説明

β型サイアロンの製造方法

【課題】白色LED等の発光装置の高輝度化を実現できるEuを付活したβ型サイアロンの製造方法を提供する。
【解決手段】
酸化アルミニウム又は酸化ケイ素の少なくとも一つと、窒化ケイ素と、窒化アルミニウムと、ユーロピウム化合物とを混合する混合工程と、混合工程後の混合物を、1950℃を超え2200℃以下、10時間以上の条件で焼成する焼成工程と、焼成工程後に1300℃以上1600℃以下、分圧10kPa以下の窒素以外の不活性ガスの雰囲気中で熱処理する熱処理工程と、を備え、熱処理工程後に得られるβ型サイアロンの一次粒子の50%面積平均径を、5μm以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はβ型サイアロンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
β型サイアロンの結晶構造内にEu2+を固溶させた蛍光体は、紫外から青色の光で励起され520〜550nmの緑色発光を示す蛍光体である。Eu2+を固溶させたβ型サイアロンは、Eu固溶β型サイアロンとも呼ばれる。この蛍光体は、白色発光ダイオード(白色LED(Light Emitting Diode)と呼ぶ。)等の発光装置の緑色発光成分として使用されている。Eu固溶β型サイアロンは、Eu2+を固溶させた蛍光体の中でも、発光スペクトルは非常にシャープであり、特に青、緑、赤の光の3原色からなる狭帯域発光が要求される液晶ディスプレイパネルのバックライト光源の緑色発光成分に好適な蛍光体である(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−255895公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】大久保和明他、NBS標準蛍光体の量子効率の測定、照明学会誌、第83巻、第2号、pp.87−93、平成11年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Eu固溶β型サイアロンは近時、実用化が進み、さらに発光効率等の改善が望まれている。
【0006】
本発明は、高発光効率を実現できるEu固溶β型サイアロンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のβ型サイアロンの製造方法は、酸化アルミニウム又は酸化ケイ素の少なくとも一つと、窒化ケイ素と、窒化アルミニウムと、ユーロピウム化合物とを混合する混合工程と、
混合工程後の混合物を、1950℃を超え2200℃以下、10時間以上の条件で焼成する焼成工程と、
焼成工程後に1300℃以上1600℃以下、分圧10kPa以下の窒素以外の不活性ガスの雰囲気中で熱処理する熱処理工程と、
を備え、
熱処理工程後に得られるβ型サイアロンの一次粒子の50%面積平均径を、5μm以上とすることを特徴とする。本発明の製造方法により得られるβ型サイアロンは、一般式:Si6−ZAl8−Z(0<Z≦0.42)で示されるEuを固溶させたβ型サイアロンであり、β型サイアロンの一次粒子の50%面積平均径が5μm以上である。
【0008】
本発明において、β型サイアロンの一次粒子の50%面積平均径は、7μm以上であるのが好ましい。また、β型サイアロンの二次粒子のD50粒径は、30μm以下であるのが好ましい。
【0009】
本発明により得られるβ型サイアロンは、発光装置に用いることができる。この発光装置は、発光光源と波長変換部材とを含み、波長変換部材は、発光光源より発生する近紫外から青色光を吸収し、蛍光を発生する蛍光体を含み、蛍光体は、一般式:Si6−ZAl8−Z(0<Z≦0.42)で示されるEuを固溶させたβ型サイアロンで成り、β型サイアロンの一次粒子の50%面積平均径が5μm以上である。
【0010】
発光装置における発光光源としては、350nm〜500nmの波長の光を発生するLEDチップであるのが好ましい。
【0011】
蛍光体には、さらにEuを固溶させたα型サイアロンを含有させるのが好ましい。
蛍光体には、Euを固溶させたα型サイアロンに加え、Ca−α型サイアロンを含有させるのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のβ型サイアロンの製造方法により、高発光効率を実現できるEu固溶β型サイアロンを有する蛍光体を提供することができる。
【0013】
