説明

α−C−フェニル−N−tert−ブチルニトロンの新規両親媒性誘導体

α−C−フェニル−N−tert−ブチルニトロンに由来する化合物、それらの調製プロセス及び酸化ストレス関連疾患を予防又は処置することにおいて使用するための薬剤の調製のためのそれらの使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−C−フェニル−N−tert−ブチルニトロンに由来する新規化合物、それらの調製プロセス及び酸化ストレス関連疾患の予防又は処置に使用するための薬剤の調製のためのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化ストレス及び酸素フリーラジカル種の形成に関連する病状は、Croos C.E., Arch. Intern. Med. (1987) 107, 526-545により、及びAnderson K.M., Ellis G., Bonomi P., Harris J.E., Medical Hypotheses (1999) 52, 53-57により列挙されている。
【0003】
病状は多数ある:このタイプの70を超える病状がこのリストで言及されており、特に、免疫性疾患及び炎症性疾患、虚血再灌流症候群、アテローム性動脈硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、紫外線及び電離放射線に起因する障害、化学発癌及び細胞老化の或る特定の形態を含む。
【0004】
酸素フリーラジカル種及び窒素フリーラジカル種(ROS及びRNS)は、生物体で自然に産生され、それらの調節は、可溶性スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)のような或る特定の特殊酵素により保証されている。これらの極めて反応性のフリーラジカル種の捕捉は、それらが細胞において不可逆的な損傷をもたらすため必須である。これらのフリーラジカル種の正常な産生は細胞により容易に調節される一方で、外部酸化ストレス(炎症性ショック、虚血再灌流症候群等)又は遺伝的欠陥(特にミトコンドリア異常)に関連するフリーラジカルの過剰産生は迅速な細胞分解を招く。そこで、ヒト又は動物生物体が、この大流量のラジカルに対処することが不可能となる。
【0005】
細胞の酸化ストレスに対して幾つかの防御メカニズムが存在し、これらは様々なレベルの酸化的カスケードで作動することが可能である。このカスケードは概して、ミトコンドリアにおける分子状酸素の部分的還元に関連するスーパーオキシドラジカルの過剰生産(典型的な虚血再灌流症候群)により開始される。このスーパーオキシドラジカルは、過酸化水素への不均化を受け得る。これらの2つの種は、第一鉄の存在下でフェントン反応によってヒドロキシルラジカルを与えることができ、これらは、Stadtman H.R., Berlett B.S. J. Biol. Chem. (1991) 266, 17201-17211、Floyd R.A. Carcinogenesis (1990) 11, 1447-1450、Gille J.J., Van Berkel C.G., Joenge H. Carcinogenesis (1994) 15, 2695-2699、Halliwell B. Mutat. Res. (1999) 443, 37-52に記載されているように、脂質、DNA又はタンパク質のような細胞構成要素のいずれかと非常に迅速に且つ非特異的に反応するという特殊性を有し、その中で不可逆的損傷を引き起こす。これらのフリーラジカル種はまた、NF−κB因子を介して或る特定の自殺遺伝子(Bel遺伝子又はp53遺伝子)を活性化することにより、Siebenlist U., Franzoso G., Brown K., Annu. Rev. Cell. Biol. (1994) 10, 405-455により記載されている細胞アポトーシスの現象に関与する。
【0006】
可溶性SODは、スーパーオキシドラジカルを過酸化水素に変換することに関与し、続いて後者は、グルタチオン依存ペルオキシダーゼ又はカタラーゼにより処理される。
【0007】
酸化剤に対する他の細胞レベルの保護は、特に膜レベルで存在し、これにより、不飽和膜リン脂質の酸化を制限することが可能となる。α−トコフェロール及びβ−カロテンは、脂質抗酸化防止剤の主要な例である。
【0008】
酸化ストレス関連疾患を予防又は処置することにおいて使用するための療法に関する研究において最も見込みのある戦略は、フリーラジカル種の非常に高い反応性に関連する損傷を非常に初期の段階で予防するために、できるだけ上流でこの酸化的カスケードに介入することにある。
【0009】
このため、「スピントラップ」分子を用いてこれらの非常に反応性のフリーラジカルを捕捉することが求められており、その中でもニトロンが最も有効的であるようである。
【0010】
生物系におけるフリーラジカルにより引き起こされる損傷の低減及び予防におけるニトロンの治療効果は、Oliver C., Starke-Read P., Stadman E., Liu G., Carney J., Floyd R. Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1990) 87, 5144-5147により1990年に実証された。
【0011】
これらの著者らは、アレチネズミにおいてα−C−フェニル−N−tert−ブチルニトロン(PBN)の注入後に、脳虚血により引き起こされる損傷が減少することについて実証することが可能であった。脳虚血はフリーラジカルの産生の大いなる増加を伴い、これらはPBNにより捕捉され、その結果遥かに安定であり、したがって遥かに反応性が低く且つ遥かに毒性が低いスピン付加物を形成した。PBNは、ほとんどの生物学的研究の対象となっているスピントラップである。
【0012】
例えば、Hensley K., Carney J.M., Stewart C.A., Tabatabaie T., Pye Q.N., Floyd R.A. Int. Rev. Neurobiol.(1997) 40, 229−317が参照され得る。
【0013】
PBNは、おそらくその高い疎水性に起因して脳における作用の非常な特異性を有し、Cheng H.Y,, Liu T., Feuerstein G., Barone F.C. Free Radic. Biol. Med. (1993) 14, 243-250により示されるように、PBNが血液−脳関門を横切ることを可能にする。
【0014】
ニトロンの中で最もよく知られ、且つ最も効果的なものは、α−C−フェニル−N−tert−ブチルニトロン(PBN)、5,5−ジメチルピロリジン−N−オキシド(DMPO)及びより最近になって発見された分子:N−ベンジリデン−1−ジエトキシホスホリル−1−メチルエチルアミンN−オキシド(PBNP)及び5−ジエチルホスホノ−5−メチルピロリン−N−オキシド(DEPMPO)である。
【0015】
PBNよりも神経保護活性が高く、且つ薬理学的研究及び臨床開発が為されているPBNのジスルホネート誘導体、NXY−059(ジソジウム4−[(tert−ブチルイミノ]メチル−ベンゼン−1,3−ジスルホネートN−オキシド)の言及も為され得る:Kuroda S., Tsuchidate R., Smith M.L., Maples K.R., Siesjo B.K. J. Cereb. Blood Flow Metab.(1999) 19, 778−787;Lees K.R., Sharma A.K., Barer D., Ford G.A., Kostulas V., Cheng Y.F., Odegren T. Stroke(2001) 32, 675−680。
【0016】
しかしながら、上述する分子はいずれも、それらの細胞毒性濃度が非常に高くても、低用量ではin vivo又はex vivoで満足な有効性を有さない:Almli L.M., Hamrick S.E.G., Koshy A.A., Taeuber M.G., Ferriero D.M. Dev. Brain Res. (2001) 132, 121-129、Nakano N., Grasbon-Frodl E.M., Widner H., Brundin P. Neuroscience (1996) 73, 185-200。有効性のこの欠如は、おそらく薬物の乏しい生物学的利用能及び細胞透過の問題に関連している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、フリーラジカルを捕捉することが可能であり、また細胞内レベルでヒト又は動物生物体によりその標的へ運搬されることが可能であるスピントラップ型の分子が依然として必要とされる。
【0018】
特に、細胞膜、及びより一層重要で且つより困難な挑戦であるスーパーオキシドラジカルが産生される区画へ進入するためのミトコンドリア膜を横切ることができる分子である。
【0019】
この目的で、Ouari O., Polidori A., Pucci B., Tordo P., Chalier F. J. Org. Chem. (1999) 64, 3554-3556及びGeromel V., Kadhom N., Cebalos-Picot I., Ouari O., Polidori A., Munnich A., Rotig A., Rustin P. Hum. Mol. Genet. (2001) 10, 1221-1228は、PBNのペルフルオロカーボンベースの両親媒性誘導体:TA1PBNを提唱している。
【0020】
【化1】

