説明

p27のプロテアソーム分解の阻害因子である、アルギリン及びその誘導体等の大員環の製造の中間体を製造する改善された方法

本発明は、p27のプロテアソーム分解の阻害因子である特定の大員環、特にアルギリン及びその誘導体を合成する改善された方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p27のプロテアソーム分解の阻害因子である特定の大員環、特にアルギリン及びその誘導体を合成する改善された方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サイクリンキナーゼ阻害因子p27kip1の細胞内レベルの低下は、多くのヒトのがんにおいて頻繁に見られ、患者の予後と直接相関している(非特許文献1)。具体的には、ユビキチン依存性プロテアソーム代謝回転が、多くのヒトのがんにおいてp27発現の低下を引き起こすことが示されている(非特許文献2)。
【0003】
特許文献1は、薬学的に活性な大員環(「アルギリン」)、及び自己免疫疾患の治療、免疫寛容の誘導又は細菌感染の治療のためのそれぞれの医薬品製剤を開示している。
【0004】
非特許文献3は、アルギリンと呼ばれる環状ペプチド群の製造、及びそれらの生物学的性質の幾つかを記載している。非特許文献4は、上記環状ペプチドの構造を記載している。アルギリンA〜Hは、粘液細菌アーキアンギウム・ゲファイラ(Archangiumgephyra)から得ることができる。
【0005】
同様に、非特許文献5は、アルギリンBの合成及び抗体形成の阻害因子としてのその機能を記載している。
【0006】
特許文献2は、被験体におけるがんの治療用の薬物の製造に特許文献1の大員環を使用することを記載している。
【0007】
特許文献3「p27のプロテアソーム分解の阻害因子である、アルギリン及びその誘導体等の新規の大員環の製造の中間体を製造する方法、並びに上記大員環の使用(Method for producing intermediates for the production of novelmacrocycles that are inhibitors of the proteasomic degradation of p27, such asargyrin and derivatives thereof, and uses of said macrocycles)」(その全体が参照により本明細書中に援用される)は、p27のプロテアソーム分解の阻害因子である、アルギリン及びその誘導体等の大員環の製造の中間体、並びに上記大員環を製造する方法及び上記大員環の生物学的活性を記載している。
【0008】
したがって、アルギリン及び関連大員環は、様々な病態、例えば免疫寛容誘導、自己免疫疾患、細菌感染及び増殖性疾患(がん等)の治療用の薬物の更なる開発にとって興味深い候補である。
【0009】
しかしながら、アルギリン及びその関連誘導体の薬学的可能性を十分に引き出すことは、十分な量の化合物を(例えば微生物から)単離するには相当の努力が必要となるそれらの比較的複雑な化学構造のために困難であり、研究及び治療に容易に利用可能なこのファミリーの有効化合物の数を制限している。アルギリンの立体選択的形態を十分な量及び純度で容易に製造することは特に困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】英国特許出願公開第2,367,553号
【特許文献2】欧州特許第1964560号
【特許文献3】国際公開第2010/006682号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Philipp-Staheli, J., Payne, S.R. and Kemp, C.J. p27(Kip1):regulation and function of a haplo-insufficient tumour suppressor and itsmisregulation in cancer. Exp Cell Res 264, 148-68 (2001)
【非特許文献2】Loda, M. et al. Increased proteasome-dependent degradation of thecyclin dependent kinase inhibitor p27 in aggressive colorectal carcinomas. NatMed 3, 231-4 (1997)
【非特許文献3】Sasse F, Steinmetz H, Schupp T, Petersen F, Memmert K, Hofmann H,Heusser C, Brinkmann V, von Matt P, Hofle G, Reichenbach H. Argyrins,immunosuppressive cyclic peptides from myxobacteria. I. Production, isolation,physico-chemical and biological properties. J Antibiot (Tokyo). 2002Jun;55(6):543-51.
【非特許文献4】Vollbrecht L, Steinmetz H, Hofle G, Oberer, L, Rihs G,Bovermann G, and von Matt P. Argyrins, immunosuppressive cyclic peptides frommyxobacteria. II. Structure elucidation and stereochemistry. JAntibiot (Tokyo). 2002 Aug; 55(8):715-721.
【非特許文献5】Ley SV, Priour A, Heusser C. Total synthesis of the cyclicheptapeptide Argyrin B: a new potent inhibitor of T-cell independent antibodyformation. Org Lett. 2002 Mar 7;4(5):711-4.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、アルギリンファミリーの化合物及びそれぞれの中間体を製造する改善された方法を提供することが本発明の一目的である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様によれば、上記の目的は、任意で保護されたL−4−メトキシトリプトファンを製造する方法であって、触媒として[1S,1S’,2R,2R’−DuanPhos Rh(cod)]BFを使用する不斉水素化を含む、式2:
【化1】

