説明

VOC測定用環境チャンバーのシール材

【課題】 環境チャンバー本体とドアの間等、環境チャンバーにおいて隙間を生じる部分に採用することによって、環境チャンバー内の気密性をより高めることができ、測定対象の装置より発生してきたVOCのみをより正確に捕集できるVOC測定用環境チャンバーのシール材を提供する。
【解決手段】 電気機器102を動作させた時に発生する揮発性有機化合物(VOC)を捕集するための環境チャンバーの例えば環境チャンバー本体101とドア111の間等に用いるシール材であって、その断面形状の少なくとも一辺以上が平面を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物を捕集した後、定性定量分析するための装置に関する。より詳細には、電気機器より放散される揮発性有機化合物を正確に捕集し、定性定量分析するための環境チャンバーのシール材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、快適な生活をおくるための製品が発達、普及した結果、日常生活において多くの機器を使うようになった。一方においては、その弊害として例えば、エアコン等の使いすぎによるヒートアイランド現象やエアコンや冷蔵庫の冷媒によるオゾンホールの拡大、自動車の排気ガスによる大気汚染あるいは排出される二酸化炭素による地球温暖化や浮遊状粒子物質(Suspended Particulate Matter)による大気汚染、省エネを実現するために気密性を高めた住宅の増加によるシックハウス症候群の増加、ごみ焼却場より排出されるダイオキシンや農薬や除草剤等による影響が疑われている内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)による生態系への影響等の社会問題が噴出し、大きな問題になっている。これらの問題に共通している要因のひとつとして、製品を構成する材料及びその製品を作製する工程で使用される材料あるいは製品使用中に排出される物質等に各種化学物質が含まれている点である。
【0003】
例えば、最近の家について見ると、家具や家を建築する際に使用する建材には従来は天然木を使用していたが、天然木の伐採に伴う緑地低下による二酸化炭素増加等を防ぐために合板等の新建材の使用量が増加している。この合板には塗料、断熱材、接着剤等の化学物質が使用されている。またシロアリによる被害を防止するためにシロアリ駆除剤が使われたり、抗菌グッズや芳香剤、合成洗剤等、種々の化学物質が我々の生活では使用されている。
【0004】
また電気製品について目を向けると、これらも製品構成材料にプラスティックや接着剤等の化学物質が使われている。複写機やプリンター等の事務機器について見ると、製品構成の中にプラスティック、接着剤以外に、トナーや紙等が使用され、トナーには溶剤、定着材、トナー粒子等が含有し、製品稼動時これらの化学物質が室内に放出されている。
【0005】
『organic pollutants、EURO Reports&Studies No.111、1987』に記載されている様に、WHOの有機性室内空気汚染物質のワーキンググループは沸点に応じて有機性室内空気汚染物質を超揮発性有機化合物(ery olatile rganic ompounds(VVOC))、揮発性有機化合物(olatile rganic ompounds(VOC))、半揮発性有機化合物(emiolatile rganic ompounds(SVOC))、POM(articulate rganic atter)と定めた。更にこれらの物質の毒性や人体への影響等の詳細については、『Air quality guidelines for Europe、Regional Publications European Series No.23、1987』に記載されている様にWHOや欧州のガイドラインが示されている。
【0006】
上述の様に様々なシチュエーションの中で我々は化学物質に晒されている。この様な環境問題については人々の生活に大きく関係してくる問題なので、国や自治体、個人はもちろんのこと、メーカをはじめとする企業も取り組んでいかなければならない問題となっている。
【0007】
上述の様にいずれの製品においても、その製品を構成する材料、組み立てる際に使われた接着剤や塗料等には多くの化学物質が使われている。また、このような化学物質を用いて作られた製品を実際に使用している過程でも製品から揮発してくるVOC等の化学物質がある。これらが環境に与える影響はまだ未知数のものを含めて大きな問題になる可能性のものがあり、製品から揮発してくる化学物質を検出、測定することはいずれの製品に対しても求められるようになりつつある。
【0008】
しかし、従来家具や壁材等の建築材料等の静止した状態の製品については、化学物質の成分や濃度を検出、測定するための提案はなされていたが、特に動作した状態(通電した状態の製品)で、製品より揮発する化学物質を検出、測定する具体的な提案はほとんどなされていなかった。例えば、特許文献1では『建材・施工材からの揮発性有機化合物等の放散量検出装置』について提案されているが、建材表面より揮発するVOCを吸着剤に回収した後分析するというもので電気機器等から揮発するVOCを測定できるものではない。
【0009】
【特許文献1】特開2002−122521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように電気機器を動作中に発生してくるVOC等を回収した後分析できる装置や方法についての提案は見当たらない。
【0011】
また、環境チャンバー中に電気機器を入れて動作させている時のVOCをできる限り正確に測定するためには、建材表面より揮発するVOCを測定する環境チャンバーよりも高い気密性が求められる。即ち、電気機器を入れて動作させる環境チャンバーには、測定対象物を出し入れするための扉の他にも、外気導入口や換気する為の換気口、照明器具等を取り付けるための穴等を設ける必要があり、これらによって生じる隙間を無くしておかないと、電気機器を入れて動作させている時のVOCを正確に測定することができなくなる。
