X線導波路
【課題】 X線の伝搬損失が少なく、導波モードが位相制御されたX線導波路を提供する。
【解決手段】 X線導波路は、物質の屈折率実部が1以下となる波長帯域のX線を導波させるためのコア404と、コア404にX線を閉じ込めるためのクラッド402,403と、を備える。コア404とクラッド402,403が、コア404とクラッド402,403との界面での全反射によりX線をコアに閉じ込めてX線を導波するように構成されている。コア404が、屈折率実部が異なる複数の物質が2次元以上の方向に周期的に配列された周期構造を持つ。X線導波路には、コア404のX線の導波方向に垂直な方向においてX線の電場強度分布または磁場強度分布の腹または節の数と周期構造の周期数とが一致する導波モードが存在する。
【解決手段】 X線導波路は、物質の屈折率実部が1以下となる波長帯域のX線を導波させるためのコア404と、コア404にX線を閉じ込めるためのクラッド402,403と、を備える。コア404とクラッド402,403が、コア404とクラッド402,403との界面での全反射によりX線をコアに閉じ込めてX線を導波するように構成されている。コア404が、屈折率実部が異なる複数の物質が2次元以上の方向に周期的に配列された周期構造を持つ。X線導波路には、コア404のX線の導波方向に垂直な方向においてX線の電場強度分布または磁場強度分布の腹または節の数と周期構造の周期数とが一致する導波モードが存在する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線導波路に関し、特にX線分析技術、X線撮像技術、X線露光技術などにおけるX線光学系に用いられるX線導波路に関する。
【背景技術】
【0002】
数10nm以下の短い波長の電磁波を扱う際、異物質間における電磁波に対する屈折率差が10−4以下と非常に小さく、例えば全反射角が非常に小さくなる。そのために、X線を含めたこのような電磁波をコントロールするために、大型の空間光学系が用いられてきており、今でもなお主流となっている。空間光学系をなしている主な部品として、異なる屈折率の材料を交互に積層した多層膜反射鏡があり、これはビーム整形、スポットサイズ変換、波長選択などの様々な役割を担っている。
【0003】
主流であるこのような空間光学系に対し、従来のポリキャピラリのようなX線導波管はその中にX線を閉じ込めて伝搬させるものである。近年では光学系の小型化、高性能化を目指し、薄膜や多層膜中にX線を閉じ込めて伝搬させる、X線導波路の研究が行われている。
【0004】
具体的には、全反射によりX線を2次元方向で閉じ込める形態の複数のX線導波路が隣接して配置されたX線導波路(非特許文献1参照)や、二層の1次元の周期構造により導波層を挟み込んだ形の薄膜導波路(非特許文献2参照)などの研究が行われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“Journal Of Applied Physics”,Number 101,p.054306(2007)
【非特許文献2】“Physical Review B”,Volume 67,Number 23,p.233303(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1では周期構造をなす各基本の導波路に全反射によりX線を閉じ込めるために、各層のクラッドは電子密度の大きい物質により構成されるため、X線の伝搬損失が大きくなる。また、クラッドに用いる物質の種類の選択性も低く、その中でも酸化されやすい物質が多いため、導波路の酸化劣化などの問題が存在する。さらに、このような物質による構造を半導体プロセスにより作製する工程に時間と手間がかかる。また、X線は2次元方向に閉じ込められているが、複数の各基本導波路による配列は1次元的なものとなっており、この配列を利用した伝搬するX線の制御は1次元的なものに限られる。
【0007】
また、非特許文献2では、クラッドとして設けられた多層膜のブラッグ反射によりコアにX線を閉じ込めるX線導波路が提案されているが、NiとCにより構成される多層膜であり、このような材料を十分な総数積層するために非常に長い時間と手間がかかる。さらに、吸収の大きい金属材料を用いているため多層膜中でのX線の吸収損失が大きくなるとともに、酸化劣化の問題が存在する。非特許文献1と同様に多層膜の配列を用いたX線の制御は1次元的なものに限られる。
【0008】
本発明は、従来の上記のような課題を鑑みてなされたものであり、X線の伝搬損失が少なく、導波モードが位相制御されたX線導波路を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面としてのX線導波路は、物質の屈折率実部が1以下となる波長帯域のX線を導波させるためのコアと、前記コアに前記X線を閉じ込めるためのクラッドと、を備えるX線導波路であって、前記コアと前記クラッドが、該コアと該クラッドとの界面での全反射により前記X線を前記コアに閉じ込めて前記X線を導波するように構成されており、前記コアが、屈折率実部が異なる複数の物質が2次元以上の方向に周期的に配列された周期構造を持ち、前記コアの前記X線の導波方向に垂直な方向において前記X線の電場強度分布または磁場強度分布の腹または節の数と前記周期構造の周期数とが一致する導波モードが存在することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、X線の伝搬損失が少なく、位相制御された単一の導波モードを形成可能なX線導波路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のX線導波路の一実施態様を示す概略図である。
【図2】周期構造の閉じ込め方向における周期dを説明する図である。
【図3】電場強度分布を表す図である。
【図4】本発明の実施例1のX線導波路を示す概略図である。
【図5】本発明の実施例5のX線導波路を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明において、X線とは物質の屈折率実部が1以下となる波長帯域の電磁波である。具体的には、本発明におけるX線とは、極端紫外光(EUV光)を含む100ナノメートル以下の波長の電磁波を指す。またこのような短い波長の電磁波の周波数は非常に高く、物質の最外殻電子が応答できない。そのため、紫外光の波長以上の波長をもつ電磁波(可視光や赤外線)の周波数帯域と異なり、X線に対しては物質の屈折率の実部が1より小さくなることが知られている。このようなX線に対する物質の屈折率nは一般的に、下記の式(1)で表されるように、実数部の1からのずれ量δ、吸収に関係する虚数部のβ’を用いて表される。
【0014】
【数1】
【0015】
δは物質の電子密度ρeに比例するため電子密度の大きい物質ほど屈折率の実部が小さくなることになる。また、屈折率実部n’は、1−δとなる。さらに、ρeは原子密度ρaと原子番号Zに比例する。このようにX線に対する物質の屈折率は複素数で表されるが、その実部を本明細書中では屈折率実部または屈折率の実部と称し、虚部を屈折率虚部または屈折率の虚部と称する。
【0016】
X線に対して屈折率実部が最大となる場合は真空中をX線が伝搬する場合であるが、一般的環境下では気体でないほぼすべての物質に対して空気の屈折率実部が最大となる。本明細書中においては、真空に対しても物質という文言を適用する。本発明において屈折率実部が異なる複数の物質とは多くの場合電子密度が異なる二種以上の物質である。周期構造をなしている最小の単位構造のことを本明細書中では要素構造と称することとする。
【0017】
本発明のX線導波路は、コアとクラッドの界面での全反射によりX線をコアに閉じ込めてX線を導波させる。この全反射を実現するために、本発明のX線導波路は、コアとクラッドの界面付近におけるコアの屈折率実部がクラッドの屈折率実部より大きいことが好ましい。このときの全反射臨界角を界面からの角度として、θCと表す。
【0018】
