説明

trans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノール類の製造方法

【課題】trans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノール類の製造方法を提供する。
【解決手段】アミノ基供与体の存在下、4−ヒドロキシ−4−メチルシクロヘキサノンに、(S)−アミントランスアミナーゼ活性を有する酵素または(S)−アミントランスアミナーゼ活性を有する酵素をコードするDNAを含むベクターにより形質転換された形質転換体、またはその処理物を作用させ、trans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールを製造することからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、trans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノール類を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
trans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールは、種々の医薬品等の中間体として有用である(特許文献1〜6等)。その製造方法に関しては、特許文献1には、4−ジベンジルアミノシクロヘキサノンにメチルマグネシウムブロミドを反応させることで、4−ジベンジルアミノ−1−メチルシクロヘキサノールをトランス:シス=2:3の混合物として得て、トランス体を酸化アルミニウムカラムで分離し、続いて水素添加反応を施すことで製造したことが記載されている。
【化1】

【0003】
しかしながら、これまでに生化学的手法を用いたtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールの製造方法は報告されていない。
【0004】
【特許文献1】特表平10−505078号公報
【特許文献2】国際公開第99/38867号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2001/030745号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2003/035638号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2004/094404号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2005/009966号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、トランス:シスの生成比を向上させて高収率で安価に工業的に製造しうるtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノール類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究し、種々の酵素を用いてアミノ基転移反応を行った結果、Pseudomonas corrugata 10F6株が生産する(S)−アミントランスアミナーゼが高いE/Z比でtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールを極めて効率良く生成することを見出し、本発明を完成するに至った。生成したtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールのE/Z比は6以上であった。
【0007】
すなわち、本発明は、以下を含む。
〔1〕アミノ基供与体の存在下、下記式(1)で表される4−ヒドロキシ−4−メチルシクロヘキサノンに、下記(a)から(e)のいずれかに記載の酵素を含む酵素活性物質を作用させ、下記式(2)で表されるtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールを製造する方法であって、
該酵素活性物質が、アミノ基供与体の存在下、4−ヒドロキシ−4−メチルシクロヘキサノンからtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールを合成する、(S)−アミントランスアミナーゼ活性を有する、方法;
【化2】

(a)配列番号:1に記載された塩基配列がコードするアミノ酸配列を有する(S)−アミントランスアミナーゼ;
(b)配列番号:1に記載された塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列を有する(S)−アミントランスアミナーゼ;
(c)配列番号:2に記載されたアミノ酸配列を有する(S)−アミントランスアミナーゼ;
(d)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有する(S)−アミントランスアミナーゼ;
(e)配列番号:2に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有する(S)−アミントランスアミナーゼ。
〔2〕前記酵素活性物質が、Pseudomonas属に属する微生物に由来する酵素活性物質であることを特徴とする〔1〕に記載の方法。
〔3〕前記Pseudomonas属に属する微生物が、Pseudomonas corrugataであることを特徴とする〔2〕に記載の方法。
〔4〕前記酵素活性物質が、下記(a)から(e)のいずれかに記載の酵素をコードするDNAを含むベクターにより形質転換された形質転換体、またはその処理物であって、
該酵素は、アミノ基供与体の存在下、4−ヒドロキシ−4−メチルシクロヘキサノンからtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールを合成する、(S)−アミントランスアミナーゼ活性を有する、〔1〕に記載の方法;
(a)配列番号:1に記載された塩基配列がコードするアミノ酸配列を有する(S)−アミントランスアミナーゼ;
(b)配列番号:1に記載された塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列を有する(S)−アミントランスアミナーゼ;
(c)配列番号:2に記載されたアミノ酸配列を有する(S)−アミントランスアミナーゼ;
(d)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有する(S)−アミントランスアミナーゼ;
(e)配列番号:2に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有する(S)−アミントランスアミナーゼ。
〔5〕アミノ基供与体が、フェニルエチルアミン、sec−ブチルアミン、L−アラニン、イソプロピルアミンおよび2−アミノペンタンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔6〕下記の工程を含む、下記一般式(4)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩の製造方法;
(i)請求項1〜5のいずれかに記載の方法により、下記式(1)で表される4−ヒドロキシ−4−メチルシクロヘキサノンから下記式(2)で表されるtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールを製造する工程;および
(ii)工程(i)で得られた式(2)で表されるtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールに、下記一般式(3)で表される化合物を反応させて、下記一般式(4)で表される化合物を得る工程;
【化3】

(式中、環Aはベンゼン環又は単環性芳香族複素環を表し、該ベンゼン環及び該単環性芳香族複素環は、ハロゲン原子、ニトロ、置換されていてもよいアルキル、置換されていてもよいアルコキシ、置換されていてもよいアミノ、置換されていてもよいカルバモイル及びシアノより成る群から選ばれる同一又は異なる1〜3個の基で置換されてもよく;
Wは単結合、又は1もしくは2個のアルキルで置換されていてもよいC〜Cアルキレンを表し;
nは0、1、2、3又は4を表し;
は水素原子、置換されていてもよいアルキル、置換されていてもよいシクロアルキル、置換されていてもよいフェニル又は置換されていてもよい複素環式基を表し;
は水素原子又はアルキルを表し;
Xは脱離基を表し;
ZはCH又はNを表す。)。
【0008】
〔発明の実施の形態〕
本発明は、アミノ基供与体の存在下、式(1)で表される4−ヒドロキシ−4−メチルシクロヘキサノン(「化合物(1)」ということがある。)に、(a)から(e)のいずれかに記載の酵素を含む酵素活性物質を作用させ、式(2)で表されるtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノール(「化合物(2)」ということがある。)を製造する方法を提供するものである。該酵素活性物質は、アミノ基供与体の存在下、4−ヒドロキシ−4−メチルシクロヘキサノンからtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールを合成する、(S)−アミントランスアミナーゼ活性を有する。
【化4】

【0009】
また、本発明は、下記の工程を含む、下記一般式(4)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩の製造方法を提供するものである。
(i)前記の方法により、式(1)で表される4−ヒドロキシ−4−メチルシクロヘキサノンから式(2)で表されるtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールを製造する工程;および、
