説明

ZnO系電界放出電子源

【課題】従来の電界放出型素子より、低消費電力で繰り返し寿命の長い電界放出型電子放出素子を提供する。
【解決手段】ZnO突起形状物からなる電界放出電子源において、ZnO突起形状物中にGaを、Znに対するGaモル%比で0.02モル%から0.4モル%含むことで、低消費電力で繰り返し寿命の長い電界放出型電子放出素子を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、突起形状を有するGaを含んだZnOからなる電界放出電子源およびその製造法に関する。本発明の電界放出電子源は、画像・映像表示装置や照明等の光源の電子放出源として有効に利用できる。
【背景技術】
【0002】
電子放出源としては、従来より、例えばブラウン管のような熱陰極源が用いられてきた。熱陰極源は、熱エネルギーによって電子を放出させるため、熱源により温度を上昇させる必要があり、発光装置などの小型化が難しい。また、熱陰極源のエネルギー効率も低い。そのため、近年は、電子放出に熱エネルギーを必要としない電解放出電子源の期待が大きくなりつつある。
電界放出電子源としてはスピント型といわれるシリコン半導体微細加工技術を用いたものがある。この方法は、微細化が進歩したシリコン加工技術を応用したものであるが、大がかりなシリコンプロセス設備を用いて非常に多くの工程を必要とする複雑な製造となる。
かかる現状に鑑み、本発明者らは特許文献1に開示した方法、すなわち、有機金属分解法(以下「大気圧MOCVD法」と記述する。)を用いて突起形状を有する金属酸化物構造体を提案した。さらに、この突起物を有する金属酸化物構造体を用いて、特許文献2に示すような電子放出素子を提案した。また、特許文献3に、金属酸化物からなる突起物に金属、窒化炭素、金属酸化物等の化合物を積層させた電子放出材料が提案され、エネルギー効率の向上した電子放出素子が提案されている。
【0003】
一般的に、電界放出源の特性として、低い電解強度で高い電流密度を得ることが、省エネルギーの観点から望まれる。このような電子放出源の特性を向上する方法として、特許文献3では、Alを小量含有したZnOウイスカーの表面に窒化炭素膜を積層させている。しかしながら、このような方法は、煩雑な工程が必要であり、電界放出源特性も充分とは言えない。また、電解放出効果が認められているInやSn、Tiなどの金属酸化物は、透明電極やその他などの用途が普及し、埋蔵量が限られていることから、価格が上昇しやすく入手の容易さに問題がある。電解放出効果が確認されているZnOは入手が容易で安価な金属酸化物であるので、安価で入手が容易なZnOからなる金属酸化物の突起物を電子放出源として用い、容易な製造方法で、低い電解強度で高い電流密度が得られる高性能な電界放出源を提供することが望まれている。また、この電界放出源を発光装置に用いる場合には、陰極の電子放出源から放出した電子が蛍光体に当たり発光するが、この時蛍光体や雰囲気ガスから陽イオンが発生し、その陽イオンが陰極の電子放出源に衝突して、繰り返し電子放出を行うと、電子放出源の性能を低下させる問題があるので、繰り返し電子放出を行っても、電子放出源の特性が低下しない電界放出源が望まれている。
【0004】
【特許文献1】国際公開第99/57345号
【特許文献2】特開2000−276999号公報
【特許文献3】特開2002−274819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
即ち、本発明は、低い電解強度で高い電流密度が得られる高性能な電界放出源の提供、及びそれを用いた発光装置に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電界放出源は、ZnO突起形状物中にGaをZnに対するモル%比で0.02モル%から0.4モル%含むことを特徴とするZnO突起形状物からなる電界放出電子源である。Gaは、13族元素であるため、ZnO半導体結晶に対してn型ドーパントとして働き、ZnO突起形状物の電気伝導度を向上させる働きがある。よって、ZnO突起形状物にGaを小量含むことによって、ZnO突起物中を電子が移動しやすくなり、小さい電界強度でも電子放出が起こりやすいと考えられている。
【0007】
本発明のGaを含むZnO突起形状物からなる電子放出電子源は、Ga源としてガリウムのβ−ジケトン錯体であるGa(Cを用いて作製することができる。Ga(Cは、100℃付近で気体となり空気や窒素などのキャリアガス中に適当な濃度で存在することから、例えばZn(Cを気化させ基板上にZnO突起形状物を形成する時に、キャリアガス中にGa(Cを混入させて、ZnO突起形状物にGaを含む電界放出電子源を作製することができる。