【0012】
従来から気密処理の為にシール材やパッキン等が用いられているが、高気密性を維持できるものは限定され、例えば一般的にはOリング等で良く用いられている丸形形状のシリコンパッキンが使われている。しかし、従来のものは気密性の面でも改善の余地があると共に、シリコンパッキンからは環状シリコン化合物をはじめとするVOCが発生してくる為、これらが測定環境のバックグランドを汚染し、電気機器を入れて動作させている時のVOCを正確に測定するという目的を達成することができなくなるという問題があった。
【0013】
したがって、実際に環境チャンバーを用いて、動作中の電気機器からのVOCを正確に回収できる装置、あるいは測定する方法等はいまだ確立されておらず、正確な測定ができていなかった。
【0014】
そこで本発明の目的は、環境チャンバー本体とドアの間等、環境チャンバーにおいて隙間を生じる部分に採用することによって、環境チャンバー内の気密性をより高めることができ、測定対象の装置より発生してきたVOCのみをより正確に捕集できるVOC測定用環境チャンバーのシール材を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成すべく成された本発明は、電気機器を動作させた時に発生する揮発性有機化合物(olatile rganic ompound、以下「VOC」と略す。)を捕集するための環境チャンバーに用いるシール材であって、その断面形状の少なくとも一辺以上が平面を有することを特徴とする。
また、前記断面形状が、多角形型あるいは丸型と多角形型の複合型であることを特徴とする。
また、その全体形状がリング状を成していることを特徴とする。
また、前記リングはR形状のコーナーを有することを特徴とする。
また、前記シール材の材質が、少なくとも室温でのTVOC(otal olatile rganic ompoundの略)の発生量がシール材1g当り100ng以下であることを特徴とする。
また、前記TVOCの発生量がシール材1g当り100ng以下の材質が、フッ素樹脂、フッ素ゴム、フッ素樹脂と金属との複合材料、フッ素ゴムと金属との複合材料、の群から選ばれるいずれかであることを特徴とする。
また、前記フッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−フルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリビニルフルオライド、の群から選ばれるいずれかであることを特徴とする。
また、前記フッ素ゴムが、ビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、プロピレン/テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル系フッ素ゴム、熱可塑性フッ素ゴム、の群から選ばれるいずれかであることを特徴とする。
また、前記ビニリデンフルオライド系フッ素ゴムが、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル共重合体、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン共重合体、の群から選ばれるいずれかであることを特徴とする。
また、前記金属が、ステンレス、アルミニウム、銅、の群から選ばれるいずれかであることを特徴とする。
また、前記シール材の硬度がJIS K7311に規定された方法で硬度80(JIS−A)単位以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明のVOC測定用環境チャンバーのシール材によれば、少なくとも断面形状の一辺以上が平面を有するシール材を、環境チャンバー本体とドアの間等、環境チャンバーにおいて隙間を生じる部分に採用することによって、環境チャンバー内の気密性をより高めることができ、測定対象の装置より発生してきたVOCのみをより正確に捕集できる様になる。
【0017】
また、シール材に大きな力を加えてシール材をつぶすことによって環境チャンバー内の気密性を高めていた従来品に比べて、本発明の様に断面形状の一辺以上が平面を有するシール材を用いたことで、従来品に比べてシール材のつぶししろを小さくしても気密性が高くなるため、例えば、開閉頻度が高いドアを開け閉めしても従来品に比べて本発明品の方がシール材にかかる力が少ない為に耐久性が高くなる。言い換えれば、本発明のシール材を用いることにより、ドアを開け閉めした際の気密性に関する信頼性を高めることができる。
【0018】
また、シール材に化学物質を放散しにくい材料を用いることで、不純物によって環境チャンバー内のバックグランドが高まることを抑制した環境下でガスサンプリングができるようになるため、作動中の電化機器が放散する化学物質のみを極めて正確に測定することが可能になる。
【0019】
なお、上記では環境チャンバーのドアのシール材を例に挙げて説明したが、これ以外にも環境チャンバー内の穴をシールする為の部位に本発明のシール材を適用することができる。例えば環境チャンバー内にあけたボルト穴やガスを捕集する為の配管用の穴等に対してである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、電気機器を動作させた時に発生するVOCを捕集するための環境チャンバーに用いるシール材であって、その断面形状の少なくとも一辺以上が平面を有する特徴とするVOC測定用環境チャンバーのシール材に関するものである。ここで測定対象をVOCと定義したが、VOCよりも低い沸点の有機化合物(沸点が50℃以下)や逆にVOCよりも沸点が高い有機化合物(沸点が260℃以上)、あるいは有機化合物以外の無機化合物等を測定対象とする環境チャンバーに対しても本発明のシールを適用することができる。
【0021】
