カドミウム測定方法およびその前処理装置
【課題】 農産物、水産物、畜産物に含まれるカドミウムをICP発光分光分析器や原子吸光光度計等の分析機器を用いずに測定可能とする。また、含有カドミウムがある値以下であることを迅速、簡便に判定できるようにする。さらに、農産物、水産物、畜産物に含まれるカドミウムを選択的に抽出・分離して、測定用試料を簡易に供することができる装置を提供する。
【解決手段】 測定対象物に0.002M〜2Mの塩酸溶液を加えてカドミウムを抽出し、得られた溶液をpH1.5〜2.5に調整し、該溶液をトリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライドが表面に固定化された担体に接触させた後、該担体を0.01Mより大きく0.5M以下の濃度の硝酸と接触させて得られた溶液を中和して測定用試料を得る前処理工程と、抗原抗体反応を利用してカドミウムを測定するイムノアッセイに前記測定用試料を供してカドミウム含有量を分析する測定工程を含むものである。
【解決手段】 測定対象物に0.002M〜2Mの塩酸溶液を加えてカドミウムを抽出し、得られた溶液をpH1.5〜2.5に調整し、該溶液をトリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライドが表面に固定化された担体に接触させた後、該担体を0.01Mより大きく0.5M以下の濃度の硝酸と接触させて得られた溶液を中和して測定用試料を得る前処理工程と、抗原抗体反応を利用してカドミウムを測定するイムノアッセイに前記測定用試料を供してカドミウム含有量を分析する測定工程を含むものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カドミウム測定方法およびその前処理に用いるカラム装置に関する。さらに詳述すると、本発明は、農産物、水産物、畜産物に含まれるカドミウムをイムノアッセイ法により検出するカドミウム測定方法および測定前にカドミウムを選択的に抽出・分離する前処理に用いて好適なカラム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全などの社会的な環境意識や健康に対する影響への関心の高まりから、産業や生活に伴う様々な場面における環境汚染物質の蓄積の動向が注視されている。環境汚染物質の中でも重金属類、特にカドミウムは過去にその毒性による重篤な問題を起こしていることもあり、食品に含まれるカドミウムの量は重要な問題である。
【0003】
そこで、一般に、農産物、水産物、畜産物については、その中に含まれるカドミウムの量がICP発光分光分析器、原子吸光光度計等の分析機器が用いられて測定されている。例えば、農林水産省による農産物、水産物、畜産物に含まれるカドミウムの分析には、図8〜図10に示すような手順で、試料を前処理してから、原子吸光光度計での測定あるいはICP発光分光分析法による定量が行われている(非特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−323508号公報
【非特許文献1】農林水産省のホームページ:食品中のカドミウムに関する情報,48Cd(http://www.maff.go.jp/cd/index.html)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ICP発光分析、原子吸光法等を用いたカドミウム分析によると、非常に高価な分析機器を必要とするばかりか、時間とコストと労力を要する機器分析であることから、測定に時間がかかる上に検査費用が高額となるため、簡便に穀物などに含まれるカドミウム量を測定することができない。このため、穀物などのカドミウム汚染を検査する場合には、検査ロットを少量にすることが現実的ではないため、規制値を超える汚染が検出されたときの被害が大きくなってしまう問題がある。また測定も現場で行うことができず、測定機器を設置した施設で行う必要がある。このため、安価でかつ現場で行える、迅速、簡便な判定法が求められている。
【0006】
ところで、本件出願人等は、先にカドミウムや水銀を免疫学的に検出・定量しうる方法およびこれに用いるカドミウムを特異的に認識するモノクローナル抗体を開発した(特許文献1)。この抗カドミウムモノクローナル抗体は、錯体を形成したカドミウムを特異的に認識するモノクローナル抗体であり、例えば、So25A1、So21D5、So26G8が挙げられる。なお、モノクローナル抗体So26G8を産生するハイブリドーマは、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成15年2月27日付けで受託番号FERM P−19240として寄託されている。また、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成16年2月26日付けで受託番号FERM P−19703として寄託されているハイブリドーマより産生するモノクローナル抗体Nx22C3も挙げられる。これらは、主にカドミウムと反応してカルシウム、マグネシウム、銅、鉄、ニッケル、鉛、亜鉛などのその他の金属とはほとんどまたは全く交差反応しないという特性を示す。
【0007】
このようなモノクローナル抗体を用い、カドミウムを定量的に測定する免疫学的方法(イムノアッセイ)においては、カドミウムはキレート剤に配位させ、この形成された錯体をモノクローナル抗体により検出・測定する。故に、この方法では、(i)試験試料にキレート剤を添加して錯体を形成させ、(ii)該錯体を特異的に認識する抗体を用いて免疫学的手法によりカドミウムを定量的に測定することができる。このモノクローナル抗体は、前述のようにカドミウムに対して親和性が高く、且つ他の金属との交差反応性が低いため、試験試料中のカドミウムをより正確に測定することができる。そこで、カドミウムに対して特異性をもつ抗体を用いたイムノアッセイ法によって農産物、水産物、畜産物に含まれるカドミウムを簡易に迅速かつ低コストで検出することを考えた。
【0008】
このイムノアッセイ法によれば、非常に簡単にカドミウムを検出することが期待できる。しかしながら、上記のモノクローナル抗体はカドミウムに高い特異性を持つものの、他の金属とも反応するので、検査試料中に、マンガン、亜鉛、マグネシウム等の他の金属が多量に含まれていると、これらに妨害されてカドミウムを検出できないという問題がある。すなわち、上記のモノクローナル抗体はカドミウムに高い特異性を持つものの、他の金属とも反応する。例えば、表1に示すように、モノクローナル抗体Nx22C3の交叉反応性は、マンガンは1.47%、亜鉛は0.974%、マグネシウムでは0.025%である。このように交叉反応性は小さくとも、これらの金属が多量に存在すると、これらの金属に妨害されて、カドミウムを検出することができない。
【0009】
【表1】
【0010】
ところが、農産物、水産物、畜産物の場合、カドミウムの規制値(例えば、玄米の場合、0.4ppm)に比べて遙かに高濃度(50〜5500倍程度)のマンガン、亜鉛、マグネシウム、鉄、銅等の金属が含まれている。例えば、日本各地のコシヒカリ(玄米:27産地34試料)について調査したところ、図11に示すように、マンガン28.5ppm、マグネシウム1400ppm、亜鉛24ppm、銅4ppm、鉄11ppmが検出された。代表的な農産物、水産物、畜産物に含まれるマグネシウム、亜鉛、銅、マンガンの量は表2に示す通りである。
【0011】
【表2】
【0012】
カドミウムの含有量の規制値が、0.4ppmであるのに比べ、これらの金属はMn、Znでは2桁近く、Mgであると3桁近く多く含まれている。したがって、上記のモノクローナル抗体はマンガン、亜鉛、マグネシウム、鉄、銅等の金属よりもカドミウムに高い特異性を持つが、玄米中に含まれる各金属含有濃度の値は、そのカドミウムに対する特異性を相対的に喪失させてしまうものである。つまり、そのままでは、これらカドミウムよりも多く含まれる金属に妨害されて、カドミウムを検出することが不可能であることを知見するに至った。
【0013】
本発明は、農産物、水産物、畜産物に含まれるカドミウムをICP発光分光分析器や原子吸光光度計等の分析機器を用いずに測定することができるカドミウム測定方法を提供することを目的とする。また、本発明は、農産物、水産物、畜産物に含まれるカドミウムがある値以下であることを迅速、簡便に判定できるカドミウム測定方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、農産物、水産物、畜産物に含まれるカドミウムを選択的に抽出・分離して、測定用試料を簡易に供することができる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる目的を達成するため、請求項1に記載のカドミウム測定方法は、測定対象物に0.002M〜2Mの塩酸溶液を加えてカドミウムを抽出し、得られた溶液をpH1.5〜2.5に調整し、該溶液にジベンジルジチオカルバン酸/トリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライド溶液を加えて振とうあるいは攪拌後静置し、分離して得られた有機相に0.5〜2Mの塩酸溶液を有機相の1/5〜等量添加して振とうあるいは攪拌し、分離して得られた水相を中和して測定用試料を得る前処理工程と、抗原抗体反応を利用してカドミウムを測定するイムノアッセイに前記測定用試料を供してカドミウム含有量を分析する測定工程を含むようにしている。
【0015】
請求項1に記載のカドミウム測定方法によれば、塩酸溶液処理により測定対象物から塩酸溶液中にカドミウムとそれ以外の金属が抽出される。そして、その溶液をpH1.5〜2.5に調整してから、ジベンジルジチオカルバン酸/トリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライド溶液を加え振とうあるいは攪拌した後に静置することによって、分離される塩酸溶液の相にカドミウム以外の金属が残り、ジベンジルジチオカルバン酸/トリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライド溶液の相(有機相)にカドミウムが移行する。さらに、分離して得られた有機相に0.5〜2Mの塩酸溶液を有機相の1/5〜等量添加して振とうあるいは攪拌することで、有機相からカドミウムが逆抽出されて分離して得られた塩酸溶液(水相)に移行する。この塩酸溶液を中和して、測定用試料としてイムノアッセイに供してカドミウム含有量を分析する。このとき、測定用試料には測定を妨害するカドミウム以外の金属例えば亜鉛、マグネシウム、マンガン、有機物などが除かれあるいは減少しているため、相対的にカドミウムの含有量が濃縮され、イムノアッセイによりカドミウムの含有量を簡易に測定することができる。
【0016】
次に、請求項2に記載のカドミウム測定方法は、測定対象物に0.002M〜2Mの塩酸溶液を加えてカドミウムを抽出し、得られた溶液をpH1.5〜2.5に調整し、該溶液をトリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライドが表面に固定化された担体に接触させた後、該担体を0.01より大きく0.5M以下の濃度の硝酸と接触させて得られた溶液を中和して測定用試料を得る前処理工程と、抗原抗体反応を利用してカドミウムを測定するイムノアッセイに前記測定用試料を供してカドミウム含有量を分析する測定工程を含むようにしている。
【0017】
請求項2に記載のカドミウム測定方法によれば、塩酸溶液処理により測定対象物からカドミウムとそれ以外の金属が抽出された塩酸溶液をpH1.5〜2.5に調整してからトリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライドが表面に固定化された担体に接触させることで、当該塩酸溶液に溶け込んでいるカドミウムが担体表面に選択的に吸着される。そして、該担体を0.01より大きく0.5M以下の濃度の硝酸と接触させることで、該担体に吸着していたカドミウムが硝酸に溶出し、カドミウムが選択的に抽出された溶液を得ることが可能となる。この硝酸溶液を中和して、測定用試料としてイムノアッセイに供してカドミウム含有量を分析する。このとき、測定用試料には測定を妨害するカドミウム以外の金属例えば亜鉛、マグネシウム、マンガン、有機物などが除かれあるいは減少しているため、相対的にカドミウムの含有量が濃縮され、イムノアッセイによりカドミウムの含有量を簡易に測定することができる。
【0018】
尚、塩酸溶液をトリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライドが表面に固定化された担体に接触させる際には、請求項3に記載したようにカラム法を採用することが好ましい。カラムをトリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライドが表面に固定化された担体として、塩酸溶液処理により測定対象物からカドミウムとそれ以外の金属が抽出された塩酸溶液を当該カラムに流すことで、非常に簡易に且つ効率よくカドミウムを選択的にカラムに吸着させることができる。
【0019】
請求項5に記載のカドミウム吸着カラム装置は、試料液流入口と試料液流出口を有する容器と、試料液流入口と試料液流出口の間に収容される充填剤とを備えており、充填剤は表面にトリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライドが固定化された担体であるというものである。
【0020】
このように構成することで、カドミウムが選択的に分離された測定用試料を非常に簡単な操作により得ることができるカドミウム分離カラム装置を提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のカドミウム測定方法によれば、マンガン、亜鉛、マグネシウム、銅などの金属をカドミウムよりも大量に含む測定対象物、例えば農産物、水産物、畜産物などについて、抗カドミウム抗体を利用したイムノクロマトグラフィー装置により、カドミウム汚染の有無を簡易に短時間で検出でき、カドミウム含有量がある値(例えば規制値)を超えているか否かの判定を客観的に非常に簡単にすることができる。しかも、イムノクロマトグラフィー装置は、抗カドミウム抗体と反応する抗原あるいは抗カドミウム抗体を固定した簡単な構造であるため、機器分析に比べて検査コストが遙かに安価であり、穀物などのカドミウム汚染を検査する場合には、検査ロットを少量にすることができて、規制値を超える汚染が検出されたときの被害も少なくできる。さらに、機器分析と違って、現場での検査・測定を可能とする。
【0022】
また、請求項2に記載したように、前処理工程時に、ジベンジルジチオカルバン酸/トリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライド溶液の代わりにトリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライドが表面に固定化された担体を用いることで、ジベンジルジチオカルバン酸を用いる必要が無くなる。また、カドミウムの抽出操作時に人体にとって有害であり、一般廃棄物として処理することができない有機溶媒を用いる必要が無くなる。さらには、溶媒抽出を行う場合のように水相回収や有機相回収といった煩雑な操作を行うことなく、簡易にカドミウムを選択的に分離して測定用試料を提供することが可能となる。このため、この種の分析装置に慣れていない未熟練者或いは未経験者であっても、容易にカドミウムの含有量測定のための試料を得ることができ、イムノアッセイによる簡易なカドミウム測定をより確実なものとできる。
【0023】
次に、請求項3に記載したように、測定対象物からカドミウムとそれ以外の金属が抽出された塩酸溶液をトリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライドが表面に固定化された担体へカラム法により接触させることで、非常に簡易に且つ効率よくカドミウムを選択的にカラムに吸着させることができる。
【0024】
また、請求項5に記載の発明にかかるカドミウム分離カラム装置によれば、取り扱いが簡便にして、尚かつ人体にとって有害であり、一般廃棄物として処理することができない有機溶媒を用いることなく、カドミウムが選択的に分離された測定用試料を非常に簡単な操作により得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の構成を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。
本発明にかかるカドミウム測定方法は、測定対象物からカドミウム以外のマンガン、亜鉛、マグネシウム、銅などの金属を減少あるいは除去してカドミウムを抽出する前処理工程と、抗原抗体反応を利用してカドミウムを測定するイムノアッセイに前記測定用試料を供してカドミウム含有量を分析する測定工程から成る。
【0026】
ここで、本発明の第一の実施形態として、塩酸処理とジベンジルジチオカルバン酸/トリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライド溶液処理により測定対象物からカドミウムを抽出する前処理工程について説明する。