本発明のX線導波路のコアは、屈折率実部の異なる少なくとも2種以上の物質による2次元以上の周期構造であることにより、導波モードの2次元、3次元的な位相制御、空間的な強度分布制御を行うことができる。周期構造は、2次元から3次元の周期構造であればよいが、X線の導波方向に垂直な面内で2次元の周期性を有するものとする。このような周期構造は、フォトリソグラフィーや電子ビームリソグラフィー、エッチングプロセス、積層や貼り合わせ等の従来の半導体プロセスによっても作製可能である。また、周期構造を形成する屈折率実部が異なる複数の物質のうち少なくとも一つの物質が酸化物である場合、酸化による劣化などを防ぐことができる。酸化物を用いた半導体プロセスの適用により酸化物をもつ周期構造を作成することも可能である。
【0019】
また周期構造を形成する材料として、通常の半導体プロセスとは異なる、自己組織的な形成メカニズムにより作製される、多孔質材料であるメソ構造体膜のメソポーラス材料があげられる。多孔質材料は、IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry)によって、その孔径により分類されており、孔径が2から50nmの多孔質材料は、メソポーラスに分類される。近年、このメソポーラス材料についての研究が盛んに行われ、界面活性剤の集合体を鋳型とすることで、径の揃ったメソ孔が規則的に配列した構造を得ることが可能になっている。
【0020】
ここで、本発明におけるメソ構造体膜は、2次元、3次元的な構造周期を持つ、(A)メソポーラス膜、および(B)メソポーラス膜の孔が主に有機化合物で充填されたもの、を意味する。
【0021】
以下に詳細な説明を行う。
【0022】
(A)メソポーラス膜について
孔径が2から50nmの多孔質材料で、壁部の材料は特に限定されるものではないが、その例としては、製造可能性から、無機酸化物が挙げられる。この無機酸化物の例としては、酸化ケイ素、酸化スズ、酸化ジルコニア、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化タングステン、酸化ハフニウム、酸化亜鉛等が挙げられる。壁部の表面は、必要に応じて修飾されていてよい。たとえば、水の吸着を抑制するために、疎水性の分子を修飾してもよい。
【0023】
メソポーラス膜の調製法は、特に制限されるものではないが、たとえば、以下の方法で調製することができる。集合体が鋳型として機能する両親媒性物質の溶液に、無機酸化物の前駆体を加え、成膜を行い、無機酸化物の生成反応を進行させる。その後に、鋳型分子を除去することにより、多孔質材料とする。
【0024】
この両親媒性物質は、特に限定されるものではないが、界面活性剤が適している。界面活性剤の例としては、イオン性、非イオン性の界面活性剤を挙げることができる。このイオン性界面活性剤の例としては、トリメチルアルキルアンモニウムイオンのハロゲン化物塩を挙げることができる。このアルキル鎖の鎖長の例としては、炭素数で10から22が挙げられる。非イオン性の界面活性剤の例としては、ポリエチレングリコールを親水基として含むものを挙げることができる。ポリエチレングリコールを親水基として含む界面活性剤の具体例としては、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリエチレングリコール‐ポリプロピレングリコール‐ポリエチレングリコールのブロックコポリマーを挙げることができる。ポリエチレングリコールアルキルエーテルのアルキル鎖の鎖長の例としては、炭素数で10から22、ポリエチレングリコールの繰返し数の例としては、2から50を挙げることができる。この疎水基、親水基を変化させることにより構造周期を変化させることが可能である。一般的に疎水基、親水基を大きなものとすることにより孔径を拡大することが可能である。
【0025】
また、界面活性剤に加えて、構造周期を調整するための添加物を加えてもよい。この構造周期を調整するための添加物としては、疎水性物質が挙げられる。この疎水性物質の例としては、アルカン類、親水性基を含まない芳香族化合物が挙げられ、その具体的な例としては、オクタンが挙げられる。
【0026】
無機酸化物の前駆体の例としては、ケイ素や金属元素のアルコキサイド、塩化物が挙げられる。さらに具体的な例としては、Si,Sn,Zr,Ti,Nb,Ta,Al,W,Hf,Znのアルコキサイド、塩化物が挙げられる。アルコキサイドの例としては、メトキサイド、エトキサイド、プロポキサイド、または、その一部がアルキル基に置換されたものが挙げられる。
【0027】
製膜法の例としては、ディップコート法、スピンコート法、水熱合成法が挙げられる。鋳型分子の除去方法の例としては、焼成、抽出、紫外線照射、オゾン処理が挙げられる。
【0028】
(B)メソポーラス膜の孔が主に有機化合物で充填されたものについて
壁部の材料については、(A)の項に記載したものと同様のものを使用することができる。孔に充填する物質は、有機化合物を主とするものであれば特に制限されるものではない。この「主」の意味としては、体積比で50%以上を意味する。この有機化合物の例としては、界面活性剤や、分子集合体の形成機能を有する部位が、壁部を形成する材料または壁部を形成する材料の前駆体と結合している材料が挙げられる。この界面活性剤の例としては、(A)の項で記載した界面活性剤を挙げることができる。また分子集合体の形成機能を有する部位が壁部を形成する材料、または、壁部を形成する材料の前駆体と結合している材料の例としては、アルキル基を有するアルコキシシラン、アルキル基を有するオリゴシロキサン化合物を挙げることができる。このアルキル鎖の鎖長の例としては、炭素数で10から22が挙げられる。
【0029】
孔の内部には、必要に応じて、または、使用する材料、工程の結果として水、有機溶媒、塩等が含まれていてよい。この有機溶媒の例としては、アルコール、エーテル、炭化水素が挙げられる。
【0030】
メソポーラス膜の孔が主に有機化合物で充填されたものの調製法は、特に制限されるものではないが、たとえば、(A)の項に記載したメソポーラス膜の調製法の鋳型の除去以前の工程を挙げることができる。
【0031】
また、孔の中に膜作製の後処理工程などにより金属や半導体などが充填されたメソポーラス材料も利用可能である。
【0032】
その他の材料としては、例えば、直径約50ナノメートルほどのポリスチレン球が自己組織的に六方細密充填構造で配列したいわゆる3次元周期構造の人工オパール構造などが挙げられる。
【0033】
(周期性)
本発明において、コアが屈折率実部が異なる複数の物質によりなる2次元以上の周期構造からなることにより、X線導波路中に形成される導波モードとして周期性に起因する導波モードを存在させることができる。この周期性に起因する導波モードを本明細書中で、周期共鳴導波モードと称する。異なる屈折率実部の周期構造は、周期数が無限の場合、伝搬定数とX線の角周波数との間でフォトニックバンドを形成し、周期性に起因する特定のモードのX線がこの構造中で支配的に存在することになる。そのモードは周期構造が、2次元のものであれば2次元の、3次元のものであれば3次元のブラッグ回折に起因するものとなる。またこのようなモードは周期性により形成されるもので、その電場分布や電場強度分布の腹や節の位置は、要素構造を構成しているそれぞれの物質領域内の位置に一致する。
【0034】
図1は、本発明のX線導波路の1例のコアの一部を示す。このコアの一部は屈折率実部が異なる複数の物質からなり、2次元の周期構造を持つ。ここで、z方向はX線の導波方向、102はシリカの部分、101はz方向にのびる空孔,103は周期構造を構成する要素構造の例を表す。
【0035】
図1(a)は、シリカ中で一方向に伸びる空気の孔が、孔の長さ方向(図中z方向)に垂直な方向(x−y面内方向)で2次元三角格子構造を形成している材料中での電場強度分布の例を示す。図1(a)は、実線により周期構造を表し、白黒の濃淡で電場強度を表すものであり、この材料中に形成されるモードのうちの一つについての電場強度分布である。白、黒がそれぞれ電場強度の大、小に相当する。電場強度の極大、極小となる領域が、y方向で周期的に繰り返されていることがわかる。周期性に起因するこのようなモードの電場強度分布は、図中x−y面内で周期的な分布となり、その周期は、空気の孔101とシリカの部分102により形成される1次元の周期構造の特定の方向の周期に一致するか、小さくなる。この場合、特定の方向とはy方向である。