(ii)工程(i)で得られた式(2)で表されるtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールに、下記一般式(3)で表される化合物(「化合物(3)」ということがある。)を反応させて、下記一般式(4)で表される化合物(「化合物(4)」ということがある。)を得る工程。
【化5】

【0010】
式中、環Aはベンゼン環又は単環性芳香族複素環を表し、該ベンゼン環及び該単環性芳香族複素環は、ハロゲン原子、ニトロ、置換されていてもよいアルキル、置換されていてもよいアルコキシ、置換されていてもよいアミノ、置換されていてもよいカルバモイル及びシアノより成る群から選ばれる同一又は異なる1〜3個の基で置換されてもよく;
Wは単結合、又は1もしくは2個のアルキルで置換されていてもよいC〜Cアルキレンを表し;
nは0、1、2、3又は4を表し;
は水素原子、置換されていてもよいアルキル、置換されていてもよいシクロアルキル、置換されていてもよいフェニル又は置換されていてもよい複素環式基を表し;
は水素原子又はアルキルを表し;
Xは脱離基を表し;
ZはCH又はNを表す。
【0011】
「アルキル」としては、例えば直鎖又は分岐鎖のC〜Cアルキルが挙げられ、具体的にはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシル等が挙げられる。好ましいアルキルとしては、C〜Cアルキルが挙げられる。
【0012】
「アルコキシ」としては、例えば直鎖又は分岐鎖のC〜Cアルコキシが挙げられ、具体的にはメトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、ペントキシ、ヘキソキシ等が挙げられる。好ましいアルコキシとしては、C〜Cアルコキシが挙げられる。
【0013】
「ハロゲン原子」としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙がられ、好ましくはフッ素原子、塩素原子が挙げられる。
【0014】
「アルケニル」としては、例えば直鎖又は分岐鎖のC〜Cアルケニルが挙げられ、具体的にはビニル、アリル、3−ブテニル、2−ペンテニル、3−ヘキセニル等が挙げられる。好ましいアルケニルとしては、C〜Cアルケニルが挙げられる。
【0015】
「アルキニル」としては、例えば直鎖又は分岐鎖のC〜Cアルキニルが挙げられ、具体的にはエチニル、プロパルギル、3−ブチニル、2−ペンチニル、3−ヘキシニル等が挙げられる。好ましいアルキニルとしては、C〜Cアルキニルが挙げられる。
【0016】
「アルカノイル」としては、例えば直鎖又は分岐鎖のC〜Cアルカノイルが挙げられ、具体的にはアセチル、プロピオニル、ブチニル、イソブチニル、ペンタノイル、ヘキサノイル等が挙げられる。好ましいアルカノイルとしては、C〜Cアルカノイルが挙げられる
【0017】
「シクロアルキル」としては、例えばC〜Cシクロアルキルが挙げられ、好ましくはC〜Cシクロアルキルが挙げられる。
【0018】
「複素環式基」としては、例えば、一部又は全部が飽和していてもよい、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる1〜3個の異項原子を含む、単環性、二環性又は三環性の複素環式基が挙げられる。好ましくは、5又は6員環の単環性の複素環式基が挙げられ、具体的には、フリル、テトラヒドロフリル、テトラヒドロピラニル、チエニル、チアゾリル、イソチアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、オキサジアゾリル、テトラゾリル、ピロリル、ピロリジニル、ピロリニル、イミダゾリジニル、ピラゾリジニル、ピリジル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、トリアジニル、ピペリジニル、ピラゾリル、ピペラジニル、モルホリニル、イミダゾリル、トリアゾリル、イミダゾリニル、ピラゾリニル等が挙げられる。
【0019】
「単環性芳香族複素環」としては、例えば、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる1〜3個の異項原子を含む単環性芳香族複素環が挙げられる。また、「単環性芳香族複素環」としては、例えば、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる1〜3個の異項原子を含む単環性芳香族複素環が挙げられ、例えば、5又は6員の単環性芳香族複素環が挙げられる。単環性芳香族複素環の具体例としては、チオフェン、フラン、フラザン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、イソキサゾール、オキサジアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン等が挙げられる。好ましい単環性芳香族複素環としては、チオフェン、フランが挙げられる。
【0020】
環A上の置換基が「置換されていてもよいアルキル」である場合、該アルキル上の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、水酸基、アミノ等が挙げられる。該アルキルは、上記置換基を1〜3個有していてもよく、置換基数が2個以上の場合、各置換基は同一又は異なっていてもよい。置換アルキルの具体例としては、ヒドロキシメチル、トリフルオロメチル、アミノメチル、クロロエチル等が挙げられる。
【0021】
環A上の置換基が「置換されていてもよいアルコキシ」である場合、該アルコキシ上の置換基としては、例えば、水酸基、アミノ等が挙げられる。該アルコキシは、上記置換基を1〜3個有していてもよく、置換基数が2個以上の場合、各置換基は同一又は異なっていてもよい。
【0022】
環A上の置換基が「置換されていてもよいアミノ」である場合、該アミノ上の置換基としては、例えば、アルキル(該アルキルは、アルコキシ、アミノ及びカルボキシより成る群から選ばれる同一又は異なる1〜3個の基で置換されてもよい)、アルカノイル等が挙げられる。該アミノは、例えば上記置換基を、1又は2個有していてもよく、置換基数が2個の場合、各置換基は同一又は異なってもよい。
【0023】
環A上の置換基が「置換されていてもよいカルバモイル」である場合、該カルバモイル上の置換基としては、例えば、アルキル等が挙げられる。該カルバモイルは、上記置換基を1又は2個有していてもよく、置換基数が2個の場合、各置換基は同一又は異なっていてもよい。
【0024】
環A上の置換基としては、好ましくは、ハロゲン原子、ニトロ、置換されていてもよいアルキル、置換されていてもよいアルコキシ、置換されていてもよいアミノ及びシアノが挙げられる。特に好ましくはハロゲン原子、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ等が挙げられ、その具体例としては、フッ素原子、塩素原子、メチル、メトキシ等が挙げられる。
【0025】
が「置換されていてもよいアルキル」である場合、該アルキル上の置換基としては、例えば、アルキニル、シアノ、アルコキシ、水酸基、アミノ(該アミノは、アルキル、アルカノイル及びアルキルスルホニルより成る群から選ばれる1又は2個の基で置換されてもよい)、カルボキシ、アルコキシカルボニル、カルバモイル(該カルバモイルは、1又は2個のアルキルで置換されてもよい)、フェニル、ナフチル等が挙げられる。該アルキルは、例えば上記置換基を、1〜3個有していてもよく、置換基数が2個以上の場合、各置換基は同一又は異なっていてもよい。好ましい置換基としては、シアノ、アルコキシ、水酸基、アミノ、カルボキシ、アルキル置換されていてもよいカルバモイル、フェニル等が挙げられる。
【0026】
が「置換されていてもよいシクロアルキル」である場合、該シクロアルキル上の置換基としては、例えば、(1)水酸基、(2)アルコキシ(該アルコキシは、1〜3個のアルコキシで置換されてもよい)、(3)アミノ〔該アミノは、次の(i)〜(v)より成る群から選ばれる同一又は異なる1又は2個の基で置換されてもよい:(i)アルキル、(ii)アルカノイル、(iii)アルコキシカルボニル、(iv)カルバモイル(該カルバモイルは、1又は2個のアルキルで置換されてもよい)、及び(v)アルキルスルホニル〕、(4)カルボキシ、(5)アルキル〔該アルキルは、水酸基、アルコキシ及びアミノより成る群から選ばれる基で置換されてもよい〕、(6)アルキル置換されていてもよいカルバモイル等が挙げられる。該シクロアルキルは、例えば上記置換基を1〜3個有していてもよく、置換基数が2個以上の場合、各置換基は同一又は異なっていてもよい。
【0027】
が「置換されていてもよいフェニル」である場合、該フェニル上の置換基としては、例えば、(1)ハロゲン原子、(2)ニトロ、(3)アルキル(該アルキルは、ハロゲン原子、水酸基、アミノ、カルボキシ及びフェニルスルホニルより成る群から選ばれる同一又は異なる1〜3個の基で置換されてもよい)、(4)アルケニル、(5)シアノ、(6)水酸基、(7)アルコキシ(該アルコキシは、ハロゲン原子、カルボキシ、アルコキシカルボニル、カルバモイル、フェニル及びモルホリニルカルボニルより成る群から選ばれる同一又は異なる1〜3個の基で置換されてもよい)、(8)アミノ〔該アミノは、次の(i)〜(iv)より成る群から選ばれる同一又は異なる1又は2個の基で置換されてもよい:(i)アルキル、(ii)アルカノイル、(iii)カルバモイル(該カルバモイルは、アルキル及びシクロアルキルより成る群から選ばれる同一又は異なる1又は2個の基で置換されてもよい)、及び(iv)アルキルスルホニル〕、(9)アルカノイル、(10)カルボキシ、(11)アルコキシカルボニル、(12)カルバモイル〔該カルバモイルは、次の(i)及び(ii)より成る群から選ばれる同一又は異なる1又は2個の基で置換されてもよい:(i)アルキル(該アルキルは、1〜3個の水酸基で置換されてもよい)、及び(ii)シクロアルキル〕、(13)アルキルチオ、(14)アルキルスルフィニル、(15)アルキルスルホニル、(16)フェニル、(17)テトラゾリル、(18)複素環式基置換カルボニル(該複素環式基は、アルキル及びアルコキシカルボニルより成る群から選ばれる同一又は異なる1〜3個の基で置換されてもよい)等が挙げられる。Rが置換されてもよいフェニルである場合、該フェニルは、例えば上記置換基を、1〜3個有していてもよく、置換基数が2個以上の場合、各置換基は同一又は異なっていてもよい。好ましい置換基としては、(1)ハロゲン原子、(2)アルキル(該アルキルは、ハロゲン原子、水酸基、アミノ、カルボキシ及びフェニルスルホニルより成る群から選ばれる同一又は異なる1〜3個の基で置換されてもよい)、(3)シアノ、(4)アルコキシ(該アルコキシは、ハロゲン原子、カルボキシ、アルコキシカルボニル、カルバモイル、フェニル及びモルホリニルカルボニルより成る群から選ばれる同一又は異なる1〜3個の基で置換されてもよい)等が挙げられる。置換基の置換位置としては、置換しうる位置であればいずれでもよく、特に好ましい位置としては2位が挙げられる。
