説明

h−EGF含有スフィンゴミエリンリポソームおよびこれを配合した化粧料及び医薬品

【課題】皮膚に直接塗布するだけで、有効成分を皮膚の表皮角層下及び真皮まで送達させる技術を開発し、角層下の生きた組織をケアすることを可能とする技術を開発すること。
【解決手段】本発明の一実施形態は、スフィンゴミエリンリポソームにh-EGFを含有させる(絡ませる)ことを特徴とする。この実施形態によれば、角層下の生きた組織にh-EGFを供給することが可能となり、細胞の分裂や成長を促進せしめると共に、分裂した細胞に細胞間脂質の原料となるスフィンゴミエリンを十二分に供給することで、細胞が十分に脂質を生成することが可能となる。これらの相乗効果によって美しく健康な角層が形成され、しかも、かかる効果を皮膚上塗布だけで得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚の健康改善に資する技術に関し、特に、EGFやスフィンゴミエリン、及びそれらを含む化粧品並びに医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
上皮成長因子又は表皮成長因子、上皮細胞増殖因子などと訳されるEGF(Epidermal Growth Factor)は、アメリカの生物学者スタンレー・コーエン博士により1962年に発見されたタンパク質で、53個のアミノ酸が連なるポリペプチドである。EGFは、標的細胞(ターゲットセル)の増殖因子で、DNAやRNAの合成を促進し、細胞遺伝子の複製と転写を促し、細胞の分裂を速め、細胞の成長と分化を促進する。このような働きのため、臨床医学において、EGFは、傷口の修復と潰瘍癒合に著しい効果があることが知られており、また、美容やスキンケアの分野では、皮膚のきめを細かくすることや、皮膚のハリや弾性を増加させる、シミ・ソバカス・肌荒れなどのトラブルを解消するなど、皮膚の健康を改善し、皮膚の老化を防止する働きがあることが知られている。
【0003】
人間にはEGFを作り出す能力が備わっているが、年齢を重ねるに従い、その分泌量は減少していく。そこで、EGFを化粧品に配合し、外部から肌に補給することにより、EGFの持つ整肌効果を得ようとすることが、従前から提案されている。(特公平4−69123号公報の請求項1及び2を参照。)
【特許文献1】特公平4−69123号公報
【0004】
ところが、実はEGFを肌の上からいくら塗布しても、EGFを皮膚の内部まで浸透させることは困難である。皮膚の構造は、皮下組織の上を真皮が覆い、その上を表皮が覆うという構造になっており、さらに表皮は、表面側から角層・顆粒層・有棘層・基底層に分かれている。つまり肌の最表面は角層であるが、EGFは角層を通過することが非常に難しいのである。
【0005】
角層は20ミクロン程度の厚さを有し、細菌や汚れなどが皮膚内部に侵入することを防ぐバリアの役目を果たすと共に、内部の潤いを外部に逃がさないようにする保湿の役目を果たしている。このバリア機能のため、EGFのような有効成分をいくら肌の上から塗布したとしても、それは角層に阻まれてしまうので、角層より下の層へ届けることは非常に困難である。
【0006】
しかも、角層の細胞は、実は既に死んでしまった細胞である。表皮の細胞は基底層で生まれ、これが有棘層・顆粒層・角層へと徐々に表面へと押し上げられていき、最後は垢となって剥がれ落ちる。基底層で生まれてから角層から剥がれ落ちるまで、25歳前後の人間でおよそ28日である。表皮細胞は、顆粒層の最上部でアポトーシスを起こし、死んでしまう。生まれてからアポトーシスを起こすまでおよそ14日、アポトーシスを起こしてから垢として剥がれ落ちるまで、およそ14日である。これらの日数は、加齢が進むにつれて、徐々に伸びていくことが知られている。表皮細胞が基底層で生まれて顆粒層へと移動する間に、細胞はセラミドなどの脂質を合成し、内部にため込む。そして顆粒層の細胞が細胞死(アポトーシス)を起こす時、内部に溜めていたセラミドなどを放出するので、角層は脂質の中に死んだ細胞が浮遊しているような構造を呈している。この細胞間脂質が肌のうるおいのもとになる。細胞間脂質が少ないと、肌のうるおいがなくなり、乾いたような状態になるので、特に女性は化粧水や乳液・クリームなどを使用して、肌のうるおいを保とうとする。しかし、肌の上からいくら有効成分を塗布しても、それは所詮既に死んでしまった組織をケアしているに過ぎない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