本発明の製造方法で得られるβ型サイアロンは、高発光効率を実現できるので、このβ型サイアロンを使用して、高輝度の発光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】EBSD法の測定に用いる装置の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の製造方法で得られるβ型サイアロンを用いた発光装置の構造を模式的に示した断面図である。
【図3】実施例1のβ型サイアロンの走査型電子顕微鏡像(SEM像;Scanning Electron Microscope像)を示す図である。
【図4】図3に示すβ型サイアロンのEBSD法によるEBSD像を示しており、(A)はEBSD像を、(B)は(A)の説明図である。
【図5】実施例1のβ型サイアロンのSEM像を示す図である。
【図6】図5に示すβ型サイアロンのEBSD像を示しており、(A)はEBSD像を、(B)は(A)の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
(β型サイアロン)
本発明の実施形態に係るβ型サイアロンは、一般式:Si6−ZAl8−Z:Eu(0<Z≦0.42)で示され、Eu2+を固溶させたβ型サイアロンからなる蛍光体である。本明細書では、Eu2+固溶β型サイアロン蛍光体を、β型サイアロンとも呼ぶ。
【0016】
β型サイアロンの一般式Si6−ZAl8−Z:Euにおいて、Zが0より大きく0.42以下とするのは、高い発光強度を発揮させるためである。
【0017】
本発明者等は、Eu2+固溶β型サイアロンでは、一次粒子の50%面積平均径によって発光強度を制御できる知見を得、Eu2+固溶β型サイアロンの発光強度を向上させるためには、一次粒子の50%面積平均径が5μm以上、好ましくは7μm以上とすればよいことが判明した。
ここで、Eu2+固溶β型サイアロンは、複数の粒子が生成工程での加熱処理時に強固に一体化されたものであり、複数の粒子の各一粒を一次粒子と呼んでいる。複数の粒子が強固に一体化されたものを二次粒子と呼んでいる。
【0018】
一次粒子の50%面積平均径について説明する。
β型サイアロンの個々の一次粒子、すなわち単結晶粒子において、断面の面積の小さな順から、CA1,CA2,CA3,・・・,CAi,・・・,CAkの面積を持つ粒子がある。この一次粒子の集団の全面積(CA1+CA2+CA3+・・・+CAi+・・・+CAk)を100%として累積カーブを求めたとき、この累積カーブが50%となる点の一次粒子の面積Sより計算した一次粒子径を、50%面積平均径とした。
【0019】
一次粒子の50%面積平均径の測定方法について説明する。
一次粒子の50%面積平均径は、電子後方散乱回折像法(Electron backscatter diffraction、EBSD法とも呼ぶ。)を利用して測定することができる。
図1は、EBSD法の測定に用いる装置の構成を示す模式図である。図1に示すように、EBSD法に用いる装置1は、走査型電子顕微鏡2に電子後方散乱回折像法測定装置3を付加した装置から構成されている。走査型電子顕微鏡2は、鏡筒部2A、試料4が載置されるステージ部2B、ステージ制御部2C、電子線走査部2D、制御用コンピュータ2E等から構成されている。電子後方散乱回折像法測定装置3は、試料4に電子線5が照射されて発生し後方へ散乱された電子6を検出する蛍光スクリーン7と、この蛍光スクリーン7の蛍光画像を撮像するカメラ8と、図示しない電子後方散乱回折像のデータの取得及び解析を行うソフトウエア等から構成されている。
【0020】
EBSD法での具体的な測定方法について説明する。
β型サイアロンに電子線を照射して結晶構造と結晶面に対応した電子散乱を生じさせ、この電子散乱のパターンの形状を、ソフトウエアにより解析する。より具体的には、個々の蛍光体の粒子における結晶方位を識別し、個々の結晶方位における粒子径を画像解析により下式(1)から求めることによって、一次粒子の50%面積平均径を算出することができる。
一次粒子の50%面積平均径=2×(S/π)1/2 (1)
ここで、Sは、個々の一次粒子の面積の累積カーブが50%となる点の一次粒子の面積である。
【0021】
前記した一次粒子の50%面積平均径は、小さいと結晶粒界に存在する不純物が増加する傾向にあることに加え、結晶性が低下する傾向にある。このため発光効率が低下する傾向にあるので、5μm以上、好ましくは7μm以上が好ましい。一次粒子の50%面積平均径の制御は、原料粉の組成と、生成工程での加熱処理時の温度と処理時間の制御などによって行うことができる。一次粒子の50%面積平均径の上限は、後述する二次粒子の大きさの上限にあわせて、自ずと決まる。
