説明

pH測定方法

【課題】 被検液のpHを簡便に且つ精度よく測定することができるpH測定方法を提供すること。
【解決手段】 上記課題を解決する本発明のpH測定方法は、被検液のpHを測定する方法であって、支持体上にpH指示薬を吸着させてなるpH指示部材を被検液により濡らす第1のステップと、被検液により濡れた状態にあるpH指示部材の光透過率を測定する第2のステップと、予め得られているpH指示部材の光透過率とpHとの相関に基づいて、第2のステップで得られる光透過率の測定値から被検液のpHを求める第3のステップとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、pH測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、被検液のpHを測定する際には、水素イオン選択性の感応膜を有するpH測定電極や、pH指示薬の水溶液をろ紙に含浸し乾燥したpH試験紙が使用される(例えば、非特許文献1を参照)。pH測定電極を使用する場合、pHを精度よく求めることができるものの、被検液の数が多いときなどは測定毎に電極を洗浄する必要があるため作業が煩雑となり、迅速な測定が困難である。一方、pH試験紙を使用する場合、簡便且つ迅速にpHを測定することができる。具体的には、pH試験紙を被検液で濡らし、変色したpH試験紙と色見本とを目視で比較することによりpHを求めることができる。
【非特許文献1】高木誠司、「定量分析の実験と計算」、p.508及びp.536、共立出版株式会社、昭和59年3月10日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来のpH試験紙を用いた目視による測定では、誤差が生じやすく、被検液のpHを数値化するには不向きであり、精度の点で不十分となる場合が多かった。
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、被検液のpHを簡便に且つ精度よく測定することができるpH測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する本発明のpH測定方法は、被検液のpHを測定する方法であって、支持体上にpH指示薬を吸着させてなるpH指示部材を被検液により濡らす第1のステップと、被検液により濡れた状態にあるpH指示部材の光透過率を測定する第2のステップと、予め得られているpH指示部材の光透過率とpHとの相関に基づいて、第2のステップで得られる光透過率の測定値から被検液のpHを求める第3のステップとを備える。
【0006】
本発明のpH測定方法によれば、被検液のpHを簡便に且つ精度よく測定することができる。
【0007】
上記の効果は、支持体として例えばセルロース繊維を主成分とするものなどを用いれば被検液をpH指示部材内に良好に拡散させることができるとともに、被検液により濡らされた上記pH指示部材の光透過率と被検液のpHとの間に高い相関関係があり、その相関関係を用いれば光透過率を指標として被検液のpHを精度よく見積もることができるという本発明者の知見に基づくものである。なお、従来の目視による判定精度を高めるものとして、反射率を測定してこれを指標とする方法が考えられるが、本発明者の検討によると、反射率を指標とする場合には本発明のpH測定方法で達成できる精度を得ることは困難であることが判明している。
【0008】
また、被検液にpH指示薬を直接滴下し、比色計を用いてpHを見積もる方法も考えられる。しかし、このような方法は、被検液とpH指示薬とを十分混合するという煩雑な操作を必要とするため簡便性が十分ではなく、またpHを精度よく測定するためには一定量以上(通常1ml以上)の被検液を必要とするため被検液が少量である場合には測定が困難となる。これに対して、本発明のpH測定方法によれば、少量の被検液であってもpH指示部材内に良好に拡散させることができることから、pHを精度よく測定することができる。
【0009】
更に、本発明のpH測定方法によれば、支持体として例えばセルロース繊維を主成分とするものなどを適用することで、被検液を毛細管現象により迅速にpH指示部材中に拡散させることができることから、測定時間の短縮化を図ることが可能となる。
【0010】
また、本発明のpH測定方法によれば光透過率を測定することによって被検液のpHを精度よく求めることができることから、本発明のpH測定方法を適用してpHの測定システムを構築する場合、反射率を測定する場合よりも光学系を小さく設計することが可能となり、pHの測定システムをよりコンパクトなものにすることが可能となる。
【0011】
