説明

非眼瘢痕の抑制に使用できる薬剤および方法

非眼瘢痕の予防、軽減、または抑制に用いられる薬剤を形成する核内ホルモン受容体NR4Aサブグループに含まれるメンバーのアゴニストの使用を提供する。また、非眼瘢痕の予防、軽減、または抑制のための方法であって、治療に効果的な量の核内ホルモン受容体NR4Aサブグループに含まれるメンバーのアゴニストを、当該予防、軽減、または抑制を必要とする患者へ投与することを含む方法も提供する。NR4Aアゴニストは、6-メルカプトプリンとすることができる。該薬剤および方法は、皮膚の瘢痕の予防、軽減、または抑制に使用されることが好ましい。本発明の薬剤および方法は、創傷の治癒促進に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非眼組織(non-ocular tissues)の瘢痕(scarring)の予防、軽減、または抑制のための薬剤に関する。また、本発明は、非眼組織の瘢痕の予防、軽減、または抑制のための方法も提供する。本発明の薬剤または方法は、非眼組織の創傷に関連する瘢痕、または非眼組織の線維性疾患(fibrotic disorders)に関連する瘢痕の予防、軽減、または抑制に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
創傷治療(wound management)に対する臨床的なアプローチは、一般的に、期待される成果に応じて決定される。この成果で考慮される点は、例えば、瘢痕発生の度合いであり、創傷の治癒速度である。ある創傷治療では、発生した瘢痕の度合いを制御することを最重要とする一方で、創傷治癒の速さを促進させることはあまり重要でないものがある。また、他のある創傷治療では、創傷治癒の速さを促進させることを最重要とする一方で、発生した瘢痕の度合いを制御することがあまり重要とされないものがある。しかしながら、多くの場合において、瘢痕の度合いを制御できることは、一方で創傷治癒の速さも増大させ、有益である。このことが、特に重要となり得るのは、組織または器官の創傷が継続して存在することが、不利益(例えば、痛み、感染症(infection)リスクの増大、または機械的不全)を伴う場合である。
【0003】
多くの異なるプロセスが、瘢痕反応の間に作用しており、これまでに多くの研究が、これらのプロセスを媒介するものや、これらのプロセスが如何に相互作用して最終状態を生み出すか、ということを発見するためになされてきた。
【0004】
創傷反応は、全ての成長した哺乳類で共通する。瘢痕は、創傷を治癒した結果として生じることもあり、線維性疾患(fibrotic disorders)に関連する瘢痕組織の沈着(deposition)として生じることもある。瘢痕反応は、「瘢痕(a scar)」と称される線維性組織が形成することに繋がる。瘢痕とは、「身体のあらゆる組織の損傷または疾患の部位に生じた線維性結合組織(fibrous connective tissue)」と定義することができる。一般的には、瘢痕反応は、身体の大部分の組織または器官の間で保存されているが、場合によっては、該反応は、組織間で異なっている。
【0005】
創傷の治癒により生じた瘢痕の場合では、瘢痕は、修復反応の結果として生じた構造体(structure)を構成する。この修復プロセスは、負傷した動物が死亡することを防止しようとする生物学的本能に対する進化的な解決策として生じる。感染症(infection)または出血による死亡リスクを抑えるために、身体は、損傷組織を再生しようとするよりも、損傷した領域を直ちに修復するように反応する。損傷組織は、創傷の発生前と同じ組織構造には再生されないために、瘢痕は、非損傷組織と比較した場合のその異常な形態(morphology;モルホルジー)から、識別することもできる。創傷を速やかに治癒するために肝要なことは、「悪性(bad)」瘢痕に関連していると考えられることも多く、そこで生じている瘢痕は、未創傷組織とは明白に異なっており、その一方で、よりゆっくりと治癒を行う場合には、「良性(good)」瘢痕と関連し得て、そこで生じている瘢痕は、瘢痕と未創傷組織の違いが相対的に小さい。
【0006】
瘢痕は、創傷の治癒中に生じることが最も多いが、細胞外マトリックスでの同様の障害は、線維性疾患として知られる多くの医学的状況に関連する瘢痕を引き起こすこともある。これらの疾患では、過剰の線維は、組織の病理学的な乱れ(derangement)および機能不全(malfunctioning)を引き起こす。線維性疾患に関連する瘢痕は、線維性組織が、疾患領域内で異常に蓄積することにより特徴付けられる。このような線維性組織の蓄積は、様々な疾患プロセスから生じることがあり、これらは全て、瘢痕の生成をもたらし得る。
【0007】
線維性疾患は、通常、慢性的(chronic)である。線維性疾患の例としては、肝硬変(cirrhosis of the liver)、肝線維症(liver fibrosis)、糸球体腎炎(glomerulonephritis)、肺線維症(pulmonary fibrosis)、慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease)、心筋線維症(myocardinal fibrosis)、心筋梗塞(myocardial infarction)を引き起こすような線維症、関節炎(arthritis)および癒着(adhesion)(例えば、腹部(digestive tract)、骨盤(abdomen)、脊椎(pelvis)、腱(tendons)および腱(spine)に発生する)がある。線維性疾患に関連する瘢痕は、治療しないままでいれば、その病理学的作用として、臓器不全を引き起こし得て、最終的には死に至らしめ得る。
【0008】
線維性疾患に関連する瘢痕に内在する生物学的および病理学的プロセスは、創傷の治癒により生じる瘢痕の形態に伴うものとよく似ていることから、一般に、ある形態に関連する瘢痕の予防、軽減、または抑制に使用され得る化合物は、他の形態の瘢痕に対しても同様の効果を発揮する。
【0009】
瘢痕は、創傷の結果として生じるか、または線維性疾患の結果として生じるか、のいずれであっても、結合組織(connective tissue)から成る。創傷の結果として生じる場合には、この物質は、治癒プロセス(healing process)の間、堆積されるが、線維性疾患の結果として生じる場合には、疾患プロセス(disease process)の結果として生じる。瘢痕は、異常な構造を有する結合組織を構成することもあり、これは、皮膚の瘢痕で散見される。この他、瘢痕は、異常に増量した結合組織を構成することもある。大部分の瘢痕は、異常に組織化された結合組織、および過剰の結合組織の両方から成るが、これについては、以下に詳述する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
瘢痕の異常構造は、その内部構造(微視的解析で確定することができる)、およびその外観(巨視的に評価することができる)の両面から観察することができる。
【0011】
結合組織(例えば、皮膚)では、細胞外マトリックス(ECM)分子は、「正常(normal)」(未創傷(unwounded))の組織と、瘢痕状態の組織との両方の主要な構成成分から成る。正常の皮膚では、これらの分子は、微視的に観察した場合に、特徴的なランダム配列を有する線維を形成しており、この配列は、通称「バスケット(籠)織り(basket-weave)」と呼ばれる。当該バスケット織り配列は、瘢痕では崩れている。瘢痕の線維は、相互間で顕著な整列状態(alignment)を示し、これは、正常皮膚の線維のランダム配列とは対照的である。一般的に、瘢痕で観察される線維は、正常皮膚で見受けられる線維よりも直径が小さい。ECMの大きさおよび配列状態の両方は、正常の皮膚と比較した場合に、瘢痕の機械的性質を変化させる一因(最も顕著な点は硬度が増すこと)となることがある。
【0012】
巨視的に観察すれば、瘢痕は、組織の周辺の表面より下に押し下げられていることもあり、それらの周辺の損傷を受けていない表面より上に押し上げられていることもある。瘢痕は、正常の組織よりも相対的に暗い(色素沈着過剰(hyperpigmentation))こともあり、その周囲と比較して、青白い(色素沈着低下(hypopigmentation))こともある。皮膚の瘢痕の場合は、色素沈着過剰、または色素沈着低下の瘢痕は、いずれも、明白な美容的欠陥となり易い。また、瘢痕は、無傷の皮膚よりも赤くなることもあるために、目立つと共に美容的に受け入れ難いものとしても知られている。瘢痕の美容的外観は、瘢痕による心理的影響を患者に与える主な要因の1つであり、これらの影響は、瘢痕(創傷または線維性疾患のいずれのものでも)の原因が消失した後であっても、引き続き長期間にわたることが示されている。
【0013】
瘢痕は、その心理的な影響に加えて、患者に有害となる身体的な影響も与えることがある。これらの影響は、通常、瘢痕と正常の組織との間の物理的な相違から生じる。瘢痕に含まれる異常な構造および組成(composition)は、通常、それに対応する正常の組織よりも、柔軟性が乏しいという特徴がある。結果として、瘢痕は、正常な機能を障害する原因となることがあり(瘢痕が関節を覆うことで可動域を制限する場合のように)、さらに、若年者の場合には、正常な成長を阻害することがある。
【0014】
瘢痕は、多くの身体部位で発生するが、これらの部位での瘢痕の影響は、一般的に、瘢痕領域の機能の喪失または阻害である。皮膚の瘢痕に関連する幾つかの不利益は、上記で述べた。内器官(internal organs)の瘢痕の場合には、該当する器官の機能の相当な部分、または全ての部分を損なわせるような狭窄(stricture)および癒着(adhesion)の形成を、引き起こすことがある。腱(tendons)および靱帯(ligaments)の瘢痕の場合には、これらの器官への損傷が長期間続くことがあり、このため、関連する関節の自動能(motility)または機能を、低下させることがある。血管(特に心臓弁)に関連する瘢痕は、外傷または外科手術の事後に発生することがある。血管の瘢痕は、再狭窄(restenosis)に至ることがあるが、これは、血管を細くし、瘢痕化した領域を流れる血流量を減少させてしまう。中枢または末梢神経系の瘢痕は、神経伝達を阻害することがあり、さらに、損傷した神経組織および/または機能的神経伝達の再生を、阻害または抑制することがある。
【0015】
上記に概要を述べた効果のすべては、創傷治癒反応が正常に進行した結果として生じることがある(創傷の治癒により生じた瘢痕の場合)。しかしながら、瘢痕反応が異常に変化し得ることが多々ある;このことは、さらなる有害な作用(異常に過剰な瘢痕(通称、病理学的瘢痕(pathological scarring)と呼ばれる)の生成により引き起こされる)と関連することも多い。病理学的瘢痕を、正常治癒反応から生じた酷い瘢痕と区別することができる多くの方法論がある。これには、生成された瘢痕の組織学的な相違が挙げられ、さらには、病理学的瘢痕の素因があることを示す遺伝標識(遺伝マーカー)が挙げられる。病理学的または非病理学的瘢痕に関する個々人の病歴は、病理学的瘢痕の将来的な発現傾向を最も効果的に予測するものとなる。最も高頻度で重要な病理学的瘢痕に分類されるものとしては、肥厚性瘢痕(hypertrophic scarring)およびケロイド瘢痕(keloid scarring)がある。
【0016】
本明細書の大部分は、主にヒトの瘢痕(創傷治癒により生じた瘢痕または線維性疾患に関連する瘢痕のいずれの場合でも)への作用に向けられているが、この瘢痕反応の多くの点は、ほとんどの動物の間で保存されている。このため、上記に概要を述べた問題は、非ヒト動物、特に、家畜用動物またはペット(例えば、馬、牛、犬、猫など)にも適用できる。例として、腹部創傷の不適切な治癒により生じる癒着は、馬(特に競走馬)の家畜としての病死の主因であることは広く知られている。同様に、ペットまたは家畜動物の腱(tendons)および靱帯(ligaments)も損傷することが多く、これらの損傷の治癒も、動物の死亡率の増大に関わる瘢痕を引き起こすことがある。
【0017】
瘢痕(正常もしくは異常な創傷治癒のいずれかから生じる瘢痕、または線維性疾患に関連する瘢痕)の悪影響は、広く知られているが、これらの悪影響を軽減できる効果的な治療法は、これまでのところ無い。このように効果的な治療法が無いことから、瘢痕(創傷治癒により生じたか、または線維性疾患に関連するかのいずれであっても)の形成を、予防、軽減、または抑制できる治療および薬剤が、強く望まれていることが理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0018】
核内ホルモン受容体(nuclear hormone receptors;NRs)とは、細胞内シグナル分子(intracellular signalling molecules)として作用する転写因子(transcription factors)のスーパーファミリー(superfamily)の一つであり、一般に、それらのリガンド結合パートナー(ligand binding partners)が存在することに反応して、遺伝子発現(gene expression)を生み出す。NRスーパーファミリーは、その作用機構か、またはその配列ホモロジー(sequence homology)のいずれかに基づいて分類できる。配列ホモロジーに基づく分類(Nuclear Receptors Nomenclature Committee, Cell 1999)を用いると、NR4Aサブグループは、以下から構成される一群の「オーファン(orphan)」受容体を表す:すなわち、NR4A1 (GFRP1, HMR, MGC9485, N10, NAK-1, NGFIB, NP10, NUR77, TR3としても知られる)、NR4A2 (HZF-3, NOT, NURR1, RNR1, TINUR)およびNR4A3 (CHN, CSMF, MINOR, NOR1, TEC)である。これらのタンパク質のアミノ酸配列およびこれらのタンパク質をコードする核酸配列は、本明細書の他の箇所で次のように示している:すなわち、配列番号No. 1-アミノ酸配列 NR4A1; 配列番号No. 2-アミノ酸配列NR4A2; 配列番号No. 3-アミノ酸配列NR4A3; 配列番号N0o. 4-NR4A1をコードする核酸配列; 配列番号 No. 5-NR4A2をコードする核酸配列; 配列番号 No. 6-NR4A3をコードする核酸配列である。NR4Aサブグループは、ある種の生理学的信号(physiological signal)〔例えば、脂肪酸(fatty acids)、 プロスタグランジン(prostaglandins), 成長因子(growth factors), ペプチドホルモン(peptide hormones), および物理刺激(physical stimuli)(例えば、せん断応力(shear stress)、磁場(magnetic fields))〕により誘導される初期応答遺伝子(early response genes)に分類される。
【0019】
NR4Aファミリーは、リガンド非依存様式で遺伝子発現を活性化させると考えられているが、NR4Aサブグループのメンバーは、DNA結合ドメインでよく保存され(〜91-95%)、およびC末端リガンド結合ドメインでよく保存されている(〜60%)。NR制御(NR regulation)の「古典的(classical)」モデルでは、リガンド結合ドメイン(ligand-binding domain;LBD)における疎水性のくぼみ(cleft)が、転写に関するコアクチベーター(co-activators)またはコレプレッサー(co-repressors)の機能を果たす補因子(co-factors)を補充する。しかし、NR4A受容体は、特異で変則的なLBDをコードしており、このように機能するとは見受けられない。
【0020】
NR4Aサブファミリーは、炎症(inflammation)発生下で詳細に調べられており、該サブファミリーの総てのメンバーが、リポ多糖(LPS)およびサイトカイン(すなわち、IFNγ, TNF()刺激に伴って生じるマクロファージ(macrophage)中に急速に誘導されることが知られている。
【0021】
本発明は、1つの観点では、非眼組織における瘢痕の予防、および/または軽減、および/または抑制に適する薬剤を提供することを目的とする。また、本発明は、さらなる観点では、非眼組織における瘢痕の予防、および/または軽減、および/または抑制の使用に適する治療方法を提供することを目的とする。また、本発明は、1つの実施態様では、非眼組織における創傷治癒により生じた瘢痕の予防、および/または治療に適する薬剤を提供することを目的とする。また、本発明は、1つの実施態様では、非眼組織における線維性疾患に関連する瘢痕の予防、および/または治療に適する薬剤を提供することを目的とする。また、本発明は、1つの実施態様では、非眼組織における創傷治癒により生じた瘢痕の予防、および/または治療のための使用に適する治療方法を提供することを目的とする。また、本発明は、さらなる実施態様では、非眼組織における線維性疾患に関連する瘢痕の予防、および/または治療のための使用に適する治療方法を提供することを目的とする。また、本発明は、1つの実施態様では、創傷治癒を促進する薬剤、および/または治療方法を提供することを目的とする。本発明の薬剤および/または方法は、先行技術を代替するものである。しかしながら、好ましくは、本発明により提供される薬剤および/または治療方法は、先行技術を改善した技術から成るものである。
【0022】
本発明の第1の観点によれば、非眼組織における瘢痕の予防、軽減、または抑制に用いられる薬剤の調製(製造)における核内ホルモン受容体NR4Aサブグループに含まれるメンバーのアゴニスト(agonist)の使用が提供される。また、本発明のこの第1の観点によれば、非眼組織における瘢痕の予防、軽減、または抑制に用いられる薬剤として使用される核内ホルモン受容体NR4Aサブグループに含まれるメンバーのアゴニストも提供される。該薬剤は、瘢痕を予防、軽減、または抑制しようとする部位への局所投与(localised administration)に用いることができる。また、該薬剤は、瘢痕を予防、軽減、または抑制しようとする部位に適用できる局所薬剤(topical medicament)とすることができる。該薬剤は、創傷部位、または、創傷が形成されようとしている部位に使用することが好ましい。
【0023】
本発明の第2の観点によれば、非眼組織における瘢痕の予防、軽減、または抑制のための方法が提供されるが、これには、核内ホルモン受容体NR4Aサブグループに含まれるメンバーの治療に効果的な量のアゴニストを、そのような予防、軽減、または抑制を必要とする患者に投与することが含まれる。該アゴニストは、瘢痕を予防、軽減、または抑制しようとする部位に投与されることが好ましい。当部位は、非眼組織の創傷、または非眼組織の創傷が形成されようとしている部位であることが好ましい。
【0024】
本発明の薬剤または方法は、6-メルカプトプリン(6-mercaptopurine)を適切なNR4Aアゴニストとして利用することが好ましい。6-メルカプトプリンは、単一のNR4Aアゴニストとして使用することができ、また、1つ(以上)の別のNR4Aアゴニストと組み合せて使用することもできる。
【0025】
本発明は、核内ホルモン受容体NR4Aサブグループに含まれるメンバーのアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)を、瘢痕の予防、軽減、または抑制のために使用することができるという本発明者らの新規で驚くべき発見に基づくものである。6-メルカプトプリンは、NR4Aサブグループに含まれる3つの全メンバー(すなわち、NR4A1、NR4A2、およびNR4A3 )のアゴニストとして作用することが知られている(Wansa et.al. 2003)。瘢痕が抑制されることは、治療された瘢痕の巨視的外観、および該瘢痕の内部構造の微視的外観から明白となっている。NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)が、瘢痕の予防、軽減、または抑制に効果的に使用できることを、当業者に想起させるような先行技術報告は未だ無い。
【0026】
NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)が、瘢痕の予防、軽減、または抑制のために使用することができるという発見は、瘢痕の治療、処置または改善に使用することができる新規の薬剤および方法の基盤を与える。さらに、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)が、瘢痕の予防、軽減、または抑制に使用することができるという本発明者らの発見は、より強い効き目をもつように改良された薬剤および方法が、瘢痕の治療または処置に利用されることへの展望を与える。
【0027】
6-メルカプトプリンは、NR4Aアゴニストであるだけでなく、代謝拮抗剤(antimetabolic agent)または代謝拮抗物質(antimetabolite)として作用することが知られている。6-メルカプトプリンの代謝拮抗作用は、そのプリン体(DNA複製に必要不可欠である)との類似性の結果として獲得されると考えられている。細胞中に6-メルカプトプリンが存在することで、DNAへのプリン体の取り込みを阻害し、細胞分裂を妨げる。代謝拮抗物質(antimetabolite)は、眼の創傷に投与することができ、これにより、線維芽細胞増殖(fibroblast proliferation)を抑制して瘢痕を抑制することを図ることがこれまで提案されている。しかしながら、このような方法で代謝拮抗物質を眼に使用することは、創傷治癒反応の抑制が伴う。なぜなら、代謝拮抗物質は、創傷部位の細胞(例えば、線維芽細胞)を効果的に「活性抑制する(poison)」からである。これは、そのような細胞により堆積する細胞外マトリックス成分の蓄積を減らすが、創傷治癒反応に有意に寄与する細胞も抑制してしまう。代謝拮抗物質が眼の創傷に与えられた際に観察される創傷治癒の抑制は、様々な合併症(例えば、不適切な治癒創傷部位からの漏出、および上皮再形成(re-epithelialisation)における欠損(上皮細胞(epithelial cell)での代謝拮抗物質の毒作用により引き起こされる))を引き起こす。
