説明

β,γ−不飽和アルコールの水素化反応による飽和アルコールの製造方法

【課題】医農薬分野において極めて重要な反応である、β,γ−不飽和アルコールのβ−γ位の不飽和結合のみを選択的に水素化する方法を提供する。
【解決手段】三価のルテニウムを含む溶液にアナターゼ型チタニアを懸濁させた後、塩基を加えて、溶液のpHを8以上とし、生成したルテニウム担持体を触媒として用い、その存在下、アルコールを水素源としてβ,γ−不飽和アルコールの水素化を行うことにより、効率よく飽和アルコールを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルテニウム担持チタニア触媒を用い、アルコールを水素源とし、β,γ−不飽和アルコールのβ、γ位の不飽和結合を水素添加することを特徴とするβ,γ−飽和アルコールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
β,γ−不飽和アルコールの炭素−炭素不飽和結合を選択的に水素化する方法は医農薬分野において極めて重要な反応である。
【0003】
Chemistry-A European Journal,11,6574(2005)(非特許文献1)には、アルコールを水素源としてβ,γ−不飽和アルコールの不飽和結合のみを選択的に水素化する方法が開示されている。しかしながら、この方法ではβ,γ−不飽和アルコールの水酸基も酸化され、アルデヒドが生成してしまう。目的物であるアルコールを得るためにはさらに別の触媒を用いてアルデヒドを還元する必要があった。
【0004】
【非特許文献1】Chemistry-A European Journal,11,6574(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的はアリルアルコールのようなβ,γ−不飽和アルコールの不飽和結合のみを選択的に水素化し、効率よくβ,γ−飽和アルコールを得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、鋭意研究を行った結果、特定の処方でルテニウムをアナターゼ型チタニアに担持させることにより、β,γ−不飽和アルコールの選択的水素化反応用触媒として好適なルテニウム担持チタニア触媒が得られ、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、以下の[1]〜[7]に関するものである。
[1] 水酸化ルテニウムがアナターゼ型チタニアに担持されているルテニウム担持チタニア触媒の存在下、アルコールを水素源としてβ,γ−不飽和アルコールを水素化することを特徴とするβ,γ−飽和アルコールの製造方法。
[2] アナターゼ型チタニアのアナターゼ比率が50%以上である前記[1]に記載のβ,γ−飽和アルコールの製造方法。
[3] ルテニウム担持チタニア触媒が、三価のルテニウムを含む溶液にアナターゼ型チタニア微粒子を懸濁させた後、塩基を加えて、溶液のpHを8以上とし、生成したルテニウム担持チタニアを分離して得られたものである前記[1]または[2]に記載のβ,γ−飽和アルコールの製造方法。
[4] β,γ−不飽和アルコールが下記式(1)
【化1】

(式中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子;またはハロゲノ基、ニトロ基、アルコキシ基、フェノキシ基もしくはアシロキシ基で置換されていてもよい、炭化水素基、芳香族基、または複素環基を表し、R1、R2、R3およびR4が結合して環を形成していてもよい。)
で示される前記[1]〜[3]のいずれかに記載のβ,γ−飽和アルコールの製造方法。
[5] 式(1)中のR1、R2、R3およびR4が、水素原子および/または炭素数1〜10のアルキル基である前記[4]に記載のβ,γ−飽和アルコールの製造方法。
[6] β,γ−不飽和アルコールが、アリルアルコール、3−ブテン−2−オール、1−ペンテン−3−オール、1−オクテン−3−オール、2−ペンテン−4−オール、シクロヘキセン−3−オール、および3−フェニル−3−ヒドロキシ−1−プロペンのいずれか1種である前記[1]〜[3]のいずれかに記載のβ,γ−飽和アルコールの製造方法。
[7] β,γ−不飽和アルコールが、リナロール、ネロール、ゲラニオール、およびファルネソール、ネロリドールのいずれか1種である前記[1]〜[3]のいずれかに記載のβ,γ−飽和アルコールの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の特定のルテニウム担持チタニアを触媒として用いることで、不飽和アルコールの水酸基を酸化することなく、選択的にβ,γ−不飽和アルコールの不飽和結合のみを水素化することができる。かかる方法により、アリルアルコールに代表される、β,γ−不飽和アルコールからβ,γ−飽和アルコールを生産性良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
