説明

電磁駆動式ダイヤフラムポンプ

【課題】 小型で薄いポンプ構成にして吐出圧が高く、振動や騒音が小さい電磁駆動のダイヤフラムポンプの提供。
【解決手段】 円環状の電磁コイル15、16の内に永久磁石14とダイヤフラム17の凹部18が入れ込まれ、凹部18の底部19に磁極面20が固着された永久磁石14が他方の磁極面21もほぼ同様に固着されて軸方向可動に支持され、凹部18の底部19を挟み磁極面20に吸引配置された軟磁性体プレート23および同様の配置の軟磁性体プレート24と電磁コイル15、16周りの軟磁性体ヨーク22で駆動力を強くし、ダイヤフラム17の外に凸なコルゲーション形状の支持部45で振動、騒音レベルを低くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体用および液体用の電磁駆動式ダイヤフラムポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
容積型ポンプである従来のダイヤフラムポンプは、遠心式ポンプなどのインペラーポンプと比較して、気体と液体が混在した流体を吸引する自給能力が高い。ダイヤフラムポンプには、モーター回転をカム等を介してダイヤフラムを往復動させるポンプや、往復運動する磁石を振動子としてダイヤフラムを往復動させるポンプがある。いずれも電磁力で駆動するが、小型化、薄型化や、振動レベル、騒音レベルの低減に限界があり、薄型化とポンプ能力との両立が難しい。
【0003】
図5は、特開昭54−84603で開示された従来のダイヤフラムポンプを示す。永久磁石1からなる可動子が電磁コイル2との電磁力により軸3の方向に往復駆動されると、平板状のダイヤフラム4の外周部を固定した支持部材5に衝撃的な力が加わり、大きな振動と騒音が生じる。永久磁石1とダイヤフラム4は軸3で連結され、軸方向の寸法が大きくなり小型化が難しい。
【0004】
図6は、特表平9ー502496で開示された従来のダイヤフラムポンプを示す。永久磁石6は逆極性の磁極面7,8を有し、平坦なダイヤフラム9に固着され、電磁石アッセンブリ10の外部に配置される。背面に軟磁性体の背面部材11が設けられた永久磁石6は、対向する電磁石アッセンブリ10の軟磁性体コア12に非通電時にも吸引される。対向する間隔を小さくして駆動力を大きくするほど、ダイヤフラム9の張力を大きくする必要が生じ、振動振幅が制限され、ポンプ能力に限界を有する。また、ダイヤフラム9を固定するハウジング13に生じる振動、、騒音レベルが大きくなる。
【0005】
特開2004−60641で開示された従来のダイヤフラムポンプでは、永久磁石は平らなダイヤフラムに取り付けられ、通電コイルの外部に対向して配置され、駆動される。離れた通電コイルによる磁界は弱く、薄い永久磁石の2つ磁極面の位置での同一方向磁界の強度勾配が小さいため、永久磁石に働く駆動力は非常に小さく、ポンプ能力はほとんど期待できない。
【特許文献1】特開昭54−84603号公報
【特許文献2】特表平9−502496号公報
【特許文献3】特開2004−60641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電磁力で動作するダイヤフラムポンプを薄く小型の構成にしてもダイヤフラムを駆動する力を大きくしてポンプ能力を高め、同時に振動と騒音を低いレベルにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電磁駆動式ダイヤフラムポンプは、中央に凹部が形成されたダイヤフラムを用いる。ダイヤフラムの凹部は2個の円環状の電磁コイルの内に入れ込んで配置され、外縁部は電磁コイルの外で支持される。ダイヤフラムの凹部の底部は永久磁石の磁極面に固着され、電磁コイルによる電磁力で振動する永久磁石の振動子とともにダイヤフラムの凹部は電磁コイルの軸方向に往復変位する。ダイヤフラムの凹部と対向して固定しているケーシングとの間がポンプ室として形成される。
【0008】
電磁コイルは内周部を除いて軟磁性体ヨークで囲われ、電磁コイルに流れる電流によって生じる磁界を電磁コイルの内側に集中させて永久磁石との電磁相互作用を大きくする。永久磁石は、振動時にも磁極面が電磁コイルの内に位置するように配置される。
【0009】
2個の電磁コイルのほぼ中間位置に永久磁石が位置するようにして、通電電流によってそれぞれの電磁コイルからは永久磁石の異なる磁極面には逆方向の磁界が加わるようにし、電磁コイルに流す電流の方向を逆にすると永久磁石の振動子に加わる力が逆転して永久磁石は振動する。