【0028】
代謝拮抗物質が眼の瘢痕を軽減する能力は、必ずしも、これらの薬剤(エージェント)の生物学的作用が、他の非眼部位でも同等であることを示す訳ではない。しかしながら、これらの薬剤(エージェント)が、眼におけるその抗瘢痕作用(anti-scarring effect)を達成するメカニズム(すなわち、治癒反応の間に細胞外マトリックス成分を蓄積する細胞の活性を抑制することによる)の結果から、当業者であれば、瘢痕を軽減することのできる量の代謝拮抗物質は、創傷治癒も抑制すると考えるであろう。
【0029】
6-メルカプトプリンを眼に使用した場合に創傷治癒が抑制されることが観察されることから、当業者であれば、この薬剤が非眼組織の使用に適しているとは考えないであろうとされてきた。眼にとって望ましくないが、瘢痕を軽減するのと引き換えに受け入れられていると考えられる合併症は、非眼組織(例えば、皮膚)で、より大きい損害を与えている。眼が、清潔で、湿って、無菌の状態を保っている一方で、他の組織または器官は、それらの創傷が治癒を悪化させやすい場合には、感染症のリスクがより増大している。これは、身体と外部環境の間のバリアーとして機能する皮膚に特に当てはまる。ここで、創傷治癒の抑制は、感染症に至らしめることも多く(病原生物(pathogenic organisms)に強く曝露した結果として)、外傷部位に有害な乾燥(dehydration)を引き起こす。抑制された創傷治癒を受けた創傷が長期にわたることで生じる物理的な強さの欠乏は、皮膚のような組織(物理的な圧力に対する該組織の耐久力が、該組織にとって非常に重要な機能である箇所において)にとって著しい問題となる。
【0030】
本発明は、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)を、非眼組織の瘢痕の予防、軽減、または抑制のために使用することができるという本発明者らの新規で驚くべき発見に基づくものである。さらに、本発明者らは、非常に驚くべきことに、非眼組織でのそのような抗瘢痕作用が、創傷治癒を抑制することなく達成され得るということを発見した。それどころか、本発明者らは、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)が、非眼組織における瘢痕を抑制すると同時に、創傷治癒も促進できるということを発見した。
【0031】
本発明の薬剤(または方法)が与えられることで、瘢痕の抑制および創傷治癒の促進の両方が可能となることは、非常に有益である。瘢痕の有害な影響が低減または回避されることのみならず、創傷後の治療期間を縮小することができ(創傷の閉塞が完了するまでに必要な期間が縮小し得るため)、さらに開口状態の創傷に関連し得る合併症の発生率(感染症リスク、痛みや乾燥の続く期間を含む)を抑えることができる。
【0032】
本発明の薬剤または方法により予防、軽減、または抑制が達成される瘢痕は、非眼組織における創傷またはそれに類するものの治癒で生じた瘢痕でもよく、非眼組織における線維性疾患に関連する瘢痕でもよい。一般的には、予防、軽減、または抑制しようとする瘢痕は、創傷の治癒により生じた瘢痕であることが好ましい。
【0033】
ここで、予防、軽減、または抑制される瘢痕は、非病理学的瘢痕(non-pathological scarring)、すなわち、病理学的瘢痕(例えば、ケロイド、肥厚性瘢痕)の生成に関与しない瘢痕であることが好ましい。本発明の薬剤または方法を使用して予防、軽減、または抑制される非病理学的瘢痕は、創傷治癒により生じた非病理学的瘢痕であることがさらに好ましい。
【0034】
本発明者らは、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)を使用することによる瘢痕の予防、軽減、または抑制は、眼以外のあらゆる身体部位およびあらゆる非眼の組織もしくは器官でもたらされると考えている。しかしながら、皮膚は、本発明の薬剤または方法を利用することで、瘢痕が、予防、軽減、または抑制され得る好ましい器官である。皮膚のそのような瘢痕は、皮膚の創傷の治癒により生じるもの、および/または、皮膚に関わる線維性疾患に関連するものとすることができる。
【0035】
皮膚の創傷治癒により生じた瘢痕は、本発明、さらには本発明の薬剤または方法に従う予防、軽減、または治療による利益を享受し得る瘢痕の一形態である。従って、皮膚の創傷、または皮膚の創傷が形成されようとしている部位は、本発明の薬剤または方法を使用することにより、有意に治療することができるということも理解されよう。
【0036】
NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)は、瘢痕に関連し得る部位(瘢痕が、既に発生したか、発生中か、または、発生することが予期される部位)に投与することが好ましい。例えば、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)は、瘢痕が発生しそうな患者の創傷に投与することや、線維症の増加する可能性が認められる部位に投与できる。
【0037】
NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)は、瘢痕のさらなる進行を予防するため、既に存在する瘢痕に投与することができる。NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)を、既に存在する瘢痕に投与することにより、既に形成された瘢痕に関連する瘢痕の度合いも、軽減することができる。このように、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)は、線維性疾患の部位に投与することで、さらなる瘢痕の予防、および/または線維性疾患に関連して既に発生した瘢痕の軽減を図ることができる。上記で検討したすべての実施態様に使用することができる好ましい投与経路としては、局所投与(topical administration/localised administration)が挙げられ、特に、適切に活性化された薬剤(エージェント)の局所注入(localised injection)(例えば、皮内注射(intradermal injection))が挙げられる。
【0038】
特定の仮説に束縛されるものではないが、本発明者らは、本発明の薬剤および方法が、創傷治癒を促進できることは、創傷の収縮(contraction)、および/または上皮再形成(re-epithelialisation)を、促進する結果として生じるものと考えている。
【0039】
創傷の収縮を促進する能力は、創傷の大きさを縮小することから臨床的に有益である。生来的な創傷収縮反応を高めるこの能力は、治療効果をもたらすものであり、肥厚性瘢痕のような場合に発生し得る病理学的収縮とは区別される。収縮が引き起こされ、大きさが縮小した創傷は、創傷の閉塞を意図した処置(例えば、創傷の移植(grafting)または縫合(suturing))に一層馴染み易い。さらに、収縮の促進により生じたより小さい創傷は、収縮が促進されていない創傷より早く治癒することができる。
【0040】
創傷の上皮再形成を促進する能力は、創傷をより早く閉塞させ、機能的な上皮バリアー(epithelial barrier)の形成を早めることから有益である。このことは、多くの組織(移植ドナー部位および皮膚切除術(dermabrasion)もしくは化学剥皮術(chemical peels)を受ける部位を含む)にとってかなり重要であり、感染症および乾燥の予防を促進させる。
創傷治癒を促進できる本発明の物質または方法は、急性または慢性創傷の治療に有益となり得る。
【0041】
特に、本発明の薬剤または方法が与えられて促進される治癒の恩恵を受ける急性創傷として、外科的創傷(特に、美容形成処置および/または移植処置に伴うもの)、化学剥皮術から生じる創傷(または部分層創傷(partial-thickness wounds)を引き起こす他の処置)、および慢性創傷への移行を高める急性創傷が含まれる。慢性創傷形成の素因を有すると考えられる創傷には、頸骨前裂傷(pre-tibial laceration)、さらには、糖尿病患者、高齢患者および多剤療法患者の創傷が挙げられる。
【0042】
本発明の薬剤または方法が、その治癒を促進するために与えられる慢性創傷として、糖尿病性潰瘍(diabetic ulcers)、褥瘡性潰瘍(decubitus ulcers)、静脈鬱滞性潰瘍(venous ulcers)のような潰瘍が挙げられる。
【0043】
本明細書で、本発明を説明するために使用した様々な用語は、後ほど解説する。以下で説明する定義および指針(ガイダンス)は、適宜、特に文脈上必要な場合には、本明細書の他の箇所でさらに詳述する。
【0044】
「核内ホルモン受容体NR4Aサブグループに含まれるメンバーのアゴニスト」
受容体アゴニストとは、細胞受容体(レセプター)の活性化を介して細胞内の反応を直接引き起こすことができる化合物である。本発明では、「核内ホルモン受容体NR4Aサブグループに含まれるメンバーのアゴニスト」(「NR4Aアゴニスト」と簡略化することがある)は、特に記載のない限り、当該アゴニストが瘢痕を抑制することができる限り、NR4Aサブグループに含まれるあらゆる単一または複数のメンバーを包含するものと解すべきである。瘢痕に対するそのような抑制を評価すること(さらに必要に応じて定量化すること)ができる好ましい方法は、本明細書の他の箇所で検討しており、巨視的および/または微視的な視覚的アナログスケール(Visual Analogue Scale;VAS)が含まれる。
【0045】
ヒトにおいて、核内ホルモン受容体のNR4Aサブグループは、3つのメンバー(NR4A1; NR4A2; およびNR4A3)から構成される。これらはすべて別の命名があり、本明細書の冒頭部で述べている。NR4Aサブグループは、いわゆる「オーファン受容体(orphan receptors)」であるが、これは内因性リガンドが知られていないか、または少なくとも一般的な合意が得られていないからである。
【0046】
本発明では、「核内ホルモン受容体NR4Aサブグループに含まれるメンバーのアゴニスト」とは、NR4Aサブグループの1以上のメンバーにより遺伝子転写(gene transcription)を活性化できる任意のアゴニストから構成される。好ましいアゴニストは、例えば、NR4A1およびNR4A3のうち1つまたは両方により遺伝子転写を活性化できるものである。
【0047】
NR4Aサブグループに含まれるメンバーのアゴニストとして使用できる様々な化合物は、先行技術から公知であり、さらに、本発明の薬剤または方法で使用できる適切なアゴニストは、当業者にとっては明らかであろう。本明細書の他の箇所で述べているように、6-メルカプトプリンは、本発明の薬剤または方法で使用されるNR4Aアゴニストとして好ましい。6-メルカプトプリン1水和物は、本発明の薬剤または方法で使用される形態として好ましいが、6-メルカプトプリンのあらゆる治療に効果的な水和物または塩を使用することもできる。
【0048】
6-メルカプトプリンは、多くの互変異性形態で存在することができ、当業者であれば、これらの形態、またはこれらの形態の混合物であれば、本発明の薬剤または方法に使用できることは理解できる。単なる例示であるが、 3,7‐ジヒドロプリン‐6‐チオン(3,7-dihydropurine-6-thione)は、本発明の薬剤または方法に使用できる6-メルカプトプリンの好ましい互変異性体(tautomer)である。
【0049】
関連技術で、対象化合物がNR4Aアゴニストであるか否か示されていない場合には、該化合物が、当業者に公知の適切な分析評価法(アッセイ)を用いて、NR4Aサブグループの1以上のメンバーにより遺伝子転写を活性化する能力を調べることができる。これらには、以下に記載された分析評価法が挙げられるが、これらに限定されるものではない:
i) Zetterstrom R. H., Solomin L., Mitsaidis T., Olson L., Perlmann T., Mol. Endo., 1996, 10, 1656-1666; および
ii) Ordentlich P., Yan Y., Zhou S., and Heyman R., Journal of Biological Chemistry., 2003, 278, 24791-24799.
これらの文献の開示内容は、特に対象化合物のNR4Aアゴニスト活性を評価する分析法に関する部分に限定するが、参照することにより本文の一部に援用される。
【0050】
概説すると、i)で述べている分析法は、CMVプロモーターの制御下でNurrl発現性プラスミドにより、安定的にトランスフェクト(形質移入)されたMN9D細胞を使用するものである。ホタルルシフェラーゼ遺伝子発現(firefly luciferase expression)がNR4A2特異性DNA結合要素(NR4A2-specific DNA binding element)の多コピーにより制御されるようにしたレポータープラスミドで細胞をトランスフェクトすることにより株化細胞(cell line)が形成される;このようにして、NR4A2アゴニストは、ルシフェラーゼ発現を増加させる。対象化合物がNR4Aアゴニストであるかを識別するために、対象化合物をMN9D細胞と様々な濃度でインキュベーション(培養)した。インキュベーションから24時間後に、細胞を処理してルシフェラーゼ活性をアッセイした。CVl細胞を使用する同様のルシフェラーゼレポーターアッセイは文献ii)に記述されている。
【0051】
本発明の薬剤または方法の使用に適するNR4Aアゴニストは、NR4Aサブグループの1以上のメンバーにより遺伝子転写を活性化できればよく、実際には、NR4Aサブグループのメンバーに結合しなくてよいということは、当業者にとって、理解されることである。6-メルカプトプリン(本発明の薬剤または方法に使用されるNR4Aアゴニストとして特に好ましい)は、NR4A核内ホルモン受容体(当該受容体に結合しない)により遺伝子転写を活性化できるNR4Aアゴニストの一例である。
【0052】
本発明の薬剤または方法に使用される治療に効果的なNR4Aアゴニストは、適切な対照(コントロール)と比較して、少なくとも10%の瘢痕を抑制する効果が得られるアゴニストである。好ましくは、治療に効果的なNR4Aアゴニストは、適切な対照(コントロール)と比較して、少なくとも20%の瘢痕を抑制できる量であり、より好ましくは、少なくとも50%、更に好ましくは、少なくとも75%、更に一層好ましくは、少なくとも90%の瘢痕を抑制できる量である。最も好ましくは、治療に効果的なNR4Aアゴニストは、適切な対照(コントロール)と比較して、100%の瘢痕を抑制できる量である。
【0053】
特に、本発明の薬剤または方法としての使用に適する治療に効果的なNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)は、治療された瘢痕に存在する細胞外マトリックス組成物(extracellular matrix components;ECM)(例えば、コラーゲン)の量および/または配向を変化させることができ、それにより瘢痕を抑制できるものである。本発明の薬剤または方法の使用に適する治療に効果的なNR4Aアゴニストは、ECM構造が未創傷の組織のものと同様である治療瘢痕を生み出せるものである。
【0054】
治療に効果的なNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)は、該アゴニストが投与された部位の瘢痕を抑制できることが好ましい。そのような部位は、創傷または創傷の治癒により生じた瘢痕とすることができる。また、この他としては、線維性疾患の部位とすることもできる。
【0055】
NR4Aアゴニストそのものではないが、変換されてNR4Aアゴニストを生成できる多くの化合物が知られている。一般的に、本発明の薬剤または方法の使用に適するNR4Aアゴニストは、「直接的な(directly)」NR4Aアゴニスト(つまり、患者へ投与する形態において、瘢痕を抑制したい対象の内部で変換または代謝する必要がなく、NR4A活性をアゴナイズ(agonise)できる)として機能できる化合物であることが好ましい。本発明者らは、本手法における「直接的な(directly)」NR4Aアゴニストの使用が、多くの理由から有益であると考えている。
【0056】
本発明の薬剤または方法においては直接的なNR4Aアゴニストを使用することにより、瘢痕の部位に与えるNR4Aアゴニストの量を、間接的なアゴニストを使用する場合よりも、より大きな度合いで制御することができる。瘢痕を抑制しようとする部位で、間接的なNR4Aアゴニストが与えられることにより生成されるNR4Aアゴニストの量は、活性なアゴニストが不活性なプロドラッグ(pro-drug)から生成される割合、および、活性なアゴニストが該部位から代謝的に除去される割合(例えば、不活性な代謝物質(metabolite)を生成する変換による)の両方により決定できる。間接的なNR4Aアゴニストの生成および代謝の割合が様々であることは、瘢痕を抑制したい部位において、治療に効果的な量のNR4Aアゴニストが蓄積されていない状態となり得る。
【0057】
一般に、本発明の薬剤または方法に使用されるNR4Aアゴニストは、該アゴニストが投与された患者の体内で相対的に長い半減期を有することが好ましい。
2以上の異なるNR4Aアゴニストを調合したものを、本発明の薬剤または方法に使用することで、瘢痕を抑制することができる。むしろ、そのような使用は、本発明の好ましい実施態様となる。
【0058】
「治療に効果的な量」(Therapeutically effective amounts)
NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)の治療に効果的な量とは、NR4Aアゴニストが、瘢痕を抑制できるあらゆる量である。そのような瘢痕は、創傷に関連するものでもよいし、線維性疾患に関連するものでもよい。
【0059】
NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)の治療に効果的な量とは、NR4Aアゴニストが、それらが投与された創傷(もしくは創傷が形成されようとしている部位)または線維性疾患(もしくは線維性疾患が発生しそうな部位)の瘢痕を抑制できる量であることが好ましい。
【0060】
本発明の薬剤の治療に効果的な量とは、瘢痕を抑制できる本発明の薬剤のあらゆる量である。この瘢痕の抑制は、本発明の薬剤が投与された部位でなされることが好ましい。
当業者であれば、生来的な治療活性がほとんど無いNR4Aアゴニストであっても、治療に効果的な量が投与されれば、治療に効果があるということも理解される。
【0061】
本発明の薬剤または方法に使用されるNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)の治療に効果的な量は、創傷治癒を抑制することなく瘢痕を抑制できる量であることが好ましい。より好ましくは、本発明の薬剤または方法に使用されるNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)の治療に効果的な量は、瘢痕を抑制でき、さらに創傷治癒を促進できる量が好ましい。
【0062】
本発明の薬剤または方法に使用されるNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)の治療に効果的な量は、瘢痕を抑制できると共に非細胞毒性(non-cytotoxic)であり、このため、治癒反応に寄与する細胞の機能を損傷しない量である。本発明の薬剤または方法に使用されるNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)の治療に効果的な量は、瘢痕を抑制できると共に、瘢痕が抑制される部位での線維芽細胞(fibroblast)の機能を損傷しない量である。
【0063】
NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)に関する治療に効果的な量は、関連する対照(コントロール)と比較して、瘢痕を少なくとも10%抑制する効果が得られるアゴニスト又は薬剤の量であることが好ましい。NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)、または、本発明の薬剤の治療に効果的な量は、好ましくは、関連する対照(コントロール)と比較して、瘢痕を少なくとも20%抑制できる量であり、より好ましくは、瘢痕を少なくとも50%、更に好ましくは、瘢痕を少なくとも75%、更に一層好ましくは、瘢痕を少なくとも90%抑制できる量である。NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)、または、本発明の薬剤の治療に効果的な量は、最も好ましくは、関連する対照(コントロール)と比較して瘢痕を100%抑制できる量である。
【0064】
適切な対照(コントロール)を選定することは、当業者にとっては自明であるが、その方針としては、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)で治療した創傷治癒における瘢痕抑制を評価したい場合には、適切な対照(コントロール)として、未治療または対照(コントロール)治療した創傷が挙げられる。NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)を、既に存在する瘢痕に投与することで達成される瘢痕抑制を評価したい場合には、未治療の瘢痕が適切な対照(コントロール)に含まれる。
【0065】
