説明

SiO2を用いてコーティングされた金属効果顔料、前記メタリック効果顔料を製造するための方法、および使用

本発明は、酸化ケイ素を用いてメタリック効果顔料をコーティングするための方法に関するが、ここで、有機溶媒中のアルコキシシラン(単一または複数)および/またはシリコンハライド(単一または複数)を、メタリック効果顔料の存在下に水と反応させるが、その反応には、少なくとも2段の工程が含まれ、(a)その反応を、第一の工程において酸を添加し、そして第二の工程において塩基を添加して実施するか、または(b)その反応を、第一の工程において塩基を添加し、そして第二の工程において酸を添加して実施する。本発明はさらに、本発明の方法によって製造することが可能なコーティングされたメタリック効果顔料に関し、さらにはその使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性塗料のための耐食性コーティングを有する、酸化ケイ素、好ましくはSiOを用いてコーティングされたアルミニウム効果顔料を製造するためのゾルゲル法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車セグメントおよび工業的コーティングにおいて環境に優しい水性塗料の使用が急速に増加しているために、腐食保護されたメタリック効果顔料の開発が必要となってきている。塩基性配合として使用される水性塗料においては、広く使用されているアルミニウム効果顔料は特に酸化を受けやすく、それによって水素が発生し、アルミニウム効果顔料の酸化につながる。この酸化の結果、鏡面光沢の損失が起きるが、その損失はグレーイングとも呼ばれている。
【0003】
極めて効果的に腐食保護されたアルミニウム効果顔料が、クロメート処理プロセス(EP 0 259 592)によって製造され、Eckartから商品名Hydrolux(登録商標)として入手可能である。これらの腐食保護されたアルミニウム効果顔料は、優れたガス発生安定性および傑出した不透明性で知られている。不透明性(隠蔽力とも呼ばれる)とは、顔料の単位重量あたりで隠蔽される表面積である。クロメート処理されたアルミニウム効果顔料の不透明性は、より具体的には、クロメート処理前のアルミニウム効果顔料の不透明性に匹敵するものである。
【0004】
欠点は、そのクロメート処理されたアルミニウム効果顔料がクロム化合物を含んでいることである。クロメート処理されたアルミニウム効果顔料は、毒性のCr(IV)を検出可能な量では含んではいないものの、それにも関わらずそれらは、重金属含量の観点からは、環境的に有利ではない。
【0005】
この理由から、SiOコーティングされたアルミニウム効果顔料またはゴールドブロンズ効果顔料が開発された。SiOを用いたコーティングは、好ましくはゾルゲルプロセスを使用して達成されるが、その場合、まず、アルミニウム効果顔料またはゴールドブロンズ効果顔料をゾルゲル被包し、次いで二酸化ケイ素コーティングを形成させる。SiOコーティングされたアルミニウム効果顔料またはゴールドブロンズ効果顔料は高い耐食性を有しているが、その理由は、二酸化ケイ素コーティングのバリヤー効果によって、水またはその他の腐食性物質の顔料表面における移行が防止されるからである。
【0006】
SiOコーティングは、穏やかで環境に優しいゾルゲルプロセスで実施されるが、その反応は塩基による触媒作用を受ける(A.Kiehl,K.Greiwe Progr.in org.Coatings 37(1999),179〜183)。ゾルゲルプロセスを使用してSiOコーティングされた市販されているメタリック効果顔料は、Eckartからの、Hydrolan(登録商標)(アルミニウム効果顔料)およびDorolan(登録商標)(ゴールドブロンズ効果顔料)である。その他の市販されているSiOコーティングされたアルミニウム効果顔料としては、たとえば、Emeral(登録商標)(Toyo,Japan製)、Aquamet(登録商標)(Schlenk,Germany製)、およびSilbercote(登録商標)(Silberline,USA製)などが挙げられる。
【0007】
SiOコーティングされたアルミニウム効果顔料が有するガス発生安定性は、一般的には充分なものである。ガス発生安定性が充分であるということは、水の影響下でも、水による攻撃に対してアルミニウムが比較的有効に保護されているために、水素の発生が一般的に実質的に存在しないということを意味している。しかしながら、ガス発生安定性は、アルミニウム効果顔料が暴露される周囲条件にも依存する。
【0008】
場合によっては、極めて微細な粒子サイズ帯域、したがって大きな比表面積(すなわち、メタリック効果顔料の単位重量あたりの表面積)を有しているメタリック効果顔料の場合、ガス発生安定性において望ましくない変動が起こりうる。しかしながら、従来技術から公知のSiOコーティングされたアルミニウム効果顔料の不透明性は、出発材料と比較したり、クロメート処理された顔料と比較したりすると、顕著に低下する。
【0009】
二酸化ケイ素を用いて基材をコーティングするためには、従来技術において本質的であるとみなされている二つの方法が存在する。第一の方法はアルカリ金属シリケートを使用するものであって、アルカリ金属シリケートが触媒的加水分解によってシラノールに変換され、次いでその後に融合されて無機ネットワークを形成する(R.K.Iler et al US 2885366,1959;R.K.Iler“The Chemistry of Silica”,1979)。
【0010】
第二の方法は、ゾルゲルプロセスを使用するものであって、アルコキシシランから出発し、それを触媒作用の下で水と反応させてシラノールおよびアルコールを生成させる。アルコキシシランを使用する、従来のアルミニウム効果顔料のゾルゲルコーティングにおいては、パウダーの形態にある出発顔料をアルコール系の相の中に分散させ、次いでアルコキシシラン、水、および少なくとも1種の塩基性もしくは酸性の触媒を、熱を同時に加えながら、添加する。
【0011】
テトラエトキシシラン化合物の加水分解に伴って、Si(OH)4−y(OCHCH(y=0〜3)の組成のシラノール構造が生成し、それは、重縮合反応に与ることができる。その反応の過程において、二酸化ケイ素のコンパクトなネットワークが顔料の表面上に発展し、顔料粒子を完全に被包する。さらに、顔料表面の上に新たに沈降した二酸化ケイ素コーティングを特別にさらなる表面変性にかけることも可能である。たとえば、少なくとも1個の非加水分解性置換基を有するシラン、たとえばアルキルシランを、SiOコーティングを適用した後に添加して、in situで加水分解させることも可能であって、少なくとも1個の非加水分解性置換基を有するシランが、顔料表面上の二酸化ケイ素層に対しておよびその上にさらなる縮合反応によって堅固に固定される。冷却し、溶液を吸引除去した後に得られるフィルターケーキを減圧下に乾燥させ、目的とする用途に供給することができる。
【0012】
US 2,885,366 Aには、金属酸化物を用いて表面安定化された製品を製造するための基本的な方法が開示されており、この製品が、SiOコーティングされたメタリック効果顔料からなるようにするのも可能である。
【0013】
塩基性触媒を使用し、反応性配向助剤を用いてコーティングされた効果顔料を製造するための基本的な方法は、DE 198 20 112 A1に記載されている。
【0014】
SiOコーティングされたアルミニウム効果顔料を含む水性ベースコート材料は、EP 1 332 714 A1に開示されている。
【0015】
WO 2004/026268 A2にも同様に、化粧品のための腐食安定性メタリック効果顔料を製造するための方法が開示されているが、それには適切な触媒を使用するゾルゲルプロセスによって、SiOコーティングを有するアルミニウムのコアを得ることが含まれる。その特許出願においては、触媒作用そのものについてのより詳細な記述は無い。
【0016】
EP 1 756 234 B1は、水性コーティング組成物を製造するための方法に関するものであって、それには、少なくとも1種の水混和性の塗膜形成剤と、少なくとも1層の無機腐食保護層を備えたアルミニウム効果顔料が含まれている。このアルミニウム効果顔料は、ゾルゲルプロセスによって形成された少なくとも1層のSiO層を有している。この特許からは、腐食に対する安定性についての詳細は明らかではない。
【0017】
US特許 US 7,419,538 B2には、微小板形状のアルミニウム効果顔料を製造するためのプロセスが開示されているが、その顔料は、リン酸および/またはホウ酸を用いて前処理がされ、次いで、水中でのゾルゲルプロセスによってSiO層が与えられている。この方法を用いると、コーティング操作の過程で塩基性触媒が使用される。
【0018】
EP 1 619 222 A1は、触媒として、有機塩基、たとえばエタノールアミン、または有機もしくは無機酸、たとえば硫酸もしくはシュウ酸を使用して、モリブデンコーティングおよび/またはSiOコーティングを備え、水性インキを目的としたアルミニウム効果顔料を製造するためのプロセスに関する。
【0019】
EP 1 953 195 Aには、多層コーティングを適用することによる、アルミニウム効果顔料を安定化させるための方法が開示されている。この場合、リン化合物またはモリブデン化合物を用いて前処理した顔料を、酸触媒的もしくは塩基触媒的なゾルゲル合成法により、二酸化ケイ素を用いて被包し、次いで別な工程で、有機ポリマーマトリックスを用いて被覆している。