【0021】
この分子は、重篤な呼吸鎖複合体V(ATPase)欠乏症を患う線維芽細胞の細胞系に関して試験されており、有望な結果をもたらしている。
【0022】
しかしながら、TA1PBNの合成は、工業的規模でのその生産を想定困難なものにさせる困難性を呈する。
【0023】
国際出願WO 2004/04982号は、α−C−フェニル−N−tert−ブチルニトロン誘導体について記載している。これらのスピントラップ型分子は、合成しやすく、フリーラジカルを捕捉することが可能であり、それらは良好な生物学的利用能を有する。これらの化合物の1つであるN−[4−(オクタ−O−アセチルラクトビオナミドメチレン)ベンジリデン]−N−[1,1−ジメチル−2−(N−オクタノイル)アミド]エチルアミン N−オキシド、即ちLPBNAHは、酸化老化試験においてPBNの生物活性よりも優れた生物活性を示している(B. Poeggeler et al., Journal of Neurochemistry, 2005, 95, 962-973)。しかしながら、より一層高い活性を有し、且つさらに高められた生物学的利用能を伴う化合物が依然として必要とされている。
【0024】
本出願人は、スピントラップ活性を有し、従来技術の分子と比較して高められた生物学的利用能を示し、またその調製が簡素であり且つ工業的規模での生産を想定することを可能にする新規分子を設計及び生産するという目的を設定した。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の主題は、以下の式(I):
【0026】
【化2】