環境チャンバー中で電気機器を動作させた際に発生してくるVOCを測定する場合、できる限り正確に分析する為には、(1)環境チャンバーの気密性が高く、発生したVOCが環境チャンバー外に漏れ出さないこと、(2)環境チャンバー内の部材からVOCを発生させるものがないこと、即ち環境チャンバー内のバックグランドを高めることがないことが必須である。
【0022】
しかし、従来のチャンバーでは上記(1)の高気密性を保つ為にシリコンゴム等の柔らかい物質がシール材に使われていた。一般的な用途で用いる場合はシリコンゴムを用いても問題ないが、本発明の目的であるVOCを測定するチャンバーとしてはシリコンゴムの様にVOCを発生する物質を用いたのでは、測定対象の装置より発生してきたVOCのみを正確に捕集し測定することはできない。
【0023】
また、環境チャンバー中に複写機等の電気機器を入れるためには間口の大きな開閉扉を持ったチャンバーである必要がある。大きな間口に対応するシール材としては、チャンバーとシール材の間の隙間をなくしておかないと高気密性を保てないのでシール材の表面形状は滑らかで凹凸が少なく、寸法精度も高くないと実用に耐えないが、その様な条件を満たすシール材は従来なかった。
【0024】
これに対して本発明では、環境チャンバーをシールする為の部材に少なくとも断面形状の一辺以上が平面を有するものを用いたことによって、環境チャンバーの外部と内部を遮断し、気密性を高められ、更にシール材の材質にVOCを発生しにくいあるいは発生しないものを採用することで、コンタミの原因になるものを除外した系で測定対象の電気機器の動作状態で発生してくるVOC等のガスを正確に測定できるようになる。
【0025】
次に、図を用いて本発明を更に詳述する。
図1は、化学物質を測定するためのシステムの概略図である。101は、電気機器が放散する化学物質を検出・計測するための空間を囲む容器(以下、「環境チャンバー」と呼ぶ。)である。本発明のシール材はドア111と環境チャンバー本体101の間に設置されている。この本発明のシール材を用いることによって、環境チャンバーの高気密性を維持できる様になる。
【0026】
また、環境チャンバーの壁面は検出・測定の対象である化学物質を吸着したり、反応して別の物質に変化しない材質を用いて加工がなされている。そのような加工の一例として、壁面をステンレス加工する方法がある。ステンレス加工を施した壁面は、化学物質を吸着しにくく、かつ、検出・測定対象の化学物質と化学反応を起こしにくいことから、本発明に好適である。
【0027】
102は、測定対象の電気機器である。この電気機器を環境チャンバー内で動作させるためには外部から電力を供給する必要があるため、電力線(電源コード)が必要となる。
【0028】
103は、環境チャンバー外部の差込口105に接続する、電気機器102の電源プラグである。
【0029】
104は、環境チャンバー内で電気機器102を動作させた時に発生するVOCを捕集する装置(捕集装置)である。この装置で捕集したガスをクロマトグラフィーで分析することにより、電気機器102が放散する化学物質を測定することができる。捕集装置104は、環境チャンバーの壁面と同様に、化学物質を吸着したり、反応して別の物質に変化しない材質から構成される。
【0030】
105は、電気機器102に電力を供給するための差込口(いわゆるコンセントの差込口)である。この差込口105に前述の電源プラグ103が差し込まれ、電気機器102に電力が供給される。
【0031】
一方で、環境チャンバーの外壁に穴(ケーブル通過穴)を設け、そのケーブル通過穴に電力線を通すことによって、電気機器102に電力を供給している。電力線とケーブル通過穴との間は隙間なく密着させて環境チャンバー内の気密性を保つために後述するケーブルサポート110で電力線をはさんだ後、この電力線をはさんだケーブルサポートをケーブル通過穴に挿入する。
【0032】
上述の様に本発明のシール材をドア111とチャンバー本体101の間に設置するようにしたことによって、環境チャンバー内の気密性が増し、更にVOC等の化学物質がバックグランドと同等レベルしか揮発しない材質を用いることにしたため、環境チャンバー内において測定対象の電気機器から放散されるVOC等の化学物質のみを正確に捕集、分析できるようになった。
【0033】
[シール材]
(シール材の断面形状)
本発明のシール材の断面形状としては、少なくとも断面形状の一辺以上が平面を有するものである。言い換えると、多角形型及び、丸型と多角形型の複合型等である。より具体的には、図2(b)から(f)に例示したような断面形状である。
【0034】
従来のOリング等で良く用いられている丸形形状(図2(a))の場合、例えば図1のドア111と本体101の間にこの丸形形状のシール材を用いた場合、シール材はドアと本体の間で接触しているのは図3に示した様に断面の二次元で見た場合、ドア側の点と本体側の点の2箇所が点接触(3次元の場合、線接触になる)しているのみである。もちろんドアと本体の間の締め付け圧力を高めてやれば、潰れて接触面積は増加する。しかしその場合はシール材の硬度が高過ぎず、この様な圧力で変形させたり、ドアの開閉を繰り返しても復元力が高い材質のものを選択しなければ、ドアの開閉を繰り返した場合の気密性の維持ができなくなる。また、その様な材質のものを用いたとしても、過度の圧力はシール材と接触しているドアや本体の変形を招き、使用している間にシール材の変形が戻らなくなることによる気密性低下が起こる恐れがある。
【0035】
これに対して、図2の(b)から(f)に示した様に、一辺以上が平面を持つようにすることによってドアや本体との接触面が点接触ではなく広い面で接触できるようになるために、気密性は著しく向上する。また、図2の(d)や(e)、(f)の様に図面の上半分側が絞られた形状にすることによって、ドアを閉めた際にシール材に圧力がかかった場合変形し易くなるために、ドアや本体との接触面に対して密着し易くなり気密性が更に高まるためにより好ましい。その一例を図4に示す。ドア側及び本体側共にシール材401が図3の様に2次元では点接触ではなく線(実際には立体になるので3次元的には面で当たる)で接触するようになる。