【0020】
WO 03/095564 A1は、その中に組み入れた極性の有機溶媒を用いて干渉色を呈するコーティングを有するゴニオクロマチック光沢顔料を製造するためのプロセスに関する。このゴニオクロマチック光沢顔料を製造するためには、その顔料粒子、たとえば、腐食安定化させたアルミニウム効果顔料を、まず、低屈折率の誘電体層、たとえば二酸化ケイ素を用いてコーティングし、次いで反射性コーティングを備えさせる。アルミニウム効果顔料の二酸化ケイ素を用いた湿式化学コーティングは、塩基性のpH範囲で実施される。
【0021】
最後に、JP 2004124069 Aには、水性の応用システムのための、二酸化ケイ素でコーティングされたアルミニウム効果顔料を、塩基性触媒を使用して製造するためのプロセスが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
しかしながら、メタリック効果顔料をSiOコーティングするための公知のプロセスには欠点があって、その欠点とは、その方法を用いて得られるメタリック効果顔料では、必ずしも(特に極めて微細なメタリック効果顔料の場合には)、充分な腐食安定性、より具体的にはガス発生安定性を確実に得ることができないことである。さらには、SiOコーティングの結果として、通常、不透明性が明らかに損なわれる。
【0023】
本発明の目的は、腐食に関して安定化され、改良された性能特性を示すメタリック効果顔料、より具体的にはアルミニウム効果顔料を提供することである。その意図は、具体的には、向上した不透明性および/またはガス発生安定性を示すメタリック効果顔料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明がその上に基礎をおく目的は、パウダー、ドライプロダクトまたはペーストの形態にあるメタリック効果顔料を提供することにより達成されるが、そこでは、酸化ケイ素層の中および/もしくは上に、ならびに/またはペーストの溶媒の中に、
0.01%〜1重量%の有機および/または無機酸
ならびに
0.01%〜1重量%の有機および/または無機塩基
が存在している(ここで、重量%の数値は、顔料の全重量を基準にしたものである)。
【0025】
好適な展開法は、従属請求項2〜5において明示されている。
【0026】
本発明のさらなる目的は、向上した不透明性およびガス発生安定性を特徴とする、メタリック効果顔料、より具体的にはアルミニウム効果顔料をコーティングするための方法を提供することである。
【0027】
本発明がその上に基礎をおく目的はさらに、酸化ケイ素を用いてメタリック効果顔料をコーティングするための方法を提供することによって達成されるが、ここで、有機溶媒中のアルコキシシラン(単一または複数)および/またはシリコンハライド(単一または複数)を、メタリック効果顔料の存在下に水と反応させるが、その反応には、少なくとも2段の工程が含まれ、(a)その反応を、第一の工程において酸を添加し、そして第二の工程において塩基を添加して実施するか、または(b)その反応を、第一の工程において塩基を添加し、そして第二の工程において酸を添加して実施する。
【0028】
好適な展開法は、従属請求項7〜15において明示されている。
【0029】
本発明の目的はさらに、請求項1〜5のメタリック効果顔料を、化粧品、プラスチック、ならびにコーティング組成物、好ましくはインキ、印刷インキ、塗料、およびパウダーコーティング材料に使用することによっても達成される。
【0030】
最後に、本発明の目的はさらに、物品を提供することによっても達成されるが、その物品には請求項1〜5のメタリック効果顔料が含まれている。
【0031】
本発明の方法においては、アルコキシシラン(単一または複数)および/またはシリコンハライド(単一または複数)を、有機溶媒または溶媒混合物の中で、存在している、および/または添加した水によって加水分解する。加水分解の結果として、ケイ素原子上にOH基が生成する(シラノール基とも呼ばれる)。水を放出することによってシラノール基が縮合して、Si−O−Siネットワークが生成する。次いでこのSi−O−Siネットワークがゾル/ゲルの形態でメタリック効果顔料の上に沈降し、その結果、それが酸化ケイ素、好ましくはSiOによって、包み込まれるかまたは被包される。
【0032】
本発明者らは、驚くべきことには、少なくとも2段の工程法によって酸化ケイ素、好ましくはSiOを用いてコーティングされたメタリック効果顔料が、向上した性能特性を示すことを発見した。この2段工程法は、各種の触媒に基づくものであって、酸性触媒作用工程および塩基性触媒作用工程を含む。
【0033】
現時点では、この驚くべき効果の背後に横たわっているものはまだ明らかになっていない。pHに依存して、アルコキシシランのアルコキシ基(単一または複数)および/またはシリコンハライドのハライド(単一または複数)がシラノール基(単一または複数)となる加水分解速度の、シラノール基が相互に縮合してSi−O−Si結合を生成する速度に対する比率が変化する。
【0034】
本発明の一つの好ましい変法においては、アルコキシ基(単一または複数)の加水分解が、主として酸(単一または複数)の添加と共に起きる。この変法においては、pHは、pH3〜7、好ましくはpH4〜6.5の範囲内であるのが好ましい。pH4.5〜pH6のpH範囲もまた極めて適切である。
【0035】
この変法の一つの好ましい展開法においては、生成したシラノール基が縮合してSi−O−Si結合を生成するのは、主として塩基の添加と共に起きる。この場合におけるpHは、好ましくはpH7を超えpH11まで、より好ましくはpH7.5〜pH10のpH範囲内である。pH8〜pH9.5の範囲内のpHが極めて適切であることも判明した。
【0036】
本発明の一つの変法においては、コーティングの際にpHを連続的にグラジエントさせることも可能である。この場合においては、そのpHを、相当する試薬を連続的に添加することによって、連続的に酸性から塩基性へと変化させるのが好ましい。
【0037】
さらに好ましい実施態様においては、酸を添加した加水分解の工程と、塩基を添加した縮合の工程の間に、pHのジャンプが存在している。第一の工程と第二の工程の間のpHの差は、好ましくは0.3〜4pH単位、より好ましくは0.5〜3pH単位、さらにより好ましくは0.7〜2pH単位の範囲内である。
【0038】
本発明の方法のこの例外的に好ましい実施態様においては、その反応が、第一の工程における酸性触媒作用と、第二の工程における塩基性触媒作用を用いて起きる。ここでの反応スキーム(I)は以下のとおりである。
【0039】
【化1】

【0040】
酸および塩基はそれぞれがめいめいに触媒的に作用して、シラノール基への加水分解の反応速度、および/または酸化ケイ素ネットワーク、好ましくは二酸化ケイ素ネットワークにおけるSi−O−Si結合を生成させるシラノール基の縮合の反応速度に影響する。この場合、その第一の工程においては、アルコキシシランの加水分解が起きてシラノールが生成し(Ia)、そして第二の工程において、シラノールの縮合(Ib)が、好ましくは動力学的に起きる。
【0041】
【化2】

【0042】
ゾルゲルプロセスに関しては、まず酸性触媒作用によって、シラノール基の割合がほんのわずかしかない、直鎖状および/または環状および/または梯子状のシロキサンオリゴマーが生成するということが公知である。その理由は、モノマー性のアルコキシシランの加水分解速度に比較して、オリゴマー性のアルコキシシランの加水分解速度が低いという点にある。塩基性触媒作用の場合においては、対照的に、高いシラノール含量を有する三次元のシロキサンオリゴマー構造が優先的に形成される。この場合、モノマー性アルコキシシランの加水分解速度に比較して、オリゴマーの加水分解速度の方が高く、さらに縮合速度も高い。
【0043】
シラノール基が急速に縮合してSi−O−Si結合を生成する場合においては、小さな粒子径を有するメタリック効果顔料が不都合に堆積または沈降し、それと同時に、より大きい粒子径を有するメタリック効果顔料の表面上に酸化ケイ素、典型的にはSiOが急速に生成する。したがって、より小さい粒子径を有するメタリック効果顔料が、より大きい粒子径を有するメタリック効果顔料の酸化ケイ素被覆の中に被包される。
【0044】
これには二つの欠点がある:良好な不透明性(隠蔽力)、すなわち、顔料の単位重量あたりで隠蔽される基材の表面積に関しては、メタリック効果顔料の調製において、小さな粒子径を有するメタリック効果顔料の割合(微細画分とも呼ばれる)が極めて重要な因子である。
【0045】
メタリック効果顔料は、通常、粒子サイズ分布のある形で存在している。粒子サイズ分布の幅が広くなるにつれて、メタリック効果顔料の不透明性が高くなる。メタリック効果顔料、好ましくはアルミニウム効果顔料の微細画分は、たとえばサイズ分布曲線の累積分布のD10によって特徴付けられる。サイズ分布曲線は、典型的には、レーザー粒度測定法によって求められる。
【0046】
メタリック効果顔料調製物の微細画分が、初期段階の酸化ケイ素と共に、より大きな粒子径を有するメタリック効果顔料の上に沈降することによって減少した結果として、酸化ケイ素でコーティングされたメタリック効果顔料調製物の不透明性が低下する。
