説明

siRNAに基づく細胞特異的な有効分子、該分子製造のための適用キット及び該分子の使用

siRNAに基づく細胞特異的有効分子、該分子製造のための適用キット及び該分子の使用。
2.1.本発明の目的はsiRNAと一以上のペプチドの間に結合を形成することであって、siRNAはペプチド分離後に活性化され、細胞中で活性化されたsiRNAの生物学的効力を著しく減少させるリンカー及び/又はペプチドを残さない。
2.2.本発明によれば、ペプチド(3)は特殊なアミノCnリンカー、例えばアミノC6リンカー(1)を介してsiRNA(2)とカップリングする。アミノCnリンカーはsiRNAに残存するにもかかわらず、及び場合によってはペプチド残基も残存するにもかかわらず、siRNAの生物学的効力を減少させないか、又はあまり阻害しない。
2.3.前記分子は、例えば、好ましくは疾病・感染を有する器官又は細胞の遺伝子発現に影響を与えたり、細胞混合物中の標的遺伝子の発現を減少させたりするために用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は「低分子干渉RNA」(siRNA)に基づく特殊な生物学的有効分子に関する。前記生物学的有効分子は活性化された後に標的遺伝子のmRNAと相互作用して、特殊なエンドリボヌクレアーゼと共に「RISC」(RNA誘導サイレンシング複合体)と呼ばれるRNAタンパク質複合体を形成する。RISC複合体は標的mRNAに結合し、エンドヌクレアーゼは標的mRNAを切断する。このようにして遺伝子発現が阻害され、更に標的タンパク質の生成が阻害される。
【0002】
特定の細胞においてのみ活性化する生物学的有効分子は、特に腫瘍の治療、ウイルス感染の治療、老化に関する特有の治療等において異常細胞の除去や成長阻害に用いることができる。一般に、細胞特異的に活性化が可能な生物学的有効分子は標的細胞の遺伝子発現の調節に利用できる。生物学的活性分子は標的遺伝子のネガティブレギュレーターの発現の低減することにより、遺伝子発現を減少させることも増加させることもできる。
【背景技術】
【0003】
短い(19〜23bp)二本鎖RNA分子(siRNA)を真核細胞内に導入することにより、標的遺伝子のmRNAの配列セグメントに対して特異的に遺伝子発現を阻害することは既に報告されている(エルバシル・SMら「培養哺乳類細胞のRNA干渉を媒介する21ヌクレオチドRNAの二重らせん」、ネイチャー、2001年5月24日、411(6836)、p.494〜8;リュウ・Yら「ペプチド核酸による細胞遺伝子発現の効率的イソ型選択的阻害」、バイオケミストリー、2004年2月24日、43(7)、p.1921〜7;米国特許第5,898,031号明細書;米国特許第7,056,704号明細書)。
【0004】
このような分子は遺伝子の読取り及びmRNAの生成は阻害しないが、siRNAは標的mRNAを分解するという細胞固有のメカニズムを誘起する。更に、上述のように、他の遺伝子の発現を損ねることなく特定のタンパク質の生成が抑制される(転写後遺伝子サイレンシング)。
【0005】
遺伝子の発現を抑制する目的で、siRNA分子を特にトランスフェクション試薬及びエレクトロポレーションを介して直接細胞に導入することができる(ツァン・Mら:「ダウンレギュレーションが哺乳類細胞におけるRNA干渉による緑色蛍光タンパク質遺伝子発現を強化」、RNAバイオロジー、2004年5月、1(1)、p.74〜7;ジルモア・IRら「siRNA媒介遺伝子サイレンシングに対するデリバー戦略」電子出版、2004年5月22日、カレント・ドラッグ・デリバリー誌、2006年4月、3(2)、p.147〜5;米国特許第6,506,559号明細書)。
【0006】
この場合の問題は、siRNAが比較的不安定なことであるが、これは化学的修飾によって改善できる(米国特許第6,107,094号明細書)。
【0007】
