説明

X線高電圧装置

【課題】X線管が放電したとき、画像ノイズの発生を防止するため、あるいはX線管やX線装置を保護するために、放電が検出されると一定時間高電圧の印加が停止されるが、現実的には放電の強度は一定ではなく毎回異なっている。そのため放電の強度が大きい場合、高電圧の印加を停止する時間が終了して再度高電圧が印加されると再び放電することがあるし、逆に放電の強度が小さい場合、必要以上の期間高電圧の印加を停止することにより、必要以上に撮影X線を欠落させることがある。
【解決手段】微分回路11および比較回路15により放電の発生を検出したら、ピーク電圧保持回路12により放電強度に相当する電圧を保持し、電圧・パルス幅変換回路13により放電強度に相当する長さのパルスを発生し、このパルス幅の時間だけ高電圧の発生を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
診断用あるいは産業用に用いられるX線高電圧装置に関する。
【背景技術】
【0002】
診断用あるいは産業用に用いられるX線装置においてX線はX線管の陰極フィラメントを加熱した状態で陽極、陰極間に直流高電圧を印加することにより発生する。図3にこのための高電圧発生装置の回路構成例を示す。交流電源1から供給される交流電力はダイオードブリッジ等により構成される整流回路2によって直流に変換され、コンデンサ等により構成される平滑回路3により平滑化された後、インバータ回路4に入力される。インバータ回路4はフルブリッジ接続された、例えばIGBT等からなる4個のスイッチング素子Q1〜Q4と、これらにそれぞれ逆並列に接続された4個のダイオードD1〜D4により構成されている。インバータ回路4でスイッチングされることにより交流に変換された出力は共振コンデンサCおよび共振インダクタンスLを経て高圧トランス5の一次側コイルに供給される。この結果高圧トランス5の二次側コイルには数十〜150kV程度に昇圧された交流出力が現われる。この高電圧交流出力は高耐圧ダイオードブリッジ等により構成される高圧整流回路6により直流化され、X線管8の陽極、陰極間に管電圧として印加される。
【0003】
この管電圧の値は分圧抵抗等により構成される管電圧検出回路7により検出され、管電圧検出信号として高電圧制御回路10に送られる。高電圧制御回路10は管電圧検出信号を操作パネル(図示しない)等により設定される管電圧設定信号と比較し、両者が一致するようにインバータ回路4のスイッチング周波数またはスイッチングパルス幅を変化させるべくインバータ駆動回路9を制御する。この結果操作パネル等により設定された管電圧がX線管8に印加される(例えば特許文献1参照)。
【0004】
高電圧発生装置の主たる機能は上述の高電圧制御機能であるが、それ以外にもいくつかの機能を有しており、そのうちの一つに以下に述べるX線管の比較的軽微な放電に対して短時間高電圧の印加を停止する機能がある。すなわちX線管8は真空管なので経時変化等による真空度の悪化や陽極ターゲットの劣化等により高電圧印加時に内部で放電を発生することがある。ただし通常初期の段階では放電は比較的軽微であり真空管としての性能は回復可能なのでX線管8は継続して使用できるが、放電が発生した場合できるだけ短時間で停止させることが、画像ノイズ発生の防止やX線管8および組み合わされたX線高電圧装置を含むX線装置の保護につながるため、X線高電圧装置は放電を検出すると高圧トランス5の一次側のインバータ回路4を一定時間停止させる機能を有している。
【0005】
図5はこのために図3の高電圧制御回路10に含まれるインバータ駆動停止信号発生回路19の構成例を示し、図4はその動作を説明するためのタイミングチャートである。そして図4は撮影時間Tの撮影を3回行い、それぞれに強度の異なる比較的軽微な放電が発生したときの動作をゾーン1からゾーン3に分けて示しており、ゾーン1は放電検出回路に検出される比較的強い放電、ゾーン2は放電検出回路に検出されない微弱な放電、ゾーン3は放電検出回路に検出される比較的弱い放電について示している。
【0006】
