説明

Zn錯体含有層状ポリマー及びその製造方法、炭酸カルシウム合成触媒並びに炭酸カルシウムの合成方法

【課題】炭酸カルシウム合成触媒及びこれを用いた炭酸カルシウムの合成方法を提供する。
【解決手段】ケイ素原子を中心原子とする複数の4面体が配列した4面体シート、及び金属原子を中心原子とする複数の8面体が配列し前記4面体シートと酸素原子を介して結合している8面体シートを含み、一般式(1): (RSiO(4−n)/22/ZO(HO) ・・・(1)[式中、Rはそれぞれ独立に1価の有機基を示し、nは1〜3の整数を示し、xは0.5〜2の数値を示し、Mはそれぞれ独立に金属原子又はそのイオンを示し、Zは2又は3を示し、wは0〜2の数値を示し、Rの少なくとも一部は亜鉛イオンと錯形成しうる含窒素官能基を有する錯形成性有機基である。]で表される組成を有する層状ポリマーにおける錯形成性有機基の少なくとも一部が亜鉛イオンと錯形成している、Zn錯体含有層状ポリマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Zn錯体含有層状ポリマー及びその製造方法、炭酸カルシウム合成触媒並びに炭酸カルシウムの合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
貝類や珊瑚は、海水中の二酸化炭素(CO)及びカルシウムイオン(Ca2+)から、体内で規則的な構造の炭酸カルシウム(CaCO)を生成(石灰化)している。生体内のpH6.5〜9.5の環境下で進行する石灰化は、反応式:
CO + HO → HCO + H
2HCO + Ca2+ → CaCO↓ + CO + H
で表される。
【0003】
したがって、効率的に炭酸カルシウムを生成するには、十分な濃度の炭酸水素イオン(HCO)を供給する必要がある。このため、貝珊瑚等は、COの水和反応の触媒として働くカーボニックアンヒドラーゼ(CA)と呼ばれる酵素を有している。CAは分子量約30,000で、その活性中心はZnに3つのイミダゾールと1つの水が配位した四面体構造の錯体であると考えられている。
【0004】
一方、工業的な炭酸カルシウムの製造方法としては、石灰乳及び緑液を特定のアルカリ濃度下で連続的に供給して炭酸カルシウムを生成させる方法(特許文献1)、水酸化カルシウムを主成分とする水性懸濁液中にアラゴナイト系針状カルシウムを配合し、炭酸ガスを吹き込みながら特定の値以上の攪拌力で攪拌する方法(特許文献2)、消石灰とMg2+イオンと水とからなる懸濁液を、層内で流れ方向が異なる水流により混合するとともに、懸濁液中に炭酸ガスを導通させる方法(特許文献3)等が知られている。
【特許文献1】特開2002−234725号公報
【特許文献2】特開2000−272919号公報
【特許文献3】特開2001−354416号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、炭酸カルシウムには、カルサイト、アラゴナイト、バテライトの3種の同質異像(結晶系)があり、炭酸カルシウムの製造においては、これらの中でも工業的に有用性の高いアラゴナイトを効率的に得ることが望ましい。しかしながら、一般に、通常の無機化学的な手法で合成する場合カルサイトが最も生成しやすく、多くの方法では後処理によりアラゴナイト化する努力がなされている。
【0006】
直接アラゴナイトを得る無機化学的な方法として、例えば特許文献3に記載の方法があるが、この方法の場合、炭酸カルシウムが生成するようなpHにおいては二酸化炭素から炭酸水素イオンへの転換が進行し難いため、多量の炭酸ガスを系中に吹き込む必要があった。
【0007】
そこで、本発明は、多量のガスを吹き込むことなく大気中の炭酸ガスからアラゴナイト系の炭酸カルシウムを選択的に直接生成させることを可能とする炭酸カルシウム合成触媒及びこれを用いた炭酸カルシウムの合成方法を提供することを目的とする。また、本発明はこの炭酸カルシウム合成触媒として用いることのできるZn錯体含有層状ポリマー及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、ケイ素原子を中心原子とする複数の4面体が配列した4面体シート、及び金属原子を中心原子とする複数の8面体が配列し上記4面体シートと酸素原子を介して結合している8面体シートを含み、一般式(1):
(RSiO(4−n)/22/ZO(HO) ・・・(1)
[式中、Rはそれぞれ独立に1価の有機基を示し、nは1〜3の整数を示し、xは0.5〜2の数値を示し、Mはそれぞれ独立に金属原子又はそのイオンを示し、Zは2又は3を示し、wは0〜2の数値を示し、Rの少なくとも一部は亜鉛イオンと錯形成しうる含窒素官能基を有する錯形成性有機基である。]
で表される組成を有する層状ポリマーにおける錯形成性有機基の少なくとも一部が亜鉛イオンと錯形成している、Zn錯体含有層状ポリマーである。
【0009】
上記本発明のZn錯体含有層状ポリマーは、ケイ素原子を中心原子とする複数の4面体が配列した4面体シートと、金属原子を中心原子とする複数の8面体が配列するとともに4面体シートと酸素原子を介して結合している8面体シートとが積層した有機ケイ素系層状ポリマーの有機側鎖部分に亜鉛イオンと錯形成しうる含窒素官能基を導入した上で、これを亜鉛イオンに配位させることによりZn錯体を形成させたものである。有機ケイ素系層状ポリマーは、自己組織化的に層状構造を形成している無機/有機複合体であって、スメクタイト等の層状フィロケイ酸塩と類似の層状構造の無機部を有するとともに、その無機部における4面体の中心原子であるケイ素原子と共有結合した有機側鎖を有するものである。このような構成を有していることによって、本発明のZn錯体含有層状ポリマーは、炭酸カルシウムの合成触媒として用いたときに、多量のガスを吹き込むことなく大気中の炭酸ガスからアラゴナイト系の炭酸カルシウムを選択的に直接生成させることが可能となった。
【0010】
本発明のZn錯体含有層状ポリマーの製造方法は、一般式(10):
Si(OR4−n ・・・(10)
