説明

SiC成長装置

【課題】昇華法によるSiCの結晶成長において、温度測定用の穴に昇華した物質が析出することを抑制して、精度の良い温度測定が長時間可能なSiC成長装置を提供する。
【解決手段】種基板15及びSiC原料18を収容する成長容器14と、該成長容器14を囲う断熱材11と、該断熱材11に設けた温度測定用の穴21を通して、前記成長容器内14の温度を測定する温度測定器13と、前記SiC原料18を加熱するヒーター17とを備え、昇華法により、前記SiC原料18を加熱して昇華させ、前記種基板15上にSiC16を結晶成長させるSiC成長装置10であって、前記温度測定用の穴21の内周は、前記断熱材11の他の部分よりもかさ密度が高く、かつ、研磨された内壁部12が形成されたものであるSiC成長装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇華法によってSiCの結晶成長を行うSiC成長装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車や電気冷暖房器具にインバーター回路が多用されるにいたり、電力ロスが少なく、半導体Si結晶を用いた素子より耐圧を高くとれるという特性から、SiC(炭化珪素)の半導体結晶が求められている。
半導体用途のSiC結晶の成長には、一般的に昇華法が用いられている(特許文献1、2参照)。昇華法は、成長容器内で2000℃前後ないしそれ以上の高温で、原材料である固体のSiCを昇華させて、種基板上にSiCを結晶成長させる方法である。
【0003】
成長容器は、石英管内かチャンバー内に配置されて、高真空状態にし、活性の低いガスを供給しながら、SiCの昇華速度を上げるために大気圧より低い圧力に制御される。また、成長容器は通気性があり、成長容器内外の圧力は等しくなる。
成長容器の外側には、成長容器内の熱が失われるのを抑制するために断熱材が配置されている。断熱材には、パイロメーターで温度測定するための穴が少なくとも一つ設けられ、その穴からは多少の熱がもれる。
【0004】
このようなSiCの結晶成長は、原料を昇華させるために高温が必要で、成長装置は高温での温度制御を行う。また、昇華した物質の圧力を安定させるために、成長容器内の圧力、温度が安定していることが重要である。
【0005】
昇華法によるSiCの結晶成長は、昇華によるものであるため、Siの結晶を作製するチョクラルスキー法や、GaAs等の結晶を作製するLPE(液相エピタキシャル成長)法などと比較して、相対的に成長速度が非常に遅い。従って、長い時間をかけて成長させることとなる。ただし、近年の制御機器、コンピュータ、パソコン等の発達で、圧力、温度の調節を長期間行うことは、容易である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−191399号公報
【特許文献2】特開2005−239465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
昇華法において、昇華を開始すると、成長容器の外部に昇華した気体が漏れ、成長容器の外側に配置されている断熱材の温度測定用の穴を通過する。
断熱材と成長容器の間は、成長容器と同様の温度であるが、断熱材の温度測定用の穴の付近は温度が低くなっているため、昇華した気体が、穴を通過する際に析出する。析出した物質は、主にはSiCの結晶であるが、一度表面に析出すると、更に成長を続け、図3に示すように多結晶化し、図4に示すように温度測定用の穴をふさぐこととなる。このため、温度測定が困難になり、温度調節器に正確な温度データを送れなくなる。これによって、成長容器内の温度の制御ができず、成長させる結晶の品質や、生産性に影響を及ぼしてしまう。
図3は、SiC成長装置の温度測定用の穴の内壁への多結晶の成長を説明するための図である。図4は、多結晶の成長によりつまりかけた温度測定用の穴を観察した図である。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、昇華法によるSiCの結晶成長において、温度測定用の穴に昇華した物質が析出することを抑制して、精度の良い温度測定が長時間可能なSiC成長装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、種基板及びSiC原料を収容する成長容器と、該成長容器を囲う断熱材と、該断熱材に設けた温度測定用の穴を通して、前記成長容器内の温度を測定する温度測定器と、前記SiC原料を加熱するヒーターとを備え、昇華法により、前記SiC原料を加熱して昇華させ、前記種基板上にSiCを結晶成長させるSiC成長装置であって、前記温度測定用の穴の内周は、前記断熱材の他の部分よりもかさ密度が高く、かつ、研磨された内壁部が形成されたものであることを特徴とするSiC成長装置を提供する。