本発明のpH測定方法においては、上記pH指示部材が、光透過性の外装体に密封されたものであり、上記第1のステップにおいて、外装体の一部を開口し、当該開口から被検液を注入してpH指示部材を被検液により濡らすことが好ましい。
【0012】
pH指示部材が光透過性の外装体に密封されることで、pH指示部材の長期保存が可能となり、pH測定における簡便性を更に向上させることができる。また、pH指示部材が光透過性の外装体に収容された状態にあることから、測定に際して外装体の一部を開口し、この開口から被検液を注入するだけで所望の量の被検液を容易に充填することができ、pH測定の精度を更に向上させることが可能となる。さらには、pH指示部材が外装体に収容されていることで、被検液による汚染をより有効に防止することができ、廃棄処理も容易となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、被検液のpHを簡便に且つ精度よく測定することができるpH測定方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において、同一または相当要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。また、各図面の寸法比率は、必ずしも実際の寸法比率とは一致していない。
【0015】
先ず、本発明に係るpH指示部材を含むpH測定用部材について説明する。
【0016】
図1は本発明に係るpH指示部材を含むpH測定用部材の好適な一実施形態を示す正面図である。図2は、図1に示されるpH測定用部材のII−II矢印断面図である。図1に示されるpH測定用部材100は、セルロース繊維を主成分とする板状の支持体上にpH指示薬を吸着させてなるpH指示部材110と、pH指示部材110を密封する光透過性の外装体120とを備えて構成されている。また、外装体120の一部には、開口130が設けられており、更にこの開口130は剥がすことが可能なシール部140によって塞がれている。pHを測定する場合、シール部140を剥がすことで開口130から被検液を注入することができるようになり、pH指示部材110を被検液により濡らすことが可能となる。
【0017】
pH指示部材110を構成するセルロース繊維を主成分とする支持体としては、例えば、ろ紙、メンブランフィルター、ろ過板、ガラス繊維が混在するろ紙などが挙げられる。これらのうち、ろ紙は、pH0〜12において安定であるとともに、吸水度が6.0〜10.0cmと優れた吸水性を有していることから好ましく使用できる。支持体としてろ紙を使用することにより、被検液で濡らしたpH指示部材が適度な光透過性を示すようになるとともに、pH指示部材の吸水性及びpH安定性が向上し、pHを更に精度よく、迅速に測定することが可能となる。更に、ろ紙は、その種類(単位面積あたりの質量及び厚さ)によって、水にぬらした際の可視光域の光に対する透過率が40%以上となるものがある。
【0018】
また、本実施形態においては、被検液を良好に分散させる点で、支持体がセルロース繊維を50質量%以上含有するものであることが好ましく、75質量%以上含有するものであることがより好ましい。
【0019】
また、本実施形態においては、pH指示部材110の光透過率の変化を精度よく測定する観点から、支持体が被検液の屈折率に近い屈折率を有する材質から構成されていることが好ましい。
【0020】
支持体110の形、大きさについては特に限定されないが、取扱い性、少量の被検液であっても測定できること、精度よくpHを測定することなどを考慮して、矩形のシートであることが好ましい。例えば、厚み:0.1mm〜2.0mm、長辺長さ:5mm〜150mm、短辺長さ:5mm〜100mmとすることができる。
【0021】
支持体上に吸着させるpH指示薬としては、被検液の水素イオン濃度(pH)により変色する公知の色素(酸塩基指示薬)を用いることができる。なお、色素の変色機構は次の式によるものである。
HIn ⇔ H + In
HInは分子形を示し、Inはイオン形を示す。分子形(HIn)とイオン系(In)では吸収する光の波長が異なるため、変色が生じる。なお、変色域においては、両者が混ざった状態となるため、溶液の色は中間の色調になる。
【0022】
本実施形態において好適に用いられるpH指示薬としては、例えば、表1〜4に示されるpH指示薬1〜70が挙げられる。また、表1〜4には、各pH指示薬1〜70のpH変色域及び色の変化、並びに、pH指示薬水溶液の吸収ピークの波長を合わせて示す。
【0023】
【表1】



【0024】
【表2】



【0025】
【表3】



【0026】
【表4】



【0027】
