X線撮像装置及びX線撮像方法
【課題】被写体によって生じた集光X線ビームの屈折角を高い分解能でかつ短時間で検出可能とし、高い空間分解能で被写体を観察できるX線撮像装置を提供する。
【解決手段】集光X線ビームの角度分布の端が回折条件を満たすように入射角を調整した結晶のX線回折を利用して、被写体によって生じた集光X線ビームの屈折角を検出する。
【解決手段】集光X線ビームの角度分布の端が回折条件を満たすように入射角を調整した結晶のX線回折を利用して、被写体によって生じた集光X線ビームの屈折角を検出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線撮像装置及びX線撮像方法に係わり、特に、集光したX線ビームを用いて物体の内部を非破壊に検査するのに適したX線撮像装置及びX線撮像方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線は物質に対して透過能が非常に高く、被写体内部の構造や組成等を非破壊で測定・検査する方法として、医療診断から空港のセキュリティーチェックに至る様々な分野で広く利用されている。このうち、もっとも単純な測定方法は、X線を発生するX線源とX線を検出するX線フィルムなどの間に被写体を設置し、被写体の設置によって生じたX線の強度変化を検出する方法で、吸収コントラスト型X線イメージング、或いは一般にはレントゲンという名称で呼ばれている。
【0003】
このイメージング法は、原理や装置が単純なこともあり比較的高い空間分解能が必要とされる測定や検査にも利用されているが、使用するX線フィルムなどの検出器の性能によって、その空間分解能は主に決定されてしまうため、高々数ミクロン程度であり、X線の波長(サブサブnm)から期待される空間分解能(回折限界)にはほど遠い値となっている。このため、より高い空間分解能を実現するために、X線を何らかの素子によって集光して被写体上をスキャンする方法など、様々な方法がこれまでに研究・開発されてきている。
【0004】
そして、現在のところ、集光光学素子として回折現象を利用したゾーンプレートや、全反射を利用した球面や楕円面ミラーを用いて、0.1ミクロン以下の空間分解能が実現されつつある。
【0005】
しかし、空間分解能の向上に伴って、被写体のサイズもより小さくなる傾向にあり、このためX線が被写体によってほとんど吸収されず、像コントラストの元になる「強度の変化」が極僅かで正常に観察することが難しくなってきている。この問題の解決策として、吸収のより大きな低エネルギーX線の利用や、露光時間の延長なども行われているが、この場合、X線照射による損傷が新たな問題となってくる。そこで、この問題の根本的な解決策として、X線の「位相」情報を利用する方法が注目を集めている。
【0006】
このようなX線撮像に関する技術は、例えば、特許文献1、2、非特許文献1、2に開示されている。
【0007】
X線は電磁波の一種であり,可視光と同様に「振幅」と「位相」という主に二つの物理量を持っている。従って,X線がサンプルを透過する際に,従来から利用していた吸収による「強度の変化」のほかに,「位相の変化」(「位相シフト」)も同時に生じる。硬X線領域において,この位相シフトを与える散乱断面積は,吸収を与える散乱断面積に比べて軽元素に対して約1000倍大きいという特徴がある(特許文献2の段落[0003]参照)。したがって、画像のコントラストとして,従来の「強度の変化」の代わりに「位相シフト」を利用することにより、上記問題が解決できると期待されている。
【0008】
ところが、位相シフトを直接的に検出することは不可能であるため、なんらかの方法を用いて、位相シフトを検出可能な強度に変換することが必要になる。
【0009】
高い空間分解能の実現に必要な集光X線ビームの場合、ビームは発散ビームであるために、イメージングで一般的に利用されている平行X線ビームを用いた特許文献1に記載された方法などをそのままでは利用することができない。そのため、これまでのところ被写体によるX線の屈折から間接的に位相シフトを検出する下記の方法が採用されているだけである。
【0010】
X線が空間的な密度差を持った被写体を透過すると、可視光と同様に極僅かではあるが屈折される。この屈折によるX線の角度のずれ(屈折角θ)は、被写体によって生じた位相シフトの空間的な勾配(dp/dx)を用いて、次式(1)で与えられる。
【0011】
【数1】
したがって、屈折角を検出することによって位相シフトの勾配を求めることができる。さらに集光X線ビームに対して、被写体を走査し、各位置で得られた位相シフトの勾配値を積分計算することによって、被写体の密度にほぼ比例した量である位相シフトを取得することができる。
【0012】
【特許文献1】特開平4−348262号公報
【特許文献2】特開平9−187455号公報
【非特許文献1】高エネルギー加速器研究機構 PF 将来計画に関する研究会2「走査顕微鏡光学系を利用した位相計測」,2005
【非特許文献2】Japanese Journal of Applied Physics Vol. 43, No. 11A, 2004, pp. L 1449
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
集光X線ビーム方式において、被写体によって生じたX線の屈折角θは、従来は具体的には以下の2つの方法で検出されている。第1の方法は、非特許文献1に開示されたように、被写体の下流に設置した高空間分解能のX線画像検出器を用いるものであり、被写体を透過したX線ビームを観察し、その位置のずれを直接的に検出する方法である。この方法において、画像検出器上のX線ビームの位置ずれΔxは、被写体と検出器との距離lと屈折角θに依存し、次式(2)で与えられる。
【0014】
【数2】
したがって、lが長いほど位置ずれΔxが大きくなるために検出可能な角度分解能は向上することになる。しかし、一方でX線ビーム自身の広がりや空気の吸収によって、X線ビームの強度が低下してしまい長い露光時間が必要になる。また、一般に取得したX線ビームの画像の転送には長い時間が必要で、全体の測定時間も長くなってしまうという問題もある。
【0015】
第2の方法として、非特許文献2に開示されたものは、被写体を透過したX線をくさび形の吸収材に入射し、透過したX線ビームの強度をシンチレーションカウンターなどの面分解能のない高速・高感度なX線検出器で測定する方法である。この方法では、第1の方法のような問題はないが、角度分解能が使用するくさびの形状などの影響を受けやすく、また、分解能を向上するために、X線ビームの入射角度を浅くしすぎると、くさびの表面で全反射を起こしてしまい正常に測定ができなくなるという問題がある。
【0016】
一方、集光したX線ビームではなく、集光しない平行な面状のビームの屈折角θを検出する方法としては、特許文献2に記載されたX線の回折現象を利用した方法(屈折コントラスト法、Diffraction enhanced imaging: DEI)などがある。
【0017】
X線の回折現象(X線回折)とは、結晶に対するX線の入射角θBがブラッグの回折条件(3)を満たしたときに、X線が結晶格子面によって反射される現象のことである。
【0018】
【数3】
ここで、λはX線の波長、dは回折を生じる格子面の間隔である。なお、入射したX線と回折されたX線が結晶面の同じ側にある場合はブラッグケース、別の側にある場合はラウエケースと呼ばれる。
【0019】
ブラッグケースのX線回折において、入射するX線が完全に平行なビームの場合、回折されたX線の強度Igは動力学的な回折理論により、次式(4)で与えられる。
【0020】
【数4】
ここでは、結晶によるX線の吸収は無視した。また、Ioは入射X線強度で、Wは次式(5)で与えられる変数である。
【0021】
【数5】
dθはブラッグ角からのずれ、χgは電気感受率であるので、Igは入射角θBのブラッグ角からのずれdθに依存した量になる。
【0022】
式(5)に基づいて、シリコン結晶の格子面(220)によるIgを計算した結果を図25に示す。横軸が入射角θBのブラッグ角からのずれ、縦軸が回折されたX線の強度である。X線のエネルギーは35keV、結晶の厚さは1mmである。
【0023】
入射X線が完全に平行なビームの場合は、ビームの角度広がりは0であるために、図26に示したように入射X線ビームは1本の線で表される。このために、入射角がブラッグ角近傍の±3μrad(W<±1)となる場合のみX線は回折され、結晶は高感度な角度アナライザーとして動作することになる。以上により、非常に感度よく被写体による屈折角を検出することができる。しかし、ここでは平行X線ビームを利用しているために、空間分解能はX線フィルムなどX線検出器の空間分解能などに依存し、最高で数ミクロン程度という問題があった。
【0024】
また、この方法を本発明で利用を想定している集光X線ビームに適用する場合、集光X線ビームは平行ではなくある程度の広がり(角度幅)を持った発散ビームであるため、以下に詳細を示す問題が生じる。
【0025】
図27に、入射X線として発散ビームを採用した場合の、ロッキングカーブ(各結晶角度における回折X線ビームの強度)、集光X線ビームの角度分布、及び回折される集光X線ビームの関係を示す。また、図28に、図27の状態から集光X線ビームの角度分布が被写体の屈折によって変化した状態を示す。
【0026】
図27に示すように、集光X線ビームを結晶にそのまま入射しただけでは、ビームが角度広がりを持っているため(回折角度幅<ビーム広がり)、回折条件を満たすすべての角度でX線ビームが回折される。図28に示すように、被写体の屈折によりX線ビームの角度が極僅かに変化しただけでは、回折条件を満たすすべての角度のX線が図27と同じように存在する。このため、回折X線の強度はほとんど変化しないことになり、角度の変化を検出することはできない。
【0027】
以上をまとめると、高い空間分解能を達成するためには集光したX線ビームの利用が必要であるが、被写体によって生じた集光X線ビームの屈折角を分解能よく短い時間に測定することは難しいという問題があった。一方、平行X線ビームでは、屈折角を分解能よく検出することはできるが、空間分解能を高くすることができないという問題があった。
【0028】
本発明の目的は、被写体によって生じた集光X線ビームの屈折角を高い分解能でかつ短時間で検出可能とし、高い空間分解能で被写体を観察できるX線撮像装置及びX線撮像方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明では、以下に詳細を示すように、被写体を透過した際に生じた集光X線ビームの屈折角を、X線の回折現象を利用して検出することによって、上記の問題を解決する。
【0030】
図1、図2により、本発明の基本概念を説明する。
図1は、本発明の思想に基き、結晶の角度を集光X線ビームの角度分布の端が回折条件を満たすように調整した場合における、ロッキングカーブ、集光X線ビームの角度分布、及び回折される集光X線ビームを示す図である。
【0031】
本発明では、図2に示したX線撮像装置の模式図おける集光X線ビームの角度を調整し、結晶の角度θcを入射するX線ビームの角度分布の端が図1に示すような回折条件を満たすように設定する。これにより、円錐体の束状に発散しているビーム角度のうち、「端の角度」に位置するビームのみが結晶で回折されるようにする。換言すると、X線ビームの角度分布の端(角度θo)を、図1において入射角θBのずれが0度の位置になるように、結晶の角度θcを調整する。ここで、ビームの端の角度θoは高角側(θoH,図2の実線)で調整してもよいし、低角側(θoL,図2の破線)で調整してもよい。
【0032】
なお、円錐体の束状に発散したビームの強度は、微視的には、端の部分であっても連続的に変化している。そこで、本発明では、X線ビームの角度分布の端を、「ビームの角度発散プロファイルの微分値が実質的に最大または最小となる角度」と定義する。例えば、ビーム角度発散プロファイルが図3に示すガウス分布や図4に示す矩形分布(デルタ関数)では、夫々微分値が最大または最小、換言すると矢印で示したようにピーク値の半分となる値の角度が、端の角度θoである。端の角度θoは、厳密に微分値が最大または最小の位置でなくても良く、強度の変化の大きな範囲、換言すると実質的に最大または最小値若しくはその近傍にあれば良い。
【0033】
なお、X線撮像装置の特性の差により、ビーム角度発散プロファイルが図3、図4に示したもの以外のプロファイルである場合でも、同様に、そのプロファイルの端近傍でかつ強度の変化率の大きい位置を「X線ビームの角度分布の端」とすることができる。一方、ビームのプロファイルの端近傍であっても、強度の変化率がごく小さい外側の縁等は、X線ビームの角度変化を検出し難くなるので、結晶の角度θcの初期設定値には適さない。
【0034】
このようにして、本発明では、結晶の角度θcを、入射するX線ビームの角度分布の端が回折条件を満たすように調整する。
【0035】
図5Aは、本発明において、被写体を設置した状態でのロッキングカーブ、集光X線ビームの角度分布、及び回折される集光X線ビームの変化を示す図である。図5Bは、本発明における集光X線ビームの角度変化と回折X線の強度変化の関係を示す図であり、
本発明によれば、図5Aに示すように、入射するX線の角度が極僅か(Δθ)でも変化すると、図5Bに示すように、ほぼ比例して結晶により回折されたX線ビームの強度変化となって現れることになる。すなわち、Δθに相当する量だけ、回折されたX線ビームの端の位置も、入射角θBのずれが0度の位置から移動する。したがって、高い感度で入射するX線ビームの角度変化(屈折角)を検出することが可能になる。