【0047】
第二の欠点は、酸化ケイ素を用いてコーティングされたメタリック効果顔料調製物のメタリック光沢が低下することである。より大きい顔料径を有するメタリック効果顔料の上に微細画分の沈降が起きたために、まったく単純にエッジの割合が増大することによって、入射光の散乱の程度が大きくなる。この効果は、メタリック効果顔料の光沢に対しては特に有害である。
【0048】
本発明の方法のこの第一の変法の場合においては、メタリック効果顔料の上への酸化ケイ素の沈降が遅いが、その理由はおそらく、シラノール基の生成が遅いためであろう。多分、酸化ケイ素の沈降がより遅いことを考慮すれば、メタリック効果顔料調製物の微細画分が同伴されることなく、かわりに、別途に酸化ケイ素コーティングされ、従って不透明性およびメタリック光沢に悪影響を与えないのであろう。
【0049】
方法の第二の工程においては、メタリック効果顔料が酸化ケイ素、好ましくはSiOの第一の層でコーティングされた後で、塩基を添加して、酸化ケイ素、好ましくはSiOの第二の層が次いで適用される。
【0050】
驚くべきことには、第二の工程において塩基を添加した後では、より大きい粒子径を有するメタリック効果顔料に、またはその上に、小さな粒子径を有するメタリック効果顔料の集塊が実質的に起きない、好ましくは集塊がまったく起きない。この効果は、第一の酸化ケイ素コーティングを有するメタリック効果顔料表面の被覆に起因する可能性があると考えられる。
【0051】
驚くべきことには、さらに、ゾルゲルプロセスとも呼ぶことが可能な、本発明の方法においては、従来技術において典型的に使用される純粋に塩基性の手順における場合と同じ量の酸化ケイ素、好ましくはSiOを用いてメタリック効果顔料をコーティングするが、ただし実際のところ、その反応は、酸性であるかもしくは酸性化した反応溶液中で開始され、そして好ましくはpHグラジエント法によって、より酸性度が低いか、中性か、または塩基性の範囲で終了する。
【0052】
特に、従来技術から、塩基を用いた触媒作用でアルミニウム効果顔料表面の上に二酸化ケイ素を沈降させると、層の形成と収率が改良されるのは明らかであるという事実(たとえば、EP 1 619 222 A1、EP 1 953 195 A1)を考慮すれば、このことはあてはまっており、これが、従来技術では主として塩基性触媒を使用している理由である(A.Kiehl,K.Greiwe,Progr.in org.Coatings 37(1999),179〜183)。
【0053】
驚くべきことには、本発明においては、もっぱら酸性のpH範囲において操作を実施する場合、従来技術、たとえばEP 1 953 195 A1においては明白に除外されていた、pH4〜7のpH範囲で操作することが可能である。
【0054】
したがって、驚くべきことには、酸化ケイ素、好ましくはSiOを用い、本発明のゾルゲル法によってコーティングされたメタリック効果顔料は、酸化ケイ素を用いて従来からのゾルゲル法によってコーティングされたメタリック効果顔料の不透明性に比較して、改良された不透明性を有していることが見出された。
【0055】
反応スキーム(II)に従う第二の方法の変法の場合においては、第一の工程において塩基性触媒作用が、次いで第二の工程において酸性触媒作用が機能する。
【0056】
【化3】

【0057】
驚くべきことには、この方法経路でも同様に、本発明のメタリック効果顔料の場合では、向上した不透明性が得られる。
【0058】
一つの好ましい実施態様においては、塩基性触媒を添加した後に、第二の工程において使用される酸性触媒が迅速に添加される。このことは、塩基性触媒を添加する時刻を基準にして、添加のための時期が、好ましくは15分〜4時間、より好ましくは20分〜2.5時間、さらにより好ましくは30分〜1.5時間であるということを意味している。第二の方法の変法の一つの実施態様においては、pHを、酸を添加することによって塩基性から酸性へと連続的に変化させてもよい。第二の方法の変法のまた別な好ましい実施態様の場合においては、酸を添加することによってpHのジャンプが起きる。第一の工程と第二の工程の間のpHの差は、好ましくは0.3〜4pH単位、より好ましくは0.5〜3pH単位、さらにより好ましくは0.7〜2pH単位の範囲内で設定する。
【0059】
いずれの方法の変法においても、触媒として使用する酸および/または塩基は、原則として同一である。
【0060】
酸としては、有機酸および/または無機酸を使用することができる。有機酸が特に好ましい。
【0061】
本発明において酸性触媒として使用される有機酸(単一または複数)には、好ましくは1〜8個のC原子、より好ましくは1〜6個のC原子、極めて好ましくは1〜4個のC原子が含まれる。
【0062】
これらの酸の有機基には、直鎖状、環状または分岐状のアルキル、アルケニル、アリール、およびアラルキル基が含まれていてよい。
【0063】
それらの酸は、一塩基酸、二塩基酸、または三塩基酸であってよく、一塩基酸または二塩基酸が特に好ましい。
【0064】
8個を超えるC原子では、一般的にはその酸強度が低すぎ、また立体的遮蔽性が強すぎて、効果的な触媒として使用できない。
【0065】
一つの好ましい変法においては、酸性触媒として使用される有機酸が、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、コハク酸、前述の酸の無水物、およびそれらの混合物からなる群より選択される。ギ酸、酢酸またはシュウ酸、さらにはそれらの混合物を使用するのが特に好ましい。
【0066】
本発明のさらなる変法においては、本発明において酸性触媒として使用される無機酸が、好ましくは、硝酸、硫酸、リン酸、塩酸、ホウ酸、フッ化水素酸、およびそれらの混合物からなる群より選択され、この場合、硝酸および/またはフッ化水素酸を使用するのが特に好ましい。
【0067】
塩基性触媒は、好ましくは有機塩基、より好ましくはアミンである。対象となるアミンは、一級、二級または三級であってよい。
【0068】
さらに好ましい実施態様においては、アミンが、1〜8個、より好ましくは1〜6個、極めて好ましくは1〜5個のC原子を有している。8個を超えるC原子を有するアミンは、しばしば立体的な嵩が高すぎて、効果的な触媒として使用できない。
【0069】
本発明の一つの好ましい変法においては、アミンが以下のものからなる群より選択される:ジメチルエタノールアミン(DMEA)、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン(EDA)、tert−ブチルアミン、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピリジン誘導体、アニリン、アニリン誘導体、コリン、コリン誘導体、尿素、尿素誘導体、ヒドラジン誘導体、およびそれらの混合物。
【0070】
塩基性のアミン触媒としては、エチレンジアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、またはそれらの混合物を使用するのが特に好ましい。
【0071】
塩基性触媒としてさらに好ましいものは、以下のものからなる群より好ましくは選択されるアミノシランである:3−アミノプロピルトリエトキシシラン(AMEO)、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(AMMO)、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン(DAMEO)、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(DAMO)、N−2−アミノエチル−3−アミノメチルプロピルトリエトキシシラン、トリアミノ官能性トリメトキシシラン(Silquest A−1130)、ビス(ガンマ−トリメトキシシリルプロピル)アミン(Silquest A−1170)、N−エチル−ガンマ−アミノイソブチルトリメトキシシラン(Silquest A−Link15)、N−フェニル−ガンマ−アミノプロピルトリメトキシシラン(Silquest Y−9669)、4−アミノ−3,3−ジメチルブチルトリメトキシシラン(Silquest Y−11637)、N−シクロヘキシルアミノメチルメチルジエトキシシラン(GENIOSIL XL924)、(N−シクロヘキシルアミノメチル)トリエトキシシラン(GENIOSIL XL926)、(N−フェニルアミノメチル)トリメトキシシラン(GENIOSIL XL973)およびそれらの混合物。
【0072】
塩基性触媒として、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(AMEO)、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(AMMO)、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン(DAMEO)、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(DAMO)またはそれらの混合物を使用するのが特に好ましい。
【0073】
塩基性触媒として、少なくとも1種のアミンと少なくとも1種のアミノシランの混合物を使用することもまた可能であるのは、言うまでもないことである。
