説明

TiCl4中の金属不純物の分析方法及び高純度チタンの製造方法

【課題】高純度チタンの製造方法において原料として用いるTiCl4中の金属不純物の分析方法、及びこの方法を工程管理に用いる高純度チタンの製造方法を提供する。
【解決手段】(1)TiCl4中の金属不純物の濃度をICP−MSで測定する。前記の測定を、TiCl4を硫酸と反応させ、続いて蒸発乾固させることにより塩素分を除去し、更に、フッ化水素酸溶液を加え、陰イオン交換カラムを通してTi分を除去した後に行えば、不純物としてのVの濃度を、定量下限が0.015ppmという高い精度で測定することができる。
(2)TiCl4をサンプリングし、(1)の方法でTiCl4中の金属不純物(特に、V)濃度を測定し、その測定結果を製造工程へフィードバックして製品中の金属不純物が所定濃度以下となるように製造工程を制御する。高純度のチタンを安定して製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロール法による高純度チタンの製造の際に原料として用いるTiCl4中の金属不純物の分析方法、及びこれにより得られる分析結果を製造工程へフィードバックして高純度チタンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロール法による高純度チタンの製造方法においては、従来、製造されるスポンジチタンの分析を行ってその品質(金属不純物の含有量等)が製品スペックに合致するか否かを判断している。
【0003】
例えば、特許文献1には、半導体用の配線材料等として使用される高純度チタンインゴットを製造するに際し、クロール法により製造されたスポンジチタン塊の中心部を切り出して分塊(前記切り出された円柱状のスポンジチタン塊を高さ方向で複数の円盤状に切断分割した小塊をいう)とし、各分塊を切断手段により粒状に加工した後、サンプリング分析に適した細粒を篩い分けにより抽出して不純物分析を行い、その分析結果から予見される製品品質に基づき、所定の製品品質が得られるように分塊単位で溶解原料粒を選定する方法が開示されている。
【0004】
一方、分析方法については、高純度チタン中の金属不純物の分析方法として、試料(チタン)を硝酸とフッ化水素酸とで分解し、過酸化水素を加えてチタン等を酸化した後、水を加えてフッ化水素酸濃度を約2.5%に調整し、チタンをTiF62-として陰イオン交換カラムに通すことにより吸着分離し、ICP発光分光分析装置又はICP−MS(ICP質量分析装置)により金属不純物濃度を測定する方法が用いられている。例えば、高純度チタン中のV濃度が0.01ppm(質量比、以下同様)まで測定されている。
【0005】
また、クロール法によるチタン製造の原料として用いるTiCl4中の金属不純物は、従来から、TiCl4を加水分解し、前記と同様に陰イオン交換カラムに通してチタンを吸着分離し、ICP発光分光分析法により測定されている。例えば、Vの定量下限は1ppm程度である。この下限濃度は、Ti中のV濃度に換算すると、4ppm程度である。Tiの原子量が47.9であり、TiCl4の質量数が189.7なので、TiCl4のV濃度が1ppmであれば、Ti中のV濃度としては約4倍になるからである。
【0006】
【特許文献1】特開2004−323911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
半導体デバイスにおける配線の微細化などに伴い、金属配線膜等を形成させるための高純度スパッタリングターゲットの金属不純物の許容濃度はますます低下している。例えば、高純度チタン中のVの許容濃度は従来1ppm程度であったが、近年では0.3ppm以下が要求されるようになってきた。
【0008】
このような要求に応えるためには、高純度チタン中の金属不純物濃度、特にV濃度の上昇傾向をできるだけ早く、例えば、スポンジチタンが製造されるよりも前の、原料として用いるTiCl4の段階でそれに含まれる金属不純物を検知して全製造工程へフィードバックし、その原因追及や対策も含めて製造工程を適切に制御・管理・維持することが望ましい。