[β,γ−不飽和アルコールの水素化反応用ルテニウム担持チタニア触媒]
本発明のルテニウム担持チタニア触媒の製造方法においては、ルテニウム原料として三価のルテニウムを用い、その溶液にアナターゼ型チタニア(二酸化チタン)の微粒子を懸濁させる。
【0010】
この三価のルテニウム源に用いることのできるルテニウム化合物としては、例えば、塩化ルテニウム(III)、臭化ルテニウム(III)のようなハロゲン化物や、硝酸ルテニウム(III)、硫酸ルテニウム(III)のようなオキソ酸塩等が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いることができる。中でも、塩化ルテニウム(III)のようなハロゲン化物が好ましい。
【0011】
上記ルテニウム溶液における溶媒としては、通常、水が用いられるが、必要に応じて水と有機溶媒との混合溶媒を用いてもよいし、また有機溶媒を単独で用いてもよい。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、アセトン等が挙げられる。溶媒の使用量は、ルテニウム溶液中のルテニウム濃度が通常0.1mM〜1M、好ましくは1mM〜100mMとなるように調整される。
【0012】
また、上記ルテニウム溶液に懸濁させるアナターゼ型チタニアとしては、アナターゼ型チタニアを主成分とするチタニアであれば、ルチル型チタニア、ブルッカイト型チタニア等の各種チタニアを含んでもよい。中でもアナターゼ比率が50%以上のアナターゼ型チタニアが好ましく、75%以上がさらに好ましい。チタニアの使用量は、得られるルテニウム担持チタニア触媒におけるルテニウム含量が通常0.1〜20質量%、好ましくは0.5〜10質量%となるように調整される。アナターゼ型チタニア微粒子の粒径は、懸濁液が安定であれば特に限定されないが、その90質量%以上が、おおむね0.001〜3μmの範囲にあることが好ましい。比表面積に換算すると、0.5〜1500m2/gの範囲であり、1〜1000m2/gの範囲が好ましい。
【0013】
本発明におけるアナターゼ型チタニアとは、チタニアの結晶のX線回折(ASTM D3720-90の方法に従う。)においてアナターゼの回折角(2θ=24〜26°)を含むチタニアであり、アナターゼ比率は下記式で示される。
【数1】

式中、アナターゼ回折角強度はX線回折角(2θ=24〜26°)の強度(ピーク面積)を表し、ルチル回折角強度はルチル回折角(2θ=26〜28°)の強度(ピーク面積)を表す。前記ピーク面積は、X線回折スペクトルの該当干渉線におけるベースラインから突出した部分の面積をいい、その算出方法は公知の方法で行えばよく、例えば、コンピュータ計算、近似三角形化等の手法により求められる。
【0014】
こうして得られたチタニア懸濁液に、次いで塩基を加え、懸濁液のpHを通常8以上、好ましくは10以上、さらに好ましくは12〜14に調整する。塩基を加えないと、得られるルテニウム担持チタニア触媒の水素移動反応用触媒としての活性が十分でない。この塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウムのような金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウムのような金属炭酸塩;酢酸ナトリウム、酢酸カリウムのような金属酢酸塩;ケイ酸ナトリウムのような金属ケイ酸塩;アンモニア等が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いることもできる。
【0015】
塩基を加えた後の懸濁液を固液分離操作に付すことにより、その懸濁液からルテニウム担持チタニア触媒を分離することができる。この固液分離操作としては、通常、ろ過やデカンテーションが採用される。分離されたルテニウム担持チタニア触媒は、必要に応じて水洗、乾燥等の操作に付される。
【0016】
上記方法で製造されたルテニウム担持チタニア触媒は、ルテニウムが水酸化ルテニウム(Ru(OH)3)となっている。ただし、ルテニウム自体は3価であるが、ルテニウム原子がチタニアと結合することもあり、Ru(OH)・・・Ti、Ru(OH)2・・・Tiのような形となっているケースもある。本発明によるルテニウム担持チタニア触媒はX線回折法でルテニウム金属クラスタおよびRuO2の回折ピークは観測されないことが好ましい。
【0017】
[β,γ−不飽和アルコールの水素化反応]
