説明

SnO−P2O5−B2O3系分相ガラス

【課題】SnO、P、Bを主成分とするガラスであって、低温軟化特性を有するとともに、モールドプレス成形、接合、封着、封止、焼結等の加熱される過程を経ても化学耐久性が劣化せず、さらに長期間に亘って使用しても化学耐久性の劣化が少ないガラスを提供する。
【解決手段】SnO、P、Bを含有し、相対的にB含有量が高い第一の相と相対的にB含有量が低い第二の相から構成されるSnO−P−B系分相ガラスであって、第一の相がAl、MgO、CaO、SrO、BaOのうち少なくとも1種を合量で0.5モル%以上含有することを特徴とするSnO−P−B系分相ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SnO、P、Bを主成分とし、化学耐久性に優れた低融点のSnO−P−B系分相ガラスに関する。詳細には、軟化点を超える温度でのモールドプレス成形、接合、封着、封止、焼結等の加熱過程を経た後にも、化学耐久性が劣化することのないSnO−P−B系分相ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、モールドプレス用光学ガラスや、ガラス、セラミックス、金属等の各種材料の接合材料、および電子部品の封着、封止用材料等の用途で、種々の非鉛系低融点ガラスが開発されている。さらに近年では、白色LED等の半導体発光素子デバイスとして、非鉛系低融点ガラス粉末と蛍光体粉末からなる材料をガラス粉末の軟化点以上の温度で焼成し、焼結させることで、ガラスマトリクス中に蛍光体粉末を分散させた蛍光体複合部材が提案されている。これらの用途で使用されるガラスについては、軟化温度またはガラス転移温度が低いことと化学耐久性が高いことが重要な特性として要求されている。
【0003】
モールドプレス用光学ガラスは、光モジュール等の光通信用レンズ、CD、MD、DVD等の各種光ディスクシステムのピックアップレンズ、ミラー基板、その他様々な光学素子として、従来から広く利用されている。
【0004】
モールドプレス成形は、一般に以下の手順によって行なわれる。まず、溶融ガラスを適当な形状に成形した後、表面を研磨し、洗浄することによってプリフォームガラスを得る。続いて、加熱した金型にプリフォームガラスを投入し、プレス成形して光学部品を作製する。なお、金型は精密に加工されており、金型の表面形状が光学部品に正確に転写される。モールドプレスに使用する金型の材質は、加工性、耐久性等の点から炭化タングステン、クロム、ニッケル等が使用されている。モールドプレス成形は、通常プリフォームガラスのガラス転移温度よりも30〜50℃程度高い温度域で行なわれる。成形温度が高いほど金型が劣化しやすく、金型の寿命を短くする傾向がある。そのため、金型の寿命を延ばして生産性を高めることを目的に、低いガラス転移温度を有する非鉛系低融点ガラスが提案されている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0005】
接合、封着、封止材料の場合、一般に低融点ガラスのガラス転移温度よりも100〜200℃程度高い温度域で焼成が行なわれる。強固な接合を得るためには、接合、封着、封止工程において、低融点ガラスが接合、封着、封止部分の表面を濡らすのに十分な温度まで加熱する必要がある。ところが電子部品の封着、封止においては、電子部品の熱劣化を防止するため、焼成温度をできる限り低く維持しなければならない場合が多く、焼成温度が430〜500℃の低融点ガラスが必要となる。上記の問題を解決するために、鉛成分を含有しなくても従来の低融点ガラスと同等の特性を有するSnO−P−B系低融点ガラスが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
また蛍光体複合部材の場合、低融点ガラスのガラス転移温度よりも30〜50℃程度高い温度域で焼成が行なわれる。白色LED等の半導体発光素子デバイスに使用される蛍光体粉末のなかには耐熱性が低いものもある。このような耐熱性の低い蛍光体粉末は、高温での焼成により劣化しやすく、蛍光体複合部材の発光効率が低下する傾向がある。したがって、当該蛍光体粉末を使用する場合、焼成温度が400℃以下の低融点ガラスが必要となる。そこで、上記問題を解決するために、低温焼成が可能なSnO−P−B系ガラスに蛍光体粉末を分散させる方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−48574号公報
