説明

Vリブドベルト及びVリブドベルトの製造方法

【課題】ベルト背面をアイドラープーリに当接係合させたときにおける異音の発生を抑制することができるとともに、リブの間の谷部分の縦裂きの発生及びベルト端部からの亀裂の発生をいずれも抑制する。
【解決手段】ゴム層は、リブ部が設けられる内層6と、内層6の背面側に配置されるとともに、屈曲部を有する短繊維4が含有されている伸張層5と、を備える。伸張層5には、短繊維4の質量とゴムの質量とが4対100乃至35対100の範囲の割合となるように、短繊維4が含有されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト長手方向に延びるリブ部が形成されるとともにベルト長手方向に沿って心線が埋設されたゴム層を有するVリブドベルト、及びそのVリブドベルトの製造方法に関し、とくに、伸張層に帆布が設けられていないVリブドベルトとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動力伝動に用いられるVリブドベルトは、一般的には、ベルト長手方向に平行に延びて並列状態に配置された複数のリブが形成された圧縮ゴム層と、その圧縮ゴム層の上部に積層されてコードからなる心線が埋設された接着ゴム層と、この接着ゴム層の背面側に縫合された帆布からなる伸張層とを備えて構成されている。そして、このような一般的なVリブドベルトにおける伸張層としての帆布は、ベルトの耐縦亀裂性を保持するために設けられているものであり、例えば、経糸と緯糸とを織り込んだ平織布にゴム引き処理を施すことで形成されている。
【0003】
しかし、上述したような一般的なVリブドベルトを駆動プーリと従動プーリとに掛架し、ベルト背面をアイドラープーリに接触係合させたときに、周期的に異音が発生することが多い。この周期的な異音発生は、帆布の縫合領域にて発生し易いが、その縫合領域以外の領域でも発生するものであり、縫合領域を平坦面となるように形成しても発生する。この縫合領域以外での異音発生の原因の一つとして、帆布の表面状態の影響があることが知られている。即ち、バイアス帆布や筒状帆布を成形中に、あるいは筒状帆布をベルト成形体に嵌入中に、帆布が機械的に変形して経糸と緯糸との交差角や経糸と緯糸とによって形成される開口部の大きさが変化し、開口部の大きい部分と小さい部分との差が広がってしまい、糸が局部的に収束する領域が発生する。このため、糸が局部的に収束した領域での帆布表面の凹凸等の形態が他の領域の形態と異なることによって異音が発生することが知られている。
【0004】
そこで、異音の発生を抑制する観点から、ベルト背面に帆布を積層しないVリブドベルト、即ち、伸張層をゴム組成物で構成したVリブドベルトが提案されつつある。しかし、このようなVリブドベルトは、ベルト背面においてゴムが直接露出している状態となるため、アイドラープーリに当接係合するときに、ベルト背面にて粘着磨耗が発生し易く、そのことによって逆にスリップ音等の異音が発生し易くなってしまうという問題があった。そこで、ベルト背面のゴム層に短繊維を配合し、粘着磨耗を抑制することが検討されており、さらに、ベルト背面のゴム層における短繊維の配向方向を制御することで、異音の発生を抑制する試みがなされていることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2004−162899号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたVリブドベルトを使用すると、ベルトにおけるリブで挟まれる谷部分に縦裂きが発生したり、ベルト背面の端部からベルト幅方向に亀裂が発生したりし易い虞がある。とくに、ベルト本体を構成するエストラマーとしてエチレン・α−オレフィンを用いた場合にこのような縦裂きや亀裂が発生する傾向が強く現れ易く、パーオキサイド架橋系ではさらに引き裂き力が低下してしまうという問題がある。
【0007】
そこで、ベルト背面のゴム層中の短繊維の配向性を利用して、ベルト幅方向に短繊維を配向させることで谷部分の縦裂きを抑制したり、ベルト長手方向に短繊維を配向させることでベルト端部からの亀裂を抑制することも考えられる。しかし、このような方法では、谷部分の縦裂きとベルト端部からの亀裂とのうちのいずれか一方を抑制することはできるものの、谷部分の縦裂き及びベルト端部からの亀裂の発生をともに抑制することは困難である。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、ベルト背面をアイドラープーリに当接係合させたときにおける異音の発生を抑制することができるとともに、リブの間の谷部分の縦裂きの発生及びベルト端部からの亀裂の発生をいずれも抑制することができるVリブドベルト、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0009】
本発明に係るVリブドベルトは、ベルト長手方向に延びるリブ部が形成されるとともにベルト長手方向に沿って心線が埋設されたゴム層を有するVリブドベルトに関する。
そして、本発明に係るVリブドベルトは、上記目的を達成するために以下のようないくつかの特徴を有している。即ち、本発明は、以下の特徴を単独で、若しくは、適宜組み合わせて備えている。
【0010】
上記目的を達成するための本発明に係るVリブドベルトにおける第1の特徴は、前記ゴム層は、前記リブ部が設けられる内層と、前記内層の背面側に配置されるとともに、屈曲部を有する短繊維が含有されている伸張層と、を備え、前記伸張層には、前記短繊維の質量とゴムの質量とが4対100乃至35対100の範囲の割合となるように、前記短繊維が含有されていることである。
【0011】
この構成によると、伸張層が帆布でなくゴム組成物で構成されるため、帆布を用いることに伴う周期的な異音の発生の問題が生じない。そして、短繊維が含有されたゴム組成物として伸張層が構成されているため、ベルト背面における粘着磨耗の発生によるスリップ音等の異音発生も抑制することができる。さらに、伸張層に含有される短繊維は、屈曲部を有するものであるため、特定の方向を配向していないランダムな配向状態で含有させ易く、Vリブドベルトに対して種々の方向の力が作用してもその多方面からの力に対する耐性を確保し易い。このため、リブの間の谷部分の縦裂きの発生及びベルト端部からの亀裂の発生をいずれも抑制することができ、優れた耐引き裂き性と耐亀裂性とを実現してベルト寿命を向上させることができる。
従って、本発明によると、ベルト背面をアイドラープーリに当接係合させたときにおける異音の発生を抑制することができるとともに、リブの間の谷部分の縦裂きの発生及びベルト端部からの亀裂の発生をいずれも抑制することができるVリブドベルトを得ることができる。
【0012】
また、本発明に係るVリブドベルトにおける第2の特徴は、前記短繊維は、前記伸張層において特定の方向を配向していないランダムな配向状態で含有されていることである。
【0013】
この構成によると、特定の方向を配向していないランダムな配向状態で含有された短繊維により、Vリブドベルトに対して種々の方向の力が作用してもその多方面からの力に対する耐性を確保し易い。このため、リブの間の谷部分の縦裂きの発生及びベルト端部からの亀裂の発生をいずれも抑制することができ、優れた耐亀裂性と耐引き裂き性とを実現してベルト寿命を向上させることができる。
【0014】
また、本発明に係るVリブドベルトにおける第3の特徴は、前記短繊維は、ミルドファイバーであることである。
【0015】
この構成によると、粉砕処理等によって形成されるミルドファイバーを用いることで、屈曲部を有する短繊維を容易に実現することができる。また、ミルドファイバーは、適度な屈曲を有するため、ゴム組成物中での良好な分散性を確保し易く、短繊維の分布状態のムラが発生することを抑制できるため、耐亀裂性と耐引き裂き性とをより顕著に発揮してベルト寿命の向上をより確実に図ることができる。
【0016】
また、本発明に係るVリブドベルトにおける第4の特徴は、前記短繊維は、ポリアミド製であることである。
【0017】
この構成によると、伸張層がポリアミド製の短繊維を含有することで、ベルト背面をアイドラープーリに接触係合させて駆動する背面駆動においても、優れた耐摩耗性を発揮することができる。
【0018】
また、本発明に係るVリブドベルトにおける第5の特徴は、前記伸張層におけるゴムは、エチレン・α−オレフィンを主成分とすることである。
【0019】
