説明

ZnMgO膜及びその製造方法

【課題】Znに対するMg添加量を30mol%以上にすることが可能なZnMgO膜の製造方法を提供する。
【解決手段】亜鉛イオン濃度及びマグネシウムイオン濃度を縦軸とし且つpHを横軸とする水溶液状態図で、Zn(OH)が析出する領域とZnO2−が存在し得る領域とを画定する線αが、マグネシウムイオンが存在し得る領域とMg(OH)が析出する領域とを画定する線βよりも低pH側に位置する温度のアンモニア水溶液に、Zn原料及びMg原料を溶解し、線αと線βとで挟まれた領域にアンモニア水溶液のpH並びにアンモニア水溶液中の亜鉛イオン濃度及びマグネシウムイオン濃度を調整する調整工程と、該調整工程後に、アンモニア水溶液の温度を、Zn(OH)及びMg(OH)が析出する温度に高める加温工程と、該加温工程後に、析出物を焼成する焼成工程と、を有する、ZnMgO膜の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ZnMgO膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、発電量当たりの二酸化炭素排出量が少なく、発電用の燃料が不要という利点を有している。そのため、地球温暖化を抑制するエネルギー源として期待されており、実用化されている太陽電池の中では、単結晶シリコン又は多結晶シリコンを用いた、一組のpn接合を有する単接合太陽電池が主流となっている。ところが、この単接合太陽電池は、光の吸収率が低く、光電変換効率の理論値が低い。そこで、これらを改善し得る太陽電池に関する研究が、現在盛んに進められている。
【0003】
そのような太陽電池の一つに、化合物薄膜太陽電池がある。化合物薄膜太陽電池は、省資源で量産しやすく、変換効率を大幅に改良できる可能性を有しており、化合物薄膜太陽電池用のバッファ層や発光デバイス用材料として、近年、ZnMgOが注目されている。ZnMgOは、従来、スパッタ法等を用いた気相製膜法によって製造され、Mg添加量を増やすことで、バンドギャップの増大が図られてきている。しかしながら、気相製膜法は使用する装置が高価であり、また、原料の流れが一方向であるため凹凸を有する下地を完全に被覆することは困難である等の理由から、液相製膜法によってZnMgOを製造することが望ましいと考えられる。
【0004】
例えば非特許文献1には、液相製膜法によってZnMgOを製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ジャーナル オブ マテリアルズ サイエンス(Journal of Materials Science)、(ドイツ)、2006年、第41巻、第4号、p.1269−1271
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
CIGS太陽電池等の化合物薄膜太陽電池にZnMgOを用いる場合、pn接合界面形成時に電子がp層側へ移動可能な形態とし、且つ、光吸収によって生成された電子が電極へ移動可能な形態とするためには、Znに対するMg添加量を30mol%以上にすることが求められている。ところが、非特許文献1に開示されているような従来の液相製膜法では、Znに対するMg添加量の上限が10mol%程度に留まっていた。
【0007】
そこで本発明は、Znに対するMg添加量を30mol%以上にすることが可能なZnMgO膜の製造方法及びZnに対するMg添加量が30mol%以上であるZnMgO膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段をとる。すなわち、
本発明の第1の態様は、亜鉛イオン濃度及びマグネシウムイオン濃度を縦軸とし且つpHを横軸とする水溶液状態図で、Zn(OH)が析出する領域とZnO2−が存在し得る領域とを画定する線αが、マグネシウムイオンが存在し得る領域とMg(OH)が析出する領域とを画定する線βよりも低pH側に位置する温度のアンモニア水溶液に、Zn原料及びMg原料を溶解し、線αと線βとで挟まれた領域となるようにアンモニア水溶液のpH並びにアンモニア水溶液中の亜鉛イオン濃度及びマグネシウムイオン濃度を調整する調整工程と、該調整工程後に、アンモニア水溶液の温度を、Zn(OH)及びMg(OH)が析出する温度に高める加温工程と、該加温工程後に、析出物を焼成する焼成工程と、を有する、ZnMgO膜の製造方法である。