【0010】
永久磁石は軸方向のみ変位可能にし、軸と直交する方向の吸引力の偏りによるダイヤフラムや永久磁石の振動する部分と電磁コイル側との接触をなくすため、永久磁石は2つの磁極面の一方がゴムのダイヤフラムの凹部の底部に固着され、他方はダイヤフラムの凹部の底部か支持ゴムに固着される。
【0011】
円形状の軟磁性体プレートがダイヤフラムの凹部の底部に永久磁石と反対側に配置される。軟磁性体プレートは永久磁石からの磁束を外周側に集め、電磁コイルの磁界との電磁相互作用を強くする。永久磁石と、対向する磁極面との吸引力でダイヤフラムの凹部の底部を挟んで固定する。底部と永久磁石の固着のために接着剤の接着を追加してもよい。
【0012】
ダイヤフラムの凹部と外縁部の間の円環状の支持部をダイヤフラムの凹部と反対方向に凸なコルゲーション形状にし、電磁コイルあるいは軟磁性体ヨークから離して配置する。ダイヤフラムの凹部を軸方向に変位させ、ダイヤフラムの円環状の支持部と軟磁性体ヨークとの当たりを避けるか、当たりを緩和して振動、騒音を抑制する。
【0013】
吸入孔と吐出孔を設けた金属板などの板で、ポンプ室をダイヤフラム側とケーシング側に分ける。ゴムのダイヤフラム外縁部の押圧力でケーシングの内側中央に設けた隔壁に弾性を有する板を密着させ、ケーシング側の空間を吸入口、吐出口に直結する空間に分ける。ダイヤフラムの外縁の突出部を、振動で変位する円環状の支持部より高い構成にして平坦状の板にする。
【0014】
板の孔を覆い、孔を間にして対向する2つのスリットを有する連続したゴムシートを、2つのスリットの外側で板に接着して弁を形成する。孔を吸入用と吐出用の2種類設け、2つの連続したゴムシートを板の両面に接着して吸入弁と吐出弁を設ける。ゴムシートの側から圧力が加わると孔を弁で閉じ、孔からゴムシートに圧力が加わると2つのスリットに挟まれたゴムシートの部分が板から離れて流体が流れる弁構成にする。
【0015】
ゴムのダイヤフラムの円形状の最外縁部を樹脂材のケーシングの円形状の外周の突出部で上下から押さえてポンプ室を外部から密閉する。ケーシングの円形状の突出部の外側の方形状の頂点に相当する位置で上下のケーシングを圧力をかけて固定する。下のケーシングはポンプ室を形成しなくともよいし、ポンプ室を形成してもよい。
【0016】
上下にポンプ室を有す構成の場合には、それぞれの吸入の流路と吐出の流路を合流して吸入口と吐出口を1箇所にまとめる。上下のダイヤフラムの最外縁の近傍に対向してOリング形状部を2箇所づつ設け、上下のケーシングの対向する孔を圧力で密閉して流路を合流する。
【0017】
基本構成を同様にして2個の永久磁石を用いた構成にしてもよい。2個の永久磁石を軟磁性体スペーサを間に介して同じ極性を対向させて連結し、両端の磁極面および軟磁性体スペーサの中心を各々の電磁コイルの中間の近傍に配置する。外側の電磁コイルは同じ軸方向の磁界を、間の電磁コイルは反対の軸方向の磁界を発生する。2個のダイヤフラムの凹部の底部を両端の磁極面に固着して2つのポンプ室を設ける。
【0018】
ダイヤフラムの凹部の底部に配置する軟磁性体プレートの表面を貴金属の鍍金層を形成して錆を防止し、不純物が流体に溶解することを防ぐ。
【発明の効果】
【0019】
本発明の電磁駆動式ダイヤフラムポンプは、薄く小型な構造でも比較的高い吐出圧が可能で、ダイヤフラムを支持する部分での衝撃の緩和と2つのポンプ室での圧変動レベルにより振動と騒音を抑制できるため、小型あるいは薄い電子機器の冷却ポンプなどの多用途に利用できる。
【0020】
ひとつの薄いポンプでも2つのポンプ室を駆動できるため、小さい容積で液体と気体を効率的に環流することが必要な燃料電池に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
ゴムなどのダイヤフラムの中央に凹部を形成し、この凹部を円環状の電磁コイルの内に配置し、同じく電磁コイルの内に配置される永久磁石の磁極面に凹部の底部が固着される。ダイヤフラムと対向する固定したケーシングとでポンプ室を形成し、永久磁石の振動によってポンプ室の容積を変化させることでポンプとして動作させる。
【0022】
電磁コイルと永久磁石の電磁相互作用を大きくするために、永久磁石の磁極面を電磁コイルの中間近傍に配置するか、磁極面に近接して配置される円形状の軟磁性体プレートの位置も電磁コイルの中間の近傍に配置する。
【0023】