に従う保護されたL−4−メトキシトリプトファンメチルエステルの合成を含む、任意で保護されたL−4−メトキシトリプトファンを製造する方法によって解決される。本発明の第2の態様によれば、上記の目的は、任意で保護されたD−4−メトキシトリプトファンを製造する方法であって、触媒として[1R,1R’,2S,2S’−DuanPhos Rh(cod)]BFを使用する不斉水素化を含む、式:
【化2】

に従う保護されたD−4−メトキシトリプトファンメチルエステルの合成を含む、任意で保護されたD−4−メトキシトリプトファンを製造する方法によって更に解決される。
【0014】
このため、立体選択的な任意で保護されたD−4−メトキシトリプトファン又はL−4−メトキシトリプトファンを、触媒的不斉水素化を用いて製造する方法が好ましく、この場合、触媒はそれぞれ[Rh(cod)]BFと、1S,1S’,2R,2R’−DuanPhos又は1R,1R’,2S,2S’−DuanPhosとから調製される。鏡像体過剰率がそれぞれ少なくとも97%ee及び98%eeである方法が好ましい。99%ee超が最も好ましい。
【0015】
当初は、4−メトキシ−L−トリプトファンは酵素的分割でしか製造することができなかった(Ley, S. V.; Priour, A. Eur. J. Org. Chem. 2002, 3995-4004、非特許文献5)。得ることのできる収率は原理的に(inprinciple)50%を超えることはない。実際に、10%〜40%と低い収率にしか達しなかった。PCT/EP2009/004526号は、90%eeという選択性でしか達成し得ない合成を記載している。今回驚くべきことに、本明細書中に提示されるような水素化触媒を使用することで、不斉水和、したがってメトキシトリプトファン要素の合成及びアルギリンの全合成の両方において顕著な(marked)改善を達成することができることが見出された。
【0016】
このため、酵素を使用することなく合成を行う、本発明による大員環化合物又は上記のような4−メトキシ−L−トリプトファン若しくは4−メトキシ−D−トリプトファンを製造する方法が更に好ましい。
【0017】
上記合成が固相合成を含む、本発明による大員環化合物を製造する方法が一層好ましい。より好ましくは、上記合成は上述のアミノ酸を伴う直鎖前駆体の固相ペプチド合成を含む。固相合成により閉環後のエキソメチレン(exo-methylene)基の生成が排除される。
【0018】
本発明による大員環化合物を製造する方法では、上記不斉水素化を1バール〜100バール、好ましくは1バール〜20バール、最も好ましくは1バール〜10バールの圧力下で行うことができる。上記不斉水素化を15℃〜100℃の温度で行う、本発明による大員環化合物を製造する方法が好ましい。上記不斉水素化を溶媒としてアルコール、好ましくはメタノールを使用して行う、本発明による大員環化合物を製造する方法も好ましい。有利には、本方法は、トリプトファン要素(複数も可)を非常に高い特定ee値で提供する。これにより合成終了時の精製が簡単になり、収率(複数も可)が増大する。
【0019】
本発明の第3の態様によれば、上記の目的は、以下の一般式(I):
【化3】

(式中、R及びRは独立して水素、非置換であるか若しくはOHによって置換されたC〜Cアルキル、又はC〜Cアルコキシであり、Rは水素、C〜Cアルコキシ、非置換であるか若しくはOH若しくはOR(Rは水素、C〜Cアルキル、アリール又はアセチルから選択される)によって置換されたC〜Cアルキル、又はC〜Cアルコキシであり、Rは水素、ハロゲン、非置換であるか若しくはOHによって置換されたC〜Cアルキル、又はC〜Cアルコキシであり、Rは水素又はハロゲンであり、Rは水素又はC〜Cアルキルであり、Rは水素、又は非置換であるか若しくはOHによって置換されたC〜Cアルキル、又はC〜Cアルコキシであり、XはC=CH又はCHR(Rは非置換であるか又は−S−C〜Cアルキルによって置換されたC〜Cアルキルである)である)に従う大員環化合物、並びにその立体異性体及び薬学的に許容可能な塩を製造する方法であって、本発明による任意で保護された4−メトキシ−トリプトファンの合成を含む、大員環化合物、並びにその立体異性体及び薬学的に許容可能な塩を製造する方法によって解決される。Rが水素、又は非置換であるか若しくはOHによって置換されたC〜Cアルキル、又はC〜Cアルコキシであり、XがC=CH又はCHR(Rは非置換であるか又は−S−C〜Cアルキルによって置換されたC〜Cアルキルである)である、上記の方法が好ましい。Rが水素でない場合、XがCHでなくてはならない、上記の方法がより好ましい。
【0020】
上記大員環化合物が、アルギリンA〜F、B/F、並びにAla α及びAla β等のアルギリン、並びにそれらの単離立体異性体から選択される、本発明による大員環化合物を製造する方法が更に好ましい。以下の式:
【化4】

