説明

X線異物検出装置

【課題】 X線の吸収が少ない被検査体の透視画像の画質を向上させる。
【解決手段】 X線管1で発生したX線4をベルトコンベア5で運ばれてくる被検査体7に照射してラインセンサ3により透過X線を検出し透過像を得る。この透過像から被検査体7内部に存在する異物を検出する。X線管1とラインセンサ3の間に内部を真空としたケース2を配置すると、X線4はこのケース2内を通過するから、このケース2を通過する間ではX線4が空気によって吸収されることがない。これによりX線管1で発生したX線のうち、とくに波長の長い低エネルギーのX線が減衰することなく被検査体7に到達することになる。したがって、高エネルギーX線では透視画像にコントラストが付かず、低エネルギーX線で検査することが適当な種類の被検査体に対しても効果的に異物検出を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被検査体にX線を照射しその透過X線データから被検査体内部に異物が存在するか否か等を検出するX線異物検出装置に関する。なお、この明細書においては、被検査体内部の異物とは被検査体内部に隠れている異物だけでなく被検査体の表面や外面に付着している異物をも含むものとする。また被検査体に発生したクラックや欠けも異物の一種として検出するものとする。
【背景技術】
【0002】
コンベア上に載せられて流れてくる被検査物にX線を照射し、その透過X線画像から被検査体内部に存在する異物を検出する装置が知られている。このX線異物検出装置においては、コンベアの上方に配置されたX線管によってX線を発生し、そのX線をスリットなどからなるコリメータを用いて扇状に広がるX線ビームとして形成し、そのX線ビームをコンベアの下方にコンベアの動く方向と直角に配置された多数の画素からなるライン状のX線検出器によって検出する。コンベアを動かしながらコンベア上の被検査体にX線を照射し、そのX線透過データを収集して時間軸に沿ってデータを並べると被検査体の2次元的なX線透過画像が得られる。ここで、被検査体内部に異物が存在し、その異物のX線吸収率が被検査体そのもののX線吸収率と異なれば、X線透過画像に異物の陰として表れることとなる。
【0003】
X線異物検出装置は、たとえば食品の一次加工品に混入した金属片などを検出するために使用されるが、そのような目的のためにはX線発生源としてのX線管には通常60kVから90kV程度の管電圧をかけて使用することが多い。この程度のエネルギーのX線は大気中に存在する空気によってはほとんど吸収されないので、X線異物検出装置は大気中で使用するようになっており、X線源から被検査体を載せるコンベアまでの間の空間も空気が存在している。
【0004】
たとえば、特許文献1に従来のX線異物検出装置の構成が記載されている。
【特許文献1】特開2003−240735
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
薬品などのX線の吸収が少ない被検査体において、微細なクラックや欠け、異物などを検出するためには、X線の管電圧を低くおさえて低エネルギーのX線を相対的に増大させてX線の透視画像の質を向上させる必要がある。また、薬品においては、X線を照射することにより変質や薬効低減の恐れがあるという理由から、低管電圧すなわち低エネルギーで必要最小限の管電流にてX線を照射する必要がある。
【0006】
しかし、X線はX線源のX線発生点からファンビーム状に放射されるため、一定の大きさを有する被検査体の全体にX線を照射するためには、その大きさに応じてX線源を被検査体からある程度の距離をおいて設置する必要がある。したがって、X線源と被検査体との間に存在する空気によりX線は減衰してしまい、低管電圧および低管電流にてX線検査を行うことは困難である。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、低管電圧および低管電流でも使用できるX線異物検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題を解決するために、X線源で発生したX線を被検査体に照射してその透過X線像から被検査体の内部に存在する異物を検出するX線異物検出装置において、X線源から被検査体までの空間を空気よりX線の吸収が少ない低X線吸収空間としたことを特徴とする(請求項1)。
【0009】
X線源から被検査体までの空間を空気よりX線の吸収が少ない低X線吸収空間とすることで、特に低エネルギーのX線の吸収が少なくなり、被検査体に照射される低エネルギーのX線量が従来に比べて相対的に増すのでX線の吸収量が少ないような種類の被検査体の透過画像も良質な画像として明瞭に得られることとなる。
【0010】
そして上述の低X線吸収空間を実現する一つの手段として、X線源から被検査体までの空間の一部を真空の状態とした真空空間とすることができる(請求項2)。
【0011】