【0028】
が「複素環式基置換カルボニルで置換されたフェニル」である場合、該複素環式基としては前記の複素環式基が挙げられ、好ましくは、5又は6員環の単環性含窒素脂肪族複素環式基が挙げられる。具体例としては、ピロリジニル、ピペリジル、ピペラジニル、モルホリニル等が挙げられる。
【0029】
が「置換されていてもよい複素環式基」である場合、該複素環式基としては前記の複素環式基が挙げられ、好ましくは、5又は6員環の単環性の複素環式基が挙げられる。具体例としては、フリル、テトラヒドロフリル、チエニル、チアゾリル、イソオキサゾリル、オキサジアゾリル、ピリジル、ピリミジニル、ピラジニル、ピペリジニル、ピロリジニル、ピラゾリル、テトラゾリル、テトラヒドロピラニル等が挙げられ、特に好ましくは、ピペリジニル、テトラヒドロピラニル等が挙げられる。また、該複素環式基上の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ニトロ、アルキル(該アルキルは、水酸基、アルコキシ、アルキル置換されていてもよいカルバモイル及びカルボキシより成る群から選ばれる基で置換されていてもよい)、シアノ、水酸基、アミノ、アルカノイル、カルボキシ、アルコキシカルボニル、カルバモイル(該カルバモイルは、1又は2個のアルキルで置換されていてもよい)、アルキルスルホニル、フェニル等が挙げられる。該複素環式基は、例えば上記置換基を1〜3個有していてもよく、置換基数が2個以上の場合、各置換基は同一又は異なっていてもよい。
【0030】
「脱離基」としては、ハロゲン原子、置換されていてもよいアリールスルフィニル、置換されていてもよいアルキルスルフィニル、置換されていてもよいアリールスルホニル、置換されていてもよいアルキルスルホニル、置換されていてもよいアリールスルホニルオキシ、置換されていてもよいアルキルスルホニルオキシ、ニトロ、アジド、置換されていてもよいアルコキシ、置換されていてもよいチオアルコキシ等が挙げられる("March’s Advanced Organic Chemistry:Reactions,Mechanisms,and Structure", 5th ed.,Michael B.Smith and Jerry March,p.864−865,John Wiley and Sons,Inc.2001年)。好ましい脱離基としては、ハロゲン原子、置換されていてもよいアリールスルフィニル、置換されていてもよいアルキルスルフィニル、置換されていてもよいアリールスルホニル、又は置換されていてもよいアルキルスルホニル等が挙げられる。「置換されていてもよいアリールスルフィニル」、「置換されていてもよいアリールスルホニル」及び「置換されていてもよいアリールスルホニルオキシ」における置換基としては、例えばハロゲン原子、アルキル、アルコキシ等が挙げられる。「置換されていてもよいアルキルスルフィニル」、「置換されていてもよいアルキルスルホニル」、「置換されていてもよいアルキルスルホニルオキシ」、「置換されていてもよいアルコキシ」及び「置換されていてもよいチオアルコキシ」における置換基としては、例えばハロゲン原子等が挙げられる。特に好ましい脱離基としては、塩素原子、メチルスルフィニル、メチルスルホニル等が挙げられる。
【0031】
「薬学的に許容される塩」は、化合物(4)と、医薬品の製造に使用可能である酸または塩基とを接触させることにより製造される。当該塩には、例えば、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、臭化水素酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、フマル酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トシル酸塩、マレイン酸塩等の有機酸塩、または、カルボキシ等の置換基を有する場合には塩基との塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩またはカルシウム塩の如きアルカリ土類金属塩)が含まれる。
当該薬学的に許容される塩には、化合物(4)またはその薬学的に許容される塩の、水和物もしくは溶媒和物を含む。
【0032】
本発明に係る製造方法により化合物がフリー体として得られる場合、当該化合物が形成していてもよい塩またはそれらの水和物もしくは溶媒和物の状態に、常法に従って変換することができる。
【0033】
化合物(4)におけるnとRの好ましい組合せとしては、例えば、(1)nが0であって、Rが置換されていてもよいアルキルであるもの、(2)nが1であって、Rが置換されていてもよいシクロアルキルであるもの、(3)nが1であって、Rが置換されていてもよいフェニルであるもの、(4)nが1であって、Rが置換されていてもよい複素環式基であるもの、(5)nが0であって、Rが置換されていてもよいシクロアルキルであるもの、及び(6)nが0であって、Rが置換されていてもよい複素環式基であるもの等が挙げられる。特に好ましくは、(1)nが0であって、Rが置換されていてもよいアルキルであるもの、(2)nが1であって、Rが置換されていてもよいフェニルであるもの、(3)nが0であって、Rが置換されていてもよいシクロアルキルであるもの、及び(4)nが0であって、Rが置換されていてもよい複素環式基であるもの等が挙げられる。さらに好ましくは、(1)nが0であって、Rが水酸基で置換されてもよいC〜Cアルキルであるもの、(2)nが1であって、Rがフェニル(該フェニルは、シアノ、フッ素原子、塩素原子及びメチルより成る群から選ばれる基で置換されていてもよい)であるもの、(3)nが0であり、RがC〜Cシクロアルキルであるもの、及び(4)nが0であり、Rがテトラヒドロピラニルであるもの等が挙げられる。
【0034】
酵素活性物質
本発明における酵素活性物質は、下記(a)から(e)のいずれかに記載の酵素を含み、かつ、アミノ基供与体の存在下、4−ヒドロキシ−4−メチルシクロヘキサノンからtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールを生成しうるものであれば、任意の酵素活性物質を用いることができる。
【0035】
(a)配列番号:1に記載された塩基配列がコードするアミノ酸配列を有する(S)−アミントランスアミナーゼ;
(b)配列番号:1に記載された塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列を有する(S)−アミントランスアミナーゼ;
(c)配列番号:2に記載されたアミノ酸配列を有する(S)−アミントランスアミナーゼ;
(d)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有する(S)−アミントランスアミナーゼ;
(e)配列番号:2に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有する(S)−アミントランスアミナーゼ。
【0036】
このような本発明で用いることのできる酵素は、SDS−PAGEによって測定した分子量が約51000、ゲルろ過によって測定した分子量が約150000である。
また、至適pHは6.5−9である。リン酸カリウム緩衝液(pH7.5)を用いた活性測定によれば、至適温度は55℃〜65℃であり、この温度範囲で80%以上の酵素活性を示す。最適温度は60℃である。このように比較的高温領域において反応を実施できるので、工業的にも効率的であるという利点がある。
【0037】
なお、本発明においてtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールとは、少なくともE/Z比が1以上、好ましくは2以上、より好ましくは5以上のtrans異性体過剰を指す。E/Z比は高ければ、高いほうが好ましく、上限値に特に制限はなく、好ましくはE対のみである。
【0038】
本発明において、(S)−アミントランスアミナーゼは、1級アミン若しくは2級アミンをアミノドナーとして、アルデヒド若しくはケトンにアミノ基を転移し、対応する1級若しくは2級アミンを生成する反応を触媒する酵素である。
【0039】
(S)−アミントランスアミナーゼによるtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノール生成活性は、以下のような方法で測定できる。すなわち、100 mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.5)、40g/L 4−ヒドロキシ−4−メチルシクロヘキサノン、1.25M(±)−sec−ブチルアミン、および酵素活性物質を含む反応液中で、30℃で反応させ、生成するtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールを分析することにより、(S)−アミントランスアミナーゼ活性を測定することができる。
【0040】