上から、アルギリンB/F、アルギリンAla β、アルギリン(Argyrin)Ala α
から選択される大員環化合物及びその薬学的に許容可能な塩を製造する、上記の本発明の方法が特に好ましい。
【0021】
上記化合物の化学修飾の工程を更に含む、本発明による大員環化合物を製造する方法が更に好ましい。この場合、化合物は更に化学修飾に供される、いわゆる「リード構造」として機能し、この化学修飾をその後、1つ又は複数の後続する既知のスクリーニング法において、p27の量及び/又は生物学的活性を増大させるその有効性についてスクリーニングする。修飾は、新たな側鎖の導入又は官能基の交換、例えばハロゲン(特にF、Cl又はBr)の導入、好ましくは炭素原子数1〜5の低級アルキル基(例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基又はイソペンチル基)、好ましくは炭素原子数2〜5の低級アルケニル基、好ましくは炭素原子数2〜5の低級アルキニル基の導入、又は例えばNH基、NO基、OH基、SH基、NH基、CN基、アリール基、ヘテロアリール基、COH基若しくはCOOH基からなる群から選択される基の導入を含むが、これらに限定されない当該技術分野で既知の様々な方法によって達成することができる。さらに、単一アミノ酸、ジペプチド、トリペプチド等の更なるペプチド基を分子に付加させてもよい。
【0022】
本発明の更に別の態様は、医薬組成物を製造する方法であって、本明細書に記載のような本発明による大員環化合物を製造する方法と、上記大員環化合物を薬学的に許容可能な担体及び/又は賦形剤と混合することとを含む、医薬組成物を製造する方法に関する。例えば任意の従来の経路によって、特に経腸的に、例えば経口的に(例えば錠剤又はカプセルの形態で)、非経口的に(例えば注射用溶液又は注射用懸濁液の形態で)、局所的に(例えばローション、ジェル、軟膏又はクリームの形態で)、又は経鼻形態若しくは坐剤形態で全身投与又は局所投与される医薬組成物を調合するための担体、賦形剤及び戦略は当業者に既知であり、それぞれの文献中に記載されている。
【0023】
薬剤(例えば化合物)の投与は、薬剤を標的細胞に到達させる任意の方法によって達成することができる。これらの方法としては、例えば注射、堆積(deposition)、注入、坐剤、経口摂取、吸入、局所投与、又は薬剤による標的細胞への接近が得られる任意の他の投与方法が挙げられる。注射は例えば静脈内注射、皮内注射、皮下注射、筋肉注射又は腹腔内注射であり得る。注入は、植え込み型薬物送達システム、例えばミクロスフェア、ヒドロゲル、ポリマーリザーバ、コレステロールマトリクス、ポリマーシステム(例えばマトリクス侵食及び/又は拡散システム)、及び非ポリマーシステム(例えば圧縮ペレット、融合ペレット又は部分融合ペレット)の挿入を含む。坐剤はグリセリン坐剤を含む。経口摂取剤形(doses)は腸溶コーティングすることができる。吸入は、吸入器内のエアロゾルを用いて、薬剤を単独で又は吸収されることのできる担体に付着させて投与することを含む。薬剤は、例えば溶解形態又はコロイド形態で液体中に懸濁させることができる。液体は溶媒、不完全溶媒又は非溶媒であり得る。多くの場合、水又は有機液体を使用することができる。
【0024】
本発明の更に別の態様は次に、上記の方法に従って製造される医薬組成物に関する。
【0025】
本発明の別の態様は、免疫寛容誘導、自己免疫疾患、細菌感染及び増殖性疾患(例えば乾癬、又は乳がん、肝細胞癌、骨髄腫、頸癌、肺癌及び結腸がん等のがん)から選択される疾患又は病態の治療のための本発明に従って製造される医薬組成物の使用である。本発明の更に別の態様は、免疫寛容誘導、自己免疫疾患、細菌感染及び増殖性疾患(例えば乾癬、又は乳がん、肝細胞癌、骨髄腫、頸癌、肺癌及び結腸がん等のがん)から選択される疾患又は病態の治療用の薬物の製造のための本発明による化合物の使用である。
【0026】
合成される種々のアルギリン誘導体の生物学的効果を、特許文献3(参照により本明細書中に援用される)の実施例の項に記載のように試験したところ、本質的に同一であることが見出された。このため、本方法に従って製造される化合物は、免疫寛容誘導、自己免疫疾患、細菌感染及び増殖性疾患(例えば乾癬、又は乳がん、肝細胞癌、骨髄腫、頸癌、肺癌及び結腸がん等のがん)から選択される疾患又は病態の治療において有効である。
【0027】
活性化合物をより良好な収率及び純度で合成することが可能であることは、使用される投与量をより少なくすることができ、潜在的副作用の減少につながるため、それぞれの医薬組成物の効果も改善すると考えられる。さらに、より直接的な合成は、例えば製造プロセスにおける誤りをより少なくすることができるため、製造されたそれぞれの(respective)薬物の安全性を改善する。
【0028】
以下の実施例は、本発明を説明するものに過ぎず、本発明の範囲を実施例に記載される本発明の特定の実施形態に限定するものと解釈すべきではない。本発明の目的上、本明細書中に引用される全ての参考文献は、それらの全体が参照により本明細書中に援用される。当業者が提示の戦略に基づいて本発明の他の誘導体を合成するために、以下の合成を容易に修正することができることを理解すべきである。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0029】
1. 4−メトキシ−L−トリプトファン(2)の合成
(2)の合成における基本的な問題を避けるために、新たな効率的かつ経済的な合成方法として、最適化した立体選択的な触媒的水素化を確立した。
【0030】
触媒の一般的製造:
水素化触媒の製造のために、DuanPhos(70mg、0.18mmol)をTHF(1ml)に溶解させ、THF(3ml)中の[Rh(cod)]BF(71mg、0.175mmol)を添加した。溶液を30分間撹拌し、続いてEtO(12.5ml)を添加した。残渣を濾取し、EtOで洗浄し、残留溶媒を真空下で除去した。
【0031】
水素化(S−エナンチオマー(enantiomer)):
1S,1S’,2R,2R’−DuanPhos及び[Rh(cod)]BFから製造された触媒(1.6mg)を、MeOH(3mL)に溶解させ、MeOH(1mL)に溶解させた96mgの遊離体(educt)1を添加する。反応混合物を10バールで1日水素化する。溶媒を減圧下で除去した後、カラム濾過(MTBE/PE、1:1)を用いて触媒を除去する。反応生成物(2)が鏡像体過剰率98.7%、定量的収率で得られる。
【化5】