[式中、Rはそれぞれ独立に1価の有機基を示し、nは1〜3の整数を示し、Rはそれぞれ独立に置換基を有していてもよいアルキル基を示す。]
で表されるオルガノアルコキシシランを金属化合物と水熱合成法の条件下で反応させることにより、ケイ素原子を中心原子とする複数の4面体が配列した4面体シートと、金属原子を中心原子とする複数の8面体が配列し上記4面体シートと酸素原子を介して結合している8面体シートと、を含み、上記式(1)で表される組成を有する層状ポリマーを生成させる工程と、当該層状ポリマー中の含窒素官能基の少なくとも一部を亜鉛イオンと錯形成させる工程と、を備える。
【0011】
この製造方法によれば、層状ポリマーを生成させる工程において水熱合成法を採用したことにより、有機側鎖が導入された層状ポリマーが結晶性の高い状態で得られる。結晶性の高い層状ポリマーを亜鉛イオンと反応させることによって、上記本発明のZn錯体含有層状ポリマーを効率的に且つ確実に得ることができる。
【0012】
本発明の炭酸カルシウム合成触媒は、上記本発明のZn錯体含有層状ポリマーを含有する。そして、本発明の炭酸カルシウムの合成方法は、二酸化炭素及びCa2+から上記本発明の炭酸カルシウム合成触媒の存在下で炭酸カルシウムを生成させる方法である。本発明の炭酸カルシウム合成触媒を用いることにより、多量のガスを吹き込むことなく大気中の炭酸ガスからアラゴナイト系の炭酸カルシウムを選択的に直接生成させることが可能となる。このような効果が得られるメカニズムは必ずしも明らかではないが、例えば、天然CAの活性中心と構造が類似するZn錯体が有機側鎖部分において規則的に配列していることにより、天然CAと類似の作用でかかる効果が発現したものと本発明者は推察している。但し、本発明はかかる作用を奏するものに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、多量のガスを吹き込むことなく大気中の炭酸ガスからアラゴナイト系の炭酸カルシウムを選択的に直接生成させることを可能とする炭酸カルシウム合成触媒及びこれを用いた炭酸カルシウムの合成方法が提供される。
【0014】
また、本発明の炭酸カルシウムの合成方法によれば、数百ppmのような空気中に自然に含まれる濃度の二酸化炭素を、攪拌等によるエネルギー消費を伴うことなく取り込んで炭酸カルシウムを生成させることが可能であり、大気中の二酸化炭素削減を目的とする用途への応用も期待される。
【0015】
本発明の炭酸カルシウム合成触媒は水に膨潤してゲル状となるため、このゲル状物で覆った箇所において選択的に炭酸カルシウムを生成させることによって、炭酸カルシウム層のパターニングが可能となる。また、天然のCAの場合、反応条件の制約や安定性の点から工業的な炭酸カルシウムの合成への適用は困難であるが、本発明の炭酸カルシウム合成触媒は安定であり、工業的にも容易に適用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
本発明のZn錯体含有層状ポリマーは、ケイ素原子を中心原子とする複数の4面体が配列した4面体シートと、金属原子を中心原子とする複数の8面体が配列し上記4面体シートと酸素原子を介して結合している8面体シートと、を含む層状ポリマーである。中心原子としての金属原子は、イオン化したものを含む。
【0018】
図1は、本発明に係るZn錯体含有層状ポリマーの一実施形態を模式的に示す概略図である。図1に示すように、本実施形態に係るZn錯体含有層状ポリマーにおいては、ケイ素原子を中心とする4面体が複数個平面状に配列した4面体シートと、Mgを中心原子とする8面体が複数個平面状に配列した8面体シートとが、酸素原子を介して結合した構造を有する。4面体構造の中心原子であるケイ素原子の一部又は全部は、有機側鎖部分としての有機基で置換されている。それぞれの有機側鎖部分は末端にイミダゾリニル基を有しており、3個のイミダゾリニル基がZnイオンに配位することによりZn錯体が形成されている。
【0019】
本実施形態に係るZn錯体含有層状ポリマーは、通常、図1に示すような構造が複数連続した部分を備える高分子量体の複数が、その有機側鎖部分を層間に挟みながら積み重なった状態で存在している。ただし、Zn錯体含有層状ポリマーは図1に示す構造のみから構成されるものではなく、例えば、ケイ素原子が水酸基で置換されている部分、Mgが水酸基で置換されている部分、有機側鎖においてZn錯体が形成されていない部分等を含んでいてもよい。
【0020】
ここで、本実施形態に係るZn錯体含有層状ポリマーにおいて、上記有機側鎖部分以外の部分を構成する無機部分は、Si−O四面体シートと金属酸化物八面体シートから構成される層状ケイ酸塩と類似の構造を有している。このような構造を有する鉱物(層状ケイ酸塩)としては、パイロフィライト(AlSi10(OH))、タルク(MgSi10(OH))等が知られている。例えば、タルクについてその組成を四面体シート、八面体シート及び水酸基に分けて表記すると、(SiO4/3(MgO)(HO)1/3と表すことができる。この表記方法に倣うと、Zn錯体を形成させるための層状ポリマーの組成は、式(1):
(RSiO(4−n)/22/ZO(HO) ・・・(1)
で表すことができる。式(1)は、層状ポリマーにおいて、8面体シート部分(M2/ZO)1モルに対して、4面体シート部分(RSiO(4−n)/2)の比率がxモルであり、構造水(HO)の比率がwモルであることを意味する。
【0021】
式(1)中、Rはそれぞれ独立に1価の有機基を示し、層状ポリマー中のRの一部又は全部は亜鉛イオンと錯形成しうる1又は2以上の含窒素官能基を有する錯形成性有機基である。錯形成性有機基は、イミダゾリニル基、イミダゾリル基、ピリジル基、アミノ基及びアミド基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を、亜鉛イオンと錯形成しうる含窒素官能基として有することが好ましい。これらの中でも、イミダゾリニル基及びイミダゾリル基が特に好ましい。
【0022】