【0036】
図1(b)は電場強度分布の周期が周期構造の周期より小さくなるモードの電場強度分布を表す例であり、電場強度分布の周期性が周期構造の2次元の周期性の影響を受けて、2次元的になっていることがわかる。このような場合、特定の方向とは、x−y平面内のすべての方向である。
【0037】
このようなモードをクラッドによりコアに閉じ込めることにより、周期共鳴導波モードを形成してX線を導波させることができる。本発明のX線導波路のコアは無限に続く周期構造ではなく、クラッドに挟まれた有限の厚さつまりクラッドとコアの界面に垂直な方向で有限な周期数を有する。そのために、周期共鳴導波モード以外にも、コア全体を平均的な屈折率をもつ均一な媒質とした場合の導波モードが存在し、これを一様モードと称する。
【0038】
一方、この一様モードに対し、本発明のX線導波路中で用いられる周期共鳴導波モードは、非常に損失が少なく、2次元、3次元の方向で位相がそろったものとなる。本発明において導波モードの位相がそろうということは、導波方向に垂直な面内での電磁場の位相差が0であるということだけではなく、周期構造の空間的な屈折率分布に対応して電磁場の位相差が周期的に−πと+πの間で変化していることをも意味する。クラッドとコアの界面における全反射により、一様モード以外に上記の周期共鳴導波モードを形成する。そのために、本発明のX線導波路は、導波方向に垂直かつクラッドとコアの界面に垂直な方向における周期dが、下記の式(2)を満たすように設計するのが好ましい。ここでいうdは、図2中のようにz方向を導波方向とし、周期構造中のy方向(導波方向に垂直かつクラッドとコアの界面に垂直な方向)で形成される面の周期として定義する。クラッドとコアの二つの界面が平行で、二つのクラッドによりコアが挟まれた配置となっている場合、本明細書中における閉じ込め方向とは、周期構造の一つの基本ベクトルに平行かつ導波方向に垂直な方向とすることが望ましい。ただし、基本ベクトルがクラッドとコアの界面に垂直でない場合、二つのクラッドとコアの界面の任意の点を結ぶ方向として、特定の方向を定義することも可能である。
【0039】
【数2】
【0040】
θB−y(°)はy方向(X線の導波方向に垂直かつクラッドとコアの界面に垂直な方向)での周期dによるブラッグ角、λはX線の波長、n’はコアの平均屈折率である。
【0041】
この条件により、一様モードだけでなく、周期共鳴導波モードがX線導波路中に存在する。周期共鳴導波モードは、無限に続く周期構造の中に形成されるモードが導波路構造により変調を受けただけのものである。そのために、伝搬方向に垂直な面内でのこの導波モードの電場強度分布(または磁場強度分布)の電場強度(または磁場強度)が極大である腹の部分と節の部分はそれぞれ周期構造の要素構造に一致したものとなる。つまり、閉じ込め方向における電場強度分布(または磁場強度分布)の腹または節の数は周期構造の周期数の数以上であることになる。
【0042】
周期共鳴導波モードは、一様モードの多モードよりも非常に損失が小さくなるので、非常に低損失なX線の導波が可能となる。図3は、導波方向に垂直な面内のある直線状での、周期共鳴導波モードのコア内での電場強度分布を表す。図3に示す様に、電場がコア中心付近に集中し、クラッドへの染み出しが少なく、位相がそろった導波モードを実現できていることがわかる。これら周期共鳴導波モードの利点は、周期数が増えるほど顕著になる。
本発明のX線導波路のコアである2次元以上の周期構造の周期数が、X線の導波方向に垂直な方向において20以上であることが好ましい。
【0043】
(クラッド材料)
クラッドとコアの界面におけるクラッド側の物質の屈折率実部をnclad、コア側の物質の屈折率実部をncoreとした場合の、膜の面に平行な方向からの全反射臨界角θC(°)は、nclad<ncoreとして、下記の式(3)で表される。
【0044】
【数3】
【0045】
本発明のX線導波路のクラッド材料は、導波路のその他の構造パラメータ、物性パラメータが、式(2)を満たすもので構成することができる。例えば、コアに三角格子状に空孔が閉じ込め方向における周期10ナノメートルで配列した二次元周期構造であるメソポーラスシリカを用いた場合、Au、W、Taなどでクラッドを構成することができる。
【0046】
このような構成とすることにより、本発明のX線導波路は周期性に起因し、2次元、3次元的に位相制御され、損失が少ない導波モードを形成して、X線を導波させることができる。
【0047】
また、本発明のX線導波路において、前記クラッドが、前記コアの一部であることが好ましい。本発明のX線導波路を、コアの一部がクラッドとして機能するものとして構成することもできる。この場合、コアである周期構造の要素構造をなす異物質間でX線が全反射することにより、X線は周期構造の各要素構造の屈折率実部が大きい物質の領域に閉じこまって導波されることとなる。そのため、コアと称している周期構造自体がクラッドを有していることと等価であるため、周期構造と別のクラッド構造を設定する必要はない。例えば、X線の導波方向に配向したメソポーラスシリカを導波路として用いる場合、各要素構造中のシリカの部分がクラッドとして機能し、各要素構造中の空気の部分がコアとして機能する。周期構造全体としては、各コアに閉じ込められたX線が隣り合うコアに閉じ込められたX線と結合し、周期構造全体に導波X線が結合した導波モードを形成する。このような導波路を実現する材料としては、例えば、ポーラスシリカ、ナノポーラスアルミナ、またフォトリソグラフィーや電子ビームリソグラフィーなどによりパターニングとエッチングプロセスを経て形成される材料などが挙げられる。特に、各要素構造中のX線が閉じこまって導波する領域が空気の場合、X線の導波損失を非常に小さくすることができる。
【0048】
前記コアがメソポーラス材料からなることが好ましい。また、前記コアが、粒子を3次元方向に周期的に配列した構造からなることが好ましい。
【実施例1】
【0049】
図4は、本発明の実施例1のX線導波路を示す概略図である。本実施例のX線導波路は、Si基板401上に、W(タングステン)からなるクラッド402と403がコア404を挟み込む様に形成されている。クラッド402、403はスパッタ法により厚さおよそ15ナノメートルで成膜される。コア404はメソポーラス材料である。このメソポーラス材料は、X線の導波方向に垂直な方向(xy面内方向)で有機物よりなる孔405が2次元周期構造を形成しているので、孔以外の部分406の材料は酸化ケイ素(シリカ)である、メソポーラスシリカである。孔の長さ方向を点線407で示す。このメソポーラスシリカの作製方法を以下の(a)から(c)に示す。
【0050】
(a)メソ構造体膜の前駆体溶液調製
2Dヘキサゴナル構造を持つ酸化ケイ素メソ構造体膜は、ディップコート法で調製される。メソ構造体の前駆体溶液は、エタノール、0.01M塩酸、テトラエトキシシランを加え20分間混合した溶液にブロックポリマーのエタノール溶液を加え、3時間攪拌することで調製される。ブロックポリマーとしては、エチレンオキサイド(20)プロピレンオキサイド(70)エチレンオキサイド(20)(以降、EO(20)PO(70)EO(20)と記載する(カッコ内は、各ブロックの繰り返し数))を使用することが可能である。エタノールにかえてメタノール、プロパノール、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトニトリルを使用することも可能である。混合比(モル比)は、テトラエトキシシラン:1.0、塩酸:0.0011、エタノール:5.2、ブロックポリマー:0.0096、エタノール:3.5とする。溶液は、膜厚調整の目的で適宜希釈して使用する。
【0051】
(b)メソ構造体膜の製膜