【0009】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたもので、クロール法による高純度チタンの製造方法において原料として用いるTiCl4中の金属不純物の分析方法、及びこの方法により得られる測定結果を製造工程へフィードバックして高純度チタンを製造する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するために検討を重ねた。その過程で、まず、以下に述べる事実に着目した。
【0011】
高純度チタン中の金属不純物のうち、FeやNiは、副生するMgCl2からMgを再生させるMg電解工程、TiCl4の還元工程、未反応Mgや副生するMgCl2を回収する真空分離工程など、製造過程での汚染の影響が大きいため、前掲の特許文献1に記載されるように、スポンジチタンが製造された後にスポンジチタン自体を分析して、その結果を製造工程にフィードバックせざるを得ない。
【0012】
この場合に採りうる対応策は、例えば前掲の特許文献1に記載されるように、スポンジチタン塊の中心部であっても高さ方向で不純物濃度に差があることを利用して、分塊単位で溶解原料粒を選定し製品スペックに合致するようにすることである。しかし、金属不純物のうちの特にVについては事情が異なり、前記の製造過程でのVの汚染(チタンへの混入)はほとんどなく、不純物として存在するVのほとんどが原料(ここでは、チタン鉱石)に由来するものである。
【0013】
即ち、高純度チタン中のV濃度は原料(チタン鉱石)中のV濃度、塩化炉の状況、TiCl4の蒸留工程の運転状況などによって左右される。従って、蒸留後の高純度TiCl4中のV濃度を逐次測定することにより、還元工程でスポンジチタンが製造されるのを待たずにV濃度の上昇傾向を早期に予知することが可能である。
【0014】
一方、高純度チタン中のVの許容濃度としては、前記のように0.3ppm以下(TiCl4中のV濃度として0.075ppm以下)が要求されている。そのためには少なくともTiCl4中のV濃度が0.075ppm以下であることを確認できることが必要であり、定量下限が更に低いことが望ましい。しかし、前述したように、ICP発光分光分析法によるTiCl4中のVの定量下限は1ppm程度なので、この方法では、感度が必要とされる感度に遠く及ばない。
【0015】
そこで、本発明者らは、高純度チタン中のV濃度の測定で高い感度が得られるICP−MSの適用について検討した。
【0016】
TiCl4に含まれる金属不純物の濃度をICP−MSで測定するには、TiCl4及び不純物を溶液として分析装置に供給する必要がある。そのためには、常法に従い、純水を入れた白金蒸発皿等の周りを氷水で冷却し、TiCl4を所定量滴下した後、ホットプレート上で加熱してTiCl4等を溶かし込み、適当な倍率に希釈してICP−MSに供給する方法が、先ず、考えられる。しかしながら、この方法ではVの定量精度が十分ではなく、改良する必要があった。
【0017】
ICP−MSによるV濃度の測定に、Vの質量数51を使用すると、TiCl4を溶解(加水分解)する際に発生するHClが溶け込むことにより妨害イオンClO-(質量数51;以下、単に「35Cl16O」とも表記する)が生じ、また更に、質量分解能がよくないため50Tiのピークの裾野が質量数51と重なり、妨害が生じる。
【0018】
これらの妨害要因を取り除くために検討した結果、後に詳述するが、前者については、TiCl4を加水分解した後、HClより高沸点のH2SO4(硫酸)を加えて蒸発乾固することにより、HClを揮散除去して35Cl16Oの生成を抑えることができた。
【0019】
また、後者については、試料溶液にフッ化水素酸を加えてTiをTiF62-に変え、陰イオン交換樹脂に吸着させることにより質量数51に影響する50Tiを分離できることが判明した。
【0020】
本発明は、このような着想並びに知見に基づきなされたもので、その要旨は、下記(1)のTiCl4中の金属不純物の分析方法、及びこの方法により得られる測定結果を製造工程へフィードバックして高純度チタンを製造する下記(2)の高純度チタンの製造方法にある。
【0021】
(1)TiCl4中の金属不純物の濃度をICP−MSで測定するTiCl4中の金属不純物の分析方法。
【0022】
この金属不純物の分析方法において、前記金属不純物がVであり、このVの濃度を、前記TiCl4を硫酸と反応させ、続いて蒸発乾固させることにより塩素分を除去した後、測定する方法(実施形態1)を採用すれば、TiCl4の溶解(加水分解)時における35Cl16Oの生成を抑えることができる。
【0023】