軟磁性体プレートは、磁石との吸引力でダイヤフラムを挟んで互いを固定させる。ダイヤフラムは、永久磁石の反対側の支持ゴムあるいはダイヤフラムの凹部で永久磁石を軸方向のみに振動可能に支持し、ダイヤフラムの電磁コイルの外の円環状の外縁支持部の形状を凹部とは反対方向に凸なコルゲーション形状にし、さらには弾性材をダイヤフラムと電磁コイルの間に配置して当たりを緩和し、振動や騒音を抑制する。
【実施例1】
【0024】
図1は本発明の電磁駆動式ダイヤフラムポンプの実施例を断面図で示すものである。円形状の永久磁石14は、円環状の電磁コイル15、16の内に軸を同一にして配置される。電磁コイル15、16の内に入り込んで位置するダイヤフラム17の凹部18の底部19が永久磁石14の一方の磁極面20に固着される。永久磁石14の磁極面20、21は電磁コイル15.16内の中間近傍に位置するように配置される
【0025】
電磁コイル15、16の周りを内周部を除いて軟磁性体ヨーク22で連続的に覆うことで電磁コイル15、16の内側に強い磁界を集中させ、電磁コイル15と電磁コイル16とに反対方向の電流を流し、永久磁石14の磁極面20、21の近くの位置で反対方向の磁界を得る。永久磁石14の磁極面20、21からの磁束を軟磁性体プレート23、24の外周部に集め、電磁コイル15、16の磁界との相互作用の駆動力を大きくする。
【0026】
永久磁石14の異なる磁極面20、21に電磁コイル15、16から反対方向の磁界で同一方向の駆動力を得る。軟磁性体ヨーク22を用いた場合には、電磁コイル15の中間近傍とは、電磁コイル15および電磁コイルの各々で生じる磁極間の中間近傍を意味する。軟磁性体プレート23、24は平坦にしてもよいが、外周部が軸方向に曲げられて、電磁コイル15、16の磁性体ヨーク22の内周部の磁極の間に位置し、変位量相当の曲げ長があると良い。図1では、薄い電磁コイル15、16を想定し、軟磁性体プレート23、24を連続的に曲げ、ダイヤフラムの凹部に局所的な力が集中するのを避けている。
【0027】
ダイヤフラム17の凹部18が軸方向に振動することで、ダイヤフラム17とケーシング25の間で形成されるポンプ室の容積が変化する。ポンプ室の容積変化を圧力増大を伴う流体の一方向の流れにするために、吸入弁26と吐出弁27を配置する。吸入弁26と吐出弁27は板28に連続したゴムシート29、30で形成される。板28に設けられた吸入孔31と吐出孔32を間に介して、連続したゴムシート29には対向する2つのスリット33、34と、連続したゴムシート30には2つの対向するスリット35、36が設けられ、連続したゴムシート29、30のスリット間以外の部分は板28に固着される。連続したゴムシート29、30の外縁部分はケーシング25などで挟み固定してもよい。
【0028】
板28は弾性を有するのが適当で、ゴムのダイヤフラム17の外縁部の円形状の突出した部分37による押圧力でケーシング25の円形状の段差部38に挟まれる。板28に当たる段差部38の下面が凸な局面形状であると、ダイヤフラム17の突出した部分37による押圧力で、板28はケーシング25の内側に突出した隔壁39に連続したゴムシート30を介して押しつけられ、吸入口40に直結する空間41と、吐出口42に直結する空間43に分けられる。
【0029】
ダイヤフラム17の凹部18が図の下方向に変位すると、板28で分けられるダイヤフラム側のポンプ室44(以下、ダイヤフラム側のポンプ室を狭義にポンプ室と記す。)の容積が大きくなり圧力が低下する。相対的に圧力が大きくなる吸入口40に直結する空間41から吸入弁26のゴムシートを吸入孔31から押し下げて流体がポンプ室44に流入する。この時、吐出弁27のゴムシートは板28に押し当てられて流体は吐出孔32を通過しない。
【0030】
ダイヤフラム17の凹部18が図の上方向に変位すると、ポンプ室44の容積が小さくなって圧力が上昇し、吐出口42に直結するポ空間43の圧力より相対的に高くなると吐出弁27のゴムシートを吐出孔32から押し上げて流体がポンプ室44から流れる。この時、吸入弁26のゴムシートは板28に押し当てられて流体を吸入孔31から逆流させない。
【0031】
板28に設けられたゴムシートの吸入弁26と吐出弁27は、それぞれ2つのスリット33、34とスリット35、36の両端は板に固着される部分の連続したゴムシート29、30に連続される。吸入孔31あるいは吐出孔32の側から圧力が加わると、吸入弁26のゴムシートあるいは吐出弁27のゴムシートは伸びてスリット33、34およびスリット35、36の間から流体が流れる。逆に反対側から圧力が加わると、吸入弁26のゴムシートあるいは吐出弁27のゴムシートは板28に密着して流体の流れを阻止する。ゴムシートの張力でそれぞれの弁が開閉する構成のため、短い周期の圧変動に対するレスポンスがよく、少量の流体の流入、流出にも対応できる。さらに、弁を構成する板28全体の厚さを薄くできる。