【0032】
触媒反応のリガンド:
【化6】

1S,1S’,2R,2R’−DuanPhos((1S,1’S,2R,2’R)−2,2’−ジ−tert−ブチル−2,3,2’,3’−テトラヒドロ−1H,1’H(1,1’)ビイソホスフィンドリル)及び1R,1R’,2S,2S’−DuanPhos((1R,1’R,2S,2’S)−2,2’−ジ−tert−ブチル−2,3,2’,3’−テトラヒドロ−1H,1’H−(1,1’)ビイソホスフィンドリル)は、例えばSigma-Aldrich(St. Louis,MO)から市販されている。
【0033】
第2の(R−)エナンチオマーの合成:
【化7】

トリプトファンモジュールのR−エナンチオマーを、上記の合成プロトコルに従い1R,1R’,2S,2S’−DuanPhosを用いて製造する。
【0034】
MW d eq mmol
オレフィン 480.51 1 0.2 96mg
触媒 788.53 0.01 0.0002 1.6mg
MeOH 4ml
【0035】
収率:定量的 %ee:97.6
【0036】
エナンチオ選択性及び絶対配置を、Cbz脱保護後にモッシャー法により決定した。
【0037】
モッシャーアミド11の合成
【化8】

Mosher chloride:モッシャークロリド
パラジウム炭素(Palladium on charcoal)(100mg、10重量%)を、Nα−Cbz−NInd−Boc−L−Trp−OMe 8(20mg、0.04mmol)のメタノール溶液(1ml)に添加した。反応混合物を水素で3回パージし、室温で12時間撹拌した。懸濁液をセライト(商標)のプラグを通して濾過し、メタノール(2×3mL)で洗浄し、濃縮した。このアミンを直接次の工程に使用した。
【0038】
アミン(5mg、14μmol)のジクロロメタン溶液(1mL)に、室温でトリエチルアミン(16μL、115μmol)、DMAP(3.2mg、26μmol)、(S)−モッシャークロリド(11μL、58μmol)を続けて添加した。混合物を室温で3時間撹拌し、酢酸エチル(10mL)でクエンチした。混合物を飽和NaHSO水溶液(5mL)、1N NaOH(5mL)及び飽和NaHCO水溶液(2×5mL)で続けて洗浄した。有機相をMgSOで乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮した。粗残渣をフラッシュクロマトグラフィーで精製し、対応するモッシャーエステル11(8mg、14μmol、96%)を得た。
【0039】
Rf=0.18(酢酸エチル/n−ヘキサン 1:3);
H−NMR(400MHz,CDCl):δ=7.83(d,J=6.8Hz,1H)、7.79(d,8.5Hz,1H)、7.60〜7.53(m,2H)、7.43〜7.36(m,3H)、7.33(s,1H)、7.25〜7.21(m,1H)、6.67(d,J=7.9Hz,1H)、4.78〜4.70(m,1H)、3.77(s,3H)、3.75(s,3H)、3.43〜3.35(m,1H)、3.28(dd,J=14.3,9.9Hz,1H)、2.92(d,J=1.4Hz,3H)、1.66(s,9H)。
13C−NMR(100MHz,CDCl):δ=171.8、166.9、153.5、149.5、133.0、129.7、129.6、128.6、128.3、128.2、125.6、125.2、123.6、119.6、115.3、108.9、103.3、84.0、77.4、55.2、54.9、52.4、28.3、28.0。