本発明における好ましい酵素活性物質は、アミノ基供与体の存在下、4−ヒドロキシ−4−メチルシクロヘキサノンを基質として、E/Z比が少なくとも1以上のtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールを生成することができる酵素活性物質であって、前記(a)〜(e)のいずれかの酵素を含めばよく、本発明に用いる酵素の由来に特に制限はない。
【0041】
このうち、本発明における好ましい酵素活性物質は、たとえばPseudomonas属に属する微生物から得ることができる。より具体的には、Pseudomonas corrugata由来の、さらに具体的にはPseudomonas corrugata 10F6株由来の(S)−アミントランスアミナーゼが挙げられる。
【0042】
その他、種々の生物に由来する(S)−アミントランスアミナーゼも、アミノ基供与体の存在下、4−ヒドロキシ−4−メチルシクロヘキサノンを基質として、E/Z比が少なくとも1以上のtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールを生成するする活性を有する、前記(a)〜(e)のいずれかの酵素である限り利用することができる。
【0043】
本発明において、酵素活性物質とは、前記(a)から(e)のいずれかに記載の酵素を含み、該酵素の精製酵素のみならず、該酵素を含む微生物菌体、植物、その培養細胞、形質転換体、またはその処理物が含まれる。
【0044】
前記処理物とは、生物細胞に対して、物理処理、生化学的処理、あるいは化学的処理等を行った産物を指す。生物細胞は、当該酵素の遺伝子を発現可能に保持する形質転換体も含まれる。
また処理物を得るための物理処理には、凍結融解処理、超音波処理、加圧処理、浸透圧差処理、あるいは磨砕処理等が含まれる。
また生化学的処理とは、具体的にはリゾチームなどの細胞壁溶解酵素処理を示すことができる。
更に、化学的処理としては、界面活性剤、トルエン、キシレン、またはアセトンなどの有機溶媒との接触処理などが挙げられる。
このような処理によって細胞膜の透過性を変化させた微生物、あるいはガラスビーズや酵素処理によって菌体を破砕した無細胞抽出液やそれを部分精製したものなどは処理物に含まれる。
【0045】
酵素活性物質として利用できる精製酵素は、例えばPseudomonas corrugata 10F6株から公知の方法によって単離することができる。あるいは酵素活性物質として形質転換体を利用することもできる。
まず(S)−アミントランスアミナーゼをコードする遺伝子を取得し、遺伝子組換え技術を用いて同種もしくは異種の宿主中で発現可能に保持させた形質転換体を得ることができる。この形質転換体は、そのままで、あるいは処理物として酵素活性物質とすることができる。更にこの形質転換体を培養して、(S)−アミントランスアミナーゼを取得することもできる。本発明に用いることができる(S)−アミントランスアミナーゼをコードする遺伝子は、Pseudomoans corrugata 10F6株からクローニングされた。
【0046】
Pseudomoans corrugata 10F6株は本願出願人によって、下記のとおり寄託されている。
(a) 寄託機関の名称・あて名
名称:独立行政法人製品評価技術基盤機構・特許微生物寄託センター(NPMD)
あて名:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8(郵便番号292−0818)
(b) 寄託日:2005年9月21日
(c) 受託番号:NITE P−139
【0047】
これらの塩基配列情報に基づいて、目的とする遺伝子を当該生物から取得することができる。遺伝子の取得には、PCRやハイブリダイズスクリーニングが用いられる。また、DNA合成によって遺伝子の全長を化学的に合成することもできる。
【0048】
更に上記塩基配列情報に基づいて、上記以外の生物に由来する(S)-アミントランスアミナーゼ遺伝子を取得することもできる。たとえば、上記塩基配列もしくはその一部の配列をプローブとして他の生物から調製したDNAや環境中のDNA(environmental DNA)に対しストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションを行なうことにより、種々の生物由来の(S)−アミントランスアミナーゼを単離することができる。
【0049】
ストリンジェントな条件でハイブリダイズできるポリヌクレオチドとは、配列番号:1に記載された塩基配列から選択された塩基配列を有するDNAをプローブDNAとし、たとえばECL direct nucleic acid labeling and detection system(Amersham Pharmaica Biotech社製)を用いたマニュアルに記載の条件(wash:42℃、0.5xSSCを含むprimary wash buffer)や0.2xSSC(1xSSC:15mMクエン酸3ナトリウム、150mM塩化ナトリウム)、0.1%SDS溶液中で60℃、15分間洗浄する条件において、ハイブリダイズするポリヌクレオチドを指す。プローブDNAを構成する塩基配列は、前記塩基配列から任意の少なくとも20個、好ましくは少なくとも30個、たとえば40、60または100個の連続した配列を一つまたは複数選択することができる。
【0050】
ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、「Molecular Cloning,A Laboratory Manual 2nd ed.」(Cold Spring Harbor Press(1989)、特にSection9.47−9.58)、「Current Protocols in Molecular Biology」(John Wiley&Sons(1987−1997)、特にSection6.3−6.4)、「DNA Cloning 1: Core Techniques, A Practical Approach 2nd ed.」(Oxford University(1995)、特にSection2.10)等を参照することができる。
【0051】
本発明のポリヌクレオチドのホモログには、上述のように、配列番号:1に記載された塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列を有する(S)−アミントランスアミナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドが含まれる。
【0052】
また、上記塩基配列情報に基づいて、ホモロジーの高い領域からPCR用のプライマーをデザインすることができる。このようなプライマーを用い、染色体DNAもしくはcDNAを鋳型としてPCRを行なえば、(S)−アミントランスアミナーゼをコードする遺伝子を種々の生物から単離することもできる。
【0053】
本発明の方法においては、天然型の酵素のみならず、アミノ基供与体の存在下、4−ヒドロキシ−4−メチルシクロヘキサノンからE/Z比が少なくとも1以上のtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールを生成する活性を有する限り、天然型酵素のアミノ酸配列に対して1または複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入したアミノ酸配列からなる酵素を用いることも可能である。当業者であれば、例えば、部位特異的変異導入法(Nucleic Acid Res.10,pp.6487 (1982), Methods in Enzymol.100,pp.448 (1983), Molecular Cloning 2ndEdt.,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989), PCR A Practical Approach IRL Press pp.200(1991))などを用いて、適宜置換、欠失、挿入、および/または付加変異を導入することにより、蛋白質の構造を改変することができる。また、アミノ酸の変異は自然界において生じることもあり、人工的にアミノ酸を変異した酵素のみならず、自然界においてアミノ酸が変異した酵素も本発明の方法において用いることができる。
【0054】
さらに、本発明で用いることのできるポリヌクレオチドのホモログとしては、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、前記(S)−アミントランスアミナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを挙げることができる。このような欠失を含むポリヌクレオチドには、配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質の「一部分」をコードするポリヌクレオチドが包含される。
【0055】
タンパク質においてアミノ酸残基を置換する場合、特に、側鎖の化学的性質が類似したアミノ酸による置換、いわゆる保存的なアミノ酸置換を行うことが好ましい。アミノ酸は、それらの側鎖の化学的性質に従い、例えば、次のように分類される:
(1)中性疎水性側鎖(アラニン、トリプトファン、バリン、フェニルアラニン、プロリン、メチオニン、ロイシン);
(2)中性極性側鎖(アスパラギン、グリシン、グルタミン、システイン、セリン、チロシン、トレオニン);
(3)塩基性側鎖(アルギニン、ヒスチジン、リシン);
(4)酸性側鎖(アスパラギン酸、グルタミン酸);
(5)脂肪族側鎖(アラニン、イソロイシン、グリシン、バリン、ロイシン);
(6)脂肪族水酸基側鎖(セリン、トレオニン);
(7)アミン含有側鎖(アスパラギン、アルギニン、グルタミン、ヒスチジン、リシン);
(8)芳香族側鎖(チロシン、トリプトファン、フェニルアラニン);および
(9)硫黄含有側鎖(システイン、メチオニン)。
【0056】
