説明

β型サイアロンの製造方法

【課題】高い発光強度を有するβ型サイアロンの製造方法を提供する。
【解決手段】
Si6−zAl8−zで示されるβ型サイアロンにEu2+を固溶したβ型サイアロンの製造方法である。β型サイアロンの原料を混合する混合工程と、混合工程後の原料を焼成してβ型サイアロンを形成する焼成工程と、焼成工程後のβ型サイアロンにHIP(Hot Isostatic Pressing)処理を行うHIP処理工程と、HIP処理工程後のβ型サイアロンにアニ−ル処理を行うアニ−ル処理工程と、アニール処理工程後のβ型サイアロンに酸処理を行う酸処理工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体の一種であるβ型サイアロンの製造方法に係り、特にLED(Light Emitting Diode)からの光を受けて発光する際の発光強度に優れたβ型サイアロンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体の製造方法にHIP(Hot Isostatic Pressing)処理を行うことによって蛍光体の結晶性や発光特性の向上が図られている。特許文献1では、HIP処理が窒化ガリウム蛍光体に適用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−309249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、別の素材の蛍光体の製造方法にそのまま用いても、発光強度が必ず向上するというものでなかった。特に、β型サイアロンでは、その傾向にある。
【0005】
本発明の目的は、発光強度を高めたβ型サイアロンを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、Si6−zAl8−zで示されるβ型サイアロンにEu2+を固溶したβ型サイアロンの製造方法であって、β型サイアロンの原料を混合する混合工程と、混合工程後の原料を焼成してβ型サイアロンを形成する焼成工程と、焼成工程後のβ型サイアロンにHIP(Hot Isostatic Pressing)処理を行うHIP処理工程と、HIP処理工程後のβ型サイアロンにアニ−ル処理を行うアニ−ル処理工程と、アニール処理工程後のβ型サイアロンに酸処理を行う酸処理工程を有するβ型サイアロンの製造方法である。
【0007】
HIP処理工程は、β型サイアロンを、窒素雰囲気下、1900℃以上2500℃以下、70MPa以上200MPa以下におく工程であるのが好ましい。
【0008】
アニール処理工程は、β型サイアロンを、窒素以外のガスを主成分とする不活性ガス中1350℃以上1650℃以下の雰囲気下におく処理、又は、真空中1200℃以上1550℃以下の雰囲気下におく処理であるのが好ましい。
【0009】
酸処理工程は、β型サイアロンを、フッ化水素酸と硝酸の混酸、又は、フッ化水素酸アンモニウムに含浸する処理であるのが好ましい。
【0010】
β型サイアロンの原料を混合する混合工程は、(1)金属シリコン、窒化アルミニウム、及び、酸化ユーロピウムを原料として混合した混合粉を、シリコン直接窒化させた混合工程であるか、(2)窒化ケイ素、窒化アルミニウム、及び、酸化ユーロピウムを原料として混合する混合工程であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のβ型サイアロンの製造方法は、上述の構成にすることにより、発光強度の高いβ型サイアロンを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、Si6−zAl8−zで示されるβ型サイアロンにEu2+を固溶したβ型サイアロンの製造方法であって、β型サイアロンの原料を混合する混合工程と、混合工程後の原料を焼成してβ型サイアロンを形成する焼成工程と、焼成工程後のβ型サイアロンにHIP(Hot Isostatic Pressing)処理を行うHIP処理工程と、HIP処理工程後のβ型サイアロンにアニ−ル処理を行うアニ−ル処理工程と、アニール処理工程後のβ型サイアロンに酸処理を行う酸処理工程を有するβ型サイアロンの製造方法である。
【0013】
β型サイアロンは、β型窒化ケイ素のSi位置にAlが、N位置にOが置換固溶したものであり、単位胞に2式量の原子があるので、一般式として、Si6−zAl8−zが用いられる。組成zは、0〜4.2が好ましく、(Si,Al)/(N,O)のモル比は、3/4を維持する必要がある。
【0014】
β型サイアロンの原料を混合する混合工程は、
(1)金属シリコン(Si)、窒化アルミニウム(AlN)、及び、酸化ユーロピウム(Eu)を原料として混合した混合粉を、シリコン直接窒化させた混合工程、又は、
(2)窒化ケイ素(Si)、窒化アルミニウム(AlN)、及び、酸化ユーロピウム(Eu)を原料として混合する混合工程であるのが好ましい。
ユーロピウム化合物にあっては、ユーロピウムの金属、酸化物、炭酸塩、窒化物又は酸窒化物から選ばれるEu化合物があり、酸化ユーロピウム(Eu)が好ましい。
これらの配合にあっては、酸化アルミニウムを添加してもよい。
【0015】
