説明

X線集光装置

【課題】従来よりも光子密度の高い単色X線を発生することができ、単色化されたX線の波長を変更することができるX線集光装置を提供すること。
【解決手段】複数の結晶素子(11a、11b)を備え、
光源と焦点とを通る直線をx軸、該x軸に直交する方向をy軸、入射角を決めるパラメータをαとして、x軸上に位置する長さ2Lの弦を有し、かつx+(y−L/tanα)=L(1−1/tan2α)で表される円弧上に、前記結晶素子が配置され、
前記光源が前記弦の一方の端点(A)に位置し、前記焦点が前記弦の他方の端点(B)に位置し、
前記光源から放射されたX線が前記結晶素子によって反射されて前記焦点に集光するように、前記結晶素子の結晶格子面の方向が決定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線集光装置に関し、特に白色X線を単色化して1点に集めることができるX線集光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線は種々の方法で発生され、種々の用途に使用されている。X線を発生させる方法としては、X線管、シンクロトロン放射を利用してX線を発生する方法、みらくる型放射光発生装置によるX線発生方法、加速器の高エネルギー電子ビームを用いたX線レーザーを発生する方法、パラメトリックX線を発生する方法などが知られている。みらくる型放射光発生装置は、放射光発生装置として、電子蓄積リングを用いた小型の放射光発生装置である。下記特許文献1には、小型低エネルギー電子蓄積リングを用いた小型の放射光発生装置の応用として、卓上型放射光治療診断装置が開示されている。
【0003】
発生したX線は、用途によっては単色化され、集光されて使用される。例えば、下記特許文献2には、内面が全反射面になっている直円筒の鏡でX線を反射させ、反射されたX線を、円筒軸上に配置されたピンホールを通過させることによって、単色化することが開示されている(図9の(a)参照)。また、特許文献2には、直円筒の代わりにトロイダル円筒の鏡を使用して、X線エネルギーにかかわらず、円筒軸上の1点に集光させることも開示されている(図9の(b)参照)。
【特許文献1】特開2005−237730号公報
【特許文献2】特開平10−170699号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
X線を使用する場合、用途によっては光子密度の高い単色X線が必要となる。しかし、従来のX線発生装置および集光光学系では、十分な光子密度の単色X線を得ることはできなかった。例えば、上記特許文献2の直円筒型の鏡を使用する場合には、単色のX線を得ることはできるが、光子密度が十分ではない。また、トロイダル円筒型の鏡を使用すれば、光子密度の高いX線を得ることはできるが、単色化することはできない。さらに、光子密度の高い単色X線の波長を変更することも容易ではなかった。
【0005】
従って、本発明の目的は、従来よりも光子密度の高い単色X線を発生することができ、単色化されたX線の波長を変更することができるX線集光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的は、以下の手段によって達成される。
【0007】
即ち、本発明に係るX線集光装置は、X線を単色化させて集光するX線集光装置であって、
複数の結晶素子を備え、
光源と焦点とを通る直線をx軸、該x軸に直交する方向をy軸、入射角を決めるパラメータをαとして、該x軸上に位置する長さ2Lの弦を有し、かつx+(y−L/tanα)=L(1−1/tan2α)で表される円弧上に、前記結晶素子が配置され、
前記光源が前記弦の一方の端点に位置し、前記焦点が前記弦の他方の端点に位置し、
前記光源から放射されたX線が前記結晶素子によって反射されて前記焦点に集光するように、前記結晶素子の結晶格子面の方向が決定されていることを特徴としている。
【0008】
前記結晶素子は筒状に配置されていることができる。
【0009】
また、前記光源は、電子蓄積リング内に配置されたターゲットであることができる。
【0010】
また、前記結晶素子の位置及び結晶格子面の傾きを調節する機構をさらに備えることができる。
【0011】
また、前記焦点を通過した後に発散するX線を再度集光する光学装置をさらに備え、
前記光学装置が、複数の第2の結晶素子を有し、
前記焦点と第2の焦点とを通る直線をx’軸、該x’軸に直交する方向をy’軸として、該x’軸上に位置する長さ2L’の第2の弦を有し、かつx’+(y’−L’/tanα)=L’(1−1/tan2α)で表される第2の円弧上に、前記第2の結晶素子が配置され、
前記焦点が前記第2の弦の一方の端点に位置し、前記第2の焦点が前記第2の弦の他方の端点に位置し、
前記焦点を通過するX線が前記第2の結晶素子によって反射されて前記第2の焦点に集光するように、前記第2の結晶素子の結晶格子面の方向が決定されていることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、白色X線から、1点に集光させた光子密度の高い単色X線を得ることができる。特に、X線源としてみらくる型放射光発生装置を使用すれば、1ミクロン程度に集光させることが可能である。
【0013】