【0009】
線αが線βよりも低pH側に位置する温度環境下で、線αと線βとで挟まれた領域となるようにpHが調整されたアンモニア水溶液に、適切な量のZn原料及びMg原料を溶解することにより、アンモニア水溶液中に、ZnO2−及びMg2+を存在させることができる。これらのイオンが共存する状態にした後、アンモニア水溶液の温度を高めると、線βが低pH側に移動するため、Mg(OH)を析出させることが可能になる。さらに、アンモニア水溶液の温度を高めると、アンモニアを揮発させてアンモニア水溶液のpHを低下させることができ、線αよりも低pH側の状態にすることができるので、Zn(OH)を析出させることが可能になる。このように、同じようなタイミングで、イオンの状態で存在していたZn及びMgを、それぞれZn(OH)及びMg(OH)として析出させることにより、ZnがMgに置換されやすくなるので、Znに対するMg添加量を30mol%以上にすることが可能になる。Zn(OH)及びMg(OH)を析出させたら、焼成して脱水反応を生じさせることにより、ZnMgO膜を製造することが可能になる。
【0010】
また、上記本発明の第1の態様において、線αが線βよりも低pH側に位置する上記温度が25℃以下であることが好ましい。温度pH調整工程におけるアンモニア水溶液の温度を25℃以下にすることにより、線αと線βとで挟まれた領域を広げることが可能になり、その結果、アンモニア水溶液中に、ZnO2−及びMg2+を共存させやすくなるので、Znに対するMg添加量を30mol%以上にしたZnMgO膜を製造しやすくなる。
【0011】
本発明の第2の態様は、(002)X線回折強度に対する(100)X線回折強度の比、及び、(002)X線回折強度に対する(101)X線回折強度の比が、1/2以上である、ZnMgO膜である。
【0012】
上記本発明の第1の態様にかかる製造方法で製造した、Znに対するMg添加量が30mol%以上であるZnMgO膜は、(002)X線回折強度に対する(100)X線回折強度の比、及び、(002)X線回折強度に対する(101)X線回折強度の比が、1/2以上である。そのため、このようなX線回折強度の比の条件を満たすことにより、Znに対するMg添加量を30mol%以上にしたZnMgO膜を得ることが可能になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1の態様によれば、Znに対するMg添加量を30mol%以上にすることが可能な、ZnMgO膜の製造方法を提供することができる。
【0014】
本発明の第2の態様によれば、Znに対するMg添加量が30mol%以上であるZnMgO膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】亜鉛イオン及びマグネシウムイオンを含む水溶液の状態図である。
【図2】亜鉛イオン及びマグネシウムイオンを含む水溶液の状態図である。
【図3】亜鉛イオン及びマグネシウムイオンを含む水溶液の状態図である。
【図4】亜鉛イオン及びマグネシウムイオンを含む水溶液の状態図である。
【図5】本発明のZnMgO膜の製造方法を説明するフロー図である。
【図6】X線回折測定結果を示す図である。
【図7】原料比Mg/(Zn+Mg)とX線回折測定で(002)ピークが確認された回折角2θとの関係を示す図である。
【図8】スパッタ法で作製したZnMgO膜のX線回折測定結果を示す図である。
【図9】光のエネルギーと光吸収係数の2乗との関係を示す図である。
【図10】原料比Mg/(Zn+Mg)とバンドギャップとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、25℃における亜鉛イオン及びマグネシウムイオンを含む水溶液の状態図である。図1の縦軸は亜鉛イオン濃度[mol/L]及びマグネシウムイオン濃度[mol/L]であり、横軸はpHである。図1は、線γよりも低pH側では亜鉛イオンが存在可能であり、線γの高pH側ではZn(OH)が析出し、線βよりも低pH側ではマグネシウムイオンが存在可能であり、線βの高pH側ではMg(OH)が析出することを示す図である。