また、前記実施形態1の方法を実施する際、前記V濃度の測定を、蒸発乾固させた後にフッ化水素酸溶液を加え、陰イオン交換カラムを通してTi分を除去した後に行うこととすれば(実施形態2)、質量数51に影響する50Tiを分離できる。
【0024】
(2)クロール法による高純度チタンの製造方法であって、蒸留工程で精製された高純度TiCl4の一部をサンプリングして、当該TiCl4中の金属不純物濃度をICP−MSで測定し、その測定結果を製造工程へフィードバックして製品中の金属不純物が所定濃度以下となるように製造工程を制御する高純度チタンの製造方法。
【0025】
この高純度チタンの製造方法において、前記金属不純物がVであり、このVの濃度を、前記TiCl4を硫酸と反応させ、続いて蒸発乾固させることにより塩素分を除去した後、測定し(実施形態3)、更に、この実施形態3の方法を実施する際に、V濃度の測定を、蒸発乾固させた後にフッ化水素酸溶液を加え、陰イオン交換カラムを通してTi分を除去した後に行うこととすれば(実施形態4)、V濃度の測定を精度よく行い、その測定結果を製造工程へフィードバックして的確な工程管理をすることができる。
【0026】
この実施形態4の高純度チタンの製造方法において、前記一部をサンプリングした高純度TiCl4をクロール法の還元工程で用いてスポンジチタンを生成させ、その後に真空分離工程、冷却工程を経て反応容器から取り出すよりも前に、サンプリングした高純度TiCl4中のV濃度を測定することとすれば(実施形態5)、反応容器からの取り出し前にスポンジチタン中のVの濃度が判るので、その濃度に応じて迅速に対応することができ、望ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明のTiCl4中の金属不純物の分析方法によれば、クロール法による高純度チタンの製造方法において原料として用いるTiCl4中の金属不純物、特にVの濃度をICP−MSを用いて高い精度で測定することができる。
【0028】
また、この方法により得られる測定結果を製造工程へフィードバックする本発明の高純度チタンの製造方法によれば、TiCl4の段階でそれに含まれる金属不純物を検知することができ、その情報を全製造工程へフィードバックして製造工程を適切に制御・管理することが可能であり、業界の要望に応えて、例えばV濃度が0.3ppm以下という高純度のチタンを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に、前記(1)の本発明のTiCl4中の金属不純物の分析方法、及び(2)の本発明の高純度チタンの製造方法について詳細に説明する。
【0030】
前記(1)の本発明の分析方法は、TiCl4中の金属不純物の濃度をICP−MSで測定する方法である。
【0031】
従来、TiCl4中の金属不純物の濃度の測定には、前述のように、ICP発光分光分析法が用いられ、ICP−MSで測定する方法は行われていなかった。これは、従来はICP発光分光分析法による測定で所期の目的が達せられていたことも理由の一つではあるが、前述したように、TiCl4の前処理で生成する35Cl16Oによる妨害や、50Tiのピークの裾野が質量数51と重なることによる妨害が生じるためである。
【0032】
しかし、高純度チタン中のVの許容濃度として0.3ppm以下が要求されるようになってきており、この要請に応えるためには、例えば、スポンジチタンが製造されるよりも前の、TiCl4の段階でそれに含まれる金属不純物を検知して全製造工程へフィードバックし、製造工程を適切に制御・管理することにより、金属不純物、特にVの濃度を管理することが望ましい。そこで、従来、高純度チタン中の金属不純物の分析方法として使用され、例えばV濃度が0.01ppmまで測定されているICP−MSをTiCl4中の金属不純物濃度の測定に用いることとしたものである。
【0033】
TiCl4中の金属不純物、特にVの濃度をICP−MSで測定することは可能であるし、前記TiCl4の前処理を適切に行うことにより、V濃度を精度よく測定することができる。
【0034】
測定に用いる装置としては、Heを追加するコリジョン/リアクションセルを搭載したICP−MS(ICP質量分析装置)を使用するのが望ましい。この装置は、一般に試料溶液をスプレイチャンバーで霧状としてArによりプラズマトーチに導き、被測定成分をプラズマ状態においてイオン化し、それらイオン(Vイオン等)を4重極質量分離部で質量数毎に分離してその強度に応じた電流を得るように構成されている。