【0027】
(式中、
Xは、単糖又は多糖、並びに単糖及び多糖のアミノ化誘導体、ポリエチレンオキシド鎖、ペプチド鎖、並びに第四級アンモニウム、アミンオキシド、カルニチン基、ホスフェート基、コリン基、下記の基
【0028】
【化3】

【0029】
及び下記の基
【0030】
【化4】

【0031】
から選択されるイオン性極性基から選択される親水性基を表し、
mは、1、2又は3に等しい整数を表し、
Yは、親水性置換基Xを分子の残りに連結することを意図されるスペーサーアーム又は結合を表し、
Yは、エステル、アミド、ウレア、ウレタン、エーテル、チオエーテル及びアミン官能基並びに1つ又は複数のエステル、アミド、ウレア又はウレタン官能基によって及び1つ又は複数のエーテル、アミン又はチオエーテル架橋によって必要に応じて割り込まれるC〜C炭化水素ベース鎖から選択され、
Y’は、エステル官能基
【0032】
【化5】

【0033】
、アミド官能基
【0034】
【化6】

【0035】
、ウレア官能基
【0036】
【化7】

【0037】
、ウレタン官能基
【0038】
【化8】

【0039】
、エーテル架橋−O−、チオエーテル架橋−S−、1つ又は複数のアミノ酸及びセリノールから選択される基を表し、
nは、0、1又は2に等しい整数であり、
m’は、1又は2に等しい整数を表し、
X’は、水素原子、或いは1つ又は複数のフッ素原子で必要に応じて置換されるC〜C14アルキル鎖を表す)
に対応することを特徴とする新規な化合物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
芳香環上に配置される置換基(X’)m’−Y−(CH−は、オルト位、メタ位又はパラ位に存在してもよい。
【0041】
本発明で使用することができる単糖については、グルコース、ラクトース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、リボース、マルトース及びスクロースが言及され得る。また、開鎖(open-chain)単糖も言及され得る。アミノ糖誘導体については、特にグルコサミン及びガラクトサミンが言及され得る。本発明で使用することができる多糖については、幾つかの単糖単位、例えばスクロース、マルトース及びラクトビオン酸からなる鎖が言及され得る。
【0042】
式(I)の分子の親水性部分Xがポリエチレンオキシド鎖である場合、後者は有利には、30〜100のエチレンオキシド単位、好ましくは50〜60単位を含む。
【0043】
好ましくは、ペプチド鎖は、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン又はバリンのような天然アミノ酸からなる。
【0044】
本発明で使用することができるイオン性親水性基又は非イオン性親水性基の例は以下のスキーム1に示される。
【0045】
【化9】

