説明

X線像の合成方法及びX線分析装置

【課題】 隣接する元素マッピング像のオーバーラップ部分に濃淡のパターンが存在しない場合でも精度の高い合成を可能とする。
【解決手段】 隣接する2枚のマッピング像のオーバーラップ部分に属する画素のX線スペクトルの形状を所定の判定条件の下で比較し、形状が一致しているとみなせる場合には両マッピング像上にそれぞれその画素位置像を投影する。位置ずれの最大範囲を考慮して1画素ずつスペクトル形状を比較してゆき、最終的に両マッピング像上に形成された投影像を重ね合わせるように両マッピング像を合成する。これにより、オーバーラップ部分に濃淡パターンが存在するか否かに拘わらず、任意の元素のマッピング像の合成が高い精度で行える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料から固有X線を放出させるための励起線を試料上の小領域内で走査することにより該小領域に対応したX線像を取得するとともに、励起線照射部と試料との相対位置を移動させることで試料上の大領域の走査を行うことによって上記X線像を複数取得するX線分析装置において、その複数のX線像を合成して上記大領域に対応したX線像を作成するX線像の合成方法、及び該方法を利用したX線分析装置に関する。具体的には、本発明に係るX線像の合成方法は、例えば走査電子顕微装置とエネルギー分散型X線分析装置とを組み合わせた装置で元素マッピング像を作成する際に利用することができる。
【背景技術】
【0002】
一般的な走査電子顕微鏡では、微小径に集束させた電子線を励起線として試料に照射し、試料上の所定の範囲内でその電子線の照射位置を走査する。そして、電子線の照射位置から発生した2次電子や反射電子を検出して、その検出信号に基づいて上記走査に対応した試料表面の画像(SEM像)を作成して表示部の画面上に表示する。近年、こうした走査電子顕微鏡とエネルギー分散型X線分析装置とを組み合わせることで、試料上の所定領域のX線分析を可能とした装置が開発されている(例えば特許文献1など参照)。
【0003】
即ち、高エネルギーを有する電子線を励起線として試料に照射すると、それによって試料の含有成分の内側電子が励起され固有X線が外部に放出される。この固有X線のエネルギー(波長)は元素に特有のものであるため、この固有X線の波長及び強度を分析することにより、試料に含まれる元素の同定や定量を行うことができる。また、試料上で電子線を照射する位置を変えることによって、試料上のそれぞれ異なる位置の元素やその含有量を調べることができ、それに基づいて、試料上の所定範囲の元素の分布状態を示す元素マッピング像を作成することができる(例えば非特許文献1など参照)。
【0004】
こうした装置(一般的には走査電子顕微鏡と総称されることが多いが、本明細書ではX線分析が主目的であるため単にX線分析装置と呼ぶ)では、試料上の2次元面内での観察位置の走査を行う方法として、磁力で電子線を偏向させることによる電子線照射位置の走査と、試料ステージ自体(又は電子線照射のための光学系全体)を移動させる走査とがある。前者は高速の走査が可能であるが走査可能範囲が狭い。後者は走査可能範囲は非常に広いが走査速度は遅い。そこで、試料上の或る程度広い面積の範囲の元素マッピング像を取得したい場合には、上記2つの走査方法を併用するのが一般的である。
【0005】
図4はこうした走査方法の一例を模式的に示す図である。図4に示すように、図示しない試料ステージの位置(つまり試料の位置)を固定した状態で電子線Eを走査し、例えば領域Aに対応する画像信号やX線強度信号を取り込む。次に、試料ステージを移動させることで先の領域Aに隣接する領域Bを電子線Eの走査可能範囲に位置させ、その状態で電子線Eを走査することで領域Bに対応する画像信号やX線強度信号を取り込む。このようにして、試料ステージを移動させることで電子線照射位置に対する試料の相対位置を変化させつつ電子線Eで所定範囲を走査することで、試料上の異なる範囲に対応した画像やX線像を順次取り込む。ここでは、電子線Eによる走査可能範囲は横mx、縦myの矩形の範囲であり、1回の試料ステージの移動距離はX方向にmx、Y方向にmyである。そして、こうして格子状に区分されたmx×myの大きさの多数のマッピング像を合成することによって、所望の広い範囲における元素マッピング像を作成する。本明細書では、電子線Eの走査可能範囲であるmx×myの領域を小領域、試料ステージの移動に伴う試料上の広い観察範囲を大領域と呼ぶ。
【0006】
