説明

X線診断装置、画像処理装置及び画像処理プログラム

【課題】血管造影画像における血管コントラストを予測して表示できる画像処理装置を提供することにある。
【解決手段】一実施形態に係る画像処理装置は、表示部、データベース、入力部、取得部、計算部及び制御部を備える。表示部は、予め取得されたX線画像を表示する。データベースは、参照造影剤濃度及び参照X線条件と血管コントラストとの関係を記述した対応表を保持する。入力部は、造影剤濃度の予定値及び血管造影画像の撮影時に適用予定のX線条件を入力する。取得部は、前記入力された予定値及びX線条件で前記データベースの前記参照造影剤濃度の前記X線条件を参照して血管コントラストを取得する。計算部は、前記取得された血管コントラストと前記X線画像に設定される関心領域の平均画素値とに基づいて、前記関心領域の予測平均画素値を算出する。制御部は、前記算出された予測平均画素値を有する部分画像を前記関心領域上に重ねて、前記表示部に前記X線画像を表示させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、X線診断装置、画像処理装置及び画像処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
X線診断装置を用いた血管造影検査や血管内治療では、血管の形状及び位置を把握するために、造影剤を使用している。被検体に注入する造影剤の濃度は、通常、一手技中で固定とされる。被検体に造影剤を注入した状態で撮影される血管造影画像における血管コントラストは撮影条件(例えば、被検体、X線条件及び撮影角度等)によって異なるので、使用する造影剤が必ずしも適正な濃度であるとは限らない。このため、被検体によっては、必要以上に濃い造影剤を使用している場合がある。或いは、造影剤の濃度が低いために血管造影画像において所望の血管コントラストが得られず、造影剤の濃度及び注入速度等の造影剤条件を変えて再度X線撮影する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような不要な造影剤の被検体への注入により、被検体が腎症を発生する可能性が増大する問題がある。従って、X線診断装置においては、造影剤の使用量を低減するために、血管造影画像の撮影前に、血管造影画像における血管コントラストを予測して表示できることが求められている。
【0005】
本実施形態は、上記問題点を解決するためになされたものであり、血管造影画像の撮影前に、血管造影画像における血管コントラストを予測して表示することができるX線診断装置、画像処理装置及び画像処理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態に係る画像処理装置は、表示部、データベース、入力部、取得部、計算部及び制御部を備える。表示部は、予め取得されたX線画像を表示する。データベースは、参照造影剤濃度及び参照X線条件と血管コントラストとの関係を記述した対応表を保持する。入力部は、造影剤濃度の予定値及び血管造影画像の撮影時に適用予定のX線条件を入力する。取得部は、前記入力された予定値及びX線条件で前記データベースの前記参照造影剤濃度の前記X線条件を参照して血管コントラストを取得する。計算部は、前記取得された血管コントラストと前記X線画像に設定される関心領域の平均画素値とに基づいて、前記関心領域の予測平均画素値を算出する。制御部は、前記算出された予測平均画素値を有する部分画像を前記関心領域上に重ねて、前記表示部に前記X線画像を表示させる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1の実施形態に係るX線診断装置を概略的に示すブロック図。
【図2】図1のX線診断装置の外観の一例を示す斜視図。
【図3】図1に示したモニタ装置に表示されるX線画像の一例を示す図。
【図4】図1に示したモニタ装置に表示される入力画面の一例を示す図。
【図5】図4に示したスライダが操作された後の入力画面を示す図。
【図6】図4に示したスライダが操作されるのに伴ってROIの濃淡が変化することを説明する図。
【図7】図1のX線診断装置の画像処理の一例を概略的に示すフローチャート。
【図8】第2の実施形態に係るX線診断装置を概略的に示すブロック図。
【図9】図8に示した血管径出力装置を概略的に示すブロック図。
【図10】図8のX線診断装置の画像処理の一例を概略的に示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、必要に応じて図面を参照しながら、実施形態に係るX線診断装置、画像処理装置及び画像処理プログラムを説明する。なお、以下の実施形態では、同一の番号を付した部分については同様の動作を行うものとして、重ねての説明を省略する。