【0046】
【化10】

【0047】
スペーサーアームYが単官能性であるか、或いは多官能性であるかどうかに依存して、スペーサーアームYは、X基で一度又は二度置換される。
【0048】
X’基は、例えば以下の基から選択され得る:
−オクチル基、
−炭化水素ベース基:n−ブチル、tert−ブチル、イソブチル、n−ペンチル、イソペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル、n−ウンデシル、n−ドデシル、n−トリデシル、n−テトラデシル等、
−フッ素化炭化水素ベースの基:式−(CH−(CFF(式中、r及びtは、14≧r+t≧4の場合の2つの整数を表す)に対応する基、例えば、次に記載するようなもの:
−(CFF;−(CFF;−(CFF;−(CFF;−(CFF;−(CFF;−(CF10F;−(CF11F;−(CF12F;−(CF13F;−(CF14F;−CH−(CFF;−CH−(CFF;−CH−(CFF;−CH−(CFF;−CH−(CFF;−CH−(CFF;−CH−(CFF;−CH−(CF10F;−CH−(CF11F;−CH−(CF12F;−CH−(CF13F;−(CH−(CFF;−(CH−(CFF;−(CH−(CFF;−(CH−(CFF;−(CH−(CFF;−(CH−(CFF;−(CH−(CFF;−(CH−(CFF;−(CH−(CF10F;−(CH−(CF11F;−(CH−(CF12F;−(CH−(CFF;・・・−(CH13−(CF)F。
が言及され得る。
【0049】
好ましくは、以下の要件:
Xは、ラクトビオナミド若しくはカルニチン基又はポリオキシエチレン鎖を表すこと、
mは1を表すこと、
m’は1又は2を表すこと、
nは1を表すこと、
X’は、オクチル、ヘプチル、オクチル、デシル、ドデシル及びCF(CFCHCH−(8≧r≧6)の基から選択されること
の少なくとも1つが満たされる。
【0050】
本発明の主題は、式(I)に対応する化合物を調製するプロセスであって、このプロセスは、以下のスキーム2:
【0051】
【化11】

【0052】
(式中、X、m、Y、X’、m’、n及びY’は上記と同じ定義を有する)に従って、式(II)に対応するアルデヒドが式(III)に対応するヒドロキシルアミンと反応されることを特徴とする。
【0053】
式(III)の化合物は、スキーム3:
【0054】
【化12】

【0055】
に記載されるプロセスに従って調製される。
【0056】
親油性基のモノカテナリー(monocatenary)性又はビカテナリー(bicatenary)性に応じて、スキーム2は、以下で開示される条件下で実施される。一例として、一般的なラクトビオナミド極性頭部が選択された。
a−ラクトビオナミド親水性部分の合成
図1は、
m=1、
X=ラクトビオナミド、
Y=
【0057】
【化13】

【0058】
である式(III)の化合物の調製を示す。
【0059】
親水性部分は、2−メチル−2−ニトロプロパノールから合成される。
【0060】
アルコール官能基は、トシル化、続くアジ化ナトリウムによる置換によりアミンに変換される。アルキルアジドは、トリフェニルホスフィン及び水酸化ナトリウムの存在下でシュタウディンガー反応によりアミンへ変換される。
【0061】
このアミンはラクトビオノラクトンと反応することができ、この反応により、アミド結合を介して極性頭部をグラフトすることが可能となる。
【0062】
次に、ニトロ官能基は、塩化アンモニウムの存在下でTHF−水混合物中で4当量の亜鉛を用いてヒドロキシルアミンへ還元される。
【0063】
還元反応により、収率80%で化合物1を得ることが可能となる。
b−炭化水素ベース又はペルフルオロカーボンベースのモノカテナリー疎水性部分の合成(図2):
図2は、
n=0、1又は2、
X’=(CH−R(R=C13、C17又はCH(CH(4<n<14)である)、
Y’=−CH−CH−S−(化合物2)、
【0064】
【化14】