従って、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)、または、本発明の薬剤の治療に効果的な量は、未治療または対照(コントロール)の創傷の治癒で生じた瘢痕と比較して、治療された創傷の治癒から生じた瘢痕を、少なくとも10%抑制する効果が得られる量とすることができる。「治療された創傷(treated wounds)」および「未治療の創傷(untreated wounds)」もしくは「対照(コントロール)創傷(control wounds)」とは、本明細書の他の箇所で定義している。NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)、または、本発明の薬剤の治療に効果的な量は、未治療または対照(コントロール)の創傷の治癒で生じた瘢痕と比較して、治療創傷の治癒により生じた瘢痕を、好ましくは、20%抑制できる量であり、より好ましくは、少なくとも50%抑制できる量であり、さらに好ましくは、少なくとも75%抑制できる量であり、さらに一層好ましくは、少なくとも90%抑制できる量である。
【0066】
これとは別に、線維性疾患に関連する瘢痕の場合では、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)、または、本発明の薬剤の治療に効果的な量は、線維症での比較可能な未治療部位に存在する総ての瘢痕と比較して、線維症の治療部位の瘢痕を、少なくとも10%軽減する効果が得られる量とすることができる。「線維症の治療部位(treated site of fibrosis)」および「線維症の未治療部位(untreated site of fibrosis)」とは、本明細書の他の箇所でさらに定義している。NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)、または、本発明の薬剤の治療に効果的な量は、比較可能な線維症の未治療部位に存在する瘢痕と比較して、瘢痕を、少なくとも20%軽減できる量が好ましく、より好ましくは、少なくとも50%軽減できる量であり、更に好ましくは、少なくとも75%軽減できる量であり、更に一層好ましくは、少なくとも90%軽減できる量である。
【0067】
瘢痕(さらには瘢痕の抑制)を評価するための適切な実験モデルまたは臨床モデルは、当業者には公知なものである。適切な例は、本明細書の他の箇所で述べている。
瘢痕(創傷治癒に関連するもの、または線維性疾患に関連するもののいずれでもよい)の適切な実験モデル、および、このようなモデルで生じる瘢痕を評価する場合に使用することができる適切な対照(コントロール)は、本明細書の他の箇所で詳述している。
【0068】
瘢痕範囲の定量評価(本明細書の至る箇所で述べているように、瘢痕の抑制を示すパーセント値の生成を可能にする)は、任意の適切な手順を使用して実施することができる。このような定量評価は、視覚的アナログスケール(Visual Analogue Scale;VAS)を使用して記録することが好ましい。適切なVASは、巨視的または微視的な瘢痕評価に使用することが好ましい。巨視的または微視的のいずれかの瘢痕評価に考慮される適切な基準は、本明細書の他の箇所で述べている。瘢痕評価は、瘢痕の微視的構造が考慮されていることが好ましい。
【0069】
NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)の治療に効果的な量は、治療された瘢痕のECM組成物(例えば、コラーゲン)の総量および/または配向を治療的に変化できる量であることが好ましい。
【0070】
本発明の薬剤は、適切な量および適切な経路で投与されることで、治療に効果的な量のNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)を与えることができる。本発明の薬剤は、1回以上の服用単位(dosage units)で与えられることが好ましい。各々の服用単位としては、治療に効果的な量のNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)、または、このような治療に効果的な量を既知の割合で分けたもの、もしくは複合したものが含まれる。
【0071】
上述したように、本発明の薬剤または方法に使用される治療に効果的な量のNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)は、治療された創傷の治癒を促進することができる。本発明における創傷治癒の促進とは、対照(コントロール)治療または未治療の創傷で得られる治癒率と比較して、治療された創傷の治癒率を上昇させることと理解することができる。本発明で達成される創傷の治癒率は、当業者には公知な任意の適切な創傷治癒モデルを使用して、容易に、対照(コントロール)治療または未治療の創傷で得られたものと比較することができる。創傷治癒率を評価することができる適切なモデルは、本明細書の他の箇所で述べている。
【0072】
本発明の薬剤または方法を使用して達成される創傷の治癒促進は、対照(コントロール)治療又は未治療の創傷よりも、治療創傷の治癒が少なくとも5%早いことが好ましく、好ましくは、少なくとも10%早いことであり、より好ましくは、少なくとも15%、20%、又は25%早いことである;更に好ましくは、少なくとも50%早いことであり、さらに一層好ましくは、少なくとも75%早いことであり、最も好ましくは、100%(以上)早いことである。創傷治癒の促進を、治癒率の改善を評価することで定量化することができる適切な方法は、本明細書の他の箇所で述べている。
【0073】
本発明者らは、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)が、瘢痕を抑制でき、幅広い服用(これまでに調べられたあらゆる服用が含まれる)を通じて、創傷治癒を促進できることを見出した。
【0074】
本発明者らは、創傷または線維症の1センチメートルあたり、およそ0.1ngから1500ngまでの範囲のNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)を投与すること(単一回の治療として)が、本発明の治療に効果的な量を構成すると考えている。NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)の治療に効果的な量は、単一回の治療として、創傷または線維症の1センチメートルあたり、約1ngから約1000ngまでの範囲が好ましい。
【0075】
本発明者らは、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)が、創傷または線維症の1センチメートルあたり、約0.59pmolから8.85nmol(単一回の治療として)のアゴニストで治療に効果的な量を投与することができると考えている。NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)の治療に効果的な量は、創傷または線維症の1センチメートルあたり、単一回の治療として、約5.9pmolから約5.9nmolまでの範囲であることが好ましい。
【0076】
これまでに検討したNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)の治療に効果的な量は、およそ24時間にわたって(およそ24時間の間に)創傷または線維症部位に、2回投与されることが好ましい。本発明者らは、これらの治療に効果的な量(すなわち、およそ1.18pmolから17.7nmolまでの範囲;さらに好ましくは、約11.8pmolから11.8nmolまでの範囲)が、単一の治療の全期間にわたって投与される治療に効果的な量としても好ましい例と考えている。
【0077】
NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)の治療に効果的な好ましい量は(一般的なものか、または、特定の選択されたアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)に関するかのいずれであっても)、インビトロモデル、インビボモデル、および、瘢痕を測定するための様々なパラメタに関して作成された適切な効能評価(本明細書の他の箇所で述べている)を利用して調べることができる。
【0078】
当業者であれば、これまでに提示した情報は、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)の量に関するもので、瘢痕を抑制するために、創傷または線維性疾患の部位に投与する場合のものであるが、これらは、熟練した開業医(practitioner)により、患者ごとの特定の臨床的要求に応じて変更され得ることは理解される。医者(physician)(例えば、当該患者の治療に責任を持つ医者)は、適切な変形例を経験的に決めることができるが、これは、次のような要素(これらに限定されないが)により決めることができる:すなわち、この要素としては、治療しようとする組織の特性、治療しようとする創傷もしくは線維症の面積および/もしくは深さ、創傷もしくは線維症の重症度、治癒をこじらせるか、または瘢痕を大きくしそうな要素の有無(例えば、感染症)、抑制しようとする瘢痕の特性、達成される創傷治癒の促進レベル、および、既に達成された瘢痕の抑制を考慮することが挙げられる。
【0079】
NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)が、局所投与(topical administration)で投与される場合には、その投与される量は、組織または器官(局所組成物が投与される)の透過性(permeability)に応じて変更することができる。従って、相対的に不透過(impermeable)な組織または器官の場合には、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)の投与量を増やすことが好ましい。このように増やされたNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)の量も、やはり治療に効果的な量となり得るが、これには、瘢痕を抑制しようとする組織または器官に取り込まれた薬剤(エージェント)の量が、治療に効果的であることが必要である。
上記に提示した指針は、使用される活性化された薬剤(エージェント)の服用および量に関して、本発明の薬剤、さらにまた本発明の方法のいずれにも適用できる。
【0080】
本発明者らは、1つの実施態様として、6-メルカプトプリンが、1ng/100μl濃度の注射可能な水薬(solution)として投与され、このような水薬の100μl(創傷または線維症の1センチメートルあたり)を、約24時間あたりに投与することが特に好ましいということを発見した。水薬は、皮内注射(intradermal injection)で与えられるとともに、2日間以上にわたって与えられることが好ましい。
【0081】
他の好ましい実施態様としては、6-メルカプトプリンが、1000ng/100μl濃度の注射可能な水薬(solution)として投与され、このような水薬の100μl(創傷または線維症の1センチメートルあたり)を、約24時間あたりに投与する。水薬は、皮内注射で与えられるとともに、2日間以上にわたって与えられることが好ましい。
【0082】
これまでの例では、薬剤の具体量(創傷の直線cmあたり)の投与を検討してきたが、この量の投与は、治療しようとする創傷の片端、または両端のいずれに対しても行うことができる。(すなわち、100μlの薬剤に関する場合では、100μlを創傷の縁に投与することができ、また、50μlを創傷の縁(互いに接合する縁)の両方に投与することもできる。)
【0083】
「創傷または線維症のセンチメートル」(centimetre of wound or fibrosis)
本発明に関連して「創傷のセンチメートル」(centimetre of wound)または「線維症のセンチメートル」(centimetre of fibrosis)とは、予防、軽減、または抑制しようとする部位の大きさを測定することができる単位である。本発明では、創傷のセンチメートルとは、創傷が形成されようとしている部位のみならず、創傷が生じた部位、または、創傷が生じた部位の両方の縁(margins)(そのような縁が存在する場合には)について言及するものとする。
【0084】
創傷のセンチメートルとは、全体または一部に創傷を受けた身体表面の平方センチメートルから成るものとする。例えば、2センチメートルの長さで1センチメートルの幅(すなわち、総表面積が2平方センチメートル)の創傷は、「2創傷センチメートル(two wound centimetres)」となり、2センチメートルの長さで2センチメートルの幅(すなわち、総表面積が4平方センチメートル)の創傷は、4創傷センチメートルとなる。さらに、2センチメートルの長さを有するが、幅が無視できる(すなわち、表面積が無視できる)直線状の創傷が、2平方センチメートルの身体表面を通って存在している場合には、本発明では「2創傷センチメートル」とみなす。
【0085】
線維症のセンチメートルも同様に説明することができ、これには、瘢痕が発生した身体の平方センチメートル(線維性疾患の結果、または創傷治癒の結果としてかのいずれでもよい)だけでなく、瘢痕が線維性疾患の結果として生じることが予想される平方センチメートルが含まれる。
【0086】
創傷センチメートルまたは線維症のセンチメートルで示す部位の大きさは、一般的に、その創傷が、緩和状態(relaxed state)(すなわち、身体が安静な状態のもとで、測定部位のある身体部位が、所定の位置に置かれた状態)で、評価を行うべきである。皮膚の創傷の場合には、当該大きさは、その皮膚が外部からの張力を受けていない場合に評価を行うべきである。
【0087】
「本発明の薬剤」(Medicaments of the invention)
本発明では、本発明の薬剤とは、本発明のあらゆる観点または実施態様に従って調製(製造)されるあらゆる薬剤が含まれる。
【0088】
本発明の薬剤は、一般的に、薬学的に許容し得る賦形剤(excipient;ベヒクル)、希釈剤(diluent)、または基材(carrier)を、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)に加えて構成される。
【0089】
本発明の薬剤は、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)から成る注射用溶液(injectable solution)の形態が好ましい。局部注射(localised injection)(特に、皮内注射(intradermal injection))に適する溶液は、本発明の薬剤の特に好ましい形態となる。
【0090】
「好ましい身体部位」
本発明者らは、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)を使用することによる瘢痕の予防、軽減、または抑制は、あらゆる身体部位およびあらゆる組織もしくは器官でもたらされると考えている。皮膚は、本発明の薬剤または方法を利用することで、その瘢痕が、予防、軽減、または抑制され得る好ましい部位である。本発明を限定するものではないが、以下の説明では、特定の組織および身体部位(本発明の薬剤または方法を使用する瘢痕の抑制により恩恵を受けることができる箇所)に関する指針を提供する。
【0091】
瘢痕を抑制するNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)の使用は、以下に述べるような治療を施された外傷領域の美容的外観を、顕著に改善することができる。美容に関する考察は、多くの臨床状況(clinical context)で重要である(特に、瘢痕が、人目につきやすい身体部位(例えば、顔、首および手)に形成されるような場合)。
このため、好ましい実施態様として、形成された瘢痕の美容的外観を改善することが望まれている部位の瘢痕の抑制に本発明の薬剤および方法を使用する。
【0092】
このような美容的影響に加えて、皮膚の瘢痕は、このような瘢痕を受ける患者を悩ます多くの害の原因となる。例えば、皮膚の瘢痕は、物理的および機械的機能の低下と関連することがあるが、これは特に、収縮性瘢痕(contractile scars)、および/または、瘢痕が関節(joint/articulation)を横断して形成される場合である。この種の収縮性瘢痕(contractile scar)で見られる収縮(contraction)は、治癒プロセスの正常部分として生じる創傷収縮よりも明確であることから、このような正常に生じた収縮と鑑別することは、治癒プロセスが完了した後(すなわち、創傷の閉塞後)も長期にわたり残存しているかという見方でも行える。関節部位の瘢痕の場合では、瘢痕化した皮膚の機械的特性が変質し(瘢痕化していない皮膚と対比して)、さらに瘢痕の収縮(contraction)が起き、それらの結果として、関節(joint)の可動域が大幅に制限され得る。このため、好ましい実施態様として、身体の関節を覆う創傷の瘢痕を抑制するために本発明の適切な薬剤および方法を使用することができる(このような瘢痕は、関節を覆う創傷の治癒により生じたもの、または、関節を覆う線維性疾患に関連するもののいずれでもよい)。その他の好ましい実施態様としては、本発明の適切な薬剤および方法は、収縮性瘢痕の形成リスクが高い瘢痕を抑制するために使用することができる(創傷の治癒により生じた瘢痕の場合には、子供の創傷、および/または、火傷で生じた創傷が含まれる)。
【0093】
瘢痕形成の程度、さらには、美容に関する程度もしくは他の損傷の程度(瘢痕により引き起こされ得る)は、瘢痕が形成された部位の張力(さらに、創傷を治癒することにより生じる瘢痕の場合では、創傷が形成された部位の張力)のような要素にも影響され得る。例えば、相対的に強い張力をもつ皮膚(例えば、胸部を覆う皮膚、または、張力線(line of tension)に関連する皮膚)は、他の身体部位よりも、さらに危険な瘢痕を生成しやすいということが知られている。このようなことから、好ましい実施態様として、本発明の適切な薬剤および方法は、皮膚張力の強い部位の瘢痕を抑制するために使用することができる。例えば、本発明の薬剤または方法は、皮膚張力の強い部位にある創傷の治癒により生じた瘢痕を抑制するために使用することができる。
【0094】
皮膚以外の組織も、瘢痕(創傷または線維性疾患のいずれかに関連する)を被り得る。本発明の薬剤または方法は、これらの組織における創傷または線維性疾患に関連する瘢痕を抑制するためにも使用することができる。
【0095】
腹膜(peritoneum)(内部器官の上皮膜(epithelial covering)、および/または、体腔(body cavity)内部)に関係する創傷を治癒することで、癒着(adhesions)が引き起こされることも多い。このような瘢痕は、帯状の線維性瘢痕組織により形成され、腸(intestines)のループ(loops)を互いに結合させるか、腸を他の腹部の臓器と結合させるか、または、腸を腹壁(abdominal wall)と結合させてしまう。癒着は、腸の切片(section)を外部に引き抜くことがあることから、食物の通過を塞ぐことがある。癒着は、婦人科医学的組織(gynaecological tissues)に関連する通常の手術結果でもある。癒着形成の発生頻度は、感染(例えば、バクテリア感染)または放射能被爆を受けた創傷で増加し得る。
【0096】
末梢神経および中枢神経組織の瘢痕は、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)を使用することにより抑制することができる。このような瘢痕は、外科手術または(心的)外傷(trauma;トラウマ)から生じることがある。神経組織における瘢痕の抑制は、神経機能の可能性分析(future assays)(例えば、知覚または運動テスト)を用いて評価することができ、瘢痕の抑制は、そのようなテスト結果の改善として示される。
【0097】
血管の瘢痕(例えば、吻合手術(anastomotic surgery)の事後に生じる)は、筋内膜肥厚(myointimal hyperplasia)および血管内腔(blood vessel lumen)の体積減少(再狭窄(restenosis))をもたらす可能性がある。治療に効果的な量のNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)は、このような瘢痕を抑制するためにあらゆる適切な手段を用いて、血管に投与することができる。
【0098】
本発明の薬剤または方法は、腱(tendons)および靱帯(ligaments)の瘢痕を抑制するために使用することができる。このような瘢痕は、外科手術または(心的)外傷(このタイプの組織と関連する)の事後に生じ得るものである。
【0099】
本発明の薬剤(エージェント)は、一連の「内部(internal)」の創傷または線維性疾患(すなわち、体外表面ではなく体内で発生する創傷または線維性疾患)の瘢痕を、抑制するために使用することができる。内部創傷の例としては、浸透性創傷(penetrative wounds)(皮膚を通過し、より内部の組織にまで達している創傷)、および、体内で実施される外科手術処置に関連する創傷が挙げられる。
【0100】
「好ましい創傷」
本発明者らは、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)を使用した薬剤または方法により、あらゆるタイプの創傷の瘢痕を、有意に抑制することができると考えている。
特定の創傷の例として、その瘢痕を、本発明の薬剤および方法を使用して抑制することができるものには、次のようなものが挙げられるが、これらに、本発明が限定されるものではない:すなわち、皮膚の創傷;前嚢収縮(capsular contraction)(豊胸手術(breast implant)の周辺にも共通する)となり得る創傷;血管の創傷;中枢および末梢神経系の創傷(瘢痕の予防、軽減、または抑制により、神経細胞再結合(neuronal reconnection)および/または神経細胞機能(neuronal function)を促進し得る箇所);腱(tendons)、靱帯(ligaments)または筋肉の創傷;口腔(oral cavity)の創傷(唇(lips)および口蓋(palate)の創傷(例えば、唇または口蓋の治療により生じる瘢痕の抑制を行う創傷)が含まれる);内部器官(例えば、肝臓、心臓、脳、消化組織(digestive tissues)および生殖組織(reproductive tissues))の創傷;体内腔(body cavities)(例えば、腹腔(abdominal cavity)、骨盤腔(pelvic cavity)および胸腔(thoracic cavity))(瘢痕の抑制が、癒着形成率および/または形成された癒着の大きさを、低下し得る箇所)の創傷;外科的創傷(特に、美容的処置(例えば、瘢痕整形手術(scar revision))に関連する)。本発明の薬剤および方法は、皮膚の創傷に関連する瘢痕を予防、軽減、または抑制するために使用することが特に好ましい。
