説明

X線検査装置

【課題】マイクロフォーカスX線管のX線焦点の経時的なずれを低減した画像品質の高いX線検査装置を提供する。
【解決手段】真空状態の容器内に収容された電子銃114と容器内にあって電子銃114から発生した電子の進行方向側の端部に配置されたターゲット115とを備え電子銃114及びターゲット115に高電圧が印加されることでターゲット115のX線焦点FからX線3を発生させるX線管11aと、このX線管11aから照射され、被検体2を透過したX線を検出するX線検出器13と、ターゲット115近傍の容器外周に設けられた突片117と、X線焦点Fを一端とする方向にX線管11aを摺動可能に支持するレール16と、レール16よりターゲット115に近い位置で突片117を係止する係止部141を備えてX線管11aを所定位置に支持する支持台14とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小なX線焦点を持つマイクロフォーカスX線管を備えるX線検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線検査装置に用いるX線管の一種に1μm程度の小さなX線焦点を持つマイクロフォーカスX線管がある。このようなマイクロフォーカスX線管は、例えばX線透視検査装置、CT(Computer Tomography)装置、断層撮影装置等のX線検査装置に利用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
マイクロフォーカスX線管は、上述したように、X線焦点が1μm程度と小さい。したがって、マイクロフォーカスX線管を搭載するX線検査装置では、被検体をX線焦点に近づけて高倍率の透過像を撮像したとしても、焦点サイズによる透過像のボケが少なく高品位な画像を得ることができるのが特徴である。
【特許文献1】特開2001−135497号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、X線検査装置は、X線管の各部が発熱による温度変化で熱膨張する場合があり、熱膨張によりX線管に歪が生じることもある。特にマイクロフォーカスX線管を搭載したX線検査装置では、高倍率検査時において、熱膨張に伴う経時的なX線焦点の移動の影響を受けやすい。仮に、CT装置や断層撮影装置等のX線検査装置で撮影中にX線焦点がずれると、透過像上の回転軸の位置がずれるために再構成処理が不完全となり画像の劣化が問題になる。
【0005】
上記課題に鑑み本発明は、マイクロフォーカスX線管のX線焦点の経時的なずれを低減した画像品質の高いX線検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の特徴に係るX線検査装置は、真空状態の容器内に収容された電子銃と前記容器内にあって前記電子銃から発生した電子の進行方向側の端部に配置されたターゲットとを備え前記電子銃及び前記ターゲットに高電圧が印加されることで前記ターゲットのX線焦点からX線を発生させるX線管と、このX線管から照射され、被検体を透過したX線を検出するX線検出器と、を有するX線検査装置において、前記ターゲット近傍の前記容器外周に設けられた突片と、前記X線焦点を一端とする方向に前記X線管を摺動可能に支持する摺動支持部と、前記摺動支持部より前記ターゲットに近い位置で前記突片を係止する係止部を備えて前記X線管を所定位置に支持する支持台とを備える。
【0007】
上記構成のX線検査装置では、X線管をターゲットに近い位置で固定しながら摺動支持部(レール)上で摺動可能に支持しているので、X線管の熱膨張による伸縮をレールに沿ったすべりで吸収してターゲットの位置を安定させることが可能となり、X線管の各部に熱膨張により生じる歪を低減させるとともにターゲット上のX線焦点の移動を低減する。
【0008】
また、上記X線検査装置において、前記突片及び前記係止部は、それぞれ前記摺動の方向に対して垂直な面を持ち、突片の面と係止部の面とを突き合わせて固定することにより、前記X線管の位置決めがされる。
【0009】
上記構成により、X線管と固定部を摺動支持部(レール)の摺動方向と直交する面でネジ止めして固定するので、ネジ止めによって生じる力が摺動支持部(レール)に沿ったすべりで吸収されてX線管の固定によってX線管の各部に歪として残ることを防止し、ターゲットの位置及び焦点の位置を安定させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、マイクロフォーカスX線管のX線焦点の経時的なずれを低減してX線検査装置の画像品質を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下で、本発明の各実施形態に係るX線検査装置について図面を用いて説明する。以下の実施形態においては、X線検査装置の一例としてCT装置を用いて説明する。また、以下の説明において、同一部分には同一符号を用いて説明を省略し、類似部分には類似記号を用いて説明する。なお、本発明は、CT装置の他、X線透視検査装置、断層撮影装置等の各種のX線検査装置に適用することができる。