【0009】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るX線診断装置100を概略的に示すブロック図であり、図2は、このX線診断装置100の外観を概略的に示す斜視図である。図1に示されるX線診断装置100は、図2に示されるように、略C字型のCアーム130を備え、このCアーム130は、アーム支持部206により回動可能且つ移動可能に支持されている。アーム支持部206は、支柱205に設けられている。
【0010】
Cアーム130の一端には、X線を発生するX線発生部110が設けられ、他端には、X線発生部110から照射され被検体(図1に示される)132を透過したX線を検出するX線検出部120が設けられている。これらX線発生部110及びX線検出部120は、寝台202に載置される被検体132を挟んで互いに対向して配置される。寝台202には、図1に示される天板131が移動可能に設けられており、この天板131上に被検体132が載置される。寝台202は、図2に示される支柱201により支持されている。また、寝台202には、操作部170が設けられている。
【0011】
一方、天井には、例えば2本のスライドレールを備えた支持部203が設けられている。この支持部203によりモニタ保持部204がスライドレールに沿って移動可能に支持されている。このモニタ保持部204には、複数のモニタ装置153が保持されている。モニタ装置153としては、CRT(cathode-ray tube)ディスプレイや液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)等を用いることができる。
【0012】
図1に示されるように、Cアーム130及び天板131は、機構部160により駆動される。この機構部160は、Cアーム・天板機構制御部161、天板移動機構162及びCアーム回動・移動機構163を備える。Cアーム・天板機構制御部161は、システム制御部101からの移動制御指示に従ってCアーム130及び天板131をそれぞれ駆動するための駆動信号を生成する。天板移動機構162は、Cアーム・天板機構制御部161からの駆動信号により作動されて、天板131を移動させる。Cアーム回動・移動機構163は、Cアーム・天板機構制御部161からの駆動信号により作動されて、Cアーム130を移動させるとともに、このCアーム130を被検体132の体軸周りに回動させる。
【0013】
天板131に載置されている被検体132には、心電図(ECG:electrocardiogram)モニタ端子133が装着される。ECGモニタ端子133からの信号は、ECG計測部134へ送られる。ECG計測部134は、ECGモニタ端子133からの信号に基づいて被検体132の心電図のデータを生成してシステム制御部101に送出する。
【0014】
さらに、X線診断装置100は、被検体132に造影剤を注入するインジェクタ190を備えている。一例では、インジェクタ190は、被検体132の血管に造影剤を注入するための注入ヘッド、及びこの注入ヘッドの動作を制御する注入制御部を備える。さらに、注入ヘッドは、造影剤が充填されるシリンダを有する。インジェクタ190には、シリンダに充填されている造影剤の濃度、及び造影剤を被検体に注入する速度(注入速度)等の造影剤条件が設定されている。インジェクタ190は、システム制御部101からの注入制御指令に従って造影剤の注入を実行する。なお、造影剤の注入動作は、ユーザがインジェクタ190を直接操作することにより実行されてもよい。
【0015】
X線発生部110には、高電圧発生部115が接続されている。この高電圧発生部115は、X線発生部110に高電圧を印加する。具体的には、X線発生部110は、X線制御部116及び高電圧発生器117を備える。X線制御部116は、システム制御部101からX線条件指令を受け取り、このX線条件指令で指定される電圧を発生させるための電圧印加制御信号を生成して高電圧発生器117に送出する。一例として、X線条件は、X線発生部110内のX線管111の電極間に印加する管電圧、X線照射時間及びX線照射タイミング等を含む。高電圧発生器117は、X線制御部116から受け取った電圧印加制御信号に応じた高電圧を発生してX線発生部110に印加する。
【0016】
X線発生部110は、X線管111及びX線絞り器112を備える。X線管111は、高電圧発生器117から高電圧を印加されることによりX線を発生する。X線絞り器112は、X線管111と被検体132との間に配置され、X線管111から被検体132に向けて照射されたX線の照射野を限定する。
【0017】
X線検出部120は、X線発生部110から照射され被検体132を透過したX線を検出する。具体的には、X線検出部120は、平面検出器121、ゲートドライバ122及び投影データ生成部125を備える。平面検出器121は、2次元配列された複数の半導体検出素子を有する。ゲートドライバ122は、平面検出器121に蓄積された電荷を読み出すための駆動パルスを生成する。被検体132を透過したX線は、平面検出器121の半導体検出素子により電荷に変換されて蓄積される。蓄積された電荷は、ゲートドライバ122が供給する駆動パルスによって順次読み出される。