【0022】
次に、Eu2+固溶β型サイアロンの二次粒子の形状について説明する。
前記したように、Eu2+固溶β型サイアロンの一次粒子の50%面積平均径を5μm以上、好ましくは7μm以上とし、さらにEu2+固溶β型サイアロンの発光強度を向上させるためには、β型サイアロンの二次粒子のD50粒径を30μm以下とすればよい。ここで、D50は、体積基準の積算分率における50%粒径である。
【0023】
前記β型サイアロンの二次粒子のD50粒径は、あまりに大きいと白色LED等の発光装置に応用した際、樹脂中の分散状態が悪く、輝度の低下や色のバラツキが生じるという傾向にある。このため、β型サイアロンの二次粒子のD50粒径は、30μm以下であるのが好ましく、特に好ましくは25μm以下である。
逆に、β型サイアロンの二次粒子のD50粒径は、あまりに小さいと蛍光体自身の発光効率が低下したり、光の散乱により発光装置の輝度が低下したりするという傾向がある。このD50粒径の下限は、一次粒子の大きさに依存する。
【0024】
β型サイアロンの二次粒子のD50粒径の制御は、粉砕又は分級で行うか、又は粉砕及び分級で行うことができる。
【0025】
本発明のβ型サイアロンは、紫外線から可視光の幅広い波長域で励起され、高効率で520nm以上550nm以下の範囲内を主波長とした緑色の発光をするので、緑色発光の蛍光体として優れている。このため、本発明のβ型サイアロンは、本発明のβ型サイアロン単独又は他の蛍光体と組み合わせて種々の発光素子、特に紫外LEDチップや青色LEDチップを光源とする白色LEDに好適に使用できる。
【0026】
(β型サイアロンの製造方法)
本発明のβ型サイアロンの製造方法について説明する。
本発明のβ型サイアロンは、Euを固溶させたβ型サイアロンの生成工程と、生成工程後の熱処理工程と、によって製造することができる。また、品質の向上のために、熱処理工程後に酸処理と、さらに水中に入れて比重の軽い浮遊物を除去する除去工程とを実施することが好ましい。
【0027】
Euを固溶させたβ型サイアロンの生成工程について説明する。
Euを固溶させたβ型サイアロンの構成元素であるSi、Al、N、O、Euを主成分とした原料を混合し、得られた混合組成物を原料混合物とする。原料混合物としては、例えば窒化ケイ素(Si)と窒化アルミニウム(AlN)と酸化ケイ素(SiO)及び/又は酸化アルミニウム(Al)とさらにEuの金属、酸化物、炭酸塩、窒化物又は酸窒化物から選ばれるEu化合物とがある。
【0028】
前記の原料混合物からなる原料混合粉末を、原料と接する面が窒化ホウ素からなる坩堝等の容器内に充填し、窒素等の雰囲気中で加熱して固溶反応を促進させることにより、β型サイアロンを得ることができる。原料混合粉末の容器内への充填は、固溶反応中の粒子間の焼結を抑制する観点から、嵩密度で0.8g/cm以下が好ましい。
【0029】
生成工程における原料混合粉末の加熱温度、つまり焼成温度は、Euを固溶させたβ型サイアロンの組成により異なるが、Euがβ型サイアロンの結晶中に入り込むことができ十分な輝度を有するβ型サイアロンを得るには、1820℃以上2200℃以下の温度範囲であることが好ましい。
【0030】
一次粒子を大きく生成するための生成工程での焼成温度は、1950℃以上2200℃以下が好ましい。一次粒子を大きく生成するために、生成工程における焼成温度での焼成時間は、10時間以上であるのが好ましい。
【0031】
一次粒子の50%面積平均径の大きさの制御は、生成工程後であっても、生成したβ型サイアロンを窒素ガスの雰囲気下、2200℃〜2500℃の温度領域の熱処理によって行うことができる。窒素ガスの圧力は、例えば70MPa〜200MPaの範囲とすることができる。このような温度と圧力の環境下に置くためには、高温等方圧プレス(Hot Isostatic Press)炉を用いるのが好ましい。
【0032】
原料混合粉末は、生成工程によって外形がインゴット状のβ型サイアロンに生成される。このインゴット状のβ型サイアロンを平均粒子径D50で30μm以下にする。このときの具体的な処理としては、インゴット状のβ型サイアロンをクラッシャー、ボールミル、振動ミル、ジェットミル等の粉砕機による粉砕処理とこれらの粉砕処理後の目開き45μm程度の篩分級による処理とがある。
【0033】