【0036】
また、シール材の角は直角でも良いが、ドアを閉めた場合の圧力を逃がしたり、あるいは着脱した場合に角が損傷しにくくでき、シール材の装着もし易くなる等の利点があるために角にはR形状を付ける方がより好ましい。具体的には、図2の(c)や(e)、(f)に示したような形状である。
【0037】
なお、上述したシール材の形状は図2の(b)から(f)に限定されるものではなく、断面形状の一辺以上が平面を有するものであれば採用することが出来る。
【0038】
(シール材の全体形状)
シール材の全体形状としては、装着する環境チャンバー本体やドアの形状にあわせた形状にするのが好ましい。一般的には、図5に示した様な矩形状のものやOリング状のものが用いられる。矩形状の場合はコーナー部を直角にすることはシール材作製上難しく、また装着し難いので、コーナー部には図示のようなR形状を持たせるほうが好ましい。
【0039】
(シール材の材質)
シール材の材質としては少なくともVOCを発生させない材質であることが望ましい。もしくは熱処理や有機溶剤や洗浄剤での洗浄処理、アルカリ洗浄処理等をすることでVOCの発生をなくすことができる様になるのであれば、そのような材質のものでも良い。具体的な材質としては、フッ素樹脂、フッ素ゴム、金属、あるいはフッ素樹脂と金属との複合材料、フッ素ゴムと金属との複合材料が好ましい。
【0040】
より具体的な材質としては、フッ素樹脂ではポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−フルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリビニルフルオライド等を用いることができる。
【0041】
また、フッ素ゴムとしては、ビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、プロピレン/テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル系フッ素ゴム、熱可塑性フッ素ゴム(フッ素樹脂とフッ素ゴムのブロックポリマー)等を用いることができる。上記のビニリデンフルオライド系フッ素ゴムとしては、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル共重合体、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン共重合体等が挙げられる。 更にVOC発生を低減させるためにはこれらの材料を作製時あるいは使用前に加熱処理あるいは真空乾燥処理することが好ましい。
【0042】
また、金属としてはステンレス、アルミニウム、銅が加工のしやすさや、耐久性等の面で好ましい。ただし、これらの材料についても、材料を製造する過程で残存した化学物質や油等が付着しているので、実際に使用する場合は、真空乾燥処理や熱処理、有機溶剤や洗浄剤を用いた洗浄処理、アルカリ洗浄処理等を行い、材料表面あるいは材料中に残存するVOC等の化学物質を除去してから用いることが望ましい。
【0043】
また、環境チャンバーに取り付けて使用中に揮発したVOCによって汚染された場合も、上記のような処理を施すことでVOC発生を抑制することができる。更に上記で挙げた材料についてはVOC等の化学物質を吸着しにくいことも環境チャンバーに取り付けて長期間使用する上で望ましい材料である。
【0044】
また、上記シール材に用いることができるものとしては、VOC等の化学物質を発生しにくいものであるが、これらの材料から具体的に放散されるVOCの値としては、ガスクロマトグラフ質量分析装置で計測した場合、バックグランドの数字と同等以下しか計測できないので数字化することが難しいが、ガスクロマトグラフ質量分析装置で定量できる限界値を目安にこれ以下の数値であれば、シール材に用いることができる。具体的には、シール材に用いる材料1g当り、100ng以下であることが好ましく、50ng以下であることが更に好ましく、20ng以下であることが望ましい。ただし、この数字に関しては上述の様に用いるガスクロマトグラフ質量分析装置の検出限界や感度によって異なるので、実質的には100ng以下であれば用いることができる。
【0045】
[環境チャンバー]
環境チャンバーの機能としては、温度、湿度を調節可能で一定に保てること、チャンバー内よりVOCガスを発生せずクリーンであること、密閉性が良く環境チャンバー外より内側に外気が混入してコンタミを起こさないこと、供給ガス量あるいは排出ガス量を調節可能でチャンバー内の空気を循環できる機能を持ち内部空気成分が均一でサンプリング位置による影響が少ないこと等を満たすものである。
【0046】
環境チャンバーの内部、即ち測定対象の電気機器を入れて測定する環境では正確にVOCを測定するために、化学物質を発生するような部材が露出しないようにする必要がある。したがって、環境チャンバーの内部に用いる材質としては、強度があり、測定対象の電気機器より発生した化学物質が吸着したり、反応したり、汚れとして付着したりしにくく、かつ化学物質を揮発しにくい物質もしくは揮発しない物質であることが好ましい。また付着したとしても掃除することによって除去し易い材質のものがより好ましい。更に環境チャンバー内部に気密性を高めて外気の混入を防ぐためにはガス透過性の低い材料であること、溶接等で継ぎ目をなくし易い材料であることが望ましい。このような条件を満たすものとしては、金属が好ましく、特にステンレスを用いることがより好ましい。ステンレスは溶接性に優れ、化学薬品に対して耐食性が高く、鏡面仕上げすることで凹凸の少ないものに仕上げることができるので揮発した化学物質を吸着しにくく、付着した汚れも清掃で容易に除去し易い、といった特徴があり、更に経済性にも優れることから環境チャンバーの内壁に用いる材質として好ましい。
【0047】