【0065】
(化合物3)、
【0066】
【化15】

【0067】
(化合物4)、
【0068】
【化16】

【0069】
(化合物5)、
【0070】
【化17】

【0071】
(化合物6)、
【0072】
【化18】

【0073】
(化合物7)
である脂肪族鎖を含む式(II)の化合物の調製を示す。
【0074】
誘導体2は、塩基性媒体中での脂肪族チオールの直接縮合により3−ビニルベンズアルデヒドから得られる。化合物3は、4−シアノベンズアルデヒドから合成される。アルデヒド官能基は、アセタール化により保護され、ニトリル官能基はアミン官能基へ還元される。脂肪族鎖の酸官能基はその上で縮合される。生成物4は、トルエン中でのこのアミン上での脂肪族鎖のイソシアネートの縮合により得られる。これら2つの化合物のアルデヒド官能基は、アセトアルデヒド中でのトランスアセタール化により脱保護される。誘導体5、誘導体6及び誘導体7は、4−カルボキシベンズアルデヒドから合成され、そのアルデヒド官能基は、アセタール化により予め保護される。化合物5は、ジフェニルホスホリルアジドによる処理によりアジ化アシルを得た後に得られる。アジドは、トルエン中で加熱することによりイソシアネートに転位される。脂肪族アルコールは、DABCOの存在下で縮合されて、その結果トランスアセタール化後に化合物5を得る。化合物6は、ペプチドカップリング剤であるジシクロヘキシルカルボジイミドの存在下での脂肪族アミンのカップリング、及びアセトアルデヒド中での酸性媒体における加熱によるアルデヒドの脱保護により酸から得られる。
c−炭化水素ベース又はペルフルオロカーボンベースのビカテナリー疎水性部分の合成(図3):
図3は、セリノールからのビカテナリー疎水性部分の合成を示す。
【0075】
化合物7は、4−カルボキシベンズアルデヒドから得られる。アルデヒド官能基は、アセタール化により保護される。セリノールは、ジシクロヘキシルカルボジイミドの存在下でのN−ヒドロキシスクシンイミドのカップリングにより酸官能基が活性化された後に酸官能基上で縮合される。脂肪族鎖は、トルエン中のアルキルイソシアネートの縮合によりアルコール官能基上で縮合される。化合物8は、アセトアルデヒド中でのトランスアセタール化後に得られる。
d−ラクトビオノラクトン由来のモノカテナリー及びビカテナリー両親媒性ニトロンの生産(図4):
各種両親媒性ニトロンは、ラクトビオナミド親水性部分のヒドロキシルアミン基上での各種疎水性シントンのアルデヒド官能基のカップリングにより生産される。カップリング反応は、THF/酢酸混合物中でアルゴン下にて24時間実施される。
【0076】
ニトロンは全て、逆相HPLC(C18カラム/メタノール−水溶離液)により精製された。
【0077】
本発明の主題はまた、フリーラジカルスカベンジャーとしての上記で規定されるような式(I)に対応する化合物の使用である。
【0078】
実際に、本発明による化合物は、従来技術の化合物と等しいフリーラジカル捕捉能を有することが実証されている。
【0079】
この特性により、様々な分野において本発明の分子の使用を想定することが可能となる:
−治療分野では、本発明の生成物は、酸化ストレス及びフリーラジカル酸素種の形成に関連する病状の予防及び/又は処置に使用され得る。
【0080】
したがって、本発明の主題は、薬学的に許容される担体中に本発明による化合物を含む薬学的組成物である。本発明の主題は、フリーラジカルの影響を予防及び/又は処置することにおいて使用するための薬剤の調製のための本発明による化合物の使用である。
【0081】
本発明の主題はまた、酸化ストレス及びフリーラジカル酸素種の形成に関連する病状、特に免疫性疾患及び炎症性疾患、虚血再灌流症候群、アテローム性動脈硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、紫外線及び電離放射線に起因する病変、癌並びに細胞老化を予防及び/又は処置することにおいて使用するための薬学的組成物の調製のための本発明の化合物の使用である。
【0082】
本発明の生成物は、当業者に既知の任意の経路により、特に静脈内注射又は筋内注射により或いは経口投与又は経皮投与により投与され得る。本発明の組成物は、単独で、或いは他の活性剤と組み合わせて使用され得る。それらの投与量及び日用量は、問題となっている分子に関して測定した活性に従って、及び患者の体重に従って調節される:
−化粧品分野では、本発明の化合物は、加齢の影響、及びまた日射の影響を予防及び/又は処置するのに使用され得る。
【0083】
したがって、本発明の主題はまた、美容的に許容される担体中に本発明の化合物を含む化粧品組成物である。
【0084】
上記組成物は、皮膚又は付属物(爪、毛)への塗布用であり得る。
【0085】
上記組成物は、水溶液又は油性溶液、油中水型エマルジョン又は水中油型エマルジョン、トリプルエマルジョン又は軟膏の形態で存在し得る。
【0086】
本発明の化合物は、フリーラジカルスカベンジャー活性が望ましい任意の化粧品組成物:スキンケアククリーム、日焼け止め製品、メークアップ落とし用製品、皮膚又は毛髪用のマスク、シャンプー、メークアップ製品(例えば、口紅、おしろい、ファンデーション、マニキュア等)へ導入され得る:
−有機合成分野では、本発明の化合物は、フリーラジカル反応においてフリーラジカルを吸収するための作用物質として使用され得る。
【0087】
多様な媒体中でのそれらの溶解性に起因して、本発明の化合物は、使用しやすく、非常に多岐にわたる条件下で用いることができる。
【実施例】
【0088】
実験項
I−生物学的評価:
生物学的試験は、Journal of Neurochemistry, 2005, 95, 962-973に記載される手順に従って実施した。これらの新規誘導体の潜在力を評価するために、本発明者らは、化合物10の、アポトーシス細胞死現象を低減及び防止するための能力を測定した。過酸化水素は、多くの細胞モデルにおいてアポトーシス誘導物質として非常に広く使用されている。したがって、SDラットの胚皮層細胞培養物の生存度は、50μM〜200μMの濃度での過酸化水素の処理後に大いに減じられる。PBN(10μM)の添加により、これらの培養物の生存度を非常に不完全に回復させることが可能となる。他方で、同濃度(10μM)での化合物10の添加により、かかる培養物の生存度を完全に回復させることが可能となり、したがってオキシド誘導性アポトーシス現象を低減させる際にPBNの有効性よりも5倍〜10倍高い有効性を実証している。これらの同じ培養物をまた、ミトコンドリア選択的酸化ストレス誘導物質であるドキソルビシンに供した(Kotamraju S.; Konorev E.A.; Joseph J.; Kalyanaraman B. J. Biol. Chem. 2000, 275, 33585-33592)。観察結果は、過酸化水素による誘導に関するのと同じである。PBNは細胞死に対する部分的保護のみをもたらすのに対して、化合物10は、細胞生存度を完全に維持させること可能である。これらの予備結果は、化合物10の、様々な細胞レベルで誘導されるアポトーシス現象を防止する高い能力を強調している。化合物10は、過酸化水素による処理により引き起こされる細胞内損傷を低減することができるが、ドキソルビシンに関するその有効性はまた、ミトコンドリア区画へのこの誘導体の高められた取り込みを示唆する。アポトーシスの制御において中心的な細胞小器官であるミトコンドリアの機能障害は、非常に多種多様な病的状態に関与する。ミトコンドリアへのその取り込みと組み合わせられた誘導体10の抗アポトーシス特性は、上述の分野におけるその使用を想定することを可能にする。
II−実施例:ラクトビオナミドモノカテナリーニトロン10(R=C11)の合成
1−化合物1の合成
【0089】
【化19】

