝子の同定は、てんかんなどの関連する合併症のみを標的とするものではなく、認知プロセスの改善をも目的とする、筋の通った薬物治療を開発する可能性を提供する。さらに、ナンセンス突然変異を有するmRNAのフラクションでの正常タンパク質の完全な翻訳および産生を可能にすることを目指す現状の治療アプローチは、本発明者らが報告した症例のうち少なくとも2名に関連するであろうし、NSMRでの正確な分子的欠陥の特定の価値を強調する(Welch et al., 2007 Nature 447,87-91)。
【0118】
de novoのコピー数変化の特性決定に基づく候補となる遺伝子アプローチが、他の神経発達障害の調査に対して有意義であることが近年示されている(Jamain et al., 2003 Nat Genet 34,27-29; Durand et al., 2007 Nat Genet 39,25-27)。しかしながら、MRでのSYNGAP1と関連するコピー数の変化は、アクセス可能なデータベースではまだ報告されていない。したがって、本明細書中で用いられた候補となるシナプス遺伝子アプローチは、NSMRおよび他の神経発達障害に関与する遺伝子の同定についての相補的パラダイムを提供する。本発明者らの知識では、SYNGAP1は、常染色体優性NSMR遺伝子の最初の例である。本発明者らのコホート内でのde novoのSYNGAP1突然変異の高い有病率は、この遺伝子の失調がNSMRの一般的な原因である可能性を提起する。
【0119】
表題は、参照のために、また特定の節を配置するのに役立てるために、本明細書中に含められる。これらの表題は、その下に記載される概念の範囲を限定することを意図するものではなく、これらの概念は、明細書全体を通して他の節で適用可能性を有する場合がある。したがって、本発明は、本明細書中に示された実施形態に限定されることを意図するものではなく、本明細書中に開示された原理および新規な特徴と合致する最大の範囲に従うべきものである。
【0120】
本明細書中に記載された実施例および実施形態は、例示目的のみのためのものであり、それに照らした種々の改変または変更が当業者に示唆されるであろうし、本発明および添付の特許請求の範囲内に含められるべきものであることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト被験体の精神遅滞(MR)を診断する方法であって、病原性Syngap1機能不全の存在または非存在を検出するために、該ヒト被験体由来の生物学的サンプルをアッセイするステップを含む、上記方法。
【請求項2】
前記病原性Syngap1機能不全が、配列番号7を含むSyngap1遺伝子中の病原性突然変異を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
病原性Syngap1機能不全の存在が、Syngap1でのde novoのゲノム突然変異を特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記機能不全が、切断型Syngap1タンパク質の発現を引き起こす切断型突然変異であり、該切断型Syngap1タンパク質が、配列番号2、配列番号4、または配列番号6以外のアミノ酸配列を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記切断型Syngap1タンパク質が、配列番号8、配列番号9または配列番号10からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記生物学的サンプルをアッセイするステップが、前記被験体から取得した核酸を配列決定するステップを含み、該核酸が、配列番号7に示されるSyngap1遺伝子の少なくとも一部分を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記アッセイステップが、以下のステップ:
(a)前記ヒト被験体からゲノムDNAを含む生物学的サンプルを取得するステップ;
(b)Syngap1の発現を担う1以上の領域の配列を取得するために、該ゲノムDNAを配列決定するステップ;および
(c)(b)で取得した配列を、罹患していない個体由来の対応する対照配列と比較するステップ
を含み、それにより該比較が病原性Syngap1ゲノム突然変異の存在または非存在の特定を可能にする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ヒト被験体の非症候性精神遅滞(NSMR)を診断する方法であって、該被験体から取得した核酸サンプル中で、配列番号7を含むSyngap1遺伝子中のde novoの病原性突然変異の存在または非存在を検出するステップを含む、上記方法。
【請求項9】
罹患していない被験体において、Syngap1遺伝子が、配列番号2、配列番号4、または配列番号6に示されるアミノ酸配列を含むSyngap1タンパク質をコードする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記検出ステップが、DNAまたはRNAを配列決定するステップを含む、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記de novo病原性突然変異が、ナンセンス突然変異またはフレームシフト突然変異である、請求項8〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記de novo病原性突然変異が、ヘテロ(heterologous)突然変異である、請求項8〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
配列番号8、配列番号9または配列番号10からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、単離された切断型Syngap1タンパク質。
【請求項14】
配列番号8、配列番号9または配列番号10からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む切断型Syngap1タンパク質に特異的に結合し、かつ
配列番号2、配列番号4または配列番号6に示されるアミノ酸配列を含む非切断型Syngap1タンパク質には結合しない、
モノクローナルまたはポリクローナル抗体。
【請求項15】
(i)配列番号7を含むSyngap1遺伝子中のゲノム突然変異を特定するために特異的な核酸プローブ;および/または(ii)請求項14に規定されるモノクローナルもしくはポリクローナル抗体、を含む固体支持体。
【請求項16】
ヒト被験体の精神遅滞(MR)を診断する方法であって、病原性Syngap1機能不全の存在または非存在を検出するために、該ヒト被験体由来の生物学的サンプルをアッセイするステップを含む、上記方法。
【請求項17】
前記病原性Syngap1機能不全が、配列番号7を含むSyngap1遺伝子中の病原性突然変異を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