【0032】
それぞれの2つのスリット33、34とスリット35、36は平行である必要はなく、対向する吸入孔31と吐出孔32の外形に沿う形状にして、2つのスリット33、34とスリット35、36のそれぞれ2つの両端の近傍の間隔を小さくし、吸入弁26と吐出弁27の伸張時の張力を小さくするのが適当である。
【0033】
ダイヤフラム17の凹部18が主に変位することによるポンプ室44の容積変化と加速度で流量と吐出圧が決まる。電磁コイル15、16の内の凹部18の底部19の内面積は比較的小さいため、駆動力を内面積で割った値に相当する吐出圧を大きくすることができる。駆動力を比較的大きくできることで、本発明の電磁駆動式ダイヤフラムポンプは大きさに対する吐出圧を相対的に高く確保しやすい。
【0034】
ダイヤフラム17の凹部18と外縁部の間にある、凹部18と反対方向の外に凸な円環状のコルゲーション形状の支持部45は、永久磁石14の振動子とともに振動、変位するダイヤフラム17の凹部18を支持する。外縁部が固定され凹部18の側部は相対的に厚く変形しにくく形成されるため、コルゲーション形状の支持部45は、凹部18の変位に追従して変形しやすいように相対的に厚さが薄くされ、ある程度は柔軟性を有するようにされる。当然ながら下のゴムのコルゲーション形状の支持部46の形状や剛性も同様に対応することは言うまでもない。
【0035】
コルゲーション形状の支持部45、、46にする目的は、軸方向に変位させやすいことのほか、変位による衝撃を避けることである。凹部18が電磁コイル15、16の内側方向に深く変位していくと、コルゲーション形状の支持部45、46は外縁部の方から内径方向に軟磁性体ヨーク22の面と連続的に当たることで衝撃的な振動や衝突音の発生を抑制する。
【0036】
ダイヤフラム17に対向して弾性材47を軟磁性体ヨーク22に設け、ダイヤフラム17やゴムのコルゲーション形状の支持部45、46を直接に軟磁性体ヨーク22に当てず、弾性材46に当てることで振動や、騒音のレベルをさらに抑制することができる。
【0037】
ダコルゲーション形状の支持部45、46を軟磁性体ヨーク22に当てない方が振動、騒音が小さい。電磁コイル15、16に印加する電源電圧の周波数や大きさ、コルゲーション形状の支持部45、46の形状や剛性を選択することで可能である。特に小電力で小型の場合には容易である。
【0038】
振動する部分を支持するコルゲーション形状の支持部45、46のゴムの厚さや剛性を適正にすることは、永久磁石14や軟磁性体プレート23、24が電磁コイル15、16周りの軟磁性体ヨーク22との吸引力の偏差による軸と直交する方向に変位するのを押さえ、振動する部分が軟磁性体ヨーク22や電磁コイル15,16に当たるのを防ぐためにも必要とされる。このことは、振動時の機械的剛性をも大きくすることを伴うため、振動振幅や振動周期を適正化することが必要になる。
【0039】
ダイヤフラム17とケーシング25で形成される広義のポンプ室は、吸入口40と吐出口42以外は密閉されねばならない。ゴムのダイヤフラム17の円形状の最外縁部48は、ケーシング25の円形状の突出部49によって圧着される。図の下側のゴムのコルゲーション形状の支持部46から連続した円形状のゴムの最外縁部50で、下のケーシング51の円形状の突出部52とともに上下から強く圧着される。上のケーシング25と下のケーシング51は、ゴムの最外縁部48,50の外の方形状の頂点に相当する位置でねじ止めなどで圧着固定される。
【0040】
2つの電磁コイル15と16の間に軟磁性体ヨーク22に接して基板53を配置する。ダイヤフラム17の最外縁部48やケーシング25、51の外に複数の端子54を設け、電磁コイル15、16の線端を接続、固定する。基板53の複数の端子54とは電気的に絶縁した導体部を連続して外に出して、電磁コイル15、16に発生する熱を軟磁性体ヨーク22から導体部を介して外部に放熱する。基板53は導体板の上に端子板を固着したものでもよいし、絶縁板の両面に金属層を設けたものを基板53としてもよい。放熱を積極的に行うため、図示されてないが、基板53の導体部に熱的に密着させ外部に様々な形の放熱板を配置してもよい。この放熱板を取り付け板に兼用するのもよい。
【0041】