この真空空間は、ファンビーム状のX線が通る道筋のまわりを箱状に区画し、その内部を真空状態にすることで実現される。そして、この箱状の空間におけるX線が通過する面をX線の透過しやすい材料でふさぐことが望ましい。X線透過材料としては薄い高分子材料からなるフィルムや、薄いベリリウム板などを用いることができる。また、この真空空間は真空を封じ込めた状態でもよいし、真空漏れに対応するため、常時真空ポンプで真空引きしておくこともできる。
【0012】
さらに、上述の低X線吸収空間を実現する一つの手段として、X線源から被検査体までの空間の一部をX線吸収の少ないガスで満たした低吸収ガス空間とすることができる(請求項3)。低吸収ガス空間とは空気よりもX線吸収係数の小さい水素ガスまたはヘリウムガス等で満たした空間である。
【0013】
この低吸収ガス空間は、ファンビーム状のX線が通る道筋のまわりを箱状に区画し、その内部を低吸収ガスで満たすことで実現される。そして、この箱状の空間におけるX線が通過する面をX線の透過しやすい材料でふさぐことが望ましい。X線透過材料としては高分子材料からなる薄いフィルムや、薄いベリリウム板などを用いることができる。また、この低吸収ガス空間はガスを封じ込めた状態でもよいし、常時ガスを流すようにしてもよい。常時ガスを流すようにした場合は、X線が透過する面に配置すべき透過材料を省略して、開放面とすることもできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、X線源から被検査体までの空間を空気よりX線の吸収が少ない低X線吸収空間としたから、従来装置のように空気によって吸収されるX線量が減少し、より多くのX線が被検査体に到達する。X線源で発生されるX線スペクトルのうち、とくに空気によって吸収される率が大きいエネルギーの低いX線量が従来に比べて相対的に増加するから、低エネルギーX線を使って検査することが適当な種類の被検査体について、異物検出がより確実に行える。
【0015】
上記の低X線吸収空間を真空空間として実現すれば、空気による吸収を全くないものとすることができるから、低エネルギーX線を使って検査することが可能となる。また、水素やヘリウムガスも空気と比較すればはるかにX線の吸収が少ないから、低X線吸収空間を低吸収ガス空間としても同様に低エネルギーX線を使って検査することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明する。図1は、本発明のX線異物検査装置を正面から見て、その内部構成を模式的に示す図である。
【0017】
全体の構造を支えるフレームともなる防護箱6の上部にX線を発生するX線管1が配置され、下部に一次元的にX線検出素子の並んだラインセンサ3が配置されている。その間に被検査体7を搬送するベルトコンベア5が設置され、被検査体7はそのベルトコンベア5上に載せられて図1で左から右方向(矢印Aの方向)に搬送される。ラインセンサ3のX線検出素子が並んでいる方向(長手方向)はベルトコンベア5の進行方向Aと直交している。すなわち、ラインセンサ3の長手方向は図1の紙面と直交する方向となるように配置されている。X線管1のすぐ下にはX線4の通路を低X線吸収空間とするためのケース2が配置されている。ベルトコンベア5上の被検査体が防護箱6に出入りする口には防護のれん8が下げられており、X線が外部にもれ出るのを防いでいる。防護箱6は全体の構造を支えるフレームであるとともにX線がこの防護箱6の外部に出るのを防いで作業者の安全を確保している。
【0018】
X線管1で発生したX線4はスリットによってベルトコンベアの進行方向には幅が狭められ、ラインセンサ3の長手方向だけに広がったファンビーム状に成形される。このスリットの配置位置はX線管1のすぐ下でもよいしケース2の下に配置してもよい。ファンビーム状のX線4は被検査体7やベルトコンベア5のベルトを透過してラインセンサ3によって検出される。ラインセンサ3はある瞬間の一次元的X線強度を検出するので、この一次元データを時間軸に沿って並べるとベルトコンベア5上を運ばれる被検査体7の二次元的透視画像が得られる。この透視像から画像処理によって被検査体7に含まれる異物を検出することができる。
【0019】
図1には図示していないが、X線管1の制御やベルトコンベア3の駆動などを行う制御装置、さらには、ラインセンサ3からの信号を画像として構成し各種の画像処理を行う画像処理装置などがX線異物検査装置には含まれている。
【0020】
図2はケース2を説明するための概略斜視図である。ケース2はX線管1から放射されるファンビーム形状のX線を被うような形状をしている。ケース2は図2では側面が台形状をしているが、ケース2の形はこれに限られずX線ビームを通過させる空間を有するものならば直方体や他の形状でも構わない。このケース2の配置としては、図1に示されるように、ケース2の上面21はX線管1のX線放射口付近に配置され、下面22はラインセンサ3のX線検出面と対向するように配置される。ただし、ケース2の下面22とベルトコンベア5との間は被検査体7が通過できる程度の空間をあけて配置する。