【0090】
極性頭部の化合物1前駆体は、国際公開第WO2004/043982号で既述されている方法に従って2−メチル−2−ニトロプロパノールから容易に調製することができる:1−アルコール官能基を活性化して、塩化トシルのスルホン酸エステルを形成すること、2−このスルホニルエステルをアジド基で置換すること、3−シュタウディンガー反応によりアジド基をアミンへ選択的に還元することにある一連の3工程を用いて、2−メチル−2−ニトロプロパノールは2−メチル−2−ニトロプロピルアミンへ変換される。2−メチル−2−ニトロプロピルアミンは、塩基性媒体中でメトキシエタノール中、60℃でラクトビオノラクトンと縮合される。この反応に続いて、無水酢酸/ピリジン混合物中でヒドロキシル基の過アセチル化の反応を行う。最終的に、ニトロ基は、文献で広範に記載される手順に従ってヒドロキシルアミンへ選択的に還元される(Janzen E.G.; Dudley R.L.; Shetty R.V. J. Am. Chem. Soc. 1979, 101, 243-245)。反応は、粉末亜鉛及び塩化アンモニウムの存在下でTHF/HO混合物中で周囲温度にて実施される。続いて、化合物1は、シリカゲルクロマトグラフィ(溶離液:EtOAc/シクロヘキサン、8:2、v/v)により容易に精製されて、2−メチル−2−ニトロプロパノールから収率25%で白色粉末を得る。
【0091】
=0.52(溶離液:EtOAc/MeOH、9:1、v/v)。
【0092】
H NMR(CDCl)δ(ppm):6.62(1H);5.58−5.63(2H);5.39(1H);5.03−5.25(3H);4.68(1H);4.55(2H);4.35(1H);3.95−4.21(3H);3.27(2H);1.99−2.18(24H);1.06(6H)。
【0093】
13C NMR(DMSO)δ(ppm):166.7−170.7(CO);101.1(CH);78.4、72.1、70.8、70.2、70.0、69.5、69.3、69.3、67.6(CH);61.7、61.4、57.4(CH);45.4(C);22.8、20.9(CH)。
2−化合物3の合成
【0094】
【化20】