【0017】
従来の液相製膜法でZnMgO膜を製造する際には、例えば塩化亜鉛及び塩化マグネシウムを塩酸水溶液に溶解し、これにアンモニア水を入れZn及びMgを共沈させる過程を経て、ZnMgO膜を製造していた。図1を用いてこの方法を説明すると、例えば図1にXで示した状態からpHを高めることにより、線γを横切ってZn(OH)が析出する状態にする過程を経て、ZnMgO膜を製造していることになる。このように、従来の液相製膜法では、低pHの状態から高pHの状態へと変化させることにより、線γを横切ってZn(OH)を析出させていた。しかしながら、図1に示したように、pHを高めてZn(OH)を析出させても、Mgは線βよりも低pH側ではイオンの状態で存在することができ、Mg(OH)を析出させるためには、さらにpHを高めて線βの高pH側にする必要がある。従来の方法では、イオンの状態で存在している亜鉛及びマグネシウムを同じようなタイミングで析出させることが困難であったため、Zn(OH)が析出する際に取り込まれるMgは少量に留まり、その結果、Znに対するMg添加量の上限が10mol%程度に留まっていたと考えられる。なお、電析による方法でも、同様の理由から、Znに対するMg添加量は、7.7mol%程度に留まっている。
【0018】
Zn2+がZn(OH)として析出する領域から、さらにpHを高めると、ZnO2−の状態で存在し得る。図1の水溶液状態図に、Zn(OH)が析出する領域とZnO2−が存在可能な領域とを画定する線αを追加した水溶液状態図を、図2に示す。図2は、線γよりも低pH側では亜鉛イオンが存在可能であり、線γの高pH側且つ線αよりも低pH側ではZn(OH)が析出し、線αの高pH側ではZnO2−が存在可能であり、線βよりも低pH側ではマグネシウムイオンが存在可能であり、線βの高pH側ではMg(OH)が析出することを示す図である。
【0019】
図2に示したように、線αの高pH側且つ線βよりも低pH側(線αと線βとで挟まれた領域)では、ZnO2−及びマグネシウムイオンが共存可能である。そのため、線αと線βとで挟まれた領域の条件を満たすように、水溶液の温度、pH、並びに、亜鉛イオン濃度及びマグネシウムイオン濃度を制御した後、同じようなタイミングでZn(OH)及びMg(OH)を析出させることができれば、Znに対するMg添加量を従来よりも増大することが可能になると考えられる。
【0020】
本発明者は、鋭意研究の結果、60℃における亜鉛イオン及びマグネシウムイオンを含む水溶液の状態図は図3のようになることを知見した。図3は、線γ’よりも低pH側では亜鉛イオンが存在可能であり、線γ’の高pH側且つ線α’よりも低pH側ではZn(OH)が析出し、線α’の高pH側ではZnO2−が存在可能であり、線β’よりも低pH側ではマグネシウムイオンが存在可能であり、線β’の高pH側ではMg(OH)が析出することを示す図である。また、図2に線α’、線β’、及び、線γ’を加えた水溶液状態図を、図4に示す。図4では、線αと線βとで挟まれた領域に斜線を付した。図2乃至図4より、水溶液の温度が25℃の場合には、線αが線βよりも低pH側に存在していたが、水溶液の温度を高めることにより低pH側に移動した線αに相当する線α’は、水溶液の温度を高めることにより低pH側に移動した線βに相当する線β’よりも高pH側に存在している。したがって、温度上昇により、線α及び線βは何れも低pH側に移動するものの、低pH側へと移動する程度は、線αよりも線βの方が大きいことが分かった。この結果から、水溶液の温度を高めると、線βを大きく低pH側へと移動させることが可能になり、その結果、マグネシウムイオンが存在可能であった状態を、Mg(OH)が析出する状態へと変化させることが可能になると考えられる。加えて、亜鉛イオン及びマグネシウムイオンを含む水溶液としてアンモニア水溶液を用いると、水溶液の温度を高めるほどアンモニアを揮発させやすくなり、アンモニアが揮発するほどアンモニア水溶液のpHを低下させることが可能になる。それゆえ、アンモニア水溶液の温度を高めると、線αの高pH側であった状態(ZnO2−が存在可能であった状態)から線α’よりも低pH側の状態(Zn(OH)が析出する状態)へと変化させることが可能になると考えられる。すなわち、アンモニア水溶液中にZnO2−及びマグネシウムイオンを共存させた後、アンモニア水溶液の温度を高めると、同じようなタイミングでZn(OH)及びMg(OH)を析出させることが可能になるので、Znに対するMg添加量が30mol%以上へと高められたZnMgO膜を製造することが可能になると考えられる。本発明は、このような知見に基づいて完成させた。
