説明

Snめっき付き銅合金端子及びその製造方法

【課題】両面Snめっきした銅合金板をプレス打抜き加工して製造する基板用のピン端子について、はんだ付け性を後めっきすることなく改善する。
【解決手段】両面にSnめっき層を有する銅合金板1をプレス打抜き加工して所定幅の端子部2を形成した後、その幅方向両側(幅wの部分)を上下からプレス圧縮加工して、端面にせん断切り口面と伸ばし加工された圧縮加工部5bを有する端子部5を形成し、続いて圧縮加工部5bをプレスせん断加工により切除して端子部6を形成する。前記プレス圧縮加工は、前記せん断切り口面のせん断面が、ダレ部から引き延ばされたSnめっき層で被覆されるように行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等に搭載される各種機器の電気接続に使用される端子に関し、特にはんだ付けが必要な基板用の端子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されているように、基板用ピン端子は、銅合金板にSnめっきを施した後、プレス加工(打抜き)によって角線材断面(矩形断面)に形成される。そして、この端子は基板を貫通してはんだ付けされる。
【0003】
【特許文献1】特開2000−243495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、プレス打抜き加工を行うことにより端子の端面(せん断切り口面という)は素材が露出し、特に破断面は素材が引きちぎられた結果生じたディンプル形状をしており、経時によるCuの酸化が促進され酸化膜が厚く成長する。このため、はんだ付け時のフラックスによる酸化膜除去が十分とならないために、はんだと素材との反応が生じ難く、はんだ濡れ性が劣化するという問題があった。
そのため、打抜き加工を施した後にSnめっきを施す、即ち後めっきを施すことで、素材が露出した端面をSnめっきで被覆し、はんだ付け性を維持させる方法が通常とられている。しかし、後めっきを施すことでコストが高くなるという問題がある。
【0005】
本発明は上記問題に鑑み、各種電子部品用のめっき付き銅合金端子において、後めっきすることなくはんだ付け性を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るめっき付き銅合金端子は、上下両表面にSnめっき層を有する銅合金板から形成され、両端面がせん断切り口面からなり、その一部が前記両表面から連続するSnめっき層により被覆されていることを特徴とする。なお、本発明においてSnめっきは純Sn及びSn基合金めっきを含む。
より具体的にいえば、前記両端面が表裏両面に続く上下の第1せん断切り口面とその間に形成された第2せん断切り口面からなり、前記第1せん断切り口面の一部又は全部が前記両表面から連続するSnめっき層により被覆されている。前記第1せん断切り口面は上下からのプレス圧縮加工により形成することができ、前記第2せん断切り口面は続いて行われるプレスせん断加工により形成することができる。さらに具体的にいえば、前記第1せん断切り口面がダレ部とせん断面からなり、前記せん断面の一部又は全部がダレ部から引き延ばされたSnめっき層で被覆されている。
【0007】
上記端子は、上下両表面にSnめっき層を有する銅合金板をプレスせん断加工して所定幅の端子素材を形成した後、その幅方向両側を上下からプレス圧縮加工して端面にせん断切り口面(前記第1せん断切り口面に相当)と伸ばし加工された圧縮加工部を形成し、このとき前記せん断切り口面の一部又は全部を前記Snめっき層で被覆し、続いて前記圧縮加工部をプレスせん断加工により切除することにより製造することができる。望ましくは前記せん断切り口面をダレ部とせん断面からなるものとし、前記せん断面の一部又は全部をダレ部から引き延ばされたSnめっき層で被覆する。
なお、表面被覆層を有する板材をプレスせん断加工する際にせん断面の一部が表面被覆層により被覆される現象自体は公知であり、それを積極的に利用してせん断切り口面の全部又は大部分を被覆するせん断被覆加工法も存在する。本発明はプレスせん断加工におけるこの現象を利用したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、端子の端面において素材の露出面積を減少させる(相対的にSn層の被覆面積を増加させる)ことにより、Cu酸化膜の成長を抑制し、はんだ付け性を向上させることができる。
本発明に係る端子ははんだ付け性が必要とされる端子、特に車載電装品等に使用される基板用ピン端子に適しており、後めっきを施すことなく基板との良好な接合性を維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図1〜5を参照して、本発明に係るSnめっき付き銅合金端子及びその製造方法について説明する。
図1はピン端子の製造方法を示すもので、次の工程からなる。
(1)プレスせん断加工;両面にSnめっきを施した銅合金板1(又は条)に対し、プレスせん断加工(打抜き加工)を施し、所定幅の端子部2を形成(この例では3個並列に形成)する。なお、3は打抜かれた箇所、4は端子部同士を連結する帯状の連結部である。