【0010】
このように、断熱材の他の部分よりもかさ密度が高く、かつ、研磨された内壁部であれば、その表面に昇華した物質が析出しにくいため、長時間の成長でも温度測定用の穴がふさがることを防止できる。また、断熱材のその他の部分は、通常の材質を用いることができるため、コストアップも少ない。従って、長時間の成長でも精度良く温度測定を行うことができるため成長容器内の温度を良好に制御でき、高品質のSiC結晶を生産性良く成長させることができる装置となる。
【0011】
このとき、前記内壁部のかさ密度は、0.1〜2.0g/cmであることが好ましい。
このようなかさ密度であれば、内壁部への昇華した物質の析出をより効果的に抑制することができる装置となる。
【0012】
このとき、前記内壁部の表面粗さRaは、5μm未満であることが好ましい。
このような表面粗さであれば、表面が十分に平滑であるため昇華した物質の析出をより効果的に抑制することができる装置となる。
【0013】
このとき、前記温度測定用の穴の断面形状は、丸又は多角形であることが好ましい。
このような断面形状であれば、温度測定用の穴及び内壁部の形成が容易な装置となる。
【0014】
このとき、前記内壁部の材質は、グラファイトとすることができる。
このような材質であれば、高温下でも長時間使用でき、表面の平滑化も容易であるため、温度測定用の穴の閉塞を確実に防止できる装置となる。
【0015】
また、前記内壁部は、前記断熱材の温度測定用の穴の内周にペースト状のカーボンをコートし、表面を研磨して形成されたものとすることができる。
内壁部がこのように形成されたものであれば、形成が容易で、昇華した物質がより析出しにくい表面となり、温度測定用の穴の閉塞を確実に防止できる装置となる。
【0016】
また、前記内壁部は、前記断熱材の温度測定用の穴の内周にペースト状のカーボンを含浸させて固体化させた後、表面を研磨して形成されたものとすることができる。
内壁部がこのように形成されたものであれば、形成が容易で、昇華した物質がより析出しにくい表面となり、温度測定用の穴の閉塞を確実に防止できる装置となる。
【0017】
このとき、前記温度測定用の穴は、前記断熱材に2つ設けられたものであることが好ましい。
このような温度測定用の穴が2つ設けられたものであれば、成長容器内の温度をより正確に検出することができ、この場合も、本発明の内壁部であれば穴が閉塞することがないため、より精度の良い温度制御が可能な装置となる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、長時間の成長でも精度良く温度測定を行うことができるため成長容器内の温度を良好に制御でき、高品質のSiC結晶を生産性良く成長させることができる装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のSiC成長装置の実施態様の一例を示す概略断面図である。
【図2】昇華法によるSiC結晶成長を行う際のフロー図である。
【図3】SiC成長装置の温度測定用の穴の内壁への多結晶の成長を説明するための図である。
【図4】多結晶の成長によりつまりかけた温度測定用の穴を観察した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図1は、本発明のSiC成長装置の一例を示す概略断面図である。
【0021】
図1に示す本発明のSiC成長装置10は、種基板15及びSiC原料18を収容する成長容器14と、該成長容器14を囲う断熱材11と、該断熱材11に設けた温度測定用の穴21を通して、成長容器14内の温度を測定する温度測定器13と、SiC原料18を加熱するヒーター17とを備えている。
成長容器14は、種基板15を配置する成長室20と、SiC原料18を配置する昇華室19とからなり、例えば耐熱性のあるグラファイトで形成される。また、結晶成長の際には、不図示の石英管又はチャンバー内に成長容器14をセットして、真空排気しながらAr等の不活性ガスを供給することにより、不活性ガス雰囲気の減圧下で結晶成長を行う。
【0022】
ヒータ17は、RH(抵抗加熱)又はRF(高周波)加熱を行うものを用いることができる。また、温度測定器13としては、パイロメーターを用いることで、成長容器14の外部から、断熱材11の温度測定用の穴21を通して、非接触で温度測定を精度良く行うことができる。
【0023】