本発明のGaを小量含むZnO突起形状物を、水素雰囲気でアニールすることにより、さらに電界放出特性の優れた電界放出電子源を得ることができる。水素雰囲気によるアニールにより、一般的にZnO結晶の結晶性が向上し、n型半導体として電子移動度が向上して、優れた電界放出特性を有すると推定する。
本発明の電界放出電子源は、放出させた電子を蛍光体に当てることによって、発光装置として用いることができる。
【0008】
即ち本発明は、以下の通りのものである。
[1] ZnOとGa酸化物とを含有する突起形状の電界放出電子源であって、該Ga酸化物を構成するGaが、該ZnOを構成するZnに対するGaモル%比で0.02モル%から0.4モル%であることを特徴とする突起形状の電界放出電子源。
[2] 該ZnOがZnのβ−ジケトン類錯体を原料とし、該Ga酸化物がGaのβ−ジケトン類錯体を原料とし、CVD法で形成されたことを特徴とする上記[1]記載の突起形状の電界放出電子源。
[3] 上記[1]または[2]に記載の突起形状の電界放出電子源を用いることを特徴とする発光装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電界放出電子源は、製造が容易で、安価で入手が容易である。また、この電界放出電子源は、低い電界強度で必要な電流密度を得ることができ、繰り返し使用してもその電界放出特性が変化しない寿命の長い電界放出電子源である。この電界放出源を発光装置に用いることで、安価な原料で容易に製造ができ、寿命の長い発光装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明でいうZnO突起形状物とは、長さ10μmを超えるZnOを主成分とする突起形状のもので、例えば図1の電子顕微鏡写真で示すように、基板の上にほぼ垂直に突起形状を有するものである。このZnO突起形状物の長さの範囲は特に限定されないが、通常は、10μmから100μmであり、好ましくは、10μmから50μmであり、より好ましくは、15μmから30μmである。このZnO突起形状物の長さは、長さの異なるZnO突起形状物を用いて、図2に示す電子放出素子と電気配線を作り、電界法放出電源特性を調べることで、その性能を判断することができる。
【0011】
電界放出電源特性は、図2に示す電気配線した素子を真空中に置き、真空中での電流密度と電界強度を求める。電界法放出電源特性の良い素子とは、電流密度0.1μA/cmから100μA/cmの範囲の電流密度をより低い電界強度で得ることで判断することができる。ZnO突起形状物の長さが100μmを超えるものや、10μmより短いものは、電流密度100μA/cmに達しない場合や、達しても電流密度100μA/cmでの電界強度が20V/μmを超えることがあり、適当ではない。ZnO突起物による、電界放出電源特性は、先が尖った先端から電子が放出することから、ある程度の長さと、先端の尖がりの極小さが重要であり、長さが10μmより短いものは長さが足りず、長さが100μmを超えるものは、太いものができ易く先端の尖がりの極小さが問題であると考えられる。
【0012】
本発明のZnO突起形状物の本数は、長さ10μmを超えるZnOを主成分とする突起形状物が、1mmの面積当たり100本から100000本が好ましく、1000本から50000本がより好ましく、2000本から10000本がさらに好ましい。この本数に関しても、同様に本数の異なるZnO突起形状物を用いて、図2に示す電子放出素子と電気配線を作り、電界法放出電源特性を調べることで、その性能を判断した。1mmの面積当たりのZnO突起形状物の本数が100本より少ないと、電子放出する場所が少なすぎて、良い電界法放出電源特性を得ることができない。また、1mmの面積当たりのZnO突起形状物の本数が100000本を越えると、電子放出する場所が多すぎて電界が集中せず、特性が良くないと考えられる。
【0013】
本発明のZnO突起形状物の基板は、電気伝導性の基板なら特に限定しない。電気伝導性の程度は、特に限定しないが、電流密度1mA/cm以上が得られるものがよく、シリコン、GaAs、SiC、金属酸化物などの半導体基板や金属基板を用いることができる。
本発明のZnO突起形状物には、ZnO突起形状物中にGaを、Znに対するGaモル%比で0.02モル%から0.4モル%含む。本発明でいうモル%比とは、Gaを含むZnO突起形状物を1規定塩酸溶液100mlに溶解したものを溶液Aとし、その溶液A中のGa濃度とZn濃度をICP発光分析法で測定し求め、モル数に換算したモル%比である。すなわち、Znに対するGaモル%比は次式で表される。