【0035】
なお、このICP−MSでTiCl4の分析を続けると、装置内のサンプリングコーン、スキマーコーン(真空域への導入部)に次第に酸化チタンが付着し、感度が変わる場合がある。従って、本発明の実施に際しては、適切な溶液濃度としてTiCl40.4ml(0.692g)をサンプリングしてICP−MSによる測定時に100ml(ミリリットル)の定容とすることが望ましい。
【0036】
前記の実施形態1は、本発明の金属不純物の分析方法において、金属不純物がVであり、このVが含まれるTiCl4を硫酸と反応させ、続いて蒸発乾固させることにより塩素分を除去した後、V濃度を測定する方法で、前記Vを含有するTiCl4の前処理の一例である。
【0037】
「蒸発乾固」とは、溶液から揮発成分を蒸発させ、固体を残す操作であるが、ここでいう蒸発乾固では、必ずしも残留物を固体のみとするまで加熱する必要はなく、加熱して硫酸白煙を発生させ、塩素分を完全に除去できれば、溶液が残存していてもよい。塩素分の除去は、例えば硫酸の白煙にチモールブリュー試験紙をかざすことにより確認できる。
【0038】
このような前処理操作を行うのは、以下に述べるように、TiCl4の溶解(加水分解)時における35Cl16Oの生成を抑えて、V濃度の測定に対する妨害作用を排除するためである。
【0039】
表1に、質量数51での測定に対する共存イオンの影響を調査した結果を示す。なお、同表には、次に述べるTiの存在率も併記している。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示すように、Vには質量数50のものと51のものが存在するが、51Vの存在率が圧倒的に高い(即ち、感度がよい)ので、質量数51で測定を行う。その場合、質量数51のClO-35Cl16O)が75.6%存在するので(残りの24.4%は、質量数53の37Cl16O)、質量数51でのV濃度の測定は35Cl16Oの存在により妨害されることになる。
【0042】
TiCl4に含まれる金属不純物(ここでは、V)の濃度をICP−MSで測定するために、TiCl4を純水で溶解し、適当な倍率に希釈してICP−MSに供給しても、Vの定量精度は十分ではない。これは、TiCl4を溶解(加水分解)する際に発生するHClが溶け込むことにより前記表1に示した35Cl16Oが生じるからである。
【0043】
図1は、質量数51での測定(つまり、V濃度の測定)に対するTiCl4中のCl量の影響を示す図である。Clを塩酸として段階的に添加し、100mlの定容とした試料中のVに相当する濃度を求めたものである。なお、図中に、添加したCl量(x)とV濃度(y)との関係を表す一次式と、R2値を併せ示した。
【0044】
前記のTiCl4に硫酸を加えて蒸発乾固する方法によれば塩素分をほぼ完全に除去できるので、図1から判断して、試料中のV濃度への寄与(影響)をほとんど皆無にすることができる。
【0045】
この実施形態1の方法によれば、詳細は省略するが、TiCl4中のVの定量下限を、ICP発光分光分析法による場合の1ppm程度から0.05ppmまで下げることができる。
【0046】
なお、図1中に示した矢印は、プラズマガスArへのHeの混合によるバックグラウンドの低減効果を示している。検討の過程で、プラズマガスArに少量のHeを混合することにより35Cl16O等によるバックグラウンドを低減させ得ることが判明したので、そのような条件の下で試料中のV濃度への寄与を調べたところ、バックグラウンドは矢印で示すように0.0043ppmで、効果があることが確認できた。ただし、本発明のTiCl4中の金属不純物の分析方法では、ClO-による影響を確実に低減するために、TiCl4に硫酸を加えて蒸発乾固する方法を採用することとした。
【0047】
前記の実施形態2は、実施形態1の方法を実施する際、蒸発乾固させた後にフッ化水素酸溶液を加え、陰イオン交換カラムを通してTi分を除去した後にV濃度を測定する方法で、実施形態1と同様、Vを含有するTiCl4の前処理の一例である。
【0048】