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明について説明する。なお、以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明は以下に示す形態に限定されるものではない。
【0022】
図5は、本発明のZnMgO膜の製造方法(以下において、「本発明の製造方法」ということがある。)を説明するフロー図である。図5に示したように、本発明のZnMgO膜の製造方法は、調整工程(S1)と、基板投入工程(S2)と、加温工程(S3)と、乾燥工程(S4)と、焼成工程(S5)と、を有している。
【0023】
調整工程(以下において、「S1」ということがある。)は、亜鉛イオン濃度及びマグネシウムイオン濃度を縦軸とし且つpHを横軸とする水溶液状態図で、Zn(OH)が析出する領域とZnO2−が存在し得る領域とを画定する線α(以下において、単に「線α」という。)が、マグネシウムイオンが存在し得る領域とMg(OH)が析出する領域とを画定する線β(以下において、単に「線β」という。)よりも低pH側に位置する温度のアンモニア水溶液に、Zn原料及びMg原料を溶解し、線αと線βとで挟まれた領域にアンモニア水溶液のpH並びにアンモニア水溶液中の亜鉛イオン濃度及びマグネシウムイオン濃度を調整する工程である。すなわち、アンモニア水溶液の温度が25℃である場合、S1は、アンモニア水溶液にZn原料及びMg原料を溶解し、図2の線αと線βとで挟まれた領域となるように、pH、亜鉛イオン濃度、及び、マグネシウムイオン濃度を調整する工程である。
【0024】
基板投入工程(以下において、「S2」ということがある。)は、S1に続いて、アンモニア水溶液が入れられている容器の中に、ZnMgO膜が形成されるべき基板を入れる工程である。
【0025】
加温工程(以下において、「S3」ということがある。)は、S2に続いて、アンモニア水溶液の温度を、Zn(OH)及びMg(OH)が析出する温度に高める工程である。上述のように、アンモニア水溶液の温度を高めることにより、アンモニアを揮発させてアンモニア水溶液のpHを低下させることが可能になるので、ZnO2−が存在可能な状態とされていたアンモニア水溶液を、Zn(OH)が析出する状態へと変化させることが可能になる。また、上述のように、アンモニア水溶液の温度を高めることにより、線βを低pH側へと移動させることができるので、マグネシウムイオンが存在可能な状態とされていたアンモニア水溶液を、Mg(OH)が析出する状態へと変化させることが可能になる。すなわち、S3は、ZnO2−をZn(OH)として析出させるとともに、マグネシウムイオンをMg(OH)として析出させる工程である。
【0026】
乾燥工程(以下において、「S4」ということがある。)は、S3で析出させた析出物(Zn(OH)及びMg(OH)の混合物)を乾燥させる工程である。
【0027】
焼成工程(以下において、「S5」ということがある。)は、S4に続いて、乾燥させた析出物を焼成する工程である。S5を経ることにより、脱水反応を生じさせてZnMgO膜を製造することができる。S5における焼成温度は、脱水反応が生じて析出物の重量減少が確認される温度であれば良く、例えば、200℃以上350℃以下とすることができる。また、S5における焼成時間は特に限定されず、従来の液相製膜方法と同程度の時間とすることができる。
【0028】
S1乃至S5を経ることにより、同じようなタイミングでZn(OH)及びMg(OH)を析出させることが可能になるので、Znに対するMg添加量が30mol%以上へと高められたZnMgO膜を製造することが可能になる。
【0029】
本発明において、Zn原料やMg原料としては、それぞれの塩化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩等を適宜用いることができる。
【0030】