Znに対するGaモル%比=(溶液A中のGaモル数/溶液A中のZnモル数)×100
【0014】
本発明のZnO突起形状物は、図3に示す大気圧MOCVD法装置で作製することができる。大気圧CVD法で、ZnO突起形状物を形成するには、原料として適当な温度をかけることによって、亜鉛成分を気化させることができるものを原料として使用することができる。このZn原料としては、亜鉛とアセチルアセトンなどのβ−ジケトン類錯体のように亜鉛と配位子を配位してなる亜鉛錯体、亜鉛とアルコキシド基、アルキル基、フェニル基、アルキルフェニル基、オレフィン基、アリール基、シクロブタジエン基などの共役ジエン基などが結合してなる有機亜鉛化合物および亜鉛ハロゲン化合物を用いることができる。Zn原料として、亜鉛のアセチルアセトン錯体であるビスアセチルアセトナト亜鉛やジエチル亜鉛やジメチル亜鉛などの有機亜鉛化合物を用いるとZnO突起形状物内に不純物が混入しない良質のZnOが形成され、より好ましい。Znのβ−ジケトン化合物であるZn(Cすなわちビスアセチルアセトナト亜鉛を原料にする場合には、この原料を80℃から150℃の範囲の適切な温度に設定し、窒素、アルゴンなどのキャリアガスを用いて基板上に導入することで、ZnO突起形状物を作製することができる。
【0015】
本発明のGaを含んだZnO突起形状物は、Zn原料を気化させたキャリアガスの前または後にGa原料を気化させることで、作製することができる。よって、Gaの原料としては、ガリウム含み、ガリウムを気化させることができるものであれば特に限定をしないが、ガリウムとアセチルアセトンなどのβ−ジケトン類錯体のようにガリウムと配位子を配位してなるガリウム錯体、ガリウムとアルコキシド基、アルキル基、フェニル基、アルキルフェニル基、オレフィン基、アリール基、シクロブタジエン基などの共役ジエン基などが結合してなる有機ガリウム化合物およびガリウムハロゲン化合物を用いることができる。
【0016】
ガリウムの原料として、ガリウムのアセチルアセトン錯体であるトリスアセチルアセトナトガリウムやトリエチルガリウムやトリメチルガリウムなどの有機ガリウム化合物を用いると不純物の少ないGaを含むZnO突起形状物が得られ、より好ましい。このGaモル%比の調整は、ガリウム原料の温度を変えるとキャリアガス中のガリウム原料の濃度が異なるため、原料温度を変えることにより調整できる。本発明のGaを、Znに対するGaモル%比で0.02モル%から0.4モル%含むZnO突起形状物を作製するには、Ga原料としてGa(Cすなわちトリスアセチルアセトナトガリウムを用いる場合には、原料気化温度を80℃から120℃の範囲に調整するのが好ましい。
【0017】
本発明でGaを含んだZnO突起形状物を基板上に作製するには、基板上でZn原料とGa原料と酸素を反応させて、ZnOとGa酸化物を形成しなければならない。そのため、基板上では酸素成分が必要である。この酸素成分源としては、空気、酸素、水、オゾンなどが挙げられるが、空気を使うのが容易であり好ましい。また、ZnOを形成するために基板温度は、300℃から1000℃が必要であり、ZnO突起形状物を形成するには、基板温度500℃から800℃が好ましく、基板温度600℃から700℃がより好ましい。
本発明のGaを含んだZnO突起形状物は、水素雰囲気でアニールすることが望ましい。基板上のGaを含んだZnO突起形状物を水素フロー中に置き、300℃から500℃の温度で30分から4時間アニールすることで、電界法放出電源特性が良くなる。このアニール時の水素濃度は、水素100%でも良いが、水素に窒素やアルゴンなどの付加活性ガスを混入しても良い。
【0018】
本発明のGaを含んだZnO突起形状物は、低い電界強度で電子を放出し、繰り返して電子放出させても性能が低下しないことから、放出させた電子を蛍光体に当てることによって、発光装置として用いることができる。また、本発明のGaを含んだZnO突起形状物から電子を放出させ、その電子を加速して銅やタングステンなどの金属に当てることによって、X線が発生することから、X線装置におけるX線源としても使用できる。本発明の電子放出源を用いた発光装置やX線装置の特徴は、電子放出源が面による電子放出であるため、広い面で発光させたりX線を放出させたりできることである。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例などに基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例などにより何ら限定されるものではない。