投影データ生成部125は、平面検出器121から読み出された電荷を、X線検出量に応じた投影データに変換する。具体的には、投影データ生成部125は、電荷・電圧変換器123及びA/D変換器124を備える。電荷・電圧変換器123は、平面検出器121から読み出された各電荷を電圧信号に変換する。A/D変換器124は、電荷・電圧変換器123から出力される電圧信号をデジタル信号に変換して投影データとして出力する。
【0018】
画像データ生成部140は、投影データ生成部125から投影データを順次受け取り、受け取った投影データに基づいて被検体132のX線画像データ(以下、単に画像データと称す)を生成する。具体的には、画像データ生成部140は、画像データ記憶回路141及び画像演算回路142を備える。画像データ記憶回路141は、投影データ生成部125で生成された投影データを順次記憶する。画像演算回路142は、画像データ記憶回路141に記憶されている投影データに対してフィルタリング処理等の画像処理を施して画像データを生成する。生成された画像データは、画像データ記憶回路141に記憶される。さらに、画像演算回路142は、必要に応じて、画像データに対して合成処理等の画像処理を施す。
【0019】
画像データ生成部140は、計算部143をさらに備える。この計算部143は、X線画像に設定される関心領域(ROI:Region Of Interest)の平均画素値を計算する。本実施形態では、ROIは、ユーザが操作部170を操作することにより、モニタ装置153に表示されているX線画像に設定される。ROIの平均画素値は、ROIに含まれる複数画素の画素値の平均値を指す。さらに、計算部143は、算出したROIの平均画素値と後述する血管コントラストとに基づいて、ROIの予測平均画素値を計算する。後述するように、本実施形態のX線診断装置100は、血管造影画像の撮影前に、血管造影画像における血管コントラストを予測して、予測結果をROIの濃淡として造影剤注入前のX線画像に表示することができる。計算部143により計算されるROIの予測平均画素値は、血管コントラストを予測表示する際にROI内の各画素の画素値として使用される。
【0020】
画像データ記憶回路141には、表示部150が接続されている。この表示部150は、画像データ生成部140により生成された画像データをX線画像として表示する。具体的には、表示部150は、表示用データ生成回路151、変換回路152及び複数のモニタ装置153を備える。表示用データ生成回路151は、画像データ記憶回路141に記憶されている画像データを受け取り、各モニタ装置153で表示させるための表示用データを生成する。変換回路152は、表示用データ生成回路151により生成された表示用データを映像信号に変換して各モニタ装置153に送出する。各モニタ装置153は、図3に示すように、被検体132のX線画像300を表示する。
【0021】
システム制御部101は、X線診断装置100内の各部を制御する。システム制御部101には、操作部(入力部ともいう)170が接続されている。操作部170は、例えば、キーボード及びマウス等の各種入力デバイスを備え、これら入力デバイスの操作に応じた操作信号をシステム制御部101に送出する。例えば、操作部170は、図3に示されるように、モニタ装置153に表示されているX線画像300にROI301をユーザが設定するために使用される。ROI301の形状は、図3に示される正方形の例に限らず、長方形や円形等の任意の形状とすることができる。
【0022】
さらに、操作部170は、造影剤濃度の予定値、注入速度の予定値、血管径の予定値、及びX線条件等といったユーザからの入力を受け付ける。これらの予定値は、血管造影画像における血管コントラストの予測に使用される。ユーザは、血管造影画像の撮影時に注入する予定の造影剤の濃度を造影剤濃度の予定値として入力し、血管造影画像の撮影時に造影剤を被検体132に注入する予定の速度を注入速度の予定値として入力し、さらに、ROIに含まれる検査又は治療対象の血管径を血管径の予定値として入力する。操作部170から入力されたX線条件は、システム制御部101を介してX線制御部116に送出され設定される。
【0023】
さらに、システム制御部101には、血管コントラスト取得部180が接続されている。血管コントラスト取得部180は、操作部170から入力された造影剤濃度の予定値、注入速度の予定値、血管径の予定値、及びX線条件を受け取る。これらの造影剤濃度の予定値、注入速度の予定値、血管径の予定値、及びX線条件は、条件記憶部182に記憶される。
血管コントラスト取得部180は、条件記憶部182に記憶されている造影剤濃度の予定値、注入速度の予定値、血管径の予定値、及びX線条件で臨床データベース181を参照して、血管コントラストを取得する。臨床データベース181には、造影剤濃度、注入速度、血管径及びX線条件と血管コントラストとの関係を記述した対応表が保持されている。血管コントラストは、下記数式(1)により定義される。
【数1】

【0024】