【0027】
先ず、塩酸処理により、対象物からカドミウムを抽出する。塩酸溶液の濃度は0.002〜2M、好ましくは0.02〜1M、より好ましくは0.02〜0.1M程度である。塩酸溶液の濃度が0.002M未満であると、カドミウムが充分抽出されず、一方、2Mを超えると、後の工程において、pHを1.5〜2.5に調整する際、中和するために大量の中和剤が必要となり、その結果カドミウムが希釈され好ましくない。このため、pHが1.5〜2.5となるような塩酸溶液濃度にしておけば、後の工程においてpHを調整する必要がなくなることから好ましい。このような濃度の塩酸溶液と対象物を振とうあるいは攪拌してカドミウムを効率的に抽出する。振とうあるいは攪拌の際、対象物の量は5〜20容量%が好ましく、さらに好ましくは10〜20容量%である。あまり塩酸溶液の量が多いとカドミウム濃度が薄くなりすぎ、測定のため濃縮が必要となり、一方、塩酸溶液の量が少ないと夾雑物が出てきてしまうので好ましくない。
【0028】
また、カドミウム抽出のための振とう前あるいは攪拌前には、試料は微細片にすることが好ましい。微細片にすることにより、振とう時間を短縮することができる。例えば、玄米のような穀物を人手によって粉砕する例を挙げれば、玄米は人手によって粉砕するにはとても硬いので、例えば濃度0.02〜1M程度の塩酸溶液に米粒を浸して一晩放置して予め柔らかくしておき、その後、穀物を粉砕して、10%〜20%容量になるように0.02〜1M塩酸溶液を加え2〜8時間、通常4時間程度振とうする。機械粉砕の場合には、玄米を塩酸溶液に浸して予め柔らかくする必要がなく、その分の手間を省くことができる。この機械粉砕の場合には、玄米は微細に粉砕されるため、塩酸溶液の処理時間を人手による粉砕の場合の少なくとも半分程度、通常1時間程度に短縮できる。
【0029】
上記の塩酸溶液によって、カドミウムを溶液中に抽出させるが、この時、亜鉛、マンガン、マグネシウムなどの他の金属と一緒に抽出される。従って、上記で得られた塩酸処理溶液中には、亜鉛、マンガン、マグネシウムなどが含まれており、カドミウムの正確な測定を妨げることを知見するに至った。そこで、カドミウムの選択的抽出を試みた。本発明の方法においては、ろ過して得られた上記塩酸処理溶液のpHを1.5〜2.5に調整後、ジベンジルジチオカルバン酸(以下、DDTCと略)/トリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライド(以下、カプリコートと略)溶液(以下、DDTC−カプリコート溶液と略)によって、対象物を塩酸で処理した溶液からカドミウムを選択的に分離できる。塩酸処理溶液のpHは、1.5未満では、カドミウムが充分DDTC−カプリコート溶液に抽出されず、一方、2.5を超えると亜鉛とマンガンが許容範囲を超えてカドミウムと共に抽出されることとなる。上記の範囲のpHに調整して抽出することにより初めて、亜鉛、マンガン、マグネシウムなどは抽出せず、カドミウムだけを選択的にDDTC−カプリコート溶液に抽出することができる。尚、DDTC−カプリコート溶液とは、1%DDTC水溶液と0.05%カプリコート・クロロホルム溶液を等容量合わせ60分間振とうし、しばらく放置後に分離して得られた有機相である。
【0030】
カドミウムが有機溶媒に溶けたままでは、イムノアッセイに利用できないため、DDTC−カプリコート溶液中のカドミウムを再び水相に戻す必要がある。そこで、塩酸を用いてDDTC−カプリコート溶液からカドミウムを逆抽出する。この時、塩酸濃度はできるだけ薄い方が好ましく、0.5M〜2Mが有効である。この濃度が0.5M未満ではカドミウムが十分に水相に移らず、一方、2Mを超えると後の工程で行われる中和において中和剤が大量に必要となり、カドミウムが希釈されてしまう。
【0031】
また、DDTC−カプリコート溶液に対して逆抽出に用いる塩酸溶液は1/5〜等容量である。カドミウムを濃縮する必要がある場合は、この塩酸の量をDDTC−カプリコート溶液量に対して5分の1まで減らしても回収率に影響がない。好ましくは、7分の5〜等量である。塩酸溶液の量が少なければ、カドミウムの濃度が高くなるので、イムノアッセイの感度が低くても検知することができるという利点がある。
【0032】
この操作により、カドミウムはDDTC−カプリコート複合体から解離し、塩酸(水)相に移行する。このようにして抽出して得られた塩酸溶液を中和してイムノアッセイの試料とする。中和は、通常の方法で行えばよい。
【0033】
次に、本発明の第二の実施形態として、塩酸処理とカプリコートが固定化された担体により測定対象物からカドミウムを抽出する前処理工程について説明する。
【0034】
先ず、塩酸処理により、対象物からカドミウムを抽出する。これについては上記の第一の実施形態で説明したとおりの方法で行えばよく、塩酸溶液の濃度に関しても、0.002〜2M、好ましくは0.02〜1M、より好ましくは0.02〜0.1M程度である。塩酸溶液の濃度が0.002M未満であると、カドミウムが充分抽出されず、一方、2Mを超えると、後の工程において、pHを1.5〜2.5に調整する際、中和するために大量の中和剤が必要となり、その結果カドミウムが希釈され好ましくない。
【0035】
上記の塩酸処理によって、カドミウムを溶液中に抽出させるが、上述したとおり、この時、亜鉛、マンガン、マグネシウムなどの他の金属も一緒に抽出される。従って、上記で得られた塩酸処理溶液中には、亜鉛、マンガン、マグネシウムなども含まれており、カドミウムの正確な測定を妨げる。そこで、カプリコート固定化担体を充填したカドミウム分離カラム装置に上記塩酸処理溶液をろ過してpHを1.5〜2.5に調整した後、流すことにより、塩酸溶液中に含まれているカドミウムが選択的にカプリコート固定化担体に吸着する。ここで、塩酸処理溶液のpHが1.5未満では、カドミウムが充分カプリコート固定化担体に吸着されず、一方、2.5を超えると亜鉛とマンガンが許容範囲を超えてカドミウムと共に吸着されることとなる。尚、カプリコート固定化担体はカラムに充填しなくとも、例えば、塩酸処理溶液中にカプリコート固定化担体を浸漬してカドミウムを吸着させるようにして用いることもできる。
【0036】
次に、カドミウムやその他の金属を全くもしくはほとんど含有しない0.01〜1Mの塩酸溶液を流して、カドミウム分離カラム容器内部とカプリコート固定化担体を洗浄する。これにより、カラム容器に付着して、カプリコート固定化担体まで到達しなかったカドミウムがカプリコート固定化担体に吸着されるだけでなく、担体表面や担体間の隙間に残っているカドミウム以外の金属を洗い流すことが可能となり、カドミウム以外の金属をより減少させて、測定をより正確に行うことが可能となる。尚、塩酸濃度が0.01M未満だとpHが高くなって、カドミウム以外の金属をカラム吸着させてしまう虞がある。また、0.1Mを超えると容器に付着したカドミウムをカラムに吸着させる程度にはpHが高くならないので好ましくない。従って、カドミウム分離カラム容器内部とカプリコート固定化担体を洗浄する際の塩酸溶液の濃度は0.01〜1Mとするのが有効である。
【0037】
カプリコート固定化担体に吸着したカドミウムは、0.01より大きく0.5M以下の濃度の硝酸溶液をカラムに流すことにより溶出させる。そして、カドミウム溶出硝酸のpHを6.5〜8.5にしてイムノアッセイを行う。尚、硝酸濃度については、0.01M以下の場合にはカドミウムが十分に溶出されず、0.5Mを超えるとpHを6.5〜8.5にするために大量の中和剤が必要となり、その結果カドミウムが希釈され好ましくない。
【0038】
上記操作により、カドミウムはカプリコート固定化担体から解離し、硝酸溶液に溶出する。このようにして抽出して得られた硝酸溶液を中和してイムノアッセイの試料とする。中和は、通常の方法で行えばよい
【0039】
尚、カプリコート固定化担体に吸着したカドミウムは、0.1M程度の濃度に調整したEDTA溶液を用いて溶出させることもできる。この場合、硝酸溶液を用いる場合と比べて溶出効率は若干落ちるものの、イムノアッセイを行う際にEDTAを加える必要が無くなるという利点がある。また、硝酸溶液とEDTA溶液を混合して用いることで、カドミウム溶出効率を低下させることなく、また、イムノアッセイ時にEDTAを加える必要が無くなる。
【0040】
ここで、カドミウム分離カラムに溶液を流す際の最適な流速について説明する。流速を速くすればカドミウムの分離処理時間を短縮することができるが、カドミウムの回収率が低下してしまう。従って、カドミウムの回収率が低下しない程度の流速とする必要がある。本実施形態では、カラム装置を直径20mmとして、0.3gのカラムを充填したカドミウム分離カラムに3ml/min以下の流速で溶液を流すようにしているが、この例には限られず、カラム径、担体の量、担体の性質(大きさや孔径など)等により最適な流速が適宜決定される。
【0041】
次に、本実施形態で用いられるカプリコート固定化担体について説明する。カプリコート固定化担体はカドミウムを選択的に吸着する機能を有する。例えば、カドミウム以外にも金属を含んでいるような溶液にカプリコート固定化担体を接触させるとカドミウムを選択的に吸着する、即ち、カドミウムを分離する機能を有する。尚、カプリコート(トリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライド)はN+に結合する3つのn−オクチル基と1つのメチル基を有しているが、カドミウムの選択的な吸着性能を有するのであれば、これら官能基を別の官能基で置換したようなカプリコート類似化合物を用いても良い。例えば、メチル基をエチル基やプロピル基等で置換したものを用いてもよい。
【0042】
カプリコートを固定化するための担体としては、例えば表面積が大きい多孔質粒子等を採用することができる。具体的な材料を例示すると、ODS系シリカゲル、シリカゲル、アルミナ、硫酸マグネシウム、ポーラスポリマー等が挙げられるが、この中でも理論段数を高めるという観点から、特にODS系シリカゲル(オクタデシルシリル基を有するシリカゲル)を用いることが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0043】
カプリコートの担体への固定化は例えば以下のようにして行う。まず、担体を例えば塩酸溶液(6M)にて洗浄し、蒸留水で担体に付着している塩酸溶液を洗い流して乾燥させた後、カプリコートを溶解可能な有機溶媒(例えば、ヘキサン等)に溶解させ、カプリコートを0.5重量%以上含有するカプリコート溶液を調整する。次に、当該溶液と担体を接触させ1時間程度振とう或いは撹拌して、カプリコートを担体に吸着させた後、濾過によって担体とカプリコート溶液を分離し、担体を乾燥させる。以上の手順によりカプリコートが担体に固定化する。
【0044】
このようにして得られたカプリコート固定化担体を、試料液流入口と試料液流出口を有するカラム容器内に充填する。
【0045】
尚、カプリコート固定化担体の平均粒径は、大きすぎると理論段数が低下するので所望の性能が発揮されず、小さすぎると圧力損失が大きくなって通液速度が低下してしまうことから、5〜500μmのものを用いることが好ましく、150〜425μmのものを用いることがより好ましい。
【0046】
ここで、図15、図16に示すカドミウム分離カラム装置6について説明する。カドミウム分離カラム装置6は、試料液流入口8と試料液流出口9を有する容器7と、試料液流入口8と試料液流出口9の間に収容される充填剤12とを備えており、充填剤12は表面にカプリコートが固定化された担体である。
【0047】
カラム容器7には、試料液流入口8と試料液流出口9を設けるようにする。容器7の素材としては例えば、プラスチック等を採用できるが、これらに限られるものではない。また、容器7の形状としては、図に示した円筒状のもの以外であってもよい。尚、本実施形態においては、市販の容量5ml、内径13mmのプラスチック製透明注射器型容器とした。また、試料液を充填剤12に通液する際には、試料液を重力落下(自然落下)させてもよいし、試料液流入口8側からピストン等により加圧して試料液を通液させるようにしても良い。
【0048】
尚、試料液流入口8側に充填剤12を押さえるようにしてフィルタ10を設けることが好ましい。フィルタ10を設けることで試料液中に存在する懸濁物等により充填剤12が目詰まりを起こすのを防止でき、また、充填剤12が液体に拡散して良好な充填状態を保てなくなるのを防止できる。フィルタ10としては、その孔径が充填剤12の粒径よりも小さく、さらに、試料液中に存在する懸濁物等の浸入を防げる程度に粒径が小さいことが好ましい。また、フィルタ10を親水性にすることで液体がフィルタ10全体に浸透して充填剤12に均一に広がるようになることから、フィルタ10は親水性を有することが好ましい。さらに、使用する液体に対して耐性を有することも必要であり、例えば分析用の定量濾紙(アドバンテック社製高純度濾紙、No.5B等)を採用することができるが、これに限られるものではない。
【0049】
また、カラム容器7内部にフィルタ押さえ13を設けることが好ましい。試料液流入口8側のフィルタ10が固定されていない場合には、試料液を入れた際にフィルタ10が浮いて充填剤12が液体中に拡散して良好な充填状態を保てなくなる虞があるが、フィルタ押さえ13を設けることで、フィルタ10が浮いて充填剤12が分散するのを防ぐことができるだけでなく、充填剤12の充填状態を安定に保持できる。
【0050】
また、試料液流出口9側にもフィルタ11を設けて、充填剤12が試料液流出口9から流出されるのを防ぐようにすることが好ましい。フィルタ11としては、その孔径が充填剤12の粒径よりも小さく、使用時の液体の通液による圧力損失が極力少ない孔径のものを用いることが好ましい。こうすることで、充填剤12がフィルタ11を通過して流出してしまうのを防ぐことができる。また、充填剤12を通過した液体を効率よく試料液流出口9から排出するため、フィルタ11は親水性を有することが好ましい。さらに、使用する液体に対して耐性を有することも必要であり、この場合も、フィルタ10と同様に、例えば分析用の定量濾紙(アドバンテック社製高純度濾紙、No.5B等)を採用することができるが、これに限られるものではない。
【0051】
次に、充填剤12を容器内に充填する場合には、例えば以下のようにする。まず、容器7にフィルタ11を入れる。次に充填剤12を適量(例えば、本実施形態では0.3g)を入れて、その上にフィルタ10を置く。そして、フィルタ10全体をピストン等で軽く圧縮する。尚、例えば、充填剤12をカラム容器7のサイズに合うような固形タイプのものとした場合には上記のようにして充填する必要が無くなる。さらに、このような固形タイプの充填剤とすれば、充填剤が試料液流出口9から防ぐことを防止できるので、フィルタ11を用いる必要はないし、試料液に懸濁物が存在しない場合には、フィルタ10を用いる必要はない。
【0052】
尚、カプリコートはカドミウムの分離処理を行う程度の時間であれば問題にはならないものの、光劣化を起こす虞がある化合物である。したがって、カドミウム分離カラム装置は暗所に保存する、もしくは容器7に遮光性を持たせるようにすることが好ましい。
【0053】
上記第一の実施形態または第二の実施形態により、対象物からカドミウムを抽出して得られた試料を用いれば、抗カドミウム抗体を利用したイムノクロマトグラフィーなどのイムノアッセイ法(免疫化学的測定法)を使用して、簡単にカドミウム含有量を知ることができる。
【0054】
本発明の試料調整法は、カドミウムの測定を妨害する程多量の亜鉛、マグネシウム、マンガンなどを含むものに適用することができ、米、麦などの穀物はじめ、大豆などの豆類、じゃがいもなどの芋類、肉類、アカイカ、ホタルイカ、帆立貝、帆立貝柱、牡蠣などの魚介類、たばこなどに用いることができる。
【0055】
このような試料を供する抗カドミウム抗体を利用したイムノアッセイ法について以下に説明する。
このイムノアッセイ法に使用される抗カドミウムモノクローナル抗体としては、錯体を形成したカドミウムを特異的に認識するモノクローナル抗体、例えばSo25A1、So21D5、So26G8が挙げられる。なお、モノクローナル抗体So26G8を産生するハイブリドーマは、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成15年2月27日付けで受託番号FERM P−19240として寄託されている。また、モノクローナル抗体Nx22C3も挙げられる。モノクローナル抗体Nx22C3を産生するハイブリドーマは、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成16年2月26日付けで受託番号FERM P−19703として寄託されている。これらは、主にカドミウムと反応してカルシウム、マグネシウム、銅、鉄、ニッケル、鉛、亜鉛などのその他の金属とはほとんどまたは全く交差反応しないという特性を示す。尚、イムノアッセイ法において使用するカドミウムに対し特異性をもつ抗体としては、上述のモノクローナル抗体に特に限られず、その他の抗体の使用も可能である。