生物学的有効分子を治療に使用する際の具体的問題は、in vivoでの適用の際に起こる。この種の適用のために、siRNAを安定化して分解を低減させる方法が開発された(モリッシーら「合成siRNAの化学的修飾」、ファーマシューティカルディスカバリー、2005年5月1日)。また、in vivoにおいてもsiRNAを細胞に導入できるトランスフェクション試薬、例えばナノ粒子in vivo−jetPEI(登録商標)(ポリプラス社)が開発された(ヴェルヌジュールら「原発性及び転移性膵臓癌モデルにおけるin vivoソマトスタチン受容体サブタイプ2遺伝子導入の抗腫瘍効果」、キャンサーリサーチ、62、2002年、p.6124〜31;アーバンクライン・B、ウェルス・S、アブハルベイド・S、ツベイコ・F、アイグナー・A「in vivoでのポリエチレンイミン(PEI)複合siRNAの全身適用によるRNAi媒介遺伝子ターゲティング」、ジーンセラピー、12(5)、2005年、p.461〜6)。
【0008】
更に、siRNAを増強して標的組織の細胞にin vivo導入する方法が開発された(イケダら「リガンドを標的とした治療用siRNAのデリバリー」、ファーマシューティカルリサーチ、23巻8号、2006年8月)。
【0009】
しかしながら生物学的活性物質のin vivo投与に際して、その全身的作用がしばしば問題となる。これらの物質を選択的に標的細胞に導入する際の特異性は十分ではない。このことは特に標的細胞のみにおいて選択的に作用すべきsiRNA分子にとっては問題である。組織特異的又は細胞特異的に標識されたトランスフェクション試薬(例えば抗体/抗原標識されたナノ粒子、TATタンパク質フランキング等)を用いても十分に高い細胞特異性は達成されず、その結果トランスフェクションエラーが起こる。
【0010】
更に、蛍光色素を結合させることによりsiRNA分子の生物学的作用を不活性化し、特定の波長の光を照射して再び活性体に戻すことが知られている(QN・ニュエンら「光制御性siRNAは細胞における遺伝子抑制及び表現型を調節」バイオキム・バイオフィズ・アクタ、2006年)。この活性化は外的に誘起されるものであり、細胞特異的ではない。従って、前記siRNA分子は活性化した後に所定の標的細胞だけでなく、他の全ての細胞においても意図されずに作用してしまう。
【0011】
このメカニズムはin vivoで適用することは難しい。
【0012】
また、ペプチドを結合させることによりsiRNA分子の生物学的作用を不活性化することも知られており、これらのペプチドは標的細胞中では標的細胞に特異的な活性を有するペプチダーゼによって分離されるが、非標的細胞中では不活性を維持するように構成されている(WO/002008098569A2)。このようにして前記分子はsiRNAに基づいて標的細胞においては非常に選択的に活性化されるが、他の細胞においてはそれら細胞の機能に好ましくない作用を発揮することはなくなる。
【0013】
実際の使用においては、siRNAとペプチドの結合に全く問題が無いわけではなく、ペプチドが分離した後にsiRNAに残存するリンカー又は残存するペプチド残基が標的細胞におけるsiRNAの作用を不利に阻害することが示された。確かにsiRNA分子はペプチドと結合している間は確実に不活性化されているが、ペプチド分離後にsiRNAに残存するリンカーは、及び場合によっては前記ペプチド残基も同様に、RNA干渉の誘導に悪影響を及ぼし、それによってsiRNAの生物学的効力が阻害される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第5,898,031号明細書
【特許文献2】米国特許第7,056,704号明細書
【特許文献3】米国特許第6,506,559号明細書
【特許文献4】米国特許第6,107,094号明細書
【特許文献5】WO/002008098569A2
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】エルバシル・SMら「培養哺乳類細胞のRNA干渉を媒介する21ヌクレオチドRNAの二重らせん」、ネイチャー、2001年5月24日、411(6836)、p.494〜8
【非特許文献2】リュウ・Yら「ペプチド核酸による細胞遺伝子発現の効率的イソ型選択的阻害」、バイオケミストリー、2004年2月24日、43(7)、p.1921〜7