角層をケアすることは肌の健康を保つうえで重要なことであるので、従来からのように化粧品を肌に塗布する事は、むろん意味のあることである。しかし前述のように、角層はすでに死んでしまった細胞から構成されており、死んだ組織をいくらケアしても、真の解決にはならないのではないかと、本発明者は考えた。すなわち、肌の健康を真に改善しようとするならば、生きている細胞構造をケアしてあげねばならない。死んだ細胞からなる角層の質を向上させるには、まずもってその細胞が生きていたときに健康な細胞である必要があるだろう。また前述のように、角層のバリア機能や保湿機能の元であるセラミドなどの脂質は、細胞が生きている時に合成される。すると、細胞が生きている間に十分なセラミド合成を可能とするようにケアしてあげねばならないだろう。また、肌の弾力性は、表皮の下の真皮層が、コラーゲンやエラスチン、さらに水分を保持することにより、作られている。すると、真皮層をケアしてあげなければ、肌の若さを保つための真の解決にはならないだろう。従って、角層下の表皮構造や真皮層のケアを行うことは、角層をケアすることよりも、皮膚の健康改善を図る上ではより一層重要であると考えられる。しかしながら従来は、有効成分に角層バリアを通過させて角層下に送達することはできなかったので、角層下の構造を直接にケアする術は存在しなかった。このため、従来の皮膚用化粧料は、もっぱら角質のケアを目的としたものであり、また角質のケアに目的を限定せざるを得なかった。
【0008】
本発明は、このような事情及び考察に鑑みてなされたものであって、皮膚に直接塗布するだけで、有効成分を皮膚の表皮角層下及び真皮まで送達させる技術を開発し、角層下の生きた組織をケアすることを可能とする技術を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願人は、スフィンゴミエリンをリポソーム化したリポソームの中に、有効成分を取り込ませることによって、上記の課題を解決することができることを見いだした。
【0010】
スフィンゴミエリンをリポソーム化したリポソームは、直径が100nm〜1μmと極めて小さく、角層を通過してその下の顆粒層や有棘層、基底層、さらにその下の真皮にまで達することが可能であると考えられている(本出願人による先行特許出願WO2007/145276を参照)。しかし、スフィンゴミエリンリポソームに別の成分を含有させた場合にも、角層を通過することができるか否かは不明であった。
【特許文献2】WO2007/145276
【0011】
本出願人は、スフィンゴミエリンリポソームに別の成分を含有させた場合であっても、同様に角層を通り抜けて角層下の表皮構造に浸透し、さらに真皮にまで達することができることを実験によって確かめた。そして発明者は、角層下の表皮構造や真皮構造に達したスフィンゴミエリンリポソームが、これらの構造の中で徐々に壊れていき、そのときにリポソームに取り込まれていた成分が構造中に放出されることを実験的に確かめた。
【0012】
従って、スフィンゴミエリンリポソームに有効成分を取り込ませ、これを皮膚の上から塗布すると、角層を通り抜けて生きた皮膚細胞へ有効成分を供給することができる。
【0013】
上記の有効成分は、例えばEGFであることができる。EGFは、ヒトの体内で合成されるEGFと同じ構造を有するEGF(ヒトEGF, h-EGF)であることが好ましい。h-EGFは、皮膚・毛髪などから得ることもできるが、遺伝子工学技術を用いて人工的に合成することも可能である。遺伝子工学によるh-EGFの合成方法に関する文献として、WO85/00369(日本語翻訳文は特表昭60−501737号)が存在する。
【特許文献3】WO85/00369
【0014】
リポソーム化するスフィンゴミエリンは、極めて高純度のものであることが好ましい。純度98%以上の高純度スフィンゴミエリンが、COATSOME NM-10及びCOATSOME NM-70という商品名で、日油株式会社から市販されている。また、同様の高純度スフィンゴミエリンが、出願人である株式会社シャロームより、「スフィンゴミエリンナチューレ」の商品名で市販されている。