生成工程後、単に、一次粒子の50%面積平均径5μm以下のβ型サイアロンを除去することも考えられるが、微細な分級ゆえ、実際は難しい。
【0034】
生成工程後の熱処理工程は、具体的には、生成工程で合成したβ型サイアロンを、分圧10kPa以下の窒素以外の不活性ガスの雰囲気中で、1300℃以上1600℃以下の温度で所定時間熱処理する工程である。不活性ガスとしてはアルゴンガスやヘリウムガスが挙げられる。この熱処理工程は、加熱処理雰囲気中で窒素分圧を下げるための工程である。この熱処理工程によって、β型サイアロンのホスト結晶中において、外部励起光で励起された電子、つまり励起電子を捕獲する電子トラップの数を減少させることができる。
【0035】
熱処理工程後の酸処理を採用することにより、β型サイアロン以外の素材を溶解して除去し、さらには熱処理工程によって分解されて新たに生成されたSiを溶解して除去することができる。これによりβ型サイアロンの不純物低減を図ることができる。
【0036】
(発光装置)
本発明の第2の実施形態に係るβ型サイアロンを用いた発光装置について詳細に説明する。
図2は、本発明の第2の実施形態に係るβ型サイアロンを用いた発光装置10の構造を模式的に示す断面図である。図2に示すように、本発明の発光装置10は、発光光源12としてのLEDチップと、発光光源12を搭載する第1のリードフレーム13と、第2のリードフレーム14と、発光光源12と第1のリードフレーム13と第2のリードフレーム14とを被覆する波長変換部材15と、発光光源12と第2のリードフレーム14を電気的につなぐボンディングワイヤ16と、これらを覆う合成樹脂製のキャップ19で形成されている。波長変換部材15は、蛍光体18と、蛍光体18を分散しつつ配合した封止樹脂17とからなる。
【0037】
第1のリードフレーム13の上部13aには、発光光源12として発光ダイオードチップ搭載用の凹部13bが形成されている。凹部13bは、その底面から上方に向かって孔径が徐々に拡大する略漏斗形状を有していると共に、凹部13bの内面が反射面となっている。この反射面の底面に発光ダイオードチップ12の下面側の電極がダイボンディングされている。LEDチップ12の上面に形成されている他方の電極は、ボンディングワイヤ16を介して第2のリードフレーム14の表面と接続されている。
【0038】
発光光源12としては、各種LEDチップを用いることができ、特に好ましくは、近紫外から青色光の波長として350nm〜500nmの光を発生するLEDチップである。
【0039】
発光装置1の波長変換部材5に用いる蛍光体18としては、β型サイアロン、α型サイアロン、CaAlSiN、YAGの単体又は混合体があり、これらに固溶される元素としては、ユーロピウム(Eu)、セリウム(Ce)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)がある。発光光源2と波長変換部材5を組み合わせることによって高い発光強度を有する光を発光させることができる。
【0040】
β型サイアロンからなる蛍光体18としては、本発明に従えば、一般式:Si6−ZAl8−Z(0<Z≦0.42)で示され、Euを固溶させたβ型サイアロンが好適である。β型サイアロンの一次粒子の50%面積平均径は、5μm以上である。このβ型サイアロンとしては、一次粒子の50%面積平均径は、7μm以上であるのがさらに好ましい。β型サイアロンとしては、その二次粒子のD50粒径が30μm以下であるのが好ましい。
【0041】
蛍光体18では、発光装置10の光波長制御のため、前記β型サイアロンからなる蛍光体18に、さらにEu固溶α型サイアロンを含めたり、CaAlSiNを含めたりすることができる。
【0042】
本発明のβサイアロン単体を用いた発光装置10の場合、発光光源12として、特に350nm以上500nm以下の波長を含有している近紫外光や可視光を励起源として照射することで、520nm以上550nm以下の範囲の波長にピークを持つ緑色の発光特性を有する。このため、発光光源12として近紫外LEDチップ又は青色LEDチップと本発明のβサイアロンとを用い、さらに波長が600nm以上700nm以下である赤色発光蛍光体、青色発光蛍光体、黄色発光蛍光体又は橙発光蛍光体の単体又は混合体とを組み合わせることによって、白色光にすることができる。
【0043】
本発明の発光装置10は、β型サイアロン18の発光強度が高いため、高い発光強度を有する。
【実施例】
【0044】
以下、本発明に係る実施例について、表1を参照しつつ詳細に説明する。