錯形成性有機基は、例えば、イミダゾリニル基を有する場合には下記一般式(11a)又は(12a)で、イミダゾリル基を有する場合には下記一般式(13a)、(14a)又は(15a)で、ピリジル基を有する場合には下記一般式(16a)で、アミノ基を有する場合には下記一般式(17a)、(18a)又は(19a)で、アミド基を有する場合には下記一般式(20a)でそれぞれ表される。
【0023】
【化1】

【0024】
式(11a)〜(20a)において、R10はそれぞれ独立に、置換基を有しいてもよいアルキレン基(好ましくはエチレン基又はプロピレン基)等の2価の有機基(アミノ基を有するものを除く。)を示す。式(17a)〜(19a)において、R11は、それぞれ、置換基を有していてもよいアルキル基(好ましくはメチル基、エチル基又はプロピル基)又は水素原子を示す。式(20a)において、R12は置換基を有していてもよいアルキル基、アミノ基、置換基を有していてもよいアルキルアミノ基又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を示す。
【0025】
式(1)において、nは1〜3の整数を示し、1であることが好ましい。xは0.5〜2の数値を示し、1〜2であることが好ましい。
【0026】
Mはそれぞれ独立に金属原子(金属イオンを含む)示す。金属原子は、Mg、Zn、Al、Fe、Li、Mn、Fe、Cu、Co、Ni、Cd及びPbからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でも、得られるZn錯体含有層状ポリマーの炭酸カルシウム合成触媒活性の点から、Mg及びZnが好ましい。Zは2又は3を示し、Mの価数に対応する数値である。wは構造水として含まれる水の比率に対応する数値であり、本実施形態においては、通常、1/3〜2である。
【0027】
以上のようなZn錯体含有層状ポリマーは、例えば、一般式(10):
Si(OR4−n ・・・(10)
で表されるオルガノアルコキシシランを金属化合物と水熱合成法の条件下で反応させることにより上記式(1)の組成を有する層状ポリマーを生成させる工程と、当該層状ポリマー中の含窒素官能基の少なくとも一部を亜鉛イオンと錯形成させる工程と、を備える製造方法によって、好適に得ることができる。
【0028】
式(10)におけるR及びnは、式(1)におけるR及びnとその好適な態様も含めて同義のものである。Rはそれぞれ独立に置換基を有していてもよいアルキル基(好ましくはメチル基又はエチル基)を示す。
【0029】
式(10)で表されるオルガノアルコキシシランとしては、下記一般式(11)〜(20)で表される化合物が挙げられる。これら式において、R10、R11及びR12は、式(11a)〜(20a)におけるR10、R11及びR12と同義である。
【0030】
【化2】

【0031】
オルガノアルコキシシランの好適な具体例としては、式(11)の化合物であるN−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−4,5−ジヒドロイミダゾール(又は3−(2−イミダゾリン−1イル)プロピルトリエトキシシラン)、式(16)の化合物である2−(2−ピリジル)エチルトリメトキシシラン、式(17)の化合物である3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−(3−アミノフェノキシ)プロピルトリメトキシシラン、式(18)の化合物であるN−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、N−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−N’−(4−ビニルベンジル)エチレンジアミン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、式(19)の化合物である3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピルトリメトキシシラン、式(20)の化合物であるトリエトキシシリルプロピルエチルカルバマート、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)グルコンアミド、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4−ヒドロキシブチルアミド、N−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]マレインアミド酸、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]尿素が挙げられる。
【0032】
以上のような化合物を1種又は複数種組み合わせたオルガノアルコキシシランを、金属化合物と反応させる。オルガノアルコキシシランと反応させる金属化合物としては、塩化物、硝酸塩等の金属塩や金属アルコキシドが好適に用いられる。例えば、Mgを中心原子とする8面体シートを形成させる場合、塩化マグネシウム6水和物等のマグネシウム塩を、室温、還流若しくは水熱合成の条件でオルガノアルコキシシランと反応させる。反応は、室温、還流若しくは水熱合成いずれの場合ともそれぞれの条件として通常採用されている条件下で行うことができる。具体的には、例えば、水熱合成の条件の場合、オートクレーブ等の高圧容器内で、水酸化ナトリウム等によりアルカリ性とした水を溶媒として、60〜150℃程度に加熱して反応を行うことができる。反応時間は通常8〜200時間程度である。反応の仕込み比は、金属化合物中の金属原子1当量に対して、オルガノアルコキシシラン中のトリアルコキシシリル基が0.5〜2当量となるようにすることが好ましい。この仕込み比が、生成する層状ポリマーの組成を表す式(1)におけるxに相当する。
【0033】