【0056】
上記のようなモノクローナル抗体を用い、カドミウムを測定する免疫学的方法において、カドミウムはキレート剤に配位させ、この形成された錯体をモノクローナル抗体により検出・測定する。故に、この方法では、(i)試験試料にキレート剤を添加して錯体を形成させ、(ii)該錯体を特異的に認識する抗体を用いて免疫学的手法によりカドミウムを定量的に測定する。本発明の調整法による試料を供するイムノアッセイに用いるモノクローナル抗体は、前述のようにカドミウムに対して親和性が高く、且つ他の金属との交差反応性が低いため、試験試料中のカドミウムをより正確に測定することができる。
【0057】
本発明で得られる試料が適用されるイムノアッセイ法では、カドミウムイオン単独では抗原性を持たないため、抗カドミウム抗体を作成するためカドミウムをキレート剤に配位させ、形成された金属錯体を抗原として用いる。キレート剤としては、カドミウムを配位しうるものであれば任意のキレート剤を用いることができるが、例えばエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、テトラエチレントリアミン(TET)、エチレンジアミン(EDA)、ジエチレントリアミン(DETA)、クエン酸、シュウ酸、クラウンエーテル、ニトリロテトラ酢酸、エデト酸二ナトリウム、エデト酸ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、ペニシラミン、ペンテテートカルシウム三ナトリウム、ペンテト酸、スクシメルおよびエデト酸トリエンチンを挙げることができるが、好ましくはEDTAである。
【0058】
また、カドミウム錯体、例えばカドミウムとEDTAの錯体(以後、Cd−EDTAと略記する)では免疫応答を誘導するには分子として小さすぎるため、キャリアとなる高分子量物質に結合させ、これを抗原または免疫源として用いる。キャリアとして用いることができる高分子量物質の例としては多糖類、タンパク質などが挙げられるが、タンパク質が好ましい。アルブミン、オバルブミン、ヘモシアニン、グロブリン、ゼラチン、コラーゲンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
これら金属錯体とタンパク質の複合体を作製するには、タンパク質と結合しうる官能基を有するキレート剤または該官能基を導入したキレート剤を用いるか、あるいはリンカーを介してタンパク質とキレート剤を結合させることができる。そのようなキレート剤は市販されており、例えばイソチオシアノベンジル−EDTA(同仁化学)が挙げられる。複合体の形成は常法により行うことができる。
【0060】
マウス免疫、ハイブリドーマの作製およびその培養などの一連のモノクローナル抗体の作製は、常法に従って、例えばモノクローナル抗体作製マニュアル、多田ら著、学際企画発行、1995年(ISBN 4-906514-19-7)を参照して適宜行うことができ、免疫するマウスの系統、脾臓細胞と融合させるミエローマのなども特に限定されない。
【0061】
用いる免疫学的手法としては、上記のモノクローナル抗体を用いればいずれでも良いが、例えば免疫クロマトグラフィー、ラジオイムノアッセイ(RIA)、蛍光イムノアッセイ(FIA)、免疫発光測定法、エンザイムイムノアッセイ(EIAまたはELISA)、CLEIA(化学発光酵素免疫測定法)、免疫比濁法(TIA)、ラテックス免疫比濁法(LTIA)、蛍光センサー法、表面プラズモン分析などの方法が挙げられる。
【0062】
イムノアッセイ法に用いられるカドミウムを定量的に測定するためのキットは、上記の抗カドミウムモノクローナル抗体のみから構成されていてもよいが、他の試薬例えばキレート剤、キレート剤−タンパク質複合体、ポジティブコントロール試料、ネガティブコントロール試料などを包含してもよい。また、モノクローナル抗体、キレート剤−タンパク質複合体のいずれか、または両方が標識されていてもよい。
【0063】
<蛍光イムノアッセイ(FIA)>
モノクローナル抗体を用いた免疫学的測定法の一例としてフロー式蛍光センサーを用いた蛍光イムノアッセイについて説明する。図1にその測定原理を図示する。
装置の中には、抗原が固定化された例えばビーズ状の不溶性担体が設置されている。固定化するための不溶性担体としては、例えばポリメチルメタクリル酸、ガラス等からなる固定化用ビーズ、アルギン酸カルシウム粒子等の微細粒子などを用いることができるが、特にこれらに限定されるものではなく、種々の形状、材質のものを使用することができる。このうち、ビーズないし微粒子形状、特に平均粒径50〜100μm程度のビーズないし微粒子形状のものであることが好まれる。
【0064】
抗原、即ちカドミウムEDTA錯体はタンパク質などのスペーサーを介して間接的に結合させることも可能である。ここでは、オバルブミンで固定されている。固定はカドミウムEDTA錯体タンパク質複合体を直接自然吸着法、イオン結合法、共有結合法などを用いて担体に結合させることができ、また直接固定させる方法のみならず、適当な化学物質、例えばグルタルアルデヒド架橋などのスペーサーを介して固定させることも可能である。
【0065】
先ず(1)ある濃度の抗カドミウムモノクローナル抗体(一次抗体)を流し、上記固定化抗原(カドミウムEDTA錯体)に結合させる。次に(2)蛍光ラベルされた、この一次抗体に対して特異的に結合する抗体、即ち二次抗体を流し、一次抗体に結合させる。その後、(3)洗浄し、洗浄後の蛍光強度を測定する。この時の蛍光強度を検出値F0とする。次に、(1)試験すべき試料を上記と同濃度の抗カドミウムモノクローナル抗体と接触させ、その後この接触混合物を流し、上記固定化抗原(カドミウムEDTA錯体)に結合させる。そして他は同様にして、二次抗体によりに結合した抗ホルモン抗体の蛍光強度を測定する(この値を検出値F1とする)。
【0066】
ここで、上記試料中にカドミウム(抗原)が存在するならば、上記抗カドミウムモノクローナル抗体(一次抗体)の一部は上記試料との最初の接触において、カドミウムと結合し、このカドミウムと結合した抗カドミウムモノクローナル抗体(一次抗体)は、続く固定化抗原(カドミウムEDTA錯体)との接触において、もはや固定化抗原と結合しようとはしない。すると、二次抗体も結合できず、反応混合物中に遊離状態で残ることとなるため、その結果が検出値F1における蛍光強度の低下となって示される。従って、検出値F1が検出値F0に比べ小さい場合(F1<F0)、上記試験すべき試料中にカドミウムが存在すると判断できる。そして、F1のF0に比べた低下の割合が、被試試料中に含まれるカドミウムの量にある程度比例することから、既知の濃度のカドミウムを用いて予め検量線を作成することにより、F1の低下の割合に応じて被試試料中に含まれるカドミウムの定量を行うことができる。
【0067】
<イムノクロマトグラフィー>
抗体を用いた免疫学的測定法の一例としてイムノクロマトグラフィーについて説明する。この方法は、試料を試験紙上に滴下するだけでカドミウムの有無を数分から数十分の間に判定できるため簡便性に優れ、かつ特別な機械装置を必要としないため非常に安価である。イムノクロマトグラフィーは、キレート剤−タンパク質複合体を利用することにより所望の金属イオンを効果的に検出するものである。尚、免疫クロマトグラフィー装置には、モノクローナル抗体あるいはキレート剤−タンパク質複合体のいずれか一方が固定され、他方が流動可能に供給されれば良い。図2にその実施形態の一例を示す。プラスチックバッキングシート1の上に、メンブレン2と吸収パッド3を一部で重なるように配置し、メンブレン2の先端の試料滴下位置4に試料を滴下すると試料が吸収パッド3に向かってメンブレン2上を流動し、抗金属EDTAモノクローナル抗体あるいはEDTA−タンパク質複合体が固定化された領域5を通過する際に、標識された金属EDTA錯体が抗体に捕捉されあるいは標識された抗金属EDTAモノクローナル抗体がEDTA−タンパク質複合体のEDTAと錯体を形成してその錯体に抗金属EDTAが捕捉されて、固定化領域Bが目視可能となることで検出対象物の有無を簡易に検出可能としている。なお、EDTAなどのキレート剤を直接標識することは困難であるため、キレート剤にタンパク質を付加する前あるいは後に、タンパク質に色素粒子を付加することで間接的にキレート剤を標識するのが好ましい。あるいは、モノクローナル抗体自体を標識することもできる。これらタンパク質の標識は通常行われている手法によって行うことができる。
【0068】
(1)試験法1
モノクローナル抗体を試験紙の一部分に試料の流れを横切るように帯状に固定化する。次いで、試験試料中にキレート剤−タンパク質−色素粒子(キレート剤−標識タンパク質)複合体を添加して、カドミウムイオンと結合させたのち試験紙に滴下させる。目的の金属イオンが存在する場合には、金属−キレート剤錯体が形成され、金属錯体と標識タンパク質複合体が試験紙上に帯状に固定化したモノクローナル抗体によって補足され、その結果として色素粒子が帯状に密集して試料中の金属イオンが可視化する。試料中に金属イオンが存在しない場合は、キレート剤−タンパク質−色素粒子複合体は試験紙上に固定化されたモノクローナル抗体に補足されないため、色素粒子により可視化されない。
【0069】
(2)試験法2
キレート剤−タンパク質複合体を利用して金属イオンを検出するイムノクロマトグラフィーとして次の方法がある。まず、試験法1における抗体の代わりにキレート剤−タンパク質を試験紙上に帯状に固定化する(図3(B)参照)。色素粒子はモノクローナル抗体に付加する。この標識抗体と試験試料を混合してからともに試験紙に滴下させると(図3(A)、(B)参照)、金属イオンが試験紙上のキレート剤−タンパク質複合体に捕捉され金属−キレート剤錯体を形成し、結果として標識されたモノクローナル抗体が金属−キレート剤錯体を介して試験紙上に補足され、帯状に密集した色素粒子により試料中の金属イオンが可視化される(図3(C)、(D)参照)。
【0070】
これら2つの試験法の利点は、タンパク質を介することでキレート剤を帯状に試験紙に固定することが容易になること、およびタンパク質1分子当たりに複数のキレート剤を付加することができ、単純に試験紙上にキレート剤を固定した場合に比べて表面積を大きく取ることが可能になり、結果として検出感度を上げることができることである。また、カドミウム検出ラインより吸収パッド側に、モノクロール抗体なら全て結合する抗体を塗布したコントロールラインを設けておけば、カドミウムが検知されなかった時に、このラインがモノクロール抗体を検知することにより、モノクロール抗体がカドミウム検出ラインを通過したことがわかり、検査が正常に行われたことを証明することができる。
【実施例】
【0071】
以下実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0072】
[実施例1]
塩酸処理による対象物からのカドミウムの回収率を調査するため、対象物を玄米として、以下の手順により回収率を調査した。予めカドミウム濃度の分かっているカドミウム含量の異なる8種の玄米それぞれ2gに対して、濃度0.02Mの塩酸溶液を米粒がすべて浸かる程度加え、一晩放置した。この玄米をガラス棒にて粉砕後、10%容量(全量20ml)になるように0.02M塩酸溶液を加え4時間振とうした。これら8種の玄米から得られた塩酸溶液中のカドミウム濃度を、ICP発光分光分析装置によって分析した。結果を図4に示す。この結果から、塩酸溶液中のカドミウム濃度(塩酸処理後測定濃度)が予め分かっているカドミウム濃度(添付濃度)とほぼ等しいことが確認された。また、公定法に準じた塩酸−硝酸法によって得られた抽出物のカドミウム濃度についてもICP発光分光分析装置によって分析し、回収率=(本法抽出物のカドミウム濃度/公定法抽出物のカドミウム濃度)として決定した結果、平均で玄米に含まれるカドミウムの95%を溶液中に回収することができた。以上の結果から、塩酸処理により対象物からカドミウムを十分に回収可能であることが確認された。
【0073】
また、上記のようにして得られた塩酸溶液中のMg、Mn、Znの濃度についてICP発光分光分析装置により調べた結果を図5に示す。上記で得られた塩酸処理溶液中には、マグネシウム、亜鉛、マンガンなどがカドミウムの正確な測定を妨げる程に含まれていることが明らかとなった。
【0074】
次に、カドミウムの正確な測定を妨げるマグネシウム、亜鉛、マンガン等を塩酸溶液中から除去してカドミウムを選択的に抽出するためのDDTC(ジベンジルジチオカルバン酸)−カプリコート(トリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライド:同仁化学)溶液を以下のようにしての調製した。まず、1%DDTC水溶液と0.05%カプリコート・クロロホルム溶液を等量合わせ60分間振とうした。しばらく放置すると水相と有機相に分離するので、その有機相をDDTC−カプリコート溶液とした。
【0075】
次に、DDTC−カプリコート処理によるカドミウム回収率について調査した。試料としてカドミウム汚染米を想定したカドミウム、亜鉛、マンガン、銅、鉄(それぞれ1ppm)、マグネシウム(50ppm)を含む水溶液を用意し、この水溶液のpHを1.0、2.0、3.0、4.0に調整し、それぞれの溶液7mlに上記のDDTC−カプリコート溶液を等量の7ml加え振とう後静置した。しばらく静置すると水相と有機相に分離するので、有機相のみを分離し、これに2Mの塩酸溶液をそれぞれ7ml加え、カドミウムを有機相から水相に抽出(逆抽出)した。
【0076】
上記により抽出した水相(DDTC−カプリコート処理後の塩酸抽出溶液)と、DDTC−カプリコート処理前の塩酸溶液のカドミウム、マンガン、マグネシウム、鉄、亜鉛および銅濃度をICP発光分光分析装置によってそれぞれ分析し、その測定値をもとに回収率=(DDTC−カプリコート処理後の溶液のカドミウム濃度/DDTC−カプリコート処理前の溶液のカドミウム濃度)として決定した。結果を図6(A)に示す。
【0077】
図6(A)に示された結果から、DDTC−カプリコート処理前の塩酸処理液のpHが1.0並びに2.0の場合には、他の金属に比べてカドミウムが選択的に抽出されることがわかった。特に、pH2.0の場合には、カドミウムがより選択的に抽出された。他方、pH3.0にした場合には、カドミウムと変わらない程度に亜鉛も抽出され、カドミウムを選択的に抽出できないことがわかった。さらに、pH4.0の場合には、鉄とマンガンも抽出され、カドミウムは全く選択的に抽出できないことが判明した。従って、DDTC−カプリコート処理前の塩酸処理液のpHは3.0より小さくするのが好ましく、2前後とすることがより好ましいということがわかった。
【0078】
次に、ICP発光分光分析によってカドミウムを約1ppm含むことが予め分かっている玄米を上記のように2Mの塩酸溶液で処理した抽出液をpH2.0に調製し、その7mlに対して、7mlのDDTC−カプリコート溶液による抽出と7mlの2Mの塩酸による逆抽出を行った場合と、2mlのDDTC−カプリコート溶液による抽出と2mlの2Mの塩酸による逆抽出を行った場合の回収率を比較した。結果を図6(B)に示す。この結果から、DDTC−カプリコート溶液を7mlから2mlに減らしても充分にカドミウムの選択的抽出ができることが確認された。
【0079】
以上より、対象物を塩酸処理した溶液をpH2前後に調整後、DDTC−カプリコート溶液処理することで、対象物からカドミウムを選択的に分離できることが分かった。
【0080】
[実施例2]
カドミウムを選択的に分離するためのカラムを以下の手順により作製した。担体として10gのオクタデシルシロキサン系シリカゲル樹脂(ワコーゲルC−100、和光純薬工業)を採用し、塩酸(50ml、6M)で洗浄後、さらに蒸留水で洗浄し乾燥させた。次に、カプリコート(トリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライド:同仁化学)を3重量%含むように有機溶媒(ヘキサン)を調製した。この3重量%カプリコート含有ヘキサン50mlと上記のオクタデシルシロキサン系シリカゲル樹脂10gを遮光性の三角フラスコに入れて、1時間振とうした。十分にカプリコートを樹脂に吸着させた後、ヘキサンで三角フラスコを洗いこみながら樹脂を濾過装置に移し、濾過によって樹脂とヘキサンを分離し、樹脂を80℃に設定したオーブンの中で乾燥させ、カプリコートを樹脂表面に固定した。カプリコートを固定化した樹脂0.3gをクロマトグラフィー用の遮光性のガラス管(直径20mm x 高さ300mm)に充填し、カドミウム分離カラムとした。
【0081】