以上のようにして得られるルテニウム担持チタニア触媒は、アルコールを水素源としたβ,γ−不飽和アルコールの水素化反応触媒として好適に用いることができる。
【0018】
本発明におけるアルコールを水素源としたβ,γ−不飽和アルコールの水素化反応とは、アルコール性水酸基を持つ炭素上の水素原子の移動によりβ,γ−不飽和アルコールの不飽和結合が水素化される触媒反応を言う。
【0019】
本発明のβ,γ−不飽和アルコールの水素化の反応機構を図1に示す。反応は、水素源であるアルコールの水酸基へルテニウム触媒(水酸化ルテニウム)が配位し、水が脱離することから始まる。次いで、カルボニル基含有化合物が脱離し、触媒はルテニウムヒドリドとなる。最初のアルコールがβ,γ−不飽和アルコールであれば、カルボニル基含有化合物はα,β−不飽和カルボニルとなる。本発明において、カルボニル基含有化合物とはアルデヒドおよびケトンをいう。ルテニウムヒドリド触媒にβ,γ−不飽和カルボニルが配位後、ルテニウムヒドリド触媒の水素原子の移動により不飽和結合の移動が起こり、アルコールとの交換反応によりα,β−飽和カルボニルが脱離する。α,β−飽和カルボニルが脱離した後の触媒は、アルコールがカルボニル基含有化合物として脱離することによりルテニウムヒドリドに再生される。α,β−飽和カルボニルが再度ルテニウムヒドリドに配位し、ルテニウムヒドリド触媒の水素原子の移動によりカルボニルが還元され、アルコールとの交換反応によりβ,γ−飽和アルコールが脱離する。β,γ−飽和アルコールが脱離した後の触媒は、アルコールがカルボニル基含有化合物として脱離することによりルテニウムヒドリドに再生される。
【0020】
ルテニウム担持チタニア触媒を用いたアルコールを水素源としたβ,γ−不飽和アルコールの水素化反応をする例を以下に示す。この反応は、液相、気相のいずれでも行うことができるが、液相にて行うのがより好ましい。ルテニウム担持チタニア触媒の使用量は、β,γ−不飽和アルコール1モルに対して、ルテニウムとして、通常0.000001〜1モル、好ましくは0.0001〜0.1モル、さらに好ましくは、0.001〜0.05モルである。
【0021】
基質のβ,γ−不飽和アルコールは、1価のアルコールでもよいし、多価のアルコールであってもよく、必要に応じてそれらの2種以上を用いることもできる。多価アルコールの場合、少なくとも1つのOH基に対するβ位とγ位の炭素原子間が不飽和結合であればよい。
【0022】
基質のβ,γ−不飽和アルコールとしては、好適には、下記式(1)
【化2】

で示されるものが用いられる。
【0023】
上記式(1)中、R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して、水素原子;ハロゲノ基、ニトロ基、アルコキシ基、フェノキシ基もしくはアシロキシ基で置換されていてもよい炭化水素基;ハロゲノ基、ニトロ基、アルコキシ基、フェノキシ基もしくはアシロキシ基で置換されていてもよい芳香族基;またはハロゲノ基、ニトロ基、アルコキシ基、フェノキシ基もしくはアシロキシ基で置換されていてもよい複素環基を表す。R1およびR2、R1およびR3、R2およびR4、R3およびR4は相互に結合して環を形成していてもよい。また、R1、R2、R3およびR4は同じであっても異なっていてもよい。
【0024】
炭化水素基としては炭素数1〜30のものが好ましい。特に炭素数1〜20のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基が好ましい。炭化水素基等に結合してもよいハロゲノ基としては、塩素基、弗素基、臭素基、ヨウ素基が挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピオキシ基、ブトキシ基、2−エトキシ−エトキシ基が挙げられる。ハロゲノ基、ニトロ基、アルコキシ基、フェノキシ基もしくはアシロキシ基で置換されていてもよい、炭化水素基または芳香族基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、2−エチル−ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デカニル基、フェニル基、o−トリル基、p−トリル基、4−エチルフェニル基、4−プロピルフェニル基、4−イソプロピルフェニル基、ベンジル基、ナフチル基が挙げられ、中でもメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、p−トリル基が好ましい。
【0025】
複素環基としては酸素原子、窒素原子および硫黄原子から選ばれるヘテロ原子を含むものが好ましく、またこの複素環は5員環または6員環であるものが好ましい。具体的にはフラン基、チオフェン基、ピリジル基等が挙げられる。