ここで、Cは血管コントラストを示し、P0は造影剤注入前のX線画像のROIの平均画素値を示し、P1は造影剤注入後のX線画像のROIの平均画素値を示す。即ち、血管コントラストは、X線条件及び撮影角度等の撮影条件を固定した状態で造影剤の注入前と注入後のX線画像データを収集し、造影剤の注入前と注入後のX線画像の同じ位置にROIを設定し、造影剤注入前のX線画像のROIの平均画素値と造影剤注入後のX線画像のROIの平均画素値との差を造影剤注入前のX線画像のROIの平均画素値で割ることにより得られる。臨床データベース181の対応表は、造影剤濃度、注入速度、血管径及びX線条件の組み合わせを様々に変更してX線撮影を行い、造影剤濃度、注入速度、血管径及びX線条件の組み合わせ毎の血管コントラストを算出することにより作成される。
【0025】
次に、造影剤濃度、注入速度及び血管径の予定値を入力する方法の一例を説明する。
一例では、ユーザは、図4に示すようなモニタ装置153に表示される入力画面400により造影剤濃度、注入速度及び血管径の予定値を入力する。この入力画面400には、造影剤濃度の予定値を入力するためのスライダ401、注入速度の予定値を入力するためのスライダ402、及び血管径の予定値を入力するためのスライダ403が表示されている。ユーザが操作部170のマウス等を用いてスライダ401、402、403を動かすことにより、入力する造影剤濃度、注入速度及び血管径の予定値を連続的に変更することができる。
【0026】
図4では、簡単にするために、スライダ401、402、403の各々が0から100までの範囲の値を指定する例が示されている。この例では、各スライダの値が大きいほど入力する予定値が大きくなる。通常、注入する造影剤濃度が高いほど血管造影画像における血管コントラストは大きくなり、同様に、造影剤を注入する速度が速いほど、また、造影剤が流通される血管径が太いほど、血管造影画像における血管コントラストは大きくなる。
【0027】
本実施形態では、入力される造影剤濃度、注入速度及び血管径の予定値が変更されると、変更後の造影剤濃度、注入速度及び血管径の予定値で臨床データベース181が参照されて血管コントラストが取得され、この血管コントラストに応じて造影剤注入前のX線画像300のROIの濃淡が変化する。例えば、図5に示されるようにスライダ401、402、403の値がより大きい値に変更されると、血管コントラスト取得部180により取得される血管コントラストはより大きくなり、その結果、図6に示されるように、X線画像300のROI301がより濃く(黒く)表示されるようになる。
【0028】
次に、図1及び図7を参照して、血管造影画像の撮影前に、血管造影画像における血管コントラストを予測して表示する一連の動作を説明する。
【0029】
図7のステップS701では、画像データ生成部140が、被検体132の画像データを生成する。
具体的には、まず、寝台202の天板131上に被検体132が載置される。システム制御部101から移動制御指示がCアーム・天板機構制御部161へ与えられると、Cアーム・天板機構制御部161は、天板移動機構162及びCアーム回動・移動機構163のそれぞれに駆動信号を送出する。天板移動機構162が駆動信号により作動され、天板131が所望の位置に調整される。また、Cアーム回動・移動機構163が駆動信号により作動され、Cアーム130が所望の位置及び角度に調整される。
【0030】
システム制御部101は、X線制御部116及びX線発生部110にX線照射指令を送出する。これにより、X線制御部116は、予め設定されるX線条件で指定される電圧を発生するための電圧印加制御信号を生成して高電圧発生器117に送出する。高電圧発生器117は、X線制御部116からの電圧印加制御信号に応じた高電圧を発生してX線発生部110に印加する。X線発生部110は、高電圧発生器117から印加された高電圧によりX線を発生し、X線発生部110からのX線は、被検体132に向けられる。
【0031】
X線管111から照射されたX線は、X線絞り器112を通過し、被検体132を透過して平面検出器121に入射する。平面検出器121に入射したX線は、半導体検出素子により電荷に変換され蓄積される。蓄積された電荷は、ゲートドライバ122からの駆動パルスによって読み出される。読み出された電荷は、電荷・電圧変換器123によって電圧信号に変換される。電荷・電圧変換器123からの電圧信号は、A/D変換器124によってデジタル信号に変換されて投影データとして出力される。画像データ生成部140は、このようにして収集された投影データに基づいて、被検体132の画像データを生成する。
【0032】
このステップS701のX線撮影は、例えば位置合わせのために、被検体132に造影剤を注入せずに行われる。このステップS701で生成される画像データは、被検体132に関する造影剤注入前の(即ち、非造影の)画像データである。なお、本実施形態では、血管コントラストの予測に用いる造影剤注入前の画像データが透視画像(静止画像)のデータである場合を例に挙げて説明しているが、これに限らず、透視画像を連続的に撮影した動画像のデータであってもよい。