次に、試料溶液にDDTCを混合し、カドミウム分離カラムを用いて塩酸溶液もしくは硝酸溶液によりカドミウムを選択的抽出できるか検討した。Cd、Mn、Zn、Mg、Fe、Cu、Pbを含む0.1M塩酸溶液(それぞれの金属元素の含量は既知)5mlをpH1.8に調整した後、1.3mMのDDTCを5ml加え、その溶液を上記カプリコート固定化樹脂を用いたカドミウム分離カラムに2〜3ml/minで流した。次に、0.01M塩酸溶液5mlをカドミウム分離カラムに2〜3ml/minで流してカラムを洗浄した後、0.5M塩酸溶液5mlを2〜3ml/minでカドミウム分離カラムに流してカドミウムを溶出させた。また、0.1M塩酸溶液5mlをカドミウム分離カラムに2〜3ml/minで流してカラムを洗浄して、0.5M硝酸溶液5mlを2〜3ml/minでカラムに流してカドミウムを溶出させた。そして、上記各段階で用いた試料溶液、カラム洗浄用塩酸溶液、カドミウム溶出用溶液をカラムを通過させて得られた液中のカドミウムおよびその他金属の濃度をすべてICP発光分析装置によって測定し、カドミウムおよびその他金属の回収状況を調査した。結果を表3に示す。表3において、カラム通過後溶液は試料溶液をカラムに通過させて得られた溶液、洗浄後溶液はカラム洗浄用塩酸溶液をカラムに通過させて得られた溶液、溶出後溶液はカドミウム溶出用溶液をカラムに通過させて得られた溶液である。また、カドミウム回収率は回収率=(各溶液のカドミウム濃度/試料溶液のカドミウム濃度)として決定した。カラム通過後溶液のカドミウム濃度から計算したカドミウム回収率は2.4%であったことから、本発明のカラムは十分なカドミウム吸着能力を有することが確認された。また、洗浄後溶液中のカドミウム濃度から計算したカドミウム回収率は0.01M塩酸溶液で洗浄した場合には4.4%、0.1M塩酸溶液で洗浄した場合には0.4%であったことから、これらの濃度の塩酸溶液によるカラム洗浄においては、カラムに吸着されたカドミウムがほとんど溶出しないことが確認された。さらに、0.5M塩酸溶液ではカドミウムを回収することはできなかったが、0.5M硝酸溶液ではカドミウムを90%程度回収することができ、カドミウム以外の金属の回収率はカドミウムの回収率に比べて非常に低いことが確認された。以上より、0.01〜0.1Mの塩酸溶液を用いてカラム洗浄してもカラムに吸着したカドミウムが溶出することはなく、また、0.5M硝酸溶液を用いればカドミウムを選択的に回収できることが確認された。
【0082】
【表3】
【0083】
次に、DDTCを用いずにカドミウムを選択的に抽出可能か検討した。また、カドミウム溶出の際の硝酸溶液濃度について、さらに、EDTA溶液によりカドミウムを溶出可能か検討した。試料にはCd、Mn、Zn、Mg、Fe、Cu、Pbを含む0.1M塩酸溶液(それぞれの金属元素の含量は既知)を用い、pH1.8に調整して、その溶液5mlを上記カプリコート固定化樹脂を用いたカドミウム分離カラムに2〜3ml/minで流した後、0.1M塩酸溶液5mlをカドミウム分離カラムに2〜3ml/minで流してカラムを洗浄した。そして、0.01M、0.05M、0.1M、0.5Mの硝酸溶液5mlまたは、0.1M 、0.01Mの EDTA溶液5mlを2〜3ml/minでカラムに流してカドミウムを溶出させた。そして、上記各段階で用いた試料溶液、カラム洗浄用塩酸溶液、カドミウム溶出用溶液をカラムを通過させて得られた液中のカドミウムおよびその他金属の濃度をすべてICP発光分析装置によって測定し、カドミウムおよびその他金属の回収状況を調査した。結果を表4に示す。尚、表4においても、カラム通過後溶液は試料溶液をカラムに通過させて得られた溶液、洗浄後溶液はカラム洗浄用塩酸溶液をカラムに通過させて得られた溶液、溶出後溶液はカドミウム溶出用溶液をカラムに通過させて得られた溶液である。カラム通過後溶液のカドミウム濃度から計算したカドミウム回収率、洗浄後溶液中のカドミウム濃度から計算したカドミウム回収率はDDTCを用いて実験した場合とほぼ同様の結果が得られた。従って、DDTCを用いなくとも、カドミウムのカラムへの吸着およびカラムの洗浄には影響がないことが確かめられた。また、硝酸溶液を用いた場合には、その濃度が0.05M、0.1M、0.5Mではカドミウムをほぼ100%回収することができたが、0.01Mではカドミウムの回収率が大きく減少(5.6%)した。また、EDTA溶液の場合には、0.1Mでは70%程度のカドミウムを回収することができたが、0.01Mではカドミウムの回収率は大きく減少(6.9%)した。尚、どの条件においてもカドミウム以外の金属の回収率はカドミウムの回収率に比べて非常に低いことが確認された。以上、DDTCを用いなくともカドミウムを選択的に抽出することが可能であり、また、カラムからのカドミウムの選択的回収は0.01より大きく0.5M以下の濃度の硝酸溶液、0.1M程度のEDTA溶液を用いて行うことができ、特に0.05〜0.5Mの硝酸溶液を用いることが好ましいことが確認された。
【0084】
【表4】
【0085】
次に、カドミウム分離カラムを用いて米に含まれるカドミウムの分離を試みた。カドミウム含量の異なる11種の玄米の粉砕試料3gをそれぞれ0.05Mの塩酸30mlで1時間振とう処理した後、濾過によって抽出液から不溶物を除いた。この塩酸抽出液5mlを上記カプリコート固定化樹脂を用いたカドミウム分離カラムに2ml/minで流し、カドミウムを樹脂に吸着させた後、0.1Mの塩酸5mlを2ml/minで流してカラムを洗浄した。次に0.05Mの硝酸5mlをカラムに2ml/minで流し、カドミウムを回収した。そして、上記各段階で用いた米試料抽出液、カラム洗浄用塩酸溶液、カドミウム溶出用溶液をカラムに通過させて得られた液中のカドミウムおよびその他金属の濃度をすべてICP発光分析装置によって測定し、カドミウムおよびその他金属の回収状況を調査した。結果を表5に示す。尚、表5においても表3と表4同様、カラム通過後溶液は試料溶液をカラムに通過させて得られた溶液、洗浄後溶液はカラム洗浄用塩酸溶液をカラムに通過させて得られた溶液、溶出後溶液はカドミウム溶出用溶液をカラムに通過させて得られた溶液である。回収率は、それぞれの玄米における既知のカドミウム濃度(Akita添付濃度)を用いて計算した。また、この実験においては、米試料抽出液(カラム通過前)の試料についてもカドミウムおよびその他金属の濃度をICP発光分析装置によって測定した。カラム通過後溶液および洗浄後溶液中のカドミウム濃度の測定結果から、実際に玄米からカドミウムを抽出した試料においても問題なくカドミウムのカラムへの吸着およびカラムの洗浄が行われていることが確認された。次に、上記のうちの9試料について硝酸抽出液(硝酸によりカラムに吸着したカドミウムを溶出した液)中のカドミウムの濃度とカラム処理前の塩酸抽出液中のカドミウム濃度をプロットした結果を図12に示す。この結果から、食糧庁通達の基準値である0.04ppm(前処理によって米の容積は10倍になっているため、米中濃度に換算すると0.4ppmである。)に対してカドミウム濃度が低いものも、高いものも、ほぼ等しいものも、ほぼ全量のカドミウムが回収可能であることがわかった(平均回収率は99%)。次に、マンガン、亜鉛、マグネシウム、銅の濃度を回収率の平均を求めた。結果を図13に示す。尚、図13の回収率は回収率=(硝酸抽出液(硝酸によりカラムに吸着したカドミウムを溶出した液)の金属濃度/米試料抽出液(カラム通過前)の金属濃度)により求めた。回収率は、カドミウムは99%、マンガンは1%、亜鉛は5%、マグネシウムは1%、銅は9%であった。このように、カドミウムのイムノアッセイを妨害する恐れのあるマンガン、亜鉛、マグネシウム、銅の回収率はカドミウムの回収率に比べて非常に低いことが確認された。以上より、カプリコート固定化樹脂を用いたカドミウム分離カラムにより米からでもカドミウムを選択的に分離することができることが可能であることがわかった。
【0086】
【表5】
【0087】
[実施例3]
カドミウム含有量の異なる数種類の玄米について、従来の方法であるICP発光分析法による機器分析とイムノアッセイ(蛍光光度計によるキネクサ法とイムノクロマトグラフィー法)によって分析した結果を比較した。
【0088】
測定試料は、実施例1と同様、玄米を塩酸処理した溶液をDDTC−カプリコート溶液処理して2Mの塩酸溶液で水相に回収(逆抽出)することにより得た。
【0089】
イムノアッセイを行うに当たり、カドミウムとしてCd−EDTAを特異的に認識するモノクローナル抗体として、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成16年2月26日付けで受託番号FERM P−19703として寄託されているハイブリドーマから産生されるNx22C3を用いた。
【0090】
ICP発光分光分析装置は(株)リガク社製SPECTRO CIROS-120(EOP)を用いた。測定した元素と用いた波長は、Cd(214.438nm)、Zn(213.856nm)、Mn(257.610nm)、Mg(279.553nm)、Fe(259.940nm)、Cu(324.754nm)である。プラズマ条件はRFパワー1.4kW、プラズマガス13.0L/min、補助ガスあり、ネブライザーガス0.9L/minである。検量線作成用の金属標準溶液は原子吸光分析用(和光純薬工業製)を用いて作製した。塩酸処理液はそのまま装置に導入した。試料の導入時間は25秒、分析時間は24秒である。測定は3回繰り返し、その平均を測定値とした。
【0091】
蛍光光度計によるキネクサ法は、フロー式蛍光センサー(Sapidyne Instruments Inc. 商品名KinExA3000)を用いて行った。また、抗原を固定化する担体としてアガロースビーズ(ファルマシア製)を用いた。1mlのアガロースビーズ懸濁液に対して、Cd−EDTA−OVA溶液(1mg/ml)を100μl添加して抗原をビーズに固定化した。蛍光物質Cy5にて標識された二次抗体(抗マウスIgG抗体)を用いて間接的に蛍光標識し、抗体と固定化抗原との結合を蛍光センサーにより検出した。手順は次の通りである。
【0092】
測定操作は、予めある既知量の一次抗体と混合した試料を、抗原固定化ビーズに接触させる(ステップ1)。ここで、試料中に含まれるカドミウムと反応していない余剰の未反応一次抗体がビーズ上の固定化抗原と反応し、捕捉される。セル内に洗浄液を流し前記試料をセル内から除去した後、セル内に十分な量の蛍光標識二次抗体を流す(ステップ2)。この操作において、蛍光標識二次抗体は、固定化抗原に捕捉された一次抗体に特異的に反応し、結合一次抗体の量に応じた量のみが固定化ビーズ上に結合する。最後に、洗浄液を流して未結合の蛍光標識二次抗体をセル内から除去すると(ステップ3)、抗原固定化ビーズに結合した一次抗体に二次抗体を介して結合した標識蛍光物質のみがセル内に残り、その蛍光強度を測定することで抗原固定化ビーズに結合した一次抗体量を検知し、試料中に存在していた遊離抗原量を知ることができる。
【0093】
一定濃度の蛍光標識抗体にカドミウムを種々の濃度で添加した場合に、検出される蛍光強度の低下率をカドミウムへの結合阻害率とし、その時のカドミウムの添加濃度との関係を示す検量線を図7の(A)に示した。測定試料をこの装置で測定し、検量線から米に含まれるカドミウム濃度を求めた。
【0094】
また、同じ測定試料を用いて、従来より行われているICP発光分析法で測定した値と比較した。結果を図7の(B)に示す。図7(B)から分かるように、フロー式蛍光センサーを用いたイムノアッセイ法にて得られた測定値はICP発光分光分析法によって得られた測定とほぼ同一の値を示していた。したがって、食糧庁通達による基準値(米中0.4ppm、つまり処理液中40ppb)を超えるカドミウムを含有する米かどうかを判定するために本イムノアッセイが従来の機器分析同様に利用できることが分かった。
【0095】
[実施例4]
カドミウム分離カラムによって分離されたカドミウムのイムノアッセイについて検討した。実施例2で硝酸によって溶出された玄米由来のカドミウム溶液(玄米抽出液)75μlを1μMのEDTAを含むTris−塩酸緩衝液(pH8.0、50mM)925μlによって希釈、中和した。
【0096】
次に、検量線を作成するために、実験室にて50mMの硝酸を含むカドミウム溶液を調製し、玄米抽出液と同様に希釈、中和した後、約2nMのNx22C3抗体溶液を500μl加えゆっくりと混合した。また、上記の玄米試料にも約2nMのNx22C3抗体溶液を500μl加えゆっくりと混合した後、フロー式蛍光光度計KinExA3000(Sapidyne社)を用いて測定した。測定はそれぞれ2回ずつ行った。
【0097】
イムノアッセイによる玄米試料の測定値は、検量線によってカドミウム濃度に変換した。また、従来法(米を硝酸で分解しカドミウムを溶出させる)によって前処理を行った試料を作製し、ICP発光分光分析装置によりカドミウム濃度を測定した。これらの結果を図14に示す。尚、イムノアッセイとICP発光分光分析共に、前処理によって米の容積は10倍になっているため、図14の測定値を10倍したものが米中の濃度に相当する。図14において、イムノアッセイ、ICP発光分析の両方でカドミウム濃度が65ppm以下の測定値が出された試料(7点)に関するイムノアッセイとICP発光分析の相関係数(R2)は0.97であり、よく一致していた。また、ICP発光分析によって60ppb以上と判定された試料(4点)に関してイムノアッセイによって40ppb以下と判定されたものはなかった。よって、食糧庁通達による基準値(米中0.4ppm、つまり処理液中40ppb)を超えるカドミウムを含有する米かどうかを判定するために本イムノアッセイが従来の機器分析同様に利用できることが分かった。また、このことから、米中カドミウムのイムノアッセイにカプリコートを用いたカドミウム分離カラムが適用できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、米をはじめとする農産物、水産物、畜産物などの食品あるいはその他の農産物、水産物、畜産物中に含まれるカドミウムの量をイムノアッセイによって簡単に測定するために用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】蛍光イムノアッセイの測定原理を示す図である。
【図2】イムノクロマトグラフィー装置の一例の構成図である。
【図3】イムノクロマトグラフィーによる抗カドミウムモノクローナル抗体を用いたカドミウムの第2の検出方法の原理図である
【図4】塩酸溶液による玄米からのカドミウムの回収率を示すグラフである。
【図5】塩酸溶液により玄米から抽出されたMg、Mn、Znの濃度を示すグラフである。
【図6】(A)はカドミウム汚染米を想定した複数種の金属を含む模擬試料の水溶液のpHと各金属の回収率との関係を示すグラフである。(B)はICP発光分光分析によってカドミウムを含むことが既知の実試料を用いたpH2における各金属の回収率を示すグラフである。
【図7】(A)はカドミウム濃度と蛍光強度との関係を示す検量線、(B)はICP発光分析法で測定した濃度とキネクサ法により測定した濃度の相関関係を示す図である。
【図8】農林水産省のホームページに開示されている食品中のカドミウムに関する情報(48Cd)に添付の玄米のカドミウム分析の手順を示すフローチャートである。
【図9】同じく玄米以外の穀類、豆類、収穫前調査で採取した野菜及び果樹のカドミウム分析の手順を示すフローチャートである。
【図10】同じく塩辛中のカドミウムを分析する手順を示すフローチャートである。
【図11】玄米(コシヒカリ)の27産地34試料についての金属含有量の測定値を示すグラフである。
【図12】塩酸抽出液と硝酸抽出液(カラム溶出後)に含まれるカドミウム濃度を示す図である
【図13】硝酸溶出によって回収される各種金属の割合を示す図である。
【図14】イムノアッセイとICP分析の測定結果の比較図である。
【図15】本発明のカドミウム分離カラム装置の斜視図である。
【図16】本発明のカドミウム分離カラム装置の断面図である。
【符号の説明】
【0100】
6.カドミウム分離カラム装置
7.容器
8.試料液流入口
9.試料液流出口
12.充填剤
【技術分野】
【0001】
本発明は、カドミウム測定方法およびその前処理に用いるカラム装置に関する。さらに詳述すると、本発明は、農産物、水産物、畜産物に含まれるカドミウムをイムノアッセイ法により検出するカドミウム測定方法および測定前にカドミウムを選択的に抽出・分離する前処理に用いて好適なカラム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全などの社会的な環境意識や健康に対する影響への関心の高まりから、産業や生活に伴う様々な場面における環境汚染物質の蓄積の動向が注視されている。環境汚染物質の中でも重金属類、特にカドミウムは過去にその毒性による重篤な問題を起こしていることもあり、食品に含まれるカドミウムの量は重要な問題である。
【0003】
そこで、一般に、農産物、水産物、畜産物については、その中に含まれるカドミウムの量がICP発光分光分析器、原子吸光光度計等の分析機器が用いられて測定されている。例えば、農林水産省による農産物、水産物、畜産物に含まれるカドミウムの分析には、図8〜図10に示すような手順で、試料を前処理してから、原子吸光光度計での測定あるいはICP発光分光分析法による定量が行われている(非特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−323508号公報