HRMS(ESI) C2831Naについての算出値([M+Na]):587.1981、実測値:587.1982。
【0040】
Cbz保護メトキシトリプトファンの合成
トリフルオロ酢酸(0.5mL)を、メトキシトリプトファン(95mg、0.20mmol)のジクロロメタン溶液(4mL)に0℃で滴加した。反応混合物を室温で3.5時間撹拌した。溶液をトルエン(3×5mL)との同時蒸発によって濃縮し、得られた脱保護トリプトファンを直接次の工程に使用した。
【0041】
0.5N LiOH水溶液(0.8mL、0.4mmol)を、テトラヒドロフラン/メタノール/水(7mL:1.3mL:4mL)中の脱保護トリプトファンの溶液に0℃で添加した。反応混合物を室温に温め、2時間撹拌した。溶液を0.1N HCl水溶液(15mL)とジクロロメタン(15mL)との間で分配した。水層をジクロロメタン(2×15mL)で抽出し、有機層を合わせ、乾燥させ(NaSO)、濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(1%から5%のメタノール勾配を有するジクロロメタン)によって精製し、51mgのCbz保護メトキシトリプトファン2を白色固体(0.14mmol、70%、2工程)として得た。
【0042】
Rf=0.27(酢酸エチル/n−ヘキサン 3:1、1%酢酸を含む);
【数1】

H−NMR(400MHz,[D6]DMSO,60℃):δ=10.75(br,s,1H)、7.41(d,J=8Hz,1H)、7.24〜7.34(m,5H)、6.9〜7.2(m,3H)、6.44(d,J=7Hz,1H)、4.95(m,2H)、4.30(m,1H)、3.83(s,3H)、3.35(dd,J=14.4Hz,1H)、2.95(dd,J=14.10Hz,1H)。
【0043】
2. アルギリンの合成(特に固相合成)及び機能分析
特に自動化による迅速かつ効率的なペプチド集合を可能にする固相ペプチド合成技法を含む、上記のようなトリプトファンアミノ酸製造工程を含むアルギリンの合成は、特許文献3(PCT/EP2009/004526号。参照により本明細書中に援用される)の実施例の項に記載のように行うことができる。
【0044】
合成された種々のアルギリン誘導体の生物学的効果を、特許文献3(参照により本明細書中に援用される)の実施例の項に記載のように試験したところ、本質的に同一であることが見出された。このため、本方法に従って製造される化合物は、免疫寛容誘導、自己免疫疾患、細菌感染及び増殖性疾患(例えば乾癬、又は乳がん、肝細胞癌、骨髄腫、頸癌、肺癌及び結腸がん等のがん)から選択される疾患又は病態の治療において有効である。
【0045】
活性化合物をより良好な収率及び純度で合成することが可能であることは、使用される投与量をより少なくすることができ、潜在的副作用の減少につながるため、それぞれの医薬組成物の効果も改善すると考えられる。さらに、より直接的な合成は、例えば製造プロセスにおける誤りをより少なくすることができるため、製造されたそれぞれの薬物の安全性を改善する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意で保護されたL−4−メトキシトリプトファンを製造する方法であって、触媒として[1S,1S’,2R,2R’−DuanPhos Rh(cod)]BFを使用する不斉水素化を含む、式2:
【化1】