【0036】
次に、結晶の表面と回折を生じる格子面(回折格子面)が非平行な結晶(非対称結晶)を用いる場合について考えてみる。この非対称結晶によるX線回折では、非対称の角度によって、回折を生じる角度幅は入射側と出射側で異なった値になる。結晶表面と回折格子面のなす角度をαとしたとき、非対称度bは次式(6)で与えられ、
【0037】
【数6】
入射側の回折を生じる角度幅ωoは次式(7)、
【0038】
【数7】
出射側の角度幅ωgは次式(8)となる。
【0039】
【数8】
ここで、ωsはb=1(非対称角α=0,対称結晶)における回折角度幅である。したがって、b<1となる非対称結晶を用いることによって、入射側の回折角度幅を対称結晶に比べて拡大することができ、より広い角度幅のX線を回折することができる。したがって、より強い回折ビーム強度を確保し、短い測定時間で、高いS/Nで測定することが可能になる。
【0040】
次に、ラウエケースのX線回折を用いた場合について考えてみる。ラウエケースのX線回折では、図6に示したように、入射したX線は透過と回折の2本のX線ビームに分割される。入射X線ビームが完全な平行ビームの場合、回折及び透過X線ビームの強度IgとIhは動力学的な回折理論により、各々、次式(9)、(10)で与えられる。
【0041】
【数9】
【0042】
【数10】
ここでは、結晶によるX線の吸収は無視した。
【0043】
図7は、ラウエケースにおける回折X線と透過X線の強度(ロッキングカーブ=X線の強度の、結晶面の入射ビームに対する角度依存性)の計算例を示す図である。図8は、従来方式における、ラウエケースにおけるロッキングカーブ、集光X線ビームの角度分布、及び回折される集光X線ビームを示す図である。さらに、図9は、本発明の方式に基いて、結晶の角度を集光X線ビームの角度分布の端が回折条件を満たすように調整した場合におけるロッキングカーブ、集光X線ビームの角度分布、及び回折される集光X線ビームを示す図である。
【0044】
すなわち、図7には、図25と同じ条件(Si(220),エネルギー35 KeV、結晶厚1 mm)における各回折強度の曲線を計算した結果を示す。Igは回折X線ビームの強度、Ihは透過X線ビームの強度を示している。
【0045】
入射X線が完全な平行ビームの場合、ブラッグケースと同様に(図26参照)、ビームの角度広がりは0であり、図7において線で表されるために、結晶は分解能の高い角度アナライザーとして動作する。
【0046】
しかし前述したように、本発明の対象となる集光したX線ビームは、平行ではなく発散ビームであるため、集光ビームを結晶にそのまま入射しただけでは、図8に示すように回折条件を満たした一部の角度群のX線ビームが回折されることになり、集光したX線ビームの角度広がりのため、被写体による屈折角を検出することができない。
【0047】
そこで、ブラッグケースと同様に、本発明の方式に基き、図9に示すように結晶の角度を入射するX線ビームの角度分布の端が回折条件を満たすように調整し、発散している角度のうち、端の角度のビームのみが回折されるようにする。これにより、入射するX線の角度が極僅かでも変化すれば、ほぼ比例して回折されたX線ビームの強度変化となって現れるので、高い感度で入射するX線ビームの角度変化(屈折角)を検出することが可能となる。さらに、ラウエケースの場合、回折されなかったX線は透過して結晶から出射してくるので、このビーム強度を同時に検出することによって、被写体による強度の吸収も同時に測定することが可能になる。
【0048】
次に、X線の同時反射を利用した場合について考えてみる。図10は、ブラッグケースのX線回折における入射X線と回折X線の関係を示す図、図11は、(lmn)面と(pqr)面の回折条件を示す図、図12は、同時反射のX線回折における入射X線と回折X線の関係を示す図である。上述したブラッグやラウエケースのX線回折の場合、結晶が角度アナライザーとして動作するのは、入射X線と回折ベクトルがなす面内(図10のx−y面)だけである。このため、z方向の屈折角を検出することはできなかった。X線の同時反射とは、入射したX線が複数の格子面の回折条件を同時に満たした場合に生じる回折現象のことで、同時反射の回折格子面が互いに非平行なとき、X線の入射角(θとφ回転)が図11に示す2つの格子面((lmn)と(pqr))の回折条件を同時に満足している(中心部の重なった領域)と、非平行な複数の回折X線ビームに分割される(図12)。したがって、分割された各X線ビームの強度(I1及びI2)を検出することによって、2方向の角度の変化を検出することができる。
【0049】
前述したように、集光したX線ビームは平行ではなく発散ビームである。このため、ここでも上記と同じような結晶の角度設定を行う。すなわち、結晶の角度(θとφ回転)を、入射するX線ビームの角度分布の端の角度が同時反射の条件を満たすように調整する。これにより、入射するX線の角度が極僅かでも変化すると、同時反射された両方のX線ビームの強度変化となって現れる。具体的には、結晶の角度θが変化するとI1とI2双方のX線強度が同時に増加或いは減少し、φが変化するとX線ビームの強度I1が増加(減少)し、I2が減少(増加)することになる。したがって、双方のX線の強度変化から高い感度で入射するX線ビームの角度変化(屈折角)を2方向について検出することができる。
【0050】
以上から、集光したX線ビームの被写体による屈折角度を高い角度分解能で検出することが可能で、サブミクロン以下の高い空間分解能、かつ高い密度分解能で被写体内部を非破壊で観察することが可能となる。
【0051】
本発明の代表的なものの一例を示せば以下の通りである。即ち、本発明のX線撮像装置は、X線源から放出されたX線ビームを集光する集光素子と、集光した前記X線ビームに対して被写体を位置決めする手段と、前記X線ビームを回折する単結晶と、前記X線ビームに対して単結晶の角度を調整する角度調整機構と、回折された前記X線ビームの強度を検出する検出器と、制御部とを備え、前記制御部は、入射する前記集光X線ビームの角度分布の端がブラッグの回折条件を満たすように前記X線ビームに対して前記単結晶の角度を調整する角度設定機能を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0052】
本発明によれば、集光したX線ビームの屈折角を高い角度分解能で検出することが可能となるので、高い空間分解能、かつ高い密度分解能で被写体内部を非破壊で観察することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下、図面を用いて本発明の実施例について説明する。以下に示す図において、同じ機能を有する部分には同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
【実施例1】
【0054】
図13〜図19により、本発明の第一の実施例を説明する。まず、図13は、本発明で使用するX線撮像装置の一例の構成図である。図13に示すように、本X線撮像装置は、X線源1、X線源から放出されたX線ビームを集光するX線集光素子2、被写体を保持する被写体ホルダー3、集光したX線ビームに対して被写体を位置決めする被写体位置決め機構4、被写体を透過したX線ビームの強度を検出する透過型第1X線強度検出器5、第1検出器5を透過したX線ビームを回折する結晶(単結晶)6、結晶ホルダー7、結晶6の角度を調整する結晶ホルダー位置決め機構8、回折されたX線ビームの強度を検出する第2X線検出器9、制御部10、処理部11及び表示装置12から構成される。制御部10は、入射する集光X線ビームの角度分布の端がブラッグの回折条件を満たすようにX線ビームに対して結晶6の角度を調整する角度設定ユニット100を備えている。角度設定ユニット100は、結晶ホルダー位置決め機構8を制御して、結晶6の角度θcを調整する(初期設定)機能を有する。制御部10は、さらに、結晶6の角度が調整された状態で、被写体位置決め機構4を制御して、第1及び第2検出器により、被写体の各位置におけるX線ビームの強度を検出する機能を備えている。処理部11は、検出されたX線ビームの強度から演算により被写体の2次元像を得る演算処理機能を備えている。
【0055】
すなわち、X線源1から放射されたX線13は、X線集光素子位置調整機構14で位置決めされたX線集光素子2によって集光されて集光X線ビーム15となり、被写体ホルダー3で保持され、被写体位置決め機構4によって位置決めされた被写体16に照射される。被写体を透過したX線17は、透過型の第1X線検出器5を透過した後に、結晶ホルダー7で保持され、結晶ホルダー位置決め機構8で入射角度を調整(初期設定)された結晶6に入射する。結晶によって回折されたX線18は、第2X線検出器9で検出される。制御部10では、被写体位置決め機構4を制御して、被写体の各位置に集光したX線ビームを順次照射し、そのときのX線の各強度を第1及び第2X線検出器で取得する。そして、処理部11において、取得した強度に基づいて被写体の像(位相マップ)を算出し、算出した像を表示部12で表示する。
【0056】
次に、結晶角度調整ユニット100による結晶6の角度の初期設定について、図14〜図15を参照しながら説明する。結晶角度調整ユニット100は、被写体を設置しない状態での回折X線の強度を求め、入射するX線ビームの角度分布の端がブラッグの回折条件を満たすようにX線ビームに対して単結晶の角度θcを調整する機能を有している。図14は、結晶の角度の初期設定の手順を示すフローチャート図であり、図15は、このX線撮像装置において、結晶を回転し各角度で回折X線強度Iを測定することで得られたデータを示す図である。
【0057】
はじめに、被写体を設置しない状態で、X線源1から放射されたX線ビーム13の集光状態を調整する。調整は、集光素子2のX線ビームに対する相対的な位置や角度などをX線集光素子位置調整機構14により適宜変化させ、被写体位置におけるX線ビームが最小となるようにする。なお、集光状態(ビーム形状)の確認は、鉛やタンタルの刃などで構成されたナイフエッジを被写体位置で走査し、得られた透過X線ビームの強度変化などを用いて行えばよい。
【0058】
次に、回折用の結晶6を設置して、結晶角度調整ユニット100により結晶ホルダー位置決め機構8を制御して結晶6の角度調整を行う。結晶角度調整ユニット100による回折用の結晶6の角調整度は、図14のフローチャートに従い以下のようにしてなされる。最初に測定に必要な設定を行った後、X線ビームの測定を開始する(S140)。まず、回転機構8を制御して結晶6を回転させ、結晶6の角度を変化させる(S142)。次に、結晶6の各角度における回折X線18の強度Iを第2X線検出器9で測定する(S144)。このようにして、結晶6を所定の角度範囲にわたり順次回転させ、そのときの強度Iのデータを取得する(S146)。図15にそのデータの一例を示す。次に、得られたデータから、ビームの端の角度θoを求める。そのために、まず、得られたデータから最大強度値Imaxを演算処理により算出する(S148)。次に、回転機構8を制御して、結晶6の角度θcを、ビームの「端の角度」に位置するビームのみが結晶で回折されるように設定する(S150)。
【0059】
結晶6の角度調整の際、回折されたX線ビームの強度は図15のよう変化するので、集光X線ビームの角度分布の端と考えられる角度(図15の回折強度が実質的に半分となる角度)に結晶の角度を合わせる。
【0060】
なお、結晶6の角度θcの設定に使用する集光X線ビームの角度は高角側(θH)でもよいし、低角側(θL)でもよい。すなわち、低角側の端の場合、強度の変化は図5のようになり、強度が実質的に半分になる角度が、角度分布の端となる角度である。高角側の端の場合、強度の変化は図5とは逆、すなわち、右下がりになるが、同様に、強度が実質的に半分になる角度が角度分布の端となる角度である。
【0061】
結晶6の角度の設定(初期設定)が完了したら、次に、被写体ホルダー3で保持した被写体16を集光位置に設置し、測定を行う。結晶6の角度θcは、図14に示した手順により、X線ビームの角度分布の端が回折条件を満たすように設定してあるので、被写体16によってX線の屈折角が変化すると、回折X線18の強度も屈折角度に比例して変化する。このため、回折X線18の強度変化から屈折角を求めることができる。
【0062】
被写体16の2次元像を取得するためには、前述のように被写体位置決め機構4を用いて、被写体16の各位置にX線ビーム14を照射し、そのときの各X線の強度を第1検出器5及び第2X線検出器9で取得する。第1X線検出器5で検出したX線強度I1は被写体によるX線の吸収を示し、第2X線検出器9で検出したX線強度I2は被写体16による吸収と屈折角による変化分を含んだ値となっているので、屈折角のみを抽出するためには、X線強度I2をX線強度I1で除算すればよい。また、屈折角は被写体16の位相シフトの空間微分を表しているので、密度分布の像(位相マップ(位相シフトの空間分布像))を求めるためには、図13のy軸の方向に屈折角度を積分すればよい。最後に以上の手順により得られた像は、操作者の指示等により表示部12で表示する。
【0063】
回折に使用する結晶6にはシリコンやゲルマニウムなどの単結晶を用いる。そして回折の格子面は、使用するX線のエネルギー等に基づいて決定する。低次の回折ほど大きな回折X線強度を確保でき、測定時間を短縮できるので、基本的には低次の回折(Si(111)や(220)など)を利用するとよい。ただし、高エネルギーX線の場合、低次ではブラッグ角が小さくなるために調整が難しくなる。この場合は、高次の回折(Si(311)やSi(440)など)を利用すればよい。また、非対称結晶を用いると、入射側の角度回折幅を拡大でき、より強い回折強度を得ることができる。したがって、測定時間の短縮や高いS/Nを確保することができる。ただし、X線のエネルギーによってブラッグ角度が異なるので、使用するX線のエネルギーに適した非対称角度の結晶を用意する必要がある。