混合工程の具体的な方法としては、乾式混合する方法、原料各成分と実質的に反応しない不活性溶媒中で湿式混合した後に溶媒を除去する方法がある。混合装置としては、V型混合機、ロッキングミキサー、ボールミル、振動ミルがある。
【0016】
焼成工程にあっては、原料混合粉末を、焼成工程内で原料粉末と反応しない材質(例えば窒化ホウ素)からなる容器に充填し、窒素雰囲気中で加熱して原料粉末内の固溶反応を進行させる工程がある。
【0017】
HIP処理工程は、熱間静水圧処理ともいい、本発明の場合、βサイアロンを熱間静水圧プレスに充填し、高温高圧の条件下において熱処理を施すことをいう。より好ましいHIP処理は、窒素雰囲気下、1900℃以上2500℃以下、70MPa以上200MPa以下である。
【0018】
HIP処理における設定温度は、1900℃以上2500℃以下が好ましく、より好ましい下限温度は2000℃、さらに好ましい下限温度は2250℃であり、より好ましい上限温度は2400℃である。
【0019】
HIP処理における設定圧力は、70MPa以上200MPa以下が好ましく、より好ましい下限圧力は100MPaであり、より好ましい上限圧力は180MPaである。
【0020】
アニール処理工程は、アニール処理は、β型サイアロン中に存在し可視光発光を阻害する結晶欠陥や第二相を、後で行う酸処理工程で用いられる酸に可溶な状態へと変える処理である。具体的には、(1)窒素以外のガスを主成分とする不活性ガス中1350℃以上1650℃以下の雰囲気下におく処理、又は、(2)真空中1200℃以上1550℃以下の雰囲気下におく処理であるのが好ましい。採用に適した不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウムがあり、アルゴンが好ましい。
【0021】
酸処理工程により、アニール処理工程で変化した発光阻害因子が溶解除去され、発光強度が向上する。酸処理に用いられる酸としては、フッ化水素酸、硫酸、リン酸、塩酸、硝酸から選ばれる1種又は2種以上の酸が用いられ、好ましくは、フッ化水素酸と硝酸の混酸、又は、フッ化水素酸アンモニウムが良い。酸処理工程の具体的方法は、アニール処理工程後のβ型サイアロンを、上述の酸を含む水溶液に分散し、数分から数時間程度、撹拌することにより反応させることにより行う。酸の温度は、室温でも、50〜80℃程度でも良い。酸処理後は、フィルター等でβ型サイアロン粒子と酸を分離した後に、水洗するのが好ましい。
【実施例】
【0022】
<β型サイアロンの原料:金属シリコン、窒化アルミニウム、及び、酸化ユーロピウム>
高純度化学社製シリコン粉末(純度99.99%以上、粒径45μm以下)96.41質量%、トクヤマ社製窒化アルミニウム粉末(Eグレード)1.16質量%、信越化学工業社製酸化ユーロピウム粉末(RUグレード)2.43質量%を、窒化ケイ素焼結体製の乳鉢と乳棒を用い混合し、更に目開き250μmの篩を全通させ凝集を取り除き、原料混合粉末を得た。原料混合粉末を直径40mm×高さ30mmの蓋付きの円筒型窒化ホウ素製容器(電気化学工業社製、「N−1」グレード)に充填し、カーボンヒーターの電気炉で0.50MPaの加圧窒素雰囲気中、1550℃で8時間の窒化処理を行った。加熱時の昇温速度は、室温〜1200℃を20℃/分で、1550℃を0.5℃/分とした。得られた生成物は塊状であり、これを窒化ケイ素焼結体製の乳鉢と乳棒を用い粉砕した。粉砕した粉末を目開き45μmの篩で分級し、45μm以下の粉末を蛍光体合成用のEu付活Al含有窒化ケイ素粉末とした。ここでの配合比は、β型サイアロンの一般式:Si6−zAl8−zにおいて、酸化ユーロピウムを除いて、z=0.05となるように設計したものである。
【0023】
<焼成工程>
窒化処理された原料混合粉末を、蓋付きの円筒型窒化ホウ素製容器(電気化学工業株式会社製、「N−1」グレード)に充填し、カーボンヒーターの電気炉で0.8MPaの加圧窒素雰囲気中、2000℃で8時間の焼成工程を行った。得られた生成物は、塊状であるので、軽度の解砕を行い、その後、粒子サイズ、粒子形態を均一化した。
【0024】
焼成工程までの状態のβ型サイアロンの吸収率、内部量子効率、外部量子効率及び発光ピーク強度を、比較例1として、表1に開示する。
【0025】
【表1】

【0026】
表1における吸収率、内部量子効率、外部量子効率は、次の様にして求めた。
【0027】
試料部に反射率が99%の標準反射板(Labsphere社製、スペクトラロン)をセットし、波長455nmに分光した励起光のスペクトルを測定し、450〜465nmの波長範囲のスペクトルから励起光フォトン数(Qex)を算出した。次いで、試料部に蛍光体をセットし、波長455nmに分光した青色光を蛍光体に照射し、得られたスペクトルデータから励起反射光フォトン数(Qref)及び蛍光フォトン数(Qem)を算出した。励起反射光フォトン数は、励起光フォトン数と同じ波長範囲で、蛍光フォトン数は、465〜800nmの範囲で算出した。得られた三種類のフォトン数から外部量子効率(=Qem/Qex×100)、吸収率(=(Qex−Qref)×100)、内部量子効率(=Qem/(Qex−Qref)×100)を求めた。