【0015】
本発明によれば、経皮吸収によって有効成分を皮膚の奥深くまで送達することができ、その有効成分を生きた組織へ届けることができる。例えば、h-EGFを角層下の表皮構造や真皮構造にまで送達することができる。生きた細胞へh-EGFが届けられると、h-EGFの機能が発揮され、細胞分裂が活発化し、細胞の成長や分化が促進され、新しい皮膚細胞が次々と生産される一方で老細胞が速やかに破棄される。従って、肌はいつまでも若々しくあることができ、艶や弾力性が増し、創傷があれば速やかに修復されうる。表皮の新陳代謝が活発化することで、若く健康な表皮細胞が角質細胞へとアポトーシスを遂げることができるので、美しく丈夫な角層が形成されうる。また、健康な真皮が形成されることにより、皮膚の保水機能や弾力性が向上する。
【0016】
何度も強調されねばならないことは、h-EGFの細胞成長促進効果は、角質細胞など死んだ細胞相手では発揮され得ないことである。既に死んでしまった細胞を相手にいくらh-EGFを適用しても、その細胞を生き返らせることは不可能であり、従って細胞の分裂や成長などが起こることは有り得ない。そして、h-EGFに角層を通過させる手段は従来存在しなかったため、皮膚上塗布にてh-EGFを角層下に届けることは不可能であり、経皮吸収にてh-EGFの効果を得ることは不可能であった。過去において、h-EGFの優れた創傷治癒効果は、角層が破れて下部組織が露わになった場合に確かめられたものである。
【0017】
本発明は、世界で始めて、経皮吸収にてh-EGFを角層下の生きた細胞組織に送達することを可能としたものである。皮膚の上から塗布するだけで、h-EGFの効果を発現せしめることを可能とする技術は、出願人の知る限り、未だかつて存在しなかった。
【0018】
さらに本発明は、h-EGFなど有効成分を送達するために、スフィンゴミエリンで作られたリポソームを利用している。スフィンゴミエリンはセラミドの前駆体であり、顆粒層・有棘層でセラミドを作るために用いられる。本発明によるリポソームを皮膚に塗布すると、浸透したリポソームが角層下で壊れ、角層下の表皮細胞にスフィンゴミエリンがたっぷりと供給される。このため顆粒層の細胞は、アポトーシスを起こす前にセラミドをたくさん作って内部に溜め込むことができ、いざアポトーシスを起こして角質細胞へと変質する時、多量のセラミドを放出することができる。従って、多量の細胞間脂質を含んだみずみずしく滑らかな角層が形成される。細胞間脂質の量が多いと、単に肌がきれいに見えるだけでなく、保湿性・バリア能にも優れることになる。
【0019】
すなわち、スフィンゴミエリンリポソームにh-EGFを含有させる(絡ませる)ことを特徴とする本発明の一実施形態によれば、角層下の生きた組織にh-EGFを供給することにより、細胞の分裂や成長を促進せしめると共に、分裂した細胞に細胞間脂質の原料となるスフィンゴミエリンを十二分に供給することで、細胞が十分に脂質を生成することを可能とし、これらの相乗効果によって美しく健康な角層が形成されるという効果を得ることができる。しかも、かかる効果を皮膚上塗布だけで得ることができるという、かつて想像もし得なかった利便性が提供される。
【0020】
かかる効果のため、本発明によるリポソームは、皮膚や毛髪のケアに用いる化粧品及び医薬品一般に使用されることが可能であり、本発明はかかる化粧品や医薬品をその範囲に含む。
【0021】
本発明の実施形態は、以下のものを含む。
(1)スフィンゴミエリンをリポソーム化したリポソームであって、その中に有効成分が取り込まれていることを特徴とする、リポソーム。
(2)前記有効成分はh-EGFであることを特徴とする、請求項1に記載のリポソーム。
(3)請求項1又は2のリポソームを含むリポソーム製剤。
(4)請求項1又は2のリポソームを含む化粧料。
(5)請求項1又は2のリポソームを含む医薬品。
(6)スフィンゴミエリンをリポソーム化したリポソームであって、その中に有効成分が取り込まれていることを特徴とする、リポソームを製造する方法であって、スフィンゴミエリンをエタノールで溶解し、前記有効成分及びスクロースを溶解した水を加えて乳化すると共に攪拌する工程を有する方法。
【0022】