【0064】
また、図16に示すように、複数枚の結晶19及び20を組み合わせて使用することもできる。この場合、回折されたX線の強度は最終的には各結晶の回折強度曲線の積で与えられるために、図17に示すように曲線の端の傾きがより急峻になりに、より高い角度分解能でX線の屈折角を検出することができる。この複数枚の結晶あらかじめ平行に配置し共通の結晶ホルダー7’で支持すれば、1個の単結晶と同様な調整で行うことができる。
【0065】
回折用の結晶6の角度θcは、入射X線ビームの角度分布の端となるようにきわめて高い精度で調整する必要がある。また、測定中に結晶が回転ドリフトすると、正確にX線の屈折角を求められなくなってしまうため、回転ドリフトは極力抑える必要がある。そこで、結晶ホルダー位置調整機構8として、タンジェンシャルバーを用いた精密ゴニオステージを用いるのが望ましい。この機構を採用することにより、回転位置決め精度を1/100角度秒、ドリフトを1/10角度秒以下と、測定に全く支障がない精度で回転を制御することができる。
【0066】
第1X線検出器5は、X線を透過させることが必要なためイオンチャンバーやカプトン膜の散乱を利用した透過型X線検出器を用いる。イオンチャンバーはX線による気体の電作用を利用した検出器で、X線のエネルギーに依存するが、通常は90%以上のX線を透過することができる。また、カプトン膜の散乱をシンチレーションカウンターで検出する方法では、イオンチャンバーに比べてより高い感度でX線強度を検出することができるために、透過率をさらに高くすることができる。
【0067】
被写体位置決め機構4として、被写体の2次元的な位置決め(x−z面)の他に、X線ビームに対して被写体を回転させる機能を付加し、被写体の各角度で2次元像を取得するようにすれば、Computed Tomography(CT)の原理により、非破壊で被写体の断面像を取得することができる。この場合、測定は、図18のフローチャートに示したように、以下の手順で行なう。
(1) 透過像と同様な手順により、試料によって生じた屈折角θの空間的な分布、及び位相マップを求める(S180〜S184)。
(2)試料位置決め機構4に付加された回転機構により、試料をΔrだけ回転する(S186)。
(3) (1)〜(2)を必要なステップ数n(=180°/Δr)だけ繰り返す(S188〜S190)。
の手順により行う。
【0068】
そして、測定後に、各角度で得られた位相マップから位相プロジェクション像を求め、更に、フィルターバックプロジェクション法などの断面像再構成アルゴリズムにより位相プロジェクション像から位相コントラストの試料断面像を計算で再構成する。計算により得られた位相コントラスト断面像は、例えばオペレーターの指示等により、表示部12で表示する。
【0069】
X線の集光素子2として、回折を利用したフレネルゾーンプレート(FZP)や、X線の全反射を利用したミラー(集光鏡)などを用いることができる。FZPは、X線の光路に設置するだけで集光したX線ビームが簡単に得られるので、調整を非常に簡便にすることができる。しかし、X線の利用効率が低いために長い測定時間が必要で、また、使用するX線のエネルギーによって集光位置が変化するために、エネルギーを変更する都度、再調整を行う必要がある。一方、全反射ミラーは、一般には複数枚の球面或いは楕円面ミラーで構成されているため、複雑な角度及び位置調整が必要であるが、集光位置がX線のエネルギーに依存せず、また、X線の利用効率が高いために測定時間を短縮できるという特徴がある。したがって、X線エネルギーの変更頻度やエネルギースキャンの有無、及び測定時間との兼ね合いから、適した集光素子を選択すればよい。
【0070】
集光したX線の角度分布は、理想的にはガウス分布に近い形状となる。しかし、集光素子の形状エラーや調整不足等により、角度分布は一般には乱れた形状となってしまう。このため、角度分布の端も乱れた形状となっていて、被写体による屈折角を正確に検出することが難しくなる。この場合、図19に示すように第1X線検出器5と、結晶6との間にスリット21を設置して、ビームの形状及び角度分布を整形する。これにより、ビーム角度分布の端の形状も整形され、精度よく屈折角を求めることが可能となる。
【0071】
以上、本実施例によれば、集光したX線ビームの屈折角を高い角度分解能で検出することができる。このため、高い空間分解能、かつ高い密度分解能で被写体内部を非破壊で観察することできる。
【実施例2】
【0072】
実施例1では、被写体による集光X線ビームの屈折角だけを検出しているために、被写体の密度分布像しか取得することができなかった。ここでは、密度分布像に加えて、元素分布像も同時に取得可能な実施例を示す。
【0073】
図20は、本実施例によるX線撮像装置の構成を示す図である。本実施例は、実施例1の構成に加えて、被写体16から放出された散乱及び蛍光X線を検出するエネルギー分解能を有した第3X線検出器22を加えた構成となっている。被写体を設置しない状態での回折用の結晶6の角度の設定(初期設定)や、被写体を設置した状態でのX線の強度の測定は、実施例1と同様にして行なう。本実施例において、集光X線ビームが照射される被写体の領域は極小さく、散乱X線や蛍光X線もほぼ同じ領域から放出される。このために、放出されたX線の強度やエネルギーを同時に検出及び分析することによって、X線が照射されているこの小さな領域の元素情報などを同時に取得することができる。
【0074】
第3X線検出器として液体窒素冷却のGe半導体検出器(Solid State Detector, SSD)、或いはシリコンドリフト検出器(SDD)などを用いる。SSDの検出効率はそれほど高くないが、エネルギー分解能が高く、かつ高エネルギーのX線に対しても感度が高いという特徴があるので、利用するX線のエネルギーが比較的高い場合に利用する。また、SDDは検出効率が高く、かつ冷却がペルテェ素子で行えるために取り扱いが安易という特徴がある。このため、比較的エネルギーの低い蛍光X線を検出する場合に利用する。また、これら半導体型の検出器でより高い検出効率が必要な場合は、半導体検出素子が複数の多素子型の検出器を用いればよい。
【0075】
被写体に重元素等が含まれていたり、検出対象となる散乱及び蛍光X線のエネルギーが低い場合、被写体によって散乱及び蛍光X線が吸収されてしまい、疑似像(アーチファクト)が発生する場合がある。このため、第3X線検出器22は、図21に示すように被写体の吸収がより少ないと考えられるX線の入射方向か、或いは吸収が等方的と考えられる被写体上部に設置するとよい。
【0076】
測定は実施例1と同様に、集光素子2及び結晶6の調整を行った後に被写体16を設置し、被写体位置決め機構4を用いて照射位置を走査しながら、第1検出器5、第2検出器9、及び第3X線検出器22でそれぞれのX線強度を検出するという手順で行う。被写体16の密度分布像は測定後に実施例1と同様にして算出する。
【0077】
また、図22に示すように、元素分布像は、各照射位置において第3X線検出器で得られた各エネルギーのX線強度(スペクトル)と各元素(例えばA,B,C)固有の蛍光X線エネルギーを対応して求めた各元素の濃度をコントラストとして算出する。測定によって得られた各元素の濃度を示す像は、操作者の指示等により、単独に或いは密度分布像や他の元素分布像と合成して表示部12で表示する。
【0078】
被写体の断面像をCT法で取得する場合は、実施例1と同様の測定に、散乱及び蛍光X線の測定を加えて全く同様の手順で行う。そして、元素分布の断面像は、密度分布像を算出するアルゴリズムと同じアルゴリズムで算出すればよい。
【0079】
以上、本実施例によれば、集光したX線ビームの屈折角を高い角度分解能で検出することができ、かつ同時に被写体から放出された散乱及び蛍光X線も同時に測定することができる。このため、高い空間分解能、かつ高い密度分解能で被写体内部の密度分布及び元素分布を非破壊で観察することできる。
【実施例3】
【0080】
実施例1では、被写体の吸収によるX線強度の変化を透過型の第1X線検出器を用いて検出する必要があった。ここでは、ラウエケースのX線回折を利用して、結晶で回折されたX線、及び透過したX線の強度のみから、被写体の吸収によるX線強度の変化を検出できる実施例を示す。
【0081】
図23に、本実施例における装置の構成例を示す。実施例1の構成から透過型の第1X線検出器5を取り除き、代わりにラウエケースの結晶24を透過したX線の強度を検出する第4検出器23を新たに設けてある。本実施例において、被写体16を設置しない状態で、ラウエケースの結晶24の角度を、結晶位置決め機構8を用いて実施例1と同様に、集光X線ビーム17の角度分布の端の角度が回折条件を満たすように設定しておく(初期設定)。これにより、回折条件を満たした一部の集光X線が回折され、残りのX線は結晶24を透過することになる。被写体16によってX線の屈折角が変化すると、実施例1と同様に回折X線18の強度も屈折角度に比例して変化する。従って、回折X線18の強度変化から屈折角を求めることができる。
【0082】
一方、結晶を透過したX線25の強度は、集光X線ビーム17の角度分布広がりが結晶の角度幅に比べて十分に大きいので、被写体16による屈折角の変化に対してほとんど変化しない。このため、透過X線25の強度変化から被写体の吸収による強度変化を求めることができる。
【0083】
測定の手順は実施例1と同様に、被写体未設置の状態で集光素子2及び結晶24の調整を行い、被写体16を設置し、被写体位置決め機構4を用いて照射位置を走査しながら第2検出器9及び第4X線検出器23でそれぞれのX線強度を検出するという順で行う。第4X線検出器23で検出したX線強度I4は被写体16によるX線の吸収を、第2X線検出器9で検出したX線強度I2は被写体16による吸収と屈折角による変化分を含んだ値を示しているので、屈折角のみを抽出するためには、X線強度I2をI4で除算すればよい。また、屈折角は被写体16の位相シフトの空間微分を表しているので、密度分布の像(位相マップ(位相シフトの空間分布像))を求めるためには、実施例1と同様に屈折角度を積分すればよい。最後に以上の手順により得られた像は、操作者の指示等により表示部12で表示する。
【0084】
被写体16の断面像は、実施例1と同様に、被写体を集光X線ビーム14に対して回転させ、各回転角度で得られた投影像からCTの再構成アルゴリズムにより計算で求めればよい。また、元素分布像は、実施例2と同様に、エネルギー分解能を有した第3X線検出器22を被写体近傍に設置し、密度分布像の測定と同時に行えば取得することができる。
【0085】
以上、本実施例によれば、ラウエケースのX線回折を利用して、集光したX線ビームの屈折角を高い角度分解能で検出することができ、かつ同時に被写体から放出された散乱及び蛍光X線も同時に測定することができる。このため、高い空間分解能、かつ高い密度分解能で被写体内部の密度分布及び元素分布を非破壊で観察することできる。
【実施例4】
【0086】
実施例1及び3では、被写体によって生じた屈折角のうち、回折ベクトルと入射X線のなす平面内の屈折角しか検出することができなかった。ここでは、X線の同時反射を利用して、すべての方向の屈折角を検出できる実施例を示す。X線の同時反射とは、入射したX線が複数の格子面の回折条件を同時に満たしたときに生じる回折現象のことで、回折格子面が互いに非平行なとき、X線の入射角が2つの格子面の回折条件を満たすと、互いに非平行な複数の回折X線ビームに分割される。したがって、分割された各X線ビームの強度を検出することによって、2方向の屈折角の変化を検出することができる。
【0087】
図24に本実施例における装置の構成例を示す。本実施例は、実施例1の構成の第2検出器9に代えて、同時反射によって分割・形成された2本の回折X線を検出する第5検出器26及び第6X線検出器27を新たに設けてある。なお、ここでは便宜上回折X線を2本としたが、条件によっては3本以上に分割され、かつ、これらを検出するためにX線検出器も3個以上になる場合もある。
【0088】
本装置において、結晶6の角度(θ及びφ回転)を、入射するX線ビームの角度分布の端の角度が同時反射の条件を満たすように調整しておくと、入射するX線の角度が極僅かでも変化すれば、同時反射された両方のX線ビームの強度変化となって現れる。このため、両方のX線ビームの強度を検出・比較することによって、高い感度で入射するX線ビームの角度変化(屈折角)を2方向について検出することができる。
【0089】
測定の手順は実施例1と同様に、被写体未設置の状態で集光素子2及び結晶6の調整を行い(初期設定)、被写体16を設置し、被写体位置決め機構4を用いて照射位置を走査しながら第1検出器5、第5検出器26、及び第6X線検出器27でそれぞれのX線強度を検出するという順で行う。第1X線検出器5で検出したX線強度I1は被写体16によるX線の吸収を、第5検出器26および第6X線検出器27で検出したX線強度I5,I6は被写体16による吸収と屈折角による変化分を含んだ値を示しているので、屈折角のみを抽出するためには、X線強度I5及び6をX線強度I1で除算すればよい。また、屈折角は被写体の位相シフトの空間微分を表しているので、密度分布の像(位相マップ(位相シフトの空間分布像))を求めるためには、X線強度I5とI6を加算した値を実施例1と同様にy軸方向に積分するか、X線強度I5とI6の差分をとった値をz軸方向に積分すればよい。また、よりノイズの少ない像が必要な場合は、両方法で得られた像を合成すればよい。最後に以上の手順により得られた像は、操作者の指示等により表示部12で表示する。