【表1】

【実施例1】
【0045】
(Eu固溶β型サイアロンの合成)
原料混合物として、合成後のEuを固溶させたβ型サイアロンのZ値が0.25となるように、α型窒化ケイ素粉末(電気化学工業社製、NP−400グレード、酸素含有量0.96質量%、β相含有量14.8質量%)95.5質量%、窒化アルミニウム粉末(トクヤマ社製、Fグレード、酸素含有量0.9質量%)3.1質量%、酸化アルミニウム粉末(大明化学社製、TM−DARグレード)0.6質量%、酸化ユーロピウム粉末(信越化学工業社製、RUグレード)0.8質量%を配合し、原料混合物を得た。ここで、Z値を0.25にするための配合比は酸化ユーロピウムの酸素量を考慮に入れずに算出した。
【0046】
前記原料混合物に対してロッキングミキサー(愛知電機社製、RM−10)を用い、60分間乾式で混合した後、開き150μmのステンレス製篩を全通させ、蛍光体合成用の原料混合粉末を得た。
【0047】
作製した原料混合粉末90gを、内部の容積が0.4リットルの蓋付きの円筒型窒化ホウ素製容器(電気化学工業社製、N−1グレード)に充填した。この原料混合粉末を容器ごとカーボンヒーターの電気炉で0.9MPaの加圧窒素雰囲気中、2000℃で10時間の加熱処理を行った。加熱処理後の生成物に対して軽度の解砕を行った後、目開き45μmの篩を通し、合成混合粉末を得た。
【0048】
この合成混合粉末に対して、CuのKα線を用いた粉末X線回折測定(X-ray Diffraction、XRD測定と呼ぶ。)を行い、結晶相の同定及びβ型サイアロンの格子定数測定を行った。その結果、第一の結晶相としてβ型サイアロンと第二相の結晶相として、2θ=33〜38°付近に複数の微小な回折線とがあった。第二相の中で最も高い回折線強度はβ型サイアロンの(101)面の回折線強度に対して、1%以下であった。
【0049】
得られた合成混合粉末のうちの20gを、直径6cm×高さ4cmの蓋付きの円筒型窒化ホウ素製容器(電気化学工業社製、N−1グレード)に充填し、カーボンヒーターの電気炉で大気圧のアルゴン雰囲気中、1450℃で8時間の加熱処理を行った。加熱処理で得た粉末は、焼結に伴う収縮はなく、加熱前とほとんど同じ性状であり、目開き45μmの篩を全て通過した。XRD測定の結果、微量のSiが検出された。
次に、加熱処理で得た粉末を、50%フッ化水素酸と70%硝酸の1:1混酸中で処理した。粉末及び混酸からなる懸濁液は、処理中に茶色っぽい緑色から鮮やかな緑色に変化した。その後、懸濁液の水洗及び乾燥によってβ型サイアロンを得た。
【0050】
(ESBDで求めた50%面積平均径)
実施例1のβ型サイアロンの一次粒子の50%面積平均径を、EBSD法を用いて測定した。EBSD法は、走査電子顕微鏡(日本電子社製FE−SEM、JSM−7001F型)2に電子後方散乱回折像法測定装置(EDAX−TSL社製、OIM装置)3を付加した装置を用いて測定した。
【0051】
ESBD50%面積平均径は、具体的には、実施例1のβ型サイアロンに電子線を照射して結晶構造と結晶面に対応した散乱を生じさせ、この散乱のパターンの形状を、ソフトウエア(EDAX−TSL社製OIM、Ver5.2)により解析して個々の蛍光体の粒子における結晶方位を識別した。さらに、個々の結晶方位における粒子径を画像解析により前記(1)式から求め、一次粒子の50%面積平均径を算出した。
【0052】
EBSD法で求めた結晶方位の測定条件を以下に示す。
加速電圧:15kV
作動距離:15mm
試料傾斜角度:70°
測定領域:80μm×200μm
ステップ幅:0.2μm
測定時間:50msec/ステップ
データポイント数:約400,000ポイント
【0053】
(画像解析)
画像解析にあっては、図3に示すように、実施例1のβ型サイアロンの走査型電子顕微鏡像(SEM像、電子の加速電圧は15kVであり、倍率は500倍)から、図4(A)のEBSD像を作製し、図4(A)のEBSD像から図4(B)の図を作製することによって行った。
図4(B)において、斜線以外の箇所が一次粒子であり、各輪郭の内部に示した線は、方位の異なる一次粒子の境界を示している。一次粒子の数が多いほど統計的な解析精度が向上する。一次粒子の数が3000個以上であれば解析に十分なデータが得られる。この画像解析により求めた実施例1のβ型サイアロンのESBD50%面積平均径は、表1に示すように、5.4μmであった。
【0054】
(D50)
実施例1のβ型サイアロンの粒度分布をレーザー回折散乱法によって測定し、D50を求めた。実施例1のβ型サイアロンのD50は、21.8μmであった。