【特許文献2】特開2008−208009号公報
【特許文献3】特開平10−111438号公報
【特許文献4】特開2008−19421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載のガラスはP−Sn−O−F系の低融点ガラスである。当該ガラスにはF源となる原料に多量のSnFが使用されている。そのため、ガラス溶融時においてFが揮発して特性の変動を引き起こしやすく、また環境的配慮から溶融設備外部へのFの飛散を防止する必要がある。さらに、Fを含有するガラスをモールドプレスする場合、金型が劣化しやすくなるという問題がある。
【0009】
特許文献2に記載のガラスは、P、Sbを主成分とする低融点ガラスである。近年、環境問題の観点から、アンチモンおよびその化合物は、その使用を抑制することが好ましいとされている物質であり、将来的にSbが規制の対象となった場合には、当該ガラスを製造できなくなるおそれがある。
【0010】
一方、特許文献3および4に記載のSnO−P−B系ガラスは、環境負荷が懸念される物質を含有しないガラスであるが、ガラス組成の調整によって軟化点を低下させると、化学耐久性が低下しやすくなるという問題がある。特に、SnO−P−B系ガラスは、軟化点以上の温度でモールドプレス成形、接合、封着、封止、焼結等を行なった際には、化学耐久性の低下が顕著に表れる。また、SnO−P−B系ガラスを光学部品、電子部品、蛍光体複合部材に使用した場合、高温多湿の過酷な環境下で長期間に亘って使用し続けると、水分がガラス中に侵入することによってガラスが変質し、光学部品や蛍光体複合部材の光学特性を低下させたり、電子部品の封着、封止性を悪化させ、電子部品の特性を低下させる可能性があった。
【0011】
そこで、本発明の目的は、SnO、P、Bを主成分とするガラスであって、低温軟化特性を有するとともに、モールドプレス成形、接合、封着、封止、焼結等の加熱される過程を経ても化学耐久性が劣化せず、さらに長期間に亘って使用しても化学耐久性の劣化が少ないガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、鋭意検討の結果、特定の二相からなる分相構造を有するSnO−P−B系ガラスとすることにより前記課題を解決できることを見出し、本発明として提案するものである。
【0013】
すなわち、本発明は、SnO、P、Bを含有し、相対的にB含有量が高い第一の相と相対的にB含有量が低い第二の相から構成されるSnO−P−B系分相ガラスであって、第一の相がAl、MgO、CaO、SrO、BaOのうち少なくとも1種を合量で0.5モル%以上含有することを特徴とするSnO−P−B系分相ガラスに関する。
【0014】
本発明者等は、分相構造を有するSnO−P−B系ガラスが、相対的にB含有量が高い第一の相と相対的にB含有量が低い第二の相から構成されていること、さらには、当該第一の相の化学耐久性が低いことが原因となって、ガラス全体としての化学耐久性も低くなっていることを突き止めた。本発明のSnO−P−B系分相ガラスは、相対的にB含有量が高い第一の相にAl、MgO、CaO、SrO、BaOのうち少なくとも1種の成分を合量で0.5モル%以上含有するという特定の分相構造を有しており、これらの成分が第一の相の化学耐久性を高める役割を果たしている。したがって、本発明のSnO−P−B系分相ガラスは、従来のSnO−P−B系ガラスと比較して高い化学耐久性と低温軟化特性を兼ね備えており、これら両特性がガラス転移温度以上の温度でモールドプレス成形、接合、封着、封止、焼結した場合においても悪化しにくいという顕著な効果を奏する。
【0015】
なお本発明において、相対的にB含有量が高い第一の相の組成は、TEM(透過型電子顕微鏡)とそれに付帯したEDX(エネルギー分散型X線分析装置)を用いて求めることができる。この場合、TEM観察によってコントラストの異なる二相を特定し、EDXによって各相における元素の定量分析を行う。
【0016】