[実施例1〜5]
図3に本発明の突起形状の電界放出電子源を製造するための装置の概略図を示す。この製造装置は、キャリアガスである窒素の供給源51と、キャリアガスの流量を調整する流量計57と、原料であるガリウム化合物を気化する加熱槽53aおよび亜鉛化合物を気化する加熱槽53bと、キャリアガスを加熱槽53a及び53bに導入する配管54と、加熱槽53a及び53bで気化させた金属化合物を吹き出し口58に導く配管55、59と、基板11を加熱状態で保持する基板ステージ56、さらに反応媒体である空気の供給源61と、流量を制御した空気を配管59に導入するための配管60とで構成されている。
配管54には液体窒素による水トラップ52が設けてある。加熱槽53aと53bは、直列に配置されている。流量計57にはニードルバルブ57aが設けられていて、気体の入りと切り及び気体流量の調節ができるようになっている。液体窒素による水トラップ52は、窒素の供給源51から供給されたキャリアガス中に含まれる水分を除去するためのものである。
【0020】
本実施例では、窒素の供給源として圧縮窒素ボンベ(水分圧1.4Pa以下、富士アセチレン(株)製)を用いた。また、空気の供給源61は、空気をコンプレッサー(図示なし)で7.07×10Paに加圧してエアードライアー(図示なし)で−40℃に冷却して空気中の水分を除去している。このときの空気中の水分圧は3.4Paであった。
吹き出し口58に入る前に、キャリアガスと原料気体は配管59の部分で混合される。配管59の先端部には吹き出し58が接続してあり、この吹き出し58の開口部58aは、配管59からの気体が、基板11上の金属酸化物12を形成する面全体に吹き出させるように形成されている。また、配管54、55、59及び吹き出し口58(図3中、二重線、三重線で記載されている部分)はリボンヒーターで加熱されている。吹き出し口58は内径80mmφ、高さ46mm、厚さ10mmの中空の円錐状物を用いた。円錐の頂点部分に配管59との接合部があり、円錐の底面(円をなす部分)に開口部58aが形成されている。吹き出し口58の開口部58aは1mmφの穴が中心間距離2mmで千鳥に配置されている。穴の配置されている部分の範囲は、最も外側の穴の中心相互の距離で20mm四方である。
【0021】
加熱槽53aにGa(Cを仕込み、加熱槽の温度を実施例1では90℃、実施例2では100℃、実施例3では110℃、実施例4では115℃、実施例5では120℃にそれぞれ加熱した。加熱槽53bにZn(Cを仕込み、108℃に加熱した。吹き出し口58を200℃に加熱した。
吹き出し口58の開口部58aの穴の開いている部分の中央部が下側の基板11の中央部となるように配置した。基板11としてn型Si(100)基板((株)SUMCO製、比抵抗率≦0.1Ω・cm、25mm角)を使用した。なお、基板11には15mm角の正方形の開口部を持つ厚さ0.5mmの石英板をマスクとして配置した。石英板の位置は、開口部の中心部を吹き出し口58の開口部58aの穴の配置されている部分の中心部に一致させ、さらに石英板の面と開口部58aの穴の配置されている面が平行になるように配置した。基板11は基板ステージ56を加熱して650℃に加熱した。吹き出し口58の穴の配置されている部分の中心部において、吹き出し口58の開口部58aの末端と基板11の間隔の中心における温度は245℃であった。
【0022】
加熱槽53aに2.5dm/分の流量で乾燥空気を導入した。同時に、吹き出し口58に接続している配管59内に2.5dm/分の流量で乾燥空気を導入した。吹きつけ開始から60分間、Si基板11にほぼ垂直にGaを含むZnO突起形状物を成長させ、ZnOを主成分とする突起形状物を得た。このSi基板上成長させたGaを含むZnO突起形状物を、基板ごと水素を流しながら、400℃で1時間アニールを行い、Si基板に垂直に付着したZnOを主成分とする突起形状物を得た。
得られたSi基板に垂直に付着したZnOを主成分とする突起形状物を、図2に示すような回路を形成して電界放出特性及びそれを利用した発光特性の評価を行った。
導電性膜D2上に絶縁性アルミナからなる区画部材6bを介して、ステンレス製メッシュからなる引き出し電極4を取り付けた。導電性膜D2と引き出し電極4の間隔は250μmであり、導電性膜D2と引き出し電極4は電気的に絶縁されている。引き出し電極4を構成するステンレス製メッシュは0.3mm角の正方形の穴が0.5mm間隔で開けられている。この0.3mm角の正方形の穴が突起形状物の先端部を露出させる穴14になる。
【0023】