【0033】
ステップS702では、画像データ生成部140で生成された被検体132の画像データが、表示部150のモニタ装置153にX線画像として表示される。ステップS703では、ユーザにより操作部170が操作されて、X線画像にROIが設定される。ユーザは、例えば検査又は治療対象の血管を含むように、X線画像にROIを設定する。ステップS704では、計算部143が、X線画像のROIの平均画素値を計算する。
【0034】
ステップS705では、システム制御部101が、造影剤を用いる次回のX線撮影に適用されるX線条件を取得するとともに、造影剤濃度の予定値、注入速度の予定値、及び血管径の予定値の各々の初期値を取得する。一例では、ステップS705で取得されるX線条件は、ステップS701の造影剤注入前のX線撮影に適用されたX線条件と同じX線条件とされる。さらに、造影剤濃度及び注入速度の予定値の初期値は、インジェクタ190に設定されている造影剤濃度及び注入速度の値とする。本実施形態では、血管径の予定値の初期値は、システム制御部101に予め設定されている値とする。
【0035】
ステップS706では、取得されたX線条件、造影剤濃度の予定値、注入速度の予定値及び血管径の予定値が条件記憶部182に記憶される。ステップS707では、血管コントラスト取得部180が、条件記憶部182に記憶されているX線条件、造影剤濃度、注入速度及び血管径の予定値で臨床データベース181を参照して、これらのX線条件、造影剤濃度、注入速度及び血管径の予定値で特定される血管コントラストを取得する。
【0036】
ステップS708では、計算部143が、ステップS704で算出されたROIの平均画素値とステップS707で取得された血管コントラストとに基づいて、ROIの予測平均画素値を計算する。計算部143は、例えば上記数式(1)に従って、ステップS707で取得された血管コントラストCとステップS704で算出されたROIの平均画素値P0とから、ROIの予測平均画素値P1を算出する。
【0037】
ステップS709では、システム制御部101は、モニタ装置153に、算出された予測平均画素値を有する部分画像をX線画像のROI上に重ねて表示させる。例えば、画像データ生成部140は、システム制御部101の指示に従って、X線画像のROI内の各画素の画素値をステップS708で算出された予測平均画素値に置き換えた画像データを生成して表示部150に送出する。
【0038】
ステップS710では、ユーザにより操作部170が操作されて、造影剤濃度、注入速度、血管径のうちの少なくとも1つの予定値が変更されたか否かが判断される。一例では、ステップS705で造影剤濃度、注入速度及び血管径の予定値の初期値が取得された直後には、図4に示されるスライダ401、402、403の各々はその初期値に応じた値にセットされる。ユーザは、スライダ401、402、403を動かすことで、造影剤濃度、注入速度及び血管径の予定値を入力若しくは変更する。造影剤濃度、注入速度、血管径のうちの少なくとも1つの予定値が変更された場合、ステップS706に戻り、変更後の造影剤濃度、注入速度、血管径の予定値が条件記憶部182に記憶される。
【0039】
変更後の造影剤濃度、注入速度、血管径の予定値が条件記憶部182に記憶されると、上述したステップS707以降の処理が再び行われる。即ち、血管コントラスト取得部180が条件記憶部182に記憶されているX線条件、造影剤濃度の予定値、注入速度の予定値、及び血管径の予定値で臨床データベース181を参照して、血管コントラストを新たに取得し(ステップS707)、計算部143が、ステップS704で算出された平均画素値とステップS707で新たに取得された血管コントラストとに基づいて、ROIの予測平均画素値を再計算する(ステップS708)。次に、表示部150が、再計算された予測平均画素値を有する部分画像をX線画像のROI上に重ねて表示する(ステップS709)。
【0040】
ユーザは、表示されているROIの濃淡を確認しながら、所望の血管コントラストが得られるように、造影剤濃度、注入速度、及び血管径の予定値を調整する。即ち、所望の血管コントラストが得られるまで、ステップS706からステップS710が繰り返される。
【0041】
ステップS710において造影剤濃度、注入速度及び血管径のいずれの予定値も変更されない場合、図7に示される一連の動作が終了となる。
【0042】
このようにして、X線診断装置100は、ユーザが指定した条件下での造影剤を用いたX線撮影により生成される血管造影画像における血管コントラストを予測して、予測結果をROIの濃淡として造影剤注入前のX線画像に表示することができる。ユーザは、表示されるROIの濃淡を確認して、所望の血管コントラストが得られる造影剤濃度及び注入速度の予定値を、血管造影を行う際の造影剤濃度及び注入速度として決定する。
【0043】