すなわち、これらの各群を構成するアミノ酸残基の相互の置換を、保存的置換と言う。本発明において、「1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加」するアミノ酸の数や場所は、タンパク質が前記(S)−アミントランスアミナーゼ活性を有する限り、制限されない。変異が許容されるアミノ酸残基の数は、典型的には全アミノ酸の10%以内、好ましくは全アミノ酸の5%、さらに好ましくは全アミノ酸の1%以内である。より具体的には、配列番号:2のアミノ酸配列において、通常50以内、たとえば20以内、より好ましくは5以内のアミノ酸残基の変異は、許容される。
【0057】
タンパク質が、前記の元のタンパク質の生物学的活性を維持している限り、アミノ酸配列におけるアミノ酸残基の欠失・置換・付加及び/または挿入は許容される。ここで、生物学的活性の維持とは、元の酵素が触媒する少なくとも一つの反応を触媒する能力が維持されることを言う。「活性の維持」には、同じ活性レベルのみならず、より高い活性も含まれる。また、活性のレベルが低下する場合であっても、実質的に同等の活性であれば、活性の維持に含まれる。実質的に同等とは、元の活性に対して、たとえば50%〜100%、通常70〜100%、好ましくは80〜100%、より好ましくは90、あるいは95〜100%の活性をいう。本発明におけるタンパク質の生物学的活性、すなわち前記(S)−アミントランスアミナーゼ活性の評価方法は既に述べた。
【0058】
また、本発明の方法においては、(S)−アミントランスアミナーゼのアミノ酸配列にホモロジーを有する蛋白質をコードする遺伝子も、その産物である酵素がアミノ基供与体の存在下、4−ヒドロキシ−4−メチルシクロヘキサノンからtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールを生成する活性を有する限り、本発明に利用することができる。ホモロジー検索には、たとえば以下に示すデータベースを用いることができる。
【0059】
SWISS−PROT、PIRなどの蛋白質のアミノ酸配列に関するデータベース
DNA Databank of JAPAN(DDBJ)、EMBL、Gene−BankなどのDNAに関するデータベース
DNA配列を元にした予想アミノ酸配列に関するデータベース
【0060】
FASTA programやBLAST programなどのホモロジー検索用のプログラムも公知である。更に、上記データベースをこれらのプログラムを用いて検索するサービスも、インターネット上で提供されている。この種のサービスを利用して、本発明に用いる蛋白質を見出すこともできる。
【0061】
本発明に用いる(S)−アミントランスアミナーゼは、Pseudomoans corrugata 10F6由来の(S)−アミントランスアミナーゼのアミノ酸配列と、少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、さらに特に好ましくは99%以上のホモロジーを有する蛋白質が好ましい。ここでいうホモロジーとは、たとえば、BLAST programを用いたIdentityの相同性の値を示す。
【0062】
本発明における好ましい酵素活性物質として、(S)−アミントランスアミナーゼをコードする遺伝子を遺伝子組換え技術により同種もしくは異種の宿主中で発現させた形質転換体、もしくはその処理物を示すことができる。
【0063】
本発明において(S)−アミントランスアミナーゼ遺伝子を発現させるために、形質転換の対象となる生物は、(S)−アミントランスアミナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNAを含む組換えベクターにより形質転換され、(S)−アミントランスアミナーゼ活性を発現することができる生物であれば特に制限はない。
【0064】
形質転換体の作製のための手順および宿主に適合した組み換えベクターの構築は、分子生物学、生物工学、遺伝子工学の分野において慣用されている技術に準じて行なうことができる(例えば、Sambrookら、モレキュラー・クローニング、Cold Spring Harbor Laboratories)。微生物中などにおいて、(S)−アミントランスアミナーゼ遺伝子を発現させるためには、まず微生物中において安定に存在するプラスミドベクターやファージベクター中にこのDNAを導入し、その遺伝情報を転写・翻訳させる必要がある。そのためには、転写・翻訳を制御するユニットにあたるプロモーターを本発明のDNA鎖の5’−側上流に、より好ましくはターミネーターを3’−側下流に、それぞれ組み込めばよい。このプロモーター、ターミネーターとしては、宿主として利用する微生物中において機能することが知られているプロモーター、ターミネーターを用いる必要がある。これら各種微生物において利用可能なベクター、プロモーター、ターミネータ−などに関して「微生物学基礎講座8遺伝子工学・共立出版」、特に酵母に関しては、Adv.Biochem.Eng.43,75−102(1990)、Yeast 8,423−488(1992)、などに詳細に記述されている。
【0065】
また、微生物以外でも、植物、動物において様々な宿主・ベクター系が開発されており、特に蚕を用いた昆虫(Nature 315,592−594(1985))や菜種、トウモロコシ、ジャガイモなどの植物中に大量に異種蛋白質を発現させる系が開発されており、好適に利用できる。形質転換体の培養、および形質転換体からの(S)−アミントランスアミナーゼの精製は、当業者に公知の方法により行なうことができる。
【0066】
単一のベクター中に複数の遺伝子を導入する場合には、プロモーター、ターミネーターなど発現制御に関わる領域をそれぞれの遺伝子に連結する方法やラクトースオペロンのような複数のシストロンを含むオペロンとして発現させることも可能である。
【0067】
単一のベクターに(S)−アミントランスアミナーゼを導入したプラスミドは、例えばpSE420D(特開2000−189170)に各遺伝子をタンデムに連結して取得することができる。Pseudomoans corrugata 10F6由来の(S)−アミントランスアミナーゼが導入されたプラスミドpSUPCAT1は、実施例中に示した。
【0068】
trans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールの製造方法
本発明のtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールの製造方法を構成する酵素反応は、前記酵素活性物質を、アミノ基供与体、および基質である4−ヒドロキシ−4−メチルシクロヘキサノンを含む反応溶液と接触させることにより、実施することができる。さらに得られたtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールを回収することができる。
【0069】
具体的には、水性媒体中、水性媒体と水可溶性の有機溶媒との混合系、あるいは水不溶性の溶媒との二相系中において行なうことができる。
水性媒体としては、リン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液などの中性付近に緩衝能を有する緩衝液が挙げられる。あるいは酸とアルカリを用いて反応中のpH変化を好ましい範囲にとどめることが可能であれば、緩衝液を特に使う必要はない。
水不溶性の有機溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、キシレン、トルエン、クロロホルム、n−ヘキサン、イソオクタン、メチルイソブチルケトン、メチル−t−ブチルエーテル、n−ブタノールなどを用いることができる。
水可溶性の溶媒としては、エタノール、アセトン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル等の有機溶媒が挙げられる。
【0070】
二相系では、酵素活性物質は、そのまま、あるいは水や緩衝液の溶液として供給される。基質化合物を水、緩衝液またはエタノール等の水溶性溶媒に溶解させて反応系に供給することもできる。この場合は、酵素活性物質とともに単一相の反応系を構成することになる。その他、本発明の反応は、固定化酵素、膜リアクターなどを利用して行なうことも可能である。なお、酵素活性物質と反応溶液の接触形態はこれらの具体例に限定されない。反応溶液とは、基質を酵素活性の発現に望ましい環境を与える適当な溶媒に溶解したものである。
【0071】
本発明の(S)−アミントランスアミナーゼによる酵素反応は、以下の条件で行なうことができる。
・基質濃度:好ましくは0.01−30%、さらに好ましくは0.1−20%、より好ましくは1.0−10%(%は、溶媒に対する質量割合を示す。)
・反応温度:好ましくは4−60℃、さらに好ましくは10−50℃、より好ましくは25−40℃
・pH:好ましくは4−10、さらに好ましくは5.5−9.5、より好ましくは6.5−8.5
【0072】
基質である、4−ヒドロキシ−4−メチルシクロヘキサノンは、既知の方法(Synthetic Communications,19(5−6),745−54; 1989)に従って容易に合成することが可能である。また、基質は反応開始時に一括して添加するか、あるいは連続的もしくは非連続的に添加することができる。
【0073】
反応系には必要に応じてピリドキサール−5'−リン酸0.001mM−10mM、好ましくは0.002−1mM、より好ましくは0.01−0.1mM添加することができる。
【0074】
アミノ基供与体となる化合物は、例えば、フェニルエチルアミン、sec−ブチルアミン、L−アラニン、イソプロピルアミン、2−アミノペンタンが挙げられる。
【0075】
より具体的には、(±)−フェニルエチルアミン、(S)−フェニルエチルアミン、(R)−フェニルエチルアミン、(±)−sec−ブチルアミン、(S)−sec−ブチルアミン、L−アラニン、イソプロピルアミンおよび2−アミノペンタンなどが挙げられる。このうち特に好ましいのは、(±)−フェニルエチルアミン、(S)−フェニルエチルアミン、(±)−sec−ブチルアミン、L−アラニン、イソプロピルアミンおよび2−アミノペンタンなどが挙げられる。