ダイヤフラム17の凹部18の底部19に配置される軟磁性体プレート23は水を主成分とする液体中に浸される可能性が高い。軟磁性体プレート23は鉄などの錆びやすい金属が用いられるため、液体中に錆成分や金属イオンが溶け込むと燃料電池などの性能を劣化させる。錆の発生や金属イオンの溶解を防ぐため、軟磁性体プレート23の表面に貴金属の鍍金層を形成する。
【0042】
本発明の電磁駆動式ダイヤフラムポンプを駆動するには、電磁コイル15,16に流す電流の方向を周期的に変える必要がある。通常12ボルト以下の直流電源を用いるため、トランジスタ4個で主に構成されるHブリッジ回路を用いるのが一般的である。回転モータ駆動の直流ポンプに較べ、摺動するブラシを用いず、回路でスイッチングを行うため信頼性が高く、電磁ノイズが低い。
【実施例2】
【0043】
図2は、本発明の電磁駆動式ダイヤフラムポンプの第2の実施例を断面図で示すものである。第1の実施例と上側の構成はほぼ同様である。円環状の電磁コイル55、56の内に入れ込まれた永久磁石57の振動子に固着された凹部58、59を有する2つのダイヤフラム60、61と上下のケーシング62、63で2つの独立したポンプ室64、65を形成する。2つの電磁コイル55、56と永久磁石57は軸を同一にされ、両端の磁極面66、67は対応する電磁コイル55、56の中間近傍に配置される。磁界を集中させ駆動力を大きくするため、電磁コイル55、56の周りは内周部を除いて軟磁性体ヨーク68に覆われ、軟磁性体プレート69、70が永久磁石57の両端の磁極面66、67に近接してダイヤフラムの凹部58、59の底部71、72を挟んで固着される。
【0044】
2つの電磁コイル55、56に逆方向の電流を流すことで永久磁石57の異なる極性の2つの磁極面66、67において同じ軸方向の駆動力が働く。それぞれの電磁コイル55、56に流す電流の方向を反転させると、永久磁石57には逆の軸方向の駆動力が働く。電流の方向を周期的に変えることで永久磁石57が振動する。上下の流体が同じ場合、負荷はほぼ同じため、ダイヤフラム60、61の剛性や形状は同じにするのがよい。
【0045】
永久磁石57の振動子が図2の上方向に変位する場合、上のポンプ室64の容積が小さくなり圧力が増大する。容積の減少による圧の増大で板73に設けられたゴムシートの吐出弁74が上に伸張変位して開き、吐出孔75から吐出口76を経て流体が流れ出す。吸入弁77は閉じて吸入孔78では流体の移動はない。下のポンプ室65では容積が大きくなり圧力が減少し、相対的に圧力が大きくなる吸入口79に直結する空間80から吸入孔81を通過して流体が流れ込む。この時、下のポンプ室65の吐出弁82は閉じたままで吐出孔83での流体の移動は生じない。
【0046】
永久磁石57が図2の下の方向に変位する場合、上のポンプ室64の容積が大きくなり圧力が減少する。下のポンプ室65では、容積が小さくなり圧力が増大する。流体は、上の吸入口84から吸入孔78を通過して上のポンプ室64に流れ込み、下のポンプ室か65らは下の吐出孔83を流れ出て吐出口85から吐出される。上の吐出口76と下の吐出口85を合流させると、上下のポンプ室64、65からの吐出圧変動のサイクルが小さくなり、圧力の変動レベルも緩和されることで振動や騒音のレベルが低下する。
【0047】
2つのポンプ室64、65で吐出回数を増やすことは、必ずしも同じ流体に限定されるものではない。ダイレクトメタノール方式の燃料電池では、エタノールと水の混合液体と、気体である空気を異なる流路で循環あるいは供給すると性能を向上させることができる。液体用と気体用に別々のポンプを2個を配置して占有容積と部品数を増やすことは、小型で効率を向上を求められる小型燃料電池には不利である。
【0048】
上の吸入口84、吸入弁77、ポンプ室64、吐出弁74および吐出口76を液体用の
ポンプ流路に、下の吸入口79、吸入弁86、ポンプ室65、吐出弁82および吐出口85を気体用のポンプ流路にすることで、ひとつのポンプ構成で液体用と気体用のポンプを達成できる。液体と気体を異なる流路に上下の2つのポンプ室64、65の圧変化で流す場合、液体と気体は密度や粘度が大きく異なるため、駆動時の負荷の差が大きい。上下に振動するダイヤフラム60、61の支持部87、88の剛性や形状を使用条件に合わせる必要がある。
【実施例3】
【0049】