図4の例の場合、互いに隣接する2つの領域、例えば領域Aと領域Bとにそれぞれ対応する2枚の元素マッピング像は試料ステージの位置情報を利用して合成されることになる。しかしながら、試料ステージの位置に対して走査する電子線Eの中心位置がずれたり走査範囲がずれたりする場合があるため、上記のようなマッピング像合成方法では隣接する2枚の元素マッピング像の繋ぎ目でずれが発生し易い。これは、取得された小領域の元素マッピング像の情報を全く使用せずに合成処理を行うことに起因する。
【0007】
そこで別の合成方法として、図5に示すように、隣接する元素マッピング像(又はSEM像)の一部が必ずオーバーラップするように試料ステージの移動を行い、そのオーバーラップ部分の画像情報(パターン)の一致性を判断することで元素マッピング像の合成位置を決めるという方法がある。即ち、図5において、電子線Eの走査可能範囲である領域Aのうち、中央領域A1は試料ステージ(試料)がこの位置にあるときのみに取得される画像範囲であり、それを取り囲む周辺領域A2は試料ステージ(試料)がX方向にmx移動されるか或いはY方向にmy移動された状態でもオーバーラップ部分としてマッピング像が得られる範囲である。このような走査によって取得された1枚毎の元素マッピング像について、隣接する元素マッピング像とのオーバーラップ部分の各画素(ピクセル)が持つ濃淡情報(X線強度情報)に基づいて一致するパターンを探し、合成位置を決めるようにしている。
【0008】
しかしながら、上記のような元素マッピング像の濃淡情報はそのオーバーラップ部分にその元素が存在しており、且つその元素濃度が不均一な部分がないと現れない。そのため、或る1つの元素マッピング像では隣接したマッピング像とのオーバーラップ部分において、一致しているとみなし得るパターンが見つからない場合がよくあり、そのときには別の元素のマッピング像で一致するパターンが見つかるかどうかを調べなければならない。このように元素マッピング像の合成が可能であるかどうかは元素に依存することになり、マッピング像の合成処理に利用する元素を固定してしまうと合成処理ができない場合が発生し得る。また、元素を任意に選べる場合でも、どの元素のマッピング像で合成位置を決定できるかは処理を実行してみないとわからないため、非常に面倒であって煩わしい。さらに、オーバーラップ部分に濃淡情報が存在したとしても、元素マッピング像におけるパターンはそもそも輪郭が明瞭でない場合が殆どであり、隣接するマッピング像中で完全にパターンが一致した部分を見出すことは難しく、画像の繋ぎ目を高い精度で合わせることが困難である。
【0009】
【特許文献1】特開2003-197143号公報
【非特許文献1】「走査電子顕微鏡 SUPERSCAN SSX-550 カラーマッピング」、[online]、株式会社島津製作所、[平成16年11月22日]、インターネット<URL : http://www.shimadzu.co.jp/products/surface/products/sem/ssx-550/index.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はかかる課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、例えば電子線の走査によって比較的狭い面積の小領域を走査し、試料の移動によって大きな面積の大領域を走査することでX線分析による元素のマッピング像を取得するX線分析装置において、元素の種類等に依存することなく高い確度で以て隣接画像同士の合成を行うことができるX線像の合成方法と、そうした合成方法によるX線像の合成処理を実行するX線分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために成された第1発明は、励起線を試料に照射する励起線照射部と、該励起線の照射によって試料から放出された固有X線を検出するX線分析部と、を含み、前記励起線を試料上の小領域内で走査することにより該小領域に対応したX線像を取得するとともに、前記励起線照射部と試料との相対位置を移動させることで試料上の大領域の走査を行って前記X線像を複数取得するX線分析装置にあって、前記大領域に対応したX線像を作成するために前記小領域に対応した複数のX線像を合成するX線像の合成方法において、
合成対象である1つの小領域に対応するX線像とそれに隣接する1つの小領域に対応するX線像とについて、両者のオーバーラップ部分にそれぞれ属する2つの画素におけるX線スペクトルの形状を比較し、
X線スペクトルの形状が一致しているとみなせる画素が試料上の同一位置に対応しているとして両X線像の合成位置を決定することを特徴としている。
【0012】