【0101】
本発明者らは、本発明の薬剤および方法が、瘢痕を抑制する効能により、癒着(adhesion)(例えば、骨盤(abdomen)、脊椎(pelvis)、胸部(thorax)または腱(spine)に発生する)の発生を低減することができると考えている。このため、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)を使用して、癒着の形成を予防することは、本発明の好ましい実施態様となる。また、本発明の薬剤または方法を使用して、腹膜(peritoneum)に関わる瘢痕を抑制することは、本発明の好ましい他の実施態様となる。
【0102】
本発明の薬剤および方法は、感染創または放射能被爆創傷の治癒で生じ得る瘢痕を抑制することにも有用となり得る。この種の創傷は、慢性創傷に進行するリスクが高いことから、創傷治癒を促進できる本発明の薬剤および方法が特に有益なものとなり得る。
【0103】
切開創(切開性創傷)(incisional wounds)は、そこから生じた瘢痕が、本発明の方法または薬剤を用いて、抑制することができる好ましい創傷に含まれる。外科的切開創は、その瘢痕が、本発明の薬剤および方法を使用して抑制することができるという点で、創傷の特に好ましいグループに含まれる。
【0104】
本発明の薬剤および方法が、美容的手術に関連する瘢痕の抑制に使用されることは、好ましい実施態様である。美容的手術の大部分が、待期的手術(elective surgical procedures)から成ることから、直ちに可能となることは、治療に効果的な量のNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)を、手術前に投与すること、および/または、引き続き直ちに創傷を閉塞すること(例えば、縫合(sutures)を用いる)であり、このような使用は、本発明の特に好ましい実施態様となる。待期的手術の場合では、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)の投与経路は、皮内注射(intradermal injection)が好ましい。このような注射は、隆起した小疱(bleb)を形成することがあるが、これらは、その後に手術の一環として切開することができる。あるいはまた、小疱は、創傷が閉塞した後に(例えば、縫合による)、創傷の縁に注射されることで隆起することがある。
【0105】
外科処置による美容に関する成績は、形成外科(plastic surgery)でも重視されている。このようなことから、本発明の方法または薬剤を使用して、形成外科に関連する瘢痕を抑制することは、本発明のさらに好ましい実施態様となる。
【0106】
瘢痕整形手術(scar revisions)とは、既存の瘢痕を「修正(revised)」(例えば、切除(excision)または再統合(realignment))することで、既存の瘢痕により引き起こされる美容的および/または機械的破壊の抑制を図るものである。瘢痕整形手術は、既存の瘢痕を切除(removal)することを含むが、これは、その箇所にある瘢痕を、より目立たないもの、または、より害の少ないものとするためである。瘢痕整形手術に関連する処置における本発明の薬剤または方法は、本発明の好ましい使用となる。
【0107】
瘢痕の整形手術に利用し得る外科処置として、創傷および瘢痕の再統合(realignment)を、その張力を低減させるようにして可能とする多くのものがある。おそらく、これらのうち最もよく知られているものは、「Z-plasty」(Z形成術)であるが、これは、2つのV字型の皮弁(flaps of skin)を置き換えて、張力線(line of tension)を張り替えるものである。さらに好ましい実施態様として、本発明の方法または薬剤は、美観を損なう瘢痕の外科整形中に、創傷の瘢痕を抑制するために使用することができる(例えば、Z-plastyの使用による)。
【0108】
一般に、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)を瘢痕の抑制に使用する本発明の薬剤または方法は、非病理学的瘢痕(例えば、ケロイド、肥厚性瘢痕等に対して、病歴が無いか、または、疾患感受性が無い患者に生じる瘢痕)の抑制に使用することが好ましい。病理学的瘢痕の病歴、または疾患感受性は、患者の臨床歴を参照するか、または病理学的瘢痕の素因(体質)に関連する既知の遺伝標識を用いることにより、確認することができる。
【0109】
肥厚性瘢痕またはケロイドを外科的に整形することが、臨床的に必要とされる場合も多くあるが、そのような整形の目的は、相対的に酷い病理学的瘢痕を、あまり目立たない非病理学的瘢痕と取り替えることにある。このような整形は、病理学的瘢痕の発生率を低減するように設計することができるが、これには、例えば、整形瘢痕の部位での張力を低減すること、または、瘢痕を抑制する他の適切なステップを採用することによりなされる。このようなことから、ここで述べた薬剤または方法を、病理学的瘢痕の外科整形で生じた創傷から引き起こされる非病理学的瘢痕の抑制に使用することは、本発明のさらに好ましい実施態様となる。
【0110】
火傷(本発明では、次の熱傷も含まれる;熱い液体または気体;「冷凍焼け(freezer burn)」外傷(極低温にさらされることによる);放射線熱傷(radiation burns);化学熱傷(chemical burns);腐蝕剤(caustic agents)により引き起こされる外傷)により生じた創傷は、人々を苦しめながら広い領域に拡大し得るものと認識されている。このため、火傷は、瘢痕形成を引き起こすことがあり、その範囲は、患者の身体の大部分にまで及んでしまう。このように火傷が広い範囲に拡大することは、形成された瘢痕が美容的に重要な領域(例えば、顔、首、腕、または手)または機械的に重要な領域(特に、関節を覆う領域または囲む領域)を覆ってしまうリスクを増大させる。熱い液体により引き起こされた火傷は、子供を苦しめることも多く(例えば、なべ、やかんまたは同類のものをひっくり返した結果として)、子供は相対的に体格が小さいがために、特に、身体領域の広い範囲にわたり、大きな損傷を被る傾向がある。さらに、火傷、そのうち特に子供が被るものには、収縮性瘢痕(例えば、肥厚性瘢痕)を生じるリスクが高い。これらは、美容的および機械的な損傷(火傷後の瘢痕に関連する)の両方を、増大させ得る。このようなことから、本発明の薬剤および方法は、好ましい実施態様として、火傷により生じた瘢痕の抑制に使用することができる。
【0111】
NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)が、瘢痕を抑制する効能は、移植処置(grafting procedures)に関連する瘢痕を抑制することに、非常に有用となる。特に、本発明の薬剤および方法は、移植処置に関連する創傷により生じた瘢痕を、抑制するために使用することができる。本発明の薬剤および方法を使用して瘢痕を抑制することは、移植提供(ドナー)部位および移植受容(レシピエント)部位の両方に対して有効である。本発明の薬剤および方法の瘢痕抑制効果は、移植の際に組織が切除された部位で発生し得る瘢痕か、または、移植組織の治癒および融合に関連し得る瘢痕も抑制できることである。本発明者らは、本発明の方法および薬剤が、移植利用皮膚(grafts utilising skin)、人工皮膚(artificial skin)、または皮膚代用物(skin substitutes)に関連し得る瘢痕の抑制にも有益であると考えている。
【0112】
また、本発明者らは、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)が、被包化(encapsulation)に関連する瘢痕の抑制にも、使用することができると考えている。被包化とは、瘢痕の一形態であり、これは、移植組織片物質(implant materials;インプラント)(例えば、生物活性物質(biomaterial;バイオマテリアル))が、体内導入された部位の周囲で発生する。被包化は、豊胸(breast implants)に関連して高頻度で起きる合併症であることから、本発明の薬剤または方法を使用して、このような状況のもとで、被包化を抑制することは、本発明の好ましい実施態様となる。
【0113】
本発明の薬剤および方法、創傷の治癒により生じる瘢痕を抑制することができるが、この創傷としては、次のような創傷が挙げられる:すなわち、(一般的に「掻爬(擦り傷)」(scrapes)と呼ばれ、これは、相対的に広範囲に及ぶことが多い浅い傷である);裂離(avulsion)(体構造の全体または一部が、その部位から強制的に引っ張られる場合);圧挫創(crush wounds);切開創(incisional wounds);裂傷(lacerations);穿刺(punctures);銃弾創(missile wounds)。すべてのこれらの異なるタイプの創傷は、皮膚(他の組織または器官の間にある)を傷つけ、さらには、程度の大小に違いこそあれ、瘢痕化してしまうことがある。
【0114】
外科処置により生じる創傷は、最も一般的には、切開創(incisional wounds)であり、これらは、瘢痕の原因となることが多い。このようなことから、本発明の薬剤および方法は、好ましい実施態様としては、切開創(例えば、外科的創傷)により生じた瘢痕の抑制に使用することができる。毎年8400万件の皮膚の切開を伴う外科処置が、世界中で実施されていると考えられている。このため、本発明の薬剤および方法の潜在的な市場や、それによりもたらされる潜在的な利益は、実際のところかなり大きいことが理解される。
【0115】
本発明者らは、本発明の薬剤または方法が、全層(full thickness)または中間層(partial thickness)の創傷(その上皮層(epithelial layer)が、全部的または部分的に易感染性(compromised)となっている各々の創傷)に関連する瘢痕の抑制に有益となり得ると考えている。中間層創傷の好ましい例としては、それに関連する瘢痕が、本発明の薬剤または方法を使用して抑制することができるものであり、次のようなものが挙げられる:すなわち、「皮膚剥離」(skin peels)(例えば、「化学剥皮(Chemical peel)」(例えば、アルファヒドロキシ酸剥皮、トリクロロ酢酸剥皮、またはフェノール剥皮)、または「レーザー剥皮(laser peels)」);皮膚切除術(dermabrasion)に関連する創傷;および、dermaplaningに関連する創傷。本発明の薬剤または方法は、美容に関して重要な部位(例えば、顔)に生じる中間層創傷(皮膚剥皮治療(skin peel treatment)の対象となることが多い)に関する瘢痕を抑制することが特に好ましい。
【0116】
好ましい線維性疾患
本発明の薬剤または方法は、あらゆる線維性疾患(fibrotic disorders)に関連する瘢痕の予防、軽減、または抑制に使用することができる。保護を求める範囲を限定するものではないが、本発明の薬剤または方法は、例として、次のような線維性疾患の治療に使用することが好ましい:すなわち、皮膚線維症(skin fibrosis);進行性全身性線維症(progressive systemic fibrosis);肺線維症(lung fibrosis);筋線維症(muscle fibrosis);腎臓線維症(kidney fibrosis);糸球体硬化症(glomerulosclerosis);糸球体腎炎(glomerulonephritis);子宮線維症(uterine fibrosis);腎線維症(renal fibrosis);肝硬変(cirrhosis of the liver)、肝線維症(liver fibrosis);慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease);心筋梗塞(myocardial infarction)の事後の線維症;中枢神経系線維症(central nervous system fibrosis)(例えば、脳卒中(stroke)の事後の線維症);神経変性疾患(neuro-degenerative disorders)に関連する線維症(例えば、多発性硬化症(multiple sclerosis));増殖性硝子体網膜症(proliferative vitreoretinopathy;PVR);再狭窄(restenosis);子宮内膜症(endometriosis);虚血性疾患(ischemic disease)および放射線線維症(radiation fibrosis)。
【0117】
瘢痕の予防、軽減、または抑制
瘢痕の予防、軽減、または抑制とは、本発明では、対照(コントロール)治療もしくは未治療創傷の治癒により生じた瘢痕、未治療の瘢痕、または、線維性疾患の未治療部位のレベルと比較した場合に、治療創傷の治癒が達成された瘢痕、治療された瘢痕、または、線維性疾患の治療部位を、どのような程度であれ、予防、軽減、または抑制することが含まれると理解されるべきである。本明細書中、瘢痕の「予防(prevention)」、「軽減(reduction)」、または「抑制(inhibition)」は、通常、特に記載の無い限り、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)が介在することで、実質的に同等の活性(同等のメカニズムを含む)を示すことを意味するものとする。
【0118】
簡潔化のために、本明細書では、主に、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)を利用して瘢痕を「抑制」することに言及して説明する。しかしながら、このような説明は、特に記載のない限り、そのような化合物を使用した瘢痕の予防または軽減にも及ぶものとする。同様に、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)を使用した瘢痕の「予防」に言及することは、特に記載のない限り、そのような化合物を使用して瘢痕を治療することも及んでいる。
【0119】
本発明の方法および薬剤を使用して達成される瘢痕の抑制は、治療瘢痕の微視的および/または巨視的外観に関して、評価および/または測定することができる。また、瘢痕の抑制は、治療瘢痕の微視的および/または巨視的外観を、未治療瘢痕の微視的および/または巨視的外観と比較することによっても、適切に評価することができる。一般に、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)を利用する薬剤または方法を使用して、瘢痕を抑制する場合には、治療瘢痕の微視的外観を参照して評価することが好ましい。
【0120】
瘢痕が、治療瘢痕または対照(コントロール)瘢痕(さらには識別された瘢痕の抑制)で評価することができる適切な方法およびパラメタは、本明細書の他の箇所で述べている(必要な場合には、このような評価を、集積および定量化することができる方法として)。
【0121】
瘢痕を定量的に評価する場合には、瘢痕の抑制が、対照(コントロール)のものと比較して、治療された創傷、または線維症の瘢痕もしくは部位において、統計的に有意に減少していることにより示されることが好ましい。
【0122】
「治療された創傷(Treated wounds)」、「未治療の創傷(untreated wounds)」、「線維症の治療部位(treated sites of fibrosis)」、「線維症の未治療部位(untreated sites of fibrosis)」、「治療された瘢痕(treated scars)」、および「未治療の瘢痕(untreated scars)」
治療に効果的な量のNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)を用いて創傷を治療することによって、もしこの治療が無ければ未治療創傷の治癒中に生じるような瘢痕が抑制される。
【0123】
本発明では、「未治療の創傷」(untreated wound)とは、治療に効果的な量のNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)と接触していないあらゆる創傷を意味する。また、「希釈剤対照(コントロール)治療創傷」(diluent control-treated wound)とは、未治療の創傷であって、対照(コントロール)希釈剤が投与された創傷であり、「未投薬対照(コントロール)」(naive control)とは、未治療の創傷であって、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)が投与されることなく、さらに適切な対照(コントロール)希釈剤を使用することなく形成され、治療処置を介することなく治癒した創傷である。
【0124】
これに対して、「治療された創傷」(treated wound)とは、治療に効果的な量のNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)と接触している創傷とみなすことができる。このため、治療された創傷とは、例えば、本発明の薬剤を施された創傷か、または、本発明の方法による治療を受けた創傷とすることができる。
【0125】
本発明では、「治療された瘢痕」とは、次のようなものが含まれる。
i) 治療された創傷(すなわち、治療に効果的な量のNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)を使用して治療された創傷)の治癒により生じた瘢痕;および/または
ii) 線維性疾患の部位で生じた瘢痕(線維性疾患は、治療に効果的な量のNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)により治療されたもの);および/または
iii) 治療に効果的な量のNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)が投与された瘢痕。
【0126】
これに対して、「未治療の瘢痕」とは、次のようなものが含まれる。
i) 未治療創傷の治癒により生じた瘢痕(この創傷は、例えば、プラシーボ治療、対照(コントロール)治療、または、標準治療により治療されたもの);および/または
ii) 治療に効果的な量のNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)が、未だ投与されていない瘢痕。
【0127】
未治療の瘢痕は、通常、コンパレータ(比較測定)として、治療された瘢痕で明らかとなった瘢痕の抑制を評価することに使用される。このタイプの適切なコンパレータ(比較測定)としての未治療の瘢痕は、1または複数の評価基準に関して、該当する治療瘢痕と一致することが好ましく、この評価基準は、次の中から選んでもよい:すなわち、瘢痕の経年数;瘢痕の大きさ;瘢痕の部位;患者の年齢;患者の人種および患者の性別。
【0128】
線維性疾患の部位の治療を、治療に効果的な量のNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)を用いて行うことにより、瘢痕を抑制でき、さらに「線維症の治療部位」(治療された瘢痕から成る)がもたらされる。このような線維症の治療部位は、線維性疾患の未治療または対照(コントロール)の部位(すなわち、治療に効果的な量のNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)が未だ施されていない部位)に生じるものと比較することができる。
【0129】
本発明者らは、本手法を用いた線維性疾患の治療が、線維性疾患に関連する瘢痕の巨視的、および/または微視的外観に影響を与え得るもので、線維症の治療部位での瘢痕の巨視的、および/または微視的な構造が、正常の非線維組織(non-fibrotic tissue)で見受けられるものに、より類似してくると考えている。例えば、皮膚に関連する線維症の場合には、治療された瘢痕は、微視的には、大量に存在して配向性を有するECM分子(例えば、コラーゲン)で示すことができ、これは、未治療の瘢痕で見受けられるものよりも正常の皮膚で見受けられるものに近い。
【0130】
瘢痕のモデル
創傷の治癒で生じた瘢痕を抑制する場合では、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)の治療有効性を評価することができ、且つ活性化された薬剤(エージェント)の治療に効果的な量を決定することができる適切な動物モデルには、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)を、実験対象(ヒト対象または非ヒト対象(例えば、マウス(mice)、ラット(rats)、もしくは豚(pigs))のいずれでもよい)の切開(incisional)または切除(excisional)創傷に投与すること、および、そのような創傷の治癒で生じた瘢痕を評価することが含まれる。適切なモデルとしては、全層(full thickness)または中間層(partial thickness)の創傷を利用することができる(治療しようとする創傷に応じて)。全層または中間層の創傷治癒モデルの例は、当業者にとっては既知のものである。
【0131】
線維性疾患に関連する瘢痕を抑制する場合では、瘢痕の根底にある生物学的メカニズムの共通性から、このような瘢痕も、切開(incisional)または切除(excisional)された創傷の治癒モデル(上記に概要を述べたタイプ)を使用することで調べることができる。
【0132】
