X線屈折方法
【課題】簡単な構成で、ビームラインの方向をほとんど変えずに、X線の吸収による減衰を抑えながら、X線を集束又は平行化することができるX線屈折方法を提供する。
【解決手段】X線B1が入射又は出射する第1面2と、前記第1面2から離れた位置から当該第1面2の反対側へ前記第1面2に垂直にかつ互いに平行に延びる複数の第2面4及び各前記第2面4の先端からその内側に隣り合う他の第2面4の基端に至るように延びる複数の第3面5を有し、前記第2面4の基端を通り前記第1面2に平行な面、前記第2面4及び前記第3面5により規定される複数のプリズム部6を有する屈折部3と、を備えたX線屈折素子1を、前記第1面2がX線B1の入射又は出射軸Binに対して垂直な角度位置から前記第2面4に垂直なZ軸の回りに所定角度θ回転した位置に配置する。
【解決手段】X線B1が入射又は出射する第1面2と、前記第1面2から離れた位置から当該第1面2の反対側へ前記第1面2に垂直にかつ互いに平行に延びる複数の第2面4及び各前記第2面4の先端からその内側に隣り合う他の第2面4の基端に至るように延びる複数の第3面5を有し、前記第2面4の基端を通り前記第1面2に平行な面、前記第2面4及び前記第3面5により規定される複数のプリズム部6を有する屈折部3と、を備えたX線屈折素子1を、前記第1面2がX線B1の入射又は出射軸Binに対して垂直な角度位置から前記第2面4に垂直なZ軸の回りに所定角度θ回転した位置に配置する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線を集束又は平行化するためのX線屈折方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から粉末X線回折やX線小角散乱等のX線照射による構造分析法が知られている。このような構造分析法においては、試料へのX線の入射強度を高めて実験データの精度を高くするために、X線を集束することが望ましい。また、X線源から平行X線を生成する要請もある。
【0003】
しかし、可視光等とは異なり、X線の屈折率は1より小さいため、可視光用の集光レンズ等をX線の集束又は平行化にそのまま用いることはできない。そこで、X線を集束する技術として、X線のビームラインに曲面の全反射ミラーを追加することが知られている。また、屈折レンズとして凹レンズを複数用いることによってX線を集束する構成も知られている(例えば特許文献1参照)。さらに、鋸歯状の複数の歯に順次X線を入射することによりX線を集束する構成も知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−207962号公報
【特許文献2】特表2003−505677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、曲面の全反射ミラーを追加する構成においては、X線を途中で反射させる必要があり、ビームラインの方向(X線の経路)が変わってしまうため、設備の大幅な変更が必要となる。また、特許文献1や特許文献2の構成においては、ビームラインの方向は変わらないが、以下のような問題がある。すなわち、特許文献1の構成においては、焦点距離を短くするためには、何段もの凹レンズを通過させる必要があり、構造が複雑になるとともに、X線が凹レンズを通過するたびに吸収されるため、所望のX線の強度を得ることが困難となる。特許文献2の構成においても同様に、焦点距離を短くするためには、複数の歯に順次X線を入射する必要があるため、X線が複数の歯を通過するたびに吸収されるため、所望のX線の強度を得ることが困難となる。さらに、特許文献2に記載の構成においては、鋸歯の先端部側を通過するX線と基端部側を通過するX線とでX線の吸収量が異なるため、先端部側を通過するX線に対し基端部側を通過するX線が暗くなってしまう問題も生じる。また、特許文献2の構成においては、鋸歯状の複数の歯が形成された部材の表面が互いに向かい合うように配置されているが、鋸歯状の複数の歯を精度よく位置合わせすることは大変困難であることが予想される。
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決すべくなされたものであり、簡単な構成で、ビームラインの方向をほとんど変えずに、X線の吸収による減衰を抑えながら、X線を集束又は平行化することができるX線屈折方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るX線屈折方法は、X線を集束又は平行化するためのX線屈折方法であって、X線が入射又は出射する第1面と、前記第1面から離れた位置から当該第1面の反対側へ前記第1面に垂直にかつ互いに平行に延びる複数の第2面及び各前記第2面の先端からその内側に隣り合う他の第2面の基端に至るように延びる複数の第3面を有し、前記第2面の基端を通り前記第1面に平行な面、前記第2面及び前記第3面により規定される複数のプリズム部を有する屈折部と、を備えたX線屈折素子を、前記第1面がX線の入射又は出射軸に対して垂直な角度位置から前記第2面に垂直な軸の回りに所定角度回転した位置に配置するものである。
【0008】
上記方法によれば、X線が、その入射軸が第1面の法線に対し第2面に垂直な軸の回りに所定角度だけ傾斜した状態で(すなわち所定の入射角で)X線屈折素子の第1面に入射又は出射する。ここで、X線が第1面側から入射される場合、X線が、その入射軸が第1面の法線に平行に当該第1面に入射すると、プリズム部内に入射したX線は、プリズム部の第2面と第3面とのなす角度に等しい斜入射の角度で第3面に入射し、屈折される。ところが、このように傾斜した状態でX線が第1面側から入射すると、プリズム部内に入射したX線は、プリズム部の第2面と第3面とのなす角度より小さい斜入射の角度で第3面に入射し、屈折される。これにより、プリズム部と外部との境界面(第3面)における内部から外部への入射角をより大きくとることができる。従って、X線がプリズム部から出射された際のX線の出射軸の屈折による偏向角(屈折によりX線の出射軸が内側へ向く角度)が、第1面に垂直に入射された場合の偏向角に比べて大きくなる。このため、X線をプリズム部に一度通過させるだけで有効に集束させることができ、これによりX線屈折素子におけるX線の吸収を有効に抑制することができる。X線が第1面の反対側から当該第1面側へ出射される場合は、上述の場合と逆にビーム形状を変換することとなり、また、X線の入射又は出射方向がX線屈折素子の第1面に対して傾斜していてもX線のビームラインの方向はほとんど変わらないため、設備の大幅な変更を防止することができる。従って、簡単な構成で、ビームラインの方向をほとんど変えずに、X線の吸収による減衰を抑えながら、X線を集束又は平行化することができる。
【0009】
上記方法において、前記プリズム部が以下の関係式(1)を満たすように前記X線屈折素子を作製し、前記第1面のX線の入射又は出射軸に対する傾斜角θが以下の関係式(2)を満たすように前記X線屈折素子を配置してもよい。
【0010】
【数1】
ここで、φは、プリズム部の内部から外部への境界面(第3面)への斜入射角であり、wは、前記第2面及び前記第3面の基端部間の長さであり、tは、前記第2面の基端部と先端部との間の長さであり、Lは、前記プリズム部において第2面上を通過するX線の入射端から出射端までの長手方向についての長さであり、n1は、前記X線屈折素子の屈折率の実数部である。
【0011】
プリズム部の内部から外部への境界面(第3面)への斜入射角φを小さくすれば、境界面から外部へ出射されたX線の偏向角(第1面に垂直な軸とのなす角度)が大きくなり、焦点距離を短くすることができるが、加工難度が上昇する。また、特定の長さwに対して長さtを長くすることにより斜入射角φを小さくすると、X線がプリズム部内を通過する距離が長くなりX線の透過率が低下する。そこで、プリズム部を上記関係式を満たすように設計することにより、X線屈折素子の加工精度及びX線の透過率を高く保持しつつ焦点距離を短くすることができる。
【0012】
また、前記X線屈折素子は、前記第1面のX線の入射又は出射軸に対する傾斜角を変更可能に構成されてもよい。これにより、X線の焦点距離の調整を行うことができる。
【0013】
また、複数の前記X線屈折素子を前記プリズム部の配列方向が略直交するように配置し、前記複数のX線屈折素子のそれぞれを、前記第1面がX線の入射又は出射軸に対して前記第2面に垂直な軸回りに傾斜するように配置してもよい。これにより、第1面にX線を入射させた場合にはX線を二次元的に集束させることができる一方、第1面からX線を出射させた場合には点X線源から発散するX線を二次元的に平行化することができる。
【0014】
また、前記X線屈折素子を、X線入射時において前記第2面の長手方向に移動させてもよい。これにより、X線の照射によるX線屈折素子の劣化を防止することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は以上に説明したように構成され、簡単な構成で、ビームラインの方向をほとんど変えずに、X線の吸収による減衰を抑えながら、X線を集束又は平行化することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係るX線屈折方法に用いられるX線屈折システムを示す斜視図である。
【図2】図2は図1に示すX線屈折システムの平面図である。
【図3】図3は図1に示すX線屈折システムのX線屈折素子を示す斜視図である。
【図4】図4は図3に示すX線屈折素子のプリズム部を示す拡大斜視図である。
【図5】図5は図3に示すX線屈折素子の側面図である。
【図6】図6は図3に示すX線屈折素子の入射X線の第3面への入射面Sを示す図である。
【図7】図7はX線の焦点距離F及び平均透過率<T>のそれぞれについての先端角φについての変化を示すグラフである。
【図8】図8は本発明の他の実施形態に係るX線屈折方法に用いられるX線屈折システムを示す斜視図である。
【図9】図9は図1に示すX線屈折システムのX線屈折素子の変形例を示す斜視図である。
【図10】図10は本実施例において用いたX線屈折素子の電子顕微鏡写真である。