【0090】
被写体16の断面像は、実施例1と同様に、被写体16を集光X線14に対して回転させ、各回転角度で得られた投影像からCTの再構成アルゴリズムにより計算で求めればよい。また、元素分布像は、実施例2と同様に、エネルギー分解能を有した第3X線検出器22を被写体近傍に設置し、密度分布像の測定と同時に行えば取得することができる。
【0091】
以上、本実施例によれば、同時反射のX線回折を利用して、集光したX線ビームの屈折角をすべての方向について高い角度分解能で検出することができ、かつ同時に被写体から放出された散乱及び蛍光X線も同時に測定することができる。このため、高い空間分解能、かつ高い密度分解能で被写体内部の密度分布及び元素分布を非破壊で観察することできる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の思想に基き、結晶の角度θcを集光X線ビームの角度分布の端が回折条件を満たすように調整された場合における、ロッキングカーブ、集光X線ビームの角度分布、及び回折される集光X線ビームを示す図である。
【図2】図1における「端の角度θo」の定義を説明するためのX線撮像装置の模式図である。
【図3】ビーム角度発散プロファイルがガウス分布の場合の、端の角度θoを説明する図である。
【図4】ビーム角度発散プロファイルが矩形分布(デルタ関数)の場合の、端の角度θoを説明する図である。
【図5A】本発明において、被写体を設置した状態でのロッキングカーブ、集光X線ビームの角度分布、及び回折される集光X線ビームの変化を示す図である。
【図5B】本発明における集光X線ビームの角度変化と回折X線の強度変化の関係を示す図である。
【図6】ラウエケースのX線回折におけるX線と結晶との関係を示す図である。
【図7】ラウエケースにおける回折X線と透過X線の強度の計算例(ロッキングカーブ)を示す図である。
【図8】従来方式による、ラウエケースにおけるロッキングカーブ、集光X線ビームの角度分布、及び回折される集光X線ビームの関係を示す図である。
【図9】本発明の方式により、結晶の角度を集光X線ビームの角度分布の端が回折条件を満たすように調整した場合における、ロッキングカーブ、集光X線ビームの角度分布、及び回折される集光X線ビームの関係を示す図である。
【図10】ブラッグケースのX線回折における入射X線と回折X線の関係を示す図である。
【図11】(lmn)面と(pqr)面の回折条件を示す図である。
【図12】同時反射のX線回折における入射X線と回折X線の関係を示す図である。
【図13】本発明によるX線撮像装置の実施例1の構成を示す図である。
【図14】本発明の実施例1における結晶の角度の初期設定の手順を示すフローチャート図である。
【図15】実施例1において、結晶を回転し各角度で回折X線強度Iを測定することで得られたデータを示す図である。
【図16】実施例1における複数の結晶を使用した場合の構成を示す図である。
【図17】図16における回折X線の強度の計算例(ロッキングカーブ)を示す図である。
【図18】実施例1におけるCTによる断面像を取得する測定手順を示す図である。
【図19】実施例1におけるスリットの詳細を示す図である。
【図20】本発明によるX線撮像装置の実施例2の構成を示す図である。
【図21】実施例2における第3X線検出器の設置位置を示す図である。
【図22】実施例2における各エネルギーのX線強度(スペクトル)と各元素固有の蛍光X線エネルギーを対応して求める手順、及び各元素の濃度をコントラストとして算出する手順を示す図である。
【図23】本発明によるX線撮像装置の実施例3の構成を示す図である。
【図24】本発明によるX線撮像装置の実施例4の構成を示す図である。
【図25】ブラッグケースにおける回折X線の強度の計算例(ロッキングカーブ)を示す図である。
【図26】ブラッグケースにおけるロッキングカーブと平行X線ビームの角度分布を示す図である。
【図27】ロッキングカーブ、集光X線ビームの角度分布、及び回折される集光X線ビームの関係を示す図である。
【図28】図27の状態から被写体の屈折による角度の変化が生じた場合の状態を示す図である。
【符号の説明】
【0093】
1…X線源、2…X線集光素子、3…被写体ホルダー、4…被写体位置決め機構、5…透過型第1X線強度検出器、6…結晶、7…結晶ホルダー、8…結晶ホルダー位置決め機構、9…第2X線検出器、10…制御部、11…処理部、12…表示装置、13…X線、14…X線集光素子位置調整機構、15…集光X線ビーム、16…被写体、17…被写体を透過したX線、18…回折X線、19…結晶1、20…結晶2、21…スリット、22…第3X線検出器、23…第4X線検出器、24…ラウエケースの結晶、25…透過X線、26…第5X線検出器、27…第6X線検出器、100…結晶角度調整ユニット。
【技術分野】
【0001】
本発明はX線撮像装置及びX線撮像方法に係わり、特に、集光したX線ビームを用いて物体の内部を非破壊に検査するのに適したX線撮像装置及びX線撮像方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線は物質に対して透過能が非常に高く、被写体内部の構造や組成等を非破壊で測定・検査する方法として、医療診断から空港のセキュリティーチェックに至る様々な分野で広く利用されている。このうち、もっとも単純な測定方法は、X線を発生するX線源とX線を検出するX線フィルムなどの間に被写体を設置し、被写体の設置によって生じたX線の強度変化を検出する方法で、吸収コントラスト型X線イメージング、或いは一般にはレントゲンという名称で呼ばれている。
【0003】
このイメージング法は、原理や装置が単純なこともあり比較的高い空間分解能が必要とされる測定や検査にも利用されているが、使用するX線フィルムなどの検出器の性能によって、その空間分解能は主に決定されてしまうため、高々数ミクロン程度であり、X線の波長(サブサブnm)から期待される空間分解能(回折限界)にはほど遠い値となっている。このため、より高い空間分解能を実現するために、X線を何らかの素子によって集光して被写体上をスキャンする方法など、様々な方法がこれまでに研究・開発されてきている。
【0004】
そして、現在のところ、集光光学素子として回折現象を利用したゾーンプレートや、全反射を利用した球面や楕円面ミラーを用いて、0.1ミクロン以下の空間分解能が実現されつつある。
【0005】
しかし、空間分解能の向上に伴って、被写体のサイズもより小さくなる傾向にあり、このためX線が被写体によってほとんど吸収されず、像コントラストの元になる「強度の変化」が極僅かで正常に観察することが難しくなってきている。この問題の解決策として、吸収のより大きな低エネルギーX線の利用や、露光時間の延長なども行われているが、この場合、X線照射による損傷が新たな問題となってくる。そこで、この問題の根本的な解決策として、X線の「位相」情報を利用する方法が注目を集めている。
【0006】
このようなX線撮像に関する技術は、例えば、特許文献1、2、非特許文献1、2に開示されている。
【0007】
X線は電磁波の一種であり,可視光と同様に「振幅」と「位相」という主に二つの物理量を持っている。従って,X線がサンプルを透過する際に,従来から利用していた吸収による「強度の変化」のほかに,「位相の変化」(「位相シフト」)も同時に生じる。硬X線領域において,この位相シフトを与える散乱断面積は,吸収を与える散乱断面積に比べて軽元素に対して約1000倍大きいという特徴がある(特許文献2の段落[0003]参照)。したがって、画像のコントラストとして,従来の「強度の変化」の代わりに「位相シフト」を利用することにより、上記問題が解決できると期待されている。
【0008】
ところが、位相シフトを直接的に検出することは不可能であるため、なんらかの方法を用いて、位相シフトを検出可能な強度に変換することが必要になる。
【0009】
高い空間分解能の実現に必要な集光X線ビームの場合、ビームは発散ビームであるために、イメージングで一般的に利用されている平行X線ビームを用いた特許文献1に記載された方法などをそのままでは利用することができない。そのため、これまでのところ被写体によるX線の屈折から間接的に位相シフトを検出する下記の方法が採用されているだけである。
【0010】
X線が空間的な密度差を持った被写体を透過すると、可視光と同様に極僅かではあるが屈折される。この屈折によるX線の角度のずれ(屈折角θ)は、被写体によって生じた位相シフトの空間的な勾配(dp/dx)を用いて、次式(1)で与えられる。
【0011】
【数1】
したがって、屈折角を検出することによって位相シフトの勾配を求めることができる。さらに集光X線ビームに対して、被写体を走査し、各位置で得られた位相シフトの勾配値を積分計算することによって、被写体の密度にほぼ比例した量である位相シフトを取得することができる。
【0012】
【特許文献1】特開平4−348262号公報
【特許文献2】特開平9−187455号公報
【非特許文献1】高エネルギー加速器研究機構 PF 将来計画に関する研究会2「走査顕微鏡光学系を利用した位相計測」,2005
【非特許文献2】Japanese Journal of Applied Physics Vol. 43, No. 11A, 2004, pp. L 1449
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
集光X線ビーム方式において、被写体によって生じたX線の屈折角θは、従来は具体的には以下の2つの方法で検出されている。第1の方法は、非特許文献1に開示されたように、被写体の下流に設置した高空間分解能のX線画像検出器を用いるものであり、被写体を透過したX線ビームを観察し、その位置のずれを直接的に検出する方法である。この方法において、画像検出器上のX線ビームの位置ずれΔxは、被写体と検出器との距離lと屈折角θに依存し、次式(2)で与えられる。
【0014】
【数2】
したがって、lが長いほど位置ずれΔxが大きくなるために検出可能な角度分解能は向上することになる。しかし、一方でX線ビーム自身の広がりや空気の吸収によって、X線ビームの強度が低下してしまい長い露光時間が必要になる。また、一般に取得したX線ビームの画像の転送には長い時間が必要で、全体の測定時間も長くなってしまうという問題もある。
【0015】
第2の方法として、非特許文献2に開示されたものは、被写体を透過したX線をくさび形の吸収材に入射し、透過したX線ビームの強度をシンチレーションカウンターなどの面分解能のない高速・高感度なX線検出器で測定する方法である。この方法では、第1の方法のような問題はないが、角度分解能が使用するくさびの形状などの影響を受けやすく、また、分解能を向上するために、X線ビームの入射角度を浅くしすぎると、くさびの表面で全反射を起こしてしまい正常に測定ができなくなるという問題がある。
【0016】
一方、集光したX線ビームではなく、集光しない平行な面状のビームの屈折角θを検出する方法としては、特許文献2に記載されたX線の回折現象を利用した方法(屈折コントラスト法、Diffraction enhanced imaging: DEI)などがある。
【0017】
X線の回折現象(X線回折)とは、結晶に対するX線の入射角θBがブラッグの回折条件(3)を満たしたときに、X線が結晶格子面によって反射される現象のことである。
【0018】
【数3】
ここで、λはX線の波長、dは回折を生じる格子面の間隔である。なお、入射したX線と回折されたX線が結晶面の同じ側にある場合はブラッグケース、別の側にある場合はラウエケースと呼ばれる。
【0019】
ブラッグケースのX線回折において、入射するX線が完全に平行なビームの場合、回折されたX線の強度Igは動力学的な回折理論により、次式(4)で与えられる。
【0020】
【数4】
ここでは、結晶によるX線の吸収は無視した。また、Ioは入射X線強度で、Wは次式(5)で与えられる変数である。
【0021】
【数5】
dθはブラッグ角からのずれ、χgは電気感受率であるので、Igは入射角θBのブラッグ角からのずれdθに依存した量になる。
【0022】
式(5)に基づいて、シリコン結晶の格子面(220)によるIgを計算した結果を図25に示す。横軸が入射角θBのブラッグ角からのずれ、縦軸が回折されたX線の強度である。X線のエネルギーは35keV、結晶の厚さは1mmである。
【0023】
入射X線が完全に平行なビームの場合は、ビームの角度広がりは0であるために、図26に示したように入射X線ビームは1本の線で表される。このために、入射角がブラッグ角近傍の±3μrad(W<±1)となる場合のみX線は回折され、結晶は高感度な角度アナライザーとして動作することになる。以上により、非常に感度よく被写体による屈折角を検出することができる。しかし、ここでは平行X線ビームを利用しているために、空間分解能はX線フィルムなどX線検出器の空間分解能などに依存し、最高で数ミクロン程度という問題があった。
【0024】
また、この方法を本発明で利用を想定している集光X線ビームに適用する場合、集光X線ビームは平行ではなくある程度の広がり(角度幅)を持った発散ビームであるため、以下に詳細を示す問題が生じる。
【0025】
図27に、入射X線として発散ビームを採用した場合の、ロッキングカーブ(各結晶角度における回折X線ビームの強度)、集光X線ビームの角度分布、及び回折される集光X線ビームの関係を示す。また、図28に、図27の状態から集光X線ビームの角度分布が被写体の屈折によって変化した状態を示す。