に従う保護されたL−4−メトキシトリプトファンメチルエステルの合成を含む、任意で保護されたL−4−メトキシトリプトファンを製造する方法。
【請求項2】
任意で保護されたD−4−メトキシトリプトファンを製造する方法であって、触媒として[1R,1R’,2S,2S’−DuanPhos Rh(cod)]BFを使用する不斉水素化を含む、式:
【化2】

に従う保護されたD−4−メトキシトリプトファンメチルエステルの合成を含む、任意で保護されたD−4−メトキシトリプトファンを製造する方法。
【請求項3】
触媒がそれぞれ[Rh(cod)]BFと、1S,1S’,2R,2R’−DuanPhos又は1R,1R’,2S,2S’−DuanPhosとから調製される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
定量的収率が少なくとも97%ee又は少なくとも98%eeである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
以下の一般式(I):
【化3】

(式中、
及びRは独立して水素、非置換であるか若しくはOHによって置換されたC〜Cアルキル、又はC〜Cアルコキシであり、
は水素、C〜Cアルコキシ、非置換であるか若しくはOH若しくはOR(Rは水素、C〜Cアルキル、アリール又はアセチルから選択される)によって置換されたC〜Cアルキル、又はC〜Cアルコキシであり、
は水素、ハロゲン、非置換であるか若しくはOHによって置換されたC〜Cアルキル、又はC〜Cアルコキシであり、
は水素又はハロゲンであり、
は水素又はC〜Cアルキルであり、
は水素、又は非置換であるか若しくはOHによって置換されたC〜Cアルキル、又はC〜Cアルコキシであり、
XはC=CH又はCHR(Rは非置換であるか又は−S−C〜Cアルキルによって置換されたC〜Cアルキルである)である)
に従う大員環化合物、並びにその立体異性体及び薬学的に許容可能な塩を製造する方法であって、請求項1〜3のいずれか一項に記載の任意で保護された4−メトキシ−トリプトファンの合成を含む、大員環化合物、並びにその立体異性体及び薬学的に許容可能な塩を製造する方法。
【請求項6】
前記合成が固相合成を含む、請求項5に記載の大員環化合物を製造する方法。
【請求項7】
前記不斉水素化を1バール〜100バール、又は1バール〜20バール、又は1バール〜10バールの圧力下で行う、請求項5又は6に記載の大員環化合物を製造する方法。
【請求項8】
前記不斉水素化を15℃〜100℃の温度で行う、請求項5〜7のいずれか一項に記載の大員環化合物を製造する方法。
【請求項9】
不斉水素化を溶媒としてアルコール又はメタノールを使用して行う、請求項5〜8のいずれか一項に記載の大員環化合物を製造する方法。
【請求項10】
前記大員環化合物が、アルギリンA〜F、B/F、並びにAla−α及びAla−β等のアルギリン、並びにそれらの単離立体異性体から選択される、請求項5〜9のいずれか一項に記載の大員環化合物を製造する方法。
【請求項11】
合成が固相ペプチド合成を含む、請求項5〜10のいずれか一項に記載の大員環化合物を製造する方法。
【請求項12】
医薬組成物を製造する方法であって、請求項5〜11のいずれか一項に記載の大員環化合物を製造する方法と、前記大員環化合物を薬学的に許容可能な担体及び/又は賦形剤と混合することとを含む、医薬組成物を製造する方法。

【公表番号】特表2013−513643(P2013−513643A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543677(P2012−543677)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069594
【国際公開番号】WO2011/073173
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(591081310)ヘルムホルツ−ツェントルム フュア インフェクツィオンスフォルシュンク ゲーエムベーハー (9)
【出願人】(506210266)
【出願人】(512154862)ゴットフリート ヴィルヘルム ライプニッツ ウニヴェルジテート (1)
【Fターム(参考)】