以上のように、本実施形態に係るX線診断装置100は、X線条件、造影剤濃度、注入速度及び血管径と血管コントラストとの関係を記述した対応表を保持する臨床データベース181を備えることにより、ユーザにより指定される条件下で血管造影画像を撮影した場合に得られる血管コントラストを予測し、予測結果を造影剤注入前のX線画像に設定されるROIの濃淡として表示することができる。ユーザは、表示されるROIの濃淡を確認することで、適切な造影剤濃度及び注入速度を血管造影画像の撮影前に決定することができるようになり、その結果、不要な造影剤の被検者への注入を回避することができる。
【0044】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、血管径の初期値は予め設定されている。これに対し、第2の実施形態では、X線画像に設定されたROIに含まれる血管を検出し、検出した血管の直径を血管径の初期値として使用する。
【0045】
図8は、第2の実施形態に係るX線診断装置800を概略的に示している。図8に示されるX線診断装置800は、図1に示されるX線診断装置100の構成に加えて、ROIに含まれる血管を検出してその血管の直径を出力する血管径出力装置801を備えている。血管径出力装置801は、ROI内で複数の血管を検出した場合、検出された血管のうちの最も太い血管の直径を出力する。
【0046】
図9は、血管径出力装置801をより詳細に示している。血管径出力装置801は、図9に示されるように、X線画像入力部901、CT(Computed Tomography)画像入力部902、画像位置合わせ部903及び血管径判断部904を備えている。X線画像入力部901には、画像データ生成部140で生成されたX線画像データが供給される。CT画像入力部902には、図示しないX線CT装置で撮影された3次元CT画像データが供給される。CT画像入力部902は、3次元CT画像データを血管径判断部904へ与えるとともに、3次元CT画像データを2次元CT画像データに投影して画像位置合わせ部903へ与える。画像位置合わせ部903は、X線画像データ及び2次元CT画像データを用いて位置合わせを行う。位置合わせは、X線画像データの骨及び臓器の位置とCT画像の骨及び臓器の位置とを合わせることによりなされる。
【0047】
血管径判断部904は、画像位置合わせ部903から位置合わせ結果及び2次元画像データを受け取り、CT画像入力部902から3次元CT画像データを受け取り、さらに、システム制御部101からROIの位置を示すROI位置情報を受け取る。血管径判断部904は、ROI位置情報に基づいて2次元CT画像におけるROIの位置を決定し、2次元CT画像におけるROIの位置から3次元CT画像におけるROIの位置を決定する。血管径判断部904は、3次元CT画像におけるROIに含まれる血管を検出し、検出した血管の直径を出力する。
【0048】
血管径判断部904の血管検出方法の一例を簡単に説明する。まず、血管径判断部904は、3次元CT画像データから血管領域を抽出し、抽出した血管領域以外の情報を消去した3次元CT画像データを生成する。即ち、血管径判断部904は、血管領域以外の領域の画素値を0にした3次元CT画像データを生成する。次に、血管径判断部904は、この3次元CT画像のROIから0以外の画素値を有する画素を探索する。ROI内に0以外の画素値を有する画素の領域を発見した場合、血管径判断部904は、その領域を血管と判断する。ROI内に0以外の画素値を有する画素が存在しない場合、血管径判断部904は、ROI内に0以外の画素値を有する画素の領域が含まれるようになるまで、ROIのサイズを拡大する。ROIのサイズの変更は、モニタ装置153にシステム制御部101に送出され、モニタ装置153に表示されているX線画像に反映される。
【0049】
なお、血管径出力装置801は、X線CT画像データを使用する例に限らず、予め収集されたMR(Magnetic Resonance)画像、3次元血管造影画像(3-dimensional angiographic picture)等を使用してもよい。また、血管径出力装置801は、図9に示される例に限定されず、ROIに含まれる血管を検出してその直径を出力することができれば、いかなる形態であってもよい。
【0050】
図10は、X線診断装置800の画像処理の一例を示している。図10に示される一連の画像処理は、図7のステップS703とステップS704との間にステップS1001が追加されたものである。ここでは、図7と同じ部分についてはその説明を適宜省略し、図7と異なる部分について説明する。
【0051】
図10では、ステップS701において、画像データ生成部140が、被検体132に関する造影剤注入前の画像データを生成する。ステップS702では、表示部150のモニタ装置153が、X線画像データに基づくX線画像を表示する。ステップS703では、ユーザによりX線画像にROIが設定される。図10のステップS703においてX線画像にROIが設定されると、ステップS1001に進む。
【0052】