【0076】
アミノ基供与体の添加量は、基質であるケトンに対して、モル比で例えば、好ましくは0.1−20倍、さらに好ましくは0.5−10倍、より好ましくは1−4倍の量を添加することができる。
【0077】
本発明により反応液中で生成したtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールの精製は、遠心分離や膜ろ過による菌体や蛋白質の除去、膜処理等による蛋白質の分離、酢酸エチル、酢酸ブチル、クロロホルム、メチル−t−ブチルエーテル、n−ブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、イソブタノール、n−ペンタノール、sec−ペンタノール、t−ペンタノール、イソペンタノールなどによる溶媒抽出、蒸留、酢酸エチル、酢酸ブチル、キシレン、トルエン、メシチレン、クロルベンゼン、クロロホルム、n−ヘキサン、イソオクタン、ジイソプロピルエーテル、メチル−t−ブチルエーテルなどによる結晶化、等を適当に組み合わせることにより行なうことができる。あるいは、抽出溶媒液に塩酸を滴下することで生成する塩酸塩として回収することもできる。目的物は、必要によりシリカゲルカラムクロマトグラフィー、蒸留によりさらに精製することができる。
【0078】
例えば、trans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールを含む反応液を遠心分離することにより菌体を除去し、限外ろ過などにより蛋白質を除去した後に、水酸化ナトリウムを加えてpHを12以上にした後、n−ブタノールを用いてtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールを抽出する。さらに、n−ブタノールを減圧下で留去した後、キシレン、トルエン、メシチレン等を用いて晶析することによりtrans体を選択的に回収することができる。
【0079】
化合物(4)またはその薬学的に許容される塩の製造方法
【化6】

【0080】
式中、各記号は前記と同義である。化合物(2)は、前記方法により製造することができる。
【0081】
化合物(3)は公知化合物であり、国際公開第2003/035638号パンフレット又は国際公開第2004/094404号パンフレットに従って製造される。
【0082】
化合物(3)と化合物(2)とを反応させることによる化合物(4)の製造方法は、国際公開第2003/035638号パンフレット及び国際公開第2004/094404号パンフレットに記載されている。具体的には、化合物(3)と化合物(2)の反応は、溶媒中、塩基の存在下で実施することができる。溶媒としては、反応に悪影響を及ぼさない溶媒であればよく、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)、1−メチル−2−ピロリジノン(NMP)、ジオキサン、THF、アセトニトリル、2−ブタノン、エチレングリコール、1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−ブタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等が挙げられ、好ましくはDMSO、DMF、DMA、NMP、ジオキサン、1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール等が挙げられる。塩基としては、生成する酸を中和できる塩基であればよく、例えば、3級アミン(N,N−ジイソプロピルエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、1−エチルピペリジン、4−メチルモルホリン、トリフェニルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、2−ピコリン、2,6−ルチジン等)、立体障害の高い2級アミン(ジイソプロピルアミン、ジシクロヘキシルアミン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ジ−t−ブチルアミン等)、立体障害の高い1級アミン(t−ブチルアミン等)、炭酸アルカリ(炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等)、炭酸水素アルカリ(炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等)、カリウム t−ブトキシド等が挙げられ、好ましくは1−エチルピペリジン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ジ−t−ブチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジシクロヘキシルアミン、t−ブチルアミン等が挙げられる。本反応は、通常、0〜150℃で進行し、とりわけ80〜120℃で好適に進行する。
【0083】
ZがCHである化合物(3)と化合物(2)との反応は、溶媒中、触媒、塩基、及び添加剤の存在下で実施することもできる(J.Org.Chem.,Vol.61,7240(1996)、Angew.Chem.Int.Ed.,Vol.44,1371(2005))。溶媒としては、反応に悪影響を及ぼさない溶媒であればよく、例えば、トルエン、キシレン、ジメトキシエタン、ジオキサン等が挙げられる。触媒としては、例えば、酢酸パラジウム、ビス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム等が挙げられる。塩基としては、例えば、ナトリウム t−ブトキシド、カリウム t−ブトキシド、リチウム t−ブトキシド、トリエチルアミン等が挙げられる。添加剤としては、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル等が挙げられる。本反応は、30〜150℃、とりわけ60〜80℃で好適に進行する。また、触媒として、ニッケル触媒、銅触媒等を使用することもできる(J.Org.Chem.,Vol.67,3029(2002)、J.Am.Chem.Soc.,Vol.119,6054(1997)、J.Org.Chem.,Vol.67,3029(2002)、Tetrahedron,Vol.62,4435(2006))。
【0084】
上記工程において、アミノ等の官能基を有する場合には、必要に応じて、有機合成化学の分野における慣用の方法により、官能基を保護して反応を行うことができ、反応後、保護基を脱保護して目的物を得ることができる。ここで、官能基の保護基としては、有機合成化学の分野で通常使用される保護基が挙げられる。具体的には、Theodora W.Greene, Peter G.M.Wuts,"Protective Groups in Organic Synthesis"3rd.ed.,John Wiley & Sons,Inc.,1999に記載の保護基が挙げられる。
【実施例】
【0085】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0086】
本発明における、4−ヒドロキシ−4−メチルシクロヘキサノン、trans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールの定量は、ガスクロマトグラフィー(カラム:J&W製HP−5(φ3mm×2.1m)、カラム温度:50℃→8℃/分→150℃→15℃/分→210℃→3.5分保持、インジェクション温度:300℃、ディテクター温度:275℃、キャリアガス:ヘリウム、検出:FID)により行なった。
【0087】
4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールのE/Z比の測定は、アミノ基解析用の2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−beta−D−グルコピラノシルイソチオシアネート(GITC)で4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノール誘導化した後、液体クロマトグラフィー(カラム:Phenomenex製Luna 5u C18、溶離液:2.5% 酢酸水溶液を25%アンモニア水でpH4.0に合わせた液/メタノール=57/43、カラム温度:40℃、流速:0.2mL/min、検出:225nm)により行なった。
【0088】
〔調製例1〕 シュードモナス・コルガータ 10F6株(Pseudomonas corrugata 10F6)の培養菌体の調製
シュードモナス・コルガータ 10F6株を下記の組成の培地(pH7.0)で25℃、40時間振盪培養し、遠心分離により菌体を得た。
3g/Lグルコース、
1g/L KHPO
3g/L KHPO
0.5g/L MgSO・7HO、
2g/L 酵母エキス、
10mL/L ミネラル溶液(1.5g/L ニトリロ三酢酸、1.06g/L FeCl・5HO、0.8g/L CaCl・2HO、0.4g/L ZnSO・7HO、0.2g/L MnCl・4HO、0.002g/L CuSO・5HO、0.02g/L KI、0.02g/L NaMo・2HO、0.02g/L CoCl・6HO、0.04g/L HBO、1g/L NaCl、pH7.0(KOH))、
1g/L 1−アミノペンタン
【0089】
〔調製例2〕(S)−アミントランスアミナーゼの精製
調製例1により調製した菌体40gを、100mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.0)、1mM ジチオスレイトール(DTT)、0.2mM EDTA、0.05mM ピリドキサール−5’−リン酸(PLP)を含む菌体破砕液に懸濁し、ガラスビーズにより菌体を破砕した。菌体破砕液を遠心分離し、その上清画分を無細胞抽出液とした。