更に環境チャンバーの内部の気密性を高めるために、一般的に用いられるシリコン樹脂等のコーキング剤を用いてはならない。これはコーキング剤中より環状シリコン化合物等の種々の化学物質が揮発して環境チャンバー内部を汚染し、環境チャンバー内のバックグランドを高めるため、低濃度の測定対象物質があった場合バックグランドと重なり検出されにくくなる場合があるからである。したがって気密性を高めるためには、ステンレス材料同士のつなぎ目には溶接を実施するのが好ましい。また、扉等の開口部で溶接ができずシール材やパッキンを用いる場合は環境チャンバー内を汚染するような化学物質が揮発しない、もしくは揮発しにくい材質のものを用いることが好ましい。また、シール材と接触する部分の面、即ちドアや本体に対してシール材が接触する面はなるべく平滑であることが望ましい。例えばドアや本体の材質にステンレスを用いた場合、鏡面仕上げをすることが好ましい。
【0048】
更に外気成分が環境チャンバー内部に侵入して汚染されるのを防ぐために、環境チャンバー内部を陽圧にしておくことがなお望ましい。環境チャンバー内のクリーン度を保つために、環境チャンバー内に人が入る場合はできるならば前室を設けて直接チャンバーと外気が触れないようにしたり、エアシャワー室を設けてほこりを落とした後にチャンバー内に入室する方が好ましい。また、クリーンルームで使用するような防塵服及び防塵靴等を着用する方が好ましいことは言うまでも無い。
【0049】
また、実際に環境チャンバー中で測定を開始する前には、その測定の前に行った実験で化学物質が残存している可能性があるので、換気を行い、環境チャンバー中のガスをサンプリングすることでバックグランドを測定しておく必要がある。もしもバックグランドが通常よりも高かった場合は当然その原因を究明し、清掃することでバックグランドを下げてから測定を開始する必要がある。
【0050】
更に環境チャンバーに加える空気としては、大気中に浮遊する微粒子や化学物質、水分等を除去した清浄空気を用いることが望ましい。
【0051】
その他、図1には示していないが、環境チャンバーには清浄空気あるいは窒素ガス等の不活性ガスを供給できるポートがあり、ここから上記のガスを供給して環境チャンバー内にフレッシュなガスを供給している。このようにすることで環境チャンバー内は陽圧になり外気が環境チャンバー内部に侵入することを防止できる。ただし、完全密閉系ではないがガスを供給し続ければ当然圧力が高くなりすぎるので、一定の圧力に保持できるようにガスを排出できるようにしてある。即ち、これら吸排気量を調節することで圧力を一定に保てるような構造にしてある。
【0052】
[ケーブルサポート]
ケーブルサポート110の材質としては少なくともVOCを発生させない材質であることが望ましい。もしくは熱処理や有機溶剤や洗浄剤での洗浄処理、アルカリ洗浄処理等をすることでVOCの発生をなくすことができる様になるのであれば、そのような材質のものでも良い。具体的には、前記シール材と同様の材質のものを用いることができる。これらの材料についても、材料を製造する過程で残存した化学物質や油等が付着しているので、実際に使用する場合は、真空乾燥処理や熱処理、有機溶剤や洗浄剤を用いた洗浄処理、アルカリ洗浄処理等を行い、材料表面あるいは材料中に残存するVOC等の化学物質を除去してから用いることが望ましい。
【0053】
また、環境チャンバーに取り付けて使用中に揮発したVOCによって汚染された場合も、上記のような処理を施すことでVOC発生を抑制することができる。更に上記で挙げた材料についてはVOC等の化学物質を吸着しにくいことも環境チャンバーに取り付けて長期間使用する上で望ましい材料である。
【0054】
[揮発性有機化合物(VOC)]
VOCとは、沸点が50〜260℃(WHO基準による)の物質の総称である。本発明に関わるVOC測定用環境チャンバーは主にVOCを測定対象とするものであるが、このVOCよりも低い沸点の有機化合物(沸点が50℃以下、超揮発性有機化合物(VVOC))や逆にこのVOCよりも沸点が高い有機化合物(沸点が260℃以上、半揮発性有機化合物(SVOC))、あるいは有機化合物以外の無機化合物等に対しても適用することができる。
【0055】
VOCには、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、アルデヒド、ケトン類が含まれる。一般的に良く知られているVOCの具体例としては、トルエン、ベンズアルデヒド、n−酢酸ブチル、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、ホルムアルデヒド、アセトン、n−ウンデカン、2−ブトキシエタノール、リモネン、n−ノナナル、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、バレルアルデヒド、m−トルアルデヒド、n−ヘキサナル、2−ヘプタン、2−エチル−1−ヘキサナール、スチレン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、n−デカン、アセトアルデヒド、α−メチルスチレン、α−ピネン、n−デカナル、BHT、メタクロレイン、2、5−ジメチルスチレン、アクロレイン、プロピオンアセトアルデヒド、クロトンアルデヒド、2−ブタノン等がある。
【0056】
[TVOC]
ガスクロマトグラフ質量分析装置(as hromatograph ass pectrometer system、以下「GC/MS」と略す。)や液体クロマトグラフ分析装置等の分析装置を用いて検出したVOCの総量をTVOC(otal olatile rganic ompoundの略)と定義する。
【0057】
[VOC捕集装置]
環境チャンバー内で測定対象機器(電気機器)を動作させた時に発生するVOCを捕集させる為のVOC捕集装置104とは、測定対象機器102から発生するVOCを効率良く正確に捕集する為に測定対象機器から一定の間隔を置いた場所に、VOCを捕集するための吸着剤、吸着剤を入れるホルダー、測定対象機器から発生するVOCガスを一定量、等速で吸着剤に接触させるために用いる吸引ポンプから構成したものである。
【0058】