洗浄した基板に、ディップコート装置を用いて0.5から2mms−1の引き上げ速度でディップコートを行う。このときの温度は、25℃、相対湿度は、40%である。製膜後、膜は、25℃、相対湿度50%の恒温恒湿槽で24時間保持される。
【0052】
(c)評価
調製されたメソ構造体膜をブラッグ−ブレンターノ配置のエックス線回折分析を行う。その結果、このメソ構造体膜は,基板面の法線方向に高い秩序性をもち、その面間隔つまり閉じ込め方向における周期が、10nmであることが確認される。その膜厚はおよそ400ナノメートルである。
【0053】
例えば、17.5キロエレクトロンボルトのX線に対して、周期10ナノメートルという値は、式(2)を満たすので、X線はクラッド402および403とコア404との界面における全反射によりコア404中に閉じ込められる。閉じ込められたX線がメソポーラスシリカのもつ2次元の周期性の影響を受けた導波モードを形成することができる。
【実施例2】
【0054】
本発明の実施例2のX線導波路は、実施例1のX線導波路のクラッドをAuで、コアのメソポーラスシリカをメソポーラス酸化チタンに代えたものとして構成したものである。クラッドAuの厚さはおよそ20ナノメートルである。ここで、本実施例のメソポーラス酸化チタンを以下の(a)から(c)の工程を用いて作製する。
【0055】
(a)メソ構造体膜の前駆体溶液調製
2Dヘキサゴナル構造を持つ酸化チタン素メソ構造体膜は、ディップコート法で調製される。メソ構造体の前駆体溶液は、テトラエトキシチタンを濃塩酸に加え5分間混合した溶液にブロックポリマーEO(20)PO(70)EO(20)のエタノール溶液を加え、3時間攪拌することで調製される。エタノールにかえてメタノール、プロパノール、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトニトリルを使用することも可能である。混合比(モル比)は、テトラエトキシチタン:1.0、塩酸:1.8、ブロックポリマー:0.021、エタノール:14とする。溶液は、膜厚調整の目的で適宜希釈して使用する。
【0056】
(b)メソ構造体膜の製膜
洗浄した基板に、ディップコート装置を用いて0.5−2mms−1の引き上げ速度でディップコートを行う。このときの温度は、25℃、相対湿度は、40%である。製膜後、膜は、25℃、相対湿度50%の恒温恒湿槽で2週間保持される。
【0057】
(c)評価
調製されたメソ構造体膜をブラッグ−ブレンターノ配置のエックス線回折分析を行う。その結果、このメソ構造体膜は,基板面の法線方向に高い秩序性をもち、その面間隔つまり閉じ込め方向における周期は、11nmであることが確認される。
【0058】
本実施例の場合にも、周期11ナノメートルという値は、式(2)を満たすので、X線はクラッドとコア404との界面における全反射によりコア中に閉じ込められる。閉じ込められたX線がメソポーラス酸化チタンのもつ2次元の周期性の影響を受けた導波モードを形成することができる。
【実施例3】
【0059】
本発明の実施例3のX線導波路は、実施例1のX線導波路のコアである2次元周期構造のメソポーラスシリカを、3次元周期構造の酸化ジルコニウムメソ構造体膜に変えたものである。(a)から(c)の工程を経て、この酸化ジルコニウムメソ構造体膜を成膜する。
【0060】
(a)酸化ジルコニウムメソ構造体膜前駆体溶液の調製
3Dキュービック構造を持つ酸化ジルコニウムメソ構造体膜は、ディップコート法で調製される。エタノール溶媒にブロックポリマーを溶解した後、塩化ジルコニウム(IV)を滴下する。さらに水を加え攪拌することで調製する。混合比(モル比)は、塩化ジルコニウム(IV):1、ブロックポリマー:0.005、水:20、エタノール:40とする。ブロックポリマーは、EO(106)PO(70)EO(106)を用いる。
【0061】
(b)メソ構造体膜の製膜
洗浄した基板に、ディップコート装置を用いて0.5−2mms−1の引き上げ速度でディップコートを行う。このときの温度は、25℃、相対湿度は、40%である。製膜後、膜は、25℃、相対湿度50%の恒温恒湿槽で2週間保持される。
【0062】
(c)評価
調製されたメソ構造体膜をブラッグ−ブレンターノ配置のエックス線回折分析を行う。その結果、このメソ構造体膜は,基板面の法線方向に高い秩序性をもち、その面間隔は、10nmであることが確認される。
【0063】
周期11ナノメートルという値は、式(2)を満たすので、X線はクラッドとコアとの界面における全反射によりコア中に閉じ込められる。閉じ込められたX線が酸化ジルコニウムメソ構造体の持つ3次元の周期性の影響を受けた導波モードを形成することができる。
【実施例4】
【0064】
本発明の実施例4のX線導波路は、実施例1のX線導波路のコアである2次元周期構造のメソポーラスシリカの有機物で満たされている孔を、空気の孔としたもので置き換えたものである。実施例1に記載の(a)から(c)の工程を経てメソポーラスシリカを成膜した後、焼成工程を減ることにより、孔の中の有機物を除去し、孔の中を空気としたものが本実施例のX線導波路を構成するメソポーラスシリカ膜である。
【0065】
孔の中をX線の伝搬損失の非常に小さい空気とすることにより、本実施例のX線導波路は非常に低損失な導波路を提供するものである。さらに、周期共鳴導波モードは3次元的に制御されたものとなり、例えばその電場分布などが3次元方向で周期性をもったものとなる。
【実施例5】
【0066】
図5は、本発明の実施例5のX線導波路を示す概略図である。Si基板501上に、Ptからなる厚さ約20ナノメートルのクラッド502と503が形成され、これらにより、コア504が挟まれた構成となっている。コア504は、直径約50ナノメートルのポリスチレン球(粒子)506が自己組織的に六方細密充填構造で配列したいわゆる人口オパール構造で3次元の周期構造である。配列したポリスチレン球の隙間505を蒸着法により、Siで満たすことにより強度を増し、コアを周期性に寄与する二つの物質の屈折率実部の差を大きくすることができる。
【0067】
また、ポリスチレン球の直径が約50ナノメートルと大きいので、閉じ込め方向での面間隔が20ナノメートル以上と非常に大きくなり、強い閉じ込めが可能となる。さらに、周期共鳴導波モードは3次元的に制御されたものとなり、例えばその電場分布などが3次元方向で周期性をもったものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のX線導波路は、シンクロトロンなどから出力されるX線を操作するためのX線光学系、X線撮像技術、X線露光技術などにおけるX線光学系などに用いられる部品などのX線光学技術分野に利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
101 孔
102 シリカの部分
103 素構造の例
402 クラッド
403 クラッド
404 コア
405 孔
406 シリカ
407 点線
【技術分野】
【0001】
本発明はX線導波路に関し、特にX線分析技術、X線撮像技術、X線露光技術などにおけるX線光学系に用いられるX線導波路に関する。
【背景技術】
【0002】
数10nm以下の短い波長の電磁波を扱う際、異物質間における電磁波に対する屈折率差が10−4以下と非常に小さく、例えば全反射角が非常に小さくなる。そのために、X線を含めたこのような電磁波をコントロールするために、大型の空間光学系が用いられてきており、今でもなお主流となっている。空間光学系をなしている主な部品として、異なる屈折率の材料を交互に積層した多層膜反射鏡があり、これはビーム整形、スポットサイズ変換、波長選択などの様々な役割を担っている。
【0003】
主流であるこのような空間光学系に対し、従来のポリキャピラリのようなX線導波管はその中にX線を閉じ込めて伝搬させるものである。近年では光学系の小型化、高性能化を目指し、薄膜や多層膜中にX線を閉じ込めて伝搬させる、X線導波路の研究が行われている。
【0004】