【0095】
炭化水素ベースの鎖を保有する化合物3は、国際公開第WO2004/043982号で既述されている方法に従って4−シアノベンズアルデヒドから容易に調製することができる:1−ジオキソランの形態でアルデヒド官能基を保護すること、2−シアノ基をアミンへ還元することにある一連の2工程を用いて、4−シアノベンズアルデヒドは4−(1,3−ジオキサシクロペント−2−イル)ベンジルアミンへ変換される。
【0096】
4−(1,3−ジオキサシクロペント−2−イル)ベンジルアミンは、既述されている方法(Ouari O.,; Polidori A.; Pucci B.; Tordo P.: Chalier F. J. Org. Chem. 1999, 64, 3554-3556)に従ってDCC及びHOBtからなるペプチドカップリング系の存在下でジクロロメタン中でオクタン酸と縮合された後、ジオキソラン保護基が、1:1(v/v)の酢酸/水混合物中での処理により除去される。次に、化合物3は、シリカゲルクロマトグラフィ(溶離液:シクロヘキサン/EtOAc、6:4、v/v)により精製されて、4−シアノベンズアルデヒドから収率40%で白色粉末を得る。
【0097】
=0.47(溶離液:EtOAc/シクロヘキサン、6/4 v/v)。
【0098】
H NMR(CDCl)δ(ppm):9.98(1H);7.84(2H);7.42(2H);6.18(1H);4.50(2H);2.26(2H);1.63(2H);1.29(8H);0.88(3H)。
【0099】
13C NMR(CDCl)δ(ppm):191.9、173.0(CO);137.0、139.7(C);127.9、126.8(CH);65.3、43.3、36.8、31.7、29.3、29.0、25.8、22.6(CH);14.1()。
3−化合物10の合成
【0100】
【化21】

【0101】
化合物10は、国際公開WO2004/043982号に既述されている方法に従って、化合物1と化合物3との縮合により得られる:ヒドロキシルアミン1及びベンズアルデヒド誘導体3は、アルゴン雰囲気下で且つモレキュラーシーブ4Aの存在下で無水THF中で化学量論量で可溶化される。反応媒体は暗所で60℃にする。ベンズアルデヒド誘導体を使い切るまで、ヒドロキシルアミンを0.20当量ずつ分割して24時間毎に順次添加する。すでに実証されている(Poeggeler B.; Durand G.; Polidori A.; Pappola M.A.; Vega-Naredo L.; Conto-Montes A.; Boeker J.; Hardeland R.; Pucci B. J. Neurochem. 2005, 95, 962-973)ように、共溶媒としての酢酸の使用により、反応速度論をかなり増加させることが可能となる。形成されたニトロンは、シリカゲルクロマトグラフィ(溶離液:EtOAc/シクロヘキサン、7:3 v/v)により、続いてセファデックスLH−20樹脂上でのサイズ排除クロマトグラフィ(溶離液:ジクロロメタン/メタノール、1:1 v/v)により精製される。最終的に、極性頭部のアセチル基は、触媒量のナトリウムメタノレートの存在下でメタノール中でのエステル交換によりゼンプレン(Zemplen)法に従って排除される。化合物10は、セファデックスLH−20樹脂上でのサイズ排除クロマトグラフィ(溶離液:メタノール)により精製されて、収率70%で白色粉末を得る。
【0102】
=0.38(溶離液:EtOAc/MeOH/HO、7:2:1、v/v)。
【0103】
H NMR(MeOD)δ(ppm):8.35(2H);7.89(1H);7.41(2H);4.30−4.71(3H);4.19(1H);3.32−3.90(13H);2.28(2H);1.61(8H);1.33(8H);0.93(3H)。
【0104】
13C NMR(MeOD)δ(ppm):174.2(ONH);142.4、135.1(C);129.2、129.9、127.1、104.3、81.7、75.8、73.3(CH);72.5(C);71.7、71.3、71.1、68.9(CH);62.3、61.3、45.7、42.4、35.7、31.5、28.9、28.7、25.7(CH);23.5、23.4(CH);22.3(CH);13.0(CH)。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】図1は、m=1、X=ラクトビオナミド、Y=
【化22】

である式(III)の化合物の調製を示す。
【図2】図2は、 n=0、1又は2、 X’=(CH−R(R=C13、C17又はCH(CH(4<n<14)である)、 Y’=−CH−CH−S−(化合物2)、
【化23】