(VOCを捕集するための吸着剤)
VOCを捕集するための吸着剤としては、Tenax樹脂、ポリスチレン樹脂、グラファイトカーボンブラック、カーボンモレキュラーシーブ、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、アクリル−ジビニルベンゼン共重合体等を用いることができる。実際にはこれらの吸着剤をガラス管に充填したものにガスを捕集して用いている。
【0059】
吸着剤を封入したガラス管にサンプルガスを通して吸着剤にガスを捕集する場合、できるだけサンプルガス中の成分を高い回収率で捕集するためには下記の工夫が必要になる。
(1)上記吸着剤単体では捕集できないガスが生じて正確な分析ができない場合等は上記樹脂をガラス管に対して2層以上形成あるいは混合することによってガスの捕集率を高める。
(2)ガラス管に封入する吸着剤の量をできるだけ多くする。
(3)ガラス管中の吸着剤を通過させるサンプルガスの流速をゆっくりにする。
【0060】
吸着剤としては単に吸着能力が高いのみではなく、分析するために加熱すると吸着剤より脱離し易いものであることが必要である。上記以外の物質であってもVOCを加熱脱着でき、かつVOCと化学的に反応しないものであれば用いることができる。またVOCを加熱脱着できるものであれば比表面積が大きいものの方が高い吸着力を持つのでなお好ましい。
【0061】
一般的にはガス捕集及びガス脱離し易いTenax樹脂を用いて分析している。ここで、Tenax樹脂とは2,6−Diphenyl−p−phenylene oxide樹脂のことで、微粒子が集合して2次粒子を形成したものである。Tenaxの構造式は下記に示す通りである。
【0062】
【化1】

【0063】
この樹脂構造中で物質を吸着する部位はフェニル基、酸素結合部、ポリマー末端の−OH基である。
【0064】
Tenax樹脂の種類としては、一般的にはTenax TAやTenax GRが用いられる。Tenax TAは低分子極性化合物や中沸点以上の物質の捕集に有効という特徴を有する。ただし、低極性低分子化合物に対しては保持力が弱いので、これを改良したものとして、Tenax GRが用いられている。これは、粒子径0.5μmのグラファイトカーボンブラック粉を混入させたタイプで、低分子物質に対する保持力を改善したものとなっている。具体的には低沸点ハロゲン化炭化水素に対する保持量はTenax TAの容量当り2〜7倍に改善されている。
【0065】
[VOC測定装置]
環境チャンバー中で電気機器を動作させて捕集したVOCを定性定量分析する装置としては、ガスクロマトグラフ質量分析装置(as hromatograph ass pectrometer system、以下「GC/MS」と略す。)を用いる。GC/MSとは、多成分を含む試料を定性定量できる装置である。更に詳述すると、GCで多成分を分離し、MSでこれらの各成分について定量分析するというものである。
【0066】
[VVOC測定装置]
環境チャンバー中で電気機器を動作させて捕集したガス中において、VOCよりも沸点が低い化合物(VVOC)としてホルムアルデヒドやアセトアルデヒドを分析する場合については、2、4−ジニトロフェニルヒドラジン(以下「DNPH」と略す。)含浸シリカゲルを充填した捕集管やDNPH溶液に通気させることによって得たものを、高速液体クロマトグラフ分析(High Performance Liquid Chromatography、以下「HPLC」と略す。)法、GC−FTD(熱イオン化検出器)法、GC−MS(質量分析計)法を用いて分析する。この原理としては試料ガス中のホルムアルデヒドやアセトアルデヒドをDNPHと反応させて安定なヒドラジン誘導体として捕集するものである。
具体的には、環境チャンバーに設けたサンプリングポートにDNPH管を取り付け、吸引ポンプを用いてDNPH管中にガスを通過させてサンプリングする。このDNPH管に捕集した成分をアセトニトリルで抽出し、この液を定容した後、HPLC分析装置等で分析するというものである。
【実施例】
【0067】
以下、実施例に基づき本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみによって何ら限定されるものではない。
【0068】
[実験例1]
実験例1及び後述の実験例2、実験例3では、シール材の材質を検討するために行った実験について説明する。
【0069】
本実験例では、図1に示したような環境チャンバーを用い、ドア111とチャンバー本体101との間に、材質がポリテトラフルオロエチレン、バイトン(登録商標)、シリコンで、断面形状が図2(f)に示した形状で、かつ図5に示した4隅がR形状を持つ形状のシール材を装着した。そして、この環境チャンバーに清浄空気を導入し、環境チャンバー内の圧力が200Paになるようにした後、24時間清浄空気を循環した。その後、この環境チャンバー中のガスを『Tenax GRを封入したガラス管』に採取し、GC/MS(サーモクエスト製TRACE 2000SERIES)でTVOCを定量した。なお、この際サンプル毎にTVOCが異なる為、適宜希釈あるいはGC/MSの条件(スプリット比等)変更を行いGC/MSの測定レンジ内に入るように濃度調整をした上で分析した。この結果を表1に示した。
【0070】
【表1】

【0071】
表1から明らかなように、ポリテトラフルオロエチレンやバイトン(登録商標)を用いた場合は環境チャンバー内のTVOCは測定に用いたGC/MSの定量限界の下限値に近く、バックグランドをほとんど汚染していなかったことがわかった。これに対して従来から一般的に用いられているシリコンではポリテトラフルオロエチレンやバイトン(登録商標)に比べて1桁以上TVOCが高く、バックグランドを汚染していていることがわかった。
【0072】
[実験例2]