【図11】図11は本実施例のX線屈折素子の適用前後において、X線が集束状態を確認するためのX線のビーム径についてのX線カメラ像を示す図である。
【図12】図12は本実施例のX線屈折素子の傾斜角に対するピーク強度/半値全幅を示すグラフである。
【図13】図13は本実施例のX線屈折素子の適用前後におけるX線のビームプロファイルを示すグラフである。
【図14】図14は本実施例のX線屈折素子1にX線を照射した場合の照射時間に対するX線屈折素子により集束されたX線のビーム強度の測定値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0018】
図1及び図2は本発明の一実施形態に係るX線屈折方法に用いられるX線屈折システムを示す斜視図及び平面図である。また、図3は図1に示すX線屈折システムのX線屈折素子を示す斜視図であり、図4は図3に示すX線屈折素子のプリズム部を示す拡大斜視図であり、図5は図3に示すX線屈折素子の側面図である。図1及び図2に示すように、本実施形態のX線屈折システムは、平行X線からなるシンクロトロン放射光X線(以下、単に放射光X線と称する。これがX線屈折素子1に入射される入射X線となる)B1を放射するX線源100と、X線のビーム形状を変換するX線屈折素子1と、を備えている。なお、回転軸10とこの回転軸10の回動装置13とはこのX線屈折システムの必須の構成要素ではないので、後で説明する。本実施形態において、X線屈折素子1は、X線源100からのX線B1を集束して出射X線B2として出射する。より具体的には、図1から図5に示すように、X線屈折素子1は、X線B1が入射する第1面2と、第1面2の反対側に設けられ、第1面2から入射したX線B1を屈折して出射する屈折部3とを有している。
【0019】
屈折部3は、複数のプリズム部6により構成されている。複数のプリズム部6は、第1面2から所定距離離れた位置から当該第1面2の反対側へ当該第1面2に垂直にかつ互いに平行に所定長さで延びる複数の第2面4と各第2面4の先端からその隣りの他の第2面4の基端に至るように延びる複数の第3面5とを有しており、各プリズム部6は、第2面4の基端を通り第1面2に平行な面と1つの第2面4と当該第2面4より内側の第3面5とにより規定(define)されている。また、第1面2と第2面4の基端を通り第1面2に平行な面とにより基板部8が規定されている。すなわち、X線屈折素子1は、基板部8と複数のプリズム部6とで構成されている。そして、複数の第3面5は、X線屈折素子1の所定位置(ここでは、例えば、第1面2の中心)を通る第2面4に平行な仮想平面(以下、集束中心面という)101を向くように形成されている。換言すると、複数の第3面5は、各第2面4の先端から集束中心面101に近い側(以下、内側という場合がある)に隣り合う他の第2面4の基端に至るように延びて形成されている。このように、屈折部3は、複数のプリズム部6が、第1面2の反対側に各第2面4が互いに平行となるように複数配列されることにより構成されている。このとき、複数のプリズム部6は、第1面2の中央において第3面5の基端同士が接している。以下、第1面2の中心を通り第1面2に垂直な軸をY軸とし、このY軸に垂直な軸をZ軸とする。Y軸は上述の集束中心面101上の直線である。
【0020】
本実施形態において、屈折部3は、第2面4と第3面5とのなす角度φ0が異なる複数組のプリズムアレイ7a,7bを有しており、集束中心面101に遠い側(以下、外側という場合がある)にあるプリズム部6(6b)における角度φ0(φ0b)が内側にあるプリズム部6(6a)における角度φ0(φ0a)より小さいように構成されている。従って、第1面2のY軸に近い側にあるプリズム部6aに比べてY軸から遠い側にあるプリズム部6bの方が屈折角が大きくなるため、X線をより効率的に集束することができる。なお、本実施形態においては、第1面2の中央部を境にそれぞれ2つずつ(合計4つの)プリズムアレイ7a,7bを有する構成について説明しているが、これに限られず、例えば、3つ以上のプリズムアレイを備えてもよいし、隣り合うプリズム部について外側のプリズム部6が内側のプリズム部6より小さい角度φ0を有する(複数のプリズム部6における角度φ0が全て異なっていて、プリズム部6がY軸から遠い程、その角度φ0が小さい。)こととしてもよい。プリズムアレイの数を増やすことにより、集束効率を高め、集束されたX線のサイズをより小さくすることができる。
【0021】
X線屈折素子1は、アクリル等の樹脂やベリリウム、アルミ等の軽元素材料(元素番号14ぐらいまで)及び軽元素材料のポリマー(例えば、炭素、水素、場合によって酸素等を含む)から形成される。X線屈折素子1は、特に金属材料の場合には、ダイヤモンドバイト等による旋盤加工により形成され、特に樹脂材料の場合には、銅等をダイヤモンドバイト等により旋盤加工した金型を樹脂材料に押し付けて形成される。X線屈折素子1の材料は入射するX線のエネルギーに応じて適宜選択される。なお、エネルギーの高いX線に対しては、元素番号14以上の材料を選択することによってより高い効率が得られる場合もあるため、軽元素材料には限定されない。
【0022】
そして、図1から図5に示すように、X線屈折素子1を、第1面2がX線B1の入射軸Binに対して垂直な位置(1’で示す)から第2面4に垂直なZ軸回りに所定角度θ回動させた位置に配置している。すなわち、X線B1は、第1面2に対して、Z軸の回りに傾斜角θだけ傾くようにして入射する。すなわち、X線屈折素子1が第1面2の中心を通り、X線B1の入射軸Binに平行なY0軸に対してY軸が傾斜角θだけ傾いた状態で、X線B1が入射する。
【0023】
上記方法によれば、X線B1が、その入射軸Binが第1面2の法線に対し第2面4に垂直なZ軸の回りに傾斜角θだけ傾斜した状態で(すなわち入射角θで)X線屈折素子1の第1面2に入射する。ここで、X線B1が、その入射軸Binが第1面2の法線に平行に当該第1面2に入射すると、プリズム部6内に入射したX線は、プリズム部6の第2面4と第3面5とのなす角度φ0に等しい角度で第3面5に入射し、屈折される。ところが、このように傾斜した状態でX線B1が第1面2側から入射すると、プリズム部6内に入射したX線は、プリズム部6の第2面4と第3面5とのなす角度φ0より小さい角度φで第3面5に入射し、屈折される。これにより、図3及び図4に示すように、プリズム部6と外部(プリズム部6の外側の媒質(例えば空気又は真空))との境界面(第3面5)における内部から外部への入射角σinをより大きくとる(境界面に対して水平(平行)に近い角度とする)ことができる。従って、X線がプリズム部6から出射された際のX線B2の出射軸Boutの屈折による偏向角α(屈折によりX線B2の出射軸Boutが内側(集束中心面101側)へ向く角度。入射角σin=屈折角σout+偏向角αとなる関係を有している)が、第1面2に垂直に入射された場合(角度φ0で出射された場合)の偏向角に比べて大きくなる。このため、X線B1をプリズム部6に一度通過させるだけで有効に集束させることができ、これによりX線屈折素子1におけるX線の吸収を有効に抑制することができる。また、X線B1の入射又は出射方向がX線屈折素子1の第1面2に対して傾斜していてもX線B1のビームラインの方向はほとんど変わらないため、設備の大幅な変更を防止することができる。
【0024】
なお、X線B1が第1面2の反対側から当該第1面2側へ出射される場合は、上述の場合と逆にビーム形状を変換することとなり、X線源(点X線源等)からのX線B2を屈折部3側から入射させることにより、第1面2から平行化されたX線を出射させることができる。従って、簡単な構成で、ビームラインの方向をほとんど変えずに、X線の吸収による減衰を抑えながら、X線を集束又は平行化することができる。
【0025】
ここで、X線屈折素子1の第1面2にX線B1を入射させる角度(傾斜角)θ、第2面4と第3面5とのなす角度φ0及びX線屈折素子1を傾斜させることによりプリズム部6において得られる先端角φ及び屈折によるX線B2の偏向角(屈折前後の角度差)αの関係を説明する。
【0026】
図6は図3に示すX線屈折素子の入射X線の第3面への入射面Sを示す図である。図6に示すように、X線屈折素子1に入射されたX線B1は、X線屈折素子1から外部(ここでは空気中又は真空中と仮定する)に出射された際に屈折する。X線屈折素子1の屈折率n1’=1−δ−iβ(iは虚数単位)の実数部をn1(=1−δ)とし、外部の屈折率をn=1とすると、偏向角αは、屈折の法則により先端角φを用いて次式で表される。
【0027】
【数2】
さらに、X線屈折素子1を通過したX線B2の焦点距離Fは、偏向角α、X線屈折素子1に入射されるX線の中央部(Y軸)からの距離(Z軸方向距離)r、プリズム部6の最大幅(第2面4及び第3面5の基端部間距離)w、最大厚さ(第2面4の基端部と先端部との間の距離)t及びプリズム部6において第2面4上を通過するX線の入射端から出射端までの長手方向についての長さ(最大長さ)Lを用いて次式で表される。
【0028】
【数3】
すなわち、X線屈折素子1を通過したX線B2の焦点距離Fは、上記(3)式及び(4)式より、上記距離r,t,w,L及び先端角φで表わすことができる。
【0029】
また、プリズム部6を通過することによるX線の平均の透過率<T>は、プリズム部6の最大幅(第2面4及び第3面5の基端部間距離)w及び各距離t,w,Lを用いて次式で表される。
【0030】
【数4】
ここで、μは線吸収係数であり、X線の波長をλ(X線のエネルギーE(keV)=1.24/λ(nm))としたときμ=4πβ/λで表される。ただし、X線屈折素子1の形状保持上必要となるが屈折には寄与しない基板部厚さt0(図5参照)によるX線の吸収は考慮していない。
【0031】
先端角φは、プリズム部6における各距離t,w,Lを用いて次式で表される。
【0032】
【数5】
上記式(6)より上記式(5)は、次式のように変換できる。
【0033】
【数6】
また、このときの第1面2にX線を入射させる角度(入射角)、すなわち、X線入射方向に対するプリズム部6の傾斜角θは、次式で表される。なお、下記式におけるθ’は第1面2における屈折角(図4参照)である。