【非特許文献3】ツァン・Mら:「ダウンレギュレーションが哺乳類細胞におけるRNA干渉による緑色蛍光タンパク質遺伝子発現を強化」、RNAバイオロジー、2004年5月、1(1)、p.74〜7
【非特許文献4】ジルモア・IRら「siRNA媒介遺伝子サイレンシングに対するデリバー戦略」電子出版、2004年5月22日、カレント・ドラッグ・デリバリー誌、2006年4月、3(2)、p.147〜5
【非特許文献5】モリッシーら「合成siRNAの化学的修飾」、ファーマシューティカルディスカバリー、2005年5月1日
【非特許文献6】ヴェルヌジュールら「原発性及び転移性膵臓癌モデルにおけるin vivoソマトスタチン受容体サブタイプ2遺伝子導入の抗腫瘍効果」、キャンサーリサーチ、62、2002年、p.6124〜31
【非特許文献7】アーバンクライン・B、ウェルス・S、アブハルベイド・S、ツベイコ・F、アイグナー・A「in vivoでのポリエチレンイミン(PEI)複合siRNAの全身適用によるRNAi媒介遺伝子ターゲティング」、ジーンセラピー、12(5)、2005年、p.461〜6
【非特許文献8】イケダら「リガンドを標的とした治療用siRNAのデリバリー」、ファーマシューティカルリサーチ、23巻8号、2006年8月
【非特許文献9】QN・ニュエンら「光制御性siRNAは細胞における遺伝子抑制及び表現型を調節」バイオキム・バイオフィズ・アクタ、2006年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、siRNAと一以上のペプチドとの間に結合を提供し、しかもsiRNAはペプチド分離後に活性化され、細胞中で活性化されたsiRNAの生物学的効力を著しく損ねるリンカー及び/又はペプチド残基を残さないことである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によれば、特殊なアミノCnリンカー(Cn=Cl、C2、C3、C4、C5又はC6)、例えばアミノC6リンカーが提案され、このリンカーを介してsiRNAはその3’末端又は/及び5’末端で一以上のペプチドと共有結合的にカップリングしている。この共有結合により生物学的に有効なsiRNA分子が不活性化される。従って、対応する標的細胞に特異的な酵素が存在しないという理由でカップリング状態にあるペプチドのいずれか一つがsiRNA分子に残存していても、このような不活性な分子のトランスフェクションの後に特異的な遺伝子発現が阻害されることはない。
【0018】
生物学的有効分子を活性化するためにペプチドがsiRNAから分離され、アミノCnリンカー、場合によってはペプチド残基もsiRNAに残存する。
【0019】
提案された特殊なリンカーは、ペプチドが生物学的有効分子から分離した後にsiRNAに残存する(及び場合によってはペプチド残基も分離の際に残留する)が、驚くべきことにこのリンカー及び場合によっては前記ペプチド残基が残存したとしても、分離後の分子が有する活性化されたsiRNA効力に悪影響を及ぼすことは殆どない(或いは何らかの悪影響を及ぼしたとしても無視できる)ことが示された。しかしながら当業者は、siRNAに残存する分子の如何なる部分もsiRNAの生物学的効力を制限する作用を及ぼすと予想するであろう。これらリンカー(siRNA分子に対して提案されたアミノCnリンカーも)自体は公知であるが、実際には分離可能なペプチドとのカップリングには使用されていない。このような使用は当業界においても知られていなかった。本発明においては、標的細胞に対する特異的酵素によっても開裂されないsiRNA系分子(WO/002008098569A2参照)は確実に不活性に留まり、標的細胞にトランスフェクションされた後の分子開裂時に活性化されてsiRNAの有効な生物学的効力を提供する。
【0020】
本発明の効果はアミノC6リンカーに基づいて証明されたが、これより小さい又は大きい構造のリンカータイプ(アミノC2、C3、C4、C5リンカー等)も同程度の作用で使用することができる。
【0021】