【非特許文献1】農林水産省のホームページ:食品中のカドミウムに関する情報,48Cd(http://www.maff.go.jp/cd/index.html)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ICP発光分析、原子吸光法等を用いたカドミウム分析によると、非常に高価な分析機器を必要とするばかりか、時間とコストと労力を要する機器分析であることから、測定に時間がかかる上に検査費用が高額となるため、簡便に穀物などに含まれるカドミウム量を測定することができない。このため、穀物などのカドミウム汚染を検査する場合には、検査ロットを少量にすることが現実的ではないため、規制値を超える汚染が検出されたときの被害が大きくなってしまう問題がある。また測定も現場で行うことができず、測定機器を設置した施設で行う必要がある。このため、安価でかつ現場で行える、迅速、簡便な判定法が求められている。
【0006】
ところで、本件出願人等は、先にカドミウムや水銀を免疫学的に検出・定量しうる方法およびこれに用いるカドミウムを特異的に認識するモノクローナル抗体を開発した(特許文献1)。この抗カドミウムモノクローナル抗体は、錯体を形成したカドミウムを特異的に認識するモノクローナル抗体であり、例えば、So25A1、So21D5、So26G8が挙げられる。なお、モノクローナル抗体So26G8を産生するハイブリドーマは、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成15年2月27日付けで受託番号FERM P−19240として寄託されている。また、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成16年2月26日付けで受託番号FERM P−19703として寄託されているハイブリドーマより産生するモノクローナル抗体Nx22C3も挙げられる。これらは、主にカドミウムと反応してカルシウム、マグネシウム、銅、鉄、ニッケル、鉛、亜鉛などのその他の金属とはほとんどまたは全く交差反応しないという特性を示す。
【0007】
このようなモノクローナル抗体を用い、カドミウムを定量的に測定する免疫学的方法(イムノアッセイ)においては、カドミウムはキレート剤に配位させ、この形成された錯体をモノクローナル抗体により検出・測定する。故に、この方法では、(i)試験試料にキレート剤を添加して錯体を形成させ、(ii)該錯体を特異的に認識する抗体を用いて免疫学的手法によりカドミウムを定量的に測定することができる。このモノクローナル抗体は、前述のようにカドミウムに対して親和性が高く、且つ他の金属との交差反応性が低いため、試験試料中のカドミウムをより正確に測定することができる。そこで、カドミウムに対して特異性をもつ抗体を用いたイムノアッセイ法によって農産物、水産物、畜産物に含まれるカドミウムを簡易に迅速かつ低コストで検出することを考えた。
【0008】
このイムノアッセイ法によれば、非常に簡単にカドミウムを検出することが期待できる。しかしながら、上記のモノクローナル抗体はカドミウムに高い特異性を持つものの、他の金属とも反応するので、検査試料中に、マンガン、亜鉛、マグネシウム等の他の金属が多量に含まれていると、これらに妨害されてカドミウムを検出できないという問題がある。すなわち、上記のモノクローナル抗体はカドミウムに高い特異性を持つものの、他の金属とも反応する。例えば、表1に示すように、モノクローナル抗体Nx22C3の交叉反応性は、マンガンは1.47%、亜鉛は0.974%、マグネシウムでは0.025%である。このように交叉反応性は小さくとも、これらの金属が多量に存在すると、これらの金属に妨害されて、カドミウムを検出することができない。
【0009】
【表1】
【0010】
ところが、農産物、水産物、畜産物の場合、カドミウムの規制値(例えば、玄米の場合、0.4ppm)に比べて遙かに高濃度(50〜5500倍程度)のマンガン、亜鉛、マグネシウム、鉄、銅等の金属が含まれている。例えば、日本各地のコシヒカリ(玄米:27産地34試料)について調査したところ、図11に示すように、マンガン28.5ppm、マグネシウム1400ppm、亜鉛24ppm、銅4ppm、鉄11ppmが検出された。代表的な農産物、水産物、畜産物に含まれるマグネシウム、亜鉛、銅、マンガンの量は表2に示す通りである。
【0011】
【表2】
【0012】
カドミウムの含有量の規制値が、0.4ppmであるのに比べ、これらの金属はMn、Znでは2桁近く、Mgであると3桁近く多く含まれている。したがって、上記のモノクローナル抗体はマンガン、亜鉛、マグネシウム、鉄、銅等の金属よりもカドミウムに高い特異性を持つが、玄米中に含まれる各金属含有濃度の値は、そのカドミウムに対する特異性を相対的に喪失させてしまうものである。つまり、そのままでは、これらカドミウムよりも多く含まれる金属に妨害されて、カドミウムを検出することが不可能であることを知見するに至った。
【0013】
本発明は、農産物、水産物、畜産物に含まれるカドミウムをICP発光分光分析器や原子吸光光度計等の分析機器を用いずに測定することができるカドミウム測定方法を提供することを目的とする。また、本発明は、農産物、水産物、畜産物に含まれるカドミウムがある値以下であることを迅速、簡便に判定できるカドミウム測定方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、農産物、水産物、畜産物に含まれるカドミウムを選択的に抽出・分離して、測定用試料を簡易に供することができる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる目的を達成するため、請求項1に記載のカドミウム測定方法は、測定対象物に0.002M〜2Mの塩酸溶液を加えてカドミウムを抽出し、得られた溶液をpH1.5〜2.5に調整し、該溶液にジベンジルジチオカルバン酸/トリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライド溶液を加えて振とうあるいは攪拌後静置し、分離して得られた有機相に0.5〜2Mの塩酸溶液を有機相の1/5〜等量添加して振とうあるいは攪拌し、分離して得られた水相を中和して測定用試料を得る前処理工程と、抗原抗体反応を利用してカドミウムを測定するイムノアッセイに前記測定用試料を供してカドミウム含有量を分析する測定工程を含むようにしている。
【0015】
請求項1に記載のカドミウム測定方法によれば、塩酸溶液処理により測定対象物から塩酸溶液中にカドミウムとそれ以外の金属が抽出される。そして、その溶液をpH1.5〜2.5に調整してから、ジベンジルジチオカルバン酸/トリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライド溶液を加え振とうあるいは攪拌した後に静置することによって、分離される塩酸溶液の相にカドミウム以外の金属が残り、ジベンジルジチオカルバン酸/トリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライド溶液の相(有機相)にカドミウムが移行する。さらに、分離して得られた有機相に0.5〜2Mの塩酸溶液を有機相の1/5〜等量添加して振とうあるいは攪拌することで、有機相からカドミウムが逆抽出されて分離して得られた塩酸溶液(水相)に移行する。この塩酸溶液を中和して、測定用試料としてイムノアッセイに供してカドミウム含有量を分析する。このとき、測定用試料には測定を妨害するカドミウム以外の金属例えば亜鉛、マグネシウム、マンガン、有機物などが除かれあるいは減少しているため、相対的にカドミウムの含有量が濃縮され、イムノアッセイによりカドミウムの含有量を簡易に測定することができる。
【0016】
次に、請求項2に記載のカドミウム測定方法は、測定対象物に0.002M〜2Mの塩酸溶液を加えてカドミウムを抽出し、得られた溶液をpH1.5〜2.5に調整し、該溶液をトリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライドが表面に固定化された担体に接触させた後、該担体を0.01より大きく0.5M以下の濃度の硝酸と接触させて得られた溶液を中和して測定用試料を得る前処理工程と、抗原抗体反応を利用してカドミウムを測定するイムノアッセイに前記測定用試料を供してカドミウム含有量を分析する測定工程を含むようにしている。
【0017】
請求項2に記載のカドミウム測定方法によれば、塩酸溶液処理により測定対象物からカドミウムとそれ以外の金属が抽出された塩酸溶液をpH1.5〜2.5に調整してからトリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライドが表面に固定化された担体に接触させることで、当該塩酸溶液に溶け込んでいるカドミウムが担体表面に選択的に吸着される。そして、該担体を0.01より大きく0.5M以下の濃度の硝酸と接触させることで、該担体に吸着していたカドミウムが硝酸に溶出し、カドミウムが選択的に抽出された溶液を得ることが可能となる。この硝酸溶液を中和して、測定用試料としてイムノアッセイに供してカドミウム含有量を分析する。このとき、測定用試料には測定を妨害するカドミウム以外の金属例えば亜鉛、マグネシウム、マンガン、有機物などが除かれあるいは減少しているため、相対的にカドミウムの含有量が濃縮され、イムノアッセイによりカドミウムの含有量を簡易に測定することができる。
【0018】
尚、塩酸溶液をトリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライドが表面に固定化された担体に接触させる際には、請求項3に記載したようにカラム法を採用することが好ましい。カラムをトリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライドが表面に固定化された担体として、塩酸溶液処理により測定対象物からカドミウムとそれ以外の金属が抽出された塩酸溶液を当該カラムに流すことで、非常に簡易に且つ効率よくカドミウムを選択的にカラムに吸着させることができる。
【0019】
請求項5に記載のカドミウム吸着カラム装置は、試料液流入口と試料液流出口を有する容器と、試料液流入口と試料液流出口の間に収容される充填剤とを備えており、充填剤は表面にトリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライドが固定化された担体であるというものである。
【0020】
このように構成することで、カドミウムが選択的に分離された測定用試料を非常に簡単な操作により得ることができるカドミウム分離カラム装置を提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のカドミウム測定方法によれば、マンガン、亜鉛、マグネシウム、銅などの金属をカドミウムよりも大量に含む測定対象物、例えば農産物、水産物、畜産物などについて、抗カドミウム抗体を利用したイムノクロマトグラフィー装置により、カドミウム汚染の有無を簡易に短時間で検出でき、カドミウム含有量がある値(例えば規制値)を超えているか否かの判定を客観的に非常に簡単にすることができる。しかも、イムノクロマトグラフィー装置は、抗カドミウム抗体と反応する抗原あるいは抗カドミウム抗体を固定した簡単な構造であるため、機器分析に比べて検査コストが遙かに安価であり、穀物などのカドミウム汚染を検査する場合には、検査ロットを少量にすることができて、規制値を超える汚染が検出されたときの被害も少なくできる。さらに、機器分析と違って、現場での検査・測定を可能とする。
【0022】
また、請求項2に記載したように、前処理工程時に、ジベンジルジチオカルバン酸/トリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライド溶液の代わりにトリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライドが表面に固定化された担体を用いることで、ジベンジルジチオカルバン酸を用いる必要が無くなる。また、カドミウムの抽出操作時に人体にとって有害であり、一般廃棄物として処理することができない有機溶媒を用いる必要が無くなる。さらには、溶媒抽出を行う場合のように水相回収や有機相回収といった煩雑な操作を行うことなく、簡易にカドミウムを選択的に分離して測定用試料を提供することが可能となる。このため、この種の分析装置に慣れていない未熟練者或いは未経験者であっても、容易にカドミウムの含有量測定のための試料を得ることができ、イムノアッセイによる簡易なカドミウム測定をより確実なものとできる。
【0023】
次に、請求項3に記載したように、測定対象物からカドミウムとそれ以外の金属が抽出された塩酸溶液をトリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライドが表面に固定化された担体へカラム法により接触させることで、非常に簡易に且つ効率よくカドミウムを選択的にカラムに吸着させることができる。
【0024】
また、請求項5に記載の発明にかかるカドミウム分離カラム装置によれば、取り扱いが簡便にして、尚かつ人体にとって有害であり、一般廃棄物として処理することができない有機溶媒を用いることなく、カドミウムが選択的に分離された測定用試料を非常に簡単な操作により得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の構成を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。
本発明にかかるカドミウム測定方法は、測定対象物からカドミウム以外のマンガン、亜鉛、マグネシウム、銅などの金属を減少あるいは除去してカドミウムを抽出する前処理工程と、抗原抗体反応を利用してカドミウムを測定するイムノアッセイに前記測定用試料を供してカドミウム含有量を分析する測定工程から成る。
【0026】
ここで、本発明の第一の実施形態として、塩酸処理とジベンジルジチオカルバン酸/トリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライド溶液処理により測定対象物からカドミウムを抽出する前処理工程について説明する。
【0027】
先ず、塩酸処理により、対象物からカドミウムを抽出する。塩酸溶液の濃度は0.002〜2M、好ましくは0.02〜1M、より好ましくは0.02〜0.1M程度である。塩酸溶液の濃度が0.002M未満であると、カドミウムが充分抽出されず、一方、2Mを超えると、後の工程において、pHを1.5〜2.5に調整する際、中和するために大量の中和剤が必要となり、その結果カドミウムが希釈され好ましくない。このため、pHが1.5〜2.5となるような塩酸溶液濃度にしておけば、後の工程においてpHを調整する必要がなくなることから好ましい。このような濃度の塩酸溶液と対象物を振とうあるいは攪拌してカドミウムを効率的に抽出する。振とうあるいは攪拌の際、対象物の量は5〜20容量%が好ましく、さらに好ましくは10〜20容量%である。あまり塩酸溶液の量が多いとカドミウム濃度が薄くなりすぎ、測定のため濃縮が必要となり、一方、塩酸溶液の量が少ないと夾雑物が出てきてしまうので好ましくない。
【0028】
また、カドミウム抽出のための振とう前あるいは攪拌前には、試料は微細片にすることが好ましい。微細片にすることにより、振とう時間を短縮することができる。例えば、玄米のような穀物を人手によって粉砕する例を挙げれば、玄米は人手によって粉砕するにはとても硬いので、例えば濃度0.02〜1M程度の塩酸溶液に米粒を浸して一晩放置して予め柔らかくしておき、その後、穀物を粉砕して、10%〜20%容量になるように0.02〜1M塩酸溶液を加え2〜8時間、通常4時間程度振とうする。機械粉砕の場合には、玄米を塩酸溶液に浸して予め柔らかくする必要がなく、その分の手間を省くことができる。この機械粉砕の場合には、玄米は微細に粉砕されるため、塩酸溶液の処理時間を人手による粉砕の場合の少なくとも半分程度、通常1時間程度に短縮できる。
【0029】
上記の塩酸溶液によって、カドミウムを溶液中に抽出させるが、この時、亜鉛、マンガン、マグネシウムなどの他の金属と一緒に抽出される。従って、上記で得られた塩酸処理溶液中には、亜鉛、マンガン、マグネシウムなどが含まれており、カドミウムの正確な測定を妨げることを知見するに至った。そこで、カドミウムの選択的抽出を試みた。本発明の方法においては、ろ過して得られた上記塩酸処理溶液のpHを1.5〜2.5に調整後、ジベンジルジチオカルバン酸(以下、DDTCと略)/トリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライド(以下、カプリコートと略)溶液(以下、DDTC−カプリコート溶液と略)によって、対象物を塩酸で処理した溶液からカドミウムを選択的に分離できる。塩酸処理溶液のpHは、1.5未満では、カドミウムが充分DDTC−カプリコート溶液に抽出されず、一方、2.5を超えると亜鉛とマンガンが許容範囲を超えてカドミウムと共に抽出されることとなる。上記の範囲のpHに調整して抽出することにより初めて、亜鉛、マンガン、マグネシウムなどは抽出せず、カドミウムだけを選択的にDDTC−カプリコート溶液に抽出することができる。尚、DDTC−カプリコート溶液とは、1%DDTC水溶液と0.05%カプリコート・クロロホルム溶液を等容量合わせ60分間振とうし、しばらく放置後に分離して得られた有機相である。