【0026】
1、R2、R3およびR4が結合して環を形成している場合、この環は炭素数5〜20の単環または多環であるのが好ましい。このような環の例(β,γ−不飽和部を含む場合であっても飽和の環として表現する。)としては、シクロペンタン環、2−メチルシクロペンタン環、シクロヘキサン環、2−メチルシクロヘキサン環、シクロヘプタン環、2−メチルシクロヘプタン環、シクロオクタン環、2−メチルシクロオクタン環、シクロドデカン環、2−メチルシクロドデカン環、ノルボルネン環、1−インダン環、1−テトラリン環、フルオレン環等が挙げられる。
【0027】
β,γ−不飽和アルコールの具体例としては、アリルアルコール、3−ブテン−2−オール、1−ペンテン−3−オール、1−ヘキセン−3−オール、1−ヘプテン−3−オール、1−オクテン−3−オール2−メチル−2−プロペン−1−オール、2−エチル−2−プロペン−1−オール、2−プロピル−2−プロペン−1−オール、2−ブテン−1−オール、2−ペンテン−1−オール、2−ヘキセン−1−オール、2−ヘプテン−1−オール、2−オクテン−1−オール、1−フェニル−2−プロペン−1−オール、シンナミルアルコール、3−ペンテン−2−オール、3−メチル−2−ブテン−1−オール、リナロール、ネロール、ゲラニオール、ファルネソール、ネロリドール、1−クロロ−3−ブテン−2−オール、4−クロロ−2−ブテン−1−オール、1−メトキシ−3−ブテン−2−オール、4−メトキシ−2−ブテン−1−オール、1−フェノキシ−3−ブテン−2−オール、4−フェノキシ−2−ブテン−1−オール、4−アセトキシ−2−ブテン−1−オール、3−(2−チオフェン)−2−プロペン−1−オール、3−(2−ピリジン)−2−プロペン−1−オール、2−シクロヘキセン−1−オール、1−シクロヘキセン−1−メタノール、2−シクロヘキシリデンエタノール等が挙げられる。
【0028】
これらのβ,γ−不飽和アルコールの中でも原料の入手性の面からアリルアルコール、3−ブテン−2−オール、1−ペンテン−3−オール、1−オクテン−3−オール、2−ペンテン−4−オール、シクロヘキセン−3−オール、3−フェニル−3−ヒドロキシ−1−プロペンが好ましい。また、β−γ位の不飽和結合を選択的に水素化できるという本発明の触媒の特長を発揮できるという面で、β−γ位以外にも水素化されやすい部位(不飽和結合)がある化合物、例えばリナロール(Linalool)、ネロール(Nerol)、ゲラニオール(Geraniol)、ファルネソール(Farnesol)、ネロリドール(Nerolidol)の水素化に特に好適である。
【0029】
水素源となるアルコールに特に制限はない。一級アルコールであってもよいし、二級アルコールであってもよく、また、1価のアルコールであってもよいし、多価のアルコールであってもよい。必要に応じてそれらの2種以上を用いることもできる。水素源となるアルコールは反応後、対応するアルデヒドまたはケトンとなるので、生成したβ,γ−飽和アルコールと蒸留、晶析等で分離精製する際に分離が容易であるものが好ましい。また、水素源となるアルコールが酸化されて生成したカルボニル基含有化合物はアルデヒドよりケトンの方が副反応の反応性が低く副反応を起こしにくいことから二級アルコールが好ましい。
また、水素源となるアルコールは水素化反応の溶媒を兼ねることもできる。
【0030】
水素源として用いることのできるアルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、1−デカノール、1−ドデカノール、1−テトラデカノール、1−ヘキサデカノール(パルミチンアルコール)、1−オクタデカノール(ステアリルアルコール)、1−エイコサノール、3−メチル−1−ブタノール、3,3−ジメチル−1−ブタノール、4−メチル−1−ペンタノール、2−メチル−1−ペンタノール、2,2−ジメチル−1−ペンタノール、5−メチル−1−ヘキサノール、3−クロロ−1−プロパノール、アリルアルコール、ゲラニオール、ベンジルアルコール、p−メチルベンジルアルコール、p−メトキシベンジルアルコール、p−クロロベンジルアルコール、p−ニトロベンジルアルコール、2−フェニルエタノール、2−(p−クロロフェニル)エタノール、シンナミルアルコール、フルフリルアルコール、2−チオフェンメタノール、3−ピリジルメタノール、2−プロパノール、2−ブタノール、2−ペンタノール、2−ヘキサノール、2−ヘプタノール、2−オクタノール、2−デカノール、2−エイコサノール、3−ペンタノール、3−ヘキサノール、3−ヘプタノール、3−デカノール、3−エイコサノール、4−ヘプタノール、4−デカノール、4−エイコサノール、3−メチル−2−ブタノール、3,3−ジメチル−