適切なトランスフェクションシステム、例えばナノ粒子、又はリポソーム等の被覆分子を利用すれば、不活性化された成分分子を公知の方法により標的細胞に導入することができる。前記の不活性化をもたらす共有結合は、カップリングペプチドの結合配列に関連する特異的酵素によって細胞特異的に開裂され、それによって現在標的細胞内にあり且つペプチドから分離された分子の生物学的効力が活性化される。次にこの分子は標的細胞の特定のmRNAと結合することにより、公知の方法でこの特定の細胞における遺伝子発現を阻害する。
【0022】
対象となる生体における所定の標的細胞以外の細胞であって、前記不活性な分子構造物が同様に到達できるすべての細胞において、有効成分分子は確実に不活性に留まっている。これは、標的細胞に特異的な酵素が存在しないために、生物学的に有効な分子(特にsiRNA)とペプチドとの間の共有結合が完全に維持される(ペプチド結合が開裂されなかった)、或いは部分的に維持される(一部のペプチド結合が開裂された)からである。本発明の生物学的有効分子においては、共有結合的なペプチド結合が維持されているため、該細胞のmRNAとは結合せず、従ってRISCは生成されない。
【0023】
例えば腫瘍の治療において導入されるべき本発明に係る分子構造物は、腫瘍が発生した標的細胞に不活性な(結合した)形態で到達するだけでなく、(実用においてほとんど避けられないことであるが)健全な細胞にも達する可能性がある。しかし、前記分子は腫瘍が発生した標的細胞に存在する特異的酵素により選択的に生物学的作用が活性化され、標的遺伝子の発現が有効物質に起因して効果的に阻害される。これらの分子構造物が発病していない(或いは意図した生物学的作用の標的とされていない)細胞内に存在していても、恒久的に不活性な状態にあるため、健全な細胞の維持に必要な遺伝子発現、ひいてはタンパク質の生成はその作用物質の影響を受けない。
【0024】
提案された分子は、標的細胞の酵素に特異的な不活性/活性化に基づく高選択的作用を有するため、トランスフェクトされるべき適切なペプチド結合(定義されたアミノ酸配列を有する)を有する生物学的に不活性な分子構造物は全身投与することができる。
【0025】
前記分子構造物は標的細胞への輸送性を改善するために、また分子構造物を安定化するために更に他の物質(例えば担体システムとしてのナノ粒子)と結合させることができる。
【0026】
本発明によれば、トランスフェクションエラーは防止できないものの、標的細胞以外の細胞に誤って導入された分子は望ましくないが生物学的な作用は有さない。この状態は、たとえ標的細胞において分子が活性化しても維持されるので、生物学的作用は選択的に標的細胞において行われる。公知のメカニズムとは異なり遺伝子発現が高度に細胞選択的に調節される。
【0027】
更に、18〜23bpの大きさのsiRNA分子の代わりに、より小さい二本鎖RNA分子を使用することも考慮される。
【0028】
siRNAが一以上のペプチドと共有結合したこのような分子を使用する可能性は、既にWO/002008098569A2に記載されている。
【0029】
導入すべき生物学的有効分子を、選択可能なリンカーを介して選択可能なペプチド(WO/002008098569A2参照)と結合させてなる適用キットが好ましく使用される。本適用キットはアンプル中に全ての必須成分を含み、実用上、適切なトランスフェクションシステム(例えばナノ粒子や脂質)、その他添加物(例えば抗体やリガンド、ポリエチレングリコール)及びアンプル内容物からなる混合物を標的細胞を含む媒体に注入するための1本以上のカニューレ付きプローブ又はカニューレ付き注射器を更に含む。ユーザーは該分子の使用又は投与のための使用説明書に従い、適用目的に適う混合物を調製して適用することができる。更に、前記の生物学的有効分子の製造に使用できる適用キットも考えられる。
【0030】
このような適用キットは特定標的細胞及び特定標的遺伝子のために、各適用方法(in vitro又はin vivo)に応じて提供することが適切である。
【0031】
以下、実施形態として図面に示したアミノC6リンカーに基づいて本発明を詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】アミノC6リンカーを介してsiRNAをペプチドとカップリングすることにより不活性化されたsiRNA分子、及びアミノC6リンカーの化学的構造。