【0034】
【数7】
なお、X線屈折素子1の屈折率n1’の実数部n1は、1に非常に近いといえるため、第1面2における屈折角θ’は、プリズム部6の傾斜角θに略等しい。すなわち、θ=θ’とすると、上記式(8)は、次式で表わすこともできる。
【0035】
【数8】
また、このときの第2面4と第3面5とのなす角度φ0は、次式で表される。
【0036】
【数9】
以上より、プリズム部6の内部から外部への境界面(第3面5)への入射角φを小さくすれば、式(3)に示すようにX線の偏向角αが大きくなり、式(4)から焦点距離Fを短くすることができるが、加工難度が上昇する。また、特定の長さwに対して長さtを長くすることにより入射角φを小さくすると、X線がプリズム部6内を通過する距離が長くなるため、式(7)に示すようにX線の平均透過率<T>が低下する。平均透過率<T>が減少するとプリズム部6によるX線の吸収量が増大するため、X線の強度が弱くなる。
【0037】
図7はX線の焦点距離F及び平均透過率<T>のそれぞれについての先端角φについての変化を示すグラフである。図7においては、X線のエネルギーを10keVとし、焦点距離FはX線屈折素子1におけるX線の中心軸Yからの距離r=500μm及びr=250μmの2つについて例示している。放射光X線の場合、入射X線の直径は概ね1mmであるため、X線屈折素子1の距離rは、500μm程度以下が好ましいが、特に限定されない。
【0038】
また、図7においては、X線屈折素子1の材料としてアクリル(C5H8O2、密度は1.19g/cm3、10keVにおける屈折率n1=1−δ−iβは、δ=2.67×10−6、β=3.71×10−9である)を例示している。
【0039】
また、図7においては、第2面4及び第3面5の基端部間の長さw,tを固定し、プリズム部5の長手方向の長さLを変化させることにより先端角φを変化させている。ここで長さwは、50μmを例示でき、第2面4と第3面5とのなす角度φ0は、20°を例示できる(従って、この場合の長さtは、137.4μmとなる)。
【0040】
粉末X線回折やX線小角散乱等のX線照射による構造分析法において用いられるX線のエネルギーEは、1keV≦E≦250keVであり、その中でも特によく用いられるのは5keV≦E≦20keVである。なお、図7においては、X線のエネルギーE=10keVのときを例示している。また、X線を通過させたときのX線屈折素子1の焦点距離Fは、100m以下が好ましいが、30m以下がより好ましい。
【0041】
一方、X線屈折素子1としての機能を果たすためには、プリズム部6を通過することによるX線の平均の透過率<T>は80%以上が好ましい。
【0042】
以上の条件から、焦点距離Fが30m以下で且つX線の平均透過率<T>が80%以上となるようにX線を集束するための好適な先端角φは、図7に示すように、r=250μmにおいて2.3°≦φ≦8.6°となり、r=500μmにおいて2.3°≦φ≦6.8°となる。厳密に集束する場合には、rに応じて先端角φの好適な範囲は異なるが、上記構造分析法に用いられる際、X線屈折素子1は厳密に点又は線に集束される必要はなく、ある程度の集束(粗集束)が期待できればよい。従って、ある程度の集束でよい場合には、r=250μmより内側の領域におけるプリズム部6の先端角φを2.3°≦φ≦8.6°から1つ選択し、r=250μmより外側の領域におけるプリズム部6の先端角φを2.3°≦φ≦6.8°から1つ選択する(プリズムアレイを2つずつとする)か、又は、すべてのプリズム部6についていずれかの範囲から1つ選択する(プリズムアレイを1つずつとする)こととしても十分な集束効果を得ることができる。
【0043】
上記範囲内から選択された先端角φを実現可能なプリズム部6の寸法は、上記式(6)より得ることができる。すなわち、r=250μmにおいて先端角φが好適な範囲となるようなプリズム部の各寸法の関係式は、次式で表される。
【0044】
【数10】
以上のような関係を有するようにプリズム部6の長さw,t,Lを定めることにより、X線屈折素子1の加工精度及び上記エネルギーを有するX線の透過率を高く保持しつつ所望の焦点距離を得ることができる。なお、長さLは上述の通り、プリズム部6において第2面4上を通過するX線の入射端から出射端までの長手方向についての長さであり、プリズム部6の寸法を直接的に規定するものではなく、プリズム部6の第2面4の長手方向の長さは、上記関係式におけるLにX線B1の直径分(2r)以上を加えた長さ以上であればよい。
【0045】
また、このときのX線B1の第1面2への入射角(プリズム部6の傾斜角)θは上記(8)式から求められる。
【0046】
以上のように求められた先端角φの範囲は、X線屈折素子1を傾斜させずに実現しようとすると(すなわち、第2面4と第3面5とのなす角度φ0が上記範囲となるようにプリズム部6を作製しようとすると)、プリズム部6の加工難度が上がり、製作が困難となる。すなわち、X線を第1面2に対して垂直に入射させたのでは、X線の焦点距離Fを30m以下にすることは困難である。従って、このような範囲の焦点距離Fを得るために、X線屈折素子1をX線の入射軸Binに対して傾斜角θだけ傾斜させる本実施形態の方法を用いることは特に有効である。
【0047】
ここで、X線屈折素子1は、X線B1の入射軸Binに対する傾斜角θを変更可能に構成されてもよい。具体的には、例えば図1に示すように、X線屈折素子1は、Z軸に平行な中心軸102を有する回転軸10に軸支されており、回動装置13によってX線屈折素子1が回転軸10の中心軸102の回りに回転可能に構成されている。なお、回転軸10は、入射するX線B1のビーム径よりX線屈折素子1のサイズが十分大きい場合には、図1に示すようにX線屈折素子1の側方にあってもよいし、中央部(後述する図8の回転軸10b参照)にあってもよい。式(6)及び式(8)より、傾斜角θと先端角φとの関係式は、次式のように表せる。
【0048】
【数11】
式(11)に示すように、傾斜角θを調整することにより、先端角φも調整可能となるため、傾斜角θを調整することにより、X線の焦点距離Fの調整を容易に行うことができる。
【0049】
また、図1及び図2に示すX線屈折システムにおいては、X線屈折素子1を1つ用い、入射X線B1を線状に集束する構成としているが、X線屈折素子1を複数(2つ)用い、入射X線B1を点状に集束する構成としてもよい。
【0050】
図8は本発明の他の実施形態に係るX線屈折方法に用いられるX線屈折システムを示す斜視図である。図8の例においては、2つのX線屈折素子1a,1bをプリズム部6a,6bの配列方向(Za,Zb軸)が略直交するように配置し、複数のX線屈折素子1a,1bのそれぞれを、第1面2a,2bがX線の入射軸Bina,Binbに対して垂直な位置(1a’,1b’で示す位置)から第2面4a,4bに垂直なZa,Zb軸回りに所定角度θa,θbだけ回動させた位置に配置している。
【0051】
上記構成により、第1のX線屈折素子1aの第1面2aに入射されたX線B1の入射軸Binaは、第1のX線屈折素子1aにおいてZa軸方向に集束されて第1の出射X線B2aとなり、当該第1の出射X線B2aによる第2のX線屈折素子1bへの入射軸Binbが、さらに、第2のX線屈折素子1bの第1面2bに入射されて、Za軸方向に加えてZb軸方向にも集束された出射軸Boutを有するX線B2bを出射する。これによりX線を点状に集束させることができる。
【0052】
本実施形態においても、入射軸Bina,Binbに対する傾斜角θa,θbを変更可能に構成されてもよい。具体的には、例えば図8に示すように、第1のX線屈折素子1aは、Za軸に平行な中心軸102aを有する回転軸10aに軸支されており、回動装置13aによって第1のX線屈折素子1aが回転軸10a回りに回転可能に構成されている。また、第2のX線屈折素子1bは、Zb軸に平行な中心軸102bを有する回転軸10bに軸支されており、回動装置13bによって第2のX線屈折素子1bが回転軸10b回りに回転可能に構成されている。回転軸10a,10bは、いずれもX線屈折素子1a,1bの側方に設けられてもよいし、中央部に設けられてもよい。これにより2つのX線屈折素子1a,1bの傾斜角θa,θbをそれぞれ個別に変化させることで、横方向及び縦方向の焦点距離を個別に調整及び変更することができる。
【0053】
なお、図8の例において第1面2a,2bからX線を出射させてもよく、この場合には点X線源から発散するX線を二次元的に平行化することができる。
【0054】
また、X線屈折素子1を、X線B1入射時において第2面4の長手方向に移動させてもよい。図9は図1に示すX線屈折システムのX線屈折素子の変形例を示す斜視図である。
【0055】
図9に示す例におけるX線屈折素子11が図1に示すX線屈折素子1と異なるのは、X線屈折素子11の長手方向(Y軸及びZ軸にともに垂直なV軸方向)に十分長く、当該V軸方向に往復動可能とされていることである。具体的には、X線屈折素子11は、V軸方向に2(L+2r)以上の長さを有しており、把持部材12に固定されている。把持部材12は、駆動装置14によりV軸方向に往復動されるように構成されている。従って、把持部材12が駆動装置14によりV軸方向に往復動されることにより、X線屈折素子11がV軸方向に往復動される。
【0056】
特に、X線屈折素子11がアクリル等の樹脂材料から形成される場合、X線屈折素子11にX線が照射され続けると溶解等により劣化する場合がある。一般に、X線の照射によりX線屈折素子11を構成する材料の溶解は、X線の照射量(時間あたりのX線量×時間)が所定のしきい値を超えることにより生じる。すなわち、しきい値を超える前に当該部分へのX線照射を止めれば、溶解は生じないと考えられる。そこで、上記構成において、X線屈折素子11のある部分にX線を照射している時間がX線の照射量に関するしきい値を超える前に、X線屈折素子11をV軸方向に移動させてX線屈折素子11におけるX線の照射箇所を変更することにより、X線屈折素子11のX線照射による溶解を有効に防止することができる。このような構成は、入射X線の光子束密度(photons/s/mm2)が1011程度以上である場合に、特に有効である。