X線管8が放電した場合瞬間的にX線管8により高電圧が短絡されるため、管電圧検出信号は図4の(A)に示すように急峻に下降する。放電による管電圧の下降は放電することなく正常に高電圧が遮断された場合の高電圧の下降(たとえば図4の(A)のゾーン2の管電圧検出信号の後縁の立下り波形)に比べて極めて急峻でなので、この急峻度の差により放電を検出することができる。具体的には管電圧検出信号は高電圧制御回路10に内蔵された図5に示すインバータ駆動停止信号発生回路19の微分回路11に入力され微分されることにより、図5の(B)に示すようなパルス出力が得られる。このパルスの高さ、すなわち図4の場合負方向の電圧値V1〜V3がそれぞれの放電の強度を表している。微分回路11の出力は比較器15に入力され、高電圧制御回路10内であらかじめ設定された放電検出基準電圧Vrと比較されて、微分回路11の出力が放電検出基準電圧Vrを超えるゾーン1およびゾーン3では、図4の(D)に示すように、微分回路11の出力が放電検出基準電圧Vrを超えた期間デジタル的なHレベルパルスが出力される。一方ゾーン2では微分回路11の出力が放電検出基準電圧Vrを超えないためHレベルパルスは出力されず以降の動作も行われない。すなわちゾーン1およびゾーン3では比較器15の出力は例えば単安定マルチバイブレータにより構成される前縁トリガパルス発生回路18に入力され、図4の(G)に示すように、一定の時間幅tsのパルスが出力される。このパルスはインバータ駆動停止信号として高電圧制御回路10からインバータ駆動回路9に供給され、このパルスの期間インバータ回路4は動作を停止する。従ってX線管8の放電が検出されると、その後一定の時間tsの間高圧トランス5への電力の供給が停止され、X線管8への高電圧の印加が停止される。
【0007】
この結果、図4のゾーン1およびゾーン3の(A)に破線で示すような、放電時に通常発生する不規則な電気的振動現象が抑制され、放電エネルギーによる画像ノイズの発生やX線管やX線装置の損傷等が防止される。そして図4の(D)に示すように、インバータ駆動停止信号は放電検出から一定時間(ts)経過後に消滅するので、この時点でX線曝射開始から撮影時間Tを経過していなければ、残りの期間再度高電圧が印加され、X線が照射される。
【特許文献1】特開平9−190898
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
X線管に比較的軽微な放電が発生したとき、画像ノイズの発生を防止するため、あるいはX線管やX線装置を保護するために、短時間高電圧の印加を停止する機能については上述したとおりであり、放電が検出されると一定時間高電圧の印加が停止されるが、現実的には放電の強度は一定ではなく毎回異なっている。そのため放電の強度が比較的大きい場合、高電圧の印加を停止する時間が終了して再度高電圧が印加されると再び放電することがあり、逆に放電の強度が小さい場合、必要以上の期間高電圧の印加を停止することにより、必要以上にX線撮影を中断することになる。本発明はこのような不具合を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は上記の目的を達成するために、X線管に管電圧として印加する高電圧を発生する高電圧発生手段と、前記管電圧を検出する管電圧検出手段と、管電圧を設定する管電圧設定手段と、前記管電圧検出手段の出力が前記管電圧設定手段の設定値と一致するように前記高電圧発生手段が発生する高電圧を制御する電圧制御手段を有するX線高電圧装置において、前記管電圧検出手段の出力から放電の発生を検出する放電検出手段と、放電の強度を識別する放電強度識別手段と、前記放電検出手段が放電を検出したとき前記放電強度識別手段により識別された放電の強度に対応した期間前記X線管への高電圧の印加を停止する高電圧印加停止手段を設けたことを特徴とするX線高電圧装置を提供する。
【0010】
請求項2記載の発明は上記の目的を達成するために、高電圧発生手段は交流電源に接続される整流・平滑手段と、前記整流・平滑手段から出力される直流出力をスイッチングして交流化するインバータ手段と、前記インバータ手段から出力される交流出力を昇圧する昇圧手段と、前記昇圧手段の出力を整流する高圧整流手段により構成され、電圧制御手段は前記インバータ手段が前記直流出力をスイッチングして交流化するときのスイッチング周波数を制御する周波数制御手段またはスイッチングパルス幅を制御するパルス幅制御手段により構成されることを特徴とする請求項1記載のX線高電圧装置を提供する。
【発明の効果】
【0011】