これらのpH指示薬は、pH測定用部材100によって測定されるpHの範囲に応じて適宜選択して使用される。例えば、pH5.0〜7.0を測定範囲とするpH測定用部材100を作製する場合には、p−Nitrophenol(pH変色域:(淡黄色)5.0−7.6(黄色)、吸収ピーク波長:420nm)などを用いることができる。また、上記の指示薬は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、pH指示薬溶液の吸収ピーク波長は、溶液の溶媒組成、指示薬の溶解状態、温度など、様々な要因でシフトし、その範囲は±100nmに至ることがある。そのため、測定の際の各種条件(溶媒組成、pH指示薬の濃度、支持体の種類など)が決定された後に、この条件で分光光度計などを用いて吸収ピーク波長を測定し、測定の際に有効となる波長を確認することが好ましい。
【0028】
また、吸収ピークが1つであり、且つ、pH変色域がより広範囲にあるpH指示薬を用いれば、後述するpH測定装置における光源を一種類のみ設けてpH変色域に対応する吸収ピーク波長の光強度の増減を測定することが可能となり、装置の低コスト化を図ることができる。
【0029】
pH指示部材110は、例えば、pH指示薬を水またはアルコールに溶解させた溶液を、ろ紙などの支持体に含浸させ、これを5〜150℃で乾燥することにより作製することができる。
【0030】
外装体120としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ナイロンなどのラミネートフィルムから形成されるものが挙げられる。これらのラミネートフィルムによってpH指示部材110を挟み、フィルムの周縁部を熱融着することにより外装体を形成することができる。
【0031】
pH測定用部材100においては、開口130及びシール部140を設けなくてもかまわないが、この場合、測定する際に外装体120の一部に被検液を注入するための開口部が設けられる。
【0032】
次に、本発明のpH測定方法を実施するためのpH測定システムについて説明する。図3は、本発明のpH測定方法を実施するためのpH測定システムの一実施形態を示す概略構成図である。図3に示されるpH測定システム1は、上述した本発明に係るpH指示部材を含むpH測定用部材100、及び、pH測定装置50から構成されている。pH測定装置50は、所定の波長の光を含む光Lを出射する光源10と、光源10に対向して設けられ、光源10から出射された光Lに対して感度を有する受光素子20と、光源10と受光素子20との間にpH測定用部材100を保持するホルダー30と、光源10及び受光素子20に電気的に接続された制御部40とを備える。なお、図1には、pH測定用部材100がホルダー30に保持された状態、すなわち測定時の状態が示されている。pH測定用部材100は、測定毎に取り換えられる。
【0033】
制御部40は、CPU及び外部記憶装置から構成され、CPUは、所定の演算処理を行なう演算プログラムが記憶されたROMと演算処理の際に各種データを記憶するRAMとを有している。このCPUは、受光素子20で検出された光強度に基づいて算出されたpH指示部材についての光透過率から、外部記憶装置に記憶させた予め得られているpH指示部材についての光透過率とpHとの相関(検量線)に基づいて被検液のpHを算出し、得られた結果をディスプレイに出力する。なお、pH指示部材についての光透過率は、ゼロ点補正された関数を基準に検出された光強度を透過率に変換することにより算出してもよい。
【0034】
光源10としては、例えば、LED、半導体レーザー、EL、蛍光灯、電球などが挙げられる。本実施形態においては、pH測定用部材100に含まれるpH指示薬の吸収ピークの波長に応じて光源を選択することが好ましい。具体的には、例えば、表1〜4に示されるpH指示薬を用いる場合、吸収ピーク波長は指示薬の溶解状態によって約±100nmの範囲でシフトすることがあるため、pH測定用部材(例えば、支持体としてのろ紙にpH指示薬を染み込ませた状態や、更に外装体を有する場合にはそれに収容させた状態など)ごとに分光光度計で吸収ピーク波長を確認し、この波長に基づいて使用する光源を設定することが好ましい。本実施形態においては、上記のようにして確認された吸収ピーク波長の好ましくは±70nm、より好ましくは±30nmの範囲内の光を出射できる光源を使用することが好ましい。例えば、pH指示薬として、p−Nitrophenol(pH変色域:(淡黄色)5.0−7.6(黄色)、吸収波長:420nm)を含むpH測定用部材100を用いてpHの測定を行う場合、波長が350〜490nmの範囲にある光を出射できるLEDを光源10として使用することが好ましい。