ステップS1001では、血管径出力装置801が、設定されたROI内に含まれる血管を検出し、その血管の直径(血管径)を取得する。次に、ステップS704においてROIの平均画素値が計算される。ステップS705では、システム制御部101が、X線条件、並びに、造影剤濃度の予定値、注入速度の予定値及び血管径の予定値の各々の初期値を取得する。本実施形態では、ステップS705で取得される血管径の予定値の初期値は、ステップS1001で取得された血管径とする。
【0053】
図10のステップS706以降の処理は、図7を参照して上述した処理と同じであるので説明を省略する。なお、血管径出力装置801によりROI内の血管径が正確に取得されるので、血管径の予定値を血管径出力装置801により取得された血管径に固定するために、ステップS710において血管径の予定値を変更不可能としてもよい。
【0054】
以上のように、本実施形態に係るX線診断装置800は、ROIに含まれる血管の直径を取得する血管径出力装置801を備えることにより、ROI内の血管径が正確に取得されるようになり、血管造影を行う際の最適な造影剤濃度及び注入速度をより正確に決定することができるようになる。
【0055】
なお、上述した第1及び第2の実施形態では、臨床データベース(データ記憶部ともいう)181が保持する対応表において、血管コントラストがX線条件、造影剤濃度、注入速度及び血管径に対応付けられている例を説明したが、これに限定されない。一例では、対応表において、血管コントラストは、造影剤濃度及びX線条件のみに対応付けられていてもよい。他の例では、対応表において、血管コントラストは、造影剤濃度とともに、造影剤の製造元等のような他の条件に対応付けられていてもよい。
【0056】
また、第1及び第2の実施形態では、X線画像にROIを1箇所だけ設定する例を説明しているが、これに限定されず、X線画像に複数のROIが設定されてもよい。さらに、設定されたROIは、ユーザの操作により、X線画像の任意の位置に適宜変更されてもよい。例えば、第2の実施形態においてROIの位置が変更された場合、変更後のROIに含まれる血管のうちの最も太い血管の直径が検出され、血管径を入力するスライダ403が、検出された血管径に応じた値に自動的に変更される。
【0057】
上述した実施形態では、X線診断装置が上記画像処理を実行する画像処理装置を含む構成として説明したが、画像処理装置を別個に独立した構成とすることもできる。一実施形態に係る画像処理装置は、画像データ生成部140、表示部150、操作部170、血管コントラスト取得部180、臨床データベース181、条件記憶部182、及びこれら各部を制御する制御部(システム制御部101に対応する。)を備える。この画像処理装置は、予め取得された被検体に関する造影剤注入前のX線画像のデータを外部から受け取り、受け取ったX線画像のデータを基に上述した画像処理を実行する。
【0058】
また、本実施形態に係る画像処理装置の各機能は、上述した画像処理を実行するための命令を備える制御プログラムをワークステーション等のコンピュータにインストールし、この制御プログラムをメモリ上で展開することによって実現することもできる。この制御プログラムは、磁気ディスク(例えばハードディスク等)、光ディスク(例えばCD−ROM、DVD等)、半導体メモリ等の記録媒体に記録される。記録媒体は、上記の例に限定されず、コンピュータが読み取り可能な記録媒体であればよく、いずれの形態の記録媒体であってもよい。さらに、制御プログラムは、記録媒体に予め記録される例に限らず、インターネット等の通信ネットワーク経由でダウンロードすることによって提供されてもよい。
【0059】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0060】
100…X線診断装置、101…システム制御部、110…X線発生部、111…X線管、112…X線絞り器、115…高電圧発生部、116…X線制御部、117…高電圧発生器、120…X線検出部、121…平面検出器、122…ゲートドライバ、123…電荷・電圧変換器、124…A/D変換器、125…投影データ生成部、130…Cアーム、131…天板、132…被検体、133…ECGモニタ端子、134…ECG計測部、140…画像データ生成部、141…画像データ記憶回路、142…画像演算回路、143…計算部、150…表示部、151…表示用データ生成回路、152…変換回路、153…モニタ装置、160…機構部、161…Cアーム・天板機構制御部、162…天板移動機構、163…Cアーム回動・移動機構、170…操作部、180…血管コントラスト取得部、181…臨床データベース、182…条件記憶部、190…インジェクタ、401,402,403…スライダ、800…X線診断装置、801…血管径出力装置、901…X線画像入力部、902…CT画像入力部、903…画像位置合わせ部、904…血管径判断部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め取得されたX線画像を表示する表示部と、