【0012】
〈第1の実施形態〉
図1(a)の平面図及び図1(b)の正面図に示すように、第1の実施形態に係るCT装置1aは、X線管11aと、被検体2を配置して回転軸RAを中心に回転することで被検体2を回転させる回転テーブル12と、X線管11aから発生して被検体2を透過したX線3を検出するX線検出器13と、X線管11aを支持する支持台14とを備えている。
【0013】
CT装置1aは、X線管11aを制御する制御部、回転テーブル12の回転等を制御する制御部、X線検出器13で検出するX線を用いて検査画像を再構成する画像処理部、再構成した画像を表示するモニタ等と接続されているが、図1では本発明を実現するために利用される構成のみを表わしているため、制御部等の図示は省略している。
【0014】
X線管11aは、X線焦点Fが1μm程度のマイクロフォーカスX線管である。X線管11aは、図1に示すように、高電圧を発生する高圧発生部111と、高圧発生部111に接続される第1真空容器112と、第1真空容器112に接続される第2真空容器113とを備えている。第1の実施形態に係るCT装置1aのX線管11aは、内部に高圧発生部111を備える高圧発生部一体型のX線管である。
【0015】
第1真空容器112及び第2真空容器113はそれぞれ片側のみが開放される同径の筒型形状であって、第1真空容器112及び第2真空容器の113の開放される筒口がオーリング(図示せず)を介してネジ止めで密閉接続され、電子通路(図示せず)となる1つの内部空間を形成している。第1真空容器112及び第2真空容器113で形成される内部空間は、外部と遮断されているため、真空ポンプ(図示せず)で内部の空気が排気されることで真空状態にされる。
【0016】
図1に示すように、第1真空容器112及び第2真空容器113は軸TAを中心軸としている。第1真空容器112の内部には軸TA上に陰極である電子銃114が配置されている。また、第2真空容器113の筒底側の先端部分は、筒底の直径が筒口の直径より短くなる円錐台形状であり、筒底には陽極であるターゲット115が軸TAに対して垂直に配置され、軸TAの周囲に収束コイル116が配置されている。すなわち、X線管11aにおいて、電子銃114及びターゲット115は第1真空容器112及び第2真空容器113で形成される真空状態となる内部空間(電子通路)に配置されている。一方、収束コイル116は第2真空容器113内部の電子通路外周の大気圧状態となる位置に配置されている。
【0017】
検査時(X線照射時)には、高圧発生部111によって電子銃114とターゲット115の間に高電圧が印加される。高電圧の印加により、電子銃114のフィラメント(図示せず)から発生した電子が真空中で電子線となって加速されるとともに、収束コイル116が作る磁場によって加速された電子線が軸TA上に収束される。また、軸TA上に収束された電子線がターゲット115に当たることで、X線焦点FからX線3が発生する。
【0018】
図1に示すように高圧発生部111の支持台14側には、軸TAと平行な2本の直線(図示せず)上にそれぞれ2つのベアリングブロック15が固定されている。ベアリングブロック15は、図2に一例を示すように複数のボール15a,15bを有する一般的に汎用されているベアリングブロックである。
【0019】
支持台14の平行面142には2本の直線形状のレール16が平行に設置されている。各レール16上には、高圧発生部111に固定されているそれぞれ2つのベアリングブロック15がレール16と係合するように配置される。
【0020】
ベアリングブロック15にレール16の長手方向の力が加えられると、ボール15a,15bがベアリングブロック15の内部及びレール16上を回転しながら移動し、ベアリングブロック15がレール16上を摺動する。レール16及びベアリングブロック15は、請求項の摺動支持部に相当する。したがって、X線管11aのX線焦点を一端とする長手方向(軸TAの方向)とレール16の長手方向が一致するようにレール16上にX線管11aと固定されるベアリングブロック15が配置されることで、X線管11aに軸TAの方向の力が加えられたとき、X線管11aと固定されるベアリングブロック15は軸TAに沿ってレール16上を摺動する。
【0021】
ここで、レール16の長さは、X線管11aを支えることが十分な長さであればよく、例えばX線管11aの長さの半分程度である。また、CT装置1aでは、複数のベアリングブロック15及びレール16を有することでX線管11aを安定して支持することができるが、ベアリングブロック15とレール16の数は限定されない。
【0022】