【0035】
また、本実施形態においては、カラーフィルターを用いて光源10から出射される光の波長を調節してもよい。
【0036】
さらに、本実施形態においては、pH測定装置50の小型化を図る観点から、光源10としてLED、半導体レーザーを使用することが好ましい。
【0037】
受光素子20としては、所定の波長の光としてpH測定用部材100に含まれるpH指示薬の吸収波長域の光に対して感度を有するものであればよく、例えば、フォトダイオード、太陽電池および光電変換素子が挙げられる。
【0038】
pH測定装置50においては、一対の光源10及び受光素子20が設けられているが、光源及び受光素子をそれぞれ複数設け、pH測定用部材100に含まれるpH指示薬の種類に応じて光源及び受光素子を選定できるようにしてもよい。また、測定精度を更に向上させる観点から、2種以上の波長の光に対して光透過率を測定してもよい。この場合、より広範囲のpH測定に対応させることも容易となる。
【0039】
上述したpH測定システム1により実施される本実施形態のpH測定方法においては、pH測定用部材100の開口130から被検液を注入し、pH指示部材110を被検液により濡らす第1のステップと、第1のステップを経たpH測定用部材100をpH測定装置50のホルダー30に装着し、被検液により濡れた状態にあるpH指示部材110の光透過率を測定する第2のステップと、予め得られているpH指示部材110の光透過率とpHとの相関に基づいて、第2のステップで得られる光透過率の測定値から被検液のpHを求める第3のステップとが行われる。
【0040】
被検液は、吸水性の観点から粘度10P(1Pa・S)以下の水溶液であることが好ましい。
【0041】
被検液がタンパク質を含むものである場合、pH指示薬との吸着反応が生じるため、タンパク質除去フィルターなどを用いて被検液からタンパク質を除去することが好ましい。本実施形態においては、pH測定用部材100の開口130にタンパク質除去フィルターを設けることも可能であり、この場合、pH測定用部材100の開口130から被検液を注入する際に被検液からタンパク質を除去することができる。
【0042】
pH測定装置50には、pH測定用部材100をpH測定装置50のホルダー30に装着したときにpH測定装置50の電源が入るとともに自動でゼロ点補正が行われ、例えば、測定ボタンを押すことで、被検液により濡れた状態にあるpH指示部材110の光透過率の測定が開始され、上記第3のステップを経て測定結果が表示されるような測定プログラムを組み込むこともできる。なお、上記ゼロ点補正は、例えば、光に対する透過率が既知の2つのサンプルを測定し、測定された光強度の結果から、ゲインとオフセットを調整する、或いは、暗くした状態で光源からの光強度を測定し、オフセットを補正する方法によって実施される。
【0043】
また、本発明によれば、上述したpH測定用部材100及びpH測定装置50を、本発明のpH測定方法が適用されたpH測定用キットとして提供することができる。
【0044】
次に、本発明のpH測定方法で用いられるpH指示部材の光透過率とpHとの相関(検量線)を作成する手順について実施例により詳述する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
<pH測定用部材の作製>
濃度0.1質量%のp−ニトロフェノール水溶液を調製した。次に、この水溶液に、5cm×2cmのサイズに裁断した定性ろ紙「No.1」(ADVANTEC社製)を浸漬することにより、定性ろ紙にp−ニトロフェノール水溶液を含浸した。次に、定性ろ紙を引き上げ、これを25℃で乾燥することにより、定性ろ紙上にp−ニトロフェノールが付着したpH指示部材を得た。
【0046】
次に、pH指示部材をラミネートフィルム(LLDPE/PE)で挟み、脱気しながらラミネートフィルムの周縁部を重ね熱融着した。これにより、LLDPE/PEからなる外装体にpH指示部材が密封されたpH測定用部材を得た。
【0047】
<検量線の作成>
一方で、pH4.6、pH5.0、pH5.4、pH5.6、pH5.8、pH6.0、pH6.2、pH6.4及びpH7.0のリン酸クエン酸緩衝液をそれぞれ調製した。
【0048】
上記で作製したpH測定用部材の外装体の一部を切断して開口を設け、そこから上記のリン酸クエン酸緩衝液を注入し、各pHのリン酸クエン酸緩衝液を含む9種類のpH測定用部材をそれぞれ得た。
【0049】
続いて、これら9種類のpH測定用部材について、300nm〜550nmの波長域における光透過率を測定した。光透過率の測定は、分光光度計UV3101PC(島津製作所社製)を用いて行った。得られた結果を図4に示す。