あるいは、ガラスを所定温度および所定濃度の希塩酸に所定時間浸漬することによって、相対的にB含有量が高い第一の相を溶出させた後、希塩酸中の溶出成分をICP発光分析法で定量分析することによって求めることができる。
【0017】
第二に、本発明のSnO−P−B系分相ガラスは、第一の相が、B 20〜50%の組成を含有することを特徴とする。
【0018】
第三に、本発明のSnO−P−B系分相ガラスは、第一の相が、モル%表示で、SnO 35〜80%、P 0〜30%、B 20〜50%、Al+MgO+CaO+SrO+BaO 0.5〜10%の組成を含有することを特徴とする。
【0019】
第四に、本発明のSnO−P−B系分相ガラスは、第一の相において、Al 0.5〜10%の組成を含有することを特徴とする。
【0020】
Al、MgO、CaO、SrO、BaOのなかでAlは、相対的にB含有量が高い第一の相の化学耐久性を向上させるのに特に効果的な成分である。したがって、Alを必須成分として0.5〜10%含有することにより、特に化学耐久性に優れたSnO−P−B系分相ガラスが得られやすくなる。
【0021】
第五に、本発明のSnO−P−B系分相ガラスは、モル%表示で、SnO 35〜85%、P 10〜40%、B 1〜20%、Al+MgO+CaO+SrO+BaO 1〜10%の組成を含有することを特徴とする。
【0022】
本発明のSnO−P−B系分相ガラスは、組成を上記範囲に規制することにより、上記組成を有する相対的にB含有量が高い第一の相が得られやすく、化学耐久性に優れたガラスが得られやすい。
【0023】
第六に、本発明のSnO−P−B系分相ガラスは、モル%表示で、Al 1〜10%の組成を含有することを特徴とする。
【0024】
当該構成によれば、相対的にB含有量が高い第一の相がAlを含有する構造を採りやすくなり、化学耐久性に優れたSnO−P−B系分相ガラスが得られやすくなる。
【0025】
第七に、本発明のSnO−P−B系分相ガラスは、軟化点が400℃以下であることを特徴とする。
【0026】
当該構成によれば、既述の各種用途に好適なガラス材料となる。例えば、モールドプレス用光学ガラス用途に用いれば、低温でのモールドプレス成形が可能となり、金型の劣化を抑制することができる。ガラス、セラミックス、金属等の接合材料用途に用いれば、各種材料の接合面を低温で十分に濡らすことができ、強固な接合が可能となる。電子部品の封着、封止用材料等の用途に用いれば、低温で電子部品の封着、封止が可能となり、電子部品の特性の悪化を抑制することができる。蛍光体複合材料用途に用いれば、低温での焼結が可能となり、蛍光体粉末が劣化しにくく、蛍光体複合部材の発光効率が低下しにくい。
【0027】
第八に、本発明は、前記いずれかのSnO−P−B系分相ガラスからなるガラス粉末に関する。
【0028】
本発明のSnO−P−B系分相ガラスを粉末形状で使用すれば、既述の各種用途に好適な材料となる。
【0029】
第九に、本発明は、(1)少なくともSnO、P、Bを含有し、かつAl、MgO、CaO、SrO、BaOのうち少なくとも1種を含有するようにバッチを調合し、原料粉末を得る工程、(2)原料粉末を溶融し、溶融ガラスを得る工程、(3)溶融ガラスを急冷し前駆体ガラスを得る工程、および(4)前駆体ガラスに対してガラス転移温度以上かつ結晶化開始温度を超えない温度で熱処理を行なう工程を含むことを特徴とするSnO−P−B系分相ガラスの製造方法に関する。
【0030】
本発明によれば、既述の特定の分相構造を有するSnO−P−B系分相ガラスを容易に得ることができる。具体的には、溶融急冷法により得られた前駆体ガラスに対し、ガラス転移温度以上かつ結晶化開始温度を超えない温度で熱処理を行なうことにより、SnO−P−B系ガラスの分相を十分に進行させ、相対的にB含有量が高い第一の相と相対的にB含有量が低い第二の相を有するSnO−P−B系分相ガラスとすることができる。同時に、相対的にB含有量が高い第一の相が、選択的にAl、MgO、CaO、SrO、BaOの各成分を多く含む構造とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明のSnO−P−B系分相ガラスは、SnO、P、Bを含有し、相対的にB含有量が高い第一の相と相対的にB含有量が低い第二の相から構成される分相ガラスであって、第一の相にAl、MgO、CaO、SrO、BaOのうち少なくとも1種を合量で0.5モル%以上含有することを特徴とする。