【0057】
なお、X線屈折素子11を移動させる態様は、連続的に(常時)移動させる態様であってもよいし、非連続的に移動させる(複数のX線照射部毎に停止及び移動を繰り返す)態様であってもよい。また、移動させるタイミングは、X線屈折素子11の材料とX線量(X線の輝度)に応じて適宜好適に設定される。
【実施例】
【0058】
図3に示すようなX線屈折素子1を設計、作製し、放射光X線を用いるビームラインにおいて性能評価実験を行った。X線屈折素子1は、アクリル製とし、X線屈折素子1において、プリズム部6の全幅(2r)が1mm、第2面4と第3面5とのなす角度φ0が22.4°〜82.0°(集束中心面101から遠いプリズム部6になるほど角度が小さくなるように段階的に設定されている)、傾斜角θが80.5°となるように設計、製作した。このときの最小先端角φは3.61°であり、偏向角αは0.00243°であり、焦点距離Fは12.7mである。
【0059】
図10は本実施例において用いたX線屈折素子の電子顕微鏡写真である。図10(a)は概要図であり、図10(b)は図10(a)の領域VIIIaを示す部分拡大図である。図10に示すように本実施例のX線屈折素子においては、良好なプリズムアレイ構造が形成されている。
【0060】
まず、このようなX線屈折素子1の配置の前後でX線屈折素子1を通過した後のX線が集束されているかどうかをX線カメラにより撮像したX線のビーム径を比較することにより確認した。
【0061】
図11は本実施例のX線屈折素子の適用前後において、X線が集束状態を確認するためのX線のビーム径についてのX線カメラ像を示す図である。図11(a)はX線屈折素子から16m後方におけるビーム径を示し、図11(b)はX線屈折素子を適用しない場合のビーム径(比較例)を示している。本実施例においては図1に示すX線屈折システムと同様に、X線屈折素子1を1つ用いた構成であるため、図11(a)に示すように、X線屈折素子を適用しない場合の図11(b)に比較して縦方向の集束(上下が扁平になり明るさが増加)が確認できた。
【0062】
次に、本実施例のX線屈折素子1を図3に示す傾斜角θを変化させながら集束されたX線のピーク強度とサイズ(半値全幅)を測定した。ピーク強度が高いほどX線がよく集束されていることを示し、サイズが小さいほどX線がよく集束されていることを示す。従って、ピーク強度をサイズ(半値全幅)で除した指標が大きいほどX線がよく集束されていることを示すこととなる。
【0063】
図12は本実施例のX線屈折素子の傾斜角に対するピーク強度/半値全幅を示すグラフである。図12に示すように、傾斜角θが設計値の80.5°近傍で集束特性が最も良好となることが確認できた。
【0064】
続いて、本実施例のX線屈折素子1の集束位置(傾斜角θは80.5°)におけるX線のビームプロファイルを測定し、評価した。
【0065】
図13は本実施例のX線屈折素子の適用前後におけるX線のビームプロファイルを示すグラフである。ビームプロファイルの測定においては、所定のスリットにX線屈折素子1によるX線の集束後のビームを入射し、当該スリットの位置に対するX線のビームの強度を測定した。比較例としてX線屈折素子1を適用しない場合のX線をスリットに入射させた場合のX線のビームの強度もあわせて測定した。
【0066】
図13に示すように、X線屈折素子1により集束されたX線のビームの強度における半値全幅(約80μm)内の全強度をX線屈折素子1を適用しない場合と比較すると、X線屈折素子1により集束されたX線のビームの強度の利得はX線屈折素子1を適用しない場合に比べて3.6倍となった。X線追跡による計算値(5.3倍)には及ばないものの、近い値となり、良好な集束特性が得られた。
【0067】
さらに、図11に示すビーム形状(断面形状)を測定した。X線屈折素子1を適用する前のX線のビーム形状は、略楕円形であり、縦方向における最長の長さが730μm、横方向における最長の長さが550μmであったのに対し、X線屈折素子1を適用した後のX線のビーム形状は縦方向における最長の長さが80μm、横方向における最長の長さが600μmとなった。この結果より、X線のビームの断面積で規格化したX線の強度(X線密度)の利得は、X線屈折素子1の適用前に比べて5.6倍となった。1次元(縦方向)のみの集束で5.6倍の強度利得が得られる結果となったため、図8に示すようなX線屈折素子を交差配置することによる2次元の集束を行えば、20〜30倍程度の強度利得が得られるものと推察できる。
【0068】
以上のとおり、本実施例のX線屈折素子1をX線に適用することにより、有効な集束ビームが得られることが実証された。
【0069】
さらに、光子束密度が6×1011(photons/s/mm2)であるX線をX線屈折素子1に照射して照射時間に対するX線屈折素子1により集束されたX線のビーム強度の変化を測定した。
【0070】
図14は本実施例のX線屈折素子1にX線を照射した場合の照射時間に対するX線屈折素子により集束されたX線のビーム強度の測定値を示すグラフである。本実験においては図9に示すようなX線屈折素子をV軸方向に往復動可能な構成(X線屈折素子のV軸方向の長さを25mmとする)を用いて、図14に示すように、X線屈折素子を固定した状態でX線を照射し続けた場合と、X線屈折素子を往復動させた状態でX線を照射し続けた場合とを比較した。X線の光子束密度が6×1011程度の比較的高いX線を用いた場合においては、X線屈折素子を固定した状態でX線を照射すると、105分後にX線屈折素子を通過後のX線のピーク強度が60%にまで減少してしまった。これは、事後の観察により、X線の照射によるX線屈折素子のプリズム部の変成(溶解)が原因であることが確認された。これに対し、X線の照射中にX線屈折素子を往復動させた場合、X線の照射から約12時間が経過した後もX線屈折素子を通過後のX線のピーク強度が十分に保たれていることが確認された。この実験結果に基づいて、X線屈折素子を往復動させた場合のX線のピーク強度変化について減少指数関数により補間処理演算を行ったところ、48時間経過後でも約89%のピーク強度が得られることが推察される結果となった。一般的に、放射光施設での実験が24時間単位で行われるため、X線の輝度が高い場合であっても、X線屈折素子を往復動させることにより放射光X線の実験に十分耐え得る耐放射線性能が得られることが分かった。さらに、X線屈折素子のV軸方向の長さをより長くすることにより(機械加工で切り出して作製するためV軸方向の長さを長くすることは比較的容易である)、耐用時間を長くすることは容易に実現できるものと推察される。
【0071】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更、修正が可能である。
【0072】
例えば、上記実施形態においては複数のプリズム部6の第2面4の基端及び先端の位置を全てのプリズム部6において一定にしたが、入射するX線B1を集束可能な限り、これらを個々のプリズム部6毎に違えてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のX線屈折方法は、簡単な構成で、ビームラインの方向をほとんど変えずに、X線の吸収による減衰を抑えながら、X線を集束又は平行化するために有用である。
【符号の説明】
【0074】
1,1a,1b,11 X線屈折素子
2 第1面
3 屈折部
4,4a,4b 第2面
5 第3面
6,6a,6b プリズム部
7a,7b プリズムアレイ
8 基板部
10,10a,10b 回転軸
12 把持部材
13,13a,13b 回動装置
14 駆動装置
100 X線源
B1 放射光X線
B2,B2a,B2b 集束されたX線
Bin,Bina,Binb X線の入射軸
Bout X線の出射軸
F 焦点距離
L プリズム部において第2面上を通過するX線の入射端から出射端までの長手方向についての長さ
r X線屈折素子に入射されるX線の中央部からの距離
t プリズム部の最大厚さ
<T> X線の平均透過率
w プリズム部の最大幅
α 偏向角
σin プリズム部の境界面における内部から外部への入射角
σout 屈折角
φ 先端角
φ0,φ0a,φ0b 第2面と第3面とのなす角
θ,θa,θb 傾斜角
θ’ 第1面における屈折角
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線を集束又は平行化するためのX線屈折方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から粉末X線回折やX線小角散乱等のX線照射による構造分析法が知られている。このような構造分析法においては、試料へのX線の入射強度を高めて実験データの精度を高くするために、X線を集束することが望ましい。また、X線源から平行X線を生成する要請もある。
【0003】
しかし、可視光等とは異なり、X線の屈折率は1より小さいため、可視光用の集光レンズ等をX線の集束又は平行化にそのまま用いることはできない。そこで、X線を集束する技術として、X線のビームラインに曲面の全反射ミラーを追加することが知られている。また、屈折レンズとして凹レンズを複数用いることによってX線を集束する構成も知られている(例えば特許文献1参照)。さらに、鋸歯状の複数の歯に順次X線を入射することによりX線を集束する構成も知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−207962号公報