一般的に、ベルトを構成するゴムの主成分としてエチレン・α―オレフィンを用いた場合、リブの間の谷部分の縦裂きの発生やベルト端部からの亀裂が発生し易い傾向がある。しかし、本発明の構成によると、伸張層におけるゴムがエチレン・α−オレフィンであっても、優れた耐引き裂き性と耐亀裂性とを実現してベルト寿命を向上させることができる。なお、主成分として用いられているゴムとは、複数の種類のゴム材料が含有されている場合においては、ゴムの組成において最も多く含有されている成分のゴムのことを指し、例えば、50%以上含有されているものであれば主成分となる。
【0020】
また、本発明に係るVリブドベルトにおける第6の特徴は、前記エチレン・α−オレフィンは、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体とエチレン・ブテン共重合体とを含有していることである。
【0021】
この構成によると、エチレン・α−オレフィンとしてエチレン・プロピレン・ジエン共重合体とエチレン・ブテン共重合体とが含有されていることで、成形性を良好なものとしつつ、耐引き裂き性と耐亀裂性とをより高めることができる。
【0022】
また、本発明に係るVリブドベルトにおける第7の特徴は、前記エチレン・α−オレフィンは、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体の質量とエチレン・ブテン共重合体の質量とが90対10乃至30対80の範囲の割合となるように、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体とエチレン・ブテン共重合体とを含有していることである。
【0023】
この構成によると、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体の質量とエチレン・ブテン共重合体の質量との割合が90対10よりもエチレン・プロピレン・ジエン共重合体の質量が少ない割合になることで、耐引き裂き性と耐亀裂性とを向上させることができる。そして、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体の質量とエチレン・ブテン共重合体の質量との割合が30対80よりもエチレン・プロピレン・ジエン共重合体の質量が多い割合になることで、良好な加工性が確保されて成形不良の発生が抑制される。
【0024】
また、本発明に係るVリブドベルトにおける第8の特徴は、前記伸張層には、繊維の長さが0.1mm乃至1.0mmの範囲内である極短繊維が更に含有されていることである。
【0025】
この構成によると、伸張層に更に含有される極短繊維は、繊維長が0.1mm乃至1.0mmの範囲内と非常に短いため、特定の方向を配向していないランダムな配向状態で含有させ易い。このため、伸張層に屈曲部を有する短繊維に加えて極短繊維も含有されることで、Vリブドベルトに対して種々の方向の力が作用してもその多方面からの力に対する耐性を更に確保し易くなる。これにより、リブの間の谷部分の縦裂きの発生及びベルト端部からの亀裂の発生をいずれも更に抑制することができ、優れた耐引き裂き性と耐亀裂性とを実現してベルト寿命を更に向上させることができる。
【0026】
また、本発明に係るVリブドベルトにおける第9の特徴は、前記極短繊維は、セルロースであることである。
【0027】
この構成によると、セルロースの極短繊維によって、親水性を向上させることもできるため、注水時のベルト伝達性能を向上させることができる。
【0028】
また、本発明に係るVリブドベルトにおける第10の特徴は、前記ゴム層における前記伸張層の背面側は露出した状態になっていることである。
【0029】
ゴム層の背面側に帆布を貼着したVリブドベルトの場合は、背面の摩擦係数が低いために背面駆動において十分な伝達性能を得ることが難しい。しかしながら、背面に帆布が貼着されておらずゴム層における伸張層の背面側が露出した状態となるように構成されたVリブドベルトによると、ゴム層の背面に帆布を貼着したものに比べて高い摩擦係数を確保することができ、良好な伝達性能を得ることができる。
【0030】
また、前述の目的を達成するための本発明に係るVリブドベルトの製造方法は、ベルト長手方向に延びるリブ部が形成されるとともにベルト長手方向に心線を埋設したゴム層を有するVリブドベルトの製造方法に関する。そして、本発明の製造方法は、前記ゴム層において前記リブ部が設けられている内層の背面側に配置される伸張層を形成するためのゴムシートを、屈曲部を有する短繊維が当該短繊維の質量とゴムの質量とが4対100乃至35対100の範囲の割合となるように含有されたゴムシートとして形成するゴムシート形成ステップを備えていることを特徴とする。
【0031】
この構成によると、ベルト背面をアイドラープーリに当接係合させたときにおける異音の発生を抑制することができるとともに、リブの間の谷部分の縦裂きの発生及びベルト端部からの亀裂の発生をいずれも抑制することができるVリブドベルトを製造することができる。
また、仮に直線状の短繊維が含有されたゴムシートを用いた場合、耐縦裂き性及び耐亀裂性の向上を図るために短繊維のランダムな配向状態を確保しようとすると、ゴムシートの製造工程の複雑化を招きその製造自体も困難を伴うことになる。しかし、本発明の構成によると、屈曲部を有する短繊維を分散配合するだけで、伸張層において特定の方向を配向していないランダムな配向状態で短繊維が含有されたゴムシートを簡易な製造工程で容易に形成することができる。
【0032】
また、本発明に係るVリブドベルトの製造方法は、前記ゴムシートは、前記短繊維が分散配合された状態のゴム組成物が圧延されることでシートとして形成されることが望ましい。
【0033】
圧延によりゴムシートを形成することで効率的にゴムシートを製造することができるが、仮に直線状の短繊維が含有されたゴム組成物を圧延すると、短繊維が一定の方向に配向されてしまうことになるため、耐縦裂き性及び耐亀裂性の向上を図るための短繊維のランダムな配向状態を確保することが困難になる。しかし、本発明の構成によると、屈曲部を有する短繊維が分散配合された状態のゴム組成物が圧延されるため、伸張層において特定の方向を配向していないランダムな配向状態で短繊維が含有されたゴムシートを簡易な製造工程で容易に形成することができる。
【0034】
また、本発明に係るVリブドベルトの製造方法は、前記ゴムシート形成ステップは、前記伸張層を形成するためのゴムシートを、繊維の長さが0.1mm乃至1.0mmの範囲内である極短繊維が更に含有されたゴムシートとして形成することが望ましい。
【0035】
この構成によると、リブの間の谷部分の縦裂きの発生及びベルト端部からの亀裂の発生をいずれも更に抑制することができ、優れた耐引き裂き性と耐亀裂性とを実現してベルト寿命を更に向上させることができるVリブドベルトを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本発明の実施形態として図1乃至図3の断面図に例示した3つの形態のVリブドベルトについて説明するが、必ずしもこの例に限定されるものではない。即ち、本発明は、図1乃至図3に示すものと同様に、ベルト長手方向に延びるリブ部が形成されるとともにベルト長手方向に沿って心線が埋設されたゴム層を有するVリブドベルトであれば、広く適用することができるものである。
【0037】
図1に示すVリブドベルト1A、図2に示すVリブドベルト1B、及び図3に示すVリブドベルト1Cは、いずれも、ベルト長手方向(図1乃至図3における紙面垂直方向)に延びるリブ部が形成されるとともにベルト長手方向に沿って心線3が埋設されたゴム層を有するものとして形成されている。そして、そのリブ部は、ベルト長手方向に平行に延びて並列状態に配置された複数のリブ7により構成されている。また、ゴム層は、リブ部が設けられる内層と、この内層の背面側に配置される伸張層5とを備えて構成されている。伸張層5には、後述するように、屈曲部を有する短繊維4が含有されている。
【0038】
まず、図1に示すVリブドベルト1Aは、背面8が短繊維4を含有するゴム組成物で形成された伸張層5と、この伸張層5の下層に配置される接着層2と、さらにその下層に配置され短繊維4aを含有するゴム組成物で形成された圧縮層6(圧縮層6a)とを備えて構成されている。Vリブドベルト1Aでは、伸張層5、接着層2、及び圧縮層6aの3層でゴム層が構成されており、圧縮層6aが内層を構成している(なお、接着層2及び圧縮層6が内層を構成しているものとして定義されてもよい)。また、心線3は、ベルト長手方向に沿って本体内に埋設されるように配置されており、その一部が伸張層5に接し、残りの部分が接着層2に接した状態で配置されている。そして、圧縮層6aには、断面が略台形形状でベルト長手方向に延びる複数のリブ7が設けられている。なお、伸張層5に含有される短繊維4は、特定の方向を配向していないランダムな配向状態で含有されており、圧縮層6aに含有される短繊維4aは、ベルト長手方向と直交する方向であるベルト幅方向に配向した状態で含有されている。また、リブ7の表面は研磨面となっている。