また上記課題を解決するために成された第2発明は、上記第1発明に係るX線像の合成方法を採用したX線分析装置であって、励起線を試料に照射する励起線照射部と、該励起線の照射によって試料から放出された固有X線を検出するX線分析部と、を含み、前記励起線を試料上の小領域内で走査することにより該小領域に対応したX線像を取得するとともに、前記励起線照射部と試料との相対位置を移動させることで試料上の大領域の走査を行って前記X線像を複数取得するX線分析装置にあって、
a)合成対象である1つの小領域に対応するX線像とそれに隣接する1つの小領域に対応するX線像とについて、両者のオーバーラップ部分にそれぞれ属する2つの画素におけるX線スペクトルの形状を比較するスペクトル比較手段と、
b)該スペクトル比較手段によりX線スペクトルの形状が一致しているとみなせる画素が試料上の同一位置に対応しているとして両X線像の合成位置を決定する合成位置決定手段と、
c)前記小領域に対応した複数のX線像をそれぞれ前記合成位置決定手段により決められた合成位置に基づいて合成することによって、前記大領域に対応したX線像を作成する合成処理手段と、
を備えることを特徴としている。
【0013】
なお、第1及び第2発明の一態様として、前記X線像は試料における元素の2次元分布を示す元素マッピング像とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
上記のような元素マッピング像はその元素に応じた波長を有する固有X線の一種の強度分布であるから、マッピング像上の濃淡情報を利用した従来の合成方法は波長を固定した状態でそのX線強度(カウント値)のみを比較することで合成位置を求めようとするものである。これに対し、本発明に係るX線像の合成方法では、特定の波長ではなく、各画素毎に取り込んでいるX線スペクトルの形状、つまりX線分析により得られた全て又はその殆どの波長範囲におけるX線強度情報を利用することで合成位置を求める。したがって、仮に合成対象である元素マッピング像上でオーバーラップ部分にその元素が存在しない場合であっても、その元素に特有な波長以外の他の波長範囲において各画素が固有に持つ情報(X線強度情報)を利用して、試料上の同一位置であるか否かを的確に判断することができる。
【0015】
このように本発明に係るX線像の合成方法及びこれを採用したX線分析装置によれば、元素マッピング像上では一致する濃淡パターンが見られないような場合であっても、確実に試料上の同一位置である部位を見つけてマッピング像つまりX線像を合成することができる。また、濃淡パターンではその輪郭が不鮮明であって精度の高い合成位置の算出が困難な場合であっても、本発明によれば、試料上の同一位置である部位を緻密に見つけ出して、高い精度で以てX線像の合成を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係るX線像の合成方法を適用した走査電子顕微/X線分析装置の一実施例について、図面を参照して説明する。図1は本実施例による走査電子顕微/X線分析装置の要部の構成図である。
【0017】
この装置において、電子銃1から放出された励起線としての電子線Eは、偏向コイル2により形成される磁場によって二次元的に曲げられ、対物レンズ3によって集束されて試料Sに照射される。試料Sは試料ステージ4上に載置されており、試料ステージ4はモータを含むステージ駆動部20の駆動力により、X軸、Y軸、Z軸の3軸方向に移動可能となっている。電子線Eの照射によって試料Sからは2次電子や反射電子が発生し、これら電子は電子検出器5により検出される。この電子検出器5の検出信号は画像信号処理部16に送られ、画像信号処理部16は偏向コイル2により電子線Eが走査されたときの検出信号に基づいて試料S上の電子線走査範囲のSEM像を作成する。
【0018】
一方、試料Sに微小径の電子線Eが照射されたとき、その照射位置及び近傍からは試料Sに含まれる元素に特有の波長の固有X線が放出される。この固有X線はエネルギー分散型のX線分析部6に導入され、X線分析部6はX線のエネルギー(つまり波長)に応じた値を検出する。X線分析部6で得られる検出値はパーソナルコンピュータ(PC)10に機能的に含まれるデータ処理部12に送られ、データ処理部12ではその検出値に基づいた元素の同定処理や定量処理などが実行されるとともに、後述するようなマッピング像合成処理により各元素のマッピング像が作成される。また上記画像信号処理部16で作成された試料S上の所定範囲のSEM像もPC10に送られる。
【0019】