図3は、本発明の電磁駆動式ダイヤフラムポンプの第3の実施例を断面図で示すものである。上下のポンプ室89、90、電磁コイル91、92や永久磁石93などの配置と構成は第2の実施例と同じである。2つのポンプ室89、90の2つの吸入流路94、95と、2つの吐出流路96、97の一部を合流させ、ひとつの吸入口98と吐出口99にまとめるため、上のケーシング100と下のケーシング101に対向する孔102、103および104、105を設け、ゴムのOリング106、107を間に介し圧着して密閉する。Oリング106、107は、ゴムのダイヤフラム108、109の最外縁部から外に連続して形成してもよい。Oリングの位置決めや、組み立てが簡単になる。
【0050】
ひとつの吸入口98から流入する流体は、半周期ごとに変わる電磁コイル91、92の電流の向きにより永久磁石93、軟磁性体ヨーク110、111とダイヤフラム108、109からなる振動部分の変位により、2つのポンプ室89、90の吸入弁112、113から半周期ごとに交互に流入し、2つのポンプ89、90の吐出弁114、115より半周期ごとに圧の上昇を伴い交互に流出されて吐出口99から出る。
【0051】
周期あたりの吐出回数が増えて圧力変動レベルが低くなる傾向を示し、ポンプの振動と騒音の低減になることは第2の実施例の場合と同様であるが、吸入口98と吐出口99が共通になっていることで扱い易くなり、外部での各口の配管接続が少なくなり、実質的な小型化に寄与する。
【0052】
第1、第2および第3の実施例において共通であるが、永久磁石と軟磁性体プレートをダイヤフラムや支持ゴムの凹部の底部に固着して電磁コイルの内に入れ込み、組立てる過程や組立後に軟磁性体ヨークに吸引されて接触したり吸着されたままになることを防ぐ必要がある。
【0053】
図1、図2および図3のケーシング25、51、62、63、100、101や弁を有する板28、73、116、117、118を組み込む以前に、電磁コイル15、16、55、56、91、92周りの軟磁性体ヨーク22、68、119の外周側部にゴムのダイヤフラム17、60、61、108、109やゴムの支持体46をはめ込み仮固定して、未着磁の永久磁石14、57、93や軟磁性体プレート23、24、69、70、110、111を電磁コイル15、16、55、56、91、92内に配置する。
【0054】
ダイヤフラム17、60、61、108、109やゴムの支持体46のの凹部18、120、58、59、121、122の内形状と軸を近似させた治具で凹部18、120、58、59、121、122を上下から抑えて着磁する。着磁した後、治具を外してケーシング25、51、62、63、100、101などを組み込む。この製造法により、永久磁石14、57、93や軟磁性体プレート23、24、69、70、110、111が外れたり、軟磁性体ヨーク22、68、119に吸着することがなくなり、組立作業も容易になる。
【実施例4】
【0055】
図4は、本発明の電磁駆動式ダイヤフラムポンプの第3の実施例を断面図で示す。3つの円環状の電磁コイル123、124、125は軸を同じにして近接して配置され、内に軸を共通にする永久磁石126、127が軟磁性体スペーサ128を間に介して同極性の磁極面129、130が対向して連結される。軟磁性スペーサ128は、薄すぎると永久磁石126、127の同極性の対向する磁極面129、130が反発して連結されない。
【0056】
連結された2つの永久磁石126、127両端の同極性の磁極面131、132は外側の電磁コイル123、125の中間近傍の位置に配置され、中間の軟磁性体スペーサ128は、間の電磁コイル124の中間近傍に配置されて構成される。連結された永久磁石126、127の両端の磁極面131、132に近接して、円形状の軟磁性体プレート133、134が永久磁石126、127の吸引力で固着され、電磁コイル123、124、125の内に入り込んで、ダイヤフラム135、136の凹部137、138の底部139、140を挟んで固定される。
【0057】
外側の2つの電磁コイル123、125には同じ方向の電流が、間の電磁コイル124には逆方向の電流が流される。両端の2つの同じ極性の磁極面131、132に近接した軟磁性体プレート133、134には外側の電磁コイル123、125の磁界との相互作用で同じ軸方向の力が働き、軟磁性体スペーサ128には間の電磁コイル124の磁界との相互作用で同じ軸方向の力が働く。2つの永久磁石126、127を連結して構成された振動子は、3箇所に働く同じ軸方向の力が電磁コイル123、124、125の周期的に向きが変わる電流により力の向きが周期的に反転することで振動し、ダイヤフラム135、136の凹部137、138駆動する。
【0058】