【図2】ペプチド結合が開裂され、siRNA分子にアミノC6リンカー及びペプチド残基が残存している細胞特異的に活性化されたsiRNA分子。
【図3】標的細胞及び非標的細胞におけるカスパーゼ4の酵素活性を示すグラフ。
【図4】ペプチド抑制siRNAによるGFP遺伝子の発現の細胞特異的な減少を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、Cn=Cl、C2、C3、C4、C5又はC6のアミノCnリンカーの例として、自体公知のアミノC6リンカー1の化学的構造を示す。siRNA2はこのアミノC6リンカー1を介してその生物学的不活性化(細胞内でのsiRNAの作用の不活性化)のためにペプチド3とカップリングされている。アミノC6リンカー1は、siRNA2のアンチセンス鎖の5’末端を介してsiRNA2と結合されている。ペプチド3がsiRNA分子に結合されている限り、siRNA分子は生物学的に不活性化されている。
【0034】
図1に示す不活性化されたsiRNA分子が導入された標的細胞に対する特異的酵素によってペプチド結合が開裂されると(ペプチド3の完全な分離)、意図したsiRNAの自体公知の細胞特異的な作用が分子トランスフェクションにより活性化され、残存するsiRNA分子の生物学的活性化が行われる(WO/002008098569A2も参照)。
【0035】
驚くべきことにこの活性化は、ペプチド結合の開裂後にアミノC6リンカー1及び場合によってはペプチド3の残基がsiRNA分子の残部に残存しても行われる(図2参照)。このような残存にかかわらず、siRNA2の生物学的作用は分子に残存するアミノC6リンカー1及びペプチド4の残基によって損なわれないか、或いは損なわれても無視できる程度である。
【0036】
図3に、分解酵素カスパーゼ4の細胞特異的な活性を示す。ここでは酵素カスパーゼ4は標的細胞(JEG−3絨毛膜癌細胞;グラフ中の黒柱)において活性であるが、非標的細胞(ヒト胎児腎臓細胞、HEK;グラフ中の白柱)においては不活性である。ここで明らかなように、図1に示すリンカー構造を介してカスパーゼ4に対する標的ペプチドと結合することによって抑制されたsiRNAは、活性カスパーゼ4を含む標的細胞において分離され、活性化される。
【0037】
図4は、機能を有さない対照siRNA、GFP遺伝子の発現を減少させるsiRNA、及びカスパーゼ4によって活性化され得るペプチド抑制siRNAを導入した場合の検出蛍光強度を示す。ここで、蛍光の減少はsiRNAの生物学的活性と相関している。ここで観察されるように、標的細胞(JEG−3絨毛膜癌細胞;グラフ中の黒柱)ではsiRNAが活性化されてGFP遺伝子の発現が減少しているが、非標的細胞(ヒト胎児腎臓細胞、HEK;グラフ中の白柱)ではこの遺伝子の発現は減少しない。活性化されたsiRNAにリンカー構造及びペプチド残基が残存していても(この場合はグリシンと結合したアミノC6リンカー)、siRNAの作用は通常のsiRNAの作用と同等である。
【符号の説明】
【0038】
1 アミノC6リンカー
2 siRNA
3 siRNAを不活性化するためのペプチド
4 ペプチド残基

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的細胞に生物学的に不活性なトランスフェクションを行うためのsiRNAに基づく細胞特異的有効分子であって、前記標的細胞中で生物学的に活性化した後にmRNAとの結合により「RISC」複合体を形成して遺伝子の発現を阻害するために、前記siRNAは生物学的に不活性化する目的でリンカーを介して一以上のペプチドとカップリングしており、前記リンカーは該分子が生物学的に活性化した後にsiRNAに残存する細胞特異的有効分子において、前記siRNA(2)はCn=Cl、C2、C3、C4、C5又はC6のアミノCnリンカー(1)を介して一以上のペプチド(3)とカップリングしていることを特徴とする細胞特異的有効分子。
【請求項2】
前記アミノCnリンカーとしてアミノC6リンカーが提供されていることを特徴とする、請求項1に記載の細胞特異的有効分子。