【0050】
図4に示されるように、pHが大きくなるに従って400nm〜450nmにおける光透過率が減少することが確認された。なお、p−ニトロフェノールのpH変色域はpH5.0〜7.6であり、この間でpHが大きくなるにしたがい淡黄色から黄色へと変色することから、p−ニトロフェノール水溶液を含浸させたろ紙の吸収ピーク波長は約420nmであるといえる。
【0051】
次に、波長420nmの光に対する光透過率とpHとの関係をプロットしたグラフ及び検量線を図5に示す。なお、図5に示されるデータは、p−ニトロフェノールを付着させなかったこと以外は上記pH測定用部材と同様にして作製した補正用部材に水を注入したものの光透過率をバックグラウンドとして、図4に示される光透過率を補正して得られたものである。また、検量線は、得られた9種類のデータに基づいて、最小二乗法により作成した。
【0052】
図5に示されるように、被検液のpHが上昇すると測定される光透過率が減少し、被検液のpHとpH指示部材の光透過率との間には良好な相関関係があることが確認された。
【0053】
(比較例1)
実施例1と同様にして得られた、pH5.0、pH6.0及びpH7.0のリン酸クエン酸緩衝液をそれぞれ含む3種類のpH測定用部材について、350nm〜500nmの波長域の光に対する反射率を測定した。反射率の測定は、分光光度計UV3101PC(島津製作所社製)を用い、入射角5°、12°、30°及び45°の条件でそれぞれ行った。得られた結果を図6(a)〜(d)に示す。
【0054】
図6(a)〜(d)に示されるように、反射率とpHとの間には良好な相関関係は見られず、入射角が異なると得られる反射率の値が大きく変動することから、反射率を指標として被検液のpHを精度よく求めることは困難であることが確認された。
【0055】
(実施例2)
実施例1における定性ろ紙「No.1」(ADVANTEC社製)に代えて、定性ろ紙「No.131」(ADVANTEC社製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、pH測定用部材の作製及び検量線の作成を行った。得られた検量線を図7に示す。また、比較のために実施例1で得られた検量線も図7に示す。
【0056】
(実施例3)
実施例1における定性ろ紙「No.1」(ADVANTEC社製)に代えて、定性ろ紙「No.2」(Whatman社製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、pH測定用部材の作製及び検量線の作成を行った。得られた検量線を図7に示す。
【0057】
(実施例4)
実施例1における定性ろ紙「No.1」(ADVANTEC社製)に代えて、定性ろ紙「No.3」(Whatman社製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、pH測定用部材の作製及び検量線の作成を行った。得られた検量線を図7に示す。
【0058】
図7に示されるように、支持体として、定性ろ紙「No.1」(ADVANTEC社製)、定性ろ紙「No.131」(ADVANTEC社製)、定性ろ紙「No.2」(Whatman社製)及び定性ろ紙「No.3」(Whatman社製)のいずれを用いた場合であっても、被検液のpHとpH指示部材の光透過率との間には良好な相関関係があることが確認された。
【0059】
(実施例5)
実施例1と同様にしてpH測定用部材を作製し、各pHのリン酸クエン酸緩衝液を含む9種類のpH測定用部材をそれぞれ得た。
【0060】
続いて、これら9種類のpH測定用部材について、青色LED(豊田合成社製)により最大ピーク波長470nmの光を照射し、pH測定用部材を透過した光の光強度をフォトダイオード(TDK社製)により検出した。フォトダイオードから出力された電圧をpH測定用部材の光透過率の代用とし、出力電圧とpHとの関係をプロットすることにより検量線を得た。得られた結果を図8に示す。
【0061】
(実施例6)
実施例2と同様にしてpH測定用部材を作製し、各pHのリン酸クエン酸緩衝液を含む9種類のpH測定用部材をそれぞれ得た。
【0062】
続いて、これら9種類のpH測定用部材について、実施例5と同様にして光強度を検出した。そして、得られた出力電圧とpHとの関係をプロットすることにより検量線を得た。得られた結果を図8に示す。
【0063】
(実施例7)
実施例3と同様にしてpH測定用部材を作製し、各pHのリン酸クエン酸緩衝液を含む9種類のpH測定用部材をそれぞれ得た。
【0064】