PC10は、中央制御部11、データ処理部12を機能的に含むほか、データ保存部13、操作部14、表示部15などが接続されている。偏向コイル制御部18はこの中央制御部11の統括的な制御の下に、偏向コイル2へ供給する励磁電流を制御することで試料Sに照射される電子線Eの位置を走査し、それによって試料S上の小領域の走査を達成する。試料ステージ制御部19は同じく中央制御部11の統括的な制御の下に、ステージ駆動部20の動作を制御し、上記のように電子線Eが走査される範囲よりも大きく試料Sを移動させることで、試料S上の大領域の走査を達成する。さらにX線分析制御部17は中央制御部11の指示の下に、X線分析部6の動作を制御する。
【0020】
上記構成の装置では、試料S上の広い範囲の元素マッピング像を取得する場合に、偏向コイル2による電子線Eの走査と、試料ステージ4の移動による試料SのX−Y面内での移動とを組み合わせる。その走査方法は図5に示した従来の方法と同様であり、電子線Eの偏向による走査可能範囲である小領域(例えば領域A)の中の周辺領域(例えばA2)が、隣接する小領域の周辺領域の一部とオーバーラップするように、試料ステージ4の移動距離が決められる。
【0021】
本実施例の走査電子顕微/X線分析装置におけるマッピング像の合成方法の基本原理を図2により説明する。いま領域Aとこれと一部がオーバーラップして隣接する領域Bとに着目して考える。領域Aを電子線Eで走査したとき、画像信号処理部16では図2に示すようなSEM像Naが得られる。一方、X線分析部6では、SEM像Na上の各画素(ピクセル)毎のX線スペクトルが得られる。例えばSEM像Na上の或る2個の画素Pa1、Pa2のX線スペクトルが図2中に示すようになるものとする。このX線スペクトルの縦軸はX線エネルギー(波長)、横軸はカウント値(X線強度)である。或る元素のマッピング像は、その元素に特有の波長において各画素毎のX線スペクトルをSEM像に平行な面で以て輪切りし、そのときの各画素のX線強度値を濃淡で表したものである。
【0022】
例えば元素Q1、元素Q2のそれぞれのマッピング像は図2中のMq1a、Mq2aに示すようになる。元素Q1のマッピング像Mq1aでは隣接する領域Bにおける元素Q1のマッピング像Mq1bとのオーバーラップ部分に濃淡のパターンが存在するから、従来のようにこの濃淡のパターンの一致を見つける方法でもマッピング像の合成は可能である。ところが、元素Q2のマッピング像Mq2aでは領域Bとのオーバーラップ部分に濃淡のパターンが存在しない。そのため、元素Q2のマッピング像では合成処理は不可能である。このように従来の合成方法では、選択した元素によってマッピング像の合成が可能である場合と可能でない場合とがあり、どの元素のマッピング像を使用して合成処理が可能であるのかを探すのが面倒である。
【0023】
これに対し本発明に係るマッピング像の合成方法では、隣接したマッピング像のオーバーラップ部分において同一部位を探すために、各画素毎に収集したX線スペクトル自体を利用する。例えば領域AのSEM像Na上のオーバーラップ部分に属する画素Pa2におけるX線スペクトルに対し、所定の判定条件の下で形状が一致するとみなし得るようなX線スペクトルを、領域BのSEM像Nb上のオーバーラップ部分に属する画素におけるX線スペクトルの中から見つけ出す。
【0024】
いま、SEM像Na上の画素Pa2におけるX線スペクトルとSEM像Nb上の画素Pb1におけるX線スペクトルとを比較したときに、両者の形状が一致すると判断された場合には、両領域A、Bに対するマッピング像Ma、Mb上にその画素位置像を投影する。そして、両領域A、Bのオーバーラップし得る範囲で全ての画素についてX線スペクトルの形状の一致・不一致を判断し、一致した場合には上記のように両領域A、Bに対するマッピング像Ma、Mb上にその画素位置像を投影することにより、一致し得る部分の投影像を作成する。その後、両マッピング像Ma、Mb上に形成されたその投影像が重なるように両マッピング像を合成することにより、位置ずれの少ない合成が可能となる。即ち、従来方法では、X線スペクトルのうちのごく一部の波長範囲のX線カウント値をマッピング像合成のための位置決めに利用していたのに対し、本発明では、特定の狭い波長範囲には着目せず広い波長範囲全体に亘るX線スペクトルの形状を用いて位置決めを行っている。これにより、合成位置の決定に元素依存性はなく、任意の元素のマッピング像上でオーバーラップ部分にパターンが有るか否かに関係なく、精度の高い合成が可能となる。
【0025】