(2)プレス圧縮加工;端子部2の幅方向両側の所定幅(幅w)の部分について上下からプレス圧縮加工し、端面にせん断切り口面と伸ばし加工された圧縮加工部を形成する。これにより本体部5aと圧縮加工部5bからなる端子部5が形成される。
(3)プレスせん断加工;プレスせん断加工により圧縮加工部5bを本体部5aから切除し、端子部6を形成する。
(4)プレスせん断加工;必要に応じて端子部6に成形加工を加えた後、プレスせん断加工により端子部6を連結部4から切り離す。
【0010】
プレスせん断加工(プレス打抜き加工)して得られた端子部2の断面は、図2に示すように略角形であり、銅合金素材7の上下両表面がSnめっき層8により被覆されている。端子部2の端面9(プレス打抜き加工により形成された端面であり、以後せん断切り口面9という)には、上からダレ部11、せん断面12、及び破断面13が形成されている。ダレ部11は、銅合金板1に打抜き工具(パンチ)の刃先が食い込むとき、銅合金板1の自由面が塑性変形したものであり、せん断面12は、銅合金板1に食い込んだ工具(パンチ)の側面によりバニッシュされ平滑化した面であり、破断面13は銅合金素材7が割れて分離した面で、ディンプル状となっている。ダレ部11を被覆するSnめっき層8は、打抜き工具の側面でバニッシュされ下方に引き延ばされて、この例ではせん断面12の大部分を薄く被覆している(14はせん断面12を被覆するSnめっき層である)。
【0011】
プレス打抜き加工しただけの破断面13はディンプル形状をしており、せん断面12とは形態が異なり、かつSnめっき層14により被覆されていない。そのため、破断面13において露出した銅合金素材7は経時により酸化し、はんだ濡れ性を劣化させる要因となる。
なお、せん断面12及び破断面13の面積比率(せん断/破断率)は、打抜き時のクリアランス(パンチとダイの隙間)に依存する。クリアランスが小さい方がせん断/破断率が大きく、破断面13の面積が少なくなる。また、余りにクリアランスが小さいと、Snめっき層14による被覆面積率が小さくなる。ただし、この段階でせん断面12をSnめっき層14で被覆する必要はない。
【0012】
端子部2の両側の部分(図1において幅wの部分)を上下からプレス圧縮加工して、端子部5を成形したときの状態を図3に示す。このプレス圧縮加工は、ちょうどプレスせん断加工を上下方向から挟むように行い、かつせん断を途中で停止したものと考えることができる。このプレス圧縮加工により、端子部5の端面にせん断切り口面15と伸ばし加工された圧縮加工部5bが形成される。なお、図3において、16はパンチ、17はダイス、18はストリッパーである。
図3においてプレス圧縮加工して得られた端子部5の断面をみると、本体部5aと圧縮加工部5bからなる。端子部5の端面は、上下のせん断切り口面15と中央部の圧縮加工部5bからなり、せん断切り口面15はダレ部19とせん断面20からなる。せん断面20は端子部2に食い込んだパンチ16の側面によりバニッシュされ平滑化した面であり、ダレ部19を被覆するSnめっき層8が同じくバニッシュされ引き延ばされてせん断面20を被覆している(21はせん断面20を被覆するSnめっき層である)。なお、この例ではプレス圧縮加工(せん断面のみに着目すればせん断被覆加工相当)によりせん断面20の全体がSnめっき層21により被覆され、それが望ましいのであるが、Snめっき層8の厚さやパンチ16の打ち込み距離Lの大きさ等により、せん断面20の一部がSnめっき層21により被覆されず(被覆率が100%に満たず)、せん断面20の一部に銅合金素材7が露出する場合もあり得る。圧縮加工部5bの上下表面はSnめっき層22(Snめっき層8が伸ばし加工されて薄くなったもの)により被覆されている
【0013】
端子部5の圧縮加工部5bを、プレスせん断加工により本体部5aから切除するときの状態を図4に示す。図4において、23はパンチ、24はダイス、25はストリッパーであり、パンチ23が下降することで圧縮加工部5bがせん断切除される。
図5はプレスせん断加工後の端子部6の断面図であり、端子部6の端面はせん断切り口面15(第1せん断切り口面)とせん断切り口面26(第2せん断切り口面)からなる。せん断切り口面15はダレ部19とせん断面20からなり、この例ではせん断面20の全体がSnめっき層21により被覆されている。せん断切り口面26は、前記せん断切り口面9と同様に、ダレ部、せん断面及び破断面からなり、ダレ部及びせん断面の一部がSnめっき層により被覆されている。
【0014】
銅合金素材7は酸化しやすく、酸化が進行しすぎると、端子と基板とを接合させる際のはんだ付け時に使用されるフラックスで酸化膜を除去しきれず、はんだ付け性を劣化させてしまう。すなわち端子と基板との接合信頼性を劣化させる。しかし、前記端子部6の場合、せん断切り口面15において、ダレ部19がSnめっき層8により被覆され、かつせん断面20の少なくとも一部、望ましくはせん断面20全体がSnめっき層21により被覆され、さらに、せん断切り口面26においても、ダレ部及びせん断面の一部がSnめっき層により被覆されている。従って、端子部6では、従来のように単に打抜き加工されただけのものに比べ(図2の端子部2参照)、端面における銅合金素材7の露出面積が減少し(相対的にSnめっき層による被覆面積が増加し)、銅合金素材7の酸化を防ぎ、はんだ付け性を改善して、接合信頼性を向上することができる。