続いて、これら9種類のpH測定用部材について、実施例5と同様にして光強度を検出した。そして、得られた出力電圧とpHとの関係をプロットすることにより検量線を得た。得られた結果を図8に示す。
【0065】
(実施例8)
実施例4と同様にしてpH測定用部材を作製し、各pHのリン酸クエン酸緩衝液を含む9種類のpH測定用部材をそれぞれ得た。
【0066】
続いて、これら9種類のpH測定用部材について、実施例5と同様にして光強度を検出した。そして、得られた出力電圧とpHとの関係をプロットすることにより検量線を得た。得られた結果を図8に示す。
【0067】
図8に示されるように、光源として青色LEDを用い、受光素子としてフォトダイオードを用いた場合も、被検液のpHに対応して変化するpH指示部材の光透過度を十分に検出可能であり、被検液のpHを精度よく簡便に測定できることが確認された。
【0068】
(実施例9)
実施例1における、濃度0.1質量%のp−ニトロフェノール水溶液に代えて、濃度0.02質量%のメチルレッド水溶液を調製したこと、及び、波長370nm及び560nmの光それぞれに対する光透過率とpHとの関係をプロットして検量線を作成したこと以外は実施例1と同様にして、pH測定用部材の作製及び検量線の作成を行った。得られた検量線を図9に示す。なお、メチルレッドのpH変色域はpH4.4〜6.2であり、この間でpHが大きくなるにしたがい赤色から黄色へと変色する。また、メチルレッド水溶液の吸収ピーク波長は480nm及び500nmである。
【0069】
図9に示されるように、pH指示薬としてメチルレッドを用いた場合も、被検液のpHとpH指示部材の光透過率との間には良好な相関関係があることが確認された。また、図9に示す結果から、pHが6.0以下のときには370nm近傍の光源を使用し、pHが6.0以上のときには560nm近傍の光源を使用することで、精度よく広範囲のpH測定が可能となることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に係るpH指示部材を含むpH測定用部材の好適な一実施形態を示す正面図である。
【図2】図1に示されるpH測定用部材のII−II矢印断面図である。
【図3】本発明のpH測定方法を実施するためのpH測定システムの一例を示す概略構成図である。
【図4】9種類のpH測定用部材について、300nm〜550nmの波長域における光透過率を示すグラフである。
【図5】実施例1のpH測定用部材について、被検液のpHとpH指示部材の光透過率との関係を示すグラフである。
【図6】3種類のpH測定用部材について、入射角5°、12°、30°及び45°の条件で測定された350nm〜500nmの光に対する反射率を示すグラフである。
【図7】実施例1〜4のpH測定用部材について、被検液のpHとpH指示部材の光透過率との関係を示すグラフである。
【図8】実施例5〜8のpH測定用部材について、被検液のpHとフォトダイオードから出力された電圧との関係を示すグラフである。
【図9】実施例9のpH測定用部材について、被検液のpHとpH指示部材の光透過率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0071】
1…pH測定システム、10…光源、20…受光素子、30…ホルダー、40…制御部、50…pH測定装置、100…pH測定用部材、110…pH指示部材、120…外装体、130…開口、140…シール部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検液のpHを測定する方法であって、
支持体上にpH指示薬を吸着させてなるpH指示部材を、前記被検液により濡らす第1のステップと、
前記被検液により濡れた状態にある前記pH指示部材の光透過率を測定する第2のステップと、
予め得られている前記pH指示部材の光透過率とpHとの相関に基づいて、前記第2のステップで得られる光透過率の測定値から前記被検液のpHを求める第3のステップと、
を備える、pH測定方法。
【請求項2】
前記pH指示部材が、光透過性の外装体に密封されたものであり、
前記第1のステップにおいて、前記外装体の一部を開口し、当該開口から前記被検液を注入して前記pH指示部材を前記被検液により濡らす、請求項1に記載のpH測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−249657(P2008−249657A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−94545(P2007−94545)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】