実施形態2の方法を実施するに際し、蒸発乾固させた後にフッ化水素酸溶液を加えるのは、質量数51のTiは存在しないが(前記表1参照)、前記のように、質量分解能がよくないため50Tiのピークの裾野が質量数51と重なってVの測定に妨害が生じるので、試料溶液中のチタン(Ti4+)をTiF62-の形に変えるためである。このフッ化水素酸を加えた溶液を陰イオン交換カラムに通すと、TiF62-は陰イオン交換樹脂に吸着除去され、チタンフリーのVとSO42-を含む溶液を得ることができる。
【0049】
図2は、質量数51での測定に対するTiCl4中の50Ti量の影響を示す図である。チタン標準溶液を段階的に加えて100mlの定容とした試料中のVに相当する濃度を求めたものである。なお、図中に、添加したTi量(x)とV濃度(y)との関係を表す一次式、およびR2値を併せ示した。
【0050】
図2から明らかなように、試料溶液からTiを分離して、例えば0.001g以下にすると、試料中V濃度への寄与は0.0001ppm以下となる(同図中に矢印で表示)。TiCl4中のVの許容濃度は前記のように0.075ppm以下であるから、Vの定量に対する影響は全く認められないと言うことができる。
【0051】
図3は、実施形態2の方法の工程図(フローシート)である。図示するように、フッ化水素酸(HF)を加えた溶液を陰イオン交換カラムに通して陰イオン交換分離を行った流出液にはTiは含まれていないので、ICP−MSで51Vを高精度で定量することができる。なお、TiF62-が吸着した樹脂には8M(モル)の塩酸等を加えてTiを溶離し、再生することにより繰り返し使用することができる。
【0052】
図4は、前記Ti分の除去に用いるイオン交換カラムの概略構成例を示す縦断面図である。図示するように、ポリプロピレン製のイオン交換カラム1内に陰イオン交換樹脂2が充填されている。符号3は陰イオン交換樹脂2をカラム1内の所定位置に保持するためのテフロン(登録商標)ウールである。
【0053】
図5は、イオン交換樹脂のTi吸着量の調査結果を示す図である。前記図4に示したイオン交換カラム1内に陰イオン交換樹脂(DOWEX 1×8を使用)10gを充填し、Tiを0〜0.5gの範囲で段階的にそれぞれ加えた試料溶液100mlをカラム1の上方から供給(チャージ)して各流出液中のTi量と樹脂に吸着したTi量を求め、プロットした図である。
【0054】
図5に示すように、Ti量が0.34gまではチャージしたTiは全て樹脂に吸着されるが、Ti量が0.34gを超えると、流出液中にTiが混入する。
【0055】
そこで、フッ化水素酸を加えた溶液を陰イオン交換カラムに通すに際しての具体的な条件の一例として、TiCl4の採取量を0.4ml(そのTiCl4に含まれるTi量は0.173g)と定め、図5に示した関係から、必要な陰イオン交換樹脂量を約3gとした。(樹脂10g/Ti量0.34g)×Ti量0.173g=5.09g の計算式から求めた量である。なお、この条件で、流出液中のTiは0.1mg以下となることを分析により確認した。
【0056】
また、Vを含む試料溶液を陰イオン交換カラムに通すことによるVの回収率(カラムでトラップされなかったVの比率)を調査した。
【0057】
即ち、TiCl40.4mlを含む溶液を前処理(前記の蒸発乾固)した試料溶液にV標準液10ngをそれぞれ添加して、前記図4に示した構成のイオン交換カラム1(陰イオン交換樹脂3gを充填)に通し、添加したV量と検出されたV量(つまり、流出液中のV量)からVの回収率を求めたところ、回収率は平均で82%と満足できる結果が得られた。この結果から、陰イオン交換樹脂によるTiの分離操作において、Vのロス(カラムでのトラップ)は考慮する必要がないことが判った。
【0058】
図6は、本発明の金属不純物の分析方法(実施形態2)で用いるVの検量線を示す図である。Vの濃度を段階的に調整したV標準液を用い、ICP−MSでそれぞれの濃度に対して得られた質量数51での強度をプロットした図で、良好な直線関係が得られた。
【0059】
この検量線を用い、本発明の分析方法により併行ブランクの試料を8回繰り返し測定し、その結果から繰り返し精度を求めたところ、平均値は0.0033ppm、標準偏差σn-1は0.0014ppmであった。この標準偏差σn-1の10倍(10×σn-1)が0.014ppmであることを考慮すると、この分析方法の定量下限は0.015ppmとみなすことができる。即ち、実施形態1の方法を実施した後にフッ化水素酸溶液を加え、陰イオン交換カラムを通すことにより、TiCl4中のVの定量下限を、0.05ppmから0.015ppmへ低下させることができる。