図1(b)に示すように第2真空容器113は、レール16よりターゲット115に近い位置の外周に軸TAに垂直な面を有する突片117を有している。また、支持台14は、軸TAに垂直であって突片117と係合する面を有する係止部141を有している。
【0023】
図3は、CT装置1aをターゲット115側から見た図である。図3に示すように、係止部141と突片117とが係合した状態でネジ17によって固定することで、支持台14が第2真空容器113を固定する。
【0024】
ここで、突片117と係止部141とを固定する際には、高圧発生部111に固定されるベアリングブロック15をレール16に沿って突片117と係止部141とが係合するまで移動させてネジ止めする。図3に示す例では、突片117と係止部141は、2つのネジ17によって固定されているが、ネジ17の数は限定されない。
【0025】
なお、第1真空容器112と第2真空容器113とは、図1に示すように、ヒンジ118によって接続されている。電子銃114のフィラメント交換時等のメンテナンス時には、まず、第1真空容器112及び第2真空容器113で形成される内部空間を真空状態から大気圧状態にした上で、突片117と係止部141を固定しているネジ17を外す。その後、第1真空容器112と第2真空容器113を固定しているネジ(図示せず)を外し、図4に示すようにヒンジ118を軸として第2真空容器113のヒンジ118側の側面と第1真空容器112のヒンジ118側の側面とを合わせるように第2真空容器113を動かして第1真空容器112と第2真空容器113とで形成される内部空間を開放し、フィラメント交換等を行う。
【0026】
X線管11aは、高電圧の発生の際に、高圧発生部111、第1真空容器112及び第2真空容器113の各部分に熱膨張が生じる。例えば、図1に示すCT装置1aでは、X線管11aの高圧発生部111や第2真空容器113の収束コイル116に近い位置が高温となりやすく熱膨張を生じることが多い。X線管11aにおいて熱膨張に伴うTA方向の伸縮が生じたとき、上述したCT装置1aでは、X線管11aの伸縮に伴ってベアリングブロック15がレール16上を摺動するため、X線管11aの歪はベアリングブロック15の摺動で吸収される。特に、TA方向の伸縮はX線焦点Fのずれに与える影響が大きいが、X線管11aの伸縮に伴ってベアリングブロック15がレール16上をTA方向に摺動することで、上述したCT装置1aにおいては、X線管11aのTA方向の伸縮による歪は吸収されてX線焦点Fのずれを減少させることができる。
【0027】
また、ターゲット115の付近の伸縮や振動はX線焦点Fにずれを生ずるが、ターゲット115の付近でX線管11aを固定しているため、上述したCT装置1aのX線管11aにおいては、X線焦点Fのずれを減少させることができる。
【0028】
さらに、突片117と係止部141とを固定するときネジ17の方向を軸TA方向に合わせて、ネジ止めにより生じる力をベアリングブロック15によって吸収させているため、X線管11aの固定による歪が残存することがなく、X線焦点Fのずれを減少させることができる。
【0029】
上述したように、本発明の第1の実施形態に係るCT装置1aでは、X線管11aの各部において熱膨張によって生じる伸縮をベアリングブロック15が吸収して歪を防止し、X線焦点Fを安定させることが可能となるため、CT装置1aの画像品質を向上させることができる。
【0030】
〈変形例〉
上述したCT装置1aでは高圧発生部111にベアリングブロック15が固定され、このベアリングブロック15が支持台14に配置されるレール16上を摺動可能な構成である。しかしながら、X線管11aに固定される固定部材はベアリングブロック15に限定されることはない。また、支持台14に配置されてベアリングブロック15を支える部材もレール16に限定されない。すなわち、X線管11aが軸TAに沿って摺動することが可能な構成であればよい。例えば、図5に示すように、固定部材として、ベアリングブロック15に代えて車輪181を利用し、この車輪181が高圧発生部111に接続する軸182を中心にレール16上を回転する構成にしてもよい。また、ベアリングブロック15に代えてボールのないブロックを用いて、このブロックがレール16上を摺動する構成としてもよい。この場合、レール16、車輪181、軸182、ボールのないブロック等が請求項の摺動支持部に相当する。さらに、レールを高圧発生部111に固定し、ベアリングブロック(あるいは車輪181、軸182、ボールのないブロック等)を支持台14に固定するようにしてもよい。
【0031】
また、上述したCT装置1aでは突片117が係止部141にネジで固定されている。しかしながら、X線管11aを固定する構成は、ネジ17に限定されない。すなわち、X線管11aのターゲット115に近い位置で支持台14に固定することが可能な構成であって、フィラメントの交換時等に第1真空容器112と第2真空容器113で構成される内部空間を開放することが可能な構成であればよい。なお、突片117及び係止部141が軸TAの方向に固定され、固定で発生する力がベアリングブロック15の摺動で吸収されることが望ましい。例えば、ネジ17の代わりにボルトとナットや固定用レバー等を利用することが考えられる。