【0039】
図2に示すVリブドベルト1Bは、背面8が短繊維4を含有するゴム組成物で形成された伸張層5と、この伸張層5の下層に配置される接着層2と、さらにその下層に配置され短繊維4bを含有するゴム組成物で形成された圧縮層6(圧縮層6b)とを備えて構成されている。Vリブドベルト1Bも、伸張層5、接着層2、及び圧縮層6bの3層でゴム層が構成されており、圧縮層6bが内層を構成している。また、心線3は、ベルト長手方向に沿って本体内に埋設されるように配置されており、その一部が伸張層5に接し、残りの部分が接着層2に接した状態で配置されている。そして、圧縮層6bには、断面が略台形形状でベルト長手方向に延びる複数のリブ7が設けられている。なお、伸張層5に含有される短繊維4は、特定の方向を配向していないランダムな配向状態で含有されている。一方、圧縮層6bに含有される短繊維4bは、リブ形状に沿った流動状態を呈するように配向した状態で含有されており、表面近傍においては、短繊維4bはリブ7の外形に沿って配向した状態で含有されている。
【0040】
図3に示すVリブドベルト1Cは、背面8が短繊維4を含有するゴム組成物で形成された伸張層5と、この伸張層5の下層に配置され短繊維を含有しないゴム組成物で形成された圧縮層6(圧縮層6c)とを備えて構成されている。Vリブドベルト1Cでは、伸張層5及び圧縮層6cの2層でゴム層が構成されており、圧縮層6cが内層を構成している。また、心線3は、ベルト長手方向に沿って本体内に埋設されるように配置されており、その一部が伸張層5に接し、残りの部分が圧縮層6cに接した状態で配置されている。そして、圧縮層6cには、断面が略台形形状でベルト長手方向に延びる複数のリブ7が設けられており、各リブ7の表面には短繊維9が植毛されている。なお、伸張層5に含有される短繊維4は、特定の方向を配向していないランダムな配向状態で含有されている。
【0041】
上述したVリブドベルト1A乃至1Cにおいては、心線3が、伸張層5及び接着層2、又は伸張層5及び圧縮層6の2層に接した状態である場合を例にとって説明したが、必ずしもこの通りでなくてもよい。即ち、心線3の全部が、1つの層(例えば、接着層2のみ)に埋設された状態で配置されているものであってもよい。
【0042】
また、Vリブドベルト1A乃至1Cにおいては、圧縮層6として、短繊維を分散して含有させたり、表面に植毛したりしている構成を例示したが、必ずしも短繊維が用いられているものでなくてもよい。また、圧縮層6が表層と裏層の2層で構成されているものとすることもできる。このように圧縮層6を2層構造にした場合は、表層にのみ短繊維を含有させることが望ましい。圧縮層6の表層が短繊維を含有するゴム組成物で構成される場合、その短繊維は例えばベルト幅方向に配向させたり(図1参照)、リブ形状に沿った流動状態を呈するように配向させるとともに表面近傍のみリブ7の外形に沿って配向させたり(図2参照)することもできる。なお、植毛の方法としては、機械的植毛、静電気的植毛など、種々の方法を用いることができ、限定されるものではない。
【0043】
また、Vリブドベルト1A乃至1Cにおいて、伸張層5はゴム組成物で構成されているが、背面8をアイドラープーリ(図示せず)に接触係合させて駆動する背面駆動時の異音を抑制する観点から、背面8に凹凸パターンを設けることができる。この凹凸パターンとしては、編布パターン、織布パターン、スダレ職布パターンなどを用いることができるが、織布パターンがより好ましい。なお、背面8を研磨面にしてもよい。
【0044】
また、図3のVリブドベルト1Cのように接着層を設けないVリブドベルトの場合は、心線3は伸張層5と圧縮層6との境界領域でベルト本体に埋設されることになる。この場合、心線3とベルト本体との接着性を考慮すると、圧縮層6において少なくとも心線3の近傍の部分が短繊維を含有していないゴム組成物で構成されることが望ましい。また、図1・図2のVリブドベルト1A・1Bのように接着層2を設けるVリブドベルトの場合は、接着層2は、短繊維を含有していないゴム組成物で構成されることが望ましい。
【0045】
また、Vリブドベルト1A乃至1Cにおいて、圧縮層6、接着層2(ベルト1C以外)、及び伸張層5は、ゴム組成物として形成されており、そのゴム成分としては、例えば、エチレン・α−オレフィンゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、天然ゴム(NR)、エチレン・ビニルエステル共重合体、エチレン−α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体などのうちの少なくとも一種類のゴムを挙げることができる。なかでもエチレン・α−オレフィンゴムが、優れた耐オゾン性、耐熱性、耐寒性を有しているとともに比較的安価なポリマーであり、脱ハロゲンという要求を満たしていることから、これを用いることが好ましい。即ち、ゴム成分としては、エチレン・α−オレフィンゴム単独またはその他の種類のゴムからなるゴムとエチレン・α−オレフィンゴムを混ぜ合わせたブレンドゴムが望ましい。なお、伸張層5におけるゴム成分も、エチレン・α−オレフィンを主成分(ゴムの組成において最も多く含有されている成分のゴムのことを指し、例えば、50%以上含有されているものであれば主成分となる)とすることが望ましい。
【0046】
エチレン・α−オレフィンゴムは、エチレンとα−オレフィン(プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテンなど)の共重合体、あるいは、エチレンと上記α−オレフィンと非共役ジエンの共重合体であり、具体的にはエチレン・プロピレンゴム(EPM)やエチレン・ブテン共重合体(EBM)やエチレン・プロピレン・ジエン共重合体(EPDM)などのゴムを指す。上記ジエン成分としては、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、シクロオクタジエン、メチレンノルボルネンなどの炭素原子数5乃至15の非共役ジエンが挙げられる。EPDMは、耐熱性や耐寒性に優れるという特性を有しており、耐熱・耐寒性能の高いベルトを得ることができる。このEPDMはヨウ素価が3乃至40のものが好ましく用いられる。ヨウ素価が3未満であると、ゴム組成物の加硫が十分でなく磨耗や粘着の問題が発生し、またヨウ素価が40を超えると、ゴム組成物のスコーチが短くなって扱い難くなり、耐熱性が悪化することになる。
【0047】
なお、とくに伸張層5におけるゴムの主成分としてのエチレン・α−オレフィンは、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体とエチレン・ブテン共重合体とを含有していることが望ましい。エチレン・α−オレフィンとしてエチレン・プロピレン・ジエン共重合体とエチレン・ブテン共重合体とが含有されていることで、成形性を良好なものとしつつ、耐引き裂き性と耐亀裂性とをより高めることができる。そして、伸張層5におけるエチレン・α−オレフィンは、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体の質量とエチレン・ブテン共重合体の質量とが90対10乃至30対80の範囲の割合となるように、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体とエチレン・ブテン共重合体とを含有していることが望ましい。エチレン・プロピレン・ジエン共重合体の質量とエチレン・ブテン共重合体の質量との割合が90対10よりもエチレン・プロピレン・ジエン共重合体の質量が少ない割合になることで、耐引き裂き性と耐亀裂性とを向上させることができる。そして、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体の質量とエチレン・ブテン共重合体の質量との割合が30対80よりもエチレン・プロピレン・ジエン共重合体の質量が多い割合になることで、良好な加工性が確保されて成形不良の発生が抑制されることになる。
【0048】
なお、接着性や耐引き裂き性を向上させるために、エチレン・ビニルエステル共重合体及び/又はエチレン−α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体とエチレン・α−オレフィンゴムとを質量割合で5/95乃至95/5、更に好ましくは10/90乃至60/40含有するゴム組成物としてもよい。また、圧縮層6、接着層2及び伸張層5をゴム成分が同一配合となるように配合されたゴム組成物として構成してもよいし、また、異なる配合のゴム組成物として構成してもよい。