【0060】
上記本発明の分析方法により、TiCl4中にVが0.0176ppm含まれる試料を繰り返し測定し、繰り返し精度を求めたところ、平均値は0.0176ppm、標準偏差σn-1は0.00086ppmであった。相対標準偏差は4.9%〔(0.00086/0.0176)×100=4.9〕で、良好な結果が得られた。
【0061】
図7は、本発明の金属不純物の分析方法(実施形態2)の操作フロー図である。なお、分析試料を採取してから前記フローに従い一連の分析操作を行ってV濃度を測定するのに要する時間(定量時間)は5時間程度(実働時間で2時間)である。製造規模にもよるが、TiCl4の還元に要する時間だけでも数十時間にわたるので、測定に要する時間が5時間程度であっても、分析結果を全製造工程へフィードバックして高純度チタンを製造するという目的を達成するためのオンライン分析法として十分適用することができる。
【0062】
この操作フロー図に従って試料(V含有TiCl4)の前処理を行えば、V濃度の測定を妨害する35Cl16Oや50Tiを除去して、V濃度を高い精度で測定することが可能となる。
【0063】
次に、前記(2)の本発明の高純度チタンの製造方法は、クロール法による製造方法であって、蒸留工程で精製された高純度TiCl4の一部をサンプリングして、当該TiCl4中の金属不純物濃度をICP−MSで測定し、その測定結果を製造工程へフィードバックして製品中の金属不純物が所定濃度以下となるように製造工程を制御することを特徴とする製造方法である。
【0064】
このように、TiCl4中の金属不純物濃度を測定し、その測定結果を製造工程へフィードバックするのは、高純度チタン中の金属不純物濃度、特にV濃度の上昇傾向をできるだけ早く、スポンジチタンが製造されるよりも前に検知し、全製造工程へフィードバックして、早急に濃度上昇の原因を調査し、対策を講じて、製造スペックを満足する高純度チタンを製造することができるからである。即ち、分析結果を製品スペックの合否判定にのみではなく、工程管理の一助として用い、製造スペックを満足する高純度チタンを製造することにより、該高純度チタンの製造歩留りの向上にも寄与することが可能となる。
【0065】
TiCl4中の金属不純物(V)濃度をICP−MSで測定するのは、V濃度の測定で高い感度が得られるからである。これによって、高純度チタンのVの許容濃度が0.3ppm以下(TiCl4中のVの許容濃度に換算して0.075ppm以下)という要求に応え得る高い精度での測定が可能となる。
【0066】
本発明の高純度チタンの製造方法においては、蒸留工程で精製した後の高純度のTiCl4の一部をサンプリングするのであるが、この採取した試料についてV濃度を測定する(つまり、分析を行い、測定結果を出す)時期(タイミング)については特に定めていない。即ち、測定のタイミングは任意であるが、測定結果を製造工程へフィードバックして工程管理に用いるという前記の目的を達成するためには、前記サンプリング後、早急に分析を行うのが望ましい。
【0067】
前記の実施形態3は、本発明の高純度チタンの製造方法において、TiCl4中のV濃度の測定に前述した実施形態1の方法を適用する製造方法であり、また、前記の実施形態4は、同じく実施形態2の方法を適用する製造方法である。これらの製造方法を採用すれば、35Cl16Oの存在しない状態、または更に50Tiも存在しない状態でV濃度を高精度で測定することができるので、V濃度の工程管理を精度よく確実に実施することができ、望ましい。
【0068】
前記の実施形態5は、実施形態4の高純度チタンの製造方法において、サンプリングした高純度TiCl4中のV濃度を測定するタイミングを限定した製造方法である。
【0069】
即ち、高純度TiCl4の還元により反応容器内に生成したスポンジチタンは、未反応のMgや副生するMgCl2を回収するための真空分離工程、その後スポンジチタンを冷却する工程を経て反応容器から取り出されるが、その取り出しの前に、サンプリングした高純度TiCl4中のV濃度を測定するのである。
【0070】
このようなタイミングでV濃度を測定すれば、スポンジチタンの取り出し前にスポンジチタン中のVの濃度を予測できるので、その濃度に応じて、高純度チタン製造用の素材として後工程に移送するか、他の用途向け素材として活用するか等の判断をすることができ、取り出し後の迅速な対応が可能になるので、望ましい。