具体的には、全反射によりX線を2次元方向で閉じ込める形態の複数のX線導波路が隣接して配置されたX線導波路(非特許文献1参照)や、二層の1次元の周期構造により導波層を挟み込んだ形の薄膜導波路(非特許文献2参照)などの研究が行われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“Journal Of Applied Physics”,Number 101,p.054306(2007)
【非特許文献2】“Physical Review B”,Volume 67,Number 23,p.233303(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1では周期構造をなす各基本の導波路に全反射によりX線を閉じ込めるために、各層のクラッドは電子密度の大きい物質により構成されるため、X線の伝搬損失が大きくなる。また、クラッドに用いる物質の種類の選択性も低く、その中でも酸化されやすい物質が多いため、導波路の酸化劣化などの問題が存在する。さらに、このような物質による構造を半導体プロセスにより作製する工程に時間と手間がかかる。また、X線は2次元方向に閉じ込められているが、複数の各基本導波路による配列は1次元的なものとなっており、この配列を利用した伝搬するX線の制御は1次元的なものに限られる。
【0007】
また、非特許文献2では、クラッドとして設けられた多層膜のブラッグ反射によりコアにX線を閉じ込めるX線導波路が提案されているが、NiとCにより構成される多層膜であり、このような材料を十分な総数積層するために非常に長い時間と手間がかかる。さらに、吸収の大きい金属材料を用いているため多層膜中でのX線の吸収損失が大きくなるとともに、酸化劣化の問題が存在する。非特許文献1と同様に多層膜の配列を用いたX線の制御は1次元的なものに限られる。
【0008】
本発明は、従来の上記のような課題を鑑みてなされたものであり、X線の伝搬損失が少なく、導波モードが位相制御されたX線導波路を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面としてのX線導波路は、物質の屈折率実部が1以下となる波長帯域のX線を導波させるためのコアと、前記コアに前記X線を閉じ込めるためのクラッドと、を備えるX線導波路であって、前記コアと前記クラッドが、該コアと該クラッドとの界面での全反射により前記X線を前記コアに閉じ込めて前記X線を導波するように構成されており、前記コアが、屈折率実部が異なる複数の物質が2次元以上の方向に周期的に配列された周期構造を持ち、前記コアの前記X線の導波方向に垂直な方向において前記X線の電場強度分布または磁場強度分布の腹または節の数と前記周期構造の周期数とが一致する導波モードが存在することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、X線の伝搬損失が少なく、位相制御された単一の導波モードを形成可能なX線導波路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のX線導波路の一実施態様を示す概略図である。
【図2】周期構造の閉じ込め方向における周期dを説明する図である。
【図3】電場強度分布を表す図である。
【図4】本発明の実施例1のX線導波路を示す概略図である。
【図5】本発明の実施例5のX線導波路を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明において、X線とは物質の屈折率実部が1以下となる波長帯域の電磁波である。具体的には、本発明におけるX線とは、極端紫外光(EUV光)を含む100ナノメートル以下の波長の電磁波を指す。またこのような短い波長の電磁波の周波数は非常に高く、物質の最外殻電子が応答できない。そのため、紫外光の波長以上の波長をもつ電磁波(可視光や赤外線)の周波数帯域と異なり、X線に対しては物質の屈折率の実部が1より小さくなることが知られている。このようなX線に対する物質の屈折率nは一般的に、下記の式(1)で表されるように、実数部の1からのずれ量δ、吸収に関係する虚数部のβ’を用いて表される。
【0014】
【数1】
【0015】
δは物質の電子密度ρeに比例するため電子密度の大きい物質ほど屈折率の実部が小さくなることになる。また、屈折率実部n’は、1−δとなる。さらに、ρeは原子密度ρaと原子番号Zに比例する。このようにX線に対する物質の屈折率は複素数で表されるが、その実部を本明細書中では屈折率実部または屈折率の実部と称し、虚部を屈折率虚部または屈折率の虚部と称する。
【0016】
X線に対して屈折率実部が最大となる場合は真空中をX線が伝搬する場合であるが、一般的環境下では気体でないほぼすべての物質に対して空気の屈折率実部が最大となる。本明細書中においては、真空に対しても物質という文言を適用する。本発明において屈折率実部が異なる複数の物質とは多くの場合電子密度が異なる二種以上の物質である。周期構造をなしている最小の単位構造のことを本明細書中では要素構造と称することとする。
【0017】
本発明のX線導波路は、コアとクラッドの界面での全反射によりX線をコアに閉じ込めてX線を導波させる。この全反射を実現するために、本発明のX線導波路は、コアとクラッドの界面付近におけるコアの屈折率実部がクラッドの屈折率実部より大きいことが好ましい。このときの全反射臨界角を界面からの角度として、θCと表す。
【0018】
本発明のX線導波路のコアは、屈折率実部の異なる少なくとも2種以上の物質による2次元以上の周期構造であることにより、導波モードの2次元、3次元的な位相制御、空間的な強度分布制御を行うことができる。周期構造は、2次元から3次元の周期構造であればよいが、X線の導波方向に垂直な面内で2次元の周期性を有するものとする。このような周期構造は、フォトリソグラフィーや電子ビームリソグラフィー、エッチングプロセス、積層や貼り合わせ等の従来の半導体プロセスによっても作製可能である。また、周期構造を形成する屈折率実部が異なる複数の物質のうち少なくとも一つの物質が酸化物である場合、酸化による劣化などを防ぐことができる。酸化物を用いた半導体プロセスの適用により酸化物をもつ周期構造を作成することも可能である。
【0019】
また周期構造を形成する材料として、通常の半導体プロセスとは異なる、自己組織的な形成メカニズムにより作製される、多孔質材料であるメソ構造体膜のメソポーラス材料があげられる。多孔質材料は、IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry)によって、その孔径により分類されており、孔径が2から50nmの多孔質材料は、メソポーラスに分類される。近年、このメソポーラス材料についての研究が盛んに行われ、界面活性剤の集合体を鋳型とすることで、径の揃ったメソ孔が規則的に配列した構造を得ることが可能になっている。
【0020】
ここで、本発明におけるメソ構造体膜は、2次元、3次元的な構造周期を持つ、(A)メソポーラス膜、および(B)メソポーラス膜の孔が主に有機化合物で充填されたもの、を意味する。
【0021】
以下に詳細な説明を行う。
【0022】
(A)メソポーラス膜について
孔径が2から50nmの多孔質材料で、壁部の材料は特に限定されるものではないが、その例としては、製造可能性から、無機酸化物が挙げられる。この無機酸化物の例としては、酸化ケイ素、酸化スズ、酸化ジルコニア、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化タングステン、酸化ハフニウム、酸化亜鉛等が挙げられる。壁部の表面は、必要に応じて修飾されていてよい。たとえば、水の吸着を抑制するために、疎水性の分子を修飾してもよい。
【0023】
メソポーラス膜の調製法は、特に制限されるものではないが、たとえば、以下の方法で調製することができる。集合体が鋳型として機能する両親媒性物質の溶液に、無機酸化物の前駆体を加え、成膜を行い、無機酸化物の生成反応を進行させる。その後に、鋳型分子を除去することにより、多孔質材料とする。
【0024】