【0049】
上記ゴムの架橋には、硫黄や有機過酸化物が使用される。有機過酸化物としては、具体的には、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、1,1−t−ブチルペロキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジ−メチル−2,5−ジ(t−ブチルペロキシ)ヘキサン、2,5−ジ−メチル−2,5−ジ(t−ブチルペロキシ)ヘキサン−3、ビス(t−ブチルペロキシジ−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジ−メチル−2,5−ジ(ベンゾイルペロキシ)ヘキサン、t−ブチルペロキシベンゾアート、t−ブチルペロキシ−2−エチル−ヘキシルカーボネートが挙げられる。この有機過酸化物は、単独もしくは混合物として、質量割合においてゴムの質量100に対して0.5乃至8の質量の範囲の割合で配合されて使用されることが好ましい。
【0050】
また、加硫促進剤を配合してゴム組成物を構成してもよい。加硫促進剤としては、チアゾール系、チウラム系、スルフェンアミド系の加硫促進剤が例示できる。チアゾール系加硫促進剤としては、具体的には2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトチアゾリン、ジベンドチアゾル・ジスルフィド、2−メルカプトベンゾチアゾールの亜鉛塩等がある。チウラム系加硫促進剤としては、具体的にはテトラメチルチウラム・モノスルフィド、テトラメチルチウラム・ジスルフィド、テトラエチルチウラム・ジスルフィド、N,N'−ジメチル−N,N'−ジフェニルチウラム・ジスルフィド等がある。スルフェンアミド系加硫促進剤としては、具体的にはN−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N'−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド等がある。また、他の加硫促進剤としては、ビスマレイミド、エチレンチオウレアなども使用できる。これらの加硫促進剤は単独で使用してもよいし、2種以上の組み合わせで使用してもよい。
【0051】
また、架橋助剤(co-agent)を配合することによって、架橋度を上げて粘着磨耗等の問題を防止することもできる。架橋助剤としては、TAIC、TAC、1,2ポリブタジエン、不飽和カルボン酸の金属塩、オキシム類、グアニジン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、N−N'−m−フェニレンビスマレイミドが好ましい。その配合量としては、質量割合においてゴムの質量100に対して0.5乃至10の質量の範囲の割合で配合されることが望ましく、0.5未満の質量割合では配合による効果が顕著でなく、10を超える質量割合では引き裂き力や接着力が低下する傾向がある。
【0052】
また、上述した以外に、必要に応じてカーボンブラック、シリカのような増強剤、炭酸カルシウム、タルクのような充填材、可塑剤、安定剤、加工助剤、着色剤のような通常のゴム配合物に使用されるものも配合して用いることができる。
【0053】
Vリブドベルト1A・1Bにおいては、圧縮層6には、ナイロン6、ナイロン66、ポリエステル、綿、アラミドなどからなる短繊維(4a、4b)を混入して圧縮層6の耐側圧性を向上させるとともに、プーリと接する面になる圧縮層6の表面に短繊維(4a、4b)を突出させ、圧縮層6の摩擦係数を低下させて、ベルト走行時の騒音を軽減させることもできる。短繊維(4a、4b)は、繊維長さ1乃至20mmで、その配合量は、質量割合においてゴムの質量100に対して1乃至55の質量の範囲の割合であることが望ましい。短繊維(4a、4b)の配合量が1未満の質量割合の場合には、圧縮層6のゴムが粘着し易くなって磨耗する傾向があり、また一方40を超える質量割合の場合には、短繊維(4a、4b)がゴム中において均一に分散しにくい傾向がある。なお、短繊維(4a、4b)は、圧縮層6のゴムとの接着性を向上させるためにも、エポキシ化合物やイソシアネート化合物などを含有する処理液によって接着処理されていることが望ましい。
【0054】
Vリブドベルト1A乃至1Cにおいて、伸張層5には、屈曲部を有する短繊維4が、特定の方向を配向していないランダムな配向状態で含有されている。この短繊維4は、1個の短繊維につき1個以上の屈曲部を有するものであればよい。図4は、屈曲部を有する短繊維4を例示したものであるが、波状の形状のもの(A)、螺旋状の形状のもの(B)、ジグザグ形状のもの(C)、不定形な形状のもの(D)、ゆるやかな曲線状の形状のもの(E)など、種々の形状をしたものを用いることができる。なお、伸張層5には、同一の形状をした同種類の短繊維4のみが含有されていてもよく、また、種々の異なる形状をした複数の種類の短繊維4が併用して含有されていてもよい。すなわち、伸張層5における短繊維4の含有の形態はとくに限定されるものではなく、同種類の短繊維4のみを含有させる場合も含め、種々の形状をした短繊維4を任意の組み合わせで選択して含有させることができる。
【0055】
伸張層5においては、屈曲部を有する短繊維4がランダムな配向状態で含有されることで、一定の方向に対する方向性を示すことなく多方向から作用する力に対して耐性があるため、多方向からの裂きや亀裂の発生を抑制でき、これによりベルト寿命が向上するという効果を奏することができる。
【0056】
なお、短繊維4の屈曲の程度が強すぎたり、1つの短繊維4における屈曲部の量が多すぎたりすると、短繊維4がゴムに分散し難くなるため、分散を阻害しない程度の適度の屈曲を有する短繊維4を選択することが望ましい。適度な屈曲を有する短繊維4としては、例えばミルドファイバーを用いることができる。ミルドファイバーは、例えばチョップドストランドをミル等により粉砕処理することによって得られる短繊維であり、この粉砕処理時の負荷により適度な屈曲部を有する短繊維4を形成することができる。なお、伸張層5に屈曲部を有する短繊維4とともに、屈曲部を有さない短繊維も含有するものであってもよい。
【0057】
短繊維4は、例えばポリアミド製のもの(ナイロン短繊維等)を用いることができ、繊維長が0.1乃至3.0mmの範囲であることが望ましい。ポリアミド製とすることで、耐摩耗性に優れた短繊維4を得ることができる。また、伸張層5における短繊維4の配合量については、短繊維4の質量とゴムの質量とが4対100乃至35対100の範囲の割合となるように、短繊維4が含有されていることが望ましい。短繊維の配合量が4未満の質量割合の場合には、耐引き裂き性、耐亀裂性の改善が見られず、一方35を超える質量割合の場合には、短繊維4がゴム中に均一に分散し難く、またベルト屈曲性が悪化してしまう傾向にある。なお、短繊維4についても、短繊維(4a、4b)の場合と同様に、接着処理を施すことができる。
【0058】
Vリブドベルト1A乃至1Cにおいて、心線3としては、ポリエステル繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などを材料とする撚コード等を用いることができる。ガラス繊維の組成は、Eガラス、Sガラス(高強度ガラス)のいずれでもよく、フィラメントの太さ及びフィラメントの収束本数及びストランド本数に制限されるものではない。
【0059】
心線3は、接着処理が施されることが望ましく、例えば(1)未処理コードをエポキシ化合物やイソシアネート化合物から選ばれた処理液を入れたタンクに含浸してプレディップした後、(2)160℃乃至200℃に温度設定した乾燥炉に30秒間乃至600秒間通して乾燥し、(3)続いてRFL液からなる接着液を入れたタンクに浸漬し、(4)210℃乃至260℃に温度設定した延伸熱固定処理器に30秒間乃至600秒間通し、−1%乃至3%延伸して延伸処理コードとする、ことができる。
【0060】
この場合、前処理液で使用するイソシアネート化合物としては、例えば4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレン2,4−ジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ポリアリールポリイソシアネート等を用いることができる。このイソシアネート化合物は、トルエン、メチルエチルケトン等の有機溶剤に混合して使用される。また、このようなイソシアネート化合物にフェノール類、第3級アルコール類、第2級アルコール類等のブロック化剤を反応させてポリイソシアネートのイソシアネート基をブロック化したブロック化ポリイソシアネートも使用することができる。