【0032】
ここで、相対的にB含有量が高い第一の相は、モル%表示で、SnO 35〜80%、P 0〜30%、B 20〜50%、Al 0〜10%、MgO 0〜10%、CaO 0〜10%、SrO 0〜10%、BaO 0〜10%、Al+MgO+CaO+SrO+BaO 0.5〜10%の組成を含有することが好ましい。第一の相を当該組成範囲に規制することにより、第一の相の化学耐久性を向上させることができ、結果として、SnO−P−B系分相ガラスの化学耐久性も良好となる。
【0033】
第一の相の組成をこのように限定した理由を以下に説明する。なお、以下の記載において「%」は特に断りのない限り「モル%」を表す。
【0034】
SnOはガラスの骨格を形成して化学耐久性を向上させるとともに、軟化点を下げる成分である。第一の相におけるSnOの含有量は35〜80%、特に40〜60%であることが好ましい。SnOの含有量が35%未満であると、第一の相の化学耐久性が低下する傾向がある。一方、SnOの含有量が70%を超えると、ガラス中にSnに起因する失透ブツが析出し、ガラスの内部透過率が低下しやすくなるとともに、接合、封着、封止あるいは焼結時におけるガラスの流動性や焼結性が悪化しやすくなる。
【0035】
は網目形成酸化物であり、ガラスの骨格を形成する成分である。第一の相におけるPの含有量は0〜30%、特に5〜25%であることが好ましい。Pの含有量が30%を超えると、第一の相の化学耐久性が低下する傾向にある。なお、下限は特に限定されないが、Pの含有量が5%以上であるとガラス化しやすくなるため好ましい。
【0036】
もPと同様に網目形成酸化物であり、ガラスの骨格を形成する成分である。第一の相におけるBの含有量は20〜50%、特に25〜45%であることが好ましい。Bの含有量が20%未満であると、Al、MgO、CaO、SrO、BaOのいずれかを含有した場合であっても化学耐久性が向上しにくい。一方、Bの含有量が50%を超えると、ガラスの軟化点が上昇するために、モールドプレス時における成形性が悪化して所望の形状が得られにくくなったり、接合、封着、封止あるいは焼結時におけるガラスの流動性や焼結性が悪化しやすくなる。
【0037】
Al、MgO、CaO、SrO、BaOはいずれも第一の相の化学耐久性を向上させる成分である。第一の相がこれらの成分を特定量含有することにより、ガラス全体としての化学耐久性を向上させることが可能となる。第一の相において、Al、MgO、CaO、SrO、BaOの含有量は、合量で0.5〜10%、特に1〜5%であることが好ましい。これらの成分の合量0.5%未満であると、第一の相の化学耐久性が著しく低下する傾向にあり、10%を超えると、第一の相の軟化点が上昇して、低温でのモールドプレス成形、接合、封着、封止、焼結が困難になる。
【0038】
なお、Al、MgO、CaO、SrO、BaOはそれぞれ単独では0.5〜10%、特に1〜5%の範囲を満たすことが好ましい。これらの成分のなかで、Alは第一の相の化学耐久性を向上させるのに特に効果的な成分である。したがって、第一の相においてAlを前記範囲で含有することが好ましい。
【0039】
本発明のSnO−P−B系分相ガラスは、SnO 35〜85%、P 10〜40%、B 1〜20%、Al+MgO+CaO+SrO+BaO 1〜10%の組成を含有することが好ましい。当該組成を含有することにより、相対的にB含有量が高い第一の相が前記組成を満たすSnO−P−B系分相ガラスが得られやすい。特に、Alの含有量が1〜10%であれば、第一の相のAl含有量が0.5〜10%の範囲になりやすく、化学耐久性に優れた低融点のSnO−P−B系分相ガラスが得られやすい。
【0040】
なお上記成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲でその他の成分を含有しても構わない。例えば、ガラスを安定化させる成分としてSiO、ガラスの軟化点を低下させる成分として、LiO、NaO、KOをそれぞれ10%以下含有させることができる。
【0041】