【0030】
カドミウムが有機溶媒に溶けたままでは、イムノアッセイに利用できないため、DDTC−カプリコート溶液中のカドミウムを再び水相に戻す必要がある。そこで、塩酸を用いてDDTC−カプリコート溶液からカドミウムを逆抽出する。この時、塩酸濃度はできるだけ薄い方が好ましく、0.5M〜2Mが有効である。この濃度が0.5M未満ではカドミウムが十分に水相に移らず、一方、2Mを超えると後の工程で行われる中和において中和剤が大量に必要となり、カドミウムが希釈されてしまう。
【0031】
また、DDTC−カプリコート溶液に対して逆抽出に用いる塩酸溶液は1/5〜等容量である。カドミウムを濃縮する必要がある場合は、この塩酸の量をDDTC−カプリコート溶液量に対して5分の1まで減らしても回収率に影響がない。好ましくは、7分の5〜等量である。塩酸溶液の量が少なければ、カドミウムの濃度が高くなるので、イムノアッセイの感度が低くても検知することができるという利点がある。
【0032】
この操作により、カドミウムはDDTC−カプリコート複合体から解離し、塩酸(水)相に移行する。このようにして抽出して得られた塩酸溶液を中和してイムノアッセイの試料とする。中和は、通常の方法で行えばよい。
【0033】
次に、本発明の第二の実施形態として、塩酸処理とカプリコートが固定化された担体により測定対象物からカドミウムを抽出する前処理工程について説明する。
【0034】
先ず、塩酸処理により、対象物からカドミウムを抽出する。これについては上記の第一の実施形態で説明したとおりの方法で行えばよく、塩酸溶液の濃度に関しても、0.002〜2M、好ましくは0.02〜1M、より好ましくは0.02〜0.1M程度である。塩酸溶液の濃度が0.002M未満であると、カドミウムが充分抽出されず、一方、2Mを超えると、後の工程において、pHを1.5〜2.5に調整する際、中和するために大量の中和剤が必要となり、その結果カドミウムが希釈され好ましくない。
【0035】
上記の塩酸処理によって、カドミウムを溶液中に抽出させるが、上述したとおり、この時、亜鉛、マンガン、マグネシウムなどの他の金属も一緒に抽出される。従って、上記で得られた塩酸処理溶液中には、亜鉛、マンガン、マグネシウムなども含まれており、カドミウムの正確な測定を妨げる。そこで、カプリコート固定化担体を充填したカドミウム分離カラム装置に上記塩酸処理溶液をろ過してpHを1.5〜2.5に調整した後、流すことにより、塩酸溶液中に含まれているカドミウムが選択的にカプリコート固定化担体に吸着する。ここで、塩酸処理溶液のpHが1.5未満では、カドミウムが充分カプリコート固定化担体に吸着されず、一方、2.5を超えると亜鉛とマンガンが許容範囲を超えてカドミウムと共に吸着されることとなる。尚、カプリコート固定化担体はカラムに充填しなくとも、例えば、塩酸処理溶液中にカプリコート固定化担体を浸漬してカドミウムを吸着させるようにして用いることもできる。
【0036】
次に、カドミウムやその他の金属を全くもしくはほとんど含有しない0.01〜1Mの塩酸溶液を流して、カドミウム分離カラム容器内部とカプリコート固定化担体を洗浄する。これにより、カラム容器に付着して、カプリコート固定化担体まで到達しなかったカドミウムがカプリコート固定化担体に吸着されるだけでなく、担体表面や担体間の隙間に残っているカドミウム以外の金属を洗い流すことが可能となり、カドミウム以外の金属をより減少させて、測定をより正確に行うことが可能となる。尚、塩酸濃度が0.01M未満だとpHが高くなって、カドミウム以外の金属をカラム吸着させてしまう虞がある。また、0.1Mを超えると容器に付着したカドミウムをカラムに吸着させる程度にはpHが高くならないので好ましくない。従って、カドミウム分離カラム容器内部とカプリコート固定化担体を洗浄する際の塩酸溶液の濃度は0.01〜1Mとするのが有効である。
【0037】
カプリコート固定化担体に吸着したカドミウムは、0.01より大きく0.5M以下の濃度の硝酸溶液をカラムに流すことにより溶出させる。そして、カドミウム溶出硝酸のpHを6.5〜8.5にしてイムノアッセイを行う。尚、硝酸濃度については、0.01M以下の場合にはカドミウムが十分に溶出されず、0.5Mを超えるとpHを6.5〜8.5にするために大量の中和剤が必要となり、その結果カドミウムが希釈され好ましくない。
【0038】
上記操作により、カドミウムはカプリコート固定化担体から解離し、硝酸溶液に溶出する。このようにして抽出して得られた硝酸溶液を中和してイムノアッセイの試料とする。中和は、通常の方法で行えばよい
【0039】
尚、カプリコート固定化担体に吸着したカドミウムは、0.1M程度の濃度に調整したEDTA溶液を用いて溶出させることもできる。この場合、硝酸溶液を用いる場合と比べて溶出効率は若干落ちるものの、イムノアッセイを行う際にEDTAを加える必要が無くなるという利点がある。また、硝酸溶液とEDTA溶液を混合して用いることで、カドミウム溶出効率を低下させることなく、また、イムノアッセイ時にEDTAを加える必要が無くなる。
【0040】
ここで、カドミウム分離カラムに溶液を流す際の最適な流速について説明する。流速を速くすればカドミウムの分離処理時間を短縮することができるが、カドミウムの回収率が低下してしまう。従って、カドミウムの回収率が低下しない程度の流速とする必要がある。本実施形態では、カラム装置を直径20mmとして、0.3gのカラムを充填したカドミウム分離カラムに3ml/min以下の流速で溶液を流すようにしているが、この例には限られず、カラム径、担体の量、担体の性質(大きさや孔径など)等により最適な流速が適宜決定される。
【0041】
次に、本実施形態で用いられるカプリコート固定化担体について説明する。カプリコート固定化担体はカドミウムを選択的に吸着する機能を有する。例えば、カドミウム以外にも金属を含んでいるような溶液にカプリコート固定化担体を接触させるとカドミウムを選択的に吸着する、即ち、カドミウムを分離する機能を有する。尚、カプリコート(トリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライド)はN+に結合する3つのn−オクチル基と1つのメチル基を有しているが、カドミウムの選択的な吸着性能を有するのであれば、これら官能基を別の官能基で置換したようなカプリコート類似化合物を用いても良い。例えば、メチル基をエチル基やプロピル基等で置換したものを用いてもよい。
【0042】
カプリコートを固定化するための担体としては、例えば表面積が大きい多孔質粒子等を採用することができる。具体的な材料を例示すると、ODS系シリカゲル、シリカゲル、アルミナ、硫酸マグネシウム、ポーラスポリマー等が挙げられるが、この中でも理論段数を高めるという観点から、特にODS系シリカゲル(オクタデシルシリル基を有するシリカゲル)を用いることが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0043】
カプリコートの担体への固定化は例えば以下のようにして行う。まず、担体を例えば塩酸溶液(6M)にて洗浄し、蒸留水で担体に付着している塩酸溶液を洗い流して乾燥させた後、カプリコートを溶解可能な有機溶媒(例えば、ヘキサン等)に溶解させ、カプリコートを0.5重量%以上含有するカプリコート溶液を調整する。次に、当該溶液と担体を接触させ1時間程度振とう或いは撹拌して、カプリコートを担体に吸着させた後、濾過によって担体とカプリコート溶液を分離し、担体を乾燥させる。以上の手順によりカプリコートが担体に固定化する。
【0044】
このようにして得られたカプリコート固定化担体を、試料液流入口と試料液流出口を有するカラム容器内に充填する。
【0045】
尚、カプリコート固定化担体の平均粒径は、大きすぎると理論段数が低下するので所望の性能が発揮されず、小さすぎると圧力損失が大きくなって通液速度が低下してしまうことから、5〜500μmのものを用いることが好ましく、150〜425μmのものを用いることがより好ましい。
【0046】
ここで、図15、図16に示すカドミウム分離カラム装置6について説明する。カドミウム分離カラム装置6は、試料液流入口8と試料液流出口9を有する容器7と、試料液流入口8と試料液流出口9の間に収容される充填剤12とを備えており、充填剤12は表面にカプリコートが固定化された担体である。
【0047】
カラム容器7には、試料液流入口8と試料液流出口9を設けるようにする。容器7の素材としては例えば、プラスチック等を採用できるが、これらに限られるものではない。また、容器7の形状としては、図に示した円筒状のもの以外であってもよい。尚、本実施形態においては、市販の容量5ml、内径13mmのプラスチック製透明注射器型容器とした。また、試料液を充填剤12に通液する際には、試料液を重力落下(自然落下)させてもよいし、試料液流入口8側からピストン等により加圧して試料液を通液させるようにしても良い。
【0048】
尚、試料液流入口8側に充填剤12を押さえるようにしてフィルタ10を設けることが好ましい。フィルタ10を設けることで試料液中に存在する懸濁物等により充填剤12が目詰まりを起こすのを防止でき、また、充填剤12が液体に拡散して良好な充填状態を保てなくなるのを防止できる。フィルタ10としては、その孔径が充填剤12の粒径よりも小さく、さらに、試料液中に存在する懸濁物等の浸入を防げる程度に粒径が小さいことが好ましい。また、フィルタ10を親水性にすることで液体がフィルタ10全体に浸透して充填剤12に均一に広がるようになることから、フィルタ10は親水性を有することが好ましい。さらに、使用する液体に対して耐性を有することも必要であり、例えば分析用の定量濾紙(アドバンテック社製高純度濾紙、No.5B等)を採用することができるが、これに限られるものではない。
【0049】
また、カラム容器7内部にフィルタ押さえ13を設けることが好ましい。試料液流入口8側のフィルタ10が固定されていない場合には、試料液を入れた際にフィルタ10が浮いて充填剤12が液体中に拡散して良好な充填状態を保てなくなる虞があるが、フィルタ押さえ13を設けることで、フィルタ10が浮いて充填剤12が分散するのを防ぐことができるだけでなく、充填剤12の充填状態を安定に保持できる。
【0050】
また、試料液流出口9側にもフィルタ11を設けて、充填剤12が試料液流出口9から流出されるのを防ぐようにすることが好ましい。フィルタ11としては、その孔径が充填剤12の粒径よりも小さく、使用時の液体の通液による圧力損失が極力少ない孔径のものを用いることが好ましい。こうすることで、充填剤12がフィルタ11を通過して流出してしまうのを防ぐことができる。また、充填剤12を通過した液体を効率よく試料液流出口9から排出するため、フィルタ11は親水性を有することが好ましい。さらに、使用する液体に対して耐性を有することも必要であり、この場合も、フィルタ10と同様に、例えば分析用の定量濾紙(アドバンテック社製高純度濾紙、No.5B等)を採用することができるが、これに限られるものではない。
【0051】
次に、充填剤12を容器内に充填する場合には、例えば以下のようにする。まず、容器7にフィルタ11を入れる。次に充填剤12を適量(例えば、本実施形態では0.3g)を入れて、その上にフィルタ10を置く。そして、フィルタ10全体をピストン等で軽く圧縮する。尚、例えば、充填剤12をカラム容器7のサイズに合うような固形タイプのものとした場合には上記のようにして充填する必要が無くなる。さらに、このような固形タイプの充填剤とすれば、充填剤が試料液流出口9から防ぐことを防止できるので、フィルタ11を用いる必要はないし、試料液に懸濁物が存在しない場合には、フィルタ10を用いる必要はない。
【0052】
尚、カプリコートはカドミウムの分離処理を行う程度の時間であれば問題にはならないものの、光劣化を起こす虞がある化合物である。したがって、カドミウム分離カラム装置は暗所に保存する、もしくは容器7に遮光性を持たせるようにすることが好ましい。
【0053】
上記第一の実施形態または第二の実施形態により、対象物からカドミウムを抽出して得られた試料を用いれば、抗カドミウム抗体を利用したイムノクロマトグラフィーなどのイムノアッセイ法(免疫化学的測定法)を使用して、簡単にカドミウム含有量を知ることができる。
【0054】
本発明の試料調整法は、カドミウムの測定を妨害する程多量の亜鉛、マグネシウム、マンガンなどを含むものに適用することができ、米、麦などの穀物はじめ、大豆などの豆類、じゃがいもなどの芋類、肉類、アカイカ、ホタルイカ、帆立貝、帆立貝柱、牡蠣などの魚介類、たばこなどに用いることができる。
【0055】
このような試料を供する抗カドミウム抗体を利用したイムノアッセイ法について以下に説明する。
このイムノアッセイ法に使用される抗カドミウムモノクローナル抗体としては、錯体を形成したカドミウムを特異的に認識するモノクローナル抗体、例えばSo25A1、So21D5、So26G8が挙げられる。なお、モノクローナル抗体So26G8を産生するハイブリドーマは、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成15年2月27日付けで受託番号FERM P−19240として寄託されている。また、モノクローナル抗体Nx22C3も挙げられる。モノクローナル抗体Nx22C3を産生するハイブリドーマは、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成16年2月26日付けで受託番号FERM P−19703として寄託されている。これらは、主にカドミウムと反応してカルシウム、マグネシウム、銅、鉄、ニッケル、鉛、亜鉛などのその他の金属とはほとんどまたは全く交差反応しないという特性を示す。尚、イムノアッセイ法において使用するカドミウムに対し特異性をもつ抗体としては、上述のモノクローナル抗体に特に限られず、その他の抗体の使用も可能である。
【0056】
上記のようなモノクローナル抗体を用い、カドミウムを測定する免疫学的方法において、カドミウムはキレート剤に配位させ、この形成された錯体をモノクローナル抗体により検出・測定する。故に、この方法では、(i)試験試料にキレート剤を添加して錯体を形成させ、(ii)該錯体を特異的に認識する抗体を用いて免疫学的手法によりカドミウムを定量的に測定する。本発明の調整法による試料を供するイムノアッセイに用いるモノクローナル抗体は、前述のようにカドミウムに対して親和性が高く、且つ他の金属との交差反応性が低いため、試験試料中のカドミウムをより正確に測定することができる。
【0057】
本発明で得られる試料が適用されるイムノアッセイ法では、カドミウムイオン単独では抗原性を持たないため、抗カドミウム抗体を作成するためカドミウムをキレート剤に配位させ、形成された金属錯体を抗原として用いる。キレート剤としては、カドミウムを配位しうるものであれば任意のキレート剤を用いることができるが、例えばエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、テトラエチレントリアミン(TET)、エチレンジアミン(EDA)、ジエチレントリアミン(DETA)、クエン酸、シュウ酸、クラウンエーテル、ニトリロテトラ酢酸、エデト酸二ナトリウム、エデト酸ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、ペニシラミン、ペンテテートカルシウム三ナトリウム、ペンテト酸、スクシメルおよびエデト酸トリエンチンを挙げることができるが、好ましくはEDTAである。
【0058】
また、カドミウム錯体、例えばカドミウムとEDTAの錯体(以後、Cd−EDTAと略記する)では免疫応答を誘導するには分子として小さすぎるため、キャリアとなる高分子量物質に結合させ、これを抗原または免疫源として用いる。キャリアとして用いることができる高分子量物質の例としては多糖類、タンパク質などが挙げられるが、タンパク質が好ましい。アルブミン、オバルブミン、ヘモシアニン、グロブリン、ゼラチン、コラーゲンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
これら金属錯体とタンパク質の複合体を作製するには、タンパク質と結合しうる官能基を有するキレート剤または該官能基を導入したキレート剤を用いるか、あるいはリンカーを介してタンパク質とキレート剤を結合させることができる。そのようなキレート剤は市販されており、例えばイソチオシアノベンジル−EDTA(同仁化学)が挙げられる。複合体の形成は常法により行うことができる。
【0060】
マウス免疫、ハイブリドーマの作製およびその培養などの一連のモノクローナル抗体の作製は、常法に従って、例えばモノクローナル抗体作製マニュアル、多田ら著、学際企画発行、1995年(ISBN 4-906514-19-7)を参照して適宜行うことができ、免疫するマウスの系統、脾臓細胞と融合させるミエローマのなども特に限定されない。
【0061】
用いる免疫学的手法としては、上記のモノクローナル抗体を用いればいずれでも良いが、例えば免疫クロマトグラフィー、ラジオイムノアッセイ(RIA)、蛍光イムノアッセイ(FIA)、免疫発光測定法、エンザイムイムノアッセイ(EIAまたはELISA)、CLEIA(化学発光酵素免疫測定法)、免疫比濁法(TIA)、ラテックス免疫比濁法(LTIA)、蛍光センサー法、表面プラズモン分析などの方法が挙げられる。