【0061】
また、エポキシ化合物としては、例えばエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールや、ポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコールとエピクロルヒドリンのようなハロゲン含有エポキシ化合物との反応生成物や、レゾルシン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジメチルエタン、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、レゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂等の多価フェノール類やハロゲン含有エポキシ化合物との反応生成物などである。このようなエポキシ化合物は、トルエン、メチルエチルケトン等の有機溶剤に混合して使用される。
【0062】
RFL処理液はレゾルシンとホルムアルデヒドの初期縮合物をゴムラテックスと混合したものであり、この場合レゾルシンとホルムアルデヒドのモル比は1:2乃至2:1にすることが接着力を高める上で好適である。モル比が1/2未満では、レゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂の三次元化反応が進みすぎてゲル化し、一方モル比が2/1を超えると、逆にレゾルシンとホルムアルデヒドの反応があまり進まないため、接着力が低下してしまう。ゴムラテックスとしては、スチレン・ブタジエン・ビニルピリジン三元共重合体、水素化ニトリルゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム等を用いることができる。
【0063】
また、レゾルシン−ホルムアルデヒドの初期縮合物と上記ゴムラテックスの固形分質量比は、1:2乃至1:8が好ましく、この範囲の比率を維持すると接着力を高める上で好適である。固形分質量比1/2未満の場合には、レゾルシン−ホルムアルデヒドの樹脂分が多くなり、RFL皮膜が硬くなって動的な接着性が悪化する。一方、固形分質量比が1/8を超えた場合には、レゾルシン−ホルムアルデヒドの樹脂分が少なくなってしまうため、RFL皮膜が柔らかくなってしまい、接着力が低下することになる。
【0064】
さらに、上述したRFL液には、加硫促進剤や加硫剤を添加してもよく、添加する加硫促進剤としては、含硫黄加硫促進剤を用いることができ、具体的には2−メルカプトベンゾチアゾール(M)やその塩類(例えば、亜鉛塩、ナトリウム塩、シクロヘキシルアミン塩等)、ジベンゾチアジルジスフィド(DM)等のチアゾール類、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(CZ)等のスルフェンアミド類、テトラメチルチウラムモノスルフィド(TS)、テトラメチルチウラムジスルフィド(TT)、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(TRA)等のチウラム類、ジ−n−ブチルジチオカルバミン酸ナトリウム(TP)、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(PZ)、ジエチルジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(EZ)等のジチオカルバミン酸塩類等を用いることができる。また、加硫剤としては、硫黄、金属酸化物(酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化鉛)、過酸化物等があり、上述の加硫促進剤と併用することができる。
【0065】
心線3を用いたVリブドベルト1A乃至1Cは、Vリブドベルトを2%伸張させるのに必要な引張力が100N/リブ乃至250N/リブ、更に好ましくは130N/リブ乃至210N/リブとするのがよい。このような引張力に設定することで、たとえリブゴム磨耗等によりベルト伸びが発生した場合でも、急激な張力低下を引き起こすことなく、安定した張力が維持できる。上記引張力が250N/リブを超えるとベルト伸び時に急激な張力低下が見られ、100N/リブ未満であると心線伸びによるベルト張力低下が大きくなってしまう。
【0066】
また、ベルトに147N/5本コードの初荷重をかけ、100℃雰囲気下30分放置した後に発生したベルト乾熱時収縮が50から150N/5本コードである特性を付与すると、ベルト伸びが発生しても張力を自己調整可能であり、オートテンショナーを設置しなくともベルトスリップ率が小さくてベルト寿命が長いものを得ることができる。ベルト乾熱時収縮力が50N未満の場合には、ベルト張力を調整する性能に乏しく、スリップ率が高くなる傾向にある。また、ベルト乾熱時収縮力が150Nを超える場合には、ベルト長さの経時収縮が大きくなる傾向にある上に、スリップ率が小さくなる効果は小さい。
【0067】
以上、図1乃至図3を参照しつつVリブドベルト1A乃至1Cの構成を例にとって本実施形態のVリブドベルトについて説明したが、必ずしも図1乃至図3に示した構成のVリブドベルトでなくても本発明を適用することができる。
【0068】
次に、上述したVリブドベルト1A乃至1Cを含む本発明の実施形態に係るVリブドベルトの製造方法について説明する。なお、本発明のVリブドベルトの製造方法は、以下に例示して説明する本実施形態のVリブドベルトの製造方法に限定されるものではなく、ベルト長手方向に延びるリブ部が形成されるとともにベルト長手方向に心線を埋設したゴム層を有するVリブドベルトの製造方法として広く適用できるものである。
【0069】
本実施形態のVリブドベルトの製造方法における第1の製造方法としては、まず、円筒状の成形ドラムの周面に伸張層を構成する伸張ゴムシートと接着層を構成する接着ゴムシートとを巻きつけた後、この上にコードからなる心線を螺旋状にスピニングし、更に圧縮層を構成する圧縮ゴムシートを順次巻きつけて未加硫スリーブを形成した後、加硫して加硫スリーブを得る。次に、加硫スリーブを駆動ロールと従動ロールに掛架して所定の張力下で走行させ、更に回転させた研削ホイールを走行中の加硫スリーブに当接するように移動してスリーブの圧縮層表面に3乃至100個の複数の溝状部を一度に研磨してリブ部を形成する。このようにして得られたスリーブを駆動ロールと従動ロールから取り外し、そのスリーブを他の駆動ロールと従動ロールに掛架して走行させ、カッターによって所定の幅に切断して個々のVリブドベルトに仕上げるものである。
【0070】
次に、本実施形態のVリブドベルトの製造方法における第2の製造方法としては、周面にリブ刻印を設けた円筒状の成形ドラムに、圧縮層を構成する圧縮ゴムシート、及び接着層を構成する接着ゴムシートを巻きつけた後、心線をスピニングし、伸張層を構成する伸張ゴムシートを巻きつけて未加硫スリーブを配置する。その後、この未加硫スリーブを成形ドラムに押圧しながら加硫することで、圧縮層にリブを型付けする。得られた加硫スリーブにはリブが形成されているが、必要に応じてリブ表面を研磨し、所定幅に切断して個々のVリブドベルトに仕上げるものである。
【0071】
また、本実施形態のVリブドベルトの製造方法における第3の製造方法としては、円筒状の成形ドラムに装着された可撓性ジャケットの上に伸張層を構成する伸張ゴムシート、接着層を構成する接着ゴムシートを巻き、その上に心線をスピニングした後、さらに圧縮層を構成する圧縮ゴムシートを順次無端状に巻き付けて未加硫スリーブを形成する。そして、可撓性ジャケットを膨張させて、未加硫スリーブをリブ部に対応した刻印を有する外型に押圧して加硫成形する。得られた加硫スリーブにはリブが形成されているが、必要に応じてリブ表面を研磨し、所定幅に切断して個々のVリブドベルトに仕上げるものである。
【0072】
また、本実施形態のVリブドベルトの製造方法における第4の製造方法としては、円筒状の成形ドラムに装着された可撓性ジャケットの上に圧縮層を構成する圧縮ゴムシートを配置した第1未加硫スリーブを形成した後、可撓性ジャケットを膨張させて、第1未加硫スリーブをリブ部に対応した刻印を有する外型に押圧して、リブ部を有する予備成型体を作成する。そして、この予備成型体を密着させた外型から内型を離間させ、次いで、内型に伸張層を構成する伸張ゴムシート、及び接着層を構成する接着ゴムシートを配置し、心線をスピニングして第2未加硫スリーブを形成する。そして、可撓性ジャケットを膨張させて、上記予備成型体を密着させた外型に第2未加硫スリーブを内周側から押圧して予備成型体と一体的に加硫する。得られた加硫ベルトスリーブにはリブが形成されているが、必要に応じてリブ表面を研磨し、所定幅に切断して個々のVリブドベルトに仕上げるものである。