本発明のSnO−P−B系分相ガラスの軟化点は400℃以下、特に350℃以下であることが好ましい。SnO−P−B系分相ガラスの軟化点が400℃を超えると、例えばモールドプレス用光学ガラスに適用した場合、プレス成型時に金型が劣化しやすくなる。また、電子部品の封着、封止材料や蛍光体複合材料に適用した場合、焼成温度が高くなることから電子部品や半導体素子の特性が悪化しやすくなる。
【0042】
本発明のSnO−P−B系分相ガラスは、波長588nmにおける内部透過率が80%以上であることが好ましい。波長588nmにおける内部透過率が80%以上であれば、モールドプレス成形によって得られる光学部品を光モジュール等の光通信用レンズ、CD、MD、DVD等の各種光ディスクシステムのピックアップレンズとして好適である。
【0043】
本発明のSnO−P−B系分相ガラスをモールドプレス成形、接合、封着、封止、焼成に供する場合、不活性または還元性雰囲気(非酸化性雰囲気)で行なうことが好ましい。これにより、ガラス中のSn成分の酸化(Sn2+→Sn4+)を抑制できる。その結果、Sn4+イオンに起因するガラスの内部透過率の低下を抑制することができるとともに、接合、封着、封止あるいは焼結時におけるガラスの流動性または焼結性の悪化を防止することができる。
【0044】
本発明のSnO−P−B系分相ガラスは、モールドプレス用光学ガラスとして使用する場合、バルク状であることが好ましい。適切な形状のバルク状ガラスをガラス転移温度以上の温度において金型でプレス成型することにより、所望の形状の光学部品を容易に得ることができる。
【0045】
本発明のSnO−P−B系分相ガラスを用いた接合、封着、封止は、適切な形状のバルク状ガラスまたは適切な量の粉末ガラスを基材の接合、封着、封止部分に設置し、ガラス転移温度以上の温度で軟化流動させることにより行われる。熱膨張係数が適合する基材に対しては、本発明のSnO−P−B系分相ガラスを単独で使用することができる。一方、熱膨張係数が適合しない基材を接合、封着、封止する場合には、熱膨張係数を調整する目的で、本発明のSnO−P−B系分相ガラスからなるガラス粉末に適切なフィラー粉末を添加すれば良い。なお、熱膨張係数の調整以外にも、例えば機械的強度を向上するためにフィラー粉末を添加しても構わない。また、本発明のガラス粉末に所定量の結合剤や溶剤等を添加および混錬してペースト化すると、接合、封着、封止部分への塗布が容易になる。
【0046】
本発明のSnO−P−B系分相ガラスは、蛍光体複合材料として使用される場合、ガラス粉末の形態であることが好ましい。当該ガラス粉末と蛍光体粉末の混合粉末をガラス転移温度以上の温度で焼結することによって、均質な蛍光体複合部材を得ることができる。焼成に供する際の蛍光体複合材料の形態は特に限定されるものではなく、例えば、所望形状の加圧成型体であっても良いし、ペーストやグリーンシートであっても良い。
【0047】
本発明のSnO−P−B系分相ガラスは、所定の組成を有するガラスを溶融急冷法により製造した後、ガラス転移温度以上、かつ結晶化開始温度を超えない温度で熱処理を行なうことによって得ることができる。具体的には、本発明のSnO−P−B系分相ガラスの製造方法は、(1)少なくともSnO、P、Bを含有し、かつAl、MgO、CaO、SrO、BaOのうち少なくとも1種を含有するようにバッチを調合し、原料粉末を得る工程、(2)原料粉末を溶融し、溶融ガラスを得る工程、(3)溶融ガラスを急冷し前駆体ガラスを得る工程、および(4)前駆体ガラスに対してガラス転移温度以上かつ結晶化開始温度を超えない温度で熱処理を行なう工程を含むことを特徴とする。
【0048】
このように溶融急冷法により得られた前駆体ガラスに対してガラス転移温度以上かつ結晶化開始温度を超えない温度で熱処理を行なうことにより、ガラスの分相を進行させ、相対的にB含有量が高い第一の相と相対的にB含有量が低い第二の相から構成される分相ガラスとすることができ、かつ第一の相にAl、MgO、CaO、SrO、BaOのうち少なくとも1種を選択的に多く含有したSnO−P−B系分相ガラスを容易に得ることが可能となる。熱処理の時間は特に限定されないが、十分に分相が進行するように0.1〜50時間、特に0.5〜20時間であることが好ましい。
【0049】