【0015】
本発明に係るはんだ付け性に優れる端子は、Snめっきを施した銅合金板から形成されるが、このSnめっきは、光沢Snめっき、半光沢Snめっき、無光沢Snめっき、リフローSnめっき、溶融Snめっきを含む。また、本発明でいうSnめっきはSn基合金(Snが50質量%以上)めっきを含み、例えばSn−Ag合金めっき、Sn−Cu合金めっき、Sn−Bi合金めっき、Sn−Zn合金めっきを用いることができる。
本発明に係るはんだ付け性に優れる端子は、最上層をSnめっきとする多層めっきが形成されたものでもよい。この場合、Snめっきの下地層には例えばNiめっき、Coめっき、Ni−Coめっき、Cuめっき等が施される。
それぞれのめっき厚さは、Snめっきは0.5μm以上、10μm以下が望ましく、下地めっきを行う場合、その厚さは1μm以下程度が望ましい。Snめっきが0.5μm未満でははんだ濡れ性が劣化し、10μmを超えるとはんだ濡れ性は維持できるが表面性状が十分でない。一方、下地めっき層は1μmを超えると端子成形時の曲げ加工性に劣る。
そのほか本発明は、Snめっき層の下にリフロー処理等によりCu−Sn合金層が形成されたもの(例えば特開平10−60666号公報参照)、さらにその下にNiめっき層が形成されたもの(例えば特開2002−226982号公報、特開2004−68025号公報参照)、このような多層めっきにおいて表面に凹凸が形成されたもの(例えば特開2006−77307号公報参照)、さらに凹凸表面にSnフラッシュめっきを施したものなど、種々の多層めっきが形成されたものにも適用できる。
【0016】
本発明に使用される銅合金素材は、Cu−Fe−P系、Cu−Fe系、Cu−Mg系、Cu−Ni−Si系、Cu−Cr系、Cu−Ni−P系、Cu−Ni−Sn系等が使用できる。
本発明に係る端子の接合に用いられるはんだは、Sn−Pbはんだ、Pbを含まないPbフリーはんだ(Sn−Ag−Cu、Sn−Ag、Sn−Ag−Cu−Bi、Sn−Zn、Sn−Cu等)のいずれでも使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】順送りでプレス加工されるSnめっき付き銅合金板の平面図、及び各加工工程において成形された端子部の拡大断面図(下段)である。
【図2】プレス打抜き加工後の端子部の断面図である。
【図3】プレス圧縮加工後の端子部の断面形状及びプレス圧縮加工による成形方法を説明する断面図である。
【図4】プレスせん断加工による成形方法を説明する断面図である。
【図5】プレスせん断加工後の端子部の断面図である。
【符号の説明】
【0018】
2,5,6 端子部
5b 圧縮加工部
7 銅合金素材
8,14,21 Snめっき層
9,15,26 せん断切り口面
11,19 ダレ部
12,20 せん断面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下両表面にSnめっき層を有する銅合金板から形成されたSnめっき付き銅合金端子において、両端面がせん断切り口面からなり、その一部が前記両表面から連続するSnめっき層により被覆されていることを特徴とするSnめっき付き銅合金端子。
【請求項2】
前記両端面が表裏両面に続く上下の第1せん断切り口面とその間に形成された第2せん断切り口面からなり、前記第1せん断切り口面の一部又は全部が前記両表面から連続するSnめっき層により被覆されていることを特徴とする請求項1に記載されたSnめっき付き銅合金端子。
【請求項3】
前記第1せん断切り口面が上下からのプレス圧縮加工により形成され、前記第2せん断切り口面が続くプレスせん断加工により形成されたものであることを特徴とする請求項2に記載されたSnめっき付き銅合金端子。
【請求項4】
前記第1せん断切り口面がダレ部とせん断面からなり、前記せん断面の一部又は全部がダレ部から引き延ばされたSnめっき層で被覆されていることを特徴とする請求項2又は3に記載されたSnめっき付き銅合金端子。
【請求項5】
上下両表面にSnめっき層を有する銅合金板をプレスせん断加工して所定幅の端子素材を形成した後、その幅方向両側を上下からプレス圧縮加工して端面にせん断切り口面と伸ばし加工された圧縮加工部を形成し、このとき前記せん断切り口面の一部又は全部を前記Snめっき層で被覆し、続いて前記圧縮加工部をプレスせん断加工により切除することを特徴とするSnめっき付き銅合金端子の製造方法。
【請求項6】
前記せん断切り口面がダレ部とせん断面からなり、前記せん断面の一部又は全部をダレ部から引き延ばされたSnめっき層で被覆することを特徴とする請求項5に記載されたSnめっき付き銅合金端子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−251293(P2008−251293A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−89690(P2007−89690)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】