この両親媒性物質は、特に限定されるものではないが、界面活性剤が適している。界面活性剤の例としては、イオン性、非イオン性の界面活性剤を挙げることができる。このイオン性界面活性剤の例としては、トリメチルアルキルアンモニウムイオンのハロゲン化物塩を挙げることができる。このアルキル鎖の鎖長の例としては、炭素数で10から22が挙げられる。非イオン性の界面活性剤の例としては、ポリエチレングリコールを親水基として含むものを挙げることができる。ポリエチレングリコールを親水基として含む界面活性剤の具体例としては、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリエチレングリコール‐ポリプロピレングリコール‐ポリエチレングリコールのブロックコポリマーを挙げることができる。ポリエチレングリコールアルキルエーテルのアルキル鎖の鎖長の例としては、炭素数で10から22、ポリエチレングリコールの繰返し数の例としては、2から50を挙げることができる。この疎水基、親水基を変化させることにより構造周期を変化させることが可能である。一般的に疎水基、親水基を大きなものとすることにより孔径を拡大することが可能である。
【0025】
また、界面活性剤に加えて、構造周期を調整するための添加物を加えてもよい。この構造周期を調整するための添加物としては、疎水性物質が挙げられる。この疎水性物質の例としては、アルカン類、親水性基を含まない芳香族化合物が挙げられ、その具体的な例としては、オクタンが挙げられる。
【0026】
無機酸化物の前駆体の例としては、ケイ素や金属元素のアルコキサイド、塩化物が挙げられる。さらに具体的な例としては、Si,Sn,Zr,Ti,Nb,Ta,Al,W,Hf,Znのアルコキサイド、塩化物が挙げられる。アルコキサイドの例としては、メトキサイド、エトキサイド、プロポキサイド、または、その一部がアルキル基に置換されたものが挙げられる。
【0027】
製膜法の例としては、ディップコート法、スピンコート法、水熱合成法が挙げられる。鋳型分子の除去方法の例としては、焼成、抽出、紫外線照射、オゾン処理が挙げられる。
【0028】
(B)メソポーラス膜の孔が主に有機化合物で充填されたものについて
壁部の材料については、(A)の項に記載したものと同様のものを使用することができる。孔に充填する物質は、有機化合物を主とするものであれば特に制限されるものではない。この「主」の意味としては、体積比で50%以上を意味する。この有機化合物の例としては、界面活性剤や、分子集合体の形成機能を有する部位が、壁部を形成する材料または壁部を形成する材料の前駆体と結合している材料が挙げられる。この界面活性剤の例としては、(A)の項で記載した界面活性剤を挙げることができる。また分子集合体の形成機能を有する部位が壁部を形成する材料、または、壁部を形成する材料の前駆体と結合している材料の例としては、アルキル基を有するアルコキシシラン、アルキル基を有するオリゴシロキサン化合物を挙げることができる。このアルキル鎖の鎖長の例としては、炭素数で10から22が挙げられる。
【0029】
孔の内部には、必要に応じて、または、使用する材料、工程の結果として水、有機溶媒、塩等が含まれていてよい。この有機溶媒の例としては、アルコール、エーテル、炭化水素が挙げられる。
【0030】
メソポーラス膜の孔が主に有機化合物で充填されたものの調製法は、特に制限されるものではないが、たとえば、(A)の項に記載したメソポーラス膜の調製法の鋳型の除去以前の工程を挙げることができる。
【0031】
また、孔の中に膜作製の後処理工程などにより金属や半導体などが充填されたメソポーラス材料も利用可能である。
【0032】
その他の材料としては、例えば、直径約50ナノメートルほどのポリスチレン球が自己組織的に六方細密充填構造で配列したいわゆる3次元周期構造の人工オパール構造などが挙げられる。
【0033】
(周期性)
本発明において、コアが屈折率実部が異なる複数の物質によりなる2次元以上の周期構造からなることにより、X線導波路中に形成される導波モードとして周期性に起因する導波モードを存在させることができる。この周期性に起因する導波モードを本明細書中で、周期共鳴導波モードと称する。異なる屈折率実部の周期構造は、周期数が無限の場合、伝搬定数とX線の角周波数との間でフォトニックバンドを形成し、周期性に起因する特定のモードのX線がこの構造中で支配的に存在することになる。そのモードは周期構造が、2次元のものであれば2次元の、3次元のものであれば3次元のブラッグ回折に起因するものとなる。またこのようなモードは周期性により形成されるもので、その電場分布や電場強度分布の腹や節の位置は、要素構造を構成しているそれぞれの物質領域内の位置に一致する。
【0034】
図1は、本発明のX線導波路の1例のコアの一部を示す。このコアの一部は屈折率実部が異なる複数の物質からなり、2次元の周期構造を持つ。ここで、z方向はX線の導波方向、102はシリカの部分、101はz方向にのびる空孔,103は周期構造を構成する要素構造の例を表す。
【0035】
図1(a)は、シリカ中で一方向に伸びる空気の孔が、孔の長さ方向(図中z方向)に垂直な方向(x−y面内方向)で2次元三角格子構造を形成している材料中での電場強度分布の例を示す。図1(a)は、実線により周期構造を表し、白黒の濃淡で電場強度を表すものであり、この材料中に形成されるモードのうちの一つについての電場強度分布である。白、黒がそれぞれ電場強度の大、小に相当する。電場強度の極大、極小となる領域が、y方向で周期的に繰り返されていることがわかる。周期性に起因するこのようなモードの電場強度分布は、図中x−y面内で周期的な分布となり、その周期は、空気の孔101とシリカの部分102により形成される1次元の周期構造の特定の方向の周期に一致するか、小さくなる。この場合、特定の方向とはy方向である。
【0036】
図1(b)は電場強度分布の周期が周期構造の周期より小さくなるモードの電場強度分布を表す例であり、電場強度分布の周期性が周期構造の2次元の周期性の影響を受けて、2次元的になっていることがわかる。このような場合、特定の方向とは、x−y平面内のすべての方向である。
【0037】
このようなモードをクラッドによりコアに閉じ込めることにより、周期共鳴導波モードを形成してX線を導波させることができる。本発明のX線導波路のコアは無限に続く周期構造ではなく、クラッドに挟まれた有限の厚さつまりクラッドとコアの界面に垂直な方向で有限な周期数を有する。そのために、周期共鳴導波モード以外にも、コア全体を平均的な屈折率をもつ均一な媒質とした場合の導波モードが存在し、これを一様モードと称する。
【0038】
一方、この一様モードに対し、本発明のX線導波路中で用いられる周期共鳴導波モードは、非常に損失が少なく、2次元、3次元の方向で位相がそろったものとなる。本発明において導波モードの位相がそろうということは、導波方向に垂直な面内での電磁場の位相差が0であるということだけではなく、周期構造の空間的な屈折率分布に対応して電磁場の位相差が周期的に−πと+πの間で変化していることをも意味する。クラッドとコアの界面における全反射により、一様モード以外に上記の周期共鳴導波モードを形成する。そのために、本発明のX線導波路は、導波方向に垂直かつクラッドとコアの界面に垂直な方向における周期dが、下記の式(2)を満たすように設計するのが好ましい。ここでいうdは、図2中のようにz方向を導波方向とし、周期構造中のy方向(導波方向に垂直かつクラッドとコアの界面に垂直な方向)で形成される面の周期として定義する。クラッドとコアの二つの界面が平行で、二つのクラッドによりコアが挟まれた配置となっている場合、本明細書中における閉じ込め方向とは、周期構造の一つの基本ベクトルに平行かつ導波方向に垂直な方向とすることが望ましい。ただし、基本ベクトルがクラッドとコアの界面に垂直でない場合、二つのクラッドとコアの界面の任意の点を結ぶ方向として、特定の方向を定義することも可能である。
【0039】
【数2】
【0040】
θB−y(°)はy方向(X線の導波方向に垂直かつクラッドとコアの界面に垂直な方向)での周期dによるブラッグ角、λはX線の波長、n’はコアの平均屈折率である。
【0041】