シール材に用いる各種材料からのVOCを調べるために、ポリテトラフルオロエチレン、バイトン(登録商標)、ステンレス、銅、アルミニウム、シリコンを準備した。各々細かく裁断し、アウトガス捕集装置(日本分析工業製OUTGAS COLLECTOR ModelHM−10)のサンプルチャンバーに入れた。サンプルチャンバー中に窒素ガスを100cm3/minの流速で流しながら150℃で1時間加熱した。揮発してくるガスの捕集用には『Tenax GRを封入したガラス管』を用い、この『Tenax GRを封入したガラス管』をアウトガス捕集装置にセットしてガス捕集を行った。このガス捕集を完了した『Tenax GRを封入したガラス管』を加熱してガスを脱離させたものをGC/MSに導入することによって定性、定量分析した。
【0073】
本実験例で各材料を加熱処理することによって検出された各物質の定量値の合計即ちTVOCについて、表2にまとめた。なお、表2では、評価した材料1g当りに対して得られたTVOCの量(ng)で評価した。
【0074】
【表2】

【0075】
表2より、シール材の材質として、シリコン以外はTVOCが低かった。即ち、これらの材質であればシール材として用いても環境チャンバー内のバックグランドを実用上問題ないレベルで汚染することなく使えることがわかった。
【0076】
[実験例3]
実験例2中においてポリテトラフルオロエチレンとバイトン(登録商標)、シリコンについてGC/MSを用いて定性分析し、揮発してきた化学物質について比較分析した。この際、実験室の大気中には各種化学物質が存在していて測定データに影響を及ぼす恐れがあるため、何も入れない状態をブランクとしてバックグランド測定を行った。ポリテトラフルオロエチレン、バイトン(登録商標)、シリコンを用いた場合及びブランクの場合の各スペクトルを図6A乃至図6Dに示した。横軸はリテンションタイム、縦軸が強度を示している図である。また、ポリテトラフルオロエチレンやバイトン(登録商標)をシリコンと比較するため、縦軸の目盛りを同一にしてある。
【0077】
図6A乃至図6Dより、ブランクの場合と比較してポリテトラフルオロエチレンやバイトンを用いた場合のスペクトルはピークとして出ている位置も強度の大きさもほぼ同等であった。すなわち、ポリテトラフルオロエチレンやバイトン(登録商標)から揮発して出てきている物質は特に無さそうなことがわかった。また、表2からもポリテトラフルオロエチレンのTVOCが54ng/g、バイトン(登録商標)のTVOCが66ng/gいう数字が出ているが、この数値も使用しているGC/MSの検出限界付近の値であることも考慮すると、ポリテトラフルオロエチレンやバイトン(登録商標)から揮発して出てきている物質は特に無いと言える。
【0078】
一方、シリコンについて見ると、リテンションタイム10分のトルエンや25分の環状シリコン化合物等、たくさんのピークが出現していることがわかった。これらはブランクより明らかに大きく、またリテンションタイムの位置も異なっているので多くの物質がシリコン表面あるいは内部に含有されていることがわかった。表2においてもシリコンのみが高いTVOCを示していることがわかる。また、上記のポリテトラフルオロエチレンやステンレス、銅、アルミニウムのTVOCは低く、これらについては材料表面及び内部にはVOC等の化学物質を含有していないことがわかった。したがって、これらの物質であればシール材として使えることがわかった。
【0079】
[実施例1、比較例1]
実施例1では、図1に示したような環境チャンバーを用い、ドア111とチャンバー本体101との間に、材質がバイトン(登録商標)で、断面形状が図2(b)から(f)に示した形状で、かつ図5に示した4隅がR形状を持つ形状のシール材を装着した。
【0080】
ここで、本発明のシール材の性能を調べる為に、図1から電気機器をチャンバー内より出し、また環境チャンバーに設けた穴をふさぐ為にテフロン(登録商標)製のめくらのケーブルサポート110をその穴に挿入しておいた。環境チャンバーの作動条件としては、環境チャンバー内の温度が23±2℃、湿度が50±3%になるように設定して用いた。
【0081】
次にこの環境チャンバーに清浄空気を導入し、環境チャンバー内の圧力が200Paになるようにした後、その圧力変化を24時間モニタリングした。その結果を表3に示した。
【0082】
また、比較例1として、断面形状が図2(a)のシール材を用いたこと以外は上記実施例1と同様にして、環境チャンバー内の圧力変化を24時間モニタリングし、その結果を表3に示した。
【0083】
【表3】

【0084】
表3から明らかなように、本発明の断面形状を有するシール材を用いることにより、環境チャンバー内の気密性を高めることができることが実証された。
【0085】
[実施例2、比較例2]
実施例2では、材質がバイトン(登録商標)で、断面形状が図2(f)に示した形状で、かつ図5に示した4隅がR形状を持つ形状のシール材を、図1の環境チャンバーの本体とドアとの間に設置した。
【0086】
実施例1と同様に、環境チャンバー内に清浄空気を導入し、環境チャンバー内の圧力が200Paになるようにした。10分間この状態を保持した際の環境チャンバー内の圧力を計測した。続いて常圧に戻した後、ドアを開けた。この一連の操作を繰り返し行い、10分間保持した後の環境チャンバー内の圧力が180Pa以下になるまでのドアの開閉回数を計測した。
【0087】
また、比較例2として、断面形状が図2(a)のシール材を用いたこと以外は上記実施例2と同様の実験を行った。
【0088】
上記実施例2及び比較例2で計測されたドアの開閉回数の結果を表4に示した。なお、結果については比較例2で計測されたドアの開閉回数に対して除した値とし、比較例2のドアの開閉回数を1と規格化して表した。
【0089】
【表4】

【0090】