【0073】
なお、Vリブドベルトの圧縮層を表層と裏層の2層からなる構成とする場合、表層と裏層の2層構成を有する圧縮ゴムシートを巻きつけることによって、若しくは表層用圧縮ゴムシートと裏層用圧縮ゴムシートとを順次巻きつけることなどによって、表層と裏層の2層構成を有する圧縮層を配置した未加硫スリーブを形成する必要がある。この場合、第1の製造方法では、研磨によりリブを形成するため、得られたVリブドベルトのリブ山には表層が存在するが、リブ側面やリブ底には裏層が露出することが考えられる。そのため、表層と裏層の2層からなる圧縮層を有するVリブドベルトの場合は、第2乃至第4の製造方法のいずれかで製造することが望ましい。
【0074】
また、図3に例示したような接着層が設けられていないVリブドベルトは、上述した製造方法において接着ゴムシートを配置せずに製造することで得ることができる。更に図2に例示するように圧縮層6に含有される短繊維4bがリブ形状に沿った流動状態を呈しているVリブドベルトは、例えば第2乃至第4の製造方法のいずれかにより製造することで得ることができる。そして、図1に例示するように圧縮層6に含有される短繊維4aがベルト幅方向に配向したようなVリブドベルトは、例えば第1の製造方法で製造することで得ることができる。
【0075】
また、上述したいずれの製造方法によるものであっても、本実施形態の製造方法は、伸張層を形成するための伸張ゴムシートを、屈曲部を有する短繊維がその短繊維の質量とゴムの質量とが4対100乃至35対100の範囲の割合となるように含有されたゴムシートとして形成する伸張ゴムシート形成ステップ(ゴムシート形成ステップ)が備えられている。なお、この伸張ゴムシート形成ステップでは、伸張ゴムシートが、短繊維が分散配合された状態のゴム組成物が圧延されることでシートとして形成されるものであることが望ましい。
【0076】
従来のように、短繊維として直線状の短繊維を用いた場合、ゴムシートの圧延時に圧延方向に短繊維が配向してしまうため、同一方向(圧延方向)への配向性を有するゴムシートが形成されてしまう。しかし、上述した伸張ゴムシート形成ステップでは、屈曲部を有する短繊維を分散配合したゴム組成物を圧延するため、圧延時に短繊維が圧延方向に配向してしまうことがなく、ランダムな配向状態のままで短繊維が含有されたゴムシートを得ることができる。
【0077】
次に、本実施形態に係るVリブドベルトの具体的な実施例について説明する。本実施例においては、まず、表1の配合比率(質量比)に従ってゴム組成物を調製し、そのゴム組成物をカレンダーロールにて厚み1.0mmに圧延したゴムシートを作製した。このゴムシートを165℃で30分間加硫し、それによって得られた加硫ゴムの物性を測定した。JIS K6253に従って硬度(JIS−A)を、JIS K6251に従って切断時の伸びEB(%)を、JIS K6251に従って切断時の応力TB(MPa)を、JIS K6252に従って引き裂き力(TR−A:N/mm)をそれぞれ測定した。その測定結果を表2に示している。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
上述の表1・表2においては、それぞれ比較例とともに実施例を示している。なお、表1において、EPDMはエチレン含量が60wt%であってジエン成分としてエチリデンノルボルネンを含有している。また、ナイロンミルドファイバーは図4の(A)〜(E)のような形状をしたものが混在したものであって繊維長が2mmのものであり、ナイロンカットファイバーは直線形状で繊維長が3mmのものである。そして、パラフィニックオイルとしては出光興産社製のダイアナプロセスオイルを用い、共架橋剤としてはN−N−m−フェニレンジマレイミドを用い、有機過酸化物としては1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼンを40%wt含有し炭酸カルシウムを60wt%含有したものを用いた。また、表2において、MDは列理平行、CMDは列理直角を意味するものである。但し、実施例1乃至実施例3、比較例1、及び比較例2については、圧延方向と平行な方向をMDとし、圧延方向と直角な方向をCMDとした。
【0081】
また、本実施例においては、作製した各ゴムシートにおける短繊維の配向性の観察も行った。ナイロンカットファイバーを配合したゴムシートでは圧延方向の配向を呈していたが、ナイロンミルドファイバーを配合したゴムシートではランダムな配向状態になっていることが確認された(表2参照)。
【0082】
なお、本実施例では、ポリエステル繊維のロープからなる心線を接着層に埋設し、その上側に伸張層を配置し、接着層の下側に設けた圧縮層にリブをベルト長手方向に配したVリブドベルトの製造を行った。また、このVリブドベルトの製造においては、まず、フラットな円筒モールドに伸張ゴムシートを巻いた後、接着層を構成する接着ゴムシートを巻き付けて心線をスピニングした。そして、圧縮ゴム層を構成する圧縮ゴムシートを配置した後、この圧縮ゴムシートの上に加硫用ジャケットを挿入した。次いで、成型モールドを加硫缶内に入れ、加硫した後、筒状の加硫スリーブをモールドから取り出し、このスリーブの圧縮ゴム層をグラインダーによってリブに成形し、その成形体から個々のベルトに切断することでVリブドベルトを製造した。
【0083】
ここで、圧縮ゴムシートとしては、表1に示す配合で調整したゴム組成物をバンバリーミキサーで混練後にカレンダーロールで圧延したものを用いた。また、接着ゴムシートとしては、表1に示す配合から短繊維を除去した状態で調製したゴム組成物をバンバリーミキサーで混練後にカレンダーロールで圧延したものを用いた。また、伸張ゴムシートとしては表1に示す配合で調整したゴム組成物をバンバリーミキサーで混練後にカレンダーロールで圧延したものを用いた。
【0084】
表2においては、上述のようにして得られたVリブドベルトの耐熱屈曲性走行試験および段差プーリ縦裂き走行試験の結果も示している。なお、耐熱屈曲性走行試験に用いた走行試験機は、駆動プーリ(直径60mm)、第1アイドラープーリ(直径50mm)、従動プーリ(直径50mm)、テンションプーリ(直径50mm)、及び第2アイドラープーリ(直径50mm)を順に配置したものである。そして、走行試験機の各プーリにVリブドベルトを掛架し、一方のアイドラープーリへのVリブドベルトの巻き付け角度が90°となるように配置し、雰囲気温度が130℃、駆動プーリの回転数が3300rpm、ベルト張力が800N/リブとなるように駆動プーリに荷重を付与して走行させた。なお、試験時間は400時間で打ち切りとし、ベルト寿命時間と故障原因との関係を調査した。
【0085】
また、段差プーリ縦裂き走行試験は、駆動プーリ(直径120mm)、従動プーリ(直径120mm)、及びテンションプーリ(直径45mm)を順に配置した走行試験機を用いて行った。そして、この走行試験機の各プーリとしては、ベルトのリブに対応した凹凸が設けられているとともにその凹凸の中央部の一山が全周にわたって他の山よりも0.75mm高くなっている(その部分の直径が大きくなっている)ものを用いた。この走行試験機にVリブドベルトを掛架し、Vリブドベルトのテンションプーリへの巻き付け角度が90°となるように配置し、雰囲気温度が23℃、駆動プーリの回転数が4900rpm、従動プーリの負荷が12PS、ベルト張力が1497N/6リブとなるように駆動プーリに荷重を付与して走行し、試験時間を400時間で打ち切りとして縦亀裂発生の有無を調査した。
【0086】
表2に示すように、直線状の短繊維(ナイロンカットファイバー)を配合した比較例3・4では、圧延後のゴムシートにおいて短繊維が一方向に配向している。そして、短繊維がベルト長手方向に配向した比較例3では、耐熱走行試験においては問題はないものの、段差プーリ縦裂き走行試験の結果からわかるように、縦亀裂性に問題が発生している。一方、短繊維がベルト幅方向に配向した比較例4では、耐熱走行試験においてベルト幅方向の亀裂が確認された。また、波状等の各種形状の屈曲部を有する短繊維(ナイロンミルドファイバー)をランダム配向させたベルトにおいても、その配合量が適量未満(4%未満)の比較例1では端面からのクラックの発生が確認され、他方、配合量が適量を超える(35%を超える)比較例2ではゴム弾性が高くなりすぎて耐熱走行試験においてゴムの破壊が発生した。しかし、適量の波状等の各種形状の屈曲部を有する短繊維をランダム配向させた実施例1乃至実施例3では、縦裂き性、耐亀裂性において優れることが確認された。
【0087】