【0055】
(発光ピーク強度)
実施例1のβ型サイアロンの蛍光による発光ピーク強度は、分光蛍光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製、F4500)を用い、蛍光スペクトルの測定を行うことで測定した。455nmの青色光を励起光とした場合における蛍光スペクトルのピーク波長の高さを測定した。この測定値から、同一条件でYAG:Ce蛍光体(化成オプト社製、P46−Y3)を用いて測定したピーク波長の高さに対する相対値を求めた。励起光には、分光したキセノンランプ光源を使用した。実施例1のβ型サイアロンの発光ピーク強度は207%であった。
【0056】
(CIE色度)
前記蛍光スペクトルのCIE(国際照明委員会:Commission Internationale de l’Eclairage)色度は、瞬間マルチ測光システム(大塚電子社製、MCPD−7000)にて、積分球を用いて455nmの励起に対する蛍光を集光した全光束の発光スペクトル測定で求めた(非特許文献1参照)。実施例1のβ型サイアロンのCIE色度は、X=0.361、Y=0.618であった。
【実施例2】
【0057】
実施例2のβ型サイアロンは、一次粒子の50%面積平均径を6.0μmとし、D50を23.5μmとし、さらに、合成後のEu固溶β型サイアロンのZ値が0.25となるように、原料混合粉末の組成を、窒化ケイ素95.4質量%、窒化アルミニウム2.3質量%、酸化アルミニウム粉末1.6質量%、酸化ユーロピウム0.8質量%とした。これら以外の条件は、実施例1と同様にして作製したものである。
【0058】
実施例2のβ型サイアロンにおいて、発光ピーク強度は213%であり、CIE色度は、X=0.359、Y=0.620であった。
【実施例3】
【0059】
実施例3のβ型サイアロンは、一次粒子の50%面積平均径を8.0μmとし、D50を25.1μmとし、さらに、合成後のEu固溶β型サイアロンのZ値が0.25となるように、原料混合粉末の組成を窒化ケイ素95.4質量%、窒化アルミニウム2.8質量%、酸化アルミニウム粉末1.0質量%、酸化ユーロピウム0.8質量%とした。これら以外の条件は、実施例1と同様にして作製したものである。
【0060】
実施例3のβ型サイアロンにおいて、発光ピーク強度は221%であり、CIE色度は、X=0.362、Y=0.619であった。
【0061】
実施例3におけるβ型サイアロンのSEM像(走査型電子顕微鏡像、ここで電子の加速電圧は15kVであり、倍率は500倍)を図5に、このSEM像から作製したEBSD像を図6(A)に、EBSD像から作製した図を図6(B)に示す。図6(B)は、図4(B)と同様に、斜線以外の箇所が一次粒子であり、各輪郭の内部に示した線は、方位の異なる一次粒子の境界を示している。
【実施例4】
【0062】
実施例4は、実施例2のβ型サイアロンを超音速ジェット粉砕機(日本ニューマチック工業社製、PJM―80型)により粉砕した以外、実施例2と同様に作製したものである。つまり、実施例4は、実施例2の製造工程に、さらに粉砕分級工程を加えて、一次粒子の50%面積平均径を7.2μmとし、D50を14.5μmとしたものである。
【0063】
実施例4のβ型サイアロンにおいて、発光ピーク強度は224%であり、CIE色度は、X=0.363、Y=0.616であった。
【0064】
(比較例1)
比較例1は、実施例1での焼成容器の体積を0.085リットルとし、加熱処理工程の条件を1800℃で4時間とした以外は、実施例1と同じ条件で作製し、一次粒子の50%面積平均径を1.2μmとし、D50を14.3μmとしたものである。
【0065】
比較例1のβ型サイアロンにおいて、発光ピーク強度は86%であり、CIE色度は、X=0.363、Y=0.611であった。
【0066】
(比較例2)
比較例2は、実施例1での焼成時の温度を1950℃とした以外は、実施例1と同じ条件にて作製し、一次粒子の50%面積平均径を2.5μmとし、D50を23.2μmとしたものである
【0067】
比較例2のβ型サイアロンにおいて、発光ピーク強度は190%であり、CIE色度は、X=0.353、Y=0.625であった。
【実施例5】
【0068】
β型サイアロンを用いた発光装置の実施例5を、図2を参照して詳細に説明する。