【0074】
無機塩基は、以下のものからなる群より選択するのが好ましい:アンモニア、ヒドラジン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、およびそれらの混合物。
【0075】
この場合においては、アンモニアおよび/またはヒドラジンを使用するのが特に好ましく、アンモニアを使用するのがとりわけ好ましい。
【0076】
酸化ケイ素は、好ましくはSiOである。ゾルゲルプロセスによって製造されるSiOが非晶質であることは公知である。それは、かなりの割合の結合水を有している。この水は、SiOの内部に挟み込まれていてもよい。さらに、酸化ケイ素には、ある割合で、加水分解されていないアルコキシ基が含まれる。
【0077】
酸化ケイ素、好ましくはSiOを製造するには、アルコキシシランを使用するのが好ましい。
【0078】
本発明において使用されるアルコキシシランには、好ましくは、ジ−、トリ−および/またはテトラアルコキシシランが含まれる。テトラアルコキシシランが特に好ましい。テトラアルコキシシランを使用する場合、加水分解の結果として4個のシラノール基が生成するが、それらは、縮合によって、高度の架橋、すなわち、良好なバリヤー効果を有する酸化ケイ素コーティング、好ましくはSiOコーティングを作り出す。ジ−またはトリアルコキシシランを使用する場合には、したがって、加水分解によって2個または3個のシラノール基が生成し、それらが縮合してSi−O−Siネットワークを生成することが可能である。ジ−またはトリアルコキシシランを使用すれば、酸化ケイ素コーティングの中に、有機基、たとえばアルキル基、またはポリマーを導入して、無機−有機ハイブリッド層を形成させることが可能となる。ジ−またはトリアルコキシシランは、オルガノシロキサンとも呼ぶことができる。
【0079】
本発明におけるアルコキシシランは、少なくとも1個のアルコキシ基を有する各種のモノマー性もしくはポリマー性ケイ素化合物である。使用するのに有利なテトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、およびそれらの縮合物またはこれらの混合物が挙げられる。
【0080】
テトラアルコキシシランとして使用するのに特に有利なものは、テトラエトキシシランおよび/またはテトラエトキシシランのオリゴマーである。
【0081】
アルコキシシラン(単一または複数)、好ましくはテトラアルコキシシラン(単一または複数)を使用すると特に有利なのは、塩が生成しないことである。このことは、環境的、およびゾルゲル反応の際に起こりうる集塊過程のいずれに関しても有利であるが、その理由は、塩が、顔料粒子の静電的安定化を妨害するからである。
【0082】
また別な利点は、シリコンハライドを使用した場合とは対照的に、ハライド、たとえばクロライドイオンの放出がないことにある。ハライドイオンは、知られているように、金属の腐食を促進する可能性がある。
【0083】
本発明において使用されるシリコンハライドには、好ましくは、ジ−、トリ−および/またはテトラシリコンハライドが含まれる。シリコンテトラハライドが特に好ましい。ジ−、トリ−および/またはテトラアルコキシシランに関連して先に挙げたコメントが、同様に適用される。
【0084】
本発明におけるシリコンハライドは、少なくとも1個のハライド基を有する各種のモノマー性もしくはポリマー性ケイ素化合物である。
【0085】
使用されるシリコンハライドがテトラシリコンハライドであれば好ましい。使用されるテトラシリコンハライドは、好ましくはテトラシリコンフルオライド、テトラシリコンクロライド、テトラシリコンブロマイド、テトラシリコンアイオダイドもしくはそれらの混合物、またはこれらの化合物の混合ハライドである。
【0086】
ワンポット操作で反応を実施するのが好ましい。この場合においては、撹拌しながらメタリック効果顔料を有機溶媒の中に分散させ、好ましくはその反応混合物の温度を上げ、水を添加する。次いで、第一の触媒、すなわち方法の変法に応じて酸または塩基を添加し、第一の反応時間が経過してから、第二の触媒、すなわち方法の変法に応じて塩基または酸を添加する。第二の反応時間の間、その混合物をこの条件下に置いておく。次いで、場合によっては、表面変性剤を添加することも可能である。その混合物を好ましくは室温にまで冷却し、コーティングされたメタリック効果顔料のほとんどを溶媒から分離して、メタリック効果顔料のフィルターケーキを形成させる。
【0087】
従来から採用されてきた、メタリック効果顔料の塩基性ゾルゲルコーティングの実質的な欠点は、得られるコーティングされたメタリック効果顔料の性能特性、特に適用媒体中、たとえば顔料処理された水性塗料中での隠蔽力および腐食安定性に関する性能特性が欠けていたり、バランスが崩れていたりすることである。
【0088】
知られているように、水性適用媒体中におけるメタリック効果顔料、より具体的にはアルミニウム効果顔料の部分における腐食安定性が不充分であると、水との反応が起こり、水素が発生し、そのメタリック効果顔料は破壊される。わずかな腐食であっても、光学的性質、より具体的には鏡面光沢が損なわれる。
【0089】
顔料処理された媒体の不透明性または隠蔽力とは、基材における色または色の差を隠すための顔料処理された媒体の能力を意味している(DIN 55987)。
【0090】
メタリック効果顔料、より具体的にはアルミニウム効果顔料の光学的外観については、顔料処理された用途における一つの重要な光学的評価判定基準は、その顔料の粒子サイズおよびその分布(粒子サイズ分布として知られている)である。
【0091】
メタリック効果顔料調製物、より具体的にはアルミニウム効果顔料調製物の光学的外観を特徴付ける隠蔽力(または不透明性)は、粒子サイズ分布の幅が拡がるほど増大するが、その理由は、その場合、微細画分の量が次第に多くなっているからである。一般的に言って、隠蔽力または不透明性は、そのメタリック効果顔料調製物中のメタリック効果顔料の微細さが増すほど、向上する。
【0092】
メタリック効果顔料は、D50が好ましくは2〜75μm、より好ましくは2〜30μm、特に好ましくは2.5〜20μm、極めて好ましくは2.5〜12μmの粒子サイズ分布を有している。従来からの製品の場合には、メタリック効果顔料が微細であるほど、コーティングしていないその出発材料に比較して、不透明性の損失が大きくなる。驚くべきことには、本発明のメタリック効果顔料は、特にこれらの比較的微細な顔料の場合において、改良された不透明性を示す。
【0093】
本発明の方法において出発顔料として使用するメタリック効果顔料は、アルコキシシラン、好ましくはテトラアルコキシシランを含む溶媒混合物の中に分散させるのが好ましいが、この混合物は、有機溶媒と場合によっては水からなっているか、またはそれらを含む。有機溶媒の中にメタリック効果顔料を分散させ、場合によってはその分散体を加熱して反応温度とした後に、酸性触媒、好ましくは有機もしくは無機酸(単一または複数)を添加するのが好ましい。加水分解のために必要とされる水は、有機溶媒の中に予め存在していてもよいし、あるいは時間的に後になってから添加してもよい。
【0094】
次いで、本発明の方法の第二の工程をスタートさせるために、メタリック効果顔料、アルコキシシラン、好ましくはテトラアルコキシシラン、水、および酸(単一または複数)を含む反応混合物の中に、有機または無機塩基(単一または複数)を塩基性触媒として導入する。
【0095】
使用される有機溶媒は、好ましくは、アルコール、グリコール、エステル、ケトン、およびこれらの溶媒の混合物である。アルコールもしくはグリコールまたはそれらの混合物を使用するのが特に好ましく、アルコールを使用すればとりわけ好ましい。
【0096】
アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、tert−ブタノール、n−ブタノール、イソブチルアルコール、ペンタノール、ヘキサノール、またはそれらの混合物を使用するのが有利である。
【0097】
エタノールおよび/またはイソプロパノールを使用するのが特に好ましい。
【0098】
グリコールとしては、ブチルグリコール、プロピルグリコール、エチレングリコール、またはそれらの混合物を使用するのが有利である。
【0099】
20℃から、それぞれの溶媒または溶媒混合物の沸点までの範囲内の温度で、存在している反応混合物を反応させるのが好ましい。その反応温度が、50℃から、それぞれの溶媒または溶媒混合物の沸点より好ましくは5℃下の温度までの範囲内であれば、特に好ましい。好ましい反応温度範囲は、75℃〜82℃の間の温度範囲である。
【0100】
本発明の方法の第一の工程および/または第二の工程のための反応時間は、それぞれの場合において、2〜20時間、より好ましくは3〜8時間の範囲内に設定するのが好ましい。
【0101】
本発明の方法を使用して酸化ケイ素、好ましくはSiOを用いてコーティングされたメタリック効果顔料、好ましくはアルミニウム効果顔料には、場合によっては、特定の末端用途に合わせた表面変性を施してもよい。この表面変性は、たとえば、シランを含んでいてもよいし、あるいはシランからなっていてもよい。
【0102】
表面変性アルミニウム効果顔料の例は、たとえばDE 198 20 112 A1に広範囲にわたって記載されている(該特許の内容は、参照することにより本明細書に取り入れたものとする)。