無細胞抽出液を硫酸プロタミン処理によって核酸を除いた後、70%飽和まで硫安を添加し、遠心分離により上清画分を除去し、得られた沈殿画分を回収した。この沈殿画分を30%飽和硫安濃度となるように緩衝液1に懸濁した。緩衝液1の組成は次のとおりである。
緩衝液1:10mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.0)、
1mM DTT、
0.2mM EDTA、および
0.05mM PLP
次いで、30%飽和硫安を含む緩衝液1で平衡化したPhenyl−Toyopearl 650Mカラム(5.0×23.5cm、アマシャム製)に酵素を吸着させた。同緩衝液で洗浄後、緩衝液1を用いて5mL/minで30%飽和から0%硫安までグラジエント溶出し、活性画分を回収して濃縮後、緩衝液1で透析した。
【0090】
次に、緩衝液1で平衡化したMonoS 5/50(アマシャム製)に酵素を吸着させた。同緩衝液で洗浄後、緩衝液1を用いて0.1mL/minで0Mから0.5M塩化ナトリウムまでグラジエント溶出し、活性画分を回収して濃縮後、緩衝液1で透析した。次に、0.2M NaClを含む緩衝液1で平衡化したSuperdex 200 10/30(アマシャム製)に酵素液を供し、同緩衝液を用いて0.05mL/minで溶出して得た活性画分を回収して濃縮後、pH7.0の緩衝液1で透析した。
【0091】
次に、pH7.0の緩衝液1で平衡化したMonoQ 5/50(アマシャム製)に酵素を吸着させた。同緩衝液で洗浄後、pH7.0の緩衝液1を用いて0.5mL/minで0Mから0.5M塩化ナトリウムまでグラジエント溶出し、活性画分を回収して濃縮後、緩衝液1で透析した。次に、2mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.0)、1mM DTT、0.05mM PLPで平衡化したHCA−Column A−5010G(0.5cm×10cm、製)に酵素を吸着させた。同緩衝液で洗浄後、350mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.0)、1mM DTT、0.05mM PLPを用いて0.5mL/minで2mMから350mM リン酸カリウム緩衝液までグラジエント溶出し、活性画分を回収して濃縮して精製酵素を得た。
精製酵素をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した結果、単一バンドを示した。
精製の要約を表1に示した。各ステップにおいて得られた酵素液の(S)−フェニルエチルアミン:1−ベンジル−3−ピロリジノン アミントランスアミナーゼ活性は実施例3に記載の方法により行った。
(S)−アミントランスアミナーゼの精製
【0092】
【表1】

【0093】
〔調製例3〕(S)−アミントランスアミナーゼ活性の測定
調製例2で得た酵素液を用いて本酵素の(S)−フェニルエチルアミン:1−ベンジル−3−ピロリジノン アミントランスアミナーゼ活性を測定した。100mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.5)、20mM(S)−フェニルエチルアミン、10mM 1−ベンジル−3−ピロリジノン、0.05mM PLP、5mM DTT及び酵素液を含む0.5mLの反応液中30℃で反応させた後、0.1mLの1N HClで反応を停止した。得られた反応終了液に含まれる1−ベンジル−3−アミノピロリジンを以下に示す分析条件においてHPLCで定量した。この条件の下、1分間に1μmolの1−ベンジル−3−アミノピロリジンの生成を触媒する酵素量を1Uとした。
また、タンパク質は、Bovine Plasma Albuminを標準タンパク質として、バイオラッド製タンパク質アッセイキットを用いた色素結合法により定量した。
カラム:Luna 5u C18(2)(2.0mm×150mm)(フェノメネックス(phenomenex)社)
溶離液:50mM KPB (pH 2.5)、5mM 1−hexanesulfonic acid/CHCN=91/9
流速:0.2mL/min
カラム温度:40℃
検出:254nm
【0094】
〔調製例4〕 (S)−アミントランスアミナーゼの分子量
精製酵素を、SMART SystemにおいてSuperdex 200 3.2/30(アマシャム製)を用い、10mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.0)、1mM DTT、0.05mM PLP、0.2M塩化ナトリウムを含む溶離液でゲル濾過を行った結果、分子量は約150,000であった。
SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動によりサブユニットの分子量を測定した結果、約51,000であった。
【0095】
〔調製例5〕 (S)−アミントランスアミナーゼに対する温度の影響
調製例2で得た(S)−アミントランスアミナーゼをリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)を用いて20℃から90℃で実施例3に記載の方法により活性測定を行い図1に示した。本酵素の最適温度は、60℃であり、55℃から65℃の範囲で80%以上の活性を示した。
【0096】
〔調製例6〕 (S)−アミントランスアミナーゼに対するpHの影響
調製例2で得た(S)−アミントランスアミナーゼを、酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、リン酸1水素2カリウム−KOH緩衝液を用いて調製例3に記載の方法によって酵素活性を測定した。結果を図2に示した。本酵素はpH6.5からpH9.0の範囲で80%以上の活性を示した。
【0097】
〔調製例7〕((S)−アミントランスアミナーゼ遺伝子を含む発現プラスミドpSUPCAT1の構築)
Pseudomonas corrugata 10F6に由来するタンパク質(配列番号:2)をコードする遺伝子(配列番号:1)の塩基配列をもとにセンスプライマーとしてPCSAT−ATG1(配列番号:3)、アンチセンスプライマーとしてPCSAT−TAA1(配列番号:4)を合成した。
【0098】
PCR反応は、Pseudomonas corrugata 10F6株から、Nucleic.Acids Res.8,4321(1980)の方法に従ってゲノムDNAを精製して得られたPCR産物100ngを鋳型として、2.5U PfuTurbo DNAポリメラーゼ、PfuTurbo用緩衝液、0.2mM dNTP、20pmolのプライマーPCSAT−ATG1、PCSAT−TAA1のセットを含む50μLの反応液で94℃/30秒、64℃/30秒、72℃/1分30秒、30サイクルを行った。
【0099】
アガロースゲル電気泳動により解析した結果、約1.4kbあたりに特異的と思われるPCR産物が検出できた。得られたDNA断片をフェノール/クロロホルム抽出後、エタノール沈殿として回収し、アガロースゲル電気泳動を行い、目的とするバンドの部分を切り出し、Sephaglas BandPrep Kit(ファルマシア製)により精製した。得られたDNA断片を、pT7Blue(Novagen製)にライゲーションし、大腸菌JM109株を形質転換した。形質転換株をアンピシリン(50μg/mL)を含むLB培地プレート上で生育させ、いくつかのコロニーをアンピシリンを含む液体LB培地で培養し、Flexi−Prep(ファルマシア製)によりプラスミドを精製し、pPCSATとした。
【0100】
精製したプラスミドを用いて、挿入DNAの塩基配列を解析した。DNA塩基配列の解析には、BigDye Terminator Cycle Sequencing FS ready Reaction Kit(パーキンエルマー製)を用いてPCRを行い、DNAシーケンサーABI PRISMTM310(パーキンエルマー製)により行った。
【0101】
配列番号:3 PCSAT−ATG1
CAAACATGTACGAGCAATACAAGACAGCACAGAA
配列番号:4 PCSAT−TAA1
GACTCTAGATTAGCGGCAATCGGCGAGCGCGCTG
【0102】
次に、pPCSATを制限酵素PciI、XbaIで二重消化し、アガロースゲル電気泳動を行い、目的とするバンドの部分を切り出し、Sephaglas BandPrep Kit(ファルマシア製)により精製した。得られたDNA断片を、同じ制限酵素で二重消化したpSE420DにT4 DNAリガーゼを用いて連結し、大腸菌JM109を形質転換した。形質転換株をアンピシリン(50μg/mL)を含むLB培地プレート上で生育させ、いくつかのコロニーをアンピシリンを含む液体LB培地で培養し、Flexi−Prep(ファルマシア製)によりプラスミドを精製しpSUPCAT1を得た。プラスミド構築の過程を図3に示した。
【0103】
〔実施例1〕(trans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノール生産酵素のスクリーニグ)
前記調製例7で得た、Pseudomonas corrugata 10F6に由来する(S)−アミントランスアミナーゼを発現するプラスミドpSUPCAT1で形質転換された大腸菌JM109株を、アンピシリンを含む液体LB培地5mLで終夜30℃培養し、0.1mM IPTGを加え、さらに4時間培養を行った。なお、pSUPCAT1が発現した(S)−アミントランスアミナーゼをPcSATとした。
【0104】
培養後、遠心分離により集菌し、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH 7.5)、40g/L(100mM)4−ヒドロキシ−4−メチルシクロヘキサノン、400mM(±)−フェニルエチルアミン、400mM(±)−sec−ブチルアミンおよび0.05mMピリドキサール−5’−リン酸を含む反応液0.5mLに懸濁させた。反応は、密閉容器内でゆっくり撹拌しながら、終夜30℃で反応させた。
【0105】