表4から明らかなように、断面形状を図2(f)にした本発明のシール材を用いた場合、丸形の従来形状の場合に比べて環境チャンバーの気密性が低下するまでのドアの開閉回数は3.2倍に向上し、断面形状の一辺以上が平面を有するシール材を採用した効果を確認できた。これは、従来例の丸形断面形状の場合、環境チャンバー本体とドアとの間の隙間を無くして気密性を高める為に、ドアと本体との間に強く押し付けている。このために、ドアの開閉回数が少ない場合は、シール材であるバイトン(登録商標)の復元性があるために気密性が保てたが、開閉を繰り返すことでその復元力が低下するためにドアと本体の間に隙間が出来て気密性が低下したものと思われる。これに対して本発明の図2(f)の場合、断面の3方が平面であり、1方だけがラウンドしている為、従来例よりもドアと本体に対して少ない締め付け力で閉めている。このためにバイトン(登録商標)の復元力低下が従来品に比べて小さかったために気密性低下も小さくなり、環境チャンバーの気密性が低下するまでの開閉回数が従来品よりも向上したものと思われる。また、3方が平面の為平面部分の気密性は高く、気密もれが生じやすいラウンド部分が1方のみであることも従来品に比べて優れていた為と思われる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】化学物質を測定するための本発明の環境チャンバーの一例を示す概略図である。
【図2】従来品及び本発明のシール材について、その断面形状を例示した図である。
【図3】従来のシール材をドアと環境チャンバーの間ではさんだ場合の断面図の一例を示した図である。
【図4】本発明のシール材をドアと環境チャンバーの間ではさんだ場合の断面図の一例を示した図である。
【図5】本発明のシール材の全体形状の一例を示す図である。
【図6A】ポリテトラフルオロエチレン製シール材から発生してくるガスをGC/MSで測定した結果を示す図である。
【図6B】バイトン(登録商標)製シール材から発生してくるガスをGC/MSで測定した結果を示す図である。
【図6C】シリコン製シール材から発生してくるガスをGC/MSで測定した結果を示す図である。
【図6D】環境チャンバー内に何も入れない状態をブランクとしてバックグランド測定を行った結果を示す図である。
【符号の説明】
【0092】
101 チャンバー外壁(チャンバー本体)
102 電気機器
103 電源コンセントプラグ
104 サンプルガス捕集装置
105 電源コンセントボックス
110 ケーブルサポート
111 環境チャンバーのドア
301、401 シール材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機器を動作させた時に発生する揮発性有機化合物(olatile rganic ompound、以下「VOC」と略す。)を捕集するための環境チャンバーに用いるシール材であって、その断面形状の少なくとも一辺以上が平面を有することを特徴とするVOC測定用環境チャンバーのシール材。
【請求項2】
前記断面形状が、多角形型あるいは丸型と多角形型の複合型であることを特徴とする請求項1に記載のVOC測定用環境チャンバーのシール材。
【請求項3】
リング状を成していることを特徴とする請求項1又は2に記載のVOC測定用環境チャンバーのシール材。
【請求項4】
前記リングはR形状のコーナーを有することを特徴とする請求項3に記載のVOC測定用環境チャンバーのシール材。
【請求項5】
前記シール材の材質が、少なくとも室温でのTVOC(otal olatile rganic ompoundの略)の発生量がシール材1g当り100ng以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のVOC測定用環境チャンバーのシール材。
【請求項6】
前記TVOCの発生量がシール材1g当り100ng以下の材質が、フッ素樹脂、フッ素ゴム、フッ素樹脂と金属との複合材料、フッ素ゴムと金属との複合材料、の群から選ばれるいずれかであることを特徴とする請求項5に記載のVOC測定用環境チャンバーのシール材。
【請求項7】
前記フッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−フルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリビニルフルオライド、の群から選ばれるいずれかであることを特徴とする請求項6に記載のVOC測定用環境チャンバーのシール材。
【請求項8】
前記フッ素ゴムが、ビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、プロピレン/テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル系フッ素ゴム、熱可塑性フッ素ゴム、の群から選ばれるいずれかであることを特徴とする請求項6に記載のVOC測定用環境チャンバーのシール材。
【請求項9】
前記ビニリデンフルオライド系フッ素ゴムが、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル共重合体、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン共重合体の群から選ばれるいずれかであることを特徴とする請求項8に記載のVOC測定用環境チャンバーのシール材。
【請求項10】
前記金属が、ステンレス、アルミニウム、銅、の群から選ばれるいずれかであることを特徴とする請求項6に記載のVOC測定用環境チャンバーのシール材。
【請求項11】
前記シール材の硬度がJIS K7311(ポリウレタン系熱可塑性エラストマーの試験方法)に規定された方法で硬度80(JIS−A)単位以下であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載のVOC測定用環境チャンバーのシール材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【公開番号】特開2006−292397(P2006−292397A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−109384(P2005−109384)
【出願日】平成17年4月6日(2005.4.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】