生成した層状ポリマーを、水等の溶媒中で硝酸亜鉛6水和物等の亜鉛塩と反応させることにより、Zn錯体含有層状ポリマーを生成させることができる。この反応は、通常、室温で、好ましくは攪拌しながら、3〜24時間程度行う。反応の仕込み比は、層状ポリマー中に存在すると見積もられる錯形成性の含窒素官能基1当量に対して、Zn2+が好ましくは1/3〜1当量程度となるようにする。錯形成を十分に進行し易くするために、反応液のpHを中性〜弱アルカリ性(好ましくはpH7〜9程度)に保つことが好ましい。そのためには、アルカリ溶液の添加や、緩衝液の使用が効果的である。なお、層状ポリマーを生成させる上記工程において、オルガノアルコキシシランと亜鉛化合物を反応させる場合には、層状ポリマーの生成と同時に、導入された有機側鎖部分におけるZn錯体を生成させることもできる。すなわち、両工程を同時に行うこともできる。
【0034】
上記Zn錯体含有層状ポリマーからなる炭酸カルシウム合成触媒の存在下で、二酸化炭素及びCa2+から炭酸カルシウムを生成させる方法により、アラゴナイト系の炭酸カルシウムを合成することができる。すなわち、本発明の炭酸カルシウム合成触媒は、アラゴナイト系炭酸カルシウムの合成触媒として特に有用である。炭酸カルシウムの合成は、例えば、硝酸カルシウム4水和物等のカルシウム塩を溶解させるとともに緩衝液等により所定のpH(好ましくはpH7〜9)としたCa2+含有水溶液中にZn錯体含有層状ポリマーを分散させた反応液を用いて行うことができる。この場合、炭酸ガスを含有する雰囲気下で、基板を上記反応液に接触させることにより、基板上に炭酸カルシウムを生成させることができる。この方法によれば、炭酸ガスを反応液中に強制的に導通させなくとも、アラゴナイト系の炭酸カルシウムを選択的に合成することができる。雰囲気中の炭酸ガス濃度は通常の大気中の濃度でよく、具体的には、300〜2000ppm程度が好ましい。反応液の温度は、炭酸ガスの溶解度等の点から、0〜30℃が好ましい。炭酸カルシウムの生成を促進するため、基板にはセルロース等を塗布しておくことが好ましい。
【0035】
Zn錯体含有層状ポリマーは水等を含ませることにより膨潤してゲル状物となる。すなわち、Zn錯体含有層状ポリマー、Ca2+及び水を含有するアルカリ性のゲル状物を調製することが可能である。したがって、このゲル状物からなる層を基板上に形成させ、これを炭酸ガス雰囲気下に置くことにより、基板上に炭酸カルシウムを生成させることもできる。この方法の場合、基板上に所定のパターンで上記ゲル状物からなる層を形成させることにより、炭酸カルシウム層を所望のパターンにパターニングすることも可能になる。従来の炭酸カルシウムの合成方法の場合、炭酸カルシウムは粉末として得られ、パターニングされた炭酸カルシウム層を直接形成させることは困難であったが、本発明の炭酸カルシウム合成触媒によればこれを容易に行うことができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
1.実験操作
(1)Zn錯体含有層状ポリマーの合成
3−(2−イミダゾリン−1−イル)プロピルトリエトキシシラン(FLUKA社製、以下「ImPTES」という。)、アルミニウムsec−ブトキシド(Al sec-butoxide)、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(チッソ(株)社製)、塩化マグネシウム6水和物(MgCl・6HO)、硝酸亜鉛6水和物、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(1N NaOH)、エタノール(EtOH)、塩化アルミニウム6水和物、テトラヒドロフラン(THF)、50mmol/Lベロナール緩衝液(以上、和光純薬工業(株)製)を出発原料として用いた。
【0038】
(実施例1)
ImPTES13.7g(0.050mol)をイオン交換水50mLに加えて攪拌した。これに塩化マグネシウム6水和物5.09g(0.025mol)をイオン交換水50mLに溶解した水溶液を加えて攪拌した。これに更に1mol/L水酸化ナトリウム水溶液100mLを加えて30分間攪拌した。その後、反応液をテフロン(登録商標)容器に入れ、ステンレスジャケットにより密閉し、120℃で48時間水熱合成条件で処理した後、生成した沈殿物をろ別し、水洗した後真空乾燥して、イミダゾリニル基が側鎖に導入された層状ポリマー(以下場合により「#1」という。)を得た。
【0039】
得られた層状ポリマー#1の1gを20mLのイオン交換水中に分散し、攪拌により懸濁させた。そこに0.44g(0.0015mol)の硝酸亜鉛6水和物を添加し、室温で攪拌することにより、層状ポリマー#1をZn2+と反応させた。反応液をそのまま24時間放置し、固形物をろ過、水洗後、真空乾燥して、イミダゾリニル基がZn2+と錯形成したZn錯体含有層状ポリマー(以下場合により「#1+Zn」という。)を粉末として回収した。
【0040】
(実施例2)
ImPTES13.7g(0.050mol)をイオン交換水50mLに加えて攪拌した。これに硝酸亜鉛6水和物7.44g(0.025mol)をイオン交換水50mLに溶解した水溶液を加えて攪拌した。これに更に1mol/L水酸化ナトリウム水溶液100mLを加えて30分間攪拌した。その後、反応液をテフロン(登録商標)容器に入れ、ステンレスジャケットにより密閉し、120℃で7日間水熱合成条件で処理した後、生成した沈殿物をろ別し、水洗した後真空乾燥して、イミダゾリニル基が側鎖に導入されるとともに、イミダゾリニル基の一部がZn錯体を形成している層状ポリマー(以下場合により「#2」という。)を得た。
【0041】
(実施例3)
3−アミノプロピルトリエトキシシラン44.27g(0.20mol)をイオン交換水200mLに加えて攪拌した。これに塩化マグネシウム6水和物20.36g(0.10mol)をイオン交換水200mLに溶解した水溶液を加えて攪拌した。これに更に1mol/L水酸化ナトリウム水溶液400mLを加えて30分間攪拌した。その後、反応液をテフロン(登録商標)容器に入れ、ステンレスジャケットにより密閉し、120℃で7日間水熱合成条件で処理した後、生成した沈殿物をろ過、水洗した後真空乾燥して、アミノ基が側鎖に導入された層状ポリマー(以下場合により「#3」という。)を得た。