【0026】
図27に示すように、集光X線ビームを結晶にそのまま入射しただけでは、ビームが角度広がりを持っているため(回折角度幅<ビーム広がり)、回折条件を満たすすべての角度でX線ビームが回折される。図28に示すように、被写体の屈折によりX線ビームの角度が極僅かに変化しただけでは、回折条件を満たすすべての角度のX線が図27と同じように存在する。このため、回折X線の強度はほとんど変化しないことになり、角度の変化を検出することはできない。
【0027】
以上をまとめると、高い空間分解能を達成するためには集光したX線ビームの利用が必要であるが、被写体によって生じた集光X線ビームの屈折角を分解能よく短い時間に測定することは難しいという問題があった。一方、平行X線ビームでは、屈折角を分解能よく検出することはできるが、空間分解能を高くすることができないという問題があった。
【0028】
本発明の目的は、被写体によって生じた集光X線ビームの屈折角を高い分解能でかつ短時間で検出可能とし、高い空間分解能で被写体を観察できるX線撮像装置及びX線撮像方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明では、以下に詳細を示すように、被写体を透過した際に生じた集光X線ビームの屈折角を、X線の回折現象を利用して検出することによって、上記の問題を解決する。
【0030】
図1、図2により、本発明の基本概念を説明する。
図1は、本発明の思想に基き、結晶の角度を集光X線ビームの角度分布の端が回折条件を満たすように調整した場合における、ロッキングカーブ、集光X線ビームの角度分布、及び回折される集光X線ビームを示す図である。
【0031】
本発明では、図2に示したX線撮像装置の模式図おける集光X線ビームの角度を調整し、結晶の角度θcを入射するX線ビームの角度分布の端が図1に示すような回折条件を満たすように設定する。これにより、円錐体の束状に発散しているビーム角度のうち、「端の角度」に位置するビームのみが結晶で回折されるようにする。換言すると、X線ビームの角度分布の端(角度θo)を、図1において入射角θBのずれが0度の位置になるように、結晶の角度θcを調整する。ここで、ビームの端の角度θoは高角側(θoH,図2の実線)で調整してもよいし、低角側(θoL,図2の破線)で調整してもよい。
【0032】
なお、円錐体の束状に発散したビームの強度は、微視的には、端の部分であっても連続的に変化している。そこで、本発明では、X線ビームの角度分布の端を、「ビームの角度発散プロファイルの微分値が実質的に最大または最小となる角度」と定義する。例えば、ビーム角度発散プロファイルが図3に示すガウス分布や図4に示す矩形分布(デルタ関数)では、夫々微分値が最大または最小、換言すると矢印で示したようにピーク値の半分となる値の角度が、端の角度θoである。端の角度θoは、厳密に微分値が最大または最小の位置でなくても良く、強度の変化の大きな範囲、換言すると実質的に最大または最小値若しくはその近傍にあれば良い。
【0033】
なお、X線撮像装置の特性の差により、ビーム角度発散プロファイルが図3、図4に示したもの以外のプロファイルである場合でも、同様に、そのプロファイルの端近傍でかつ強度の変化率の大きい位置を「X線ビームの角度分布の端」とすることができる。一方、ビームのプロファイルの端近傍であっても、強度の変化率がごく小さい外側の縁等は、X線ビームの角度変化を検出し難くなるので、結晶の角度θcの初期設定値には適さない。
【0034】
このようにして、本発明では、結晶の角度θcを、入射するX線ビームの角度分布の端が回折条件を満たすように調整する。
【0035】
図5Aは、本発明において、被写体を設置した状態でのロッキングカーブ、集光X線ビームの角度分布、及び回折される集光X線ビームの変化を示す図である。図5Bは、本発明における集光X線ビームの角度変化と回折X線の強度変化の関係を示す図であり、
本発明によれば、図5Aに示すように、入射するX線の角度が極僅か(Δθ)でも変化すると、図5Bに示すように、ほぼ比例して結晶により回折されたX線ビームの強度変化となって現れることになる。すなわち、Δθに相当する量だけ、回折されたX線ビームの端の位置も、入射角θBのずれが0度の位置から移動する。したがって、高い感度で入射するX線ビームの角度変化(屈折角)を検出することが可能になる。
【0036】
次に、結晶の表面と回折を生じる格子面(回折格子面)が非平行な結晶(非対称結晶)を用いる場合について考えてみる。この非対称結晶によるX線回折では、非対称の角度によって、回折を生じる角度幅は入射側と出射側で異なった値になる。結晶表面と回折格子面のなす角度をαとしたとき、非対称度bは次式(6)で与えられ、
【0037】
【数6】
入射側の回折を生じる角度幅ωoは次式(7)、
【0038】
【数7】
出射側の角度幅ωgは次式(8)となる。
【0039】
【数8】
ここで、ωsはb=1(非対称角α=0,対称結晶)における回折角度幅である。したがって、b<1となる非対称結晶を用いることによって、入射側の回折角度幅を対称結晶に比べて拡大することができ、より広い角度幅のX線を回折することができる。したがって、より強い回折ビーム強度を確保し、短い測定時間で、高いS/Nで測定することが可能になる。
【0040】
次に、ラウエケースのX線回折を用いた場合について考えてみる。ラウエケースのX線回折では、図6に示したように、入射したX線は透過と回折の2本のX線ビームに分割される。入射X線ビームが完全な平行ビームの場合、回折及び透過X線ビームの強度IgとIhは動力学的な回折理論により、各々、次式(9)、(10)で与えられる。
【0041】
【数9】
【0042】
【数10】
ここでは、結晶によるX線の吸収は無視した。
【0043】
図7は、ラウエケースにおける回折X線と透過X線の強度(ロッキングカーブ=X線の強度の、結晶面の入射ビームに対する角度依存性)の計算例を示す図である。図8は、従来方式における、ラウエケースにおけるロッキングカーブ、集光X線ビームの角度分布、及び回折される集光X線ビームを示す図である。さらに、図9は、本発明の方式に基いて、結晶の角度を集光X線ビームの角度分布の端が回折条件を満たすように調整した場合におけるロッキングカーブ、集光X線ビームの角度分布、及び回折される集光X線ビームを示す図である。
【0044】
すなわち、図7には、図25と同じ条件(Si(220),エネルギー35 KeV、結晶厚1 mm)における各回折強度の曲線を計算した結果を示す。Igは回折X線ビームの強度、Ihは透過X線ビームの強度を示している。
【0045】
入射X線が完全な平行ビームの場合、ブラッグケースと同様に(図26参照)、ビームの角度広がりは0であり、図7において線で表されるために、結晶は分解能の高い角度アナライザーとして動作する。
【0046】
しかし前述したように、本発明の対象となる集光したX線ビームは、平行ではなく発散ビームであるため、集光ビームを結晶にそのまま入射しただけでは、図8に示すように回折条件を満たした一部の角度群のX線ビームが回折されることになり、集光したX線ビームの角度広がりのため、被写体による屈折角を検出することができない。
【0047】
そこで、ブラッグケースと同様に、本発明の方式に基き、図9に示すように結晶の角度を入射するX線ビームの角度分布の端が回折条件を満たすように調整し、発散している角度のうち、端の角度のビームのみが回折されるようにする。これにより、入射するX線の角度が極僅かでも変化すれば、ほぼ比例して回折されたX線ビームの強度変化となって現れるので、高い感度で入射するX線ビームの角度変化(屈折角)を検出することが可能となる。さらに、ラウエケースの場合、回折されなかったX線は透過して結晶から出射してくるので、このビーム強度を同時に検出することによって、被写体による強度の吸収も同時に測定することが可能になる。
【0048】
次に、X線の同時反射を利用した場合について考えてみる。図10は、ブラッグケースのX線回折における入射X線と回折X線の関係を示す図、図11は、(lmn)面と(pqr)面の回折条件を示す図、図12は、同時反射のX線回折における入射X線と回折X線の関係を示す図である。上述したブラッグやラウエケースのX線回折の場合、結晶が角度アナライザーとして動作するのは、入射X線と回折ベクトルがなす面内(図10のx−y面)だけである。このため、z方向の屈折角を検出することはできなかった。X線の同時反射とは、入射したX線が複数の格子面の回折条件を同時に満たした場合に生じる回折現象のことで、同時反射の回折格子面が互いに非平行なとき、X線の入射角(θとφ回転)が図11に示す2つの格子面((lmn)と(pqr))の回折条件を同時に満足している(中心部の重なった領域)と、非平行な複数の回折X線ビームに分割される(図12)。したがって、分割された各X線ビームの強度(I1及びI2)を検出することによって、2方向の角度の変化を検出することができる。
【0049】
前述したように、集光したX線ビームは平行ではなく発散ビームである。このため、ここでも上記と同じような結晶の角度設定を行う。すなわち、結晶の角度(θとφ回転)を、入射するX線ビームの角度分布の端の角度が同時反射の条件を満たすように調整する。これにより、入射するX線の角度が極僅かでも変化すると、同時反射された両方のX線ビームの強度変化となって現れる。具体的には、結晶の角度θが変化するとI1とI2双方のX線強度が同時に増加或いは減少し、φが変化するとX線ビームの強度I1が増加(減少)し、I2が減少(増加)することになる。したがって、双方のX線の強度変化から高い感度で入射するX線ビームの角度変化(屈折角)を2方向について検出することができる。
【0050】
以上から、集光したX線ビームの被写体による屈折角度を高い角度分解能で検出することが可能で、サブミクロン以下の高い空間分解能、かつ高い密度分解能で被写体内部を非破壊で観察することが可能となる。
【0051】
本発明の代表的なものの一例を示せば以下の通りである。即ち、本発明のX線撮像装置は、X線源から放出されたX線ビームを集光する集光素子と、集光した前記X線ビームに対して被写体を位置決めする手段と、前記X線ビームを回折する単結晶と、前記X線ビームに対して単結晶の角度を調整する角度調整機構と、回折された前記X線ビームの強度を検出する検出器と、制御部とを備え、前記制御部は、入射する前記集光X線ビームの角度分布の端がブラッグの回折条件を満たすように前記X線ビームに対して前記単結晶の角度を調整する角度設定機能を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0052】
本発明によれば、集光したX線ビームの屈折角を高い角度分解能で検出することが可能となるので、高い空間分解能、かつ高い密度分解能で被写体内部を非破壊で観察することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下、図面を用いて本発明の実施例について説明する。以下に示す図において、同じ機能を有する部分には同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
【実施例1】
【0054】
図13〜図19により、本発明の第一の実施例を説明する。まず、図13は、本発明で使用するX線撮像装置の一例の構成図である。図13に示すように、本X線撮像装置は、X線源1、X線源から放出されたX線ビームを集光するX線集光素子2、被写体を保持する被写体ホルダー3、集光したX線ビームに対して被写体を位置決めする被写体位置決め機構4、被写体を透過したX線ビームの強度を検出する透過型第1X線強度検出器5、第1検出器5を透過したX線ビームを回折する結晶(単結晶)6、結晶ホルダー7、結晶6の角度を調整する結晶ホルダー位置決め機構8、回折されたX線ビームの強度を検出する第2X線検出器9、制御部10、処理部11及び表示装置12から構成される。制御部10は、入射する集光X線ビームの角度分布の端がブラッグの回折条件を満たすようにX線ビームに対して結晶6の角度を調整する角度設定ユニット100を備えている。角度設定ユニット100は、結晶ホルダー位置決め機構8を制御して、結晶6の角度θcを調整する(初期設定)機能を有する。制御部10は、さらに、結晶6の角度が調整された状態で、被写体位置決め機構4を制御して、第1及び第2検出器により、被写体の各位置におけるX線ビームの強度を検出する機能を備えている。処理部11は、検出されたX線ビームの強度から演算により被写体の2次元像を得る演算処理機能を備えている。
【0055】
すなわち、X線源1から放射されたX線13は、X線集光素子位置調整機構14で位置決めされたX線集光素子2によって集光されて集光X線ビーム15となり、被写体ホルダー3で保持され、被写体位置決め機構4によって位置決めされた被写体16に照射される。被写体を透過したX線17は、透過型の第1X線検出器5を透過した後に、結晶ホルダー7で保持され、結晶ホルダー位置決め機構8で入射角度を調整(初期設定)された結晶6に入射する。結晶によって回折されたX線18は、第2X線検出器9で検出される。制御部10では、被写体位置決め機構4を制御して、被写体の各位置に集光したX線ビームを順次照射し、そのときのX線の各強度を第1及び第2X線検出器で取得する。そして、処理部11において、取得した強度に基づいて被写体の像(位相マップ)を算出し、算出した像を表示部12で表示する。
【0056】