【0032】
第1実施形態で、X線管11aとして、ターゲット115を透過したX線を利用する透過型のX線管を用いて上述したが、反射型のX線管を用いても本発明が適用できることは当業者であれば容易に理解できることである。
【0033】
〈第2の実施形態〉
図6(a)の平面図及び図6(b)の正面図に示すように、第2の実施の形態に係るCT装置1bは、X線管11bと、回転テーブル12と、X線検出器13と、X線管11bを支持する支持台14とを備えている。CT装置1bでは、上述した第1の実施の形態に係るCT装置1aと同様に、支持台14の係止部141にX線管11bの突片117がネジ17で固定されている。
【0034】
この第2の実施の実施形態に係るCT装置1bを第1の実施形態に係るCT装置1aと比較すると、CT装置1aでは高圧発生部一体型のX線管11aを用いていた。これに対して、CT装置1bでは高圧発生部分離型のX線管11bを用いている点で異なる。すなわち、図6で示すX線管11bは、第1真空容器112及び第2真空容器113を備えているが、高圧発生部111を備えていない。また、CT装置1aではベアリングブロック15が高圧発生部111に接続されていた。これに対して、CT装置1bではベアリングブロック15が第1真空容器112に接続されている点で異なる。
【0035】
したがって、CT装置1bでは、検査時(X線照射時)には、X線管11bの外部に備えられる高圧発生部(図示せず)によって高電圧を発生し、電子銃114とターゲット115間に高電圧を印加してX線焦点FからX線3を発生させて被検体2の検査画像を得る。
【0036】
なお、CT装置1bのその他の構成は上述したCT装置1aと同一であり、X線管11bが熱膨張によって伸縮したとき、X線管11bに固定されるベアリングブロック15がレール16上を軸TAの方向に摺動して熱膨張による歪を防止する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るCT装置を説明する概略図である。
【図2】図1のCT装置で利用するベアリングブロックを説明する概略図である。
【図3】図1のCT装置でX線管を支持台に固定する構成を説明する概略図である。
【図4】図1のCT装置のX線管の真空容器の開閉について説明する概略図である。
【図5】変形例に係るCT装置で利用する車輪について説明する概略図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係るCT装置を説明する概略図である。
【符号の説明】
【0038】
1a,1b…CT装置
11a,11b…X線管
111…高圧発生部
112,113…真空容器
114…電子銃
115…ターゲット
116…収束コイル
117…突片
118…ヒンジ
12…回転テーブル
13…X線検出器
14…支持台
141…係止部
15…ベアリングブロック
15a,15b…ボール
16…レール
17…ネジ
181…車輪
182…軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空状態の容器内に収容された電子銃と前記容器内にあって前記電子銃から発生した電子の進行方向側の端部に配置されたターゲットとを備え前記電子銃及び前記ターゲットに高電圧が印加されることで前記ターゲットのX線焦点からX線を発生させるX線管と、
このX線管から照射され、被検体を透過したX線を検出するX線検出器と、を有するX線検査装置において、
前記ターゲット近傍の前記容器外周に設けられた突片と、
前記X線焦点を一端とする方向に前記X線管を摺動可能に支持する摺動支持部と、前記摺動支持部より前記ターゲットに近い位置で前記突片を係止する係止部を備えて前記X線管を所定位置に支持する支持台と、
を備えることを特徴とするX線検査装置。
【請求項2】
前記突片及び前記係止部は、それぞれ前記摺動の方向に対して垂直な面を持ち、突片の面と係止部の面とを突き合わせて固定することにより、前記X線管の位置決めがされる、
ことを特徴とする請求項1に記載のX線検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−162577(P2009−162577A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−340922(P2007−340922)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(391017540)東芝ITコントロールシステム株式会社 (107)
【Fターム(参考)】