【0042】
得られた層状ポリマー(#3)1gをイオン交換水100mL中に分散し、攪拌により懸濁させた。そこに、硝酸亜鉛6水和物1.33gをイオン交換水100mLに溶解した水溶液を加えて攪拌した。その後、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液6.42gを滴下することによって、pHが8.5となるように調整した。そのまま1日室温で放置した後、懸濁物をろ別し、水洗を5回繰り返し余剰の亜鉛イオンを洗浄した後、真空乾燥して、アミノ基がZn2+と錯形成したZn錯体含有層状ポリマー(以下場合により「#3+Zn」という。)の粉末を得た。
【0043】
(実施例4)
硝酸亜鉛6水和物1.33g(4.46mmol)を、50mmol/Lベロナール緩衝液(pH8.6)200mLに添加し、攪拌して溶解させた。この溶液に、実施例3で得られた層状ポリマー(#3)1gを加え、攪拌して分散させた。そのまま1日放置した後、懸濁物をろ別し、水洗を5回繰返して余剰の亜鉛イオンを除去した後、真空乾燥して、アミノ基がZn2+と錯形成したZn錯体含有層状ポリマー(以下場合により「#4+Zn」という。)の粉末を得た。
【0044】
(実施例5)
ImPTES54.88g(0.20mol)をイオン交換水200mLに加えて攪拌した。これに塩化マグネシウム6水和物20.36g(0.10mol)をイオン交換水200mLに溶解した水溶液を加えて攪拌した。これに更に1mol/L水酸化ナトリウム水溶液400mLを加えて30分間攪拌した。その後、反応液をステンレスジャケットにより密閉し、120℃で7日間水熱合成条件で処理した後、生成した沈殿物をろ別し、水洗した後真空乾燥して、イミダゾリニル基が側鎖に導入された層状ポリマー(以下場合により「#5」という。)を得た。
【0045】
得られた層状ポリマー#5の1gをイオン交換水100mL中に分散し、攪拌により懸濁させた。そこに、硝酸亜鉛6水和物1.33gをイオン交換水100mLに溶解した水溶液を加えて攪拌した。その後、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液6.71gを滴下することによって、pHが8.5となるように調整した。そのまま1日室温で放置した後、懸濁物をろ別し、水洗を5回繰り返し余剰の亜鉛イオンを洗浄した後、真空乾燥して、イミダゾリニル基がZn2+と錯形成したZn錯体含有層状ポリマー(以下場合により「#5+Zn」という。)の粉末を得た。
【0046】
(実施例6)
硝酸亜鉛6水和物1.33g(4.46mmol)を、50mmol/Lベロナール緩衝液(pH8.6)200mLに添加し、攪拌して溶解させた。この溶液に、実施例5で得られた層状ポリマー(#5)1gを加え、攪拌して分散させた。そのまま1日放置した後、懸濁物をろ別し、水洗を5回繰返して余剰の亜鉛イオンを除去した後、真空乾燥して、イミダゾリニル基がZn2+と錯形成したZn錯体含有層状ポリマー(以下場合により「#6+Zn」という。)の粉末を得た。
【0047】
(実施例7)
ImPTES13.7g(0.050mol)をイオン交換水50mLに加えて攪拌した。これに塩化アルミニウム6水和物6.36g(0.025mol)をイオン交換水50mLに溶解した水溶液を加えて攪拌した。これにさらに1mol/L水酸化ナトリウム溶液100mLを加えて30分攪拌した。その後、反応液をテフロン(登録商標)容器に入れ、ステンレスジャケットにより密閉し、120℃で7日間、水熱合成条件で処理した後、生成した沈殿物をろ別した。ろ別した沈殿物を水洗した後真空乾燥してイミダゾリニル基が側鎖に導入された層状ポリマー(以下場合により「#7」という。)を得た。
【0048】
硝酸亜鉛6水和物0.44g(1.47mmol)を50mmol/Lベロナール緩衝液(pH8.6)132mLに添加し、攪拌して溶解させた。この溶液に、上記で得られた層状ポリマー(#7)0.33gを加え、攪拌して溶解させた。そのまま1日室温で放置した後、懸濁物をろ別し、水洗を5回繰返し余剰の亜鉛イオンを除去した後、真空乾燥して、イミダゾリニル基がZn2+と錯形成したZn錯体含有層状ポリマー(以下場合により「#7+Zn」という。)の粉末を得た。
【0049】
(実施例8)
ImPTES2.74g(0.010mol)をTHF25mLに加えて攪拌した。これにアルミニウムsecブトキシド1.23g(0.005moL)をTHF25mLに溶解した溶液を加えて攪拌した。これをさらにイオン交換水100mLに加えて30分攪拌した。その後、室温で1日放置し、生成した沈殿物ごと溶液を凍結真空乾燥して、イミダゾリニル基が側鎖に導入された層状ポリマー(以下場合により「#8」という。)を得た。
【0050】
得られた層状ポリマー#8の1gを20mLのイオン交換水中に分散し、攪拌により懸濁させた。そこに0.44g(1.47mmol)の硝酸亜鉛6水和物を添加し、室温で攪拌することにより、層状ポリマー#8をZn2+と反応させた。反応液をそのまま24時間放置してから固形物をろ別し、水洗後、真空乾燥して、イミダゾリニル基がZn2+と錯形成したZn錯体含有層状ポリマーの粉末を得た。
【0051】
(参考例1)
ImPTES13.7g(0.050mol)をエタノール50mLに加えて攪拌した。これに塩化マグネシウム6水和物5.09g(0.025mol)をイオン交換水50mLに溶解した水溶液を加えて攪拌した。これに更に1mol/L水酸化ナトリウム水溶液100mLを加えて30分間攪拌した。その後、室温で1日放置し、生成した沈殿物をろ別し、水洗した後乾燥して、粉末サンプル(以下場合により「#9」という。)を得た。
【0052】
(参考例2)