参照造影剤濃度及び参照X線条件と血管コントラストとの関係を記述した対応表を保持するデータベースと、
造影剤濃度の予定値及び血管造影画像の撮影時に適用予定のX線条件を入力する入力部と、
前記入力された予定値及びX線条件で前記データベースの前記参照造影剤濃度及び前記参照X線条件を参照して血管コントラストを取得する取得部と、
前記取得された血管コントラストと前記X線画像に設定される関心領域の平均画素値とに基づいて、前記関心領域の予測平均画素値を算出する計算部と、
前記算出された予測平均画素値を有する部分画像を前記関心領域上に重ねて、前記表示部に前記X線画像を表示させる制御部と、
を具備することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記データベースは、前記参照造影剤濃度及び参照X線条件と血管コントラストとの関係を記述した対応表の代わりに、参照造影剤濃度、参照注入速度、参照血管径、及び参照X線条件と、血管コントラストとの関係を記述した対応表を保持し、
前記入力部は、注入速度の予定値及び血管径の予定値をさらに入力し、
前記取得部は、前記入力された造影剤濃度の予定値、注入速度の予定値、血管径の予定値、及びX線条件で前記データベースを参照して、血管コントラストを取得することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記関心領域に含まれる血管を検出して当該血管の直径を出力する血管径出力装置をさらに具備し、
前記血管の直径を前記血管径の予定値として用いることを特徴とする請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記関心領域は、前記X線画像に複数設定されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記入力部は、前記X線画像の前記関心領域の位置を変更可能とすることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の画像処理装置。
【請求項6】
参照造影剤濃度及び参照X線条件と血管コントラストとの関係を記述した対応表を保持するデータベースを備えるコンピュータに、
予め取得されたX線画像を表示する機能と、
造影剤濃度の予定値を入力する機能と、
前記入力された予定値及びX線条件で前記データベースの前記参照造影剤濃度及び前記参照X線条件を参照して血管コントラストを取得する機能と、
前記取得された血管コントラストと前記X線画像に設定される関心領域の平均画素値とに基づいて、前記関心領域の予測平均画素値を算出する機能と、
前記算出された予測平均画素値を有する部分画像を前記関心領域上に重ねて、前記X線画像を表示させる機能と、
を実行させるための画像処理プログラム。
【請求項7】
X線を発生するX線発生部と、
前記X線発生部から発生され被検体を透過したX線を検出する検出部と、
前記検出されたX線に基づいてX線画像データを生成する画像データ生成部と、
前記X線画像データをX線画像として表示する表示部と、
参照造影剤濃度及び参照X線条件と血管コントラストとの関係を記述した対応表を保持するデータベースと、
造影剤濃度の予定値及びX線条件を入力する入力部と、
前記入力された予定値及びX線条件で前記データベースの前記参照造影剤濃度及び前記参照X線条件を参照して血管コントラストを取得する取得部と、
前記取得された血管コントラストと前記X線画像に設定される関心領域の平均画素値とに基づいて、前記関心領域の予測平均画素値を算出する計算部と、
前記算出された予測平均画素値を有する部分画像を前記関心領域上に重ねて、前記表示部に前記X線画像を表示させる制御部と、
を具備することを特徴とするX線診断装置。
【請求項8】
被検体に関する非造影のX線画像のデータを記憶する画像記憶部と、
複数の造影剤濃度に関するデータ及び複数のX線条件に関するデータを、前記複数の造影剤濃度及び前記複数のX線条件にそれぞれ対応付けられる複数の画像コントラストに関するデータとともに記憶するデータ記憶部と、
前記被検体に注入予定の造影剤濃度及び造影画像の撮影時に適用予定のX線条件に対応付けられている画像コントラストのデータを前記データ記憶部から取得する取得部と、
前記取得された画像コントラストに従って前記X線画像の関心領域内の平均画素値から造影画素値を計算する計算部と、
前記計算された造影画素値を有する部分画像を前記X線画像の前記関心領域上に重ねて表示する表示部と、
を具備することを特徴とする画像処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−147934(P2012−147934A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8675(P2011−8675)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】