【特許文献2】特表2003−505677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、曲面の全反射ミラーを追加する構成においては、X線を途中で反射させる必要があり、ビームラインの方向(X線の経路)が変わってしまうため、設備の大幅な変更が必要となる。また、特許文献1や特許文献2の構成においては、ビームラインの方向は変わらないが、以下のような問題がある。すなわち、特許文献1の構成においては、焦点距離を短くするためには、何段もの凹レンズを通過させる必要があり、構造が複雑になるとともに、X線が凹レンズを通過するたびに吸収されるため、所望のX線の強度を得ることが困難となる。特許文献2の構成においても同様に、焦点距離を短くするためには、複数の歯に順次X線を入射する必要があるため、X線が複数の歯を通過するたびに吸収されるため、所望のX線の強度を得ることが困難となる。さらに、特許文献2に記載の構成においては、鋸歯の先端部側を通過するX線と基端部側を通過するX線とでX線の吸収量が異なるため、先端部側を通過するX線に対し基端部側を通過するX線が暗くなってしまう問題も生じる。また、特許文献2の構成においては、鋸歯状の複数の歯が形成された部材の表面が互いに向かい合うように配置されているが、鋸歯状の複数の歯を精度よく位置合わせすることは大変困難であることが予想される。
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決すべくなされたものであり、簡単な構成で、ビームラインの方向をほとんど変えずに、X線の吸収による減衰を抑えながら、X線を集束又は平行化することができるX線屈折方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るX線屈折方法は、X線を集束又は平行化するためのX線屈折方法であって、X線が入射又は出射する第1面と、前記第1面から離れた位置から当該第1面の反対側へ前記第1面に垂直にかつ互いに平行に延びる複数の第2面及び各前記第2面の先端からその内側に隣り合う他の第2面の基端に至るように延びる複数の第3面を有し、前記第2面の基端を通り前記第1面に平行な面、前記第2面及び前記第3面により規定される複数のプリズム部を有する屈折部と、を備えたX線屈折素子を、前記第1面がX線の入射又は出射軸に対して垂直な角度位置から前記第2面に垂直な軸の回りに所定角度回転した位置に配置するものである。
【0008】
上記方法によれば、X線が、その入射軸が第1面の法線に対し第2面に垂直な軸の回りに所定角度だけ傾斜した状態で(すなわち所定の入射角で)X線屈折素子の第1面に入射又は出射する。ここで、X線が第1面側から入射される場合、X線が、その入射軸が第1面の法線に平行に当該第1面に入射すると、プリズム部内に入射したX線は、プリズム部の第2面と第3面とのなす角度に等しい斜入射の角度で第3面に入射し、屈折される。ところが、このように傾斜した状態でX線が第1面側から入射すると、プリズム部内に入射したX線は、プリズム部の第2面と第3面とのなす角度より小さい斜入射の角度で第3面に入射し、屈折される。これにより、プリズム部と外部との境界面(第3面)における内部から外部への入射角をより大きくとることができる。従って、X線がプリズム部から出射された際のX線の出射軸の屈折による偏向角(屈折によりX線の出射軸が内側へ向く角度)が、第1面に垂直に入射された場合の偏向角に比べて大きくなる。このため、X線をプリズム部に一度通過させるだけで有効に集束させることができ、これによりX線屈折素子におけるX線の吸収を有効に抑制することができる。X線が第1面の反対側から当該第1面側へ出射される場合は、上述の場合と逆にビーム形状を変換することとなり、また、X線の入射又は出射方向がX線屈折素子の第1面に対して傾斜していてもX線のビームラインの方向はほとんど変わらないため、設備の大幅な変更を防止することができる。従って、簡単な構成で、ビームラインの方向をほとんど変えずに、X線の吸収による減衰を抑えながら、X線を集束又は平行化することができる。
【0009】
上記方法において、前記プリズム部が以下の関係式(1)を満たすように前記X線屈折素子を作製し、前記第1面のX線の入射又は出射軸に対する傾斜角θが以下の関係式(2)を満たすように前記X線屈折素子を配置してもよい。
【0010】
【数1】
ここで、φは、プリズム部の内部から外部への境界面(第3面)への斜入射角であり、wは、前記第2面及び前記第3面の基端部間の長さであり、tは、前記第2面の基端部と先端部との間の長さであり、Lは、前記プリズム部において第2面上を通過するX線の入射端から出射端までの長手方向についての長さであり、n1は、前記X線屈折素子の屈折率の実数部である。
【0011】
プリズム部の内部から外部への境界面(第3面)への斜入射角φを小さくすれば、境界面から外部へ出射されたX線の偏向角(第1面に垂直な軸とのなす角度)が大きくなり、焦点距離を短くすることができるが、加工難度が上昇する。また、特定の長さwに対して長さtを長くすることにより斜入射角φを小さくすると、X線がプリズム部内を通過する距離が長くなりX線の透過率が低下する。そこで、プリズム部を上記関係式を満たすように設計することにより、X線屈折素子の加工精度及びX線の透過率を高く保持しつつ焦点距離を短くすることができる。
【0012】
また、前記X線屈折素子は、前記第1面のX線の入射又は出射軸に対する傾斜角を変更可能に構成されてもよい。これにより、X線の焦点距離の調整を行うことができる。
【0013】
また、複数の前記X線屈折素子を前記プリズム部の配列方向が略直交するように配置し、前記複数のX線屈折素子のそれぞれを、前記第1面がX線の入射又は出射軸に対して前記第2面に垂直な軸回りに傾斜するように配置してもよい。これにより、第1面にX線を入射させた場合にはX線を二次元的に集束させることができる一方、第1面からX線を出射させた場合には点X線源から発散するX線を二次元的に平行化することができる。
【0014】
また、前記X線屈折素子を、X線入射時において前記第2面の長手方向に移動させてもよい。これにより、X線の照射によるX線屈折素子の劣化を防止することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は以上に説明したように構成され、簡単な構成で、ビームラインの方向をほとんど変えずに、X線の吸収による減衰を抑えながら、X線を集束又は平行化することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係るX線屈折方法に用いられるX線屈折システムを示す斜視図である。
【図2】図2は図1に示すX線屈折システムの平面図である。
【図3】図3は図1に示すX線屈折システムのX線屈折素子を示す斜視図である。
【図4】図4は図3に示すX線屈折素子のプリズム部を示す拡大斜視図である。
【図5】図5は図3に示すX線屈折素子の側面図である。
【図6】図6は図3に示すX線屈折素子の入射X線の第3面への入射面Sを示す図である。
【図7】図7はX線の焦点距離F及び平均透過率<T>のそれぞれについての先端角φについての変化を示すグラフである。
【図8】図8は本発明の他の実施形態に係るX線屈折方法に用いられるX線屈折システムを示す斜視図である。
【図9】図9は図1に示すX線屈折システムのX線屈折素子の変形例を示す斜視図である。
【図10】図10は本実施例において用いたX線屈折素子の電子顕微鏡写真である。
【図11】図11は本実施例のX線屈折素子の適用前後において、X線が集束状態を確認するためのX線のビーム径についてのX線カメラ像を示す図である。
【図12】図12は本実施例のX線屈折素子の傾斜角に対するピーク強度/半値全幅を示すグラフである。
【図13】図13は本実施例のX線屈折素子の適用前後におけるX線のビームプロファイルを示すグラフである。
【図14】図14は本実施例のX線屈折素子1にX線を照射した場合の照射時間に対するX線屈折素子により集束されたX線のビーム強度の測定値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0018】
図1及び図2は本発明の一実施形態に係るX線屈折方法に用いられるX線屈折システムを示す斜視図及び平面図である。また、図3は図1に示すX線屈折システムのX線屈折素子を示す斜視図であり、図4は図3に示すX線屈折素子のプリズム部を示す拡大斜視図であり、図5は図3に示すX線屈折素子の側面図である。図1及び図2に示すように、本実施形態のX線屈折システムは、平行X線からなるシンクロトロン放射光X線(以下、単に放射光X線と称する。これがX線屈折素子1に入射される入射X線となる)B1を放射するX線源100と、X線のビーム形状を変換するX線屈折素子1と、を備えている。なお、回転軸10とこの回転軸10の回動装置13とはこのX線屈折システムの必須の構成要素ではないので、後で説明する。本実施形態において、X線屈折素子1は、X線源100からのX線B1を集束して出射X線B2として出射する。より具体的には、図1から図5に示すように、X線屈折素子1は、X線B1が入射する第1面2と、第1面2の反対側に設けられ、第1面2から入射したX線B1を屈折して出射する屈折部3とを有している。
【0019】
屈折部3は、複数のプリズム部6により構成されている。複数のプリズム部6は、第1面2から所定距離離れた位置から当該第1面2の反対側へ当該第1面2に垂直にかつ互いに平行に所定長さで延びる複数の第2面4と各第2面4の先端からその隣りの他の第2面4の基端に至るように延びる複数の第3面5とを有しており、各プリズム部6は、第2面4の基端を通り第1面2に平行な面と1つの第2面4と当該第2面4より内側の第3面5とにより規定(define)されている。また、第1面2と第2面4の基端を通り第1面2に平行な面とにより基板部8が規定されている。すなわち、X線屈折素子1は、基板部8と複数のプリズム部6とで構成されている。そして、複数の第3面5は、X線屈折素子1の所定位置(ここでは、例えば、第1面2の中心)を通る第2面4に平行な仮想平面(以下、集束中心面という)101を向くように形成されている。換言すると、複数の第3面5は、各第2面4の先端から集束中心面101に近い側(以下、内側という場合がある)に隣り合う他の第2面4の基端に至るように延びて形成されている。このように、屈折部3は、複数のプリズム部6が、第1面2の反対側に各第2面4が互いに平行となるように複数配列されることにより構成されている。このとき、複数のプリズム部6は、第1面2の中央において第3面5の基端同士が接している。以下、第1面2の中心を通り第1面2に垂直な軸をY軸とし、このY軸に垂直な軸をZ軸とする。Y軸は上述の集束中心面101上の直線である。