【0021】
ケース2は内部が空間となっている密閉容器であり、内部は真空引きされて真空空間となっている。その上面21と下面22はX線が透過する必要があるから、X線の透過しやすい材料で構成されている。例えばこのX線透過材料としてはポリエチレンやポリエステルなどのような薄い高分子膜を用いることができる。また金属であるベリリウムの薄い板を使用することも可能である。
【0022】
このケース2がX線管1とラインセンサ3との間に配置され、X線4はこのケース2内を通過するから、このケース2を通過する間ではX線4が空気によって吸収されることがない。これによりX線管1で発生したX線のうち、とくに波長の長い低エネルギーのX線が減衰することなく被検査体7に到達することになる。したがって低エネルギーX線で検査することが適当な種類の被検査体に対しても効果的に異物検出を行うことができる。
【0023】
上記ではケース内部は真空空間として封じ込めたものとして説明したが、上面21と下面22をX線透過窓とする必要がある関係で、実際上は真空漏れが発生する恐れがある。したがってケース2の内部を常時真空ポンプで真空引きするようにすれば多少の真空漏れがあってもケース内部を実用的に真空状態に保つことができる。
【0024】
また、ケース2内部を真空ではなくX線吸収の少ない低吸収ガスで満たすことで、低X線吸収空間を構成することができる。ケース2の内部にX線吸収の少ない低吸収ガスを封じ込めることで低吸収ガス空間を構成することができ、これをX線の通過する経路に配置することで低X線吸収空間とすることができる。X線吸収の少ないガスとしては安全性なども考慮するとヘリウムガスが最適である。水素ガスを用いることも可能である。
【0025】
ケース2内部を真空にする場合と同様に、ケース2内部に低吸収ガスを満たす場合もその上面21と下面22はX線の透過しやすい材料で構成する。このX線透過材料としてはポリエチレンやポリエステルなどのような薄い高分子膜を用いることができる。また金属であるベリリウムの薄い板を使用することも可能である。
【0026】
ケース2内部に低吸収ガスを封じ込めるのではなく、ケース2にガス源を連結し、常時低吸収ガスをケース2内に流すようにしてもよい。このようにすればケース2の上面21や下面22に多少の漏れがあったとしてもケース2の内部に空気が入り込むことがない。
【0027】
さらには常時低吸収ガスをケース2内に流すようにすれば、上面21と下面22にフィルムなどを張らずに開放の状態で使用することも可能である。このようにすれば上面21および下面22でX線が吸収されることが全くなくなるので、より一層低エネルギーのX線が被検査体に到達しやすくなる。
【0028】
X線吸収の度合いを空気とヘリウムガスと真空とで比較した例を図3に示す。X線管の管電圧を変えた場合に、その管電圧におけるX線の平均エネルギーを仮定し、空気とヘリウムガスと真空とでどのくらい吸収されるかを見積もったものである。X線の通過距離は約50cmとしてある。これから分かるように、管電圧が小さくなるほど空気によるX線の吸収率は大きくなり吸収率が90%を超える場合もあるが、ヘリウムガスや真空の場合には実際上問題とならない1%以下のレベルであることが示されている。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のX線異物検出装置の概略構成図である。
【図2】低X線吸収空間を構成するケースの斜視図である。
【図3】X線吸収率を空気とヘリウムガスと真空とで比較した表である。
【符号の説明】
【0030】
1…X線管、2…ケース、3…ラインセンサ、4…X線、5…ベルトコンベア、6…防護箱、7…被検査体、8…防護のれん、21…上面、22…下面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源で発生したX線を被検査体に照射してその透過X線像から被検査体の内部に存在する異物を検出するX線異物検出装置において、X線源から被検査体までの空間を空気よりX線の吸収が少ない低X線吸収空間としたことを特徴とするX線異物検出装置。
【請求項2】
前記低X線吸収空間は前記空間を真空とした真空空間であることを特徴とする請求項1に記載されたX線異物検出装置。
【請求項3】
前記低X線吸収空間は前記空間をX線吸収の少ないガスで満たした低吸収ガス空間であることを特徴とする請求項1に記載されたX線異物検出装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−275853(P2006−275853A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−97100(P2005−97100)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】