そして、本発明の装置10では、温度測定用の穴21の内周は、断熱材11の他の部分よりもかさ密度が高く、かつ、研磨された内壁部12が形成されたものである。
断熱材11は、炭素繊維の成形材等で作製され、成長容器等よりも密度が低く、かつ、表面が粗い。また、温度測定用の穴の付近は、断熱材の内側よりも温度が低くなっている。このため、従来では、成長容器から漏れ出たSiC原料の昇華した物質やガスが、温度測定用の穴の内壁表面に微小な結晶として析出しやすく、それを種として多結晶が結晶成長して、最後には穴をふさいでしまっていた。これに対する対策として、温度測定用の穴を大きく設けるという方法もあるが、当該穴から漏れ出る熱が大きくなり、温度制御が不安定になったり、より大きな電力が必要となる。本発明では、温度測定用の穴21の内周に、断熱材11の他の部分よりもかさ密度が高く、研磨された内壁部12が形成されているため、穴21の内壁の表面に昇華した物質等が析出することを効果的に抑制でき、長時間の結晶成長でも穴21がふさがることがない。このため、温度測定用の穴21を最低限の大きさにできるため、熱の漏れは低減される。以上より、本発明であれば、成長容器の温度を安定して正確に測定でき、精度の良い温度制御が可能な装置となる。
【0024】
このような内壁部12の材質は、耐熱性が高く、表面の平滑化が容易であるグラファイトとすることできる。例えば、断熱材11の他の部分よりかさ密度の高い密度のグラファイト部材を断熱材11に設けた穴21にはめ込んで固定し、表面を研磨する等により内壁部12を形成できる。この際、グラファイト部材に予め穴を開けておいても、はめ込んで固定した後に穴を開けてもよい。
上記のような内壁部12であれば、かさ密度を高く形成することが容易で、平滑化も効率的にできる。また、上記のように断熱材12とは別体としてはめ込み式の内壁部12とすれば、交換が容易で、たとえ内壁部12が劣化しても断熱材11は繰り返し使用可能であるため、低コストの装置にできる。
【0025】
また、内壁部12は、断熱材11の温度測定用の穴21の内周にペースト状のカーボンをコートし、表面を研磨して形成することもでき、または、穴21の内周にペースト状のカーボンを含浸させて固体化させた後、表面を研磨して形成することもできる。いずれの場合にも、ペースト状のカーボンを固体化する際には、熱処理等を施すことができ、固体化後には所望の穴形状になるように表面を加工してもよい。
このような方法でも、かさ密度が高く、十分に平滑な内壁部12とすることが容易にできる。
また、いずれの場合にも、研磨の際には、温度測定用の穴21の周囲の表面(穴21の内壁に直交する面)も研磨して鏡面にすれば、穴21の閉塞防止をより確実に達成できるため好ましい。
【0026】
このような内壁部12のかさ密度としては、0.1〜2.0g/cmとすることが好ましい。
このような範囲のかさ密度であれば、多結晶の形成を十分に防止することができ、上記のような方法で容易に形成できる。
【0027】
また、内壁部12の表面粗さRaは、5μm未満が好ましく、特に、3μm以下、さらに1μm以下であることがより好ましい。
内壁部12を治具等によって研磨して鏡面にし、上記のような表面粗さとすることで、表面への結晶の析出を確実に抑制することができる。
【0028】
温度測定用の穴21の断面形状としても、特に限定されないが、丸、又は、三角形を含む多角形であれば、穴21を通して温度測定を良好にでき、さらに、研磨等が施しやすく、内壁部12の形成も容易である。
【0029】
また、このような温度測定用の穴21は、図1のように種基板15が配置される側のみに形成してもよいが、穴21を2つ設けるのが好ましく、反対側のSiC原料18側にも設けて上下両側から温度測定してもよい。この場合、一方にのみ内壁部12を形成しても良いが、2つの温度測定用の穴21に本発明のような内壁部12を形成するのが好ましい。
上下両側から温度測定することで、昇華室19と成長室20の温度をそれぞれ正確に求めることができるため、より効率的な結晶成長を行うことができる装置となる。なお、穴21を設ける位置としては上記に限られない。
【0030】
このような本発明のSiC成長装置を用いて、図2に示すフローで昇華法によるSiC結晶成長を行うことができる。図2は、昇華法によるSiC結晶成長を行う際のフロー図である。
【0031】
まず、SiC原料18としてSiCの粉末原材料を成長容器14の昇華室19に収容し(図2(a))、SiC単結晶の種基板15を成長室20に配置し(図2(b))、成長容器14の蓋を閉じる(図2(c))。