次に、結晶角度調整ユニット100による結晶6の角度の初期設定について、図14〜図15を参照しながら説明する。結晶角度調整ユニット100は、被写体を設置しない状態での回折X線の強度を求め、入射するX線ビームの角度分布の端がブラッグの回折条件を満たすようにX線ビームに対して単結晶の角度θcを調整する機能を有している。図14は、結晶の角度の初期設定の手順を示すフローチャート図であり、図15は、このX線撮像装置において、結晶を回転し各角度で回折X線強度Iを測定することで得られたデータを示す図である。
【0057】
はじめに、被写体を設置しない状態で、X線源1から放射されたX線ビーム13の集光状態を調整する。調整は、集光素子2のX線ビームに対する相対的な位置や角度などをX線集光素子位置調整機構14により適宜変化させ、被写体位置におけるX線ビームが最小となるようにする。なお、集光状態(ビーム形状)の確認は、鉛やタンタルの刃などで構成されたナイフエッジを被写体位置で走査し、得られた透過X線ビームの強度変化などを用いて行えばよい。
【0058】
次に、回折用の結晶6を設置して、結晶角度調整ユニット100により結晶ホルダー位置決め機構8を制御して結晶6の角度調整を行う。結晶角度調整ユニット100による回折用の結晶6の角調整度は、図14のフローチャートに従い以下のようにしてなされる。最初に測定に必要な設定を行った後、X線ビームの測定を開始する(S140)。まず、回転機構8を制御して結晶6を回転させ、結晶6の角度を変化させる(S142)。次に、結晶6の各角度における回折X線18の強度Iを第2X線検出器9で測定する(S144)。このようにして、結晶6を所定の角度範囲にわたり順次回転させ、そのときの強度Iのデータを取得する(S146)。図15にそのデータの一例を示す。次に、得られたデータから、ビームの端の角度θoを求める。そのために、まず、得られたデータから最大強度値Imaxを演算処理により算出する(S148)。次に、回転機構8を制御して、結晶6の角度θcを、ビームの「端の角度」に位置するビームのみが結晶で回折されるように設定する(S150)。
【0059】
結晶6の角度調整の際、回折されたX線ビームの強度は図15のよう変化するので、集光X線ビームの角度分布の端と考えられる角度(図15の回折強度が実質的に半分となる角度)に結晶の角度を合わせる。
【0060】
なお、結晶6の角度θcの設定に使用する集光X線ビームの角度は高角側(θH)でもよいし、低角側(θL)でもよい。すなわち、低角側の端の場合、強度の変化は図5のようになり、強度が実質的に半分になる角度が、角度分布の端となる角度である。高角側の端の場合、強度の変化は図5とは逆、すなわち、右下がりになるが、同様に、強度が実質的に半分になる角度が角度分布の端となる角度である。
【0061】
結晶6の角度の設定(初期設定)が完了したら、次に、被写体ホルダー3で保持した被写体16を集光位置に設置し、測定を行う。結晶6の角度θcは、図14に示した手順により、X線ビームの角度分布の端が回折条件を満たすように設定してあるので、被写体16によってX線の屈折角が変化すると、回折X線18の強度も屈折角度に比例して変化する。このため、回折X線18の強度変化から屈折角を求めることができる。
【0062】
被写体16の2次元像を取得するためには、前述のように被写体位置決め機構4を用いて、被写体16の各位置にX線ビーム14を照射し、そのときの各X線の強度を第1検出器5及び第2X線検出器9で取得する。第1X線検出器5で検出したX線強度I1は被写体によるX線の吸収を示し、第2X線検出器9で検出したX線強度I2は被写体16による吸収と屈折角による変化分を含んだ値となっているので、屈折角のみを抽出するためには、X線強度I2をX線強度I1で除算すればよい。また、屈折角は被写体16の位相シフトの空間微分を表しているので、密度分布の像(位相マップ(位相シフトの空間分布像))を求めるためには、図13のy軸の方向に屈折角度を積分すればよい。最後に以上の手順により得られた像は、操作者の指示等により表示部12で表示する。
【0063】
回折に使用する結晶6にはシリコンやゲルマニウムなどの単結晶を用いる。そして回折の格子面は、使用するX線のエネルギー等に基づいて決定する。低次の回折ほど大きな回折X線強度を確保でき、測定時間を短縮できるので、基本的には低次の回折(Si(111)や(220)など)を利用するとよい。ただし、高エネルギーX線の場合、低次ではブラッグ角が小さくなるために調整が難しくなる。この場合は、高次の回折(Si(311)やSi(440)など)を利用すればよい。また、非対称結晶を用いると、入射側の角度回折幅を拡大でき、より強い回折強度を得ることができる。したがって、測定時間の短縮や高いS/Nを確保することができる。ただし、X線のエネルギーによってブラッグ角度が異なるので、使用するX線のエネルギーに適した非対称角度の結晶を用意する必要がある。
【0064】
また、図16に示すように、複数枚の結晶19及び20を組み合わせて使用することもできる。この場合、回折されたX線の強度は最終的には各結晶の回折強度曲線の積で与えられるために、図17に示すように曲線の端の傾きがより急峻になりに、より高い角度分解能でX線の屈折角を検出することができる。この複数枚の結晶あらかじめ平行に配置し共通の結晶ホルダー7’で支持すれば、1個の単結晶と同様な調整で行うことができる。
【0065】
回折用の結晶6の角度θcは、入射X線ビームの角度分布の端となるようにきわめて高い精度で調整する必要がある。また、測定中に結晶が回転ドリフトすると、正確にX線の屈折角を求められなくなってしまうため、回転ドリフトは極力抑える必要がある。そこで、結晶ホルダー位置調整機構8として、タンジェンシャルバーを用いた精密ゴニオステージを用いるのが望ましい。この機構を採用することにより、回転位置決め精度を1/100角度秒、ドリフトを1/10角度秒以下と、測定に全く支障がない精度で回転を制御することができる。
【0066】
第1X線検出器5は、X線を透過させることが必要なためイオンチャンバーやカプトン膜の散乱を利用した透過型X線検出器を用いる。イオンチャンバーはX線による気体の電作用を利用した検出器で、X線のエネルギーに依存するが、通常は90%以上のX線を透過することができる。また、カプトン膜の散乱をシンチレーションカウンターで検出する方法では、イオンチャンバーに比べてより高い感度でX線強度を検出することができるために、透過率をさらに高くすることができる。
【0067】
被写体位置決め機構4として、被写体の2次元的な位置決め(x−z面)の他に、X線ビームに対して被写体を回転させる機能を付加し、被写体の各角度で2次元像を取得するようにすれば、Computed Tomography(CT)の原理により、非破壊で被写体の断面像を取得することができる。この場合、測定は、図18のフローチャートに示したように、以下の手順で行なう。
(1) 透過像と同様な手順により、試料によって生じた屈折角θの空間的な分布、及び位相マップを求める(S180〜S184)。
(2)試料位置決め機構4に付加された回転機構により、試料をΔrだけ回転する(S186)。
(3) (1)〜(2)を必要なステップ数n(=180°/Δr)だけ繰り返す(S188〜S190)。
の手順により行う。
【0068】
そして、測定後に、各角度で得られた位相マップから位相プロジェクション像を求め、更に、フィルターバックプロジェクション法などの断面像再構成アルゴリズムにより位相プロジェクション像から位相コントラストの試料断面像を計算で再構成する。計算により得られた位相コントラスト断面像は、例えばオペレーターの指示等により、表示部12で表示する。
【0069】
X線の集光素子2として、回折を利用したフレネルゾーンプレート(FZP)や、X線の全反射を利用したミラー(集光鏡)などを用いることができる。FZPは、X線の光路に設置するだけで集光したX線ビームが簡単に得られるので、調整を非常に簡便にすることができる。しかし、X線の利用効率が低いために長い測定時間が必要で、また、使用するX線のエネルギーによって集光位置が変化するために、エネルギーを変更する都度、再調整を行う必要がある。一方、全反射ミラーは、一般には複数枚の球面或いは楕円面ミラーで構成されているため、複雑な角度及び位置調整が必要であるが、集光位置がX線のエネルギーに依存せず、また、X線の利用効率が高いために測定時間を短縮できるという特徴がある。したがって、X線エネルギーの変更頻度やエネルギースキャンの有無、及び測定時間との兼ね合いから、適した集光素子を選択すればよい。
【0070】
集光したX線の角度分布は、理想的にはガウス分布に近い形状となる。しかし、集光素子の形状エラーや調整不足等により、角度分布は一般には乱れた形状となってしまう。このため、角度分布の端も乱れた形状となっていて、被写体による屈折角を正確に検出することが難しくなる。この場合、図19に示すように第1X線検出器5と、結晶6との間にスリット21を設置して、ビームの形状及び角度分布を整形する。これにより、ビーム角度分布の端の形状も整形され、精度よく屈折角を求めることが可能となる。
【0071】
以上、本実施例によれば、集光したX線ビームの屈折角を高い角度分解能で検出することができる。このため、高い空間分解能、かつ高い密度分解能で被写体内部を非破壊で観察することできる。
【実施例2】
【0072】
実施例1では、被写体による集光X線ビームの屈折角だけを検出しているために、被写体の密度分布像しか取得することができなかった。ここでは、密度分布像に加えて、元素分布像も同時に取得可能な実施例を示す。
【0073】
図20は、本実施例によるX線撮像装置の構成を示す図である。本実施例は、実施例1の構成に加えて、被写体16から放出された散乱及び蛍光X線を検出するエネルギー分解能を有した第3X線検出器22を加えた構成となっている。被写体を設置しない状態での回折用の結晶6の角度の設定(初期設定)や、被写体を設置した状態でのX線の強度の測定は、実施例1と同様にして行なう。本実施例において、集光X線ビームが照射される被写体の領域は極小さく、散乱X線や蛍光X線もほぼ同じ領域から放出される。このために、放出されたX線の強度やエネルギーを同時に検出及び分析することによって、X線が照射されているこの小さな領域の元素情報などを同時に取得することができる。
【0074】
第3X線検出器として液体窒素冷却のGe半導体検出器(Solid State Detector, SSD)、或いはシリコンドリフト検出器(SDD)などを用いる。SSDの検出効率はそれほど高くないが、エネルギー分解能が高く、かつ高エネルギーのX線に対しても感度が高いという特徴があるので、利用するX線のエネルギーが比較的高い場合に利用する。また、SDDは検出効率が高く、かつ冷却がペルテェ素子で行えるために取り扱いが安易という特徴がある。このため、比較的エネルギーの低い蛍光X線を検出する場合に利用する。また、これら半導体型の検出器でより高い検出効率が必要な場合は、半導体検出素子が複数の多素子型の検出器を用いればよい。
【0075】
被写体に重元素等が含まれていたり、検出対象となる散乱及び蛍光X線のエネルギーが低い場合、被写体によって散乱及び蛍光X線が吸収されてしまい、疑似像(アーチファクト)が発生する場合がある。このため、第3X線検出器22は、図21に示すように被写体の吸収がより少ないと考えられるX線の入射方向か、或いは吸収が等方的と考えられる被写体上部に設置するとよい。
【0076】
測定は実施例1と同様に、集光素子2及び結晶6の調整を行った後に被写体16を設置し、被写体位置決め機構4を用いて照射位置を走査しながら、第1検出器5、第2検出器9、及び第3X線検出器22でそれぞれのX線強度を検出するという手順で行う。被写体16の密度分布像は測定後に実施例1と同様にして算出する。
【0077】
また、図22に示すように、元素分布像は、各照射位置において第3X線検出器で得られた各エネルギーのX線強度(スペクトル)と各元素(例えばA,B,C)固有の蛍光X線エネルギーを対応して求めた各元素の濃度をコントラストとして算出する。測定によって得られた各元素の濃度を示す像は、操作者の指示等により、単独に或いは密度分布像や他の元素分布像と合成して表示部12で表示する。
【0078】
被写体の断面像をCT法で取得する場合は、実施例1と同様の測定に、散乱及び蛍光X線の測定を加えて全く同様の手順で行う。そして、元素分布の断面像は、密度分布像を算出するアルゴリズムと同じアルゴリズムで算出すればよい。
【0079】
以上、本実施例によれば、集光したX線ビームの屈折角を高い角度分解能で検出することができ、かつ同時に被写体から放出された散乱及び蛍光X線も同時に測定することができる。このため、高い空間分解能、かつ高い密度分解能で被写体内部の密度分布及び元素分布を非破壊で観察することできる。
【実施例3】
【0080】
実施例1では、被写体の吸収によるX線強度の変化を透過型の第1X線検出器を用いて検出する必要があった。ここでは、ラウエケースのX線回折を利用して、結晶で回折されたX線、及び透過したX線の強度のみから、被写体の吸収によるX線強度の変化を検出できる実施例を示す。
【0081】
図23に、本実施例における装置の構成例を示す。実施例1の構成から透過型の第1X線検出器5を取り除き、代わりにラウエケースの結晶24を透過したX線の強度を検出する第4検出器23を新たに設けてある。本実施例において、被写体16を設置しない状態で、ラウエケースの結晶24の角度を、結晶位置決め機構8を用いて実施例1と同様に、集光X線ビーム17の角度分布の端の角度が回折条件を満たすように設定しておく(初期設定)。これにより、回折条件を満たした一部の集光X線が回折され、残りのX線は結晶24を透過することになる。被写体16によってX線の屈折角が変化すると、実施例1と同様に回折X線18の強度も屈折角度に比例して変化する。従って、回折X線18の強度変化から屈折角を求めることができる。
【0082】