ImPTES13.7g(0.050mol)をエタノール50mLに加えて攪拌した。これに塩化マグネシウム6水和物5.09g(0.025mol)をエタノール50mLに溶解したエタノール溶液を加えて攪拌した。これに更に1mol/L水酸化ナトリウム水溶液100mLを加えて30分間攪拌した。その後、室温で1日放置し、生成した沈殿物をろ別し、水洗した後乾燥して、粉末サンプル(以下場合により「#10」という。)を得た。
【0053】
(2)生成物の評価
得られた粉末サンプルをX線回折(XRD)、フーリエ変換赤外分光分析(FT−IR)、固体核磁気共鳴スペクトル(MAS NMR)、熱重量減少・示差熱分析(TG/DTA)により評価した。XRDはリガク社製「RINT2100」(商品名)によりCuKα(40kV/30mA)を使用して2θ/θ法で1〜70°の範囲を測定した。FT−IRはニコレー社製「MAGNA760」(商品名)を使用してダイアモンドATR法により積算回数64回で測定した。NMRについては、日本ブルカー社製固体NMR装置「Avance400」(商品名、プロトン共鳴周波数400MHz)を使用して13C CPMAS及び29Si HDMASの測定を行った。TG/DTAはセイコー電子社製「SSS/580」(商品名)を使用し、室温から1200℃まで昇温速度10℃/分で昇温させる条件で測定した。このとき、室温〜800℃については窒素雰囲気下、800℃〜1200℃については空気中でそれぞれ測定した。
【0054】
(3)CA活性
カーボニックアンヒドラーゼ(CA)活性は、二酸化炭素から炭酸イオンへの転換に伴うpH変化の速度により決定される。pHがある値(通常8〜9)からある値(通常ΔpH=−1.0)へ変化するまでの時間が、酵素がないときにT、酵素があるときにTであったとすると、酵素活性のunit=(T−T)/Tとして表される。これによれば、1unitの酵素量は、所定のpH変化に要する時間を、酵素添加により半分とすることができる量となる。本実施例においては、25mMベロナール緩衝液中で飽和二酸化炭素水溶液を加えたときのpH変化をpHメーターを用いて測定する方法により、層状ポリマーについてのCA活性測定を行った。また、比較のため、参考例としてカーボニックアンヒドラーゼ(CA)についても同様の条件でCA活性を測定した。CAとしては牛赤血球由来のカーボニックアンヒドラーゼ(Fluka社製)を用いた。
【0055】
25mMベロナール緩衝液を50mmol/Lベロナール緩衝液(和光純薬社製)とイオン交換水より調製した。25mMベロナール緩衝液中に層状ポリマー又はCAを所定濃度で分散させた溶液と、氷冷した25mMベロナール緩衝液とを、あわせて3mL(#1+Zn及びCAについては6mL)となるように密閉型滴定容器中に取り、滴定容器を氷冷した。そして、フラスコ中でイオン交換水にCOガスを氷冷しながら2時間以上通気して調製した氷冷CO飽和水2mL(#1+Zn及びCAについては4mL)を滴定容器に添加したきのpHの時間変化を測定した。pHの時間変化はメトローム716型(商品名)滴定装置と制御ソフトウェアTinet 2.5(商品名)を使用して、pH測定モードにより記録した。
【0056】
(4)炭酸カルシウムの合成
図2は、炭酸カルシウム合成のための実験装置を示す概略図である。この装置では、トラップ20中の炭酸アンモニウム5の分解により生じた二酸化炭素とアンモニアのうち、アンモニアは濃硫酸7にトラップされ、二酸化酸素のみが配管51を通って密閉容器30中に導入される。密閉容器30中の二酸化炭素濃度をCOガス変換器40(「ヴァイサラGMD20型」、商品名)により監視しながら、系中の二酸化酸素濃度が500〜2000ppmとなるようにポンプ50によりガス流量を調整した。
【0057】
AMPSO(3-[1,1-Dimethyl-2-hydroxyethyl)amido]-2-hydroxypropanesulfonic acid、関東化学社製)1.14g(0.01mol)をイオン交換水50mLに溶解した溶液と、硝酸カルシウム4水和物0.24gをイオン交換水50mLに溶解した溶液とを混合し、これに1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を5mL滴下してpHを9.0としたものを反応溶液とした。反応溶液を二つのビーカー10に2等分して入れ、一方にZn錯体含有層状ポリマー(#1+Zn0.4g)を加えて、攪拌により分散させて反応液1aとし、他方を反応液1bとした。そして、それぞれの反応液1a,1bに、スライドガラス上にセルロースを塗布したセルロース基板2を入れ、密閉容器30中で4日間放置した。
【0058】
2.結果
(1)XRD
図3は層状ポリマー#1、#1+Zn、#10及び#10+Zn、図4は#2、#3、#3+Zn、#5及び#5+ZnのXRDパターンを示すグラフである。図3の(a)は、狭角側(0〜10°)、(b)は広角側(10〜70°)のXRDパターンである。層状ポリマーは何れも粘度鉱物的なパターンを示し、中でも、水熱合成により合成した#1は5度付近の001、35度付近の200、及び60度付近の060のいずれについても比較的シャープなピークが認められた。
【0059】
#1にZnを添加したZn錯体含有層状ポリマー(#1+Zn)のXRDパターンでは5度付近の001がZn添加前よりも更に低角側にシフトしていることから、Zn添加により層間が拡張したことが示唆される。この変化は#10ではあまりはっきりとは現れなかった。広角側(b)をみると、#1と#1+Znで大きな違いはないことから、#1の場合、Zn添加により層構造自体には変化がないが、高分子量体同士の層間距離が拡張したものと考えられる。
【0060】
(2)FT−IR
図5は、層状ポリマーのFT−IRスペクトルを示すグラフである。図5において、(a1)は#1、(b1)は#1+Zn、(a3)は#10、(b3)は#10+Zn、(c)は原料として用いたImPTESのFT−IRスペクトルである。図5の(c)には、ImPTESの実測スペクトルとともに、ImPTESについてab initio計算による振動構造解析から求めた吸収の計算値(破線)を示す。ab initio計算はGaussian98でB3LYP/6−31G(d)を用いて行い、計算結果についてスケール因子を0.97として経験則的な補正(スケーリング)を施した。実測値と計算値とはよく一致しており、1300〜1600cm−1の主な吸収ピークは、−(CH)−伸縮(計算値:1317cm−1)、−C−N<伸縮(計算値:1400cm−1)、及び−C=N−伸縮(計算値:1645cm−1)に基づくものと考えられる。