なお、X線スペクトルの形状の一致・不一致を判断する際の所定条件とは、例えば電子線Eの深さ方向の侵入位置のばらつき、試料ステージ4のX−Y面内での移動に伴うZ方向の変位など、考え得る各種のばらつきや変動要因を考慮した許容範囲を設定するものである。また、X線スペクトルの形状の相似を判断してもよいが、一般的には、上記のように2つのX線スペクトルを比較する際にX線スペクトルのカウント値の積算量や最大ピークのカウント値には大きな差が生じないので、こうしたことも条件の1つに入れて判断を行うと一層正確性が向上する。
【0026】
上述した基本原理に基づいて図1に示す装置で実行されるマッピング像の合成処理について、図3のフローチャートに従って説明する。偏向コイル制御部18により領域Aに対する電子線Eの走査が実行されて、それに応じた小領域のSEM像が画像信号処理部16で取得される一方、その小領域内の各画素毎のX線スペクトルがX線分析部6で取得され、これら全てのデータはデータ保存部13に一旦格納される。それに引き続いて、試料ステージ制御部19は試料ステージ4をX方向にmxだけ移動させ、電子線Eの走査が領域Bに対して行われるようにする。そして、偏向コイル制御部18により領域Bに対する電子線Eの走査が実行されて、それに応じた小領域のSEM像が画像信号処理部16で取得される一方、該小領域内の各画素毎のX線スペクトルがX線分析部6で取得され、これらデータもデータ保存部13に格納される。
【0027】
領域A及びBに対するデータがデータ保存部13に格納された状態で、データ処理部12では次のような手順でマッピング像の合成処理が実行される。即ち、まず、領域AのSEM像上の領域Bとのオーバーラップ部分に属する或る画素におけるX線スペクトルを抽出する(ステップS1)。次いで、領域BのSEM像上の領域Aとのオーバーラップ部分に属する或る画素におけるX線スペクトルを抽出する(ステップS2)。そして、上述したように所定条件の下で2つのX線スペクトルの形状を比較し、一致・不一致を判断する(ステップS3、S4)。
【0028】
ここでX線スペクトルの形状が一致していないと判断された場合には(ステップS4でNo)、領域BのSEM像上の領域Aとのオーバーラップ部分に属する画素の中で未だ比較の終了していない他の画素を選択して、その画素におけるX線スペクトルを抽出し(ステップS5)ステップS3へと戻る。したがって、ステップS3→S4→S5→S3…の処理の繰り返しにより、ステップS2で設定された領域AのSEM像上の或る画素に対してX線スペクトルの形状が一致するような領域BのSEM像上の画素が見い出される。
【0029】
一方、ステップS4でX線スペクトル形状が一致していると判断された場合には、合成対象である領域A、Bの或る元素(この元素は任意に選ぶことができる)マッピング像面にそのときの画素位置像をそれぞれ投影する(ステップS6)。そして、対象画素つまり該当するオーバーラップ部分で一致・不一致の判断をすべき画素の全てについて、X線スペクトルの形状の比較が終了したか否かを判定する(ステップS7)。未だ終了していなければ、領域AのSEM像上の領域Bとのオーバーラップ部分に属する画素の中で未だ比較の終了していない他の画素を選択して、その画素におけるX線スペクトルを抽出し(ステップS8)ステップS2へと戻る。したがって、ステップS2〜S8の処理の繰り返しにより、領域AのSEM像のオーバーラップ部分における全ての画素に対してX線スペクトルの形状が一致するような領域BのSEM像上の画素が見い出される。なお、X線スペクトルの形状が一致する画素が見つからない場合もあり得るが、そうした場合にはその画素を無視してしまっても実用上問題はない。
【0030】
そして、オーバーラップ部分における全ての画素のX線スペクトルの形状の比較が終了して、合成対象の2つの元素マッピング像上にスペクトル形状が一致した部分の投影像が形成されたならば、その投影像が重なるように両マッピング像を重ねて合成する(ステップS9)。この際には、オーバーラップ部分はいずれか一方のX線像を採用すればよいが、両者のX線像を用いて適宜の加算処理等を実行してもよい。これで隣接する2枚の元素マッピング像が合成されるから、全ての小領域の元素マッピング像について隣接する元素マッピング像とのオーバーラップ部分に関して同様の合成処理を行うことにより、試料S上の大領域のマッピング像を作成することができる。
【0031】