また、本発明において、S1は、線αが線βよりも低pH側に位置する温度のアンモニア水溶液にZn原料及びMg原料を溶解し、線αと線βとで挟まれた領域にpH並びに亜鉛イオン濃度及びマグネシウムイオン濃度を調整する工程であれば、その形態は特に限定されない。ただし、Zn原料やMg原料を溶解させやすくしてS1の所要時間を短縮可能な形態にする等の観点からは、攪拌されているアンモニア水溶液にZn原料及びMg原料を溶解させる形態とすることが好ましい。
【0031】
また、S1において、線αが線βよりも低pH側に位置する温度のアンモニア水溶液にZn原料及びMg原料を溶解させる形態は、特に限定されない。アンモニア水溶液中にZn原料及びMg原料を溶解させた後に、温度を変化させる(例えば、温度を低下させる)形態であっても良く、アンモニア水溶液の温度を、線αが線βよりも低pH側に位置する温度にした後、当該アンモニア水溶液中にZn原料及びMg原料を溶解させる形態であっても良い。
【0032】
また、S1において、線αが線βよりも低pH側に位置する温度は、例えば30℃未満とすることができる。上述のように、温度を上げると低pH側へと移動する程度は、線αよりも線βの方が大きいので、アンモニア水溶液の温度を低下させた時に高pH側へと移動する程度も、線αよりも線βの方が大きいと考えられる。アンモニア水溶液の温度を低下させるほど、線αと線βとで挟まれた領域を広げることが可能になり、その結果、アンモニア水溶液を線αと線βとで挟まれた領域に調整しやすくなる。したがって、線αと線βとで挟まれた領域への調整を容易にしてZnMgO膜を容易に製造可能な形態にする等の観点からは、S1における、線αが線βよりも低pH側に位置する温度は、25℃以下とすることが好ましい。より好ましい温度は、5℃以下である。
【0033】
また、本発明において、S2で用いられる基板は、S5の焼成温度に耐えることが可能であり、且つ、表面にZnMgO膜を形成可能であれば、特に限定されない。そのような基板を構成可能な物質としては石英ガラスやステンレス鋼基板、ソーダライムガラス基板等を例示することができる。
【0034】
また、本発明において、S2で温度が高められるアンモニア水の温度は、Zn(OH)及びMg(OH)が析出し得る温度であれば特に限定されない。Zn(OH)及びMg(OH)を析出させるために、アンモニア水溶液の温度は例えば30℃以上とすることが好ましく、イオン濃度の大きな変動や水溶液の枯渇を防止可能にする等の観点から、アンモニア水溶液の温度は例えば80℃以下とすることが好ましい。より好ましいアンモニア水溶液の温度は、40℃以上60℃以下である。
【0035】
また、S2は、ZnO2−をZn(OH)として析出させるとともに、マグネシウムイオンをMg(OH)として析出させることができれば、その形態は特に限定されないが、Zn(OH)及びMg(OH)が析出しやすい形態にする等の観点からは、攪拌されているアンモニア水溶液の温度を高めて、Zn(OH)及びMg(OH)を析出させる形態、とすることが好ましい。
【実施例】
【0036】
<膜の製造>
水180ml及び10%アンモニア水5〜30mlをビーカに入れ、これを氷水に浸けてアンモニア水溶液の温度が5℃になるまで冷却した。一方、Zn原料(酢酸亜鉛)及びMg原料(酢酸マグネシウム)をモル比で酢酸亜鉛:酢酸マグネシウム=6:4、7:3、8:2、9:1、及び、1:0となるように秤量し、これを上記ビーカに入れた。そして、このビーカに回転子を入れ、スターラー上で良く攪拌させることにより、酢酸亜鉛や酢酸マグネシウムを溶解させた。なお、酢酸マグネシウムを用いなかった条件を除き、酢酸亜鉛や酢酸マグネシウムを溶解させた後のアンモニア水溶液は、線αと線βとで挟まれた領域となるように調整した。
酢酸亜鉛や酢酸マグネシウムを溶解させた後、ビーカに石英ガラス基板を投入した。そして、アンモニア水溶液を攪拌しながら、60℃に加熱したウォーターバスに上記ビーカを浸け、30分間に亘って保持した。その後、石英ガラス基板を取り出して乾燥させ、500℃で1時間に亘って大気中で焼成した。以上の工程を経ることにより、膜(酢酸マグネシウムを用いなかった条件ではZnO膜、酢酸マグネシウムを用いた条件ではZnMgO膜。以下において同じ。)を製造した。
【0037】
<膜の評価>