この条件により、一様モードだけでなく、周期共鳴導波モードがX線導波路中に存在する。周期共鳴導波モードは、無限に続く周期構造の中に形成されるモードが導波路構造により変調を受けただけのものである。そのために、伝搬方向に垂直な面内でのこの導波モードの電場強度分布(または磁場強度分布)の電場強度(または磁場強度)が極大である腹の部分と節の部分はそれぞれ周期構造の要素構造に一致したものとなる。つまり、閉じ込め方向における電場強度分布(または磁場強度分布)の腹または節の数は周期構造の周期数の数以上であることになる。
【0042】
周期共鳴導波モードは、一様モードの多モードよりも非常に損失が小さくなるので、非常に低損失なX線の導波が可能となる。図3は、導波方向に垂直な面内のある直線状での、周期共鳴導波モードのコア内での電場強度分布を表す。図3に示す様に、電場がコア中心付近に集中し、クラッドへの染み出しが少なく、位相がそろった導波モードを実現できていることがわかる。これら周期共鳴導波モードの利点は、周期数が増えるほど顕著になる。
本発明のX線導波路のコアである2次元以上の周期構造の周期数が、X線の導波方向に垂直な方向において20以上であることが好ましい。
【0043】
(クラッド材料)
クラッドとコアの界面におけるクラッド側の物質の屈折率実部をnclad、コア側の物質の屈折率実部をncoreとした場合の、膜の面に平行な方向からの全反射臨界角θC(°)は、nclad<ncoreとして、下記の式(3)で表される。
【0044】
【数3】
【0045】
本発明のX線導波路のクラッド材料は、導波路のその他の構造パラメータ、物性パラメータが、式(2)を満たすもので構成することができる。例えば、コアに三角格子状に空孔が閉じ込め方向における周期10ナノメートルで配列した二次元周期構造であるメソポーラスシリカを用いた場合、Au、W、Taなどでクラッドを構成することができる。
【0046】
このような構成とすることにより、本発明のX線導波路は周期性に起因し、2次元、3次元的に位相制御され、損失が少ない導波モードを形成して、X線を導波させることができる。
【0047】
また、本発明のX線導波路において、前記クラッドが、前記コアの一部であることが好ましい。本発明のX線導波路を、コアの一部がクラッドとして機能するものとして構成することもできる。この場合、コアである周期構造の要素構造をなす異物質間でX線が全反射することにより、X線は周期構造の各要素構造の屈折率実部が大きい物質の領域に閉じこまって導波されることとなる。そのため、コアと称している周期構造自体がクラッドを有していることと等価であるため、周期構造と別のクラッド構造を設定する必要はない。例えば、X線の導波方向に配向したメソポーラスシリカを導波路として用いる場合、各要素構造中のシリカの部分がクラッドとして機能し、各要素構造中の空気の部分がコアとして機能する。周期構造全体としては、各コアに閉じ込められたX線が隣り合うコアに閉じ込められたX線と結合し、周期構造全体に導波X線が結合した導波モードを形成する。このような導波路を実現する材料としては、例えば、ポーラスシリカ、ナノポーラスアルミナ、またフォトリソグラフィーや電子ビームリソグラフィーなどによりパターニングとエッチングプロセスを経て形成される材料などが挙げられる。特に、各要素構造中のX線が閉じこまって導波する領域が空気の場合、X線の導波損失を非常に小さくすることができる。
【0048】
前記コアがメソポーラス材料からなることが好ましい。また、前記コアが、粒子を3次元方向に周期的に配列した構造からなることが好ましい。
【実施例1】
【0049】
図4は、本発明の実施例1のX線導波路を示す概略図である。本実施例のX線導波路は、Si基板401上に、W(タングステン)からなるクラッド402と403がコア404を挟み込む様に形成されている。クラッド402、403はスパッタ法により厚さおよそ15ナノメートルで成膜される。コア404はメソポーラス材料である。このメソポーラス材料は、X線の導波方向に垂直な方向(xy面内方向)で有機物よりなる孔405が2次元周期構造を形成しているので、孔以外の部分406の材料は酸化ケイ素(シリカ)である、メソポーラスシリカである。孔の長さ方向を点線407で示す。このメソポーラスシリカの作製方法を以下の(a)から(c)に示す。
【0050】
(a)メソ構造体膜の前駆体溶液調製
2Dヘキサゴナル構造を持つ酸化ケイ素メソ構造体膜は、ディップコート法で調製される。メソ構造体の前駆体溶液は、エタノール、0.01M塩酸、テトラエトキシシランを加え20分間混合した溶液にブロックポリマーのエタノール溶液を加え、3時間攪拌することで調製される。ブロックポリマーとしては、エチレンオキサイド(20)プロピレンオキサイド(70)エチレンオキサイド(20)(以降、EO(20)PO(70)EO(20)と記載する(カッコ内は、各ブロックの繰り返し数))を使用することが可能である。エタノールにかえてメタノール、プロパノール、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトニトリルを使用することも可能である。混合比(モル比)は、テトラエトキシシラン:1.0、塩酸:0.0011、エタノール:5.2、ブロックポリマー:0.0096、エタノール:3.5とする。溶液は、膜厚調整の目的で適宜希釈して使用する。
【0051】
(b)メソ構造体膜の製膜
洗浄した基板に、ディップコート装置を用いて0.5から2mms−1の引き上げ速度でディップコートを行う。このときの温度は、25℃、相対湿度は、40%である。製膜後、膜は、25℃、相対湿度50%の恒温恒湿槽で24時間保持される。
【0052】
(c)評価
調製されたメソ構造体膜をブラッグ−ブレンターノ配置のエックス線回折分析を行う。その結果、このメソ構造体膜は,基板面の法線方向に高い秩序性をもち、その面間隔つまり閉じ込め方向における周期が、10nmであることが確認される。その膜厚はおよそ400ナノメートルである。
【0053】
例えば、17.5キロエレクトロンボルトのX線に対して、周期10ナノメートルという値は、式(2)を満たすので、X線はクラッド402および403とコア404との界面における全反射によりコア404中に閉じ込められる。閉じ込められたX線がメソポーラスシリカのもつ2次元の周期性の影響を受けた導波モードを形成することができる。
【実施例2】
【0054】
本発明の実施例2のX線導波路は、実施例1のX線導波路のクラッドをAuで、コアのメソポーラスシリカをメソポーラス酸化チタンに代えたものとして構成したものである。クラッドAuの厚さはおよそ20ナノメートルである。ここで、本実施例のメソポーラス酸化チタンを以下の(a)から(c)の工程を用いて作製する。
【0055】
(a)メソ構造体膜の前駆体溶液調製
2Dヘキサゴナル構造を持つ酸化チタン素メソ構造体膜は、ディップコート法で調製される。メソ構造体の前駆体溶液は、テトラエトキシチタンを濃塩酸に加え5分間混合した溶液にブロックポリマーEO(20)PO(70)EO(20)のエタノール溶液を加え、3時間攪拌することで調製される。エタノールにかえてメタノール、プロパノール、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトニトリルを使用することも可能である。混合比(モル比)は、テトラエトキシチタン:1.0、塩酸:1.8、ブロックポリマー:0.021、エタノール:14とする。溶液は、膜厚調整の目的で適宜希釈して使用する。
【0056】
(b)メソ構造体膜の製膜
洗浄した基板に、ディップコート装置を用いて0.5−2mms−1の引き上げ速度でディップコートを行う。このときの温度は、25℃、相対湿度は、40%である。製膜後、膜は、25℃、相対湿度50%の恒温恒湿槽で2週間保持される。
【0057】
(c)評価
調製されたメソ構造体膜をブラッグ−ブレンターノ配置のエックス線回折分析を行う。その結果、このメソ構造体膜は,基板面の法線方向に高い秩序性をもち、その面間隔つまり閉じ込め方向における周期は、11nmであることが確認される。
【0058】