病原性Syngap1機能不全の存在が、Syngap1中のde novoのゲノム突然変異を特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記de novoゲノム突然変異が、ナンセンス突然変異またはフレームシフト突然変異である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記de novoゲノム突然変異が、ヘテロ突然変異である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記機能不全が、切断型Syngap1タンパク質の発現を引き起こす切断型突然変異であり、該切断型Syngap1タンパク質が、配列番号2、配列番号4、または配列番号6以外のアミノ酸配列を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
前記切断型Syngap1タンパク質が、配列番号8、配列番号9または配列番号10からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記生物学的サンプルをアッセイするステップが、前記被験体から取得した核酸を配列決定するステップを含み、該核酸が、配列番号7に示されるSyngap1遺伝子の少なくとも一部分を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項24】
前記アッセイステップが、以下のステップ:
(a)前記ヒト被験体からゲノムDNAを含む生物学的サンプルを取得するステップ;
(b)Syganp1の発現を担う1以上の領域の配列を取得するために、該ゲノムDNAを配列決定するステップ;および
(c)(b)で取得した配列を、罹患していない個体由来の対応する対照配列と比較するステップ
を含み、それにより、該比較が、病原性Syngap1ゲノム突然変異の存在または非存在の特定を可能にする、請求項16に記載の方法。
【請求項25】
ヒト被験体の非症候性精神遅滞(NSMR)を診断する方法であって、該被験体から取得した核酸サンプル中で、配列番号7を含むSyngap1遺伝子中のde novoの病原性突然変異の存在または非存在を検出するステップを含む、上記方法。
【請求項26】
罹患していない被験体において、前記Syngap1遺伝子が、配列番号2、配列番号4、または配列番号6に示されるアミノ酸配列を含むSyngap1タンパク質をコードする、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記検出ステップが、DNAまたはRNAを配列決定するステップを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記de novo病原性突然変異が、ナンセンス突然変異またはフレームシフト突然変異である、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記de novo病原性突然変異が、ヘテロ突然変異である、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
配列番号8、配列番号9または配列番号10からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、単離された切断型Syngap1タンパク質。
【請求項31】
配列番号8、配列番号9または配列番号10からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む切断型Syngap1タンパク質に特異的に結合し、かつ
配列番号2、配列番号4または配列番号6に示されるアミノ酸配列を含む非切断型Syngap1タンパク質には結合しない、
モノクローナルまたはポリクローナル抗体。
【請求項32】
(i)配列番号7を含むSyngap1遺伝子中のゲノム突然変異を特定するために特異的な核酸プローブ;および/または(ii)請求項31に規定されるモノクローナルもしくはポリクローナル抗体、を含む固体支持体。
【請求項33】
配列番号7のSyngap1遺伝子中の病原性突然変異を含む核酸分子、または該核酸分子の相補鎖に特異的にハイブリダイズする、核酸プローブ。
【請求項34】
生物学的サンプル中の変異型Syngap1核酸分子またはタンパク質の存在または非存在を検出するためのキットであって、ユーザーマニュアルまたは使用説明書、ならびに以下の構成要素:
(i)配列番号7を含むSyngap1遺伝子中の病原性突然変異を含む核酸分子に特異的にハイブリダイズする核酸プローブ;
(ii)(i)に記載の核酸分子の相補鎖に特異的にハイブリダイズする核酸プローブ;
(iii)請求項31に規定されるモノクローナルまたはポリクローナル抗体;および
(iv)該生物学的サンプル中のSyngap1タンパク質の量および/または活性を測定するための化合物
のうちの少なくとも1つを含む、上記キット。
【請求項35】
Syngap1機能を回復させるための好適な薬物を同定するためのスクリーニング方法であって、病原性Syngap1機能不全を有する細胞または動物を、試験対象の化合物と接触させるステップと、Syngap1活性および/またはレベルに対する該化合物の活性を評価するステップとを含む、上記方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図1−4】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図2−4】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図3−4】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【図4−4】
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【図4−5】
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【図4−6】
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【図4−7】
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【図4−8】
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【図4−9】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−507989(P2012−507989A)
【公表日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−534978(P2011−534978)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【国際出願番号】PCT/CA2009/001593
【国際公開番号】WO2010/051632
【国際公開日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(511110843)センター ホスピタライヤー ユニヴェルシテール サント−ジュスティーヌ (1)
【出願人】(511110854)ユニヴェルシテ ドゥ モンレアル (1)
【出願人】(511110865)
【Fターム(参考)】