また、結晶素子の位置及び傾斜角度を調節する機構を装備することによって、白色X線から得られる単色X線の波長を容易に変化させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態に関して詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態に係るX線集光装置1の概略構成を示す斜視図であり、図2は、図1のX線集光装置1の一部を示す断面図(xy面)である。本X線集光装置1は、複数の結晶素子11を所定の位置に配置して構成されている。図2に示したように、各結晶素子11は、x軸を通る平面上で、破線で示した円弧13の上に配置されている。点A及び点Bはx軸上に位置する弦の両端の点である。各結晶素子11は、点Aから放射されたX線のうち、所定波長のX線を点Bの方向に反射(ブラッグ反射)するように結晶格子面が配置されている。
【0016】
図2に示した円弧13は次の式1によって表される。
【0017】
+(y−L/tanα)=L(1−1/tan2α) ・・・(式1)
ここで、Lは、2つの点A、Bを結ぶ弦の長さの1/2であり、パラメータαは円弧13上の任意の点と2つの点A、Bとを結ぶ線の成す角度である。
【0018】
従来技術の楕円ミラーに関しては、楕円の焦点の一方から放射された光は、他方の焦点に集光することが知られている。例えば、図3に示したように、楕円の焦点F1から放射された光は、楕円ミラー14によって反射されて焦点F2に集光する。このとき、入射光と反射光との成す角度は、楕円ミラー14上の各点において異なる。例えば、点Cにおける入射光と反射光との成す角度β1は、点Dにおける入射光と反射光との成す角度β2とは異なる(β1≠β2)。従って、入射角度は楕円上の各点において異なる(θ1≠θ2)。
【0019】
これに対して、図1、2に示した本X線発生装置1では、弦の一方の端点A(以下、光源Aとも記す)から放射されたX線2は、各結晶素子11によって反射されて弦の他方の端点B(以下、焦点Bとも記す)に集光するように、結晶格子面の方向が決定されている。このとき、入射X線と反射X線との成す角度は、円弧13上の各点において等しくなる。例えば、結晶素子11aにおける入射X線と反射X線との成す角度は、結晶素子11bにおける入射X線と反射X線との成す角度と等しく、何れもαである。従って、円弧13上に配置された各結晶素子11への入射角θ(図4参照)は等しくなり、焦点Bに集光するX線の波長は等しくなる。例えば、光源Aから白色X線が放射される場合、ブラッグ反射によって特定の波長のX線のみが焦点Bに集光することになる。即ち、本X線集光装置1によれば、光源から放射されるX線を、単色化して所定の点に集光させることができる。そして、集光されるX線の波長は、結晶素子11への入射角度θによって決まるので、入射方向と反射方向の成す角度αによって決まる。
【0020】
光源Aから放射されるX線を効率的に焦点Bに集光させるには、小さい結晶素子11を隙間無く配置することが望ましいが、結晶素子11の大きさ及び配置する数(即ち、X線発生装置を形成する面積)は、光源AからのX線の発散角、製造コストなどを考慮して適宜設計すればよい。
【0021】
また、図1では、複数の結晶素子11が筒状に配置されているが、結晶素子11の配置はこれに限定されず、光源A及び焦点Bを通る平面上で、式1で表される円弧上に配置されていればよい。
【0022】
あるいは又、結晶を切り出すときに、格子面に平行ではなく、格子面に対して曲率を持たせて切り出すことにより、比較的大きな結晶を用いて構成することができる。
【0023】
一例として、図5〜7に、X線光源としてみらくる型放射光発生装置を用いた場合を示す。放射光発生装置2は、シンクロトロンリング21内に入力ポートから入射する電子22を、パータベータ23及び加速器24で軌道制御及び加速して周回させ、電子ビーム25を形成する。電子ビーム25を形成する電子は、周回軌道上に配置されたターゲット26に入射し、X線27を放射する。放射されたX線27は、出力ポートから取り出され、X線集光装置1aに入射し、X線集光装置1aを構成する結晶素子(図示せず)によってブラッグ反射され、単色化されて点Bに集光される。このX線集光装置1aは、図1のX線集光装置1と同様に、筒状に形成されている。なお、本発明のX線集光装置は、筒状に形成されなくてもよい。
【0024】
図6は、図5の一部の拡大図である。X線集光装置1aを構成する結晶素子11は、上記したように式1で表される円弧上に配置されており、X線集光装置1aは、X線光源であるターゲット26が円弧に対応する弦の一方の端点Aに位置するように配置されている。このようにX線集光装置1aが配置されているので、ターゲット26から放射されるX線27は、X線集光装置1aを構成する結晶素子11によって反射され、弦の他方の端点Bに集光される。これによって、例えば、光源点Aから25cmの位置で6cmの広がりをもつ白色X線の全てを同一波長に単色化して1点(焦点B)に集中させることができ、光子密度を約100倍に高めることが可能となる。また、図6に示したように、焦点Bの位置にピンホール15を配置し、焦点Bから1mmの位置にサンプル16を配置すれば、焦点Bから1mの位置で1000倍の拡大イメージを得ることができる。さらに、フレネルゾーンプレート17を用いれば、解像度30nmを実現することが可能である。
【0025】