2−ブタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−メチル−3−ペンタノール、2,2−ジメチル−3−ペンタノール、5−メチル−3−ヘキサノール、1−クロロ−2−プロパノール、1−ブロモ−2−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−フェノキシ−2−プロパノール、1−アセトキシ−2−プロパノール、3−ペンテン−2−オール、1−フェニルエタノール、シクロプロピルフェニルメタノール、ベンズヒドロール、1−(p−トリル)エタノール、1−(p−クロロフェニル)エタノール、1−(p−ブロモフェニル)エタノール、1−(p−メトキシフェニル)エタノール、1−(p−フェノキシフェニル)エタノール、1−(p−アセトキシフェニル)エタノール、1−フェニル−2−プロパノール、1−(p−トリル)−2−プロパノール、1−(p−クロロフェニル)−2−プロパノール、1−(p−ブロモフェニル)−2−プロパノール、1−(p−メトキシフェニル)−2−プロパノール、1−(p−フェノキシフェニル)−2−プロパノール、1−(p−アセトキシフェニル)−2−プロパノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロヘプタノール、シクロオクタノール、シクロドデカノール、exo−ノルボルネオール、endo−ノルボルネオール、1−インダノール、1−テトラロール、9−フルオレノール等が挙げられる。
【0031】
これらの中では入手の容易性、価格、安定性の面から2−プロパノール、2−ブタノール、2−ペンタノール、2−ヘキサノール、2−ヘプタノール、2−オクタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロヘプタノール、シクロオクタノール、ベンズヒドロールが好ましい。
【0032】
上記水素化反応は、好ましくは酸素不在雰囲気下で反応を行い、さらに好ましくは不活性ガス雰囲気下で反応を行う。
【0033】
上記水素化反応は溶媒の存在下に行ってもよい。溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルムのようなハロゲン化脂肪族炭化水素類;酢酸イソブチル、酢酸t−ブチルのようなエステル類;アセトニトリルのようなニトリル類;ベンゼン、トルエンのような芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、トリフルオロトルエンのようなハロゲン化芳香族炭化水素類等、水素化反応に対してβ,γ−不飽和アルコールより不活性なものが挙げられる。また、水素源のアルコールを溶媒として用いてもよい。溶媒を用いる場合、その使用量は、β,γ−不飽和アルコール100質量部に対して、通常1〜100000質量部、好ましくは10〜10000質量部である。
【0034】
上記水素化反応の反応温度は、通常20〜300℃、好ましくは50〜200℃であり、反応圧力は、通常、0.1〜10MPaである。また、上記水素化反応は、連続式で行ってもよいし、回分式で行ってもよい。
【0035】
上記水素化反応により、基質のβ,γ−不飽和アルコールから水素化された飽和アルコールを製造することができる。
【0036】
上記水素化反応液中の生成物である飽和アルコールは、水素化反応混合物を必要に応じてろ過、濃縮、洗浄、アルカリ処理、酸処理等の操作に供した後、蒸留、晶析等で精製することにより、水素化反応混合物から分離することができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、反応混合物の分析はガスクロマトグラフィーにより行い、各生成物の収率は次式により算出した。
【数2】

【0038】
[ルテニウム担持触媒の調製]
<触媒A>
8.3mMの塩化ルテニウム(III)水溶液60mlにアナターゼ型チタニア(石原産業株式会社製、ST−01、粒径約4.9nm、比表面積316m2/g、アナターゼ比率≒100%)2.0gを加えて懸濁させ、室温で3時間撹拌した。この時の懸濁液のpHは2.0であった。次いで、1Mの水酸化ナトリウム水溶液7.7mlを加えて、懸濁液のpHを13.2に調節した後、室温で24時間撹拌した。得られた懸濁液をろ過し、ろ別した固体を水洗した後、乾燥して、ルテニウム担持アナターゼ型チタニア触媒A(ルテニウム含量2.1質量%、比表面積298m2/g)を得た。
【0039】
<比較触媒B>
アナターゼ型チタニアの代わりに、γ−アルミナ(住友化学工業株式会社製、KHS−24、粒径約9.4nm、比表面積160m2/g)を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、ルテニウム担持γ−アルミナ触媒(ルテニウム含量2.1質量%、比表面積163m2/g)を得た。