【0103】
本発明に従って製造された顔料は、SiOコーティングされたメタリック効果顔料(金属フレークとも呼ばれる)であって、それらは、好ましくは、アルミニウム、鉄、亜鉛、スズ、銀、金、ステンレス鋼、銅、黄銅(ゴールドブロンズ)、チタン、ならびにこれらの金属の合金および混合物からなる群より選択される。メタリック効果顔料は、アトマイズ金属パウダーを摩砕するか、またはPVD法(PVD;物理蒸着)によって得ることが可能な微小板形状の金属顔料である。メタリック効果顔料は、好ましくは1μm〜200μm、より好ましくは5μm〜150μmの範囲の平均粒子径を有している。
【0104】
メタリック効果顔料が、アルミニウム、鉄、銅または黄銅(ゴールドブロンズ)であるのが好ましく、アルミニウムであればより好ましい。
【0105】
アルミニウム効果顔料は、「コーンフレーク」タイプであっても、あるいは「シルバードル」タイプであってもよい。
【0106】
DE 103 157 15 A1およびDE 10 2006 062271の開示内容に従ったアルミニウム効果顔料を使用するのが特に有利である(それらの特許の内容は、参照することにより本明細書に取り入れたものとする)。これらのようなアルミニウム効果顔料は、“Platindollar(登録商標)”または“Silvershine(登録商標)S”としても認知されており、それらは湿式研磨によって製造され、平均厚みや厚み分布のような顔料の性質に関しては、PVDアルミニウム効果顔料にほとんど匹敵する。
【0107】
PVDアルミニウム効果顔料とは対照的に、これらの湿式研磨によって得られる、“Platindollar”または“Silvershine”アルミニウム効果顔料は、PVDアルミニウム効果顔料の場合のような、完全に平坦な表面は有していない。PVDアルミニウム効果顔料は、さらに、比較的直線的な破断エッジを有しているが、それに対して湿式研磨によって得られるアルミニウム効果顔料は、不規則な形状の周縁領域(摩滅周縁領域とも呼ばれる)を有している。
【0108】
特に有利には、DE 10315715 A1およびDE 102006062271に開示されているように、走査型電子顕微鏡による厚み計測で測定して15nm〜100nm未満の平均厚みh50と、走査型電子顕微鏡による厚み計測で測定して30%〜140%の厚み分布の相対幅Δh(相対度数の相当する累積度数曲線に基づき、式Δ=100×(h90−h10)/h50に従って計算する)を有するメタリック効果顔料、好ましくはアルミニウム効果顔料を使用することが可能である。
【0109】
累積度数曲線は、累積篩下曲線とも呼ばれている。
【0110】
さらに好ましい実施態様は、PVDメタリック効果顔料、好ましくはPVDアルミニウム効果顔料に関していて、それは、本発明の方法によって酸化ケイ素を用いてコーティングされて、本発明のメタリック効果顔料を与えることができる。
【0111】
酸化ケイ素、好ましくはSiOを用いてコーティングされ、場合によっては表面変性された、メタリック効果顔料、好ましくはアルミニウム効果顔料は、反応混合物から分離され、次いでその目的とする用途へと送ることができる。たとえば、本発明のメタリック効果顔料は、パウダーまたはペーストとしてさらに加工することも可能であり、次いで、インキ、印刷インキ、塗料、プラスチック、化粧品などの中に導入することができる。
【0112】
本発明はさらに、パウダー、ドライプロダクトまたはペーストの形態にある、酸化ケイ素を用いてコーティングされたメタリック効果顔料も提供するが、それは、以下の事実で特徴づけられる:酸化ケイ素層の中および/もしくは上、ならびに/またはペーストの溶媒の中に、
0.01%〜1重量%の有機および/または無機酸
ならびに
0.01%〜1重量%の有機および/または無機塩基
が存在している(ここで、重量%の数値は、顔料の全重量を基準にしたものである)。
【0113】
本発明のドライプロダクトは、たとえば、粒状物、ペレット、ソーセージ状物、タブレット、ブリケットなどの形態をとってもよい。そのドライプロダクトは、低ダストまたはダストフリーなメタリック効果顔料調製物の形態をとってもよい。この場合の残存水分含量は、0.5%から29重量%まで、好ましくは1%から24重量%まで、より好ましくは3%から14重量%まで、さらにより好ましくは4%から9重量%までの範囲であってよいが、これらの数値は、それぞれの場合においてドライプロダクトの全重量を基準にしたものである。ドライプロダクトには、好ましくは、バインダー、一般的に有機ポリマー(単一または複数)および/または樹脂(単一または複数)、ならびにさらに、場合によっては、添加剤(単一または複数)がさらに含まれる。ドライプロダクト中のバインダーの量は、それぞれの場合においてドライプロダクトの全重量を基準にして、好ましくは0.5%〜20重量%、より好ましくは1%〜5重量%の範囲である。
【0114】
この場合の酸および/または塩基は、少なくとも部分的にイオンの形態、たとえば塩の形態にあってもよい。塩基はさらに、少なくとも部分的に、酸性のシラノール基(Si−OH)を有する塩の形態にあってもよい。
【0115】
これらの特性は、本発明の方法の必然の結果である。有機および/もしくは無機酸の濃度ならびに有機および/もしくは無機塩基の濃度が、互いに独立して、顔料の全重量を基準にして、特に好ましくは0.015%〜0.5重量%、極めて好ましくは0.015%〜0.2重量%である。本発明の2段工程の方法では、酸および/または酸アニオンだけではなく、塩基もまた酸化ケイ素層の中および/もしくは上に位置する。これらの成分は、酸化ケイ素層の中に吸着された、および/または包み込まれた触媒残渣である。
【0116】
酸および塩基は、主としてSiO層の中に位置しているのが好ましい。本発明のメタリック効果顔料がペーストの形態にあるならば、酸および/または塩基は、主としてこのペーストの溶媒中に存在していてもよい。したがって、ペーストの溶媒が、最初には主としてSiO層の中に存在している酸および/または塩基を、その層から浸出させてもよい。このことが起こりうるのは、特に、本発明のメタリック効果顔料をある程度の期間貯蔵した後であって、その後の酸および/または塩基のSiO層の上への表面吸着が可能である場合である。
【0117】
本発明の場合のペーストは、本発明においてコーティングされたメタリック効果顔料と、溶媒を含む混合物であって、ペーストを基準にして、メタリック効果顔料の量が好ましくは5%〜80重量%、そしてメタリック効果顔料と溶媒の量が好ましくは少なくとも95重量%である。
【0118】
その性質、より具体的には酸化ケイ素でコーティングされたメタリック効果顔料の比表面積およびさらには表面特性、そして恐らくは溶媒の性質によって、その調製物は、ドライ調製物またはペーストの形態をとってもよい。
【0119】
ペースト中のメタリック効果顔料の量はその比表面積に極めて大きく左右される。たとえばPVD顔料のように100nm未満の平均厚みを有する極めて薄いメタリック効果顔料をペーストの形態にすることを希望しているのであれば、この目的のためには、極めて高い溶媒の割合が必要である。したがって、そのような顔料の量は、ペーストの全重量を基準にして、好ましくは5%〜30重量%、より好ましくは10%〜20重量%である。このようなペーストは常に、後にメタリック効果顔料を適用するための前駆製品としてみなすべきである。
【0120】
100nmを超える平均厚みを有するより厚いメタリック効果顔料では、それぞれの場合においてペーストの全重量を基準にして、20%を超えて80重量%まで、好ましくは30%〜75重量%、より好ましくは50%〜70重量%のメタリック顔料含量であれば、一般的には充分である。
【0121】
ペーストにはさらに、たとえば添加剤のような、さらなる成分を含んでいてもよい。しかしながら、これが最終適用物(配合物)ではないので、さらなる成分の割合は低い。したがって、ペースト中のメタリック効果顔料および溶媒の量は、それぞれの場合においてペーストを基準にして、好ましくは少なくとも97重量%、より好ましくは少なくとも98重量%である。
【0122】
ペースト中に存在している溶媒は、好ましくは、塗料および印刷インキ業界ではなじみのある溶媒である。本発明のメタリック効果顔料の主たる最終用途が水性の塗料または印刷インキであるので、特に好ましいペーストは、ペースト中の溶媒が、水を含むか、または水からなっているものである。本発明のペーストの水の割合は、ペースト中の溶媒の重量を基準にして、好ましくは20%〜100重量%、より好ましくは30%〜90重量%、極めて好ましくは40%〜80重量%である。このようなペーストは、そのVOCの割合が低いために、環境的な理由から特に好ましい。
【0123】
酸化ケイ素層の中に存在している残余物は、それぞれの場合において、一般的に、1重量%を超えない量である。このことは、先に述べたような反応が有機溶媒と水の混合物の中で起きているという事実に起因すると考えられる。一般的に言って、酸および/または塩基として使用される触媒の大部分は、この溶媒混合物の中に溶解する。したがって、顔料の中に含まれる触媒の割合は、使用した触媒全体のほんのわずかな割合にしか相当しない。
【0124】