【0062】
イムノアッセイ法に用いられるカドミウムを定量的に測定するためのキットは、上記の抗カドミウムモノクローナル抗体のみから構成されていてもよいが、他の試薬例えばキレート剤、キレート剤−タンパク質複合体、ポジティブコントロール試料、ネガティブコントロール試料などを包含してもよい。また、モノクローナル抗体、キレート剤−タンパク質複合体のいずれか、または両方が標識されていてもよい。
【0063】
<蛍光イムノアッセイ(FIA)>
モノクローナル抗体を用いた免疫学的測定法の一例としてフロー式蛍光センサーを用いた蛍光イムノアッセイについて説明する。図1にその測定原理を図示する。
装置の中には、抗原が固定化された例えばビーズ状の不溶性担体が設置されている。固定化するための不溶性担体としては、例えばポリメチルメタクリル酸、ガラス等からなる固定化用ビーズ、アルギン酸カルシウム粒子等の微細粒子などを用いることができるが、特にこれらに限定されるものではなく、種々の形状、材質のものを使用することができる。このうち、ビーズないし微粒子形状、特に平均粒径50〜100μm程度のビーズないし微粒子形状のものであることが好まれる。
【0064】
抗原、即ちカドミウムEDTA錯体はタンパク質などのスペーサーを介して間接的に結合させることも可能である。ここでは、オバルブミンで固定されている。固定はカドミウムEDTA錯体タンパク質複合体を直接自然吸着法、イオン結合法、共有結合法などを用いて担体に結合させることができ、また直接固定させる方法のみならず、適当な化学物質、例えばグルタルアルデヒド架橋などのスペーサーを介して固定させることも可能である。
【0065】
先ず(1)ある濃度の抗カドミウムモノクローナル抗体(一次抗体)を流し、上記固定化抗原(カドミウムEDTA錯体)に結合させる。次に(2)蛍光ラベルされた、この一次抗体に対して特異的に結合する抗体、即ち二次抗体を流し、一次抗体に結合させる。その後、(3)洗浄し、洗浄後の蛍光強度を測定する。この時の蛍光強度を検出値F0とする。次に、(1)試験すべき試料を上記と同濃度の抗カドミウムモノクローナル抗体と接触させ、その後この接触混合物を流し、上記固定化抗原(カドミウムEDTA錯体)に結合させる。そして他は同様にして、二次抗体によりに結合した抗ホルモン抗体の蛍光強度を測定する(この値を検出値F1とする)。
【0066】
ここで、上記試料中にカドミウム(抗原)が存在するならば、上記抗カドミウムモノクローナル抗体(一次抗体)の一部は上記試料との最初の接触において、カドミウムと結合し、このカドミウムと結合した抗カドミウムモノクローナル抗体(一次抗体)は、続く固定化抗原(カドミウムEDTA錯体)との接触において、もはや固定化抗原と結合しようとはしない。すると、二次抗体も結合できず、反応混合物中に遊離状態で残ることとなるため、その結果が検出値F1における蛍光強度の低下となって示される。従って、検出値F1が検出値F0に比べ小さい場合(F1<F0)、上記試験すべき試料中にカドミウムが存在すると判断できる。そして、F1のF0に比べた低下の割合が、被試試料中に含まれるカドミウムの量にある程度比例することから、既知の濃度のカドミウムを用いて予め検量線を作成することにより、F1の低下の割合に応じて被試試料中に含まれるカドミウムの定量を行うことができる。
【0067】
<イムノクロマトグラフィー>
抗体を用いた免疫学的測定法の一例としてイムノクロマトグラフィーについて説明する。この方法は、試料を試験紙上に滴下するだけでカドミウムの有無を数分から数十分の間に判定できるため簡便性に優れ、かつ特別な機械装置を必要としないため非常に安価である。イムノクロマトグラフィーは、キレート剤−タンパク質複合体を利用することにより所望の金属イオンを効果的に検出するものである。尚、免疫クロマトグラフィー装置には、モノクローナル抗体あるいはキレート剤−タンパク質複合体のいずれか一方が固定され、他方が流動可能に供給されれば良い。図2にその実施形態の一例を示す。プラスチックバッキングシート1の上に、メンブレン2と吸収パッド3を一部で重なるように配置し、メンブレン2の先端の試料滴下位置4に試料を滴下すると試料が吸収パッド3に向かってメンブレン2上を流動し、抗金属EDTAモノクローナル抗体あるいはEDTA−タンパク質複合体が固定化された領域5を通過する際に、標識された金属EDTA錯体が抗体に捕捉されあるいは標識された抗金属EDTAモノクローナル抗体がEDTA−タンパク質複合体のEDTAと錯体を形成してその錯体に抗金属EDTAが捕捉されて、固定化領域Bが目視可能となることで検出対象物の有無を簡易に検出可能としている。なお、EDTAなどのキレート剤を直接標識することは困難であるため、キレート剤にタンパク質を付加する前あるいは後に、タンパク質に色素粒子を付加することで間接的にキレート剤を標識するのが好ましい。あるいは、モノクローナル抗体自体を標識することもできる。これらタンパク質の標識は通常行われている手法によって行うことができる。
【0068】
(1)試験法1
モノクローナル抗体を試験紙の一部分に試料の流れを横切るように帯状に固定化する。次いで、試験試料中にキレート剤−タンパク質−色素粒子(キレート剤−標識タンパク質)複合体を添加して、カドミウムイオンと結合させたのち試験紙に滴下させる。目的の金属イオンが存在する場合には、金属−キレート剤錯体が形成され、金属錯体と標識タンパク質複合体が試験紙上に帯状に固定化したモノクローナル抗体によって補足され、その結果として色素粒子が帯状に密集して試料中の金属イオンが可視化する。試料中に金属イオンが存在しない場合は、キレート剤−タンパク質−色素粒子複合体は試験紙上に固定化されたモノクローナル抗体に補足されないため、色素粒子により可視化されない。
【0069】
(2)試験法2
キレート剤−タンパク質複合体を利用して金属イオンを検出するイムノクロマトグラフィーとして次の方法がある。まず、試験法1における抗体の代わりにキレート剤−タンパク質を試験紙上に帯状に固定化する(図3(B)参照)。色素粒子はモノクローナル抗体に付加する。この標識抗体と試験試料を混合してからともに試験紙に滴下させると(図3(A)、(B)参照)、金属イオンが試験紙上のキレート剤−タンパク質複合体に捕捉され金属−キレート剤錯体を形成し、結果として標識されたモノクローナル抗体が金属−キレート剤錯体を介して試験紙上に補足され、帯状に密集した色素粒子により試料中の金属イオンが可視化される(図3(C)、(D)参照)。
【0070】
これら2つの試験法の利点は、タンパク質を介することでキレート剤を帯状に試験紙に固定することが容易になること、およびタンパク質1分子当たりに複数のキレート剤を付加することができ、単純に試験紙上にキレート剤を固定した場合に比べて表面積を大きく取ることが可能になり、結果として検出感度を上げることができることである。また、カドミウム検出ラインより吸収パッド側に、モノクロール抗体なら全て結合する抗体を塗布したコントロールラインを設けておけば、カドミウムが検知されなかった時に、このラインがモノクロール抗体を検知することにより、モノクロール抗体がカドミウム検出ラインを通過したことがわかり、検査が正常に行われたことを証明することができる。
【実施例】
【0071】
以下実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0072】
[実施例1]
塩酸処理による対象物からのカドミウムの回収率を調査するため、対象物を玄米として、以下の手順により回収率を調査した。予めカドミウム濃度の分かっているカドミウム含量の異なる8種の玄米それぞれ2gに対して、濃度0.02Mの塩酸溶液を米粒がすべて浸かる程度加え、一晩放置した。この玄米をガラス棒にて粉砕後、10%容量(全量20ml)になるように0.02M塩酸溶液を加え4時間振とうした。これら8種の玄米から得られた塩酸溶液中のカドミウム濃度を、ICP発光分光分析装置によって分析した。結果を図4に示す。この結果から、塩酸溶液中のカドミウム濃度(塩酸処理後測定濃度)が予め分かっているカドミウム濃度(添付濃度)とほぼ等しいことが確認された。また、公定法に準じた塩酸−硝酸法によって得られた抽出物のカドミウム濃度についてもICP発光分光分析装置によって分析し、回収率=(本法抽出物のカドミウム濃度/公定法抽出物のカドミウム濃度)として決定した結果、平均で玄米に含まれるカドミウムの95%を溶液中に回収することができた。以上の結果から、塩酸処理により対象物からカドミウムを十分に回収可能であることが確認された。
【0073】
また、上記のようにして得られた塩酸溶液中のMg、Mn、Znの濃度についてICP発光分光分析装置により調べた結果を図5に示す。上記で得られた塩酸処理溶液中には、マグネシウム、亜鉛、マンガンなどがカドミウムの正確な測定を妨げる程に含まれていることが明らかとなった。
【0074】
次に、カドミウムの正確な測定を妨げるマグネシウム、亜鉛、マンガン等を塩酸溶液中から除去してカドミウムを選択的に抽出するためのDDTC(ジベンジルジチオカルバン酸)−カプリコート(トリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライド:同仁化学)溶液を以下のようにしての調製した。まず、1%DDTC水溶液と0.05%カプリコート・クロロホルム溶液を等量合わせ60分間振とうした。しばらく放置すると水相と有機相に分離するので、その有機相をDDTC−カプリコート溶液とした。
【0075】
次に、DDTC−カプリコート処理によるカドミウム回収率について調査した。試料としてカドミウム汚染米を想定したカドミウム、亜鉛、マンガン、銅、鉄(それぞれ1ppm)、マグネシウム(50ppm)を含む水溶液を用意し、この水溶液のpHを1.0、2.0、3.0、4.0に調整し、それぞれの溶液7mlに上記のDDTC−カプリコート溶液を等量の7ml加え振とう後静置した。しばらく静置すると水相と有機相に分離するので、有機相のみを分離し、これに2Mの塩酸溶液をそれぞれ7ml加え、カドミウムを有機相から水相に抽出(逆抽出)した。
【0076】
上記により抽出した水相(DDTC−カプリコート処理後の塩酸抽出溶液)と、DDTC−カプリコート処理前の塩酸溶液のカドミウム、マンガン、マグネシウム、鉄、亜鉛および銅濃度をICP発光分光分析装置によってそれぞれ分析し、その測定値をもとに回収率=(DDTC−カプリコート処理後の溶液のカドミウム濃度/DDTC−カプリコート処理前の溶液のカドミウム濃度)として決定した。結果を図6(A)に示す。
【0077】
図6(A)に示された結果から、DDTC−カプリコート処理前の塩酸処理液のpHが1.0並びに2.0の場合には、他の金属に比べてカドミウムが選択的に抽出されることがわかった。特に、pH2.0の場合には、カドミウムがより選択的に抽出された。他方、pH3.0にした場合には、カドミウムと変わらない程度に亜鉛も抽出され、カドミウムを選択的に抽出できないことがわかった。さらに、pH4.0の場合には、鉄とマンガンも抽出され、カドミウムは全く選択的に抽出できないことが判明した。従って、DDTC−カプリコート処理前の塩酸処理液のpHは3.0より小さくするのが好ましく、2前後とすることがより好ましいということがわかった。
【0078】
次に、ICP発光分光分析によってカドミウムを約1ppm含むことが予め分かっている玄米を上記のように2Mの塩酸溶液で処理した抽出液をpH2.0に調製し、その7mlに対して、7mlのDDTC−カプリコート溶液による抽出と7mlの2Mの塩酸による逆抽出を行った場合と、2mlのDDTC−カプリコート溶液による抽出と2mlの2Mの塩酸による逆抽出を行った場合の回収率を比較した。結果を図6(B)に示す。この結果から、DDTC−カプリコート溶液を7mlから2mlに減らしても充分にカドミウムの選択的抽出ができることが確認された。
【0079】
以上より、対象物を塩酸処理した溶液をpH2前後に調整後、DDTC−カプリコート溶液処理することで、対象物からカドミウムを選択的に分離できることが分かった。
【0080】
[実施例2]
カドミウムを選択的に分離するためのカラムを以下の手順により作製した。担体として10gのオクタデシルシロキサン系シリカゲル樹脂(ワコーゲルC−100、和光純薬工業)を採用し、塩酸(50ml、6M)で洗浄後、さらに蒸留水で洗浄し乾燥させた。次に、カプリコート(トリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライド:同仁化学)を3重量%含むように有機溶媒(ヘキサン)を調製した。この3重量%カプリコート含有ヘキサン50mlと上記のオクタデシルシロキサン系シリカゲル樹脂10gを遮光性の三角フラスコに入れて、1時間振とうした。十分にカプリコートを樹脂に吸着させた後、ヘキサンで三角フラスコを洗いこみながら樹脂を濾過装置に移し、濾過によって樹脂とヘキサンを分離し、樹脂を80℃に設定したオーブンの中で乾燥させ、カプリコートを樹脂表面に固定した。カプリコートを固定化した樹脂0.3gをクロマトグラフィー用の遮光性のガラス管(直径20mm x 高さ300mm)に充填し、カドミウム分離カラムとした。
【0081】
次に、試料溶液にDDTCを混合し、カドミウム分離カラムを用いて塩酸溶液もしくは硝酸溶液によりカドミウムを選択的抽出できるか検討した。Cd、Mn、Zn、Mg、Fe、Cu、Pbを含む0.1M塩酸溶液(それぞれの金属元素の含量は既知)5mlをpH1.8に調整した後、1.3mMのDDTCを5ml加え、その溶液を上記カプリコート固定化樹脂を用いたカドミウム分離カラムに2〜3ml/minで流した。次に、0.01M塩酸溶液5mlをカドミウム分離カラムに2〜3ml/minで流してカラムを洗浄した後、0.5M塩酸溶液5mlを2〜3ml/minでカドミウム分離カラムに流してカドミウムを溶出させた。また、0.1M塩酸溶液5mlをカドミウム分離カラムに2〜3ml/minで流してカラムを洗浄して、0.5M硝酸溶液5mlを2〜3ml/minでカラムに流してカドミウムを溶出させた。そして、上記各段階で用いた試料溶液、カラム洗浄用塩酸溶液、カドミウム溶出用溶液をカラムを通過させて得られた液中のカドミウムおよびその他金属の濃度をすべてICP発光分析装置によって測定し、カドミウムおよびその他金属の回収状況を調査した。結果を表3に示す。表3において、カラム通過後溶液は試料溶液をカラムに通過させて得られた溶液、洗浄後溶液はカラム洗浄用塩酸溶液をカラムに通過させて得られた溶液、溶出後溶液はカドミウム溶出用溶液をカラムに通過させて得られた溶液である。また、カドミウム回収率は回収率=(各溶液のカドミウム濃度/試料溶液のカドミウム濃度)として決定した。カラム通過後溶液のカドミウム濃度から計算したカドミウム回収率は2.4%であったことから、本発明のカラムは十分なカドミウム吸着能力を有することが確認された。また、洗浄後溶液中のカドミウム濃度から計算したカドミウム回収率は0.01M塩酸溶液で洗浄した場合には4.4%、0.1M塩酸溶液で洗浄した場合には0.4%であったことから、これらの濃度の塩酸溶液によるカラム洗浄においては、カラムに吸着されたカドミウムがほとんど溶出しないことが確認された。さらに、0.5M塩酸溶液ではカドミウムを回収することはできなかったが、0.5M硝酸溶液ではカドミウムを90%程度回収することができ、カドミウム以外の金属の回収率はカドミウムの回収率に比べて非常に低いことが確認された。以上より、0.01〜0.1Mの塩酸溶液を用いてカラム洗浄してもカラムに吸着したカドミウムが溶出することはなく、また、0.5M硝酸溶液を用いればカドミウムを選択的に回収できることが確認された。
【0082】
【表3】
【0083】
次に、DDTCを用いずにカドミウムを選択的に抽出可能か検討した。また、カドミウム溶出の際の硝酸溶液濃度について、さらに、EDTA溶液によりカドミウムを溶出可能か検討した。試料にはCd、Mn、Zn、Mg、Fe、Cu、Pbを含む0.1M塩酸溶液(それぞれの金属元素の含量は既知)を用い、pH1.8に調整して、その溶液5mlを上記カプリコート固定化樹脂を用いたカドミウム分離カラムに2〜3ml/minで流した後、0.1M塩酸溶液5mlをカドミウム分離カラムに2〜3ml/minで流してカラムを洗浄した。そして、0.01M、0.05M、0.1M、0.5Mの硝酸溶液5mlまたは、0.1M 、0.01Mの EDTA溶液5mlを2〜3ml/minでカラムに流してカドミウムを溶出させた。そして、上記各段階で用いた試料溶液、カラム洗浄用塩酸溶液、カドミウム溶出用溶液をカラムを通過させて得られた液中のカドミウムおよびその他金属の濃度をすべてICP発光分析装置によって測定し、カドミウムおよびその他金属の回収状況を調査した。結果を表4に示す。尚、表4においても、カラム通過後溶液は試料溶液をカラムに通過させて得られた溶液、洗浄後溶液はカラム洗浄用塩酸溶液をカラムに通過させて得られた溶液、溶出後溶液はカドミウム溶出用溶液をカラムに通過させて得られた溶液である。カラム通過後溶液のカドミウム濃度から計算したカドミウム回収率、洗浄後溶液中のカドミウム濃度から計算したカドミウム回収率はDDTCを用いて実験した場合とほぼ同様の結果が得られた。従って、DDTCを用いなくとも、カドミウムのカラムへの吸着およびカラムの洗浄には影響がないことが確かめられた。また、硝酸溶液を用いた場合には、その濃度が0.05M、0.1M、0.5Mではカドミウムをほぼ100%回収することができたが、0.01Mではカドミウムの回収率が大きく減少(5.6%)した。また、EDTA溶液の場合には、0.1Mでは70%程度のカドミウムを回収することができたが、0.01Mではカドミウムの回収率は大きく減少(6.9%)した。尚、どの条件においてもカドミウム以外の金属の回収率はカドミウムの回収率に比べて非常に低いことが確認された。以上、DDTCを用いなくともカドミウムを選択的に抽出することが可能であり、また、カラムからのカドミウムの選択的回収は0.01より大きく0.5M以下の濃度の硝酸溶液、0.1M程度のEDTA溶液を用いて行うことができ、特に0.05〜0.5Mの硝酸溶液を用いることが好ましいことが確認された。