しかしながら、当業者であれば、線維性疾患の特殊な実験モデルであって、本発明のNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)の治療有効性を、さらに調べることに使用できるようなモデルも案出することができる。例えば、実験動物に、CCl4を投与することにより、肝臓の線維症の実験モデルを構築することができるが、これは、肝線維症(liver fibrosis)に関連する瘢痕を抑制するという状況で、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)の実効性の評価に使用することができる。さらに、糸球体腎炎(glomerulonephritis)の実験モデルは、実験動物に適切な血清タンパク質(serum protein)を注入するか、または、腎毒性血清(nephrotoxic serum)を注入するかのいずれかを用いて構築することができ、これらの各々の動物モデルは、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)が、腎臓線維症(kidney fibrosis)に関連する瘢痕を抑制することの評価に有用となり得る。
【0133】
上記に述べた実験モデルは、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)の投与に関する特に効果的な経路または投与計画(regime)を確定(identification)することもできる。これらの経路または投与計画は、本発明の薬剤および方法に関連する顕著な利点を提供し得ることから、これらは、本発明のさらなる特徴を招来し得る。
【0134】
瘢痕の評価、および瘢痕の抑制
治療効果を達成するために必要とされ得る瘢痕の抑制範囲は、明白であり、患者のケアに責任を持つ臨床医により、容易に判定することができる。臨床医は、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)を使用して達成された瘢痕の抑制範囲を適切に判定することができ、治療効果が達成されたか否か、または、達成されている最中であるかを評価する。このような評価は、必ずしも必要ではないが、本文中で提案した測定方法を参照して行うことができる。
【0135】
NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)を使用して達成される瘢痕の抑制範囲は、このような活性化された薬剤(エージェント)が、本発明の方法または薬剤を処置されたヒトの患者で達成される効果に関して、評価することができる。これとは別に、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)により達成される瘢痕の抑制は、適切なインビトロまたはインビボモデルを使用した臨床試験に関して評価することができる。瘢痕の抑制を調べるための実験モデルの使用は、特定のNR4Aアゴニストの治療効果を評価する場合、または、そのようなアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)の治療に効果的な量を確立する場合になされることが、特に好ましい。
【0136】
瘢痕の動物モデルは、本発明の薬剤または方法を使用して達成することができる瘢痕抑制の範囲を、インビボ評価できる好ましい実験モデルとなる。好適なモデルを用いることにより、特に、創傷の治癒により生じた瘢痕を調べることができ、この他には、線維性疾患に関連する瘢痕を調べることもできる。この両タイプで好適なモデルは、当業者には公知なものである。このようなモデルの例は、例示のみを目的とし、以下に詳述する。
【0137】
瘢痕評価のための多くの方法がこれまでに展開されているが、それらは主に皮膚(身体のなかで最も広い器官であり、瘢痕から最も大きい美容的影響を受ける器官である)の瘢痕に関するものである。従って、本発明の薬剤および方法における瘢痕抑制の効能を評価する方法に関する以下の記述は、主に、皮膚の瘢痕評価に関して述べている。しかしながら、当業者であれば、皮膚の瘢痕を評価する場合に関連する多くの要素が、他の組織または器官の瘢痕の評価にも関連するということは、直ちに理解できることである。従って、当業者であれば、特に記載の無い限り、以下で検討する皮膚の瘢痕のパラメタおよび評価が、皮膚以外の組織の瘢痕にも適用し得ることは、理解できることである。
【0138】
瘢痕の評価には、瘢痕の巨視的外観および/または微視的外観が考慮される。瘢痕の評価は、瘢痕の微視的外観に関して実施されることが好ましい。瘢痕の微視的外観は、瘢痕の内部構造を反映していることから、これにより瘢痕の機械的および物理的特性に関する有益な徴候が示される。瘢痕の評価は、現存する瘢痕の度合いを示す定量値として与えられることが好ましい。
【0139】
本発明の方法および薬剤を使用して達成される瘢痕の抑制は、治療瘢痕の微視的および/または巨視的外観に関して、評価および/または測定することができる。また、瘢痕の抑制は、治療瘢痕の微視的および/または巨視的外観に関して、未治療瘢痕の外観と比較することによっても、適切に評価することができる。瘢痕の抑制は、治療された瘢痕の外観が、未治療または対照(コントロール)治療の創傷の外観よりも、創傷の無い組織により近いことと評価されることで示される。
【0140】
治療した創傷により生じた瘢痕の巨視的外観を考慮する場合には、瘢痕の範囲、さらに、達成された瘢痕のあらゆる抑制の程度は、多くのパラメタのいずれかに関して評価することができる。適切なパラメタは、個別にまたは組み合わせで考察することができる。
【0141】
瘢痕、さらには瘢痕の抑制の程度は、瘢痕の巨視的な臨床評価(clinical assessment)により評価することができる。これは、次の方法により達成することができる。すなわち、患者の瘢痕を直接評価すること;または、瘢痕の撮像画像を評価すること;または、瘢痕から採られたシリコンモールド、もしくは、このようなモールドから造型された実質的な石膏模型を評価することである。瘢痕の巨視的な特性は、瘢痕を評価する場合に考慮することができるものとして、以下が挙げられる:
【0142】
i) 瘢痕の色。瘢痕は、通常、周囲の皮膚との兼ね合いで、色素沈着過剰(hypopigmented)、または色素沈着低下(hyperpigmented)となっている。瘢痕の抑制は、治療された瘢痕の色素沈着(pigmentation)が、未治療の瘢痕の色素沈着よりも、瘢痕化していない皮膚のそれに近似していることにより、示すことができる。同様に、瘢痕は、周囲の皮膚よりも赤みを帯びていることがある。この場合には、瘢痕の抑制は、未治療の瘢痕と比較して、治療瘢痕の赤みがより早く、もしくはより完全に退色する場合、または周囲の皮膚の外観に類似していることにより示すことができる。色は、例えば、分光光度計(spectrophotometer)を使用することで直ちに測定することができる。
【0143】
ii) 瘢痕の高さ。瘢痕は、通常、周囲の皮膚と比較して、隆起しているか、または窪んでいるかのいずれかである。瘢痕の抑制は、治療された瘢痕の高さが、未治療の瘢痕の高さよりも瘢痕化していない皮膚(すなわち、隆起しているか、または、窪んでいるかのいずれでもない皮膚)に、より近似していることにより示すことができる。瘢痕の高さは、患者から直接的に(例えば、プロフィロメトリー(profilometry)を用いて)、または間接的に(例えば、瘢痕から得られるモールド(moulds)のプロフィロメトリーを用いて)測定することができる。
【0144】
iii) 瘢痕の表面テクスチャ(surface texture)。瘢痕は、周囲の皮膚よりも相対的に滑らかな表面となっていることや(「艶のある(shiny)」外観の瘢痕のもとになる)、また、周囲の皮膚よりも粗くなっていることがある。瘢痕の抑制は、治療された瘢痕の表面テクスチャが、未治療の瘢痕の表面テクスチャよりも、瘢痕化していない皮膚のそれに近似していることにより、示すことができる。表面テクスチャは、患者から、直接的(例えば、プロフィロメトリーを用いる)、または間接的(例えば、瘢痕から得られるモールド(moulds)のプロフィロメトリーを用いる)のいずれでも測定することができる。
【0145】
iv) 瘢痕の硬直さ(stiffness)。瘢痕の異常な組成および構造は、通常、瘢痕の周囲にある無傷状態の皮膚よりも硬直していることで示される。このような場合には、瘢痕の抑制は、治療された瘢痕の硬直が、未治療の瘢痕の硬直よりも瘢痕化していない皮膚のそれに、より近似していることにより示すことができる。
【0146】
治療された瘢痕は、瘢痕の抑制が、本明細書で述べる巨視的評価のパラメタのうち少なくとも1つに関する評価として示されることが好ましい。さらに好ましくは、治療された瘢痕は、瘢痕の抑制が、これらのパラメタのうち少なくとも2つに関して示され、さらに一層好ましくは、これらのパラメタのうち少なくとも3つのパラメタに関して示され、最も好ましくは、これらのパラメタのうち少なくとも4つ(例えば、上記に述べたパラメタのうちの4つすべて)に関して示される。
【0147】
瘢痕の巨視的評価のための1つの好ましい方法として、瘢痕の包括的評価(holistic assessment)がある。これは、独立専門パネリスト(independent expert panel)もしくは設置パネリスト(lay panel)により巨視的な写真を用いて行われるか、独立設置パネリスト(independent lay panel)により行うか、または、臨床的に、臨床医もしくは患者自身により巨視的評価を用いて行われる。評価(アセスメント)は、視覚的アナログスケール(Visual Analogue Scale;VAS)またはカテゴリー化スケール(categorical scale)を用いて表す。瘢痕(さらには達成された瘢痕の抑制)を評価するための適切なパラメタの例を以下に述べる。瘢痕の臨床的な測定および評価に関する適切なパラメタのさらなる例は、様々な測定または評価に基づいて選択することができ、これらに関しては、Duncanら(2006)、Beausangら(1998)、およびvan Zuijlenら(2002)が、言及しているものが含まれる。
【0148】
瘢痕の微視的評価は、一般に、瘢痕の微視的構造を組織学的に分析することを用いる。瘢痕を微視的評価するための適切なパラメタとしては、以下のものが含まれる:
i)細胞外マトリックス(ECM)線維の厚さ。瘢痕には、通常、周囲の皮膚の中で見受けられるよりも薄いECM線維が含まれている。瘢痕の抑制は、治療された瘢痕のECM線維の厚さが、未治療瘢痕で見受けられるECM線維の厚さよりも、瘢痕化していない皮膚で見受けられるECM線維に近似していることにより、示すことができる。
【0149】
ii)ECM線維の配向性(orientation)。瘢痕で見受けられるECM線維は、その傾向として、瘢痕化していない皮膚で見受けられるものよりも、その相互間で一層明確な整列状態となっている(ランダムな「バスケット(籠)織り(basket-weave)」配向性を有する)。従って、瘢痕の抑制は、治療された瘢痕でのECM線維の配向性が、未治療の瘢痕で見受けられるそのような線維の配向性よりも、瘢痕化していない皮膚で見受けられるECM線維に近似していることにより、示すことができる。
【0150】
iii)ECM化合物の充満性(abundance)。瘢痕は、未瘢痕の皮膚と比較して、通常、大量のECM化合物(例えば、コラーゲン)を含む。瘢痕の抑制は、治療された瘢痕が、未治療もしくは対照(コントロール)治療の瘢痕と比較して充満性が低いECM化合物を含むことや、または、治療された瘢痕が、未治療もしくは対照(コントロール)治療の瘢痕よりも、未瘢痕の皮膚により近い充満性のECM化合物を含むことにより示すことができる。
【0151】
iv)瘢痕のECM組成(composition)。瘢痕に存在するECM分子の組成は、正常の皮膚で見受けられるものとは異なっているが、これは、瘢痕のECMに存在するエラスチン量が減少しているためである。このため、瘢痕の抑制は、治療された瘢痕の真皮(dermis)のECM線維の組成が、未治療の瘢痕で見受けられる組成よりも、瘢痕化していない皮膚で見受けられるそのような線維の組成に近似していることにより、示すことができる。
【0152】
v)瘢痕の細胞(充実)性(cellularity)。瘢痕は、瘢痕化していない皮膚よりも、相対的に少ない細胞(セル)が含まれる傾向がある。従って、瘢痕の抑制は、治療された瘢痕の細胞性が、未治療の瘢痕の細胞性よりも、瘢痕化していない皮膚の細胞性に近似していることにより、示すことができる。
【0153】
上記に述べた1以上のパラメタは、瘢痕の微視的評価のための視覚的アナログスケール(Visual Analogue Scale;VAS)の基準を作成するために使用することができる。瘢痕の抑制は、治療された瘢痕の質が、未治療もしくは対照(コントロール)治療の瘢痕の質よりも、未瘢痕の皮膚のそれにより近いことで示すことができる。
【0154】
驚くべきことに、瘢痕(例えば、皮膚において)の全体的な外観は、瘢痕が表皮(epidermal)を覆うことによる影響を、あまり受けていない(但し、観察者に直ちに観察され得る瘢痕部分について)。それよりむしろ、本発明者らが発見したことによれば、瘢痕に内在する結合組織(例えば、真皮(dermis)、または新生真皮(neo-dermis)を構成している結合組織)の特性がより重大な影響を与えるのは、瘢痕として認識される範囲のみならず、瘢痕化した組織の機能にまで及ぶということである。従って、上皮(epithelia)(例えば、表皮)よりむしろ、結合組織(例えば、真皮)に関する評価基準が、瘢痕の抑制を評価することに最も役立つものとなり得る。結合組織のECM線維の厚さおよび配向性は、瘢痕の抑制を評価するための有意なパラメタとなり得る。ECM組織と、乳頭真皮(papillary dermis)および網状真皮(reticular dermis)の存在量とを別々に評価することが、瘢痕の質を考察する上で望ましい。
【0155】
治療された瘢痕は、瘢痕の抑制が、上記で述べた微視的評価のパラメタのうち少なくとも1つについての評価として示されることが好ましい。さらに好ましくは、治療された瘢痕は、瘢痕の抑制が、これらのパラメタのうち少なくとも2つ、さらに一層好ましくは、少なくともこれらのパラメタのうち3つ、最も好ましくは、これらのパラメタのうちの4つすべてについて示される。巨視的および微視的パラメタは、瘢痕抑制を評価する際に組み合せることができる。(例えば、巨視的評価に使用する少なくとも1つのパラメタ、および微視的評価に使用する少なくとも1つのパラメタを評価すること)
【0156】
瘢痕の評価を、集積および定量化することができる多くの方法がある。適切な方法は、瘢痕の巨視的または微視的評価を取得するために使用することができ、通常、直接的(患者から)または間接的(患者から採取された写真もしくはモールド(moulds))のいずれかに基づいて実施することができる。瘢痕の評価を取得できる手段として、限定するものではないが、例として以下のものが挙げられる:
【0157】
視覚的アナログスケール(Visual Analogue Scale;VAS)の瘢痕スコアを使用した評価
瘢痕の評価は、瘢痕対応VAS(scarring-based VAS)を使用して取得することができる。瘢痕評価に使用される適切なVASは、Duncanら(2006)、またはBeausangら(1998)が述べている方法に基づくことができる。これは、通常、10cmのライン(直線)であり、このライン上で、0cmの位置では無視できる瘢痕であることが示され、10cmの位置では非常に悪性な肥厚性瘢痕(hypertrophic scar)であることが示される。本手法でVASを使用することにより、瘢痕評価を容易に取得および定量化することができる。VASスコアは、瘢痕の巨視的および/または微視的評価に使用することができる。
【0158】
単なる例示であるが、適切な巨視的瘢痕評価は、視覚的アナログスケール(Visual Analogue Scale;VAS)を使用して実施することができ、このVASは、左から右に、0(正常の皮膚に相当する)から10(酷い瘢痕を示す)に応じたスケール(尺度)を示す0-10cmのライン(直線)から構成される。評価者によりマークが10cmのライン上に作成されるが、これは瘢痕の全体評価に基づいてなされ得るものである。これには、パラメタ(例えば、瘢痕の高さ、幅、輪郭および色)が考慮される。最も良い瘢痕(通例、幅が小さく、色、高さおよび輪郭が正常の皮膚と同様である)は、スケールの「正常の皮膚(normal skin)」側の末端(VASラインの左手側)に向かってスコアすることができ、悪性の瘢痕(通例、幅が大きく、隆起した外形、凸凹の輪郭、および、より蒼白な色である)は、スケールの「悪性の瘢痕(bad scar)」側の末端(VASラインの右手側)に向かってスコアすることができる。当該マークは、従って、左手側から測定され、最終的な瘢痕評価値をセンチメートル単位(小数第1位まで)で示すことができる。
【0159】
微視的評価として、瘢痕は、例えば、実験対象から切除し(少量の周囲の正常皮膚を含むことが好ましい)、固定化する(例えば、10% の緩衝化された規定の生理的食塩水を使用する)。その後、この固定化組織に、ワックス組織処理(wax histology)を施す。組織処理スライドは、瘢痕を評価できる適切な手順(例えば、マッソントリクローム染色(Masson's trichrome)、またはマロリトリクローム染色(Mallory's trichrome))を使用して染色し、その瘢痕を、評価者が微視的なVASを使用して評価する。適切なVASは、左から右に、0(正常の皮膚に相当する)から10(酷い瘢痕を示す)に応じたスケール(尺度)を示す0-10cmのライン(直線)から構成される。マークを10cmのライン上に作成することができるが、これは瘢痕の全体評価に基づいてなされ得るもので、これにはパラメタ(例えば、コラーゲンの線維間隔、配向性および厚さ)が考慮され得る。最も良い瘢痕(通例、幅が狭い瘢痕で、分厚くまばらに配向したコラーゲン線維(線維間に正常な間隔を有する)を伴っており、未瘢痕の真皮(dermis)で見受けられるものに近い)は、スケールの「正常の皮膚(normal skin)」側の末端(VASラインの左手側)に向かってスコアされ、悪性の瘢痕(通例、幅が広い瘢痕で、薄く、密に詰め込まれた同方向のコラーゲン線維を伴う)は、スケールの「悪性の瘢痕(bad scar)」側の末端(VASラインの右手側)に向かってスコアされる。当該マークは、従って、左手側から測定され、最終的な瘢痕評価値をセンチメートル単位(小数第1位まで)で示される。
【0160】
総合的なカテゴリー化スケール(categorical scale)に関する評価(アセスメント)
瘢痕の評価は、瘢痕を、いくつかの文字表現に基づく異なるカテゴリー(例えば、「かろうじて気付く程度の状態(barely noticeable)」、「正常の皮膚と混在した状態(blends well with normal skin)」、「正常の皮膚と明確に区別された状態(distinct from normal skin)」等)に割当てることか、治療された瘢痕、および、未治療もしくは対照(コントロール)の瘢痕と比較し、それらの中で何らかの違いを注意深く観察し、その違いを、選択されたカテゴリー(例えば、「穏やかな違い(mild difference)」、「中程度の違い(moderate difference)」、「大きな違い(major difference)」等)に割当てることで取得(集積)することができる。これらの評価は、評価する瘢痕の全体的な外観について実施することができる。瘢痕の抑制は、示された評価が、治療された瘢痕を、未治療または対照(コントロール)の瘢痕と比較して少なくとも1つのより良好なカテゴリーに割当てていることとして示すことができる。この種の評価は、患者(patient)、研究者(investigator)、独立パネリスト(independent panel)、または、臨床医(clinician)により行うことができる。
【0161】
瘢痕の高さ、瘢痕の幅、瘢痕の周囲長、瘢痕の面積、または、瘢痕の体積
瘢痕の高さおよび幅は、患者から直接測定でき、この測定には、例えば、カルス(callipers)のような手動の測定装置を使用するか、または、プロフィロメータ(profilometers)を使用することで自動化することができる。瘢痕の幅、周囲長、および面積は、患者から直接測定することができ、これには、瘢痕写真を画像分析するか、または、瘢痕から成形した石膏模型(plaster casts)を使用するかのいずれでも行うことができる。また、当業者であれば、さらなる非侵襲性(non-invasive)の方法および手段(装置)も考え付くことができるが、これらは、適切なパラメタを調べるために使用することができ、シリコンモールド(silicone moulding)、超音波(ultrasound)、光学立体的側面分析法(optical three-dimensional profilimetry)、および、高解像度の磁気共鳴画像法(Magnetic Resonance Imaging)が含まれる。すべてのこのような測定は、直ちに取得されて定量化される。
【0162】
瘢痕の抑制は、未治療の瘢痕と比較して、治療された瘢痕の高さ、幅、周囲長、面積、もしくは体積(または、これらのうちのいずれかの組み合わせ)が、低下することにより示すことができる。
【0163】
瘢痕化していない皮膚と比較した瘢痕の外観および/または色
治療された瘢痕の外観または色は、瘢痕化していない皮膚のそれ、および/または、未治療もしくは対照(コントロール)の瘢痕、および瘢痕化していない皮膚と比較することができる。瘢痕の外観は、瘢痕が瘢痕化していない皮膚よりも明るいかもしくは暗いか、または赤みを帯びているかに関して、瘢痕化していない皮膚と比較することができる。
【0164】
瘢痕および皮膚の外観または色は、カテゴリー化することができ(例えば、相互間の完全一致、わずかな違い、明らかな違い、または、著しい違い)、これらのカテゴリー化は、記録および/または定量化することができる。適切な比較は、それぞれの瘢痕および瘢痕化していない皮膚の視覚的評価に基づいて行うことができる。