本発明の好適な実施形態のいくつかのものは添付の特許請求の範囲に特定されている。しかし本発明の実施形態は、特許請求の範囲や明細書及び図面に明示的に記載されるものに限定されず、本発明の思想を逸脱することなく、様々な形態をとることが可能である。本発明は、本願特許請求の範囲や明細書及び図表に明示的に開示されるか否かにかかわらず、これらの書類から教示されうるあらゆる新規かつ有益な構成を、その範囲に含むものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態の例を詳細に説明する。
【0024】
〔h-EGFを含有するスフィンゴミエリンリポソームの製法〕
(1)スフィンゴミエリンの入手
ここで説明する本発明の実施例に用いるスフィンゴミエリンとして、株式会社シャローム製の「スフィンゴミエリンナチューレ」(商標)を用いる。スフィンゴミエリンナチューレは、牛乳を原料として製造されるスフィンゴミエリンであり、純度98%以上の極めて高純度のスフィンゴミエリンである。なお、以下スフィンゴミエリンをSPMと表記する場合がある。
【0025】
(2)h-EGFの入手
h-EGFは、中国・アペロア社をはじめ、数社から購入可能である。図1に示すように、細胞増殖活性の測定を通じてこれらのh-EGFの活性を測定した結果、各メーカーのEGF活性は、その比活性を考慮して、同等であると判断できる(図2)。
【0026】
(3)h-EGF含有SPMリポソームの製法
h-EGFを取り込んだスフィンゴミエリンリポソームは、例えば次のような製法にて製造することができる。
スフィンゴミエリン2.0 gをエタノール4.0 gで溶解
↓at 65℃
EGF 1.0mg及びスクロース9.0gを溶解した水を加えて乳化
↓at 65℃、10000rpm、20min
注射用水にて100 gにメスアップ

2枚重ねしたメンブランフィルター(0.2μm)でサイジング
↓at 65℃、0.8〜1.0Mpa、3回繰り返し
EGF含有スフィンゴミエリンリポソーム液
【0027】
以上にてEGF含有スフィンゴミエリンリポソーム液が出来上がる。平均粒子径やpHを測定しておくことが好ましい。
【0028】
(4)EIA定量
R&D systems「Quantikine Human EGF Immunoassay」Cat No.DEG00を用いてEIA定量を行った。
【0029】
単なるEGF水溶液、及びそれとEGF濃度が等しくなるように希釈したEGF含有SPMリポソーム液をEIAにて定量した結果を図3に示す。水および希釈液にて希釈した場合は、freeのEGF水溶液の約半分のシグナルしか示さないが、EtOHでリポソームを破壊した後希釈した場合は、free EGFとほぼ同等のシグナルを示した。この試験結果は、上記の製法において、投入したEGFの約半分がSPMリポソームに取り込まれたことを示している。
【0030】
(5)h-EGF含有SPMリポソームのSPM濃度の検討
SPMの濃度を1、2、5%とし、EGF濃度は一定としたEGF含有スフィンゴミエリンリポソーム液を調製し、これらのEGF濃度が等しくなるように希釈した各EGF含有SPMリポソーム液をEIAにて定量した。
【0031】
各リポソーム液のEGF濃度が等しくなるように希釈したEGF含有SPMリポソーム液をEIAにて定量した結果を図4に示す。EtOHでリポソームを破壊した後希釈した場合のシグナルから、水および希釈液にて希釈した場合のシグナルを差し引いた分がSPMリポソームに取り込まれたEGFと推定しているが、SPM濃度に依存し、SPMリポソームに取り込まれたEGFと推定される量が増えている。なお、各リポソーム液の平均粒子径に殆ど差はない。
【0032】
(6)活性測定
細胞増殖活性の測定を通じてEGF含有SPMリポソームの活性を測定した。
【0033】
(6−1)細胞: Balb/3T3 clone A31 (ATCC, No. CCL163)
【0034】
(6−2)方法:
Balb/3T3細胞を集め、10%FBS含有DMEM培地で濃度3×104cells/mLの細胞懸濁液を作り、96穴プレートに100μL/wellずつ添加し、37℃、5%CO2条件下で18〜24時間培養する。翌日、各ウェルの上澄みを除き、0.4%FBS含有DMEM培地を100μL/wellずつ添加し、18〜24時間培養する。