また、図6に示したX線集光装置1aの焦点距離(X線集光装置1aと焦点Bとの距離)は比較的短いので、焦点Bにサンプルを配置して結晶構造解析を行うことは容易ではない。これを改善するためには、集光した後に発散するX線を再度集光させる光学系を装備すればよい。例えば、図7に示したように、点Bに対してX線集光装置1aと回転対称な位置に、X線集光装置1aと同じ光学装置1bを配置すれば、点Bで集光したX線を光学装置1bで反射して点Eに集光させることができる。これによって、集光点Eの位置は、光学装置1b、1cから比較的遠くなるので、サンプルの配置が容易になり、本発明のX線集光装置を蛋白質構造解析などに適用することができる。なお、光学装置1bは、X線集光装置1aと同じものに限定されず、単色化されたX線の波長を維持するために、X線集光装置1aによって点B方向に反射される波長のX線を反射することができる光学装置であればよい。
【0026】
また、光源からのX線発散角が小さい場合には、光源から放射されるX線を全てX線集光装置に照射することが容易であるが、X線発散角が大きい場合には、光源から放射されるX線のうち、X線集光装置によって反射されることなく直接焦点を通過するX線が存在する。これを排除するためには、図8に示したように、光源Aと焦点Bとの間に遮蔽物18を備えることが望ましい。遮蔽物18の形状及び大きさは、光源Aから直接焦点Bに向かうX線12aを遮蔽できるように、光源AからのX線の発散角を考慮して適宜設計すればよい。
【0027】
さらに、X線集光装置を構成する各結晶素子の位置及び結晶格子面の方向を調節する機構を備え、角度αを変化させることによって、任意の波長の単色X線を得ることができる。
【0028】
以上、実施の形態を用いて本発明を説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されず、種々の変更を加えて実施することができ、それらも本発明の技術的範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態に係るX線集光装置の概略構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示したX線集光装置の一部を示す断面図である。
【図3】従来の楕円ミラーの光路を示す断面図である。
【図4】図2の一部の拡大図である。
【図5】X線光源としてみらくる型放射光発生装置を用いた場合を示す断面図である。
【図6】図5に示したX線集光装置の拡大図である。
【図7】さらに光学装置を備えて構成する場合を示す断面図である。
【図8】遮蔽物を備えて構成する場合を示す断面図である。
【図9】X線を単色化及び集光させる従来の光学系を示す断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1、1a X線集光装置
1b 光学装置
11、11a、11b 結晶素子
12、12a X線
13 円弧
14 楕円ミラー
15 ピンホール
16 サンプル
17 フレネルゾーンプレート
18 遮蔽物
2 放射光発生装置
21 シンクロトロンリング
22 電子
23 パータベータ
24 加速器
25 電子ビーム
26 ターゲット
27 X線
A、B 弦の端点
F1、F2 楕円の焦点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を単色化させて集光するX線集光装置であって、
複数の結晶素子を備え、
光源と焦点とを通る直線をx軸、該x軸に直交する方向をy軸、入射角を決めるパラメータをαとして、該x軸上に位置する長さ2Lの弦を有し、かつx+(y−L/tanα)=L(1−1/tan2α)で表される円弧上に、前記結晶素子が配置され、
前記光源が前記弦の一方の端点に位置し、前記焦点が前記弦の他方の端点に位置し、
前記光源から放射されたX線が前記結晶素子によって反射されて前記焦点に集光するように、前記結晶素子の結晶格子面の方向が決定されていることを特徴とするX線集光装置。
【請求項2】
前記結晶素子が筒状に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のX線集光装置。
【請求項3】
前記光源が、電子蓄積リング内に配置されたターゲットであることを特徴とする請求項1〜2に記載のX線集光装置。
【請求項4】
前記結晶素子の位置及び結晶格子面の傾きを調節する機構をさらに備えることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のX線集光装置。
【請求項5】
前記焦点を通過した後に発散するX線を再度集光する光学装置をさらに備え、
前記光学装置が、複数の第2の結晶素子を有し、
前記焦点と第2の焦点とを通る直線をx’軸、該x’軸に直交する方向をy’軸として、該x’軸上に位置する長さ2L’の第2の弦を有し、かつx’+(y’−L’/tanα)=L’(1−1/tan2α)で表される第2の円弧上に、前記第2の結晶素子が配置され、
前記焦点が前記第2の弦の一方の端点に位置し、前記第2の焦点が前記第2の弦の他方の端点に位置し、
前記焦点を通過するX線が前記第2の結晶素子によって反射されて前記第2の焦点に集光するように、前記第2の結晶素子の結晶格子面の方向が決定されていることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のX線集光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−250910(P2009−250910A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−102078(P2008−102078)
【出願日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(501038001)株式会社光子発生技術研究所 (13)
【出願人】(502235669)
【Fターム(参考)】