図2に概略図を示した装置を用いて、以下の手順で透明導電性膜D1が付与された石英基板G1の透明導電性膜側に蛍光体Hを形成した。
石英基板G1の上に上記した透明導電膜D2と同様の方法で形成した透明導電膜D1を形成した後、透明導電膜D2が形成された側を吹き出し口58に向けて置き、650℃に加熱した。加熱槽53bにY(C1119、とEu(C1119をそれぞれ2:1の重量比で仕込み、220℃に加熱した。加熱槽53bに仕込むYとEuの金属化合物を形成するC1119は、ジピバロイメタナト基である。加熱槽53a、配管55及び吹き出し口58はリボンヒーターで230℃に加熱した。
吹き出し口58の開口部58aの穴の配置されている部分の中央部に透明導電性膜D1が被覆された石英基板G1(25mm角)を配置した。なお、透明導電性膜D1が被覆された石英基板G1には15mm角の正方形の開口部を持つ厚さ0.5mmの石英板をマスクとして配置し、蛍光体Hの形成部位を決定した。石英板は開口部の中心部を吹き出し口58の開口部58aの穴の配置されている部分の中心部に一致させ、さらに石英板の面と吹き出し口58の開口部58aの面が平行になるように配置した。透明導電性膜D1を被覆した石英基板G1は基板ステージ56により700℃になるように加熱した。
【0024】
この状態で、窒素の供給源51から配管54内に1.2dm/分の流量で窒素を導入することにより、窒素ガスをキャリアとするYとEuの金属化合物混合気体を、配管55を介して吹き出し口58から石英基板G1の透明導電性膜D1面に50分間吹き付けて蛍光体Hを形成した。これにより、蛍光体HとしてY:Euが形成される。また、この際、吹き出し口58に空気を導入しなかった。
こうして作製したものを真空チャンバー内に入れ、電界放出特性及びそれを利用した発光特性の評価を行った。この際、透明導電性膜D1は真空チャンバーの端子を通じて電圧計を備えた可変直流電源B1のプラス側に接続した。また、導電性膜D2には真空チャンバーの端子を通じて電流計Aを接続した後、電圧計を備えた可変直流電源B1及びB2の一極側及びアースに接続した。電流計Aで示される電流値が電子放出素子から放出されるカソード電流値となる。図2において点線から左側の部分が真空チャンバー内に、点線から右側の部分が真空チャンバー外に位置する。また、真空チャンバーの上面部分は透明なガラスでできていて、蛍光体H及び透明導電性膜D1を被覆した石英基板G1などが真空チャンバーの上面部から観察できるようになっている。
【0025】
真空チャンバーを閉めた後、真空チャンバー内部を7×10−6Paから5×10−5Paになるように排気を行った。さらに、直流可変電源B2を3000Vに設定した。直流可変電源B1は、500Vから安定したカソード電流値が得られるまで毎分50Vの割合で昇圧した。その後、電流密度100μA/cmと0.1μA/cmの安定したカソード電流において、それぞれの電圧値を読み取り電流密度に対する電界強度を求めた。電流密度100μA/cmにおける電界強度を電解強度100とし、電流密度0.1μA/cmにおける電界強度を電解強度0.1とし、表1に記載した。
電流密度50μA/cmのおける発光面積比を調べるために、蛍光体Hの垂直方向から、蛍光体Hが発光している部分を写真に撮り観察した。この写真を実寸サイズにし、蛍光体Hと同寸法の15mm×15mmの正方形の範囲に縦横1mm刻みで格子が描かれている透明板を介し、発光している部分と発光していない部分を区別して発光面積比を求め、電流密度50μA/cmのおける発光面積比を表1に示した。
【0026】
さらに繰り返し放電における電界強度の再現性を調べるため、電流密度0.1μA/cmで10分発光させた後引き続き電流密度100μA/cmで10分発光させてこれを1サイクルとして、サイクル試験を行った。表1に示した1サイクル後の引出電解強度は、1サイクル後に測定した電流密度100μA/cmでの電解強度であり、100サイクル後に測定した電流密度100μA/cmでの電解強度である。
電界放出特性及び発光特性の評価後、真空チェンバーからZnOを主成分とする突起形状物の付いた基板12を取り出した。取り出したZnOを主成分とする突起形状物の付いた基板12を、電子顕微鏡観察して、突起形状物の長さ、存在密度を観察した。この電子顕微鏡観察では、表面にごく薄く金蒸着を行い観察した。突起形状物の長さ及び密度は、長さ10μmを越えるものを対象に測定した。
電子顕微鏡観察後、ZnOを主成分とする突起形状物のGaモル%を測定するために、ZnOを主成分とする突起形状物の付いた基板12ごと、塩酸1規定中に溶かし、ICP発光分析法で、GaとZnの濃度を求め、突起形状物中のGaモル%を求め、表1に示した。