【0040】
[β,γ−不飽和アルコールの水素化反応]
実施例1:
全ての操作は、アルゴンガスのグローブボックス内で行った。ルテニウム担持アナターゼ型チタニア触媒(触媒A;ルテニウムとして0.001g)を2−プロパノール3mlに加えて懸濁させ室温で5分間撹拌した。この中に、3−ブテン−2−オール0.072gを加え、アルゴンガス雰囲気下、90℃で1時間撹拌して反応を行った。反応混合物を分析した結果、3−ブテン−2−オールの水素化物である2−ブタノールが収率98%で得られた。
【0041】
比較例1:
ルテニウム担持アナターゼ型チタニア触媒Aの代わりに、ルテニウム担持γ−アルミナ触媒(比較触媒B)を使用したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、3−ブテン−2−オールの水素化反応を行った。反応混合物を分析した結果、3−ブテン−2−オールの水素化とOH基の酸化反応が同時に進行し、メチルエチルケトンが収率98%で得られた。
【0042】
実施例2〜7:
表1に示したように触媒量、基質のβ,γ−不飽和アルコール(実施例1の3−ブテン−2−オールと同じモル数を使用)、反応時間を変えて実施例1と同様に反応を行った。反応混合物を分析した結果を表1に示す。
【表1】

【0043】
参考例:
実施例1と同様の操作を行い、触媒A(ルテニウムとして0.003g)を2−プロパノール3mlに加えて懸濁させ室温で5分間撹拌した。この中に、シトロネラール0.154gを加え、アルゴン雰囲気下、90℃で16時間撹拌して反応を行った。反応混合物を分析した結果、シトロネロールが収率99%以上で得られた。カルボニル炭素は還元され、アルコールとなったが、β−γ位にない不飽和結合は水素化されていなかった。このことおよび実施例7から本発明の触媒はβ−γ位の不飽和結合を選択的に水素化することがわかる。
【化3】

【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の水酸化ルテニウム触媒による反応機構を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化ルテニウムがアナターゼ型チタニアに担持されているルテニウム担持チタニア触媒の存在下、アルコールを水素源としてβ,γ−不飽和アルコールを水素化することを特徴とするβ,γ−飽和アルコールの製造方法。
【請求項2】
アナターゼ型チタニアのアナターゼ比率が50%以上である請求項1に記載のβ,γ−飽和アルコールの製造方法。
【請求項3】
ルテニウム担持チタニア触媒が、三価のルテニウムを含む溶液にアナターゼ型チタニア微粒子を懸濁させた後、塩基を加えて、溶液のpHを8以上とし、生成したルテニウム担持チタニアを分離して得られたものである請求項1または2に記載のβ,γ−飽和アルコールの製造方法。
【請求項4】
β,γ−不飽和アルコールが下記式(1)
【化1】

(式中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子;またはハロゲノ基、ニトロ基、アルコキシ基、フェノキシ基もしくはアシロキシ基で置換されていてもよい、炭化水素基、芳香族基、または複素環基を表し、R1、R2、R3およびR4が結合して環を形成していてもよい。)
で示される請求項1〜3のいずれかに記載のβ,γ−飽和アルコールの製造方法。
【請求項5】
式(1)中のR1、R2、R3およびR4が、水素原子および/または炭素数1〜10のアルキル基である請求項4に記載のβ,γ−飽和アルコールの製造方法。
【請求項6】
β,γ−不飽和アルコールが、アリルアルコール、3−ブテン−2−オール、1−ペンテン−3−オール、1−オクテン−3−オール、2−ペンテン−4−オール、シクロヘキセン−3−オール、および3−フェニル−3−ヒドロキシ−1−プロペンのいずれか1種である請求項1〜3のいずれかに記載のβ,γ−飽和アルコールの製造方法。
【請求項7】
β,γ−不飽和アルコールが、リナロール、ネロール、ゲラニオール、およびファルネソール、ネロリドールのいずれか1種である請求項1〜3のいずれかに記載のβ,γ−飽和アルコールの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−126448(P2010−126448A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299709(P2008−299709)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】