そして、成長容器14を炉内にセットし、Ar雰囲気にして、高真空状態にする(図2(d))。その後、ヒーター17で加熱して2000℃以上の温度にまで昇温して、温度測定用の穴21を通して温度測定器13により成長容器14内の温度を測定し、該測定結果を基にヒーター17の出力を制御して温度を調節しながらSiC原料を昇華させ(図2(e))、種基板15上にSiC結晶16を成長させる(図2(f))。当該結晶成長時には、成長室20内の温度が昇華室19内の温度より低くなるように温度制御する。
【0032】
この際、本発明の装置であれば、長時間の結晶成長を行っても、温度測定用の穴がふさがることがないため、連続して正確な温度測定を行うことができる。従って、精度の良い温度制御を行いながら結晶性の良いSiCを生産性良く成長させることができる装置となる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例)
図1に示すようなSiC成長装置を用いて、昇華法によりSiC結晶成長を200時間行った。
用いた装置の温度測定用の穴は、カーボンコート材の断熱材に穴を形成した後、穴の内壁を密度の高いカーボンでコートして他の部分よりもかさ密度を高くし、その表面を研磨して鏡面に仕上げた。
この結果、200時間通して、正確な温度測定を行うことができた。結晶成長後、温度測定用の穴の表面の汚れは確認できたが、穴全体が析出物で閉塞するほどの堆積は起きなかった。
【0034】
(比較例)
実施例と同様の装置を用いて、ただし、温度測定用の穴は断熱材に穴を形成したのみで、カーボンコート、研磨を行わないで形成した。その後、実施例と同様に、昇華法により、SiC結晶成長を行った。
この結果、多結晶の成長により短時間で温度測定用の穴が閉塞し、200時間行う前に結晶成長を停止した。同様の成長を複数回行った場合、20%の割合で成長中に温度測定用の穴が閉塞し、200時間の成長を行うことができなかった。
【0035】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0036】
10…SiC成長装置、 11…断熱材、 12…内壁部、 13…温度測定器、
14…成長容器、 15…種基板、 16…SiC結晶、 17…ヒーター、
18…SiC原料、 19…昇華室、 20…成長室、 21…温度測定用の穴。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
種基板及びSiC原料を収容する成長容器と、該成長容器を囲う断熱材と、該断熱材に設けた温度測定用の穴を通して、前記成長容器内の温度を測定する温度測定器と、前記SiC原料を加熱するヒーターとを備え、昇華法により、前記SiC原料を加熱して昇華させ、前記種基板上にSiCを結晶成長させるSiC成長装置であって、前記温度測定用の穴の内周は、前記断熱材の他の部分よりもかさ密度が高く、かつ、研磨された内壁部が形成されたものであることを特徴とするSiC成長装置。
【請求項2】
前記内壁部のかさ密度は、0.1〜2.0g/cmであることを特徴とする請求項1に記載のSiC成長装置。
【請求項3】
前記内壁部の表面粗さRaは、5μm未満であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のSiC成長装置。
【請求項4】
前記温度測定用の穴の断面形状は、丸又は多角形であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のSiC成長装置。
【請求項5】
前記内壁部の材質は、グラファイトであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のSiC成長装置。
【請求項6】
前記内壁部は、前記断熱材の温度測定用の穴の内周にペースト状のカーボンをコートし、表面を研磨して形成されたものであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のSiC成長装置。
【請求項7】
前記内壁部は、前記断熱材の温度測定用の穴の内周にペースト状のカーボンを含浸させて固体化させた後、表面を研磨して形成されたものであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のSiC成長装置。
【請求項8】
前記温度測定用の穴は、前記断熱材に2つ設けられたものであることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載のSiC成長装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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