本実施例では、低い電界強度で電流密度100μA/cmが得られ、しかも100サイクルの繰り返し電界放出においても、その低い電界強度が変わらず、寿命が長い。
【0027】
【表1】

【0028】
[比較例1]
加熱槽53aに原料を仕込まずに、加熱槽53aの温度を100℃に調整した以外は実施例1と同じ方法で、ZnOからなる突起形状物12を形成し、電界放出特性の評価を行った。結果を表2に示す。
本比較例では、突起形状物はZnOからなりGaを含まない。この場合、実施例に比べ高い電界強度で電流密度100μA/cmが得られ、しかも100サイクルの繰り返し電界放出後においても、電界強度がさらに高くなり、寿命が短い。
【0029】
【表2】

【0030】
[比較例2]
加熱槽53aにGa(Cを仕込み、加熱槽53aの温度を125℃に調整し、突起形状物の成長時間を120分とした以外は実施例1と同じ方法で、ZnOからなる突起形状物12を形成し、電界放出特性の評価を行った。結果を表3に示す。
本比較例では、突起形状物の成長時間が遅くかったため、実施例とほぼ同様の長さの突起形状物を得るのに実施例より時間がかかった。
本比較例では、突起形状物中にGaを1.03モル%含んでいる。この場合、実施例に比べ高い電界強度で電流密度100μA/cmが得られ、しかも100サイクルの繰り返し電界放出後においても、電界強度がさらに高くなり、寿命が短い。
【0031】
【表3】

【0032】
[比較例3〜7]
加熱槽53aにAl(Cを仕込み、加熱槽の温度を比較例3では90℃、比較例4では100℃、比較例5では110℃、比較例6では115℃、比較例7では120℃にそれぞれ加熱し、突起形状物平均長さが23μmから25μmになるように突起形状物形成時間を調整した以外は、実施例1と同様の方法でZnOからなる突起形状物12を形成し、電界放出特性の評価を行った。結果を表4に示す。
本比較例では、突起形状物中にAlを0.07モル%から0.95モル%含んでいて、Gaを含まない。この場合、実施例とほぼ同様の電界強度で電流密度100μA/cmが得られるが、100サイクルの繰り返し電界放出後においても、電界強度がさらに高くなり、寿命が短い。
【0033】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明により、低消費電力でしかも繰り返し寿命の長い電界放出型電子放出素子が得られる。この電界放出型素子は、画像・映像表示装置や照明及び微小真空管等の光源の電界放出素子として有効に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】シリコン基板に成長させたZnO突起形状物の電子顕微鏡写真。
【図2】電界放出特性を測定するための装置の概略構成図。
【図3】大気圧MOCVD法を実施するための装置の概略構成図。
【符号の説明】
【0036】
A 電流計
B1 直流可変電源
B2 直流可変電源
D1 透明導電性膜
D2 導電性膜
H 蛍光体
G1 石英基板
G2 ベース板
4 引出電極
6a 区画部材
6b 区画部材
11 基板
12 突起形状物を有する金属酸化物
14 先端部を露出させる穴
51 窒素供給源
52 液体窒素による水トラップ
53a 加熱槽
53b 加熱槽
54 配管
55 配管
56 基板ステージ
57 流量計
57a ニードルバルブ
58 吹き出し口
58a 開口部
59 配管
60 配管
61 空気供給源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZnOとGa酸化物とを含有する突起形状の電界放出電子源であって、該Ga酸化物を構成するGaが、該ZnOを構成するZnに対するGaモル%比で0.02モル%から0.4モル%であることを特徴とする突起形状の電界放出電子源。
【請求項2】
該ZnOがZnのβ−ジケトン類錯体を原料とし、該Ga酸化物がGaのβ−ジケトン類錯体を原料とし、CVD法で形成されたことを特徴とする請求項1記載の突起形状の電界放出電子源。
【請求項3】
請求項1または2に記載の突起形状の電界放出電子源を用いることを特徴とする発光装置。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−277357(P2009−277357A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−124571(P2008−124571)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】