なお、上記合成処理の手順は一例であって適宜に変形することができる。例えば隣接する元素マッピング像のオーバーラップ部分の中でX線スペクトルを比較する画素の範囲は適宜に絞ることができる。即ち、実際上、試料ステージ4の移動誤差や電子線Eの走査範囲のずれなどの最大量は予め想定できるから、その想定されるずれの範囲内で2つの画素のスペクトルの形状の比較を行えば十分である。このように処理対象の画素の範囲を絞ることで処理時間を短縮することができる。また、本発明によるX線像の合成方法を、従来のような或る元素のマッピング像上の濃淡のパターンの一致を検出することで合成する方法と併用してもよい。具体的には、例えば或る元素のマッピング像の合成を行いたい場合に、まず濃淡のパターンの一致検出により合成位置の算出を試み、適当なパターンがオーバーラップ部分に存在しない等の理由で合成ができない場合に、本発明に係る合成方法による処理を実行するようにしてもよい。本発明による合成方法では、合成位置を決定するため1画素ずつスペクトル形状の比較を行う必要があるため、オペレータの手を煩わせることはないものの処理時間は掛かる。そこで、上記のように予め従来方法で合成を試みて、適切な合成が行えない場合に本発明を適用すれば、平均的に処理時間を短縮することが可能である。また、合成の精度も上げることができる。
【0032】
また、上記実施例は本発明の一実施例であるから、上記変形例として記載した以外の点についても、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施例による走査電子顕微/X線分析装置の要部の構成図。
【図2】本発明におけるX線像の合成方法の基本原理を説明するための概念図。
【図3】本実施例の走査電子顕微/X線分析装置におけるマッピング像の合成方法の処理手順を示すフローチャート。
【図4】従来の元素マッピング像の合成処理の一方法を説明するための模式図。
【図5】従来の元素マッピング像の合成処理の一方法を説明するための模式図。
【符号の説明】
【0034】
1…電子銃
2…偏向コイル
3…対物レンズ
4…試料ステージ
5…電子検出器
6…X線分析部
10…PC
11…中央制御部
12…データ処理部
13…データ保存部
14…操作部
15…表示部
16…画像信号処理部
17…X線分析制御部
18…偏向コイル制御部
19…試料ステージ制御部
20…ステージ駆動部
S…試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起線を試料に照射する励起線照射部と、該励起線の照射によって試料から放出された固有X線を検出するX線分析部と、を含み、前記励起線を試料上の小領域内で走査することにより該小領域に対応したX線像を取得するとともに、前記励起線照射部と試料との相対位置を移動させることで試料上の大領域の走査を行って前記X線像を複数取得するX線分析装置にあって、前記大領域に対応したX線像を作成するために前記小領域に対応した複数のX線像を合成するX線像の合成方法において、
合成対象である1つの小領域に対応するX線像とそれに隣接する1つの小領域に対応するX線像とについて、両者のオーバーラップ部分にそれぞれ属する2つの画素におけるX線スペクトルの形状を比較し、
X線スペクトルの形状が一致しているとみなせる画素が試料上の同一位置に対応しているとして両X線像の合成位置を決定することを特徴とするX線像の合成方法。
【請求項2】
励起線を試料に照射する励起線照射部と、該励起線の照射によって試料から放出された固有X線を検出するX線分析部と、を含み、前記励起線を試料上の小領域内で走査することにより該小領域に対応したX線像を取得するとともに、前記励起線照射部と試料との相対位置を移動させることで試料上の大領域の走査を行って前記X線像を複数取得するX線分析装置にあって、
a)合成対象である1つの小領域に対応するX線像とそれに隣接する1つの小領域に対応するX線像とについて、両者のオーバーラップ部分にそれぞれ属する2つの画素におけるX線スペクトルの形状を比較するスペクトル比較手段と、
b)該スペクトル比較手段によりX線スペクトルの形状が一致しているとみなせる画素が試料上の同一位置に対応しているとして両X線像の合成位置を決定する合成位置決定手段と、
c)前記小領域に対応した複数のX線像をそれぞれ前記合成位置決定手段により決められた合成位置に基づいて合成することによって、前記大領域に対応したX線像を作成する合成処理手段と、
を備えることを特徴とするX線分析装置。
【請求項3】
前記X線像は試料における元素の2次元分布を示す元素マッピング像であることを特徴とする請求項1に記載のX線像の合成方法又は請求項2に記載のX線分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−162255(P2006−162255A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−349385(P2004−349385)
【出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】