【0165】
視覚的評価の他には、多くの非侵襲性比色分析(non-invasive colorimetric)に関する手段(装置)があり、これらは、瘢痕および瘢痕化していない皮膚の色素沈着(pigmentation)のみならず、皮膚の赤み(瘢痕または皮膚に現れている血管分布(vascularity)の指標とすることができる)に関するデータを提供できる。このような装置の例としては、エックスライト(X-rite) SP-62分光光度計、ミノルタ(Minolta) クロノメーター CR-200/300;Labscan 600;Dr. Lange Micro Colour; Derma 分光器; レーザードップラー血流計; および Spectrophotometric intracutaneous Analysis (SIA)スコープが挙げられる。これらの装置を使用して得られる結果も、記録および定量化することができる。
【0166】
瘢痕の歪みおよび機能的動態
瘢痕の歪み(distortion)は、瘢痕および瘢痕化していない皮膚を視覚的に比較すること、および、カテゴリー化した歪みの度合い(例えば、歪み無し(no distortion)、穏やかな歪み(mild distortion)、中程度の歪み(moderate distortion)、または、かなりの歪み(severe distortion))により評価することができる。
【0167】
瘢痕の機械的動態(mechanical performance)は、多くの非侵襲性の方法および手段(装置)を使用して評価できるが、これらは、吸引(suction)、圧力(pressure)、ねじれ(torsion)、張力(tension)、および聴覚(acoustics)に基づくものである。瘢痕の機械的動態を評価することに使用できる手段(装置)の適切な例としては、インデントメーター(Indentometer)、皮膚粘弾性測定装置(Cutemeter;キュートメーター)、衝撃波伝播時間測定装置 (Reviscometer;リビスコメーター)、粘弾性皮膚分析装置(Visco-elastic skin analysis)、Dermaflex、硬度計(Durometer)、皮膚トルク計(Dermal Torque Meter)、弾力計(Elastometer;エラストメーター)が挙げられる。
カテゴリー化情報、または適切な手段(装置)は、必要に応じて記録および定量化することができる。
【0168】
瘢痕の輪郭および瘢痕のテクスチャ
瘢痕の輪郭は、視覚的評価を用いて調べることができ、この輪郭およびテクスチャは、適切なパラメタを使用してカテゴリー化することができる。カテゴリー化のための適切なパラメタには、瘢痕が、周囲の皮膚と共に紅潮しているか、わずかに隆起しているか、わずかに窪みがあるか、肥厚性か、またはケロイドかということが含まれる。瘢痕のテクスチャは、瘢痕の外観に関して評価することができ、これも、視覚的評価により実施され、その結果に応じてカテゴリー化される(例えば、瘢痕が、瘢痕化していない皮膚と比較して、くすんでいるかもしくは艶があるか、または、粗いもしくは滑らかな外観を有する)。
【0169】
瘢痕のテクスチャについて、さらなる評価を行うこともでき、この評価(瘢痕が、瘢痕化していない皮膚と同様のテクスチャ(正常のテクスチャ)を持つかについてカテゴリー化されたもの)では、瘢痕化していない皮膚と比べて明らかに固い(firm/hard)。瘢痕のテクスチャは、ハミルトンスケール(Hamilton scale)(Crowe et al, 1998に述べられている)についても評価することができる。
【0170】
上記に述べた技術に加えて、多くの非侵襲性(non-invasive)なプロフィロメトリー(profilimetry)の手段(装置)がある(瘢痕の輪郭および/またはテクスチャを評価する光学的または機械的方法が使用される)。このような評価は、直接的または間接的に実施することができる。本手法の評価によれば、代表値(評価を直ちに取得することができる)を生成することができる。
【0171】
写真評価(Photographic Assessments)
治療された瘢痕および未治療の瘢痕の写真評価は、任意の適切な評価者(assessors)により実施することができる。適切な評価者の例としては、独立設置(independent lay)もしくは専門(expert)パネリスト、臨床医(clinician)、または、患者(patient)自身が含まれる。治療されたかまたは未治療の瘢痕は、瘢痕の標準化され且つ較正化された写真と比較して評価することができる。
【0172】
瘢痕は、訓練された臨床治療または独立設置パネリストにより評価することができるが、この評価で規定されることは、分類的なランキングデータ(ranking data)(例えば、所与の治療された瘢痕は、未治療の瘢痕と比較して、「より良い(better)」、「より悪い(worse)」、または、「差異無し(no different)」に分類される)、および/または、定量データ(例えば、VASを使用する)(本明細書の他の箇所で述べている)である。これらのデータ取得は、適切なソフトウェアおよび/または電気的システムを使用することができるが、これについては、本出願人の同時出願中の特許出願(PCT/GB2005/004787)に記載している。
【0173】
適切な評価として、時間の経過とともに生じる治療された瘢痕の外観の違いを考慮することもある。これは、選択された治療瘢痕および未治療瘢痕における時間経過の画像を比較することにより、達成することができる。経時的な瘢痕進行の評価は、瘢痕の全外観の変化、および/または、特定の判定基準の変化(本明細書の他の箇所で述べている)(例えば、瘢痕の色、瘢痕のテクスチャ、瘢痕の幅)を考慮することができる。
【0174】
上記に述べた評価およびパラメタは、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)の瘢痕形成に対する影響の評価に適し、この評価は、動物またはヒトに対する対照(コントロール)治療、プラシーボ(placebo)治療または標準治療と比較することでなされる。これらの評価およびパラメタは、治療に効果的なNR4Aアゴニスト(瘢痕を予防、軽減、または抑制に使用することができる)を決定する際に利用することができる;さらには、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)の治療に効果的な量を決定する際に利用することができる。また、適切な統計試験(statistical tests)を用いることで、異なる治療から得られた分析データセットを解析して、結果の有意性を調べることができる。
【0175】
上記に述べた瘢痕を評価するためのパラメタの多くは、本来は、創傷の治癒により生じた瘢痕の評価に適するものとして前述したものである。しかしながら、本発明者らは、これらのパラメタの多くが、線維性疾患に関連する瘢痕の評価にも適すると考えている。別のパラメタとして、線維性疾患に関連する瘢痕の評価に考慮できるものは、当業者にとっては明らかである。以下に例を挙げるが、これらは、例示のみを目的とする。
【0176】
線維性疾患に関連する瘢痕は、生検試料(biopsy samples;バイオプシーサンプル)のトリクローム(三色)染色(trichrome staining)(例えば、マッソントリクローム染色(Masson's trichrome)、またはマロリトリクローム染色(Mallory's trichrome))で評価することができ、この生検試料は、線維性疾患を受けていると考えられる組織から採取される。これらの試料(サンプル)は、瘢痕化していない組織(線維性疾患を受けていない組織から採取されたもの)と比較することができ、さらに、異なる大きさの瘢痕(線維性疾患に関連する)を受けているものと同じ組織(または連続する組織)を染色した代表試料である参照組織(reference tissues)と比較することができる。そのような組織を比較することにより、調べたい組織にある線維性疾患に関連する瘢痕の存在および程度を評価することができる。なお、トリクローム(三色)染色の手順は、当業者には既知なものであり、トリクローム(三色)染色に使用することができるキットは、市販されている。
【0177】
多くの場合、侵襲性処置(invasive procedures)(例えば、バイオプシー採集)を回避することが好ましい。この事実の認識のもとで、多くの非侵襲性処置(non-invasive procedures)が考案されており、これらは、線維性疾患に関連する瘢痕の評価を、生検試料(バイオプシーサンプル)を必要とせずに行うことができる。このような処置の例としては、線維試験(Fibrotest;FT)、および作用試験(Actitest;AT)が挙げられる。
【0178】
これらの市販の測定法(アッセイ)では、線維性疾患に関連する瘢痕の5つまたは6つの生化学的マーカーを、患者の肝生検(liver biopsy)の非侵襲性代替物として使用するが、このような患者としては、慢性C型肝炎もしくは慢性B型肝炎、アルコール性肝臓疾患、および新陳代謝性脂肪肝(metabolic steatosis)(例えば、太り過ぎ、糖尿病、または高脂肪血症(hyperlipidemia))の患者が挙げられる。このような生化学的マーカーの使用、および、選択したアルゴリズムを使用した分析を通じて、これらの手順により、肝線維症(liver fibrosis)および壊死炎症活性(necroinflammatory activity)のレベルを決定できる。このような試薬の使用は、生検(バイオプシー)の代替物として、臨床的にますます受け入れられており、これらの試薬は、販売会社(例えば、バイオプレディクティブ(BioPredictive))から市販されている。
【0179】
当業者であれば、上記に述べたタイプの方法を、1または複数の線維性疾患に関連する瘢痕の評価に使用することで、本発明の薬剤または方法を使用して、そのような瘢痕を予防、軽減、または抑制することが、有益であるか否かを決定できることは理解されるであろう。さらに、上記に述べたタイプの瘢痕評価方法は、線維性疾患に関連する瘢痕の抑制に適するNR4Aアゴニストを決定するために使用することができるだけでなく、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)の治療に効果的な量を決定するためにも使用することができる。
【0180】
腱(tendons)または靱帯(ligaments)の瘢痕の抑制が成功したことは、本発明の薬剤または方法で処置した組織の機能回復によって示すことができる。機能が適切であることは、腱および靱帯が、耐加重性、伸展性、屈曲性などを有することが含まれる。このような評価は、例えば、電気生理反射検査(electrophysiological reflex examination)、表面筋電図(surface electromyography)、超音波検査(ultrasonography)、超音波/磁気共鳴画像スキャン(ultrasound/MRI scan)、自己報告症状(self reported symptom)、疼痛質問(pain questionnaires)を使用して実施できる。
【0181】
血管の瘢痕の大きさは、直接的(例えば、超音波を使用する)、または、血流を用いて間接的に、測定することができる。本発明の薬剤または方法を使用して達成される瘢痕の抑制により、血管内腔(blood vessel lumen)の狭窄(narrowing)を低減することができ、より正常な血流にすることができる。
【0182】
創傷の治癒促進の評価
創傷の治癒促進の評価は、創傷の治癒時間に関する適切な指標について行うことができる。このような指標は、必要に応じて、巨視的または微視的に評価することができる。創傷の治癒促進は、治療および未治療もしくは対照(コントロール)創傷が、上皮再形成(re-epithelialise)する度合い、および/または、治療および未治療もしくは対照(コントロール)創傷が、収縮(contract)(例えば、創傷の幅または面積の減少により示される)する度合いに関して評価されることが好ましい。
【0183】
本発明の薬剤または方法を使用して達成される創傷の治癒促進は、治療された創傷が、未治療または対照(コントロール)創傷よりも、治癒の度合いが少なくとも5%早まることが好ましく、好ましくは、少なくとも10%早まり、より好ましくは、15%、20%、または25%早まり、さらに好ましくは、少なくとも50%早まり、さらに一層好ましくは、少なくとも75%早まり、最も好ましくは、100%(以上)早まる。
【0184】
本発明の薬剤または方法を使用する治癒促進により、未治療または対照(コントロール)創傷と比較して、治療された創傷の「治癒時間(healing age)」を減少させる。このような治癒時間の減少は、巨視的に評価することで、適切な未治療または対照(コントロール)創傷と比較して、治療された創傷の成熟度(maturity)を視覚的または臨床的に決定することができる。本発明の薬剤または方法を用いて治療された創傷は、同じ暦年齢の未治療または対照(コントロール)創傷のそれよりも、1、2、3、4、5日、またはそれ以上、治癒時間が大きくなることが好ましい。
【0185】
未治療または対照(コントロール)創傷の上皮再形成(re-epithelialisation)の度合いは、巨視的または微視的に評価することができる。上皮再形成の巨視的評価は、直接的に創傷そのものから測定されたものを使用すること、または、間接的に創傷の画像または複写(tracing)から測定されたものを使用して実施することができる。画像解析のような技術は、このような測定の定量化に使用することができる。
【0186】
上皮再形成の微視的評価は、創傷治癒の促進を測定できる好ましい方法となる。上皮再形成を微視的に評価することができる多くの適切な手順は、当業者にとって、既知であるか、または明らかなことである。
【0187】
上皮再形成の促進、さらにそれに伴う創傷治癒の促進の度合いを評価するために有益となり得る測定は、創傷部位の表面が創傷後の上皮層により覆われる度合いが含まれる。
【0188】
本発明の薬剤または方法を使用して達成される促進された治癒は、治療された創傷が、未治療または対照(コントロール)創傷よりも、上皮再形成の範囲が増加する割合が少なくとも5%早まることが好ましく、好ましくは、少なくとも10%早まり、より好ましくは、15%、20%、または25%早まり、さらに好ましくは、少なくとも50%早まり、さらに一層好ましくは、少なくとも75%早まり、最も好ましくは、100%(以上)早まる。創傷の上皮再形成の範囲を、創傷収縮の促進を測定するために測定することができる適切な方法は、本明細書の他の箇所で述べている。上皮再形成(さらにそれに伴う創傷治癒の促進)の度合いを評価するために使用できる好ましい手順は、実験結果に関するセクションで述べている。
【0189】
この他には、創傷の部位を、巨視的または微視的に評価することで、創傷治癒の度合いの決定を図ることができる。創傷部位の適切な評価は、例えば、創傷の縁の画像または複写を利用できる。これらは、経時的に、または標準比較データに関して考慮されることで、創傷部位が病理学的に減少してきているか否かを評価することができる。
【0190】
創傷収縮の促進を評価するための創傷の幅を測定する適切な方法は、本明細書の他の箇所で述べている。一般に、創傷の幅は、組織処理スライドを使用して、微視的に測定することが好ましい。全層(full thickness)の創傷における創傷の幅を評価するための好ましい手順は、その中間地点(すなわち、創傷の深さの中間近傍地点)の創傷の幅を評価することが含まれる。この中間地点は、創傷の真皮(dermis)であることが好ましく、これは、上皮再形成が発生する層よりも十分に下層である。この地点で創傷の幅を測定することは、創傷の幅が明白でない場合に生じて得る誤りを回避することができる。
【0191】
創傷の治癒促進の評価に使用できる好ましい測定値の一つは、創傷の幅が減少する割合(速度)であること好ましい。本発明の薬剤または方法を使用する創傷の治癒促進は、治療された創傷が、未治療または対照(コントロール)創傷よりも、創傷の幅が減少する割合が少なくとも5%早まることが好ましく、好ましくは、少なくとも10%早まり、より好ましくは、15%、20%、または25%早まり、さらに好ましくは、少なくとも50%早まり、さらに一層好ましくは、少なくとも75%早まり、最も好ましくは、100%(以上)早まる。
【0192】
投与計画(Administration regimes)
本発明の方法または薬剤は、治療に効果的な量のNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)を、既に発生している瘢痕(創傷の結果として生じるもの、または、線維性疾患の結果として生じるもののいずれでもよい)、または、瘢痕が発生しそうな部位(例えば、創傷、線維性疾患の部位、または、創傷もしくは線維性疾患が発生しそうな部位)に投与することに使用することができる。別の方法として、本発明の薬剤または方法は、予防的に(すなわち、瘢痕の形成前に)使用することができる。例えば、本発明の方法または薬剤は、創傷の形成前、または、線維性疾患の発症前に使用できる。
【0193】
創傷の治癒に関連する瘢痕を抑制する場合では、予防的使用とは、治療に効果的な量のNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)の投与に際して、その投与部位が、未だ創傷は無いが、瘢痕を生じうる創傷が形成されようとしている部位であることが含まれる。例として、治療に効果的な量のNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)は、待期的手術(例えば、外科手術)の結果として創傷が引き起こされた部位、または、創傷のリスクが高まっていると考えられる部位に対して投与することができる。
【0194】
本発明の薬剤は、創傷が発生したと思われる際に対象部位へ投与するか、もしくは、創傷形成前直ちに(例えば、創傷形成の6時間前までに)対象部位へ投与するか、または、創傷形成前の早い時期(例えば、創傷形成の48時間前までに)で対象部位へ投与することが好ましい。当業者であれば、創傷形成前の投与時期は、多くの要素に関して決定することが最も好ましく、この要素が、選択した薬剤の処方(formulation)および投与経路、投与する薬剤の服用量、形成された創傷の大きさおよび特性、ならびに、患者の生物学的状態(患者の年齢、健康状態、および、治癒合併症(healing complications)もしくは有害瘢痕の素因のような要素に関して決定することができる)を含むことは理解されるであろう。本発明の方法および薬剤の予防的使用は、本発明の好ましい実施態様であり、外科的創傷と関連する瘢痕を、予防、軽減、または抑制する際になされることが特に好ましい。
【0195】
線維性疾患に関連する瘢痕を抑制する場合では、本発明の薬剤は、線維性疾患の進行リスクが高まっている部位に対して、前記疾患の形成前に投与することができる。適切な部位としては、線維性疾患の進行リスクが高まっている部位と認知されている部位とすることができる。線維性疾患の高い進行リスクは、疾患の結果としてか、環境的要因(線維症病原体(fibrotic agents)との接触を含む)の結果としてか、または、遺伝子素因の結果として生じ得る。
【0196】
線維性疾患に関連する瘢痕の抑制に使用する場合では、治療に効果的な量のNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)は、線維性疾患の発症前直ちに、または、早い時期に、投与することができる。当業者であれば、本発明の薬剤を、線維性疾患を治療する目的で投与する場合の最適な時期を設定することは、標準的な技術を使用することにより可能である(標準的な技術とは、当業者に公知であり、且つ、線維性疾患に関連する瘢痕の臨床的進行に馴染むものである)。
【0197】
本発明の方法および薬剤は、瘢痕が既に形成された後に投与される場合であっても、瘢痕を抑制できる。このような投与は、創傷の形成後からできるだけ早いことが好ましいが、本発明の薬剤(エージェント)は、治癒プロセスが完了するまでの期間であればいつでも、瘢痕を抑制できる(すなわち、創傷が、既に部分的には治癒している状況であっても、本発明の方法および薬剤は、残りの未治癒部分に関する瘢痕の抑制に使用することができる)。本発明の方法および薬剤が、瘢痕の抑制に使用することができる「機会(window)」は、その対象となった創傷の特性(発生した損傷の程度、および創傷領域の大きさが含まれる)に依存する。このため、大きな創傷の場合には、本発明の方法および薬剤は、治癒反応の相対的に遅い時期に投与したとしても、瘢痕を十分に抑制できるが、これは、大きな創傷の治癒に必要な時期が、相対的に長期化しているためである。
【0198】
本発明の方法および薬剤は、例えば、創傷の形成から24時間以内に投与することが好ましいが、創傷の形成から10日以上までの投与であっても、やはり瘢痕を抑制できる。
同様に、本発明の方法および薬剤は、線維性疾患が既に進行している部位に投与することで、線維性疾患に関連する瘢痕がさらに発症することへの予防を図ることができる。このような使用が、有利となる状況は、瘢痕の程度(瘢痕は、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)の投与前に発症したもの)が、十分に低く、その線維組織(fibrotic tissue)が、その機能を維持している場合であることは明らかである。
【0199】
本発明の薬剤は、線維性疾患に関連する瘢痕が発症してから24時間以内に投与することが好ましいが、線維化プロセスの相当遅い時期に投与しても、十分な効果を奏し得る。例えば、本発明の薬剤は、線維性疾患が発症してから(または、線維性疾患に関連する瘢痕の発症が診断されてから)1ヶ月以内、6ヶ月以内、または1年以上であっても投与できるが、これらは、既に発生している瘢痕の大きさ、線維性疾患が生じている組織の割合、および、線維性疾患の進行速度に応じて決めることができる。
【0200】
本発明の方法および薬剤は、瘢痕を抑制するために、1回または複数回(必要に応じて)で投与することができる。