0.4%FBS含有DMEM培地で希釈した各試料溶液を培養中のウェルに100μL/wellずつ追加する。37℃、5%CO2条件下で約72時間培養後、細胞増殖度をWST-1法(Cell Counting Kit;DOJINDO、Cat. No. 345-06463)にて測定し、最大活性の半分値を与えるときの濃度(EC50)を算出し、各試料のEGF活性を比較する。
【0035】
(6−3)結果
結果を図5に示す。プラセボ(SPM)のSPMリポソームに活性は認められず、EGF含有SPMリポソーム(EGF-SPM)はfreeのEGF(EGF)の約1/2の活性を示した。EIAの結果と同様の傾向であった。
【0036】
(7)EGF含有SPMリポソームの保存安定性試験
EGF含有SPMリポソームとEGF水溶液について、5,25,40℃による1ヶ月、3ヶ月、4ヶ月保存前後のEGF含量を、EGF-EIAキット(R&D systems「Quantikine Human EGF Immunoassay」Cat No.DEG00)を用いて定量した。試験結果を図6に示す。
【0037】
また、5℃および40℃による3ヶ月保存後の活性を、WST-1法にて測定した。Free EGFについての試験結果を図7に、EGF含有SPMリポソームについての試験結果を図8に、それぞれ示す。
【0038】
図6及び図8に見られるように、5℃保存であれば、少なくとも3ヶ月までは活性・EIAシグナルともに概ね安定である。
【0039】
〔カルセイン含有SPMリポソームの角層上滴下試験〕
h-EGFをSPMリポソームに取り込ませることにより、経皮吸収にて真皮まで送達せしめることが可能であることを実験的に示すため、蛍光材料であるカルセインをSPMリポソームに取り込ませて、カルセイン含有SPMリポソームを角層の上から滴下し、浸透の様子を調べる実験を行った。
【0040】
(1)カルセイン含有リポソームの製造
h-EGF含有SPMリポソームの製法と同じように、次のような製法にてカルセイン含有SPMリポソームを製造した。
スフィンゴミエリン1.0 gをエタノール2.0 gで溶解
↓ at 65℃
カルセイン0.0623g及びスクロース9.0gを溶解した水を加えて乳化
↓ at 65℃、10000rpm、20min
注射用水にて100 gにメスアップ

2枚重ねしたメンブランフィルター(0.2μm)でサイジング
↓ at 65℃、0.8〜1.0Mpa、3回繰り返し
【0041】
以上にて製造されたカルセイン含有SPMリポソーム液を、次のように濃縮した。
限外ろ過濃縮
↓50000cut off、at 4℃
セファロースCL-4Bゲルろ過
↓at 4℃、溶出液:PBS
SPMリポソーム画分をプールし、9%スクロース水溶液に溶媒置換
↓PD-10カラム
限外ろ過濃縮
↓50000cut off、at 4℃
以上にて、freeのカルセインを除去した濃縮カルセイン含有SPMリポソーム液が出来上がる。なお、このカルセイン含有SPMリポソーム液のリポソーム内部では蛍光消光のために蛍光を殆ど発し得ないが、液にTritonX-100(最終濃度1%)を添加し、リポソームを完全に破壊し、すべてのカルセインが外に放出された際の蛍光強度は、液を直接測定した際の蛍光強度の約4〜5倍になる。
【0042】
(2)試験及び結果
上記のように製造したfreeのカルセインを除去した濃縮カルセイン含有SPMリポソームを、ヒト3次元皮膚モデル(TESTSKINTM LSE-highを使用)に角層の上から滴下し、6時間経過後に電子顕微鏡で写真を撮影した。写真を図9に示す。
【0043】
図9を参照すると、画面上で白くぼやっと写っているものがあるが、これがカルセインである。角層上から滴下したにも関わらず、カルセインが角層下の表皮組織のみならず真皮層にまでも存在していることが分かる。特に、白の矢印で示した部分を参照されたい。
【0044】
留意すべきは、写っているカルセインは、SPMリポソームが壊れて外部に放出されたものであることである。SPMリポソームが壊れていなければ、カルセインは写らない。前述のようにこの写真は滴下後6時間経過後に撮影したものであるが、もっと時間が経過してから撮影すれば、より多くのSPMリポソームが壊れて、さらに多くのカルセインが角層下組織に写っていた可能性がある。