本実施例の場合にも、周期11ナノメートルという値は、式(2)を満たすので、X線はクラッドとコア404との界面における全反射によりコア中に閉じ込められる。閉じ込められたX線がメソポーラス酸化チタンのもつ2次元の周期性の影響を受けた導波モードを形成することができる。
【実施例3】
【0059】
本発明の実施例3のX線導波路は、実施例1のX線導波路のコアである2次元周期構造のメソポーラスシリカを、3次元周期構造の酸化ジルコニウムメソ構造体膜に変えたものである。(a)から(c)の工程を経て、この酸化ジルコニウムメソ構造体膜を成膜する。
【0060】
(a)酸化ジルコニウムメソ構造体膜前駆体溶液の調製
3Dキュービック構造を持つ酸化ジルコニウムメソ構造体膜は、ディップコート法で調製される。エタノール溶媒にブロックポリマーを溶解した後、塩化ジルコニウム(IV)を滴下する。さらに水を加え攪拌することで調製する。混合比(モル比)は、塩化ジルコニウム(IV):1、ブロックポリマー:0.005、水:20、エタノール:40とする。ブロックポリマーは、EO(106)PO(70)EO(106)を用いる。
【0061】
(b)メソ構造体膜の製膜
洗浄した基板に、ディップコート装置を用いて0.5−2mms−1の引き上げ速度でディップコートを行う。このときの温度は、25℃、相対湿度は、40%である。製膜後、膜は、25℃、相対湿度50%の恒温恒湿槽で2週間保持される。
【0062】
(c)評価
調製されたメソ構造体膜をブラッグ−ブレンターノ配置のエックス線回折分析を行う。その結果、このメソ構造体膜は,基板面の法線方向に高い秩序性をもち、その面間隔は、10nmであることが確認される。
【0063】
周期11ナノメートルという値は、式(2)を満たすので、X線はクラッドとコアとの界面における全反射によりコア中に閉じ込められる。閉じ込められたX線が酸化ジルコニウムメソ構造体の持つ3次元の周期性の影響を受けた導波モードを形成することができる。
【実施例4】
【0064】
本発明の実施例4のX線導波路は、実施例1のX線導波路のコアである2次元周期構造のメソポーラスシリカの有機物で満たされている孔を、空気の孔としたもので置き換えたものである。実施例1に記載の(a)から(c)の工程を経てメソポーラスシリカを成膜した後、焼成工程を減ることにより、孔の中の有機物を除去し、孔の中を空気としたものが本実施例のX線導波路を構成するメソポーラスシリカ膜である。
【0065】
孔の中をX線の伝搬損失の非常に小さい空気とすることにより、本実施例のX線導波路は非常に低損失な導波路を提供するものである。さらに、周期共鳴導波モードは3次元的に制御されたものとなり、例えばその電場分布などが3次元方向で周期性をもったものとなる。
【実施例5】
【0066】
図5は、本発明の実施例5のX線導波路を示す概略図である。Si基板501上に、Ptからなる厚さ約20ナノメートルのクラッド502と503が形成され、これらにより、コア504が挟まれた構成となっている。コア504は、直径約50ナノメートルのポリスチレン球(粒子)506が自己組織的に六方細密充填構造で配列したいわゆる人口オパール構造で3次元の周期構造である。配列したポリスチレン球の隙間505を蒸着法により、Siで満たすことにより強度を増し、コアを周期性に寄与する二つの物質の屈折率実部の差を大きくすることができる。
【0067】
また、ポリスチレン球の直径が約50ナノメートルと大きいので、閉じ込め方向での面間隔が20ナノメートル以上と非常に大きくなり、強い閉じ込めが可能となる。さらに、周期共鳴導波モードは3次元的に制御されたものとなり、例えばその電場分布などが3次元方向で周期性をもったものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のX線導波路は、シンクロトロンなどから出力されるX線を操作するためのX線光学系、X線撮像技術、X線露光技術などにおけるX線光学系などに用いられる部品などのX線光学技術分野に利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
101 孔
102 シリカの部分
103 素構造の例
402 クラッド
403 クラッド
404 コア
405 孔
406 シリカ
407 点線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質の屈折率実部が1以下となる波長帯域のX線を導波させるためのコアと、前記コアに前記X線を閉じ込めるためのクラッドと、を備えるX線導波路であって、
前記コアと前記クラッドが、該コアと該クラッドとの界面での全反射により前記X線を前記コアに閉じ込めて前記X線を導波するように構成されており、
前記コアが、屈折率実部が異なる複数の物質が2次元以上の方向に周期的に配列された周期構造を持ち、
前記コアの前記X線の導波方向に垂直な方向において前記X線の電場強度分布または磁場強度分布の腹または節の数と前記周期構造の周期数とが一致する導波モードが存在する
ことを特徴とするX線導波路。
【請求項2】
前記クラッドが、前記コアの一部である
ことを特徴とする請求項1に記載のX線導波路。
【請求項3】
前記複数の物質のうち少なくとも一つの物質が、酸化物である
ことを特徴とする請求項1または2に記載のX線導波路。
【請求項4】
前記コアが、メソポーラス材料を含む
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のX線導波路。
【請求項5】
前記コアが、粒子を3次元方向に周期的に配列した構造を持つ
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のX線導波路。
【請求項6】
前記周期構造の周期数が、前記X線の導波方向に垂直な方向において20以上である
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のX線導波路。
【請求項1】
物質の屈折率実部が1以下となる波長帯域のX線を導波させるためのコアと、前記コアに前記X線を閉じ込めるためのクラッドと、を備えるX線導波路であって、
前記コアと前記クラッドが、該コアと該クラッドとの界面での全反射により前記X線を前記コアに閉じ込めて前記X線を導波するように構成されており、
前記コアが、屈折率実部が異なる複数の物質が2次元以上の方向に周期的に配列された周期構造を持ち、
前記コアの前記X線の導波方向に垂直な方向において前記X線の電場強度分布または磁場強度分布の腹または節の数と前記周期構造の周期数とが一致する導波モードが存在する
ことを特徴とするX線導波路。
【請求項2】
前記クラッドが、前記コアの一部である
ことを特徴とする請求項1に記載のX線導波路。
【請求項3】
前記複数の物質のうち少なくとも一つの物質が、酸化物である
ことを特徴とする請求項1または2に記載のX線導波路。
【請求項4】
前記コアが、メソポーラス材料を含む
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のX線導波路。
【請求項5】
前記コアが、粒子を3次元方向に周期的に配列した構造を持つ
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のX線導波路。
【請求項6】
前記周期構造の周期数が、前記X線の導波方向に垂直な方向において20以上である
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のX線導波路。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2012−128389(P2012−128389A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101310(P2011−101310)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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