反応終了後、反応液中のtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールの生成量を分析した結果、PcSATは6.8g/Lのtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールを生成しており、E/Z比は10であった。
【0106】
〔実施例2〕(アミノ基供与体の比較)
PcSATを発現するプラスミドpSUPCAT1で形質転換された大腸菌JM109株を、アンピシリンを含む液体LB培地5mLで終夜30℃培養し、0.1mM IPTGを加え、さらに4時間培養を行った。
【0107】
培養後、遠心分離により集菌し、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH 7.5)、40g/L(100mM)4−ヒドロキシ−4−メチルシクロヘキサノン、200 mMあるいは400mMの各種アミノ基供与体(表1)、および0.05mMピリドキサール−5’−リン酸を含む反応液0.5mLに懸濁させた。30℃で反応させた。
【0108】
反応終了後、反応液中のtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールの生成量を分析した結果を表2に示した。
【0109】
[表2]:実施例2の反応結果

【0110】
〔実施例3〕(PcSATによるtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールの製造)
PcSATを発現するプラスミドpSUPCAT1で形質転換された大腸菌JM109株を、アンピシリンを含む液体LB培地900mLで30℃培養し、0.1mM IPTGを加え、さらに4時間培養を行った。
【0111】
培養後、遠心分離により集菌して菌体を得た。この菌体を、40g/L(312mM)4−ヒドロキシ−4−メチルシクロヘキサノン、1.25M(±)−sec−ブチルアミンを含む反応液600mL(pH 7.5)に懸濁した。反応条件は、表3に示した。
反応終了後、4−ヒドロキシ−4−メチルシクロヘキサノンと4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールの定量を行なった結果、反応液中にはtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールが35.0 g/L生成し、E/Z比は、13.0であった。
【0112】
[表3]:実施例3の反応条件

【0113】
反応後、遠心分離により菌体を除去し、限外ろ過膜により除タンパク質を行った後、エバポレーターにより水を留去した。濃縮後、NaOHを加えてpH12にした後、n−ブタノールで抽出し、n−ブタノールを留去した。留去残渣にトルエンを加えて加熱溶解させた後、冷却して析出した結晶をろ過乾燥することで、trans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールが14.5g得られた。なお、cis−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールは検出されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明によれば、アミノ基供与体の存在下、4−ヒドロキシ−4−メチルシクロヘキサノンに、(S)−アミントランスアミナーゼを作用させることでtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールの合成を効率良く行なうことが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】(S)−アミントランスアミナーゼに対する温度の影響を示した図である。縦軸は至適温度における活性を100とする相対活性(%)を、横軸は反応温度(℃)を示す。
【図2】(S)−アミントランスアミナーゼに対するpHの影響を示した図である。縦軸は至適pHにおける活性を100とする相対活性(%)を、横軸は反応液のpHを示す。図中、グラフのプロットはそれぞれ次の緩衝液の結果を示す。−△−:リン酸カリウム緩衝液(KPB)−▲−:リン酸1水素2カリウム−KOH緩衝液(KHPO−KOH)−□−:トリス−塩酸緩衝液(Tris−HCl)−○−:酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液(AcOH−NaOAc)
【図3】図3は、pSUPCAT1の構築を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基供与体の存在下、下記式(1)で表される4−ヒドロキシ−4−メチルシクロヘキサノンに、下記(a)から(e)のいずれかに記載の酵素を含む酵素活性物質を作用させ、下記式(2)で表されるtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールを製造する方法であって、
該酵素活性物質が、アミノ基供与体の存在下、4−ヒドロキシ−4−メチルシクロヘキサノンからtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールを合成する、(S)−アミントランスアミナーゼ活性を有する、方法;
【化1】

(a)配列番号:1に記載された塩基配列がコードするアミノ酸配列を有する(S)−アミントランスアミナーゼ;
(b)配列番号:1に記載された塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列を有する(S)−アミントランスアミナーゼ;
(c)配列番号:2に記載されたアミノ酸配列を有する(S)−アミントランスアミナーゼ;
(d)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有する(S)−アミントランスアミナーゼ;
(e)配列番号:2に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有する(S)−アミントランスアミナーゼ。
【請求項2】
前記酵素活性物質が、Pseudomonas属に属する微生物に由来する酵素活性物質であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記Pseudomonas属に属する微生物が、Pseudomonas corrugataであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記酵素活性物質が、下記(a)から(e)のいずれかに記載の酵素をコードするDNAを含むベクターにより形質転換された形質転換体、またはその処理物であって、
該酵素は、アミノ基供与体の存在下、4−ヒドロキシ−4−メチルシクロヘキサノンからtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールを合成する、(S)−アミントランスアミナーゼ活性を有する、請求項1に記載の方法;
(a)配列番号:1に記載された塩基配列がコードするアミノ酸配列を有する(S)−アミントランスアミナーゼ;
(b)配列番号:1に記載された塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列を有する(S)−アミントランスアミナーゼ;
(c)配列番号:2に記載されたアミノ酸配列を有する(S)−アミントランスアミナーゼ;
(d)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有する(S)−アミントランスアミナーゼ;
(e)配列番号:2に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有する(S)−アミントランスアミナーゼ。
【請求項5】
アミノ基供与体が、フェニルエチルアミン、sec−ブチルアミン、L−アラニン、イソプロピルアミンおよび2−アミノペンタンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
下記の工程を含む、下記一般式(4)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩の製造方法;
(i)請求項1〜5のいずれかに記載の方法により、下記式(1)で表される4−ヒドロキシ−4−メチルシクロヘキサノンから下記式(2)で表されるtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールを製造する工程;および
(ii)工程(i)で得られた式(2)で表されるtrans−4−アミノ−1−メチルシクロヘキサノールに、下記一般式(3)で表される化合物を反応させて、下記一般式(4)で表される化合物を得る工程;
【化2】

(式中、環Aはベンゼン環又は単環性芳香族複素環を表し、該ベンゼン環及び該単環性芳香族複素環は、ハロゲン原子、ニトロ、置換されていてもよいアルキル、置換されていてもよいアルコキシ、置換されていてもよいアミノ、置換されていてもよいカルバモイル及びシアノより成る群から選ばれる同一又は異なる1〜3個の基で置換されてもよく;
Wは単結合、又は1もしくは2個のアルキルで置換されていてもよいC〜Cアルキレンを表し;
nは0、1、2、3又は4を表し;
は水素原子、置換されていてもよいアルキル、置換されていてもよいシクロアルキル、置換されていてもよいフェニル又は置換されていてもよい複素環式基を表し;
は水素原子又はアルキルを表し;
Xは脱離基を表し;
ZはCH又はNを表す。)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−22162(P2009−22162A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−185176(P2007−185176)
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【出願人】(000002956)田辺三菱製薬株式会社 (225)
【Fターム(参考)】