高電圧印加時にX線管に比較的軽微な放電が発生した場合、X線管やX線装置の保護等のため一定時間高電圧の印加を停止する従来の方法に比べて、本発明により放電強度に応じて高電圧の印加を停止する時間を変化させることによって、放電強度が比較的大きい場合に、高電圧の印加を停止する時間が終了して再度高電圧を印加するとふたたび放電することや、放電の強度が小さい場合に、必要以上の期間高電圧の印加を停止することにより、必要以上にX線撮影を中断する不具合を解消することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1に本発明によるインバータ駆動停止信号発生回路20の構成例を示し、図2にその動作を説明するためのタイミングチャートを示す。そして図2は撮影時間Tの撮影を3回行い、それぞれに強度の異なる比較的軽微な放電が発生したときの動作をゾーン1からゾーン3に分けて示しており、ゾーン1は放電検出回路に検出される比較的強い放電、ゾーン2は放電検出回路に検出されない微弱な放電、ゾーン3は放電検出回路に検出される比較的弱い放電について示している。なお高電圧発生装置の構成は図3に示すとおりであり、図1に示すインバータ駆動停止信号発生回路20は図3の高電圧制御回路10に含まれる。
【0013】
図3において交流電源1の電力を直流化し、インバータ回路4によってより周波数の高い交流に変換して、高圧トランス5によって昇圧し、X線管8に管電圧として印加すること、および管電圧検出回路7により検出された管電圧検出信号を高電圧制御回路10で管電圧設定信号と比較し、両者が一致するようにインバータ回路4を構成する4個のスイッチング素子Q1〜Q4のスイッチング周波数またはスイッチングパルス幅を制御して、管電圧設定信号により設定される管電圧を得ることは背景技術の項で述べたとおりなのでここでは詳細な説明は省略する。
【0014】
X線管8が放電した場合、X線管8により瞬間的に高電圧が短絡されるため、管電圧検出回路7から高電圧制御回路10内の微分回路11に入力される管電圧検出信号は図2の(A)に示すように急峻に下降する。放電による管電圧の下降は放電することなく正常に高電圧が遮断された場合の管電圧の下降(たとえば図2の(A)のゾーン2の管電圧検出信号の後縁の立下り波形)に比べて極めて急峻でなので、この急峻度の差により放電を検出することができる。具体的には管電圧検出信号が微分回路11に入力され微分されることにより、図2の(B)に示すようなパルス出力が得られる。このパルスの高さ、すなわち図2の場合負方向の電圧値V1〜V3がそれぞれの放電の強度を表している。微分回路11の出力は比較器15に入力され、高電圧制御回路10内であらかじめ設定された放電検出基準電圧Vrと比較されて、微分回路11の出力が放電検出基準電圧Vrを超えるゾーン1およびゾーン3では、図2の(D)に示すように、微分回路11の出力が放電検出基準電圧Vrを超えた期間デジタル的なHレベルパルスが出力される。一方ゾーン2では微分回路11の出力が放電検出基準電圧Vrを超えないためHレベルパルスは出力されず以降の動作も行われない。すなわちゾーン1およびゾーン3の場合、比較回路15から出力されたパルスが電圧・パルス幅変換回路13のスタート端子に入力されて変換動作の開始を指示する。
【0015】
また微分回路11の出力はピーク電圧保持回路12にも入力される。ピーク電圧保持回路12は入力される電圧値が内部的にあらかじめ設定された制限値Vmax以下のときはそのままの値を入力値とし、制限値Vmax以上のときは制限値Vmaxを入力値とする入力電圧制限部を内蔵しており、かつ入力電圧制限部を通過した入力電圧値と内部に記憶されている電圧値を比較して入力値が記憶値より大きければ入力値を新たな記憶値として記憶する、比較および記憶更新の動作を常時実行している。そして内部に記憶された電圧値は常時出力端子から外部に出力されるとともに、リセット端子にHレベルの信号が入力されるとクリアされる。その後リセット端子の信号がLレベルになった時点でピーク電圧保持回路12は再度前述の比較および記憶動作を再開する。
【0016】
電圧・パルス幅変換回路13は自身のスタート端子がLレベルからHレベルに変化するごとにピーク電圧保持回路12から入力される電圧値に対応したパルス幅のパルスを出力する機能を有しているので、図2の(F)に示すように、ゾーン1の場合電圧値V1に対応したパルス幅t1のパルスを、ゾーン3の場合電圧値V3に対応したパルス幅t3のパルスを出力する。そしてこれらのパルスがインバータ駆動停止信号としてインバータ駆動回路9に出力されることにより、放電が検出されてからゾーン1の場合t1、ゾーン3の場合t3の間インバータ回路4が動作を停止し、X線管8への高電圧の印加が停止される。
【0017】
この結果、図2のゾーン1およびゾーン3の(A)に破線で示すような、放電時に通常発生する不規則な電気的振動現象が抑制され、放電エネルギーによる画像ノイズの発生やX線管やX線装置の損傷等が防止される。そして図2の(F)に示すように、インバータ駆動停止信号は放電を検出した時点からそれぞれの放電強度に対応した期間、すなわちゾーン1ではt1、ゾーン3ではt3を経過した後に消滅するので、この時点でX線曝射開始から撮影時間Tを経過していなければ、残りの期間再度高電圧が印加され、X線が照射される。