【0020】
本実施形態において、屈折部3は、第2面4と第3面5とのなす角度φ0が異なる複数組のプリズムアレイ7a,7bを有しており、集束中心面101に遠い側(以下、外側という場合がある)にあるプリズム部6(6b)における角度φ0(φ0b)が内側にあるプリズム部6(6a)における角度φ0(φ0a)より小さいように構成されている。従って、第1面2のY軸に近い側にあるプリズム部6aに比べてY軸から遠い側にあるプリズム部6bの方が屈折角が大きくなるため、X線をより効率的に集束することができる。なお、本実施形態においては、第1面2の中央部を境にそれぞれ2つずつ(合計4つの)プリズムアレイ7a,7bを有する構成について説明しているが、これに限られず、例えば、3つ以上のプリズムアレイを備えてもよいし、隣り合うプリズム部について外側のプリズム部6が内側のプリズム部6より小さい角度φ0を有する(複数のプリズム部6における角度φ0が全て異なっていて、プリズム部6がY軸から遠い程、その角度φ0が小さい。)こととしてもよい。プリズムアレイの数を増やすことにより、集束効率を高め、集束されたX線のサイズをより小さくすることができる。
【0021】
X線屈折素子1は、アクリル等の樹脂やベリリウム、アルミ等の軽元素材料(元素番号14ぐらいまで)及び軽元素材料のポリマー(例えば、炭素、水素、場合によって酸素等を含む)から形成される。X線屈折素子1は、特に金属材料の場合には、ダイヤモンドバイト等による旋盤加工により形成され、特に樹脂材料の場合には、銅等をダイヤモンドバイト等により旋盤加工した金型を樹脂材料に押し付けて形成される。X線屈折素子1の材料は入射するX線のエネルギーに応じて適宜選択される。なお、エネルギーの高いX線に対しては、元素番号14以上の材料を選択することによってより高い効率が得られる場合もあるため、軽元素材料には限定されない。
【0022】
そして、図1から図5に示すように、X線屈折素子1を、第1面2がX線B1の入射軸Binに対して垂直な位置(1’で示す)から第2面4に垂直なZ軸回りに所定角度θ回動させた位置に配置している。すなわち、X線B1は、第1面2に対して、Z軸の回りに傾斜角θだけ傾くようにして入射する。すなわち、X線屈折素子1が第1面2の中心を通り、X線B1の入射軸Binに平行なY0軸に対してY軸が傾斜角θだけ傾いた状態で、X線B1が入射する。
【0023】
上記方法によれば、X線B1が、その入射軸Binが第1面2の法線に対し第2面4に垂直なZ軸の回りに傾斜角θだけ傾斜した状態で(すなわち入射角θで)X線屈折素子1の第1面2に入射する。ここで、X線B1が、その入射軸Binが第1面2の法線に平行に当該第1面2に入射すると、プリズム部6内に入射したX線は、プリズム部6の第2面4と第3面5とのなす角度φ0に等しい角度で第3面5に入射し、屈折される。ところが、このように傾斜した状態でX線B1が第1面2側から入射すると、プリズム部6内に入射したX線は、プリズム部6の第2面4と第3面5とのなす角度φ0より小さい角度φで第3面5に入射し、屈折される。これにより、図3及び図4に示すように、プリズム部6と外部(プリズム部6の外側の媒質(例えば空気又は真空))との境界面(第3面5)における内部から外部への入射角σinをより大きくとる(境界面に対して水平(平行)に近い角度とする)ことができる。従って、X線がプリズム部6から出射された際のX線B2の出射軸Boutの屈折による偏向角α(屈折によりX線B2の出射軸Boutが内側(集束中心面101側)へ向く角度。入射角σin=屈折角σout+偏向角αとなる関係を有している)が、第1面2に垂直に入射された場合(角度φ0で出射された場合)の偏向角に比べて大きくなる。このため、X線B1をプリズム部6に一度通過させるだけで有効に集束させることができ、これによりX線屈折素子1におけるX線の吸収を有効に抑制することができる。また、X線B1の入射又は出射方向がX線屈折素子1の第1面2に対して傾斜していてもX線B1のビームラインの方向はほとんど変わらないため、設備の大幅な変更を防止することができる。
【0024】
なお、X線B1が第1面2の反対側から当該第1面2側へ出射される場合は、上述の場合と逆にビーム形状を変換することとなり、X線源(点X線源等)からのX線B2を屈折部3側から入射させることにより、第1面2から平行化されたX線を出射させることができる。従って、簡単な構成で、ビームラインの方向をほとんど変えずに、X線の吸収による減衰を抑えながら、X線を集束又は平行化することができる。
【0025】
ここで、X線屈折素子1の第1面2にX線B1を入射させる角度(傾斜角)θ、第2面4と第3面5とのなす角度φ0及びX線屈折素子1を傾斜させることによりプリズム部6において得られる先端角φ及び屈折によるX線B2の偏向角(屈折前後の角度差)αの関係を説明する。
【0026】
図6は図3に示すX線屈折素子の入射X線の第3面への入射面Sを示す図である。図6に示すように、X線屈折素子1に入射されたX線B1は、X線屈折素子1から外部(ここでは空気中又は真空中と仮定する)に出射された際に屈折する。X線屈折素子1の屈折率n1’=1−δ−iβ(iは虚数単位)の実数部をn1(=1−δ)とし、外部の屈折率をn=1とすると、偏向角αは、屈折の法則により先端角φを用いて次式で表される。
【0027】
【数2】
さらに、X線屈折素子1を通過したX線B2の焦点距離Fは、偏向角α、X線屈折素子1に入射されるX線の中央部(Y軸)からの距離(Z軸方向距離)r、プリズム部6の最大幅(第2面4及び第3面5の基端部間距離)w、最大厚さ(第2面4の基端部と先端部との間の距離)t及びプリズム部6において第2面4上を通過するX線の入射端から出射端までの長手方向についての長さ(最大長さ)Lを用いて次式で表される。
【0028】
【数3】
すなわち、X線屈折素子1を通過したX線B2の焦点距離Fは、上記(3)式及び(4)式より、上記距離r,t,w,L及び先端角φで表わすことができる。
【0029】
また、プリズム部6を通過することによるX線の平均の透過率<T>は、プリズム部6の最大幅(第2面4及び第3面5の基端部間距離)w及び各距離t,w,Lを用いて次式で表される。
【0030】
【数4】
ここで、μは線吸収係数であり、X線の波長をλ(X線のエネルギーE(keV)=1.24/λ(nm))としたときμ=4πβ/λで表される。ただし、X線屈折素子1の形状保持上必要となるが屈折には寄与しない基板部厚さt0(図5参照)によるX線の吸収は考慮していない。
【0031】
先端角φは、プリズム部6における各距離t,w,Lを用いて次式で表される。
【0032】
【数5】
上記式(6)より上記式(5)は、次式のように変換できる。
【0033】
【数6】
また、このときの第1面2にX線を入射させる角度(入射角)、すなわち、X線入射方向に対するプリズム部6の傾斜角θは、次式で表される。なお、下記式におけるθ’は第1面2における屈折角(図4参照)である。
【0034】
【数7】
なお、X線屈折素子1の屈折率n1’の実数部n1は、1に非常に近いといえるため、第1面2における屈折角θ’は、プリズム部6の傾斜角θに略等しい。すなわち、θ=θ’とすると、上記式(8)は、次式で表わすこともできる。
【0035】
【数8】
また、このときの第2面4と第3面5とのなす角度φ0は、次式で表される。
【0036】
【数9】
以上より、プリズム部6の内部から外部への境界面(第3面5)への入射角φを小さくすれば、式(3)に示すようにX線の偏向角αが大きくなり、式(4)から焦点距離Fを短くすることができるが、加工難度が上昇する。また、特定の長さwに対して長さtを長くすることにより入射角φを小さくすると、X線がプリズム部6内を通過する距離が長くなるため、式(7)に示すようにX線の平均透過率<T>が低下する。平均透過率<T>が減少するとプリズム部6によるX線の吸収量が増大するため、X線の強度が弱くなる。
【0037】
図7はX線の焦点距離F及び平均透過率<T>のそれぞれについての先端角φについての変化を示すグラフである。図7においては、X線のエネルギーを10keVとし、焦点距離FはX線屈折素子1におけるX線の中心軸Yからの距離r=500μm及びr=250μmの2つについて例示している。放射光X線の場合、入射X線の直径は概ね1mmであるため、X線屈折素子1の距離rは、500μm程度以下が好ましいが、特に限定されない。
【0038】
また、図7においては、X線屈折素子1の材料としてアクリル(C5H8O2、密度は1.19g/cm3、10keVにおける屈折率n1=1−δ−iβは、δ=2.67×10−6、β=3.71×10−9である)を例示している。
【0039】
また、図7においては、第2面4及び第3面5の基端部間の長さw,tを固定し、プリズム部5の長手方向の長さLを変化させることにより先端角φを変化させている。ここで長さwは、50μmを例示でき、第2面4と第3面5とのなす角度φ0は、20°を例示できる(従って、この場合の長さtは、137.4μmとなる)。
【0040】
粉末X線回折やX線小角散乱等のX線照射による構造分析法において用いられるX線のエネルギーEは、1keV≦E≦250keVであり、その中でも特によく用いられるのは5keV≦E≦20keVである。なお、図7においては、X線のエネルギーE=10keVのときを例示している。また、X線を通過させたときのX線屈折素子1の焦点距離Fは、100m以下が好ましいが、30m以下がより好ましい。
【0041】
一方、X線屈折素子1としての機能を果たすためには、プリズム部6を通過することによるX線の平均の透過率<T>は80%以上が好ましい。
【0042】
以上の条件から、焦点距離Fが30m以下で且つX線の平均透過率<T>が80%以上となるようにX線を集束するための好適な先端角φは、図7に示すように、r=250μmにおいて2.3°≦φ≦8.6°となり、r=500μmにおいて2.3°≦φ≦6.8°となる。厳密に集束する場合には、rに応じて先端角φの好適な範囲は異なるが、上記構造分析法に用いられる際、X線屈折素子1は厳密に点又は線に集束される必要はなく、ある程度の集束(粗集束)が期待できればよい。従って、ある程度の集束でよい場合には、r=250μmより内側の領域におけるプリズム部6の先端角φを2.3°≦φ≦8.6°から1つ選択し、r=250μmより外側の領域におけるプリズム部6の先端角φを2.3°≦φ≦6.8°から1つ選択する(プリズムアレイを2つずつとする)か、又は、すべてのプリズム部6についていずれかの範囲から1つ選択する(プリズムアレイを1つずつとする)こととしても十分な集束効果を得ることができる。