一方、結晶を透過したX線25の強度は、集光X線ビーム17の角度分布広がりが結晶の角度幅に比べて十分に大きいので、被写体16による屈折角の変化に対してほとんど変化しない。このため、透過X線25の強度変化から被写体の吸収による強度変化を求めることができる。
【0083】
測定の手順は実施例1と同様に、被写体未設置の状態で集光素子2及び結晶24の調整を行い、被写体16を設置し、被写体位置決め機構4を用いて照射位置を走査しながら第2検出器9及び第4X線検出器23でそれぞれのX線強度を検出するという順で行う。第4X線検出器23で検出したX線強度I4は被写体16によるX線の吸収を、第2X線検出器9で検出したX線強度I2は被写体16による吸収と屈折角による変化分を含んだ値を示しているので、屈折角のみを抽出するためには、X線強度I2をI4で除算すればよい。また、屈折角は被写体16の位相シフトの空間微分を表しているので、密度分布の像(位相マップ(位相シフトの空間分布像))を求めるためには、実施例1と同様に屈折角度を積分すればよい。最後に以上の手順により得られた像は、操作者の指示等により表示部12で表示する。
【0084】
被写体16の断面像は、実施例1と同様に、被写体を集光X線ビーム14に対して回転させ、各回転角度で得られた投影像からCTの再構成アルゴリズムにより計算で求めればよい。また、元素分布像は、実施例2と同様に、エネルギー分解能を有した第3X線検出器22を被写体近傍に設置し、密度分布像の測定と同時に行えば取得することができる。
【0085】
以上、本実施例によれば、ラウエケースのX線回折を利用して、集光したX線ビームの屈折角を高い角度分解能で検出することができ、かつ同時に被写体から放出された散乱及び蛍光X線も同時に測定することができる。このため、高い空間分解能、かつ高い密度分解能で被写体内部の密度分布及び元素分布を非破壊で観察することできる。
【実施例4】
【0086】
実施例1及び3では、被写体によって生じた屈折角のうち、回折ベクトルと入射X線のなす平面内の屈折角しか検出することができなかった。ここでは、X線の同時反射を利用して、すべての方向の屈折角を検出できる実施例を示す。X線の同時反射とは、入射したX線が複数の格子面の回折条件を同時に満たしたときに生じる回折現象のことで、回折格子面が互いに非平行なとき、X線の入射角が2つの格子面の回折条件を満たすと、互いに非平行な複数の回折X線ビームに分割される。したがって、分割された各X線ビームの強度を検出することによって、2方向の屈折角の変化を検出することができる。
【0087】
図24に本実施例における装置の構成例を示す。本実施例は、実施例1の構成の第2検出器9に代えて、同時反射によって分割・形成された2本の回折X線を検出する第5検出器26及び第6X線検出器27を新たに設けてある。なお、ここでは便宜上回折X線を2本としたが、条件によっては3本以上に分割され、かつ、これらを検出するためにX線検出器も3個以上になる場合もある。
【0088】
本装置において、結晶6の角度(θ及びφ回転)を、入射するX線ビームの角度分布の端の角度が同時反射の条件を満たすように調整しておくと、入射するX線の角度が極僅かでも変化すれば、同時反射された両方のX線ビームの強度変化となって現れる。このため、両方のX線ビームの強度を検出・比較することによって、高い感度で入射するX線ビームの角度変化(屈折角)を2方向について検出することができる。
【0089】
測定の手順は実施例1と同様に、被写体未設置の状態で集光素子2及び結晶6の調整を行い(初期設定)、被写体16を設置し、被写体位置決め機構4を用いて照射位置を走査しながら第1検出器5、第5検出器26、及び第6X線検出器27でそれぞれのX線強度を検出するという順で行う。第1X線検出器5で検出したX線強度I1は被写体16によるX線の吸収を、第5検出器26および第6X線検出器27で検出したX線強度I5,I6は被写体16による吸収と屈折角による変化分を含んだ値を示しているので、屈折角のみを抽出するためには、X線強度I5及び6をX線強度I1で除算すればよい。また、屈折角は被写体の位相シフトの空間微分を表しているので、密度分布の像(位相マップ(位相シフトの空間分布像))を求めるためには、X線強度I5とI6を加算した値を実施例1と同様にy軸方向に積分するか、X線強度I5とI6の差分をとった値をz軸方向に積分すればよい。また、よりノイズの少ない像が必要な場合は、両方法で得られた像を合成すればよい。最後に以上の手順により得られた像は、操作者の指示等により表示部12で表示する。
【0090】
被写体16の断面像は、実施例1と同様に、被写体16を集光X線14に対して回転させ、各回転角度で得られた投影像からCTの再構成アルゴリズムにより計算で求めればよい。また、元素分布像は、実施例2と同様に、エネルギー分解能を有した第3X線検出器22を被写体近傍に設置し、密度分布像の測定と同時に行えば取得することができる。
【0091】
以上、本実施例によれば、同時反射のX線回折を利用して、集光したX線ビームの屈折角をすべての方向について高い角度分解能で検出することができ、かつ同時に被写体から放出された散乱及び蛍光X線も同時に測定することができる。このため、高い空間分解能、かつ高い密度分解能で被写体内部の密度分布及び元素分布を非破壊で観察することできる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の思想に基き、結晶の角度θcを集光X線ビームの角度分布の端が回折条件を満たすように調整された場合における、ロッキングカーブ、集光X線ビームの角度分布、及び回折される集光X線ビームを示す図である。
【図2】図1における「端の角度θo」の定義を説明するためのX線撮像装置の模式図である。
【図3】ビーム角度発散プロファイルがガウス分布の場合の、端の角度θoを説明する図である。
【図4】ビーム角度発散プロファイルが矩形分布(デルタ関数)の場合の、端の角度θoを説明する図である。
【図5A】本発明において、被写体を設置した状態でのロッキングカーブ、集光X線ビームの角度分布、及び回折される集光X線ビームの変化を示す図である。
【図5B】本発明における集光X線ビームの角度変化と回折X線の強度変化の関係を示す図である。
【図6】ラウエケースのX線回折におけるX線と結晶との関係を示す図である。
【図7】ラウエケースにおける回折X線と透過X線の強度の計算例(ロッキングカーブ)を示す図である。
【図8】従来方式による、ラウエケースにおけるロッキングカーブ、集光X線ビームの角度分布、及び回折される集光X線ビームの関係を示す図である。
【図9】本発明の方式により、結晶の角度を集光X線ビームの角度分布の端が回折条件を満たすように調整した場合における、ロッキングカーブ、集光X線ビームの角度分布、及び回折される集光X線ビームの関係を示す図である。
【図10】ブラッグケースのX線回折における入射X線と回折X線の関係を示す図である。
【図11】(lmn)面と(pqr)面の回折条件を示す図である。
【図12】同時反射のX線回折における入射X線と回折X線の関係を示す図である。
【図13】本発明によるX線撮像装置の実施例1の構成を示す図である。
【図14】本発明の実施例1における結晶の角度の初期設定の手順を示すフローチャート図である。
【図15】実施例1において、結晶を回転し各角度で回折X線強度Iを測定することで得られたデータを示す図である。
【図16】実施例1における複数の結晶を使用した場合の構成を示す図である。
【図17】図16における回折X線の強度の計算例(ロッキングカーブ)を示す図である。
【図18】実施例1におけるCTによる断面像を取得する測定手順を示す図である。
【図19】実施例1におけるスリットの詳細を示す図である。
【図20】本発明によるX線撮像装置の実施例2の構成を示す図である。
【図21】実施例2における第3X線検出器の設置位置を示す図である。
【図22】実施例2における各エネルギーのX線強度(スペクトル)と各元素固有の蛍光X線エネルギーを対応して求める手順、及び各元素の濃度をコントラストとして算出する手順を示す図である。
【図23】本発明によるX線撮像装置の実施例3の構成を示す図である。
【図24】本発明によるX線撮像装置の実施例4の構成を示す図である。
【図25】ブラッグケースにおける回折X線の強度の計算例(ロッキングカーブ)を示す図である。
【図26】ブラッグケースにおけるロッキングカーブと平行X線ビームの角度分布を示す図である。
【図27】ロッキングカーブ、集光X線ビームの角度分布、及び回折される集光X線ビームの関係を示す図である。
【図28】図27の状態から被写体の屈折による角度の変化が生じた場合の状態を示す図である。
【符号の説明】
【0093】
1…X線源、2…X線集光素子、3…被写体ホルダー、4…被写体位置決め機構、5…透過型第1X線強度検出器、6…結晶、7…結晶ホルダー、8…結晶ホルダー位置決め機構、9…第2X線検出器、10…制御部、11…処理部、12…表示装置、13…X線、14…X線集光素子位置調整機構、15…集光X線ビーム、16…被写体、17…被写体を透過したX線、18…回折X線、19…結晶1、20…結晶2、21…スリット、22…第3X線検出器、23…第4X線検出器、24…ラウエケースの結晶、25…透過X線、26…第5X線検出器、27…第6X線検出器、100…結晶角度調整ユニット。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源から放出されたX線ビームを集光する集光素子と、
集光した前記X線ビームに対して被写体を位置決めする手段と、
前記被写体を透過した前記X線ビームを回折する単結晶と、
前記X線ビームに対して単結晶の角度を調整する角度調整機構と、
回折された前記X線ビームの強度を検出する検出器と、
制御部とを備え、
前記制御部は、入射する前記集光X線ビームの角度分布の端がブラッグの回折条件を満たすように前記X線ビームに対して前記単結晶の角度を調整する角度設定機能を有することを特徴とするX線撮像装置。
【請求項2】
請求項1記載のX線撮像装置において、
前記X線ビームの角度分布の端は、前記集光X線ビームの角度発散プロファイルの微分値が、実質的に最大または最小となる角度であることを特徴とするX線撮像装置。
【請求項3】
請求項1記載のX線撮像装置において、
前記集光X線ビームの角度分布の端の角度は、前記ビームの角度分布の高角側の角度(θoH)若しくは低角側側の角度(θoL)であることを特徴とするX線撮像装置。
【請求項4】
請求項1記載のX線撮像装置において、
前記制御部は、前記単結晶の角度を調整する機能を有する結晶角度調整ユニットを備えており、
該結晶角度調整ユニットは、前記被写体を設置しない状態で前記角度調整機構を制御して前記単結晶の角度を変化させ、該単結晶を所定の角度範囲にわたり回転させて発散している前記X線ビームの強度Iの角度分布のデータを取得する機能と、得られた該強度Iの角度分布のデータから演算により前記X線ビームの端の角度を求める機能と、求められた該X線ビームの端の角度に基づいて前記角度調整機構を制御して前記単結晶の角度を設定する機能とを有することを特徴とするX線撮像装置。
【請求項5】
請求項1記載のX線撮像装置において、
前記被写体を透過したX線ビームの強度を検出するX線透過型の第1検出器と、
前記第1検出器を透過した前記X線ビームを回折する前記単結晶と、
前記単結晶で回折された前記X線ビームの強度を検出する第2検出器と、
前記単結晶の角度が調整された状態で、前記被写体を位置決めする手段により制御された前記被写体の各位置において前記第1及び前記第2検出器で前記X線ビームの強度を検出する前記制御部と、
該X線ビームの強度から演算により前記被写体の2次元像を得る処理部とを備えたことを特徴とするX線撮像装置。
【請求項6】
請求項1記載のX線撮像装置において、
前記被写体を透過した前記X線ビームをラウエケースのX線回折により回折する前記単結晶と、
回折されたX線ビームの強度を検出する第1検出器と、
前記単結晶を透過した透過X線ビームの強度を検出する第2検出器と、
前記単結晶の角度が調整された状態で、前記被写体を位置決めする手段により制御された前記被写体の各位置において前記第1及び前記第2検出器で前記X線ビームの強度を検出する前記制御部と、
該X線ビームの強度から演算により前記被写体の2次元像を得る処理部とを備えていることを特徴とするX線撮像装置。
【請求項7】
請求項1記載のX線撮像装置において、
前記被写体を透過したX線ビームの強度を検出するX線透過型の第1検出器と、
前記第1検出器を透過したX線ビームをX線の同時反射により回折する前記単結晶と、
回折された複数の前記X線ビームの強度を検出する複数の検出器と、
入射するX線ビームの角度分布の端が同時反射を生ずるブラッグの回折条件を満たすように前記X線ビームに対して前記単結晶の角度を調整する機能と、
前記単結晶の角度が調整された状態で、前記被写体を位置決めする手段により制御された前記被写体の各位置において前記第1及び前記複数の検出器で前記X線ビームの強度を検出する前記制御部と、
該検出された前記X線ビームの強度から演算により前記被写体の2次元像を得る処理部とを備えていることを特徴とするX線撮像装置。
【請求項8】
請求項1記載のX線撮像装置において、
前記被写体を位置決めする手段は、集光した前記X線ビームに対して被写体を回転させる機能を有し、
複数の異なる方向から前記X線ビームを照射して得られた複数の2次元像から前記被写体の断面像を再生する機能を有する処理部を備えていることを特徴とするX線撮像装置。
【請求項9】
請求項1記載のX線撮像装置において、
前記集光素子がX線の回折現象を利用した集光鏡であることを特徴とするX線撮像装置。