第4の実施例の構成は、第1の実施例、第2の実施例、および第3の実施例に較べて比較的大きな駆動力を得やすい。反面、永久磁石126、127を2つ連結して間に軟磁性体スペーサ128を挟む構成や、固定軸141で永久磁石126、127とダイヤフラム135、136をクランプする必要も生じるため、軸方向の厚さが大きくなる。固定軸141で挟む構成にしても、固定軸141を締め付けるボルト142の頭やナット143の厚さは凹部137、138に入り込んで配置されるため、固定軸141ゆえに軸方向に厚くならず、ポンプを小型で薄くする本発明の目的からずれることはない。
【0059】
ダイヤフラム135、136が図4の右の軸方向に変位すると、左のポンプ室142の容積は大きくなり、吸入弁143を開いて流体が吸入され、右のポンプ室144の容積は小さくなり、ポンプ室144から吐出弁145を開いて吐出口146から流体が吐出される。電磁コイル123、124、125の電流の向きが反転すると、ダイヤフラム135、136は逆の左方向に変位し、左のポンプ室142の容積は小さくなり、ポンプ室142から吐出弁147を開いて吐出口148から流体が吐出され、右のポンプ室144の容積は拡大して吸入弁149を開いてポンプ室144に流体が流れ込む。
【0060】
半周期ごとに2つのポンプ室144、146で吸入と吐出を交互に繰り返すことにより、第2と第3の実施例でも明らかにしたように圧力の変動周期と圧力変動レベルを小さくできるため、比較的大きいポンプの構成にしても静かに使用できる。
【0061】
3個の電磁コイル123、124、125を共通に巻いて軟磁性体ヨーク150より小さい径の連続した内周面を有するボビン151を配置し、ボビン151の材質を潤滑に優れた樹脂材を用いることで、振動する永久磁石126,127を固着したダイヤフラム135、136の凹部137、138の側面が接触しても摩擦を少なくし、損傷が生じないようにする。この構成は電磁コイルが2個の構成の第1、第2および第3の実施例の構成の場合にも利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の電磁駆動式ダイヤフラムポンプは、小型で薄い構成にしても比較的に吐出圧を高くでき、あるいは小さい消費電力でもポンプ能力を得ることができ、振動や騒音のレベルを低くできるため、パソコンなどの電子機器の水冷用ポンプ、あるいは液体気体兼用の燃料電池のポンプに利用すると効果がある。さらに相対的にポンプ形状を大きくして他の用途にも展開できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の電磁駆動式ダイヤフラムポンプの第1の実施例を示す断面図。
【図2】本発明の電磁駆動式ダイヤフラムポンプの第2の実施例を示す断面図。
【図3】本発明の電磁駆動式ダイヤフラムポンプの第3の実施例を示す断面図。
【図4】本発明の電磁駆動式ダイヤフラムポンプの第4の実施例を示す断面図。
【図5】従来のダイヤフラムポンプを示す断面図。
【図6】従来のダイヤフラムポンプを示す断面図。
【符号の説明】
【0064】
14、57、93、126、127 永久磁石
15、16、91、92、55、56、123、124、125 電磁コイル
17、60、61、108、109、135、136 ダイヤフラム
18、58、5、121、122、137、138 凹部
19、64、65、89、90、142、144 ポンプ室
22、6、119、150 軟磁性体ヨーク
23、24、69、70、110、111、133、134 ケーシング
25、51、62、63、100、101、143、149 吸入弁
27、74、82、112、113、145、147 吐出弁
28、73、116、117、118 板
40、79、84、98、149 吸入口
42、76、85、99、146、148 吐出口
53 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環状の電磁コイルと、該電磁コイルの内に中心軸を同一にして配置される永久磁石の振動子と、該振動子に連結されたダイヤフラムからなるダイヤフラムポンプにおいて、前記ダイヤフラムに形成される凹部の底部が前記永久磁石の磁極面に固着されて前記電磁コイルの内に配置され、前記ダイヤフラムの外縁部が前記コイルの外で支持され、前記ダイヤフラムとケーシングでポンプ室が形成されることを特徴とする電磁駆動式ダイヤフラムポンプ。
【請求項2】