【0043】
上記範囲内から選択された先端角φを実現可能なプリズム部6の寸法は、上記式(6)より得ることができる。すなわち、r=250μmにおいて先端角φが好適な範囲となるようなプリズム部の各寸法の関係式は、次式で表される。
【0044】
【数10】
以上のような関係を有するようにプリズム部6の長さw,t,Lを定めることにより、X線屈折素子1の加工精度及び上記エネルギーを有するX線の透過率を高く保持しつつ所望の焦点距離を得ることができる。なお、長さLは上述の通り、プリズム部6において第2面4上を通過するX線の入射端から出射端までの長手方向についての長さであり、プリズム部6の寸法を直接的に規定するものではなく、プリズム部6の第2面4の長手方向の長さは、上記関係式におけるLにX線B1の直径分(2r)以上を加えた長さ以上であればよい。
【0045】
また、このときのX線B1の第1面2への入射角(プリズム部6の傾斜角)θは上記(8)式から求められる。
【0046】
以上のように求められた先端角φの範囲は、X線屈折素子1を傾斜させずに実現しようとすると(すなわち、第2面4と第3面5とのなす角度φ0が上記範囲となるようにプリズム部6を作製しようとすると)、プリズム部6の加工難度が上がり、製作が困難となる。すなわち、X線を第1面2に対して垂直に入射させたのでは、X線の焦点距離Fを30m以下にすることは困難である。従って、このような範囲の焦点距離Fを得るために、X線屈折素子1をX線の入射軸Binに対して傾斜角θだけ傾斜させる本実施形態の方法を用いることは特に有効である。
【0047】
ここで、X線屈折素子1は、X線B1の入射軸Binに対する傾斜角θを変更可能に構成されてもよい。具体的には、例えば図1に示すように、X線屈折素子1は、Z軸に平行な中心軸102を有する回転軸10に軸支されており、回動装置13によってX線屈折素子1が回転軸10の中心軸102の回りに回転可能に構成されている。なお、回転軸10は、入射するX線B1のビーム径よりX線屈折素子1のサイズが十分大きい場合には、図1に示すようにX線屈折素子1の側方にあってもよいし、中央部(後述する図8の回転軸10b参照)にあってもよい。式(6)及び式(8)より、傾斜角θと先端角φとの関係式は、次式のように表せる。
【0048】
【数11】
式(11)に示すように、傾斜角θを調整することにより、先端角φも調整可能となるため、傾斜角θを調整することにより、X線の焦点距離Fの調整を容易に行うことができる。
【0049】
また、図1及び図2に示すX線屈折システムにおいては、X線屈折素子1を1つ用い、入射X線B1を線状に集束する構成としているが、X線屈折素子1を複数(2つ)用い、入射X線B1を点状に集束する構成としてもよい。
【0050】
図8は本発明の他の実施形態に係るX線屈折方法に用いられるX線屈折システムを示す斜視図である。図8の例においては、2つのX線屈折素子1a,1bをプリズム部6a,6bの配列方向(Za,Zb軸)が略直交するように配置し、複数のX線屈折素子1a,1bのそれぞれを、第1面2a,2bがX線の入射軸Bina,Binbに対して垂直な位置(1a’,1b’で示す位置)から第2面4a,4bに垂直なZa,Zb軸回りに所定角度θa,θbだけ回動させた位置に配置している。
【0051】
上記構成により、第1のX線屈折素子1aの第1面2aに入射されたX線B1の入射軸Binaは、第1のX線屈折素子1aにおいてZa軸方向に集束されて第1の出射X線B2aとなり、当該第1の出射X線B2aによる第2のX線屈折素子1bへの入射軸Binbが、さらに、第2のX線屈折素子1bの第1面2bに入射されて、Za軸方向に加えてZb軸方向にも集束された出射軸Boutを有するX線B2bを出射する。これによりX線を点状に集束させることができる。
【0052】
本実施形態においても、入射軸Bina,Binbに対する傾斜角θa,θbを変更可能に構成されてもよい。具体的には、例えば図8に示すように、第1のX線屈折素子1aは、Za軸に平行な中心軸102aを有する回転軸10aに軸支されており、回動装置13aによって第1のX線屈折素子1aが回転軸10a回りに回転可能に構成されている。また、第2のX線屈折素子1bは、Zb軸に平行な中心軸102bを有する回転軸10bに軸支されており、回動装置13bによって第2のX線屈折素子1bが回転軸10b回りに回転可能に構成されている。回転軸10a,10bは、いずれもX線屈折素子1a,1bの側方に設けられてもよいし、中央部に設けられてもよい。これにより2つのX線屈折素子1a,1bの傾斜角θa,θbをそれぞれ個別に変化させることで、横方向及び縦方向の焦点距離を個別に調整及び変更することができる。
【0053】
なお、図8の例において第1面2a,2bからX線を出射させてもよく、この場合には点X線源から発散するX線を二次元的に平行化することができる。
【0054】
また、X線屈折素子1を、X線B1入射時において第2面4の長手方向に移動させてもよい。図9は図1に示すX線屈折システムのX線屈折素子の変形例を示す斜視図である。
【0055】
図9に示す例におけるX線屈折素子11が図1に示すX線屈折素子1と異なるのは、X線屈折素子11の長手方向(Y軸及びZ軸にともに垂直なV軸方向)に十分長く、当該V軸方向に往復動可能とされていることである。具体的には、X線屈折素子11は、V軸方向に2(L+2r)以上の長さを有しており、把持部材12に固定されている。把持部材12は、駆動装置14によりV軸方向に往復動されるように構成されている。従って、把持部材12が駆動装置14によりV軸方向に往復動されることにより、X線屈折素子11がV軸方向に往復動される。
【0056】
特に、X線屈折素子11がアクリル等の樹脂材料から形成される場合、X線屈折素子11にX線が照射され続けると溶解等により劣化する場合がある。一般に、X線の照射によりX線屈折素子11を構成する材料の溶解は、X線の照射量(時間あたりのX線量×時間)が所定のしきい値を超えることにより生じる。すなわち、しきい値を超える前に当該部分へのX線照射を止めれば、溶解は生じないと考えられる。そこで、上記構成において、X線屈折素子11のある部分にX線を照射している時間がX線の照射量に関するしきい値を超える前に、X線屈折素子11をV軸方向に移動させてX線屈折素子11におけるX線の照射箇所を変更することにより、X線屈折素子11のX線照射による溶解を有効に防止することができる。このような構成は、入射X線の光子束密度(photons/s/mm2)が1011程度以上である場合に、特に有効である。
【0057】
なお、X線屈折素子11を移動させる態様は、連続的に(常時)移動させる態様であってもよいし、非連続的に移動させる(複数のX線照射部毎に停止及び移動を繰り返す)態様であってもよい。また、移動させるタイミングは、X線屈折素子11の材料とX線量(X線の輝度)に応じて適宜好適に設定される。
【実施例】
【0058】
図3に示すようなX線屈折素子1を設計、作製し、放射光X線を用いるビームラインにおいて性能評価実験を行った。X線屈折素子1は、アクリル製とし、X線屈折素子1において、プリズム部6の全幅(2r)が1mm、第2面4と第3面5とのなす角度φ0が22.4°〜82.0°(集束中心面101から遠いプリズム部6になるほど角度が小さくなるように段階的に設定されている)、傾斜角θが80.5°となるように設計、製作した。このときの最小先端角φは3.61°であり、偏向角αは0.00243°であり、焦点距離Fは12.7mである。
【0059】
図10は本実施例において用いたX線屈折素子の電子顕微鏡写真である。図10(a)は概要図であり、図10(b)は図10(a)の領域VIIIaを示す部分拡大図である。図10に示すように本実施例のX線屈折素子においては、良好なプリズムアレイ構造が形成されている。
【0060】
まず、このようなX線屈折素子1の配置の前後でX線屈折素子1を通過した後のX線が集束されているかどうかをX線カメラにより撮像したX線のビーム径を比較することにより確認した。
【0061】
図11は本実施例のX線屈折素子の適用前後において、X線が集束状態を確認するためのX線のビーム径についてのX線カメラ像を示す図である。図11(a)はX線屈折素子から16m後方におけるビーム径を示し、図11(b)はX線屈折素子を適用しない場合のビーム径(比較例)を示している。本実施例においては図1に示すX線屈折システムと同様に、X線屈折素子1を1つ用いた構成であるため、図11(a)に示すように、X線屈折素子を適用しない場合の図11(b)に比較して縦方向の集束(上下が扁平になり明るさが増加)が確認できた。
【0062】
次に、本実施例のX線屈折素子1を図3に示す傾斜角θを変化させながら集束されたX線のピーク強度とサイズ(半値全幅)を測定した。ピーク強度が高いほどX線がよく集束されていることを示し、サイズが小さいほどX線がよく集束されていることを示す。従って、ピーク強度をサイズ(半値全幅)で除した指標が大きいほどX線がよく集束されていることを示すこととなる。
【0063】
図12は本実施例のX線屈折素子の傾斜角に対するピーク強度/半値全幅を示すグラフである。図12に示すように、傾斜角θが設計値の80.5°近傍で集束特性が最も良好となることが確認できた。
【0064】
続いて、本実施例のX線屈折素子1の集束位置(傾斜角θは80.5°)におけるX線のビームプロファイルを測定し、評価した。
【0065】
図13は本実施例のX線屈折素子の適用前後におけるX線のビームプロファイルを示すグラフである。ビームプロファイルの測定においては、所定のスリットにX線屈折素子1によるX線の集束後のビームを入射し、当該スリットの位置に対するX線のビームの強度を測定した。比較例としてX線屈折素子1を適用しない場合のX線をスリットに入射させた場合のX線のビームの強度もあわせて測定した。