【0045】
図9の写真から、SPMリポソームに取り込まれた成分が、角層を通り抜けて角層下の表皮組織や真皮層へと送達せしめられることが示される。
【0046】
本発明の範囲に含まれる化粧料は、より具体的に、例えば次のような化粧料であることができる:おしろい,フェースパウダー,紙おしろい,クリームおしろい,固形おしろい,粉おしろい,練りおしろい,水おしろい,皮膚用化粧品,化粧水,スキンローション,柔軟化粧水,収れん化粧水,粘液性化粧水,ハンドローション,ひげそり用化粧水,薬用化粧水,化粧液,保湿液,美容液,クリーム,油性クリーム,中油性クリーム,弱油性クリーム,クレンジングクリーム,コールドクリーム,ハイゼニッククリーム,バニシングクリーム,ハンドクリーム,ひげそり用クリーム,漂白クリーム,ファウンデーションクリーム,薬用クリーム,リップクリーム,乳液,ミルクローション,スキンミルク,日やけクリーム,日やけ止めクリーム,日やけ(用),日やけ止め(用),仕上用化粧品,ファンデーション,フェースカラー,コンシーラー,化粧下地,メークアップベース,プレメークアップ,紅,口紅,リップスティック,リップルージュ,リップカラー,リップペンシル,リップグロス,リップライナー,アイメークアップ,アイシャドウ,アイカラー,アイライナー,眉墨,アイブローペンシル,アイブローブラッシュ,マスカラ,まつげ化粧料,練紅,頬化粧料,頬紅,チークカラー,チークルージュ,ボディメークアップ,整髪料,養毛料,頭皮料,毛髪着色料,洗髪料,頭髪用化粧品,髪油,カラーリンス,コールドパーマ用液,すき油,セッティングローション,染毛剤,毛髪脱色剤,チック,パーマネント用液,びん付け油,ヘアクリーム,ヘアスプレー,ヘアトニック,ヘアフィクサー,ヘアラッカー,ヘアリンス,ベーラム,ポマード,ボディパウダー,タルカムパウダー,バスパウダー,パヒュームパウダー,ベビーパウダー,天爪粉,浴用化粧料,バスオイル,バスソルト,バブルバス,フォームバス,パック用化粧料。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】EGFによるBalb/3T3細胞賦活効果(WST-1法)の試験結果
【図2】各社EGFの細胞増殖活性試験結果
【図3】EGF含有SPMリポソーム液のEIA定量試験結果
【図4】EGF含有SPMリポソームのSPM濃度による結果
【図5】EGF含有SPMリポソームのBalb/3T3細胞賦活効果(WST-1法)の試験結果
【図6】EGF含有SPMリポソームの保存安定性試験結果(EIA)
【図7】EGFの保存安定性試験結果(活性)
【図8】EGF含有SPMリポソームの保存安定性試験結果(活性)
【図9】カルセイン含有SPMリポソームの浸透試験の結果を示す電子顕微鏡写真

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スフィンゴミエリンをリポソーム化したリポソームであって、その中に有効成分が取り込まれていることを特徴とする、リポソーム。
【請求項2】
前記有効成分はh-EGFであることを特徴とする、請求項1に記載のリポソーム。
【請求項3】
請求項1又は2のリポソームを含むリポソーム製剤。
【請求項4】
請求項1又は2のリポソームを含む化粧料。
【請求項5】
請求項1又は2のリポソームを含む医薬品。
【請求項6】
スフィンゴミエリンをリポソーム化したリポソームであって、その中に有効成分が取り込まれていることを特徴とする、リポソームを製造する方法であって、
スフィンゴミエリンをエタノールで溶解し、前記有効成分及びスクロースを溶解した水を加えて乳化すると共に攪拌する工程を有する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−234945(P2009−234945A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−79783(P2008−79783)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(599047125)株式会社シャローム (5)
【出願人】(390010205)第一ファインケミカル株式会社 (23)
【Fターム(参考)】