X線回折装置(Smart−Lab、株式会社リガク製)を用いて、X線回折測定を行った。結果を図6、図7、及び、表1に示す。図6の縦軸はCounts[a.u.]、同横軸は回折角2θ[°]である。図7は、原料比Mg/(Zn+Mg)[mol%]とX線回折測定で(002)ピークが確認された回折角2θ[°]との関係を示す図である。図7の縦軸は(002)のピークが確認された回折角2θ[°]、同横軸は原料比Mg/(Zn+Mg)[mol%]である。
また、紫外可視分光光度計(V−570、日本分光株式会社製)を用いて光吸収係数を測定することにより、作製した膜のバンドギャップを特定した。バンドギャップの結果を表1、図9、及び、図10に示す。図9の縦軸は光吸収係数αの2乗[a.u.]、同横軸はエネルギーhν[eV]である。スペクトルの外挿線からバンドギャップを求めた。図10の縦軸はバンドギャップ[eV]、同横軸は原料比Mg/(Zn+Mg)[mol%]である。なお、表1における固溶Mg量[mol%]は、下記式(1)から求めた。
【0038】
【表1】

【0039】
<結果>
図6及び図7に示したように、原料のMg比率が増加すると共に、(002)回折ピークが高角側にシフトした。これは、Zn(イオン半径0.74Å)サイトにイオン半径0.65ÅのMgが置換し、C軸方向に結晶が収縮したためであると考えられる。このX線回折測定結果より、条件1〜4の膜はZnMgO膜であると判断した。
【0040】
また、図8にスパッタ法で作製したZnMgO膜のX線回折測定結果を示す。図8の縦軸は強度[a.u.]、同横軸は回折角2θ[°]である。図8によると、(002)ピークのみが観測され、(002)に配向していることが分かる。一方、本発明の製造方法で製造した膜は、図6に示したように配向しておらず、(002)X線回折強度に対する(100)X線回折強度の比、及び、(002)X線回折強度に対する(101)X線回折強度の比が1/2以上となっている。
【0041】
図9及び図10に示したように、原料のMg比率が増加すると共に、バンドギャップが増大した。バンドギャップの値から下記式(1)のように結晶へのMg固溶量が算出できる。
Mg固溶量[mol%] = (バンドギャップ−3.2)/0.02 …式(1)
条件1の膜のバンドギャップは3.85eVであるから、式(1)よりこの膜のMg固溶量は32.5mol%である。したがって、本発明によれば、Znに対するMg固溶量を30mol%以上にすることが可能なZnMgO膜の製造方法及びZnに対するMg添加量が30mol%以上であるZnMgO膜を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛イオン濃度及びマグネシウムイオン濃度を縦軸とし且つpHを横軸とする水溶液状態図で、Zn(OH)が析出する領域とZnO2−が存在し得る領域とを画定する線αが、マグネシウムイオンが存在し得る領域とMg(OH)が析出する領域とを画定する線βよりも低pH側に位置する温度のアンモニア水溶液に、Zn原料及びMg原料を溶解し、前記線αと前記線βとで挟まれた領域となるように、前記アンモニア水溶液のpH並びに前記アンモニア水溶液中の亜鉛イオン濃度及びマグネシウムイオン濃度を調整する、調整工程と、
前記調整工程後に、前記アンモニア水溶液の温度を、Zn(OH)及びMg(OH)が析出する温度に高める、加温工程と、
前記加温工程後に、析出物を焼成する、焼成工程と、
を有する、ZnMgO膜の製造方法。
【請求項2】
前記線αが前記線βよりも低pH側に位置する前記温度が25℃以下である、請求項1に記載のZnMgO膜の製造方法。
【請求項3】
(002)X線回折強度に対する(100)X線回折強度の比、及び、(002)X線回折強度に対する(101)X線回折強度の比が、1/2以上である、ZnMgO膜。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2013−93484(P2013−93484A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235630(P2011−235630)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】