また、本発明のSnO−P−B系分相ガラスは、溶融ガラスを失透が発生しない範囲内で緩やかに冷却することによっても得ることができる。
【0050】
原料粉末の溶融は還元雰囲気または不活性雰囲気中で行うことが好ましい。これによりSnOの酸化を防止し、不当な失透物の発生を抑制することが可能となる。
【0051】
還元雰囲気での溶融は、溶融槽中へ水素、一酸化炭素等の還元性ガスを供給することにより行う。不活性雰囲気での溶融は、溶融槽中へ窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを供給することにより行う。還元性ガスまたは不活性ガスの供給は、ガラス融液へのバブリングであってもよいし、ガラス融液の上部雰囲気への供給であってもよいし、両者を同時に行っても良い。
【0052】
また、還元雰囲気での溶融を行うために、原料粉末にSn、Al、Si、Ti等の金属粉末または炭素粉末を含有させてもよい。金属粉末および炭素粉末は原料粉末中に、モル%で、0〜20%、特に0.1〜10%であることが好ましい。金属粉末および炭素粉末の含有量が多すぎると、ガラス中に余剰分の金属塊や炭素塊が析出したり、SnO成分が還元されて、金属Snが析出するおそれがある。
【実施例】
【0053】
以下、実施例に基づき本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
(1)SnO−P−B系ガラスの製造
表1の各試料は、以下の手順に従って調製した。
【0055】
まず、表1に示すガラス組成となるように原料粉末を調合し、均一に混合した。なお、溶融時におけるSnOの酸化を防ぐために、1mol%の金属Alを添加した。次いで、調合された原料粉末をカーボン坩堝に投入し、N雰囲気中950℃で40分間溶融した後、ガラス融液をカーボンモールドに流し出してブロック状に成形した。成形後のガラスをガラス転移温度に保持した電気炉中に投入して熱処理を行った。その後、1.5℃/分の冷却速度で室温まで徐冷を行ないSnO−P−B系ガラスを得た。粉末X線回折法から、いずれのガラスについても結晶の析出は認められず、非晶質であることを確認した。
【0056】
(2)SnO−P−B系ガラスの特性評価
得られたブロック状ガラスを10mm×10mm×1mmのサイズに切り出し、全面を鏡面研磨することにより、板状のガラス試料を得た。得られたガラス試料を用いて、以下のようにして波長588nmにおける内部透過率、化学耐久性を測定した。なお、軟化温度は得られたSnO−P−B系ガラスを粉砕および分級して得られたガラス粉末を用いて測定を行った。
【0057】
波長588nmにおける内部透過率は、分光光度計(島津製作所製 UV−3100PC)を用いて測定した。
【0058】
軟化温度は、マクロ型示差熱分析計により測定し、第四の変曲点の値を軟化温度とした。
【0059】
ガラスの化学耐久性は、不飽和型高加速寿命試験、および希塩酸中における溶出試験により評価した。
【0060】
不飽和型高加速寿命試験は不飽和型高加速寿命試験装置(平山製作所製 HASTEST PC−242HSR2)を用いて行った。具体的には、2気圧、湿度95%、温度121℃の試験条件下に上記板状ガラスを24時間保持した後に、板状ガラスの表面を目視および顕微鏡で観察し、ガラス成分等の溶出による白濁および微小クラックがいずれも認められなかったものを「○」、白濁および/または微小クラックが認められたものを「×」とした。なお、各ガラス試料につきガラス転移温度+80〜90℃の温度で10時間熱処理を行なうことによって、分相をより進行させたガラスについても同様の試験を行ない評価した。
【0061】
溶出試験は、50℃に保持した濃度0.02モル%の希塩酸50ml中に板状のガラス試料を1時間浸漬することによって行なった。溶出試験前後におけるガラス試料の重量変化から重量減を算出し、重量減を板状ガラスの全表面積で除した値をガラスの溶出量とした。さらに、溶出試験後の希塩酸中の溶出元素をICP発光分光分析法(VARIAN製 730−ES)により定量し、溶出元素の濃度を酸化物モル濃度に換算した。
【0062】
【表1】

【0063】