【0061】
イミダゾリン化合物でもっとも顕著に現れる−C=N−伸縮のピーク(1645cm−1付近)は、原料のImPTESにおけるピークに対して、室温合成による層状ポリマー#10では若干高波数側にシフトし(図5の(a3))、水熱合成による#1では低波数側にシフトするとともにピーク強度がかなり小さくなった(図4の(a1))。一方、プロピレン鎖と結合した窒素とイミダゾリン環のsp炭素との振動である−C−N<伸縮(1400cm−1付近)については、原料のImPTESにおいて強度が大きくなかったのに対して、#1及び#10の層状ポリマーのいずれも原料よりもピークが顕在化した。これは、原料のImPTESが有していた有機構造が、有機側鎖として層状ポリマーの層間において拘束されることによりその振動のモードが変化したためと考えられる。
【0062】
−(CH)−伸縮のピークはZn添加後の層状ポリマーにおいて特に顕著に現れた。また、#1+Znではこれにともなって1600cm−1付近の−C=N−伸縮のピークがさらに小さくなった。これは、#1+Znにおいて、3つのイミダゾリン環と1つのZnイオンとで錯体が形成されることにより、イミダゾリン環中の窒素原子の自由度が制限されたことを反映したものと考えられる。
【0063】
(3)NMR
図6は、層状ポリマーの13C CPMAS NMRスペクトルを示すグラフである。FT−IRスペクトルにおいては各サンプル間に違いが現れていたのとは対照的に、NMRスペクトルでは各サンプル間に大きな違いはなく、いずれの層状ポリマーのNMRスペクトルにおいても、原料のImPTESが示していたシグナルは、アルコキシ基由来のもの(g,h)を除いて若干シフトしつつも残存していた。このことから、合成された層状ポリマーにおいてイミダゾリン環を含む有機側鎖がその構造が損なわれることなく存在していることがわかった。なお、イミダゾリン環上の窒素に隣接する炭素に由来する−164ppm付近のシグナルが、Zn添加により強度が減少しているが、これは、イミダゾリン環上の窒素がZnに配位して、化学シフトに変化が生じたことによるものと考えられる。
【0064】
図7は、層状ポリマーの29Si HD MAS NMRスペクトルを示すグラフである。いずれのシグナルも、Si−C結合を1つ有するケイ素であるT又はTに帰属されるシグナルであり、このことから、#1の場合のような水熱合成を経てもSi−C結合が切断されることなく残っていることが確認された。また、Tのシグナルがほどんど見られず、Tの大きなシグナルが認められることから、これら層状ポリマーにおいては、多くのケイ素原子が構造水と結合したSi−OH結合を有しているものと考えられる。
【0065】
(4)TG/DTA
図8は、#1のTG/DTA測定結果を示すグラフである。水熱合成により合成した#1は、脱水によると思われる100℃までの重量減少を除いて400℃弱まであまり重量減少を示さず安定であった。
【0066】
(5)層状ポリマーの構造
以上のような評価結果から、粘土鉱物的な結晶性粒子とこれに共有結合した有機側鎖から構成され、有機側鎖末端にイミダゾリニル基又はアミノ基を有する層状ポリマーが形成されたことが確認できた。中でも、水熱合成による#1は結晶性も良好であり、Zn添加によるXRDパターンおよびNMRスペクトルの変化から、Zn錯体の形成が裏付けられた。
【0067】
(6)CA活性
#1+Zn、#2、#3+Zn、#4+Zn、#5+Zn、#6+Zn及び#7+Znについて、CA活性を評価した。図9は、#1+Zn及びCAについてのCO飽和溶液添加によるpHの時間変化を示すグラフである。#1+Zn及びCAでは無添加の場合(blank)に比べていずれもpHの低下が速くなった。pHが8.5から7.5に低下する時間に基づいて、CA活性のunitを算出した結果を表1に示す。これらの測定では滴定容器等の関係もありBuzolyovaに倣い全溶液量を10mLとしたが、全量を5mLとして測定し、そのときの溶液中の試料重量1mgあたりの活性unit数でCA活性を表示するのがより一般的である。従って、表1ではそのように算出した値をunits/mgとして示した。
【0068】
【表1】

【0069】
#1+Znの層状ポリマーは、牛CAには及ばないものの、十分に有意なCA活性を示した。溶液中での層状ポリマーの分散をより良好なものとすれば、層間のZn2+がより有効に機能して、より高いCA活性が得られると考えられる。
【0070】
図10は、#2、#3+Zn及び#5+ZnについてのCO飽和溶液添加によるpHの時間変化を示すグラフである。いずれの層状ポリマーの場合も、試料無添加の場合(blank)と比べてpHの低下が速くなった。pHが8.5から7.5まで低下する時間、及びpHが8.5から8.0まで低下する時間について、#2、#3+Zn、#4+Zn、#5+Zn、#6+Zn及び#7+ZnのCA活性のunitを算出した結果を表2に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
(7)炭酸カルシウムの合成
上述のように4日間密閉容器内に放置後、反応溶液から引き上げたセルロース基板を室温で乾燥し、炭酸カルシウムが生成している部分の表面を走査型共焦点レーザ顕微鏡OLS−1100SB(商品名、島津製作所−オリンパス社製)により観察した。図11、図12は、それぞれ、#1+Zn存在下又は非存在下で炭酸カルシウムを生成させた試料の顕微鏡写真である。図11の(a)は210倍、(b)は360倍で、図12の(a)は220倍、(b)は360倍でそれぞれ観察したときの写真である。
【0073】