(化合物3)、
【化24】

(化合物4)、
【化25】

(化合物5)、
【化26】

(化合物6)、
【化27】

(化合物7)
である脂肪族鎖を含む式(II)の化合物の調製を示す。
【図3】図3は、セリノールからのビカテナリー疎水性部分の合成を示す。
【図4】d−ラクトビオノラクトン由来のモノカテナリー及びビカテナリー両親媒性ニトロンの生産。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】



(式中、
Xは、単糖又は多糖、並びに単糖及び多糖のアミノ化誘導体、ポリエチレンオキシド鎖、ペプチド鎖、並びに第四級アンモニウム、アミンオキシド、カルニチン基、ホスフェート基、コリン基、下記の基
【化2】



及び下記の基
【化3】



から選択されるイオン性極性基から選択される親水性基を表し、
mは、1、2又は3に等しい整数を表し、
Yは、芳香環と親水性置換基Xを連結することを意図されるスペーサーアーム又は結合を表し、
Yは、エステル、アミド、ウレア、ウレタン、エーテル、チオエーテル及びアミン官能基並びに1つ又は複数のエステル、アミド、ウレア又はウレタン官能基によって及び1つ又は複数のエーテル、アミン又はチオエーテル架橋によって必要に応じて割り込まれるC〜C炭化水素ベース鎖から選択され、
Y’は、エステル官能基、アミド官能基、ウレア官能基、ウレタン官能基、エーテル架橋、チオエーテル架橋、1つ又は複数のアミノ酸及びセリノールから選択される基を表し、
m’は、1又は2に等しい整数を表し、
nは、0、1又は2に等しく、
X’は、水素原子、或いは1つ又は複数のフッ素原子で必要に応じて置換されるC〜C14アルキル鎖を表す)
に対応することを特徴とする化合物。
【請求項2】
Xは、グルコース、ラクトース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、リボース、マルトース、グルコサミン、スクロース及びラクトビオナミドから選択される基を表すことを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
Xは、30〜100のエチレンオキシド単位、好ましくは50〜60単位を含むポリエチレンオキシド鎖から選択される基を表すことを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
Xは、
【化4】



から選択される基を表すことを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
以下の要件:
Xは、ラクトビオナミド、カルニチン又はポリオキシエチレン鎖から選択される基を表すこと、
mは1を表すこと、
m’は1又は2を表すこと、
nは1に等しいこと、
X’は、オクチル、デシル、ドデシル及びCF(CFCHCH−(8≧r≧6)であること
の少なくとも1つが満たされることを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の式(I)に対応する化合物を調製するプロセスであって、このプロセスは、以下のスキーム2:
【化5】


に従って、式(II)に対応するアルデヒドが式(III)に対応するヒドロキシルアミンと反応されることを特徴とするプロセス。
【請求項7】
前記式(III)の化合物は、スキーム3:
【化6】


に記載されるプロセスに従って調製されることを特徴とする、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
薬学的に許容される担体中に請求項1ないし5のいずれか1項に記載の式(I)に対応する少なくとも1つの化合物を含む薬学的組成物。
【請求項9】
フリーラジカルの影響を予防及び/又は処置することにおいて使用するための薬剤の調製のための請求項1ないし5のいずれか1項に記載の式(I)に対応する化合物の使用。
【請求項10】
酸化ストレス及びフリーラジカル酸素種の形成に関連する病状の予防又は処置において使用するための薬剤の調製のための請求項1ないし5のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項11】
免疫性疾患及び炎症性疾患、虚血再灌流症候群、アテローム性動脈硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、紫外線及び電離放射線に起因する障害、ハンチントン病、癌並びに細胞老化から選択される病状の予防又は処置のための請求項10に記載の使用。
【請求項12】
美容的に許容される担体中に請求項1ないし5のいずれか1項に記載の式(I)に対応する少なくとも1つの化合物を含むことを特徴とする化粧品組成物。
【請求項13】
請求項12に記載の組成物が、皮膚又は付属物に塗布されることを特徴とする、加齢の影響を予防及び/又は処置する美容処理プロセス。
【請求項14】
フリーラジカル反応におけるフリーラジカルを吸収するための作用物質としての有機合成における請求項1ないし5のいずれか1項に記載の式(I)に対応する化合物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−530252(P2009−530252A)
【公表日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−558852(P2008−558852)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際出願番号】PCT/FR2007/000446
【国際公開番号】WO2007/118947
【国際公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(505167048)
【出願人】(505167059)ユニヴェルジット ダヴィニョン エ デ ペイズ デュ ボークリューズ (4)
【Fターム(参考)】