本発明の実施例5に係る発光装置10の構造は図2と同様である。蛍光体18は、実施例4のβ型サイアロンと、Ca0.66Eu0.04Si9.9Al2.10.715.3の組成を持つCa−α型サイアロン:Eu蛍光体の混合体である。Ca−α型サイアロン:Eu蛍光体の発光ピーク波長は585nmであり、この蛍光体の450nm励起での発光効率は60%であった。
【0069】
封止樹脂17への蛍光体18の配合は、以下のように行った。
蛍光体18を予め個別にシランカップリング剤(信越シリコーン社製、KBE402)でシランカップリング処理し、シランカップリング処理された蛍光体18を封止樹脂17としてのエポキシ樹脂(サンユレック社製、NLD−SL−2101)に混練することにより完了した。
【0070】
発光光源12としては、発光波長450nmの青色LEDチップを用いた。
【0071】
(比較例3)
比較例3の発光装置は、実施例5の発光装置10において、蛍光体18として用いた実施例4のβ型サイアロンを比較例1のβ型サイアロンに変更した以外は、実施例5と同様に作製した。
【0072】
実施例5の発光装置10及び比較例3の発光装置を同一条件で発光させ、輝度計により同一条件下での中心照度及びCIE色度(CIE1931)を測定した。色度座標(x、y)が(0.31、0.32)の白色発光装置で中心照度を比較すると、実施例5は比較例3に対して1.49倍の明るさであった。
【0073】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。例えば、発光装置10の色は、β型サイアロン蛍光体18に、さらに黄色や赤色を発する蛍光体の発光波長や配合比を変えることによって白色光以外の例えば電球色に変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明に係るβ型サイアロンは、LEDの蛍光体として適用できる。
また、本発明に係る発光装置は、照明装置、液晶パネルのバックライト、画像表示用プロジェクターの光源等に適用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1:EBSD法に用いる装置
2:走査型電子顕微鏡
2A:鏡筒部
2B:ステージ部
2C:ステージ制御部
2D:電子線走査部
2E:制御用コンピュータ
3:電子後方散乱回折像法測定装置
4:試料
5:電子線
6:後方散乱された電子
7:蛍光スクリーン
8:カメラ
10:発光装置
12:発光光源(LEDチップ)
13:第1のリードフレーム
13a:上部
13b:凹部
14:第2のリードフレーム
15:波長変換部材
16:ボンディングワイヤ
17:封止樹脂
18:蛍光体(β型サイアロン)
19:キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化アルミニウム又は酸化ケイ素の少なくとも一つと、窒化ケイ素と、窒化アルミニウムと、ユーロピウム化合物とを混合する混合工程と、
混合工程後の混合物を、1950℃を超え2200℃以下、10時間以上の条件で焼成する焼成工程と、
焼成工程後に1300℃以上1600℃以下、分圧10kPa以下の窒素以外の不活性ガスの雰囲気中で熱処理する熱処理工程と、
を備え、
熱処理工程後に得られるβ型サイアロンの一次粒子の50%面積平均径を、5μm以上とする、β型サイアロンの製造方法。
【請求項2】
前記β型サイアロンの一次粒子の50%面積平均径を、7μm以上とする、請求項1に記載のβ型サイアロンの製造方法。
【請求項3】
前記β型サイアロンの二次粒子のD50粒径を30μm以下とする、請求項2に記載のβ型サイアロンの製造方法。
【請求項4】
前記熱処理工程の後で、β型サイアロンの二次粒子のD50粒径の制御を、粉砕、分級、粉砕及び分級の何れかで行う、請求項3に記載のβ型サイアロンの製造方法。
【請求項5】
前記熱処理工程の後で、β型サイアロンの酸処理を行う、請求項4に記載のβ型サイアロンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−25956(P2012−25956A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176430(P2011−176430)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【分割の表示】特願2010−163277(P2010−163277)の分割
【原出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】