【請求項3】
前記アミノCnリンカーとしてアミノC5リンカーが使用されることを特徴とする、請求項1に記載の細胞特異的有効分子。
【請求項4】
前記アミノCnリンカーとしてアミノC4リンカーが提供されていることを特徴とする、請求項1に記載の細胞特異的有効分子。
【請求項5】
前記アミノCnリンカーとしてアミノC3リンカーが挿入されていることを特徴とする、請求項1に記載の細胞特異的有効分子。
【請求項6】
前記アミノCnリンカーとしてアミノC2リンカーが用いられることを特徴とする、請求項1に記載の細胞特異的有効分子。
【請求項7】
前記アミノCnリンカーとしてアミノC1リンカーが提供されていることを特徴とする、請求項1に記載の細胞特異的有効分子。
【請求項8】
請求項1に記載の細胞特異的有効分子において、アミノCnリンカーを介して共有結合した一以上のペプチドと、標的細胞へのトランスフェクション又は標的細胞との結合のためのトランスフェクションシステムとが共有的又は非共有的にカップリングしており、前記トランスフェクションシステムは、例えば、ナノ粒子、リガンド/抗体/抗原標識等の担体システム;選択的に活性化可能な生物学的有効分子をトランスフェクションのためにコーティングするためのナノ粒子、ポリマー又は脂質等の分子;脂質に基づく方法;又はTATタンパク質フランキングであることを特徴とする細胞特異的有効分子。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項以上に記載の細胞特異的有効分子を使用又は投与するための適用キットであって、少なくとも
【請求項10】
不活性化の目的のために選択されたペプチドと結合したsiRNA及び該siRNAと結合したアミノCnリンカーを含む少なくとも1本のアンプル(アンプルA)と、
トランスフェクションシステム、例えばナノ粒子又は脂質を含む少なくとも1本の他のアンプル(アンプルB)と、
アンプルAとアンプルBの内容物に対する希釈緩衝剤及び反応緩衝剤と、
アンプル内容物からなる混合物を、標的細胞を含む媒体に注入するためのカニューレを備える1本以上のプローブ又は注射器、及びその他の必要な器材と、
使用又は投与のための使用説明書と、を含む適用キット。
【請求項11】
一以上の他の物質、例えば生物学的有効分子を標的細胞に半選択的に結合させるための抗体及び/又はペプチドと生物学的有効分子を定着させるためのポリエチレングリコール鎖を含む、請求項13に記載の適用キット。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか一項以上に記載の細胞特異的有効分子を製造するための適用キットであって、少なくとも
siRNAを不活性化する目的で該siRNAと結合させることができるペプチドを含むアンプル(アンプルA)と、
該ペプチドをsiRNAに結合するための反応緩衝剤を有するアンプル(アンプルB)と、
siRNAと結合した後にペプチドを修飾するためのアンプル(アンプルC)と、
更なる反応緩衝剤を有するアンプル(アンプルD)と、
ペプチドがsiRNAに結合した後に部分生成物又は最終生成物を純化するためのシステムと、
アンプル内容物からなる混合物を注入するための一以上の注入手段、例えばカニューレを備えるプローブ又は注射器、及び透析膜又は反応容器等のその他の必要な器材、適用のための使用説明書と、を含む適用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−520060(P2012−520060A)
【公表日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553281(P2011−553281)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【国際出願番号】PCT/DE2010/000284
【国際公開番号】WO2010/102615
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(503093420)フリードリヒ−シラー−ユニバーシタット イエナ (4)
【Fターム(参考)】