なお、エチレン・α−オレフィンとしてエチレン・プロピレン・ジエン共重合体とエチレン・ブテン共重合体とが含有されているゴム組成物を用いた場合についても実施し、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体(EPDM)とエチレン・ブテン共重合体(EBM)との配合比率(質量比)を変更することの影響についても確認を行った。具体的には、表3において実施例4乃至6として示す各配合比率(質量比)に従って調製したゴム組成物から作製したゴムシートについて、前述の実施例1乃至3と同様の項目の測定を行った。また、そのゴムシートを用いて製造したVリブドベルトについても前述の実施例1乃至3と同様の試験を行った。その測定結果および試験結果については、表4に示している。なお、表3において、EBMはブテン含量が25〜35wt%である。
【0088】
【表3】

【0089】
【表4】

【0090】
実施例4〜6は良好な加工性を有しており、成形も良好であった。また、表3および表4からわかるように、EPDM、EBMの併用により、(MD TR−A)、(CMD TR−A)が高くなっており、耐引き裂き性および耐亀裂性の向上効果を奏することが確認できた。したがって、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体の質量とエチレン・ブテン共重合体の質量との割合が90対10よりもエチレン・プロピレン・ジエン共重合体の質量が多い割合になると、耐引き裂き性および耐亀裂性の効果が顕著ではなく、一方、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体の質量とエチレン・ブテン共重合体の質量との割合が30対80よりもエチレン・プロピレン・ジエン共重合体の質量が少ない割合になると、良好な加工性が得られず成形不良となる虞がある。
【0091】
以上説明したように、本実施形態に係るVリブドベルトによると、伸張層が帆布でなくゴム組成物で構成されるため、帆布を用いることに伴う周期的な異音の発生の問題が生じない。そして、短繊維が含有されたゴム組成物として伸張層が構成されているため、ベルト背面における粘着磨耗の発生によるスリップ音等の異音発生も抑制することができる。さらに、伸張層に含有される短繊維は、屈曲部を有するものであるため、特定の方向を配向していないランダムな配向状態で含有させ易く、Vリブドベルトに対して種々の方向の力が作用してもその多方面からの力に対する耐性を確保し易い。このため、リブの間の谷部分の縦裂きの発生及びベルト端部からの亀裂の発生をいずれも抑制することができ、優れた耐引き裂き性と耐亀裂性とを実現してベルト寿命を向上させることができる。
【0092】
従って、本実施形態のVリブドベルトによると、ベルト背面をアイドラープーリに当接係合させたときにおける異音の発生を抑制することができるとともに、リブの間の谷部分の縦裂きの発生及びベルト端部からの亀裂の発生をいずれも抑制することができるVリブドベルトを得ることができる。
【0093】
また、本実施形態のVリブドベルトによると、粉砕処理等によって形成されるミルドファイバーを用いることで、屈曲部を有する短繊維を容易に実現することができる。また、ミルドファイバーは、適度な屈曲を有するため、ゴム組成物中での良好な分散性を確保し易く、短繊維の分布状態のムラが発生することを抑制できるため、耐亀裂性と耐引き裂き性とをより顕著に発揮してベルト寿命の向上をより確実に図ることができる。
【0094】
また、本実施形態のVリブドベルトによると、伸張層がポリアミド製の短繊維を含有することで、ベルト背面をアイドラープーリに接触係合させて駆動する背面駆動においても、優れた耐摩耗性を発揮することができる。
【0095】
また、本実施形態のVリブドベルトの製造方法によると、ベルト背面をアイドラープーリに当接係合させたときにおける異音の発生を抑制することができるとともに、リブの間の谷部分の縦裂きの発生及びベルト端部からの亀裂の発生をいずれも抑制することができるVリブドベルトを製造することができる。なお、仮に直線状の短繊維が含有されたゴムシートを用いた場合、耐縦裂き性及び耐亀裂性の向上を図るために短繊維のランダムな配向状態を確保しようとすると、ゴムシートの製造工程の複雑化を招きその製造自体も困難を伴うことになる。しかし、本実施形態のVリブドベルトの製造方法によると、屈曲部を有する短繊維を分散配合するだけで、伸張層において特定の方向を配向していないランダムな配向状態で短繊維が含有されたゴムシートを簡易な製造工程で容易に形成することができる。
【0096】
また、圧延によりゴムシートを形成することで効率的にゴムシートを製造することができるが、仮に直線状の短繊維が含有されたゴム組成物を圧延すると、短繊維が一定の方向に配向されてしまうことになるため、耐縦裂き性及び耐亀裂性の向上を図るための短繊維のランダムな配向状態を確保することが困難になる。しかし、本実施形態のVリブドベルトの製造方法によると、屈曲部を有する短繊維が分散配合された状態のゴム組成物が圧延されるため、伸張層において特定の方向を配向していないランダムな配向状態で短繊維が含有されたゴムシートを簡易な製造工程で容易に形成することができる。
【0097】
(別実施形態)
次に、本発明の別実施形態について説明する。別実施形態に係るVリブドベルトは、上述した図1乃至図3に示すVリブドベルト1A乃至1Cにおいて、その伸張層5に、さらに繊維の長さが0.1mm乃至1.0mmの範囲内である極短繊維が更に含有されたVリブドベルトとして実施することができる。即ち、Vリブドベルト1A乃至1Cにおいて、屈曲部を有する短繊維4が所定の割合で含有される伸張層5にさらに上記繊維長の極短繊維が含有されているものとして、別実施形態に係るVリブドベルトが構成される。この別実施形態のVリブドベルトでは、伸張層において特定の方向を配向していないランダムな配向状態で極短繊維が含有されている。
【0098】
なお、上記極短繊維は、その繊維長が0.1mm未満のものは繊維自体を作製することが極めて困難であり、また、繊維長が1.0mmを超えると伸張層中で一定の方向に配向してしまい易くなりベルトの物性への影響が生じ易くなる。このため、伸張層に更に含有される極短繊維は、その繊維長が0.1mm乃至1.0mmの範囲内であることが望ましい。
【0099】
この極短繊維としては、例えば、セルロース極短繊維を用いることができる。天然セルロース系繊維としては綿を挙げることができ、合成セルロース系繊維としてはビスコースレーヨンや銅アンモニアレーヨンなどを挙げることができる。
【0100】
この極短繊維は、繊維長が0.1mm乃至1.0mmと非常に短い。このため、この極短繊維が屈曲部を有する短繊維4とともに分散配合されたゴム組成物を圧延してゴムシートとして伸張ゴムシートを形成した場合においても、同一方向(圧延方向)への配向性を示しにくい。即ち、極短繊維が分散配合された状態のゴム組成物を圧延することで、極短繊維がランダムな状態で配向したゴムシートを容易に効率よく製造することができる。
【0101】
なお、伸張層に含有される屈曲部を有する短繊維の繊維種と極短繊維の繊維種とを異なった種類とすることで、伸張層に様々な特性を付与することが可能となる。例えば、屈曲部を有する短繊維としてナイロンを用い、極短繊維としてセルロースを用いると、耐摩耗性に優れるとともに、親水性を向上させることができる(注水時の伝達性能を向上させることができる)といった効果を得ることができる。
【0102】
次に、上記の別実施形態に係るVリブドベルトの具体的な実施例について説明する。この実施例においては、まず、表5の配合比率(質量比)に従ってゴム組成物を調整し、そのゴム組成物をカレンダーロールにて圧延したゴムシートを作製してそれを加硫し、その加硫ゴムの物性を測定した。その測定にあたっては、表2と同様の項目の測定を行った。その測定結果を表6に示している。
【0103】
【表5】

【0104】
【表6】

【0105】
上述の表5・表6における実施例7では、伸張層に屈曲部を有する短繊維(ナイロンミルドファイバー)は含有されているが、極短繊維が含有されていないものを示している。一方、表5・表6の実施例8では、伸張層に屈曲部を有する短繊維に加えて更に繊維長0.5mmの綿極短繊維も含有されているものを示している。
【0106】
表6に示すように、作製した各ゴムシート(実施例7・8)における短繊維の配向性の観察も行った。その結果、実施例7では表2の実施例と同様にナイロンミルドファイバーはランダムな配向状態になっていたが、実施例2においても、ナイロンミルドファイバー及び綿極短繊維のいずれともランダムな配向状態になっていることが確認された。
【0107】