有機酸および/またはそのアニオンは、長鎖脂肪酸、すなわち、12〜30個のC原子を有するかまたは14〜22個のC原子を有する飽和もしくは不飽和の脂肪酸を含まない。そのような脂肪酸は、メタリック顔料を研磨する際の潤滑剤として使用される。したがって、製造プロセスの結果として、研磨によって製造されたメタリック効果顔料ならばいずれも、これらの脂肪酸を含んでいるであろう。SiOコーティング操作の間に、金属の表面に結合していた脂肪酸のほとんどが脱離される。しかしながら、ある程度の割合で脂肪酸がSiO層の中に組み入れられたり、あるいは、コーティング手順が終わった後に顔料表面の上に吸着されていたりするかもしれない。
【0125】
しかしながら、酸強度が低いため、および立体的遮蔽性が高いために、これらの長鎖脂肪酸は、ゾルゲル法におけるSiO層を形成させるための触媒としては使用されない。
【0126】
したがって、本発明においては、酸化ケイ素層の中および/もしくは上に前述の比率で存在している酸および塩基は、ゾルゲルプロセスにおいて酸化ケイ素を堆積させるための触媒として使用されるもののみを含むと理解されたい。
【0127】
好ましい酸または塩基は、すでに先に述べたような化合物である。
【0128】
塩基性触媒としてのアミノシランの場合においては、これらは、バインダーに対してメタリック効果顔料を効果的に付着させることを目的とした、表面変性剤としても一般的に使用されているということに注意してほしい。しかしながら、その目的のためには、メタリック効果顔料を基準にして少なくとも1重量%の量で通常使用される。
【0129】
塩基および/または酸の分析的な検出は、ガスクロマトグラフィーおよび質量分析によって実施するのが好ましい。この場合においては、好ましい方法では、コーティングされたメタリック効果顔料を適切な有機溶媒の中に加え、超音波浴中で室温または少し高い温度で少なくとも15分間処理し、内部標準としてのたとえばヘキサデカンと混合する。遠心分離によって固形物を除去し、その上澄み溶液をガスクロマトグラフのための注入溶液として使用する。上澄み溶液は、場合によっては、検出すべき酸または塩基の濃度があまりにも低すぎるようならば、適切な方法で濃縮してもよい。
【0130】
検出すべき酸および/または塩基が不明な場合には、好ましくはGC/MSによって、定性検出を行う。この場合、中程度の極性のカラムを使用するのが好ましい。DB5と呼ばれるこうしたカラムは、典型的には、5%のジフェナールと95%のジメチルポリシロキサンを充填したものである。検出すべき物質が既知であるのならば、ガスクロマトグラフィーによってそれを定量的に測定することができる。この場合においては、無極性のカラムを使用するのが好ましい。当業者に公知の通常の方法で、キャリブレーションを行う。DB1と呼ばれるこうしたカラムは、典型的には、100%のジメチルポリシロキサンで充填されている。適切な検出系は、水素炎イオン化検出器(FID)である。ガスクロマトグラフをセットするための的確なパラメーター(たとえば、カラム長さおよび太さ、カラム圧力など)は、当業者には公知である。
【0131】
使用するガスクロマトグラフは、好ましくは、GC/FID Autosystem XL(Perkin Elmer製)である。
【0132】
酸および塩基は、さらに、他の質量分析法、たとえばTOF−SIMSによって測定してもよい。この場合においては、SiO層の中に存在している触媒の残存量も同様に測定できるようにするためには、サンプルを連続的にスパッター除去する必要があってもよい。その方法は、塩基性触媒としてアミノシランが使用される場合に好適に採用することが可能であるが、その理由は、このアミノシランが、もともとSiO層に対して共有結合的に結合されていて、抽出によってはSiO層から浸出しないからである。
【0133】
本発明における酸化ケイ素を用いてコーティングされたメタリック効果顔料は、化粧品、プラスチック、およびコーティング組成物、好ましくはインキ、印刷インキ、塗料またはパウダーコーティング材料において用途を見出している。この場合においては、水性塗料、水性印刷インキまたは化粧品が特に好ましい。
【0134】
本発明における酸化ケイ素を用いてコーティングされたメタリック効果顔料は、通常の方法で、それらのそれぞれの適用媒体に組み入れられる。次いで、そのように顔料処理された適用媒体を用いて物品をコーティングしてもよい。前記物品としては、たとえば、車両のボディ、建築用の化粧面素材などが挙げられる。
【0135】
プラスチックの場合においては、本発明のメタリック顔料を、着色のために、適用媒体の中に大量に組み入れてもよい。その物品は、本発明による酸化ケイ素を用いてコーティングされたメタリック効果顔料を有している、および/または含んでいる。
【0136】
以下の実施例および図1を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、それらによって本発明が限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】本発明実施例1〜3および比較例4〜6に従ってコーティングされたアルミニウム効果顔料、ならびに比較としてのコーティングしていない出発顔料であるStapa Metallux 3580(比較例7)の隠蔽力(不透明性)を示す図である。
【0138】
本発明実施例1:
市販の、Eckart GmbH,Hartenstein,Germany製のSTAPA METALLUX 3580シリーズのアルミニウム効果顔料ペースト(サイズ分布;d10=7.5μm、d50=12.1μm、d90=18.7μm:固形分含量;ペーストの全重量を基準にして60重量%)150gを、400mLのエタノールの中に室温で分散させた。30分後に、30gのテトラエトキシシランおよび54gの水中の2.0gのシュウ酸を、その混合物を78℃に加熱しながら、3時間かけて連続的に添加し、さらにその温度で、コンディショニングを行った。さらなる添加はせずに、さらに2時間の撹拌時間の後、そのバッチをさらに3時間撹拌し、1時間ごとに、13gのイソプロパノール中の1.0gのエチレンジアミン(EDA)の溶液を添加した。ゾルゲル反応終了後の有機化学的アフターコーティングのために、1.2gのDynasylan AMMO(Degussa AG,Rheinfelden,Germanyから入手可能)を添加し、そのバッチを1時間撹拌した。次いでその反応混合物を冷却して室温とし、ブフナーロートを通して吸引濾過した。
【0139】
カルボン酸および/またはアミンの残存量の定量:
カルボン酸は、ガスクロマトグラフィーにより、内部標準を使用して測定した。この目的のために、コーティングされたメタリック効果顔料ペーストのサンプルを、カルボン酸測定の場合には所定量のアセトンの中に、アミン測定の場合には所定量のエタノールの中に加え、次いで超音波浴の中で15分間処理し、内部標準としてのヘキサデカンを混合した。遠心分離によって固形物を除去し、その上澄み溶液を、ガスクロマトグラフ(GC/FID Autosystem XL(Perkin Elmer))のための注入溶液として使用した。カルボン酸含量は、以下の概略パラメーターを用いて分析した。
カラム:30m OV101 0.53mm
温度プログラム:45℃1分間等温、5℃/分で180℃
注入ボード:250℃
検出器:320℃
【0140】
EDAの定量:
サンプルは上記と同様にして調製した。ガスクロマトグラフ(GC/FID Autosystem XL(Perkin Elmer))で、以下の概略パラメーターを適用した。
カラム:30m OV101 0.53mm
温度プログラム:75℃、10℃/分で200℃
注入ボード:250℃
検出器:320℃
【0141】
コーティングされたアルミニウム顔料の重量を基準にして、それぞれ0.02重量%のシュウ酸およびEDAが検出された。
【0142】
本発明実施例2:
市販の、Eckart GmbH,Hartenstein,Germany製のSTAPA METALLUX 3580シリーズのアルミニウム顔料ペースト(サイズ分布;d10=7.5μm、d50=12.1μm、d90=18.7μm:固形分含量;ペーストの全重量を基準にして60重量%)150gを、400mLのエタノールの中に室温で分散させた。30分後に、30gのテトラエトキシシランおよび30gの水中の1.0gの酢酸を添加し、その混合物を加熱して78℃とし、その温度でさらにコンディショニングを行った。さらに2時間の撹拌時間の後、24gの水中の1.0gの酢酸のさらなる混合物を添加した。さらに2時間の撹拌時間の後、そのバッチをさらに3時間撹拌し、1時間ごとに、13gのイソプロパノール中の1.0gのエチレンジアミンの溶液を添加した。ゾルゲル反応終了後の有機化学的アフターコーティングのために、1.2gのDynasylan AMMO(Degussa AG,Rheinfelden,Germanyから入手可能)を添加し、そのバッチを1時間撹拌した。次いでその反応混合物を冷却して室温とし、ブフナーロートを通して吸引濾過した。
【0143】
その顔料中の酢酸およびEDAの残存量を、前述の方法によって測定した。コーティングされたアルミニウム顔料の重量を基準にして、それぞれ0.02重量%の酢酸およびEDAが検出された。
【0144】
本発明実施例3:
市販の、Eckart GmbH,Hartenstein,Germany製のSTAPA METALLUX 3580シリーズのアルミニウム顔料ペースト(サイズ分布;d10=7.5μm、d50=12.1μm、d90=18.7μm:固形分含量;ペーストの全重量を基準にして60重量%)150gを、400mLのエタノールの中に室温で分散させた。30分後に、30gのテトラエトキシシランおよび13gのイソプロパノール中の1.0gのエチレンジアミンの溶液を添加し、その混合物を加熱して78℃とし、その温度でコンディショニングを行った。その混合物をまず2時間撹拌し、その後で、13gのイソプロパノール中の1.0gのエチレンジアミンの溶液をその混合物に添加した。1時間後に、その混合物に30分かけて連続的に、54gの水中の2.0gのシュウ酸の溶液を添加した。ゾルゲル反応終了後の有機化学的アフターコーティングのために、1.2gのDynasylan AMMO(Degussa AG,Rheinfelden,Germanyから入手可能)を添加した。得られた顔料混合物を冷却して室温とし、ブフナーロートを通して吸引濾過した。
【0145】
その顔料中のシュウ酸およびEDAの残存量を、前述の方法によって測定した。コーティングされたアルミニウム顔料の重量を基準にして、それぞれ0.02重量%のシュウ酸塩およびEDAが検出された。
【0146】
比較例4:
本発明実施例1〜3で使用した150gのSTAPA METALLUX 3580アルミニウム効果顔料ペーストを、300mLのイソプロパノールの中に室温で分散させた。30分後に、30gのテトラエトキシシランを添加し、その混合物を加熱して78℃とし、その温度でコンディショニングを行った。次いで、27gの水中の1.0gのエチレンジアミンの溶液を添加し、その反応混合物を1時間撹拌した。次いで、その反応混合物に、18.6gのイソプロパノール中の1.0gのエチレンジアミンの溶液を添加し、それを1時間撹拌した。最後に、その反応混合物の中に、18.6gのイソプロパノール中の1.0gのエチレンジアミンの溶液をふたたび導入し、次いでその反応混合物を、78℃で4時間撹拌した。ゾルゲル反応が終了してから、1.2gのDynasylan AMMO(Degussa AG,Rheinfelden,Germanyから入手可能)を添加することによって、有機化学的アフターコーティングを実施した。得られたメタリック効果顔料混合物を冷却して室温とし、ブフナーロートを通して吸引濾過した。
【0147】
使用した出発材料は、比較的大きな微細画分を有するアルミニウム効果顔料であって、これは、従来から公知のSiOコーティング法を用いたのでは、ガス発生安定性のあるようにコーティングすることが極めて困難である。
【0148】
その顔料中のカルボン酸およびEDAの残存量を、前述の方法によって測定した。コーティングされたアルミニウム顔料の重量を基準にして、0.02重量%のEDAが検出された。カルボン酸の量は検出限界(約0.01重量%)よりも低かった。
【0149】
比較例5:
本発明実施例1〜3および比較例4で使用した150gのSTAPA METALLUX 3580アルミニウム効果顔料ペーストを、300mLのイソプロパノールの中に室温で分散させた。30分後に、30gのテトラエトキシシランおよび28gの水中の1.8gの氷酢酸を添加し、その混合物を加熱して78℃とし、その温度でコンディショニングを行った。次いで、その懸濁液を4時間撹拌した。ゾルゲル反応が終了してから、1.4gのDynasylan AMMO(Degussa AG,Rheinfelden,Germanyから入手可能)を添加することによって、有機化学的アフターコーティングを実施した。得られた顔料混合物を冷却して室温とし、ブフナーロートを通して吸引濾過した。
【0150】
その顔料中の酢酸およびEDAの残存量を、前述の方法によって測定した。コーティングされたアルミニウム顔料の重量を基準にして、0.02重量%の酢酸が検出された。EDAの量は検出限界(約0.01重量%)よりも低かった。
【0151】
比較例6:
ここでは、比較例5の手順を繰り返したが、ただし、最初に15mLの水中の1.0gの氷酢酸だけを添加し、次いでその混合物を加熱して78℃とし、その温度でコンディショニングを行った。45分後に、追加の、15mLの水中の1.0gの氷酢酸を添加した。
【0152】
表1に、本発明のゾルゲル法(本発明実施例1〜3)により、および従来からのゾルゲル法(比較例4〜6)によりSiOを用いてコーティングされた、アルミニウム効果顔料(微細度、D50=18〜20μm)の、水性塗料系の中での、ガス発生安定性および不透明性(隠蔽力)に関する性能特性を示す。
【0153】
ガス発生試験:
コーティングされたメタリック効果顔料すべてを、ガス発生試験にかけた。ガス発生試験のためには、8.6gのペーストの形態のコーティングされたAl顔料を、315gの無色水性混合ワニス(ZW42−1100、BASF Wuerzburg)の中に組み込み、ジメタノールエタノールアミンを使用して8.2のpHとした。300gのこの塗料をガス洗浄ビンの中に導入し、これを、二室式ガスバブルカウンターを用いて封じた。ガスバブルカウンターの下側の室の中で置き換えられた水の容積に基づいて、発生したガスの容積を読み取った。ガス洗浄ビンを水浴中、40℃でコンディショニングし、最大30日かけて試験を実施した。30日後に10.5mL以下の水素しか放出しなかった場合、その試験での合格とした。
【0154】
それらの試験結果を表1に示す。
【0155】
不透明性:
本発明実施例および比較例のアルミニウム効果顔料の隠蔽力(不透明性)を評価するために、それらのナイフドローダウン物(Erco Bronzemischlack RE2615 Farblos[無色ブロンズ混合ワニス]中、顔料添加量1%〜5重量%、湿膜厚み:50μm)を、市販のブラック/ホワイト不透明性チャート(タイプ24/5、250cm、Erichsen GmbH&Co KG,Hemer−Sundwig)の上に形成させ、次いで、X−Riteから市販されている測定装置を使用し、視角110度、入射光角45度での測色試験にかけた。不透明性の尺度は、不透明性チャートのブラック側からホワイト側へのこの測定角での明度値の比率である。各種のサンプルについてこのパラメーターを、使用した顔料の量の関数として、図1にグラフとしてプロットした。ここではさらに、コーティングしていないアルミニウム効果顔料を比較例7として加えた。測定された明度の比率が数値1に近いほど、不透明性が良好である。数値的尺度として、図1における曲線が、0.8の明度比の値と交差する濃度を採用した(不透明性尺度C0.8)。これらの数値もまた表1に示している。
【0156】
さらに、レーザー粒度測定法を使用して、従来法による、本発明実施例および比較例のアルミニウム効果顔料のサイズ分布の測定を行った。これは、Cilas 1064装置(Cilas,France)を使用して実施した。表1に、相当する累積篩下曲線のd10(微細画分)、d50(平均)、およびd90(粗画分)の慣習上の特性値を示している。これらの数値は、相当球の体積平均値を表している。
【0157】
さらに粒子サイズを、Particle Sizing Systems,Santa Barbara,California,USA製のAccusizerを使用して測定した。この場合には、数平均の評価が得られ、これは体積平均の場合よりも、顔料分布中の微細画分がより鮮明に強調されるが、より大きな粒子を過大評価することになるのは言うまでもない。それらの測定から、1gあたりに測定される全粒子数を計算することができる。このパラメーターもまた表1に示す。
【0158】
これらのデータを求めるための手順は以下のとおりである。
Accusizer 780APSの中で測定するために、濾過をした約100gのイソプロパノールの中にサンプル量を分散させた。この場合のサンプル量は、粒子濃度が約2000粒子/1mLになるように選択した。均質な懸濁液が形成されたら、超音波浴中で2分間かけてその溶液を分散させ、その直後に、以下の設定条件としたAccusizer 780APS中で測定にかけた。
希釈剤流速:60mL/分
データ集積時間:60秒
シリンジポンプ:3方向ポート
フローポンプ定常速度係数:1030
【0159】
サンプル1グラムあたりの粒子の数は、次式により計算した。
【0160】
【数1】

【0161】
【表1】

【0162】
表1から、本発明のゾルゲル法により製造したアルミニウム効果顔料(本発明実施例1〜3)の方が、従来からのゾルゲル法により製造したアルミニウム効果顔料(比較例4〜6)よりも、極めて良好なガス発生安定性と共に実質的により高い隠蔽力を有していることが明らかである。比較例5(酸性触媒作用)におけるアルミニウム効果顔料の不透明性は、本発明実施例3の本発明のアルミニウム効果顔料と同等であった。しかしながら、この場合においては、ガス発生安定性がなかった。これはおそらくは、比較例6の顔料の場合と同様に、その顔料のSiO含量が比較的低い(これはゾルゲル反応における変換率が比較的低いことを示唆している)ためであろう。(本発明)実施例1および2のアルミニウム効果顔料は、最良の不透明性と最良のガス発生安定性を有していた。
【0163】
これは明らかに、最初に酸性媒体中、次いで塩基性媒体中で、酸化ケイ素コーティングのためのゾルゲル作用を触媒することによって本発明の目的が最適に達成されるということを示している。
【0164】