前記永久磁石が中心軸を同一にする2個の前記電磁コイルの中間近傍に配置され、前記ダイヤフラムの凹部の底部が前記永久磁石の片方の磁極面に、他方の磁極面には支持ゴムが固着されることを特徴とする請求項1記載の電磁駆動式ダイヤフラムポンプ。
【請求項3】
前記永久磁石が中心軸を同一にする2個の前記電磁コイルの中間近傍に配置され、2個の前記ダイヤフラムの凹部の底部が前記永久磁石の異なる極性の磁極面に固着され、前記永久磁石を挟み2つの前記ポンプ室が設けられることを特徴とする請求項1記載の電磁駆動式ダイヤフラムポンプ。
【請求項4】
2個の前記永久磁石が同じ極性の磁極面を対向させて軟磁性体スペーサを間に介し連結され、中心軸を同一とする3個の前記電磁コイルの内で両端の磁極面および該軟磁性体スペーサの中心の位置が各々の前記電磁コイルの中間近傍に配置され、2個の前記ダイヤフラムの凹部の底部が両端の磁極面に固着されて2個の前記永久磁石を挟み2つの前記ポンプ室が設けられることを特徴とする請求項1記載の電磁駆動式ダイヤフラムポンプ。
【請求項5】
前記電磁コイルは、少なくとも内周部を除き軟磁性体ヨークで囲われることを特徴とする請求項1から4記載の電磁駆動式ダイヤフラムポンプ。
【請求項6】
円形状の軟磁性体プレートが前記ダイヤフラムを間に介し、前記ダイヤフラムの凹部で前記永久磁石と反対側の底部に配置されることを特徴とする請求項1から5記載の電磁駆動式ダイヤフラムポンプ。
【請求項7】
前記ダイヤフラムの凹部と外縁部の間の円環状の部分が、前記ダイヤフラムの凹部と反対方向に凸なコルゲーション形状に形成され、前記電磁コイルおよび前記軟磁性体ヨークから離れて配置されることを特徴とする請求項1から6記載の電磁駆動式ダイヤフラムポンプ。
【請求項8】
前記ポンプ室が、弁と該弁に対応した位置に孔を有する板で前記ダイヤフラム側と前記ケーシング側に分断され、該板がゴムの前記ダイヤフラム外縁部の押圧力により前記ケーシングの内側の突出した隔壁に密着されて前記ポンプ室の前記ケーシング側が吸入口と吐出口に直結する空間に分割されることを特徴とする請求項1から7記載の電磁駆動式ダイヤフラムポンプ。
【請求項9】
前記弁は、前記板の前記孔を間に介して対向する2つのスリットを有する連続したゴムシートを2つのスリットの外側で前記板に固着して形成されることを特徴とする請求項8記載の電磁駆動式ダイヤフラムポンプ。
【請求項10】
前記電磁コイルの間に導体層を有する基板を配置し、該基板に設けられた複数の端子部に前記電磁コイルの線端を接続して固定することを特徴とする請求項2から7記載の電磁駆動式ダイヤフラムポンプ。
【請求項11】
ゴムの前記ダイヤフラムの最外縁部を前記ケーシングの外周部で押さえて前記ポンプ室を密閉することを特徴とする請求項1から10記載の電磁駆動式ダイヤフラムポンプ。
【請求項12】
前記ダイヤフラムの凹部の底部に配置される前記軟磁性体プレートの表面に貴金属鍍金層が形成されることを特徴とする請求項6記載の電磁駆動式ダイヤフラムポンプ。
【請求項13】
前記弁を有するゴムの前記ダイヤフラムの外縁部を、凸な円形状の部分より高い構成にして平坦状の前記板を押さえることを特徴とする請求項8記載の電磁駆動式ダイヤフラムポンプ。
【請求項14】
前記ダイヤフラムに対向して前記軟磁性体ヨークとの間に弾性材を配置することを特徴とする請求項1から7記載の電磁駆動式ダイヤフラムポンプ。
【請求項15】
上下の前記ケーシングの吸入流路の孔と吐出流路の孔をを対向して設け、上下2つのゴムの前記ダイヤフラムの最外縁近傍に連続してOリング形状部で該孔を密閉し、該吸入流路と該吐出流路を合流させることを特徴とする請求項11記載の電磁駆動式ダイヤフラムポンプ。
【請求項16】
前記電磁コイルを巻いた樹脂ボビンの内径を、前記電磁コイルおよび前記軟磁性体ヨークの内径より小さくし、前記電磁コイル内で連続した円筒面にすることを特徴とする請求項5記載の電磁駆動式ダイヤフラムポンプ。
【請求項17】
金属放熱板を前記基板の前記端子と絶縁された導体層に熱的に密着して外部に出すことを特徴とする請求項10記載の電磁駆動式ダイヤフラムポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−22656(P2006−22656A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−199109(P2004−199109)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【出願人】(597026685)エーシーイーテック有限会社 (8)
【Fターム(参考)】