#1+Zn存在下で生成した炭酸カルシウム(図11)は霰(あられ)状の外観を持つ粒子として成長しており、この粒子がセルロース基板を完全に覆う形で積み重なっていた。これに対して、#1+Znを非添加の場合(図12)、炭酸カルシウムの粒子は石塊状で1つ1つの粒径が小さく、全体としてもセルロース基板上に疎らに生成していた。
【0074】
セルロース基板上の炭酸カルシウムについて、X線回折装置RINT−TTR(商品名、リガク社製)を使用してθ/2θ法、および2θ法によりXRDを測定した。得られたXRDパターンを図13、図14に示す。図13及び14において、(a)はθ/2θ法、(b)は2θ法によるXRDパターンである。図13のXRDパターンより、#1+Zn添加の場合、生成した炭酸カルシウムはアラゴナイトであることが確認される。θ/2θ法によるXRDパターン(図13の(a))においては、29.4°においてアラゴナイト以外の成分に由来するピークが見られるが、これはカルサイトの104のピークと考えられる。このピークはθ/2θ法では比較的大きく見えるが、2θ法(図13の(b))ではほぼ消失することから、カルサイトが基板平面に配向しているためにθ/2θ法のXRDパターンでそのピークが大きくなったのであって、その絶対量はかなり少ないと考えられる。θ/2θ法ではX線の入射角と反射角が一定となるよう試料を回転させるため、基板平面に平行な回折面からの反射が特に強く観測されるのに対して、2θ法では入射角を一定にして検出器側のみを回転させるため、一般にこのような結晶配向の影響が出にくいからである。
【0075】
#1+Zn非添加の場合(図14)、θ/2θ法ではカルサイトの104のピークのみが強く観測された。2θ法ではカルサイトの他のピークも出現することから、104面が基板と平衡となるよう強く配向していると考えられる。このように、#1+Zn非添加の場合には、アラゴナイトではなくカルサイトの炭酸カルシウムが生成したことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明に係るZn錯体含有層状ポリマーの一実施形態を模式的に示す概略図である。
【図2】炭酸カルシウム合成のための実験装置を示す概略図である。
【図3】層状ポリマーのXRDパターンを示すグラフである。
【図4】層状ポリマーのXRDパターンを示すグラフである。
【図5】層状ポリマーのFT−IRスペクトルを示すグラフである。
【図6】層状ポリマーの13C CPMAS NMRスペクトルを示すグラフである。
【図7】層状ポリマーの29Si HD MAS NMRスペクトルを示すグラフである。
【図8】#1のTG/DTA測定結果を示すグラフである。
【図9】CO飽和溶液添加によるpHの時間変化を示すグラフである。
【図10】CO飽和溶液添加によるpHの時間変化を示すグラフである。
【図11】炭酸カルシウムを生成させた試料の顕微鏡写真である。
【図12】炭酸カルシウムを生成させた試料の顕微鏡写真である。
【図13】炭酸カルシウムのXRDパターンを示すグラフである。
【図14】炭酸カルシウムのXRDパターンを示すグラフである。
【符号の説明】
【0077】
1a,1b…反応液、2…セルロール基板、5…炭酸アンモニウム、7…濃硫酸、10…ビーカー、20…トラップ、30…密閉容器、40…COガス変換器、50…ポンプ、51…配管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素原子を中心原子とする複数の4面体が配列した4面体シート、及び金属原子を中心原子とする複数の8面体が配列し前記4面体シートと酸素原子を介して結合している8面体シートを含み、一般式(1):
(RSiO(4−n)/22/ZO(HO) ・・・(1)
[式中、Rはそれぞれ独立に1価の有機基を示し、nは1〜3の整数を示し、xは0.5〜2の数値を示し、Mはそれぞれ独立に金属原子又はそのイオンを示し、Zは2又は3を示し、wは0〜2の数値を示し、Rの少なくとも一部は亜鉛イオンと錯形成しうる含窒素官能基を有する錯形成性有機基である。]
で表される組成を有する層状ポリマーにおける錯形成性有機基の少なくとも一部が亜鉛イオンと錯形成している、Zn錯体含有層状ポリマー。
【請求項2】
一般式(10):
Si(OR4−n ・・・(10)
[式中、Rはそれぞれ独立に1価の有機基を示し、nは1〜3の整数を示し、Rはそれぞれ独立に置換基を有していてもよいアルキル基を示す。]
で表されるオルガノアルコキシシランを金属化合物と水熱合成法の条件下で反応させることにより、ケイ素原子を中心原子とする複数の4面体が配列した4面体シート、及び金属原子を中心原子とする複数の8面体が配列し前記4面体シートと酸素原子を介して結合している8面体シートを含み、一般式(1):
(RSiO(4−n)/22/ZO(HO) ・・・(1)
[式中、Rはそれぞれ独立に1価の有機基を示し、nは1〜3の整数を示し、xは0.5〜2の数値を示し、Mはそれぞれ独立に金属原子又はそのイオンを示し、Zは2又は3を示し、wは0〜2の数値を示し、Rの少なくとも一部は亜鉛イオンと錯形成しうる含窒素官能基を有する錯形成性有機基である。]
で表される組成を有する層状ポリマーを生成させる工程と、
当該層状ポリマー中の含窒素官能基の少なくとも一部を亜鉛イオンと錯形成させる工程と、
を備えるZn錯体含有層状ポリマーの製造方法。
【請求項3】
請求項1記載のZn錯体含有層状ポリマーを含有する炭酸カルシウム合成触媒。
【請求項4】
二酸化炭素及びCa2+から請求項3記載の炭酸カルシウム合成触媒の存在下で炭酸カルシウムを生成させる、炭酸カルシウムの合成方法。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2007−154037(P2007−154037A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−350945(P2005−350945)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】