Accusizer測定によって求めた1gあたりの粒子数は、不透明性尺度C0.8と極めて良好な相関がある。存在している粒子数が多い程、不透明性が高くなる。これらのサンプルの場合、存在している微細画分が明らかに増えている。
【0165】
このことは、Cilas 1064によるサイズ分布のd10値には不完全にしか反映されていない。明らかにこの方法は、本来的に微細画分を無視しているために、そのような差を検出するには、あまり適切ではない。
【0166】
本発明の方法によって製造されたコーティングされたアルミニウム効果顔料が改良された不透明性と同時に極めて良好なガス発生安定性を示す理由は正確には解明されていないが、本発明の手順の場合においては、アルコキシシランおよび/またはシリコンハライドがゆっくり加水分解することから判断して、最初にコンパクトなSiO層がゆっくりと成長し、第一には、ガス発生安定性の高い酸化ケイ素のコーティングが形成される効果、そして第二には、メタリック効果顔料調製物の微細画分が、より大きい顔料径(粒子径)を有するメタリック効果顔料の上にはもはや沈降しないという効果があると考えられる。次いで塩基(単一または複数)を添加すると、驚くべきことには、不透明性を維持しながら、反応が調節されて加速する;別の言い方をすれば、酸化ケイ素コーティングをすでに備えているメタリック効果顔料調製物の微細画分が、より大きい粒子径を有するメタリック効果顔料にはもはや結合されない。
【0167】
本発明のゾルゲル法によって製造された酸化ケイ素でコーティングされたアルミニウム効果顔料における不透明性(隠蔽力)とガス発生安定性の間の良好なバランスは、恐らくは、SiOコーティングにも関わらず、驚くべきことには、ほとんどの微細画分が分離されたまま残っており、そのために不透明性が顕著に改良されるという事実に起因すると考えられる。
【0168】
実験結果の評価をまとめると、本発明のゾルゲル法によりSiOを用いてコーティングされたアルミニウム効果顔料は、従来からのゾルゲル法によりSiOを用いてコーティングされたアルミニウム効果顔料に比較して、良好なガス発生安定性と共に不透明性(隠蔽力)の面で顕著に良好に改良された性能特性を有していると言えよう。
【0169】
したがって、本発明において製造されたアルミニウム効果顔料は、水性塗料系、水性インキおよび水性印刷インキのみならず、典型的には同様に水を含んでいる化粧品においても、特別な利点を有して使用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パウダー、ドライプロダクトまたはペーストの形態にある、酸化ケイ素でコーティングされたメタリック効果顔料であって、
酸化ケイ素層の中および/もしくは上に、ならびに/またはペーストの溶媒の中に、
0.01%〜1重量%の有機および/または無機酸、ならびに
0.01%〜1重量%の有機および/または無機塩基
(ここで、重量%の数値は、顔料の全重量を基準にしたものである)
が存在していることを特徴とする、メタリック効果顔料。
【請求項2】
有機酸が、1〜8個のC原子を含むことを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載のメタリック効果顔料。
【請求項3】
有機酸が、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、コハク酸、前述の酸の無水物、およびそれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする、請求項2に記載のメタリック効果顔料。
【請求項4】
塩基がアミンであることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載のメタリック効果顔料。
【請求項5】
アミンが、ジメチルエタノールアミン(DMEA)、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン(EDA)、tert−ブチルアミン、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピリジン誘導体、アニリン、アニリン誘導体、コリン、コリン誘導体、尿素、尿素誘導体、ヒドラジン誘導体、およびそれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする、請求項4に記載のメタリック効果顔料。
【請求項6】
メタリック効果顔料の存在下に有機溶媒中のアルコキシシラン(単一または複数)および/またはシリコンハライド(単一または複数)を水と反応させて、酸化ケイ素を用いてメタリック効果顔料をコーティングするための方法であって、
反応が、
(a)反応を、第一の工程において酸を添加し、第二の工程において塩基を添加することによって実施するか、
または
(b)反応を、第一の工程において塩基を添加し、第二の工程において酸を添加することによって実施するか、
の少なくとも2段の工程を含むことを特徴とする、方法。
【請求項7】
酸が有機酸であり、そして1〜8個のC原子を含むことを特徴とする、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
有機酸が、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、コハク酸、前述の酸の無水物、およびそれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
酸が、好ましくは硝酸、硫酸、リン酸、塩酸、ホウ酸、フッ化水素酸、およびそれらの混合物からなる群より選択される無機酸であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
塩基が有機塩基、好ましくはアミンであり、好ましくは、ジメチルエタノールアミン(DMEA)、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン(EDA)、tert−ブチルアミン、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピリジン誘導体、アニリン、アニリン誘導体、コリン、コリン誘導体、尿素、尿素誘導体、ヒドラジン誘導体、およびそれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする、請求項6〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
塩基が、無機塩基であり、好ましくは、アンモニア、ヒドラジン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、およびそれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする、請求項6〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
反応が、ワンポット反応で実施されることを特徴とする、先行する請求項6〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
テトラアルコキシシランとして、テトラエトキシシランおよび/またはテトラエトキシシランのオリゴマーを使用することを特徴とする、先行する請求項6〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
メタリック効果顔料が、アルミニウム、鉄、亜鉛、スズ、銀、金、ステンレス鋼、銅、黄銅(ゴールドブロンズ)、チタン、およびそれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする、先行する請求項6〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
適用された酸化ケイ素コーティングを、次いで有機化学的変性にかけることを特徴とする、先行する請求項6〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
請求項1〜5に記載のメタリック効果顔料の、化粧品、プラスチック、ならびにコーティング組成物、好ましくはインキ、印刷インキ、塗料、およびパウダーコーティング材料における使用。
【請求項17】
物品であって、物品が、請求項1〜5に記載のメタリック効果顔料を有するか、および/または含むことを特徴とする、物品。

【図1】
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【公表番号】特表2013−518948(P2013−518948A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−551551(P2012−551551)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【国際出願番号】PCT/EP2011/000514
【国際公開番号】WO2011/095341
【国際公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(502099902)エッカルト ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (48)
【氏名又は名称原語表記】Eckart GmbH
【Fターム(参考)】