【0084】
【表4】
【0085】
次に、カドミウム分離カラムを用いて米に含まれるカドミウムの分離を試みた。カドミウム含量の異なる11種の玄米の粉砕試料3gをそれぞれ0.05Mの塩酸30mlで1時間振とう処理した後、濾過によって抽出液から不溶物を除いた。この塩酸抽出液5mlを上記カプリコート固定化樹脂を用いたカドミウム分離カラムに2ml/minで流し、カドミウムを樹脂に吸着させた後、0.1Mの塩酸5mlを2ml/minで流してカラムを洗浄した。次に0.05Mの硝酸5mlをカラムに2ml/minで流し、カドミウムを回収した。そして、上記各段階で用いた米試料抽出液、カラム洗浄用塩酸溶液、カドミウム溶出用溶液をカラムに通過させて得られた液中のカドミウムおよびその他金属の濃度をすべてICP発光分析装置によって測定し、カドミウムおよびその他金属の回収状況を調査した。結果を表5に示す。尚、表5においても表3と表4同様、カラム通過後溶液は試料溶液をカラムに通過させて得られた溶液、洗浄後溶液はカラム洗浄用塩酸溶液をカラムに通過させて得られた溶液、溶出後溶液はカドミウム溶出用溶液をカラムに通過させて得られた溶液である。回収率は、それぞれの玄米における既知のカドミウム濃度(Akita添付濃度)を用いて計算した。また、この実験においては、米試料抽出液(カラム通過前)の試料についてもカドミウムおよびその他金属の濃度をICP発光分析装置によって測定した。カラム通過後溶液および洗浄後溶液中のカドミウム濃度の測定結果から、実際に玄米からカドミウムを抽出した試料においても問題なくカドミウムのカラムへの吸着およびカラムの洗浄が行われていることが確認された。次に、上記のうちの9試料について硝酸抽出液(硝酸によりカラムに吸着したカドミウムを溶出した液)中のカドミウムの濃度とカラム処理前の塩酸抽出液中のカドミウム濃度をプロットした結果を図12に示す。この結果から、食糧庁通達の基準値である0.04ppm(前処理によって米の容積は10倍になっているため、米中濃度に換算すると0.4ppmである。)に対してカドミウム濃度が低いものも、高いものも、ほぼ等しいものも、ほぼ全量のカドミウムが回収可能であることがわかった(平均回収率は99%)。次に、マンガン、亜鉛、マグネシウム、銅の濃度を回収率の平均を求めた。結果を図13に示す。尚、図13の回収率は回収率=(硝酸抽出液(硝酸によりカラムに吸着したカドミウムを溶出した液)の金属濃度/米試料抽出液(カラム通過前)の金属濃度)により求めた。回収率は、カドミウムは99%、マンガンは1%、亜鉛は5%、マグネシウムは1%、銅は9%であった。このように、カドミウムのイムノアッセイを妨害する恐れのあるマンガン、亜鉛、マグネシウム、銅の回収率はカドミウムの回収率に比べて非常に低いことが確認された。以上より、カプリコート固定化樹脂を用いたカドミウム分離カラムにより米からでもカドミウムを選択的に分離することができることが可能であることがわかった。
【0086】
【表5】
【0087】
[実施例3]
カドミウム含有量の異なる数種類の玄米について、従来の方法であるICP発光分析法による機器分析とイムノアッセイ(蛍光光度計によるキネクサ法とイムノクロマトグラフィー法)によって分析した結果を比較した。
【0088】
測定試料は、実施例1と同様、玄米を塩酸処理した溶液をDDTC−カプリコート溶液処理して2Mの塩酸溶液で水相に回収(逆抽出)することにより得た。
【0089】
イムノアッセイを行うに当たり、カドミウムとしてCd−EDTAを特異的に認識するモノクローナル抗体として、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成16年2月26日付けで受託番号FERM P−19703として寄託されているハイブリドーマから産生されるNx22C3を用いた。
【0090】
ICP発光分光分析装置は(株)リガク社製SPECTRO CIROS-120(EOP)を用いた。測定した元素と用いた波長は、Cd(214.438nm)、Zn(213.856nm)、Mn(257.610nm)、Mg(279.553nm)、Fe(259.940nm)、Cu(324.754nm)である。プラズマ条件はRFパワー1.4kW、プラズマガス13.0L/min、補助ガスあり、ネブライザーガス0.9L/minである。検量線作成用の金属標準溶液は原子吸光分析用(和光純薬工業製)を用いて作製した。塩酸処理液はそのまま装置に導入した。試料の導入時間は25秒、分析時間は24秒である。測定は3回繰り返し、その平均を測定値とした。
【0091】
蛍光光度計によるキネクサ法は、フロー式蛍光センサー(Sapidyne Instruments Inc. 商品名KinExA3000)を用いて行った。また、抗原を固定化する担体としてアガロースビーズ(ファルマシア製)を用いた。1mlのアガロースビーズ懸濁液に対して、Cd−EDTA−OVA溶液(1mg/ml)を100μl添加して抗原をビーズに固定化した。蛍光物質Cy5にて標識された二次抗体(抗マウスIgG抗体)を用いて間接的に蛍光標識し、抗体と固定化抗原との結合を蛍光センサーにより検出した。手順は次の通りである。
【0092】
測定操作は、予めある既知量の一次抗体と混合した試料を、抗原固定化ビーズに接触させる(ステップ1)。ここで、試料中に含まれるカドミウムと反応していない余剰の未反応一次抗体がビーズ上の固定化抗原と反応し、捕捉される。セル内に洗浄液を流し前記試料をセル内から除去した後、セル内に十分な量の蛍光標識二次抗体を流す(ステップ2)。この操作において、蛍光標識二次抗体は、固定化抗原に捕捉された一次抗体に特異的に反応し、結合一次抗体の量に応じた量のみが固定化ビーズ上に結合する。最後に、洗浄液を流して未結合の蛍光標識二次抗体をセル内から除去すると(ステップ3)、抗原固定化ビーズに結合した一次抗体に二次抗体を介して結合した標識蛍光物質のみがセル内に残り、その蛍光強度を測定することで抗原固定化ビーズに結合した一次抗体量を検知し、試料中に存在していた遊離抗原量を知ることができる。
【0093】
一定濃度の蛍光標識抗体にカドミウムを種々の濃度で添加した場合に、検出される蛍光強度の低下率をカドミウムへの結合阻害率とし、その時のカドミウムの添加濃度との関係を示す検量線を図7の(A)に示した。測定試料をこの装置で測定し、検量線から米に含まれるカドミウム濃度を求めた。
【0094】
また、同じ測定試料を用いて、従来より行われているICP発光分析法で測定した値と比較した。結果を図7の(B)に示す。図7(B)から分かるように、フロー式蛍光センサーを用いたイムノアッセイ法にて得られた測定値はICP発光分光分析法によって得られた測定とほぼ同一の値を示していた。したがって、食糧庁通達による基準値(米中0.4ppm、つまり処理液中40ppb)を超えるカドミウムを含有する米かどうかを判定するために本イムノアッセイが従来の機器分析同様に利用できることが分かった。
【0095】
[実施例4]
カドミウム分離カラムによって分離されたカドミウムのイムノアッセイについて検討した。実施例2で硝酸によって溶出された玄米由来のカドミウム溶液(玄米抽出液)75μlを1μMのEDTAを含むTris−塩酸緩衝液(pH8.0、50mM)925μlによって希釈、中和した。
【0096】
次に、検量線を作成するために、実験室にて50mMの硝酸を含むカドミウム溶液を調製し、玄米抽出液と同様に希釈、中和した後、約2nMのNx22C3抗体溶液を500μl加えゆっくりと混合した。また、上記の玄米試料にも約2nMのNx22C3抗体溶液を500μl加えゆっくりと混合した後、フロー式蛍光光度計KinExA3000(Sapidyne社)を用いて測定した。測定はそれぞれ2回ずつ行った。
【0097】
イムノアッセイによる玄米試料の測定値は、検量線によってカドミウム濃度に変換した。また、従来法(米を硝酸で分解しカドミウムを溶出させる)によって前処理を行った試料を作製し、ICP発光分光分析装置によりカドミウム濃度を測定した。これらの結果を図14に示す。尚、イムノアッセイとICP発光分光分析共に、前処理によって米の容積は10倍になっているため、図14の測定値を10倍したものが米中の濃度に相当する。図14において、イムノアッセイ、ICP発光分析の両方でカドミウム濃度が65ppm以下の測定値が出された試料(7点)に関するイムノアッセイとICP発光分析の相関係数(R2)は0.97であり、よく一致していた。また、ICP発光分析によって60ppb以上と判定された試料(4点)に関してイムノアッセイによって40ppb以下と判定されたものはなかった。よって、食糧庁通達による基準値(米中0.4ppm、つまり処理液中40ppb)を超えるカドミウムを含有する米かどうかを判定するために本イムノアッセイが従来の機器分析同様に利用できることが分かった。また、このことから、米中カドミウムのイムノアッセイにカプリコートを用いたカドミウム分離カラムが適用できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、米をはじめとする農産物、水産物、畜産物などの食品あるいはその他の農産物、水産物、畜産物中に含まれるカドミウムの量をイムノアッセイによって簡単に測定するために用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】蛍光イムノアッセイの測定原理を示す図である。
【図2】イムノクロマトグラフィー装置の一例の構成図である。
【図3】イムノクロマトグラフィーによる抗カドミウムモノクローナル抗体を用いたカドミウムの第2の検出方法の原理図である
【図4】塩酸溶液による玄米からのカドミウムの回収率を示すグラフである。
【図5】塩酸溶液により玄米から抽出されたMg、Mn、Znの濃度を示すグラフである。
【図6】(A)はカドミウム汚染米を想定した複数種の金属を含む模擬試料の水溶液のpHと各金属の回収率との関係を示すグラフである。(B)はICP発光分光分析によってカドミウムを含むことが既知の実試料を用いたpH2における各金属の回収率を示すグラフである。
【図7】(A)はカドミウム濃度と蛍光強度との関係を示す検量線、(B)はICP発光分析法で測定した濃度とキネクサ法により測定した濃度の相関関係を示す図である。
【図8】農林水産省のホームページに開示されている食品中のカドミウムに関する情報(48Cd)に添付の玄米のカドミウム分析の手順を示すフローチャートである。
【図9】同じく玄米以外の穀類、豆類、収穫前調査で採取した野菜及び果樹のカドミウム分析の手順を示すフローチャートである。
【図10】同じく塩辛中のカドミウムを分析する手順を示すフローチャートである。
【図11】玄米(コシヒカリ)の27産地34試料についての金属含有量の測定値を示すグラフである。
【図12】塩酸抽出液と硝酸抽出液(カラム溶出後)に含まれるカドミウム濃度を示す図である
【図13】硝酸溶出によって回収される各種金属の割合を示す図である。
【図14】イムノアッセイとICP分析の測定結果の比較図である。
【図15】本発明のカドミウム分離カラム装置の斜視図である。
【図16】本発明のカドミウム分離カラム装置の断面図である。
【符号の説明】
【0100】
6.カドミウム分離カラム装置
7.容器
8.試料液流入口
9.試料液流出口
12.充填剤
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物に0.002M〜2Mの塩酸溶液を加えてカドミウムを抽出し、得られた溶液をpH1.5〜2.5に調整し、該溶液にジベンジルジチオカルバン酸/トリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライド溶液を加え振とうあるいは攪拌後静置し、分離して得られた有機相に0.5〜2Mの塩酸溶液を有機相の1/5〜等量添加して振とうあるいは攪拌し、分離して得られた水相を中和して測定用試料を得る前処理工程と、抗原抗体反応を利用してカドミウムを測定するイムノアッセイに前記測定用試料を供してカドミウム含有量を分析する測定工程を含むものであるカドミウム測定方法。
【請求項2】
測定対象物に0.002M〜2Mの塩酸溶液を加えてカドミウムを抽出し、得られた溶液をpH1.5〜2.5に調整し、該溶液をトリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライドが表面に固定化された担体に接触させた後、該担体を0.01より大きく0.5M以下の濃度の硝酸と接触させて得られた溶液を中和して測定用試料を得る前処理工程と、抗原抗体反応を利用してカドミウムを測定するイムノアッセイに前記測定用試料を供してカドミウム含有量を分析する測定工程を含むものであるカドミウム測定方法。
【請求項3】
前記塩酸溶液の前記担体への接触はカラム法により行うことを特徴とする請求項2に記載のカドミウム測定方法。
【請求項4】
測定対象物が穀物である請求項1〜3いずれか1つに記載のカドミウム測定方法。
【請求項5】
試料液流入口と試料液流出口を有する容器と、試料液流入口と試料液流出口の間に収容される充填剤とを備え、前記充填剤は表面にトリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライドが固定化された担体であることを特徴とするカドミウム分離カラム装置。
【請求項1】
測定対象物に0.002M〜2Mの塩酸溶液を加えてカドミウムを抽出し、得られた溶液をpH1.5〜2.5に調整し、該溶液にジベンジルジチオカルバン酸/トリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライド溶液を加え振とうあるいは攪拌後静置し、分離して得られた有機相に0.5〜2Mの塩酸溶液を有機相の1/5〜等量添加して振とうあるいは攪拌し、分離して得られた水相を中和して測定用試料を得る前処理工程と、抗原抗体反応を利用してカドミウムを測定するイムノアッセイに前記測定用試料を供してカドミウム含有量を分析する測定工程を含むものであるカドミウム測定方法。
【請求項2】
測定対象物に0.002M〜2Mの塩酸溶液を加えてカドミウムを抽出し、得られた溶液をpH1.5〜2.5に調整し、該溶液をトリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライドが表面に固定化された担体に接触させた後、該担体を0.01より大きく0.5M以下の濃度の硝酸と接触させて得られた溶液を中和して測定用試料を得る前処理工程と、抗原抗体反応を利用してカドミウムを測定するイムノアッセイに前記測定用試料を供してカドミウム含有量を分析する測定工程を含むものであるカドミウム測定方法。
【請求項3】
前記塩酸溶液の前記担体への接触はカラム法により行うことを特徴とする請求項2に記載のカドミウム測定方法。
【請求項4】
測定対象物が穀物である請求項1〜3いずれか1つに記載のカドミウム測定方法。
【請求項5】
試料液流入口と試料液流出口を有する容器と、試料液流入口と試料液流出口の間に収容される充填剤とを備え、前記充填剤は表面にトリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライドが固定化された担体であることを特徴とするカドミウム分離カラム装置。
【図1】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図6】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図6】
【公開番号】特開2006−226986(P2006−226986A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−235227(P2005−235227)
【出願日】平成17年8月15日(2005.8.15)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月15日(2005.8.15)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】
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