【0066】
図13に示すように、X線屈折素子1により集束されたX線のビームの強度における半値全幅(約80μm)内の全強度をX線屈折素子1を適用しない場合と比較すると、X線屈折素子1により集束されたX線のビームの強度の利得はX線屈折素子1を適用しない場合に比べて3.6倍となった。X線追跡による計算値(5.3倍)には及ばないものの、近い値となり、良好な集束特性が得られた。
【0067】
さらに、図11に示すビーム形状(断面形状)を測定した。X線屈折素子1を適用する前のX線のビーム形状は、略楕円形であり、縦方向における最長の長さが730μm、横方向における最長の長さが550μmであったのに対し、X線屈折素子1を適用した後のX線のビーム形状は縦方向における最長の長さが80μm、横方向における最長の長さが600μmとなった。この結果より、X線のビームの断面積で規格化したX線の強度(X線密度)の利得は、X線屈折素子1の適用前に比べて5.6倍となった。1次元(縦方向)のみの集束で5.6倍の強度利得が得られる結果となったため、図8に示すようなX線屈折素子を交差配置することによる2次元の集束を行えば、20〜30倍程度の強度利得が得られるものと推察できる。
【0068】
以上のとおり、本実施例のX線屈折素子1をX線に適用することにより、有効な集束ビームが得られることが実証された。
【0069】
さらに、光子束密度が6×1011(photons/s/mm2)であるX線をX線屈折素子1に照射して照射時間に対するX線屈折素子1により集束されたX線のビーム強度の変化を測定した。
【0070】
図14は本実施例のX線屈折素子1にX線を照射した場合の照射時間に対するX線屈折素子により集束されたX線のビーム強度の測定値を示すグラフである。本実験においては図9に示すようなX線屈折素子をV軸方向に往復動可能な構成(X線屈折素子のV軸方向の長さを25mmとする)を用いて、図14に示すように、X線屈折素子を固定した状態でX線を照射し続けた場合と、X線屈折素子を往復動させた状態でX線を照射し続けた場合とを比較した。X線の光子束密度が6×1011程度の比較的高いX線を用いた場合においては、X線屈折素子を固定した状態でX線を照射すると、105分後にX線屈折素子を通過後のX線のピーク強度が60%にまで減少してしまった。これは、事後の観察により、X線の照射によるX線屈折素子のプリズム部の変成(溶解)が原因であることが確認された。これに対し、X線の照射中にX線屈折素子を往復動させた場合、X線の照射から約12時間が経過した後もX線屈折素子を通過後のX線のピーク強度が十分に保たれていることが確認された。この実験結果に基づいて、X線屈折素子を往復動させた場合のX線のピーク強度変化について減少指数関数により補間処理演算を行ったところ、48時間経過後でも約89%のピーク強度が得られることが推察される結果となった。一般的に、放射光施設での実験が24時間単位で行われるため、X線の輝度が高い場合であっても、X線屈折素子を往復動させることにより放射光X線の実験に十分耐え得る耐放射線性能が得られることが分かった。さらに、X線屈折素子のV軸方向の長さをより長くすることにより(機械加工で切り出して作製するためV軸方向の長さを長くすることは比較的容易である)、耐用時間を長くすることは容易に実現できるものと推察される。
【0071】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更、修正が可能である。
【0072】
例えば、上記実施形態においては複数のプリズム部6の第2面4の基端及び先端の位置を全てのプリズム部6において一定にしたが、入射するX線B1を集束可能な限り、これらを個々のプリズム部6毎に違えてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のX線屈折方法は、簡単な構成で、ビームラインの方向をほとんど変えずに、X線の吸収による減衰を抑えながら、X線を集束又は平行化するために有用である。
【符号の説明】
【0074】
1,1a,1b,11 X線屈折素子
2 第1面
3 屈折部
4,4a,4b 第2面
5 第3面
6,6a,6b プリズム部
7a,7b プリズムアレイ
8 基板部
10,10a,10b 回転軸
12 把持部材
13,13a,13b 回動装置
14 駆動装置
100 X線源
B1 放射光X線
B2,B2a,B2b 集束されたX線
Bin,Bina,Binb X線の入射軸
Bout X線の出射軸
F 焦点距離
L プリズム部において第2面上を通過するX線の入射端から出射端までの長手方向についての長さ
r X線屈折素子に入射されるX線の中央部からの距離
t プリズム部の最大厚さ
<T> X線の平均透過率
w プリズム部の最大幅
α 偏向角
σin プリズム部の境界面における内部から外部への入射角
σout 屈折角
φ 先端角
φ0,φ0a,φ0b 第2面と第3面とのなす角
θ,θa,θb 傾斜角
θ’ 第1面における屈折角
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を集束又は平行化するためのX線屈折方法であって、X線が入射又は出射する第1面と、前記第1面から離れた位置から当該第1面の反対側へ前記第1面に垂直にかつ互いに平行に延びる複数の第2面及び各前記第2面の先端からその内側に隣り合う他の第2面の基端に至るように延びる複数の第3面を有し、前記第2面の基端を通り前記第1面に平行な面、前記第2面及び前記第3面により規定される複数のプリズム部を有する屈折部と、を備えたX線屈折素子を、前記第1面がX線の入射又は出射軸に対して垂直な角度位置から前記第2面に垂直な軸の回りに所定角度回転した位置に配置する、X線屈折方法。
【請求項2】
前記プリズム部が以下の関係式(1)を満たすように前記X線屈折素子を作製し、前記第1面のX線の入射又は出射軸に対する傾斜角θが以下の関係式(2)を満たすように前記X線屈折素子を配置する、請求項1に記載のX線屈折方法。
【数1】
ここで、φは、プリズム部の内部から外部への境界面(第3面)への斜入射角であり、wは、前記第2面及び前記第3面の基端部間の長さであり、tは、前記第2面の基端部と先端部との間の長さであり、Lは、前記プリズム部において第2面上を通過するX線の入射端から出射端までの長手方向についての長さであり、n1は、前記X線屈折素子の屈折率の実数部である。
【請求項3】
前記X線屈折素子は、前記第1面のX線の入射又は出射軸に対する傾斜角を変更可能に構成される、請求項1又は2に記載のX線屈折方法。
【請求項4】
複数の前記X線屈折素子を前記プリズム部の配列方向が略直交するように配置し、前記複数のX線屈折素子のそれぞれを、前記第1面がX線の入射又は出射軸に対して垂直な位置から前記第2面に垂直な軸回りに所定角度回動させた位置に配置する、請求項1から3の何れかに記載のX線屈折方法。
【請求項5】
前記X線屈折素子を、X線入射時において前記第2面の長手方向に移動させる、請求項1から4の何れかに記載のX線屈折方法。
【請求項1】
X線を集束又は平行化するためのX線屈折方法であって、X線が入射又は出射する第1面と、前記第1面から離れた位置から当該第1面の反対側へ前記第1面に垂直にかつ互いに平行に延びる複数の第2面及び各前記第2面の先端からその内側に隣り合う他の第2面の基端に至るように延びる複数の第3面を有し、前記第2面の基端を通り前記第1面に平行な面、前記第2面及び前記第3面により規定される複数のプリズム部を有する屈折部と、を備えたX線屈折素子を、前記第1面がX線の入射又は出射軸に対して垂直な角度位置から前記第2面に垂直な軸の回りに所定角度回転した位置に配置する、X線屈折方法。
【請求項2】
前記プリズム部が以下の関係式(1)を満たすように前記X線屈折素子を作製し、前記第1面のX線の入射又は出射軸に対する傾斜角θが以下の関係式(2)を満たすように前記X線屈折素子を配置する、請求項1に記載のX線屈折方法。
【数1】
ここで、φは、プリズム部の内部から外部への境界面(第3面)への斜入射角であり、wは、前記第2面及び前記第3面の基端部間の長さであり、tは、前記第2面の基端部と先端部との間の長さであり、Lは、前記プリズム部において第2面上を通過するX線の入射端から出射端までの長手方向についての長さであり、n1は、前記X線屈折素子の屈折率の実数部である。
【請求項3】
前記X線屈折素子は、前記第1面のX線の入射又は出射軸に対する傾斜角を変更可能に構成される、請求項1又は2に記載のX線屈折方法。
【請求項4】
複数の前記X線屈折素子を前記プリズム部の配列方向が略直交するように配置し、前記複数のX線屈折素子のそれぞれを、前記第1面がX線の入射又は出射軸に対して垂直な位置から前記第2面に垂直な軸回りに所定角度回動させた位置に配置する、請求項1から3の何れかに記載のX線屈折方法。
【請求項5】
前記X線屈折素子を、X線入射時において前記第2面の長手方向に移動させる、請求項1から4の何れかに記載のX線屈折方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図12】
【図13】
【図14】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図6】
【図7】
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【図9】
【図12】
【図13】
【図14】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−227057(P2011−227057A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34166(P2011−34166)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【Fターム(参考)】
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