表6においては、上述のようにして得られたVリブドベルトの耐熱屈曲性走行試験および段差プーリ縦裂き走行試験の結果も示している。この試験は、表2の実施例の場合と同様に行った。この表6に示すように、実施例1では縦裂き性及び耐亀裂性のいずれも良好であることが確認されたが、綿極短繊維も含有されている実施例8についても、縦裂き性及び耐亀裂性のいずれとも優れていることが確認された。
【0108】
また、実施例7及び実施例8に対して、追加の試験として2%スリップ試験と摩擦係数の測定試験を行った。その結果を表5に示している。なお、2%スリップ試験は、ベルトの伝達性能を評価するための試験であり、3PK1100サイズ(リブ数3、ベルト長さ1100mm)のベルトについて行った。そして、実施例7・8のVリブドベルトを室温下で駆動プーリ(直径120mm)及び従動プーリ(直径120mm)に掛架し、ベルト張力が3つのリブに対して150Nとなるように駆動プーリに荷重を付与し、駆動プーリの回転数2000rpmで走行させ、従動プーリの負荷を0から増加させて2%のスリップが発生するときのトルクを測定した。伝達性能試験であるこの2%スリップ試験では、乾燥時の伝達性能と、水を300ml/minの割合で垂らす注水時の伝達性能との評価を行った。
【0109】
また、摩擦係数測定試験では、6PK1100サイズである実施例7・8のVリブドベルトを図5に示すレイアウトで取り付けて、まず、乾燥時の摩擦係数の測定を行い、その後、注水を行いながら注水時の摩擦係数の測定を行った。そして、摩擦係数を時系列的に記録しながら最大摩擦係数を確認するとともに、聴覚による異音評価を行った。なお、一般的には、摩擦係数は、注水直後に急激に低下し、水分の乾燥とともに上昇し、その後、一定の値となる挙動が見られる傾向があり、注水後の乾燥時に摩擦係数の上昇が急で、また最大摩擦係数が高いベルトほど異音が発生し易い傾向がある。
【0110】
表7に示すように、屈曲部を有する短繊維だけで極短繊維が含有されていない実施例7に対して、屈曲部を有する短繊維と極短繊維とのいずれとも含有されている実施例8では、注水時の2%スリップ試験の測定トルクおよび摩擦係数のいずれもが上昇することが確認された。従って、ランダムな配向状態で綿極短繊維が含有されていることで、注水時の摩擦係数が上昇してスリップが発生しにくくなり、乾燥時および注水時の伝達性能の差の少ないベルトであることが確認された。なお、実施例7・8のいずれとも、スリップ音等の異音の発生が抑制されていることも確認された。
【0111】
【表7】

【0112】
以上説明したように、この別実施形態に係るVリブドベルトによると、伸張層に極短繊維が更に含有されており、この極短繊維は、繊維長が0.1mm乃至1.0mmの範囲内と非常に短いため、特定の方向を配向していないランダムな配向状態で含有させ易い。このため、伸張層に屈曲部を有する短繊維に加えて極短繊維も含有されることで、Vリブドベルトに対して種々の方向の力が作用してもその多方面からの力に対する耐性を更に確保し易くなる。これにより、リブの間の谷部分の縦裂きの発生及びベルト端部からの亀裂の発生をいずれも更に抑制することができ、優れた耐引き裂き性と耐亀裂性とを実現してベルト寿命を更に向上させることができる。
【0113】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明に係るVリブドベルトは、自動車用あるいは一般産業用の駆動装置などに装着して用いることができる。しかし、これらの用途に限らずより広汎な適用が可能であり、多くの異なる動力電動のための用途に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】本発明の一実施形態に係るVリブドベルトを例示した断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るVリブドベルトを例示した断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るVリブドベルトを例示した断面図である。
【図4】図1乃至図3に示すVリブドベルトの伸張層に含有される短繊維を例示した図である。
【図5】Vリブドベルトの摩擦係数を測定するための試験装置を説明する概略図である。
【符号の説明】
【0116】
1A、1B、1C Vリブドベルト
2 接着層(ゴム層)
3 心線
4 短繊維
5 伸張層(ゴム層)
6、6a、6b、6c 圧縮層(内層、ゴム層)
7 リブ(リブ部)
8 背面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト長手方向に延びるリブ部が形成されるとともにベルト長手方向に沿って心線が埋設されたゴム層を有するVリブドベルトであって、
前記ゴム層は、前記リブ部が設けられる内層と、前記内層の背面側に配置されるとともに、屈曲部を有する短繊維が含有されている伸張層と、を備え、
前記伸張層には、前記短繊維の質量とゴムの質量とが4対100乃至35対100の範囲の割合となるように、前記短繊維が含有されていることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項2】
前記短繊維は、前記伸張層において特定の方向を配向していないランダムな配向状態で含有されていることを特徴とする請求項1に記載のVリブドベルト。
【請求項3】
前記短繊維は、ミルドファイバーであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のVリブドベルト。
【請求項4】
前記短繊維は、ポリアミド製であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のVリブドベルト。
【請求項5】
前記伸張層におけるゴムは、エチレン・α−オレフィンを主成分とすることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のVリブドベルト。
【請求項6】
前記エチレン・α−オレフィンは、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体とエチレン・ブテン共重合体とを含有していることを特徴とする請求項5に記載のVリブドベルト。
【請求項7】
前記エチレン・α−オレフィンは、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体の質量とエチレン・ブテン共重合体の質量とが90対10乃至30対80の範囲の割合となるように、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体とエチレン・ブテン共重合体とを含有していることを特徴とする請求項5に記載のVリブドベルト。
【請求項8】
前記伸張層には、繊維の長さが0.1mm乃至1.0mmの範囲内である極短繊維が更に含有されていることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載のVリブドベルト。
【請求項9】
前記極短繊維は、セルロースであることを特徴とする請求項8に記載のVリブドベルト。
【請求項10】
前記ゴム層における前記伸張層の背面側は露出した状態になっていることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載のVリブドベルト。
【請求項11】
ベルト長手方向に延びるリブ部が形成されるとともにベルト長手方向に心線を埋設したゴム層を有するVリブドベルトの製造方法であって、
前記ゴム層において前記リブ部が設けられている内層の背面側に配置される伸張層を形成するためのゴムシートを、屈曲部を有する短繊維が当該短繊維の質量とゴムの質量とが4対100乃至35対100の範囲の割合となるように含有されたゴムシートとして形成するゴムシート形成ステップを備えていることを特徴とするVリブドベルトの製造方法。
【請求項12】
前記ゴムシートは、前記短繊維が分散配合された状態のゴム組成物が圧延されることでシートとして形成されることを特徴とする請求項11に記載のVリブドベルトの製造方法。
【請求項13】
前記ゴムシート形成ステップは、前記伸張層を形成するためのゴムシートを、繊維の長さが0.1mm乃至1.0mmの範囲内である極短繊維が更に含有されたゴムシートとして形成することを特徴とする請求項11又は請求項12に記載のVリブドベルトの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−120507(P2007−120507A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−304227(P2005−304227)
【出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】