例えば、創傷の治癒により生じた瘢痕を抑制する場合では、治療に効果的な量のNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)は、治癒プロセスが完了するまで、必要な頻度で創傷に投与する。例として、本発明の薬剤は、毎日または2日ごとに創傷へ投与することを、創傷形成から少なくとも最初の3日間行う。特に好ましい実施態様としては、本発明の薬剤は、創傷形成前に投与し、さらに、創傷形成から約24時間が経過するまでに再び投与する。
【0201】
本発明の方法または薬剤は、創傷形成の前後の両時点で投与することが最も好ましい。本発明者らが発見したことは、本発明の薬剤の投与を創傷形成前に速やかに行い、それに引き続き、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)の毎日の投与を、創傷形成から1日以上の間行うことが、瘢痕(創傷の治癒により生じたものか、または線維性疾患に関連するもの)の抑制に特に効果的であるということである。
【0202】
NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)が、線維性疾患に関連する瘢痕の抑制に使用される場合では、治療に効果的な量のNR4Aアゴニストは、多くの投与手段を用いて提供することができる。適切な投与計画(regimes)としては、月1回、週1回、1日1回、または1日2回の投与が挙げられる。
【0203】
本発明者らは、治療に効果的な量のNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)が、既に存在する瘢痕の軽減にも使用することができると考えている。これは、創傷の治癒により生じた既存の瘢痕、および/または線維性疾患に関連する既存の瘢痕に適用できる。すなわち、本発明の方法および薬剤の使用が、既に存在する瘢痕を軽減する場合は、本発明の好ましい使用となる。治療に効果的な量のNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)は、あらゆる適切な投与手段を用いて、提供することができる。これらの投与の適切な投与計画(regimes)は、当業者であれば容易に考案することができるが、その際に使用される各種技法(インビトロ分野、動物およびヒト分野を含む)は、薬学業界で既知なものであり、当業界内で確立されたものである。
【0204】
創傷または線維性疾患に与える本発明の薬剤の量は、治療に効果的な量の活性化された薬剤(エージェント)が、投与されるようにしなければならず、これは、多くの要素に依存する。これらには、本薬剤が存在する薬剤(エージェント)の生物学的活性およびバイオアベイラビリティ(bioavailability;生体利用性)が含まれ、そして、これらは、他の要素の中でも、特に薬剤(エージェント)の特性および薬剤の投与様式に依存している。薬剤の適切な治療量を決定する他の要素は、次のものが含まれる:
A)治療すべき患者内での活性化薬剤(エージェント)の半減期
B)治療すべき特定条件(例えば、急性瘢痕(acute wounding)か、または慢性線維性疾患(chronic fibrotic disorders)か等)
C)患者の年齢
D)治療すべき部位の大きさ
【0205】
投与頻度も、上記に述べた要素[特に、患者内での選択薬剤(エージェント)の半減期]の影響を受ける。
一般的に、本発明の薬剤が、既に存在する瘢痕(創傷の治癒により生じたものでも、線維性疾患に関連するものでもよい)の治療に使用される場合では、本薬剤は、瘢痕化プロセスのできるだけ早い時期、または、線維性疾患の発症時に、投与すべきである。創傷または線維性疾患が、外見上すぐには現れない場合(例えば、それらが体内部位に存在する場合)では、薬剤は、創傷または線維性疾患、つまり瘢痕のリスクが、診断された場合にはすぐに投与してよい。本発明の方法または薬剤を用いた治療法は、瘢痕の抑制が、臨床医の納得(満足)が得られる状態まで継続すべきである。
【0206】
投与頻度は、使用した薬剤(エージェント)の生物学的な半減期に依存する。一般に、本発明の薬剤(エージェント)を含む乳液または軟膏は、標的組織に投与されることにより、線維症の創傷または部位での薬剤(エージェント)の濃度が、瘢痕を抑制するのに適するレベルを維持することを、図ることができる。このためには、毎日、または、さらに1日あたり数回の投与が必要となり得る。本発明者らは、本発明の薬剤(エージェント)の投与に関して、創傷形成前には直ちに行い、さらに創傷形成の1日後に投与することが、瘢痕(投与を行わなければ、創傷の治癒により生じ得る瘢痕)を抑制することに特に効果的であることを発見した。
【0207】
本発明の薬剤(エージェント)の毎日の服用は、単一投与(例えば、毎日の処方が、局所処方または毎日の注射を用いる場合)として与えることができる。また、別の方法として、本発明の薬剤(エージェント)は、1日2回以上の投与とすることができる。さらに別の方法としては、緩速型(slow)の送出手段(release device)を使用することで、本発明の薬剤(エージェント)の最適な服用を、繰返し服用を必要とすることなく、患者に提供することができる。
【0208】
投与経路
治療に効果的な量のNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)は、瘢痕抑制の望ましい効果を達成できるあらゆる適切な経路で投与することができる。しかし、治療に効果的な量のNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)は、一般的には、組織(その瘢痕が抑制対象であるもの)に局所投与により与えられることが好ましい。
【0209】
このような局所投与を十分に機能させることができる適切な方法は、対象の組織または器官の個々の特質(identity)に依存しており、さらに、抑制対象の瘢痕が、創傷の治癒から生じたものか、または、線維性疾患に関連する瘢痕かのいずれかであるかということによっても影響を受け得る。好ましい投与経路の選定は、治療しようとする組織または器官が、選択された薬剤に浸透され得るか否かということにも依存し得る。適切な投与経路は、次から選択することができる:すなわち、注射(injection);スプレー(sprays)、軟膏(ointments)または乳液(creams)の適用;薬剤の吸入(inhalation);生物活性物質(biomaterial;バイオマテリアル)または他の固形剤[縫合糸(suture)もしくは創傷包帯剤(wound dressings)が含まれる]からの放出。一般的に、好ましい投与経路として、局部注射(local injection)[例えば、皮膚の瘢痕を抑制しようとする場合に使用される皮内注射(intradermal injection)]が挙げられる。本発明のこれらの実施様態で採用される適切な処方(formulations)は、本明細書の他の箇所で検討している。
【0210】
本発明の薬剤は、瘢痕(創傷の治癒により生じるものでも、線維性疾患に関連するもののいずれでもよい)を抑制するために、局所的な形態で投与することができる。瘢痕(投与しなければ、創傷の治癒により生じた瘢痕)を抑制する場合では、このような投与は、創傷部位に関する初期および/または経過観察(フォローアップ)の治療の一部としてなされ得る。注射(injections)は、創傷または線維症部位の縁の周辺に投与することができる。予防的に使用する場合には、本発明の薬剤は、創傷または線維性疾患が起こり得る部位に適用することができる。
【0211】
治療に効果的な量のNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)を、内部創傷、例えば、外科手術により引き起こされたもの(もし手術しなければ癒着(adhesion)を形成し得るもの)に与えたい場合には、NR4Aアゴニストから成る薬剤は、洗浄(lavage)、非経口ゲル(parenteral gel)/点滴(instillate)、または、手術時に挿入された局所手段からの送出(例えば、縫合(suture)、薄膜(film)もしくは基材(carrier)であり、NR4Aアゴニストをその周囲に送出できる)を用いて投与できる。
【0212】
血管の瘢痕の場合には、適切な投与経路としては、血管壁への直接注入(例えば、縫合(suturing)前に行う)、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)からなる媒体を用いた吻合部位(anastomotic site)の洗浄(bathing)、または、局所処方手段(例えば、縫合またはステント)により活性化された薬剤(エージェント)の投与が含まれる。血管の瘢痕を効果的に抑制していることは、血管障害後の血流が、標準レベルに維持されていることで示すことができる。
【0213】
線維性疾患に関連する瘢痕は、相対的に隔絶された組織および器官で発症することも多いことから、線維性疾患に関連する瘢痕を抑制しようとする場合には、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)は、全身投与されることが好ましい。適切な投与経路としては、特に制約は無く、経口(oral)、経皮(transdermal)、吸入(inhalation)、非経口(parenteral)、経舌(sublingual)、直腸(rectal)、経膣(vaginal )および経鼻(intranasal)が含まれる。例として、固形物経口処方(例えば、錠剤(tablets;タブレット)またはカプセル剤(capsules))を用いて、治療に効果的な量のNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)を与えることで、腎線維症(renal fibrosis)または肝硬変(cirrhosis of the liver)に関連する瘢痕の抑制に使用できる。吸入(inhalation)のための煙霧剤(aerosol;エアロゾル)処方は、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)を与える手段として、抑制が望まれる瘢痕が、慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease)、または、肺(lungs)および気道(airways)における他の線維性疾患に関連する場合に使用されることが好ましい。
【0214】
全身投与(systemic administration)に関して上記に述べた投与経路の多くは、瘢痕を抑制したい組織への局所投与(topical administration)にも適している[例えば、吸入(inhalation)または経鼻(intranasal)投与があり、これらは、呼吸器系(respiratory system)の瘢痕を抑制するためになされるが、この瘢痕は、創傷の治癒により生じるものか、または、線維性疾患に関連するものかのいずれでもよい]。
【0215】
本発明に従って用いられる好適な処方
一般的に、本発明の薬剤は、あらゆる手法で調合および製造することができるが、但し、この薬剤を患者に投与することで、治療に効果的な量のNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)が、瘢痕を予防、軽減、または抑制しようとする部位に与えられるものでなければならない。
【0216】
本発明の薬剤は、多くの投与単位のうちの一つの形態として与えることができるが、これらの投与単位は、治療に効果的な量(または、治療に効果的な量を既知の割合で分けたもの、もしくは組み合せたもの)のNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)を与えることが好ましい。そのような投与単位の調製(調合)方法は、当業者にとって、既知である;例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences 18th Ed. (1990)を参照することができる。
【0217】
活性化された薬剤(エージェント)を含む組成物または薬剤は、多くの異なる形態をとれるが、その形態は、特に、それらが使用される方法に依存し得る。例えば、それらは、液体(liquid)、軟膏(ointment)、乳液(cream)、ゲル(gel)、ハイドロゲル(hydrogel)、粉末(powder)、または煙霧剤(aerosol;エアロゾル)の形態をとれる。そのような組成物のすべては、瘢痕部位(例えば、創傷または線維症のいずれであってもよい)への局所適用に適し、さらに、局所適用は、NR4Aアゴニストを、治療を必要とする被験者(ヒトまたは動物)に投与するための好ましい手段となる。液体(liquid)、ゲル(gel)、またはハイドロゲル(hydrogel)である活性化された薬剤(エージェント)を含む薬剤は、局部注射による投与(NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)を投与できる別の好ましい手段)に適するように考案することができる。
【0218】
適切なアゴニストは、無菌包帯剤(sterile dressing)または吸収薬(patch;パッチ)として与えることができ、これらは、創傷または線維症部位(瘢痕を抑制しようとする箇所)を覆うように使用することができる。
【0219】
NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)は、デバイスもしくはインプラント(implant)から放出することができ、また、そのようなデバイス(例えば、ステント)、制御された放出手段(controlled release device)、創傷被覆材(wound dressing)、もしくは創傷閉塞に使用される縫合(sutures)を、被覆して使用することができる。
【0220】
NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)を含む組成物の賦形剤(ベヒクル)は、患者が十分に耐えることができ、さらに、薬剤(エージェント)を創傷または線維症の部位に放出できるものであるべきである。そのような賦形剤(ベヒクル)は、生分解性(biodegradeable)、生溶解性(bioresolveable)、生体吸収性(bioresorbable)、および/または非炎症性(non-inflammatory)のものが好ましい。
【0221】
組成物を、既に存在する創傷または線維症の部位に適用する場合には、薬学的に許容される賦形剤(ベヒクル)は、相対的に「低刺激性(mild)」なもの(すなわち、生分解性(biodegradeable)、生溶解性(bioresolveable)、生体吸収性(bioresorbable)、および非炎症性(non-inflammatory)のある賦形剤(ベヒクル))である。
【0222】
NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)は、緩速(slow)または遅延型(delayed)の送出手段(release device)の中に組み込むことができる。このような手段は、例えば、皮膚設置か、または、皮下挿入できて、当該アゴニストを、数日、数週間、さらには数ヶ月にわたり放出できる。
【0223】
遅延型送出手段(delayed release devices)が特に有用となり得る患者は、広範囲な瘢痕、または、長期に及ぶ線維性疾患に関連する瘢痕を患う患者であって、治療に効果的な量のNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)の長期投与を必要とする患者である。このような手段が特に有益となり得るのは、もしこのような手段がなければ、通常時には頻繁な投与(例えば、少なくとも毎日の投与)が、他の経路により必要となるアゴニスト投与に使用される場合である。
【0224】
NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)を含有する組成物の服用は、治療に効果的な量の好適なアゴニストが、単一投与で十分に与えられるようにすることが好ましい。しかし、それぞれの服用は、それ自体では、治療に効果的な量のアゴニストが与えられる必要はないが、その代わりに、治療に効果的な量は、適切な服用を繰返し投与することで累積して達成できるようにする。
【0225】
NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)から成る組成物の様々な適切な形態が、本発明に使用することができる。1つの実施態様では、適切なアゴニストを投与するための薬学的な賦形剤(ベヒクル)は、液体であり、この場合には、適切な病理学的組成物は、水薬(solution)の形態となる。また、他の実施態様では、薬学的に許容される賦形剤(ベヒクル)は、固体であり、この場合には、適切な組成物は、粉末(powder)の形態となる。また、さらなる実施態様では、NR4Aアゴニストは、薬学的に許容される経皮送達システム(trans-epidermal delivery system)[例えば、パッチ(patch)/包帯剤(dressing)]の一部として処方される。
【0226】
固形の賦形剤(ベヒクル)は、1以上の物質を含むことができ、これらの物質は、香味剤(flavouring agents)、潤滑剤(lubricants)、溶解剤(solubilizers)、懸濁剤(suspending agents)、注入剤(fillers)、流動促進剤(glidants)、圧縮補助剤(compression aids)、結合剤(binders)、または錠剤崩壊剤(tablet-disintegrating agents)として作用することができる;また、カプセル化物質(encapsulating material)を含むこともできる。粉末中では、本賦形剤(ベヒクル)は、微粉砕された固体となっており、微粉砕されたアゴニスト(瘢痕を抑制するために使用される)が混合されている。錠剤(タブレット)中では、選択されたアゴニストは、賦形剤(ベヒクル)と混合されており、この賦形剤(ベヒクル)は、必要な圧縮特性(compression properties)を適切な割合で有しており、望ましい形状および大きさで小型化されている。粉末および錠剤(タブレット)は、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)が99%まで含まれていることが好ましい。適切な固形の賦形剤(ベヒクル)としては、例えば、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、砂糖、乳糖(ラクトース)、デキストリン、澱粉、ゼラチン、セルロース、ポリビニルピロリジン、低融点ワックス、およびイオン交換樹脂が挙げられる。
【0227】
液状の賦形剤(ベヒクル)は、水薬(solutions)、懸濁液(suspensions)、乳剤(emulsions)、シロップ剤(syrups)、エリキシル剤(elixirs)および加圧組成物(pressurized compositions)の調製に使用することができる。NR4Aアゴニストは、薬学的に許容される液状の賦形剤(ベヒクル)に溶解または懸濁できるが、この賦形剤(ベヒクル)としては、例えば、水、有機溶媒、その両方の混合物、または、薬学的に許容される油脂もしくは脂肪が挙げられる。液状の賦形剤(ベヒクル)は、他の適切な医薬添加剤を含むことができるが、これには、例えば、溶解剤(solubilizers)、乳化剤(emulsifiers)、緩衝剤(buffers)、防腐剤(preservatives)、甘味剤(sweeteners)、香味剤(flavouring agents)、懸濁剤(suspending agents)、増量剤(thickening agents)、着色剤(colours)、粘度調整剤(viscosity regulators)、安定剤(stabilizers)、または浸透圧調節剤(osmo-regulators)がある。経口または非経口投与のための液状の賦形剤(ベヒクル)の適切な例としては、水[部分的に上記添加物が含まれる(例えば、セルロース誘導体、好ましくは、カルボキシメチルセルロースナトリウム溶液)]、アルコール[一価アルコールおよび多価アルコール(例えば、グリコール)]およびその誘導体、および油脂(例えば、分留されたココナッツオイルやピーナッツオイル)がある。非経口投与では、賦形剤(ベヒクル)は、油性エステル(例えば、オレイン酸エチルおよびミリスチン酸イソプロピル)とすることができる。無菌の液状の賦形剤(ベヒクル)は、非経口投与のための組成物に有用である。加圧組成物(pressurized compositions)のための液状の賦形剤(ベヒクル)は、ハロゲン化炭化水素、または他の薬学的に許容された噴射剤(propellant)とすることができる。
【0228】
液状の薬学的な組成物で、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)から成る無菌の水薬(solutions)または懸濁液(suspensions)は、例えば、筋肉内(intramuscular)、クモ膜下腔内(intrathecal)、硬膜外(epidural)、腹腔内(intraperitoneal)、皮内(intradermal)、外膜内(intraadventitial)(血管)、または、皮下(subcutaneous)注射により利用できる。無菌の水薬(solutions)は、静脈注射を用いても投与できる。当該アゴニストは、無菌の固体状組成物の一部として調製することができ、この組成物は、投与時に、無菌の水、生理的食塩水、または他の適切な無菌の注射用媒体(例えばPBS)を使用することで、溶解または懸濁させることができる。賦形剤(ベヒクル)には、必要且つ不活性な結合剤(binders)、懸濁化剤(suspending agents)、潤滑剤(lubricants)、および防腐剤(preservatives)が含まれる。本発明者らは、リン酸緩衝食塩水(phosphate buffered saline;PBS)中のNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)の無菌溶液(5%のエタノールを含有する)が、注射(例えば、皮内注射)を用いた投与に好適な処方となることを見出した。