【0028】
表1における発光ピーク強度は、発光強度の指標であり、具体的には次の様にして求めた。
【0029】
発光ピーク強度は、分光蛍光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製、「F4500」)を用いて測定した。本実施例では、単色光として波長455nmの青色光を用いた。発光強度は、相対ピーク強度(%)で表している。
【0030】
焼成工程後のβ型サイアロンに対して、HIP処理工程を行った。HIP処理工程は、焼成工程後のβ型サイアロンを、窒素雰囲気下、2350℃、150MPaに1時間おいたものである。
【0031】
HIP処理工程後のβ型サイアロンの評価を、参考例1として、表1に示す。
【0032】
HIP処理工程後のβ型サイアロンに対して、アニール処理工程を行った。アニール処理工程は、β型サイアロンを、アルゴンガス中1350℃の雰囲気下に8時間である。
【0033】
アニール処理工程後のβ型サイアロンに対して、酸処理工程を行った。酸処理工程は、β型サイアロンを、フッ化水素酸と硝酸の混酸に30分含浸する処理を採用した。
【0034】
酸処理工程後、合成樹脂製フィルターでβ型サイアロンの粒子と酸を分離し、さらに水洗いをした。この処理後のβ型サイアロンの評価を実施例1として、表1に示す。
【0035】
表1に示すように、発光ピーク強度が、比較例1から参考例1になったとき、一端下がったが、アニール処理及び酸処理を行うことによって向上した。
【0036】
<β型サイアロンの原料:窒化ケイ素、窒化アルミニウム、及び、酸化ユーロピウム>
次に比較例1のβ型サイアロンの原料を、宇部興産株式会社製α型窒化ケイ素粉末(「SN−E10」グレード、酸素含有量1.0質量%)98.086質量%、トクヤマ株式会社製窒化アルミニウム粉末(「E」グレード、酸素含有量0.8質量%)1.161質量%、信越化学工業株式会社製酸化ユーロピウム粉末(「RU」グレード)0.753質量%を、V型混合機(筒井理化学器械株式会社製「S−3」)を用い混合し、更に目開き250μmの篩を全通させ凝集を取り除き、原料混合粉末を得た。ここでの配合比は、β型サイアロンの一般式:Si6−zAl8−zにおいて、酸化ユーロピウムを除いて、z=0.08となるように設計したものである。
【0037】
この原料を変更したこと、窒化処理をしないで製造した以外は、比較例1、参考例1、実施例1とほぼ同様にβ型サイアロンを製造した。その結果を、比較例2、参考例2、実施例2として、表1に示す。いずれも前例と同様な効果を得られた。
【0038】
他の実施例として、アニール処理工程を、真空中1350℃の雰囲気下においた結果、実施例1とほぼ同様な結果を得ることができた。
【0039】
他の実施例として、酸処理工程で用いる酸をフッ化水素酸アンモニウムに変更した結果、実施例1とほぼ同様な結果を得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si6−zAl8−zで示されるβ型サイアロンにEu2+を固溶したβ型サイアロンの製造方法であって、β型サイアロンの原料を混合する混合工程と、混合工程後の原料を焼成してβ型サイアロンを形成する焼成工程と、焼成工程後のβ型サイアロンにHIP(Hot Isostatic Pressing)処理を行うHIP処理工程と、HIP処理工程後のβ型サイアロンにアニ−ル処理を行うアニ−ル処理工程と、アニール処理工程後のβ型サイアロンに酸処理を行う酸処理工程を有するβ型サイアロンの製造方法。
【請求項2】
HIP処理工程が、β型サイアロンを、窒素雰囲気下、1900℃以上2500℃以下、70MPa以上200MPa以下におく工程である請求項1記載のβ型サイアロンの製造方法。
【請求項3】
アニール処理工程が、β型サイアロンを、窒素以外のガスを主成分とする不活性ガス中1350℃以上1650℃以下の雰囲気下におく処理、又は、真空中1200℃以上1550℃以下の雰囲気下におく処理である請求項1又は2記載のβ型サイアロンの製造方法。
【請求項4】
酸処理工程が、β型サイアロンを、フッ化水素酸と硝酸の混酸、又は、フッ化水素酸アンモニウムに含浸する処理である請求項1乃至3のいずれか一項記載のβ型サイアロンの製造方法。
【請求項5】
β型サイアロンの原料を混合する混合工程が、金属シリコン、窒化アルミニウム、及び、酸化ユーロピウムを原料として混合した混合粉を、シリコン直接窒化させた混合工程である請求項1乃至4のいずれか一項記載のβ型サイアロンの製造方法。
【請求項6】
β型サイアロンの原料を混合する混合工程が、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、及び、酸化ユーロピウムを原料として混合する混合工程である請求項1乃至4のいずれか一項記載のβ型サイアロンの製造方法。

【公開番号】特開2011−105532(P2011−105532A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260243(P2009−260243)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】