表1より、実施例である試料No.1のガラスは不飽和型高加速寿命試験後においても、ガラス表面の白濁および微小クラックは認められず、ガラスの化学耐久性は良好であった。その結果、不飽和型高加速寿命試験後における内部透過率の低下は認められなかった。また、ガラス転移温度+80〜90℃の温度で10時間熱処理後のガラスについて試験を行った場合も、ガラス表面の白濁および微小クラックは発生せず、熱処理に伴う化学耐久性の悪化は認められなかった。
【0064】
一方、比較例であるNo.2は、徐冷および熱処理を行なった場合のいずれにおいても、不飽和型高加速寿命試験によってガラス表面が顕著に白濁し、ガラスの化学耐久性が低いことが確認された。
【0065】
なお、溶出試験後におけるガラス試料の表面を走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製 S−4300SE)で観察したところガラスの分相構造が認められ、一方の相が優先的に溶出していることが確認された。表1に示す通り、溶出成分の組成は、溶出試験前のガラス組成と比較してBの濃度が高くなっていることが確認され、分相構造における溶出相は相対的にB含有量が高い相(第一の相)であることが明らかとなった。
【0066】
ここで、溶出試験後の溶出液の元素分析結果から、試料No.1は第一の相にAlが多く含有されていることが確認された。その結果、ガラス全体としての化学耐久性は良好であった。これに対して、試料No.2は溶出試験後の溶出液の元素分析結果から、第一の相におけるAlの含有量が低いことが確認された。その結果、第一の相の化学耐久性が低く、試料No.1と比較してガラスの溶出量が大きかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SnO、P、Bを含有し、相対的にB含有量が高い第一の相と相対的にB含有量が低い第二の相から構成されるSnO−P−B系分相ガラスであって、第一の相がAl、MgO、CaO、SrO、BaOのうち少なくとも1種を合量で0.5モル%以上含有することを特徴とするSnO−P−B系分相ガラス。
【請求項2】
第一の相が、B 20〜50%の組成を含有することを特徴とする請求項1に記載のSnO−P−B系分相ガラス。
【請求項3】
第一の相が、モル%表示で、SnO 35〜80%、P 0〜30%、B 20〜50%、Al+MgO+CaO+SrO+BaO 0.5〜10%の組成を含有することを特徴とする請求項2に記載のSnO−P−B系分相ガラス。
【請求項4】
第一の相が、Al 0.5〜10%の組成を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のSnO−P−B系分相ガラス。
【請求項5】
モル%表示で、SnO 35〜85%、P 10〜40%、B 1〜20%、Al+MgO+CaO+SrO+BaO 1〜10%の組成を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のSnO−P−B系分相ガラス。
【請求項6】
モル%表示で、Al 1〜10%の組成を含有することを特徴とする請求項5に記載のSnO−P−B系分相ガラス。
【請求項7】
軟化点が400℃以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のSnO−P−B系分相ガラス。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のSnO−P−B系分相ガラスからなるガラス粉末。
【請求項9】
(1)少なくともSnO、P、Bを含有し、かつAl、MgO、CaO、SrO、BaOのうち少なくとも1種を含有するようにバッチを調合し、原料粉末を得る工程、(2)原料粉末を溶融し、溶融ガラスを得る工程、(3)溶融ガラスを急冷し前駆体ガラスを得る工程、および(4)前駆体ガラスに対してガラス転移温度以上かつ結晶化開始温度を超えない温度で熱処理を行なう工程を含むことを特徴とするSnO−P−B系分相ガラスの製造方法。

【公開番号】特開2011−121818(P2011−121818A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281128(P2009−281128)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】