【0071】
以上述べたように、本発明の高純度チタンの製造方法によれば、高純度チタン中の金属不純物濃度、特にV濃度の分析結果を工程管理の一助として用い、当該高純度チタンを安定して製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のTiCl4中の金属不純物の分析方法によれば、クロール法による高純度チタンの製造方法において原料として用いるTiCl4中の金属不純物、特にVの濃度をICP−MSを用いて高い精度で測定することができる。また、本発明の高純度チタンの製造方法は、本発明の分析方法により得られる測定結果を製造工程へフィードバックして製造工程を適切に制御・管理することが可能であり、V濃度が0.3ppm以下という高純度のチタンを安定して製造することができる。
【0073】
従って、本発明のTiCl4中の金属不純物の分析方法およびこの方法を工程管理に用いる本発明の高純度チタンの製造方法は、高純度チタンの製造に有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】IPC−MSによる質量数51での測定(V濃度の測定)に対するTiCl4中のCl量の影響を示す図である。
【図2】IPC−MSによる質量数51での測定に対するTiCl4中の50Ti量の影響を示す図である。
【図3】本発明の金属不純物の分析方法(実施形態2)の方法の工程図(フローシート)である。
【図4】TiCl4中のTi分の除去に用いるイオン交換カラムの概略構成例を示す縦断面図である。
【図5】イオン交換樹脂のTi吸着量の調査結果を示す図である。
【図6】本発明の金属不純物の分析方法(実施形態2)で用いるVの検量線を示す図である。
【図7】本発明の金属不純物の分析方法(実施形態2)の操作フロー図である。
【符号の説明】
【0075】
1:イオン交換カラム
2:陰イオン交換樹脂
3:テフロン(登録商標)ウール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TiCl4中の金属不純物の濃度をICP−MSで測定することを特徴とするTiCl4中の金属不純物の分析方法。
【請求項2】
前記金属不純物がVであり、このVの濃度を、前記TiCl4を硫酸と反応させ、続いて蒸発乾固させることにより塩素分を除去した後、測定することを特徴とする請求項1に記載のTiCl4中の金属不純物の分析方法。
【請求項3】
前記V濃度の測定を、蒸発乾固させた後にフッ化水素酸溶液を加え、陰イオン交換カラムを通してTi分を除去した後に行うことを特徴とする請求項2に記載のTiCl4中の金属不純物の分析方法。
【請求項4】
クロール法による高純度チタンの製造方法であって、蒸留工程で精製された高純度TiCl4の一部をサンプリングして、当該TiCl4中の金属不純物濃度をICP−MSで測定し、その測定結果を製造工程へフィードバックして製品中の金属不純物が所定濃度以下となるように製造工程を制御することを特徴とする高純度チタンの製造方法。
【請求項5】
前記金属不純物がVであり、このVの濃度を、前記TiCl4を硫酸と反応させ、続いて蒸発乾固させることにより塩素分を除去した後、測定することを特徴とする請求項4に記載の高純度チタンの製造方法。
【請求項6】
前記V濃度の測定を、蒸発乾固させた後にフッ化水素酸溶液を加え、陰イオン交換カラムを通してTi分を除去した後に行うことを特徴とする請求項5に記載の高純度チタンの製造方法。
【請求項7】
前記一部をサンプリングした高純度TiCl4をクロール法の還元工程で用いてスポンジチタンを生成させ、その後に真空分離工程、冷却工程を経て反応容器から取り出すよりも前に、サンプリングした高純度TiCl4中のV濃度を測定することを特徴とする請求項6に記載の高純度チタンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−316001(P2007−316001A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−148015(P2006−148015)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【出願人】(397064944)住友チタニウム株式会社 (133)
【Fターム(参考)】