【請求項10】
請求項1記載のX線撮像装置において、
前記集光素子がX線の全反射を利用した集光鏡であることを特徴とするX線撮像装置。
【請求項11】
請求項5記載のX線撮像装置において、
前記第1検出器と前記単結晶の間にX線ビームの一部を遮蔽するスリットを設けたことを特徴とするX線撮像装置。
【請求項12】
請求項1記載のX線撮像装置において、
前記単結晶の表面と回折を生じる結晶格子面が非平行であることを特徴とするX線撮像装置。
【請求項13】
請求項1記載のX線撮像装置において、
前記単結晶が複数の単結晶で構成されていることを特徴とするX線撮像装置。
【請求項14】
請求項5記載のX線撮像装置において、
前記被写体の近くに設けられ、X線のエネルギーを分別できる機能を有した第3検出器を備え、
前記制御部は、前記被写体から放出された散乱及び蛍光X線を検出する機能を有し、
前記処理部は、該検出したX線の強度から前記測定と同時に被写体の散乱及び蛍光による2及び3次元像を得る機能を有することを特徴とするX線撮像装置。
【請求項15】
請求項6記載のX線撮像装置において、
前記被写体を位置決めする手段が、前記集光したX線ビームに対して前記被写体を回転させる機能を有し、
前記処理部は、複数の異なる方向から前記X線ビームを照射して得られた複数の2次元像から前記被写体の断面像を再生する機能を備えていることを特徴とするX線撮像装置。
【請求項16】
請求項7記載のX線撮像装置において、
前記被写体を位置決めする手段が、前記集光したX線ビームの光路に対して被写体を回転させる機能を有し、
前記処理部は、複数の異なる方向から前記X線ビームを照射して得られた複数の2次元像から前記被写体の断面像を再生する機能を備えていることを特徴とするX線撮像装置。
【請求項17】
X線源から放出されたX線ビームを集光する集光素子と、
集光した前記X線ビームに対して被写体を位置決めする手段と、
前記被写体を透過した前記X線ビームを回折する単結晶と、
前記X線ビームに対して前記単結晶の角度を調整する角度調整機構と、
回折された前記X線ビームの強度を検出する検出器と、
結晶角度調整ユニットを有する制御部とを備え、
該結晶角度調整ユニットは、前記被写体が設置されていない状態で前記単結晶を所定の角度範囲にわたり回転させて発散している前記集光したX線ビームの強度の角度分布のデータを取得する機能と、得られた該強度の角度分布のデータから前記X線ビームの端の角度を求める機能と、入射する前記X線ビームの角度分布の端がブラッグの回折条件を満たすように前記角度調整機構を制御して前記X線ビームに対して前記単結晶の角度を調整する機能とを有することを特徴とするX線撮像装置。
【請求項18】
請求項17記載のX線撮像装置において、
該結晶角度調整ユニットは、前記集光X線ビームの回折強度が実質的に半分となる角度を前記X線ビームの端の角度として求め、該角度に前記単結晶の角度を合わせる機能を有することを特徴とするX線撮像装置。
【請求項19】
集光したX線ビームを用いて物体の内部を検査するX線撮像装置を用いたX線撮像方法であって、
前記X線撮像装置は、X線源から放出されたX線ビームを集光する集光素子と、集光した前記X線ビームに対して被写体を位置決めする手段と、前記被写体を透過した前記X線ビームを回折する単結晶と、前記X線ビームに対して前記単結晶の角度を調整する角度調整機構と、回折された前記X線ビームの強度を検出する検出器と、前記単結晶の角度を調整する制御部と、前記被写体の2次元像を得るための処理を行なう処理部とを備え、
入射する前記集光X線ビームの角度分布の端がブラッグの回折条件を満たすように前記X線ビームに対して前記単結晶の角度を調整し、
前記単結晶の角度が調整された状態で、前記検出器により前記被写体の各位置において前記X線ビームの強度を検出し、
検出された前記X線ビームの強度から演算により前記被写体の2次元像を得ることを特徴とするX線撮像方法。
【請求項20】
請求項19記載のX線撮像方法において、
前記被写体が設置されていない状態で前記単結晶を所定の角度範囲にわたり回転させて発散している前記集光したX線ビームの強度の角度分布のデータを取得し、
得られた該強度の角度分布のデータから前記集光X線ビームの端の角度を求め、
前記角度調整機構を制御して、前記単結晶の角度を、前記集光X線ビームの端の角度に位置するビームのみが該結晶で回折されるように設定することを特徴とするX線撮像方法。
【請求項1】
X線源から放出されたX線ビームを集光する集光素子と、
集光した前記X線ビームに対して被写体を位置決めする手段と、
前記被写体を透過した前記X線ビームを回折する単結晶と、
前記X線ビームに対して単結晶の角度を調整する角度調整機構と、
回折された前記X線ビームの強度を検出する検出器と、
制御部とを備え、
前記制御部は、入射する前記集光X線ビームの角度分布の端がブラッグの回折条件を満たすように前記X線ビームに対して前記単結晶の角度を調整する角度設定機能を有することを特徴とするX線撮像装置。
【請求項2】
請求項1記載のX線撮像装置において、
前記X線ビームの角度分布の端は、前記集光X線ビームの角度発散プロファイルの微分値が、実質的に最大または最小となる角度であることを特徴とするX線撮像装置。
【請求項3】
請求項1記載のX線撮像装置において、
前記集光X線ビームの角度分布の端の角度は、前記ビームの角度分布の高角側の角度(θoH)若しくは低角側側の角度(θoL)であることを特徴とするX線撮像装置。
【請求項4】
請求項1記載のX線撮像装置において、
前記制御部は、前記単結晶の角度を調整する機能を有する結晶角度調整ユニットを備えており、
該結晶角度調整ユニットは、前記被写体を設置しない状態で前記角度調整機構を制御して前記単結晶の角度を変化させ、該単結晶を所定の角度範囲にわたり回転させて発散している前記X線ビームの強度Iの角度分布のデータを取得する機能と、得られた該強度Iの角度分布のデータから演算により前記X線ビームの端の角度を求める機能と、求められた該X線ビームの端の角度に基づいて前記角度調整機構を制御して前記単結晶の角度を設定する機能とを有することを特徴とするX線撮像装置。
【請求項5】
請求項1記載のX線撮像装置において、
前記被写体を透過したX線ビームの強度を検出するX線透過型の第1検出器と、
前記第1検出器を透過した前記X線ビームを回折する前記単結晶と、
前記単結晶で回折された前記X線ビームの強度を検出する第2検出器と、
前記単結晶の角度が調整された状態で、前記被写体を位置決めする手段により制御された前記被写体の各位置において前記第1及び前記第2検出器で前記X線ビームの強度を検出する前記制御部と、
該X線ビームの強度から演算により前記被写体の2次元像を得る処理部とを備えたことを特徴とするX線撮像装置。
【請求項6】
請求項1記載のX線撮像装置において、
前記被写体を透過した前記X線ビームをラウエケースのX線回折により回折する前記単結晶と、
回折されたX線ビームの強度を検出する第1検出器と、
前記単結晶を透過した透過X線ビームの強度を検出する第2検出器と、
前記単結晶の角度が調整された状態で、前記被写体を位置決めする手段により制御された前記被写体の各位置において前記第1及び前記第2検出器で前記X線ビームの強度を検出する前記制御部と、
該X線ビームの強度から演算により前記被写体の2次元像を得る処理部とを備えていることを特徴とするX線撮像装置。
【請求項7】
請求項1記載のX線撮像装置において、
前記被写体を透過したX線ビームの強度を検出するX線透過型の第1検出器と、
前記第1検出器を透過したX線ビームをX線の同時反射により回折する前記単結晶と、
回折された複数の前記X線ビームの強度を検出する複数の検出器と、
入射するX線ビームの角度分布の端が同時反射を生ずるブラッグの回折条件を満たすように前記X線ビームに対して前記単結晶の角度を調整する機能と、
前記単結晶の角度が調整された状態で、前記被写体を位置決めする手段により制御された前記被写体の各位置において前記第1及び前記複数の検出器で前記X線ビームの強度を検出する前記制御部と、
該検出された前記X線ビームの強度から演算により前記被写体の2次元像を得る処理部とを備えていることを特徴とするX線撮像装置。
【請求項8】
請求項1記載のX線撮像装置において、
前記被写体を位置決めする手段は、集光した前記X線ビームに対して被写体を回転させる機能を有し、
複数の異なる方向から前記X線ビームを照射して得られた複数の2次元像から前記被写体の断面像を再生する機能を有する処理部を備えていることを特徴とするX線撮像装置。
【請求項9】
請求項1記載のX線撮像装置において、
前記集光素子がX線の回折現象を利用した集光鏡であることを特徴とするX線撮像装置。
【請求項10】
請求項1記載のX線撮像装置において、
前記集光素子がX線の全反射を利用した集光鏡であることを特徴とするX線撮像装置。
【請求項11】
請求項5記載のX線撮像装置において、
前記第1検出器と前記単結晶の間にX線ビームの一部を遮蔽するスリットを設けたことを特徴とするX線撮像装置。
【請求項12】
請求項1記載のX線撮像装置において、
前記単結晶の表面と回折を生じる結晶格子面が非平行であることを特徴とするX線撮像装置。
【請求項13】
請求項1記載のX線撮像装置において、
前記単結晶が複数の単結晶で構成されていることを特徴とするX線撮像装置。
【請求項14】
請求項5記載のX線撮像装置において、
前記被写体の近くに設けられ、X線のエネルギーを分別できる機能を有した第3検出器を備え、
前記制御部は、前記被写体から放出された散乱及び蛍光X線を検出する機能を有し、
前記処理部は、該検出したX線の強度から前記測定と同時に被写体の散乱及び蛍光による2及び3次元像を得る機能を有することを特徴とするX線撮像装置。
【請求項15】
請求項6記載のX線撮像装置において、
前記被写体を位置決めする手段が、前記集光したX線ビームに対して前記被写体を回転させる機能を有し、
前記処理部は、複数の異なる方向から前記X線ビームを照射して得られた複数の2次元像から前記被写体の断面像を再生する機能を備えていることを特徴とするX線撮像装置。
【請求項16】
請求項7記載のX線撮像装置において、
前記被写体を位置決めする手段が、前記集光したX線ビームの光路に対して被写体を回転させる機能を有し、
前記処理部は、複数の異なる方向から前記X線ビームを照射して得られた複数の2次元像から前記被写体の断面像を再生する機能を備えていることを特徴とするX線撮像装置。
【請求項17】
X線源から放出されたX線ビームを集光する集光素子と、
集光した前記X線ビームに対して被写体を位置決めする手段と、
前記被写体を透過した前記X線ビームを回折する単結晶と、
前記X線ビームに対して前記単結晶の角度を調整する角度調整機構と、
回折された前記X線ビームの強度を検出する検出器と、
結晶角度調整ユニットを有する制御部とを備え、
該結晶角度調整ユニットは、前記被写体が設置されていない状態で前記単結晶を所定の角度範囲にわたり回転させて発散している前記集光したX線ビームの強度の角度分布のデータを取得する機能と、得られた該強度の角度分布のデータから前記X線ビームの端の角度を求める機能と、入射する前記X線ビームの角度分布の端がブラッグの回折条件を満たすように前記角度調整機構を制御して前記X線ビームに対して前記単結晶の角度を調整する機能とを有することを特徴とするX線撮像装置。
【請求項18】
請求項17記載のX線撮像装置において、
該結晶角度調整ユニットは、前記集光X線ビームの回折強度が実質的に半分となる角度を前記X線ビームの端の角度として求め、該角度に前記単結晶の角度を合わせる機能を有することを特徴とするX線撮像装置。
【請求項19】
集光したX線ビームを用いて物体の内部を検査するX線撮像装置を用いたX線撮像方法であって、
前記X線撮像装置は、X線源から放出されたX線ビームを集光する集光素子と、集光した前記X線ビームに対して被写体を位置決めする手段と、前記被写体を透過した前記X線ビームを回折する単結晶と、前記X線ビームに対して前記単結晶の角度を調整する角度調整機構と、回折された前記X線ビームの強度を検出する検出器と、前記単結晶の角度を調整する制御部と、前記被写体の2次元像を得るための処理を行なう処理部とを備え、
入射する前記集光X線ビームの角度分布の端がブラッグの回折条件を満たすように前記X線ビームに対して前記単結晶の角度を調整し、
前記単結晶の角度が調整された状態で、前記検出器により前記被写体の各位置において前記X線ビームの強度を検出し、
検出された前記X線ビームの強度から演算により前記被写体の2次元像を得ることを特徴とするX線撮像方法。
【請求項20】
請求項19記載のX線撮像方法において、
前記被写体が設置されていない状態で前記単結晶を所定の角度範囲にわたり回転させて発散している前記集光したX線ビームの強度の角度分布のデータを取得し、
得られた該強度の角度分布のデータから前記集光X線ビームの端の角度を求め、
前記角度調整機構を制御して、前記単結晶の角度を、前記集光X線ビームの端の角度に位置するビームのみが該結晶で回折されるように設定することを特徴とするX線撮像方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【公開番号】特開2010−38627(P2010−38627A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−199603(P2008−199603)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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