【0229】
NR4Aアゴニストを経口摂取で投与することが望まれる場合では、選択されるアゴニストは、抗分解性の高いものが好ましい。例えば、選択されるアゴニストは、保護することができ(当業者に既知の技術を使用して)、これにより、消化管(digestive tract)における分解速度を低減することができる。
【0230】
NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)からなる薬剤は、肺(lungs)または他の呼吸器系組織(respiratory tissues)の瘢痕の抑制に使用される場合には、吸入(inhalation)用に処方することができる。
【0231】
本発明の薬剤は、体腔[例えば、腹部(abdomen)または骨盤(pelvis )]の瘢痕の抑制に使用される場合には、潅流液(irrigation fluid)、洗浄液(lavage)、ゲル(gel)、または点滴(instillate)として処方することができる。
【0232】
NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)は、本発明の薬剤および方法として使用する場合には、生物活性物質(biomaterial)と一体化することができ、そこから、瘢痕を抑制するために放出されることができる。NR4Aアゴニストと一体化した生物活性物質(biomaterial;バイオマテリアル)は、多くの状況で、さらには多くの身体部位での使用に適するものであり、この部位としては、瘢痕を抑制することが望まれる部位であるが、特に有用となり得るのは、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)を、再狭窄(restenosis)もしくは癒着(adhesion)の抑制が望まれる部位に投与する場合である。本発明者らは、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)と一体化した生物活性物質が、縫合糸(suture)の作製に使用することができ、さらに、このような縫合糸(suture)が、本発明の薬剤の好ましい実施態様となると考えている。
【0233】
既知の処置、例えば、慣習的に薬学業界で用いられるもの(例えば、インビボ実験、臨床試験など)を使用することにより、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)から成る組成物を用いる対症処方(specific formulations)を確立することができ、さらに、そのような組成物を投与するための正確な治療プログラム(例えば、当該アゴニストの必要一日用量、および投与頻度に関して)を確立することができる。
【0234】
本発明の薬剤または方法は、瘢痕を抑制するために、単剤療法(monotherapy)(例えば、本発明の薬剤または方法を終始単独で使用する)で使用することができる。あるいはまた、本発明の方法または薬剤は、瘢痕を抑制する他の化合物または治療と併用することができる。そのような多剤併用療法(combination therapies)の一部として使用することができる適切な化合物は、当業者には既知のものである。
【0235】
ヒトの瘢痕を抑制する結果として得られる多くの利点は、他の動物、特に、家畜用動物またはペット(例えば、馬、牛、犬、猫など)にも適用することができる。従って、本発明の薬剤および方法は、非ヒト動物の瘢痕の抑制にも使用することができる。
ここで、下記の配列情報(Sequence Information)、実験結果および図面に沿って、本発明を、さらに詳述する:
【図面の簡単な説明】
【0236】
【図1】棒グラフで、巨視的な視覚的アナログスケール(VAS)スコア(NR4Aアゴニストである6-メルカプトプリンを処置した創傷の治癒から得られた治療瘢痕の瘢痕レベルを示す)を、希釈対照(コントロール)創傷および未投薬(naive)対照(コントロール)創傷(*は、希釈および未投薬対照と比較してp<0.05 を示す;+希釈対照のみと比較してp<0.05 を示す)の治癒から得られた瘢痕の巨視的VASスコアと比較し、すべて創傷形成から70日後に評価したものである。
【図2】棒グラフで、微視的な視覚的アナログスケール(VAS)スコア(NR4Aアゴニストである6-メルカプトプリンで処置した創傷の治癒から得られた治療瘢痕の瘢痕レベルを示す)を、希釈対照(コントロール)創傷および未投薬(naive)対照(コントロール)創傷(**は、希釈および未投薬対照と比較してp<0.01 を示す;*は、希釈および未投薬対照と比較してp<0.05 を示す;+希釈対照のみと比較してp<0.05 を示す)の治癒から得られた瘢痕の微視的VASスコアと比較し、すべて創傷形成から70日後に評価したものである。
【図3】治療された瘢痕(総量20ngのNR4Aアゴニストである6-メルカプトプリン(6-メルカプトプリンの濃度10ng/100μlの水薬を2度投与した)で治療した創傷の治癒から得られたもの))を左側に、希釈対照(コントロール)創傷の治癒から得られた瘢痕を右側にして、巨視的外観を表す代表例を示す。
【図4】棒グラフで、NR4Aアゴニストである6-メルカプトプリンで治療した創傷の幅(マイクロメーターで測定した)を、希釈対照(コントロール)創傷および未投薬(naive)対照(コントロール)創傷と比較したものである。幅は、外科的切開が形成されてから3日後に、創傷の中間位置を測定して評価したものである。
【図5】棒グラフで、NR4Aアゴニストである6-メルカプトプリンで治療した切除性創傷の幅を、希釈対照(コントロール)創傷および未投薬(naive)対照(コントロール)創傷と比較したものである。これらの切除性創傷の幅は、当該切除が形成されてから3日後に、創傷の頂点を横切って測定した(Xは、未投薬対照のみと比較してp<0.01であることを示す)。
【図6】棒グラフで、NR4Aアゴニストである6-メルカプトプリンで治療した切除性創傷に生じた上皮再形成の割合(百分率)を、希釈対照(コントロール)創傷および未投薬(naive)対照(コントロール)創傷に生じた上皮再形成の度合いと比較したものである。これらの切除性創傷の上皮再形成の割合(百分率)は、当該切除が形成されてから3日後に測定した。
【発明を実施するための形態】
【0237】
実験結果
物質
NR4Aアゴニストである6-メルカプトプリン1水和物(シグマ アルドリッチ社(Sigma Aldrich)、カタログ番号852678)を、リン酸緩衝食塩水(phosphate buffered saline;PBS)(5%のエタノールを含む)で希釈し、以下濃度の本発明の薬剤を生成した:
i) 1ng/100μL (濃度59nMであり、各薬剤の100μlは、5.9pmolのNR4Aアゴニストである6-メルカプトプリンを提供する);
ii) 10ng/100μL (濃度588nMであり、各薬剤の100μlは、58.8pmolのNR4Aアゴニストである6-メルカプトプリンを提供する); および
iii) 1000ng/100μL(濃度59μMであり、各薬剤の100μlは、5.9nmolのNR4Aアゴニストである6-メルカプトプリンを提供する)
【0238】
瘢痕モデル
0日目に、オトナのオスのスプレーグドーリー(Sprague Dawley)ラット(体重225-250g)に麻酔をかけ、剪毛し、創傷部位として、Renovoラット切開性創傷テンプレート(2つの創傷モデルがあり、2x1cm創傷が、各々のラットで、頭蓋骨(skull)の底部から5cm離れた位置のものと、正中線(midline)から1cm離れた位置のものとがある)に従って傷跡をつけた。100マイクロリットルの6-メルカプトプリン(5%のエタノールを含むリン酸緩衝食塩水(PBS, pH 7.2; GIBCO BRL, カタログ番号# 20012-019)中に1ng、10ng、または1000ng含まれる)を、皮内注射を用いて、創傷部位に注射した。皮内注射により、隆起した小疱(bleb)が形成されたが、これを直ちに切開して、長さ1cmの実験的創傷を作成した。創傷を受けているが、さらに治療を行わなかった別のラットの集団(group)を、未投薬(naive)対照(コントロール)および希釈対照(コントロール)とした。未投薬対照(コントロール)動物に対して、100μLのPBS/エタノール混合物を創傷形成前に注射した。すべての治療または希釈対照(コントロール)創傷は、創傷形成後の1日目に再注射したが、これにより、適切な治療として、50μlの注射を、1cm創傷の2つの縁の各々に与えた。治療、未投薬対照(コントロール)、および希釈対照(コントロール)動物は、すべて創傷形成から70日目に組織回収(harvest)した。
【0239】
切開性創傷治癒モデル
治療創傷および対照(コントロール)切開創傷は、上記に述べたのと同様に作成し、創傷治癒におけるNR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)の評価を可能にした。治療、未投薬対照(コントロール)、および希釈対照(コントロール)動物の創傷は、すべて創傷形成から3日目に組織回収した。
【0240】
切除性創傷治癒モデル
0日目に、オトナのオスのスプレーグドーリー(Sprague Dawley)ラット(体重225-250g)に麻酔をかけ、剪毛し、創傷部位として、Renovoラット切除性創傷テンプレート(2つの創傷モデルがあり、2x5mmパンチ生検切除性創傷が、各々のラットで、頭蓋骨(skull)の底部から8.5cm離れた位置のものと、正中線(midline)から1cm離れた位置のものとがある)に従って傷跡をつけた。100マイクロリットルの6-メルカプトプリン(5%のエタノールを含むリン酸緩衝食塩水(PBS, pH 7.2; GIBCO BRL, カタログ番号# 20012-019)中に1ng、10ng、または1000ng含まれる)を、皮内注射を用いて、創傷部位に注射した。皮内注射により、隆起した小疱(bleb)が形成されたが、これを直ちに採取して、長さ5mmの実験的切除性創傷を作成した。隔離したラットの集団(group)を、未投薬(naive)対照(コントロール)および希釈対照(コントロール)とした。未投薬対照(コントロール)動物は、治療することなく傷を与えた一方で、希釈対照(コントロール)動物は、100μLのPBS/エタノール混合物を創傷形成前に注射した。すべての治療または希釈対照(コントロール)創傷は、創傷形成後の1日目に再注射したが、これにより、適切な治療として、25μlの注射を、5mm創傷の2つの縁の各々に与えた。治療、未投薬対照(コントロール)、および希釈対照(コントロール)動物は、すべて創傷形成から3日目に組織回収(harvest)した。
【0241】
瘢痕の評価(アセスメント)
創傷は、創傷形成後(1日目および組織回収日の再注射前)に撮影した。瘢痕は、標準的な巨視的瘢痕評価を用いて評価し、この評価には、視覚的アナログスケール(Visual Analogue Scale;VAS)を使用したが、このVASは、左から右に、0(正常の皮膚に相当する)から10(酷い瘢痕を示す)に応じたスケール(尺度)を示す0-10cmのライン(直線)から構成される。微視的評価として、瘢痕は、実験用ラットから切除し(少量の周囲の正常組織を含めて)、その瘢痕を、10% (v/v)の緩衝化された規定の生理的食塩水で固定化した。その後、この固定化組織に、ワックス組織処理(wax histology)を施し、マッソントリクローム染色(Masson's trichrome)を使用して染色し、その瘢痕を、微視的な視覚的アナログスケール(Visual Analogue Scale;VAS)を使用して評価した。
【0242】
創傷治癒の評価
切開性および切除性創傷の創傷幅
創傷は、創傷形成後(1日目および組織回収日の再注射前)に撮影した。3日目に、切開性および切除性創傷は、実験用ラットから切除した(少量の周囲の正常組織を含めて)。微視的評価として、瘢痕は、実験用ラットから切除し(少量の周囲の正常組織を含めて)、その瘢痕を、10% (v/v)の緩衝化された規定の生理的食塩水で固定化した。その後、この固定化組織に、ワックス組織処理(wax histology)を施し、マッソントリクローム染色(Masson's trichrome)を使用して染色し、創傷幅を画像解析ソフトウェアを使用して評価した。切開性創傷の幅は、創傷の深さの中間地点で測定し、一方、切除性創傷の幅は、創傷の頂点を横切って測定した。
【0243】
切除性創傷の上皮再形成の割合(百分率)
創傷は、創傷形成後(1日目および組織回収日の再注射前)に撮影した。3日目に、切除性創傷は、実験用ラットから切除した(少量の周囲の正常組織を含めて)。微視的評価として、瘢痕は、実験用ラットから切除し(少量の周囲の正常組織を含めて)、その瘢痕を、10% (v/v)の緩衝化された規定の生理的食塩水で固定化した。その後、この固定化組織に、ワックス組織処理(wax histology)を施し、マッソントリクローム染色(Masson's trichrome)を使用して染色し、存在する上皮被覆を測定し、全創傷幅の割合(百分率)で上皮再形成を評価した。上皮被覆および全創傷幅の範囲は、両方とも画像解析ソフトウェアを使用して評価した。
【0244】
結果
1ng/100μl、10ng/100μlおよび1000ng/100μlの6-メルカプトプリンの皮内注射(intradermal injection)により、未投薬(naive)対照(コントロール)または希釈対照(コントロール)創傷により生じた瘢痕と比較して、全層型(full thickness)皮膚切開性創傷により生じた瘢痕の巨視的外観が改善した。1ng/100μlおよび1000ng/100μlの6-メルカプトプリンの服用は、治療創傷の巨視的外観に関する評価として、統計的に有意な瘢痕抑制となった。(各々が、希釈対照(コントロール)と比較してp<0.05;および、希釈対照(コントロール)および未投薬対照(コントロール)と比較してp<0.05を示した)
【0245】
1ng/100μl、10ng/100μlおよび1000ng/100μlの6-メルカプトプリンの皮内注射により、未投薬(naive)対照(コントロール)または希釈対照(コントロール)創傷により生じた瘢痕と比較して、全層型(full thickness)皮膚切開性創傷により生じた瘢痕の巨視的外観が改善した。1ng/100μlおよび1000ng/100μlの6-メルカプトプリンの服用は、治療創傷の巨視的外観に関する評価として、統計的に有意な瘢痕抑制となった。(各々が、希釈対照(コントロール)と比較してp<0.05;および、希釈対照(コントロール)および未投薬対照(コントロール)と比較してp<0.05を示した)
【0246】
1ng/100μl、10ng/100μlおよび1000ng/100μlの6-メルカプトプリンの皮内注射により、未投薬対照(コントロール)または希釈対照(コントロール)創傷により生じた瘢痕と比較して、全層型(full thickness)皮膚切開性創傷により生じた瘢痕の微視的外観も改善した。1ng/100μlでは、希釈および対照(コントロール)の両方と比較して、有意な瘢痕抑制となった(p<0.01);10ng/100μlでは、希釈および対照(コントロール)と比較して、有意な瘢痕抑制となった(p<0.05);および、1000ng/100μlでは、希釈対照(コントロール)と比較して、有意な瘢痕抑制となった(p<0.05)
【0247】
驚くべきことに、得られた結果は、6-メルカプトプリンの注入が、創傷治癒を抑制しないということが示された。3日目の切開性または切除性創傷の幅は、対照(コントロール)と比較して(6-メルカプトプリンが創傷治癒を抑制するとすれば予想される)増加が生じておらず、実際に、未投薬対照(コントロール)のそれよりも安定的に小さい(特に著しいのは、1ng/100μlの治療を受けた切除性創傷の場合である)。創傷幅に影響を与える主要因は、創傷収縮であると考えられる。原因となる収縮力は、創傷部位の内部または周囲の筋線維芽細胞(myofibroblast)により引き起こされる。治療創傷が、創傷収縮の機能障害を何ら受けなかった(および実際に閉塞の改善が示された)という事実は、効果的な服用をすれば、線維芽細胞(fibroblast)の機能を障害しないということを示している。
【0248】
創傷収縮の増加を示すのみならず、治療創傷は、上皮再形成の増加傾向を示した。創傷形成から3日目には、十分に上皮再形成された(対照(コントロール)創傷に近い)ことから、6-メルカプトプリンを用いた治療が、創傷閉塞を阻害しないことが示された。切除性創傷では、上皮再形成のプロセスが長期化するが(関連する創傷の広い面積のため)6-メルカプトプリンを用いて治療した創傷は、実際に、上皮再形成の増加傾向を示した。このことは、使用する6-メルカプトプリンの服用が、ケラチノサイト(角化細胞)の機能を阻害しないということを示している。
【0249】
これらの結果から、NR4Aアゴニスト(例えば、6-メルカプトプリン)は、治療に効果的な量を投与された場合に、インビボで、非眼組織の瘢痕を予防、軽減、または抑制できることが明示された。さらに、これらのアゴニストは、創傷収縮を増加させるか、上皮再形成を増加させるかのいずれかにより、創傷治癒を促進できることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非眼組織の瘢痕の予防、軽減、または抑制に用いられる薬剤の製造における核内ホルモン受容体NR4Aサブグループに含まれるメンバーのアゴニストの使用。
【請求項2】
NR4Aサブグループに含まれるメンバーが、NR4A1 、NR4A2およびNR4A3から選択される請求項1に記載の使用。
【請求項3】
アゴニストが、6-メルカプトプリンからなる請求項1または請求項2に記載の使用。
【請求項4】
アゴニストが、6-メルカプトプリン1水和物からなる請求項3に記載の使用。
【請求項5】
薬剤が、予防、軽減、または抑制しようとする瘢痕の部位に適用するための局所薬剤である上記請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項6】
薬剤が、予防、軽減、または抑制しようとする瘢痕の部位に局所投与するための注射用薬剤である請求項1から請求項5のいずれかに記載の使用。
【請求項7】
薬剤が、創傷に関連する瘢痕の予防、軽減、または抑制に使用される上記請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項8】
創傷が、皮膚の創傷;前嚢収縮となり得る創傷;血管の創傷;中枢および末梢神経系の創傷;腱、靱帯または筋肉の創傷;唇および口蓋の創傷を含む口腔の創傷;肝臓、心臓、脳、消化組織および生殖組織の創傷を含む内部器官の創傷;および、腹腔、骨盤腔および胸腔を含む体内腔の創傷の中から選択される
請求項7に記載の使用。
【請求項9】
創傷が、皮膚創傷である請求項7または請求項8に記載の使用。
【請求項10】
創傷が、外科的創傷である請求項7から請求項9のいずれかに記載の使用。
【請求項11】
薬剤が、線維性疾患に関連する瘢痕の予防、軽減、または抑制に使用される上記請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項12】
線維性疾患が、皮膚線維症;進行性全身性線維症;肺線維症;筋線維症;腎臓線維症;糸球体硬化症;糸球体腎炎;子宮線維症;腎線維症;肝硬変、肝線維症;慢性閉塞性肺疾患;心筋梗塞の事後の線維症;脳卒中の事後の線維症のような中枢神経系線維症;多発性硬化症のような神経変性疾患に関連する線維症;再狭窄;子宮内膜症;虚血性疾患および放射線線維症の中から選択される
請求項11に記載の使用。
【請求項13】
薬剤が、創傷または線維症の1センチメートルあたり、約0.59pmolから8.85nmolの範囲の当該アゴニストを投与するためのものである上記請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項14】
瘢痕が、非病理学的瘢痕である上記請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項15】
瘢痕が、ケロイドまたは肥厚性瘢痕の病歴が無い患者の瘢痕である請求項14に記載の使用。
【請求項16】
瘢痕が、ケロイドまたは肥厚性瘢痕の素因が無い患者の瘢痕である請求項14または請求項15に記載の使用。
【請求項17】
薬剤が、当該薬剤を投与された創傷の治癒を抑制しない上記請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項18】
薬剤が、当該薬剤を投与された創傷の治癒を促進する上記請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項19】
非眼組織の瘢痕を予防、軽減、または抑制する方法であって、治療に効果的な量の核内ホルモン受容体NR4Aサブグループに含まれるメンバーのアゴニストを、当該予防、軽減、または抑制を必要とする患者に投与することを含む方法。
【請求項20】
アゴニストが、6-メルカプトプリンである請求項19に記載の使用。
【請求項21】
瘢痕が、創傷に関連する請求項19または請求項20に記載の使用。
【請求項22】
瘢痕が、線維性疾患に関連する請求項19から請求項21のいずれかに記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−535184(P2010−535184A)
【公表日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−518736(P2010−518736)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際出願番号】PCT/GB2008/002609
【国際公開番号】WO2009/016379
【国際公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(500588178)レノボ・リミテッド (17)
【氏名又は名称原語表記】RENOVO LTD.
【Fターム(参考)】