【0018】
電圧・パルス幅変換回路13から出力されるインバータ駆動停止信号は後縁トリガパルス発生回路17にも入力される。後縁トリガパルス発生回路17は、図2の(H)に示すように、インバータ駆動停止信号の後縁で短いパルスを発生してピーク電圧保持回路12のリセット端子に出力する。これによりピーク電圧保持回路12は高電圧の印加が再開される時点でそれまで内部に記憶していた電圧値をリセットし、その後の入力値に対する比較および記憶動作を再開する。
【0019】
上記実施例で高電圧発生装置はインバータ回路を用いたいわゆるスイッチングレギュレータ方式としたが、例えばテトロード管等を用いたシリーズレギュレータ方式であってもよい。
【0020】
本発明は通常の透視、撮影を行うX線装置だけでなく、X線CT用高電圧装置にも有効であり、また医療用だけでなく産業用X線高電圧装置等、X線高電圧装置全般に有効である。
【産業上の利用可能性】
【0021】
診断用あるいは産業用に用いられるX線高電圧装置に関する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明によるインバータ駆動停止信号発生回路の構成例を示すブロック図である。
【図2】本発明によるインバータ駆動停止信号発生回路の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【図3】高電圧発生装置の構成例を示すブロック図である。
【図4】従来方式によるインバータ駆動停止信号発生回路の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【図5】従来方式によるインバータ駆動停止信号発生回路の構成例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0023】
1:交流電源
2:整流回路
3:平滑回路
4:インバータ回路
Q1:スイッチング素子
Q2:スイッチング素子
Q3:スイッチング素子
Q4:スイッチング素子
D1:ダイオード
D2:ダイオード
D3:ダイオード
D4:ダイオード
C:共振コンデンサ
L:共振インダクタンス
5:高圧トランス
6:高圧整流回路
7:管電圧検出回路
8:X線管
9:インバータ駆動回路
10:高電圧制御回路
11:微分回路
12:ピーク電圧保持回路
13:電圧・パルス幅変換回路
15:比較回路
17:後縁トリガパルス発生回路
18:前縁トリガパルス発生回路
19:インバータ駆動停止信号発生回路
20:インバータ駆動停止信号発生回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線管に管電圧として印加する高電圧を発生する高電圧発生手段と、前記管電圧を検出する管電圧検出手段と、管電圧を設定する管電圧設定手段と、前記管電圧検出手段の出力が前記管電圧設定手段の設定値と一致するように前記高電圧発生手段が発生する高電圧を制御する電圧制御手段を有するX線高電圧装置において、前記管電圧検出手段の出力から放電の発生を検出する放電検出手段と、放電の強度を識別する放電強度識別手段と、前記放電検出手段が放電を検出したとき前記放電強度識別手段により識別された放電の強度に対応した期間前記X線管への高電圧の印加を停止する高電圧印加停止手段を設けたことを特徴とするX線高電圧装置。
【請求項2】
高電圧発生手段は交流電源に接続される整流・平滑手段と、前記整流・平滑手段から出力される直流出力をスイッチングして交流化するインバータ手段と、前記インバータ手段から出力される交流出力を昇圧する昇圧手段と、前記昇圧手段の出力を整流する高圧整流手段により構成され、電圧制御手段は前記インバータ手段が前記直流出力をスイッチングして交流化するときのスイッチング周波数を制御する周波数制御手段またはスイッチングパルス幅を制御するパルス幅制御手段により構成されることを特徴とする請求項1記載のX線高電圧装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−220514(P2007−220514A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−40524(P2006−40524)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】